(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-10
(45)【発行日】2024-12-18
(54)【発明の名称】注射針
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
A61M37/00 500
A61M37/00 514
(21)【出願番号】P 2024060822
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2023203450の分割
【原出願日】2023-11-30
【審査請求日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2022193594
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新津 貴利
(72)【発明者】
【氏名】西村 朋也
(72)【発明者】
【氏名】針生 渉
(72)【発明者】
【氏名】大西 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】小池 夏未
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/203674(WO,A1)
【文献】特開2017-038781(JP,A)
【文献】国際公開第2021/177317(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第112516451(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基部から突出する微細な第1及び第2突起を有し、
第1突起は、錐体形状であり且つ先端部に開孔を有し、
第2突起は、先端部に開孔を有しておらず、
平面視において、1本又は2本以上の第1突起を含む第1領域と、2本以上の第2突起を含み、第1領域を挟むか又は囲んでいる第2領域とを有しており、
第1領域が有する突起は第1突起のみであり、
第1突起と第2突起との間の距離のうち最も短い距離である距離D1が2.0mm以上10mm以下であり、
第2突起として、錐体形状である刺激突起
と、先端面が穿刺深さ制御部となっている穿刺深さ制御突起とを有
し、
前記穿刺深さ制御突起は、その先端面が平坦となっているか、もしくは、該穿刺深さ制御突起の高さ方向に沿う断面視において、該穿刺深さ制御突起の先端面が該穿刺深さ制御突起の突出方向に向けて凸の湾曲線となっている、注射針。
【請求項2】
シート基部から突出する微細な第1及び第2突起を有し、
第1突起は、錐体形状であり且つ先端部に開孔を有し、
第2突起は、先端部に開孔を有しておらず、
平面視において、1本又は2本以上の第1突起を含む第1領域と、3本以上の第2突起を含み第1領域を囲んでいる第2領域とを有しており、
第1領域が有する突起は、第1突起のみであり、第2領域に含まれる第2突起は、平面視において、各第2突起の中心を結ぶ仮想線が環状であり、
第1突起と第2突起との間の距離のうち最も短い距離である距離D1が2.0mm以上10mm以下であり、
第2突起として、錐体形状である刺激突起を有する、注射針。
【請求項3】
第1突起の突出高さH1と前記穿刺深さ制御突起の突出高さH3との差H1-H3は、300μm以上4995μm以下である、請求項
1に記載の注射針。
【請求項4】
前記穿刺深さ制御突起の突出高さH3は、5μm以上2000μm以下である、請求項
1に記載の注射針。
【請求項5】
第1領域と第2領域との間に、第1突起及び第2突起が存在しない突起非存在領域を有する、請求項1又は2に記載の注射針。
【請求項6】
前記突起非存在領域の平面視形状が環状である、請求項5に記載の注射針。
【請求項7】
薬剤を皮内投与するために用いられる、請求項1又は2に記載の注射針。
【請求項8】
皮内投与型ワクチン薬剤が充填される薬剤供給器が連結されている、請求項1又は2に記載の注射針。
【請求項9】
請求項
1又は2に記載の注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器と、薬剤とを含むキット。
【請求項10】
請求項
1又は2に記載の注射針と、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、COVID-19、結核、狂犬病、ポリオ、水ぼうそう、風しん、麻疹、破傷風、帯状疱疹等の感染症を予防するワクチン;慢性B型肝炎、結核、狂犬病、悪性新生物、帯状疱疹等を治療するワクチン;癌患者向けの鎮痛薬;インスリン;生物製剤;遺伝子治療薬;注射剤及び皮膚適用製剤から選ばれる1又は2以上の薬剤が充填される薬剤供給器とが連結されている、注射具。
【請求項11】
請求項
1又は2に記載の注射針と、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、COVID-19、結核、狂犬病、ポリオ、水ぼうそう、風しん、麻疹、破傷風、帯状疱疹等の感染症を予防するワクチン;慢性B型肝炎、結核、狂犬病、悪性新生物、帯状疱疹等を治療するワクチン;癌患者向けの鎮痛薬;インスリン;生物製剤;遺伝子治療薬;注射剤及び皮膚適用製剤から選ばれる1又は2以上の薬剤が充填される薬剤供給器と、該薬剤とを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野、美容分野などにおいて、マイクロニードルなどとも呼ばれる微細な針状突起を備えた注射針による薬剤等の液の皮内投与が注目されている。この注射針によれば、マイクロニードルを角質層などの皮膚における比較的浅い層に刺入させて体内に液を注入することが可能であり、通常の注射器に比べて被験者が感じる痛みが大幅に低減されることから、低侵襲的な液の投与手段として注目されている。
【0003】
特許文献1には、マイクロニードルが突出した柱状のリミッターと、該マイクロニードル及び該リミッターを囲む安定化リングとを備えるハブアセンブリが記載されている。リミッターは、マイクロニードルの皮膚への挿入深さを制御するためのものである。安定化リングは、マイクロニードルを皮膚に挿入したときに、該皮膚の変形を抑えるためのものである。ハブアセンブリは、アタッチメント機構を有しており、該アタッチメント機構を介して、薬剤の送出装置に固定される。
【0004】
特許文献2には、表面から突出する微小サイズの複数の針山が形成されたマイクロニードルシートが記載されている。同文献では、針山は、表面側から裏面側まで貫通する貫通孔が形成された貫通針山と、該貫通孔が形成されていないダミー針山とを有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-516572号公報
【文献】国際公開第2021/177317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
効率的に抗原を取り込むことができる注射方法として皮内注射が注目されている。皮内注射によれば、筋肉注射や皮下注射に比して、1回の接種に必要なワクチン量を5分の1に削減できることが、世界保健機関などから報告されている。しかしながら、従来の注射針においては、皮内投与の手技習得にかなりの訓練を要することが知られている。皮内投与を容易に行うためにマイクロニードルなどとも呼ばれる微細な針状突起を備えた注射針による薬剤等の液の皮内投与が注目されている。しかし、従来のマイクロニードルにおいては、皮内に薬剤等の液を注入した際に形成される膨疹によって、液を皮内に適切に注入することが困難となる場合がある。以下、この点について詳述する。
【0007】
マイクロニードルを皮膚に刺入して皮内に液を注入した場合、注入された液によって皮膚が盛り上がり、膨疹が形成される(
図8(a)参照)。注射針が、特許文献1の安定化リング及び特許文献2のダミー針山のような、液を注入するためのマイクロニードル81以外の突起82を有する場合、これらの突起82が皮膚の盛り上がりを抑える恐れがある(
図8(b)参照)。これにより、例えば注入量が多い場合などに、体内に液が入りにくくなったり、液漏れが発生したりするといった、液の注入不良が生じる恐れがある。このように、特許文献1及び2では、液の注入が困難となる恐れがある。
【0008】
本発明は、注射針によって皮膚に液を注入したときに、注入された液によって皮膚が盛り上がることを抑えにくく、液を効率的に注入可能な注射針に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、注射針を提供するものである。
一実施形態では、シート基部から突出する微細な第1及び第2突起を有していることが好ましい。
一実施形態では、第1突起は、錐体形状であり且つ先端部に開孔を有することが好ましい。
一実施形態では、第2突起は、先端部に開孔を有していないことが好ましい。
一実施形態では、平面視において、1本又は2本以上の第1突起を含む第1領域と、2本以上の第2突起を含み、第1領域を挟むか又は囲んでいる第2領域とを有していることが好ましい。
一実施形態では、第1突起と第2突起との間の距離のうち最も短い距離である距離D1が2.0mm以上10mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、注射針によって皮膚に液を注入したときに、注入された液によって皮膚が盛り上がることを抑えにくく、液を効率的に注入可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい一実施形態に係る注射針の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す注射針における突起の配置パターンを模式的に表す平面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す注射針の使用状態を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、(a)~(d)は、本発明の好ましい別の実施形態を示す平面図であり、
図4相当図である。
【
図7】
図7は、本発明の好ましい別の実施形態に係る第2突起を示す断面図である。
【
図8】
図8(a)及び(b)は、従来の注射針の使用状態を模式的に示す図である。
【
図9】
図9(a)は、比較例1の注射針における突起の配置パターンを模式的に表す平面図であり、
図9(b)は、比較例2の注射針における突起の配置パターンを模式的に表す平面図である。
【
図10】
図10は、液量と膨疹の半径との関係の評価に用いた注射針の突起の配置を模式的に示す平面図である。
【
図11】
図11は、液量と膨疹の半径との関係の評価において測定した膨疹の長軸と短軸を模式的に示す平面図である。
【
図12】
図12は、液量と膨疹の半径との関係の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態を参照しながら説明する。
本発明の注射針1は、シート基部2から突出する突起を有する。シート基部2は、突起間をつなぐシート状の部分である。基材シートに突起を形成して注射針1とする場合、注射針1における、突起以外の部分がシート基部2である。
注射針1は、典型的には、全体として偏平なシート状の形状を有しており、シート基部2及び該シート基部2の一方の表面から突出する複数の突起を有している。
注射針1は、典型的には、突起が平面方向に分散した状態に配列された突起配置領域を有している。
突起配置領域は、典型的には、後述する第1領域R1及び第2領域R2を含む。
【0013】
注射針1が有する突起は、錐体形状であり且つ先端部に開孔11aを有する第1突起11と、先端部に開孔を有しない第2突起12とを含むことが好ましい。この例を
図1に示す。
図1に示す例では、第1突起11及び第2突起12は、微細な突起であり、突出高さが5000μm以下である微細突起であることが好ましい。
第1突起11の錐体形状は、典型的には略円錐体形状であるが、四角錐等の多角錐であってもよい。略円錐体形状は、円錐体形状の他、突起の中心と先端とが異なる位置になる偏芯円錐体を含む。
第1突起11は、中空部11bを有する微細突起、いわゆるマイクロニードルとなっていることが好ましい(
図3(a)参照)。
第2突起12は、中空でも中実でもよい。
図1に示す例では、第2突起12は中実である(
図3(b)及び(c)参照)。第2突起12が中実であることによって、注射針1から薬剤等の液を注入する際に、該注射針1中に残存する薬剤を低減することができる。
第2突起12は、
図1に示すように、錐体形状である刺激突起32と、先端面が穿刺深さ制御部40となっており、柱体形状である穿刺深さ制御突起(以下、「制御突起」ともいう。)33とを有することが好ましい。
制御突起33は、その先端面が平坦、すなわち水平方向に延びる直線状、もしくは該制御突起33の突出方向に向けて凸の湾曲線となっていることが好ましい。
刺激突起32の錐体形状は、第1突起11と同様に、略円錐体形状であってもよいし、多角錐であってもよい。また制御突起33の柱状形状は、円柱形状であってもよいし、四角柱等の多角柱形状であってもよい。
注射針1は、第2突起12として、錐体形状である刺激突起32又は柱体形状である制御突起33を含むことが好ましく、両方を含むことがより好ましい。
【0014】
注射針1は、平面視において、1本又は2本以上の第1突起11を含む第1領域R1を有することが好ましい。第1領域R1は、平面視においてシート基部2の中央領域に位置していることが好ましい。中央領域は、例えば、シート基部2の直径の三分の一、好ましくは二分の一の直径の円形領域である。図示例ではシート基部2の中心と第1領域R1の中心とが一致しているが、中心同士がずれていてもよい。
【0015】
第1領域R1に含まれる第1突起11は1本でも2本以上でもよい。複数本の第1突起11は、配列されており、全体としてまとまって任意の形状を形成していることが好ましい。複数本の第1突起11は、例えば、三角形状(
図2参照)、円形(
図6(a)参照)、直線状(
図6(d)参照)に配列されていることが好ましい。
複数本の第1突起11は、平面視において、第1突起11の中心を結ぶ仮想線C1が環状をなすように配されていることが好ましい(
図2、
図6(a)及び
図6(c)参照)。ここで、「環状」とは、閉じた形状を意味し、円形状のみならず、多角形形状等も含む意味である。第1突起11の中心を結ぶ仮想線C1が環状をなすように第1突起11が配されている場合、該仮想線C1で囲まれた領域内には、全体が該領域内に存在する第1突起11が配されていないことが好ましい。
図2に示す注射針1では、複数の第1突起11の中心が同一の円上に位置している。
【0016】
注射針1は、2本以上の第2突起12を含む第2領域R2を有することが好ましい。第2領域は、第1領域R1を挟むか又は囲んでいることが好ましい。
図2に示す例では、第2領域R2は、第1領域R1を囲んでいる。
第2領域R2に含まれる第2突起12は、平面視において、各第2突起12の中心を結ぶ仮想線が環状をなすように配されていることが好ましい。例えば、第2突起12は、第2突起12の中心を結ぶ仮想線C2が、円形の環状であってもよいし(
図4及び
図6(a)参照)、四角形の環状であってもよいし(
図6(b)参照)、三角形の環状であってもよい(
図6(c)参照)。
図2に示す注射針1では、複数の第2突起12の中心が同一の円上に位置している。
第2領域R2が、第1領域R1を挟んでいる例を、
図6(d)に示す。第2領域R2が第1領域R1を挟んでいる場合、第1領域R1は第2領域R2から延出していないことが好ましい。
【0017】
次に、第1領域R1及び第2領域R2について詳述する。
図2及び
図6(a)に示すように、複数の第1突起11が、平面視においてシート基部2の中央領域に纏まって存在している場合、該複数の第1突起11を囲む最小の円の内側の領域が第1領域R1である。
図2及び
図6(a)に示すように、複数の第2突起12が、第1領域R1を囲むように配されている場合、該複数の第2突起12を囲む最小の円と、該複数の第2突起12に内接する最大の円との間の領域が第2領域R2である。
複数の第1突起11に代えて単一の第1突起11が、平面視においてシート基部2の中央領域に存在している場合には、該第1突起11を囲む最小の円の内側の領域を第1領域R1とする。
【0018】
複数の第2突起12が、前記中央領域に纏まって存在している複数の第1突起11を囲むように多角形形状で配されているか、又は前記中央領域に存在している単一の第1突起11を囲むように多角形形状で配されている場合、該多角形形状と相似形の形状であって、該複数の第1突起11を囲む最小の形状の内側の領域を第1領域R1としてもよい(
図6(b)及び(c)参照)。
複数の第2突起12が、多角形形状で配されている場合、該多角形形状と相似形状であり、複数の第2突起12を囲む最小の線と、該多角形形状と相似形状であり、平面視において複数の第2突起12に内接する最大の線との間の領域を第2領域R2としてもよい(
図6(b)及び(c)参照)。
【0019】
複数の第1突起11が一方向に並んで配されている場合、該複数の第1突起11を囲む最小の矩形の内側の領域が第1領域R1である(
図6(d)参照)。
複数の第2突起12が、第1領域R1を挟むように配されている場合(
図6(d)参照)、第1領域R1の両側それぞれに配されている第2突起12を囲む最小の矩形の内側の領域が第2領域R2である。
【0020】
注射針1は、第1突起11に開孔11aを有していることにより、薬剤等の液の皮内投与に利用可能な液注入具となる。
典型的には、第1突起11の先端部には開孔11aが形成されており、その開孔11aを介して第1突起11の中空部11bと外部とが連通している。開孔11aは、第1突起11を形成する基材シートを厚み方向に貫通する貫通孔であり、円錐状の第1突起11の先端部に位置していることが好ましい。第1突起11の中空部11bは、開孔11aから外部に吐出される液の貯留部又は通路として機能する。ここで第1突起11の先端部とは、シート基部2表面から第1突起11の先端までの突起高さH1の中間位置よりも先端側の領域を意味する。この具体例を
図3(a)に示す。
【0021】
注射針1を薬剤の皮内投与に使用する場合には、第1突起11の先端部を皮膚Sに刺入し、該第1突起11の中空部11bに貯留された液状の薬剤Lを、該先端部の開孔11aから皮膚Sに注入する(
図5参照)。このように第1突起11の中空部11bが薬剤の貯留部として機能するのは、典型的には、外部から薬剤の供給が無い場合である。
外部から薬剤の供給がある場合、例えば、注射針1と共にシリンジ等の薬剤供給器(図示せず)を併用する場合には、中空部11bは薬剤の通路として機能する。薬剤供給器は、注射針1の背面側にシート状部材を配置し、注射針1の背面と該シート状部材との間に薬剤収容空間を形成してなり、該シート状部材を押圧することで、第1突起11に薬剤を供給するものであってもよい(特開2020-096790号公報〔0011〕参照)。
【0022】
注射針1では、第1突起11と第2突起12との間の距離のうち最も短い距離である距離D1(
図4参照)が2.0mm以上10mm以下であることが好ましい。前記距離D1が前述した範内であることの利点は、以下のとおりである。
第1突起11の先端部を皮膚Sに刺入し、薬剤Lを皮膚Sに注入すると、注入された薬剤Lによって皮膚が盛り上がり、膨疹9が形成される(
図5参照)。このとき、前記距離D1が前述した範囲内であることにより、第2突起12が皮膚の盛り上がりを抑制することを防ぐことができる。すなわち、皮膚が盛り上がりやすくなる。これにより、例えば注入量が多い場合などでも、体内に薬剤L等の液が入りやすくし、液を効率的に漏れなく注入することができる。発明者らは、以下の方法により、皮膚S内に注入される液量Vと、形成される膨疹の半径Rとの関係について検討した。
【0023】
<液量と膨疹の半径との関係>
-20℃で保管されたゲッチンゲンミニブタの摘出皮膚(雄、6週齢、腹側部;オリエンタル酵母工業株式会社)を試験前日から冷蔵庫(4℃)に移し、解凍した。摘出皮膚はキムタオル5~7枚の上に載せ、常温に戻し、シェーバーを用いて剃毛し、アルコール綿で表面を拭った状態で投与に供した。
粉末のローダミンB(Sigma-Aldrich)を超純水で0.5mg/mLに調整し、マイクロシリンジ(Agilent)に充填した。マイクロシリンジと注射針とを連結して、注射具を形成した。そして注射具を穿刺デバイスに装着し、空気抜きを実施した。マイクロシリンジ内の液量を10、25、50、100又は250μLになるようにセットし、注射針に付着した余分な液はキムワイプに吸わせて除去した。注射針の突起の配置を、
図10に示す。注射針の第1突起11の高さH1は2.0mm、刺激突起32の高さH2は1.4mm、制御突起33の高さH3は0.9mmとした。第1突起31と第2突起12との間の距離のうち最も短い距離である距離D1は、2.2mmである。第1突起11の中心を結ぶ仮想線C1により形成される仮想円の半径D2は、0.75mmである。
【0024】
穿刺デバイスを用い注射針を皮膚に垂直に穿刺し、ローダミンB水溶液を適量皮内に投与した。投与後、注射針を抜き取り、直ちにマジックペンで膨疹(周囲よりも白く、盛り上がって見える領域)の輪郭に印を付け、ノギスを用いて膨疹の長軸の長さAと短軸の長さBとを測定した。
図11に膨疹を模式的に表した平面図を示す。
図11中、符号91は膨疹の輪郭を示し、符号92は、膨疹内の液を示す。各用量3回ずつ投与を実施した。長軸の長さA及び短軸の長さBの平均値を2で除した値を膨疹の半径Rとし、マイクロソフト社製表計算ソフト「エクセル」を用いて対数近似曲線を算出した。結果を、
図12に示す。穿刺デバイスの詳細については後述する。
【0025】
注射針1では、第1突起11と第2突起12との間に、第2突起12によって皮膚の盛り上がりが抑制されにくくするために、所定の間隔を設けることが好ましい。第1突起11と第2突起12との間に所定の間隔を設けることによって、注射針1を用いて薬剤Lを皮膚S内に注入したときに、第1突起11の周囲、より具体的には第1突起11と第2突起12との間に皮膚が盛り上がる余地が確保される。そして、第2突起12によって皮膚の盛り上がりが抑制されにくくなり、液を効率的に注入することができる。
第1突起11と第2突起12との間に前記所定の間隔を確保する観点から、前記距離D1は、好ましくは2.0mm以上である。
例えば
図12に示すように、注射針1によって皮膚S内に薬剤が注入されると、少量の注液量であっても膨疹が急激に形成される。そのため、前記距離D1を2.0mm以上とすることにより、初期の膨疹9の形成を第2突起12が阻害しにくくなり、液の注入性を良好なものとすることができる。
【0026】
膨疹9が膨らむことを阻害することによって、液の注入性が低下することを抑制する観点から、前記距離D1は、注射針1によって薬剤Lを皮膚S内に注入したときに形成される膨疹9の膨疹半径Rに対して、好ましくは2分の1以上、より好ましくは3分の2以上であり、膨疹半径Rよりも大きいことが更に好ましい。ここでいう膨疹半径Rは、下記式(1)によって算出することができる。式(1)中、Vは、注射針1によって皮膚S内に注入される液量である。注入する液は、上記<液量と膨疹の半径との関係>で用いた液である。また式(1)中、lnは自然対数を表す。
R=0.5406ln(V)+0.9483・・・(1)
【0027】
前記距離D1が、下記式(1)によって算出される膨疹半径Rに対して前述した比率以上であること、特に膨疹半径Rよりも大きいことが好ましい理由について説明する。例えば、第1突起11を1つのみ有する注射針1を用いて薬剤Lを皮膚S内に注入した場合、皮膚Sに刺入された第1突起11は、膨疹9の中心に位置することになる。したがって、前記距離D1を、膨疹9の膨疹半径Rよりも大きくすることで、第2突起12が薬剤注入時の膨疹形成を阻害しにくくなるので、第2突起12が薬剤の注入を抑制することを効果的に防ぐことができる。
また、第1突起11を複数本有する注射針1を用いて薬剤Lを皮膚S内に注入した場合、皮膚Sに刺入された各第1突起11を中心に膨疹が形成される。したがって、各第1突起11について前記距離D1を、各第1突起11によって形成される膨疹の膨疹半径Rよりも大きくすることによって、第2突起12が薬剤注入時の膨疹形成を阻害しにくくなるので、薬剤の注入を抑制することを効果的に防ぐことができる。
【0028】
第2突起12が皮膚の盛り上がりを抑制することを効果的に防ぐという効果が一層顕著に奏されるようにする観点から、前記距離D1は、好ましくは2.05mm以上、より好ましくは2.1mm以上である。より具体的には、注射針1によって皮膚S内に注入する液量Vが10μL未満のとき、前記距離D1は、好ましくは2.0mm以上、より好ましく2.1mm以上である。また前記液量Vが10μL以上のとき、前記距離D1は、好ましくは2.1mm以上、より好ましく2.2mm以上である。
【0029】
注射針1を小さくして取り扱い性を向上したり、刺激突起32による皮膚の延伸抑制を効果的にしたりする観点から、前記距離D1は、好ましくは10mm以下、より好ましくは7mm以下、更に好ましくは4mm以下である。
刺激突起32が皮膚に刺入されることによって免疫誘導効果を促進することができるところ、この効果が顕著に奏されるためには、注射針1による注液点、即ち、第1突起11が刺入される箇所と、刺激突起32が刺入される箇所とが近いことが好ましく、具体的には、前記距離D1の上限値が前述した範囲内であることが好ましい。
ここで、第1突起11と第2突起12との間の距離とは、第1突起11の頂点と第2突起12の頂点との間の距離を意味する。第2突起12が制御突起33である場合、第1突起11と第2突起12との間の距離は、第1突起11の頂点と、制御突起33の平面視における中心との間の距離を意味する。
図1に示す例のように、第1領域R1が複数の第1突起11を含む場合、該複数の第1突起11それぞれについて、前記距離D1が上述した範囲内であることが好ましい。
【0030】
注射針1は、第1領域R1と第2領域R2との間に、第1突起11及び第2突起12を含まない突起非存在領域R3を有することが好ましい。この具体例を
図4及び
図6(a)~(d)に示す。
突起非存在領域R3は、第1領域R1に含まれる第1突起11それぞれについて、前記距離D1が上述した範囲内である領域である。突起非存在領域R3は所定の幅を有する領域であるところ、
図4に示す例では、突起非存在領域R3の幅は前記距離D1と同じである。突起非存在領域R3は、第1突起11及び第2突起の少なくとも先端を含まない領域であることが好ましい。第1突起11及び第2突起12は、シート基部2から急激に立ち上がっていてもよいし、なだらかに立ち上がっていてもよいところ、突起非存在領域R3は、例えば第1突起11又は第2突起12がシート基部2からなだらかに立ち上がっている場合、第1突起11又は第2突起12の基端部を含んでいてもよい。
第1突起11又は第2突起12がシート基部2からなだらかに立ち上がっている場合、第1突起11の高さH1の80%の高さ位置における、第1突起11と第2突起12との間の距離を、突起非存在領域R3の幅としてもよい。第1突起11又は第2突起12がシート基部2から急激に立ち上がっている場合、第1突起11と第2突起12との基端部どうしの間の距離を、突起非存在領域R3の幅としてもよい。
【0031】
突起非存在領域R3は、シート基部2を平面視して、第1領域R1を囲んでいることが好ましい。また、突起非存在領域R3は、所定の幅を有し、第1領域R1の周囲を連続して囲んでいることが好ましい。この具体例を
図4、
図6(a)~(c)に示す。
突起非存在領域R3は、シート基部2を平面視して、第1領域R1を挟んでいてもよい。この具体例を
図6(d)に示す。
注射針1が突起非存在領域R3を有することにより、注射針1によって液を皮膚に注入するときに、皮膚が制約なく盛り上がることができるので、液を一層効率的に注入することができるようになる。
突起非存在領域R3の平面視形状は、特に制限されないが、膨疹は円形に生ずることから、環状であることが好ましく、特に円形の環状であることが好ましい。例えば、円形の環状(
図4、
図6(a)参照)、矩形の環状(
図6(b)参照)、三角形の環状(
図6(c)参照)等であってもよい。
【0032】
注射針1においては、第2突起12は、刺激突起32と制御突起33とを有することが好ましい。第2突起12が刺激突起32を有することにより、注射針1を皮膚に押し付け、第1突起11を先端側から皮膚に刺入させていったときに、刺激突起32も皮膚に刺入される。刺激突起32が皮膚に刺入されることにより、皮膚の延伸を防ぐことができるので、穿刺性を向上させることができる。また刺激突起32が皮膚に刺入されることにより、刺激突起32が皮膚を刺激し血流促進作用を及ぼし、免疫誘導効果を促進することもできる。したがって、この構成を有する注射針1によれば、第1突起11によって液を皮膚に容易に注入可能であるとともに、刺激突起32によって血流を促進し免疫誘導効果を促進可能である。
血流促進効果の有無は、各種公知の方法で判定できるが、例えば、皮膚にフレア反応が生じるか否かで判断したり、レーザ血流計により血流分布を可視化したりして判断することができる。
【0033】
第2突起12が、制御突起33を有していることにより、第1突起11及び刺激突起32を先端側から皮膚に刺入させていった場合に、制御突起33の穿刺深さ制御部40が皮膚の表面に接触する。これによって、第1突起11及び刺激突起32の刺入が止まり、皮膚のより深い部位まで第1突起11及び刺激突起32が刺入することが防止される。つまり、穿刺深さ制御部40は、第1突起11及び刺激突起32の刺入深さを制限するストッパーとして機能する。
即ち、注射針1は、第1突起11及び刺激突起32の皮膚への刺入深さが制御可能になされていることにより、皮膚の任意の深さに薬剤を皮内投与することができるとともに、血流を効果的に促進させることができる。そのため、薬剤の種類等に応じて第1突起11の刺入深さを調節することで、薬剤の効果を最大限に発揮させることが可能である。また、目的とする血流促進作用の程度に応じて刺激突起32の刺入深さを調節することで、血流促進作用を効果的に生じさせることが可能である。
【0034】
注射針1では、第1突起11は、第2突起12よりも高さが高いことが好ましい。こうすることにより、第1突起11が皮膚に刺入された後に、第2突起12が皮膚に接触することになる。そのため、第1突起の皮膚への刺入を効率的に行うことができるとともに、第2突起12が皮膚を延伸することを防ぐことができる。その後に、第1突起11を任意の深さまで穿刺することをスムーズに行うことができるようになる。典型的には、第2突起12は、刺激突起32と制御突起33とを有するところ、第1突起11が刺激突起32及び制御突起33のそれぞれよりも高さが高いことが好ましい。
皮内投与に伴う痛みが大幅に低減させる、または第1突起11から皮膚S内に薬剤を確実に注入する観点から、第1突起11の突出高さH1と制御突起33の突出高さH3との差H1-H3は、好ましくは100μm以上、更に好ましくは300μm以上である。
また、前記差H1-H3は、皮膚を必要以上に傷つけない観点から、好ましくは4995μm以下、更に好ましくは3000μm以下である。
【0035】
刺激突起32による血流促進効果に伴う痛みを大幅に低減させたり、弾性のある肌にも十分に刺激突起を刺入したりすることができる観点から、刺激突起32の突出高さH2は、制御突起33の突出高さH3以上、即ちH2≧H3であることが好ましく、H2>H3であることがより好ましい。
同様の観点から、刺激突起32の突出高さH2と制御突起33の突出高さH3との差H2-H3は、好ましくは0μm以上、より好ましくは100μm以上、更に好ましくは400μm以上である。
また、前記差H2-H3は、皮膚を必要以上に傷つけない観点から、好ましくは4995μm以下、更に好ましくは3000μm以下である。
【0036】
血流促進効果が一層確実に奏されるようにしたり、第1突起11が確実に穿刺されるようにし、効率よく注入したりする観点から、第1突起11は刺激突起32よりも高さが高いことが好ましい。より具体的には、第1突起11の突出高さH1と刺激突起32の突出高さH2との差H1-H2は、好ましくは10μm以上、更に好ましくは100μm以上である。
また、前記差H1-H2は、液の注入のし易さと血流促進効果とを両立させやすくする観点から、好ましくは4995μm以下、更に好ましくは3000μm以下である。
【0037】
第1突起11の突出高さH1は、第1突起11を皮膚に押し付けた際に皮膚が変形しても首尾よく刺入でき、穿刺性を良好にするとともに薬剤を皮膚S内に確実に注入する観点から、好ましくは105μm以上、更に好ましくは150μm以上である。
また、第1突起11の突出高さH1は、低侵襲にする観点から、好ましくは5000μm以下、より好ましくは4000μm以下、更に好ましくは3000μm以下である。
【0038】
刺激突起32の突出高さH2は、皮膚に押し付けることで皮膚に刺激を与え、血流を促進する観点から、好ましくは5μm以上、更に好ましくは20μm以上である。
また、刺激突起32の突出高さH2は、低侵襲にする観点から、好ましくは5000μm以下、より好ましくは4000μm以下、更に好ましくは3000μm以下である。
制御突起33の突出高さH3は、なるべく皮膚を非侵襲にしたり、基材と皮膚の距離を離して穿刺性を改善したりする観点から、好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上である。
また、制御突起の突出高さH3は、第1突起11の穿刺性の向上の観点から、好ましくは4000μm以下、より好ましくは3000μm以下、更に好ましくは2000μm以下である。
【0039】
図1に示す注射針1では、第1領域R1に含まれるすべての第1突起11の中心を含む最小の仮想円M1(
図4参照)を想定したときに、該仮想円M1の半径D2(
図4参照)が、第1突起11と第2突起12との間の距離のうち最も短い距離である距離D1(
図4参照)よりも小さいことが好ましい。第1突起11の中心が前記仮想円M1の円周上に位置している場合、該第1突起11の中心は該仮想円M1に含まれるものとする。前記半径Dと前記距離D1との関係を上述のようにすることにより、注射針1により液を皮膚に注入したときに、膨疹9の形成が一層阻害されにくくなり、液を一層効率的に注入することができるようになる。この効果が一層顕著に奏されるようにする観点から、前記距離D1に対する前記半径D2の比D1/D2は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上である。
また、形成される膨疹に対して液の注入箇所を分散したり、注射針1を小さくしたりする観点から、前記比D1/D2は、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。
【0040】
注射針1では、第1領域R1における、第1突起11どうしの間の距離のうち最も短い距離D3(
図4参照)が、前記距離D1よりも短いことも好ましい。注射針1により液を皮膚に注入したときに、膨疹9の形成が一層阻害されにくくなり、液を一層効率的に注入することができるようになる。この効果が一層顕著に奏されるようにする観点から、前記距離D1に対する前記距離D3の比D1/D3は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上である。
また、形成される膨疹に対して液の注入箇所を分散したり、注射針1を小さくしたりする観点から、前記比D1/D3は、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。
【0041】
注射針1では、穿刺及び液の注入しやすさと血流促進効果のとのバランスの観点から、第1突起11の本数に対する第2突起12の本数の比(第2突起12の本数/第1突起11の本数)が、好ましくは2.4以上、より好ましくは3.0以上、更に好ましくは3.5以上である。
また、低侵襲にする観点から、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
【0042】
注射針1では、注射針1による液の注入を効率的に行うことができるようにする観点から、第1領域R1は、第1突起11を、好ましくは2本以上、より好ましくは3本以上含む。
また、全ての第1突起11から良好に液を注入できるようにする観点から、好ましくは20本以下、より好ましくは15本以下、更に好ましくは10本以下含む。
【0043】
注射針1では、第2領域R2は、第1突起11を含んでいてもよいが、第1突起11を含まないことが好ましい(
図4、
図6参照)。第2領域R2が第1突起11を含まないことにより、注射針1における第1領域R1のみが液を注入可能な領域となるので、膨疹の位置を第1領域に限定でき、他の位置で膨疹の形成が阻害されることを防止することができる。
【0044】
注射針1は、第2突起12として、刺激突起32の周囲に穿刺深さ制御部40が一体的に形成された複合第2突起52を備えていてもよい。この例を
図7に示す。
図7に示す例では、刺激突起32の基部側部分の外周部に穿刺深さ制御部40が一体成形されていることにより、複合第2突起52が形成されている。より詳細には、基部側部分に拡径部41が形成されており、該拡径部41の上端部に、刺激突起32の径方向の外方に張り出した段部が形成されている。そして、その段部が穿刺深さ制御部40となっている。
第1突起11及び複合第2突起52を先端側から皮膚に刺入させていった場合に、穿刺深さ制御部40が皮膚の表面に接触することによって、第1突起11及び複合第2突起52の刺入が止まり、皮膚のより深い部位まで第1突起11及び複合第2突起52が刺入することが防止される。複合第2突起52においては、刺激突起32の周囲に穿刺深さ制御部40が一体的に形成されているので、皮膚のより深い部位まで複合第2突起52が刺入されることをより確実に防止することができる。
【0045】
次に、注射針1の構成材料について説明する。
注射針1は、材料のハンドリング性、該注射針の強度及び加工性、第1突起11及び第2突起12に硬さを確保し、液を注入しやすくするとともに血流促進効果を向上させる観点から、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。注射針は熱可塑性樹脂を含む基材シートから形成されていることがより好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂等から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ポリオレフィンとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリ脂肪酸エステル、ポリ乳酸、ポリカプロラクタン、ポリブチレンサクシネート等から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ポリアミドとしては、ナイロン等から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
生分解性の観点から、ポリ脂肪酸エステルを含むことが好ましい。
ポリ脂肪酸エステルとしては、具体的に、ポリ乳酸、ポリグリコール酸から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
【0046】
注射針1の全質量に対する、該注射針1に含まれる熱可塑性樹脂の質量の割合は、注射針の成型性、寸法安定性を向上する観点から好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上である。
また、熱可塑性樹脂の質量の割合は、注射針に例えば機能剤を添加して各種効果を持たせる観点から好ましくは100%以下、より好ましくは98%以下、更に好ましくは96%以下である。
ここで、各種機能剤として、抗菌剤、殺菌剤、保湿剤、流動改善剤、帯電防止剤、着色剤等を用いることができる。
【0047】
注射針1によって皮膚に注入する薬剤は、注射針1の使用用途に応じて適宜選択することができる。
注射針1は薬剤の皮内投与以外に、皮下投与等にも用いることができる。注射針1によって皮膚に注入する薬剤は、皮内投与型薬剤であってもよいし、皮下投与型薬剤であってもよい。皮内投与型薬剤とは、推奨される投与方法が皮内投与である薬剤を意味する。皮下投与型薬剤とは、推奨される投与方法が皮下投与である薬剤を意味する。注射針1によれば薬剤を容易に皮内投与することができるので、注射針1によって皮膚に注入する薬剤は、皮内投与型薬剤であることが好ましく、皮内投与型ワクチン薬剤であることがより好ましい。特に皮内投与型ワクチン薬剤を用いる場合、薬剤を確実に皮内に投与できることに加え、皮下投与と比べて免疫システムによる抗原認識を効率的に強化できるので、ワクチンの効果を高められることが期待される。皮膚は、体表面側から順に、表皮、真皮及び皮下組織を有するところ、真皮には、免疫細胞が相対的に多く存在する。そのため、注射針1によって皮内投与型ワクチン薬剤を皮内投与する場合、ワクチンの効果を高める観点から、真皮内に投与することが好ましい。
【0048】
薬剤は、例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、COVID-19、結核、狂犬病、ポリオ、水ぼうそう、風しん、麻疹、破傷風、帯状疱疹等の感染症を予防するワクチン;慢性B型肝炎、結核、狂犬病、悪性新生物、帯状疱疹等を治療するワクチン;癌患者向けの鎮痛薬;インスリン;生物製剤;遺伝子治療薬;注射剤及び皮膚適用製剤等から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
注射針1が有する第1突起11は、皮膚を穿刺することから、注射針1は、従来の経皮投与に用いられる薬理活性物質以外にも、皮下注射が必要な薬理活性物質にも適用することが出来る。
注射針1によって薬剤Lが注入される皮膚Sは、ヒトの皮膚であってもよいし、ヒト以外の動物の皮膚であってもよい。
【0049】
本発明には、注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器とが連結されている注射具が包含される。本発明の注射具が有する注射針としては、上述した本発明の注射針1を用いることができる。薬剤供給器としては、例えば、シリンジ、チューブ、電動式注入器等を用いることができる。薬剤供給器は、薬剤が予め充填された薬剤貯留部を有していてもよい。
本発明の注射具によれば、薬剤を注入するときに、膨疹9の形成が阻害されにくくなるので、薬剤を効率的に注入することができる。また本発明の注射具は、薬剤を確実に皮内投与することが可能であるので、薬剤供給器にとして、皮内投与型薬剤が充填された薬剤供給器を用いることにより、皮内投与型薬剤の効果を一層向上させることができる。
【0050】
本発明には、注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器と、薬剤とを含むキットが包含される。本発明のキットが有する注射針としては、上述した本発明の注射針1を用いることができる。薬剤供給器としては、上述した本発明の注射具に係る薬剤供給器と同様のものを用いることができる。薬剤としては、上述した本発明の注射針1に用いられる薬剤と同様のものを用いることができる。本キットには、投与部位に対して垂直方向に上述した注射具に対し速度を付与できる構造を有する穿刺デバイスを含んでも良い。穿刺デバイスは、注射針を皮膚Sに穿刺するために用いられる道具であり、注射針を皮膚に向けて穿刺するための速度を付与するための構造としてバネ等を有する。また「速度」は、注射針1の第1突起11を、皮膚に穿刺する速度を意味する。
本発明のキットによれば、薬剤を注入するときに、膨疹9の形成が阻害されにくくなるので、薬剤を効率的に注入することができる。
【0051】
穿刺デバイスは、例えば、注射針1を保持する保持部と、該注射針1の第1突起11が皮膚に対して略垂直に突き刺さるように、該注射針1の移動方向を規制するガイド機構と、注射針1をガイド機構に沿って移動させる駆動機構とを有している。前記駆動機構は、注射針1の第1突起11の穿刺速度を所定の速度に制御しつつ該注射針1を移動させるバネなどによる駆動手段を備えることが好ましい。駆動機構は、手動によって駆動手段を動作させることができるようになされていることが好ましい。
【0052】
保持部は、例えば、注射針1及び薬剤供給器を連結可能なアダプター部材における注射針1が取り付けられる部分である。保持部は、例えば、アダプター部材の一端部に形成することができる。アダプター部材を介して注射針1及び薬剤供給器を連結した状態において、薬剤供給器から該注射針1の第1突起11へ薬剤を供給可能となっていることが好ましい。保持部に注射針1を取り付ける手段は特に制限されず、例えば、嵌合、螺合、融着、接着等、任意の手段を用いることができる。また、保持部及び注射針1がそれぞれ互いに係合する係合部を有しており、該係合部を係合させることによって、保持部に注射針1を取り付けてもよい。アダプター部材の他端部は、薬剤供給器を取り付け可能になされていることが好ましい。例えば、アダプター部材の他端部は、シリンジの先端開口部を挿入可能になされていることが好ましい。
ガイド機構は、例えば、穿刺デバイスの主体をなす筒状の本体部の側壁に設けられたガイド孔と、該ガイド孔に挿通されるガイド突起を有する注射具保持体とを含む。ガイド孔は、本体部の軸方向に沿って延びる開口形状を有する。注射具保持体は、注射針1及び薬剤供給器を、アダプター部材を介して連結して形成された注射具を保持するものである。注射具保持体のガイド突起をガイド孔に挿通することによって、注射具保持体の移動方向が、前記本体部の軸方向に規制される。注射具保持体は、前記本体部の内部に配される。
駆動機構の駆動手段は、注射具保持体を移動させるようになされていることが好ましい。また駆動手段がバネである場合、穿刺デバイスは、該バネが収縮した状態を維持するためのストッパー機構を有することが好ましい。ストッパー機構は、ガイド突起の位置を固定することにより、前記バネが収縮した状態を維持するものであることが好ましい。
【0053】
穿刺デバイスを用いて薬剤を皮膚内に注入する方法について説明する。
まず薬剤供給器であるシリンジに、薬剤を充填する。具体的には、シリンジの先端開口部を薬剤に漬けた状態で、該シリンジ内に挿入されたプランジャーを引き上げ、該シリンジ内に薬剤を吸引する。薬剤が充填されたシリンジに、アダプター部材を介して注射針1を取り付けて、注射具を形成する。シリンジのプランジャーを押下し、注射針1の第1突起11内に薬剤を充填する。注射具を注射具保持体に保持させ、注射具を穿刺デバイスに取り付ける。注射具保持体のガイド突起をガイド孔に沿って押し上げて、該注射具保持体を付勢している駆動機構のバネを収縮させる。ストッパー機構によりガイド突起を固定し、前記バネが収縮した状態が維持されるようにする(以下、この状態を「スタンバイ状態」ともいう。)。スタンバイ状態の穿刺デバイスにおける注射針1の第1突起11を、薬剤の投与対象である皮膚に近づける。このとき、穿刺デバイスの本体部の軸方向が、皮膚に対して垂直となるようにすることが好ましい。そして、ガイド突起の固定を解除する。すると、注射針1が皮膚に向かって付勢され、第1突起11が皮膚に穿刺される。その後、シリンジのプランジャーを押下し、皮膚内に薬剤を注入する。
【0054】
本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されず適宜変更可能である。
例えば、
図3に示す例では、第2突起12は中実であったが、第2突起12は中空であってもよい。また
図7に示す例では。複合第2突起52は中実であったが、複合第2突起52は中空であってもよい。注射針1において、第1突起11以外の突起は、中実であることが好ましい。こうすることにより、第1突起11の開孔11aから吐出されるべき液が、他の突起の内部に貯留されることを防ぐことができるので、液を効率的に注入することができる。
【0055】
図1に示す例では、注射針1は、全体として偏平なシート状の形状を有していたが、注射針1の全体形状はこれに限られない。注射針1は、アダプター部材と一体として形成されていてもよい。例えば、板状の部材の一方の面側に第1及び第2突起11,12が突出していて、他方の面側の周縁部に、接着等による接合又は一体成形によってアダプター部材として機能する筒状部が設けられていてもよい。この場合、前記の板状の部分がシート基部2である。
【0056】
前述した本発明の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
<1>
シート基部から突出する微細な第1及び第2突起を有し、
第1突起は、錐体形状であり且つ先端部に開孔を有し、
第2突起は、先端部に開孔を有しておらず、
平面視において、1本又は2本以上の第1突起を含む第1領域と、2本以上の第2突起を含み、第1領域を挟むか又は囲んでいる第2領域とを有しており、
第1突起と第2突起との間の距離のうち最も短い距離である距離D1が2.0mm以上10mm以下である、注射針。
【0057】
<2>
第1領域は、2本以上の第1突起を含み、
第1領域に含まれる全ての第1突起の中心を含む仮想円を想定したときに、該仮想円の半径D2が前記距離D1よりも小さい、前記<1>に記載の注射針。
<3>
第1領域は、2本以上の第1突起を含み、
第1領域における第1突起どうしの間の距離のうち最も短い距離D3が前記距離D1よりも短い、前記<1>又は前記<2>に記載の注射針。
<4>
第1突起は、第2突起よりも高さが高い、前記<1>~前記<3>のいずれか一に記載の注射針。
【0058】
<5>
第2突起は、
錐体形状である刺激突起と、
先端面が穿刺深さ制御部となっている穿刺深さ制御突起とを有する、前記<1>~前記<4>のいずれか一に記載の注射針。
<6>
前記穿刺深さ制御突起は、その先端面が平坦、もしくは該穿刺深さ制御突起の突出方向に向けて凸の湾曲線となっている、前記<5>のいずれか一に記載の注射針。
<7>
前記刺激突起は、前記穿刺深さ制御突起よりも高さが高い、前記<5>又は前記<6>に記載の注射針。
<8>
第1突起は、前記刺激突起及び前記穿刺深さ制御突起のそれぞれよりも高さが高い、前記<5>~前記<7>のいずれか一に記載の注射針。
<9>
第1突起の突出高さH1と前記穿刺深さ制御突起の突出高さH3との差H1-H3は、100μm以上4995μm以下、好ましくは300μm以上3000μm以下である、前記<5>~前記<8>のいずれか一に記載の注射針。
<10>
前記刺激突起の突出高さH2と前記穿刺深さ制御突起の突出高さH3との差H2-H3は、0μm以上4995μm以下、より好ましくは100μm以上3000μm以下、更に好ましくは400μm以上3000μm以下である、前記<5>~前記<9>のいずれか一に記載の注射針。
<11>
第1突起の突出高さH1と前記刺激突起の突出高さH2との差H1-H2は、10μm以上4995μm以下、好ましくは100μm以上3000μm以下である、前記<5>~前記<10>のいずれか一に記載の注射針。
【0059】
<12>
第1突起の突出高さH1は、105μm以上5000μm以下、好ましくは150μm以上4000μm以下、より好ましくは150μm以上3000μm以下である、前記<5>~前記<11>のいずれか一に記載の注射針。
<13>
前記刺激突起の突出高さH2は、5μm以上5000μm以下、好ましくは20μm以上4000μm以下、より好ましくは150μm以上3000μm以下である、前記<5>~前記<12>のいずれか一に記載の注射針。
<14>
前記穿刺深さ制御突起の突出高さH3は、5μm以上4000μm以下、好ましくは10μm以上3000μm以下、より好ましくは10μm以上2000μm以下である、前記<5>~前記<13>のいずれか一に記載の注射針。
【0060】
<15>
第1領域に含まれる全ての第1突起の中心を含む最小の仮想円の半径D2に対する前記距離D1の比D1/D2が1.0以上20以下、好ましくは1.5以上10以下であり、且つ/又は
第1領域における第1突起どうしの間の距離のうち最も短い距離D3に対する前記距離D1の比D1/D3が1.0以上20以下、好ましくは1.5以上10以下である、前記<1>~前記<14>のいずれか一に記載の注射針。
<16>
第1領域に含まれる全ての第1突起の中心を含む最小の仮想円の半径D2に対する前記距離D1の比D1/D2が1.0以上20以下、好ましくは1.5以上10以下である、前記<1>~前記<15>のいずれか一に記載の注射針。
<17>
第1領域における第1突起どうしの間の距離のうち最も短い距離D3に対する前記距離D1の比D1/D3が1.0以上20以下、好ましくは1.5以上10以下である、前記<1>~前記<16>のいずれか一に記載の注射針。
【0061】
<18>
第1領域は、第1突起を2本以上20本以下、好ましくは3本以上20本以下、より好ましくは3本以上15本以下含む、前記<1>~前記<17>のいずれか一項に記載の注射針。
<19>
第1突起の本数に対する第2突起の本数の比が2.4以上10以下、好ましくは3.0以上8以下、より好ましくは3.5以上6以下である、前記<1>~前記<18>のいずれか一に記載の注射針。
【0062】
<20>
第2領域は、第1突起を含まない、前記<1>~前記<19>のいずれか一に記載の注射針。
<21>
第1領域と第2領域との間に、第1突起及び第2突起を含まない突起非存在領域を有する、前記<1>~前記<20>のいずれか一に記載の注射針。
<22>
前記シート基部を平面視して、前記突起非存在領域は、第1領域を挟むか又は囲んでいる、前記<21>に記載の注射針。
<23>
前記突起非存在領域は、所定の幅を有し、第1領域の周囲を連続して囲んでいる、前記<21>又は前記<22>に記載の注射針。
<24>
前記突起非存在領域の平面視形状は、環状であり、好ましくは円形の環状である、前記<21>~前記<23>のいずれか一に記載の注射針。
【0063】
<25>
第1領域は複数本の第1突起を含んでおり、
第1領域に含まれる前記複数本の第1突起は、平面視において、第1突起の中心を結ぶ仮想線が環状をなすように配されている、前記<1>~前記<24>のいずれか一に記載の注射針。
<26>
前記仮想線で囲まれた領域内には、第1突起が配されていない、前記<25>に記載の注射針。
<27>
第2領域に含まれる第2突起は、平面視において、各第2突起の中心を結ぶ仮想線が環状をなすように配されている、前記<1>~前記<26>のいずれか一に記載の注射針。<28>
前記距離D1は、2.05mm以上10mm以下、好ましくは2.1mm以上7.0mm以下、更に好ましくは2.1mm以上4mm以下である、前記<1>~前記<27>のいずれか一に記載の注射針。
<29>
前記注射針は熱可塑性樹脂を含み、該注射針の全質量に対する該熱可塑性樹脂の質量の割合は、50%以上100%以下、より好ましくは70%以上98%以下、更に好ましくは90%以上96%以下である、前記<1>~前記<28>のいずれか一に記載の注射針。
<30>
前記注射針が、薬剤を皮内投与するために用いる注射針である前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針。
<31>
前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器とが連結されている、注射具。
<32>
前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器と、薬剤とを含むキット。
<33>
前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器と、薬剤と、前記注射針を皮膚に向かって移動させ、該注射針の第1突起を該皮膚に穿刺する穿刺デバイスとを含むキット。
<34>
前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針と、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、COVID-19、結核、狂犬病、ポリオ、水ぼうそう、風しん、麻疹、破傷風、帯状疱疹等の感染症を予防するワクチン;慢性B型肝炎、結核、狂犬病、悪性新生物、帯状疱疹等を治療するワクチン;癌患者向けの鎮痛薬;インスリン;生物製剤;遺伝子治療薬;注射剤及び皮膚適用製剤から選ばれる1又は2以上の薬剤が充填される薬剤供給器とが連結されている、注射具。
<35>
前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針と、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、COVID-19、結核、狂犬病、ポリオ、水ぼうそう、風しん、麻疹、破傷風、帯状疱疹等の感染症を予防するワクチン;慢性B型肝炎、結核、狂犬病、悪性新生物、帯状疱疹等を治療するワクチン;癌患者向けの鎮痛薬;インスリン;生物製剤;遺伝子治療薬;注射剤及び皮膚適用製剤から選ばれる1又は2以上の薬剤が充填される薬剤供給器と、該薬剤とを含むキット。
<36>
シート基部から突出する微細な第1及び第2突起を有し、
第1突起は、錐体形状であり且つ先端部に開孔を有し、
第2突起は、先端部に開孔を有しておらず、
平面視において、1本又は2本以上の第1突起を含む第1領域と、2本以上の第2突起を含み、第1領域を挟むか又は囲んでいる第2領域とを有しており、
第1突起と第2突起との間の距離のうち最も短い距離である距離D1が2.0mm以上10mm以下である、注射針と
皮内投与型ワクチン薬剤が充填される薬剤供給器とが連結されている、注射具。
<37>
前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器とが連結されており、前記注射針を皮膚に向かって移動させ、該注射針の第1突起を該皮膚に穿刺する穿刺デバイスを用いて前記注射針の第1突起を皮膚に穿刺する方法。
<38>
前記<1>~前記<29>のいずれか一に記載の注射針と、薬剤が充填される薬剤供給器と、薬剤とを含むキットを用いて薬剤を皮膚内に投与する方法であって、
穿刺デバイスを用いて前記注射皮膚に向かって移動させ、前記注射針の第1突起を皮膚に穿刺し、薬剤を投与する方法。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕
図1及び2に示す注射針1と同様の構成かつ同じ突起配置を有する注射針を製造した。注射針の各突起の寸法、第1突起と第2突起との間の距離のうち最も短い距離である距離D1、第1領域に含まれる全ての第1突起の中心を含む最小の仮想円の半径D2、第1領域における第1突起どうしの間の距離のうち最も短い距離D3、注射針の全質量に対する熱可塑性樹脂の質量の割合は、表1に示すとおりである。実施例1の注射針では、突起非存在領域の平面視形状は、第1領域を囲む円形の環状形状である。注射針は、熱可塑性樹脂であるポリ乳酸100%からなる基材シートに超音波振動を印可した加工針による突起形成加工を施して形成した。
【0066】
【0067】
〔実施例2〕
図1に示す注射針1Aと同様の構成かつ
図6(d)と同じ配置を有する注射針を製造した。各要素を表1に示すとおりにしたほかは実施例1と同じである。実施例2の注射針では、突起非存在領域の平面視形状は矩形状であり、突起非存在領域は第1領域を挟んでいる。
〔比較例1〕
第1突起11、刺激突起32及び制御突起33を有する注射針を製造した(
図9(a)参照)。各要素を表1に示すとおりにし、突起11,32,33を
図9(a)のように配置したほかは実施例1と同じである。比較例1の注射針は、突起非存在領域を有していない。
〔比較例2〕
第1突起11のみを有する注射針を製造した(
図9(b)参照)。各要素を表1に示すとおりにした。刺激突起32及び制御突起33を有しない点以外は実施例1と同じである。比較例2の注射針は、第2領域と突起非存在領域を有していない。
【0068】
〔薬液の投与〕
実施例1及び2並びに比較例1及び2の注射針を用いて、以下の方法により、ゲッチンゲンミニブタの皮膚に薬液を投与した。
-20℃で保管されたゲッチンゲンミニブタの摘出皮膚(雄、6週齢、腹側部;オリエンタル酵母工業株式会社)を試験前日から冷蔵庫(4℃)に移し、解凍した。摘出皮膚はキムタオル5~7枚の上に載せ、シェーバーを用いて剃毛し、アルコール綿で表面を拭った状態で投与に供した。
粉末のローダミンB(Sigma-Aldrich)を超純水で0.5mg/mLに調整し、マイクロシリンジ(Agilent)に充填した。マイクロシリンジを穿刺デバイスにセットし、実施例1及び2並びに比較例1及び2の注射針をそれぞれ装着し、空気抜きを実施した。マイクロシリンジ内の液量が100μLとなるようにセットし、注射針に付着した余分な液はキムワイプに吸わせて除去した。注射針の突起を穿刺対象に垂直に穿刺し、ローダミンB水溶液100μLを注入した。
【0069】
上記の〔薬液の投与〕に記載の方法によってゲッチンゲンミニブタの皮膚に薬液を投与した後、以下の評価基準により、実施例1及び2並びに比較例1及び2の注射針それぞれについて穿刺性及び投与性を評価した。その結果を表1に示す。
〔穿刺性の評価基準〕
〇:以下(1)及び(2)の両方を満たす。
(1)第1突起を穿刺したときに、注液ができる程度の深さに穿刺することができる。
(2)第1突起を穿刺したときに、深く刺さり過ぎず、薬液注液時に膨疹が形成される程度の深さに穿刺することができる。
×:上記(1)及び(2)のいずれか又は両方を満たさない。
〔投与性の評価基準〕
〇:以下(1)及び(2)の両方を満たす。
(1)薬液の投与直後に、膨疹が形成されることを目視で確認でき、第2突起により膨疹形成が阻害されていない。
(2)投与後の投与部位皮膚表面及び注射針表面をあらかじめ重量を測定したペーパータオルで拭き取り、拭き取る前と拭き取った後とで該ペーパータオルの重量変化が5mg以下である。
×:上記(1)及び(2)のいずれか又は両方を満たさない。
【0070】
実施例1及び2の注射針は、表1に示すとおり、穿刺性及び投与性のいずれも評価が「〇」となっており、第1突起を穿刺しやすく、且つ注液時に膨疹形成を阻害しにくいことが分かる。比較例1の注射針は、表1に示すとおり、穿刺性の評価が「〇」である一方、投与性の評価は「×」となっている。比較例2の注射針は、表1に示すとおり、穿刺性及び投与性のいずれも評価が「×」となっている。
特に穿刺性については、比較例2の注射針は、第1突起を穿刺したときに、前記摘出皮膚が延伸してしまい、第1突起を適切に穿刺することが困難であったり、深く刺さりすぎたりしてしまい所定の深さに薬液を投入することが困難であった。また、投与性においても、第1突起が穿刺できなくて薬液が漏れてしまったり、第1突起が深く刺さりすぎてしまい所定の深さに薬液が投入できなかったりしたことに由来して膨疹が形成されなかった。したがって、本発明の注射針は、液を注入したときに、皮膚の盛り上がりを抑えにくく、液を効率的に注入可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0071】
1 注射針
2 シート基部
11 第1突起
12 第2突起
32 刺激突起
33 穿刺深さ制御突起
40 穿刺深さ制御部
R1 第1領域
R2 第2領域
R3 突起非存在領域
52 複合第2突起