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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】製品の塗装システム
(51)【国際特許分類】
   B05B 13/02 20060101AFI20241212BHJP
   B05B 16/60 20180101ALI20241212BHJP
   B05B 16/40 20180101ALI20241212BHJP
【FI】
B05B13/02
B05B16/60
B05B16/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021003140
(22)【出願日】2021-01-12
(65)【公開番号】P2022108225
(43)【公開日】2022-07-25
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】514291071
【氏名又は名称】エバ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】中村 研
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-115475(JP,A)
【文献】特開2003-182814(JP,A)
【文献】特開昭58-070858(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108179898(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 13/00
B05B 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業場として、製品を塗装する塗装作業場と、塗装前の前記製品を準備する準備作業場と、塗装された前記製品を乾燥させる乾燥作業場とをそれぞれ複数備える製品の塗装システムであって、
前記塗装システムは、一方向に延びた走行レールの上を走行するトラバーサと、前記製品が載置され、前記トラバーサの上に載せられる台車とを有し、
前記作業場は、前記走行レールの両側に、かつ前記トラバーサの走行方向に沿って配列され、前記台車が前記トラバーサを介して移動することで、前記製品が各作業場に搬送されることを特徴とする製品の塗装システム。
【請求項2】
前記準備作業場が前記走行レールを隔てて、前記塗装作業場と対向配置されていることを特徴とする請求項1記載の製品の塗装システム。
【請求項3】
前記乾燥作業場の2つが前記走行レールを隔てて対向配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の製品の塗装システム。
【請求項4】
前記塗装作業場、前記準備作業場、および前記乾燥作業場には、前記トラバーサの走行方向と直交する方向に台車用レールが敷かれており、前記台車が前記台車用レールの上を移動することで、前記製品が各作業場に搬送されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の製品の塗装システム。
【請求項5】
前記トラバーサは、前記走行レールの上を走行するための駆動装置と、前記台車を各作業場に移動させる台車移動装置とを有し、
前記台車移動装置は、各作業場に向かって伸びるアームで前記台車を押すことで前記台車を移動させることを特徴とする請求項4記載の製品の塗装システム。
【請求項6】
前記塗装作業場は、床に向かってダウンフローの気流が生じる作業場であり、作業スペースの上部に網目部材が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の製品の塗装システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の塗装システムに関し、特に多種少量生産の大型重量製品の塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、市場において製品の外観品質が重要視されており、製品の生産時において高い塗装品質が要求されている。例えば、工場内で使用される工作機械部品の塗装についても乗用車並みの塗装品質が要求されるようになってきている。しかし、塗装後は塗料が乾燥するまで製品に触れることができないため、一般に塗装作業は作業の効率化が難しい作業となっている。
【0003】
従来、例えば、カバーや小型部品などの軽量な製品や、自動車ボデーのような大量生産製品については、塗装後の製品をハンガーレールにぶら下げたり、コンベアー搬送装置によって搬送するなどして乾燥室に運び込むシステムが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、工作機械部品のように10トンを超えるような大型重量製品の場合、その製品をハンガーレールにぶら下げることは現実的でなく、まして多種少量生産であることから、大規模な自動車工場のようにコンベアー搬送装置を設置しても投資効果は見込めず、採算性が良くない。そこで、従来では、塗装された製品をその場に放置して、照明を当てて乾燥を早めることなどが行われている。しかし、塗装後はしばらくの間、塗料が乾燥するまで製品に触れることができないため、塗料が乾燥するまで放置する時間が必要となる。特に、冬季には作業時間よりも乾燥時間が長いこともあり、このような手法は、時間的にも作業スペース的にも生産性に乏しく、作業の効率化の面で改善の余地がある。また、特定の製品の乾燥中に別の製品の塗装を行う場合、塗料の色が異なると、乾燥中の製品に別の製品の塗料の色が付着して、塗装品質が低下するという懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-159093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、多種少量生産の大型重量製品であっても、塗装品質を維持しながら、塗装生産性を向上できる製品の塗装システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製品の塗装システムは、製品を塗装する塗装作業場と、塗装前の上記製品を準備する準備作業場と、塗装された上記製品を乾燥させる乾燥作業場とをそれぞれ複数備える製品の塗装システムであって、上記塗装システムは、一方向に延びた走行レールの上を走行するトラバーサと、上記製品が載置され、上記トラバーサの上に載せられる台車とを有し、上記作業場は、上記走行レールの両側に、かつ上記トラバーサの走行方向に沿って配列され、上記台車が上記トラバーサを介して移動することで、上記製品が各作業場に搬送されることを特徴とする。
【0008】
上記準備作業場が上記走行レールを隔てて、上記塗装作業場と対向配置されていることを特徴とする。
【0009】
上記乾燥作業場の2つが上記走行レールを隔てて対向配置されていることを特徴とする。
【0010】
上記作業場には、上記トラバーサの走行方向と直交する方向に台車用レールが敷かれており、上記台車が上記台車用レールの上を移動することで、上記製品が各作業場に搬送されることを特徴とする。
【0011】
上記トラバーサは、上記走行レールの上を走行するための駆動装置と、上記台車を各作業場に移動させる台車移動装置とを有し、上記台車移動装置は、各作業場に向かって伸びるアームで上記台車を押すことで上記台車を移動させることを特徴とする。
【0012】
上記塗装作業場は、床に向かってダウンフローの気流が生じる作業場であり、作業スペースの上部に網目部材が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製品の塗装システムは、塗装作業場と、準備作業場と、乾燥作業場とをそれぞれ複数備えるとともに、トラバーサと、台車とを有し、上記作業場は、走行レールの両側に、かつトラバーサの走行方向に沿って配列され、台車がトラバーサを介して移動することで、製品が各作業場に搬送されるので、製品を塗装する際の工程ごとの作業場所を区分けしつつも、各作業場への搬送効率を高めることができる。また、塗装作業場と、準備作業場と、乾燥作業場はそれぞれ複数あるので、同じ作業工程を同時に進行できる。これにより、多種少量生産の大型重量製品であっても、塗装品質を維持しながら、塗装生産性を向上できる。
【0014】
準備作業場が走行レールを隔てて、塗装作業場と対向配置されているので、例えば、準備作業後、トラバーサを走行させることなく向かい側の塗装作業場に製品を搬送でき、台車およびトラバーサの動線の効率化を図りやすい。
【0015】
また、乾燥作業場の2つが走行レールを隔てて対向配置されているので、作業者の安全性の確保に繋がる。
【0016】
上記作業場には、トラバーサの走行方向と直交する方向に台車用レールが敷かれており、台車が台車用レールの上を移動することで、製品が各作業場に搬送されるので、作業場における台車の位置を固定でき、作業の効率化および作業場のスペースの効率化が図れる。さらに、トラバーサは、走行レールの上を走行するための駆動装置と、台車を各作業場に移動させる台車移動装置とを有し、台車移動装置は、各作業場に向かって伸びるアームで台車を押すことで台車を移動させるので、搬送の自動化を図ることができる。
【0017】
塗装作業場は、底部に向かってダウンフローの気流が生じる作業場であり、作業スペースの上部に網目部材が設けられているので、ダウンフローの気流が乱れにくく、塗装作業時に塗料が舞い上がることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の塗装システムの一例を示す概略平面図である。
図2】本発明の塗装システムにおける台車の斜視図である。
図3】本発明の塗装システムにおけるトラバーサの斜視図である。
図4】塗装作業場の空気の流れを示す説明図である。
図5】本発明の塗装システムの他の例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製品の塗装システムの一例を図1に基づいて説明する。図1は、該システムの概略平面図である。図1に示すように、塗装システム1は、例えば、工場建物20の一角などに配置される。
【0020】
本発明の塗装システムは、主に、工程ごとに区分けされた複数の作業場と、各作業場へ製品を搬送する搬送手段とで構成される。具体的には、塗装システム1は、作業場として、製品を塗装する塗装作業場3A、3Bと、塗装前の製品を準備する準備作業場2A、2Bと、塗装された製品を乾燥させる乾燥作業場4A、4Bとを有する。また、塗装システム1は、搬送手段として、トラバーサ5と、複数(図1では4つ)の台車7とを有する。トラバーサ5は、その上の物体を水平方向に平行移動させる装置であり、2本1組の走行レール6の上をY軸方向に走行する。
【0021】
図1において、Y軸方向はトラバーサ5の走行方向であり、X軸方向はその走行方向に直行する方向である。なお、本明細書においてY軸方向を縦方向、X軸方向を横方向ともいう。
【0022】
図1に示すように、トラバーサ5の上には、製品(図示省略)が載置される台車7が載せられる。そして、台車7がトラバーサ5を介して移動することで、製品が各作業場2A、2B、3A、3B、4A、4Bに搬送される。この場合、各作業場へは、走行レール6に面した側から製品が台車7とともに搬送される。
【0023】
本発明に係る塗装システム1では、作業場は、走行レール6の両側に、かつトラバーサ5の走行方向に沿って配列されている。図1の構成では、走行レール6の左側に準備作業場2Aと、準備作業場2Bと、乾燥作業場4Aが隣接して配列され、走行レール6の右側に塗装作業場3Aと、塗装作業場3Bと、乾燥作業場4Bが隣接して配列されている。なお、各作業場のY軸方向の間には、必要に応じて通路などのスペースが設けられてもよい。図1の構成では、6つの作業場を、走行レール6を間に挟み、縦2列×横3列に配置することで、塗装システム全体をコンパクトにできるとともに、製品の各作業場への搬送効率を高めている。
【0024】
特に、図1の構成では、準備作業場2A、2Bが、走行レール6を隔てて、塗装作業場3A、3Bと対向配置されている。このように配置させることで、準備作業後、トラバーサ5を走行させることなく向かい側の塗装作業場3A(または3B)へ製品を搬送することができる。また、図1の構成では、トラバーサ5の走行方向の一端側において、乾燥作業場4A、4Bの2つが走行レール6を隔てて対向配置されている。乾燥作業場4A、4Bは、乾燥装置を用いて製品を乾燥させることから、場内は高温になる。ここで、準備作業場と塗装作業場は、主に作業者による作業が行われるのに対して、乾燥作業場は乾燥作業が自動で行われることから、作業者による作業は必要とならない。そのため、乾燥作業場同士を向かい合わせに配置することで、乾燥作業場を開放する際に、熱気が及ぶ範囲(例えば向かい側)に作業者がいることがなく、安全性の向上に繋がる。
【0025】
なお、図1の状態では、台車7は、塗装作業場3Aと、準備作業場2Bと、乾燥作業場4Bと、トラバーサ5の上にそれぞれ配置されている。台車7の数は特に限定されないが、複数の工程を同時に実施できるようにするため、3つ以上が好ましい。なお、台車の数は、作業場の全数よりも少ない数に設定され、図1の構成では5つ以下に設定される。
【0026】
図1に示すように、台車7は平面視矩形状である。台車7は、塗装システム1において、短手方向がX軸方向に平行に、かつ、長手方向がY軸方向に平行になるように配置されている。台車7の横寸法は、例えば1m~5mであり、縦寸法は、例えば5m~10mである。また、作業場2A、2B、3A、3B、4A、4Bはそれぞれ、台車7の平面形状に略相似した平面視矩形状になっている。
【0027】
台車の詳細について、図2の斜視図に基づいて説明する。図2に示すように、台車7は、金属製の基板部7aと、車輪7bと、車軸部(図示省略)とを有する。台車7は、大型重量部品などの重量に耐える強度を有している。ここで、台車7が出入りする準備作業場や、塗装作業場、乾燥作業場は、粉塵が飛び交う環境であったり、高温に曝される環境であることから、モータなどの駆動装置にとっては過酷な環境となる。そのため、台車7は駆動装置を有しておらず、他の装置などによって押されて移動する単純な構成になっている。
【0028】
また、台車7は、基板部7aの上面の一部(車輪7bおよび車軸部の部分)を除いてメッシュ状の鋼板で構成されている。なお、メッシュ状の鋼板の面積は、基板部7aの上面全体の面積(縦寸法×横寸法)に対して60%以上であることが好ましく、70%以上であることが好ましい。メッシュ状の鋼板を多用することで、空気が台車7を通り抜けやすくなり、塗装作業場や乾燥作業場での空気の流れを阻害しにくくなる。その結果、塗料の舞い上がりの抑制や、乾燥効率の向上などに繋がる。また、メッシュ状の鋼板を用いることで、準備作業場や塗装作業場において作業者が台車7の上に乗って作業する際に、台車7に付着した塗料が自然に下に落ちることから塗料の回収が容易になる。
【0029】
台車7は、車輪7bの回転によってX軸方向(横方向)に移動可能である。一方、台車7自体はY軸方向(縦方向)への移動はできないが、トラバーサ5に載せられた状態でトラバーサ5がY軸方向に走行することで間接的に移動する(図1参照)。
【0030】
次にトラバーサの詳細について、図3の斜視図に基づいて説明する。図3に示すように、トラバーサ5は、台車を載せる本体部5aと、バンパー5iとを有する。トラバーサ5も、大型重量部品などの重量に耐える強度を有している。本体部5aは、金属製の板材や棒材を複数接続して構成されており、そこに各種装置などが設置されている。本体部5aにおいて、トラバーサ5の走行方向の前側と後ろ側にはそれぞれ、回転可能に設けられた支持ローラ5bが固定されている。この支持ローラ5bには、台車の車軸部が支持される。支持ローラ5bは、台車をX軸方向に移動させる際に回転する。バンパー5iは、安全対策として設けられており、本体部5aから走行方向の前側と後ろ側にそれぞれ突出して設けられている。
【0031】
本体部5aには、自身の駆動装置としてサーボモータ5cが設けられている。走行レールに設置されたラックをサーボモータ5cを用いてピニオンで駆動することで、車輪部5dが回転しトラバーサ5がY軸方向に走行する。
【0032】
また、本体部5aの略中央部には、台車を各作業場へ出し入れする一対の台車移動装置5eが設けられている。一方の台車移動装置5eは、台車をX軸方向の一方側に移動させる装置であり、他方の台車移動装置5eは、台車をX軸方向の他方側に移動させる装置である。各装置5eは、X軸方向に掛け渡されたチェーン5fと、チェーン5fを回転させるサーボモータ5gと、チェーン5fの回転によりX軸方向に伸び縮みするアーム5hとを有する。アーム5hは、台車の基板部の裏側が引っ掛かる構成になっている。台車を各作業場へ移動させる際には、アーム5hをX軸方向に伸ばして台車を押すことで、台車を移動させる。アーム5hのX軸方向の出し入れストロークは、トラバーサ5から飛び出して伸びるオーバーハングが必要になるため、図3では、サーボモータ5gの駆動でチェーン使用の倍送り機構になっている。
【0033】
以下には、図1を用いて、製品の塗装における一連の流れについて説明する。以下では、製品が準備作業場2A、塗装作業場3A、乾燥作業場4A、準備作業場2Aの順に搬送される例を示すが、適宜、準備作業場2B、塗装作業場3B、乾燥作業場4Bに搬送されてもよい。なお、準備作業場への搬送は省略してもよい。
【0034】
まず、台車7を準備作業場2Aに移動させて、その台車7の上に塗装対象物となる製品15(図4参照)を載置する。製品は、特に限定されないが、本発明では、特に、少量生産の大型重量機械部品(例えば工作機械部品)などが適している。なお、1つの台車に対して、複数の製品を載置してもよい。
【0035】
準備作業場2Aでの準備作業としては、被塗装面の下処理などが挙げられる。また、準備作業場2Aは、塗装作業後や乾燥作業後の製品の待機場所としても使用される。その際、準備作業場において、塗料の回収作業などが行われる。準備作業場2Aは、平坦な床に2本1組の台車用レール8を埋め込んだシンプルな構造になっている。これにより、塗料の回収作業や床の清掃作業が容易になる。また、準備作業場2Aは、閉鎖的な作業場になっておらず、工場建物20の内部の空間と壁面などによって区画されていない。そのため、準備作業場2Aの台車7に対して製品の載置や積み下ろしが容易になる。
【0036】
準備作業が行われた製品は台車7ごとトラバーサ5の上に一旦回収され、その後、塗装作業場3Aに搬送される。この際、上述のように、一対の台車移動装置(図3参照)をそれぞれ駆動させてアームを伸び縮みさせることで、各作業場2A、3Aに対して台車7を出し入れする。
【0037】
塗装作業場3Aでは、作業者の手や塗装ロボットによって塗料の吹付作業が行われる。製品が多種少量生産の大型重量製品の場合には、作業者の手によって吹付作業が行われることが好ましい。この塗装作業場の概要について、図4を用いて説明する。
【0038】
図4は、塗装作業場の一例を示す概要図である。図4では、空気の流れを白抜き矢印で示している。図4に示すように、塗装作業場3Aは、天井から入った空気が床に向かって流れるダウンフロー式になっている。天井は、外界や工場建物の空間と開放可能な構造になっており、塗装作業場内に空気を取り込めるようになっている。塗装作業場内の空気は、床の吸い込み口10から吸い込まれ、地中に掘られたピット12を介して外部の排気装置9から外に排気される。また、床の吸い込み口10にフィルター11を設置することで、塗料を回収することができる。この構成では、吸い込み口10が床に設置されているため、フィルター11の交換作業も容易となる。
【0039】
塗装作業場3Aでは、図4に示すように、作業スペースSの上部に網目部材13が設けられることが好ましい。網目部材13としては、メッシュ状のネットなどを用いることができる。該ネットを上部に張ることで、天井から導入された空気がネットを通過する際に乱流とならずに整流となる。これにより、塗料の吹付時において塗料が舞い上がりにくくなり、作業環境の向上に繋がる。
【0040】
また、塗装作業場3Aの開口部には、開閉部材14が設けられており、塗装作業は、開閉部材14を閉じた状態で行われる。開閉部材14としては、一般的な開閉部材を用いることができ、開口部の大きさなどに応じて適宜選択される。例えば、開口部が大きい場合には、角パイプを横に通して両側のホイストで角パイプの上下の動作を行い、角パイプの上下の動作につられてビニールシートが上下に伸び縮みして開閉するシャッターなどを用いることができる。
【0041】
図1に戻り、塗装作業が行われた製品は台車7ごとトラバーサ5の上に一旦回収され、その後、乾燥作業場4Aに搬送される。乾燥作業場4Aは、乾燥装置を用いて塗料を乾燥させる作業場である。例えば、乾燥作業場4Aの天井上にLNG熱風発生装置を設置して、側壁下部より熱風が吹き出す構造とすることができる。乾燥作業場4Aにおける乾燥温度は、特に限定されず、例えば50℃~200℃の温度に設定される。例えば、高温乾燥が必要な粉体塗装を行った場合には、開閉部材を断熱部材とし、両側のラックピニオンまたはホイストなどで上下させることで開閉する構造にすることが好ましい。一方、一般的な常温乾燥塗料を使用する場合には、乾燥温度は50℃程度でよいため、市販のシャッターを使用することができる。
【0042】
乾燥作業が行われた製品は台車7ごとトラバーサ5の上に一旦回収され、その後、準備作業場2Aに搬送される。ここで、台車7の上から製品が積み下ろしされる。このように、本発明の塗装システムにより、必要な作業場に製品が順に搬送されることで、塗装された製品が得られる。
【0043】
本発明の塗装システムの構成は、図1図4の構成に限定されない。例えば、該塗装システムが、準備作業場、塗装作業場、および乾燥作業場から離れた位置に、別途、前処理室を有する構成としてもよい。この前処理室では、塗装前の製品に対して、メッキ処理や、酸洗処理、サンドブラスト処理などが行われる。特に、多種少量生産の重量大型製品の複雑形状を前処理する場合には、サンドブラスト処理を行うことが好ましい。大型部品のサンドブラスト処理を行う際には、高速の粉塵が飛び散り、その高速で飛び散る砂や金属の混じった粉塵を室外へ漏れ出さないように吸引するのは困難である。そこで、準備作業場、塗装作業場、および乾燥作業場から離れた位置(例えば上記作業場が設置される工場建物とは別棟)に、サンドブラスト室を設置することで、サンドブラスト処理で生じる粉塵が塗装に与える影響を軽減できる。なお、サンドブラスト室では、サンドブラスト砂を床下から回収できる構成にすることが好ましい。
【0044】
本発明の塗装システムの他の構成を図5に示す。図5(a)に示す塗装システム1’は、作業場として、準備作業場2A、2Bと、塗装作業場3A、3Bと、乾燥作業場4A、4Bとを有している。これら作業場は、走行レール6の両側に、かつトラバーサ5の走行方向に沿って配列されている。具体的には、準備作業場の2つ、塗装作業場の2つ、乾燥作業場の2つが、それぞれ走行レール6を隔てて対向配置されている。
【0045】
また、図5(b)に示す塗装システム1’’は、作業場として、準備作業場2A、2B、2Cと、塗装作業場3A、3B、3Cと、乾燥作業場4A、4Bとを有している。図5(b)の構成では、8つの作業場を、走行レール6を間に挟んで、縦2列×横4列に配置している。具体的には、準備作業場2A、2B、2Cが、走行レール6を隔てて、塗装作業場3A、3B、3Cと対向配置されている。また、走行方向の一端部において、乾燥作業場の2つが、走行レール6を隔てて対向配置されている。図5の構成でも、塗装システム全体をコンパクトにできるとともに、製品の各作業場への搬送効率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の製品の塗装システムは、多種少量生産の大型重量製品であっても、塗装品質を維持しながら、塗装生産性を向上できるので、特に、工作機械部品などを塗装する塗装システムとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
1、1’、1’’ 塗装システム
2A、2B、2C 準備作業場
3A、3B、3C 塗装作業場
4A、4B 乾燥作業場
5 トラバーサ
6 走行レール
7 台車
8 台車用レール
9 排気装置
10 吸い込み口
11 フィルター
12 ピット
13 網目部材
14 開閉部材
15 製品
20 工場建物
S 作業スペース
図1
図2
図3
図4
図5