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  • 特許-メッキ方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】メッキ方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/14 20060101AFI20241212BHJP
   C25D 3/08 20060101ALI20241212BHJP
   C25D 3/10 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C25D5/14
C25D3/08
C25D3/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020189920
(22)【出願日】2020-11-14
(65)【公開番号】P2022079007
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】392032085
【氏名又は名称】睦技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 睦
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-104995(JP,A)
【文献】特開2018-111870(JP,A)
【文献】特開昭59-197588(JP,A)
【文献】特開昭61-000594(JP,A)
【文献】特開昭55-041942(JP,A)
【文献】特開昭56-009391(JP,A)
【文献】米国特許第05632880(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00- 5/56
C25D 3/00- 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材金属の表面に硬質Crメッキ層を設ける硬質Crメッキ工程と、
前記硬質Crメッキ層を下地メッキ層として、
前記硬質Crメッキ層の上に黒Crメッキ層を積層して設ける黒Crメッキ工程とからなり、
前記黒Crメッキ工程において、
350g/Lないし450g/Lの無水クロム酸と、
5g/Lないし13g/Lの炭酸バリウムに加えて、
0.1g/Lないし0.2g/Lのケイ弗化マグネシウムと、
2g/Lないし5g/Lの硝酸ナトリウムと、
濃度を85wt%とする6mL/Lないし12mL/Lのリン酸の水溶液とを添加してなるメッキ浴を使用して、
電流密度を25A/dm ないし35A/dm
溶液温度を15℃ないし25℃、
メッキ時間を5分ないし20分として前記黒Crメッキ層を設けることを特徴とするメッキ方法。
【請求項2】
請求項1に記載されるメッキ方法であって、
前記黒Crメッキ層が、
前記硬質Crメッキ層よりも薄く、
0.1μm以上であって10μm未満であることを特徴とするメッキ方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されるメッキ方法であって、
前記硬質Crメッキ層の膜厚が、
1μm以上であって50μm以下であることを特徴とするメッキ方法。
【請求項4】
請求項に記載するメッキ方法であって、
前記黒Crメッキ工程において、
前記メッキ浴に、
10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、
1g/Lないし5g/Lの3価クロムを添加することを特徴とするメッキ方法。
【請求項5】
請求項に記載するメッキ方法であって、
前記黒Crメッキ工程において、
前記無水クロム酸の添加量を360g/Lないし420g/Lとすることを特徴とするメッキ方法。
【請求項6】
請求項に記載するメッキ方法であって、
前記黒Crメッキ工程において、
前記炭酸バリウムの添加量を8g/Lないし10g/Lとすることを特徴とするメッキ方法。
【請求項7】
請求項に記載するメッキ方法であって、
前記黒Crメッキ工程において、
前記ケイ弗化マグネシウムの添加量を0.15g/Lないし0.17g/Lとすることを特徴とするメッキ方法。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれかに記載するメッキ方法であって、
前記黒Crメッキ工程が、
メッキ時間を8分ないし15分とすることを特徴とするメッキ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材金属の表面にCrメッキ層を設けるメッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Crメッキは、鉄や鉄合金などの母材金属の表面に電着されて、耐腐食性、審美性、耐摩耗性等を向上できることから種々の金属の表面処理に使用されている。(特許文献1及び2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-267254号公報
【文献】特開平8-283962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、ゴルフクラブのヘッド表面の耐食性を向上するために、ヘッド表面にニッケルメッキ層を下地層として、この上にCrメッキ層を積層している。
特許文献2は、ステンレスの表面に、チタン系化合物をイオンプレーティングして金属装飾するために、ステン連表面にマスキング層として、ニッケルメッキ層と黒Crメッキ層とを積層する方法が記載される。
以上の公報は、Crメッキの下地にニッケルメッキを設ける方法が記載されるが、ニッケルメッキにCrメッキを積層するメッキ層では優れた硬度と耐食性の実現が難しい。
【0005】
本発明は、以上の弊害を解消することを目的に開発されたもので、本発明の重要な目的は、表面を黒色独特の審美性を実現しながら、高硬度で優れた耐腐食性を実現し、厳しい使用環境においても腐食することなく長期間にわたって綺麗な黒色を維持し、さらに高温で変色しない耐熱性も実現するメッキ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
本発明のある態様に係るメッキ方法は、母材金属の表面に硬質Crメッキ層を設ける硬質Crメッキ工程と、硬質Crメッキ工程の後、硬質Crメッキ層を下地メッキ層として、その上に黒Crメッキ層を積層して設ける黒Crメッキ工程でCrメッキ層を設ける。黒Crメッキ工程において、350g/Lないし450g/Lの無水クロム酸と、5g/Lないし13g/Lの炭酸バリウムに加えて、0.1g/Lないし0.2g/Lのケイ弗化マグネシウムと、2g/Lないし5g/Lの硝酸ナトリウムと、濃度を85wt%とする6mL/Lないし12mL/Lのリン酸の水溶液とを添加してなるメッキ浴を使用して、電流密度を25A/dm ないし35A/dm
溶液温度を15℃ないし25℃、メッキ時間を5分ないし20分として黒Crメッキ層を設ける。
【0007】
以上のメッキ方法は、表面の黒Crメッキ層でもって黒色独特の審美性を実現しながら、下地層の硬質Crメッキ層と表面に黒Crメッキ層を積層することで、硬質クロームメッキ層のみでは実現できない優れた耐腐食性を実現し、厳しい使用環境においても腐食することなく長期間にわたって綺麗な黒色を維持し、さらに硬質Crメッキ層を下地メッキ層として表面に黒Crメッキ層を設けることで、優れた高硬度と、高温で変色しない耐熱性も実現する。
【0008】
図1の拡大断面図は、以上の工程で母材金属1の表面に積層された硬質Crメッキ層2と黒Crメッキ層3を示している。硬質Crメッキ工程で母材金属1の表面に設けられる硬質Crメッキ層2は、表面に無数の割れ(クラック4)が発生する。クラック4は、耐食性を低下させる原因となるが、硬質Crメッキ層1の表面に積層される黒Crメッキ層3はクラックが発生し難く、硬質Crメッキ層1のクラック4に侵入して耐食性を向上し、さらにアンカー効果で黒Crメッキ層3の付着力を増強し、表面を綺麗な平滑面とする。
【0009】
以上のメッキ方法は、硬質Crメッキ層のみでは実現できなかった特長、すなわち、黒独特の審美性と、優れた耐腐食性を実現して厳しい使用環境においても腐食することなく長期間にわたって綺麗な黒色を維持し、さらに高い硬度に加えて400℃以上の高温で変色しない耐熱性も実現する。以上のメッキ方法の特長は、硬質Crメッキ層を下地層として、表面に黒Crメッキ層を積層する独特の方法で実現する。本発明者は黒Crメッキ層の表面に硬質Crメッキ層を積層するメッキ方法を開発して優れた耐食性を実現した。しかしながら、このメッキ方法は、黒Crメッキ層の表面に硬質Crメッキ層を積層するので、黒色特有の審美性を実現できず、さらに、下地層の黒Crメッキ層の表面に厚い硬質Crメッキ層を積層するので、曲げ加工、プレス加工などの衝撃で表面に亀裂が発生しやすい欠点が発生した。これに対して、以上のメッキ方法では、下地層を硬質Crメッキ層としてその表面に黒Crメッキ層を積層するので、表面を黒色として独特の審美性を実現しながら、優れた耐食性と、高温で変色しない耐熱性とを実現する。
【0010】
特に以上のメッキ方法は、下地層の硬質Crメッキ層に黒Crメッキ層を積層して、下地層と表面層の両方をCrメッキ層とするので、下地層と表面層との相補性に優れ、下地層の硬質Crメッキ層は高硬度の特性を実現し、表面の黒Crメッキ層は硬質Crメッキ層では実現できない、黒独特の審美性に加えて極めて優れた耐食性と耐熱性を実現する。
【0011】
以上の金属板は、5wt%の塩水を直接に噴霧する塩水の加速試験においても、150時間後におけるレイティングナンバーが9.8(錆発生率0.02%以下)、200時間後におけるレイティングナンバーが9.7とほとんど変化せず、極めて優れた耐食性を示す。
【0012】
耐食試験は温度/湿度を49℃/95%として、24時間、48時間、72時間、96時間、168時間、336時間、504時間、700時間後における錆の発生状態を検査し、塩水の加速度試験は、35℃の温度環境において、5wt%の塩水を試験片に直接に噴霧して、試験片の表面に塩水が付着する状態として、150時間後おける表面の錆の状態を検査した。
【0013】
さらに、以上の金属板は、プレス加工して曲率半径を5mmとする曲げ加工をして、表面のメッキ層の剥離や亀裂は全く確認されず、プレス加工の衝撃においても極めて優れた特性を示した。曲げ加工される金属板は、メッキの剥離や亀裂を防止するために、金属板を曲げ加工した後、表面に硬質Crメッキをしているが、以上のメッキ方法は、プレスでの曲げ加工で亀裂や剥離が発生しないので、平面状の金属板をメッキした後、曲げ加工することで、金属板を高効率に能率よくメッキした後、曲げ加工して表面をメッキして曲げ加工された商品の製造コストを低減できる特長がある。
【0014】
さらに以上のメッキ方法で処理された金属板は、400℃に加熱して変色しない優れた耐熱特性も実現するので、車のマフラーやエキゾーストハイプ等の耐熱特性が要求される用途に使用して、長期間にわたって表面を綺麗な黒色に保持する特長も実現する。
【0015】
さらに、以上のメッキ方法は、表面の黒クロームメッキ層が優れた密着性を示すが、この試験は、黒Crメッキ層の表面に、粘着層のある布テープを貼り付けて10秒間強く押圧し、その後、布テープを瞬間的に引き剥がして、布テープの表面にメッキ膜が付着する状態を目視で観察し、さらに布テープが引き剥がされた母材金属表面におけるメッキ膜の剥離と膨れを目視した。
【0016】
本発明のメッキ方法は、この密着性の試験において、引き剥がした布テープ表面にメッキ膜が付着せず、また、布テープの引き剥がし部分においてメッキ膜の剥離も膨れも全く発生しなかった。
【0017】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、黒Crメッキ層が硬質Crメッキ層よりも薄く、0.1μm以上であって10μm未満としている。
【0018】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、硬質Crメッキ層の膜厚を、1μm以上であって50μm以下としている。
【0019】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、黒Crメッキ工程において、350g/Lないし450g/Lの無水クロム酸と、5g/Lないし13g/Lの炭酸バリウムに加えて、0.1g/Lないし0.2g/Lのケイ弗化マグネシウムと、2g/Lないし5g/Lの硝酸ナトリウムと、濃度を85wt%とする6mL/Lないし12mL/Lのリン酸の水溶液とを添加してなるメッキ浴を使用して、電流密度を25A/dmないし35A/dm、溶液温度を15℃ないし25℃、メッキ時間を5分ないし20分として黒Crメッキ層を設ける。
【0020】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、黒Crメッキ工程において、メッキ浴に、10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、1g/Lないし5g/Lの3価クロムを添加する。
【0021】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、黒Crメッキ工程において、無水クロム酸の添加量を360g/Lないし420g/Lとすることを。
【0022】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、黒Crメッキ工程において、炭酸バリウムの添加量を8g/Lないし10g/Lとする。
【0023】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、黒Crメッキ工程において、ケイ弗化マグネシウムの添加量を0.15g/Lないし0.17g/Lとすること。
【0024】
本発明の他の態様に係るメッキ方法は、黒Crメッキ工程において、メッキ時間を8分ないし15分とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るメッキ方法でCrメッキした母材金属の表面状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0027】
(実施の形態1)
本発明は、母材金属の表面に、下地メッキ層を介して黒Crメッキ層を設けるメッキ方法であって、下地メッキ層を硬質Crメッキ層として、硬質Crメッキ層の表面に黒Crメッキ層を積層する。母材金属は、表面を前処理した後、硬質Crメッキ工程において、下地メッキ層となる硬質Crメッキ層を付着し、その後、黒Crメッキ工程において、硬質Crメッキ層の上に積層して黒Crメッキ層を生成する。前処理工程は、母材金属の表面に付着する油成分を脱脂液に浸漬して除去した後、水洗して脱脂液を除去し、その後、さらに水洗した後、一般的な活性化処理、水洗して処理する。
【0028】
母材金属は、鉄、亜鉛、銅、アルミニウム等の金属、あるいはこれ等の合金やステンレス等である。
【0029】
前処理した母材金属の表面に電着する硬質Crメッキ層は、従来の硬質Crメッキ方法で電着される。このメッキ工程は、例えばメッキ浴に、200g/L~300g/Lの無水クロム酸に加えて、2g/L~3g/Lの硫酸を添加する。電流密度は、好ましくは25A/dmないし50A/dmとする。電流密度は、大きくして析出速度を早くできるが、析出形状に影響を与えて表面の平滑度が低下するので、例えば40A/dmとする。硬質Crメッキ層の膜厚は、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上であって、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下とする。硬質Crメッキ層は厚くして耐久性を向上できるが、平滑度が低下して、メッキコストが高くなるので、用途を考慮して最適値に設定される。
【0030】
本発明は硬質クロームメッキ層を設けるメッキ浴とメッキ条件は、公知のものを使用することができる。たとえば、メッキ浴をフッ化物を添加するフッ化浴として、電流密度を40A/dm、温度を55℃ととすることもできる。
【0031】
黒Crメッキ工程は、以下の工程で硬質Crメッキ層の表面に黒Crメッキ層を付着する。黒Crメッキは、無水クロム酸を酸化反応させて黒色とするメッキである。黒Crメッキ層は、耐食性、耐摩耗性、耐熱性に優れるので、表面に設けて母材金属を保護する。黒Crメッキ工程におけるメッキ浴は、無水クロム酸と炭酸バリウムに加えて、ケイ弗化マグネシウムと硝酸ナトリウムとリン酸とを添加する。メッキ浴の無水クロム酸の添加量は、好ましくは、350g/Lないし450g/Lとする。さらに好ましくは、無水クロム酸の添加量は、360g/Lないし420g/Lとする。
【0032】
炭酸バリウムの添加量は、5g/Lないし13g/Lとする。炭酸バリウムの添加量が少なすぎると、残存する硫酸根によって好ましい黒Crメッキ層を生成できなくなり、反対に多すぎると黒Crメッキ層の安定性が低下するので、より好ましくは、8g/Lないし10g/Lとする。
【0033】
ケイ弗化マグネシウムの添加量は、0.05g/Lないし0.3g/L、好ましくは0.1g/Lないし0.2g/Lの範囲に特定する。ケイ弗化マグネシウムの添加量は、黒Crメッキ層の色相に影響を与えるので、以上の範囲に設定して黒Crメッキ層を生成する。
【0034】
リン酸は、濃度85wt%の水溶液として、6mL/Lないし12mL/Lを添加する。
【0035】
メッキ浴は、無水クロム酸と炭酸バリウムに加えて、ケイ弗化マグネシウムと硝酸ナトリウムとリン酸が添加されて、微細なクラックの発生を防止して安定に黒Crメッキ層を生成する。メッキ浴に添加される硝酸ナトリウムの添加量は、2g/Lないし5g/L、好ましくは3.5g/Lないし4.0g/Lと極めて制限された範囲に特定する。
【0036】
さらに、メッキ浴は、10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、1g/Lないし5g/Lの3価クロムを添加することで、より安定してCrメッキ層を設けることができる。
【0037】
電流密度は、好ましくは25A/dmないし35A/dmとする。電流密度は小さすぎても大きすぎても好ましい黒Crメッキ層を電着するのが難しい。電流密度も、母材金属の形状や用途に最適な真黒ないし青黒色とするように、以上の範囲で最適値に調整されるが、より好ましくは、28A/dmないし32A/dmとする。母材金属が平面状でなく、凹部のある形状に湾曲していると、凹部の電流密度が低下するので、電流密度は、母材金属の形状を考慮して、黒Crメッキ層の膜厚を最適化するために電流密度を調整する。
【0038】
メッキ浴の温度は、15℃ないし25℃とすることができるので、加熱することなく、また冷却することなく常温としてランニングコストを低減できる。また、メッキ時間は、5分ないし20分とすることができる。
【0039】
黒Crメッキ層の膜厚は、用途に最適な厚さに設定されるが、硬質Crメッキ層の膜厚よりも薄く、好ましくは0.1μm以上であって10μm未満とする。
【0040】
[実施例1]
(硬質Crメッキ工程)
前処理した母材金属である鉄板の表面に、膜厚を約10μmとする硬質Crメッキ層を付着する。
メッキ浴は、無水クロム酸を250g/L、硫酸を2.5g/Lの割合で添加している。
メッキ浴の温度を25℃として、30A/dmで30分メッキして、母材金属の表面に硬質Crメッキ層を付着する。
【0041】
(黒Crメッキ工程)
硬質Crメッキ層の表面に膜厚を約3μmとする黒Crメッキ層を付着する。
メッキ浴は、無水クロム酸を400g/L、炭酸バリウムを9g/L、ケイ弗化マグネシウムを0.16g/L、硝酸ナトリウムを3.8g/L、85wt%濃度のリン酸の水溶液を9mL/Lとする。
メッキ浴の温度を20℃、電流密度を30A/dmとし、陽極としてグラファイト電極を用いて、10分間メッキして、硬質Crメッキ層の表面に黒Crメッキ層を生成する。
【0042】
以上のメッキ方法で試作した母材金属を鉄製とする金属板は、約700時間の耐食試験において全く発錆が認められない優れた耐食性を実現し、さらに400℃以上の高温に加熱して変色しない耐熱性も実現する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、母材金属の表面に綺麗な黒Crメッキ層を設けて、表面の高い硬度と耐食性とが要求される用途に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1…母材金属
2…硬質Crメッキ層
3…黒Crメッキ層
4…クラック
図1