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特許7602798一体成型品の製造方法、一体成型品、及び、電気飛行機用部材
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  • 特許-一体成型品の製造方法、一体成型品、及び、電気飛行機用部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】一体成型品の製造方法、一体成型品、及び、電気飛行機用部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/12 20060101AFI20241212BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20241212BHJP
   B29C 70/44 20060101ALI20241212BHJP
   B64F 5/10 20170101ALI20241212BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
B29C43/12
B29C43/34
B29C70/44
B64F5/10
B29K105:08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021193351
(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公開番号】P2023079743
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】393011773
【氏名又は名称】株式会社羽生田鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽生田 豪太
(72)【発明者】
【氏名】松峯 拓郎
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-502700(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0229761(US,A1)
【文献】特表2009-506221(JP,A)
【文献】特開昭63-285808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/12
B29C 43/34
B29C 70/44
B64F 5/10
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維、ガラス繊維、又は樹脂繊維からなる構造材と柔軟性のある電気配線と樹脂との一体成型品の製造方法であって、
前記構造材を第1基材に縫着する第1縫着工程と、
前記電気配線を第2基材に縫着する第2縫着工程と、
次いで、前記第1基材及び前記第2基材に前記樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、
次いで、前記樹脂を硬化させて、前記構造材と前記電気配線と前記樹脂とを一体成型する一体成型工程と、を有すること
を特徴とする一体成型品の製造方法。
【請求項2】
前記一体成型工程は、真空状態において加熱及び加圧によって前記樹脂を硬化させて、前記構造材と前記電気配線と前記樹脂とを一体成型するオートクレーブ工程であること
を特徴とする請求項1記載の一体成型品の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂含浸工程は、前記第1基材及び前記第2基材を真空バッグに封入して、
次いで、前記真空バッグ内を真空引きして、
次いで、前記真空バッグ内に前記樹脂を封入して、
次いで、前記第1基材及び前記第2基材に前記樹脂を含浸する樹脂含浸工程であり、
前記一体成型工程は、大気圧との差圧によって、前記樹脂を硬化させて、前記構造材と前記電気配線と前記樹脂とを一体成型する一体成型工程であること
を特徴とする請求項1記載の一体成型品の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂含浸工程の前工程として、電子部品を前記第2基材に配置し、前記電気配線を前記電子部品に電気的に接続する電子部品搭載工程を有すること
を特徴とする請求項1から請求項3記載のいずれか一項記載の一体成型品の製造方法。
【請求項5】
前記電子部品搭載工程は、前記電子部品と前記第2基材との間に厚さ調整部材を設ける工程を有すること
を特徴とする請求項4記載の一体成型品の製造方法。
【請求項6】
炭素繊維、ガラス繊維、又は樹脂繊維からなる構造材と柔軟性のある電気配線と樹脂との一体成型品であって、
前記一体成型品は、
前記構造材を第1基材に縫着させて、
前記電気配線を第2基材に縫着させて、
次いで、前記第1基材及び前記第2基材に前記樹脂を含浸させて、
次いで、前記樹脂を硬化させて、前記構造材と前記電気配線と前記樹脂とを一体成型することによって製造されること
を特徴とする一体成型品。
【請求項7】
請求項6記載の一体成型品からなること
を特徴とする電気飛行機用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、小型無人飛行体の筐体に用いられて、柔軟性のある構造材と、柔軟性のある電気配線と、樹脂と、が一体成型された一体成型品の製造方法、一体成型品、及び、電気飛行機用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2021-120246号公報)のように複数の電子部品を搭載した筐体に対して複数のアームが外側に延在しており、当該各アームの外端にモータを配置して、当該各モータの回転軸に接続されたプロペラの回転を制御する構成の小型無人飛行体(「ドローン」とも呼ばれる)が知られている。このような小型無人飛行体においては、部材の軽量化、高剛性化、小型化、さらに量産化のニーズがあった。また、筐体と電気配線とが独立部品であることにより当該電気配線が筐体に対して動いてしまい、通電時にノイズが発生してしまうという課題が生じていた。勿論、小型無人飛行体に限らず、建設機械、鉄道車両、そして人工衛星といった分野の機器部材においても同様の課題が生じていた。
【0003】
一方で、部材の軽量化、高剛性化、及び量産化を実現するために、従来から、FRP(Fiber Reinforced Plastic)を用いた部材が種々の産業分野に応用されている。例えば、特許文献2(特開昭61-19440号公報)のように、航空機用胴体の成型方法として、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の混合物としての強化繊維を半割円筒状の雄型上に積層させ、当該強化繊維に樹脂を含浸させて加熱及び加圧して成型する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-120246号公報
【文献】特開昭61-19440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すドローンのような機器において、例えば、筐体とアームと電子部品とが一体成型されていれば、軽量化、高剛性化、小型化、量産化、そして、通電時のノイズの低減を同時に実現することができる。軽量化、高剛性化は、特許文献2に示すように、FRP成型方法のように、強化繊維のような構造材に樹脂を含浸させて一体成型する方法が望ましい。しかしながら、FRPのように柔軟性のある構造材と、柔軟性のある電気配線と、樹脂と、の一体成型品の製造方法、当該一体成型品、及び、電気飛行機用部材は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、柔軟性のある構造材と、柔軟性のある電気配線と、樹脂と、の一体成型品の製造方法、一体成型品、及び、電気飛行機用部材を提供することを目的とする。
【0007】
本発明に係る一体成型品の製造方法は、炭素繊維、ガラス繊維、又は樹脂繊維からなる構造材と柔軟性のある電気配線と樹脂との一体成型品の製造方法であって、前記構造材を第1基材に縫着する第1縫着工程と、前記電気配線を第2基材に縫着する第2縫着工程と、次いで、前記第1基材及び前記第2基材に前記樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、次いで、前記樹脂を硬化させて、前記構造材と前記電気配線と前記樹脂とを一体成型する一体成型工程と、を有することを要件とする。
【0008】
また、本発明に係る一体成型品は、炭素繊維、ガラス繊維、又は樹脂繊維からなる構造材と柔軟性のある電気配線と樹脂との一体成型品であって、前記一体成型品は、前記構造材を第1基材に縫着させて、前記電気配線を第2基材に縫着させて、次いで、前記第1基材及び前記第2基材に前記樹脂を含浸させて、次いで、前記樹脂を硬化させて、前記構造材と前記電気配線と前記樹脂とを一体成型することによって製造されることを要件とする。
【0009】
また、本発明に係る電気飛行機用部材は、炭素繊維、ガラス繊維、又は樹脂繊維からなる構造材と柔軟性のある電気配線と樹脂との一体成型品であって、前記一体成型品は、前記構造材を第1基材に縫着させて、前記電気配線を第2基材に縫着させて、次いで、前記第1基材及び前記第2基材に前記樹脂を含浸させて、次いで、前記樹脂を硬化させて、前記構造材と前記電気配線と前記樹脂とを一体成型することによって製造されることを要件とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る一体成型品の製造方法において、上記工程を経ることにより、一体成型品の軽量化、高剛性化を図ることができる。また、構造材と電気配線と樹脂との一体成型品製造の工数を削減することができ、一体成型品の量産化を実現することができる。また、電気配線が樹脂に埋入されることにより、一体成型品の小型化を図ることができる。また、電気配線が樹脂に埋入されることにより、通電時のノイズの低減を図ることができる。
【0011】
また、本発明に係る一体成型品において、上記構成により、一体成型品の軽量化、高剛性化を図ることができる。また、構造材と電気配線と樹脂との一体成型品製造の工数を削減することができ、一体成型品の量産化を実現することができる。電気配線が樹脂に埋入されていることにより、一体成型品の小型化を図ることができる。また、電気配線が樹脂に埋入されることにより、通電時のノイズの低減を図ることができる。
【0012】
また、本発明に係る電気飛行機用部材において、上記構成により、一体成型品の軽量化、高剛性化を図ることができる。また、構造材と電気配線と樹脂との一体成型品製造の工数を削減することができ、一体成型品の量産化を実現することができる。電気配線が樹脂に埋入されていることにより、一体成型品の小型化を図ることができる。また、電気配線が樹脂に埋入されることにより、通電時のノイズの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における、柔軟性のある構造材を縫着した第1基材の平面図である。
図2】本発明における、柔軟性のある電気配線を縫着した第2基材の平面図である。
図3】本発明の第1実施形態における一体成型品の製造方法の説明図である。
図4】本発明の第1実施形態における一体成型品の製造方法の説明図である。
図5】(a)は、本発明における一体成型品の上部斜視図であり、(b)は、本発明における一体成型品の下部斜視図である。
図6】本発明の第2実施形態における一体成型品の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本発明における、柔軟性のある構造材を縫着した第1基材の平面図である。図2は、本発明における、柔軟性のある電気配線を縫着した第2基材の平面図である。図3は、本発明の第1実施形態における一体成型品の製造方法の説明図である。図4は、本発明の第1実施形態における一体成型品の製造方法の説明図である。図5(a)は、本発明における一体成型品の上部斜視図であり、図5(b)は、本発明における一体成型品の下部斜視図である。図6は、本発明の第2実施形態における一体成型品の製造方法の説明図である。なお、各実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図1図2図3図4図6においては、説明のため、構造材10及び電気配線12を簡略化して記載しているが、実際には、図5に示すように、複雑な形状の構造材10及び電気配線12を有する一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)であってもよい。なお、図4図6において、コネクタ15の図示は省略している。
【0015】
(一体成型品、及び、電気飛行機用部材)
本実施形態における一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)は、図5(a)、図5(b)に示すように、柔軟性のある構造材10と、柔軟性のある電気配線12と、電子部品14と、厚さ調整部材16と、樹脂20と、が一体成型された一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)である。一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)は、各実施形態にて詳述するように、柔軟性のある構造材10を縫着した第1基材11(第1プリフォーム70)と、柔軟性のある電気配線12を縫着した第2基材13(第2プリフォーム80)と、を重ねて、次いで、樹脂20を含浸させて、次いで、樹脂20を硬化させて一体成型された一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)である。より詳しくは、図5(b)において、一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)は、紙面下方向に凹部を有する樹脂20の筐体であり、樹脂20の内部に、構造材10、電気配線12、電子部品14、厚さ調整部材16が埋入している構成である。また、樹脂20から、電気配線12の端部は、露出している構成である。樹脂20の硬化は、後述する(オートクレーブ工程)又は(VaRTM工程)によってなされる。図4図6においては、一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)は、全体として椀形状の樹脂20に構造材10と電気配線12と電子部品14と厚さ調整部材16が埋入されている構成であるが、平板状や、図5に示すように湾曲形状や凹部を含む形状であっても構わない。また、図5(a)、図5(b)においては、電子部品14及び厚さ調整部材16は1つずつであるが、電子部品14及び厚さ調整部材16を2つ以上ずつ含む構成としてもよい。
【0016】
上記構成により、一体成型品の軽量化、高剛性化を図ることができる。また、構造材と電気配線と樹脂との一体成型品製造の工数を削減することができ、一体成型品の量産化を実現することができる。一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)には、構造材10のみならず、電気配線12も一体成型されているため、一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)を用いた機器の小型化を図ることができる。また、電気配線12が樹脂に埋入されていることにより、樹脂(上記例では筐体)20に対して電気配線12が静止しているため、通電時のノイズを低減することができる。
【0017】
なお、本実施形態における一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)は、柔軟性のある構造材10と、柔軟性のある電気配線12と、電子部品14と、樹脂20と、が一体成型された一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)であってもよい。厚さ調整部材16を有していないことにより、部品点数の削減を図ることができる。勿論、一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)は、柔軟性のある構造材10と、柔軟性のある電気配線12と、樹脂20と、が一体成型された一体成型品(電気飛行機用部材)100(120)であってもよい。
【0018】
(一体成型品の製造方法)
(第1実施形態)
次に、第1実施形態における一体成型品100の製造方法について説明する。当該製造方法は、図1図2に示すように、柔軟性のある構造材10を第1基材11に縫着する第1縫着工程と、柔軟性のある電気配線12を第2基材13に縫着する第2縫着工程と、次いで、図3に示すように、第1基材11(すなわち、第1プリフォーム70)又は第2基材13(すなわち、第2プリフォーム80)に樹脂20を含浸する樹脂含浸工程と、次いで、樹脂20を硬化させて、構造材10と電気配線12と樹脂20とを一体成型する一体成型工程(オートクレーブ工程)と、による製造方法である。
【0019】
(第1縫着工程)
本実施形態における第1縫着工程では、後述する第1基材11に縫着する柔軟性のある構造材10として、炭素繊維(以下、単に「CF」と称する場合がある)のパス(CFパス)10のデータを用意する。CFパス10は、一体成型品100の強化繊維として機能し、且つ、後述する下型30及び上型40に収容されて、仮想平面又は仮想曲面上に配置できる形状であれば、どのような形状であっても構わない。一例として、図5(a)、図5(b)に示すように、トポロジー最適化設計により設計されたパス形状であり、一筆書きで作製できるもの(すなわち、一筋のCFパス10)が好ましい。縫着の工数を削減することができるからである。
【0020】
トポロジー最適化設計においては、最適化前の一体成型品100の重量(モデル重量)に対して、どの程度軽量化するかを示す軽量化度を定めておき、均質化法、レベルセット法、又は、密度法のいずれかの手法により、軽量化後の形状を数値計算により求める。次に、当該いずれかの手法により求めた形状に対応するCFパス10のデータを作成する。
【0021】
なお、トポロジー最適化設計のみならず、寸法最適化設計や形状最適化設計により、CFパス10のデータを作成してもよい。
【0022】
本実施形態における柔軟性のある構造材10として、CFの代わりに、ガラス繊維や、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)繊維)、ポリエチレン繊維(ダイニーマ(登録商標)繊維)、ザイロン(登録商標)繊維、ボロン繊維といった樹脂繊維を好適に用いることもできる。また、一例として、タングステン等の金属線を好適に用いることもできる。
【0023】
次に、第1基材11を用意する。本実施形態における第1基材11は、ガラスクロス基材11であるが、他にも、炭素繊維基材、ナイロン繊維基材、ポリエステル繊維基材、綿繊維基材等を用いることができる。構造材10を縫着できて、樹脂20が含浸できる基材であればよい。なお、本実施形態における一体成型品100は、湾曲形状を含む一体成型品100であるため、第1基材11は、一例として、厚さ数十μm~数百μm程度の平織材であることが好ましい。また、後述の樹脂含浸工程において、樹脂20を含浸させるため、第1基材11は、樹脂を透過させる程度の繊維密度のものである。樹脂20が透過できるのであれば、フィルム状の基材であっても構わない。なお、当該フィルム状の第1基材11は、一体成型工程において、樹脂20中に溶融するものを好適に用いることもできる。これによれば、第1基材11を樹脂20の代わりとすることもできる。
【0024】
次に、TFP(Tailored Fiber Placement)により、第1基材11にCFパス(本実施形態においては、CFトウ(炭素繊維束))10を縫着する。TFPは、一般的に、テキスタイル技術を応用した繊維プリフォーム技術である。TFPには、強化繊維専用の工業用刺繍機(不図示)を用いる。上述したCFパス10のデータに基づいて、第1基材11にCFトウ10を印刷(すなわち、第1基材11上に配置)しながら、刺繍機によって縫着させる。これにより、糸17によって、第1基材11に構造材10が縫着された第1プリフォーム70を作製することができる。なお、CFトウ10を第1基材11に縫着する際には、移動ステージと回転ヘッド(いずれも不図示)によって繊維配向角を連続的に変化させて行う。CFトウ10の幅は、一例として、数mm~十数mm程度であり、厚さは、一例として、数μm~数mm程度である。
【0025】
縫着方法は、CFトウ10を第1基材11に縫着できれば、どのような縫着方法でも構わない。本実施形態においては、CFトウ10自体を貫通しないようにしながら、ジグザグ縫いを施す。すなわち、糸17によって、CFトウ10を第1基材11に止着する。縫い目のピッチは、一例として、1mm~5mm程度である。
【0026】
また、CFトウ10は、PAN系、ピッチ系のどちらのCFトウ10であっても構わない。本実施形態に係るCFトウ10は、PAN系を好適に用いることができる。また、ラージトウ、レギュラートウ、スモールトウのいずれであっても構わない。本実施形態におけるCFトウ10は、レギュラートウを好適に用いることができる。
【0027】
また、CFトウ10は、粉体状のものでなければ、トウ以外にも、フィラメント、ステーブルヤーン、クロス、グレード、チョップド糸、フェルト、マット、ペーパー、プリプレグ、コンパウンドを好適に用いることができる。
【0028】
(第2縫着工程)
次に、本実施形態における第2縫着工程では、後述する第2基材13に縫着する柔軟性を有する電気配線(以下、単に「電気配線」と称する場合がある)12を用意する。本実施形態における電気配線12は、内部に銅線を有するシリコンケーブルや伸縮性のある導電性リボンといった絶縁被覆電線である。上述したように、本実施形態における一体成型品100は、湾曲形状を含む一体成型品100であるためである。本実施形態においては、シリコンケーブル12を用いる。なお、樹脂20中に埋入されることで絶縁性を保つことができるため、電気配線12は、裸電線であっても構わない。
【0029】
電気配線(シリコンケーブル)12の断面径は、一体成型品100を用いた機器に要する電気特性によって種々変更すればよいが、本実施形態においては、一例として、数mm程度である。
【0030】
次に、第2基材13を用意する。第2基材13も第1基材11と同様に、ガラスクロス基材13であるが、他にも、炭素繊維基材、ナイロン繊維基材、ポリエステル繊維基材、綿繊維基材等を用いることができる。電気配線12を縫着できて、樹脂20が含浸できる基材であればよい。第2基材13は、一例として、厚さ数十μm~数百μm程度の平織材であることが好ましい。また、後述の樹脂含浸工程において、樹脂20を含浸させるため、第2基材13も、樹脂20を透過させる程度の繊維密度のものである。また、樹脂20が透過できるのであれば、フィルム状であってもよい。なお、当該フィルム状の第2基材13は、一体成型工程において、樹脂20中に溶融するものを好適に用いることもできる。これによれば、第2基材13を樹脂20の代わりとすることもできる。
【0031】
次に、第2基材13に電気配線12を縫着する。当該縫着は、汎用工業用刺繍機を用いてもよいし、手縫いであっても構わない。本実施形態においては、シリコンケーブル12自体を貫通しないようにしながら、ジグザグ縫いを施す。これによれば、糸18によって、電気配線12を第2基材13に止着することができ、第2基材13に電気配線12が縫着された第2プリフォーム80を作製することができる。
【0032】
本実施形態における電気配線12は、図5のように、一体成型品100の中央部に電子部品14を配置して、当該電子部品14から一体成型品の外延に向かって、電気配線12が延在する構成である。また、電気配線12の電子部品14とは逆側の端部には、コネクタ15が連結されていてもよい。なお、コネクタ15及びコネクタ15付近の電気配線12は、第2基材13には縫着されていないことが好ましい。後述する一体成型工程において、コネクタ15及び電気配線12の先端部が樹脂20中に埋入されないようにするためである。
【0033】
(電子部品搭載工程)
次に、第2基材13に電子部品14を搭載する電子部品搭載工程を行う。本実施形態においては、電子部品14は第2基材13の中央部に搭載又は貼着させる。本実施形態における電子部品14は、スピードコントローラ14である。
【0034】
また、電子部品搭載工程は、電子部品14と第2基材13との間に厚さ調整部材16を設ける(貼着させる)工程を有することが好ましい。電子部品14の背面(電子部品14と第2基材13との隙間)まで樹脂が含浸するためである。厚さ調整部材16は、一例として、数mm程度の厚さである。また、厚さ調整部材16の材質は、一例として、樹脂、FRP、アルミニウム等の金属を加工したものである。なお、厚さ調整部材16として、強化繊維を電子部品14の下部に多層に敷き詰めて、樹脂20を含浸させてもよい。
【0035】
また、厚さ調整部材16は、平面視で電子部品14の外形よりも大きいことが好ましい。すなわち、電気配線12の電子部品14側の端部が、厚さ調整部材16上に載置される構成であることが好ましい。これによれば、後述する(樹脂含浸工程)及び(一体成型工程)において、電気配線12の電子部品14側の端部が折損するのを防止することができる。
【0036】
本実施形態における電子部品14として、スピードコントローラ14を採用したが、他の電子部品14を搭載してもよい。また、本実施形態に係る電子部品14は1つであるが、2つ以上搭載してもよい。
【0037】
(樹脂含浸工程)
次に、樹脂含浸工程について説明する。図3図4に示すように、一体成型品100の形状の成形型(下型)30を用意する。次に、当該下型30に第1プリフォーム70と、電子部品14及び厚さ調整部材16を搭載又は貼着した第2プリフォーム80と、を順に積層する。次に、第2プリフォーム80上に、コネクタ15及び電気配線12の端部が埋入されないように、樹脂20を積層させて、第1プリフォーム70及び第2プリフォーム80に樹脂20を含浸させる。次に、第2プリフォーム80上に成形型(上型)40を載置する。これにより、一体成型工程前の成型前品90を得ることができる。
【0038】
なお、第1プリフォーム70の表面に樹脂20を積層して、その後、第1プリフォーム70及び第2プリフォーム80に樹脂20を含浸させるものとしてもよい。
【0039】
また、樹脂20は、塗布可能な液状の樹脂20であってもよいし、樹脂シート20としてもよい。本実施形態における樹脂20は、ハンドレイアップ工法により塗布するため、液状の樹脂20を用いる。
【0040】
本実施形態における下型30は成形型であり、上型40はカウルプレート(当て板)であるが、下型30のみを用いる方法を採用してもよい。また、本実施形態における下型30及び上型40は、曲面形状を有するが、一体成型品100が平板の場合には、下型30及び上型40の接触面は平面形状であってもよい。成形型30、40は、一例として、プリハードン鋼のような金属材料を母材とするものである。
【0041】
下型30は、導電性金属溶射被膜32が転写法によって、金属材料31の上部に積層された構成である。導電性金属溶射被膜32は、一例として、ニッケル-クロム合金等の金属溶射膜により形成されて、通電により面発熱する構成である。導電性金属溶射被膜32には、電極33が設けられ、図示しない導線によって電源に接続されている構成である。
【0042】
また、上型40を用いない場合には、第2プリフォーム80及び樹脂20の上部をマイクロ波遮蔽シート(不図示)で覆ってもよい。マイクロ波遮蔽シートは、一例として、樹脂製フィルムにアルミニウム箔のような金属箔が付された金属フィルムである。なお、第1プリフォーム70及び樹脂20の下部は、下型30で覆われているため、マイクロ波遮蔽シートは不要である。
【0043】
一体成型品100を成形型30、40から剥離しやすくするために、第1プリフォーム70、第2プリフォーム80、及び樹脂20と、各成形型30、40と、間にフッ素系の剥離用シート(不図示)を配置してもよい。また、剥離用シートの代わりに、各成形型30、40の内側に離型剤を塗布してもよい。
【0044】
また、下型30が曲面形状を有する場合、第1基材11及び第2基材13に所定の切れ込み又は除去部(いずれも不図示)を施してもよい。これによれば、構造材10及び電気配線12を下型30における所定の位置に配置することができる。図3に示す例では、電子部品14から外方へ延在する複数の電気配線12間に切れ込み又は除去部を入れることで、下型30の曲面形状に沿って配置をすることができる。
【0045】
本実施形態における樹脂含浸工程に用いる樹脂20は、エポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂であるが、フェノール系樹脂(PF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アクリル系樹脂(一例として、ウレタンアクリレート)といった熱硬化性樹脂や、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルイミド(PEI)といった熱可塑性樹脂を好適に用いることもできる。なお、樹脂20にUPやアクリル系樹脂を用いた場合、ラジカル開始剤(より具体的には、硬化開始剤の有機過酸化物)の種類の選択によっては、硬化温度を自在に変化できるため、本実施形態に適用できる電子部品14の種類の幅を広げることができる。
【0046】
(バギング工程)
次に、バギング工程について説明する。下型30、上型40、及び成型前品90全体を、可撓性を有する真空引き用の真空バッグ(ナイロンバッグ)50によってバギングする。具体的には、図4に示すように、図示しない真空ポンプによって、吸引口51から真空バッグ50内のエアを吸入する。バギング工程によって、真空バッグ50内のエアが吸引されて、真空バッグ50内が真空(負圧)状態となり、内部の樹脂20が、下型30及び上型40に密着される。一例として、-80kPa(相対圧)以下の真空圧にする。なお、バギング工程における真空引きは、真空バッグ50を後述するオートクレーブ容器60に収容する前に行ってもよいし、オートクレーブ容器60に収容後に行ってもよい。
【0047】
真空バッグ(ナイロンバッグ)50は、袋状に一体的に形成されたものを用いてもよいし、2枚のシートの周縁部を接着剤やシール材で張り合わせて袋状にしたものを用いてもよい。真空バッグ50は、電気的な絶縁体で形成されており、一体成型時の温度に耐えられる材質(一例として、ナイロン)によって形成されている。
【0048】
(一体成型工程(オートクレーブ工程))
次に、一体成型工程(オートクレーブ工程)について説明する。オートクレーブ工程は、各成形型30、40が封入されている気密状態の真空バッグ50を、オートクレーブ容器60で加熱・加圧することによって、樹脂20を硬化させることができる。
【0049】
オートクレーブ容器60は、一例として、クロムモリブデン鋼によって構成された耐圧容器である。オートクレーブ工程では、オートクレーブ容器60内部の気体を加圧するため、図示しないポンプによって気体(圧縮空気や窒素ガス等)を封入できる構成である。また、オートクレーブ容器60内には、熱源となる電気ヒータや熱気を循環させる送風ファン(いずれも不図示)が設けられている。これにより、密閉空間内の気体を加熱・加圧することで、真空バッグ50内の樹脂20も加熱・加圧して、加熱硬化させることができる。
【0050】
具体的には、下型30、上型40、及び成型前品90を収容して真空引きした真空バッグ50がオートクレーブ容器60内に収容された状態で、オートクレーブ容器60を密閉する。
【0051】
次に、電極33に連結された導線に通電して、下型30の表面を面発熱させる。本実施形態に係る導電性金属溶射被膜32の発熱温度は、一例として、100℃~180℃程度であるが、樹脂20の材質に応じて種々変更することができる。上記加熱と同時に、オートクレーブ容器60内にエアを圧入して、所定気圧(一例として、容器内圧200kPa~600kPa)に加圧する。本実施形態においては、発熱温度:110℃、所定気圧:300kPaにて1時間程度、加熱・加圧を行う。これにより、樹脂20を溶融させて熱硬化させて、成型前品90を一体成型した一体成型品100を得ることができる。
【0052】
なお、オートクレーブ容器内に備わる電気ヒータの使用や送風動作は、一体成型品100によっては、省略することができる。
【0053】
次に、オートクレーブ工程完了後、下型30から一体成型品100を取り出して、必要に応じて、一体成型品100の外周部の不要な部分を除去(トリミング)する。
【0054】
(一体成型品の製造方法)
(第2実施形態)
次に、第2実施形態における一体成型品120の製造方法について説明する。本実施形態における樹脂含浸工程、バギング工程、及び一体成型工程は、下型35に、樹脂20を含まない成型前品110、上型45を順に載置する。次いで、真空バッグ55に封入して、真空バッグ55内の真空引きを行う。次いで、樹脂20を封入して、成型前品110に樹脂20を含浸させる。次いで、大気圧との差圧を利用して、一体成型を行う。当該工程は、いわゆるVaRTM(Vacuume assisted Resin Transfer Molding)工程である。ここでは、(VaRTM工程)を中心に説明する。
【0055】
(樹脂含浸工程、バギング工程、一体成型工程(VaRTM工程))
第1実施形態にて説明した第1縫着工程、第2縫着工程、及び、電子部品搭載工程の後、図6に示すように、下型35に、第1プリフォーム70と第2プリフォーム80とを順に載置する。そして、上型45をさらに載置する。第1実施形態との違いは、この時点では、樹脂20を含浸させないことである。
【0056】
次に、真空バッグ55内を真空引きして、次いで、真空バッグ55内に樹脂20を封入する。具体的には、図示しない真空ポンプによって、吸引口56からエアを吸入して、下型35及び上型45の隙間(すなわち、樹脂20を含まない成型前品110が存在する空間)を真空(負圧)状態にする。次に、樹脂封入口57から樹脂20を封入して、成型前品110に樹脂20を含浸させる。
【0057】
なお、本実施形態における樹脂含浸工程においては、下型35及び上型45の表面(第1基材11及び第2基材13が載置されている側)に樹脂拡散用網状シート(パスメディア。不図示)が貼付されていることが好ましい。これによれば、樹脂20を下型35及び上型45内に拡散しやすくすることができる。また、剥離シート(ピールプライ。不図示)が貼付されていることが好ましい。これによれば、一体成型品120の表面性状を整えることができる。
【0058】
真空バッグ55内が負圧になっているため、大気圧との差圧が発生した状態であり、当該差圧によって、樹脂20を硬化させて、一体成型品120を得ることができる。なお、本実施形態に係る真空バッグ55内は、一例として、-95kPa(相対圧)以下の真空圧である。VaRTM工程を採用することによって、第1実施形態に係るオートクレーブ工程のような大掛かりな装置を必要とせず、コストの削減を図ることができる。
【0059】
次に、VaRTM工程完了後、下型35から一体成型品120を取り出して、必要に応じて、一体成型品120の外周部の不要な部分を除去(トリミング)する。
【0060】
以上、本発明における各実施形態について説明した。本発明における一体成型品の製造方法、一体成型品、及び、電気飛行機用部材によれば、一体成型品100(120)の軽量化、高剛性化を図ることができる。また、構造材10と電気配線12と樹脂20との一体成型品製造の工数を削減することができ、一体成型品100(120)の量産化を実現することができる。また、電気配線12が樹脂20に埋入されることにより、一体成型品100(120)の小型化を図ることができる。また、電気配線12が樹脂20に埋入されることにより、通電時のノイズの低減を図ることができる。
【0061】
なお、以上説明した各実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能である。一例として、第1実施形態、第2実施形態の一体成型品の製造方法において、電子部品搭載工程を省略することもできる。なお、上記の技術的思想が、電気飛行機(ドローン)用部材のみならず、他の分野の機器の部材においても応用され得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0062】
10 構造材
11 第1基材
12 電気配線
13 第2基材
14 電子部品
16 厚さ調整部材
17、18 糸
20 樹脂
30、35 下型
40、45 上型
100 一体成型品(電気飛行機用部材)
120 一体成型品(電気飛行機用部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6