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特許7602800ガレノス製剤適用のためのアクリレート共重合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ガレノス製剤適用のためのアクリレート共重合体
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/30 20060101AFI20241212BHJP
   C08F 8/04 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/167 20060101ALN20241212BHJP
   A61K 47/32 20060101ALN20241212BHJP
   A61K 9/32 20060101ALN20241212BHJP
   A61K 9/58 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C08F220/30
C08F8/04
A61K31/167
A61K47/32
A61K9/32
A61K9/58
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021529061
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2019077501
(87)【国際公開番号】W WO2020104104
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】102018129419.0
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】312016078
【氏名又は名称】ヨハネス、グーテンベルク-ウニフェルジテート、マインツ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー、フライ
(72)【発明者】
【氏名】エーリク、ケルステン
(72)【発明者】
【氏名】ペーター、ランググート
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネス、アンドレアス、ブレッヒャル
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ、アル-グソウ
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/080747(WO,A1)
【文献】特表2008-504411(JP,A)
【文献】特開2017-110191(JP,A)
【文献】特開2006-131791(JP,A)
【文献】国際公開第2009/069280(WO,A1)
【文献】特表2005-520912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08G
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造:
【化1】
[式中、
MAは、メチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCH]CH-)であり、
MMAは、メチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCH]CH-)であり、
EAは、エチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCHCH]CH-)であり、
EMAは、エチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCHCH]CH-)であり;
ASは、アクリル酸残基(-CH[(C=O)-]CH-)であり、
MASは、メタクリル酸残基(-C(CH)[(C=O)-]CH-)であり;
Rは、-CH(C=O)-、-CH(CH)(C=O)-、-CH(CHCH)(C=O)-、-C(CH(C=O)-、-C(CH)(COCH)(C=O)-、-CH(Ph)(C=O)-、-CH[(CHSCH](C=O)-、-CH(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)(C=O)-、-C(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)CH(CHCOOH)(C=O)-または-CH(COOH)(CHOH)(C=O)-であり;
nは、1、2または3であり、かつ、
x、y、zは、モノマー単位の相対モル比を表し、1≦x≦3、1≦y≦3および0≦z≦3である。]
を有する共重合体であって、
前記共重合体の多分散性が、
【数1】
であり、かつ、
前記共重合体のモル質量Mwが、4000g・mol-1≦Mw≦320000g・mol-1である、前記共重合体。
【請求項2】
以下の構造:
【化2】
を有することを特徴とする、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
以下の構造:
【化3】
を有することを特徴とする、請求項1に記載の共重合体。
【請求項4】
Rが、-CH(C=O)-または-CH(CH)(C=O)-であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項5】
前記共重合体の多分散性が、
【数2】
であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項6】
医薬製剤における、または錠剤もしくはカプセルのコーティングのための、請求項1~5のいずれか一項に記載の共重合体の使用。
【請求項7】
共重合体を調製する方法であって、
以下の工程:
(a)ヒドロキシエタン酸、2-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシブタン酸、2-ヒドロキシイソブタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-3-オキソブタン酸、フェニルヒドロキシエタン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸、2-ヒドロキシブタン-1,4-ジカルボン酸、2-ヒドロキシプロパンジカルボン酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸または2,3-ジヒドロキシブタンジカルボン酸を含む群から選択され、かつ、以下の構造:
【化4】
[式中、
Rは、-CH(C=O)-、-CH(CH)(C=O)-、-CH(CHCH)(C=O)-、-C(CH(C=O)-、-C(CH)(COCH)(C=O)-、-CH(Ph)(C=O)-、-CH[(CHSCH](C=O)-、-CH(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)(C=O)-、-C(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)CH(CHCOOH)(C=O)-または-CH(COOH)(CHOH)(C=O)-である。]
を有するα-ヒドロキシカルボン酸を、アクリル酸((CH)HC-COOH)またはメタクリル酸((CH)(CH)C-COOH)によりエステル化して、以下の構造:
【化5】
[式中、
「Ayl」は、アクリロイル((CH)HC-CO-)であり、かつ、
「MAyl」は、メタクリロイル((CH)(CH)C-CO-)である。]
を有する化合物を得る工程;
(b)場合により、工程(a)において得られた化合物(Ia)または(IIa)を、α-ヒドロキシカルボン酸によりモノエステル化またはポリエステル化して、以下の構造:
【化6】
[式中、2≦m≦3である。]
の化合物を得る工程;
(c)工程(a)または(b)において得られた化合物(Ia)、(Ib)、(IIa)または(IIb)を保護基Pとコンジュゲートさせて、以下の構造:
【化7】
[式中、1≦n≦3である。]
の化合物を得る工程;
(d)場合により、アクリル酸またはメタクリル酸を保護基Pとコンジュゲートさせて、保護されたアクリル酸((CH)HC-COOP)または保護されたメタクリル酸((CH)(CH)C-COOP)を得る工程;
(e)相対モル比yの化合物(Ic)または(IIc)を、相対モル比xのメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレートまたはエチルメタクリレートと、場合により相対モル比zの保護されたアクリル酸または保護されたメタクリル酸と重合して、以下の構造
【化8】
[式中、
MAは、メチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCH]CH-)であり、
MMAは、メチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCH]CH-)であり、
EAは、エチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCHCH]CH-)であり、
EMAは、エチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCHCH]CH-)であり;
ASは、アクリル酸残基(-CH[(C=O)-]CH-)であり、
MASは、メタクリル酸残基(-C(CH)[(C=O)-]CH-)であり;
1≦x≦3、1≦y≦3、かつ、0≦z≦3である。]
を有する共重合体を得る工程;および
(f)工程(e)において得られた共重合体を脱保護し、加水分解して、以下の構造
【化9】
を有する共重合体であって、
前記共重合体の多分散性が、
【数3】
であり、かつ、
前記共重合体のモル質量Mwが、4000g・mol-1≦Mw≦320000g・mol-1である、前記共重合体を得る工程
を含んでなる、前記方法。
【請求項8】
工程(e)において、フリーラジカル重合が実施されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(e)において、連鎖移動試薬を使用してRAFT重合(可逆的付加開裂連鎖移動重合)が実施されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程(f)における前記脱保護および前記加水分解が、触媒を使用して実施されることを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリレート共重合体を調製する方法、その方法によって製造されたアクリレート共重合体、ならびに医薬製剤および医薬用コーティングのためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術には、医薬用途のための既知のアクリレート重合体が含まれる。例えば、Evonik Industries AGおよびBASF SEは、Eudragit(登録商標)およびKollicoat(登録商標)という製品名において錠剤用コーティングのためのアクリレート共重合体を供給している。表1は、様々なEudragit(登録商標)の共重合体の概要を含む。
【0003】
【表1】
【0004】
DE102005010108A1は、化粧または医薬用途の水溶性ポリマーに関し、モノマー単位(m1)および(m2)を有する共重合体であって、(m1)はアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、α-クロロアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸およびそれらの混合物から選択され、(m2)は、以下の構造:
【化1】
を有する、共重合体を開示している。
【0005】
EP2679216B1は、ベタヒスチンの多相放出のためのコア-シェル錠剤であって、コアとシェルとの間に配置された中間膜を有し、セルロース誘導体、メタクリル酸ポリマー、ポリビニル誘導体およびそれらの混合物から構成されるフィルムフォーマーを備え、コアおよび/またはシェルは、好ましくは緩衝剤としてα-ヒドロキシカルボン酸を含んでいる、コア-シェル錠剤を開示している。
【0006】
WO2015/000970A1は、方法と、その方法によって合成されたポリマーと、医薬製剤へのその使用とに関する。この方法では、フリーラジカル重合により、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸と、スルホン酸および/またはホスホン酸と、架橋モノマーとを、ポリエーテル成分と共重合させる。得られた共重合体の中には、ポリアクリル酸およびポリエーテルから構成されるものがある。
【0007】
さらに、DE69510190T2には、炭素原子の総数が8~22個の飽和または不飽和脂肪酸を有する脂肪酸エステルを含むスプレーの形態の生体接着性(または粘膜接着性)医薬組成物であって、脂肪酸エステルは、多価アルコールの脂肪酸エステル、ヒドロキシカルボン酸の脂肪酸エステル、単糖類の脂肪酸エステル、リン酸グリセリル誘導体の脂肪酸エステル、硫酸グリセリル誘導体の脂肪酸エステルおよび上述の脂肪酸エステルの混合物から選択される、医薬組成物が記載されている。
【0008】
錠剤は最も一般的に使用されている薬剤形態であり、その市場シェアは50%近くに達している。その理由としては、製造および包装が簡単で安価であること、有効成分の投与量が正確であること、保存期間が長いこと、ならびに患者にとって保管、取り扱いおよび服用が容易であることが挙げられ、これらが治療上の良好なコンプライアンスに関係している。さらに、医薬用補助剤を使用して、多数の有効成分を錠剤形態にプレスするのに適している。
【0009】
医薬の口腔内投与および消化管における吸収には、水溶性に関連する有効成分のある程度の親水性が必要である。錠剤用コーティングは、水分および外部影響からの錠剤の成分の保護、ならびに味のマスキングのために使用される。多くの医薬有効成分はアルカロイドであり、不快な苦味を有する。
【0010】
口腔内投与の場合、胃の厳しい環境から医薬有効成分を保護することが絶対的に必要な場合がある。空腹時の胃のpHは約2で、食物を摂取すると4.5以上の値になる。酸に弱い有効成分、例えば、オメプラゾールの場合、これは不可逆的な変化を引き起こす可能性がある。多くの医薬(例えば、5-アミノサリチル酸)において、治療目的は、消化管の所定の部位における放出によって制御される。専門家の間では、放出制御を「ドラッグターゲティング」と呼ぶことも多い。さらに、胃粘膜を刺激する有効成分(例えば、アセチルサリチル酸)が存在し、胃の副作用を軽減するために胃液耐性コーティングが必要となる。胃液耐性コーティングの使用は、錠剤に限定されない。その他の経口製剤、例えば、カプセルおよび顆粒も、耐胃液性コーティングによりコーティングされている。胃液耐性コーティングには、プロトン化形態で存在し、したがって、胃での溶解性が低い弱酸性の共重合体の使用が好ましい。医薬製剤および医薬用コーティングに対する市場は、長い間、酢酸フタル酸セルロース(CAP)に支配されてきたが、最近では、メタクリル酸-エチルアクリレート共重合体に取って代わられつつある。
【0011】
Eudragit(登録商標)ポリマー(Evonik Industries AG)は、1950年代に錠剤用コーティングおよび錠剤用担体の材料としての使用のために開発されたアクリレート共重合体の群の一つである。すべてのEudragit(登録商標)ポリマーは、ポリアクリレートまたはポリメタクリレートの骨格という共通の特徴を有する。その種類によって、Eudragit(登録商標)ポリマーは、側鎖の置換パターンおよび溶解特性において異なる。Eudragit(登録商標)類似体ポリマーは、BASF SEによってKollicoat(登録商標)の製品名で販売されている。アクリレート共重合体に基づく錠剤用コーティングは、機械的安定性、高い水蒸気バリア性および酸安定性を特徴とする。
【0012】
製造業者のデータによると、確立されたアクリレート共重合体の溶解度は、pH5.5以上で急速に増加する。しかしながら、in vivoの研究によって、アクリレート共重合体に基づく錠剤用コーティングの溶媒化と、それに伴う有効成分の放出とは、十二指腸をターゲットとするには遅すぎることが示されている(Cole, E. T.; Scott, R. A.; Connor, A. L.; Wilding, l. R.; Petereit, H.-U.; Schminke, C.; Beckert, T.; Cade, D. lnternational Journal of Pharmaceutics 2002, 231 (1), 83-95. DOI: 10.1016/50378-5173(01)00871-7; AI-Gousous, J.; Amidon, G. L.; Langguth, P. Molecular pharmaceutics 2016, 13 (6), 1927-1936; DOI: 10.1021/acs.molpharmaceut.6b00077; Liu, F.; Basit, A. W. Journal of controlled release: official journal of the Controlled Release Society 2010, 147 (2), 242-245; DOI: 10.1016/j.jconrel.2010.07.105)。これは、主に十二指腸において吸収される有効成分の場合に特に問題となる。
【0013】
さらに、治療上の問題が、有効成分が部位特異的に放出されないことにより生じる。これに関して、外分泌性膵臓機能不全に罹患している患者に対して投与されるパンクレアチンという酵素の例によって言及することができる。酸分解性パンクレアチンが胃のすぐ下流で放出されないと、食物中に存在する脂質が十分に消化されないため、腸の不調を引き起こす可能性が高くなる。
【発明の概要】
【0014】
上述の問題を考慮して、先行技術において知られている材料よりも、胃からの出発後、より迅速に溶解する医薬用コーティングが必要とされている。
【0015】
本発明の方法の文脈において、Ayl-O-R-OPまたはMAyl-O-R-OPタイプの新規アクリレートモノマーが合成された。ここで、「Ayl」はアクリロイルであり、「MAyl」はメタクリロイルであり、「R」はα-ヒドロキシカルボン酸の残基であり、「P」は保護基である。α-ヒドロキシカルボン酸は、ヒドロキシエタン酸(グリコール酸)、2-ヒドロキシプロパン酸(乳酸)、2-ヒドロキシブタン酸、2-ヒドロキシイソブタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-3-オキソブタン酸、フェニルヒドロキシエタン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸、2-ヒドロキシブタン-1,4-ジカルボン酸(リンゴ酸)、2-ヒドロキシプロパンジカルボン酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸または2,3-ジヒドロキシブタンジカルボン酸から選択され、かつ、構造OH-R-OHを有し、ここで、Rは-CH(C=O)、-CH(CH)(C=O)-、-CH(CHCH)(C=O)-、-C(CH(C=O)-、-C(CH)(COCH)(C=O)-、-CH(Ph)(C=O)-、-CH[(CHSCH](C=O)-、-CH(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)(C=O)-、-C(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)CH(CHCOOH)(C=O)-または-CH(COOH)(CHOH)(C=O)-である。保護基Pは、ベンジル基(-CHPh)、tert-ブチル基(-C(CH)またはアリル基である。本発明の方法の好適な実施形態において、合成される保護されたモノマーは、メタクリロイルオキシエタノエートベンジル(MAylO-Gly-Bn)、(2S)-2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジル(MAylO-L-La-Bn)および(R,S)-2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジル(MAylO-D,L-La-Bn)である。
【0016】
上記の保護されたモノマーは、フリーラジカル重合によって、メチルアクリレート(MA)、メチルメタクリレート(MMA)、エチルアクリレート(EA)またはエチルメタクリレート(EMA)と、場合により保護されたアクリル酸または保護されたメタクリル酸と共重合される。次いで、合成された共重合体から還元により保護基Pを除去する。例えば、P=Bnの場合には、ベンジル保護基は、水素雰囲気下で不均一系パラジウム触媒による水素化分解によって置換される。
【0017】
アクリル酸またはメタクリル酸による、あるいはEudragit(登録商標)ファミリーのポリマーの官能性のサイドアーム(sidearm)によるα-ヒドロキシカルボン酸のエステル化は、二官能性のα-ヒドロキシカルボン酸のオリゴマーの形成を避けるために、3つの工程:(i)保護基を導入する工程、(ii)エステル化する工程および(iii)脱保護する工程において実施される。まず、工程(i)では、α-ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基を保護基、例えばベンジル(Bn)によってブロックする。ベンジル保護基は酸および塩基に安定であり、ステップ(ii)において保護されたα-ヒドロキシカルボン酸をエステル化した後、ステップ(iii)において加水分解により除去される。
【0018】
【化2】
【0019】
胃液耐性錠剤用コーティングとしての使用のための確立されたアクリレート共重合体の利点を得るために、承認されているEudragit(登録商標)ポリマーの基本構造は構築されている。ポリ(メタ)アクリレートの骨格は保持され、側鎖は修飾されている。
【0020】
全く意外なことに、カルボキシルOH基のわずか5~20%の割合をα-ヒドロキシカルボン酸の残基、特にグリコール酸または乳酸の残基によって置換するという、確立されたアクリレート共重合体に対するわずかな修飾でさえ、溶解特性に大きな影響を与え、低pH値の方向に変化させることが見出された。カルボキシル基をα-ヒドロキシカルボン酸残基により置換する際の作用機序における急激な変化を、これまで満足に解明することはできていない。置換部位の少なくとも一部が立体効果のために自由体積を増加させ、ポリマー鎖の緩和性(移動性)が増加するのではないかと考えられている。置換基は内部の可塑剤(internal plasticizer)のように作用する。
【0021】
その出発点は、α-ヒドロキシカルボン酸置換基のカルボキシル基に対して負の誘導効果が作用するという仮説である。スキーム2における共鳴構造は、カルボキシル基における酸素原子の部分的な正電荷によって引き起こされる誘導作用を示す。
【0022】
【化3】
【0023】
本発明は、α-ヒドロキシカルボン酸、例えばグリコール酸、L乳酸またはD,L乳酸の残基を含むモノマー単位を有する共重合体の合成を包含するものである。好適な実施形態において、本発明の共重合体は、Eudragit(登録商標)またはKollicoat(登録商標)タイプのアクリレート共重合体の類似体修飾(analog modification)を具現化する構造を有する。
【0024】
本発明のポリマーの大きな利点は、良好な生理学的適合性である。エステル結合の加水分解は、消化管においてグリコール酸または乳酸を放出する。乳酸は内因性物質であり、食品添加物として認可されている(E 270)。グリコール酸の毒性は非常に低く、生理学的には無意味である。
【0025】
研究によると、本発明のポリマーは、pH値4~5においてEudragit(登録商標)ポリマーよりも高い溶解性を有することが示されている。
【0026】
溶解性の定性的な測定のために、本発明のポリマーを、緩衝液1mLあたりポリマー5mgの濃度において、スナップ式の蓋を有するボトル中で緩衝液によって室温で懸濁させる。溶解は数分以内に進行するか(表2:+印)、あるいは、緩衝液中で数日間懸濁した場合でも、ほとんど全く溶解しない(表2:-印)。
【0027】
【表2】
【0028】
Eudragit(登録商標)L 100(Evonik Industries AG)と、制御されたフリーラジカル重合(CFRP)によって調製されたアナログポリマー(「L 100類似体」または「MA-co-EA」と呼ぶ)とは、実質的に同一の溶解特性を有する。
【0029】
対照的に、α-ヒドロキシカルボン酸、例えば、グリコール酸、L乳酸またはD,L乳酸により修飾されたEudragit(登録商標)ポリマーである(「MAylO-Gly-co-EA、「MAylO-L-La-co-EA」および「MAylO-D,L-La-co-EA」タイプ)は、既知のEudragit(登録商標)ポリマーよりも低いpHで溶解するため、より早い有効成分の放出および吸収を有する胃液耐性製剤の基礎を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、ポリマーの溶解度をpHの関数として測定するための装置を示す図である。
図2図2は、Eudragit(登録商標)L 100および本発明の類似のポリマーに対する溶解度測定結果を示す図である。
図3図3は、Eudragit(登録商標)L 100-55および本発明の類似のポリマーに対する溶解度測定結果を示す図である。
図4図4は、Eudragit(登録商標)L 100および類似のポリマーによりコーティングされたカプセルからのパラセタモールの放出を示す図である。
図5図5は、Eudragit(登録商標)L 100-55および類似のポリマーによりコーティングされたカプセルからのパラセタモールの放出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以上のように、本発明の目的は、既知のアクリレート共重合体とは異なる溶解特性を有する医薬製剤用ポリマーを提供することである。
【0032】
この目的は、以下の構造:
【化4】
[式中、
MAは、メチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCH]CH-)であり、
MMAは、メチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCH]CH-)であり、
EAは、エチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCHCH]CH-)であり、
EMAは、エチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCHCH]CH-)であり;
ASは、アクリル酸残基(-CH[(C=O)-]CH-)であり、
MASは、メタクリル酸残基(-C(CH)[(C=O)-]CH-)であり;
Rは、-CH(C=O)-、-CH(CH)(C=O)-、-CH(CHCH)(C=O)-、-C(CH(C=O)-、-C(CH)(COCH)(C=O)-、-CH(Ph)(C=O)-、-CH[(CHSCH](C=O)-、-CH(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)(C=O)-、-C(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)CH(CHCOOH)(C=O)-または-CH(COOH)(CHOH)(C=O)-であり;
nは、1≦n≦20の整数であり、かつ、
x、y、zは、モノマー単位の相対モル比を表し、1≦x≦20、1≦y≦20および0≦z≦20である。]
を有する共重合体によって達成される。
【0033】
本発明の好適な実施形態において、
・ 共重合体は、以下の構造:
【化5】
を有し;
・ n=1、n=2、n=3、n=4、n=5、n=6、n=7、n=8、n=9、n=10、n=11、n=12、n=13、n=14、n=15、n=16、n=17、n=18、n=19またはn=20であり;
・ n=1、n=2またはn=3であり;
・ xは実数であり;
・ 1≦x≦12または8≦x≦20であり;
・ 1≦x≦6、4≦x≦8、6≦x≦10、8≦x≦12、10≦x≦14、12≦x≦16、14≦x≦18または16≦x≦20であり;
・ 1≦x≦3、2≦x≦4、3≦x≦5、4≦x≦6、5≦x≦7、6≦x≦8、7≦x≦9、8≦x≦10、9≦x≦11、10≦x≦12、11≦x≦13、12≦x≦14、13≦x≦15、14≦x≦16、15≦x≦17、16≦x≦18、17≦x≦19または18≦x≦20であり;
・ x=1、x=2、x=3、x=4、x=5、x=6、x=7、x=8、x=9、x=10、x=11、x=12、x=13、x=14、x=15、x=16、x=17、x=18、x=19またはx=20であり;
・ yは実数であり;
・ 1≦y≦12または8≦y≦20であり;
・ 1≦y≦6、4≦y≦8、6≦y≦10、8≦y≦12、10≦y≦14、12≦y≦16、14≦y≦18または16≦y≦20であり;
・ 1≦y≦3、2≦y≦4、3≦y≦5、4≦y≦6、5≦y≦7、6≦y≦8、7≦y≦9、8≦y≦10、9≦y≦11、10≦y≦12、11≦y≦13、12≦y≦14、13≦y≦15、14≦y≦16、15≦y≦17、16≦y≦18、17≦y≦19または18≦y≦20であり;
・ y=1、y=2、y=3、y=4、y=5、y=6、y=7、y=8、y=9、y=10、y=11、y=12、y=13、y=14、y=15、y=16、y=17、y=18、y=19またはy=20であり;
・ zは実数であり;
・ z=0であり;
・ 1≦z≦12または8≦z≦20であり;
・ 1≦z≦6、4≦z≦8、6≦z≦10、8≦z≦12、10≦z≦14、12≦z≦16、14≦z≦18または16≦z≦20であり;
・ 1≦z≦3、2≦z≦4、3≦z≦5、4≦z≦6、5≦z≦7、6≦z≦8、7≦z≦9、8≦z≦10、9≦z≦11、10≦z≦12、11≦z≦13、12≦z≦14、13≦z≦15、14≦z≦16、15≦z≦17、16≦z≦18、17≦z≦19または18≦z≦20であり;
・ z=1、z=2、z=3、z=4、z=5、z=6、z=7、z=8、z=9、z=10、z=11、z=12、z=13、z=14、z=15、z=16、z=17、z=18、z=19またはz=20であり;
・ 0.8x≦y+z≦1.2xであり;
・ 0.9x≦y+z≦1.1xであり;
・ y+z=xであり;
・ 0.3x≦y+z≦.7xであり;
・ 0.4x≦y+z≦0.6xであり;
・ y+z=0.5xであり;
・ y≦z≦6y、5y≦z≦11y、8y≦z≦14y、11y≦z≦17yまたは14y≦z≦20yであり;
・ y≦z≦3y、2y≦z≦4y、3y≦z≦5y、4y≦z≦6y、5y≦z≦7y、6y≦z≦8y、7y≦z≦9y、8y≦z≦10y、9y≦z≦11y、10y≦z≦12y、11y≦z≦13y、12y≦z≦14y、13y≦z≦15y、14y≦z≦16y、15y≦z≦17y、16y≦z≦18y、17y≦z≦19yまたは18y≦z≦20yであり;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化6】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化7】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化8】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化9】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化10】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化11】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化12】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化13】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化14】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化15】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化16】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化17】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化18】
を有し;
・ 共重合体は、以下の構造:
【化19】
を有し;
・ Rは、-CH(C=O)-であり;
・ Rは、-CH(CH)(C=O)-であり;
・ 共重合体のモル質量Mwは、4000g・mol-1≦Mw≦500000g・mol-1であり;
・ 共重合体のモル質量Mwは、4000g・mol-1≦Mw≦30000g・mol-1、20000g・mol-1≦Mw≦60000g・mol-1、40000g・mol-1≦Mw≦80000g・mol-1、60000g・mol-1≦Mw≦100000g・mol-1、80000g・mol-1≦Mw≦120000g・mol-1、100000g・mol-1≦Mw≦140000g・mol-1、120000g・mol-1≦Mw≦160000g・mol-1、140000g・mol-1≦Mw≦180000g・mol-1、160000g・mol-1≦Mw≦200000g・mol-1、180000g・mol-1≦Mw≦220000g・mol-1、200000g・mol-1≦Mw≦240000g・mol-1、220000g・mol-1≦Mw≦260000g・mol-1、240000g・mol-1≦Mw≦280000g・mol-1、260000g・mol-1≦Mw≦300000g・mol-1、280000g・mol-1≦Mw≦320000g・mol-1、300000g・mol-1≦Mw≦340000g・mol-1、320000g・mol-1≦Mw≦360000g・mol-1、340000g・mol-1≦Mw≦380000g・mol-1、360000g・mol-1≦Mw≦400000g・mol-1、380000g・mol-1≦Mw≦420000g・mol-1、400000g・mol-1≦Mw≦440000g・mol-1、420000g・mol-1≦Mw≦460000g・mol-1、440000g・mol-1≦Mw≦480000g・mol-1または460000 g・mol-1≦Mw≦500000g・mol-1であり;
・ 共重合体の多分散性は、
【数1】
であり;かつ/あるいは
・ 共重合体の多分散性は、
【数2】
である。
【0034】
本発明のさらなる目的は、既知のアクリレート共重合体とは異なる溶解特性を有する医薬製剤用ポリマーを合成する方法を提供することである。
【0035】
この目的は、以下の工程:
(a)ヒドロキシエタン酸、2-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシブタン酸、2-ヒドロキシイソブタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-3-オキソブタン酸、フェニルヒドロキシエタン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸、2-ヒドロキシブタン-1,4-ジカルボン酸、2-ヒドロキシプロパンジカルボン酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸または2,3-ジヒドロキシブタンジカルボン酸を含む群から選択され、かつ、以下の構造:
【化20】
[式中、
Rは、-CH(C=O)-、-CH(CH)(C=O)-、-CH(CHCH)(C=O)-、-C(CH(C=O)-、-C(CH)(COCH)(C=O)-、-CH(Ph)(C=O)-、-CH[(CHSCH](C=O)-、-CH(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)(C=O)-、-C(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)CH(CHCOOH)(C=O)-または-CH(COOH)(CHOH)(C=O)-である。]
を有するα-ヒドロキシカルボン酸を、アクリル酸((CH)HC-COOH)またはメタクリル酸((CH)(CH)C-COOH)によりエステル化して、以下の構造:
【化21】
[式中、
「Ayl」は、アクリロイル((CH)HC-CO-)であり、かつ、
「MAyl」は、メタクリロイル((CH)(CH)C-CO-)である。]
を有する化合物を得る工程;
(b)場合により、工程(a)において得られた化合物(Ia)または(IIa)を、α-ヒドロキシカルボン酸によりモノエステル化またはポリエステル化して、以下の構造:
【化22】
[式中、2≦m≦20である。]
の化合物を得る工程;
(c)工程(a)または(b)において得られた化合物(Ia)、(Ib)、(IIa)または(IIb)を保護基Pとコンジュゲートさせて、以下の構造:
【化23】
[式中、1≦n≦20である。]
の化合物を得る工程;
(d)場合により、アクリル酸またはメタクリル酸を保護基Pとコンジュゲートさせて、保護されたアクリル酸((CH)HC-COOP)または保護されたメタクリル酸((CH)(CH)C-COOP)を得る工程;
(e)相対モル比yの化合物(Ic)または(IIc)を、相対モル比xのメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレートまたはエチルメタクリレートと、場合により相対モル比zの保護されたアクリル酸または保護されたメタクリル酸と重合して、以下のタイプ:
【化24】
[式中、
MAは、メチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCH]CH-)であり、
MMAは、メチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCH]CH-)であり、
EAは、エチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCHCH]CH-)であり、
EMAは、エチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCHCH]CH-)であり;
ASは、アクリル酸残基(-CH[(C=O)-]CH-)であり、
MASは、メタクリル酸残基(-C(CH)[(C=O)-]CH-)であり;
1≦x≦20、1≦y≦20、かつ、0≦z≦20である。]
の共重合体を得る工程;および
(f)工程(e)において得られた共重合体を脱保護し、加水分解して、以下のタイプ:
【化25】
の共重合体を得る工程
を含んでなる方法によって達成される。
【0036】
本方法の好適な実施形態は、
・ 工程(a)において、α-ヒドロキシカルボン酸を保護基Pにより保護した後、アクリル酸またはメタクリル酸によりエステル化し、エステル化後に保護基Pを除去すること;
・ 工程(b)を単回または複数回行う場合には、α-ヒドロキシカルボン酸を保護基Pにより保護した後、1≦q≦m-1である化合物Ayl-(O-R)-OHまたはMAyl-(O-R)-OHによりエステル化し、エステル化後に保護基Pを除去すること;
・ 保護基Pは、ベンジル基(-CHPh)、tert-ブチル基(-C(CH)およびアリル基を含む群から選択されること;
・ 工程(e)において、フリーラジカル重合を実施すること;
・ 工程(e)において、連鎖移動試薬を使用してRAFT重合(可逆的付加開裂連鎖移動重合)を実施すること;
・ 工程(e)において、ジチオエステルおよびトリチオカーボネートを含む群から選択される連鎖移動試薬を使用してRAFT重合(可逆的付加開裂連鎖移動重合)を実施すること;
・ 工程(f)における脱保護および加水分解は、触媒を使用して実施されること;
・ 工程(f)における脱保護および加水分解は、5~100バールの範囲の高圧下において実施されること;
・ n=1、n=2、n=3、n=4、n=5、n=6、n=7、n=8、n=9、n=10、n=11、n=12、n=13、n=14、n=15、n=16、n=17、n=18、n=19またはn=20であること;
・ n=1、n=2またはn=3であること;
・ xは実数であること;
・ 1≦x≦12または8≦x≦20であること;
・ 1≦x≦6、4≦x≦8、6≦x≦10、8≦x≦12、10≦x≦14、12≦x≦16、14≦x≦18または16≦x≦20であること;
・ 1≦x≦3、2≦x≦4、3≦x≦5、4≦x≦6、5≦x≦7、6≦x≦8、7≦x≦9、8≦x≦10、9≦x≦11、10≦x≦12、11≦x≦13、12≦x≦14、13≦x≦15、14≦x≦16、15≦x≦17、16≦x≦18、17≦x≦19または18≦x≦20であること;
・ x=1、x=2、x=3、x=4、x=5、x=6、x=7、x=8、x=9、x=10、x=11、x=12、x=13、x=14、x=15、x=16、x=17、x=18、x=19またはx=20であること;
・ yは実数であること;
・ 1≦y≦12または8≦y≦20であること;
・ 1≦y≦6、4≦y≦8、6≦y≦10、8≦y≦12、10≦y≦14、12≦y≦16、14≦y≦18または16≦y≦20であること;
・ 1≦y≦3、2≦y≦4、3≦y≦5、4≦y≦6、5≦y≦7、6≦y≦8、7≦y≦9、8≦y≦10、9≦y≦11、10≦y≦12、11≦y≦13、12≦y≦14、13≦y≦15、14≦y≦16、15≦y≦17、16≦y≦18、17≦y≦19または18≦y≦20であること;
・ y=1、y=2、y=3、y=4、y=5、y=6、y=7、y=8、y=9、y=10、y=11、y=12、y=13、y=14、y=15、y=16、y=17、y=18、y=19またはy=20であること;
・ zは実数であること;
・ z=0であること;
・ 1≦z≦12または8≦z≦20であること;
・ 1≦z≦6、4≦z≦8、6≦z≦10、8≦z≦12、10≦z≦14、12≦z≦16、14≦z≦18または16≦z≦20であること;
・ 1≦z≦3、2≦z≦4、3≦z≦5、4≦z≦6、5≦z≦7、6≦z≦8、7≦z≦9、8≦z≦10、9≦z≦11、10≦z≦12、11≦z≦13、12≦z≦14、13≦z≦15、14≦z≦16、15≦z≦17、16≦z≦18、17≦z≦19または18≦z≦20であること;
・ z=1、z=2、z=3、z=4、z=5、z=6、z=7、z=8、z=9、z=10、z=11、z=12、z=13、z=14、z=15、z=16、z=17、z=18、z=19またはz=20であること;
・ 0.8x≦y+z≦1.2xであること;
・ 0.9x≦y+z≦1.1xであること;
・ y+z=xであること;
・ 0.3x≦y+z≦0.7xであること;
・ 0.4x≦y+z≦0.6xであること;
・ y+z=0.5xであること;
・ y≦z≦6y、4y≦z≦11y、8y≦z≦14y、11y≦z≦17yまたは14y≦z≦20yであること;かつ/あるいは
・ y≦z≦3y、2y≦z≦4y、3y≦z≦5y、4y≦z≦6y、5y≦z≦7y、6y≦z≦8y、7y≦z≦9y、8y≦z≦10y、9y≦z≦11y、10y≦z≦12y、11y≦z≦13y、12y≦z≦14y、13y≦z≦15y、14y≦z≦16y、15y≦z≦17y、16y≦z≦18y、17y≦z≦19yまたは18y≦z≦20yであること
を特徴とする。
【0037】
上記の「第一原理(ab initio)」合成法の代替として、本発明はさらに、以下のタイプ:
【化26】
の化学量論的またはランダムな繰り返し単位を有する既知のアクリレート共重合体を、vモル部の保護されていないα-ヒドロキシカルボン酸または保護基Pにより保護されたα-ヒドロキシカルボン酸とコンジュゲートさせる方法であって、α-ヒドロキシカルボン酸は、ヒドロキシエタン酸、2-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシブタン酸、2-ヒドロキシイソブタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-3-オキソブタン酸、フェニルヒドロキシエタン酸、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸、2-ヒドロキシブタン-1,4-ジカルボン酸、2-ヒドロキシプロパンジカルボン酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸、ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸または2,3-ジヒドロキシブタンジカルボン酸を含む群から選択され、かつ、構造OH-R-OHまたはOH-R-Pを有し、u、v、wは、1≦u≦20;1≦w≦20;1≦v≦wである実数であり、保護されたα-ヒドロキシカルボン酸を使用数する場合には、さらなる方法工程において保護基Pを除去する、方法を包含する。
【0038】
ここでのRおよびPは、上述したのと同一の意味を有しており、すなわち、
Rは、-CH(C=O)-、-CH(CH)(C=O)-、-CH(CHCH)(C=O)-、-C(CH(C=O)-、-C(CH)(COCH)(C=O)-、-CH(Ph)(C=O)-、-CH[(CHSCH](C=O)-、-CH(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)(C=O)-、-C(CHCOOH)(C=O)-、-CH(COOH)CH(CHCOOH)(C=O)-または-CH(COOH)(CHOH)(C=O)-であり;かつ
Pは、ベンジル(-CHPh)、tert-ブチル(-C(CH)またはアリル基である。
【0039】
保護されていないα-ヒドロキシカルボン酸または保護されたα-ヒドロキシカルボン酸により既知のアクリレート共重合体を修飾する方法の好適な実施形態は、
・ α-ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸を使用すること、
・ α-ヒドロキシカルボン酸として、乳酸を使用すること、
・ 0.8u≦w≦1.2uであること、
・ 0.3u≦w≦0.7uであること、
・ v≦w≦6v、5v≦w≦11v、8v≦w≦14v、11v≦w≦17vまたは14v≦w≦20vであること、
・ v≦w≦3v、2v≦w≦4v、3v≦w≦5v、4v≦w≦6v、5v≦w≦7v、6v≦w≦8v、7v≦w≦9v、8v≦w≦10v、9v≦w≦11v、10v≦w≦12v、11v≦w≦13v、12v≦w≦14v、13v≦w≦15v、14v≦w≦16v、15v≦w≦17v、16v≦w≦18v、17v≦w≦19vまたは18v≦w≦20vであること、
・ カップリング試薬として、DIPC(ジイソプロピルカルボジイミド)を使用すること、
・ 触媒として、DMAP(4(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン)を使用すること、かつ/あるいは
・ 有機溶媒中、例えば、ベンゼン、ジオキサンまたはDMF中で反応を実施すること
を特徴とする。
【0040】
このポリマー類似法(polymer-analogous method)は、任意の分子量の共重合体に対して実施可能である。Eudragit L100は、約125000g/molの分子量を有し、Eudragit L100-55は、約320000g/molの分子量を有する。これらの共重合体は、懸濁重合または乳化重合によって調製され、上述のように、追加の反応工程においてポリマー類似修飾(polymer-analogous modification)を施すことができる。
【0041】
本発明はさらに、上述した方法の1つによって調製可能な共重合体に関する。
【0042】
本発明はさらに、医薬製剤の製造、錠剤用またはカプセル用コーティングの製造のための上述の共重合体の使用に関する。
【0043】
本発明の文脈において、アクリル酸残基(AS=-CH[(C=O)-]CH-)およびメタクリル酸残基(MAS=-C(CH)[(C=O)-]CH-)およびこれらの残基を含むモノマーに対して使用される略語「AS」および「MAS」は、以下の意味:
[AS-OH]は、-CH[(C=O)-OH]CH-を有し;
[MAS-OH]は、-C(CH)[(C=O)-OH]CH-を有し;
[AS-(O-R)-OH]は、-CH[(C=O)-(O-R)-OH]CH-を有し;
[MAS-(O-R)-OH]は、-C(CH)[(C=O)-(O-R)-OH]CH-を有する。
【0044】
本発明の文脈において使用されるα-ヒドロキシカルボン酸を以下の表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3は、α-ヒドロキシカルボン酸のそれぞれに対して残基Rを特定し、本発明の共重合体のサイドアームは、残基Rから本質的に形成される。サイドアームは、1~20個の残基Rを含んでなる。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、アクリレート共重合体の化学量論的または統計的な繰り返し単位は、以下の構造:
【化27】
を有する。
【0048】
スキーム2aの繰り返し単位において、x、y、zは以下の条件:
・ 1≦x≦20、1≦y≦20、1≦z≦20;
・ 0.8x≦y+z≦1.2xもしくは0.3x≦y+z≦0.7x;
・ y≦z≦6y、5y≦z≦11y、8y≦z≦14y、11y≦z≦17yもしくは14y≦z≦20y;および/または
・ y≦z≦3y、2y≦z≦4y、3y≦z≦5y、4y≦z≦6y、5y≦z≦7y、6y≦z≦8y、7y≦z≦9y、8y≦z≦10y、9y≦z≦11y、10y≦z≦12y、11y≦z≦13y、12y≦z≦14y、13y≦z≦15y、14y≦z≦16y、15y≦z≦17y、16y≦z≦18y、17y≦z≦19yもしくは18y≦z≦20y
を満たす実数を表す。
【0049】
残基R、R、R、R、Rは、独立して、-Hまたは-CHである。
【0050】
本発明の特に好ましい実施形態において、スキーム2aに示す繰り返し単位中の残基RおよびRは、同一、すなわち、R=R=-HまたはR=R=-CHである。R=Rであるスキーム2aに従うアクリレート共重合体は、好ましくは、以下の工程:
(a’)メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレートまたはエチルメタクリレートと、保護されていないまたは保護されたアクリル酸またはメタクリル酸とを共重合させる工程;
(b’)保護されたアクリル酸または保護されたメタクリル酸が工程(a’)において使用された場合、工程(a’)において得られたアクリレート共重合体を脱保護する工程;
(c’)工程(a’)または(b’)において得られたアクリレート共重合体を、保護されたグリコール酸または保護された乳酸によりエステル化する工程;および
(d’)工程(c’)において得られたアクリレート共重合体を脱保護する工程
を有する単純な方法によって合成される。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、添え字n、xおよびyは、上記の説明および特許請求の範囲とは独立した定義を有する。
【0052】
例1:α-ヒドロキシカルボン酸残基を含むアクリレート共重合体のための合成戦略
α-ヒドロキシカルボン酸は二官能性である。したがって、アクリル酸またはメタクリル酸によってα-ヒドロキシカルボン酸を直接エステル化すると、異なるオリゴマーの混合物が生じる。これを防止するために、酸基を可逆的に保護する。この目的に適した保護基には、ベンジル基、tert-ブチル基またはアリル基が含まれ、この理由は、これらは導入が容易であり、後続の方法工程における反応条件に対して安定であるためである。保護されたα-ヒドロキシカルボン酸は、シュテークリヒエステル化においてアクリル酸またはメタクリル酸とコンジュゲートさせてモノマーを得ることができる。得られたモノマーをメチルメタクリレートまたはエチルアクリレートと共重合させ、次いで、保護基を除去する。この合成方法をスキーム3に示す。
【0053】
【化28】
【0054】
重合後、保護基はパラジウム/炭触媒を使用する水素による還元によって除去される。
【0055】
例2:アクリレート共重合体の修飾
スキーム4は、保護されたα-ヒドロキシカルボン酸、例えば、ベンジルにより保護されたグリコール酸(ヒドロキシエタノエートベンジルまたは「Gly-Bn」)によって、アクリレート共重合体を修飾するための合成戦略を示す。
【0056】
【化29】
【0057】
例3:シュテークリヒエステル化の原理
スキーム5は、アクリル酸またはメタクリル酸と保護されたαヒドロキシカルボン酸との単純または反復的なコンジュゲートのために本発明の文脈において利用されるシュテークリヒエステル化の原理を示す。
【0058】
【化30】
【0059】
一般に、エステル化反応では、有機酸をアルコールと反応させてエステルを生成する。酸のカルボニル活性が低いため、アルコールとの反応は遅い。反応物による空間充填が進むと、反応速度は低下する。カルボニル活性は、一般にカルボニル塩化物およびカルボン酸無水物を使用することにより向上する。しかしながら、本発明において使用される反応物を考慮すると、カルボニル塩化物は不向きである。
【0060】
本発明では、シュテークリヒエステル化の原理を利用することが好ましい。シュテークリヒエステル化は、穏やかな反応条件下で良好な収量を提供する。好適には、使用されるカップリング試薬は、DIPC(ジイソプロピルカルボジイミド)であり、使用される触媒は、DMAP(4(N,Nジメチルアミノ)ピリジン)である。反応メカニズムをスキーム5に示す。まず、DIPCは酸と一緒になって、そのカルボニル活性が酸の無水物と同等であるO-アシルイソ尿素を形成する。DMAPは、使用されるアルコールよりも強い求核剤であり、アシルイソ尿素と一緒になって、N,N’ジイソプロピル尿素と、「活性エステル」とも呼ばれる反応性アミドとを形成する。後者は、アルコールと、アシル転移試薬としても利用可能なDMAPと一緒に、本発明に従って提供されるエステルの1つを形成する。
【0061】
例4:RAFT重合の原理
本発明のポリマーは、スキーム6に示すRAFTの原理によって適切に共重合される。RAFT重合は、狭い分子量分布を有するポリマーの合成方法である。この目的のために、溶媒、モノマーおよび開始剤に加えて、いわゆる連鎖移動試薬が反応溶液に添加される。これが速度論的平衡状態においてフリーラジカル鎖と反応し、不活性化する。適切な連鎖移動試薬は、特にジチオエステルとトリチオカーボネートである。
【0062】
【化31】
【0063】
使用される開始剤は、従来の開始剤、例えば、AIBN(アゾイソブチロニトリル)またはジベンゾイル過酸化物である。これらは反応性のフリーラジカルに分裂した後、使用されるモノマーと反応する。開始反応または初期化の後、鎖はフリーラジカルメカニズムに従って生長する。生長する分子鎖のフリーラジカル末端が連鎖移動試薬に出会うと、付加ラジカルが形成される。これがポリマーのジチオエステルとフリーラジカルRとの間で一時的に平衡状態になる。フリーラジカルRは、新しいフリーラジカル鎖の形成を開始することができる。最初のRAFT平衡は、ポリマージチオエステルとさらなるフリーラジカル鎖との間にある。付加ラジカルはモノマーと反応せず、「スリーピング」種と呼ばれる。これにより、活性フリーラジカルの濃度が大幅に低下する。動力学的平衡のため、すべての鎖は同一の平均生長時間を有し、同一の重合度を達成する。RAFT重合において達成される多分散性は、1.1~1.3の範囲にある。
【0064】
本発明のポリマーは、所定の溶解特性と関連した低い多分散性を得るために、RAFT重合によって合成されることが好ましい。さらに、RAFT重合において使用される連鎖移動試薬は、NMRシグネチャーを有する基の導入を可能にする。このNMRシグネチャーの利用により、ポリマー鎖中のモノマーの総数を決定することができる。
【0065】
例5:ヒドロキシエタノエートベンジルエステル(Gly-Bn)
反応式
【0066】
【化32】
【0067】
反応
【0068】
【表4】
【0069】
手順
250mLの一ツ首フラスコ中で、グリコール酸を150mLのメタノールにより溶解させ撹拌しながら、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エンをシリンジにより滴下して添加した。30分間の撹拌後、50℃で減圧下、メタノールを除去した。得られた油状の液体を240mLのTV,TV-ジメチルホルムアミドに溶解させ5℃に冷却し、次いで、撹拌しながら臭化ベンジルを滴下ロートによりゆっくりと添加した。この溶液を室温で18時間撹拌した。この溶液に250mLの酢酸エチルおよび400mLの水を添加した。次いで、毎回150mLの酢酸エチルにより振とうして、水相を4回抽出した。合わせた有機相を150mLの水により洗浄し、100mLの5%クエン酸により3回洗浄し、150mLの飽和塩化ナトリウム水溶液により2回洗浄し、次いで、硫酸ナトリウム水溶液により乾燥させた。50℃で減圧下、酢酸エチルを除去した。ヒドロキシエタノエートベンジルエステルを、1×10-3バール、98℃における分留により精製した。
【0070】
特性評価
外観:無色の液体
収量:51.11g、0.3076mol、78%
沸点:1×10-3バールにおいて98℃
M=166.17g/mol
【0071】
【化33】
【0072】
H NMR:(400MHz;CDCl):δ[ppm]=2.36(s,1H,Ha),4.20(s,2H,Hb),5.24(s,2H,Hc),7.34-7.40(m,5H,Hd)
【0073】
例6:(S)-2-ヒドロキシプロピオネートベンジルエステル(L-La-Bn)
反応式
【0074】
【化34】
【0075】
反応
【0076】
【表5】
【0077】
手順
手順は、ヒドロキシエタノエートベンジルエステルの合成と同様であった。
【0078】
特性評価
外観:無色の液体
収量:34.66g、0.1923mol、71.6%
沸点:1×10-3バールにおいて96℃
M=180.20g/mol
【0079】
【化35】
【0080】
H NMR:(400MHz;CDCl):δ[ppm]=1.44(d,3H,Ha),2.83(s,1H,Hc),4.32(q,1H,Hb),5.21(s,2H,Hd),7.33-7.40(m,5H,He)
【0081】
例7:2-ヒドロキシプロピオネートベンジルエステル(D,L-La-Bn)
反応式
【0082】
【化36】
【0083】
反応
【0084】
【表6】
【0085】
手順
手順は、ヒドロキシエタノエートベンジルエステルの合成と同様であった。
【0086】
特性評価
外観:無色の液体
収量:13.02g、0.0723mol、65.1%
沸点:4.8×10-3バールにおいて91℃
【0087】
【化37】
【0088】
H NMR:(400MHz;CDCl):δ[ppm]=1.44(d,3H,Ha),2.77(s,1H,Hc),4.32(q,1H,Hb),5.22(s,2H,Hd),7.32-7.41(m,5H,He)
【0089】
例8:2-メタクリロイルオキシエタノエートベンジルエステル(MAylO-Gly-Bn)
反応式
【0090】
【化38】
【0091】
反応
【0092】
【表7】
【0093】
手順
Gly-Bn、メタクリル酸およびDMAPを500mLのUV不透過性一ツ首フラスコに移し、35mLの溶液にした。次いで、氷浴中で溶液を0℃に冷却し、撹拌しながら、15mLのDMFに溶解させたDIPCを均圧滴下ロートにより滴下して添加し、10mLのDMFにより洗い流した。反応中、沈殿物が生じた。添加後、冷却を解除し、溶液を5日間撹拌した。
【0094】
生成物のワークアップのために、沈殿物を濾過し、黄色がかった溶液に100mLの酢酸エチルおよび100mLの水を添加した。毎回150mLの酢酸エチルにより振とうして、水相を3回抽出した。合わせた有機相を150mLの水により洗浄し、150MLの飽和塩化ナトリウム水溶液により2回洗浄した。硫酸マグネシウムにより乾燥させ、安定剤として0.1gのBHTを添加した。50℃で減圧下、溶媒を除去した。その結果、無色の沈殿物が析出した。この溶液を-26℃で一晩保存した。析出物を濾過し、氷冷した酢酸エチルにより洗浄した。再び50℃で減圧下、溶媒を除去した。次いで、生成物のカラムクロマトグラフィー(EtAc:PE、1:5)を行った。
【0095】
特性評価
外観:無色の液体
収量:8.45g、0.0361mol、58.5%
M=234.25g/mol
【0096】
【化39】
【0097】
H NMR:(400MHz;CDCl):δ[ppm]=1.99(m,3H,Hb),4.73(s,2H,Hc),5.21(s,2H,Hd),5.66(m,1H,Ha),6.23(m,1H,Ha),7.33-7.38(m,5H,He)
【0098】
例9:(S)-2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジルエステル(MAylO-L-La-Bn
反応式
【0099】
【化40】
【0100】
反応
【0101】
【表8】
【0102】
手順
手順は、2-メタクリロイルオキシエタノエートベンジルエステルの合成と同様であった。
【0103】
特性評価
外観:無色の液体
収量:28.31g、0.1140mol、59.4%
M=248.28g/mol
【0104】
【化41】
【0105】
H NMR:(400MHz;CDCl):δ[ppm]=1.55(d,3H,Hd),1.97(m,3H,Hb),5.18(q,1H,Hc),5.20(s,2H,He),5.63(m,1H,Ha),6.20(m,1H,Ha),7.32-7.38(m,5H,Hf)
【0106】
例10:2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジルエステル(MAylO-D,L-La-Bn)
反応式
【0107】
【化42】
【0108】
反応
【0109】
【表9】
【0110】
手順
手順は、2-メタクリロイルオキシエタノエートベンジルエステルの合成と同様であった。
【0111】
特性評価
外観:無色の液体
収量:8.19g、0.0330mol、45.8%
M=248.28g/mol
【0112】
【化43】
【0113】
H NMR:(400MHz;CDCl):δ[ppm]=1.54(d,3H,Hd),1.97(m,3H,Hb),5.18(q,1H,Hc),5.20(s,2H,He),5.63(m,1H,Ha),6.21(m,1H,Ha),7.32-7.37(m,5H,Hf)
【0114】
例11:共重合
DMPA開始剤
反応式
【0115】
【化44】
【0116】
反応
【0117】
【表10】
【0118】
【表11】
【0119】
【表12】
【0120】
手順
MAylO-L-La-Bnのモノマーとメタクリル酸メチルのモノマーとを中性アルミナによりカラム処理し、次いで、シュレンクチューブに入れた。次いで、ベンゼンに溶解させた開始剤を添加し、セプタム(septum)によりチューブを閉じた。この溶液を3回の凍結脱気手順(freeze-pump procedure)に供した。シュレンクチューブをUVランプの前に14時間置いた。氷冷した石油エーテル中でポリマーを2回析出させ、シュレンク装置により乾燥させた。
【0121】
特性評価
外観:無色の固体
【0122】
【表13】
【0123】
【化45】
【0124】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.66-1.20(6H,Hf),1.32-1.48(3H,Hd),1.62-2.08(4H,He),3.43-3.62(3H,Hg),4.85-5.07(1H,Hc),5.07-5.24(2H,Hb),7.28-7.41(5H,Ha)
【0125】
AIBN開始剤
反応式
【0126】
【化46】
【0127】
反応
【0128】
【表14】
【0129】
【表15】
【0130】
【表16】
【0131】
手順
エチルアクリレートのモノマーとメチルメタクリレートのモノマーとを中性アルミナによりカラム処理し、安定剤を除去した。次いで、シュレンクチューブに入れた。2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)開始剤をベンゼンに溶かし、シュレンクチューブに移した。シュレンクチューブをガラス栓により閉じ、3回の凍結脱気手順に供した。氷冷した石油エーテル中でポリマーを2回析出させ、シュレンク装置により乾燥させた。
【0132】
特性評価
外観:無色の固体
【0133】
開始剤系の研究には収量と質量分布のみが重要であるため、H NMRによる特性評価は省略した。
【0134】
【表17】
【0135】
例12:ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-MMA)
反応式
【0136】
【化47】
【0137】
【化48】
【0138】
反応
【0139】
【表18】
【0140】
【表19】
【0141】
【表20】
【0142】
【表21】
【0143】
手順
MAylO-L-La-Bnのモノマーとメタクリル酸メチルのモノマーとを中性アルミナによりカラム処理し、次いで、シュレンクチューブに入れた。次いで、ベンゼンに溶解させた開始剤を添加し、セプタムによりチューブを閉じた。この溶液を3回の凍結脱気手順に供した。DMPAを開始剤とした場合には、シュレンクチューブをUVランプの前に14時間置き;AIBNを開始剤とした場合には、シュレンクチューブを70℃に16時間加熱した。氷冷した石油エーテル中でポリマーを2回析出させ、シュレンク装置により乾燥させた。
【0144】
特性評価
外観:無色の固形物
収量:
ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-MMA)1:1(DMPA):0.951g、85%、Mn=3130g/mol、D=1.95
ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-MMA)1:2(DMPA):0.455g、84%、Mn=3130g/mol、D=1.83
ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-MMA)2:1(DMPA):0.323g、90%、Mn=2750g/mol、D=1.63
ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-MMA)1:1(AIBN):1.523g、99%、Mn=14480g/mol、D=2.42
【0145】
【化49】
【0146】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.66-1.20(6H,Hf),1.32-1.48(3H,Hd),1.62-2.08(4H,He),3.43-3.62(3H,Hg),4.85-5.07(1H,Hc),5.07-5.24(2H,Hb),7.28-7.41(5H,Ha)
【0147】
例13:ポリ(MAylO-D,L-La-Bn-co-MMA)
反応式
【0148】
【化50】
【0149】
【化51】
【0150】
反応
【0151】
【表22】
【0152】
【表23】
【0153】
【表24】
【0154】
【表25】
【0155】
手順
手順は、MAylO-L-La-Bn-co-MMAポリマーの合成と同様であった。
【0156】
特性評価
外観:無色の固体
収量:
ポリ(MAylO-D,L-La-Bn-co-MMA)1:1(DMPA):0.809g、72%、Mn=3200g/mol、D=1.78
ポリ(MAylO-D,L-La-Bn-co-MMA)1:2(DMPA):0.434g、81%、Mn=2830g/mol、D=1.69
ポリ(MAylO-D,L-La-Bn-co-MMA)2:1(DMPA):0.333g、93%、Mn=2330g/mol、D=1.74
ポリ(MAylO-D,L-La-Bn-co-MMA)1:1(AIBN):1.533g、99%、Mn=14990g/mol、D=2.46
【0157】
【化52】
【0158】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.64-1.07(6H,Hf),1.30-1.49(3H,Hd),1.62-2.08(4H,He),3.42-3.66(3H,Hg),4.85-5.06(1H,Hc),5.06-5.25(2H,Hb),7.23-7.46(5H,Ha)
【0159】
例14:ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA)
反応式
【0160】
【化53】
【0161】
【化54】
【0162】
反応
【0163】
【表26】
【0164】
【表27】
【0165】
【表28】
【0166】
【表29】
【0167】
手順
手順は、MAylO-L-La-Bn-co-MMAポリマーの合成と同様であった。
【0168】
特性評価
外観:無色の固体
収量:
ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA)1:1(DMPA):0.896g、79%、Mn=2790g/mol、D=1.87
ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA)1:2(DMPA):0.391g、70%、Mn=2680g/mol、D=1.66
ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA)2:1(DMPA):0.336g、92%、Mn=2760g/mol、D=1.77
ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA)1:1(AIBN):1.460g、93%、Mn=9800g/mol、D=2.63
【0169】
【化55】
【0170】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):3[ppm]=0.61-1.26(6H,He),1.44-2.27(4H,Hd),3.43-3.68(3H,Hf),4.55-4.82(2H,Hc),5.09-5.26(2H,Hb),7.24-7.44(5H,Ha)
【0171】
例15:ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-EA)
反応式
【0172】
【化56】
【0173】
反応
【0174】
【表30】
【0175】
手順
MAylO-L-La-Bnのモノマーとエチルアクリレートのモノマーとを中性アルミナによりカラム処理し、次いで、シュレンクチューブに入れた。次いで、ベンゼンに溶解させた開始剤を添加し、セプタムによりチューブを閉じた。この溶液を3回の凍結脱気手順に供し、次いで、UVランプの前に14時間置いた。氷冷した石油エーテル中でポリマーを3回析出させ、シュレンク装置により乾燥させた。
【0176】
特性評価
外観:無色の固体
収量:
ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-EA):1.448g、86%、Mn=7830g/mol、D=2.35
【0177】
【化57】
【0178】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.78-1.02(3H,Hf),1.02-1.22(3H,Hh),1.28-1.45(3H,Hd),1.44-2.31(5H,He),3.80-4.12(2H,Hg),4.78-5.02(1H,Hc),5.02-5.23(2H,Hb),7.20-7.43(5H,Ha)
【0179】
例16:ポリ(MAylO-D,L-La-Bn-co-EA)
反応式
【0180】
【化58】
【0181】
反応
【0182】
【表31】
【0183】
手順
手順は、MAylO-L-La-Bn-co-EAポリマーの合成と同様であった。
【0184】
特性評価
外観:無色の固体
収量:
ポリ(MAylO-D,L-La-Bn-co-EA):1.234g、74%、Mn=5930g/mol、D=2.15
【0185】
【化59】
【0186】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.79-1.00(3H,Hf),1.00-1.20(3H,Hh),1.25-1.46(3H,Hd),1.46-2.35(5H,He),3.76-4.11(2H,Hg),4.78-5.01(1H,Hc),5.01-5.20(2H,Hb),7.18-7.42(5H,Ha)
【0187】
例17:ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-EA)
反応式
【0188】
【化60】
【0189】
反応
【0190】
【表32】
【0191】
手順
手順は、MAylO-L-La-Bn-co-EAポリマーの合成と同様であった。
【0192】
特性評価
外観:無色の固体
収量:
ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-EA):1.197g、76%、Mn=4680 /mol、D=2.28
【0193】
【化61】
【0194】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.73-1.03(3H,He),1.03-1.21(3H,Hg),1.24-2.38(5H,Hd),3.79-4.14(2H,Hf),4.48-4.82(2H,Hc),5.03-5.23(2H,Hb),7.21-7.45(5H,Ha)
【0195】
例18:ポリ(MA-co-MMA)
反応式
【0196】
【化62】
【0197】
反応
【0198】
【表33】
【0199】
手順
メタクリル酸のモノマーとメチルメタクリレートのモノマーとを中性アルミナによりカラム処理した。次いで、シュレンクチューブに入れ、ベンゼンに溶かした開始剤を添加した。シュレンクチューブをセプタムにより閉じた。この溶液を3回の凍結脱気手順に供し、次いで、UVランプの前に14時間置いた。氷冷した石油エーテル中でポリマーを2回析出させ、シュレンク装置により乾燥させた。
【0200】
特性評価
外観:無色の固体
収量:
ポリ(MA-co-MMA):3.166g、98%。使用したカラムではポリマーが検出されなかったため、DMF-GPCによる分析はできなかった。
【0201】
【化63】
【0202】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.61-1.21(6H,Hc),1.60-2.03(4H,Hb),3.48-3.59(3H,Hd),12.29-12.55(1H,Ha)
【0203】
例19:ポリ(MA-co-EA)
反応式
【0204】
【化64】
【0205】
反応
【0206】
【表34】
【0207】
手順
手順は、MA-co-MMAポリマーの合成と同様であった。
【0208】
特性評価
外観:無色の固体
収量
ポリ(MA-co-EA):3.122g、96%。GPCによる分析はできなかった。
【0209】
【化65】
【0210】
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.79-1.08(3H,Hc),1.10-1.24(3H,He),1.30-2.39(5H,Hb),3.84-4.16(2H,Hd),12.25-12.48(1H,Ha)
【0211】
例20:ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA)のRAFT重合
反応式
【0212】
【化66】
【0213】
反応
【0214】
【表35】
【0215】
【表36】
【0216】
手順
メチルメタクリレートのモノマーとMAylO-Gly-Bnのモノマーとを中性アルミナによりカラム処理した。次いで、シュレンクチューブに入れた。AIBN開始剤と2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカーボネートRAFT剤とをベンゼンに溶解させ、シュレンクチューブに移した。シュレンクチューブをガラス栓により閉じ、この溶液を3回の凍結脱気手順に供した。この溶液を70℃で4日間加熱した。黄色い溶液を氷冷した石油エーテル中で2回析出させ、ポリマーをシュレンク装置で乾燥させた。
【0217】
特性評価
10kg/mol:0.242g、86%、Mn=5810g/mol、D=1.33、黄色い固体
20kg/mol:0.275g、97%、Mn=10730g/mol、D=1.42、黄色の固体
【0218】
【化67】
【0219】
H NMRシグナルのアサイン:
10kg/mol:
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.68-1.09(172H,Hg),1.13-1.33(36H,Ha),1.33-2.11(104H,Hf),3.23-3.29(2H,Hb),3.42-3.63(81H,Hh),4.56-4.79(69H,He),5.08-5.24(72H,Hd),7.25-7.43(180H,Hc)
20kg/mol:
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.68-1.09(445H,Hg),1.13-1.33(26H,Ha),1.33-2.11(260H,Hf),3.23-3.29(2H,Hb),3.42-3.63(225H,Hh),4.56-4.79(152H,He),5.08-5.24(161H,Hd),7.25-7.43(412H,Hc)
【0220】
例21:ポリ(MAylO-L-La-Bn-co-MMA)のRAFT重合
反応式
【0221】
【化68】
【0222】
反応
【0223】
【表37】
【0224】
【表38】
【0225】
手順
手順は、RAFTによるMAylO-Gly-Bn-co-MMAポリマーの合成と同様であった。
【0226】
【化69】
【0227】
特性評価
10kg/mol:0.182g、65%、Mn=4670g/mol、D=1.29、黄色い固体
20kg/mol:0.264g、94%、Mn=10930g/mol、D=1.34、黄色い固体
1H NMRシグナルのアサイン:
10kg/mol:
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.67-1.08(126H,Hg),1.17-1.27(21H,Ha),1.27-1.48(91H,Hi),1.52-2.21(85H,Hf),3.21-3.30(2H,Hb),3.42-3.66(58H,Hh),4.86-5.05(27H,He),5.05-5.24(53H,Hd),7.25-7.41(134H,Hc)
20kg/mol:
H NMR:(400MHz;DMSO-d):δ[ppm]=0.67-1.08(317H,Hg),1.17-1.27(23H,Ha),1.27-1.48(194H,Hi),1.52-2.21(195H,Hf),3.21-3.30(2H,Hb),3.42-3.66(162H,Hh),4.86-5.05(56H,He),5.05-5.24(107H,Hd),7.25-7.41(280H,Hc)
【0228】
例22:ポリマーの修飾
反応式
【0229】
【化70】
【0230】
反応
【0231】
【表39】
【0232】
手順
MA-co-MMAポリマーとDMAPとを100mLの丸底フラスコに入れ、ジオキサンに溶解させた。次いで、DMAPおよびGly-Bnを添加した。このフラスコを70℃で2日間加熱した。得られた溶液を、氷冷した石油エーテル中で2回沈殿させ、シュレンク装置により乾燥させた。
【0233】
特性評価
外観:無色の固体
収量:
ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA):0.165g、92%、Mn=5880g/mol、D=3.83
【0234】
H NMRスペクトルおよびアサインは、スキーム42におけるポリ(MAylO-Gly-Bn-co-MMA)のものと対応する。
【0235】
例23:水素化
反応式
【0236】
【化71】
【0237】
反応
【0238】
【表40】
【0239】
ポリマーの分子量は繰り返し単位を基準としている。パラジウム/炭素触媒は5wt%のパラジウム含有量を有する。
【0240】
手順
ポリマーを100mLの酢酸エチルに溶解させ、Pd/C触媒とともに圧力反応器に移した。圧力反応器を密閉し、40バールの圧力になるまでHガスを導入した。この溶液を4日間撹拌しながら40℃に加熱した。次いで、反応器を慎重に開き、セライトカラムを通じて、黒い液体を濾過した。無色の液体を減圧下で濃縮し、シュレンク装置により乾燥させた。これにより、無色で比較的多孔質の固体が得られる。
【0241】
特性評価
外観:無色の固体
収量:定量的
【0242】
さらに、本発明を図によって詳細に説明する。具体的な図は、
図1:ポリマーの溶解度をpHの関数として測定するための装置、
図2:Eudragit(登録商標)L 100および本発明の類似のポリマーに対する図の形における溶解度測定結果、
図3:Eudragit(登録商標)L 100-55および本発明の類似のポリマーに対する図の形における溶解度測定結果、
図4:Eudragit(登録商標)L 100および類似のポリマーによりコーティングされたカプセルからのパラセタモールの放出、
図5:Eudragit(登録商標)L 100-55および類似のポリマーによりコーティングされたカプセルからのパラセタモールの放出
を示す。
【0243】
例24:溶解度
図2および図3は、Eudragit(登録商標)L 100タイプおよびEudragit(登録商標)L 100-55タイプのポリマーの溶解度の測定結果を、本発明のポリマーと比較して、図の形で示している。点として表された測定値と同様に、図にはそれぞれ、近似されるべきa、pK1/2およびcのパラメータを有する以下のタイプのpH依存関数:
【数3】
に基づいた近似曲線が示されている。pK1/2は、ここでは,それぞれのポリマーの約50%が溶解するpHに相当する。図にはさらに、各近似曲線に対する標準誤差σが記載されており、この標準誤差は、以下の関係:
【数4】
に従って、近似曲線および測定値の間の差の二乗平均平方根として計算される。ここで、T(pHi)はpHiにおいて測定された透過度、nは測定回数を表す。図2および図3において示された溶解度の測定結果から、本発明のポリマーは、L 100タイプおよびL 100-55タイプのEudragit(登録商標)ポリマーと比較して、より低いpHにおいて溶解することが明らかになった。例えば、pH4.5では、Eudragit(登録商標)L 100懸濁液の光透過率は20%未満であるのに対し、MAylO-Gly-co-MMAタイプ、MAylO-L-La-co-MMAタイプおよびMAylO-D,L-La-co-MMAタイプの本発明のポリマーでは90%~100%である。この状況は、Eudragit(登録商標)L 100-55とMAylO-Gly-co-EAタイプ、MAylO-L-La-co-EAタイプおよびMAylO-D,L-La-co-EAタイプの本発明のポリマーとに対しても同様である。
【0244】
また、本発明者らは、比較のために、フリーラジカル重合により、Eudragit(登録商標)L 100およびEudragit(登録商標)L 100-55に類似したポリマー(それぞれ「L 100アナログ」および「L 100-55アナログ」と呼ぶ)を合成し、その溶解度を試験した。「L 100アナログ」タイプおよび「L 100-55アナログ」タイプのポリマーは、アニオン重合により調製されたEudragit(登録商標)ポリマーよりも、わずかに低いpHにおいて溶解する。L 100アナログ」ポリマーおよび「L 100-55アナログ」ポリマーの溶解特性は、分子量が低いことに起因すると考えられる。
【0245】
例25:パラセタモールの放出
図4および図5は、生理的条件下、すなわち、温度37℃において、時間間隔0~60分ではpH2、時間間隔が60分を超えるとpH6.5の条件下における、コーティングされたカプセルからの有効成分であるパラセタモールの放出に関する測定結果を示す。図には、個々の測定値または測定点、および近似曲線が示されている。近似曲線は、独立変数としてpHではなく時間を使用し、例24において上述した同一タイプの関数に基づいている。
【0246】
図4および図5から明らかなように、最初の60分以内におけるpH2において、試験されたカプセルコーティングのいずれもパラセタモールが放出されない。さらに、測定結果は、有効成分であるパラセタモールが、Eudragit(登録商標)L 100およびEudragit(登録商標)L 100-55と比較して、それぞれ約60分および約25分早く、本発明のポリマーでコーティングされたカプセルから放出されることを示す。Eudragit(登録商標)L 100-55と比較するMAylO-Gly-co-EA、MAylO-L-La-co-EAおよびMAylO-D,L-La-co-EAによりコーティングされたカプセルからの放出の場合において、時間差が約25分と小さいのは、問題のポリマーが4.0~4.7の範囲におけるpHにおいて溶解するという事実(参照:例24)に起因する。対照的に、MAylO-Gly-co-MMAタイプ、MAylO-L-La-co-MMAタイプおよびMAylO-D,L-La-co-MMAタイプのポリマーは、すでに3.5~3.7の範囲におけるpHにおいて溶解する。
【0247】
略語の一覧
本明細書の文脈において使用される略語は、以下に示す意味を有し、括弧の間にある共重合体に対する略語の一部は、「ポリ」という単語が先行しており、例えば、「MAylO-Gly-Bn-co-EA」および「ポリ(MAylO-Gly-Bn-co-EA)」という略語は、同じ共重合体を意味する。
AIBN:アゾイソブチロニトリル
ATRP:原子移動ラジカル重合
Eq.:当量
AS:アクリル酸残基(-CH[(C=O)-]CH-)
Ayl:アクリロイル基(CH=CH-(C=O)-)
AylO:アクリロイルオキシ基(CH=CH-(C=O)-O-)
AylO-Gly-Bn:2-アクリロイルオキシエタノエートベンジルエステル
AylO-L-La-Bn:(S)-2-アクリロイルオキシプロピオネートベンジルエステル
AylO-D,L-La-Bn:2-アクリロイルオキシプロピオネートベンジルエステル
AylO-Gly-Bn-co-EA:2-アクリロイルオキシエタノエートベンジル-エチルアクリレート共重合体
AylO-L-La-Bn-co-EA:(S)-2-アクリロイルオキシプロピオネートベンジル-エチルアクリレート共重合体
AylO-D,L-La-Bn-co-EA:2-アクリロイルオキシプロピオネートベンジル-エチルアクリレート共重合体
AylO-Gly-Bn-co-MMA:2-アクリロイルオキシエタノエートベンジル-メチルメタクリレート共重合体
AylO-L-La-Bn-co-MMA:(S)-2-アクリロイルオキシプロピオネートベンジル-メチルメタクリレート共重合体
AylO-D,L-La-Bn-co-MMA:2-アクリロイルオキシプロピオネートベンジル-メチルメタクリレート共重合体
BHT:ブチルヒドロキシトルエン
CFRP:制御されたフリーラジカル重合
DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン
DIPC:ジイソプロピルカルボジイミド
D,L-La-Bn:2-ヒドロキシプロピオネートベンジルエステル
DMAP:4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン)
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMPA:2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン
DMSO:ジメチルスルホキシド
EA:エチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCHCH]CH-)
EMA:エチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCHCH]CH-)
EtAc:酢酸エチル
Gly-Bn:ヒドロキシエタノエートベンジルエステル
GPC:ゲル透過クロマトグラフィー
L-La-Bn:(S)-2-ヒドロキシプロピオネートベンジルエステル
MA:メチルアクリレート残基(-CH[(C=O)OCH]CH-)
MA-co-MMA:メタクリル酸-メチルメタクリレート共重合体
MA-co-EA:メタクリル酸-エチルアクリレート共重合体
MAS:メタクリル酸残基(-C(CH)[(C=O)-]CH-)
MAyl:メタクリロイル基(CH=C(CH)-(C=O)-)
MAylO:メタクリロイルオキシ基(CH=C(CH)-(C=O)-O-)
MAylO-Gly-Bn:2-メタクリロイルオキシエタノエートベンジルエステル
MAylO-L-La-Bn:(S)-2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジルエステル
MAylO-D,L-La-Bn:2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジルエステル
MAylO-Gly-Bn-co-EA:2-メタクリロイルオキシエタノエートベンジル-エチルアクリレート共重合体
MAylO-L-La-Bn-co-EA:(S)-2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジル-エチルアクリレート共重合体
MAylO-D,L-La-Bn-co-EA:2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジル-エチルアクリレート共重合体
MAylO-Gly-Bn-co-MMA:2-メタクリロイルオキシエタノエートベンジル-メチルメタクリレート共重合体
MAylO-L-La-Bn-co-MMA:(S)-2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジル-メチルメタクリレート共重合体
MAylO-D,L-La-Bn-co-MMA:2-メタクリロイルオキシプロピオネートベンジル-メチルメタクリレート共重合体
MMA:メチルメタクリレート残基(-C(CH)[(C=O)OCH]CH-)
RAFT:可逆的付加開裂連鎖移動重合
【0248】
本発明の文脈において、「ラジカル重合」という用語は、フリーラジカル重合、制御されたフリーラジカル重合(CFRP)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)および原子移動ラジカル重合(ATRP)などの方法を包含している。
【0249】
本発明の共重合体は、ランダム共重合体またはブロック共重合体のいずれでもよい。したがって、本発明のポリマー構造式におけるIUPACに準拠した語「-co-」は、IUPACに準拠した語「-stat-」および「-block-」を含む。
【0250】
試験方法
本発明において、製造された共重合体の重量および重量分布は、ジメチルホルムアミド(DMF)を使用するゲル濾過クロマトグラフィー(GPCまたはSEC)により、25~30℃の範囲の温度、標準圧力(985~1010hPa)および標準湿度(40~100%rH)において測定される(出典:measurement station of the Institute for Atmospheric Physics, Johannes Gutenberg University of Mainz)。
【0251】
すべての化学物質および溶媒は、特に断りのない限り、市販のサプライヤー(Acros、Sigma-Aldrich、Fisher Scientific、Fluka、Riedel-de-Haen、Roth)から入手し、溶媒とおよびモノマーの乾燥を除き、さらに精製することなく使用した。重水素化溶媒はDeutero GmbH(Kastellaun、Germany)から入手した。
【0252】
ゲル濾過クロマトグラフィー(GPCまたはSEC)
屈折率検出器(Agilent 2160 Infinity RI検出器)、UV検出器(275nm)、オンライン粘度計、およびPolymer Standard Service GmbH(以下、PSSと呼ぶ)のSDVカラムセット(SDV 103、SDV 105、SDV 106)を備えたAgilent 1100 HPLCシステムを使用して、25~30℃の温度においてDIN 55672-3 2016-01に従って、GPCまたはSEC測定を行った。分析対象のポリマーに対する溶媒として、および1mL・min-1の流量において溶離液としてジメチルホルムアミド(DMF)を使用した。DMFに溶解させた分析対象のポリマーを、Waters 717 plusオートサンプラーによってGPCカラムに注入した。PSS社のポリスチレン標準試料を使用してキャリブレーションを行った。溶出プロファイルは、PSS社のWinGPC Unityソフトウェアを使用して評価した。
【0253】
NMR分光法
Bruker社のAvance II 400(400MHz,zグラジエントとATMとを備える5mm BBFOヘッド)において400MHz(H)または101MHz(13C)の周波数により、Hおよび13C NMRスペクトルを記録した。キネティックin situ H NMR測定には、5mm BBFO SmartProbeセンサー(Zグラジエントプローブ)、ATMおよびSampleXPress 60 オートサンプラーを備えたBruker Avance III HD 400分光計を使用した。化学シフトはppmにて報告され、重水素化溶媒のプロトンシグナルに基づいている。
【0254】
溶解度および有効成分の放出
Eudragit(登録商標)クラスの本発明のポリマーおよび既知のポリマーの溶解度は、37℃の温度における光透過率測定によって決定される。この目的のために、それぞれの場合における試験対象のポリマーを塩基性NaOH緩衝浴に5mg/mLの濃度で溶解または懸濁させ、0.1MのHCl溶液の滴定によってpHを段階的に低下させる。pHが低下すると、ポリマーがプロトン化して析出し、光を散乱させて減衰させる。
【0255】
溶解度の測定に使用した装置を図1に模式的に示す。ポリマー溶液または懸濁液は、蓋付きのガラス容器に入っており、ペルチェ素子によって37℃に加熱されている。ガラス容器の中、すなわち、ポリマー懸濁液の中にはマグネチックスターラーが配置されており、磁気駆動装置によって回転している。光源により発せられた光ビームは、ガラス容器の両側の壁とその間のポリマー懸濁液とを通過し、光電子センサー、例えば、フォトダイオードに当たり、それにより、透過した光ビームの強度が測定される。さらに、この装置は、ガラス容器の内部に導管を介して接続されたHCl用リザーバー容器(図1には示されていない)を備えている。導管内には、ポリマー懸濁液に供給されるHClの単位時間あたりの量を制御するための計量弁または滴定弁(図1には示されていない)が配置されている。透過率の光学的測定は、Jasco V 640分光光度計を使用して行われる。
【0256】
さらに、パラセタモール含有カプセルを本発明のポリマー、Eudragit(登録商標)L 100およびEudragit(登録商標)L 100-55によりコーティングし、消化管内の生理的状態を模倣してパラセタモールの放出を試験した。模倣に使用した装置は、例えばErweka GmbHから入手できるもので、欧州薬局方における装置1に相当する。一定時間ごとに、試験容器の内容量に比べてごく少量の液体を取り出し、243nmの波長においてパラセタモールの濃度を測光的に測定する。
【0257】
Eudragit(登録商標)L 100およびEudragit(登録商標)L 100-55、ならびにMAylO-Gly-co-MMAタイプ、MAylO-L-La-co-MMAタイプ、MAylO-D,L-La-co-MMAタイプ、MAylO-Gly-co-EAタイプ、MAylO-L-La-co-EAタイプおよびMAylO-D,L-La-co-EAタイプの本発明のポリマーのコーティング剤により、同一形状の複数のパラセタモール含有カプセルをそれぞれコーティングする。一連の試験の過程において、コーティングの単位面積あたりの重量またはコーティングによるカプセルの重量増加が±3%の精度に適合するようにそれぞれのポリマー溶液の粘度は調整される。
【0258】
それぞれの場合において、試験対象のポリマーのうちの一つによりコーティングされた3~4個のカプセルをpH2である900mLの試験液に導入する。胃の酸性環境を模倣するために、カプセルを含む試験液をpH2、温度37℃に保持しながら、60分間にわたって撹拌する。次いで、試験液をリン酸緩衝液に置き換えてpHを6.5に上昇させる。
図1
図2
図3
図4
図5