(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】乳タンパク質組成物を脱ミネラルするためのプロセス、および前記プロセスで得られる乳タンパク質組成物
(51)【国際特許分類】
A23C 9/144 20060101AFI20241212BHJP
A23C 21/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A23C9/144
A23C21/00
(21)【出願番号】P 2021559996
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2020059378
(87)【国際公開番号】W WO2020207894
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-03-09
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515309704
【氏名又は名称】ユーロディア・アンデュストリ
【氏名又は名称原語表記】EURODIA INDUSTRIE
【住所又は居所原語表記】IMPASSE SAINT MARTIN, ZAC SAINT‐MARTIN, F‐84120 PERTUIS, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ゴナン,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】リュタン,フロランス
(72)【発明者】
【氏名】ラージェトー,デニス
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04971701(US,A)
【文献】特開昭49-054568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/144
A23C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱ミネラルされた乳タンパク質組成物(MPC2)の製造プロセスであって、以下のステップ:
(i)乳タンパク質組成物(MPC)を提供するステップ;
(ii)前記乳タンパク質組成物(MPC)を電気透析装置(5,200)で電気透析するステップであって、前記電気透析装置のユニットセル(15,215)が、3つのコンパートメント(20,26,30;220,226,230)を有し、かつ前記乳タンパク質組成物(MPC)における少なくとも1つのカチオンを、少なくとも1つの水素イオンH
+と置換して、少なくとも部分的に脱ミネラルされ酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)を得るように構成されている、ステップ;
(iii)ステップ(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物(MPC1)を電気透析装置(10,205)で電気透析するステップであって、前記電気透析装置のユニットセルが、3つのコンパートメント(39,43,47;239,243,247)を有し、かつ前記乳タンパク質組成物における少なくとも1つのアニオンを、少なくとも1つのヒドロキシルイオンOH
-と置換するように構成されている、ステップ;
(iv)脱ミネラルされた乳タンパク質組成物(MPC2)を得るステップ
を含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
以下の塩:
・電気透析するステップ
(ii)から直接得られる塩、
・電気透析するステップ
(ii)から間接的に得られる塩、
・電気透析するステップ
(iii)から直接得られる塩、
・電気透析するステップ
(iii)から間接的に得られる塩、
・ステップ
(i)における前記乳タンパク質組成物に対して実行される事前の脱ミネラルステップからの塩、
・これらの混合物
から選択される塩のうちの少なくとも一部を処理するステップ(v)を含み、前記処理するステップ(v)が、一方で前記塩から1つ以上の酸を生成し、他方で前記塩から塩基を生成するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の製造プロセス。
【請求項3】
前記処理するステップ(v)が、バイポーラ膜電気透析装置(70)で実施される電気透析するステップからなることを特徴とする、請求項2に記載の製造プロセス。
【請求項4】
前記バイポーラ膜電気透析装置(70)が、ステップ(v)において、3つのコンパートメントA、BおよびC(110,116,120)を有するユニットセル(105)を備え、前記コンパートメントAおよびBには水が供給され、前記コンパートメントAおよびBの間に配置されたコンパートメントCには、1つ以上の塩が供給されることを特徴とする、請求項3に記載の製造プロセス。
【請求項5】
処理するステップ(v)で得られた前記
塩の少なくとも一部が、ステップ
(ii)における前記電気透析装置(5,200)の前記3つのコンパートメント(20,26,30;220,226,230)のうちの1つに供給されることを特徴とする、請求項2~4の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項6】
前記塩が、塩酸および/または硫酸であることを特徴とする、請求項5に記載の製造プロセス。
【請求項7】
処理するステップ(v)で得られた前記
塩の少なくとも一部が、ステップ
(iii)における前記電気透析装置(10,205)の前記3つのコンパートメント(39,43,47;239,243,247)のうちの1つに供給されることを特徴とする、請求項2~
6の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項8】
前記塩が、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムであることを特徴とする、請求項7に記載の製造プロセス。
【請求項9】
ステップ
(ii)で得られ、少なくとも部分的に脱ミネラルおよび酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)を、2-コンパートメントユニットセルを備える電気透析装置で、ステップ
(iii)の前に電気透析するステップを含むことを特徴とする、請求項1~
8の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項10】
前記電気透析するステップ
(ii)において、1価のカチオンの少なくとも1つの塩化物塩と、2価のカチオンの少なくとも1つの塩化物塩とを含む混合物が生成され、前記混合物が、1価のカチオンの前記塩化物塩および2価のカチオンの前記塩化物塩の分離ステップ(vi
)を経ることを特徴とする、請求項1~
9の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項11】
前記電気透析するステップ
(iii)において、1価のアニオンの少なくとも1つのナトリウム塩と、2価のアニオンの少なくとも1つのナトリウム塩とを含む混合物が生成され、前記混合物が、1価のアニオンの前記ナトリウム塩および2価のアニオンの前記ナトリウム塩の分離ステップ(vii
)を経ることを特徴とする、請求項1~
10の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項12】
前記分離ステップ(vi)または前記分離ステップ(vii)が、ナノ濾過であることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の製造プロセス。
【請求項13】
前記分離ステップ(vi)および/または前記分離ステップ(vii)の完了時に収集される、1価のカチオンの
塩が、前記電気透析するステップ
(ii)および/または前記電気透析するステップ
(iii)に供給されることを特徴とする、請求項
10または
11の何れかに記載の製造プロセス。
【請求項14】
前記分離ステップ(vi)および/または前記分離ステップ(vii)の完了時に収集される、1価のカチオンの
塩が、少なくとも部分的に、前記処理するステップ(v)を経ることを特徴とする、請求項
10または
11の何れかに記載の製造プロセス。
【請求項15】
前記1価のカチオンの塩が、1価のカチオンの塩化物塩であることを特徴とする、請求項13または14に記載の製造プロセス。
【請求項16】
ステップ
(ii)における前記電気透析装置(5)が、1価のカチオンに対する選択透過性を有する少なくとも1つの膜(22,32)を備えることを特徴とする、請求項1~
15の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項17】
ステップ
(ii)における前記電気透析装置(5)の3-コンパートメント(20,26,30)ユニットセル(15)が、
1価のカチオンに対する選択透過性を有する膜(22)と、カチオン性膜(24)との間で区画された第1コンパートメント(20);
2つのカチオン性膜(24,28)の間で区画された第2コンパートメント(26);
カチオン性膜(28)と、1価のカチオンに対する選択透過性を有する膜(32)との間で区画された第3コンパートメント(30);
を備える少なくとも1つのユニットセル(15)を含むことを特徴とする、請求項1~
16の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項18】
ステップ
(ii)における前記電気透析装置(200)の3-コンパートメント(220,226,230)ユニットセル(215)が、
アニオン性膜(222)とカチオン性膜(224)との間で区画された第1コンパートメント(220);
2つのカチオン性膜(224,228)の間で区画された第2コンパートメント(226);および
カチオン性膜(228)とアニオン性膜(232)との間で区画された第3コンパートメント(230);
を備える少なくとも1つのユニットセル(215)を含むことを特徴とする、請求項1~
17の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項19】
前記第1コンパートメント(20,220)には、少なくとも1つの酸性
塩が供給され、前記第2コンパートメント(26,226)には、ステップ
(i)の前記乳タンパク質組成物(MPC)が供給され、第3コンパートメント(30,230)には、1価のカチオンの少なくとも1つの塩化物塩が供給されることを特徴とする、請求項
17または
18の何れかに記載の製造プロセス。
【請求項20】
前記少なくとも1つの酸性塩が、塩酸であることを特徴とする、請求項19に記載の製造プロセス。
【請求項21】
ステップ
(iii)における前記電気透析装置が、1価のアニオンに対する選択透過性を有する少なくとも1つの膜(37,49)を備えることを特徴とする、請求項1~
20の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項22】
ステップ
(iii)における前記電気透析装置の3-コンパートメント(39,43,47)ユニットセル(35)が、
1価のアニオンに対する選択透過性を有する膜(37)と、アニオン性膜(41)との間で区画された第1コンパートメント(39);
2つのアニオン性膜(41,45)の間で区画された第2コンパートメント(43);
アニオン性膜(45)と、1価のアニオンに対する選択透過性を有する膜(49)との間で区画された第3コンパートメント(47);
を備える少なくとも1つのユニットセル(35)を含むことを特徴とする、請求項1~
21の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項23】
ステップ
(iii)における前記電気透析装置(205)の3-コンパートメント(239,243,247)ユニットセル(235)が、
カチオン性膜(237)とアニオン性膜(241)との間で区画された第1コンパートメント(239);
2つのアニオン性膜(241,245)の間で区画された第2コンパートメント(243);
アニオン性膜(245)とカチオン性膜(249)との間で区画された第3コンパートメント(247);
を備える少なくとも1つのユニットセル(235)を含むことを特徴とする、請求項1~
22の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項24】
前記第1コンパートメント(39,239)には、少なくとも1つの塩基性
塩が供給され、前記第2コンパートメント(43,243)には、ステップ
(ii)で得られた部分的に脱ミネラルおよび酸性化された前記乳タンパク質組成物(MPC1)が供給され、前記第3コンパートメント(47,247)には、1価のカチオンの少なくとも1つの塩化物塩が供給されることを特徴とする、請求項
22または
23の何れかに記載の製造プロセス。
【請求項25】
前記少なくとも1つの塩基性塩が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項24に記載の製造プロセス。
【請求項26】
ステップ(ii)の後に、およびステップ(iii)の前に実行される熱処理ステップ(viii)(75,275)を含むことを特徴とする、請求項1~
25の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項27】
ステップ
(i)における前記乳タンパク質組成物(MPC)
が、ホエーであることを特徴とする、請求項1~
26の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項28】
ステップ(i)における前記乳タンパク質組成物(MPC)が、有機農業に由来するホエーであることを特徴とする、請求項27に記載の製造プロセス。
【請求項29】
ステップ
(i)における前記乳タンパク質組成物(MPC)
が、部分的に脱ミネラルされたホエーであることを特徴とする、請求項1~
28の何れか1項に記載の製造プロセス。
【請求項30】
ステップ(i)における前記乳タンパク質組成物(MPC)が、電気透析ステップ、ナノ濾過ステップ、逆浸透ステップ、エバポレーションステップ、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのステップを経たものであることを特徴とする、請求項29に記載の製造プロセス。
【請求項31】
請求項1~
30の何れか1項に記載の製造プロセスによって得ることができる、脱ミネラルされた乳タンパク質組成物(MPC2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳タンパク質組成物を脱ミネラルするためのプロセス、およびこのプロセスによって得られる乳タンパク質組成物、特に脱ミネラルホエーに関する。
【背景技術】
【0002】
乳タンパク質組成物は、ホエーであってもよい。ホエーは、乳の凝固から得られる液体部分である。ホエーは、酸媒体でのカゼインまたはフレッシュチーズの製造から得られるホエー(酸性ホエー)と、レンネットを用いたカゼインの製造から得られ、調理済みまたは半調理済みのチーズをプレスした場合のホエー(甘性ホエー)と、の2種類に区別される。
【0003】
ホエーは主に、水、ラクトース、タンパク質(特に血清タンパク質)、およびミネラルから構成されている。ラクトースおよびタンパク質の両方を分離することで、ホエーの価値を高めることができる。また、ホエータンパク質は乳児用調製乳の原料としても利用され得る。脱ミネラルしたホエー、特にラクトースは、菓子、ケーキ、アイスクリーム、惣菜、ペストリーなどの製造に使用され得る。
【0004】
ホエーは、ナノ濾過ステップを経て、電気透析および/またはカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を通過させることによって脱ミネラルされ得、70から90%、実際にはより高い脱ミネラル率を達成することができる。
【0005】
しかし、イオン交換樹脂は、大量の塩類を含む再生廃液を発生させるため、処理が困難でコストがかかる。
【0006】
同時に、初期の自然特性を保持し改変および/または変性されない、あるいはいかなる場合でも可能な限りほとんどそのままである食品加工業からの原材料を、消費者はますます求めている。さらに、外因性ミネラル種の存在を制限するまたは排除する乳製品の脱ミネラルプロセスも、求められている。実際、イオン交換樹脂は、処理されるべき組成物におけるミネラル種を外因性ミネラル種と交換することで機能する。しかし、イオン交換樹脂の1つ以上の通過(passages)を排除すると、高レベルに脱ミネラルされる(例えば70%、80%、または90%に脱ミネラルされる)乳タンパク質組成物の製造が困難になる。脱ミネラル化が他の処理システムに引き継がれると、ミネラル負荷が高いため、これらのシステムの膜がより早く目詰まりを起こすリスクがある。
【0007】
特許文献1(米国特許第4,971,701号明細書)には、電気分解技術を介して正と負に帯電したイオンを同時に抽出することを有するホエーの脱ミネラルプロセスが記載されている。このプロセスと、カチオンまたはアニオンの置換を可能にしてカチオンとアニオンの同時抽出ではなくするように構成された3-コンパートメント電気透析とは、混同されるべきでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、(アニオン性および/またはカチオン性の)イオン交換樹脂を使用せずに、乳タンパク質組成物を脱ミネラルするプロセスを提案することを目的とする。
【0010】
本発明はまた、乳タンパク質組成物への外因性ミネラル化合物の導入を制限するか、または排除する、乳タンパク質組成物を脱ミネラルするためのプロセスを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の開示)
本発明は、第1態様によれば、以下のステップ:
(i)乳タンパク質組成物を提供するステップ;
(ii)前記乳タンパク質組成物を電気透析装置で電気透析するステップであって、前記装置のユニットセルが、3つのコンパートメントを有し、かつ前記乳タンパク質組成物における少なくとも1つのカチオンを、少なくとも1つの水素イオンH+と置換して、少なくとも部分的に脱ミネラルされ酸性化された乳タンパク質組成物を得るように構成されている、ステップ;
(iii)ステップ(ii)で得られた前記乳タンパク質組成物を電気透析装置で電気透析するステップであって、前記装置のユニットセルが、3つのコンパートメントを有し、かつ前記乳タンパク質組成物における少なくとも1つのアニオンを、少なくとも1つのヒドロキシルイオンOH-と置換するように構成されている、ステップ;
(iv)脱ミネラルされた乳タンパク質組成物を得るステップ
を含むことを特徴とする、脱ミネラルされた乳タンパク質組成物の製造プロセスを主題とすることにより、上記の問題を克服する。
【0012】
一般に、電気透析では、塩、酸、塩基などの、溶解してイオン化したミネラルまたは有機種が、電流の作用でイオン膜を通って移送される。電気透析装置は、並列かつ交互に配置されるカチオン性(カチオン透過性)膜(MEC)および/またはアニオン性(アニオン透過性)膜(MEA)を備え得る。アノードおよびカソードによって印加される電界の作用下で、MECはアニオンを遮断してカチオンを透過させ、MEAはカチオンを遮断してアニオンを透過させる。このようにして、濃縮コンパートメント(濃縮)と脱塩コンパートメントが作製される。この最も一般的なタイプの電気透析は、基本的なユニットセルが2つのコンパートメントを備える電気透析である。このユニットセルは、濃縮と脱塩の操作の最小の繰り返しパターンに対応している(1つのコンパートメントが、1つの濃縮または脱塩に対応する)。溶液は、膜の平面に平行な循環によってコンパートメント内で更新される。電流の印加は、膜の平面に平行で電気透析装置の両端に配置されている2つの電極により実行される。
【0013】
有利なことに、本発明では、新規な様式で、電気透析装置は3つのコンパートメントを有し、さらにイオンの置換が可能である。したがって、ステップii)およびiii)の電気透析装置は、脱塩コンパートメント(イオンが消失する)および濃縮コンパートメント(イオンが蓄積する)に加えて、ステップii)の場合はカチオンの、ステップiii)の場合はアニオンの変換コンパートメントを備える。
【0014】
ステップii)で得られた乳タンパク質組成物(MPC)は、カチオンが枯渇して酸性化(pH低下)し、一方、ステップiii)で得られた乳タンパク質組成物は、アニオンが枯渇(pH上昇)する。ステップii)とiii)を組み合わせることで、カチオン性脱ミネラル化に続いてアニオン性脱ミネラル化を実行することができ、これらのステップii)およびiii)は、それぞれカチオン性置換およびアニオン性置換に対応している。もたらされる脱ミネラル化は強力で、70%以上、特に75%以上、80%以上、さらには85%以上、特に90%以上の脱ミネラル率に達する可能性がある。
【0015】
有利なことに、本発明によるプロセスは、処理されるべき再生廃液を生成せず、外因性の酸および塩基を消費しないか、または以下の異なる変形例によればほとんど消費しないので、汚染が少ない。このプロセスは、環境効率がよいと言える。
【0016】
ステップii)で得られる乳タンパク質組成物は、特にステップi)のMPCのタンパク質(特に血清タンパク質)の等電点以下、特に6以下、好ましくは4以下の、酸性のpHを有する。
【0017】
この条件により、微生物学的安定性の制御が促進される。さらに、前記乳タンパク質組成物は、非酸性環境で適用される条件とは異なる温度および期間の条件で熱処理され得、これによりタンパク質の変性が制限される。そのため、乳タンパク質の分解が有利に抑えられる。
【0018】
有利には、特に、処理された組成物の少なくとも1つの有機酸のpKa以上になるように、ステップiii)においてpHを上昇させることで、前記有機酸のアニオン性形態を得ることが可能になり、その結果、ステップiii)においてアニオン性膜を介してそれを抽出することができる。
【0019】
好ましくは、ステップii)および/またはステップiii)における前記乳タンパク質組成物の温度は、40℃以下、特に0℃超である。
【0020】
ステップiii)の後、特にステップiv)における乳タンパク質組成物は、6以上、特に6.2以上、より特に8以下のpHを有する。
【0021】
(乳タンパク質組成物)
好ましくは、前記乳タンパク質組成物は、例えば甘性ホエーもしくは酸性ホエーなどのホエー、またはそれらの混合物;乳の限外濾過透過物;乳の精密濾過透過物;ホエーの限外濾過保持物もしくは透過物;乳の精密濾過透過物の限外濾過保持物もしくは透過物;またはそれらの混合物(リストI)から選択される。
【0022】
好ましくは、前記甘性ホエーおよび/または酸性ホエーは、粗製(raw)である、すなわち、それらのホエーは、それらのミネラル負荷を低減するためのいかなる操作も受けていない。したがって、正確に言及されていないホエーは、粗製または部分的に脱ミネラルされている可能性がある。
【0023】
甘性ホエーは、前記カゼインおよび前記甘性ホエーの両方を回収するために、特にレンネットを用いて乳を化学的に処理することによって、好ましくは得られる。
【0024】
酸性ホエーは、前記カゼインおよび前記酸性ホエーの両方を回収するために、特に乳酸および/または塩酸を用いて、乳を酸処理することによって、好ましくは得られる。
【0025】
粗製または部分的に脱ミネラルされたホエーは、機械的に(例えば逆浸透もしくはナノ濾過またはそれらの組み合わせによって)または熱的に(例えば蒸発によって)事前濃縮され得る。粗製の酸性ホエーおよび/または粗製の甘性ホエーおよび/または乳の精密濾過透過物は、0%より大きく約6%(±10%)以下の乾燥抽出物を有する。粗製のホエーおよび/または乳の精密濾過透過物は、約18%(±10%)以上および約22%(±10%)以下の乾燥抽出物をもたらすように、上記で定義されたような濃縮ステップを経てもよい。
【0026】
本発明による乳タンパク質組成物は、使用時には液体である。それは、特に上記リストIから選択される粉末および/または液体からの液体溶液を再構成することによって得ることができる。
【0027】
好ましくは、ステップi)における前記乳タンパク質組成物は、部分的に脱ミネラルされている。この構成により、ステップii)および/またはステップiii)における3-コンパートメント電気透析装置のサイズ、すなわち活性膜表面が小さくなる。
【0028】
好ましくは、ステップi)における前記乳タンパク質組成物の脱ミネラル率は、30%以上、より好ましくは40%以上、優先的には50%以上、特に60%以上、特に70%以下である。
【0029】
好ましくは、ステップiv)で得られた前記乳タンパク質組成物の脱ミネラル率は、70%以上、特に85%以上、より具体的には90%(DM90)以上である。
【0030】
1つの実施形態では、前記乳タンパク質組成物は、質量で1%超、好ましくは5%以上、および10%以下の乾燥抽出物を有する。それは、例えば、非濃縮ホエーである。
【0031】
別の実施形態では、前記乳タンパク質組成物は、質量で10%以上、30%以下、好ましくは15%以上、25%以下の乾燥抽出物を有する。それは、例えば、濃縮ホエーである。前記ホエーの乾燥物の濃縮は、逆浸透、ナノ濾過、またはその他の熱濃縮法によって実行され得る。
【0032】
一般に、前記乳タンパク質組成物は、任意の乳用メス(dairy female)から得られてもよい。
【0033】
好ましくは、前記乳タンパク質組成物は、牛乳、ヤギの乳、羊の乳、ロバの乳、水牛の乳、雌馬の乳、またはそれらの混合物から選択される乳、さらに好ましくは、牛乳、ヤギの乳、および羊の乳またはそれらの混合物から選択される乳、特に牛乳である乳、から得られる。
【0034】
前記タンパク質組成物は、乳タンパク質、特に血清タンパク質を含む。
【0035】
前記ホエーは、血清タンパク質を含み、乳処理中にバルク(凝固)部分に、および/または乳精密濾過保持物中に残存するカゼインを含まない。
【0036】
好ましくは、前記粗製の甘性ホエーは、以下の特性のうちの1つを、単独でまたは組み合わせて有する:
・pHが5.8~6.5で構成されること;
・乾燥抽出物の質量に対するラクトースの質量の比率が、70%以上、特に74%以上であること;
・乾燥抽出物の質量に対するタンパク質の質量の比率が、10%以上、特に12%以上、特に30%以下であること;
・乾燥物の質量に対する灰分の質量の比率が、8%以上、特に10%以下であること;および
・乾燥抽出物の質量に対する有機酸の質量の比率が、2%以上、特に5%以下であること。
【0037】
好ましくは、前記粗製の酸性ホエーは、以下の特性のうちの1つを、単独でまたは組み合わせて有する:
・pHが5以下、特に4.5以下である;
・酸媒体でのチーズの製造から得られるホエーの場合、乾燥抽出物の質量に対するラクトースの質量の比率が、55%以上、特に65%以下であること;
・酸媒体でのカゼインの製造から得られるホエーの場合、乾燥物の質量に対するラクトースの質量の比率が、70%以上、特に85%以下であること;
・乾燥物の質量に対するタンパク質の質量の比率が、4%以上、特に12%以下であること;
・乾燥物の質量に対する灰分の質量の比率が、10%以上、特に15%以下であること;および
・乳酸媒体におけるチーズの製造から得られるホエーの場合、乾燥抽出物の質量に対する有機酸の質量の比率が、10%以上、特に20%以下であること;
・酸媒体におけるカゼインの製造から得られるホエーの場合、乾燥物の質量に対する有機酸の質量の比率が、2%以上、特に5%以下であること。
【0038】
脱ミネラルは、本質的に、乳タンパク質組成物中、特にホエー中に存在する灰分を全体的にまたは部分的に除去することから構成される。
【0039】
前記乳タンパク質組成物の灰分は、「乳-灰分の測定-参照方法(Milk-Determination of ash-Reference method)」と題され標準化された方法NF V04-208(1989年10月)を用いて測定され得る。
【0040】
本明細書において、質量での乾燥抽出物は、特に大気圧において、乳タンパク質組成物の総質量に基づいて安定した総乾燥質量が得られるまで水を蒸発させた後に得られる、乳タンパク質組成物の乾燥質量を意味すると理解される。前記質量での乾燥抽出物は、標準化された方法であるISO 6731:2011年1月、「乳、クリーム、および無糖練乳-乾燥物の測定(参照方法)(Milk,cream,and unsweetened condensed milk-Determination of dry matter(Reference method))」を用いて測定され得る。
【0041】
好ましくは、ステップi)における乳タンパク質組成物(またはMPC)は、1mS/cm以上、より好ましくは3mS/cm以上の導電性を有する。
【0042】
好ましくは、ステップiv)におけるMPCは、乾燥基準で2.5%以下、好ましくは1.5%以下の灰分を有する。
【0043】
好ましくは、前記乳タンパク質組成物は、以下のカチオン:カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムを含み、これらは特に、本発明による脱ミネラルプロセスの対象とされるカチオンである。
【0044】
好ましくは、前記乳タンパク質組成物は、以下のアニオン:塩化物、リン酸塩、硫酸塩、乳酸塩、酢酸塩、およびクエン酸塩を含み、これらは特に本発明による脱ミネラルプロセスの対象とされるアニオンである。
【0045】
1つの実施形態では、1価のカチオンおよび1価のアニオンは、ステップi)の前に、ナノ濾過または逆浸透ステップと、特にナノ濾過保持物に適用される2-コンパートメントの電気透析ステップとを含む事前の脱ミネラルステップにおいて、MPCから少なくとも部分的に抽出される。
【0046】
変形例では、製造プロセスは、以下の塩:
・電気透析するステップii)から直接得られる塩、
・電気透析するステップii)から間接的に得られる塩、
・電気透析するステップiii)から直接得られる塩、
・電気透析するステップiii)から間接的に得られる塩、
・ステップi)における乳タンパク質組成物に対して実行される事前の脱ミネラルステップからの塩、
・これらの混合物(a mixture of the latter)
から選択される塩、好ましくは塩化ナトリウム塩および/または塩化カリウム塩(NaCl、KCl)のうちの少なくとも一部を処理するステップ(v)を含み、
前記処理するステップ(v)は、一方で前記塩から1つ以上の酸、好ましくは塩酸および/または硫酸を生成し、他方で前記塩から1つ以上の塩基、好ましくは水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを生成するように構成される。
【0047】
前記塩がステップii)および/またはiii)および/またはi)から直接得られるということは、この塩(the latter)が以下に定義されるステップvi)またはvii)、特にナノ濾過ステップを経ていないことが理解される。
【0048】
塩がステップii)および/またはiii)および/またはi)から間接的に得られるということは、この塩(the latter)が以下に定義されるステップvi)またはvii)、特にナノ濾過ステップを経ていることが理解される。
【0049】
前記事前の脱ミネラルステップは、特にアニオン性および/またはカチオン性の選択透過膜を備える2-コンパートメント電気透析装置での電気透析のステップからなる/から構成される。この場合、ステップii)および/またはiii)で使用される塩は、有利なことに、少なくとも部分的に乳タンパク質組成物自体から得られる。
【0050】
本発明によるプロセスで使用される塩は、好ましくは、1価のカチオンの塩化物;2価のカチオンの塩化物;特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム;1価のカチオンの硫酸塩、2価のカチオンの硫酸塩;特に硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム;1価のカチオンのリン酸塩、2価のカチオンのリン酸塩;特にリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、およびそれらの混合物から選択される。
【0051】
好ましくは、ステップii)(特にカチオン性置換)は、2つのカチオン性膜の間で前記乳タンパク質組成物を循環させることを含み、特に、前記乳タンパク質組成物が循環するコンパートメントは、2つのカチオン性膜の間で区画されている。
【0052】
好ましくは、ステップiii)(特にアニオン性置換)は、2つのアニオン性膜の間で前記乳タンパク質組成物を循環させることを含み、特に、前記乳タンパク質組成物が循環するコンパートメントは、2つのアニオン性膜の間で区画されている。
【0053】
変形例では、前記処理するステップ(v)は、バイポーラ膜電気透析装置で実施される電気透析ステップから構成される。
【0054】
バイポーラ膜は、親水性接合部で隔てられたカチオン交換層およびアニオン交換層によって構成される。
【0055】
変形例では、ステップ(v)において、前記バイポーラ膜電気透析装置は、3つのコンパートメントA、BおよびCを有するユニットセルを備え、コンパートメントAおよびBには水が供給され、コンパートメントAおよびBの間に配置されたコンパートメントCには、1つ以上の塩、特に塩化ナトリウム塩および/または塩化カリウム塩(NaClおよび/またはKCl)が供給される。
【0056】
1つの実施形態では、ステップv)における前記電気透析装置のユニットセルはそれぞれ、バイポーラ膜とアニオン性膜との間で区画された第1コンパートメント、アニオン性膜とカチオン性膜との間で区画された第2コンパートメント、およびカチオン性膜とバイポーラ膜との間で区画された第3コンパートメントを備える。
【0057】
好ましくは、第1コンパートメントおよび第3コンパートメントには水が供給され、第1コンパートメントと第3コンパートメントとの間に配置された第2コンパートメントには塩が供給される。
【0058】
有利には、ステップv)、特にバイポーラ膜電気透析ステップv)では、ステップii)および/またはiii)、特にそれぞれの第1または第3コンパートメント(ステップii)および/またはiii)において、以下に定義される選択透過膜が使用されるかどうかに応じて)から生じる塩の流れ(flows)から、酸(特に塩酸および/または硫酸)、および塩基(特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウム)が生成される。
【0059】
この構成により、前記乳タンパク質組成物自体からの酸性塩または塩基性塩を用いて電気透析するステップii)および/またはiii)を実行することが可能になる。このプロセスにより、外因性ミネラル化合物の導入を排除するか、または少なくとも非常に大幅に削減することが可能になる。
【0060】
前記塩、特に塩化ナトリウム塩は、部分的には、ステップi)で前記乳タンパク質組成物に適用される事前の脱ミネラルステップ、特にナノ濾過および/または電気透析(2つのコンパートメント)ステップから生じ得る。
【0061】
変形例では、処理するステップ(v)で得られる塩、特に塩酸および/または硫酸の少なくとも一部が、ステップii)における電気透析装置の3つのコンパートメントのうちの1つに供給される。
【0062】
変形例では、処理するステップ(v)で得られる塩、特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムの少なくとも一部が、ステップiii)における電気透析装置の3つのコンパートメントのうちの1つに供給される。
【0063】
変形例では、電気透析するステップii)において、塩化ナトリウム塩および/または塩化カリウム塩などの1価のカチオンの少なくとも1つの塩化物塩と、塩化カルシウム(CaCl2)塩などの2価のカチオンの少なくとも1つの塩化物塩とを含む混合物が生成され、前記混合物は、1価のカチオンの前記塩化物塩および2価のカチオンの前記塩化物塩の分離ステップ(vi)、特にナノ濾過ステップを経る。
【0064】
変形例では、本発明によるプロセスは、ステップii)で得られ、少なくとも部分的に脱ミネラルおよび酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)を、2-コンパートメントユニットセルを備える電気透析装置で、ステップiii)の前に電気透析するステップ、を含む。前記電気透析装置は、複数のセル、例えば、少なくとも5つのセルを備える。第1実施形態では、前記電気透析装置は、カチオン性膜とアニオン性膜との間で区画された第1コンパートメントと、アニオン性膜(特に第1コンパートメントのもの)とカチオン性膜(特に第1コンパートメントのもの)との間で区画された第2コンパートメントと、を有する少なくとも1つのユニットセルを備える。好ましくは、前記第1コンパートメントには、ステップii)で得られた部分的に脱ミネラルされ酸性化された乳タンパク質組成物(MPC1)が供給される。好ましくは、前記第2コンパートメントには水が供給される。
【0065】
このステップは、有利には、MPC1におけるアニオンとカチオンの両方を抽出することを可能にする。
【0066】
この中間的な電気透析ステップ、特にESC(ii)とESA(iii)との間のステップは、ステップiii)において、電気透析装置のサイズ(すなわち、セルの数)を減らすことを可能にする。
【0067】
ステップii)とiii)との間で行われるこの中間の2-コンパートメント電気透析ステップはまた、90%を超えるカチオンおよびアニオン除去率を達成することを可能にする。
【0068】
2-コンパートメント電気透析装置での中間電気透析ステップは、本文中に記載の熱処理ステップviii)の前または後に実行され得る。
【0069】
変形例において、前記電気透析するステップiii)では、1価のアニオンの少なくとも1つのナトリウム塩および2価のアニオンの少なくとも1つのナトリウム塩、特に塩化ナトリウム(NaCl)塩およびリン酸ナトリウム塩、を含む混合物が生成され、この混合物は、1価のアニオンの前記ナトリウム塩の、および2価のアニオンの前記ナトリウム塩の分離ステップ(vii)、特にナノ濾過ステップを経る。
【0070】
これらのステップvi)および/またはvii)では、特にステップii)およびiii)が選択透過膜なしで実行される場合に、膜上、特にステップv)のバイポーラ電気透析のカチオン性膜上での2価のカチオン(特にカルシウムおよび/またはマグネシウム)の析出を回避することによって、バイポーラ膜電気透析を完了することが可能になる。
【0071】
変形例では、分離ステップ(vi)および/または分離ステップ(vii)の完了時に収集される、1価のカチオンの塩、特に1価のカチオンの塩化物塩、好ましくは塩化ナトリウムが、電気透析するステップii)および/または電気透析するステップiii)に供給される。
【0072】
この構成は、特に、ステップ(ii)および(iii)が以下に定義されるような選択透過膜で実行される場合に適用される。
【0073】
変形例では、分離ステップ(vi)および/または分離ステップ(vii)の完了時に収集される1価のカチオンの塩、特に1価のカチオンの塩化物塩、好ましくは塩化ナトリウムが、少なくとも部分的に処理ステップ(v)を経る。
【0074】
この構成は、特に、ステップ(ii)および(iii)が以下に定義されるような選択透過膜なしで実行される場合に適用される。
【0075】
変形例では、ステップii)における電気透析装置は、1価のカチオンに対する選択透過性を有する少なくとも1つの膜を備える。
【0076】
このように、1価のカチオン(または1価のアニオン)に対する選択透過性を有する膜は、1価のカチオン(または1価のアニオン)のみ通過が通過し、1より大きい原子価、特に2価を有する、アニオン(またはカチオン)およびカチオン(またはアニオン)は通過しない。
【0077】
変形例では、ステップii)における電気透析装置の3-コンパートメントユニットセルは、少なくとも1つのユニットセルを含み、好ましくは、前記ユニットセルの各々は、以下:
・1価のカチオンに対する選択透過性を有する膜と、カチオン性膜との間で区画された第1コンパートメント;
・2つのカチオン性膜の間で区画された第2コンパートメント;および
・カチオン性膜と、1価のカチオンに対する選択透過性を有する膜との間で区画された第3コンパートメント、を備える。
【0078】
別の変形例では、ステップii)における電気透析装置の3-コンパートメントユニットセルは、少なくとも1つのユニットセルを備え、好ましくは、各ユニットセルは、以下:
・アニオン性膜とカチオン性膜との間で区画された第1コンパートメント;
・2つのカチオン性膜の間で区画された第2コンパートメント;および
・カチオン性膜とアニオン性膜との間で区画された第3コンパートメント、を備える。
【0079】
カチオン置換のステップ(ii)は、このようにして、選択透過膜を用いて、または用いずに実行され得る。
【0080】
(上記ステップiiの変形の)亜変形(sub-variant)では、第1コンパートメントには少なくとも1つの酸性塩、好ましくは塩酸塩が供給され、第2コンパートメントにはステップi)の乳タンパク質組成物が供給され、第3コンパートメントには1価のカチオンの、好ましくはナトリウムの少なくとも1つの塩化物塩が供給される。
【0081】
変形例では、ステップiii)の電気透析装置は、1価のアニオンに対する選択透過性を有する少なくとも1つの膜を備える。
【0082】
このように、1価のアニオンに対して選択透過性を有する膜は、1価のアニオンのみが通過し、1より高い原子価、特に2価の原子価を有するカチオンおよびアニオン、または90(ダルトン、すなわち分子を構成する様々な原子の原子量の合計)以上の分子量を有するカチオンおよびアニオンは通過しない。
【0083】
変形例では、ステップiii)の電気透析装置の3-コンパートメントユニットセルは、少なくとも1つのユニットセルから構成され、好ましくは、各ユニットセルは、以下:
・1価のアニオンに対する選択透過性を有する膜と、アニオン性膜との間で区画された第1コンパートメント;
・2つのアニオン性膜の間で区画された第2コンパートメント;
・アニオン性膜と、1価のアニオンに対する選択透過性を有する膜との間で区画された第3コンパートメント、を備える。
【0084】
別の変形例では、ステップiii)における電気透析装置の3-コンパートメントユニットセルは、少なくとも1つのユニットセルを備え、好ましくは、各ユニットセルは、以下:
・カチオン性膜とアニオン性膜との間で区画された第1コンパートメント;
・2つのアニオン性膜の間で区画された第2コンパートメント;および
・アニオン性膜とカチオン性膜との間で区画された第3コンパートメント、を備える。
【0085】
アニオン性置換のステップ(iii)は、このようにして、選択透過膜を用いて、または用いずに実行され得る。
【0086】
(上記ステップiiiの変形の)亜変形では、第1コンパートメントには少なくとも1つの塩基性塩、好ましくは水酸化ナトリウム塩が供給され、第2コンパートメントにステップii)で得られた部分的に脱ミネラルおよび酸性化された乳タンパク質組成物が供給され、第3コンパートメントには、1価のカチオンの、好ましくはナトリウムの、少なくとも1つの塩化物塩が供給される。
【0087】
変形例では、本プロセスは、ステップ(ii)の後に、およびステップ(iii)の前に実行される熱処理ステップ(viii)を含む。
【0088】
好ましくは、このステップ(viii)において、前記乳タンパク質組成物は、5秒以上かつ10分以下の時間の間、70℃以上かつ110℃以下の温度の状態を有する。
【0089】
前記乳タンパク質組成物の酸性媒体により、芽胞菌(spore germs)などの、破壊がより困難なものを含む細菌の排除が促進される。
【0090】
変形例では、ステップi)における前記乳タンパク質組成物は、特に有機農業に由来するホエーである。
【0091】
変形例では、ステップi)における乳タンパク質組成物は、特に電気透析ステップ、ナノ濾過ステップ、逆浸透ステップ、エバポレーションステップ、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのステップを経た、部分的に脱ミネラルされたホエーである。
【0092】
これらのステップはまた、MPCを濃縮する、すなわち、その乾燥抽出物の質量を増加させる。
【0093】
本発明の主題は、第2態様によれば、本発明の第1態様を参照して定義される実施形態の変形の何れかによる製造プロセスによって得ることができる、脱ミネラルされた乳タンパク質組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【
図1】脱ミネラルされた乳タンパク質組成物の製造プロセスの第1例の様々なステップを概略的に表した図である。
【
図2】本発明による処理ステップv)の例、特に
図1および
図3に示す第1および第2例のプロセスで実施されるバイポーラ膜電気透析装置のユニットセルを概略的に表した図である。
【
図3】脱ミネラルされた乳タンパク質組成物の製造プロセスの第2例の様々なステップを概略的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0095】
(実施形態の説明)
図1に示される脱ミネラルされた乳タンパク質組成物の製造プロセスの第1例は、2つの電気透析装置5,10を含み、それらの装置のユニットセル15,35は、3つのコンパートメントを有する。
図1には、電気透析装置5の単一のユニットセル15が示されている。このユニットセル15は、カチオン性選択透過膜22とカチオン性膜24との間で区画された第1コンパートメント20と、カチオン性膜24とカチオン性膜28との間で区画された第2コンパートメント26と、カチオン性膜28とカチオン性選択透過膜32との間で区画された第3コンパートメント30と、を備える。
図1には、電気透析装置10の単一のユニットセル35が示されている。このユニットセル35は、アニオン性選択透過膜37とアニオン性膜41との間で区画された第1コンパートメント39と、アニオン性膜41とアニオン性膜45との間で区画された第2コンパートメント43と、アニオン性膜45とアニオン性選択透過膜49との間で区画された第3コンパートメント47と、を備える。カチオン性選択透過膜22および32は、1価のカチオンのみが通過でき、選択透過膜37および49は、1価のアニオンのみが通過できる。電気透析装置5および10はそれぞれ、ユニットセル15および35のコンパートメントを通る導電性溶液を介して電流を発生させるカソード(80,88)およびアノード(78,90)を備えている。また、当該プロセスは、ステップvi)を実行するための第1ナノ濾過装置50、ステップvii)を実行するための第2ナノ濾過装置60、およびステップv)を実行するための、
図2に詳述されている3-コンパートメントバイポーラ膜電気透析装置70を含む。また、この第1例のプロセスは、熱処理ステップviii)を実行するための熱処理装置75を含む。
【0096】
操作において、乳タンパク質組成物MPC、特に少なくとも50%に脱ミネラルされたホエーがステップi)で供給され、次に電気透析装置5の第2コンパートメント26に供給される。同時に、酸性化された塩、特に塩酸溶液が第1コンパートメント20に供給され、ブライン(brine)、特に塩化ナトリウム塩が第3コンパートメント30に供給される。H+イオンは、カチオン性膜24を通過し、第3コンパートメント30由来のNa+イオンと置き換わり、電界の影響下で選択透過膜32または選択透過膜22を通過する。1価および/または2価のカチオン、特にNa+イオンおよびCa2+イオンは、電界の影響下で、カソード80の方向にカチオン性膜28を通過し、第1コンパートメント20由来のH+イオンと置き換わる。このようにして、ステップi)で得られたMPC1の乳タンパク質組成物は、部分的に脱ミネラルされ、カチオンがH+によって置換され、酸性化される。MPC1のpHは、4以下である。第3コンパートメント30は、乳タンパク質組成物MPCに由来する塩化物塩、特に塩化カルシウム塩(CaCl2)および塩化ナトリウム塩(NaCl)の混合物を含む。このようにして、1価のイオン(例えば、Na+;K+)は、カチオン性選択透過膜22またはカチオン性選択透過膜32を通過して第1コンパートメント20に供給される一方、2価のイオン(例えば、Ca2+)は第3コンパートメント30に残る。
【0097】
酸性化された乳タンパク質組成物MPC1は、その細菌学的安定性を改善するために、ステップviii)において、熱処理を受ける(90℃、数分間)。有利には、組成物MPC1は酸性化されているので、熱処理条件は通常よりも厳しく、タンパク質が変化しないように規定され得る。
【0098】
第3コンパートメント30に由来する塩の混合物は、塩化カルシウムCaCl2などの2価の塩の保持によって第3コンパートメント30に由来する塩化ナトリウム塩の純度を高めるために、ナノ濾過ユニット50でナノ濾過ステップvi)を経てもよい。こうして精製された塩化ナトリウム塩は、第3コンパートメント30に供給される。
【0099】
特に低温殺菌された組成物MPC1は、電気透析装置10において第2電気透析ステップiii)を経る。第1コンパートメント39には、ステップv)から水酸化ナトリウムなどの塩基性塩が供給される。OH-イオンの移動度がCl-イオンの移動度よりも大きくて、OH-イオンは、アニオン性膜41を通過し、第1コンパートメント39から生じて電界の影響下でアニオン性選択透過膜49または37を通過したCl-イオンと、置き換わる。熱処理されて酸性化された組成物MPC1が供給される第2コンパートメント43では、残留アニオン(塩化物、硫酸塩、リン酸塩)が、アノード90の方向に電界の影響下でアニオン性膜45を通過し、第1コンパートメント39からのOH-イオンによって置換される。よって、ステップiv)で得られた組成物MPC2は、脱ミネラルおよび脱酸される。第3コンパートメント47では、塩化ナトリウム塩および塩化カリウム塩(NaCl,KCl)とリン酸塩の混合物がMPC1から得られる。塩化物イオンは、アニオン性選択膜49を通過し第1コンパートメント39に供給される一方、2価のイオン、特にリン酸イオンは、アニオン性選択透過膜49によって第3コンパートメント47で遮断される。
【0100】
第3コンパートメント47から生じる塩は、リン酸イオンの保持によって第3コンパートメント47から生じる塩化ナトリウム塩の純度を高めるために、ナノ濾過のステップvii)を経てもよい。
【0101】
この第1例のプロセスはまた、3-コンパートメントバイポーラ膜電気透析ユニット70で塩化ナトリウム塩を処理するステップv)を含み、カチオンおよびアニオン電気透析ステップii)およびiii)の第1コンパートメント20および39から生じたNaClの流れからの、および任意にステップi)の組成物MPCに対して上流で実施された事前の脱ミネラルステップから生じたNaClからの、および/または食品グレードのNaClからの、酸(主にHCl)および塩基(主に水酸化ナトリウム)の再生を可能にする。前記事前の脱ミネラルステップは、好ましくは、ナノ濾過ステップと、それに続くナノ濾過保持物に適用される2-コンパートメント電気透析ステップとからなる。ステップv)の開始時に使用される塩を除いて、電気透析ステップii)およびiii)の実行に使用される酸性塩および塩基性塩は、乳タンパク質組成物MPC1から生じ、これにより外因性ミネラル化合物の導入が回避される。
【0102】
図2は、電気透析装置70、およびそのユニットセル105を示し、このユニットセル105は、バイポーラ膜112とアニオン性膜114との間で区画された第1コンパートメント110と、アニオン性膜114とカチオン性膜118との間で区画された第2コンパートメント116と、カチオン性膜118とバイポーラ膜122との間で区画された第3コンパートメント120と、を備える。第2コンパートメント116には、塩、特に塩化ナトリウムまたは塩化カリウムが供給される。塩化物イオンは、電界の影響下でアニオン性膜114を通過してアノード125に向かい、一方、Na
+、K
+イオンは、電界の影響下でカチオン性膜を通過してカソード127に向かう。このステップv)により、酸性塩および塩基性塩、特に塩酸および水酸化ナトリウムを再生することができ、これらのうち、酸性塩についてはステップii)のユニットセル15の第1コンパートメントに、塩基性塩についてはステップiii)のユニットセル35の第1コンパートメントに供給される。
【0103】
図3に示す脱ミネラルされた乳タンパク質組成物の第2例の製造プロセスは、2つの電気透析装置200および205を含み、それらの装置のユニットセル(215,235)は3つのコンパートメントを有する。
図3には、電気透析装置200の単一のユニットセル215が示されている。このユニットセル215は、アニオン性膜222とカチオン性膜224との間に区画された第1コンパートメント220と、カチオン性膜224とカチオン性膜228との間に区画された第2コンパートメント226と、カチオン性膜228とアニオン性膜232との間に区画された第3コンパートメント230とを備える。また、
図3には、電気透析装置205の単一のユニットセル235が示されている。このユニットセル235は、カチオン性膜237とアニオン性膜241との間に区画された第1コンパートメント239と、アニオン性膜241とアニオン性膜245との間に区画された第2コンパートメント243と、アニオン性膜245とカチオン性膜249との間に区画された第3コンパートメント247とを備える。電気透析装置200および205はそれぞれ、ユニットセル215および235のコンパートメントを通る導電性溶液を介して電流を生成するアノード(278,290)およびカソード(280,288)を備える。また、このプロセスは、ステップvi)を実行するための第1ナノ濾過装置250、ステップvii)を実行するための第2ナノ濾過装置260、およびステップv)を実行するための、
図2に詳述されている3-コンパートメントバイポーラ膜電気透析装置70を含む。さらに、このプロセスは、熱処理ステップviii)を実行するための熱処理装置275を含む。
【0104】
操作において、乳タンパク質組成物MPC、特に少なくとも50%に脱ミネラルされたホエーが、電気透析装置200の第2コンパートメント226に供給される。同時に、酸性化された塩、特に塩酸溶液が第1コンパートメント220に供給され、ブライン、特に塩化ナトリウム塩および塩化カリウム塩が第3コンパートメント230に供給される。H+イオンのみがカチオン性膜224を通過してカソード280に向かって第2コンパートメント226に入り、塩化物イオンはアニオン性膜232を通過してアノード278に向かって第3コンパートメント230に入る。第2コンパートメント226では、Na+およびCa2+などの1価または2価のカチオンが、電界の影響下で、カソード280の方向にカチオン性膜228を通過し、第1コンパートメント220からのH+イオンと置換される。このようにして、ステップii)で得られたMPC1の乳タンパク質組成物は、部分的に脱ミネラルされ、カチオンがH+イオンによって置換され、酸性化される。MPC1のpHは4以下である。第3コンパートメント230は、乳タンパク質組成物MPCから生じるCaCl2とNaClの混合物を含む。第1コンパートメント220からの塩化物イオンは、アニオン膜222または232を通過して第3コンパートメント230に供給される。
【0105】
酸性化された乳タンパク質組成物MPC1は、細菌学的安定性を向上させるために、ステップviii)において熱処理、特に熱処理ステップ(90℃,数分間)を経る。有利には、組成物MPC1が酸性化されているので、タンパク質が変化しないように熱処理の条件が、規定され得る。
【0106】
第3コンパートメント230から生じる塩混合物は、塩化カルシウムCaCl2などの2価の塩を除去することによって、第3コンパートメント230から生じる塩化ナトリウム塩の純度を高めるために、ナノ濾過ユニット250でナノ濾過ステップvi)を経てもよい。このステップでは、任意に、ステップv)の3~5ppmのインプット仕様を達成するために、キレート樹脂の操作を後続させてもよい。
【0107】
特に熱処理された組成物MPC1は、電気透析装置205で第2電気透析ステップiii)を経る。第1コンパートメント239には、ステップv)から、水酸化ナトリウムなどの塩基性塩が供給される。OH-イオンは、第2コンパートメント243に向かってアニオン性膜241を通過し、Na+イオンは、第3コンパートメント247に向かってカチオン性膜249を通過する。第2コンパートメント243では、塩化物およびリン酸塩などの酸性化され熱処理されたMPC1からの残留アニオンが、電界の影響下で、アノード290に向かってアニオン性膜245を通過し、第1コンパートメント239からのヒドロキシルイオンOH-によって置換される。得られたMPC2の組成物は、ステップiv)において脱ミネラルおよび脱酸される。第3コンパートメント247では、塩化カリウム塩および塩化ナトリウム塩、リン酸塩、硫酸塩を含む1価のカチオンの塩化物塩の混合物がMPC1から得られる。塩化物、リン酸塩、硫酸塩などの1価または2価のアニオンは、アニオン膜245を通過し、第3コンパートメント247に供給される。
【0108】
第3コンパートメント247からの塩は、リン酸イオンを抽出することによって、第3コンパートメント247から生じる塩化ナトリウム塩の純度を高めるために、ナノ濾過ステップvii)を経てもよい。
【0109】
この第2例のプロセスはまた、NaClの流れがステップvi)およびvii)のナノ濾過ステップを事前に経ているため、カチオンおよびアニオン電気透析のステップii)およびiii)の第3コンパートメント230および247から間接的に得られたNaClの流れからの酸(主にHCl)および塩基(主に水酸化ナトリウム)の再生を可能にする3-コンパートメントバイポーラ膜電気透析ユニット70で、塩化ナトリウム塩を処理するステップv)を、含む。前記NaClの流れは、ステップii)およびiii)から得られたものと混合されているか否かにかかわらず、ステップi)のMPC組成物に対して上流で実施された事前の脱ミネラルステップからのNaCl、および/または食品グレードのNaClから得られ得る。前記事前の脱ミネラルステップは、好ましくは、ナノ濾過ステップと、それに続くナノ濾過保持物に適用される2-コンパートメントの電気透析ステップと、からなる。ii)およびiii)ステップの開始時に使用される塩を除いて、v)ステップのおかげで、電気透析ステップii)およびiii)の実施に使用される酸性塩および塩基性塩は乳タンパク質組成物MPC1から生じ、これにより外因性ミネラル化合物の導入が回避される。
【0110】
第2例のプロセスは、ステップii)およびiii)が選択透過膜を含まない点、およびバイポーラ膜電気透析によって処理されたNaClの流れが電気透析装置200および205から直接得られるのではなく、ステップvi)またはvii)に対応する中間ナノ濾過ステップを経る点で、第1例とは異なる。
【0111】
カチオン置換ステップii)は、電気透析装置5(
図1)または200(
図3)の何れかで実施され得る。
【0112】
アニオン性置換ステップiii)は、電気透析装置10(
図1)または205(
図3)の何れかで実施され得る。
【実施例】
【0113】
以下に記載する試験を実施するために、脱ミネラル水に乾燥質量16%の甘性ホエーパウダー(粗製)の分散液を調製して、乳タンパク質組成物MPCを作成した。この分散液を、均質な混合物が得られるまで機械的に撹拌する。このようにして得られたMPCのパラメータは以下の通りである:乾燥物中の質量比率:15.9%(粉末質量/全質量)、pH=5.95、初期導電率=10.95mS/cm、質量での灰分含有率=8.1%、質量でのラクトース含有率=73.5%、質量でのカチオン含有率(特にNa,NH4,K、Ca、Mg)=3.79%、質量でのアニオン含有率(特にCl,NO3,PO4,SO4):3.64%、各種質量比率(乾燥物中のものを除く)は、1つ以上の化合物の合計質量を乾燥物の合計質量と結びつけることによって計算される。
【0114】
1-電気透析装置200でのカチオン置換(
図3)
電気透析装置200は、例えば、5から15個のセル215で構成される。第1コンパートメント220には、100mS/cm以上、特に150mS/cm以上の導電率を有するHCl溶液が供給される。第2コンパートメント226には、上記で例示したMPCが供給される。第3コンパートメントには、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、この具体例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が供給される。電気透析装置200には、1アンペア以上、特に2アンペア以下の電流(I)が印加され、電圧は好ましくはフリーである。電気透析ii)の間、MPCの導電率は減少してその脱ミネラル化を示し、その後、その構成物であるカチオンがH
+イオンに置換されるので、増加する。得られたMPC1のpHは1のオーダーであり、MPC1の導電率は約12mS/cmである。第1コンパートメント220の出口での酸性溶液、すなわちHClの導電率は約74%低下し、第3コンパートメント230の出口で得られるブライン、すなわちNaClの導電率は約234%上昇する。カチオン除去率は約84%である。
【0115】
2-電気透析装置5でのカチオン置換(
図1)
電気透析装置5は、例えば、5~15個のセル15から構成される。第1コンパートメント20には、100mS/cm以上、特に150mS/cm以上の導電率を有するHCl溶液が供給される。第2コンパートメント26には、上記で例示したMPCが供給される。第3コンパートメントには、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、本具体例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が供給される。電気透析装置5には、1アンペア以上、特に2アンペア以下の電流(I)が印加され、電圧は好ましくはフリーである。電気透析ii)の開始時には、MPCの導電率は減少してその脱ミネラル化を示し、その後、その構成物であるカチオンがH
+イオンに置換されるので、増加する。酸性コンパートメント20では、H
+イオンが枯渇し、導電性の低いNaClが生成されるので、導電率が低下する。MPCから抽出されたカチオンは、NaClよりも導電性の高い多価のカチオンが豊富なブラインコンパートメント30に移行する。得られたMPC1のpHは1のオーダーであり、MPC1の導電率は約12mS/cmである。第1コンパートメント220の出口における酸溶液の導電率は約35%低下し、第3コンパートメント30の出口で得られるブラインの導電率は約25%上昇している。カチオン除去率は約82%である。
【0116】
ステップiii)の実施のために、使用されるMPC1は、電気透析装置5または200からのものの何れかであってもよく、なぜなら、それらの電気透析装置は、カチオン除去率に関して同一の性能を有するためである。
【0117】
3-電気透析装置205でのアニオン置換(
図3)
電気透析装置205は、例えば、5~15個のセル235から構成される。第1コンパートメント239には、30mS/cm以上、特に50mS/cm以上の導電率を有するNaOH溶液が供給される。第2コンパートメント243には、上記で得られたMPC1が供給される。第3コンパートメント247には、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、この具体例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が供給される。電気透析装置205には、1アンペア以上、特に2アンペア以下の電流(I)が印加され、電圧は好ましくはフリーである。電気透析iii)の間、MPC1の導電率は減少し、その脱ミネラル化を示す。得られたMPC2のpHは6よりも大きく、この具体例では7.7のオーダーであり、MPC2の導電率は約1mS/cmである。第1コンパートメント239の出口における塩基性溶液、すなわちNaOHの導電率は約120%低下し、第3コンパートメント247の出口で得られるブラインの導電率は約126%上昇する。アニオン除去率は約98%である。MPC2に達するまでのMPCの導電率の低下は、85%である。
【0118】
4-電気透析装置10でのアニオン置換(
図1)
電気透析装置10は、例えば、5から15個のセル35から構成される。第1コンパートメント39には、30mS/cm以上、特に50mS/cm以上、この具体例では80mS/cm以上の導電率を有するNaOH溶液が供給される。第2コンパートメント43には、上記のMPC1が供給される。第3コンパートメント47には、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、この具体例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が供給される。電気透析装置10には、1アンペア以上、特に2アンペア以下の電流(I)が印加され、電圧は好ましくはフリーである。電気透析iii)の間、MPC1の導電率は低下し、その脱ミネラル化を示す。得られたMPC2のpHは6以上、7のオーダーであり、MPC2の導電率は約2mS/cmである。第1コンパートメント39の出口における塩基性溶液の導電率は約21%低下し、第3コンパートメント47の出口で得られるブラインの導電率は25%低下している。アニオンの除去率は約84%である。MPC2に到達するまでのMPCの導電率低下率は77%である。
【0119】
所望の脱ミネラル率に応じて、例えば、上記の例示されたポイント1または2によるカチオン性置換と、上記の例示されたポイント3によるアニオン性置換とを組み合わせることによって、上記の例示されたMPCから出発して、乾燥物(DM)について1.5%より低い灰分率で、90%の脱ミネラル率に達することが可能である。
【0120】
開始のMPCがすでに部分的に脱ミネラルされている可能性もあり、このことにより、上記項目4による例示的なアニオン性置換と本発明によるカチオン性置換とを組み合わせることが可能になる。
【0121】
以下に記載する試験のために、脱ミネラル水に乾燥質量17%の甘性ホエイパウダー(粗製)の分散液を調製することにより、乳タンパク質組成物MPC″を作成した。この分散液を、均質な混合物が得られるまで機械的に撹拌する。このようにして得られたMPC″のパラメータは以下の通りである:乾燥物の質量比率:17%(粉末質量/全質量)、pH=5、初期導電率:12mS/cm、灰分の質量比率:8%,ラクトースの質量比率:74%、カチオン(特にNa,NH4,K,Ca,Mg)の質量比率:5%、アニオン(特にCl,NO3,PO4,SO4)の質量比率:3%、種々の質量比率(乾燥物の質量比率を除く)は、1つ以上の化合物の合計質量を乾燥物の合計質量に結びつけることによって算出される。
【0122】
5.電気透析装置200でのカチオン置換(ESC)(
図3)
電気透析装置200は、例えば、5から15個のセル215で構成されている。第1コンパートメント220には、100mS/cm以上、特に150mS/cm以上の導電率を有するHCl溶液が供給される。第2コンパートメント226には、上記の例示的なMPC″が供給される。第3コンパートメントには、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、本具体例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が供給される。電気透析装置200には、2アンペア以上、特に3アンペア以下の電流(I)が印加され、電圧は好ましくはフリーである。電気透析ii)の間、MPC″の導電率は減少してその脱ミネラル化を示し、その後、その構成物であるカチオンがH
+イオンに置換されるので、増加する。得られたMPC1″のpHは約2、導電率は約12mS/cmである。第1コンパートメント220の出口で得られた酸溶液、すなわちHClの導電率は約53%低下し、第3コンパートメント230の出口で得られたブライン、すなわちNaClの導電率は約292%上昇している。カチオン除去率(または置換率)は約77%である。アニオン率は、MPC″とMPC1″との間で実質的に類似している。
【0123】
6.従来の2-コンパートメント電気透析(ED)(アニオン性膜/カチオン性膜)
この電気透析装置(図面には示されていない)は、例えば、5から15個のセルを備える。第1コンパートメントは、カチオン性膜とアニオン性膜で区切られており、第2コンパートメントは、アニオン膜とカチオン膜で区切られている。第1コンパートメントには、上記のMPC1″が供給され、第2コンパートメントには、5ms/cm以上15ms/cm以下の導電率を有する塩、特に塩化ナトリウムが供給される。試験中、10V以上20V以下、特に15V以下の電圧を2-コンパートメントの電気透析装置に印加し、電流(I)をフリーにする。試験中、MPC1″の導電率が低下し、その脱ミネラル化を示す。H
+イオンの一部はブラインコンパートメントに抽出され、それゆえ、出口におけるMPC1″(ESC+ED)のpHが上昇し、特に2.5以上、特に3以上のpHになる。この従来型の電気透析のおかげで、MPC1″(ESC+ED)の最終的な導電率は、MPCと比較して約90%低下する。MPC1″(ESC+ED)におけるカチオン(Na,NH
4,K,Ca,Mg)除去率は90%以上である(カチオン置換EDの出口で得られたMPC1″との比較、
図3)。MPC1″(ESC+ED)におけるアニオン(Cl,NO
3,PO
4,SO
4)除去率は、約80%以上である(カチオン置換EDの出口で得られたMPC1″との比較、
図3)。
【0124】
7.電気透析装置205でのアニオン置換(ESA)(
図3)
電気透析装置205は、例えば、5から10個のセル235で構成される。第1コンパートメント239には、20~35mS/cmの導電率を有するNaOH溶液が供給される。第2コンパートメント243には、上記で得られたMPC1″(ESC+ED)が供給される。第3コンパートメント247には、50mS/cm以下、特に25mS/cm以下、本具体例では15mS/cm以下の導電率を有するNaCl溶液が供給される。10V以上15V以下の電圧が印加され、電流(I)は好ましくはフリーである。電気透析iii)の間、MPC1″(ESC+ED)の導電率は低下し、脱ミネラル化を示す。MPC1″(ESC+ED)から抽出されたアニオンは、ブラインを含む第3コンパートメントに移動する。得られたMPC2″のpHは4よりも高く、この具体例では5のオーダーであり、MPC2″の導電率は1よりも低い。第1コンパートメント239の出口における塩基性溶液、すなわちNaOHの導電率は55%超低下し、第3コンパートメント247の出口におけるブラインの導電率は35%超増加している。MPC2″に達するまでのMPC″からの導電率低減率は、95%以上である。アニオンとカチオンの両方について、最終的な低減率(MPC″とMPC2″との間)は、95%以上である。