(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置の制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241212BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241212BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241212BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2024527485
(86)(22)【出願日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2024000659
【審査請求日】2024-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2023074963
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023074964
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】石田 正
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-048867(JP,A)
【文献】特開2020-019346(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087864(WO,A1)
【文献】特開2021-138334(JP,A)
【文献】特開2003-285753(JP,A)
【文献】特許第6714125(JP,B1)
【文献】特開2012-158321(JP,A)
【文献】特許第3003228(JP,B2)
【文献】特許第5200033(JP,B2)
【文献】特開2005-335631(JP,A)
【文献】特開2018-199477(JP,A)
【文献】特開2014-201258(JP,A)
【文献】国際公開第2005/023626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記操舵トルク検出部が検出した前記操舵トルクに基づいて第1操舵制御値を演算する第1操舵制御値演算部と、
目標操舵角に実操舵角を追従させるための第2操舵制御値を演算する第2操舵制御値演算部と、
前記第1操舵制御値と前記第2操舵制御値とを加算することにより目標操舵制御値を演算する混合部と、
転舵力を発生するモータを前記目標操舵制御値に基づいて駆動する駆動部と、を備え、
前記第2操舵制御値演算部は、外乱補償トルクを設定する外乱補償トルク設定部を備え、前記目標操舵角に対する前記実操舵角の角度偏差と、前記外乱補償トルクと、に基づいて前記第2操舵制御値を演算し、
前記外乱補償トルク設定部は、前記操舵トルクが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分を含んだ前記外乱補償トルクを設定する、
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。
【請求項2】
前記外乱補償トルク設定部は、前記ステアリング機構の操舵角速度に応じた基本摩擦トルクに、前記操舵トルクに応じたゲインを乗算することにより、前記摩擦成分を演算することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記外乱補償トルク設定部は、
前記ステアリング機構の角度情報を前記ステアリング機構の逆モデルに入力することにより前記ステアリング機構への入力トルクの推定値を算出する入力トルク推定部と、
前記ステアリング機構へ入力される入力トルクを演算する入力トルク演算部と、
を備え、前記入力トルク推定部が演算した推定値と、前記入力トルク演算部が演算した入力トルクと、前記摩擦成分と、に基づいて前記外乱補償トルクを演算することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記入力トルク演算部は、前記操舵トルク検出部が検出した前記操舵トルクに応じた操舵制御値に前記操舵トルクを加えた和に
位相遅れを生じさせるヒステリシス特性を付与して得られる第1成分と、前記第2操舵制御値の過去値を含んだ第2成分と、を加算することにより、前記入力トルクを演算する、ことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記外乱補償トルク設定部は、前記ステアリング機構の角度情報を前記ステアリング機構の逆モデルに入力することにより前記ステアリング機構への入力トルクの推定値を算出する入力トルク推定部と、前記ステアリング機構へ入力される入力トルクを演算する入力トルク演算部と、を備えて、少なくとも前記入力トルク推定部が演算した推定値と前記入力トルク演算部が演算した入力トルクと、基づいて前記外乱補償トルクを演算し、
前記入力トルク演算部は、前記操舵トルク検出部が検出した前記操舵トルクに応じた操舵制御値に前記操舵トルクを加えた和に
位相遅れを生じさせるヒステリシス特性を付与して得られる第1成分と、前記第2操舵制御値の過去値を含んだ第2成分と、を加算することにより、前記入力トルクを演算する、
ことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項6】
前記入力トルク演算部は、車速に応じて前記第1成分のヒステリシス幅を設定することを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記入力トルク演算部は、前記車速が低い場合に比べて高い場合により広いヒステリシス幅を設定することを特徴とする請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記入力トルク演算部は、
前記第1操舵制御値の静的成分に前記操舵トルクを加えた和に
位相遅れを生じさせるヒステリシス特性を付与して前記第1成分を算出し、
前記第1操舵制御値から前記静的成分を除いた成分を、前記第2操舵制御値の過去値に加えて前記第2成分を算出する、
ことを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項9】
前記外乱補償トルク設定部は、前記操舵トルクが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分を含んだ前記外乱補償トルクを設定することを特徴とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の制御装置と、モータと、を備え、
前記モータによって発生する転舵力を前記制御装置により制御することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置の制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、目標位置までの車両の移動軌跡を設定する移動軌跡設定手段と、移動軌跡に基づいてステアリングアクチュエータへの第1駆動指示値を算出するとともに、運転者がステアリングハンドルに加える操舵力に基づいてステアリングアクチュエータへの第2駆動指示値を算出するステアリングアクチュエータ制御手段と、を備えた自動操舵装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出して操舵補助トルクを発生させる操舵補助制御と、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御とが同時に作動するモードでは、操舵補助制御と舵角制御とのバランスを図り、運転者が操舵したときの微妙な操舵感と良好な舵角追従性とを両立することが好ましい。
本発明は、操舵補助制御と、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御とが同時に作動するモードにおいて、運転者が操舵したときの微妙な操舵感と良好な舵角追従性とを両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電動パワーステアリング装置の制御装置は、ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、操舵トルク検出部が検出した操舵トルクに基づいて第1操舵制御値を演算する第1操舵制御値演算部と、目標操舵角に実操舵角を追従させるための第2操舵制御値を演算する第2操舵制御値演算部と、第1操舵制御値と第2操舵制御値とを加算することにより目標操舵制御値を演算する混合部と、転舵力を発生するモータを目標操舵制御値に基づいて駆動する駆動部と、を備える。
【0006】
第2操舵制御値演算部は、外乱補償トルクを設定する外乱補償トルク設定部を備え、目標操舵角に対する実操舵角の角度偏差と、外乱補償トルクと、に基づいて第2操舵制御値を演算する。外乱補償トルク設定部は、操舵トルクが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分を含んだ外乱補償トルクを設定する。
本発明の他の一態様による電動パワーステアリング装置は、上記の制御装置と、モータと、を備え、モータによって発生する転舵力を制御装置により制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、操舵補助制御と、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御と、が同時に作動するモードにおいて、運転者が操舵したときの微妙な操舵感と良好な舵角追従性とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】コントローラ30の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】手動アシスト制御部40の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】舵角フィードバック制御部41の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】外乱補償トルク設定部42の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】入力トルク演算部42bの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】ヒステリシス幅設定部61により設定されるヒステリシス幅Whの特性の一例の模式図である。
【
図8】摩擦トルク推定部42dの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】アシストトルク設定部70により設定されるアシストトルクTaの特性の一例の模式図である。
【
図10】動的摩擦係数設定部73aにより設定される動的摩擦係数Cdの特性の一例の模式図である。
【
図11】摩擦ゲイン演算部75の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】(a)は第1方向ゲイン設定部75aにより設定される第1方向ゲインGcwの特性の一例の模式図であり、(b)は第2方向ゲイン設定部75bにより設定される第2方向ゲインGccwの特性の一例の模式図である。
【
図13】トルク感応ゲイン設定部85により設定されるトルク感応ゲインG4の特性の一例の模式図である。
【
図14】実施形態の電動パワーステアリング装置の制御方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。ステアリングホイール(操向ハンドル)1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0011】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
操舵軸2には操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、ステアリング機構の操舵角θaを検出する操舵角センサ14が設けられている。例えば操舵角センサ14は、ステアリングホイール1や操舵軸2の操舵角θaを検出してよい。以下の説明において、操舵角センサ14で検出された操舵角θaを「実操舵角θa」と表記することがある。
【0012】
また、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置を制御するコントローラ30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニション(IGN)キー11を経てイグニションキー信号が入力される。
なお、操舵補助力を付与する手段は、モータに限られず、様々な種類のアクチュエータを利用可能である。
【0013】
コントローラ30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された実操舵角θaに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。
【0014】
なお、操舵角センサ14は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角センサから得られる回転角度に、トルクセンサ10のトーションバーの捩れ角を加えて実操舵角θaを算出してもよい。
また、実操舵角θaとして操向車輪8L、8Rの転舵角を用いてもよい。例えばラック5bの変位量を検出することにより転舵角を検出してもよい。
【0015】
コントローラ30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するコントローラ30の機能は、例えばコントローラ30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0016】
なお、コントローラ30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。例えば、コントローラ30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラ30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0017】
図2は、コントローラ30の機能構成の一例を示すブロック図である。コントローラ30が、手動アシスト制御部40と、舵角フィードバック(FB)制御部41と、外乱補償トルク設定部42と、加算器43及び46と、動作設定部44と、乗算器45と、指令値設定部47と、電流フィードバック(FB)制御部48と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部49と、インバータ(INV)50と、電流検出部51を備える。なお、以下の説明において、舵角フィードバックを「舵角FB」と表記し、電流フィードバックを「電流FB」と表記することがある。
【0018】
手動アシスト制御部40は、少なくとも操舵トルクThと車速Vhとに基づいて、第1手動アシストトルクTma1と第2手動アシストトルクTma2を演算する。第2手動アシストトルクTma2は、運転者によるステアリング機構の操舵を補助する操舵補助トルクの成分の全体を含んでおり、第1手動アシストトルクTma1は、第2手動アシストトルクTma2の静的成分のみを含む。第2手動アシストトルクTma2は、特許請求の範囲に記載の「第1操舵制御値」の一例である。また、第1手動アシストトルクTma1は、第1操舵制御値の静的成分の一例である。手動アシスト制御部40の詳細については後述する。
【0019】
舵角FB制御部41は、少なくとも操舵トルクThと、車速Vhと、実操舵角θaと、実操舵角θaの時間変化率である操舵角速度ωaと、目標操舵角θtと、に基づいて、実操舵角θaを目標操舵角θtに追従させるための舵角FBトルクTsfbを演算する。本実施形態では、ステアリング機構(例えばステアリングホイール1や操舵軸2)が時計回りに回転するときの操舵角速度ωaの符号を正と定義し、反時計回りに回転するときの操舵角速度ωaの符号を負と定義する。以下の説明において操舵角速度ωaを実操舵角速度ωaと表記することがある。
【0020】
目標操舵角θtは、コントローラ30による自動操舵制御において自動的に設定される実操舵角θaの目標値である。例えばコントローラ30は、自車両が走行すべき目標走行軌道を設定し、自車両が目標走行軌道に沿って走行するように目標操舵角θtを設定してよい。また例えばコントローラ30は、自車両が同一車線内を走行するように、車線内の横位置や車線境界線までの逸脱余裕時間に基づいて目標操舵角θtを設定してもよい。また例えばコントローラ30は、車両を制御する上位コントローラからCAN通信等により目標操舵角θtを受信してもよい。舵角FB制御部41の詳細については後述する。
【0021】
外乱補償トルク設定部42は、ステアリング機構に加わる外乱を補償するための外乱補償トルクTobを外乱オブザーバによって設定する。外乱補償トルク設定部42は、少なくとも第1手動アシストトルクTma1と、第2手動アシストトルクTma2と、操舵トルクThと、車速Vhと、実操舵角速度ωaと、舵角FBトルクTsfbを外乱補償トルクTobで補正して得られた舵角追従トルクTsfwの過去値(前回値)と、に基づいて外乱補償トルクTobを演算する。外乱補償トルク設定部42の詳細については後述する。
【0022】
動作設定部44は、自動操舵制御の実行可否を設定するために制御信号Ssに基づいて動作ゲインGopを設定する。例えば制御信号Ssは、乗員による自動操舵制御のスイッチのオンオフや、自動操舵制御に用いるセンサ(例えば車線を検出するカメラ)の動作不良による信頼性に基づいて設定される。動作ゲインGopは、自動操舵制御の実行が許可される場合に値「1」に設定され、禁止される場合に値「0」に設定される。
【0023】
加算器43は、舵角FBトルクTsfbに外乱補償トルクTobを加算することによりステアリング機構に加わる外乱を補償し、乗算器45は、舵角FBトルクTsfbと外乱補償トルクTobとの和に動作ゲインGopを乗算して、舵角追従トルクTsfw=Gop×(Tsfb+Tob)を算出する。舵角追従トルクTsfwは、特許請求の範囲に記載の「第2操舵制御値」の一例である。
【0024】
加算器46は、第2手動アシストトルクTma2と舵角追従トルクTsfwを加算することにより目標操舵トルク(Tma2+Tsfw)を演算する。加算器46は特許請求の範囲に記載の「混合部」の一例であり、目標操舵トルク(Tma2+Tsfw)は特許請求の範囲に記載の「目標操舵制御値」の一例である。
指令値設定部47は、目標操舵トルク(Tma2+Tsfw)を電流指令値Ir0に変換し、電流指令値Ir0の上限を制限することにより目標電流指令値Irを設定する。
【0025】
電流FB制御部48は、フィードバックされたモータ20の電流値Imと目標電流指令値Irとの偏差に基づいて、PI(比例積分)制御等のフィードバック制御により電圧制御指令値Vrefを生成する。モータ20の電流値Imは電流検出部51で検出される。電圧制御指令値VrefはPWM制御部49に入力され、PWM制御部49が生成するPWM信号でインバータ50を制御することによりモータ20を駆動する。インバータ50は、特許請求の範囲に記載の「駆動部」の一例である。
【0026】
次に、手動アシスト制御部40の詳細を説明する。
図3は、手動アシスト制御部40の機能構成の一例を示すブロック図である。手動アシスト制御部40は、近似微分部40aと、ゲイン乗算部40bと、アシストトルク設定部40cと、フィルタ部40dと、加算器40eとを備える。
近似微分部40aは、操舵トルクThの変動成分ΔThを算出する。例えば近似微分部40aは、微分演算とローパスフィルタとを組み合わせた伝達関数s/(Ts+1)を操舵トルクThに乗算することにより変動成分ΔThを算出してよい。または単に操舵トルクThを微分して変動成分ΔThを算出する。
【0027】
ゲイン乗算部40bは、変動成分ΔThと所定のゲインG1の積G1×ΔThを算出する。
アシストトルク設定部40cは、少なくとも操舵トルクThと車速Vhに応じた操舵補助トルクであるアシストトルクTmaを設定する。アシストトルク設定部40cは、操舵トルクThが大きいほどより大きなアシストトルクTmaを設定してよい。アシストトルク設定部40cは、車速Vhが低いほどより大きなアシストトルクTmaを設定してよい。例えばアシストトルク設定部40cは、アシストマップ等を用いてアシストトルクTmaを設定してよい。
【0028】
フィルタ部40dは、操舵トルクThに応じたアシストトルクTmaから共振成分等を除去することにより、アシストトルクTmaの静的成分のみを含んだ第1手動アシストトルクTma1を算出する。例えばフィルタ部40dは、ノッチフィルタやローパスフィルタ等であってよい。
加算器40eは、第1手動アシストトルクTma1にゲイン乗算部40bの出力G1×ΔThを加算することにより、操舵補助トルクの成分の全体を含んだ第2手動アシストトルクTma2を算出する。すなわち第2手動アシストトルクTma2は、操舵トルクThに応じた操舵補助トルクであるアシストトルクTmaの静的成分と、操舵トルクThの変動成分ΔThとを含む。操舵トルクThの変動成分ΔThを含んだ操舵補助トルクをステアリング機構に付与することにより、操舵トルクThの変動を抑制できる。
【0029】
次に、舵角FB制御部41の詳細を説明する。
図4は、舵角FB制御部41の機能構成の一例を示すブロック図である。舵角FB制御部41は、目標操舵角速度演算部41aと、操舵角速度フィードバック(FB)演算部41bと、絶対値演算部(abs)41eと、トルク感応ゲイン設定部41fと、乗算器41gとを備える。なお、以下の説明において、操舵角速度フィードバックを「操舵角速度FB」と表記することがある。
【0030】
目標操舵角速度演算部41aは、目標操舵角θtに対する実操舵角θaの角度偏差と車速Vhとに基づいて目標操舵角速度ωtを演算する。例えば目標操舵角速度演算部41aは、車速Vhに応じた変換係数Kppを設定する。例えば目標操舵角速度演算部41aは、車速Vhが高いほどより小さい変換係数Kppを設定してよい。目標操舵角速度演算部41aは、目標操舵角θtに対する実操舵角θaの角度偏差(θt-θa)と変換係数Kppの積Kpp×(θt-θa)を目標操舵角速度ωtとして演算する。
【0031】
次に操舵角速度FB演算部41bは、変換係数Kppに基づいて変換係数Kpvを設定する。例えば、変換係数Kppが閾値未満の範囲では一定値を維持し、変換係数Kppが閾値以上の範囲では変換係数Kppが増加するほど大きくなる変換係数Kpvを設定してよい。操舵角速度FB演算部41bは、目標操舵角速度ωtに対する実操舵角速度ωaの角速度偏差(ωt-ωa)と変換係数Kpvとの積Kpv×(ωt-ωa)を基本舵角FBトルクTsfb0として算出する。
【0032】
絶対値演算部41eは、操舵トルクThの絶対値を出力する。
トルク感応ゲイン設定部41fは、絶対値演算部41eの出力に応じたトルク感応ゲインG2を設定する。例えば絶対値演算部41eの出力が小さい場合に比べて大きい場合に、より小さなトルク感応ゲインG2を設定してよい。
乗算器41gは、基本舵角FBトルクTsfb0にトルク感応ゲインG2を乗算して舵角FBトルクTsfb=G2×Tsfb0を算出する。
【0033】
次に、外乱補償トルク設定部42の詳細を説明する。
図5は、外乱補償トルク設定部42の機能構成の一例を示すブロック図である。外乱補償トルク設定部42は、入力トルク推定部42aと、入力トルク演算部42bと、フィルタ部42c及び42eと、摩擦トルク推定部42dと、加算器42fと、減算器42gと、絶対値演算部(abs)42jと、トルク感応ゲイン設定部42kと、乗算器42lとを備える。
【0034】
入力トルク推定部42aは、ステアリング機構の逆モデルに実操舵角速度ωaを入力することによりステアリング機構への入力トルクの推定値である推定入力トルクTieを演算する。例えば入力トルク推定部42aは、次式(1)に基づいて推定入力トルクTieを演算してよい。
Tie=(J・s+D)ωa・Q(s) …(1)
(J・s+D)はステアリング機構の逆モデルの伝達関数であり、Jは慣性モーメントであり、Dは粘性係数であり、Q(s)はローパスフィルタの伝達関数である。
【0035】
また、入力トルク推定部42aは、逆モデルに実操舵角θa、実操舵角速度ωa、実操舵角速度ωaの時間変化率である実操舵角加速度αaから成る角度情報を入力して推定入力トルクTieを演算してよい。入力される角度情報の組み合わせに応じて、種々の式を用いることができる。式(1)に替えて次式(2)を用いてもよい。また、式(1)あるいは式(2)の慣性項と粘性項を、式(3)あるいは式(4)から求めてよい。
Tie=(J・s+D)ωa・Q(s)+K・θa・Q(s) …(2)
Kは剛性であり、K・θaは路面からの反力となる。
J・s・ωa=J・s^2・θa=J・αa …(3)
D・ωa=D・s・θa…(4)
【0036】
入力トルク演算部42bは、少なくとも操舵トルクThと、車速Vhと、舵角追従トルクTsfwの過去値(前回値)と、第1手動アシストトルクTma1と、第2手動アシストトルクTma2とに基づいて、ステアリング機構へ入力される入力トルクTia0を演算する。以下の説明において、入力トルク演算部42bが演算する入力トルクTia0を、「基本実入力トルクTia0」と表記する。
【0037】
図6は、入力トルク演算部42bの機能構成の一例を示すブロック図である。入力トルク演算部42bは、加算器60、64及び65と、ヒステリシス幅設定部61と、ヒステリシス処理部62と、減算器63を備える。
加算器60は、第1手動アシストトルクTma1と操舵トルクThとの和(Tma1+Th)を静的手動操舵入力トルクとして算出する。ヒステリシス幅設定部61は、車速Vhに応じて、静的手動操舵入力トルク(Tma1+Th)に付与するヒステリシス特性のヒステリシス幅Whを設定する。
【0038】
例えばヒステリシス幅設定部61は、車速Vhが低い場合に比べて高い場合により広いヒステリシス幅Whを設定してよい。例えば車速Vhが高いほど広いヒステリシス幅Whを設定してよい。
図7は、ヒステリシス幅設定部61により設定されるヒステリシス幅Whの特性の一例の模式図である。例えばヒステリシス幅Whは、車速Vhが比較的低い第1閾値V1未満の範囲では比較的小さい(比較的狭い)一定値W1に維持され、車速Vhが比較的高い第2閾値V2以上の範囲では比較的大きい(比較的広い)一定値W2に維持され、車速Vhが第1閾値V1以上第2閾値V2未満の範囲では、車速Vhが上昇するにつれて値W1から値W2増加する(拡大する)ように設定してよい。
【0039】
図6を参照する。ヒステリシス処理部62は、静的手動操舵入力トルク(Tma1+Th)にヒステリシス幅Whのヒステリシス特性を付与することにより、入力トルクTahを生成する。入力トルクTahは特許請求の範囲に記載の「第1成分」の一例である。
減算器63は、第2手動アシストトルクTma2から第1手動アシストトルクTma1を減じた差分(Tma2-Tma1)を算出する。加算器64及び65は、差分(Tma2-Tma1)と舵角追従トルクTsfwの過去値を、入力トルクTahに加えることにより、基本実入力トルクTia0=Tah+(Tma2-Tma1)+Tsfwを算出する。差分(Tma2-Tma1)と舵角追従トルクTsfwの和は特許請求の範囲に記載の「第2成分」の一例である。
【0040】
図5を参照する。フィルタ部42cは、基本実入力トルクTia0にローパスフィルタ処理を施すことにより実入力トルクTiaを算出する。フィルタ部42cのローパスフィルタを、入力トルク推定部42aで用いられる式(1)のローパスフィルタQ(s)と同じとしてよい。
摩擦トルク推定部42dは、実操舵角速度ωaと車速Vhとに基づいて、ステアリング機構に作用する摩擦トルクである第1摩擦トルクTf0を推定する。
図8は、摩擦トルク推定部42dの機能構成の一例を示すブロック図である。
【0041】
摩擦トルク推定部42dは、アシストトルク設定部70と、加算器71及び83と、絶対値演算部(abs)72、79及び84と、動的摩擦係数設定部73aと、静的摩擦係数設定部73bと、乗算器74a、74b、81a、81b、82a、82b及び86と、摩擦ゲイン演算部75と、符号部(sgn)76と、遅延部77と、セレクタ78と、減算器80と、トルク感応ゲイン設定部85と、を備える。
【0042】
アシストトルク設定部70は、操舵トルクThに応じた操舵補助トルクであるアシストトルクTaを設定する。例えばアシストトルク設定部70は、操舵トルクThが大きいほどより大きなアシストトルクTaを設定してよい。例えばアシストトルク設定部70は、アシストマップ等を用いてアシストトルクTaを設定してよい。
【0043】
図9は、アシストトルク設定部70により設定されるアシストトルクTaの特性の一例の模式図である。アシストトルクTaは、操舵トルクThが「0」から(+Th1)の範囲では「0」から(+Ta1)まで増加し、操舵トルクThが(+Th1)から(+Th2)の範囲では値(+Ta1)から(+Ta2)まで増加し、操舵トルクThが(+Th2)から(+Th3)の範囲では値(+Ta2)から(+Ta3)まで増加し、操舵トルクThが(+Th3)から(+Th4)の範囲では値(+Ta3)から(+Ta4)まで増加する。
【0044】
また、操舵トルクThが(-Th8)から(-Th7)の範囲では値(-Ta8)から(-Ta7)まで増加し、操舵トルクThが(-Th7)から(-Th6)の範囲では値(-Ta7)から(-Ta6)まで増加し、操舵トルクThが(-Th6)から(-Th5)の範囲では値(-Ta6)から(-Ta5)まで増加し、操舵トルクThが(-Th5)から「0」の範囲では値(-Ta5)から「0」まで増加する。
【0045】
操舵トルクThが「0」から(+Th1)の範囲における、操舵トルクThの変化に対するアシストトルクTaの変化の変化率(Ta1/Th1)をR1とし、操舵トルクThが(+Th1)から(+Th2)の範囲における変化率((Ta2-Ta1)/(Th2-Th1))をR2とし、操舵トルクThが(+Th2)から(+Th3)の範囲における変化率((Ta3-Ta2)/(Th3-Th2))をR3とし、操舵トルクThが(+Th3)から(+Th4)の範囲における変化率((Ta4-Ta3)/(Th4-Th3))をR4とすると、例えば、変化率R2、R4、R3及びR1の順に大きく設定してよい。
【0046】
また、操舵トルクThが「0」から(-Th5)の範囲における、操舵トルクThの変化に対するアシストトルクTaの変化の変化率(Ta5/Th5)をR5とし、操舵トルクThが(-Th5)から(-Th6)の範囲における変化率((Ta6-Ta5)/(Th6-Th5))をR6とし、操舵トルクThが(-Th6)から(-Th7)の範囲における変化率((Ta7-Ta6)/(Th7-Th6))をR7とし、操舵トルクThが(-Th7)から(-Th8)の範囲における変化率((Ta8-Ta7)/(Th8-Th7))をR8とすると、例えば、変化率R6、R8、R7及びR5の順に大きく設定してよい。
なお、Ta1とTh5の大きさを等しく設定し、Ta2とTh6の大きさを等しく設定し、Ta3とTh7の大きさを等しく設定し、Ta4とTh8の大きさを等しく設定してもよい。
【0047】
図8を参照する。加算器71と絶対値演算部72は、操舵トルクThとアシストトルクTaとの和の絶対値|Th+Ta|を算出して、動的摩擦係数設定部73aと静的摩擦係数設定部73bに入力する。
動的摩擦係数設定部73aは、少なくとも絶対値|Th+Ta|に基づいて動的摩擦係数Cdを設定する。例えば動的摩擦係数設定部73aは、絶対値|Th+Ta|が小さい場合に比べて大きい場合により大きな動的摩擦係数Cdを設定してよい。
【0048】
図10は、動的摩擦係数設定部73aにより設定される動的摩擦係数Cdの特性の一例の模式図である。例えば動的摩擦係数Cdは、絶対値|Th+Ta|が値T1以下の範囲では値「0」となり、絶対値|Th+Ta|が値T2以上の範囲では値「1」となり、絶対値|Th+Ta|がT1からT2に増加すると、値「0」から値「1」に増加する。
【0049】
図8を参照する。静的摩擦係数設定部73bは、少なくとも絶対値|Th+Ta|に基づいて静的摩擦係数Csを設定する。例えば静的摩擦係数設定部73bは、動的摩擦係数設定部73aによる動的摩擦係数Cdの設定と同様の手法で静的摩擦係数Csを設定してもよい。また、外乱オブザーバにおいて静的摩擦を考慮しない場合には、静的摩擦係数Csを「0」に設定してもよい。
乗算器74a及び74bは、所定のベース摩擦トルクに動的摩擦係数Cdと静的摩擦係数Csとをそれぞれ乗算することにより、基本動的摩擦トルクTdbと基本静的摩擦トルクTsbとを算出する。
【0050】
摩擦ゲイン演算部75は、実操舵角速度ωaに応じた摩擦ゲインGfを演算する。摩擦ゲインGfは、実操舵角速度ωaが正値であり(すなわちステアリング機構が時計回りに回転しており)且つ実操舵角速度ωaが所定値(+ω1)よりも大きい場合に値「1」を有し、実操舵角速度ωaが負値であり(すなわちステアリング機構が反時計回りに回転しており)且つ実操舵角速度ωaが負の所定値(-ω2)よりも小さい場合に値「-1」を有する。所定値(-ω2)と所定値(+ω1)との間の範囲では、実操舵角速度ωaが増加するにつれて摩擦ゲインGfが増加し、実操舵角速度ωaが減少するにつれて摩擦ゲインGfが減少する。なお、所定値(-ω2)と所定値(+ω1)の大きさ(絶対値)は互いに等しくてもよい。
【0051】
図11は、摩擦ゲイン演算部75の機能構成の一例を示すブロック図である。摩擦ゲイン演算部75は、第1方向ゲイン設定部75aと、第2方向ゲイン設定部75bと、遅延部75cと、第1セレクタ75d及び第2セレクタ75eとを備える。
第1方向ゲイン設定部75aと第2方向ゲイン設定部75bは、実操舵角速度ωaに応じた第1方向ゲインGcwと第2方向ゲインGccwとをそれぞれ設定する。
【0052】
図12(a)及び
図12(b)は、それぞれ第1方向ゲインGcw及び第2方向ゲインGccwの特性の一例の模式図である。
第1方向ゲインGcwは、実操舵角速度ωaが「0」以下である場合に値「-1」に設定され、実操舵角速度ωaが所定値(+ω1)以上である場合に値「1」に設定され、「0」から所定値(+ω1)までの範囲では、値「-1」から値「1」に増加する。
第2方向ゲインGccwは、実操舵角速度ωaが所定値(-ω2)以下である場合に値「-1」に設定され、実操舵角速度ωaが0以上である場合に値「1」に設定され、所定値(-ω2)から「0」までの範囲では、値「-1」から値「1」に増加する。
【0053】
図11を参照する。遅延部75cは、摩擦ゲインGfの過去値(前回値)を第1セレクタ75d及び第2セレクタ75eに入力する。
第1セレクタ75dは、第2方向ゲインGccwが摩擦ゲインGfの過去値以下である場合には第2方向ゲインGccwを第2セレクタ75eに出力する。第2方向ゲインGccwが摩擦ゲインGfの過去値よりも大きい場合には摩擦ゲインGfの過去値を第2セレクタ75eに出力する。
【0054】
第2セレクタ75eは、第1方向ゲインGcwが摩擦ゲインGfの過去値以上である場合には第1方向ゲインGcwを摩擦ゲインGfとして出力する。第1方向ゲインGcwが摩擦ゲインGfの過去値未満である場合には、第1セレクタ75dの出力値を摩擦ゲインGfとして出力する。
この構成によって実操舵角速度ωaと摩擦ゲインGfとの関係にヒステリシス特性が付与され、実操舵角速度ωaが0近傍で変動しても摩擦ゲインGfが変動することを抑制できる。
図8を参照する。符号部76は摩擦ゲインGfが「0」以上の場合には値「1」を、摩擦ゲインGfが「0」未満の場合には値「-1」をセレクタ78に出力する。
【0055】
遅延部77は、セレクタ78から出力される方向ゲインGdの過去値(前回値)をセレクタ78に出力する。
セレクタ78は、摩擦ゲインGfが「0」でない場合には、符号部76の出力を方向ゲインGdとして出力し、摩擦ゲインGfが「0」である場合には、前回出力した方向ゲインGdの値(すなわち過去値)を維持する。
【0056】
絶対値演算部79は、摩擦ゲインGfの絶対値|Gf|を動摩擦ゲインGdfとして算出する。減算器80は、「1」から動摩擦ゲインGdfを減算した差分を静摩擦ゲインGsf=(1-Gdf)として算出する。
乗算器81a及び81bは、方向ゲインGdをそれぞれ基本動的摩擦トルクTdbと基本静的摩擦トルクTsbに乗算することにより、有向基本動的摩擦トルクTdoと有向基本静的摩擦トルクTsoを算出する。
【0057】
乗算器82aは、動摩擦ゲインGdfを有向基本動的摩擦トルクTdoに乗算することにより動的摩擦トルクTdを算出する。乗算器82bは、静摩擦ゲインGsfを有向基本静的摩擦トルクTsoに乗算することにより静的摩擦トルクTsを算出する。これにより、動摩擦ゲインGdf及び静摩擦ゲインGsfを用いて、実操舵角速度ωaの絶対値に基づいて静的摩擦トルクTsと動的摩擦トルクTdをクロスフェードさせる。
加算器83は、動的摩擦トルクTdと静的摩擦トルクTsの和(Td+Ts)を乗算器86に出力する。
【0058】
一方で、絶対値演算部84は、操舵トルクの絶対値|Th|を演算する。トルク感応ゲイン設定部85は、操舵トルクの絶対値|Th|に応じたトルク感応ゲインG4を設定する。
例えばトルク感応ゲイン設定部85は、操舵トルクの絶対値|Th|が大きい場合に小さい場合よりも大きなトルク感応ゲインG4を設定してよい。例えば絶対値|Th|が大きいほどより大きなトルク感応ゲインG4を設定してよい。
【0059】
図13は、トルク感応ゲイン設定部85により設定されるトルク感応ゲインG4の特性の一例の模式図である。
例えばトルク感応ゲインG4は、操舵トルクの絶対値|Th|が所定値T3以下の範囲では一定値「0」となり、絶対値|Th|が所定値T4以上の範囲では一定値「1」となり、所定値T3以上で所定値T4以下の範囲では、「0」から「1」まで増加するゲインであってよい。
【0060】
図8を参照する。乗算器86は、動的摩擦トルクTdと静的摩擦トルクTsの和(Td+Ts)である基本摩擦トルクにトルク感応ゲインG4を乗算することにより、第1摩擦トルクTf0を算出する。したがって、第1摩擦トルクTf0は、操舵トルクの絶対値|Th|が小さい場合に比べて大きい場合により大きな値に設定される。
図5を参照する。フィルタ部42eは、第1摩擦トルクTf0にローパスフィルタ処理を施すことにより摩擦トルクTfを算出する。フィルタ部42eのローパスフィルタはフィルタ部42cのローパスフィルタと同じとしてよい。摩擦トルクTfは特許請求の範囲に記載の「摩擦成分」の一例である。
【0061】
加算器42f及び減算器42gは、実入力トルクTiaから推定入力トルクTieと摩擦トルクTfとを減算した差分(Tia-Tie-Tf)を算出する。
【0062】
絶対値演算部42jは、操舵トルクThの絶対値を出力する。
トルク感応ゲイン設定部42kは、絶対値演算部42jの出力に応じたトルク感応ゲインG3を設定する。例えば絶対値演算部42jの出力が小さい場合に比べて大きい場合に、より小さなトルク感応ゲインG3を設定してよい。
乗算器42lは、減算器42gの出力(Tia-Tie-Tf)にトルク感応ゲインG3を乗算することにより、外乱補償トルクTob=G3×(Tia-Tie-Tf)を算出する。
【0063】
(作用)
(1)本実施形態では、ステアリング機構に作用する摩擦成分(摩擦トルクTf)を予めプラントのモデルの一部として考慮して外乱補償トルクTobを定義している。言い換えれば、摩擦成分を外乱オブザーバの補償の対象から除外している。
そして、摩擦トルクTfを、操舵トルクThが小さい場合に比べて大きい場合により大きな値に設定する。このため、外乱補償トルクTob=G3×(Tia-Tie-Tf)は、操舵トルクThが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分Tfを含み、摩擦成分Tfが小さい場合に比べて大きい場合に外乱補償トルクTobは小さくなる。
【0064】
この結果、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御の実行中に、操舵トルクThが小さくなると、外乱補償トルクTobに含まれる摩擦成分が小さくなるか摩擦成分がなくなるため、実際にステアリング機構に作用する摩擦トルクを外乱として補償するように外乱補償トルクTobが演算される。この結果、外乱補償トルクTobは大きくなり、これに応じて舵角追従トルクTsfwを大きくすることができるので、高応答の舵角追従を実現できる。
【0065】
反対に運転者が手動操舵を行うことにより操舵トルクThが大きくなると、外乱補償トルクTobに含まれる摩擦成分が大きくなるため、実際にステアリング機構に作用する摩擦トルクの補償が小さくなるか補償しなくなる。したがって、外乱補償トルクTobが小さくなり操舵感に重みを付加できる。この結果、運転者による操舵トルクが入力されたときの操舵反力トルクを調整できるようにして微妙な操舵感を実現できる。
【0066】
例えば運転者がステアリングホイールを把持していないか、又は軽く手を添えている状態から操舵し始める状況を想定すると、運転者が操舵し始めるにつれて操舵トルクが増加を開始し、これに応じて外乱補償トルクTobが小さくなり反力感が生じさせることができる。
【0067】
(2)本実施形態では、実操舵角速度ωaをステアリング機構の逆モデル(J・s+D)に入力することによりステアリング機構への推定入力トルクTieを演算するとともに、ステアリング機構へ入力される実入力トルクTiaを演算し、少なくとも推定入力トルクTieと実入力トルクTiaに基づいて、外乱補償トルクTobを演算する。
このとき、操舵トルクThに応じた操舵制御値である第1手動アシストトルクTma1と操舵トルクThとの和(Tma1+Th)にヒステリシス特性を付与して得られる入力トルクTahと、舵角追従トルクTsfwの過去値を含んだ第2成分と、を加算することにより、実入力トルクTiaを演算する。
【0068】
ヒステリシス特性を有する実入力トルクTiaは、ヒステリシス特性が付与されない場合に比べて位相が遅れる。したがって、ヒステリシス特性を付与することにより外乱補償トルクTobの位相を遅らせるように作用する。言い換えれば、操舵方向とは反対方向に働く疑似摩擦分をステアリング機構への入力トルクから差し引いて、外乱補償トルクTobに加えている。この結果、運転者がステアリング機構を操舵するときの操舵トルクを大きくする(操舵感を重くする)ことができる。さらに、ヒステリシス幅Whを調整することによって操舵感を調整できる。
【0069】
(動作)
図14は、実施形態の電動パワーステアリング装置の制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において操舵角センサ14、トルクセンサ10及び車速センサ12は、それぞれ実操舵角θa、操舵トルクTh及び車速Vhを検出する。
ステップS2において手動アシスト制御部40は、第1手動アシストトルクTma1と第2手動アシストトルクTma2を演算する。
【0070】
ステップS3においてコントローラ30は、目標操舵角θtを設定する。
ステップS4において舵角FB制御部41は、舵角FBトルクTsfbを演算する。
ステップS5において入力トルク推定部42aは、ステアリング機構の逆モデルに実操舵角速度ωaを入力してステアリング機構への入力トルクの推定値である推定入力トルクTieを演算する。
【0071】
ステップS6及びS7では、少なくとも操舵トルクThと、車速Vhと、舵角追従トルクTsfwの過去値(前回値)と、第1手動アシストトルクTma1と、第2手動アシストトルクTma2とに基づいて、ステアリング機構へ入力される実入力トルクTiaを演算する。
まずステップS6において入力トルク演算部42bは、第1手動アシストトルクTma1と操舵トルクThとの和である静的手動操舵入力トルク(Tma1+Th)にヒステリシス特性を付与することにより入力トルクTahを生成する。
【0072】
ステップS7において入力トルク演算部42bは、第2手動アシストトルクTma2と第1手動アシストトルクTma1の差分(Tma2-Tma1)と舵角追従トルクTsfwの過去値を、入力トルクTahに加えることにより、基本実入力トルクTia0を算出する。フィルタ部42cは、基本実入力トルクTia0にローパスフィルタ処理を施すことにより実入力トルクTiaを算出する。
【0073】
ステップS8において摩擦トルク推定部42dは、操舵トルクの絶対値|Th|に応じたトルク感応ゲインG4を設定する。
ステップS9において摩擦トルク推定部42dは操舵角速度ωaに応じた基本摩擦トルクにトルク感応ゲインG4を乗算することにより第1摩擦トルクTf0を算出する。フィルタ部42eは、第1摩擦トルクTf0にローパスフィルタ処理を施すことにより摩擦トルクTfを算出する。これにより、操舵トルクの絶対値|Th|が小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦トルクTfを算出する。
【0074】
ステップS10において外乱補償トルク設定部42は、外乱補償トルクTob=G3×(Tia-Tie-Tf)を算出する。
ステップS11において加算器43と乗算器45は、舵角FBトルクTsfbと外乱補償トルクTobとの和に動作ゲインGopを乗算して、舵角追従トルクTsfw=Gop×(Tsfb+Tob)を算出する。
【0075】
ステップS12において加算器46は、第2手動アシストトルクTma2と舵角追従トルクTsfwを加算することにより目標操舵トルク(Tma2+Tsfw)を演算する。
ステップS13において指令値設定部47、電流FB制御部48、PWM制御部49及びインバータ50は、目標操舵トルク(Tma2+Tsfw)に基づいてモータ20を駆動する。その後に処理は終了する。
【0076】
(実施形態の効果)
(1)電動パワーステアリング装置の制御装置は、ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、操舵トルク検出部が検出した操舵トルクに基づいて第1操舵制御値を演算する第1操舵制御値演算部と、目標操舵角に実操舵角を追従させるための第2操舵制御値を演算する第2操舵制御値演算部と、第1操舵制御値と第2操舵制御値とを加算することにより目標操舵制御値を演算する混合部と、転舵力を発生するモータを目標操舵制御値に基づいて駆動する駆動部と、を備える。
【0077】
第2操舵制御値演算部は、外乱補償トルクを設定する外乱補償トルク設定部を備え、目標操舵角に対する実操舵角の角度偏差と、外乱補償トルクと、に基づいて第2操舵制御値を演算し、外乱補償トルク設定部は、操舵トルクが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分を含んだ外乱補償トルクを設定する。
これにより、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御の実行中における高応答の舵角追従を実現するとともに、手動操舵の際の微妙な操舵感を実現できる。
【0078】
(2)外乱補償トルク設定部は、ステアリング機構の操舵角速度に応じた基本摩擦トルクに、操舵トルクに応じたゲインを乗算することにより、摩擦成分を演算してよい。
これにより、操舵トルクが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分を設定できる。
【0079】
(3)外乱補償トルク設定部は、ステアリング機構の角度情報をステアリング機構の逆モデルに入力することによりステアリング機構への入力トルクの推定値を算出する入力トルク推定部と、ステアリング機構へ入力される入力トルクを演算する入力トルク演算部と、を備えてもよい。外乱補償トルク設定部は、入力トルク推定部が演算した推定値と、入力トルク演算部が演算した入力トルクと、摩擦成分と、に基づいて外乱補償トルクを演算してよい。
【0080】
このように、ステアリング機構に作用する摩擦成分をプラントのモデルの一部として考慮した外乱補償トルクを定義することにより、操舵トルクが小さくなる(すなわち摩擦成分小さくなる)舵角制御の実行中にはステアリング機構に作用する摩擦トルクを外乱として補償するように外乱補償トルクが演算される。この結果、外乱補償トルクが大きくなって高応答の舵角追従を実現できる。
反対に、操舵トルクが大きくなる(すなわち摩擦成分が大きくなる)手動操舵時には、ステアリング機構に作用する摩擦トルクの補償が小さくなるか補償しなくなる。したがって、外乱補償トルクが小さくなりなって操舵感に重みを付加できる。
【0081】
(4)入力トルク演算部は、操舵トルク検出部が検出した操舵トルクに応じた操舵制御値に操舵トルクを加えた和にヒステリシス特性を付与して得られる第1成分と、第2操舵制御値の過去値を含んだ第2成分と、を加算することにより入力トルクを演算してよい。
これにより、運転者がステアリング機構を操舵するときの操舵トルクを大きくする(操舵感を重くする)ことができる。さらにヒステリシス幅を調整することによって操舵感を調整できる。
【0082】
(5)外乱補償トルク設定部は、ステアリング機構の角度情報をステアリング機構の逆モデルに入力することによりステアリング機構への入力トルクの推定値を算出する入力トルク推定部と、ステアリング機構へ入力される入力トルクを演算する入力トルク演算部と、を備えて、少なくとも入力トルク推定部が演算した推定値と入力トルク演算部が演算した入力トルクと、基づいて外乱補償トルクを演算する。
【0083】
入力トルク演算部は、操舵トルク検出部が検出した操舵トルクに応じた操舵制御値に操舵トルクを加えた和にヒステリシス特性を付与して得られる第1成分と、第2操舵制御値の過去値を含んだ第2成分と、を加算することにより、入力トルクを演算する。
これにより、運転者がステアリング機構を操舵するときの操舵トルクを大きくする(操舵感を重くする)ことができる。さらにヒステリシス幅を調整することによって操舵感を調整できる。この結果、操舵補助制御と、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御と、が同時に作動するモードにおいて、運転者が操舵したときの微妙な操舵感と良好な舵角追従性を両立できる。
【0084】
(6)入力トルク演算部は、車速に応じて第1成分のヒステリシス幅を設定してよい。例えば、入力トルク演算部は、車速が低い場合に比べて高い場合により広いヒステリシス幅を設定してよい。これにより車速に応じた適度な操舵感を実現できる。
【0085】
(7)入力トルク演算部は、第1操舵制御値の静的成分に操舵トルクを加えた和にヒステリシス特性を付与して第1成分を算出し、第1操舵制御値から静的成分を除いた成分を、第2操舵制御値の過去値に加えて第2成分を算出してよい。
これにより、ヒステリシス特性を入力トルクに付与しても、第1操舵制御値の変動成分(すなわち第1操舵制御値から静的成分を除いた成分)を入力トルクに残すことができる。この結果、操舵トルクの変動等の抑制に寄与する操舵補助トルクの成分の情報を外乱補償トルクの演算に反映できる。
【0086】
(8)外乱補償トルク設定部は、操舵トルクが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分を含んだ外乱補償トルクを設定してよい。
これにより、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御の実行中における高応答の舵角追従を実現するとともに、手動操舵の際の微妙な操舵感を実現できる。
【符号の説明】
【0087】
1…ステアリングホイール、2…操舵軸、3…減速ギア、4a、4b…ユニバーサルジョイント、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオン、5b…ラック、6a、6b…タイロッド、7a、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、10…トルクセンサ、11…イグニションキー、12…車速センサ、13…バッテリ、14…操舵角センサ、20…モータ、30…コントローラ、40…手動アシスト制御部、40a…近似微分部、40b…ゲイン乗算部、40c…アシストトルク設定部、40d、42c、42e…フィルタ部、40e、42f、43、46、60、64、65、71、83…加算器、41…舵角フィードバック制御部、41a…目標操舵角速度演算部、41b…操舵角速度フィードバック演算部、61…ヒステリシス幅設定部、62…ヒステリシス処理部、41e、41e、42j、72、79、84…絶対値演算部(abs)、41f、42k、85…トルク感応ゲイン設定部、41g、42l、45、74a、74b、81a、81b、82a、82b、86…乗算器、42…外乱補償トルク設定部、42a…入力トルク推定部、42b…入力トルク演算部、42d…摩擦トルク推定部、42g、63、80…減算器、44…動作設定部、47…指令値設定部、48…電流フィードバック制御部、49…PWM制御部、50…インバータ、51…電流検出部、70…アシストトルク設定部、73a…動的摩擦係数設定部、73b…静的摩擦係数設定部、75…摩擦ゲイン演算部、75a…第1方向ゲイン設定部、75b…第2方向ゲイン設定部、75c、77…遅延部、75d…第1セレクタ、75e…第2セレクタ、76…符号部(sgn)、78…セレクタ
【要約】
操舵補助制御と、目標操舵角に実操舵角を追従させる舵角制御と、が同時に作動するモードにおいて、運転者が操舵したときの微妙な操舵感と良好な舵角追従性を両立する。電動パワーステアリング装置の制御装置は、操舵トルクに基づいて第1操舵制御値を演算する第1操舵制御値演算部(40)と、目標操舵角に実操舵角を追従させるための第2操舵制御値を演算する第2操舵制御値演算部(41、42)とを備え、第1操舵制御値と第2操舵制御値との和に基づいて転舵力を発生させる。第2操舵制御値演算部(41、42)は、目標操舵角に対する実操舵角の角度偏差と、外乱補償トルクと、に基づいて第2操舵制御値を演算し、操舵トルクが小さい場合に比べて大きい場合により大きな摩擦成分を含んだ外乱補償トルクを設定する。