IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

特許7602847回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法
<>
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図1
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図2
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図3
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図4
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図5
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図6
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図7
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図8
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図9
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図10
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図11
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図12
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図13
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図14
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図15
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図16
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図17
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図18
  • 特許-回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20241212BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241212BHJP
【FI】
H02K15/04 E
B23K26/21 L
B23K26/21 N
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021114099
(22)【出願日】2021-07-09
(65)【公開番号】P2023010164
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘行
(72)【発明者】
【氏名】松原 哲也
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-089108(JP,A)
【文献】特開平11-058050(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19747841(DE,A1)
【文献】特開平05-185266(JP,A)
【文献】国際公開第2019/230193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
H02K 15/085
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のステータを形成するための一の導体片と他の一の導体片のそれぞれの先端部同士が当接した状態を形成するとともに、当接した状態の前記先端部を外部に連通させる筒状の空洞部を形成する治具と、
当接した状態の前記先端部に向けて前記空洞部を介して外部からレーザビームを照射するレーザ照射手段と、
気体を前記空洞部に供給する気体供給手段とを備え、
前記気体供給手段は、前記レーザ照射手段によるレーザ照射方向に交差する方向に空気の流れを前記空洞部内で形成する態様で、前記空洞部内に空気を供給する第1気体供給手段を含む、回転電機用ステータ製造装置。
【請求項2】
前記気体供給手段は、不活性ガスを前記空洞部に供給する第2気体供給手段を更に含む、請求項1に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項3】
前記第1気体供給手段は、前記空洞部内の空気を外部に強制的に排出させる正圧及び負圧のうちの少なくともいずれか一方を発生させることで、前記空洞部内に空気を供給する、請求項2に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項4】
前記第1気体供給手段は、
正圧源及び負圧源のうちの少なくともいずれか一方を含む圧発生源と、
一端が前記圧発生源に連通しかつ他端が前記空洞部に第1開口部により開口する第1流路とを含み、
前記第2気体供給手段は、
不活性ガス源と、
一端が前記不活性ガス源に連通しかつ他端が前記空洞部に第2開口部により開口する1つ以上の第2流路とを含み、
前記第2開口部は、前記レーザ照射手段によるレーザ照射方向で、前記第1開口部よりも前記レーザ照射手段から遠い側に位置する、請求項2又は3に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項5】
前記第1流路は、一端が前記正圧源に連通する正圧側の流路部と、一端が前記負圧源に連通する負圧側の流路部とを含み、
前記第1開口部は、前記正圧側の流路部の他端と、前記負圧側の流路部の他端とにそれぞれ形成され、
前記正圧側の前記第1開口部と、前記負圧側の前記第1開口部とは、前記レーザ照射手段によるレーザ照射方向に交差する方向で前記空洞部を挟んで対向する、請求項に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項6】
前記正圧側の流路部は、前記正圧側の前記第1開口部に至る区間において、前記レーザ照射手段によるレーザ照射方向に対して略直角な方向で直線状に延在する、請求項に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項7】
前記第1流路及び前記1つ以上の第2流路は、前記治具に形成される、請求項5又は6に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項8】
前記治具は、前記ステータの中心軸に近い径方向内側の第1治具部材と、径方向外側の第2治具部材とを含み、
前記正圧側の流路部は、前記第1治具部材に形成され、
前記負圧側の流路部は、前記第2治具部材に形成される、請求項に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項9】
前記1つ以上の第2流路は、前記第1治具部材及び前記第2治具部材のうちの、いずれか一方のみに形成される、請求項に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項10】
前記第2開口部からの前記不活性ガスの供給方向は、前記レーザ照射手段によるレーザ照射方向に視て、前記第1気体供給手段により形成される空気の流れ方向に対して交差する、請求項のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項11】
前記1つ以上の第2流路は、前記第2開口部に近づくほど、前記レーザ照射手段によるレーザ照射方向で前記レーザ照射手段から遠くなる態様で傾斜する、請求項10に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項12】
前記第2気体供給手段は、前記空洞部を挟んで対向する2つ以上の前記第2流路から、当接した状態の前記先端部に向けて前記不活性ガスを供給する、請求項11のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項13】
前記治具は、複数対の前記導体片のそれぞれに対して別々の前記空洞部を形成する態様で、複数対の前記導体片に対して同時に機能する、請求項1~12のうちのいずれか1項に記載の回転電機用ステータ製造装置。
【請求項14】
治具を用いて、回転電機のステータを形成するための一の導体片と他の一の導体片のそれぞれの先端部同士が当接した状態を形成するとともに、当接した状態の前記先端部を外部に連通させる筒状の空洞部を形成するクランプ工程と、
前記クランプ工程の後に、気体を前記空洞部に供給する気体供給工程と、
前記クランプ工程の後に、前記気体供給工程により前記気体が供給されている状態で実行され、前記空洞部を介して外部からレーザビームを照射することで、前記先端部同士をレーザ溶接により接合する溶接工程とを含み、
前記気体供給工程は、前記溶接工程による前記レーザビームの照射方向に交差する方向に空気の流れを前記空洞部内で形成する態様で、前記空洞部内に空気を供給することを含む、回転電機用ステータ製造方法。
【請求項15】
前記気体供給工程は、不活性ガスを供給することを更に含む、請求項14に記載の回転電機用ステータ製造方法。
【請求項16】
前記気体供給工程は、前記空洞部に開口する第1開口部を有する第1流路を介して空気を供給しつつ、前記空洞部に開口する第2開口部を有する第2流路を介して、当接した状態の前記先端部に向けて前記不活性ガスを供給し、
前記第2開口部は、レーザ照射方向で、前記第1開口部よりも、当接した状態の前記先端部に近い、請求項15に記載の回転電機用ステータ製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機用ステータ製造装置及び回転電機用ステータ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機のステータコイルを形成するための一のコイル片と他の一のコイル片の端部同士を当接させた状態でクランプし、当接させた端部に係る溶接対象箇所にレーザビームを照射することで端部同士を溶接することを含むステータの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-48359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなコイル片の端部同士をレーザ溶接する場合、溶接対象箇所をレーザ照射手段に晒した状態でレーザ照射手段からレーザビームを照射する必要があり、レーザ照射手段から溶接対象箇所までのレーザ照射経路に対して適切な空間環境を形成することが、溶接品質を高める観点から重要となる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、レーザ照射手段から溶接対象箇所までのレーザ照射経路に対して適切な空間環境を形成することで、溶接品質を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、回転電機のステータを形成するための一の導体片と他の一の導体片のそれぞれの先端部同士が当接した状態を形成するとともに、当接した状態の前記先端部を外部に連通させる筒状の空洞部を形成する治具と、
当接した状態の前記先端部に向けて前記空洞部を介して外部からレーザビームを照射するレーザ照射手段と、
気体を前記空洞部に供給する気体供給手段とを備える、回転電機用ステータ製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、レーザ照射手段から溶接対象箇所までのレーザ照射経路に対して適切な空間環境を形成することで、溶接品質を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
図2】ステータコアの単品状態の平面図である。
図3】ステータコアに組み付けられる1対のコイル片を模式的に示す図である。
図4】ステータのコイルエンド周辺の斜視図である。
図5】同相のコイル片の一部を抜き出して示す斜視図である。
図6】一のコイル片の概略正面図である。
図7】互いに接合されたコイル片の先端部及びその近傍を示す図である。
図8】溶接対象箇所を通る図7のラインA-Aに沿った断面図である。
図9】治具を含む製造装置を示す概略図である。
図10】治具の分解斜視図である。
図11】治具の側面図と、ラインB-Bに沿った断面を示す断面図とを、2面図形式で示す図である。
図12】治具の平面図と、2方向の断面図とを、3面図形式で示す図である。
図13】本製造方法の流れを概略的に示すフローチャートである。
図14】本製造方法における気体供給工程の説明図である。
図15】本製造方法における気体供給工程の説明図である。
図16】本製造方法における溶接工程の説明図である。
図17】本製造方法における溶接工程の説明図である。
図18】適用可能な他の溶接対象箇所の説明図である。
図19】他の治具構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。なお、本明細書において、「所定」とは、「予め規定された」という意味で用いられている。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1の断面構造を概略的に示す断面図である。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(中心軸)12が延在する方向を指し、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、径方向外側がモータハウジング10に固定される。なお、ステータ21の中心軸は、回転軸12と同じである。
【0014】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、モータハウジング10にベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0015】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の内部には、永久磁石321が挿入される。永久磁石321の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0016】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられる。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0017】
ロータシャフト34は、図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴341、342を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド220A、220Bの冷却に供されてもよい。
【0018】
なお、図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、溶接により接合されるステータコイル24(後述)を有する限り、任意である。従って、例えば、ロータシャフト34は、中空部34Aを有さなくてもよいし、中空部34Aよりも有意に内径の小さい中空部を有してもよい。また、図1では、特定の冷却方法が開示されているが、モータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、モータハウジング10内の油路からコイルエンド220A、220Bに向けて径方向外側から油が滴下されてもよい。
【0019】
また、図1では、ロータ30がステータ21の内側に配されたインナーロータ型のモータ1であるが、他の形態のモータに適用されてもよい。例えば、ステータ21の外側にロータ30が同心に配されたアウターロータ型のモータや、ステータ21の外側及び内側の双方にロータ30が配されたデュアルロータ型のモータ等に適用されてもよい。
【0020】
次に、図2以降を参照して、ステータ21に関する構成を詳説する。
【0021】
図2は、ステータコア22の単品状態の平面図である。図3は、ステータコア22に組み付けられる1対のコイル片52を模式的に示す図である。図3では、ステータコア22の径方向内側を展開した状態で、1対のコイル片52とスロット220との関係が示される。また、図3では、ステータコア22が点線で示され、スロット220の一部については図示が省略されている。図4は、ステータ21のコイルエンド220A周辺の斜視図である。図5は、同相のコイル片52の一部を抜き出して示す斜視図である。
【0022】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル24(図1参照)とを含む。
【0023】
ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。ステータコア22の径方向内側には、ステータコイル24が巻回される複数のスロット220が形成される。具体的には、ステータコア22は、図2に示すように、円環状のバックヨーク22Aと、バックヨーク22Aから径方向内側に向かって延びる複数のティース22Bとを含み、周方向で複数のティース22B間にスロット220が形成される。スロット220の数は任意であるが、本実施例では、一例として、48個である。
【0024】
ステータコイル24は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイル(以下、U、V、Wを区別しない場合は「相コイル」と称する)を含む。各相コイルの基端は、入力端子(図示せず)に接続されており、各相コイルの末端は、他の相コイルの末端に接続されてモータ1の中性点を形成する。すなわち、ステータコイル24は、スター結線される。ただし、ステータコイル24の結線態様は、必要とするモータ特性等に応じて、適宜、変更してもよく、例えば、ステータコイル24は、スター結線に代えて、デルタ結線されてもよい。
【0025】
各相コイルは、複数のコイル片52を接合して構成される。図6は、一のコイル片52の概略正面図である。コイル片52は、相コイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロット220に挿入される単位)で分割したセグメントコイルの形態である。コイル片52は、断面矩形状の線状導体(平角線)60を、絶縁被膜62で被覆してなる。本実施例では、線状導体60は、一例として、銅により形成される。ただし、変形例では、線状導体60は、鉄のような他の導体材料により形成されてもよい。
【0026】
コイル片52は、ステータコア22に組み付ける前の段階では、一対の直進部50と、当該一対の直進部50を連結する連結部54と、を有した略U字状に成形されてよい。コイル片52をステータコア22に組み付ける際、一対の直進部50は、それぞれ、スロット220に挿入される(図3参照)。これにより、連結部54は、図3に示すように、ステータコア22の軸方向他端側において、複数のティース22B(及びそれに伴い複数のスロット220)を跨ぐように周方向に延びる。連結部54が跨ぐスロット220の数は、任意であるが、図3では3つである。また、直進部50は、スロット220に挿入された後は、図6において、二点鎖線で示すように、その途中で周方向に屈曲される。これにより、直進部50は、スロット220内において軸方向に延びる脚部56と、ステータコア22の軸方向一端側において周方向に延びる渡り部58と、になる。
【0027】
なお、図6では、一対の直進部50は、互いに離れる方向に屈曲するが、これに限られない。例えば、一対の直進部50は、互いに近づく方向に屈曲されてもよい。また、ステータコイル24は、3相の相コイルの末端同士を連結して中性点を形成するための中性点用コイル片等も有することがある。
【0028】
一つのスロット220には、図6に示すコイル片52の脚部56が複数、径方向に並んで挿入される。従って、ステータコア22の軸方向一端側には、周方向に延びる渡り部58が複数、径方向に並ぶ。図3及び図5に示すように、一つのスロット220から飛び出て周方向一方側に延びる一のコイル片52の渡り部58は、他のスロット220から飛び出て周方向他方側に延びる他の一のコイル片52の渡り部58に接合される。
【0029】
ここで、コイル片52は、上述したとおり、絶縁被膜62で被覆されているが、先端部40だけは、当該絶縁被膜62が除去される。これは、先端部40にて他のコイル片52との電気的接続を確保するためである。
【0030】
また、コイル片52は、図5及び図6に示すように、コイル片52の先端部40のうち、最終的に軸方向外側端面42、すなわち、コイル片52の幅方向一端面(軸方向外側端面42)を、軸方向外側に凸の円弧面としている。
【0031】
図7は、互いに接合されたコイル片52の先端部40及びその近傍を示す図である。なお、図7には、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1が模式的に示される。図8は、溶接対象箇所90を通る図7のラインA-Aに沿った断面図である。
【0032】
コイル片52の先端部40を接合する際には、一のコイル片52と他の一のコイル片52は、それぞれの先端部40が、図7に示すビュー(当接面401に対して垂直な方向視)でC字状をなす態様で、突き合わせられる。この際、互いに接合される2つの先端部40を、それぞれの円弧面(軸方向外側端面42)の中心軸が一致するように、その厚み方向に重ねて接合されてよい。このように中心軸を合わせて重ねることで、屈曲角度αが比較的大きい場合や小さい場合でも、互いに接合される2つの先端部40の軸方向外側のラインが一致し、適切に、重ね合わせることができる。
【0033】
この場合、溶接対象箇所90は、範囲D1及び範囲D2に示すように、当接面401に沿って直線状に延在する。すなわち、溶接対象箇所90は、レーザビーム110の照射側から視て(図7及び図8の矢印W参照)、範囲D2の幅で、範囲D1にわたり直線状に延在する。
【0034】
ここで、本実施例では、コイル片52の先端部40を接合する際の接合方法としては、溶接が利用される。そして、本実施例では、溶接方法としては、TIG溶接に代表されるアーク溶接ではなく、レーザビーム源を熱源とするレーザ溶接が採用される。TIG溶接に代えて、レーザ溶接を用いることで、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。すなわち、TIG溶接の場合は、当接させるコイル片の先端部同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる必要があるのに対して、レーザ溶接の場合は、かかる屈曲の必要性がなく、図7に示すように、当接させるコイル片52の先端部40同士を周方向に延在させた状態で溶接を実現できる。これにより、当接させるコイル片52の先端部40同士を軸方向外側に屈曲させて軸方向に延在させる場合に比べて、コイルエンド220A、220Bの軸方向の長さを低減できる。
【0035】
レーザ溶接では、図5に模式的に示すように、当接された2つの先端部40における溶接対象箇所90に溶接用のレーザビーム110を当てる。なお、レーザビーム110の照射方向(伝搬方向)は、軸方向に略平行であり、当接された2つの先端部40の軸方向外側端面42に、軸方向外側から向かう方向である。レーザ溶接の場合は、局所的に加熱できるため、先端部40及びその近傍のみを加熱することができ、絶縁被膜62の損傷(炭化)等を効果的に低減できる。その結果、適切な絶縁性能を維持したまま、複数のコイル片52を電気的に接続できる。
【0036】
溶接対象箇所90の周方向の範囲D1は、図7に示すように、2つのコイル片52の先端部40同士の当接部分における軸方向外側端面42の周方向の全範囲D0のうちの、両端を除く部分である。両端は、軸方向外側端面42の凸の円弧面に起因して、十分な溶接深さ(図7の寸法L1参照)を確保し難いためである。溶接対象箇所90の周方向の範囲D1は、コイル片52間での必要な接合面積や必要な溶接強度等が確保されるように適合されてよい。
【0037】
溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、図8に示すように、2つのコイル片52の先端部40同士の当接面401を中心とする。溶接対象箇所90の径方向の範囲D2は、レーザビーム110の径(ビーム径)に対応してよい。すなわち、レーザビーム110は、照射位置が径方向に実質的に変化することなく周方向に沿って直線的に変化する態様で、照射される。更に換言すると、レーザビーム110は、照射位置が当接面401に対して平行な直線状に変化するように移動される。これにより、例えばループ状(螺旋状)やジグザク状(蛇行)等に照射位置を変化させる場合に比べて、効率的に、直線状の溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射できる。
【0038】
次に、図9以降を参照して、ステータ21の製造装置の一部として、コイル片52の先端部40をレーザ溶接する際に好適な治具70を含む製造装置7について説明する。
【0039】
図9は、治具70を含む製造装置7を示す概略図である。図9には、接合対象の1対のコイル片52のそれぞれの一部(先端部40を含む一部)が模式的に示されている。
【0040】
製造装置7は、図9に示すように、治具70と、気体供給手段80と、レーザ照射手段89とを含む。
【0041】
治具70は、1対のコイル片52に対して、一のコイル片52と他の一のコイル片52のそれぞれの先端部40同士が当接した状態を形成し、かつ、当該当接した状態を維持する。すなわち、治具70は、1対のコイル片52の先端部40同士が当接した状態で維持されるように、1対のコイル片52をクランプする。なお、以下では、治具70は、1対のコイル片52の先端部40に係る部分だけが示されるが、複数対(例えば12対)のコイル片52の先端部40を同時にクランプする構成であってもよい。この場合、治具70は、図9に示す構成が複数個周方向に連続する態様で形成されてもよい。また、この場合、治具70は、複数対のコイル片52のそれぞれの対に対して別々の空洞部500を同時に形成してもよい。複数対(例えば12対)のコイル片52の先端部40を同時にクランプする構成の場合、1対ずつクランプする場合に比べて、溶接工程のリードタイムの効率的な短縮を図ることができる。
【0042】
治具70は、1対のコイル片52を上述したように拘束しているクランプ状態において、1対のコイル片52の先端部40(当接した状態の先端部40)を外部に連通させる筒状の空洞部500を形成する。すなわち、治具70は、1対のコイル片52を上述したように拘束すると同時に、当該1対のコイル片52の先端部40を外部に連通させる筒状の空洞部500を形成する。空洞部500は、レーザ照射手段89から先端部40の溶接対象箇所90までのレーザビーム110の経路(レーザ照射経路)を形成する。空洞部500は、好ましくは、レーザ照射手段89からのレーザビーム110が入射する側だけが開口する形態である。ただし、治具70が、互いに対して移動する2つ以上の治具部材(本実施例では、後述するように3つの治具部材71、72、73)により形成される場合、治具部材間のクリアランスに起因したわずかな隙間を有してもよい。
【0043】
本実施例では、治具70は、互いに対して相対的に移動可能な3つの治具部材71、72、73を含む。治具部材71、72、73のそれぞれの構成は、図10以降を参照して詳説する。
【0044】
気体供給手段80は、気体を空洞部500に供給する。空洞部500に気体を適切に供給することで、空洞部500内における所望の気体環境を実現できる。このようにして、本実施例によれば、気体供給手段80を有することで、レーザ照射手段89から溶接対象箇所90までのレーザ照射経路に対して適切な空間環境を形成することが可能となる。
【0045】
本実施例では、気体供給手段80は、第1気体供給手段81と、第2気体供給手段82とを含む。
【0046】
第1気体供給手段81は、気体として空気を空洞部500に供給する。第1気体供給手段81により供給される空気は、主に、レーザ溶接の際に発生しうるスパッタやすす等の除去対象物を空洞部500内から取り除く機能を有する。なお、スパッタとは、溶融池の乱れ等に起因して飛散する金属粒等である。なお、第1気体供給手段81により供給される気体は、コストの観点からは空気が好適であるが、窒素等のような他の気体が利用されてもよいし、空気と他の気体の混合気であってもよい。
【0047】
第1気体供給手段81は、好ましくは、空洞部500内の空気を外部に強制的に排出させる正圧及び負圧のうちの少なくともいずれか一方を発生させる。本実施例では、第1気体供給手段81は、空洞部500内の空気を外部に強制的に排出させる正圧及び負圧の双方を発生すべく、正圧源811と、負圧源812とを含む。
【0048】
正圧源811は、いわゆるエアブローの源であり、空洞部500内に噴射する空気の流れを生成する。正圧源811は、コンプレッサや、ファン、ブロア等であってよい。
【0049】
負圧源812は、いわゆるバキューム源であり、空洞部500内の空気を引く負圧を生成する。負圧源812は、真空ポンプや、真空ブロア、エジェクタ(真空発生器)等であってよい。
【0050】
この場合、第1気体供給手段81は、正圧源811により空洞部500内のスパッタを吹き飛ばす空気流れを形成するとともに、負圧源812により空洞部500内の空気を引く(パージする)ことができる。これにより、レーザ溶接の際に発生しうるスパッタを空洞部500内から効果的に取り除くことができる。
【0051】
なお、第1気体供給手段81のうちの、正圧源811及び負圧源812のそれぞれと空洞部500とを連通するための管路構成については、図10以降を参照して詳説する。
【0052】
第2気体供給手段82は、不活性ガスを空洞部500に供給する。第2気体供給手段82により供給される不活性ガスは、主に、シールドガス(溶融金属の酸化、窒化等を防止するガス)として機能する。不活性ガスは、任意であるが、窒素、アルゴン、ヘリウム等であってよい。この場合、シールドガスとして機能する不活性ガスにより溶接品質を効果的に高めることができる。なお、変形例では、不活性ガスに代えて又は加えて、炭酸ガスが利用されてもよい。
【0053】
第2気体供給手段82は、不活性ガス源820を含む。不活性ガス源820は、不活性ガス又はその源を貯留するタンク等の形態であってよい。第2気体供給手段82のうちの、不活性ガス源820と空洞部500とを連通するための管路構成については、図10以降を参照して詳説する。
【0054】
レーザ照射手段89は、上述したレーザビーム110を照射する。なお、治具70の固定された基準位置に対するレーザ照射手段89の位置は、変化してもよいし、一定であってもよい。すなわち、レーザ照射手段89は、可動式であってもよいし、固定式であってもよい。
【0055】
レーザ照射手段89により照射されるレーザビーム110の波長は任意であるが、好ましくは、レーザビーム110の波長は、グリーンレーザを形成する波長である。なお、グリーンレーザとは、波長が532nmのレーザ、すなわちSHG(Second Harmonic Generation:第2高調波)レーザのみならず、532nmに近い波長のレーザをも含む概念である。なお、変形例では、グリーンレーザの範疇に属さない0.6μm以下の波長のレーザが利用されてもよい。グリーンレーザに係る波長は、例えばYAGレーザやYVO4レーザで生み出された基本波長を酸化物単結晶(例えば、LBO:リチウムトリボレート)に通して変換することで得られる。
【0056】
なお、変形例では、赤外レーザ(波長が1064nmのレーザ)が利用されてもよい。ただし、赤外レーザは、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約10%と低い。すなわち、赤外レーザの場合、レーザビーム110の大部分は、コイル片52で反射してしまい、吸収されない。このため、接合対象のコイル片52間での必要な接合面積を得るためには比較的大きい入熱量が必要となり、熱影響が大きく、溶接が不安定となるおそれがある。
【0057】
これに対して、グリーンレーザの場合、コイル片52の線状導体60の材料である銅に対して吸収率が約50%と高い。従って、本実施例によれば、赤外レーザを利用する場合に比べて、少ない入熱量で、コイル片52間での必要な接合面積を確保することが可能となる。
【0058】
次に、図10から図12を参照して、本実施例の治具70の構成について更に説明する。
【0059】
図10は、治具70の分解斜視図であり、図11は、治具70の側面図と、ラインB-Bに沿った断面を示す断面図とを、2面図形式で示す図である。図12は、治具70の平面図と、2方向の断面図(ラインC-C及びラインD-Dに沿った断面)とを、3面図形式で示す図である。図10から図12には、接合対象の1対のコイル片52のそれぞれの一部(先端部40を含む一部)が模式的に示されている。以下で、対のコイル片52とは、治具70によるクランプ対象のコイル片52を表す。
【0060】
図10には、径方向に沿ったX方向と、X1側及びX2側が定義されるとともに、周方向に沿ったY方向と、Y1側及びY2側が定義されている。また、図10には、軸方向に沿ったZ方向と、Z1側及びZ2側が定義されている。以下では、説明上、Z方向を上下方向とし、Z1側を上側とする。ただし、Z方向が重力方向と一致しないような態様で治具70が配置されてもよい。
【0061】
治具70は、治具部材71(以下、「径方向内側の治具部材71」とも称する)と、治具部材71よりも径方向外側(X方向X2側)に配置される治具部材72(以下、「径方向外側の治具部材72」とも称する)と、治具部材73とを含む。
【0062】
径方向内側の治具部材71と径方向外側の治具部材72とは、互いに対して移動可能である。例えば、径方向内側の治具部材71は、径方向外側の治具部材72に対して周方向に移動可能である。径方向内側の治具部材71は、径方向外側の治具部材72及び治具部材73と協動して、対のコイル片52の状態を、対のコイル片52が治具70に対して拘束されているクランプ状態と、治具70に対して拘束されていない非クランプ状態との間で切替可能である。図10から図12は、対のコイル片52のクランプ状態を実現しているときの治具70が示されている。
【0063】
径方向内側の治具部材71は、クランプ状態において、径方向外側の治具部材72に径方向で対向する合わせ面718、719を有する。合わせ面718は、合わせ面719と略平行であり、かつ、合わせ面719に対して径方向外側にオフセットしている。なお、略平行とは、厳密な平行に限定されないことを意図し、例えば10%程度の誤差を許容する概念である。この場合、合わせ面718は、対のコイル片52の厚み分(径方向の厚み分)に対応した寸法だけ、合わせ面719に対して径方向外側にオフセットしてよい。このようなオフセットを利用して、対のコイル片52の先端部40を適切に拘束(クランプ)できる。
【0064】
径方向内側の治具部材71は、クランプ状態において、対のコイル片52のうちの、径方向内側のコイル片52に周方向に当接することで(図12参照)、径方向内側のコイル片52の周方向の変位を拘束する。また、治具部材71は、クランプ状態において、対のコイル片52のうちの、径方向内側のコイル片52に径方向に当接することで(図11参照)、対のコイル片52の径方向の変位を拘束する。
【0065】
径方向外側の治具部材72は、クランプ状態において、径方向内側の治具部材71に径方向で対向する合わせ面728、729を有する。合わせ面728は、合わせ面729と略平行であり、かつ、合わせ面729に対して径方向外側にオフセットしている。この場合、合わせ面728は、対のコイル片52の厚み分(径方向の厚み分)に対応した寸法だけ、合わせ面729に対して径方向外側にオフセットしてよい。このようなオフセットを利用して、対のコイル片52の先端部40を適切に拘束(クランプ)できる。
【0066】
径方向外側の治具部材72は、クランプ状態において、対のコイル片52のうちの、径方向外側のコイル片52に周方向に当接することで(図12参照)、径方向外側のコイル片52の周方向の変位を拘束する。
【0067】
治具部材73は、径方向外側の治具部材72に対して径方向に移動可能である。治具部材73は、クランプ状態において、対のコイル片52のうちの、径方向外側のコイル片52に径方向外側から当接する(図11参照)。このとき、治具部材73は、対のコイル片52の重なり合う部分(図7参照)に当接する(図11参照)。治具部材73は、対のコイル片52を、径方向内側の治具部材71に押し付ける態様で、対のコイル片52の径方向の変位を拘束する(図11参照)。すなわち、治具部材73は、径方向内側の治具部材71と協動して、対のコイル片52を径方向に挟持することで、対のコイル片52の径方向の変位を拘束する。
【0068】
このような本実施例の治具70によれば、実質的に2つの可動部(治具部材71及び治具部材73)を用いて、対のコイル片52の径方向及び周方向の変位を拘束するクランプ状態を形成できる。
【0069】
本実施例では、治具70は、クランプ状態において、対のコイル片52の上側に、上述した空洞部500を形成する。すなわち、治具70は、空洞部500の下側において、上述したように対のコイル片52を周方向及び径方向に拘束する。空洞部500は、下側(Z方向Z2側)が対のコイル片52で実質的に閉塞され、上側(Z方向Z1側)が開口する。なお、上側の開口は、上述したように、レーザ照射手段89からのレーザビーム110の照射用である。
【0070】
治具70は、好ましくは、軸方向に視て、対のコイル片52の先端部40同士の重なり合う部分(図7参照)の中心に空洞部500の中心が位置するように、空洞部500を形成する。この場合、対のコイル片52の先端部40同士の当接面401(図8参照)の位置に、空洞部500の径方向の中心が位置し、かつ、上記の重なり合う部分の周方向の中心(図7に示す溶接対象箇所90の周方向の範囲D1の中心)に、空洞部500の周方向の中心が位置する。
【0071】
空洞部500は、径方向内側が、径方向内側の治具部材71における径方向の側壁部706により閉塞され、径方向外側が、径方向外側の治具部材72における径方向の側壁部708により閉塞される。
【0072】
空洞部500は、周方向の一方側(Y1側)が、径方向内側の治具部材71における周方向の側壁部710と、径方向外側の治具部材72における周方向の側壁部720と、により閉塞される。側壁部710及び側壁部720は、合わせ面718、728間での径方向のわずかなクリアランスを介して径方向に連続する。なお、このクリアランスは、径方向内側の治具部材71の、径方向外側の治具部材72に対する周方向の移動を可能とする最小限の寸法であってよい。
【0073】
空洞部500は、周方向の他方側(Y2側)が、径方向内側の治具部材71における周方向の側壁部712と、径方向外側の治具部材72における周方向の側壁部722と、により閉塞される。側壁部712及び側壁部722は、合わせ面719、729間での径方向のわずかなクリアランスを介して径方向に連続する。なお、このクリアランスは、径方向内側の治具部材71の、径方向外側の治具部材72に対する周方向の移動を可能とする最小限の寸法であってよい。
【0074】
空洞部500は、上側に向かうほど断面積(XY平面内の断面積)が広くなる形態である。すなわち、空洞部500は、テーパ状の形態である。テーパ状の形態の傾斜度合いは、レーザ照射手段89からのレーザビーム110の照射角度の可変範囲に応じて設定されてよい。これにより、空洞部500の上側の開口面積(外部と連通する開口面積)を、レーザビーム110の照射角度の可変範囲に応じて、最小化を図ることができる。なお、レーザビーム110の照射角度の可変範囲は、溶接対象箇所90の長さ(例えば周方向の長さ)に応じて決定されてよい。
【0075】
本実施例では、治具70は、上述した気体供給手段80のうちの、正圧源811、負圧源812、及び不活性ガス源820のそれぞれを空洞部500に連通させる流路構造を有する。
【0076】
具体的には、本実施例では、治具70は、正圧源811、負圧源812、及び不活性ガス源820のそれぞれを空洞部500に連通させる流路構造として、ブロー流路851と、バキューム流路852と、不活性ガス流路853とを含む。
【0077】
ブロー流路851は、正圧源811を空洞部500に連通させる。すなわち、ブロー流路851は、一端が正圧源811に連通し、他端が空洞部500に開口する。ブロー流路851は、治具70に形成される。これにより、空洞部500における所望の位置に開口するブロー流路851を容易に形成できる。また、ブロー流路851は、好ましくは、治具70のうちの、径方向内側の治具部材71に形成される。この場合、ブロー流路851の開口部8510(空洞部500側の開口部8510)を径方向外側に向けることができ、径方向外側に向かう空気の流れ(ブロー)を形成できる。
【0078】
図10から図12に示す例では、ブロー流路851の開口部8510(空洞部500側の開口部8510)は、径方向内側の治具部材71の径方向の側壁部706に形成される。すなわち、ブロー流路851は、空洞部500に対して径方向内側から径方向に開口する。ブロー流路851は、好ましくは、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)よりも上側で正圧を作用させる。これにより、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)付近における後述する不活性ガスの溜まり(滞留)を阻害し難い態様で、溶接対象箇所90の上側にスパッタ除去用の空気流れを形成できる。
【0079】
ブロー流路851は、開口部8510(空洞部500側の開口部8510)に至る直前の区間において、軸方向に対して略直角な方向(径方向)に直線状に延在する。略直角とは、厳密な直角に限定されないことを意図し、例えば10%程度の誤差を許容する概念である。これにより、例えばブロー流路851が対の不活性ガス流路853のように斜め下向きに延在する場合に比べて、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)付近における後述する不活性ガスの溜まり(滞留)を阻害し難い空気流れを実現できる。すなわち、ブロー流路851から吐出される空気が、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)に直接的に当たると、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)付近に供給されている後述する不活性ガスが吹き飛ばされ、部分的に空気に置換されるおそれがある。この点、ブロー流路851を開口部8510の直前の区間において略XY平面内で直線状に延在させることで、かかる不都合を効果的に低減できる。略XY平面内とは、XY平面に厳密に平行である必要はなく、ある程度の誤差(例えば10%程度の誤差)を許容する概念である。なお、図10から図12に示す例では、ブロー流路851は、径方向に延在する部分が示されているが、例えば図示していない区間において、正圧源811に向けて軸方向に沿って上側に延在する部分を含んでもよい。
【0080】
ブロー流路851の開口部8510は、好ましくは、比較的小さい開口面積を有し、例えばノズル状の形態であってよい。本実施例では、開口部8510は、後述するバキューム流路852の開口部8520(空洞部500側の開口部8520)よりも有意に開口面積が小さい。これにより、ブロー流路851を通って開口部8510から空洞部500内に吐出される空気の流速を効率的に高めることができる。なお、ブロー流路851を通って開口部8510から空洞部500内に吐出される空気の流速が高いほど、レーザ溶接の際に発生しうるスパッタを空洞部500外へと除去(バキューム流路852内に導くことで除去)する能力が向上する。
【0081】
バキューム流路852は、負圧源812を空洞部500に連通させる。すなわち、バキューム流路852は、一端が負圧源812に連通し、他端が空洞部500に開口する。バキューム流路852は、治具70に形成される。これにより、空洞部500における所望の位置に開口するバキューム流路852を容易に形成できる。また、バキューム流路852は、好ましくは、治具70のうちの、径方向外側の治具部材72に形成される。この場合、バキューム流路852を介して収集される空洞部500内の空気(スパッタを含みうる空気)を、治具70の径方向外側に排出することが容易となる。なお、径方向内側よりも径方向外側の方が比較的広い空間が利用可能であり、バキューム流路852を介して収集される空洞部500内の空気(スパッタを含みうる空気)を処理するための構成(図示せず)の配置が容易となる。
【0082】
図10から図12に示す例では、バキューム流路852の開口部8520(空洞部500側の開口部8520)は、径方向外側の治具部材72の径方向の側壁部708に形成される。すなわち、バキューム流路852は、空洞部500に対して径方向外側から径方向に開口する。バキューム流路852は、好ましくは、対のコイル片52(溶接対象箇所90)よりも上側で負圧を作用させる。これにより、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)付近における後述する不活性ガスの溜まり(滞留)を阻害し難い態様で、溶接対象箇所90の上側にスパッタ除去用の空気流れを形成できる。
【0083】
なお、図10から図12に示す例では、バキューム流路852は、径方向に延在する部分が示されているが、例えば図示していない区間において、負圧源812に向けて軸方向に沿って上側に延在する部分(例えば煙突状の流路部)を含んでもよい。
【0084】
バキューム流路852は、好ましくは、ブロー流路851に対して空洞部500を挟んで径方向に対向する。この場合、バキューム流路852の開口部8520(空洞部500側の開口部8520)は、好ましくは、ブロー流路851の開口部8510に対して、空洞部500を挟んで径方向で対向する。これにより、ブロー流路851の開口部8510から吐出される空気(スパッタを運ぶ空気)を、バキューム流路852内へと直線的な径方向の経路で導くことができる。具体的には、バキューム流路852は、ブロー流路851と協動して、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)よりも上側において、Z方向に交差する空気流れ(例えばXY平面内に略平行な空気流れ)を形成できる。これにより、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)付近における後述する不活性ガスの溜まり(滞留)を阻害し難い空気流れを効果的に形成できる。また、ブロー流路851の開口部8510からバキューム流路852の開口部8520までの空洞部500を通る区間の距離の最小化を図ることで、圧力損失の最小化を図り、空洞部500に正圧及び負圧を効率的に作用させることができる。
【0085】
バキューム流路852の開口部8520(空洞部500側の開口部8520)は、好ましくは、比較的大きい開口面積を有する。本実施例では、開口部8520は、開口面積が比較的大きく、上述したように、ブロー流路851の開口部8510(空洞部500側の開口部8510)よりも有意に開口面積が大きい。これにより、ブロー流路851からの空気により吹き飛ばされるスパッタの大部分を、バキューム流路852の開口部8520へと直接的に導くことができ、径方向の側壁部708(開口部8520まわりの表面)に付着しうるスパッタを効率的に低減できる。
【0086】
不活性ガス流路853は、不活性ガス源820を空洞部500に連通させる。すなわち、不活性ガス流路853は、一端が不活性ガス源820に連通し、他端が空洞部500に開口する。不活性ガス流路853は、治具70に形成される。これにより、空洞部500における所望の位置に開口する不活性ガス流路853を容易に形成できる。
【0087】
不活性ガス流路853は、好ましくは、一の空洞部500に対して対で形成される。これにより、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)よりも上側において、2方向からの不活性ガスの流れを混合させることで、不活性ガスの溜まり(滞留)を効果的に安定化させることができる。なお、不活性ガスの溜まりが安定した状態で、上述したレーザ溶接が実行される場合、溶接部の品質を効果的に高めることができる。
【0088】
不活性ガス流路853は、好ましくは、ブロー流路851の開口部8510からバキューム流路852の開口部8520よりも下側で、空洞部500に開口する。これにより、第1気体供給手段81による供給される空気の流れに影響を受けがたい態様で、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)の上側に、不活性ガスの溜まり(滞留)を形成できる。なお、対の不活性ガス流路853から空洞部500に供給される不活性ガスの速度(流速)は、ブロー流路851からに供給される空気の速度(流速)よりも有意に小さい。対の不活性ガス流路853から空洞部500に供給される不活性ガスは、バキューム流路852を介して排出されうる一部を過不足なく補う態様で供給されてよい。
【0089】
対の不活性ガス流路853は、好ましくは、それぞれ、空洞部500を挟んで周方向に対向する。この場合、周方向(対のコイル片52の先端部40同士の当接面401に平行な方向)で対向する2方向から不活性ガスを供給できるので、空洞部500における周方向の中心部に位置する溶接対象箇所90に不活性ガスを効率的に供給できる。この結果、対のコイル片52の先端部40同士の当接面401の上側における不活性ガスの分布を、周方向に沿って均一化できる。これにより、溶接対象箇所90の周方向の範囲D1の全体にわたって溶接品質を高めることができる。なお、変形例では、異なる3方向以上から不活性ガスを供給してもよい。
【0090】
対の不活性ガス流路853は、好ましくは、空洞部500に対して周方向かつ斜め下向きに開口する。これにより、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)の上側から、対のコイル片52の先端部40(溶接対象箇所90)に向けて直接的に不活性ガスを供給できる。本実施例では、図12に示すように、対の不活性ガス流路853は、径方向に視て、周方向の側壁部712、側壁部710よりもXY平面に対してなす角度が小さくなる態様(例えば45度程度のなす角度)で傾斜している。ただし、変形例では、対の不活性ガス流路853の一方又は双方は、上述したブロー流路851と同様、開口部8530に至る直前の区間において、略XY平面内で直線状に延在してもよい。略XY平面内とは、XY平面に厳密に平行である必要はなく、ある程度の誤差(例えば10%程度の誤差)を許容する概念である。
【0091】
対の不活性ガス流路853は、好ましくは、空洞部500を挟んで周方向に対向しつつ、径方向内側の治具部材71及び径方向外側の治具部材72のうちのいずれか一方だけに形成される。この場合、径方向内側の治具部材71及び径方向外側の治具部材72のそれぞれに、例えば1つずつ不活性ガス流路853が設けられる場合に比べて、第2気体供給手段82に係る構成を効率的に配置できる。例えば、対の不活性ガス流路853に対して、共通の不活性ガス源820を連通させる場合、かかる連通のための経路(図示せず)の一部を共通化することが可能となる。
【0092】
本実施例では、一例として、不活性ガス流路853は、径方向内側の治具部材71に、対で設けられる。ただし、変形例では、不活性ガス流路853は、径方向内側の治具部材71及び径方向外側の治具部材72のそれぞれに設けられてもよいし、径方向外側の治具部材72に対で設けられてもよい。
【0093】
なお、本実施例では、対の不活性ガス流路853は、ともに、径方向内側の治具部材71に形成されるので、対の不活性ガス流路853のそれぞれの開口部8530(空洞部500側の開口部8530)は、径方向で互いに対して若干オフセットしつつ、周方向に対向する。具体的には、対の不活性ガス流路853のうちの、Y方向Y1側の不活性ガス流路853は、径方向内側の治具部材71における側壁部710に開口部8530を有し、Y方向Y2側の不活性ガス流路853は、径方向内側の治具部材71における側壁部712に開口部8530を有する。この場合、図12に示すように、側壁部710の開口部8530は、空洞部500の径方向の略中心位置(コイル片52の先端部40同士の当接面401の位置)に対応した径方向の位置に形成されてよい。
【0094】
このように本実施例による治具70によれば、対のコイル片52をクランプしたクランプ状態を形成でき、当該クランプ状態において、対のコイル片52の先端部40同士の溶接対象箇所90に対して上側に、上側のみが実質的に開口した空洞部500を形成できる。これにより、閉塞度の高い空洞部500内で先端部40同士のレーザ溶接を行うことができ、第2気体供給手段82からの不活性ガスによる効果(溶接品質を高める効果)を促進できる。
【0095】
また、本実施例によれば、空洞部500への各種開口部のうちの、第1気体供給手段81に係る開口部8510、8520が、第2気体供給手段82の開口部8530よりも上側に位置するので、第2気体供給手段82から供給される不活性ガスの機能(溶接品質を高める機能)を有意に阻害しない態様で、第1気体供給手段81に係る空気流れを空洞部500内に形成できる。これにより、不活性ガスの機能(溶接品質を高める機能)を有意に阻害しない態様でスパッタを除去でき、溶接品質を効果的に高めることができる。
【0096】
また、本実施例によれば、ブロー流路851の開口部8510とバキューム流路852の開口部8520が径方向に対向しつつ、対の不活性ガス流路853に係る開口部8530が周方向に対向するので、ブロー流路851、バキューム流路852、及び対の不活性ガス流路853を、治具70に効率的に形成できる。例えば、ブロー流路851の開口部8510とバキューム流路852の開口部8520が径方向に対向し、対の不活性ガス流路853に係る開口部8530が同様に径方向に対向する場合、ブロー流路851、バキューム流路852、及び対の不活性ガス流路853を、互いに連通しないように治具70に形成することが困難となり、治具構成が複雑化しうる。これに対して、本実施例によれば、ブロー流路851、バキューム流路852、及び対の不活性ガス流路853を、互いに連通しないように治具70に形成することが容易である。ただし、変形例では、ブロー流路851の開口部8510とバキューム流路852の開口部8520が径方向に対向し、かつ、対の不活性ガス流路853に係る開口部8530が同様に径方向に対向してもよいし、あるいは、ブロー流路851の開口部8510とバキューム流路852の開口部8520が周方向に対向し、かつ、対の不活性ガス流路853に係る開口部8530が同様に周方向に対向してもよい。
【0097】
また、本実施例によれば、ブロー流路851の開口部8510とバキューム流路852の開口部8520が径方向に対向しつつ、対の不活性ガス流路853に係る開口部8530が周方向に対向し、かつ、開口部8510及び開口部8520が開口部8530に対して上下方向でオフセットしている。これにより、スパッタ除去用の空気の供給経路と、不活性ガスの供給経路とを、互いに干渉し難い態様で、かつ、それぞれの目的に適合した所望の位置に形成することが容易となる。例えば、スパッタ除去用の空気を、軸方向に視て溶接対象箇所90の略中心を通るように供給でき、かつ、不活性ガスを溶接対象箇所90の略中心で滞留するように供給できる。
【0098】
なお、本実施例では、ブロー流路851の開口部8510とバキューム流路852の開口部8520が径方向に対向しつつ、対の不活性ガス流路853に係る開口部8530が周方向に対向するが、逆であってもよい。すなわち、ブロー流路851の開口部8510とバキューム流路852の開口部8520が周方向に対向しつつ、対の不活性ガス流路853に係る開口部8530が径方向に対向してもよい。ただし、この場合、対の不活性ガス流路853を、径方向内側の治具部材71と径方向外側の治具部材72のそれぞれに形成する必要が生じるため、構成(例えば配管等の構成)が複雑化しやすい不都合が生じうる。
【0099】
次に、図13以降を参照して、ステータ21の製造方法の一部として、製造装置7によるステータ21の製造方法について説明する。
【0100】
図13は、製造装置7によるステータ21の製造方法(以下、「本製造方法」とも称する)の流れを概略的に示すフローチャートである。図14から図17は、本製造方法における特定の工程の説明図であり、図14及び図15は、ワークである対のコイル片52にスパッタ除去用の空気及び不活性ガスが供給されている状態を2方向から模式的に示す図であり、図16及び図17は、対のコイル片52にスパッタ除去用の空気及び不活性ガスが供給されている状態でレーザ溶接が実行されている様子を2方向から模式的に示す図である。図14から図17では、製造装置7に関連する一部だけが模式的に示されるとともに、気体の流れが矢印R130及びR132で模式的に示されている。また、図16及び図17では、レーザビーム110が模式的に示されている。
【0101】
まず、本製造方法は、治具70を用いて対のコイル片52を拘束するクランプ状態を形成するクランプ工程(ステップS1300)を含む。すなわち、クランプ工程(ステップS1300)として、対のコイル片52とともに、径方向内側の治具部材71及び治具部材73を、径方向外側の治具部材72に対してクランプ用の所定位置関係に位置付けることで、クランプ状態を形成する。なお、クランプ状態では、上述したように、対のコイル片52の先端部40同士が当接した状態で維持されるとともに、当接した状態の先端部40を外部に連通させる空洞部500が形成される。
【0102】
ついで、本製造方法は、空洞部500に気体を供給する気体供給工程(ステップS1302)を含む。本製造方法では、気体供給工程(ステップS1302)は、第1気体供給工程(ステップS1302A)と、第2気体供給工程(ステップS1302B)とを含む。
【0103】
具体的には、本製造方法は、第1気体供給工程(ステップS1302A)として、第1気体供給手段81を用いて、空洞部500にスパッタ除去用の空気を供給している状態を形成する。また、本製造方法は、第2気体供給工程(ステップS1302B)として、第2気体供給手段82を用いて、空洞部500に不活性ガスを供給している状態を形成する。第1気体供給手段81及び第2気体供給手段82は、上述したとおりである。
【0104】
なお、第1気体供給工程(ステップS1302A)と、第2気体供給工程(ステップS1302B)とは、いずれが先に開始されてもよいし、同時に開始されてもよい。
【0105】
このようにして、気体供給工程(ステップS1302)が実行されると、図14及び図15に示すように、空洞部500に空気が供給されている状態(矢印R130参照)と、空洞部500に不活性ガスが供給されている状態(矢印R132参照)とが、同時に実現される。
【0106】
ついで、本製造方法は、レーザ照射手段89を用いて、対のコイル片52の溶接対象箇所90にレーザビーム110を照射することで、先端部40同士をレーザ溶接により接合する溶接工程(ステップS1304)を含む。
【0107】
本実施例では、溶接工程(ステップS1304)は、図16及び図17に示すように、空洞部500に空気及び不活性ガスの双方が供給されている状態(矢印R130及びR132参照)を維持しつつ実行される。これにより、第2気体供給手段82による不活性ガスがシールドガスとして機能して溶接品質が向上するとともに、レーザ溶接の際に発生しうるスパッタを発生と同時に瞬時的に空洞部500から除去できる。このようにして、レーザ照射手段89から溶接対象箇所90までのレーザ照射経路に対して適切な空間環境を形成することで、溶接品質を効果的に高めることができる。
【0108】
ついで、本製造方法は、溶接工程(ステップS1304)が終了すると、空洞部500に気体を供給している状態を停止する気体供給停止工程(ステップS1306)を含む。気体供給停止工程(ステップS1306)は、第1気体供給手段81による空気の供給を停止する第1停止工程(ステップS1306A)と、第2気体供給手段82による不活性ガスの供給を停止する第2停止工程(ステップS1306B)とを含む。
【0109】
なお、第1停止工程(ステップS1306A)と、第2停止工程(ステップS1306B)とは、いずれが先に開始されてもよいし、同時に開始されてもよい。
【0110】
ついで、本製造方法は、レーザ溶接が完了した対のコイル片52のクランプ状態(治具70によるクランプ状態)を解除するクランプ解除工程(ステップS1308)を含む。クランプ解除工程(ステップS1308)は、径方向内側の治具部材71及び治具部材73を、径方向外側の治具部材72に対してクランプ解除用の所定位置関係に位置付けることで実現されてよい。
【0111】
このような本製造方法によれば、空洞部500に空気及び不活性ガスの双方が供給されている状態(矢印R130及びR132参照)を形成することで、レーザ照射手段89から溶接対象箇所90までのレーザ照射経路に対して適切な空間環境を形成できる。そして、このような適切な空間環境において溶接工程(ステップS1304)を行うことができる。すなわち空洞部500に空気及び不活性ガスの双方が供給されている状態(矢印R130及びR132参照)を維持しつつ、溶接工程(ステップS1304)を行うことができる。その結果、溶接品質を効果的に高めることができる。
【0112】
なお、本製造方法は、説明上、1対のコイル片52に関するものであるが、上述したように、複数対(例えば12対)のコイル片52の先端部40を同時にクランプする構成にも拡張できる。複数対のコイル片52の先端部40を同時にクランプする構成においては、クランプ工程(ステップS1300)及びクランプ解除工程(ステップS1308)は、複数対のコイル片52のそれぞれに対して同時に実行されてよく、気体供給工程(ステップS1302)から気体供給停止工程(ステップS1306)までの各工程は、複数対のコイル片52のそれぞれに対して同時に又は順次実行されてもよい。これにより、1対ずつ各種工程を実行する場合に比べて、本製造方法に係るリードタイムの効率的な短縮を図ることができる。
【0113】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0114】
例えば、上述した実施例は、コイル片52の先端部40同士の接合に関するが、コイル片52の先端部40と、バスバーの端部(図示せず)との間の接合にも適用可能である。この場合、バスバーの端部に接合されるコイル片52の先端部40は、動力線や中性点を形成する渡り部の先端部であってよい。
【0115】
例えば、図18には、適用可能な他の溶接対象箇所が斜視図で示されている。図18では、上述した実施例と同様であってよい構成要素については、同一の参照符号が付されている。図18に示す例では、端子台670に保持されるバスバーの端部680、681とステータコイル24Aに係るコイル片52Aの先端部40Aとが互いに接合される。なお、この場合、端子台670に保持されるバスバーの一部は、端子台670内において3相の外部端子671に電気的に接続される。このようなバスバーの端部680、681とコイル片52Aの先端部40Aとの間の接合部に対しても、本実施例による治具70を利用したレーザ溶接が適用されてもよい。この場合、例えば、図19に軸方向の断面視で示すように、鉤型の治具70Aを形成する治具部材71A、72Aによって、上述した治具部材71及び治具部材72と同様の機能が実現されてもよい。この場合、治具部材71A、72Aは、先端部40A同士の当接面401Aの上側(Z1側)に空洞部500Aを形成してよい。また、この場合、治具部材71A、72Aは、図19に示すように、上述した治具70のブロー流路851、バキューム流路852、及び不活性ガス流路853と同様の機能を有するブロー流路851A、バキューム流路852A、及び不活性ガス流路853Aを形成してよい。
【0116】
また、上述した実施例では、第1気体供給手段81は、正圧源811及び負圧源812の双方を利用するが、正圧源811及び負圧源812のうちのいずれか一方だけが利用されてもよい。この場合でも、レーザ溶接の際に発生しうるスパッタを空洞部500内から効果的に取り除くことができる。例えば正圧源811のみを利用する場合、バキューム流路852は、ブロー流路851から噴射された空気とともにスパッタ等を回収する流路として機能してよい。また、負圧源812のみを利用する場合、ブロー流路851は、負圧源812からの負圧に起因して外部から空洞部500に向かう空気の流れを形成する流路として機能してよい。
【符号の説明】
【0117】
1・・・モータ(回転電機)、12・・・回転軸(中心軸)、21・・・ステータ、40・・・先端部、52・・・コイル片(導体片)、500・・・空洞部、110・・・レーザビーム、70・・・治具、71、71A・・・治具部材(第1治具部材)、72、72A・・・治具部材(第2治具部材)、80・・・気体供給手段、81・・・第1気体供給手段、82・・・第2気体供給手段、811・・・正圧源(圧発生源)、812・・・負圧源(圧発生源)、820・・・不活性ガス源、851・・・ブロー流路(第1流路)、8510・・・開口部(第1開口部)、852・・・バキューム流路(第1流路)、8520・・・開口部(第1開口部)、853・・・不活性ガス流路(第2流路)、8530・・・開口部(第2開口部)、89・・・レーザ照射手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19