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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】高周波増幅器
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/60 20060101AFI20241212BHJP
   H03F 1/02 20060101ALI20241212BHJP
   H03F 1/26 20060101ALI20241212BHJP
   H03F 3/195 20060101ALI20241212BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20241212BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H03F3/60
H03F1/02 188
H03F1/26
H03F3/195
H01L27/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021570058
(86)(22)【出願日】2021-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2021000127
(87)【国際公開番号】W WO2021141030
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020002882
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】橋長 達也
(72)【発明者】
【氏名】森山 豊
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0286861(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0349731(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0173430(US,A1)
【文献】特開2019-087992(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/199366(JP,A1)
【文献】特開2007-043305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
H01L 21/822
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアアンプと、前記キャリアアンプの出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始し、前記キャリアアンプとは異なる飽和出力を有するピークアンプとを備え、入力された波長λの高周波信号を増幅する非対称ドハティアンプと、
前記非対称ドハティアンプを駆動するドライバアンプと、
前記ドライバアンプにより増幅された高周波信号を前記ピークアンプ側の入力経路と前記キャリアアンプ側の入力経路に分岐する分岐回路と、
前記ピークアンプ側の経路または前記キャリアアンプ側の経路のいずれか一方に設けられ、前記ピークアンプの入力信号の位相または前記キャリアアンプの入力信号の位相のいずれか一方を遅延させる位相調整回路と、
前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプを搭載した第1の基板と、
前記ドライバアンプ、前記分岐回路、および前記位相調整回路を搭載した第2の基板と、を備え、
前記第2の基板前記第1の基板上に重ね合わせて積層され、前記ドライバアンプの入力端子と前記キャリアアンプの入力端子とが互いに投影する位置にあり、
前記ドライバアンプの入力端子から前記ドライバアンプ、前記分岐回路、前記キャリアアンプ側の入力経路、前記キャリアアンプ側の経路及び前記キャリアアンプを介して前記キャリアアンプの出力端子までの電気長は、nは0以上の整数とした場合、(2n+1)×πの位相になるように設定される、高周波増幅器。
【請求項2】
前記キャリアアンプの出力端子における高周波信号と前記ピークアンプの出力端子における高周波信号との位相差が、π/2から3π/2までの範囲である、請求項1に記載の高周波増幅器。
【請求項3】
前記第1の基板と前記第2の基板との間に、接地された金属層を配置した、請求項1または請求項2に記載の高周波増幅器。
【請求項4】
前記第1の基板は、前記第2の基板に投影される平面形状を有する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高周波増幅器。
【請求項5】
前記ピークアンプは、前記キャリアアンプよりも大きな飽和出力を有するように構成される、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高周波増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波増幅器に関する。
【0002】
本出願は、2020年1月10日出願の日本出願第2020-002882号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、携帯電話等の移動体通信システムでは、広帯域化が進められている。このため、システムの基地局装置などで用いられる電力増幅器には、広周波数帯域における電力効率の高効率化などが望まれる。この電力効率の高効率化を実現するための電力増幅器として、キャリアアンプ(メインアンプともいう)およびピークアンプを有したドハティアンプが知られている。例えば、特許文献1には、ドハティアンプ(ドハティ型増幅器)の構造が開示されている。なお、ドハティアンプは、通常、ドライバアンプの後段に接続されて用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/093948号
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る高周波増幅器は、キャリアアンプと、前記キャリアアンプの出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始し、前記キャリアアンプとは異なる飽和出力を有するピークアンプとを備え、入力された波長λの高周波信号を増幅する非対称ドハティアンプと、前記非対称ドハティアンプを駆動するドライバアンプと、前記ドライバアンプにより増幅された高周波信号を前記ピークアンプ側の入力経路と前記キャリアアンプ側の入力経路に分岐する分岐回路と、前記ピークアンプ側の経路または前記キャリアアンプ側の経路のいずれか一方に設けられ、前記ピークアンプの入力信号の位相または前記キャリアアンプの入力信号の位相のいずれか一方を遅延させる位相調整回路と、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプを搭載した第1の基板と、前記ドライバアンプ、前記分岐回路、および前記位相調整回路を搭載した第2の基板と、を備え、前記第2の基板を前記第1の基板に重ね合わせて積層した場合、前記ドライバアンプの入力端子と前記キャリアアンプの入力端子とが互いに投影する位置にあり、前記ドライバアンプの入力端子から前記キャリアアンプの出力端子までの電気長は、nは0以上の整数とした場合、(2n+1)×πの位相になるように設定される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本開示の一態様に係る高周波増幅器を模式化して示した断面図である。
図2図1の高周波増幅器を説明するブロック図である。
図3図1の上段の平面図である。
図4図1の下段の平面図である。
図5図1のドライバアンプ回路図である。
図6図5の回路図に対応させた上段を説明する図である。
図7図1のドハティアンプ回路図である。
図8図7の回路図に対応させた下段を説明するである。
【発明を実施するための形態】
【本開示が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、プリント基板にドライバアンプおよびドハティアンプを搭載する場合、ドライバアンプ、キャリアアンプ、ピークアンプを同じ平面上に実装すると、大きなサイズのプリント基板が必要になるので、増幅器の小型化が難しい。 この場合、ドライバアンプ、ドハティアンプを3次元的に実装することが考えられる。しかし、増幅器を例えば2階建て構造とし、上段にドライバアンプ、下段にキャリアアンプやピークアンプを配置すると、ドライバアンプとキャリアアンプが上下方向で近接する場合がある。これでは、ドライバアンプが不安定になることがあるという問題がある。
【0008】
本開示は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、安定した高周波増幅器を提供することを目的とする。
【本開示の効果】
【0009】
本開示によれば、安定した高周波増幅器を提供することができる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
本開示に係る高周波増幅器は、(1)キャリアアンプと、前記キャリアアンプの出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始し、前記キャリアアンプとは異なる飽和出力を有するピークアンプとを備え、入力された波長λの高周波信号を増幅する非対称ドハティアンプと、前記非対称ドハティアンプを駆動するドライバアンプと、前記ドライバアンプにより増幅された高周波信号を前記ピークアンプ側の入力経路と前記キャリアアンプ側の入力経路に分岐する分岐回路と、前記ピークアンプ側の経路または前記キャリアアンプ側の経路のいずれか一方に設けられ、前記ピークアンプの入力信号の位相または前記キャリアアンプの入力信号の位相のいずれか一方を遅延させる位相調整回路と、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプを搭載した第1の基板と、前記ドライバアンプ、前記分岐回路、および前記位相調整回路を搭載した第2の基板と、を備え、前記第2の基板を前記第1の基板に重ね合わせて積層した場合、前記ドライバアンプの入力端子と前記キャリアアンプの入力端子とが互いに投影する位置にあり、前記ドライバアンプの入力端子から前記キャリアアンプの出力端子までの電気長は、nは0以上の整数とした場合、(2n+1)×πの位相になるように設定される。
【0011】
このため、信号帰還(出力信号の一部をキャリアアンプの出力からドライバアンプの入力に向けて戻る)がかかった場合でも、ドライバアンプが不安定性を生じない範囲(負帰還領域)になり、正帰還領域にならない。よって、2階建て構造を採用しても増幅器を安定させることができる。
(2)本開示の高周波増幅器の一態様では、前記キャリアアンプの出力端子における高周波信号と前記ピークアンプの出力端子における高周波信号との位相差が、π/2から3π/2までの範囲である。
【0012】
キャリアアンプおよびピークアンプの出力信号の位相差がπ/2から3π/2までの範囲であるので、キャリアアンプおよびピークアンプから外部に放出する電磁波を最小に抑えることができる。
(3)本開示の高周波増幅器の一態様では、前記第1の基板と前記第2の基板との間に、接地された金属層を配置した。
【0013】
接地された金属層は電磁波を遮断できる。よって、第1の基板は第2の基板側で生ずる電磁波の影響を受け難くなり、第2の基板は第1の基板側で生ずる電磁波の影響を受け難くなる。
(4)本開示の高周波増幅器の一態様では、前記第1の基板は、前記第2の基板に投影される平面形状を有する。
【0014】
高周波増幅器の小型化を達成できる。
(5)本開示の高周波増幅器の一態様では、前記ピークアンプは、前記キャリアアンプよりも大きな飽和出力を有するように構成される。
【0015】
ピークアンプでは、最適マッチングを得るための位相シフト量がキャリアアンプよりも大きくなる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る高周波増幅器の具体例について説明する。図1は、本開示の一態様に係る高周波増幅器を模式化して示した断面図である。
【0016】
高周波増幅器1は、移動体通信システムの基地局装置などの通信装置に搭載され、例えば送信信号を増幅するために用いられる。高周波増幅器1はベース部材La4を有する。
ベース部材La4は、放熱と外部端子を兼ねた金属(例えば銅)製の板であり、通信装置のプリント基板100上に配置される。
【0017】
ベース部材La4上には、下段10、上段20、蓋材25が搭載される。下段10が本開示の第1の基板に、上段20が本開示の第2の基板にそれぞれ相当する。
【0018】
下段10は、ベース部材La4と上段20との間に挟まれて配置されている。下段10は、第1誘電体層11(例えば厚さ0.25~0.35mm)、第3配線層La3(例えば厚さ18~35μm)、第2誘電体層12(例えば厚さ0.8~1.0mm)からなる。第1誘電体層11はベース部材La4(例えば厚さ0.25mm)上に設けられ、第3配線層La3には、GND面をなすベース部材La4を基準電圧とした高周波線路パターンが形成されており、キャリアアンプ54およびピークアンプ64などの能動部品、並びにインダクタLやキャパシタCが実装される。
【0019】
キャリアアンプ54およびピークアンプ64は、所定の回路を形成した表面54a,64aと、表面54a,64aの反対側に位置して例えば回路を形成しない裏面54b,64bと、をそれぞれ有する。キャリアアンプ54およびピークアンプ64は第1誘電体層11に埋め込まれており、表面54a,64aがいずれも上方を向いて第3配線層La3に実装される。裏面54b,64bは、いずれもベース部材La4に接するように下方に向けて配置され、焼結系銀ペースト、もしくは焼結系銅ペーストを塗布したベース部材La4に固着される。
【0020】
上段20は、下段10に重ね合わせて積層される。上段20は、第3誘電体層23(例えば厚さ0.25~0.35mm)、第1配線層La1(例えば厚さ18~35μm)、第4誘電体層24(例えば厚さ0.25~0.35mm)からなる。第3誘電体層23と下段10(第2誘電体層12)との間には、第2配線層La2が配置される。第2配線層La2(例えば厚さ35μm)は、例えば銅製のベタ面であり、第1配線層La1に対するGND面と、上段20と下段10との間で生ずる電磁波を遮蔽する役割を担う。第2配線層La2が本開示の接地された金属層に相当する。
【0021】
第1配線層La1には高周波線路パターンが形成され、ドライバアンプ40などの能動部品、並びにインダクタLやキャパシタCが実装される。
【0022】
ドライバアンプ40は、所定の回路を形成した表面40aと、表面40aの反対側に位置して例えば回路を形成しない裏面40bを有する。ドライバアンプ40は、第4誘電体層24に埋め込まれており、表面40aが下段10に対向して第1配線層La1に実装される。裏面40bは、下段10から離間するように上方に向けて配置される。
【0023】
上段20は、金属製の蓋材25で覆われている。ドライバアンプ40はフリップチップ(Face down)で実装されるため、サーマルマネジメントの観点から、ドライバアンプ40の裏面40bは、蓋材25の放熱部(第0配線層La0)に接するように上方に向けて配置される。放熱部(第0配線層La0)は、他の配線層同様に、信号配線用の薄い金属薄膜層で形成される。そして、放熱部(第0配線層La0)は、近接するGNDビア(例えばφ300μm)(放熱ビア15d、15c、15b、15a)に接触している。このため、ドライバアンプ40からベース部材La4までの放熱パス(以降では、これを第1の放熱パスと称する)が形成されている。
【0024】
なお、上段20の第1配線層La1と下段10の第3配線層La3との間における電気的なパスは、信号ビア14b、14aを用いて確保している。また、第1配線層La1と第2配線層La2との間における電気的なパスは、信号ビア17aを用いる。さらに、第1配線層La1とベース部材La4との間における電気的なパスは、信号ビア13c、13b、13aを用いて、それぞれパスを確保している。第3配線層La3とベース部材La4との間における電気的なパスは、信号ビア16aを用いて確保している。
【0025】
このように、上段20を下段10に重ね合わせて積層しており、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54およびピークアンプ64を3次元的に実装するので、モジュールサイズが最外形6mm角で、厚さ2.2mmのような、高周波増幅器1の小型化を達成できる。
【0026】
また、この高周波増幅器1では、ワイヤボンド接続が不要である。よって、例えば500mm角程度の大きなパネルを製造工程に流すことが可能であり、このパネルからは6mm角のものが例えば6千枚取れるので、加工費と材料費低減によるコストの大幅低減を達成できる。
【0027】
ここで、図3で説明した上段20を図4で説明した下段10に重ね合わせた場合、ドライバアンプ40の入力端子とキャリアアンプ54の入力端子とが上下方向で対向して、ドライバアンプ40の入力端子とキャリアアンプ54の入力端子との距離が、上下方向で例えば1mm以下になり、ドライバアンプ40とキャリアアンプ54を同じ平面上に配置していた場合に比べて格段に縮まることがある。このような物理的な配置において、2つの入力信号の間の位相差が±π/2の範囲になると、2つの入力信号の間で干渉が生じるため、ドライバアンプ40の動作が不安定になる。詳しくは、ドライバアンプ40の出力信号が入力に帰還され、ドライバアンプ40が発振する可能性がある。
【0028】
そこで、高周波増幅器1では、ドライバアンプ40の入力端子とキャリアアンプ54の出力端子までの電気長、つまり配線長にチップ部品分を加味した電気的な長さを、もしくは、ドライバアンプ40の入力端子から、途中のチップ部品を含め、キャリアアンプ54の出力端子まで波長λの入力信号が伝搬する遅延時間を、波長λの入力信号の位相に換算し、端子間で(2n+1)×πの位相になるように設定している。nは0以上の整数である。
【0029】
これを達成するために、ドライバアンプ40のドレイン出力から分岐回路51に至るまでの経路では、例えば、図3に曲線パターン49で示すような、上段20の中央から右半分にまで大きく迂回させたり、図3に曲線パターン52で示すような、分岐回路51の出力からビア52aまでの経路では、直線ではなく、敢えて曲線で形成したりしている。
【0030】
このように、ドライバアンプ40の入力端子からキャリアアンプ54の出力端子までの電気長を(2n+1)×πの位相になるように設定する。このため、信号帰還、つまり出力信号の一部をキャリアアンプ54の出力からドライバアンプ40の入力に向けて戻す帰還がかかった場合でも、ドライバアンプ40が不安定性を生じない範囲、要するに負帰還領域となり、2nπ、つまり不安定性を生じる正帰還領域にならない。よって、2階建て構造を採用しても増幅器1を安定させることができる。
【0031】
さらに、一般的なドハティアンプでは、キャリアアンプとピークアンプとの位相差をπ/2に設定するが、高周波増幅器1では、この位相差を敢えてπに設定している。つまり、キャリアアンプ54の出力端子におけるRF信号とピークアンプ64の出力端子におけるRF信号との位相差をπ/2から3π/2までの範囲としている。
【0032】
これにより、キャリアアンプ54から放出される電磁波およびピークアンプ64から放出される電磁波が近隣で打ち消し合うので、高周波増幅器1の外部に放出される電磁波を小さく抑えることができる。
【0033】
なお、このキャリアアンプ54の位相とピークアンプ64の位相は、図3で説明する位相調整回路61、図7,8で説明する入力マッチング回路53,63、出力マッチング回路55,65、伝送線TRL1(図4で説明する90°伝送線路56a)により出力端子RFoutで同期させる。
【0034】
図2は、図1の高周波増幅器を説明するブロック図である。また、図3は、図1の上段の平面図であり、図4は、図1の下段の平面図である。
【0035】
高周波増幅器1は、ドライバアンプ40と、ドライバアンプ40の後段に設けられたドハティアンプ50と、を有し、例えば5GHz~6GHzの周波数帯域の信号を増幅可能に構成されている。
【0036】
ドライバアンプ40は、入力端子RFinに入力された波長λで規定されるRF(Radio Frequency)信号を、ドハティアンプ50が所定の送信電力にまで増幅できる程度に増幅する。
【0037】
ドハティアンプ50は、分岐回路51、位相調整回路61、キャリアアンプ54、ピークアンプ64、およびドハティネットワーク56,66を含み、ドライバアンプ40が増幅したRF信号をさらに増幅して出力端子RFoutから出力する。
【0038】
ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64は、増幅素子として例えばGaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた増幅器である。ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64は、いずれもゲートパッドが矩形状の一辺に設けられ、ドレインパッドがゲートパッドに対向する辺に設けられている。
【0039】
なお、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64は、ゲートパッドの両側にソースパッドが設けられている。しかし、ドライバアンプ40については、2つのソースパッドが上段20に形成されたGNDに接続されている。一方、キャリアアンプ54、ピークアンプ64については、ソースパッドが、図1で説明した裏面54b,64bを介してベース部材La4に接続されている。これにより、GNDを確保すると共に、キャリアアンプ54、ピークアンプ64からベース部材La4までの放熱パス(以降では、これを第2の放熱パスと称する)が形成される。
【0040】
第2の放熱パスは、第1の放熱パスと比べると、放熱性に優れると思われる。第2の放熱パスにおいては、キャリアアンプ54、ピークアンプ64のそれぞれのソースパッドが裏面54b,64bを介してベース部材La4に接続されている。ベース部材La4は、金属(例えば銅)製の板であり放熱性に優れる。一方、第1の放熱パスにおいては、ドライバアンプ40のソースパッドは裏面40bを介し、放熱部(第0配線層La0)に接続され、近接するGNDビアを経由しベース部材La4に接続されている。第0配線層La0は、信号配線用の金属薄膜であるため、放熱効率の観点からは金属(例えば銅)製の板であるベース部材La4におよばない。結果として、この放熱部(第0配線層La0)が熱の伝導を律速するため、第2の放熱パスの方が、第1の放熱パスと比べ放熱性が優れると思われる。
【0041】
第1の放熱パスに関しては、放熱ビア15a、15b、15c、15dの径をより広げることや、放熱部(第0配線層La0)とベース部材La4を接続する放熱パスにおいて、現状の放熱パス(第1の放熱パス)にさらに並列に放熱ビアを備えることにより、第1の放熱パスの放熱効率は改善できるものと考えられる。
【0042】
図3に示す上段20と図4に示す下段10は、略相似形の平面を有しており、いずれも例えば6mm角で形成されている。
【0043】
図1に示すように通信装置のプリント基板100上に備えられた信号配線101aを経由して入力端子RFin(信号ビア13a)に入力されたRF信号は、図1で説明したベース部材La4から下段10を貫通し、図1に示す信号ビア13a、13b、13cを通り、下段10の何処にも接続されずに図3で見て上段20の左下の隅部分に入力される。ドライバアンプ40は、上段20の左下付近に実装されており、ドライバアンプ40で増幅されたRF信号は、図3に曲線パターン49で示すように大きく転回する。詳しくは、この図3で見て上段20の上辺に向かった後、右折してこの上辺に沿って左に進み、さらに右折して上段20の下辺に向かい、ドライバアンプ40と同じ上段20に設けられた分岐回路51に達する。
【0044】
分岐回路51は、例えばウィルキンソン型分配器であり、ドライバアンプ40により増幅されたRF信号をピークアンプ側の入力経路とキャリアアンプ側の入力経路に等分している。
【0045】
分岐回路51で分配されたRF信号の一方(キャリアアンプ側の入力経路)は、所定の曲線パターン52を経て、図3で見て上段20の下辺近傍に形成されたビア52aから下段10に向かう。これは例えば、図1に示す信号ビア14a、14bを通る信号経路と同様なパスを通る。これに対し、分岐回路51で分配されたRF信号の他方(ピークアンプ側の入力経路)は、ドライバアンプ40と同じ上段20に設けられた位相調整回路61に至る。
【0046】
位相調整回路61は、ピークアンプ64の入力信号の位相を、所定の分布定数分だけ遅延させる。例えば、90°遅延させる。位相調整回路61を経たRF信号は、図3で見て上段20の下辺近傍に形成されたビア61aから下段10に向かう。これも、図1に示す信号ビア14a、14bを通る信号経路と同様なパスを通る。
【0047】
なお、本実施形態では、位相調整回路61を、分岐回路51とキャリアアンプ54との間に配置せず、分岐回路51とピークアンプ64との間に配置した例を挙げて説明した。しかし、本開示はこの例に限定されない。例えば、位相調整回路を、分岐回路51とピークアンプ64との間に配置せず、分岐回路51とキャリアアンプ54との間に配置して、キャリアアンプ54の入力信号の位相を遅延させることも可能である。
【0048】
本実施形態のドハティアンプ50は、非対称ドハティアンプであり、ピークアンプ64とキャリアアンプ54は、入力されたRF信号に対してそれぞれ異なる最大出力強度を示す。例えば、ピークアンプ64は、キャリアアンプ54よりも2倍程度大きな飽和出力(サイズ)を有しており、ピークアンプ64は、キャリアアンプ54の出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始する。具体的には、キャリアアンプ54はAB級またはB級で動作する。ピークアンプ64はC級で動作する。瞬時電力が小さいときには、キャリアアンプ54が動作し、ピークアンプ64を動作させないので、電力効率が高まる。瞬時電力が大きいときには、キャリアアンプ54およびピークアンプ64の双方が動作するので、高い電力効率を維持しつつ飽和電力を大きくすることができる。
【0049】
一例として、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64、の出力例を記す。それぞれ、ドライバアンプ40は出力10W、キャリアアンプ54は出力15W、ピークアンプ64は出力30W、のアンプが用いられる。ここで、10W出力とは専らFETのサイズを表し、常に10Wを出力しているわけではなく、10W出力に足るサイズを有しているという意味で用いている。
【0050】
キャリアアンプ54で増幅されたRF信号は、下段10に設けたキャリアアンプ側のドハティネットワーク56に至る。このドハティネットワーク56には、90°伝送線路(λ/4線路ともいう)56aが設けられている。このため、キャリアアンプ54で増幅されたRF信号は、90°伝送線路56aを介して、図4で見て下段10の右上の隅部分に設けられた出力端子RFoutから、後述のピークアンプ64の出力信号と合成されて、出力される。
【0051】
一方、ピークアンプ64で増幅されたRF信号は、下段10に設けたピークアンプ側のドハティネットワーク66に至り、キャリアアンプ54の出力信号と合成されて、図1に示す信号ビア16a通る信号経路を通り、出力端子RFoutから出力される。出力端子RFoutから出力された信号は、図1に示すように通信装置のプリント基板100上に備えられた信号配線101bを経由し、高周波増幅器1から外部へ伝搬していく。なお、キャリアアンプ側のドハティネットワーク56、ピークアンプ側のドハティネットワーク66が本開示のドハティネットワークに相当する。
【0052】
図5は、図1のドライバアンプ回路図であり、図6は、図5の回路図に対応させた上段を説明する図である。また、図7は、図1のドハティアンプ回路図であり、図8は、図7の回路図に対応させた下段を説明するである。
【0053】
図5に示す入力端子RFinから入力したRF信号は、ドライバアンプ40のゲートに、入力マッチング回路30(インダクタL1、キャパシタC1~C4の計5個)を介して入力する。ゲートバイアスは、電源VgからインダクタL2を介して供給される。キャパシタC5は電源Vgのバイパスキャパシタであり、抵抗R1は調整用の抵抗である。
【0054】
ドライバアンプ40のドレイン出力は、出力マッチング回路41(インダクタL4,L5、キャパシタC7~C9)を介して分岐回路51に与えられる。ドレインバイアスは、電源VdからインダクタL3を介して供給される。キャパシタC6は電源Vdのバイパスキャパシタである。
【0055】
次に、図7に示すように、分岐回路51では、ドライバアンプ40からのRF信号が、L11、C24によるマッチング回路と、C23、L12、C29によるマッチング回路と、に等分される。
【0056】
L11、C24によるマッチング回路で位相が調整されたRF信号は、図3で説明した曲線パターン52、ビア52aを介して下段10に達し、キャリアアンプ54に向かう。
【0057】
この下段10に達したRF信号は、キャリアアンプ54のゲートに、入力マッチング回路53(キャパシタC31、C11~14)を介して入力する。ゲートバイアスは、電源VgからインダクタL6を介して供給される。キャパシタC15は電源Vgのバイパスキャパシタであり、抵抗R4は調整用の抵抗である。
【0058】
キャリアアンプ54のドレイン出力は、DC遮断用のキャパシタC26を介してキャリアアンプ側のドハティネットワーク56に提供される。ドレインバイアスは、電源VdからインダクタL9を介して供給される。キャパシタC21は電源Vdのバイパスキャパシタである。
【0059】
キャリアアンプ側のドハティネットワーク56は、伝送線TRL2、キャパシタC25により構成される出力マッチング回路55と、キャリアアンプ54の出力とピークアンプ64の出力を合成するための伝送線TRL1(図4で説明した90°伝送線路56aを含む)により構成される。
【0060】
一方、分岐回路51で等分され、C23、L12、C29によるマッチング回路で位相が調整されたRF信号は、位相調整回路61(インダクタL15、L16、キャパシタC32)でさらに位相が調整され、ビア61aを介して下段10に達し、ピークアンプ64に向かう。
【0061】
この下段10に達したRF信号は、ピークアンプ64のゲートに、入力マッチング回路63(インダクタL7、キャパシタC16~19)を介して入力する。ゲートバイアスは、電源VgからインダクタL8を介して供給される。キャパシタC20は電源Vgのバイパスキャパシタであり、抵抗R5は調整用の抵抗である。
【0062】
ピークアンプ64のドレイン出力は、DC遮断用のキャパシタC28を介してピークアンプ側のドハティネットワーク66に提供される。ドレインバイアスは、電源VdからインダクタL10を介して供給される。キャパシタC22は電源Vdのバイパスキャパシタである。
【0063】
ピークアンプ側のドハティネットワーク66は、キャパシタC27とキャパシタC10の2段構成、伝送線TRL3により構成される出力マッチング回路65と、伝送線TRL4により構成される。
【0064】
前述のアンプ出力を比較すると、それぞれの消費電流、あるいは消費電力、そしてその結果発生する発熱の大きさは、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64、の順に大きくなるものと思われる。本実施形態の高周波増幅器1においては、より発熱の大きな、ピークアンプ64、キャリアアンプ54をより放熱効率のよい第2の放熱パスにて対応させ、それらより発熱が小さいドライバアンプ40を第1の放熱パスにて対応させる構成としている。このような構成とすることにより、高周波増幅器1は、小型でかつ放熱性の良い高周波増幅器を提供可能となる。
【0065】
高周波増幅器1は、ピークアンプ64、キャリアアンプ54を第2の放熱パスにて対応し、ドライバアンプ40を第1の放熱パスにて対応させるため、図1に示すように、入力端子RFin(信号ビア13a)に入力されたRF信号は、ベース部材La4から下段10を貫通し、図1に示す信号ビア13a、13b、13cを通り、下段10の何処にも接続されずに図3で見て上段20の左下の隅部分に入力される。また、分岐回路51で分配されたRF信号は、下段10に備えられたピークアンプ64、キャリアアンプ54に入力されるため、図1に示す信号ビア14a、14bを通る信号経路と同様なパスを通る。これらの信号パスを通ることにより、高周波増幅器1は、小型でかつ放熱性の良い高周波増幅器を提供可能となる。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1…高周波増幅器、10…下段、11…第1誘電体層、12…第2誘電体層、13a,13b,13c,14a,14b,16a,17a…信号ビア、15a,15b,15c,15d…放熱ビア、20…上段、23…第3誘電体層、24…第4誘電体層、25…蓋材、30…入力マッチング回路、40…ドライバアンプ、40a…表面、40b…裏面、41…出力マッチング回路、49…曲線パターン、50…ドハティアンプ、51…分岐回路、52…曲線パターン、52a…ビア、53…入力マッチング回路、54…キャリアアンプ、54a…表面、54b…裏面、55…出力マッチング回路、56,66…ドハティネットワーク、56a…90°伝送線路、61…位相調整回路、61a…ビア、63…入力マッチング回路、64…ピークアンプ、64a…表面、64b…裏面、65…出力マッチング回路、100…プリント基板、101a,101b…プリント基板上の配線、La0…第0配線層(放熱部)、La1…第1配線層、La2…第2配線層、La3…第3配線層、La4…ベース部材、RFin…入力端子、RFout…出力端子、L,L1~L12,L15,L16…インダクタ、C,C1~C29、C31,C32…キャパシタ、R1,R3~R5…抵抗、TRL1~TRL4…伝送線、Vd,Vg…電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8