(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】椅子の構造物および椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 7/24 20060101AFI20241212BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20241212BHJP
A47C 7/56 20060101ALI20241212BHJP
A47C 3/04 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
A47C7/24
A47C31/02 C
A47C7/56
A47C3/04
(21)【出願番号】P 2020183364
(22)【出願日】2020-10-31
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000108627
【氏名又は名称】タカノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】塚平 一輝
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 健太
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-179326(JP,A)
【文献】特開2016-120124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/24
A47C 31/02
A47C 7/56
A47C 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーシェルにクッション材を重ね方向に重ねて表皮材で覆うと共に前記表皮材の周縁を前記インナーシェルの裏側に回り込ませた椅子の構造物において、
前記インナーシェルは、側部から外側に突出したフランジ形状の延出部を有し、
前記クッション材は、周縁部が前記延出部に対して前記重ね方向に対向して設けられ
、
前記椅子は、前記構造物を前記椅子の幅方向から挟むように配置された脚フレームと、前記構造物を前記脚フレームに対して前記幅方向の水平軸周りに回転自在に支持する回動部材とを備え、
前記構造物は、前記椅子の座であって、前記脚フレームに対して水平姿勢位置と垂直姿勢位置とに切り替え可能であり、
前記延出部は、前記座の少なくとも前記幅方向の側部に設けられている
ことを特徴とする椅子の構造物。
【請求項2】
前記クッション材は、前記周縁部が前記延出部の少なくとも一部に当接していることを特徴とする請求項1に記載の椅子の構造物。
【請求項3】
前記クッション材の前記周縁部は前記延出部に突き当たる部位において、
前記延出部の張り出し量に相当する厚みを有し、前記クッション材の外側面
と前記延出部の外側面とが同一面上に位置
し、前記脚フレームと対向する前記座の側部の外周面が平坦に整形されることを特徴とする請求項1又は2に記載の椅子の構造物。
【請求項4】
前記延出部は、前記座の前記幅方向の側部
及び後部に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の椅子の構造物。
【請求項5】
前記延出部は、前記回動部材の近傍には設けられていないことを特徴とする請求項
1から4のいずれか1つに記載の椅子の構造物。
【請求項6】
前記インナーシェルを
前記延出部よりも内側で下方から支持するアウターシェルを備え、
前記表皮材の周縁は、前記インナーシェル
の前記延出部を回り込んで前記インナーシェルの裏面側に留め付けられ、前記アウターシェルによって
前記インナーシェルの底面側が覆われ
、前記表皮材で覆われた前記インナーシェルの前記延出部を含めた前記クッション材の側面が外観に露出していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の椅子の構造物。
【請求項7】
前記インナーシェルは、樹脂成型品であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の椅子の構造物。
【請求項8】
請求項1から7のうちのいずれか1つに記載の構造物を備えることを特徴とする椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座や背凭れなどの椅子の構造物および椅子に関する。さらに詳述すると、本発明は、インナーシェルと表皮材との間に挟み込んだクッション材をインナーシェルの側部まで覆わせた構造に適用して有用な椅子の構造物および椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、座や背凭れなどの椅子の構造物において、剛性を有するインナーシェルにウレタンなどからなるクッション材を載置し、表皮材によりクッション材およびインナーシェルを包み込んで、インナーシェルの裏側で表皮材の周縁を紐部材によって引き締めて構成したものが知られている。近年では、例えば、平面状のインナーシェルに平面状のクッション材を重ね合わせ、クッション材を覆った表皮材をインナーシェルの側面部に留め付けているものが知られている(特許文献1)。あるいは、例えば、インナーシェルの側面から裏面までクッション材を回り込ませて、クッション材を包んだ表皮材の周縁をインナーシェルの裏面に留め付けているものが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-344399号公報
【文献】特開2009-172275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、インナーシェルおよびクッション材が平面状であるため、インナーシェルの上部にクッション材を載せたときに、クッション材を適切な位置に位置決めすることが困難であった。このため、表皮材を留め付ける際の作業性が悪かった。また、インナーシェルに対してクッション材の位置がずれてしまうことにより、表皮材がクッション材を介さずにインナーシェルの上面に当たってしまう可能性があり、見栄えが悪くなる虞があった。
【0005】
また、特許文献2記載の発明では、クッション材をインナーシェルの裏面まで回り込ませているので、インナーシェルに対してクッション材の位置がずれることは抑制可能であるが、軟らかいクッション材の物性により、インナーシェルの側面に当たる部分が平坦な形状になりにくく、座の周囲が凹凸を有する形状になりやすく、座の見栄えが悪くなる虞があった。また、座の側面の形状はクッション材の潰れ方に左右されるため、表皮材に皺が発生し易く、座を安定した外観に形成することは困難であった。
【0006】
本発明は、安定した外観を得られて見栄えを向上できる椅子の構造物および椅子を提供することを目的とする。さらには、跳ね上げ式の座において、座の側部を平坦な形状にして座の回動時に脚フレームへの干渉を抑制しながら、座と脚フレームとの隙間を適切に小さくすること可能とする椅子の構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の椅子の構造物は、インナーシェルにクッション材を重ね方向に重ねて表皮材で覆うと共に表皮材の周縁をインナーシェルの裏側に回り込ませた椅子の構造物において、インナーシェルは、側部から外側に突出したフランジ形状の延出部を有し、クッション材は、周縁部が延出部に対して重ね方向に対向して設けられ、椅子は、構造物を椅子の幅方向から挟むように配置された脚フレームと、構造物を脚フレームに対して幅方向の水平軸周りに回転自在に支持する回動部材とを備え、構造物は、椅子の座であって、脚フレームに対して水平姿勢位置と垂直姿勢位置とに切り替え可能であり、延出部は、座の少なくとも幅方向の側部に設けられるようにしている。
【0008】
また、本発明の椅子の構造物において、クッション材は、周縁部が延出部の少なくとも一部に当接していることが好ましい。
【0009】
また、本発明の椅子の構造物は、クッション材の周縁部は延出部に突き当たる部位において、延出部の張り出し量に相当する厚みを有し、クッション材の外側面と延出部の外側面とが同一面上に位置し、脚フレームと対向する座の側部の外周面が平坦に整形されることが好ましい。
【0010】
また、本発明の椅子の構造物において、延出部は、座の幅方向の側部及び後部に設けられていることが好ましい。
【0011】
ここで、延出部は、回動部材の近傍には設けられていないことが好ましい。
【0012】
また、インナーシェルを下方から支持するアウターシェルを備え、表皮材の周縁は、インナーシェルに留め付けられ、アウターシェルによって覆われていることが好ましい。
【0013】
さらに、インナーシェルは、樹脂成型品であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の椅子は、請求項1から7のうちのいずれか1つに記載の構造物を備えるようにしている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の椅子の構造物によれば、インナーシェルはフランジ形状の延出部を有し、クッション材は周縁部が延出部に対して重ね方向に対向して設けられているので、クッション材の周縁部は延出部よりも先のインナーシェルの裏側に回り込むことは無い。このため、クッション材をインナーシェルの裏側に回り込ませた場合に比べて、クッション材の潰れが発生しにくい。これにより、クッション材の周縁部を延出部の外周面を利用して平坦な形状にしやすくなるので、構造物の見栄えを向上することができる。
また、跳ね上げ式の座において、座の側部が平坦な形状になるので、座の側部に凹凸がある場合に比べて座の回動時に脚フレームへの干渉が抑制され、座と脚フレームとの隙間を適切に小さくすることができる。このため、必要以上に余裕をもって座と脚フレームとの隙間を形成する必要が無く、座の面積を確保しながらも椅子の小型化を図ることができる。
【0016】
また、クッション材の周縁部が延出部に対向して設けられることで、表皮材によって外側から内側に向けて押圧されても、延出部がガードとなってクッション材の型崩れを防ぎ、クッション材が部分的に延出部よりも凹んでしまうことを抑制できる。このため、クッション材の潰れが抑制され、表皮材の皺が発生しにくくなるので、構造物の外観の安定性を向上することができる。しかも、クッション材の周縁部がエッジ部分まで延出部の張り出し量に相当する厚みを持たせて発泡させることができるので、エッジ形状が凹凸のない鋭い形状に成形できる。
【0017】
また、請求項2記載の発明によれば、周縁部が延出部の少なくとも一部に当接しているので、延出部とクッション材の周縁部との隙間が小さくなり、表皮材が皺を発生し得る空間が減少することで表皮材の皺をより発生しにくくできる。
【0018】
また、請求項3記載の発明によれば、クッション材の外側面は延出部の外側面と同一面上に位置するので、構造物の外周面をより平坦な形状にしやすくできる。
【0020】
また、請求項5記載の発明によれば、延出部は回動部材の近傍には設けられていないので、座の回動部材の近傍では他の部位に比べて幅方向への張り出し量が小さくなる。このため、座の回動時において、回動部材の近傍での座と脚フレームとの摩擦を軽減して、特に座を上げる際の力を小さくすることができ、操作性を向上することができる。
【0021】
また、請求項6記載の発明によれば、表皮材の周縁はインナーシェルに留め付けられ、アウターシェルによって覆われているので、インナーシェルに留め付けられた表皮材の周縁を隠すことができる。このため、構造物の見栄えを向上することができる。
【0022】
また、請求項7記載の発明によれば、インナーシェルは樹脂成型品であるので、任意の形状のインナーシェルを得ることができ、デザイン性を向上させることができる。しかも、インナーシェルを射出成型で形成できるようになるので、追加工をする場合に比べて部品代を安価にすることができる。
【0023】
更に、本発明の椅子によれば、クッション材の周縁部を延出部の外周面を利用して平坦な形状にしやすくなるので、構造物の見栄えを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の椅子の構造物をネスティング椅子の座に適用した一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】同椅子の座において、上張地とクッションとインナーシェルとを透明にして示す斜視図である。
【
図3】同椅子の座を収納位置に跳ね上げた状態を示す側面図である。
【
図4】同椅子の座を収納位置に跳ね上げた状態の正面側から見た斜視図である(上張地とクッションとインナーシェルとを透明にして示す)。
【
図5】同椅子の脚と座と背凭れとの関係を斜め後方下から見て示す斜視図である。
【
図6】同椅子の脚フレームの前脚部、座支持部、後脚部及び後脚部の上端の出っ張りを示す斜視図である。
【
図7】同椅子の座を構成する座フレーム、インナーシェル、クッション及び上張地を分解して示す斜視図である。
【
図8】分解状態のインナーシェルと座フレームとの回動支持軸部材が貫通する部分の拡大斜視図である。
【
図9】同椅子の座フレームの貫通孔部分の拡大斜視図である。
【
図12】同椅子の座を
図10のA-A線で切断した状態を示す断面図である。
【
図13】同椅子の座を
図10のB-B線で切断した状態を示す断面図である。
【
図14】同椅子のインナーシェルの拡大底面図である。
【
図15】同インナーシェルを上から見た斜視図である。
【
図16】同インナーシェルの縁周辺を拡大して下から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1から
図17に、本発明にかかる椅子の構造物をネスティング椅子の座に適用した例を挙げて実施の一形態を示す。なお、本明細書においては、椅子の座に座った着座者を基準にして、また、特に座については座が水平姿勢にあるときを基準にして、上下,前後,左右を定義する。また、座が水平姿勢であるとは座面が正確に水平である状態に加えて大凡水平である状態を含み、座が垂直姿勢であるとは座面が正確に垂直である状態に加えて大凡垂直である状態を含む。
【0027】
この実施形態にかかるネスティング椅子は、座を収納位置に跳ね上げた状態で同一構造の他の椅子と前後方向にネスティングし得るようにしたものであり、ほぼ水平姿勢が保たれる位置(座の使用位置)と跳ね上げられてほぼ垂直姿勢が保たれる位置(座の収納位置)との間で座を回転させるように脚フレームに対して支持させる回動構造を有している。
【0028】
本実施形態のネスティング椅子1は、
図1~
図5に示すように、脚を構成する左右の脚フレーム2と、各脚フレーム2に対して幅方向の水平軸周りに回転自在に支持される座20及び背凭れ7を有し、座20を水平姿勢位置と垂直姿勢位置とに切り替え可能とされている。
【0029】
脚は、本実施形態の場合、左右の脚フレーム2を、それらの間に取り付けられる座20と背凭れ7並びに左右脚連結パイプ8とによって相互に連結することによって組み立てられている(
図4及び
図5参照)。即ち、左右の脚フレーム2は、座20を幅方向から挟むように配置されている。各脚フレーム2は、前脚部3と、後脚部5と、前脚部3と後脚部5とをそれらの上部で連結する座支持部4と、横連結部6とを備え、例えばアルミダイキャストによって一体成形されている。アルミダイキャストによる脚フレーム2の成形は形状の自由度が高くなるので脚フレームのデザインに受ける制約を少なくしてデザイン性に優れる脚フレームを提供できる。尚、本実施形態の脚フレーム2は、アルミダイキャストによって構成されているが、これに特に限られるものではなく、例えばステンレススティール製パイプあるいはアルミ合金製パイプなどの一本の金属パイプを折り曲げたものを同種の金属板を介して溶接付けして組み立てる一般的な脚フレームを採用しても良いし、場合によってはPA6-GF(ポリアミド6)などのガラス繊維入り強化ナイロンなどの剛性を備えた剛性樹脂で成形しても良い。いずれの場合においても、本発明にかかる構造物を適用できることは言うまでもない。
【0030】
横連結部6は、例えば前脚部3の内側面から斜め前方内側へ向けて突出するように形成され、かつ先端が対向する相手側の脚フレーム2に向けて対向するように屈曲して左右脚連結パイプ8を嵌合させる先端嵌合部6aが形成されている(
図6参照)。この横連結部6の先端嵌合部6aに左右脚連結パイプ8を嵌め込んでねじ止めすることで、左右の脚フレーム2の前方側が左右脚連結パイプ8を介して相互に連結される。本実施形態の場合、左右脚連結パイプ8は、例えば角パイプであって、横連結部6の角軸状の先端嵌合部6aと嵌合する。尚、図示していないが、左右脚連結パイプ8の中には補強のための芯材が収容され、芯材の両端が横連結部6の先端嵌合部6aに連結されることによって当該左右脚連結パイプ8の剛性特に鉛直方向の剛性を高めて撓みを防ぐように設けられている。
【0031】
また、
図3に示すように、横連結部6及び左右脚連結パイプ8は、座支持部4に固定される回動部材の一例である回動支持軸部材11よりも前方の位置に配設されて回動支持軸部材11よりも前側で座フレーム24の横桟部25を受け支えることができれば良いが、同時に座の収納位置に座20を跳ね上げて垂直姿勢としたときに左右の脚フレーム2の間に残ることから可能な限り回動支持軸部材11寄りの位置に設けることがネスティング効率を上げる上では好ましい。そこで、本実施形態の場合には、
図2及び
図5に示すように、例えば、座20を倒して水平姿勢にした状態で、回動支持軸部材11が貫通する位置から座フレーム24の先端縁までの間の中程に横連結部6及び左右脚連結パイプ8が配置されるように設けられている。
【0032】
図6に示すように、座支持部4の前後方向における中間位置には、互いに対向する向かい側の座支持部4に向けて即ち椅子1の内側に向けて左右方向に突出する回動支持軸部材11が固定されるねじ孔35が設けられている。また、回動支持軸部材11がねじ込まれる面には、ボス部36が形成されると共にねじ孔35の入り口部分となる座ぐり穴37が設けられている。
【0033】
図2に示すように、後脚部5の内側の面(左右の脚フレーム2の後脚部5の互いに対向する面)には、後部ダンパ33が備えられている。この後部ダンパ33は、例えば樹脂製のブロックであり、後脚部5に例えばビス止めあるいは接着等によって取り付けられている。また、前脚部3の左右連結部6のコーナ部分には、前部ダンパ34が備えられている。この前部ダンパ34は、例えば樹脂製のブロックであり、左右連結部6のコーナ部分に例えばビス止めあるいは接着等によって取り付けられている。これによって、座20を跳ね上げた状態で同一構造の他の椅子と前後方向にネスティングさせる場合に、後脚部5と前脚部3の左右連結部6のコーナ部分とが直に接触するのを防いで、衝撃や衝突時の音を緩和させることができる。
【0034】
ここで、本実施形態の脚フレーム2は、後脚部5に対して座支持部4と前脚部3とが先端側に向かうほど漸次内側にオフセットするように形成され、左右の脚フレーム2を組み立てた状態で、後脚部5の内脚幅(左右の後脚部5の間の内側の間隔)よりも前脚部2の外脚幅(左右の前脚部3の間の外側の間隔)が狭くなるように構成されている。これにより複数の椅子1が前後方向に並べられたときに、後方の他の椅子の左右の前脚部3,3が前方の椅子の左右の後脚部5,5の間に入り込み、ネスティング可能な脚構造となる。なお、本実施形態では、前脚部3及び後脚部5のそれぞれの下端部にはキャスタ38が取り付けられているが、キャスタ38を備えることは本発明において必須の構成ではない。
【0035】
背凭れ7は、射出成形によって背枠7aと背凭れ面7b及び背枠7aの両側部分の下端部分に筒状の取付部(受口)7cが一体成形された樹脂成形品であり、平面視において左右方向における中間部分が後方に撓んで湾曲すると共に側面視において上下方向における中央よりもやや下方の部分が前向きに凸となるように湾曲する形状に形成されている。そして、背凭れ面7bには、前後方向に貫通する多数の小孔7dが形成されている。
【0036】
この背凭れ7は、
図6に示すように、例えば背枠下端の取付部7cが、後脚部5の上端の上に向かって先細りとなる出っ張り5aに嵌められることによって脚フレーム2に装着される。即ち、背凭れ7の筒状の取付部(受口)7cと後脚部5の上端の出っ張り部5aとは、印籠継手を構成しており、嵌め込まれた状態で、例えばねじ止めなどによって相互に固定される。
【0037】
座20は、例えば
図7に示すように、座面を形成する表皮材の一例である上張地21と、該上張地21を支持するクッション材の一例であるクッション22と、該クッション22を支持するインナーシェル23と、該インナーシェル23を下から受支え補強するアウターシェルの一例である座フレーム24とで構成され、インナーシェル23に載置したクッション22を上張地21で包んで、上張地21の周縁を座フレーム24とインナーシェル23とに挟み込んで座フレーム24とインナーシェル23とを重ね合わせてねじ止めすることによって一体化されている。座20の詳細な構成については後述する。尚、本実施形態においては、座20の構造物としての機械的強度は主に座フレーム24によって担保されている。
【0038】
また、座フレーム24の左右両側の略中央には、床方向に突出する弓形の横桟部25が設けられている。この横桟部25は、脚の横連結部6の間に嵌合された左右脚連結パイプ8と当接して座フレーム24全体を受支えるように設けられている。
【0039】
さらに、
図5に示すように、座フレーム24のほぼ中央を横切る横桟部25の裏面の左右脚連結パイプ8と当接する部位には、弾力性を有する緩衝パッド26が備えられている。この緩衝パッド26は、例えばプレート状の当接部と横桟部25に設けられた孔(図示省略)に圧入される係止ピン(図示省略)とを有するものであり、例えば、横桟部25の左右両側に1つずつ配置されている。緩衝パッド26は、座20を使用位置に倒したときに脚側の左右脚連結パイプ8に当接することで、衝突音の発生を防ぐと共に緩衝作用を与え、座20が着座に適当な水平姿勢になる高さに保つ。座20は、横桟部25が脚の左右脚連結パイプ8と当接することで水平姿勢を採り、かつ水平姿勢が保たれる。
【0040】
また、座フレーム24には、
図8及び
図9などに示すように、例えば前後方向における中間位置よりも後方寄りの位置に、回動支持軸部材11を取り付けるための貫通孔39が幅方向の一軸上に左右対称に設けられている。一例としては、
図3に示すように、貫通孔39は座フレーム24の中央よりも後端側寄りで、尚且つ座フレーム24を跳ね上げて垂直姿勢を採ったときに回動支持軸部材11の回転軸部14を通る鉛直線Lvよりも後方側(背凭れ7側)に重心位置Gが設定される位置に回動支持軸部材11が配置されるように設けられている。これによって、座20は、回動構造の回転軸部14を中心に跳ね上げられて垂直姿勢を採ると、背凭れ7に凭れかかることで、あるいは摩擦抵抗付与部材15から付与される摩擦抵抗によって、垂直姿勢が保たれる。また、
図9に示すように、貫通孔39の入り口には、回動支持軸部材11の頭部13を納める座ぐり穴30が設けられると共に、摩擦抵抗付与部材15の回転を阻止するための構造、例えば凹部31が設けられている。そして、これら貫通孔39に回動支持軸部材11が挿し込まれてその先端のねじ12が座支持部4のねじ孔35(
図6参照)に螺合されることによって、脚フレーム2と座フレーム24とが回転可能に連結される。
【0041】
以上のように構成されたネスティング椅子の座20と脚フレーム2とは、回動構造を介して水平な一軸上で回転可能に連結されて水平姿勢(座20としての使用位置)と垂直姿勢(背凭れ7に沿うように跳ね上げられて起立する座20の収納位置)との間で回動するように脚フレーム2に対して装着される。
【0042】
次に、座20の構成について
図7、
図10~
図14を用いて詳細に説明する。座20は、インナーシェル23にクッション22を重ね方向(上下方向)に重ねて載置し、上張地21を覆いかぶせ、上張地21の周縁をインナーシェル23の裏側に回り込ませて留め付け、インナーシェル23の裏側から座フレーム24を組み付けることにより形成される。これにより、上張地21の周縁21aはインナーシェル23に留め付けられ、座フレーム24によって覆われて隠される。さらに、座フレーム24とインナーシェル23とを重ね合わせてねじ止めすることによって座20を1つの構造物として一体化させている。
【0043】
本実施形態のインナーシェル23は、
図15に示すように、座骨座位に導き易くするために、前側の着座者の大腿部を支える大腿部支持部位側に比べて後側の臀部を支える着座部側が凹んだ形状を成している。つまり、座の着座部は、着座者の臀部を包み込むように臀部の形に合わせてくぼんだ面を形成し、着座部の前は着座者の臀部の前滑り防止の機能も兼ねて隆起している。そして、座の前端は、着座者の大腿部が当たらないように前垂れしている。また、インナーシェル23の周縁部分は臀部並びに大腿部を包み込むように盛り上がっている。したがって、インナーシェル23は、側面から見ると、前端側が垂れ下がり、その後方がやや隆起しながら再び臀部付近に向けて沈下しながら後端側で再び隆起する複合的な曲線形状、即ち緩やかな略S字形状をなす形状(以下、スプライン形状と呼ぶ)を成している。同様に、インナーシェル23を下から支える座フレーム(アウターシェル)24も、前後左右のフレーム形状をインナーシェル23の縁部分と同じにしている。したがって、側面から見ると、前端側が垂れ下がり、その後方がやや隆起しながら再び臀部付近に向けて沈下しながら後端側で再び隆起する複合的な曲線形状、即ち緩やかな略S字形状をなす形状(以下、スプライン形状と呼ぶ)を成している(
図2参照)。
く重ね合わされている。
【0044】
これらインナーシェル23および座フレーム24は、例えば座20の構成部材として必要な剛性を有する樹脂成型品である。このように、インナーシェル23および座フレーム24を樹脂成型品とすることにより、剛性を有しながらもスプライン形状のような任意の形状に形成することができ、デザイン性を向上させることができる。しかも、インナーシェル23および座フレーム24を射出成型で形成できるようになるので、追加工をする場合に比べて部品代を安価にすることができる。インナーシェル23および座フレーム24は、接合部において互いに組み合わさるリブ形状を有している。また、
図8において、座フレーム24の回動支持軸部材11が貫通する部位に重なるインナーシェル23の周縁には、貫通孔39のボス部32を囲うU形溝23aが形成され、隙間なく重ね合わされている。
【0045】
本実施形態では、
図10、
図12~
図15及び
図16に示すように、インナーシェル23は、側部から外側に突出したフランジ形状の延出部27を有している。延出部27は、座20の幅方向の側部と後部とに設けられている。
図12に示すように、本実施形態では、クッション22は、周縁部22aが延出部27に対して上下方向に突き当たって設けられている。即ち、本実施形態では、クッション22の周縁部22aと延出部27とは全域に亘って隙間なく当接して設けられている。このため、クッション22の周縁部22aは延出部27よりも下方に回り込むことは無く、クッション22をインナーシェル23の裏側に回り込ませた場合に比べて、クッション22の潰れを発生しにくくできる。これにより、クッション22の周縁部22aを、延出部27の外周面27aを利用して平坦な形状にしやすくなるので、座20の見栄えを向上することができる(
図17参照)。また、クッション22が延出部27に突き当たる部位においては、クッション22の外側面22bは、延出部27の外側面27aと同一平面上、即ち面一に位置している。このため、座20の外周面を平坦な形状に整形し易い。
【0046】
また、クッション22の周縁部22aが延出部27に突き当たることで、上張地21によって外側から内側に向けて押圧されても、延出部27がガードとなってクッション22の型崩れを防ぎ、クッション22が部分的に延出部27よりも凹んでしまうことを抑制できる。このため、クッション材の潰れが抑制され、表皮材の皺が発生しにくくなり、延出部27のシャープな形状を生かして座20の外観の安定性を向上することができる。
【0047】
ここで、インナーシェル23に延出部27が設けられていない場合は、クッション22の周縁部を下方に長く形成して、例えば、インナーシェル23の裏側に回り込ませる。このとき、クッション22を発泡ウレタンにより形成する際に、段差がなくなるように周縁部を漸次薄くしながら長く形成しようとすると、縁の先端が一律の長さや厚さにならず波形を成すことから、上張地21で包み込んだときに凹凸を発生しやすくなってしまう。これに対し、本実施形態では、クッション22は、
図12に示すようにクッション材22の周縁部22aがエッジ部分まで延出部27の張り出し量に相当する厚みを持たせて発泡させることができるので、エッジ形状が凹凸のない鋭い形状に成形できる。つまり、周縁部22aを延出部27に達するまでの一律の長さ及び厚さに形成することができる。このため、座20の外周面を容易に平坦な形状にすることができる。
【0048】
座20の側部の外周面が平坦になることにより、座20の側部に凹凸がある場合に比べて、脚フレーム2に対するクリアランスを狭く設定しても座20の回動時に脚フレーム2への干渉が抑制され、座20と脚フレーム2との隙間を適切に小さくすることができる。このため、必要以上に余裕をもって形成する必要が無く、座20の面積を確保しながらも椅子1の小型化を図ることができる。
【0049】
尚、本実施形態では、本実施形態では、クッション22の周縁部22aと延出部27とは全域に亘って隙間なく当接して設けられている場合について説明したが、これには限られない。例えば、クッション22の周縁部22aと延出部27とは全域に亘って隙間なく当接していなくても、両者の間の一部に隙間を有していてもよい。あるいは、クッション22の周縁部22aと延出部27とは、全域に亘って隙間を有して設けられていてもよい。即ち、クッション22は、周縁部22aが延出部27に対して上下方向に対向して設けられていればよい。このように構成することで、上述したように、クッション22の周縁部22aを、延出部27の外周面27aを利用して平坦な形状にしやすくできると共に、上張地21によって外側から内側に向けて押圧されても延出部27がガードとなってクッション22の型崩れを防ぐので、座20の見栄えを向上することができる。
【0050】
本実施形態では、延出部27は、座20の幅方向の側部と後部とに設けられているが、座20の前部と、回動支持軸部材11の近傍の側部とには設けられていない。座20の前部は、クッション22の厚みの制約が無いので、クッション22を十分に厚く形成することで座20の形状を維持することができる。また、座20の前部に延出部27を設けると、着座したユーザーの膝の裏に当たってしまい、座り心地を損ねる虞があるため、延出部27を設けていない。また、回動支持軸部材11の近傍では、座20の回動時に座20と脚フレーム2との摩擦が発生する可能性があるため、延出部27を設けずに座20と脚フレーム2との隙間を確保するようにする。これにより、座20の回動時において、座20と脚フレーム2との摩擦を軽減して、特に座20を上げる際の力を小さくすることができ、操作性を向上することができる。但し、延出部27を回動支持軸部材11の近傍に設けないことには限られず、設けるようにしてもよい。
【0051】
次に、上張地21の周縁の留め付け構造について、
図10~
図17を用いて詳細に説明する。
図12~
図14に示すように、上張地21の周縁21aには、両側部には係止部材28、前端及び後端には係止部材29が設けられている。係止部材28,29としては、例えば、1mm前後の厚みのある断面長方形の平板状のポリプロピレン製コード(一般に、PPコードと呼ばれている)を用いることができる。この断面長方形の平板状のPPコードは、幅方向(長手方向)には比較的硬めで厚み方向(短手方向)には可撓性を発揮する。但し、係止部材28,29としては、前述のPPコードには限られない。ここで、本実施形態の座におけるインナーシェル23の前端及び後端の縁は、水平面とほぼ平行な直線状で且つ幅方向には前後方向に湾曲した形状を成しているため、係止部材に対してインナーシェル23の溝23fの底面に沿う可撓性は求められないものの、溝23fの側面に沿う可撓性は求められる。そこで、上張地21の裏面に周縁に沿って係止部材29が配置されて縫い付けられる一方、該係止部材29を包み込むように上張地21を折り返してからインナーシェル23の溝23fに縦置きで(つまり、PPコードが剛性を示す幅方向を溝への挿入方向として)配置される。他方、本実施形態の座におけるインナーシェル23の両側部は、インナーシェルの縁が前後方向にはほぼ直線的でありながら水平面に対しては緩やかにS状に湾曲するスプイラン形状を成しているため、インナーシェル23の溝23cの底面に沿う可撓性を必要とされるものの、溝23cの側面に沿う可撓性は求められない。そこで、係止部材28が溝23cに横置き(つまり、PPコードの表面が溝23cの底に対向するように厚み方向を溝への挿入方向として)配置される。本実施形態では、係止部材28は、例えば上張地21の周縁21aに縫い付けられた収容袋21bの中に収めることで、上張地21に留め付けられている。但し、係止部材28,29を上張地21に留め付ける構成としては、収容袋21bに挿入することには限られず、例えば、上張地21の周縁21aに直接縫い付けるようにしてもよい。尚、本明細書において、平板状の係止部材28,29の表面とは、係止部材28,29の厚み方向に直交する面をいう。
【0052】
図11~
図14及び
図16に示すように、インナーシェル23の裏面の両側の周縁部には、外周に沿って下方に突出した形状の一対のリブ23bが一定間隔を空けて両側部に設けられると共に、前端部及び後端部にも一対のリブ23eが一定間隔を空けてそれぞれ設けられている。一対のリブ23bの間には溝部23cが形成され、リブ23eの間には溝部23fが形成されている。本実施形態の座20換言すればインナーシェル23における一対のリブ23b並びに溝部23cは、インナーシェル23の両側の縁部に沿って形成されている。このため、一対のリブ23b並びに溝部23cは、前後方向にはほぼ直線的(つまり、底面視でほぼ直線状に前後方向に延びるよう)に形成されている。さらに、溝部23cの底面(つまり、インナーシェル23の裏面)は、尚且つ水平面に対しては緩やかに起伏するS状に湾曲するスプイラン形状を成している。尚、本実施形態では、インナーシェル23は、4箇所のリブ23b,23eの他にもインナーシェル23の剛性を確保するためのリブを有している。溝部23c,23fには、上張地21の係止部材28,29が収容されている。尚、溝部23cの幅は少なくともPPコードの幅と収容袋21bの厚みを加えたよりもやや広いものであり、溝部23fの幅は少なくともPPコードの厚みと上張地21の厚みを加えたよりもやや広いものであることが好ましい。
【0053】
本実施形態では、インナーシェル23の幅方向の両側部に設けられた溝部23cでは、係止部材28の表面を溝部23cの底面に対向させるように配置することにより可撓性を発揮させるようして、インナーシェル23のスプライン形状に沿わせて溝部23cに収容している。即ち、係止部材28を溝部23cに所謂横置きに使用させることで、係止部材28にインナーシェル23の形状に沿う可撓性を発揮させるようにしている。本実施形態では、溝部23cの幅は、少なくとも係止部材28の幅と同じか僅かに広く設定される必要があるが、PPコードの幅と収容袋21bの厚みを加えたよりもやや広い程度であることが好ましい。これにより、溝部23cの底部に収容された係止部材28は幅方向の両側からもリブ23bにより安定して保持されるようになる。他方、溝部23fの幅は、少なくともPPコードの厚みと上張地21の厚みを加えたよりも広く設定される必要があるが、係止部材28と上張地21とを差し込むのに支障がなく尚且つ抜け外れない程度の広さであることが好ましい。
【0054】
図12及び
図13に示すように、上張地21は、座20の表面側から延出部27を超えてインナーシェル23の裏側に沿って略水平方向に向けて回り込み、周縁21aがリブ23bを超えて溝部23cの底部に向けて上向きに入り込んでいる。即ち、上張地21の張力が作用する方向に対して溝部23cの出入り方向が約90°に曲げられることで同一線上になく、張力の付与方向が転換されている。従って、上張地21に発生した張力は、延出部27の下側から水平方向に作用するが、上張地21はリブ23bによって張力の作用方向を下側に曲げられているので、容易に抜けてしまうことを抑制している。
【0055】
図13および
図14に示すように、横置きの係止部材28を差し込む溝部23cには、係止部23dを有している。係止部23dは、例えば溝部23cの底面側(
図13では上方)を向いた爪で、溝部23cに係止部材28が差し込まれる際には溝幅を拡げる方向に変形する一方、溝内に収容された係止部材28が引っ張られて溝部23cから抜け出そうとする際には係止部材28に係止して抜け出すことを規制する。これにより、上張地21が引っ張られた際に、横置きの係止部材28の溝部23cからの抜け止めを図ることができる。本実施形態では、係止部23dは、係止部材28の幅方向の両側に係止するように、一対のリブ23bのそれぞれから溝部23cの底面側に向けて内方に向けて突出すると共に傾斜するように形成されて幅方向に対向した対となって設けられている。これにより、係止部材28を溝部23cに設ける際には係止部23d同士の間を抜けて底部に設けられ、溝部23cに設けられた係止部材28が引っ張られて抜け出そうとする際には係止部23dに幅方向の両側が引っ掛かって抜け出しが防止される。したがって、対を成す係止部23dの間の間隔は、係止部材28の幅方向の長さよりも短いことが望まれる。尚、係止部23dの形状としては、爪形状には限られず、溝部23cからの係止部材28の抜け止めを図れる形状であれば凸部などであってもよい。また、本実施形態では、インナーシェル23を樹脂成型品としているため、インナーシェル23の形成時に溝部23cと係止部23dとを一体形成することができる。
【0056】
また、係止部23dは、
図10および
図11並びに
図16に示すように、本実施形態では、1箇所の溝部23cに対して略均等な間隔を開けて例えば5か所に配置されて、椅子20の側部に配置される係止部材28の全域に亘って、インナーシェル23に均等に留め付けられるように設けられているが、これに特に限られるものではなく、係止部23dの数量は適宜変更される。また、本実施形態では、対を成す係止部23dは左右のリブ23bの間で対向配置しているが、これには特に限られず、溝の長手方向に係止部23dをずらして配置するようにしても良い。
【0057】
一方、
図12および
図13に示すように、座フレーム24には、インナーシェル23の溝部23cに対向する位置に、溝部23cに入り込む突堤状の抜け止め部24aが形成されている。抜け止め部24aは、溝部23cに収容された係止部材28に常時押しつけられるものではなく、クリアランスを有して対向するように配置されている。つまり、上張地21の周縁部は、抜け止め部24aによって固定されていない。抜け止め部24aは、溝部23cに収容された係止部材28が溝部23cから抜け出そうとする際に、係止部材28が当接して抜け出すことを規制するようになっている。即ち、上張地21に外力が作用しない通常時には、係止部材28は抜け止め部24aは当接せず、上張地21に外力が作用して大きな張力が作用したときには、係止部材28は抜け止め部24aに当接し、抜け出すことが抑制される。
【0058】
さらに、座フレーム24は、インナーシェル23のリブ23bに隣接するように、リブ24bを有している。したがって、
図12に示すように、インナーシェル23と座フレーム24との周縁部では、インナーシェル23のリブ23bと座フレーム24のリブ24bとが交互に隣接してラビリンス状に配置されている。
【0059】
ここで、座フレーム24が細い枠形状であるので、本実施形態において上張地21の周縁21aを紐部材で引き締めようとすると、座フレーム24の中に収まらない可能性がある。これに対し、本実施形態では、上張地21の周縁21aは、インナーシェル23および座フレーム24の周縁部に留め付けられているので、上張地21の周縁21aを座フレーム24に収めることができ、見栄えを向上することができる。
【0060】
以上のように構成された椅子1の座20によれば、インナーシェル23はフランジ形状の延出部27を有し、クッション22は周縁部22aが延出部27に対して上下方向に突き当たっているので、周縁部22aは延出部27よりも先のインナーシェル23の裏側に回り込むことは無い。このため、クッション22をインナーシェル23の裏側に回り込ませた場合に比べて、クッション22の潰れが発生しにくい。これにより、クッション22の周縁部22aを延出部27の外周面27aを利用して平坦な形状にしやすくなるので、座20の見栄えを向上することができる。
【0061】
また、クッション22の周縁部22aが延出部27に突き当たることで、上張地21によって外側から内側に向けて押圧されても、延出部27がガードとなってクッション22の型崩れを防ぎ、クッション22が部分的に延出部27よりも凹んでしまうことを抑制できる。このため、クッション22の潰れが抑制され、上張地21の皺が発生しにくくなるので、座20の外観の安定性を向上することができる。
【0062】
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では本発明に係る構造物がネスティング椅子1の座20に適用された例を挙げて説明しているが、これに特に限られるものではなく、その他の種類の椅子の座に適宜選択され得る。例えば、単一の(インナーシェルと座フレームとに分離されない)座板に上張地21の周縁を収める溝を設けて上張地21の周縁を留め付け構造に適用してもよい。
【0063】
また、上述の実施形態では、インナーシェル23として樹脂成型品を適用した場合について説明したが、これには限られず、例えば合板など、既存のインナーシェルとして利用される部材を適用してもよい。例えば、合板の場合は、合板を形成した後、追加工により延出部を形成することができる。また、合板製インナーシェルの場合には、図示していないが、溝加工によって溝部23c,23fを形成したり、鋼板などから成る別部材のレール(リブ23b,23eに相当する)を使って溝部23c,23fや係止部23dを備えるようにしても良い。
【0064】
また、係止部材28は、インナーシェル23の形状に追従できる可撓性を有し、かつ、係止部23dに係止することで抜け止めが図られる形状(もの)であれば、特に断面形状長方形の平板形状の部品には限られず、横断面形状が楕円形、筒形、正方形、三角形などの多角形状であってもよい。例えば、横断面形状三角形の係止部材を用いる場合には、稜線部分を溝底面に向けて差し込むようにすれば、係止部材28が溝部23cに差し込まれる際には難なく押し込まれ、その後は係止部23dに引っ掛かることで係止部材28が抜け外れるのを阻止することができる。また、ワイヤのような撓み易い材料を係止部材28として適用する場合にも、溝部23cの幅と対を成す係止部23dの間隔とが差し込まれ尚かつ引き抜けないような寸法に設定・管理されていれば、特に問題は無い。
【0065】
また、上述の実施形態では、椅子の座を例に挙げて説明しているが、椅子の構造物は上述の実施形態におけるものには限られない。具体的には例えば、背凭れ、ヘッドレスト、アームレストなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 椅子
2 脚フレーム
11 回動支持軸部材(回動部材)
20 座(構造物)
21 上張地(表皮材)
21a 周縁(表皮材の周縁)
22 クッション(クッション材)
22b クッション材の外側面
23 インナーシェル
24 座フレーム(アウターシェル)
27 延出部
27a 延出部の外側面