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特許7602862がんおよび他の病的状態における治療または治癒を提供する、システム、デバイスおよび方法
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  • 特許-がんおよび他の病的状態における治療または治癒を提供する、システム、デバイスおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】がんおよび他の病的状態における治療または治癒を提供する、システム、デバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20241212BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K38/46
A61P35/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018522871
(86)(22)【出願日】2016-07-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 EP2016067539
(87)【国際公開番号】W WO2017017016
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2019-07-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】62/196,939
(32)【優先日】2015-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/198,587
(32)【優先日】2015-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518027508
【氏名又は名称】ハビブ・フロスト
【氏名又は名称原語表記】Habib FROST
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】ハビブ・フロスト
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】吉田 佳代子
【審判官】岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/71219(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/89462(WO,A1)
【文献】特開2006-271385(JP,A)
【文献】特開2005-514051(JP,A)
【文献】特開2009-502115(JP,A)
【文献】特開2009-545614(JP,A)
【文献】特開平10-310537(JP,A)
【文献】特開2015-89364(JP,A)
【文献】特表2005-512557(JP,A)
【文献】特開2005-261367(JP,A)
【文献】Nature、2010年、463(7278)、191-196、p.1-14
【文献】BooMed Research International、2014年、Vol.2014、Article ID 612823
【文献】Pharma Medica、2015年、Vol.33、No.4、p.47-50
【文献】Official Journal of the American Society ofGene & Cell Therapy、2016年2月16日、Vol.24、No.3、p.430-446
【文献】Crispr Medicine News、2022年3月21日、https://crisprmedicinenews.com/news/using-crisprcas9-to-attack-cancer-cells-a-new-avenue-for-personalised-cancer-treatment/
【文献】PNAS、2022年、Vol.119、No.9、e2103532119
【文献】Molecular Cancer、2022年、Vol.21、164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
A61K38/00-38/58,48/00
CaPlus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物のがんを処置するための医薬組成物であって、処置が前記動物の健常細胞に存在しない少なくとも1つのDNA配列を含むがん細胞の優先的な死滅の誘導を含み、前記医薬組成物が、
1)有効量の少なくとも1つの発現ベクター、ここで前記少なくとも1つの発現ベクターは、前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする第1の核酸配列、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする第2の核酸配列を含む、または
2)有効量の少なくとも1つの第1の発現ベクター、ここで前記少なくとも1つの発現ベクターはそれぞれ、前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする第1の核酸配列を含む、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする第2の核酸配列を含む有効量の少なくとも1つの第2の発現ベクター、または
3)前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する有効量の少なくとも1つの認識分子、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する有効量の少なくとも1つの分子、または
4)前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする核酸配列を含む有効量の少なくとも1つの発現ベクター、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する有効量の少なくとも1つの第2の分子、または、
5)前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する有効量の少なくとも1つの認識分子、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする核酸配列を含む有効量の少なくとも1つの発現ベクター、を含み、
1)~5)のいずれかで定義された前記ベクターおよび/または分子の投与が、前記がん細胞を死滅または中和させる程度まで前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAの破壊をもたらし、前記動物が健常細胞において動物の自己DNAを認識するいかなる認識分子にも曝露されず、
前記がん細胞が複数のDNAの破壊の導入によって致死的に損傷されるか、かつ/または前記がん細胞のゲノムの複数の塩基対の欠失によってその代謝が破壊され、
認識分子が核酸であり、塩基対形成により前記少なくとも1つのDNA配列を認識し、かつ
DNAの破壊が、がん細胞の染色体DNAに十分な数の切断を導入し、がん細胞が生存不可能であることを保証することを含む、医薬組成物。
【請求項2】
認識分子がcrRNAであり、前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に前記DNAを選択的に破壊する前記分子がCRISPR関連タンパク質(Cas)である、請求項1に記載の処置のための医薬組成物。
【請求項3】
Casが、Cas9、eSpCas9、SpCas9-HFおよびCpf1のうちの1つである、請求項2に記載の処置のための医薬組成物。
【請求項4】
DNAの破壊がストップコドンを導入する数個の変異の導入を含む、請求項1~3のいずれかに記載の処置のための医薬組成物。
【請求項5】
前記ベクターまたは分子が予防用デポ剤または治療用デポ剤に組み込まれている、請求項1~4のいずれかに記載の処置のための医薬組成物。
【請求項6】
動物がヒトである、請求項1~5のいずれかに記載の処置のための医薬組成物。
【請求項7】
動物のがんを処置するための医薬組成物の調製のための、1)~5)のいずれかで定義されたベクターおよび/または分子の使用、ここで該処置は、前記動物の健常細胞には存在しない少なくとも1つのDNA配列を含むがん細胞の優先的な死滅の誘導を含み、ここで1)~5)のいずれかで定義された前記ベクターおよび/または分子の投与は、前記がん細胞を死滅または中和させる程度まで前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAの破壊をもたらし、前記動物は健常細胞において動物の自己DNAを認識するいかなる認識分子にも曝露されない:
1)有効量の少なくとも1つの発現ベクター、ここで前記少なくとも1つの発現ベクターは、前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする第1の核酸配列、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする第2の核酸配列を含む、または
2)有効量の少なくとも1つの第1の発現ベクター、ここで前記少なくとも1つの発現ベクターはそれぞれ、前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする第1の核酸配列を含む、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする第2の核酸配列を含む有効量の少なくとも1つの第2の発現ベクター、または
3)前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する有効量の少なくとも1つの認識分子、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する有効量の少なくとも1つの分子、または
4)前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする核酸配列を含む有効量の少なくとも1つの発現ベクター、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する有効量の少なくとも1つの第2の分子、または、
5)前記少なくとも1つのDNA配列のうち少なくとも1つを特異的に認識する有効量の少なくとも1つの認識分子、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする核酸配列を含む有効量の少なくとも1つの発現ベクター;
ここで、前記がん細胞が複数のDNAの破壊の導入によって致死的に損傷されるか、かつ/または前記がん細胞のゲノムの複数の塩基対の欠失によってその代謝が破壊され、
認識分子が核酸であり、塩基対形成により前記少なくとも1つのDNA配列を認識し、かつ
DNAの破壊が、がん細胞の染色体DNAに十分な数の切断を導入し、がん細胞が生存不可能であることを保証することを含む。
【請求項8】
認識分子がcrRNAであり、前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に前記DNAを選択的に破壊する前記分子がCRISPR関連タンパク質(Cas)である、請求項7に記載のベクターまたは分子の使用。
【請求項9】
Casが、Cas9、eSpCas9、SpCas9-HFおよびCpf1のうちの1つである、請求項8に記載のベクターまたは分子の使用。
【請求項10】
DNAの破壊がストップコドンを導入する数個の変異の導入を含む、請求項7~9のいずれかに記載のベクターまたは分子の使用。
【請求項11】
前記ベクターまたは分子が予防用デポ剤または治療用デポ剤に組み込まれている、請求項7~10のいずれかに記載のベクターまたは分子の使用。
【請求項12】
動物がヒトである、請求項7~11のいずれかに記載のベクターまたは分子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な疾患に対する治療介入を可能にする、システム、デバイスおよび方法に関し、治療は、特定の具体的に定義された細胞の死滅を含む。すなわち、本発明は、がん、ウイルス疾患および病原体によって起こる疾患の治療法を提供する。
【背景技術】
【0002】
数百万人の人間が、毎年がんで死亡する。例えば手術、化学療法および放射線療法などの現在の治療法は、過酷で非特異的であり、排除しようとするがん細胞とともに、多くの健常な細胞を死滅させる。
【0003】
個別化されたがん治療が試みられているが、がんが遺伝的病因を有するという事実を考慮すると、各がんは個体に特有に現れるため、これらのがん治療のほとんどは「いずれの」がんに対しても有効であると立証されていない。ある患者の臓器におけるがんは、大まかに述べると、別の患者の同一の臓器において、完全に異なる疾患のサブセットとして振る舞う。
【0004】
さらに現在、多数のウイルス感染症および生きた病原体による感染症には、薬剤耐性のため、またはヒトに有害でない、有効な抗生物質が入手できないため、十分な治療法がない。
【0005】
したがって、個体に関連する特定のがんに対してカスタマイズされた、がんの処置の必要性があり、ウイルスまたは既存の抗生剤では標的とすることが困難な細胞もしくは病原菌に感染した細胞を、特異的に攻撃できる治療法の必要性もある。
【0006】
いくつかの研究は、がん治療における遺伝子編集(例えば、タンパク質ドメインのCRISPR-Cas9スクリーニング(Shi et al, Nature Biotechnology 2015)、新規ながん動物モデルの作製(Mou et al. Genome Medicine 2015)、周知のがん関連遺伝子の変換および、それらの、健常なバリアントへのウイルスベクターを用いた変換、ならびにCAR-T免疫療法(キメラ抗原受容体T細胞免疫療法)の設計におけるCRISPR-Cas9の使用による、抗がん剤標的の発見)を提案する。
【0007】
公知の技術において、がん処置における遺伝子治療を、インサイチュ(in situ)の遺伝子治療プロトコルに使用しており、これは、ウイルスベクターを用いて、がんに対する全身性免疫を増大させる特定の遺伝子を形質導入する(例えば、前立腺がんにおける、インサイチュの免疫調節の遺伝子治療(The et al., Clin Med Res. 2006 Sep; 4(3): 218-227))。CAR-T細胞免疫療法は、免疫療法に関連するリスクを伴って機能し、患者におけるリスクおよび不確実性(例えば、自己免疫障害、免疫調節の副作用および死)を未だ提起する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、最先端の、高速で信頼できるゲノムシークエンスおよび、したがって、個体の健常な細胞と比較して、細胞(がん細胞、ウイルス感染細胞、および病原菌の細胞など)に特有な核酸配列の同定を用いて、前記細胞を選択的に破壊または中和できる、認識分子およびエフェクター分子をコードする、発現ベクターを設計できるという、発明者の最初の認識に基づく。
【0009】
がんゲノムプロジェクトの所見によると、ほとんどのがん細胞は60以上の変異を有している。変異は個人間で様々であるため、これらの変異の原因が、特定の種類のがんであることを同定することは困難であったが、このような変異の大部分は、がん細胞に特有であり、したがって、特異的な治療法において、これらの細胞を標的とする場合、これらを区別できる。細菌およびウイルスに関しては、標的とする特有の配列を同定することはあまり問題とはならないが、言うまでもなく、特異的なウイルスまたは細菌の配列のターゲティングが望ましくないオフターゲット効果をもたらさないことを保証することとの関連性が強い。
【0010】
非常に高い信頼度/忠実度を有する認識分子が、個体のがん由来の核酸配列を、同個体の正常細胞のいずれの核酸配列からも区別できる場合、およびそのような特異的な認識を用いて、「がんの核酸」の破壊または中和をトリガーできる場合、個体にエフェクターがん処置(effector cancer treatment)を与える工程は、以下の単純な工程に分解できる:
1)がん細胞には現れるが、健常細胞には現れない、または少なくとも健常細胞のほんのわずかな集団においてのみ現れる、核酸配列の同定および検証(本明細書において、そのように同定された配列を、「がんNA配列」と呼ぶ);
2)がんNA配列に相補的な認識配列をコードし、がんNA配列を含む核酸を破壊または中和できる、少なくとも1つのエフェクター細胞をコードする、少なくとも1つの発現ベクターの作成;
3)がんNA配列を含む核酸を標的とする破壊または中和をもたらすための、発現ベクターの、がんを患う患者への投与。
【0011】
正常細胞に対して、がん細胞に存在する多数の変異は、認識配列の複数の標的を与えるため、核酸を破壊または中和する際に達成される効果は、がん細胞を放射線療法で処置する際に生じる複数のDNA破壊に相当する。しかしながら、放射線療法は、正常細胞のDNAの破壊(および、それによる正常細胞の破壊)をも生じ、がんに特異的な核酸配列を標的とする手法は、オフターゲット効果を回避する。
【0012】
発明者は、全く同じ原理が、病原体(ウイルス感染細胞、細菌または寄生生物)が疾患の原因物質であり、感染した個体のいずれの核酸配列とも異なる核酸配列を含む、いずれの種類の疾患の処置にも使用できることを認識していた。本明細書において、このような区別できる配列を、病原体NA配列と呼ぶ。病原体NA配列と相補的な認識配列をコードし、がんNA配列を含む核酸を破壊または中和できるエフェクター分子をコードする、適切な発現ベクターの作成および、個体への投与は、標的核酸を含む細胞を根絶できる。
【0013】
したがって、本発明は、がんの処置に基づく個別化された遺伝子操作および、ウイルス感染細胞または病原体を標的とする遺伝子操作の処置を提供する。
【0014】
大まかに述べると、本発明は、以下で構成されたシステムを提供する:
所定の反応パターンにおいて、患者の物質、または前記物質由来のデータと相互作用すること、
治療用の遺伝子操作された生体物質の設計を提供すること、またはこの生体物質を合成すること、
以下で構成されたコンピュータの手段に基づいて、所定の反応パターンに従うこと、
同一の患者、そのゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、遺伝子発現、メタボロームおよびエピゲノムデータから採取した、疾患関連物質および健常な物質の両方から得た、試料の生物学的状態、または試料由来のデータの入力を受け取ること、および
生体物質の設計および/または配列におけるデータを作成し、かつ/または、患者から採取したデータに基づいて、疾患関連物質の生物学的状態に有害であり、健常な物質に有害でないように構成された、所定のパターンに基づく生体物質を合成すること。
【0015】
第1の態様において、本発明は、動物(ヒトなど)の疾患を処置する方法であって、少なくとも1つのDNA配列を含む細胞の優先的な死滅の誘導を含み、このDNA配列が、前記動物の健常細胞には存在せず、または実質的な量では存在しない、方法であって、
1)少なくとも1つの発現ベクターであって、それぞれが、前記少なくとも1つのDNA配列のうち、少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする、第1の核酸配列を含み、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする、第2の核酸配列を含む、有効量の少なくとも1つの発現ベクター、または
2)少なくとも1つの第1の発現ベクターであって、それぞれが、前記少なくとも1つのDNA配列のうち、少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする第1の核酸配列を含む、有効量の少なくとも1つの第1の発現ベクター、および、前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする、第2の核酸配列を含む、有効量の少なくとも1つの第2の発現ベクター、または
3)前記少なくとも1つのDNA配列のうち、少なくとも1つを特異的に認識する、有効量の少なくとも1つの認識分子、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する、有効量の少なくとも1つの分子、または
4)前記少なくとも1つのDNA配列のうち、少なくとも1つを特異的に認識する認識分子をコードする核酸配列を含む、有効量の少なくとも1つの発現ベクター、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する、有効量の少なくとも1つの第2の分子、または
5)前記少なくとも1つのDNA配列のうち、少なくとも1つを特異的に認識する、有効量の少なくとも1つの認識分子、および前記認識分子に前記少なくとも1つのDNA配列を含むDNAが結合した場合に、前記DNAを選択的に破壊する分子をコードする核酸配列を含む、有効量の少なくとも1つの発現ベクター、を投与することによる方法であって、
1)~5)のいずれかに定義される前記ベクターおよび/または分子の投与が、前記細胞を死滅または中和させる程度まで、前記少なくとも1つのDNA配列を含む核酸分子の破壊をもたらす、方法に関する。
【0016】
第2の態様において、本発明は、動物(ヒトなど)の疾患を処置する治療法を設計し、場合により調製する方法に関し、これは、
a)悪性組織由来の細胞、ウイルス感染細胞および病原菌細胞である、細胞または細胞集団由来のDNAの配列を決定すること、
b)次いで、工程aで得たDNA配列情報を、前記動物の健常細胞由来、または前記動物種の完全に配列決定された健常なゲノム由来のDNA配列情報と比較すること、
c)前記動物の健常な細胞には現れない、細胞または細胞集団由来のDNA配列を同定すること、および
d)以下の少なくとも1つを含む治療法を設計し、場合により調製すること:
1)工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列を特異的に認識する認識分子をコードする、第1の核酸配列を含み、工程cで同定した前記少なくとも1つのDNA配列が前記認識分子に結合した場合に、前記DNA配列を選択的に破壊する分子をコードする、第2の核酸配列を含む、発現ベクター、または
2)工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列を特異的に認識する分子をコードする、第1の核酸配列を含む、第1の発現ベクター、および、工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列が前記認識分子に結合した場合に、前記DNA配列を選択的に破壊する分子をコードする、第2の核酸配列を含む、第2の発現ベクター、または
3)工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列を特異的に認識する認識分子、および工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列が前記認識分子に結合した場合に、前記DNA配列を選択的に破壊する分子をコードする核酸配列を含む、発現ベクター、または
4)工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列を特異的に認識する認識分子をコードする核酸配列を含む、発現ベクター、および工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列が前記認識分子に結合した場合に、前記DNA配列を選択的に破壊する分子、または
5)工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列を特異的に認識する認識分子、および工程cで同定した少なくとも1つのDNA配列が前記認識分子に結合した場合に、前記DNA配列を選択的に破壊する分子
を含む。
【0017】
第3の態様において、本発明は、本明細書に記載された治療法を設計し、場合により調製する、コンピュータまたはコンピュータシステムに関し、これは、
i)動物の健常な細胞由来、または、前記動物種の完全に配列決定された健常なゲノム由来の、DNA配列データを含む、第1のコンピュータメモリーまたはメモリーセグメント、
ii)病態関連細胞由来のDNA配列データを含む、第2のコンピュータメモリーまたはメモリーセグメント、
iii)第2のコンピュータメモリー由来のDNA配列データを、第1のメモリーにおけるDNA配列データのセット全体と比較し、第1のコンピュータメモリーのDNA配列データには現れない、第2のコンピュータメモリー由来のDNA配列を同定するのに適した、実行コード、
iv)iiiで定義されたコンピュータによって同定した、DNA配列データまたはDNA配列データのポインターを含むのに適した、第3のコンピュータメモリーまたはメモリーセグメント、および
v)1)第3のコンピュータメモリーまたはメモリーセグメントに保存された、または示されたDNA配列データ、および2)エフェクター分子をコードする核酸における配列データ、に基づく発現ベクターを設計するのに適した、実行コード、および場合により、
vi)vの実行コードによって設計されたDNA配列を合成するのに適した核酸シンセサイザー、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1は、実施例1で詳細に開示される、検索および設計アルゴリズムを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
認識分子およびエフェクター分子
本発明の多くの議論および開示において、がん/悪性細胞由来の区別される核酸の同定に注目している。しかしながら、本発明は、CRISPR-Cas9システムなどの現在のゲノム編集技術が、選択した任意の核酸配列を特異的に標的とし、編集する可能性を与えるという発見に主に基づくことが理解される。例えば、HBV感染細胞のゲノムを編集することによる、HBV感染症の処置に関する、WO 2015/089465および、HIV感染症に対する、遺伝子編集された防御に関する、Hsin-Kai Liao et al, Nature Communications 6, Article no. 6413参照。
【0020】
実施例に記述されるように、認識配列によって標的とできるが、健常(正常)細胞が標的とならないことが保証される配列を、悪性細胞のゲノムにおいて検索できる。実際、本発明の第1の態様における方法は、がん患者における悪性細胞の死滅および中和をもたらすことが好ましく、本方法に用いた認識配列が、健常(正常)細胞における動物の自己DNAを認識しないことも好ましい。
【0021】
CRISPRシステムは、標的部位に相補的なガイドRNA配列を与えることによって、CRISPR関連(Cas)タンパク質(Cas9および本明細書においてCRISPRに関連して議論される他の任意のエフェクター分子など)を複数の遺伝子標的に誘導する点で、最も容易である。CRISPR/Cas9システムにおける標的部位は、ほとんどのゲノムの遺伝子座付近に発見できる;ガイド鎖RNAと適合している標的配列の後ろに、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を伴うことが唯一必要である。化膿性連鎖球菌(Sp)Cas9において、これは、後ろにグアニン対(NGG)を伴う、任意のヌクレオチドである。しかしながら、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)Cas9が、PAM YG(後ろにグアニンを伴う、任意のピリミジン)を認識するように設計されており、フランシセラ・ノビシダのCpf1は、PAM TTNまたはYTNを認識する。
【0022】
したがって、認識分子は核酸であることが好ましく、これは前記少なくとも1つのDNA配列を認識し、DNA配列は塩基対を介して標的とされる。典型的に、認識分子はcrRNAであり、前記認識分子と結合すると、前記少なくとも1つのDNA配列を選択的に破壊する分子は、CRISPR関連タンパク質(Cas)(すなわち、ヌクレアーゼ)である。このCasは、任意の適切なCasであってよいが、例えば、Cas9、eSpCas9、SpCas9-HFおよびCpf1であってもよい。
【0023】
治療における標的部位の選択およびCRISPRシステムの選択を、CRISPRシステムの標的部位およびオフターゲット部位の予測活性スコアラー(例えば、ハーバード大学で利用されるSgRNAスコアラー1.0など)を介して、標的に優先順位を付けることによって、さらに最適化してもよい。
【0024】
本発明において、認識配列によって標的とされる細胞は、複数のDNA分子の破壊によって、致死的に損傷することが好ましいが、本発明の治療法は、標的細胞が単に「中和」される場合においてさえ、有効である。
【0025】
悪性細胞の多様なDNA配列の特異的認識において、CRISPRシステムを用いる場合、認識の忠実度を、認識配列の骨格に改変を含む認識配列を用いることによって、増加させてもよい。例えば、認識配列とその標的DNAとの間の二本鎖の安定性は、修飾ヌクレオチドを含む認識配列を用いることによって、向上し得る。例えば、ロックド核酸(LNA)が挙げられる;LNAで修飾したオリゴヌクレオチド(リボース修飾)は、相対的に短い相補的な核酸配列間に安定な二本鎖を形成でき、この様式において、オフターゲット効果のリスクを最小限にできることが保証されている。他の可能性は、リン酸骨格バリアント(ホスホジエステルおよびホスホロチオエートのヌクレオチド間結合修飾など)、リボースバリアント(LNA、2’OMe、2’-フルオロRNA(2’F)および2’MOEなど)および非リボース骨格バリアント(PMOおよびPNAなど)の使用である。
【0026】
修飾された核酸は発現産物ではないため、このような手法は、認識配列を直接投与によって与える必要がある。
【0027】
本発明の好ましい実施態様において、CRISPRシステムの設計および/または配列は、限定されないが、CRISPR-Cas9システム、CRISPR-eSpCas9システムならびにSpCas9-HFシステムおよびCRISPR-Cpf1システム、あるいは、相同組換え、RNA干渉(RNAi)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(transcription-activator like effector nuclease)(TALEN)および、ゲノムに対する正確な、標的とする変化を作成する、他の将来の方法を含む。これは、例えば、エフェクター分子が、Cas9、eSpCas9、SpCas9-HFおよびCpf1から選択され得ることを意味する。これらの多くは、最小限のオフターゲット効果を発揮するため、本発明の安全性のプロファイルは、正常細胞で見出されない、特有のDNA配列の正確な同定に主に依存する。
【0028】
本発明の魅力的な特徴は、患者が処置を受ける前に、インビトロでテストできることであり、これによって安全性がさらに向上する。認識配列の選択を計画する場合、それらを患者から単離したがん細胞および患者から単離した正常細胞に投与できる。DNAを破壊する効果が、実質的にがん細胞に制限される場合にのみ、患者にその治療法を行使すべきである。本手法は特に、がん細胞のDNAを標準的な健常なゲノムと比較する、本明細書に開示されるこれらの実施態様に関し、安全性の測定として、この手法によって、患者の正常細胞が、がんに特異的だと考えられる1以上のDNA標的を偶然含まないことが保証される。
【0029】
したがって、本発明の実施態様は、合成した個別化治療法のインビボでの投与の前に、治療法を、健常細胞および異常細胞において、インビトロで、テスト、最適化および検証することを含む。予側結果を、ヌクレオチド分解能DNA二本鎖切断マッピング(例えば、直接インサイチュ切断ラベリング、ストレプトアビジンでの濃縮および次世代シークエンシング(BLESS)など)で測定する。あるいは、単一細胞生存をインビトロで決定してもよい。
【0030】
バイオインフォマティクスの検索アルゴリズムが、公知の技術において存在しており、遺伝子またはゲノム全体を与えると、PAM付近に位置する全ての可能性のある20塩基のセグメントを発見し、それらをゲノム中の独自性および他のパラメータに基づいて順位付けし、得られるガイドRNAの表を作成できる(例えばハーバード大学のCHOPCHOPまたはエール大学のCRISPRscanなど)。したがって、本文において、患者の悪性細胞に由来するDNAの議論は、前記DNAが処置される個体の健常細胞において見出されるDNAと同一でない限り、いずれの病原体または病態に関与する細胞由来のDNAにも、同様にうまく適用できる。がんまたは他の病態関連細胞の特定のDNAを標的とすることを望む場合、本質的に、認識配列(例えば、その核酸配列)の選択のみを変更する必要がある。さらに、認識配列が標的細胞に侵入するのを保証する手段の選択を、通常、特定の標的細胞に最適化しなければならない。これをまとめると、がんにおける認識分子の設計に関連する本願の全ての開示を、他の病態において類似の様式で用い得る。
【0031】
本発明のある実施態様において、与えられた設計および/または配列を、CRISPRシステム、あるいは、相同組換え、RNA干渉(RNAi)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)および、ゲノムに対する正確な、標的とする変化を作成する、他の将来の方法に用いる。現在の好ましいシステムは、CRISPR-Cas9システムであり、これは現在、真核生物(ヒトを含む)ゲノムの遺伝子編集における万能なシステムに発展している。
【0032】
CRISPR-Cas9システムを用いる場合、他の唯一の必要条件は、本発明において切断される配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(5’-NGG-3’など)の上流または下流に続いていることである。
【0033】
特許請求の範囲から明らかなように、本発明の処置は、多くの実用的な形態をとることができ、単に標的細胞が同時に、1)認識分子(がんNA配列また病原体NA配列に相補的なDNA配列を有する少なくとも1つのCRISPRなど)とエフェクター分子(Cas9など)を内部に有することのみを保証しなければならない。両方の分子は、1つの、同じ発現ベクターにコードされていてもよく、別の発現ベクターにコードされていてもよく、または一方のみが発現ベクターにコードされ、他方の分子を直接投与してもよく、もしくは両方を直接投与してもよい。
【0034】
好ましい発現ベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスまたはレンチウイルスだが、細胞内に存在する認識分子およびエフェクター分子を与え得る、任意の形式のベクターが利用できる。したがって、標的細胞への遺伝子導入をもたらす、遺伝子治療に一般的に適用される方法が、本発明において、実用的である。例えば、ウイルスベクターに導入されないが、プラスミドの代わりとなる、より長く、場合により改変された、核酸を用いる場合、本発明において、これらを、標的細胞に取り込まれるように処方することは魅力的である。リポソーム製剤は1つの可能性を成すが、核酸を、例えばコレステロールなどの脂質と結合することによって、直接修飾してもよい。
【0035】
理解されるように、好ましいCRISPR-Cas9システムは通常、単に標的DNAに切断を導入するのではなく、遺伝子編集ツールとして用いられる。しかしながら、遺伝子編集および遺伝子切断の手法は共に、本発明において、細胞を死滅または中和するのに有用である。
【0036】
「中和」は、細胞を、そのDNAを損傷させることによって、少なくとも増殖できない程度(これは、がんにおいて、がんの増殖を中断させることを意味する)および/またはそのゲノムを複製できない程度に、不活化させることを意味する。他の可能性は、細胞が、免疫原性の発現産物の出現によって、より免疫原性となり、したがって、免疫反応の結果として、不活化/死滅するということである。DNA損傷が、少なくとも部分的な、良性の表現型への復帰(細胞が、転移する能力または組織に侵入する能力を失うことを意味する)を誘導する可能性もある。最後に、細胞は通常、本発明の原理を組合せ得る、他の抗がん治療への感受性がより高くなる。しかしながら、標的細胞は、誘導されたDNA破壊の結果として、死滅することが好ましい。
【0037】
最も単純な実施態様の1つにおいて、本発明の治療法は、標的細胞におけるできるだけ多くの重要な染色体を標的とするように設計された、1以上の認識分子(CRISPRなど)を用いる。染色体DNAにおける十分な数の切断の導入は、次いで細胞を生存不可能にする効果を有し、上述するように、標的細胞に対するこの効果は、放射線療法の効果に匹敵する。
【0038】
また、フレームシフト変異を、本発明の方法で(例えば、適切に設計したCRISPR-Cas9または類似のシステムを用いて)、部位特異的に導入してもよい。フレームシフトは、DNA配列への、3で割り切れない、多数のヌクレオチドのインデル(挿入または欠失)によって生じる遺伝子変異である。コドンによる遺伝子発現のトリプレットな性質のために、挿入または欠失は、読み枠(コドンのグループ分け)を変化させ、変異していない遺伝子と比較して、完全に異なるタンパク質発現産物をもたらす。挿入または欠失が配列の初期で起こるほど、タンパク質のより多くが変化する。
【0039】
標的細胞の1以上の重要なタンパク質にインデルフレームシフトが生じ、修復機構が阻害されると、がんの場合と同様に、フレームシフトは細胞における生命の存続に適合しない。
【0040】
フレームシフト変異は、一塩基多型と同一ではなく、一塩基多型は、ヌクレオチドを挿入または欠失するのではなく、置換する。
【0041】
この手法は、生物を破壊し得る別の方法である。
【0042】
いくつかの部位を同時に標的とする場合(例えば、組換えDNA工学で行うのと同様に、生物ゲノムのより大きな断片を切り取る場合)、上述の損傷を介して、より大きな影響を誘導し得る。
【0043】
細胞を死滅させ得る別の方法は、配列内の終止コドン(「UAA」、「UGA」または「UAG」)の停止を誘導する、1個または数個の変異を導入することである。作製されたポリペプチドは、異常に短く、または異常に長く、機能しない可能性が高い。
【0044】
興味深い実施態様において、CRISPR-Cas9システムまたは類似のシステムを用いて、効率的に最も速くがんを死滅させるために、標的細胞に細胞死遺伝子または細胞を死滅させる機構を挿入する。
【0045】
より単純な手法は、一般的に細胞の代謝に干渉するような、標的細胞のゲノムにおける1以上の破壊の導入に依存する。
【0046】
本発明の別の実施態様において、使用するCRISPR-Cas9または類似のシステムは、細胞の代謝を破壊するように、標的細胞ゲノムにおける1以上の塩基対を欠失させる。
【0047】
本発明の別の実施態様において、CRISPR-Cas9または類似のシステムは、外科手術の観点から、がん細胞を、視覚的または電磁気的に検出できるように(例えば蛍光色素を介して)、標的細胞ゲノムにおける1以上の遺伝子を改変または挿入する。
【0048】
別の実施態様において、CRISPR-Cas9システムを、ヌクレオチドを挿入または欠失するのではなく置換する、一塩基多型を生成するように、構成する。
【0049】
別の実施態様において、いくつかの部位を同時に標的とし(例えば、生物ゲノムのより大きな断片を切り取るように)、組換えDNA工学で行うのと同様に、上述の損傷を介して、有害な、より大きな影響を誘導し得る。
【0050】
本発明の別の実施態様において、CRISPR-Cas9システムを、がん細胞の配列内の終止コドン(「UAA」、「UGA」または「UAG」)の停止を誘導する、1個または数個の変異を導入するように、構成する。
【0051】
特許請求の範囲から明らかなように、本発明の治療法は、処置される個体自身の健常細胞には存在せず、病態関連細胞には存在する遺伝物質である限り、広範な使用を見出す。がんだけでなく、本発明は、「困難な」細菌性および他の感染症(例えば、結核など)のターゲティングまたは、薬剤耐性を生じ、もしくは制御/根絶が困難で有名な、細菌もしくは他の病原菌の特異的なターゲティングを可能にする。特定の感染症(マラリアおよび多数の他の寄生虫症(例えば、住血吸虫症および多包条虫感染症)ならびに多数のウイルス性疾患)は現在、有効な治療法がない。
【0052】
ウイルス性感染症に関して、本発明を用いて、個体のそれらの細胞のみを標的にできる可能性があり、(ウイルスが、感染細胞の生化学的な機構を利用し、DNAからウイルスタンパク質を生成する、これらの場合に)これはウイルス由来のDNAを含む。このようなウイルス感染症に対する正常な免疫学的防御は、感染細胞の死滅の誘導であるため、本開示の手法は、異なる方法で同一の最終的な結果を達成する、単純な手法である。興味深い標的は、HIV感染症ならびにHBVおよびHCVである。
【0053】
他の感染症に関しては、ヒトDNA配列と、細菌、真菌および寄生虫に見出される配列との間の大きな差異のため、標的DNAの同定は、およそ重要でない。これらの場合、主な課題は、標的細胞への認識分子およびエフェクター分子の導入をもたらす、最適化した方法を選択することである。細菌の場合、ファージをベクターとして用いてもよいが、他の手段(例えば、マイコウイルスまたは線虫ウイルス(nematode virus))が、真菌および寄生虫に発現ベクターを導入するのに有用であり得る。
【0054】
本発明の第1の態様の別の実施態様は、予防的な、疾患を患う前または、診断後のいずれかにおいて、処置する動物の組織、体液区画または血管に継続投与の有効成分を処置する、注入、パッチ、ペレットまたは移植片の形式で、有効成分を予防用または治療用デポ剤(depot)(すなわち「ワクチン」)に統合する。この実施態様は、薬物の沈着において、最新の技術の使用を必要とし、持続的な放出を保証する。
【0055】
治療手段を同定および調製する方法および手段
第2の態様の方法および本発明のコンピュータの手段における好ましい実施態様において、がんのゲノムまたは病原体のゲノムの両方を、健常なゲノムと比較し、がん細胞または病態関連細胞を選択的に攻撃し、健常細胞を攻撃しないような、CRISPR-Cas9のRNA部分の設計をもたらし得るように異なっている、配列内の領域を見出す。この前記RNA配列の設計は、1以上の健常細胞由来および1以上のがん細胞由来の、1以上の試料を集めることにより、達成でき、ゲノムが、健常ゲノムの代表であり、差異が、がんのゲノムの代表であることを保証する。また潜在的に、差異は、大多数のがん細胞において存在するため、複数の世代のがんにおいて存在する。これは、潜在的に生じる、迅速な変異のためである。
【0056】
したがって、第2の態様の方法およびコンピュータの手段は、ゲノムに対する正確な、標的とする変化を作成する、CRISPR-Cas9システム(本明細書で詳述されるこれらなど)、あるいは、相同組換え、RNA干渉(RNAi)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の合成において与えられた設計および/または配列を用いることができる。
【0057】
一般的に、標的とする有用な配列を同定する、本発明の方法において、これは処置される個体の正常細胞における、配列全体の情報が利用できることに関する。しかしながら、この手間を省いてもよい:これは既に配列決定されたゲノムによる場合ではないが、代わりに、処置される個体が疾患の配列と共通の配列を含み得るというリスクのため、安全性がわずかに低いが、既に配列決定された(健常な)ゲノムを用いてもよい。しかしながら、本明細書で示されるように、処置される個体由来の悪性細胞および健常細胞に、認識分子と、標的DNA配列が認識分子に結合した場合に、標的DNA配列を破壊する分子との組合せを、処置することによって、インビトロでの初期の安全性の評価を実行できる。
【0058】
疾患関連細胞DNAの配列決定を開始する場合、ゲノム全体が配列決定される前に、多少の時間がかかり得るが、(おそらく、非常に初期の時間においてさえ)プロセス中に、有用な標的配列が継続的に同定され得る。配列が同定される毎に、それを、既に含まれている配列および継続的に含まれている配列に対して、順位付けおよび再順位付けされ得る、潜在的な標的配列の表に加える。配列の順位付けに用いる基準は、PAMの存在、重要な染色体における配列の存在など(下記参照)の評価を含む。
【0059】
また、がんDNA配列を、1以上の完全に配列決定された正常なゲノムと比較し、先行の配列ゲノムにおける高度に保存された遺伝子に対する差異を検索することは簡便であり得る。
【0060】
さらに、多数のがんに関連し、特異的である、約200個の「共通」の遺伝子変異の表が、既に知られている。そのような変異を、同定の過程の一部として同定する場合、まず、これらの配列ががん特異的であることは公知であり、そのようながん特異的な配列を標的とする認識配列の包含は、安全な選択肢であるため、そのような配列は、標的をがんとする治療手段の後期の調製において、基準として最上段に順位付けされる。
【0061】
本発明のある実施態様において、システムの出力は、処置ベクターとしてのアデノウイルス(すなわち、アデノ随伴ウイルス)またはレンチウイルスに組み込まれる。
【0062】
本発明のある実施態様において、コンピュータの手段は、がんゲノムと健常なゲノムの同一の位置において、1~20ヌクレオチドを有する、健常ゲノムとは異なる、がんゲノムの配列を、検索および検出するように構成され、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(5’-NGG-3’)を下流または上流に伴う、そのような部位を見出すように構成される。システムは、そのような部位を複数見出した場合、最も差異が大きい部位に基づいて、あるいは、対象の遺伝子の重要性における知見のデータベースに基づいて、見出した配列を順位付けするように構成される。システムは、以下の少なくとも1つから構成される:1)発見した部位を、健常な部位とがん/病原体に関連する部位との間の差異が最も大きな部位を最も高く、順位付けする。2)その使用が、所定の知見のデータベースに基づいて、最も高い影響を与えることが知られている、発見した部位を、最も高く順位付けする。3)これらの発見した部位の位置を示すことができる。4)発見した部位をRNA配列に写すことによって、これらの発見した部位に基づいて、処置の計画を作製し、かつ/または、処置を合成し、ここで合成した処置は、CRISPR-Cas9システムに含まれ得、がん細胞を特異的に標的とし、健常細胞を標的としない、ユニットにおける処方である。5)がん物質のより大きな部分を破壊する目的で、標的がん物質内のいくつかの異なる点(例えば、がんのゲノムの複数の点)を攻撃する、いくつかの出力(いくつかのCRISPR-Cas9システムなど)を生成する。がん細胞のいくつかの点を同時に攻撃する場合、その目的は、ゲノムのより大きな部分を切り取り、より大きな損傷を引き起こすことである。
【0063】
本発明のある実施態様において、遺伝子的な入力は、リキッドバイオプシーを用い、患者の血液試料から、がんの遺伝物質を抽出するように構成される。
【0064】
本発明の別の実施態様において、コンピュータの手段は、このゲノム間の差異のデータベースを取得し、PAM部位を含み、PAM部位に隣接し、またはPAM部位に近接する差異を同定する(例えば、PAM部位から1~20ヌクレオチド離れた、2つのゲノム間の差異)。本質的に、正常なDNA配列と、がんにおいて見出されるDNA配列との間の数個のミスマッチさえ、標的として利用できる。より長いミスマッチが同定された、特に興味深い実施態様において、がん細胞DNAにおける多数の可能性のある切断を可能にするように、複数の、部分的に重複した認識配列を設計できる。
【0065】
ある実施態様において、機械は、健常な細胞の1以上の試料および異常細胞の1以上の試料を受け取り、異常細胞の種々の世代を代表する、異常なDNAのセグメントを示す可能性が高い、部位の同定を保証できる。
【0066】
既存のがん処置を改善するため、および、がんのみに高い特異性を有する安全なベクターを可能にするため、本発明は、データがそれぞれの物質の種類を示す可能性を考慮して、安全性のレベルおよび特異性を向上するように、がん物質および非がん物質を考慮するいくつかのデータ試料を集めることができるシステムを提供する。
【0067】
構成およびコンピュータの手段のために、システムは、特異性の高いがん処置を可能とし、これは、患者の健常細胞の特定および、患者のがん細胞の構成を考慮する。
【0068】
本発明のある実施態様において、コンピュータの手段は、少なくともゲノムデータを含むデジタルな文書を読み取り、少なくともゲノムデータを含むデジタルな文書を作成するように構成される。
【0069】
本システムのコンピュータの手段および、患者のデータを受け取り、解釈する能力のために、デバイスは、標的とする、遺伝子操作の処置の設計において、個体の実際のがんの特定のゲノムを考慮する、がん処置を可能とする。
【0070】
別の実施態様において、コンピュータシステムは、個々の患者のゲノムに基づいて、処置ベクターおよびその設計を決定する情報を、それ自身が生成するように構成される。これは単に、コンピュータに、認識分子およびエフェクター分子をコードする配列を挿入できる、1以上の発現ベクターにおける配列情報を、あらかじめプログラムする必要がある。場合により、コンピュータシステムを核酸シンセサイザーに連結でき、またはコンピュータシステムが合成の入力を核酸シンセサイザーに送達でき、これは本発明に有用な発現ベクターを作製できる。
【0071】
デバイスは、コンピュータが、患者に基づくデータおよび、がん細胞に損害を与えるのに最適な戦略を考慮した知見のデータベースと相互作用する、安全な手段を促進する。
【0072】
ある実施態様において、データベースは、ヒトに普遍的であることが公知な遺伝子部位およびその遺伝子産物の下部の情報ならびにそれらについての情報を含む。
【0073】
特許請求の範囲から明らかなように、現在記述されているコンピュータシステムおよび関連する方法は、がんの治療または治癒を与える方法に有用であり、前記方法は、所定の反応パターンにおいて、患者の物質または、前記物質由来のデータと相互作用することを含み、
治療用の遺伝子操作された生体物質の設計を与え、またはこの生体物質を合成し、
以下で構成されるコンピュータの手法に基づいて、所定の反応パターンに従う;
同一の患者、そのゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、遺伝子発現、メタボロームおよびエピゲノムから採取した、非がん物質およびがん物質両方から取り出した、試料の生物学的状態または、試料由来のデータの入力を受け取ること、
生体物質の設計および/または配列におけるデータを作成すること、および/または、採取した患者のデータに基づいて、がん物質の生物学的状態に損害を与え、非がん物質に損害を与えないように構成された、所定のパターンに基づいて、生体物質を合成すること。
【0074】
上記の段落から明らかなように、これらの方法はさらに、上記で言及したシステムの1以上の態様を利用してもよい。
【0075】
したがって、本発明の好ましい実施態様を詳細に説明したが、本発明の詳細な説明に例示されていない、多くの変更が、本明細書に具体化された本発明の概念および原理を変えることなく、なされ得ることが、理解され、当業者にとって明白である。好ましい実施態様を部分的にのみ取り入れた、多くの実施態様が、それらの部分について、本明細書に具体化された本発明の概念および原理を変えることなく、可能であることもまた、理解される。したがって、本実施態様は、あらゆる点において、例示的および/または説明的であり、限定的ではないと見なされるべきであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲において示され、全ての代替の実施態様および添付の特許請求の範囲の同等性の意味および範囲に入る、本明細書に示される実施態様への変化は、したがって、本明細書に包含される。
【実施例
【0076】
以下において、本発明の実施態様を、図に関連して、さらに詳細に説明する。図1は、計算の段階的な図を示す。
【0077】
実施例1
バイオインフォマティクスの概念実証実験
図1は、以下で詳細に与えられる、計算の段階的な図である。
コンピュータシステムにおける入力パラメータは、本実験における、健常な組織を示す細胞集団由来のDNA配列、および悪性組織を示す細胞集団のDNA配列である。以下のアルゴリズムを、ウイルス感染細胞および病原菌の細胞由来の入力パラメータと共に、与えてもよい。
シークエンシングデータは、ゲノム全体、部分的および/または大幅な(deep)DNAまたはRNAシークエンシングであり得る。
【0078】
第一に、健常細胞または標的細胞のPAM配列を、KMP(クヌース-モリス-プラット)文字列検索法を用いて、同定する。本実験のPAM配列は、CRISPR-Cas9の将来の使用を示し、したがって、5’-NGG-3’であった。所望の相補的な認識分子(例えば、CRISPR RNA)の長さを有するDNAヌクレオチドを前後に含む、PAM配列を、後の比較において、表の形式で保存する。BioPythonオープンソースプロジェクトで作製したカスタムアルゴリズムおよび、AWS1000ゲノムプロジェクトのデータベース(ref|NW_004929308.1)で見出された、同一の個体からの、健常なゲノムおよびがんのゲノム由来の染色体2の試料を用いて、試行を行った。
【0079】
その後、染色体2の試料の配列を、自身のそれぞれのセット(またはバッグ)のデータ構造に、挿入した。セットは、より生じている配列を無視しないように、値の重複が可能であり、部分的な適合分析が実行できる。セットのデータ構造を、より大きなDNA配列において重要な、その一定の実行時間O(1)において、用いる。
【0080】
第3の工程として、2つのそれぞれのセットを、引き算(または差)の演算で、第3の結果のセットとして計算する。差の演算は、標的とされるがん細胞に特有で、健常細胞には存在しない、相補的な認識分子の組をもたらす。重複部分を含む、2億3千万個のヌクレオチドで行った実験において、8百万個の潜在的な標的が、標的配列の様々な位置に生じているPAMを伴って、同定された。
【0081】
次いで、さらなる分析を、がん細胞または健常細胞に特有な、得られた配列の組について、必要に応じて、それらの特有性の順位付け、エクソームの一部に対応することが知られている配列内の標的に相関する標的配列の順位付け、それらの予測活性スコアラーに基づく(例えば、SgRNAスコアラー1.0を介する)標的の順位付け、(例えばLNAの設計における)それらの有用性に基づいて、さらに最適化された標的の順位付け、特異的なベクター(例えば、認識分子およびエフェクター分子の細胞における存在を与え得る、アデノ随伴ウイルスまたは別の形式のベクター)に発現する、それらの実行可能性に基づく順位付けなどにおいて、行ってもよい。
図1