IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-組成物及びその製造方法 図1
  • 特許-組成物及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20241212BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20241212BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20241212BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20241212BHJP
   C08F 255/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/16
C08L51/06
C08L53/00
C08F255/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020128641
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025680
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】寺島 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】八木 梓
(72)【発明者】
【氏名】吉田 準
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100706(JP,A)
【文献】特開平05-078549(JP,A)
【文献】特開平08-020690(JP,A)
【文献】特開2018-027994(JP,A)
【文献】特開平04-136052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F255/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂(A)50~90wt%、オレフィン系樹脂(B)5~25wt%、芳香族ビニル系樹脂(C) 5~25wt%を含み、
前記ポリプロピレン系樹脂からなる連続相aと、
連続相a内に分散された前記オレフィン系樹脂を含む分散相bと、
前記芳香族ビニル系樹脂からなる分散相cを有し、
分散相cが連続相a内、もしくは、分散相cが分散相b内、もしくは分散相cが連続相a及び分散相bの界面に存在し、
透過型電子顕微鏡で観察される相分離構造において、分散相cの平均円相当径が50nm以上1μm以下、分散相cの平均重心間距離が300nm以上1500nm以下であり、
前記芳香族ビニル系樹脂はグラフト共重合体を含み、
前記グラフト共重合体の主鎖がエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を含み、
オレフィンモノマーの炭素数は3~12であり、
前記グラフト共重合体の主鎖の組成がオレフィン含量3~50mol%、芳香族ポリエン含量0.1~1mol%、残部がエチレン含量であり、
前記グラフト共重合体の前記主鎖の質量平均分子量が5~10万であり、
前記グラフト共重合体の側鎖が芳香族ビニル化合物を含み、
前記グラフト共重合体の側鎖の質量平均分子量が0.5~5万である組成物。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)及びオレフィン系樹脂(B)はα-オレフィン-プロピレン共重合体を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
JIS K6251に準拠し、引張速度50mm/minにて測定した引張弾性率が700~1100MPa、破断伸びが90~300%、破断強度が10~18MPaであり、
JIS K7111-1に準拠し、ノッチ付きで測定した23℃でのシャルピー衝撃強度が5~25kJ/m2である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
シングルサイト配位重合触媒を用いて、エチレンモノマー、オレフィンモノマー及び芳香族ポリエンからエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を合成する配位重合工程と、
芳香族ビニル化合物モノマー及びアニオン重合開始剤又はラジカル重合開始剤を用いて、前記エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物重合体を含むグラフト共重合体を合成するグラフト化工程と、を有するグラフト共重合体の製造方法により製造された前記グラフト共重合体を含む芳香族ビニル系樹脂(C)とポリプロピレン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)を混練する混練工程を有する組成物の製造方法であって、前記組成物は、
ポリプロピレン系樹脂(A)50~90wt%、オレフィン系樹脂(B)5~25wt%、芳香族ビニル系樹脂(C) 5~25wt%を含み、
前記ポリプロピレン系樹脂からなる連続相aと、
連続相a内に分散された前記オレフィン系樹脂を含む分散相bと、
前記芳香族ビニル系樹脂からなる分散相cを有し、
分散相cが連続相a内、もしくは、分散相cが分散相b内、もしくは分散相cが連続相a及び分散相bの界面に存在し、
透過型電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、分散相cの平均円相当径が50nm以上1μm以下、分散相cの平均重心間距離が300nm以上1500nm以下であり、
前記グラフト共重合体は、配位重合工程の溶液中で合成され、
前記グラフト共重合体の主鎖がエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を含み、
オレフィンモノマーの炭素数は3~12であり、
前記グラフト共重合体の主鎖の組成がオレフィン含量3~50mol%、芳香族ポリエン含量0.1~1mol%、残部がエチレン含量であり、
前記グラフト共重合体の前記主鎖の質量平均分子量が5~10万であり、
前記グラフト共重合体の側鎖が芳香族ビニル化合物を含み、
前記グラフト共重合体の側鎖の質量平均分子量が0.5~5万である、
組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂(A)及びオレフィン系樹脂(B)はα-オレフィン-プロピレン共重合体を含む請求項に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂の物性向上を目的として、性質の異なる樹脂同士を混合して樹脂の特性を改質するポリマーブレンド及びポリマーアロイが検討されている。ポリプロピレン系樹脂組成物は、機械部品や自動車部品等広範に使用されており、近年、経済性の追求から生産性に優れ、常温・低温の耐衝撃性、剛性、引っ張り・曲げ弾性率に優れるポリプロピレン系樹脂組成物が要望されている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂の耐衝撃性改善のためには、SEPSやSEBS等の水添ブロック共重合体が添加されている。水添ブロック共重合体は、スチレンと、ブタジエンやイソプレン等のジエンとを原料とし、アニオンリビング重合と引き続く水素化処理により製造されている。しかしながら、原料のジエンはしばしば市況が大きく変化し、イソプレンは供給会社が限定されてしまう。更にポリブタジエン鎖やポリイソプレン鎖には二重結合が含まれ、そのままでは耐久性、耐熱性が不足するため、水素化する必要があるが、水素化する工程は水添ブロック共重合体のコストアップの原因となる。
【0004】
一方で、オレフィンに対する重合活性の高いシングルサイト配位重合触媒を活用することで、水素化工程を経ずにビニルベンゼン含有オレフィン系共重合体を合成し、次にこの共重合体を用いて、スチレン等のビニル化合物の重合を行い、共重合体中のジビニルベンゼンユニットを共重合してポリオレフィン鎖及びビニル化合物ポリマー鎖の両ブロック鎖を分子構造中に有するクロス共重合体を製造する技術が開示されている(特許文献1、2、3)
【文献】WO2000/037517号公報
【文献】WO2007/139116号公報
【文献】US6414102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記クロス共重合体は架橋体成分であるためにPP(ポリプロピレン)との相容性が低く、PP中での分散性が小さい。PP改質剤として適用するには、改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、下記より構成される。
本発明の一態様は、
ポリプロピレン系樹脂(A)50~90wt%、オレフィン系樹脂(B)5~25wt%、芳香族ビニル系樹脂(C) 5~25wt%を含み、
上記ポリプロピレン系樹脂からなる連続相aと、
連続相a内に分散された上記オレフィン系樹脂を含む分散相bと、
上記芳香族ビニル系樹脂からなる分散相cを有し、
分散相cが連続相a内、もしくは、分散相cが分散相b内、もしくは分散相cが連続相a及び分散相bの界面に存在し、
透過型電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、分散相cの平均円相当径が50nm以上1μm以下、分散相cの平均重心間距離が300nm以上1500nm以下である組成物
である。
【0007】
上記芳香族ビニル系樹脂はグラフト共重合体を含んでいてもよい。上記ポリプロピレン系樹脂(A)及びオレフィン系樹脂(B)はα-オレフィン-プロピレン共重合体を含んでいてもよい。上記グラフト共重合体の主鎖はエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を含んでいてもよい。オレフィンモノマーの炭素数は3~12であってもよい。上記グラフト共重合体の主鎖の組成はオレフィン(ただし、エチレンを含まない)含量3~50mol%、芳香族ポリエン含量0.1~1mol%、残部がエチレン含量であってもよい。上記グラフト共重合体の上記主鎖の質量平均分子量は5~10万であってもよい。上記グラフト共重合体の側鎖は芳香族ビニル化合物を含んでいてもよい。上記グラフト共重合体の側鎖の質量平均分子量は0.5~5万であってもよい。上記組成物は、JIS K6251に準拠し、引張速度50mm/minにて測定した引張弾性率が700~1100MPa、破断伸びが90~300%、破断強度が10~18MPaであってもよい。上記組成物は、JIS K7111-1に準拠し、ノッチ付きで測定した23℃でのシャルピー衝撃強度が5~25kJ/m2であってもよい。
【0008】
また、本発明の別の態様は、
シングルサイト配位重合触媒を用いて、エチレンモノマー、オレフィンモノマー及び芳香族ポリエンからエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を合成する配位重合工程と、
芳香族ビニル化合物モノマー及びアニオン重合開始剤又はラジカル重合開始剤を用いて、上記エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物重合体を含むグラフト共重合体を合成するグラフト化工程と、を有し、
上記グラフト共重合体は、配位重合工程の溶液中で合成されることを特徴とするグラフト共重合体の製造方法
である。
【0009】
上記製造方法により製造された上記グラフト共重合体を含む芳香族ビニル系樹脂(C)とポリプロピレン系樹脂(A)とオレフィン系樹脂(B)を混練する混練工程を有することを特徴とする、組成物の製造方法であって、上記組成物は、
ポリプロピレン系樹脂(A)50~90wt%、オレフィン系樹脂(B)5~25wt%、芳香族ビニル系樹脂(C) 5~25wt%を含み、
上記ポリプロピレン系樹脂からなる連続相aと、
連続相a内に分散された上記オレフィン系樹脂を含む分散相bと、
上記芳香族ビニル系樹脂からなる分散相cを有し、
分散相cが連続相a内、もしくは、分散相cが分散相b内、もしくは分散相cが連続相a及び分散相bの界面に存在し、
透過型電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、分散相cの平均円相当径が50nm以上1μm以下、分散相cの平均重心間距離が300nm以上1500nm以下であることを特徴とする、組成物の製造方法
であってもよい。上記ポリプロピレン系樹脂(A)及びオレフィン系樹脂(B)はα-オレフィン-プロピレン共重合体を含んでいてもよい。
【0010】
また、本発明の別の態様は、上記組成物を含む樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、優れた引張特性、耐衝撃性、及び分散性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態にかかる組成物における、透過型電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造の模式図を示している。aは、ポリプロピレンからなる連続相を示し、bは、オレフィン系樹脂を含む分散相を示し、cは、芳香族ビニル系樹脂からなる分散相を示す。分散相cは、連続相a内に存在する分散相c1と、分散相b内に存在する分散相c2と、連続相a及び分散相bの界面に存在する分散相c3を含む。
図2図2A及び2Bは、本実施形態にかかる組成物の透過型電子顕微鏡写真である。aは、ポリプロピレンからなる連続相を示し、bは、オレフィン系樹脂を含む分散相を示し、cは、芳香族ビニル系樹脂からなる分散相を示す。c1は、連続相a内に存在する分散相cを、c2は、分散相b内に存在する分散相cを、c3は、連続相a及び分散相bの界面に存在する分散相cを示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本明細書において、「~」という記号は、両端の値「以上」及び「以下」の範囲を意味する。例えば、「A~B」というのは、A以上でありB以下であるという意味である。
【0014】
<グラフト共重合体>
本発明の芳香族ビニル系樹脂(C)は、グラフト共重合体を含むことが好ましい。
本発明のグラフト共重合体とは、シングルサイト配位重合触媒を用いてエチレンモノマー、オレフィンモノマー及び芳香族ポリエンの共重合を行いエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を合成する配位重合工程と、芳香族ビニル化合物モノマー及びアニオン重合開始剤又はラジカル重合開始剤を用いて、上記エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物重合体を含むグラフト共重合体を合成するグラフト化工程と、を有し、上記グラフト共重合体は、配位重合工程の溶液中で合成されることを特徴とするグラフト共重合体の製造方法で得られる共重合体である。
【0015】
グラフト共重合体において、オレフィンモノマー(エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体中の、オレフィンモノマーに由来する単量体単位。ただし、オレフィンモノマーはエチレンを含まない)は好ましくは炭素数3~12のオレフィンモノマーであり、例えば、αオレフィン、ノルボルネンやビニルシクロヘキサン等の環状オレフィンである。用いられるオレフィンモノマーは1種でも複数でも良い。好ましくは炭素数4~12のαオレフィンであり、1-ブテン、1-ヘキセン及び1-オクテンから選ばれる1種以上である。最も好ましくは、1-ヘキセン及び/又は1-オクテンである。1-ヘキセン及び/又は1-オクテンが過半を占める複数のオレフィンモノマーも最も好ましい。
【0016】
グラフト共重合体において、芳香族ポリエンは、特に限定されずに、従来公知の芳香族ポリエンが使用可能である。芳香族ポリエンは、好ましくは、重合反応促進の点及び得られる重合体の種々の物性の点で、10~30の炭素数を持ち、複数の二重結合(例えば、ビニル基が好ましい)と単数又は複数の芳香族基を有し、配位重合可能な芳香族ポリエンであり、より好ましくは二重結合(例えば、ビニル基が好ましい)の1つが配位重合に用いられて重合した状態において残された二重結合がアニオン重合可能又はラジカル重合可能な芳香族ポリエンであり、更に好ましくは、ジビニルベンゼンである。ジビニルベンゼンとしては、オルトジビニルベンゼン、パラジビニルベンゼン及びメタジビニルベンゼンから選ばれる1種以上が好ましい。
【0017】
グラフト共重合体において、芳香族ビニル化合物モノマーとしては、スチレン及び各種の置換スチレン、例えば、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロスチレン等が挙げられる。これらの中では、スチレン、p-メチルスチレン及びp-クロロスチレンから選ばれる1種以上が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0018】
以下、本発明の組成物に用いられるグラフト共重合体の製造方法の詳細を説明する。本配位重合工程におけるエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体の組成は、所定の重合条件下、触媒の選択又は重合液中のモノマー濃度により制御できる。重合液中のモノマー濃度は一般に、エチレンガスの分圧やオレフィンモノマーの分圧、又は、重合缶への計量されたモノマーの導入により制御できる。エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体の分子量や分子量分布は、一般的には触媒の選択又は重合温度、或いは、適当な連鎖移動剤の添加により制御できる。
【0019】
配位重合工程に用いられるシングルサイト配位重合触媒は、遷移金属化合物と助触媒から構成される。本発明には公知のシングルサイト配位重合触媒を用いることができる。シングルサイト配位重合触媒、特に遷移金属化合物は単独で用いても複数を用いても良い。例えば、WO2000/037517号公報、WO2007/139116号公報に記載のシングルサイト配位重合触媒や、広栄化学社製のrac-エチレンビス(インデニル)ジルコニウム(IV)ジクロリドを用いることが出来る。
【0020】
上記遷移金属化合物と共に用いる助触媒としては、特に限定されず、従来公知の遷移金属化合物と組み合わせて用いられている公知の助触媒を使用できる。そのような助触媒として、重合反応に対する高活性の点で、メチルアルミノキサン(以下、メチルアルモキサン又はMAOと記すこともある)等のアルモキサン及び/又は硼素化合物が好ましい。助触媒としては、特開平11-130808号公報、特開平9-309925号公報、WO2000/020426号公報、特開2000-143733号公報、特開平6-184179号公報に記載されている助触媒やアルキルアルミニウム化合物が挙げられる。アルモキサン等の助触媒は、遷移金属化合物の金属に対し、アルミニウム原子/遷移金属原子のモル比が0.1~100000であることが好ましく、10~10000であることがより好ましい。0.1以上だと有効に遷移金属化合物を活性化でき、100000以下だと助触媒の使用量を抑制できるので経済的に有利となる。
【0021】
一方、助触媒として硼素化合物を用いる場合には、硼素原子/遷移金属原子の比はモル比で0.01~100が好ましく、0.1~10がより好ましく、1.0が最も好ましい。0.01以上だと有効に遷移金属化合物を活性化でき、100以下だと助触媒の添加量を抑制できるので経済的に有利となる。尚、助触媒としてどのような材料を使う場合であっても、遷移金属化合物と助触媒は、重合設備外で混合、調製してもよく、重合時に設備内で混合してもよい。
【0022】
グラフト共重合体製造の配位重合工程でエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を製造するにあたっては、上記に例示した各モノマー、遷移金属化合物及び助触媒を接触させるが、接触の順番、接触方法は任意の公知の方法を用いることができる。
【0023】
これらの共重合の方法としては、溶媒を用いずに液状モノマー中で重合させる方法、或いは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロ置換ベンゼン、クロロ置換トルエン、塩化メチレン、クロロホルム等といった、飽和脂肪族、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素の単独溶媒又は混合溶媒を用いる方法が挙げられる。これらの中では、アルカン系溶媒、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼンから選ばれる1種以上が好ましい。重合形態は溶液重合、スラリ-重合何れでもよい。必要に応じ、バッチ重合、連続重合、予備重合、多段式重合等の公知の方法を用いることができる。
【0024】
単数のタンク式重合缶、連結された複数のタンク式重合缶、リニアやル-プを単数又は複数連結されたパイプ重合設備を用いることも可能である。パイプ状の重合缶は、動的或いは静的な混合機や除熱を兼ねた静的混合機等といった各種混合機、除熱用の細管を備えた冷却器等といった各種冷却器を有してもよい。パイプ状の重合缶は、バッチタイプの予備重合缶を有していてもよい。重合温度は、-78~200℃が好ましく、0~160℃がより好ましく、30~160℃が最も好ましい。-78℃以上だと工業的に有利になり、200℃以下だと遷移金属化合物の分解が起こらない。重合時の圧力は、0.1~100気圧が好ましく、0.1~30気圧がより好ましく、0.1~1気圧が最も好ましい。
【0025】
本発明の製造方法のグラフト化工程では、芳香族ビニル化合物モノマー及びアニオン重合開始剤又はラジカル重合開始剤を用いて、エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物重合体を含むグラフト共重合体を合成する。ここで、エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体は、配位重合工程で得られた共重合体である。
このグラフト化工程で用いる重合開始剤(例えば、アニオン重合開始剤やラジカル重合開始剤)の使用量は、モノマー(例えば、スチレンモノマー)100質量部に対して、0.001~5質量部が好ましい。
【0026】
本発明のグラフト化工程は、上記の配位重合工程の後に実施される。この際、配位重合工程で得られる共重合体を、クラムフォーミング法、スチームストリッピング法、脱揮槽、脱揮押出し機等を用いた直接脱溶媒法等といった、任意のポリマー回収法を用いて、重合液から分離、精製してグラフト化工程に用いることが好ましい。しかしながら、配位重合後の重合液から、残留オレフィンを放圧後、或いは、放圧せずに、次の工程に用いるのが、経済的には好ましい。配位重合工程で得られた共重合体を重合液から分離せずに、配位重合工程で得られた共重合体を含んだ重合液をグラフト化工程に使用できることが本発明の特徴の1つである。
【0027】
グラフト化工程においてアニオン重合開始剤を用いる場合、即ち、アニオン重合を行う場合の溶媒は、アニオン重合の際に連鎖移動等の不都合を生じない混合アルカン系溶媒、例えば、シクロヘキサン、ベンゼン等の溶媒が好ましいが、重合温度が150℃以下であれば、トルエン、エチルベンゼン等の他の溶媒も用いることが可能である。重合形態は、アニオン重合に用いられる任意の公知の方法を用いることができる。グラフト化工程は、エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体にアニオン重合開始剤を添加し、芳香族ビニル化合物モノマーを添加するグラフトフロム法、または芳香族ビニル化合物モノマーとアニオン重合開始剤の混合物にエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体を添加するグラフトトゥー法のいずれの方法でもよい。
【0028】
本発明のグラフト化工程には、公知のアニオン重合開始剤を用いることができる。これらの中では、ビフェニル、ナフタレン、ピレン等のリチウム塩或いはナトリウム塩、アルキルリチウム化合物から選ばれる1種以上が好ましく、アルキルリチウム化合物が最も好ましい。アルキルリチウム化合物の中では、sec-ブチルリチウム、n(ノルマル)-ブチルリチウムから選ばれる1種以上が好ましい。又、多官能性開始剤、ジリチウム化合物、トリリチウム化合物を用いてもよい。更に必要に応じて公知のアニオン重合末端カップリング剤を用いてもよい。
【0029】
グラフト化工程においてラジカル重合開始剤を用いる場合、即ち、ラジカル重合を行う場合の条件としては、WO2000/037517号公報に記載している方法が採用される。
本発明のグラフト化工程の実施にあたっては、重合速度が大きいので、短時間に高いモノマー転換率が得られ、実質的に100%の転換率が容易に得られる点で、アニオン重合が好ましい。
【0030】
以下本発明で用いられるグラフト共重合体について説明する。本グラフト共重合体は、グラフト共重合体の主鎖であるエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体鎖とグラフト共重合体の側鎖である芳香族ビニル化合物重合体鎖を有する共重合体である。本グラフト共重合体は、エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエンユニットに結合している構造を有する重合体である。エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエンユニットに結合していることは、以下の観察可能な現象で証明できる。ここでは代表的なエチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖がジビニルベンゼンユニットに結合している例について示す。即ち配位重合工程で得られたエチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体と、本共重合体とスチレンモノマーの存在下でのアニオン重合を経て得られるグラフト共重合体のH-NMR(プロトンNMR)を測定し、両者のジビニルベンゼンユニットのビニル基水素(プロトン)のピーク強度を適当な内部標準ピーク(エチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体に由来する適当なピーク)を用いて比較する。ここで、グラフト共重合体のジビニルベンゼンユニットのビニル基水素(プロトン)のピーク強度(面積)が、エチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体のジビニルベンゼンユニットの同ピーク強度(面積)と比較して50%未満、好ましくは20%未満である。アニオン重合(グラフト化工程)の際、グラフトトゥー法の場合は、予めアニオン重合にて重合したポリスチレンがジビニルベンゼンに共重合する。アニオン重合(グラフト化工程)の際、グラフトフロム法の場合は、ジビニルベンゼンのビニル基をリチオ化させ、スチレンモノマーを添加することでポリスチレンが共重合する。従って、アニオン重合後のグラフト共重合体ではジビニルベンゼンユニットのビニル基の水素(プロトン)のピーク強度は大きく減少する。実際にはジビニルベンゼンユニットのビニル基の水素(プロトン)のピークはアニオン重合後のグラフト共重合体では実質的に消失している。
【0031】
別な観点から、本グラフト共重合体において、エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエンユニットに結合している(一例としてエチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖がジビニルベンゼンユニットに結合している)ことは、以下の観察可能な現象で証明できる。即ち本グラフト共重合体に対し、適当な良溶媒と貧溶媒を使用し溶媒分別を行っても、含まれるエチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖をそれぞれのホモポリマーとして分別することができない。一例を以下に示す。大型容器にアセトン400mlと攪拌子を入れ、マグネチックスターラー上で氷浴しつつ攪拌した。別容器にトルエンを40ml、グラフト共重合体を4g加えて加熱攪拌し完全に溶解させた。溶解後、シリンジで加熱した溶液を吸い上げ、攪拌されているアセトン中にゆっくり滴下した。滴下終了後、析出したポリマー入りのアセトン懸濁液を減圧濾過し、フィルターに残ったアセトン不溶ポリマーを自然乾燥後60℃で一晩真空乾燥し、アセトン不溶分を得た。
濾液はエバポレーター用ナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターで溶媒を減圧除去し、10ml程度の濃縮液を取り出した。ナスフラスコは少量のアセトンで数回洗浄し、洗浄液は濃縮液に加えた。これを約1Lの激しく攪拌したメタノール中に投入し、アセトン可溶ポリマーを析出させ、減圧濾過し、フィルター上のポリマーは自然乾燥後60℃で一晩真空乾燥した。
アセトン可溶ポリマーは、比較的少量(使用したグラフト共重合体に対し数質量%~20質量%程度)であり、H-NMR測定によりポリスチレンホモポリマーであることが確認できる。実施例では、アセトン可溶ポリマーの質量平均分子量を、側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体の質量平均分子量として推定する。
一方、アセトン不溶分は大部分(半分以上)を占め、アセトン不溶ポリマーのH-NMRを測定すると、エチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖を共に観測することができ、含まれるエチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖をそれぞれのホモポリマーとして分別できないことが示される。
完全に溶媒分別されていることの検証のため以下の操作を行った。上記アセトン不溶ポリマーを用い、再度上記手順で溶媒分別を行い、アセトン不溶ポリマーを回収し、そのH-NMR測定を行った。得られたその組成(エチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体鎖とポリスチレン鎖の組成)に実質的に変化がないことが確認できる。実際には1回の溶媒分別で実質的に溶媒分別は完了している。
【0032】
以上から本発明に用いられるグラフト共重合体は、エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖を有する共重合体である。本発明に用いられるグラフト共重合体は、エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体鎖と芳香族ビニル化合物重合体鎖が芳香族ポリエンユニットに結合している構造を有する共重合体である。さらに好ましくは以下の(1)~(3)のいずれか又はそれらの組み合わせを特徴とする共重合体である。
(1)配位重合工程で得られるエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体の組成がオレフィン含量3~50mol%(例えば、3、5、10、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40及び50mol%からなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)、芳香族ポリエン含量0.1~1mol%(例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9及び1.0mol%からなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)、残部がエチレン含量であること。
(2)配位重合工程で得られるエチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体の質量平均分子量(Mw)が5万~10万(例えば、5万、6万、6.5万、6.6万、6.7万、6.8万、6.9万、7.0万、7.1万、7.2万、7.3万、7.4万、7.5万、7.6万、7.7万、7.8万、7.9万、8.0万、9万及び10万からなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)であること。エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が最も好ましい。エチレン-オレフィン-芳香族ポリエン共重合体の分子量分布は1.8以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。
(3)側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体の質量平均分子量(Mw)が0.5万~5万(例えば、0.5万、1.0万、2万、2.5万、2.6万、2.7万、2.8万、2.9万、3.0万、3.1万、3.2万、3.3万、3.4万、3.5万、3.7万、3.8万、3.9万、4.0万及び5万からなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)であること。側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体の分子量分布(Mw/Mn)は6以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下が最も好ましい。側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体の分子量分布は1.0以上が好ましい。側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体の質量平均分子量や分子量分布は、グラフト化されなかったホモポリマーの分子量から推定する。側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体の質量平均分子量は、グラフト化されなかったホモポリマーの質量平均分子量や分子量分布として良い。
また、グラフト共重合体中、側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体含量は、5~60wt%(以下、wt%を質量%ということもある)(例えば、5、7、9、10、15、20、25、30、40、45、50、55及び60wt%からなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)である。
【0033】
<組成物>
本グラフト共重合体は、ポリプロピレン系樹脂及びオレフィン系樹脂との相容性が良好であり、透過型電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、グラフト共重合体の分散相c、即ち、芳香族ビニル系樹脂からなる分散相cにおいて、平均円相当径が50nm~1μm(例えば、50、60、70、80、90、100、110、120、150、200、300、310、320、400、600、800及び1000nmからなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)であり、平均重心間距離が300nm以上1500nm以下(例えば、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400及び1500nmからなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)である組成物が引張特性及び耐衝撃性に優れている。
平均円相当径とは、観察された分散相cの面積に相当する円の直径の平均値をいう。平均重心間距離とは、隣り合う分散相cの重心同士の最短距離の平均値をいう。
グラフト共重合体の分散相の平均円相当径が50nmよりも小さい又は1μmよりも大きい場合、グラフト共重合体の分散相周りのマトリックスに脆性延性転移が誘起されず、実用的な衝撃強度が得られない。また、グラフト共重合体の分散相の平均重心間距離が300nmよりも小さい又は1500nmよりも大きい場合は分散不良であり、安定的に衝撃強度が得られない。
【0034】
グラフト共重合体の分散相は、RuO4の蒸気で染色できる。電子顕微鏡写真のうち、濃く染色された部分がグラフト共重合体のスチレンドメイン(グラフト共重合体の分散相)である。図1は、透過型電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造の模式図を示している。aは、ポリプロピレンからなる連続相を示し、bは、オレフィン系樹脂を含む分散相(灰色)を示し、cは、芳香族ビニル系樹脂からなる分散相(黒色;染色された部分とも称する)を示す。分散相cは、連続相a内に存在する分散相c1と、分散相b内に存在する分散相c2と、連続相a及び分散相bの界面に存在する分散相c3を含む。この濃く染色された部分の円相当径及び重心間距離は、画像解析ソフトWinROOF2018(三谷商事株式会社製)を用いて計測できる。円相当径及び重心間距離の平均値は、視野の異なる複数枚(例えば、4枚)の写真から算出できる。
【0035】
<ポリプロピレン系樹脂及びオレフィン系樹脂>
ポリプロピレン系樹脂とはプロピレンを主体とする重合体である。好ましくはホモポリプロピレン(プロピレン単独共重合体。以下、ホモPPということもある)、ブロックポリプロピレン(以下、ブロックPPということもある)、ランダムポリプロピレン或いはこれらの混合物である。ブロックPP、ランダムポリプロピレンとしては、後述するα-オレフィン-プロピレン共重合体等が挙げられる。組成物の剛性、耐衝撃性の点で、ホモPP及びブロックPPからなる群の1種以上が好ましい。ホモポリプロピレンやブロックポリプロピレンについては、例えば、特開平11-29690号公報、特開平11-29669号公報に記載してあるものも好適に使用できる。
オレフィン系樹脂とは炭素数2~20のオレフィンモノマー主体とする重合体であることが好ましい。オレフィン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂や芳香族ビニル系樹脂を含まない。好ましくはポリエチレン、ポリイソブテン、ポリブテン、ポリノルボルネン等の環状オレフィン重合体、エチレン-ノルボルネン共重合体等の環状オレフィン共重合体が挙げられる。必要に応じてブタジエンやα-ωジエン等のジエン類を共重合したオレフィン系樹脂を使用してもよい。これらの中では、ポリエチレンが好ましい。
本実施形態では、ポリプロピレン系樹脂及びオレフィン系樹脂を含む樹脂として、α-オレフィン-プロピレン共重合体を用いることが好ましい。α-オレフィンは、プロピレンを除くものである。α-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、1-オクテン等が挙げられる。これらは、1種以上をプロピレンと共重合してもよい。α-オレフィンの中では、耐衝撃性の点で、エチレンが好ましい。
α-オレフィン-プロピレン共重合体としては、ブロック共重合体が好ましい。
α-オレフィン-プロピレン共重合体は、プロピレン単位を好ましくは75~99.5質量%、より好ましくは80~90質量%含む。α-オレフィン-プロピレン共重合体は、α-オレフィン単位を好ましくは0.5~25質量%、より好ましくは10~20質量%含む。α-オレフィン単位が0.5質量%以上だと耐衝撃性の向上する。α-オレフィン単位が25質量%以下だと剛性等が向上する。
実施例においては、ポリプロピレン系樹脂及びオレフィン系樹脂として以下の市販品を用いた。ノバテックPP BC03B(日本ポリプロ社製 MFR:30g/10min、エチレンープロピレンブロック共重合体)。
ポリプロピレン系樹脂及びオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、5~70g/10minが好ましく、10~40g/10minがより好ましい。MFRが5g/10min以上であれば、加工性が向上する。MFRが70g/10min以下であれば、衝撃強度が向上する。
MFRは、JIS K7210:1999のA法に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定することが好ましい。
本実施形態は、ポリプロピレン系樹脂(A)50~90wt%、オレフィン系樹脂(B)5~25wt%、芳香族ビニル系樹脂(C) 5~25wt%を含みことが好ましい。ポリプロピレン系樹脂(A)、オレフィン系樹脂(B)、芳香族ビニル系樹脂(C)の合計は100 wt%が好ましい。
【0036】
以下最終的に得られる本発明の組成物の引張特性、耐衝撃性、及び分散性の観点から上記の規定を説明する。本発明の組成物は、引張特性、耐衝撃性、及び分散性を有するため、熱可塑性エラストマーとして極めて有用である。具体的には本発明の組成物において、引張弾性率が700~1100MPa(例えば、700、750、800、840、850、870、900、920、950、1000、1050及び1100MPaからなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)、破断伸びが90~300%(例えば、90、100、120、150、200、220、250及び300%からなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)、破断強度が10~18MPa(例えば、10、11、12、13、14、15、16、17及び18MPaからなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)、23℃でのシャルピー衝撃強度が5~25kJ/m2(例えば、5、7、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、22、24及び25kJ/m2からなる群より選択される2つの任意の数値間の範囲内)である。
【0037】
本発明の組成物は、必要に応じて、その他の樹脂、エラストマー、ゴムを本発明の目的を阻害しない範囲で使用できる。又、一般的に樹脂組成物に添加される公知のフィラ-や安定剤、老化防止剤、耐光性向上剤、紫外線吸収剤、軟化剤、滑剤、加工助剤、着色剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、結晶核剤、発泡剤等を用いることができる。
【0038】
本発明の組成物を製造するには、公知の適当な混練法を用いることができる。例えば、単軸、二軸のスクリュー押出機、バンバリー型ミキサー、プラストミル、コニーダー、加熱ロール等で溶融混合を行うことができる。溶融混合を行う前に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、タンブラー等で各原料を均一に混合してもよい。溶融混練温度はとくに制限はないが、100~300℃が好ましく、150~250℃がより好ましい。
【0039】
本発明の組成物の成形法としては、真空成形、射出成形、ブロー成形、押出し成形等公知の成形法を用いることができる。
【0040】
本発明の組成物は、樹脂組成物であってもよい。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成も採用できる。
【0042】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0043】
[分析、評価方法]
実施例で得られた共重合体の分析は以下の手段によって実施した。
【0044】
H-NMRスペクトル)
共重合体中のオレフィン、芳香族ビニル化合物の各ユニット含量の決定は、H-NMRで行い、機器は日本電子社製α-500及びBRUCKER社製AC-250を用いた。重1,1,2,2-テトラクロロエタンに溶解し、室温で溶解する場合は室温で測定し、室温で溶解しない場合は80~100℃で測定した。公知の手法により、得られた各ユニット由来のピークの面積を比較して各ユニット含量や組成を求めた。グラフト化工程で得られる芳香族ビニル重合体の質量%も同様にして求めた。
【0045】
(ガスクロマトグラフィ分析)
樹脂中の芳香族ポリエンユニット(ジビニルベンゼンユニット)の含量は、ガスクロマトグラフィ分析により求めた重合液中の未反応ジビニルベンゼン量と重合に用いたジビニルベンゼン量の差から求めた。
【0046】
(分子量測定)
分子量は、高温GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。測定は以下の条件で行った。
装置:東ソー社製HLC-8121GPC/HT
カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT、φ7.8×300mm3本、カラム温度:140℃、検出器:RI(示差屈折率検出器)、溶媒:オルトジクロロベンゼン、送液流量:1.0ml/min、サンプル濃度:0.1wt/vol%、サンプル注入量:100μL
【0047】
(サンプルシ-ト作製)
物性評価用の試料は加熱プレス法(温度200℃、時間5分間、圧力50kg/cm)により成形した厚さ0.5mmのシートを用いた。
【0048】
(引張試験:引張弾性率、破断点伸び(破断伸び)、破断点強度(破断強度))
JIS K6251に準拠し、0.5mm厚さシートを2号1/2号型テストピース形状にカットし、島津製作所AGS-100D型引張試験機を用い、23±1℃の条件にて引張速度50mm/minにて測定した。
【0049】
(射出成型片の作製)
物性分析用の試験片は射出成形により成形した。JIS K7152-1に準拠した成形条件にて、JIS K7139多目的試験片タイプA1(h(厚さ)は4mm)に加工した。
【0050】
(23℃シャルピー衝撃強度)
JIS K7111-1に準拠し、ノッチ付きで測定した。
【0051】
(透過型電子顕微鏡)
RuO4の蒸気で一晩染色後、ダイヤモンドナイフにて切り出しを行い、観察した。図1は、透過型電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造の模式図を示している。aは、ポリプロピレンからなる連続相を示し、bは、オレフィン(特にエチレン)系樹脂を含む分散相(灰色)を示し、cは、芳香族ビニル系樹脂からなる分散相(黒色;染色された部分とも称する)を示す。分散相cは、連続相a内に存在する分散相c1と、分散相b内に存在する分散相c2と、連続相a及び分散相bの界面に存在する分散相c3を含む。この条件で得られた電子顕微鏡写真のうち、分散相cがグラフト共重合体のスチレンドメインである。この分散相cの円相当径及び重心間距離は、画像解析ソフトWinROOF2018を用いて計測し、視野の異なる4枚の写真からそれぞれの平均値を算出した。
【0052】
[実施例A](グラフト共重合体の製造)
触媒として下記の一般式(A)に記載の広栄化学社製のrac-エチレンビス(インデニル)ジルコニウム(IV)ジクロリドを用い、以下のように実施した。
【0053】
【化1】
【0054】
表1に示す重合条件において、攪拌機、加熱冷却用ジャケット付き10L重合缶を使用し、シクロヘキサン溶媒3.7kg、1-ヘキセンモノマー(表1の「オレフィン」、出光興産社製リニアレン6)1.05kg及びジビニルベンゼン(表1の「DVB」、日鉄ケミカルマテリアル製ジビニルベンゼン810)0.1kgを仕込み、内温40℃にて加熱攪拌した。乾燥窒素ガスを約100Lバブリングして系内及び重合液の水分をパージした。次いで、内温を60℃に昇温し、トリイソブチルアルミニウム(表1の「TIBA」)3mmolを加え、更にMAO(東ソーファインケム社製モデファイドMAO:MMAO)6mmolを加え、直ちにエチレンを導入した。エチレンを導入した重合缶圧力(表1の「エチレン」)が0.20MPaで安定した後に、オートクレーブ上に設置した触媒タンクから、MMAO6mmol、rac-エチレンビス(インデニル)ジルコニウム(IV)ジクロリド(表1の「触媒」)12μmolを含むトルエン溶液20mlからなる触媒液をオ-トクレーブ中に加えて配位重合工程を開始した。内温(表1の「温度」)を85℃、圧力は0.20MPaに維持しながら重合を実施した。エチレン積算流量(表1の「エチレン消費量」)が260Lになったところでエチレン供給を停止、圧力を開放し、サンプリングを行った。本サンプリング液より、配位重合工程で得られたポリマーの組成と分子量を求めた。
続いて、室温にてn-BuLi(n-ブチルリチウム、表1の「BuLi」)100mmol、THF (重合液全量に対して200ppm)を添加し、1時間反応させ、スチレンモノマー(表1の「スチレン」)2.0kgを加え、グラフト化反応(アニオン重合工程)を行うことでグラフト共重合体を合成した。得られた重合液を激しく撹拌させた大量のアセトン中に少量ずつ投入し、濾過し、アセトン不溶ポリマーをグラフト共重合体として回収した。このグラフト共重合体を真空乾燥機にて質量変化が認められなくなるまで乾燥した。濾液からはアセトン可溶ポリマーを析出させ、回収した。
【0055】
[実施例B、C、D]
実施例Aと同様の手順で、表1に示す重合条件で重合を実施した。
【0056】
【表1】
【0057】
[比較例A](クロス共重合体の製造)
触媒(表1の「触媒」)として、ジフェニルメチレン(フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド(下記の一般式(B)を参照)を使用した。ジフェニルメチレン(フルオレニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライドは、J.Am.Chem.Soc.,110,6255(1988)記載の製造方法を参考に、ジフェニルフルベンとシクロペンタジエン(ジシクロペンタジエン)及びフルオレンを配位子原料として合成した。
【0058】
【化2】
【0059】
表1に記載の重合条件において、実施例と同様に配位重合工程を経たのちに、スチレンモノマー0.1kgを加え、十分攪拌混合した後に、n-BuLi145mmolを添加し、65~70℃を維持しながらクロス化工程(アニオン重合工程)を行うことでクロス共重合体を合成した。得られた重合液を激しく攪拌した大量のメタノール中に少量ずつ投入し、濾過し、メタノール不溶ポリマーをクロス共重合体を回収した。このクロス共重合体を、室温で1昼夜風乾した後に80℃、真空中、質量変化が認められなくなるまで乾燥した。濾液からはメタノール可溶ポリマーを析出させ、回収した。
【0060】
[比較例B]
比較例Aと同様の手順で、表1に示す重合条件で重合を実施した。
【0061】
各実施例、比較例の配位重合工程で得られたエチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体、及びグラフト化工程、クロス化工程を経て得られたグラフト共重合体、クロス共重合体の分析結果を表2に示す。
表2の配位重合工程の項目において、配位重合工程で得られたエチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体の値は以下の通りである。オレフィン含量(表2の「αオレフィン含量」)は、エチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体中のオレフィン含量である。芳香族ポリエン含量(表2の「DVB含量」)は、エチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体中の芳香族ポリエン含量である。平均分子量(表2の「Mw」)は、エチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体の質量平均分子量である。分子量分布(表2の「Mw/Mn」)は、エチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体の分子量分布である。
表2のグラフト化工程(実施例A、B、C、D)におけるポリスチレン(PS)の値は以下の通りである。グラフト共重合体中、側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体含量(表2の「PS wt%」)は、グラフト共重合体中の含量である。平均分子量(表2の「PS Mw」)は、グラフト共重合体のうち、側鎖を構成するポリスチレンの質量平均分子量である。分子量分布(表2の「PS Mw/Mn」)は、グラフト共重合体のうち、側鎖を構成するポリスチレンの分子量分布である。ここで、アセトン可溶ポリマーの平均分子量や分子量分布を、グラフト共重合体のうち、側鎖を構成するポリスチレンの平均分子量や分子量分布とし、記載した。
表2のクロス化工程(比較例A、B)におけるポリスチレン(PS)の値は以下の通りである。クロス共重合体中、側鎖を構成する芳香族ビニル化合物重合体含量(表2の「PS wt%」)は、クロス共重合体中の含量である。平均分子量(表2の「PS Mw」)は、クロス共重合体のうち、側鎖を構成するポリスチレンの質量平均分子量である。分子量分布(表2の「PS Mw/Mn」)は、クロス共重合体のうち、側鎖を構成するポリスチレンの分子量分布である。ここで、メタノール可溶ポリマーの平均分子量や分子量分布を、クロス共重合体のうち、側鎖を構成するポリスチレンの平均分子量や分子量分布とし、記載した。
【0062】
【表2】
【0063】
(実施例1~4、比較例1~2)
以下のようにして、ポリプロピレン、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂を含有する組成物を得た。二軸押出機(池貝社製、PCM30)を使用し、実施例A~D、比較例A,Bで得られたグラフト共重合体又はクロス共重合体、及びブロックポリプロピレン(日本ポリプロ社製、ノバテックPP BC03B:ポリプロピレン84質量%及びエチレン16質量%の化合物、エチレンープロピレンブロック共重合体)をドライブレンドし、表3に示す配合にて、200℃で溶融混練した。
【0064】
比較例3として、本発明のグラフト共重合体の代わりに、市販のSEPS(クラレ社製、セプトン2004)、比較例4としてブロックポリプロピレン単体についても、実施例1~4、比較例1~2と同様に組成物を得た。SEPSは、ポリプロピレン系樹脂(A)ではなく、オレフィン系樹脂(B)ではなく、芳香族ビニル系樹脂(C)ではなく、グラフト共重合体ではない。
【0065】
実施例、比較例で得られた組成物の物性を表3に示す。図2は、実施例2の組成物の透過型電子顕微鏡写真(図2A)と実施例3の組成物の透過型電子顕微鏡写真(図2B)である。
【0066】
【表3】
【0067】
図2A及び2Bの通り、実施例で得られた組成物において、分散相c(c1)が連続相a内、もしくは、分散相c(c2)が分散相b内、もしくは分散相c(c3)が連続相a及び分散相bの界面に存在していた。
【0068】
本発明の組成物は、引張弾性率等の引張特性、耐衝撃性が良好であった。比較例1のクロス共重合体を用いた場合、分散不良であったため物性評価は行わなかった。比較例2のクロス共重合体は、破断点伸びが劣る結果となった。透過型電子顕微鏡で観察した結果、平均円相当径と平均重心間距離がグラフト共重合体と比較して大きく、クロス共重合体は高分子量体であるために分散性が低下したためと考えられる。比較例3と4は、円を形成しなかったため、平均円相当径、平均重心間距離を測定できなかった。
【0069】
本発明として最も好ましい条件、即ち配位重合工程で得られるエチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体の組成が、オレフィン含量20~35mol%、芳香族ポリエン含量0.1~1mol%、残部がエチレン含量であり、グラフト共重合体の主鎖であるエチレンーオレフィンー芳香族ポリエン共重合体の質量平均分子量(Mw)が5~10万、グラフト共重合体の側鎖のスチレン含量が20~45wt%である実施例B及びDのグラフト共重合体を用いた組成物(実施例2及び4)の力学特性は、引張弾性率が700~1100MPa、破断伸びが90~300%、破断強度が10~18MPa、23℃でのシャルピー衝撃強度が5~25kJ/m2の範囲を満たした。
【0070】
本発明の組成物は、グラフト共重合体、オレフィン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂との相容性がいいため、グラフト共重合体はポリプロピレン系樹脂及びオレフィン系樹脂中に微分散し、引張弾性率、耐衝撃性等の力学特性が向上する。
図1
図2