(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】モータ制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H02P27/06
(21)【出願番号】P 2020131539
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇佐川 順之
(72)【発明者】
【氏名】江角 尚史
(72)【発明者】
【氏名】清水 立郎
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-169258(JP,A)
【文献】特開2002-116802(JP,A)
【文献】特開平11-065668(JP,A)
【文献】特開2001-175303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリを有する半導体集積回路により構成され、モータに対する制御ループを形成して前記モータの駆動を制御するモータ制御装置と、
前記モータ制御装置に対して外部接続され、前記メモリにアクセス可能な外部デバッグ装置と、を備えたモータ制御システムであって、
前記制御ループに対する外乱信号を生成して前記外乱信号を前記制御ループ内の信号に重畳する外乱信号重畳部、及び、重畳により前記制御ループ内で生じた信号に基づき前記制御ループの周波数特性を導出する周波数特性導出部を、前記外部デバッグ装置に設け、
前記モータ制御装置は、前記外部デバッグ装置から独立して動作可能に構成され、前記モータの回転速度の目標値を表す速度指令を生成し、前記
外乱信号重畳部は、前記モータ制御装置が生成した前記速度指令に対し又は前記速度指令に基づく信号に対し前記外乱信号を重畳し、
前記外部デバッグ装置は、前記外乱信号の重畳が行われている期間において当該モータ制御システム内の所定の測定対象位置の温度を示す信号をモニタ可能に構成され、
前記外部デバッグ装置は、前記
外乱信号重畳部を含むデバッガと、前記周波数特性導出部を含む演算装置と、から成り、前記デバッガが前記モータ制御装置に外部接続され、
前記デバッガは、前記演算装置と前記モータ制御装置との間に配置されて、前記演算装置の指示の下、前記外乱信号の重畳を行い、
重畳により前記制御ループ内で生じた信号は、前記モータ制御装置から前記デバッガを介して前記演算装置に伝達される
モータ制御システム。
【請求項2】
前記外乱信号重畳部は、前記メモリを通じて前記制御ループに対し前記外乱信号を導入する
請求項1に記載のモータ制御システム。
【請求項3】
前記外部デバッグ装置は、前記周波数特性を表す図としてボード線図を表示する表示部を更に備える
請求項1又は2に記載のモータ制御システム。
【請求項4】
前記外乱信号の重畳を行うことなく前記モータ制御装置が単体で前記モータの駆動を制御している状態を起点に、前記外乱信号の重畳を行ったとき、前記モータ制御装置にて前記モータの駆動制御が継続されつつ前記周波数特性導出部にて前記周波数特性が導出される
請求項1~3の何れかに記載のモータ制御システム。
【請求項5】
前記外部デバッグ装置は、前記外乱信号の重畳を通じ前記周波数特性の導出処理を行っている最中に、前記モータ制御装置内の他の信号をモニタ可能であり、
前記他の信号は、前記周波数特性の導出のために前記周波数特性導出部にて参照される信号とは異なる信号である
請求項1~4の何れかに記載のモータ制御システム。
【請求項6】
前記外部デバッグ装置は、導出された前記周波数特性に基づき、前記制御ループの伝達関数を推定する伝達関数推定部を更に備える
請求項1~5の何れかに記載のモータ制御システム。
【請求項7】
前記外部デバッグ装置は、推定された前記伝達関数に基づき前記制御ループのゲインを調整するゲイン調整部を更に備える
請求項6に記載のモータ制御システム。
【請求項8】
前記モータ制御装置は、前記制御ループにおいて、前記速度指令に対し前記モータの回転速度を一致させる又は近づける速度制御を行い、
前記
外乱信号重畳部は、前記速度指令に対し前記外乱信号を重畳する
請求項1~7の何れかに記載のモータ制御システム。
【請求項9】
前記外乱信号重畳部は、所定帯域内の各周波数の信号成分を含むデジタルのノイズを前記外乱信号として生成する
請求項1~8の何れかに記載のモータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ制御の安定性などを評価するために、モータの制御ループの周波数特性を測定する方法がある。測定された周波数特性は一般的にボード線図にて表現される。ボード線図を描画するために、周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer;以下FRAと称する)などの高価な測定器が利用されることも多い。
【0003】
他方、モータ制御装置において、周波数特性を測定する機能を内部に設けた構成も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
但し、周波数特性を測定する機能をモータ制御装置に搭載させると、モータ制御装置の資源(メモリ容量など)が圧迫され、モータ制御装置の製品自体のコスト増に繋がる。
【0006】
本開示は、周波数特性の導出に伴うコスト増の抑制に寄与するモータ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るモータ制御システムは、メモリを有する半導体集積回路により構成され、モータに対する制御ループを形成して前記モータの駆動を制御するモータ制御装置と、前記モータ制御装置に対して外部接続され、前記メモリにアクセス可能な外部デバッグ装置と、を備え、前記制御ループに対する外乱信号を生成して前記外乱信号を前記制御ループ内の信号に重畳する外乱信号重畳部、及び、重畳により前記制御ループ内で生じた信号に基づき前記制御ループの周波数特性を導出する周波数特性導出部を、前記外部デバッグ装置に設けた構成(第1の構成)である。
【0008】
上記第1の構成に係るモータ制御システムにおいて、前記外部デバッグ装置は、前記外部信号出力部を含むデバッガと、前記周波数特性導出部を含む演算装置と、から成り、前記デバッガが前記モータ制御装置に外部接続され、前記デバッガは、前記演算装置と前記モータ制御装置との間に配置されて、前記演算装置の指示の下、前記外乱信号の重畳を行い、重畳により前記制御ループ内で生じた信号は、前記モータ制御装置から前記デバッガを介して前記演算装置に伝達される構成(第2の構成)であっても良い。
【0009】
上記第1又は第2の構成に係るモータ制御システムにおいて、前記外部デバッグ装置は、前記周波数特性を表す図としてボード線図を表示する表示部を更に備える構成(第3の構成)であっても良い。
【0010】
上記第1~第3の構成の何れかに係るモータ制御システムにおいて、前記外乱信号の重畳を行うことなく前記モータ制御装置が単体で前記モータの駆動を制御している状態を起点に、前記外乱信号の重畳を行ったとき、前記モータ制御装置にて前記モータの駆動制御が継続されつつ前記周波数特性導出部にて前記周波数特性が導出される構成(第4の構成)であっても良い。
【0011】
上記第1~第4の構成の何れかに係るモータ制御システムにおいて、前記外部デバッグ装置は、前記外乱信号の重畳を通じ前記周波数特性の導出処理を行っている最中に、前記モータ制御装置内の他の信号をモニタ可能であり、前記他の信号は、前記周波数特性の導出のために前記周波数特性導出部にて参照される信号とは異なる信号である構成(第5の構成)であっても良い。
【0012】
上記第1~第5の構成の何れかに係るモータ制御システムにおいて、前記外部デバッグ装置は、導出された前記周波数特性に基づき、前記制御ループの伝達関数を推定する伝達関数推定部を更に備える構成(第6の構成)であっても良い。
【0013】
上記第6の構成に係るモータ制御システムにおいて、前記外部デバッグ装置は、推定された前記伝達関数に基づき前記制御ループのゲインを調整するゲイン調整部を更に備える構成(第7の構成)であっても良い。
【0014】
上記第1~第7の構成の何れかに係るモータ制御システムにおいて、前記モータ制御装置は、前記制御ループにおいて、速度指令に対し前記モータの回転速度を一致させる又は近づける速度制御を行い、前記外部信号出力部は、前記速度指令に対し前記外乱信号を重畳する構成(第8の構成)であっても良い。
【0015】
上記第1~第8の構成の何れかに係るモータ制御システムにおいて、前記外乱信号重畳部は、所定帯域内の各周波数の信号成分を含むデジタルのノイズを前記外乱信号として生成する構成(第9の構成)であっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、周波数特性の導出に伴うコスト増の抑制に寄与するモータ制御システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るモータ制御システムの全体構成ブロック図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係るモータ駆動システムの全体構成図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係り、モータ制御ICの概略的な構成ブロック図である。
【
図4】本開示の第1実施形態に係り、デバッグ作業におけるリードアクセス及びライトアクセスの動作説明図である。
【
図5】本開示の第1実施形態に係るモータ駆動システムの機能ブロック図である。
【
図6】本開示の第1実施形態に係り、導出されたボード線図の表示例を示す図である。
【
図7】本開示の第1実施形態に係り、ホストコンピュータにて実現される機能のブロック図である。
【
図8】本開示の第2実施形態に係るモータ駆動システムの機能ブロック図である。
【
図9】本開示の第3実施形態に係る電源装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態の例を、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。尚、本明細書では、記述の簡略化上、情報、信号、物理量、素子又は部位等を参照する記号又は符号を記すことによって、該記号又は符号に対応する情報、信号、物理量、素子又は部位等の名称を省略又は略記することがある。
【0019】
<<第1実施形態>>
本開示の第1実施形態を説明する。
図1に、第1実施形態に係るモータ制御システムの全体構成ブロック図を示す。第1実施形態に係るモータ制御システムは、モータ制御装置として機能する又はモータ制御装置を内包するモータ制御IC10と、デバッガ20と、演算装置の例であるホストコンピュータ30(以下、ホストPC30と称され得る)と、を備える。ICは集積回路(Integrated Circuit)の略称である。
図2に、第1実施形態に係るモータ制御システムとモータ40とを含むモータ駆動システムの全体構成図を示す。
【0020】
モータ制御IC10は、半導体集積回路が形成された半導体チップを、封止樹脂にて構成された筐体(パッケージ)内に封入及び封止することで形成された電子部品である。モータ制御IC10の筐体に複数の外部端子が露出して設けられている。
図2に示す如く、モータ制御IC10は基板SUBに実装され、基板SUB上の対応する配線パターン(不図示)に各外部端子が導通される。モータ制御IC10は、外部端子を通じてモータ制御IC10外の回路及び装置との間で信号を入出力する。尚、
図2に示されるモータ制御IC10の外部端子の数及びモータ制御IC10の外観は例示に過ぎない。また、基板SUB上にはモータ制御IC10以外の多数の電子部品及び回路が実装されうるが、
図2では、それらの図示を省略している。
【0021】
図3にモータ制御IC10の概略的な構成ブロック図を示す。モータ制御IC10における半導体集積回路により、CPU(Central Processing Unit)11及びメモリ12と、デバッグ制御部14が形成される。ここでは、機能の説明上、CPU11、メモリ12及びデバッグ制御部14を別々に示しているが、モータ制御IC10において、これらを統合したLSI(Large Scale Integration)が構成されていて良い。
【0022】
CPU11はバス13を通じてメモリ12に接続され、バス13を通じてメモリ12にアクセス可能である。メモリ12へのアクセスとは、メモリ12に対するデータのライト(即ちメモリ12に対するデータの書き込み)又はメモリ12からのデータのリード(即ちメモリ12に記憶されたデータの読み出し)を指す。メモリ12は、1以上のROM(Read only memory)と、1以上のRAM(Random access memory)と、1以上の周辺回路である1以上のペリフェラルと、を備える。尚、CPU11に設けられたレジスタ(不図示)もメモリ12に含まれると解しても良い。但し、レジスタに対しては、CPU11はバス13を介さずにアクセスすることが可能である。
【0023】
CPU11は、モータ制御IC10内に保持されたモータ制御プログラムを実行することによりモータ40の駆動を制御する。モータ制御プログラムは、メモリ12内のROM、又は、これとは別にモータ制御IC10内に設けられたプログラムROM(不図示)に格納される。
【0024】
デバッグ制御部14は、本来のモータ40の駆動制御に関与しないブロックであり、小規模のマイクロコンピュータ等で構成される。デバッグ制御部14は、デバッガ20及びホストPC30と連携して後述のデバッグ作業に寄与する。
【0025】
図2に示す如く、基板SUBにはコネクタ51が実装され、コネクタ51は配線52を通じてモータ40に接続される。モータ制御IC10はコネクタ51及び配線52を通じモータ40に対し必要な電流が供給されるよう動作し、当該電流の供給によりモータ40が駆動する(モータ40にトルクが発生してモータ40が回転する)。また、基板SUBにはコネクタ53も実装される。デバッガ20にはコネクタ55及び56が実装され、ホストPC30にはコネクタ58が実装される。コネクタ53及び55間は配線54により接続され、コネクタ56及び58間は配線57により接続される。
【0026】
配線54によるデバッガ20及び基板SUB間の接続又は非接続は自在である(換言すれば、配線54によるデバッガ20及びモータ制御IC10間の接続又は非接続は自在である)。デバッガ20及び基板SUB間が配線54により接続されているとき、デバッガ20と基板SUB上のモータ制御IC10とが接続され、デバッガ20とモータ制御IC10は、コネクタ53、配線54及びコネクタ55を通じて、任意の信号の双方向通信が可能である。デバッガ20及び基板SUB間が配線54により接続されていないとき、デバッガ20と基板SUB上のモータ制御IC10とが非接続となり、上記双方向通信は不能となる。デバッガ20及びモータ制御IC10間の信号の受け渡しはデバッグ制御部14を介して行われる。
【0027】
配線57によるデバッガ20及びホストPC30間の接続又は非接続も自在である。デバッガ20及びホストPC30間が配線57により接続されているとき、デバッガ20とホストPC30は、コネクタ56、配線57及びコネクタ58を通じて、任意の信号の双方向通信が可能であり、その双方向通信は、デバッガ20及びホストPC30間が配線57により接続されていないときには不能である。
【0028】
以下では特に記述なき限り、デバッガ20及び基板SUB間が配線54により接続され且つデバッガ20及びホストPC30間が配線57により接続されているものとする。尚、本実施形態では、任意の情報(制御量、状態量、物理量など)を表す信号を、又は、当該信号が指し示す情報を、データと称することがある。
【0029】
ホストPC30ではデバッグソフトウェア31(
図1参照)が実行される。モータ駆動システムのユーザ(以下、単にユーザと称する)は、デバッグソフトウェア31が実行されているホストPC30を操作することで、CPU11が実行するプログラムのデバッグ作業を行うことができる。デバッグ作業では、デバッガ20及びホストPC30によるメモリ12へのアクセスが可能である。つまり、デバッガ20及びホストPC30は、モータ制御IC10に対して外部接続され、メモリ12にアクセス可能な外部デバッグ装置として機能する。
【0030】
即ち例えば、ユーザは、デバッグ作業において、
図4(a)に示す如く、ホストPC30に対しデータリードを指示する操作OP
READを入力することができる。ホストPC30は操作OP
READを受けると、操作OP
READに応じた要求信号REQ
READをデバッガ20に送信する。デバッガ20は要求信号REQ
READを受信すると、要求信号REQ
READに応じたリードコマンドCOM
READをモータ制御IC10に送信する。操作OP
READによりプログラムの変数名又はメモリ12内におけるリード対象アドレスが指定され、要求信号REQ
READ及びリードコマンドCOM
READはリード対象アドレスの情報を含む。リードコマンドCOM
READはデバッグ制御部14にて受信される。デバッグ制御部14は、リードコマンドCOM
READを受信すると、メモリ12におけるリード対象アドレスにアクセスしてリード対象アドレス内のデータを読み出し、読み出したデータをデータD
READとしてデバッガ20に送信する。データD
READがデバッガ20からホストPC30に送られ、ホストPC30にてデータD
READが取得される。尚、操作OP
READによりプログラムの変数名又はメモリ12内におけるリード対象アドレスを指定する方法として、C言語で書かれたファームウェアを機械語に変換する(コンパイルする)際に生成された情報を使用することも可能である。
【0031】
また例えば、ユーザは、デバッグ作業において、
図4(b)に示す如く、ホストPC30に対しデータライトを指示する操作OP
WRITEを入力することができる。ホストPC30は操作OP
WRITEを受けると、操作OP
WRITEに応じた要求信号REQ
WRITEをデバッガ20に送信する。デバッガ20は要求信号REQ
WRITEを受信すると、要求信号REQ
WRITEに応じたライトコマンドCOM
WRITEをモータ制御IC10に送信する。操作OP
WRITEによりプログラムの変数名又はメモリ12内におけるライト対象アドレスとライトデータ(ライト対象アドレスに書き込むべきデータに相当)とが指定され、要求信号REQ
WRITE及びライトコマンドCOM
WRITEはライト対象アドレスの情報とライトデータの情報を含む。ライトコマンドCOM
WRITEはデバッグ制御部14にて受信される。デバッグ制御部14は、ライトコマンドCOM
WRITEを受信すると、メモリ12におけるライト対象アドレスにアクセスしてライト対象アドレスにライトデータを書き込む。尚、操作OP
WRITEによりプログラムの変数名又はメモリ12内におけるライト対象アドレスを指定する方法として、C言語で書かれたファームウェアを機械語に変換する(コンパイルする)際に生成された情報を使用することも可能である。
【0032】
メモリ12へのアクセスについて説明したが、デバッグ作業ではメモリ12へのアクセス以外に様々な処理を実現可能である。例えばデバッグ作業において、ユーザはホストPC30を操作することにより、CPU11が実行しているプログラムをブレイクしたり、CPU11内のステートマシンの状態を参照又は変更したりすることもできる。
【0033】
図5に第1実施形態に係るモータ駆動システムの機能ブロック図を示す。モータ制御IC10はモータ40を駆動制御するためのモータ制御部110を備える。モータ制御IC10とモータ40との間にドライバ50が設けられる。但し、モータ制御IC10にドライバ50を内蔵させる変形も可能である。
【0034】
モータ制御部110は、機能ブロックとして、速度検出部111、速度指令供給部112、減算器(四則演算器)113、電流検出部114、速度制御部115、減算器116及び電流制御部117を備える。これらの各機能ブロックは、CPU11がモータ制御プログラムを実行することで実現されるものであって良い。
【0035】
モータ40は、電機子巻線が設けられたステータと、電機子巻線に電流が供給されることで回転駆動するロータと、から成る。本実施形態において、モータ40への電流の供給とは、詳細にはモータ40の電機子巻線に対する電流の供給を意味し、モータ40の回転とは、詳細にはロータの回転を意味する。ロータにおける所定の基準状態からの、ロータの回転角をロータ位置θと称する。モータ40にはロータ位置θを検出するための位置検出器(不図示)が取り付けられている。位置検出器は例えばロータリエンコーダ又はレゾルバにより構成される。速度検出部111は、位置検出器の検出結果に基づいて(即ち例えば検出されたロータ位置θを微分することで)モータ40の回転速度ωを検出する。回転速度ωは電気角におけるロータの回転速度を表す。
【0036】
速度指令供給部112は、減算器113に対し、回転速度ωの目標値を表す速度指令ω*の信号を供給する。速度指令ω*は、モータ制御IC10の外部に設けられた上位回路(不図示)からモータ制御IC10に与えられる信号に基づき決定される。但し、速度指令ω*が固定されるアプリケーションなどにおいては、上位回路からの信号に依らず、モータ制御IC10内で速度指令ω*が設定されても良い。
【0037】
減算器113は、速度検出部111にて検出された回転速度ωの信号と速度指令供給部112から供給される速度指令ω
*の信号とに基づき、それらの速度誤差Δωを求める。但し、速度誤差Δωを求める際、デバッガ20から外乱信号ω
Nが減算器113に入力されることがあり(即ち速度指令ω
*に外乱信号ω
Nが重畳されることがあり)、求められる速度誤差Δωは“Δω=ω
*-ω+ω
N”により表される。
図5では、外乱信号ω
Nが減算器113に入力されている。外乱信号ω
Nが減算器113に入力されていない状況では、“ω
N=0”であり、故に“Δω=ω
*-ω”となる。
【0038】
電流検出部114は、ドライバ50からモータ40の電機子巻線に供給される電流であるモータ電流iを検出する(即ちモータ電流iの値を検出する)。例えば、電流検出部114は、ドライバ50及びモータ40間に設けられた電流センサを用いてモータ電流iを検出できる。検出されたモータ電流iの信号は減算器116に送られる。
【0039】
速度制御部115は、速度誤差Δωに基づき、モータ電流iの目標値を表す電流指令i*を生成し、電流指令i*の信号を減算器116に出力する。この際、速度制御部115は、比例積分制御を用いて速度誤差Δωがゼロに収束するように電流指令i*を生成する。
【0040】
減算器116は、電流検出部114にて検出されたモータ電流iの信号と速度制御部115から供給される電流指令i*の信号とに基づき、それらの電流誤差Δiを求める。電流誤差Δiは “Δi=i*-i”により表される。
【0041】
電流制御部117は、電流誤差Δiに基づきドライバ50を制御することによりモータ40に電流を供給する。この際、電流制御部117は、比例積分制御を用いて電流誤差Δiがゼロに収束するようにドライバ50を制御する。より詳細には、電流制御部117は電流誤差Δiに基づき電流誤差Δiがゼロに収束するようドライバ50に対する駆動制御信号を生成し、当該駆動制御信号をドライバ50に与える。ドライバ50は駆動制御信号に応じた電流をモータ40の電機子巻線に供給する。ドライバ50は、例えば所定の直流電圧からパルス幅変調された矩形波電圧を生成するインバータ回路から成り、当該矩形波電圧を電機子巻線に与えることでモータ40にモータ電流iを供給する。
【0042】
モータ40の相数を含め、モータ40の種類は任意であるが、典型的には例えば、モータ40は、永久磁石が設けられたロータと、U相、V相及びW相の電機子巻線が設けられたステータと、を備えた三相永久磁石同期モータであって良い。この場合、ロータの永久磁石が作る磁束の回転速度と同じ速度で回転する回転座標系において、永久磁石が作る磁束の向きにd軸にとり、d軸に直交する軸をq軸にとる。そうすると、所定の固定軸(例えばU相の電機子巻線固定軸)から見たd軸の角度(位相)がモータ40の回転角(即ちロータ位置θ)に相当し、モータ40の回転速度ωはd軸の回転速度(電気角における角速度)に相当する。
【0043】
また、モータ40が三相永久磁石同期モータである場合、ドライバ50は各相の電機子巻線に電流を供給する三相インバータ回路にて構成され、モータ電流i、電流指令i*及び電流誤差Δiは夫々にベクトル量となる。モータ40をベクトル制御する際にあっては、例えば、各相の電機子巻線に流れる電流の電流センサによる検出値と位置検出器による検出ロータ位置θとに基づきドライバ50からモータ40に供給される電流のd軸成分(id)及びq軸成分(iq)を求め、求めたd軸成分及びq軸成分を、モータ電流iの信号として減算器116に送れば良い。そして、速度制御部115は、ドライバ50からモータ40に供給される電流のd軸成分及びq軸成分の各目標値(id
*、iq
*)を電流指令i*の信号に含めれば良く、電流制御部117は、ドライバ50からモータ40に供給される電流のd軸成分(id)、q軸成分(iq)が、それらの目標値(id
*、iq
*)と一致するようにドライバ50を制御すれば良い。
【0044】
モータ駆動システムにおいて、デバッガ20及びホストPC30から成る外部デバッグ装置をモータ制御IC10に接続することにより、周波数特性測定処理が実行可能となる。周波数特性測定処理では、モータ制御部110により形成される制御ループの周波数特性が測定される。周波数特性測定処理は外乱信号重畳部22及び周波数特性導出部32を用いて実現される。外乱信号重畳部22はデバッガ20に設けられ、周波数特性導出部32はホストPC30に設けられる。ホストPC30にてデバッグソフトウェア31(
図1参照)を実行することで周波数特性導出部32の機能が実現される。また、ホストPC30には液晶ディスプレイパネル等にて形成される表示部33が設けられる。
【0045】
ユーザがホストPC30に対し所定の周波数特性測定指示操作を入力すると、ホストPC30から(例えば周波数特性導出部32から)デバッガ20に対し要求信号71が送信される。デバッガ20にて要求信号71が受信されると、外乱信号重畳部22は、外乱信号ω
Nを生成して外乱信号ω
Nをモータ制御IC10に対して出力する。モータ制御IC10に対して出力された外乱信号ω
Nはデバッグ制御部14(
図3参照)を通じてモータ制御部110の制御ループに導入され、具体的には加算器113への入力信号となる。
【0046】
外乱信号ωNは、所定の測定対象帯域内の各周波数の信号成分を含むノイズである。測定対象帯域内で外乱信号ωNの周波数を掃引することで測定対象帯域内の各周波数の信号成分を含むノイズが発生する。モータ制御部110の制御ループにおいて、速度指令ω*、回転速度ω、速度誤差Δω、電流指令i*、モータ電流i及び電流誤差Δiに代表される各状態量又は制御量の信号は、デジタル信号である。従って、外乱信号ωNは、角速度の次元を持つデジタルの外乱信号として生成される。外乱信号ωNとしてのノイズの種類は任意である。外乱信号ωNとしてのノイズは、例えば、白色雑音(ホワイトノイズ)であっても良いし、有色雑音(ピンクノイズやグレイノイズ等)であっても良い。デジタルの外乱信号(ノイズ)の生成方法として公知の任意の方法を利用できる。要求信号71において外乱信号ωNの特性(測定対象帯域及び信号の振幅など)が指定され、その指定に従って外乱信号ωNが生成される。
【0047】
減算器113は、上述したように“Δω=ω
*-ω+ω
N”により表される速度誤差Δωを求める。実際には例えば、減算器113において、第1演算値(ω
*-ω)を求めた後、第2演算値(ω
*-ω+ω
N)により表される速度誤差Δωが求められて良い。周波数特性測定処理において、デバッグ制御部14(
図3参照)は、第1演算値(ω
*-ω)及び第2演算値(ω
*-ω+ω
N)を減算器113から読み取り、第1演算値(ω
*-ω)及び第2演算値(ω
*-ω+ω
N)を含む結果信号72をデバッガ20に送信する。実際には例えば、上記の第1及び第2演算値は、メモリ12(CPU11のレジスタであり得る)における特定の記憶領域に格納され、デバッグ制御部14が当該特定の記憶領域の格納データを読み取ることで、第1及び第2演算値を取得する。尚、外乱信号ω
Nが減算器113に入力される期間において速度指令ω
*の値は一定値に固定されているものとする。
【0048】
結果信号72はデバッガ20からホストPC30に転送され、周波数特性導出部32は、結果信号72に基づいてモータ制御部110の制御ループの周波数特性を導出する。ここで導出される周波数特性は、モータ40に対する速度制御ループの周波数特性(以下、本実施形態において単に周波数特性と称される)である。速度制御ループは、速度指令ω*を入力とし且つ回転速度ωを出力とする制御ループ(フィードバック制御系)であって、符号111、113、114、115、116、117、50及び40にて参照される各構成要素を含んで形成される。速度制御ループは速度指令ω*に対し回転速度ωを一致させる又は近づける速度制御を実現する。但し、外乱信号ωNが減算器113に入力される期間においては、外乱信号ωNが速度指令ω*に重畳されるので、速度制御ループは、重畳後の速度指令(ω*+ωN)を入力とし且つ回転速度ωを出力とする制御ループとなり、重畳後の速度指令(ω*+ωN)対し回転速度ωを一致させる又は近づける速度制御を行う。
【0049】
ホストPC30において、周波数特性導出部32は、導出した周波数特性を表す図としてボード線図を作成し、
図6に示す如く、作成したボード線図を表示部33に表示する。ボード線図は、制御ループのゲインの周波数依存性を表すゲイン線図と、制御ループの位相の周波数依存性を表す位相線図と、から成る。本実施形態で注目している制御ループは速度制御を行う速度制御ループであり、速度制御ループにおけるゲイン、位相を、便宜上、夫々、記号G_ω及びP_ωにて参照する。ゲインG_ω及び位相P_ωは、速度指令ω
*を入力とし且つ回転速度ωを出力とする伝達関数のゲイン及び位相である。つまり、ゲインG_ωは、速度指令ω
*の振幅に対する回転速度ωの振幅の比を表し、位相P_ωは速度指令ω
*の信号を基準とする速度指令ω
*の信号及び回転速度ωの信号間の位相差を表す。
【0050】
上述したように、ボード線図を描画するためにFRAなどの高価な測定器が利用されることも多い。但し、FRAは高価であることから利用が容易ではない。更に、FRAはアナログ信号を用いて測定を行うものが多く、デジタル制御での周波数特性を測定するためには、測定専用のアナログ信号を生成するなど、通常動作に不必要な処置が必要となる。一方、デジタル制御を行うモータ制御装置においては、周波数特性測定機能を内部に設けておくことも検討される。しかしながら、本来のモータ制御に必要のない周波数特性測定機能の搭載により、モータ制御装置の資源(メモリ容量など)が圧迫され、モータ制御装置の製品自体のコスト増に繋がる。これらを考慮し、本実施形態では、周波数特性測定処理を担う外乱信号重畳部22及び周波数特性導出部32をモータ制御IC10の外部デバッグ装置(デバッガ20及びホストPC30)に設ける。これにより、FRAのような高価な測定器は必要でなくなり、また周波数特性測定機能を外部デバッグ装置(20、30)側に集約させているため、モータ制御IC10のコスト増が抑えられる。モータ制御IC10はモータ40の駆動用の通常制御だけを行えば良い。
【0051】
以下、外部デバッグ装置(20、30)及びモータ制御IC10間が接続されている状態を、外部デバッグ装置の接続状態と称し、外部デバッグ装置(20、30)及びモータ制御IC10間が接続されていない状態を、外部デバッグ装置の非接続状態と称する。外部デバッグ装置の接続状態において、モータ制御IC10及びデバッガ20が配線54を通じて接続され且つデバッガ20及びホストPC30が配線57を通じて接続され、上述の通り、外乱信号ωN、要求信号71及び結果信号72の送受信が可能となる。外部デバッグ装置の非接続状態では、モータ制御IC10及びデバッガ20が配線54を通じて接続されず又はデバッガ20及びホストPC30が配線57を通じて接続されず、少なくとも外乱信号ωNのモータ制御IC10への入力は行われない。
【0052】
本実施形態に係るモータ駆動システムでは、モータ40の駆動中の任意のタイミングに外部デバッグ装置(20、30)をモータ制御IC10に接続することで、周波数特性の測定が可能である。これについて、外部デバッグ装置の非接続状態を起点に考える。外部デバッグ装置の非接続状態では、モータ制御部110により“ω
N=0”の状態でモータ40の駆動が制御される、即ち、外部デバッグ装置(20、30)に関係なくモータ制御IC10(モータ制御部110)が単体でモータ40を駆動制御する。今、モータ40が駆動制御されている状況において外部デバッグ装置の非接続状態から外部デバッグ装置の接続状態に遷移したとする。遷移後の外部デバッグ装置の接続状態において、外乱信号ω
Nの重畳を伴う上述の周波数特性測定処理を行うことができ、これによりモータ40の駆動制御を止めることなく周波数特性を測定及び導出することができる。
図5のモータ制御部110にとっては、外部デバッグ装置の接続状態及び非接続状態間において、速度指令がω
*と(ω
*+ω
N)とで相違するだけである。
【0053】
このように、外乱信号ωNの重畳を行うことなくモータ制御IC10(モータ制御部110)が単体でモータ40の駆動を制御している状態を起点に、その後の任意のタイミングにおいて外乱信号ωNを重畳することができ、外乱信号ωNの重畳を行えば、モータ制御IC10(モータ制御部110)にてモータ40の駆動制御が継続されつつ周波数特性導出部32にて周波数特性が導出される。
【0054】
これは、周波数特性の測定のためにモータ駆動を停止することが許容されないようなアプリケーション(例えば基地局のファンの常時作動にモータ40が用いられるアプリケーション)において特に有益である。例えばモータ40の劣化は周波数特性の変化を伴うと考えられるため、ユーザとしての管理者が定期的に周波数特性をチェックするようにすれば、モータ40の劣化度合いを推定でき、必要に応じてモータ40の交換を行うといった運用が可能となる。尚、モータ制御装置の起動時に動作モードを通常モード又は測定モードに選択的に設定し、測定モードにおいてのみ周波数特性の測定が可能となるような仮想構成も検討されるが、当該仮想構成は上記のようなアプリケーションに適合しない。本実施形態に係る構成では、モータ制御IC10及びモータ40の動作中の所望のタイミングに外部デバッグ装置(20、30)をモータ制御IC10に接続し、周波数特性測定処理を実行すれば足る。
【0055】
更に、外部デバッグ装置(20、30)は、本来のデバッグ機能を持つため、任意の注目タイミングにおいてモータ制御IC10内の他の信号(以下、モニタ対象信号と称する)をモニタ可能である。ここで、注目タイミングとは、外乱信号ωNの重畳を通じ周波数特性の導出処理を行っている特定期間中の任意のタイミングであり得る。外乱信号ωNの重畳が行われている期間(即ちゼロではない外乱信号ωNが速度指令ω*に重畳されている期間)は上記特定期間に属する。モニタ対象信号は、モータ制御IC10内で認識及び取り扱われる信号であれば任意である。但し、モニタ対象信号は、周波数特性の導出のために周波数特定導出部32で参照される信号(即ち、上述の第1演算値(ω*-ω)を示す信号及び第2演算値(ω*-ω+ωN)を示す信号)とは異なる信号である。例えば、モニタ対象信号は、モータ電流iを表す信号であって良いし、ロータ位置θを表す信号であっても良い。或いは、モータ駆動システム内の所定の測定対象位置の温度を示す温度信号がモニタ対象信号であっても良い。測定対象位置は、モータ制御IC10内の温度であり得るし、モータ制御IC10外の温度(例えばモータ40内の所定位置の温度)であり得る。
【0056】
外乱信号ωNの重畳を通じ周波数特性の導出処理を行っている最中に任意の他の信号をモニタ可能としておくことで、制御ループの詳細な評価が可能となる又は必要なデバッグ作業が促進される。本実施形態に依らない方式では、他の信号を参照するために、別途のツールが必要になると考えられる。
【0057】
図7に示す如く、ホストPC30において伝達関数推定部34及びゲイン調整部35が更に設けられていても良い。ホストPC30にてデバッグソフトウェア31(
図1参照)を実行することで伝達関数推定部34及びゲイン調整部35の機能が実現される。伝達関数推定部34の作動又は非作動はユーザにより任意に設定可能であって良い。ゲイン調整部35についても同様である。
【0058】
伝達関数推定部34は、周波数特性導出部32により導出された周波数特性に基づき、モータ制御部110における制御ループの伝達関数を推定する。
図5の構成において、推定される伝達関数は、速度指令ω
*を入力とし且つ回転速度ωを出力とする速度制御ループの伝達関数であり、周波数特性導出部32により導出された周波数特性を数式にて表現したものである。伝達関数推定部34は、推定した伝達関数を表示部33に表示させることができる。
【0059】
モータ40に対し数式による何らかの解析モデルを当てはめることができ、解析モデルに沿って伝達関数を推定することができる。例えば、モータ40が劣化すれば周波数特性が変化し、それに伴って伝達関数も変化すると考えられる。ユーザは、推定された伝達関数を参照して、劣化に伴うモータ40の交換を検討する又はモータ40の制御パラメータの調整を検討する、といったことが可能である。
【0060】
ゲイン調整部35は、推定された伝達関数に基づき制御ループ(ここでは速度制御ループ)のゲインG_ωを調整する(即ち増大させる又は減少させる)。この際、ゲイン調整部35は、推定された伝達関数に基づき、モータ40の安定制御の実現を目指した所定の調整規則に従って推奨ゲインを決定し、該推奨ゲインを調整後のゲインG_ωに設定する。これにより、モータ40の安定制御が促進される。
【0061】
任意の制御ループに関しゲインを調整する方法は公知であり、ゲイン調整部35は、公知の任意のゲイン調整方法(例えば特開2016-92935号公報に記載されたゲイン調整方法)を用いてゲインG_ωを調整して良い。例えば、速度誤差Δωに基づく量に対し調整係数を乗じることで電流指令i*が求められるよう速度制御部115が形成されている場合、速度制御部115内の調整係数を増減させることでゲインG_ωを増減させることができる。
【0062】
ゲイン調整部35による、ゲインG_ωのゲインG_ω1からゲインG_ω2への変更処理を、以下のように行うことができる。即ち、ゲイン調整部35はゲインG_ω2の情報を含むゲイン調整要求信号をデバッガ20に送信し、デバッガ20はゲイン調整要求信号の受信に応答してゲインG_ω2の情報をモータ制御IC10に送信する。ゲインG_ω2の情報が、デバッグ制御部14を通じてモータ制御部110に伝達されることでゲインG_ωがゲインG_ω1からゲインG_ω2に変更される。
【0063】
ゲインG_ωの調整前の周波数特性測定処理にて導出された周波数特性を、便宜上、第1の周波数特性と称し、第1の周波数特性に基づくボード線図を第1のボード線図と称する。ゲインG_ωの調整後(換言すればゲインG_ωの変更後)には、外部デバッグ装置(20、30)により再度の周波数特性測定処理が実行される。再度の周波数特性測定処理にて導出された周波数特性を、便宜上、第2の周波数特性と称し、第2の周波数特性に基づくボード線図を第2のボード線図と称する。ゲインG_ωの調整を経て第2のボード線図が得られた後、ゲイン調整部35は表示部33に表示されるボード線図を第1のボード線図から第2のボード線図に置き換えて良い、或いは、第1及び第2のボード線図を表示部33に並列表示しても良い。これにより、ユーザはゲインG_ωの調整の効果を視覚的に確認することができる。
【0064】
<<第2実施形態>>
本開示の第2実施形態を説明する。第2実施形態及び後述の第3実施形態は第1実施形態を基礎とする実施形態であり、第2及び第3実施形態において特に述べない事項に関しては、矛盾の無い限り、第1実施形態の記載が第2及び第3実施形態にも適用される。第2実施形態の記載を解釈するにあたり、第1及び第2実施形態間で矛盾する事項については第2実施形態の記載が優先されて良い(後述の第3実施形態についても同様)。矛盾の無い限り、第1~第3実施形態の内、任意の複数の実施形態を組み合わせても良い。
【0065】
本開示に係るモータ駆動システムにおいて、周波数特性の測定対象となる制御ループは速度制御ループに限定されない。例として、電流制御ループを周波数特性の測定対象に設定したときの構成を
図8に示す。
図8は、第2実施形態に係るモータ駆動システムの機能ブロック図である。モータ制御IC10に設けられるモータ制御部110の構成及び動作並びにドライバ50及びモータ40の構成及び動作は第1実施形態で示した通りである。但し、
図8の構成では、速度指令ω
*ではなく電流指令i
*に対して外乱信号i
Nが重畳されることで電流制御ループの周波数特性が測定される。以下、第1及び第2実施形態間の共通事項については説明を省略し、それらの相違点を説明する。
【0066】
上述したように、減算器116は、電流検出部114にて検出されたモータ電流iの信号と速度制御部115から供給される電流指令i
*の信号とに基づき、それらの電流誤差Δiを求める。但し、電流誤差Δiを求める際、デバッガ20から外乱信号i
Nが減算器116に入力されることがあり(即ち電流指令i
*に外乱信号i
Nが重畳されることがあり)、求められる電流誤差Δiは“Δi=i
*-i+i
N”により表される。
図8では、外乱信号i
Nが減算器116に入力されている。外乱信号i
Nが減算器116に入力されていない状況では、“i
N=0”であり、故に“Δi=i
*-i”となる。
【0067】
モータ制御部110では2つのフィードバックループが形成されている。2つのフィードバックループの内、一方はメインループとしての速度制御ループであり、他方はマイナーループとしての電流制御ループである。電流制御ループは、電流指令i*を入力とし且つモータ電流iを出力とする制御ループ(フィードバック制御系)であって、符号114、116、117及び50にて参照される各構成要素を含んで形成される。電流制御ループは電流指令i*に対しモータ電流iを一致させる又は近づける電流制御を実現する。但し、外乱信号iNが減算器116に入力される期間においては、外乱信号iNが電流指令i*に重畳されるので、電流制御ループは、重畳後の電流指令(i*+iN)を入力とし且つモータ電流iを出力とする制御ループとなり、重畳後の電流指令(i*+iN)対しモータ電流iを一致させる又は近づける電流制御を行う。
【0068】
図8に構成に係る周波数特性測定処理を説明する。ユーザがホストPC30に対し所定の周波数特性測定指示操作を入力すると、ホストPC30から(例えば周波数特性導出部32から)デバッガ20に対し要求信号71aが送信される。デバッガ20にて要求信号71aが受信されると、外乱信号重畳部22は、外乱信号i
Nを生成して外乱信号i
Nをモータ制御IC10に対して出力する。モータ制御IC10に対して出力された外乱信号i
Nはデバッグ制御部14(
図3参照)を通じてモータ制御部110の制御ループに導入され、具体的には加算器116への入力信号となる。
【0069】
外乱信号iNは、所定の測定対象帯域内の各周波数の信号成分を含むノイズである。測定対象帯域内で外乱信号iNの周波数を掃引することで測定対象帯域内の各周波数の信号成分を含むノイズが発生する。外乱信号iNは、電流の次元を持つデジタルの外乱信号として生成される。外乱信号iNとしてのノイズの種類は任意である。外乱信号iNとしてのノイズは、例えば、白色雑音(ホワイトノイズ)であっても良いし、有色雑音(ピンクノイズやグレイノイズ等)であっても良い。要求信号71aにおいて外乱信号iNの特性(測定対象帯域及び信号の振幅など)が指定され、その指定に従って外乱信号iNが生成される。
【0070】
減算器116は、上述したように“Δi=i
*-i+i
N”により表される電流誤差Δiを求める。実際には例えば、減算器116において、第1演算値(i
*-i)を求めた後、第2演算値(i
*-i+i
N)により表される電流誤差Δiが求められて良い。周波数特性測定処理において、デバッグ制御部14(
図3参照)は、第1演算値(i
*-i)及び第2演算値(i
*-i+i
N)を減算器116から読み取り、第1演算値(i
*-i)及び第2演算値(i
*-i+i
N)を含む結果信号72aをデバッガ20に送信する。実際には例えば、上記の第1及び第2演算値は、メモリ12(CPU11のレジスタであり得る)における特定の記憶領域に格納され、デバッグ制御部14が当該特定の記憶領域の格納データを読み取ることで、第1及び第2演算値を取得する。
【0071】
結果信号72aはデバッガ20からホストPC30に転送され、周波数特性導出部32は、結果信号72aに基づいてモータ制御部110の制御ループの周波数特性を導出する。ここで導出される周波数特性は、モータ40に対する電流制御ループの周波数特性(以下、本実施形態において単に周波数特性と称される)である。
【0072】
ホストPC30において、周波数特性導出部32は、導出した周波数特性を表す図としてボード線図を作成し、作成したボード線図を表示部33に表示する。ボード線図は、制御ループのゲインの周波数依存性を表すゲイン線図と、制御ループの位相の周波数依存性を表す位相線図と、から成る。本実施形態で注目している制御ループは電流制御を行う電流制御ループである。電流制御ループにおけるゲイン、位相を、便宜上、夫々、記号G_i及びP_iにて参照すると、ゲインG_i及び位相P_iは、電流指令i*を入力とし且つモータ電流iを出力とする伝達関数のゲイン及び位相を表す。つまり、ゲインG_iは、電流指令i*の振幅に対するモータ電流iの振幅の比を表し、位相P_iは電流指令i*の信号を基準とする電流指令i*の信号及びモータ電流iの信号間の位相差を表す。
【0073】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様、モータ40の駆動制御中の任意のタイミングにおいて外部デバッグ装置(20、30)をモータ制御IC10に接続して周波数特性測定処理を実行することができる。即ち、外乱信号iNの重畳を行うことなくモータ制御IC10(モータ制御部110)が単体でモータ40の駆動を制御している状態を起点に、その後の任意のタイミングにおいて外乱信号iNを重畳することができ、外乱信号iNの重畳を行えば、モータ制御IC10(モータ制御部110)にてモータ40の駆動制御が継続されつつ周波数特性導出部32にて周波数特性(電流制御ループの周波数特性)が導出される。
【0074】
この他、第1実施形態にて述べた技術は矛盾なき限り第2実施形態に適用される。但し、この適用の際、第1実施形態における外乱信号ω
Nは第2実施形態において外乱信号i
Nに読み替えられる。即ち例えば、
図8の構成において、ホストPC30に伝達関数推定部34及びゲイン調整部35(
図7参照)が設けられていて良く、伝達関数推定部34は、周波数特性導出部32により導出された周波数特性に基づき、モータ制御部110における制御ループの伝達関数を推定する。
図8の構成において、推定される伝達関数は、電流指令i
*を入力とし且つモータ電流iを出力とする電流制御ループの伝達関数であり、周波数特性導出部32により導出された周波数特性を数式にて表現したものである。伝達関数推定部34は、推定した伝達関数を表示部33に表示させることができる。また、ゲイン調整部35は、推定された伝達関数に基づき制御ループ(ここでは電流制御ループ)のゲインを調整できる(即ち増大又は減少させることができる)。
【0075】
図8を参照して電流制御ループの周波数特性を測定可能な構成を説明したが、この他、例えば、ロータ位置θを位置指令θ
*に従って制御する位置制御ループをモータ制御部110に形成することも可能であり(不図示)、この場合には、位置指令θ
*に外乱信号を重畳することで位置制御ループの周波数特性を導出することができる。
【0076】
<<第3実施形態>>
本開示の第3実施形態を説明する。
【0077】
第1及び第2実施形態にて具体例が示された本開示に係るモータ制御システムは、メモリ(12)を有する半導体集積回路により構成され、モータ(40)に対する制御ループ(例えば速度制御ループ)を形成して前記モータの駆動を制御するモータ制御装置と、前記モータ制御装置に対して外部接続され、前記メモリにアクセス可能な外部デバッグ装置(20、30)と、を備えたモータ制御システムであって、前記制御ループに対する外乱信号(例えばωN)を生成して前記外乱信号を前記制御ループ内の信号に重畳する外乱信号重畳部(22)、及び、重畳により前記制御ループ内で生じた信号に基づき前記制御ループの周波数特性を導出する周波数特性導出部(32)を、前記外部デバッグ装置に設けている。ここで、モータ制御装置は、モータ制御IC10に対応すると考えることもできるし、モータ制御部110に対応すると考えることもできる。
【0078】
尚、第1実施形態(
図5参照)において、モータ制御部110の制御ループに対する外乱信号ω
Nの導入(注入)は、実際には、減算器113の入出力データが格納されるメモリ12への操作により実現される。同様に、第2実施形態(
図8参照)において、モータ制御部110の制御ループに対する外乱信号i
Nの導入(注入)は、実際には、減算器116の入出力データが格納されるメモリ12への操作により実現される。メモリ操作による外乱信号の導入方法によれば、制御ループ内の任意の箇所に自由に外乱信号を導入(注入)できる。これは、ハードウェアの信号線を引き出して当該信号線を介し対象部位に外乱信号を直接注入する方法に対し、顕著なアドバンテージとなる。
【0079】
第1及び第2実施形態にて具体例が示された制御ループの周波数特性の導出方法は、制御ループ(フィードバック制御系)を有する任意の装置及びシステムに適用可能である。例えば、
図9に示すような、直流の入力電圧V
INから他の直流の出力電圧V
OUTを生成する電源装置(DC/DCコンバータ)に対し、上述の導出方法を適用できる。
図9の電源装置では、出力電圧V
OUTに比例するフィードバック電圧V
FBと所定の基準電圧V
REFとの差の増幅信号が誤差電圧V
ERRとして生成され、誤差電圧V
ERRをゼロに一致又は近づけるフィードバック制御(従ってフィードバック電圧V
FBを基準電圧V
REFに一致又は近づけるフィードバック制御)が行われることで、出力電圧V
OUTが基準電圧V
REFに応じた目標電圧で安定化される。
【0080】
この電源装置における制御ループの周波数特性を測定する際には、基準電圧VREFに対してノイズである外乱信号VNを重畳する。外乱信号VNの重畳が行われている期間では、フィードバック電圧VFBと電圧(VREF+VN)との差をゼロに一致又は近づけるフィードバック制御が行われる。そして、当該期間における電圧(VREF-VFB)及び(VREF-VFB+VN)に基づき、フィードバック電圧VFBを基準電圧VREFに一致又は近づける制御ループ(フィードバック制御系)の周波数特性を導出することができる。
【0081】
本開示の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。以上の実施形態は、あくまでも、本開示の実施形態の例であって、本開示ないし各構成要件の用語の意義は、以上の実施形態に記載されたものに制限されるものではない。上述の説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。
【符号の説明】
【0082】
10 モータ制御IC
20 デバッガ
22 外乱信号重畳部
30 ホストコンピュータ
31 デバッグソフトウェア
32 周波数特性導出部
33 表示部
34 伝達関数推定部
35 ゲイン調整部
40 モータ
50 ドライバ
110 モータ制御部