(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電気化学セル用のガスケット、および電気化学セル
(51)【国際特許分類】
H01M 50/184 20210101AFI20241212BHJP
H01M 50/167 20210101ALN20241212BHJP
【FI】
H01M50/184 E
H01M50/167
(21)【出願番号】P 2020168690
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸二
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-123017(JP,A)
【文献】特開2011-216855(JP,A)
【文献】実開昭53-138116(JP,U)
【文献】特開2003-051293(JP,A)
【文献】米国特許第06468691(US,B1)
【文献】国際公開第2012/132373(WO,A1)
【文献】特開平10-112300(JP,A)
【文献】特開平2-86054(JP,A)
【文献】特開2002-75303(JP,A)
【文献】実開平6-56964(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/184
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の正極缶と、前記正極缶の内側に挿入され、前記正極缶との間に正極および負極を収容する収容空間を形成する有頂筒状の負極缶と、を有する電気化学セルに設けられた環状のガスケットであって、
周方向に全周にわたって延び、前記正極缶の底部と前記負極缶の開口縁との間に配置される基部と、
前記基部の外周部から前記基部の中心軸線の軸方向における第1方向に突出するとともに前記周方向に沿って全周に延び、前記正極缶の内周面および前記負極缶の外周面に密着する外壁部と、
前記基部から前記外壁部の内側を前記第1方向に突出するとともに前記周方向に沿って全周に延びる内壁部と、
前記基部の内周面から径方向の内側に突出したゲート部と、
を備え、
前記外壁部の内周面は、
一定の内径で前記軸方向に延びる案内部と、
前記案内部と前記基部との間に位置し、流動性を有するシール剤を保持可能なシール剤保持部と、
を備え、
前記外壁部の外周面は、前記周方向の全周にわたって延びるテーパ部を備え、
前記テーパ部は、前記軸方向の第2方向から前記第1方向に向かうに従い漸次拡径し
、
前記軸方向における前記基部の寸法は、前記径方向における前記外壁部および前記内壁部それぞれの最大寸法よりも大きく、
前記ゲート部の全体が前記基部の内周面から突出し、
前記ゲート部の外表面は、前記径方向よりも前記第1方向に傾斜した方向を向く傾斜面を有し、
前記傾斜面は、前記中心軸線に沿う縦断面上で、前記径方向の内側から外側に向かうに従い前記第1方向に延びている、
電気化学セル用のガスケット。
【請求項2】
前記テーパ部は、径方向から見て少なくとも前記案内部に重なる、
請求項1に記載の電気化学セル用のガスケット。
【請求項3】
前記シール剤保持部は、前記案内部よりも径方向の内側に突出するとともに前記周方向に沿って全周にわたって延び、前記軸方向に複数設けられた凸部を備える、
請求項1または請求項2に記載の電気化学セル用のガスケット。
【請求項4】
前記内壁部の前記第1方向の端縁は、前記基部の前記第1方向の端縁および前記外壁部の前記第1方向の端縁の前記軸方向における中心位置よりも前記第2方向に位置する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気化学セル用のガスケット。
【請求項5】
前記内壁部は、前記縦断面上で前記第1方向に向けて先細っている、
請求項
4に記載の電気化学セル用のガスケット。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の電気化学セル用のガスケットと、
前記正極缶および前記負極缶と、
を備え、
前記正極缶は、底部、および前記底部の外周縁から前記第1方向に延びる正極缶周壁部を有し、
前記負極缶は、頂部、および前記頂部の外周縁から前記第2方向に延びる負極缶周壁部を有し、
前記負極缶周壁部は、前記外壁部および前記内壁部の間に配置され、前記シール剤保持部に全周にわたって接触している、
電気化学セル。
【請求項7】
前記負極缶周壁部は、前記負極缶の開口縁から前記頂部に向けて前記第1方向に延びる二重筒部を備え、
前記二重筒部は、前記軸方向に延びる内筒部、および前記内筒部を径方向の外側から囲う外筒部を有し、
前記内壁部の前記第1方向の端縁は、前記外筒部の前記第1方向の端縁よりも前記第2方向に位置する、
請求項
6に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル用のガスケット、および電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルの容器として、一対の金属缶の開口部の間にガスケットを挟んだ状態で金属缶の開口部をかしめることで封口されたものがある。この種の電気化学セルでは、信頼性を高めるために封止性を向上させる技術が開発されている。
【0003】
近年、電気化学セルの一種である小型の非水電解質二次電池では、回路基板搭載時のはんだ付けの効率を上げるためリフローはんだ付け対応が求められている。リフローはんだ付けでは、実装時の加熱により内圧が上昇しやすいため、さらなる封止性の向上が必要となる。例えば、特許文献1には、外壁と内壁を有する環状の電気化学セル用ガスケットであって、外壁の内側面にシール剤を保持する複数の環状の凸部が形成されたものが開示されている。このガスケットによれば、従来のガスケット形状のものに比べ、封止性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リフローはんだ付けが可能な電気化学セルは、実装面積を大きくすることなく電気容量を大きくすることが求められる。そこで電気化学セルを厚くして電気容量を大きくする場合、一対の金属缶の周壁部が高さ方向に大きくなるので、かしめ加工の際に加圧力が分散して封止性を十分に確保することができない可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、優れた封止性を有し、かつ電気容量の大きいリフローはんだ付け可能な電気化学セルを形成できる電気化学セル用のガスケット、およびそのガスケットを備えた電気化学セルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電気化学セル用のガスケットは、有底筒状の正極缶と、前記正極缶の内側に挿入され、前記正極缶との間に正極および負極を収容する収容空間を形成する有頂筒状の負極缶と、を有する電気化学セルに設けられた環状のガスケットであって、周方向に全周にわたって延び、前記正極缶の底部と前記負極缶の開口縁との間に配置される基部と、前記基部の外周部から前記基部の中心軸線の軸方向における第1方向に突出するとともに前記周方向に沿って全周に延び、前記正極缶の内周面および前記負極缶の外周面に密着する外壁部と、前記基部から前記外壁部の内側を前記第1方向に突出するとともに前記周方向に沿って全周に延びる内壁部と、を備え、前記外壁部の内周面は、一定の内径で前記軸方向に延びる案内部と、前記案内部と前記基部との間に位置し、流動性を有するシール剤を保持可能なシール剤保持部と、を備え、前記外壁部の外周面は、前記周方向の全周にわたって延びるテーパ部を備え、前記テーパ部は、前記軸方向の第2方向から前記第1方向に向かうに従い漸次拡径している、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、シール剤が保持されたシール剤保持部の内側に負極缶の周壁部を挿入することで、シール剤保持部と負極缶の周壁部との間にシール剤が配置されるので、ガスケットと負極缶との間のシール性を確保できる。また、軸方向でシール剤保持部を挟んで基部とは反対側に一定の内径で軸方向に延びる案内部が形成されているので、外壁部の内側に負極缶を挿入する際、負極缶の周壁部をシール剤保持部に向けてスムーズに案内することができる。そして、外壁部の内周面とテーパ部との間の部分は先端側(第1方向)に向かうに従い肉厚になっているので、負極缶が装着されたガスケットを正極缶に挿入し、正極缶の開口縁をかしめ加工により絞ることで、ガスケットの外壁部の肉厚な部分を負極缶に押し付けて、負極缶を第2方向に抑え込むことができる。特に負極缶の周壁部が負極缶の開口縁で折り返された二重筒構造を有する場合には、外周側の筒部における第1方向の端縁にガスケットの外壁部の肉厚な部分を押し付けて、負極缶を第2方向に抑え込むことができる。よって、電気容量の増大を図って厚みが増した電気化学セルにおいても、正極缶の開口部からガスケットの表面を伝って内部へ水分が進入することを抑制できる。したがって、ガスケットを用いることで、優れた封止性を有し、かつ電気容量の大きいリフローはんだ付け可能な電気化学セルを形成できる。
【0009】
上記の電気化学セル用のガスケットにおいて、前記テーパ部は、径方向から見て少なくとも前記案内部に重なっていてもよい。
【0010】
本発明によれば、外壁部のうち案内部が設けられることで一定の内径で延びる部分を肉厚に形成できる。よって、ガスケットへ負極缶を装着しやすくしつつ、優れた封止性の確保を実現できる。
【0011】
上記の電気化学セル用のガスケットにおいて、前記シール剤保持部は、前記案内部よりも径方向の内側に突出するとともに前記周方向に沿って全周にわたって延び、前記軸方向に複数設けられた凸部を備えていてもよい。
【0012】
本発明によれば、軸方向で隣り合う凸部の間には溝部が形成されるので、シール剤保持部は流動性を有するシール剤を溝部で容易に保持できる。また、凸部の間の溝部は周方向に沿って全周にわたって延びるので、シール剤保持部はシール剤を全周にわたって保持できる。さらに、凸部が案内部よりも径方向の内側に突出しているので、負極缶の外周面に外壁部を確実に接触させることができる。したがって、ガスケットを用いることで、優れた封止性を有する電気化学セルを形成できる。
【0013】
上記の電気化学セル用のガスケットにおいて、前記内壁部の前記第1方向の端縁は、前記基部の前記第1方向の端縁および前記外壁部の前記第1方向の端縁の前記軸方向における中心位置よりも前記第2方向に位置していてもよい。
【0014】
本発明によれば、内壁部の第1方向の端縁が上記中心位置よりも第1方向に位置する構成と比較して、第2方向に抑え込まれた負極缶によって基部が加圧された場合に、内壁部の変位量を小さくできる。これにより、内壁部によって電気化学セルの内容物に負荷が掛かることを抑制できる。よって、ガスケットを用いることで内部ショート等の不良の発生が抑制されるので、信頼性の高い電気化学セルを形成できる。
【0015】
上記の電気化学セル用のガスケットにおいて、前記軸方向における前記基部の寸法は、径方向における前記外壁部および前記内壁部それぞれの最大寸法よりも大きくてもよい。
【0016】
本発明によれば、外壁部のうち特に基部に近い部分の肉厚を確保することができる。これにより、電気容量の増大を図って厚みが増した電気化学セルにおいて、ガスケットの強度を確保することができる。また、正極缶の底部と負極缶の開口縁との間に十分な量のガスケットが配置されるので、正極缶のかしめ加工の際にガスケットに正極缶および負極缶を充分に密着させることができる。したがって、ガスケットを用いることで、優れた封止性を有する電気化学セルを形成できる。
【0017】
上記の電気化学セル用のガスケットにおいて、前記基部の内周面から径方向の内側に突出したゲート部をさらに備え、前記ゲート部の外表面は、前記径方向よりも前記第1方向に傾斜した方向を向く傾斜面を有し、前記傾斜面は、前記中心軸線に沿う縦断面上で、前記径方向の内側から外側に向かうに従い前記第1方向に延びていてもよい。
【0018】
本発明によれば、ガスケットを射出成形する際、溶融樹脂は金型のうちゲート部に対応する空洞部から基部に対応する空洞部に流れ込む。さらに金型のうち基部に対応する空洞部に流れ込んだ溶融樹脂は、内壁部に対応する空洞部に流れ込む。この際、ゲート部の傾斜面に対応する金型内面は径方向の内側から外側に向かうに従い軸方向の第1方向、すなわち基部から内壁部に向かう方向に延びているので、金型における内壁部に対応する空洞部に溶融樹脂を積極的に導くことができる。特に基部が厚く形成される場合には、金型における基部に対応する空洞部に樹脂が溜まりやすいので、上述した作用により内壁部を確実に形成できる。したがって、ガスケットを射出成形によって形成する際に、充填不足等の成形不良の発生を抑制できる。
【0019】
上記の電気化学セル用のガスケットにおいて、前記内壁部は、前記縦断面上で前記第1方向に向けて先細っていてもよい。
【0020】
本発明によれば、金型における内壁部に対応する空洞部において、最奥部まで溶融樹脂を充填しやすくすることができる。したがって、ガスケットを射出成形によって形成する際に、充填不足等の成形不良の発生をより確実に抑制できる。
【0021】
本発明の電気化学セルは、上記の電気化学セル用のガスケットと、前記正極缶および前記負極缶と、を備え、前記正極缶は、底部、および前記底部の外周縁から前記第1方向に延びる正極缶周壁部を有し、前記負極缶は、頂部、および前記頂部の外周縁から前記第1方向に延びる負極缶周壁部を有し、前記負極缶周壁部は、前記外壁部および前記内壁部の間に配置され、前記シール剤保持部に全周にわたって接触している、ことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、上述したガスケットを備えるので、優れた封止性を有し、かつ電気容量の大きいリフローはんだ付け可能な電気化学セルを提供できる。
【0023】
上記の電気化学セルにおいて、前記負極缶周壁部は、前記負極缶の開口縁から前記頂部に向けて前記第1方向に延びる二重筒部を備え、前記二重筒部は、前記軸方向に延びる内筒部、および前記内筒部を径方向の外側から囲う外筒部を有し、前記内壁部の前記第1方向の端縁は、前記外筒部の前記第1方向の端縁よりも前記第2方向に位置していてもよい。
【0024】
本発明によれば、内壁部の第1方向の端縁が外筒部の第1方向の端縁よりも第1方向に位置する構成と比較して、第2方向に抑え込まれた負極缶によって基部が加圧された場合に、内壁部の変位量を小さくできる。これにより、内壁部によって電気化学セルの内容物に負荷が掛かることを抑制できる。よって、内部ショート等の不良の発生を抑制できる。したがって、信頼性の高い電気化学セルを提供できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、優れた封止性を有し、かつ電気容量の大きいリフローはんだ付け可能な電気化学セルを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】実施形態の電池を示す縦断面図であって、外装体を封口する前の状態を示す図である。
【
図3】実施形態のガスケットを示す縦断面図である。
【
図5】実施形態の変形例のガスケットを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。実施形態の非水電解質二次電池(電気化学セル)は、正極または負極として用いる活物質とセパレータが収容容器内に収容されてなる二次電池である。なお、以下の説明では、非水電解質二次電池を単に電池と称する。
【0028】
図1は、実施形態に係る電池の断面図である。
図1に示すように、実施形態の電池1は、いわゆるコイン(ボタン)形の電池である。本実施形態の電池1は、外径を5mm程度、厚さを2mm程度に設定した小型のコイン形電池である。ただし、電池1の外径はこれに限定されない。電池1は、平面視円形状の外装体3と、外装体3内に配置された正極5、負極7およびセパレータ9と、外装体3内に充填された電解液11と、を備える。外装体3は、正極缶20と、正極缶20に絶縁性のガスケット30を介して組み付けられた負極缶60と、を有している。外装体3の詳細については後述する。
【0029】
正極5および負極7は、セパレータ9を介して対向した状態で配置されている。正極5は、正極集電体13を介し正極缶20の内面に電気的に接続されている。負極7は、負極集電体15を介し負極缶60の内面に電気的に接続されている。なお、正極5を直接正極缶20に接続して正極缶20に集電体の機能を持たせてもよい。また、負極7を直接負極缶60に接続して負極缶60に集電体の機能を持たせてもよい。正極5、負極7及びセパレータ9には、外装体3内に充填された電解液11が含浸されている。
【0030】
正極5において、正極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、正極活物質としてリチウムマンガン酸化物を含有するものを用いることが好ましい。正極5中の正極活物質の含有量は、電池1に要求される放電容量等を勘案して決定され、50~95質量%の範囲とすることができる。正極活物質の含有量が上記好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、好ましい上限値以下であれば、正極5を成形しやすい。
【0031】
正極5は、導電助剤(以下、正極5に用いられる導電助剤を「正極導電助剤」ということがある)を含有してもよい。正極導電助剤としては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト等の炭素質材料が挙げられる。正極導電助剤は、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
正極5は、バインダ(以下、正極5に用いられるバインダを「正極バインダ」ということがある)を含有してもよい。正極バインダとして、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)等を選択できる。また、正極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。正極5において正極バインダの含有量は、例えば、1~20質量%とすることができる。正極集電体13として、炭素を導電性フィラーとする導電性樹脂接着剤等を用いることができる。
【0033】
また、本実施形態では、正極活物質として、上記のリチウムマンガン酸化物に加え、他の正極活物質を含有していても良く、例えば、モリブデン酸化物やリチウム鉄リン酸化合物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、バナジウム酸化物等、他の酸化物の何れか1種以上を含有していても良い。
【0034】
負極7において、負極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、負極活物質としてシリコン酸化物を含有することが好ましい。また、負極7において、負極活物質がSiOx(0≦x<2)で表されるシリコン酸化物からなることが好ましい。
【0035】
また、負極7は、負極活物質として、上記のSiOx(0≦x<2)に加え、他の負極活物質を含有していても良く、例えば、SiやC等、他の負極活物質を含有していても良い。負極活物質として粒状のSiOx(0≦x<2)を用いる場合、これらの粒子径(D50)は、特に限定されず、例えば、0.1~30μmの範囲を選択することができ、1~10μmの範囲を選択することができる。SiOxの粒子径(D50)が、上記範囲の下限値未満であると、例えば電池1を過酷な高温高湿環境下において保管・使用した場合や、リフロー処理による反応性が高まり、電池特性が損なわれるおそれがあり、また、上限値を超えると、放電レートが低下するおそれがある。
【0036】
負極7中の負極活物質、即ち、SiOx(0≦x<2)の含有量は、電池1に要求される放電容量等を勘案して決定され、50質量%以上の範囲を選択することができ、60~80質量%の範囲を選択することができる。負極7において、上記元素からなる負極活物質の含有量が、上記範囲の下限値以上であれば、充分な放電容量が得られやすく、また、上限値以下であれば、負極7を成形しやすい。
【0037】
負極7は、導電助剤(以下、負極7に用いられる導電助剤を「負極導電助剤」ということがある)を含有してもよい。負極導電助剤は、正極導電助剤と同様のものである。
【0038】
負極7は、バインダ(以下、負極7に用いられるバインダを「負極バインダ」ということがある)を含有してもよい。負極バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を選択することができる。
【0039】
また、負極バインダは、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、負極バインダにポリアクリル酸を用いる場合には、ポリアクリル酸を、予め、pH3~10に調整しておくことができる。この場合のpHの調整には、例えば、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物や水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。負極7中の負極バインダの含有量は、例えば1~20質量%の範囲とされる。
【0040】
セパレータ9は、正極5と負極7との間に介在されている。なお、本実施形態の電池1においては、負極7とセパレータ9との間に、リチウムフォイルなどのリチウム体17が設けられている。セパレータ9は、大きなイオン透過度を有し、かつ、機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。セパレータ9としては、例えば、アルカリガラスやホウ珪酸ガラス、石英ガラス、鉛ガラス等のガラス、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド、ポリイミド(PI)等の樹脂からなる不織布等を用いることができる。中でも、セパレータ9としては、ガラス製不織布を用いることが好ましく、ホウ珪酸ガラス製不織布を用いることがより好ましい。ガラス製不織布は、機械強度に優れるとともに、大きなイオン透過度を有するため、内部抵抗を低減して放電容量の向上を図ることができる。セパレータ9の厚さは、電池1の大きさや、セパレータ9の材質等を勘案して決定される。セパレータ9の厚さは、例えば5~300μmとすることができる。
【0041】
電解液11は、通常、支持塩を非水溶媒に溶解させたものである。本実施形態の電解液11の非水溶媒は、テトラグライム(TEG)を主溶媒とし、ジエトキシエタン(DEE)を副溶媒とし、更にエチレンカーボネート(EC)およびビニレンカーボネート(VC)を添加剤として含有するものである。非水溶媒は、通常、電解液11に求められる耐熱性や粘度等を勘案して決定される。グライム系溶媒を構成するための主溶媒は、テトラグライムの他に、トリグライムやペンタグライム、ジグライムなどを利用することができる。
【0042】
本実施形態の電解液11は、エチレンカーボネート(EC)、テトラグライム(TEG)およびジエトキシエタン(DEE)を含有する非水溶媒を用いている。このような構成を採用することで、支持塩をなすLiイオンに、DEEおよびTEGが溶媒和する。このとき、DEEがTEGよりもドナーナンバーが高いため、DEEが選択的にLiイオンと溶媒和する。このように、支持塩をなすLiイオンにDEEおよびTEGが溶媒和し、Liイオンを保護する。これにより、例え、高温高湿環境下において非水電解質二次電池の内部に水分が侵入した場合であっても、水分とLiとが反応するのを防止できるので、放電容量が低下するのを抑制し、保存特性が向上する効果が得られる。
【0043】
電解液11中の非水溶媒における上記各溶媒の比率は、特に限定されないが、例えば、TEG:30質量%以上48.5質量%以下、DEE:30質量%以上48.5質量%以下、EC:0.5質量%以上10質量%以下、VC:2質量%以上13%以下の範囲(トータル100%)の範囲を選択できる。非水溶媒に含まれるTEGとDEEとECの割合が上記範囲であると、上述した、DEEがLiイオンに溶媒和することでLiイオンが保護される作用が得られる。
【0044】
上述の範囲であっても、VCの含有量について、2.5質量%以上10質量%の範囲が望ましく、5.0質量%以上7.5質量%の範囲がより好ましい。TEGとDEEの含有量の上限値については、48.25質量%以下が好ましく、48質量%以下がより好ましい。VCの含有量が2質量%以上13%以下の範囲の場合、リフローハンダ付け時の加熱を受けたとしても正極缶20および負極缶60からなる外装体3に生じる厚みの変化が小さく、内部抵抗の増加も少なくできる。また、VCの含有量が2.5質量%以上10.0質量%以下の範囲の場合、リフローハンダ付け時の加熱を受けたとしても収容容器2に生じる厚みの変化をより小さくでき、内部抵抗の増加もより少なくできる。これらの範囲内であっても、VCの含有量が5.0質量%以上7.5質量%以下の範囲が最も好ましい。
【0045】
支持塩として、例えば、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO3)2、LiN(FSO2)2等の有機酸リチウム塩や、LiPF6、LiBF4、LiB(C6H5)4、LiCl、LiBr等の無機酸リチウム塩等のリチウム塩等が挙げられる。なかでも、支持塩として、リチウムイオン導電性を有する化合物であるリチウム塩を用いることが好ましく、LiN(CF3SO2)2、LiN(FSO2)2、LiBF4を用いることがより好ましい。特に、耐熱性および水分との反応性が低く、保存特性を充分に発揮できるという観点から、LiN(CF3SO2)2が支持塩として好ましい。支持塩は、上記のうちの1種を単独で用いてもよく、または、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
電解液11中の支持塩の含有量は、支持塩の種類等を勘案して決定できる。例えば、電解液11中の支持塩の含有量は、0.1~3.5mol/Lが好ましく、0.5~3mol/Lがより好ましく、1~2.5mol/Lが特に好ましい。電解液11中の支持塩濃度が高過ぎても、あるいは低過ぎても、電導度の低下が起き、電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0047】
外装体3について詳述する。
外装体3は、有底筒状の正極缶20と、正極缶20の内側に嵌め込まれた環状のガスケット30と、正極缶20の開口部に挿入されてガスケット30を介して正極缶20に組み付けられた有頂筒状の負極缶60と、を備える。外装体3は、正極缶20と負極缶60との間に正極5および負極7を収容する収容空間を形成する。正極缶20および負極缶60は、ガスケット30を挟んで互いに間隔をあけて配置されている。外装体3は、正極缶20の開口縁21をかしめ加工により絞ることで、ガスケット30を負極缶60の外周面に押し付けて封口されている。正極缶20、負極缶60およびガスケット30は、それぞれの中心軸線が共通軸上に位置するように配置されている。以下、この共通軸を軸線Oと称し、軸線Oに沿う方向を軸方向といい、軸線Oに直交して軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、軸線O回りに周回する方向を周方向という。また、軸方向のうち正極缶20の開口方向を「上方」(第1方向)と定義し、上方の反対方向を「下方」(第2方向)と定義する。また、軸線Oに沿う断面を「縦断面」と称する。
【0048】
図2は、実施形態の電池を示す縦断面図であって、外装体を封口する前の状態を示す図である。なお
図2では正極5および負極7等の内容物の図示を省略している。
図2に示すように、正極缶20は、上方に開口した円筒状に形成されている。正極缶20は、円板状の底部22と、底部22の外周縁から全周にわたって正極缶20の開口縁21に向けて上方に延びる正極缶周壁部24と、を備える。正極缶20は、ステンレス鋼板を絞り加工等して形成されている。正極缶20として、例えばSUS316LやSUS329J4L等を用いることができる。
【0049】
図3は、実施形態のガスケットを示す縦断面図である。なお
図3では、ガスケット30が正極缶20および負極缶60に組み付けられる前の単体状態を示している。
図3に示すように、ガスケット30は、周方向に全周にわたって延びる基部31と、基部31の内周面から径方向の内側に突出したゲート部36と、基部31の外周部から全周にわたって上方に延びる外壁部41と、基部31の内周部から外壁部41の内側を全周にわたって上方に延びる内壁部51と、を備える。
【0050】
基部31は、下方を向く底面32と、外壁部41と内壁部51との間で上方を向く天面33と、底面32の内周縁から上方に延びる内周面34と、を備える。底面32の外周部は、正極缶20における底部22および正極缶周壁部24の境界部の内面形状に倣い、下方かつ径方向の外側に突出した湾曲面状に形成されている。内周面34の下部は、底面32の内周縁から上方かつ径方向の内側に延びている。内周面34の上部は、内周面34の下部の上端縁から軸方向に沿って上方に延びている。
【0051】
ゲート部36は、周方向に全周にわたって設けられている。ゲート部36は、内周面34の上部と下部との境界上に形成されている。ただし、ゲート部36は、内周面34の上部および下部の一方に形成されていてもよい。ゲート部36の外表面は、径方向よりも上方に傾斜した方向を向く上面37(傾斜面)を有する。上面37は、縦断面上で径方向に対して傾斜し、径方向の内側から外側に向かうに従い上方に延びて内周面34の上部に接続している。ただし、上面37は、内壁部51の内周面に接続していてもよい。
【0052】
外壁部41は、円筒状に形成されている。外壁部41の内周面は、面取り部42と、案内部43と、シール剤保持部44と、湾曲部45と、を備える。これら面取り部42、案内部43、シール剤保持部44および湾曲部45は、周方向の全周にわたって設けられている。面取り部42は、外壁部41の上端開口縁に形成されている。面取り部42は、上方かつ径方向内側を向いている。案内部43は、面取り部42の下方に隣接している。案内部43は、面取り部42から下方に延びている。案内部43は、一定の内径で軸方向に延びている。
【0053】
シール剤保持部44は、案内部43の下方に隣接している。シール剤保持部44は、流動性を有するシール剤を保持可能とする凹凸構造が形成されている。シール剤は、例えばアスファルトやエポキシ樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチルゴム系接着剤等を用いることができる。シール剤は、シール剤保持部44に塗布された後、乾燥されて用いられる。シール剤保持部44は、径方向の内側に突出し、縦断面上で軸方向に複数(図示の例では5つ)設けられた凸部46と、上下に隣り合う凸部46の間に形成された溝部47と、を備える。凸部46および溝部47は、環状に形成され、周方向に全周にわたって延びている。凸部46は、径方向の内側に向けて先細っている。凸部46の先端は、案内部43よりも径方向の内側に位置する。溝部47の底は、径方向における案内部43と同じ位置に位置している。
【0054】
湾曲部45は、シール剤保持部44の下方に隣接している。湾曲部45は、径方向の外側かつ下方に窪んでいる。湾曲部45は、縦断面上で円弧状に延びている。湾曲部45の下端部は、基部31の天面33に滑らかに接続している。
【0055】
内壁部51は、円筒状に形成されている。内壁部51の上端縁51aは、外壁部41の高さ中心41Cよりも下方に位置している。外壁部41の高さ中心41Cは、基部31の上端縁(天面33)および外壁部41の上端縁41aの軸方向における中心位置である。内壁部51の上端縁51aは、シール剤保持部44の上端縁と軸方向で略同じ位置に位置している。図示の例では、内壁部51の上端縁51aは、シール剤保持部44の上端縁よりも僅かに上方に位置している。内壁部51の内周面52は、軸方向に一定の内径で延びている。内壁部51の内周面52は、基部31の内周面34の上部と同じ内径を有し、基部31の内周面34に連続している。内壁部51の外周面53は、軸方向に対して傾斜して延びている。内壁部51の外周面53は、基部31の天面33に滑らかに接続している。外周面53の下端部は、縦断面上で円弧状に延びている。外周面53の下端部は、外壁部41の内周面の湾曲部45よりも小さい曲率半径で窪んでいる。外周面53は、下方から上方に向かうに従い径方向の内側に延びている。これにより内壁部51は、下端部から上方に向かうに従い漸次薄くなっている。外周面53は、その下端部を除き、縦断面上で直線状に延びている。
【0056】
ガスケット30の外周面は、基部31から外壁部41にわたって設けられている。ガスケット30の外周面は、テーパ部56を備える。テーパ部56は、径方向から見て案内部43およびシール剤保持部44に重なっている。テーパ部56の上端部56uは、径方向から見て案内部43よりも上方に設けられている。テーパ部56の下端部56lは、径方向から見てシール剤保持部44よりも下方に設けられている。本実施形態では、テーパ部56は、ガスケット30の外周面の全体に形成されている。テーパ部56は、下方から上方に向かうに従い漸次拡径して径方向の外側に延びている。換言すると、テーパ部56は、その下端部56lから上方に向かうに従い径方向の外側に延びている。これにより、テーパ部56は、径方向の外側よりも下方に傾斜した方向を向いている。テーパ部56は、縦断面上で直線状に延びている。
【0057】
ガスケット30の基部31の軸方向の寸法は、外壁部41の径方向における最大寸法、および内壁部51の径方向における最大寸法よりも大きい。なおガスケット30の基部31の上下方向の寸法は、基部31の天面33と底面32との間隔である。
【0058】
ガスケット30は、例えば、熱変形温度230℃以上の樹脂により形成されることが好ましい。ガスケット30に用いる樹脂材料の熱変形温度が230℃以上であれば、リフローはんだ付け処理や電池1の使用中の加熱によってガスケット30が著しく変形し、電解液11が漏出するのを防止できる。ガスケット30の材質としては、例えば、ポリフェニルサルファイド(PPS)やポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、液晶ポリマー(LCP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。また、これらの材料にガラス繊維、マイカウイスカー、セラミック微粉末等を、30質量%以下の添加量で添加したものを好適に用いることができる。
【0059】
図4は、実施形態の負極缶を示す縦断面図である。
図4に示すように、負極缶60は、下方に開口した円筒状に形成されている。負極缶60は、円板状の頂部62と、頂部62の外周縁から全周にわたって負極缶60の開口縁61に向けて下方に延びる負極缶周壁部64と、を備える。負極缶60は、ステンレス鋼板を絞り加工等して形成されている。負極缶60として、例えばSUS316LやSUS329J4L、あるいはSUS304等を用いることができる。また、負極缶60として、例えばステンレス鋼に銅やニッケル等を圧着してなるクラッド材を用いてもよい。
【0060】
負極缶周壁部64の外周面は、頂部62の外周縁から負極缶60の開口縁61に向けて拡径するように延びている。負極缶周壁部64は、負極缶60の開口縁61から頂部62に向けて上方に延びる二重筒部71と、頂部62と二重筒部71とを連結する段部65と、を備える。
【0061】
段部65は、周方向の全周にわたって一様に延びている。段部65は、第1湾曲部66と、第2湾曲部67と、第3湾曲部68と、を備える。第1湾曲部66は、頂部62の外周縁に連なっている。第1湾曲部66は、頂部62の外周縁から下方に湾曲して延びている。第1湾曲部66は、90°湾曲している。第1湾曲部66は、負極缶周壁部64の外周面において、縦断面上で一定の第1曲率半径で湾曲している。第2湾曲部67は、第1湾曲部66の下端縁から径方向の外側に湾曲して延びている。第2湾曲部67は、90°湾曲している。第2湾曲部67は、負極缶周壁部64の外周面において、縦断面上で一定の第2曲率半径で湾曲している。第2曲率半径は、第1曲率半径よりも小さい。第3湾曲部68は、第2湾曲部67の外周縁から下方に湾曲して延びている。第3湾曲部68は、90°湾曲している。第3湾曲部68は、負極缶周壁部64の外周面において、縦断面上で一定の第3曲率半径で湾曲している。第3曲率半径は、第1曲率半径よりも小さい。図示の例では、第3曲率半径は、第2曲率半径と等しい。なお、第3湾曲部68の下端部が後述する内筒部72の上端縁72aに連続していれば、第2湾曲部67および第3湾曲部68は、90°未満の角度で鈍角状に湾曲していてもよい。また、図示の例では、第1湾曲部66と第2湾曲部67との間に、縦断面上で軸方向に直線状に延びる部分が設けられているが、この直線状に延びる部分の存在の有無は特に限定されない。
【0062】
二重筒部71は、負極缶60の開口縁61で折り返された一体構造を有する。二重筒部71は、段部65の下端縁から全周にわたって下方に延びる内筒部72と、内筒部72を径方向の外側から囲う外筒部73と、負極缶60の開口縁61に設けられて内筒部72と外筒部73とを接続する折り返し部74と、を備える。
【0063】
内筒部72は、第3湾曲部68に連続して、一定の内径および一定の外径で軸方向に延びている。内筒部72の上端縁72aは、縦断面上での第3湾曲部68の曲率中心と軸方向で一致している。
【0064】
折り返し部74は、内筒部72の下端縁と外筒部73の下端縁とを接続している。折り返し部74は、内筒部72の下端縁から径方向の外側に180°湾曲して延びている。折り返し部74の下面は、縦断面上で下方に突出する凸曲面状に延びている。
【0065】
外筒部73は、折り返し部74から全周にわたって上方に延びている。外筒部73は、内筒部72の外周面に沿って、一定の内径および一定の外径で軸方向に延びている。外筒部73の内周面は、内筒部72の外周面に接していてもよいし、内筒部72の外周面に僅かに間隔をあけていてもよい。外筒部73の外径は、ガスケット30の案内部43の内径と等しい。外筒部73の上端縁73aは、軸方向に直交する平面状に形成されている。外筒部73の上端縁73aは、負極缶60における軸方向の両端間の中心60Cよりも頂部62側(上方)に位置している。外筒部73の上端縁73aは、内筒部72の上端縁72aよりも上方に位置している。換言すると、外筒部73は、内筒部72よりも上方に突出している。外筒部73の上端縁73aは、第3湾曲部68の上端縁68aよりも下方に位置している。なお、第3湾曲部68の上端縁68aは、負極缶周壁部64の外周面における第2湾曲部67および第3湾曲部68の境界に一致し、縦断面上で負極缶周壁部64の外周面の接線方向と軸方向との交差角が極大値をとる箇所である。
【0066】
外筒部73の外周面の上端部には、面取り部75が形成されている。面取り部75は、周方向の全周にわたって形成されている。図示の例では、面取り部75は、いわゆる角面取り形状を有する。ただし、面取り部75の法線方向は、径方向に対して45°傾斜した方向に限定されない。また、面取り部75は、いわゆる丸面取り形状を有していてもよい。
【0067】
図2に示すように、負極缶60は、ガスケット30のシール剤保持部44にシール剤(不図示)が塗布された状態で、ガスケット30に装着される。負極缶60の二重筒部71は、ガスケット30の外壁部41および内壁部51の間の環状溝に挿入される。二重筒部71の下端縁(負極缶60の開口縁61)は、ガスケット30の基部31の天面33に当接している。二重筒部71の外筒部73の外周面には、ガスケット30の外壁部41の内周面が全周にわたって密着している。外筒部73の外周面は、ガスケット30の外壁部41の内周面のうち、少なくともシール剤保持部44の全体に接触している。図示の例では、二重筒部71は、外筒部73によってガスケット30のシール剤保持部44の凸部46(
図3参照)を潰すように、外壁部41の内側に挿入されている。外筒部73の面取り部75および上端縁73aは、シール剤保持部44よりも上方、かつ外壁部41の上端縁41aよりも下方に位置している。負極缶60は、ガスケット30に装着された状態で、ガスケット30とともに正極缶20の内側に挿入される。負極缶60は、頂部62が正極缶20から上方に突出するように配置される。
【0068】
ガスケット30は、正極缶20の開口部に上方から挿入される。ガスケット30の基部31の底面32は、正極缶20の底部22の上面に接触している。ガスケット30の外周面は、正極缶周壁部24の内周面に全周にわたって密着している。ガスケット30の外周面は、軸方向の全長にわたって正極缶周壁部24の内周面に接触している。ここで、ガスケット30は、単体状態で外周面のテーパ部56が径方向の外側よりも下方を向くように形成されているので、正極缶20に挿入されることで正極缶周壁部24によって径方向の内側に押圧される。これにより、ガスケット30の外壁部41は、負極缶60に対して径方向に間隔をあけた部分が径方向の内側に変位するように変形する。図示の例では、ガスケット30の外壁部41のうち負極缶60の外筒部73よりも上方に位置する部分が径方向の内側に変位する。その結果、ガスケット30の外壁部41の内周面における案内部43の上部は、負極缶60の外筒部73の上方で、外筒部73の外周面よりも径方向の内側に膨出する。
【0069】
図1に示すように、正極缶20は、正極缶周壁部24の上部を絞るようにかしめ加工される。正極缶20の開口縁21は、負極缶60の外筒部73の上端縁73aよりも径方向の内側まで絞られる。ガスケット30は、正極缶周壁部24の上部を絞ることで、負極缶60に対して径方向に間隔をあけていた部分が径方向の内側に変位するように変形する。その結果、ガスケット30の外壁部41は、外筒部73の径方向外側から外筒部73の上方を通って第3湾曲部68の上方にわたって配置される。そして、外壁部41は、負極缶60の外筒部73における面取り部75および上端縁73a、並びに段部65の第3湾曲部68に上方から密着する。また、負極缶60は、ガスケット30を介して正極缶周壁部24の上部によって下方に抑え込まれる。これに伴い、ガスケット30は、基部31が負極缶60の開口縁61によって加圧されることで、内壁部51の外周面53が負極缶周壁部64の内周面に沿うように変形する。
【0070】
以上に説明したように、本実施形態の電池1のガスケット30の外壁部41の内周面は、一定の内径で軸方向に延びる案内部43と、案内部43と基部31との間に位置し、シール剤を保持可能なシール剤保持部44と、を備える。外壁部41の外周面は、周方向の全周にわたって延び、下方から上方に向かうに従い漸次拡径するテーパ部56を備える。
【0071】
この構成によれば、シール剤が保持されたシール剤保持部44の内側に負極缶周壁部64を挿入することで、シール剤保持部44と負極缶周壁部64との間にシール剤が配置されるので、ガスケット30と負極缶60との間のシール性を確保できる。また、軸方向でシール剤保持部44を挟んで基部31とは反対側に一定の内径で軸方向に延びる案内部43が形成されているので、外壁部41の内側に負極缶60を挿入する際、負極缶周壁部64をシール剤保持部44に向けてスムーズに案内することができる。そして、外壁部41の内周面とテーパ部56との間の部分は上方に向かうに従い肉厚になっているので、負極缶60が装着されたガスケット30を正極缶20に挿入し、正極缶20の開口縁21をかしめ加工により絞ることで、ガスケット30の外壁部41の肉厚な部分を負極缶60に押し付けて、負極缶60を下方に抑え込むことができる。特に負極缶周壁部64が開口縁61で折り返された二重筒構造を有する場合には、外筒部73の上端縁73aにガスケット30の外壁部41の肉厚な部分を押し付けて、負極缶60を下方に抑え込むことができる。よって、電気容量の増大を図って厚みが増した電池1においても、正極缶20の開口部からガスケット30の表面を伝って内部へ水分が進入することを抑制できる。したがって、本実施形態のガスケット30を用いることで、優れた封止性を有し、かつ電気容量の大きいリフローはんだ付け可能な電池1を形成できる。また、電池1は、上述したガスケット30を備えるので、優れた封止性を有し、かつ電気容量の大きいリフローはんだ付け可能な電池となる。
【0072】
また、テーパ部56は、径方向から見て少なくとも案内部43に重なっている。この構成によれば、外壁部41のうち案内部43が設けられることで一定の内径で延びる部分を肉厚に形成できる。よって、ガスケット30へ負極缶60を装着しやすくしつつ、優れた封止性の確保を実現できる。
【0073】
シール剤保持部44は、案内部43よりも径方向の内側に突出するとともに周方向に沿って全周にわたって延び、軸方向に複数設けられた凸部46を備える。これにより、軸方向で隣り合う凸部46の間には溝部47が形成されるので、シール剤保持部44は、流動性を有するシール剤を溝部47で容易に保持できる。また、凸部46の間の溝部47は周方向に沿って全周にわたって延びるので、シール剤保持部44は、シール剤を全周にわたって保持できる。さらに、凸部46が案内部43よりも径方向の内側に突出しているので、負極缶60の外周面に外壁部41を確実に接触させることができる。したがって、ガスケット30を用いることで、優れた封止性を有する電池1を形成できる。
【0074】
内壁部51の上端縁51aは、軸方向における外壁部41の高さ中心41Cよりも下方に位置する。この構成によれば、内壁部の上端縁が外壁部41の高さ中心41Cよりも上方に位置する構成と比較して、下方に抑え込まれた負極缶60によって基部31が加圧された場合に、内壁部51の変位量を小さくできる。これにより、内壁部51によって正極5や負極7、セパレータ9等に負荷が掛かることを抑制できる。よって、ガスケット30を用いることで内部ショート等の不良の発生を抑制できるので、信頼性の高い電池1を形成できる。
【0075】
軸方向における基部31の寸法は、径方向における外壁部41および内壁部51それぞれの最大寸法よりも大きい。この構成によれば、外壁部41のうち特に基部31に近い部分の肉厚を確保することができる。これにより、電気容量の増大を図って厚みが増した電池1において、ガスケット30の強度を確保することができる。また、正極缶20の底部22と負極缶60の開口縁61との間に十分な量のガスケット30が配置されるので、正極缶20のかしめ加工の際にガスケット30に正極缶20および負極缶60を充分に密着させることができる。したがって、ガスケット30を用いることで、優れた封止性を有する電池1を形成できる。
【0076】
ガスケット30は、基部31の内周面から径方向の内側に突出したゲート部36をさらに備える。ゲート部36の上面37は、縦断面上で径方向の内側から外側に向かうに従い上方に延びている。この構成によれば、ガスケット30を射出成形する際、溶融樹脂は金型のうちゲート部36に対応する空洞部から基部31に対応する空洞部に流れ込む。さらに金型のうち基部31に対応する空洞部に流れ込んだ溶融樹脂は、内壁部51に対応する空洞部に流れ込む。この際、ゲート部36の上面37に対応する金型内面は径方向の内側から外側に向かうに従い上方、すなわち基部31から内壁部51に向かう方向に延びているので、金型における内壁部51に対応する空洞部に溶融樹脂を積極的に導くことができる。特に基部31が厚く形成される場合には、金型における基部31に対応する空洞部に樹脂が溜まりやすいので、上述した作用により内壁部51を確実に形成できる。したがって、ガスケット30を射出成形によって形成する際に、充填不足等の成形不良の発生を抑制できる。
【0077】
内壁部51は、縦断面上で上方に向けて先細っている。これにより、金型における内壁部51に対応する空洞部において、最奥部まで溶融樹脂を充填しやすくすることができる。したがって、ガスケット30を射出成形によって形成する際に、充填不足等の成形不良の発生をより確実に抑制できる。
【0078】
内壁部51の上端縁51aは、負極缶60の外筒部73の上端縁73aよりも下方に位置する。この構成によれば、内壁部の上端縁が外筒部73の上端縁73aよりも上方に位置する構成と比較して、下方に抑え込まれた負極缶60によって基部31が加圧された場合に、内壁部51の変位量を小さくできる。これにより、内壁部51によって正極5や負極7、セパレータ9等に負荷が掛かることを抑制できる。よって、内部ショート等の不良の発生を抑制できる。したがって、信頼性の高い電池1を提供できる。
【0079】
なお、
図2に示す第1実施形態では、ガスケット30の基部31の軸方向の寸法は、外壁部41の径方向における最大寸法、および内壁部51の径方向における最大寸法よりも大きいが、基部と外壁部および内壁部の大きさの関係はこれに限定されない。
図5に示すように、ガスケット130の基部131の軸方向の寸法は、外壁部41の径方向における最大寸法より小さくてもよい。また、図示しないが、ガスケットの基部の軸方向の寸法は、内壁部の径方向における最大寸法よりも小さくてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、内壁部51は、下端部から上方に向かうに従い漸次薄くなっているが、内壁部の形状はこれに限定されない。
図5に示すように、内壁部151は、一定の厚さで軸方向に延びていてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、内壁部51の上端縁51aは、シール剤保持部44の上端縁よりも僅かに上方に位置しているが、内壁部の上端縁とシール剤保持部との位置関係はこれに限定されない。
図5に示すように、内壁部151の上端縁151aは、シール剤保持部44の上端縁よりも下方に位置していてもよい。
【0082】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、ガスケット30が正極缶20の底部22の上面に接触しているが、例えばガスケットと正極缶の底部との間にセパレータおよび正極が配置されていてもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、シール剤保持部44の凸部46および溝部47が環状に形成されているが、凸部および溝部の形状はこれに限定されない。例えば凸部および溝部は螺旋状に形成されていてもよい。また、シール剤保持部は、周方向および軸方向に独立して設けられた複数の凸部を備えていてもよい。また、シール剤保持部は、独立して設けられた複数の凹部を備えていてもよい。また、シール剤保持部は、粗面加工により形成されていてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、ガスケット30の外壁部41に面取り部42が形成されているが、外壁部に面取り部が形成されていなくてもよい。案内部が外壁部の上端開口縁から一定の内径で軸方向に延びていてもよい。
【0085】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…電池(電気化学セル) 5…正極 7…負極 20…正極缶 22…底部 24…正極缶周壁部 30,130…ガスケット 31,131…基部 34…基部の内周面 36…ゲート部 37…上面(傾斜面) 41…外壁部 43…案内部 44…シール剤保持部 46…凸部 51,151…内壁部 56…テーパ部 60…負極缶 61…負極缶の開口縁 62…頂部 64…負極缶周壁部 71…二重筒部 72…内筒部 73…外筒部 O…軸線