(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび受信装置
(51)【国際特許分類】
H04L 25/02 20060101AFI20241212BHJP
H04B 5/22 20240101ALI20241212BHJP
H04B 5/43 20240101ALI20241212BHJP
H04B 5/45 20240101ALI20241212BHJP
H04B 5/48 20240101ALI20241212BHJP
【FI】
H04L25/02 303Z
H04B5/22
H04B5/43
H04B5/45
H04B5/48
H04L25/02 F
(21)【出願番号】P 2020170032
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉木 寛人
【審査官】阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/099853(WO,A1)
【文献】特開2014-053813(JP,A)
【文献】国際公開第2007/063593(WO,A1)
【文献】特開2008-244883(JP,A)
【文献】特開2016-072790(JP,A)
【文献】特表2014-510356(JP,A)
【文献】特開昭58-204646(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0222834(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
H04B 5/22
H04B 5/43
H04B 5/45
H04B 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の装置に具備される送信カプラと第2の装置に具備される受信カプラと
が電
磁界結合を用いて信号を伝送する無線通信システムであって、
前記第1の装置は、前記第2の装置にUniversal Serial Bus(USB)規格に準拠した電源電圧の電力を伝送し、
前記第2の装置は、
2.5GHzを基本周波数とするバイナリデータ信号と、10-50MHzの3値のLow Frequency Periodic Signaling(LFPS)と、を前記受信カプラを介して受信する受信回路
と、
前記受信回路に接続される増幅回路と、を有し、
前記受信回路は、前記送信カプラと前記受信カプラの間の結合容量をC、前記
2.5GHzを基本周波数とするバイナリデータ信号の基本角周波数をωとした場合、10/ωCよりも大きい終端抵抗を有
し、
前記増幅回路は、前記受信回路から出力された信号のうち10-50MHzの周波数を含む信号の増幅度が、2.5GHzの周波数を含む信号の増幅度より大きくなるように前記バイナリデータ信号と前記LFPSとを増幅する
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記第2の装置は、前記受信回路
と前記増幅回路との間に接続されるリドライバを有し、
前記リドライバは、前記受信回路から出力される信号を波形整形し
て出力することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第2の装置は、前記受信回路に接続される増幅回路と、前記増幅回路に接続されるリドライバを有し、
前
記リドライバは、前
記増幅
回路から出力された信号を波形整形して前記第2の装置から出力することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記受信回路は、出力する信号のスパイク電圧を緩和するように更に構成されることを特徴とする請求項
1から
3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記受信回路は、前記受信回路の入力インピーダンスが、前記受信カプラにより受信された信号の周波数に応じて変化するように構成されることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記第1の装置は、前記送信カプラに接続される送信側の増幅回路を有し、前記送信側の増幅回路は、伝送する信号の周波数のうち
10-50MHzの周波数を含む信号の電圧振幅を増幅することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記受信回路は差動増幅回路であることを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記第1の装置および前記第2の装置は、USB3.0以降の規格で規定された信号を送受信することを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記第1の装置および前記第2の装置は、Serial ATAの規格で規定された信号を送受信することを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項10】
受信装置であって、
送信装置に具備される送信カプラ
と電磁界結合を用いて信号を受信する受信カプラと、
2.5GHzを基本周波数とするバイナリデータ信号と、10-50MHzの3値のLow Frequency Periodic Signaling(LFPS)と、を前記受信カプラを介して受信する受信回路
と、
前記受信回路に接続される増幅回路と、を有し、
前記受信回路は、前記送信カプラと前記受信カプラの間の結合容量をC、前記
2.5GHzを基本周波数とするバイナリデータ信号の基本角周波数をωとした場合、10/ωCよりも大きい終端抵抗を有
し、
前記増幅回路は、前記受信回路から出力された信号のうち10-50MHzの周波数を含む信号の増幅度が、2.5GHzの周波数を含む信号の増幅度より大きくなるように前記バイナリデータ信号と前記LFPSとを増幅する
ことを特徴とする受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の信号の伝送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のモジュールまたは複数の電子機器における通信インターフェース間の接続手段として、通常、ハーネスやケーブルが用いられる。ハーネスやケーブルが用いられている箇所を無線化することで、製品の組立性の向上や、製造工程の自動化が容易になるという利点がある。
【0003】
特許文献1には、電界結合を用いて“1”および“0”のデジタル信号を非接触で伝送する無線通信システムが開示されている。特許文献1では、送信機/受信機各々に設けられる結合器(以後、カプラ)を対向させて近接配置することで生じる電界結合を用いて、無線通信を実現している。電界結合は、低域では結合度が弱く、広域では結合度が高いHPF(ハイパスフィルタ)に似た特性を有する。その為、特許文献1のように受信機側のカプラ直後にある回路の終端抵抗を50Ωに設定した場合、受信機側のカプラに生じる波形は、特許文献1に記載されるような不完全微分波形となる。特許文献1では、この不完全微分波形をヒステリシス回路(閾値をもつコンパレータ回路)により“1”および“0”のデジタル信号に整形し、無線通信を行っている。
【0004】
一方、通信規格の1つであるUSB(Universal Serial Bus)インターフェースは、パーソナルコンピュータ(PC)を中心に広く普及しており、UBSインターフェースを搭載した様々なUSB対応機器が市販されている。通信速度の上昇に伴う電力消費を抑えるため、USB3.0の規格以降の規格では、通常のデータ信号とLFPS(Low Frequency Periodic Signaling)信号とを用いて通信することが規定されている。通常のデータ信号は、5Gbps以上の2値のデジタル信号であり、LFPS信号は、10~55MHzの“1”と“0”を周期的に繰り返す信号と電気的idle状態の3値信号となっている。特許文献1で開示された方法は、2値のデジタル信号伝送を想定しているため、3値であるLFPS信号に該方法をそのまま適用して通信することは難しい。
【0005】
このような問題に対処する技術として、通常のデータ信号とLFPS信号の2種類の信号を無線にて伝送する伝送装置の技術が、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-29785号公報
【文献】特開2016-72790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されている伝送装置は、通常のデータ信号とLFPS信号のそれぞれを検出するための2つの検出部と、当該2つの検出部による検出結果に基づいて出力信号の出力を制御する出力制御部を備える構成となっている。このように、特許文献2では、通常のデータ信号とLFPS信号の2種類の信号を伝送するために、2つの検出部と出力制御部が必要であり、複雑な構成となっている。そのため、当該2種類の信号を伝送するために、回路規模が増大してしまうという課題がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、簡易な装置構成で複数種類の信号を伝送することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための一手段として、本発明の無線通信システムは以下の構成を有する。すなわち、第1の装置に具備される送信カプラと第2の装置に具備される受信カプラとが電磁界結合を用いて信号を伝送する無線通信システムであって、前記第1の装置は、前記第2の装置にUniversal Serial Bus(USB)規格に準拠した電源電圧の電力を伝送し、前記第2の装置は、2.5GHzを基本周波数とするバイナリデータ信号と、10-50MHzの3値のLow Frequency Periodic Signaling(LFPS)と、を前記受信カプラを介して受信する受信回路と、前記受信回路に接続される増幅回路と、を有し、前記受信回路は、前記送信カプラと前記受信カプラの間の結合容量をC、前記2.5GHzを基本周波数とするバイナリデータ信号の基本角周波数をωとした場合、10/ωCよりも大きい終端抵抗を有し、前記増幅回路は、前記受信回路から出力された信号のうち10-50MHzの周波数を含む信号の増幅度が、2.5GHzの周波数を含む信号の増幅度より大きくなるように前記バイナリデータ信号と前記LFPSを増幅する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な装置構成で複数種類の信号を伝送することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】第1の受信回路(High-Z差動増幅回路)の構成例を示す。
【
図3】シミュレーション結果(10MHzのLFPS信号伝送時)を示す。
【
図4】シミュレーション結果(5Gbpsのデータ信号伝送時)を示す。
【
図5】低域側の電圧振幅に対する補正機能を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
(無線通信システムの構成)
図1(a)~(c)に、本実施形態における無線通信システム100の構成例を示す。無線通信システム100は、第1の通信モジュール110と第2の通信モジュール120から構成される。
【0014】
図1(a)に示す無線通信システム100における第1の通信モジュール110は、送信カプラ111aと111b、送信回路112を有し、第2の通信モジュール120は、受信カプラ121aと121b、第1の受信回路(High-Z差動受信回路)125、増幅回路(AMP)126、第2の受信回路124を有する。なお、以下の説明において、送信カプラ111aと111bを送信カプラ111と総称し、受信カプラ121aと121bを受信カプラ121と総称する場合がある。
【0015】
本実施形態では、差動信号を伝送する観点から、それぞれの通信モジュールは、2つの分離された導体により構成された2つのカプラを有する。カプラパターンは、例えば、リジット基板やフレキ基板等のパターンや、板金、MID(Molded Interconnect Device、 成形回路部品)工法等により形成する。第1の通信モジュール110の送信カプラ111と、第2の通信モジュール120の受信カプラ121は、近接して対向配置されることで、電磁界結合にて結合される。無線通信システム100は、この電磁界結合を用いて、第1の通信モジュール110と第2の通信モジュール120の間での無線通信(信号の伝送)を実現する。
【0016】
送信回路112は、トランシーバIC(Integrated Circuit)114内に具備され、PC(Personal Computer)などのデバイスからUSBケーブル等の伝送媒体を介して入力された信号をUSB3.0の規格を満足するように波形整形して出力する機能を有する。なお、トランシーバIC 114は、リドライバなどと呼ばれることもあり、USB3.0以降の規格で定められた範囲の波形の信号の送受信が可能であれば良く、特定の構成に限定されない。また、第2の受信回路124は、トランシーバIC127内に具備され、無線にて伝送されたアナログ信号を受信し、カメラなどのデバイスへ基板やUSBケーブル等の伝送媒体を介してUSB3.0の規格を満足するように波形整形してデジタル信号として出力する機能を有する。なお、トランシーバIC 127も、リドライバなどと呼ばれることもあり、トランシーバIC 114同様にUSB3.0以降の規格で定められた波形の信号の送受信が可能であれば良く、特定の構成に限定されない。
【0017】
図1(b)と
図1(c)は、
図1(a)に示す無線通信システム100の変形例を示す。
図1(b)は、増幅回路が第2の通信モジュール120ではなく、第1の通信モジュール110側に、増幅回路113として設けられた構成を示す。
図1(c)は、増幅回路が、第1の通信モジュール110と第2の通信モジュール120の双方に、増幅回路113と増幅回路126として設けられた構成を示す。増幅回路を設ける理由は、後述するように、低周波のLFPS信号の電圧振幅を所定値以上に(規格で定められた電圧範囲に入るように)するためである。
【0018】
(LFPS信号伝送の原理)
次に、
図1に示す無線通信モジュールが3値のLFPS(Low Frequency Periodic Signaling)信号が伝送可能な原理について、
図1(a)に示す無線通信システム100を想定して説明する。まず、LFPS信号について簡単に説明する。送信回路112で生成される信号は“1”および“0”に加え、(電気的idle状態を示す)“idle”の3値となる。USB3.0の規格では、Polling.LFPSおよびPing.LPSは、バースト状のクロック信号を出力している期間と、何も出力しない“idle”の期間(状態)を周期的に繰り返すことが定められている。
【0019】
図2(a)に、
図1(a)に示す無線通信システム100における第1の受信回路125の構成を示す。LFPS信号の信号伝送の流れは以下の通りである。送信回路112で“1”と“0” のいずれかの信号が生成され、送信カプラ111まで伝送される。カプラ間の結合により受信カプラ121に伝送され、その後、第1の受信回路125に入力される。
【0020】
この時、第1の受信回路125のインピーダンスが50Ω系の場合、送信カプラ111と受信カプラ121との間の結合によって生じる容量成分のインピーダンスは、第1の受信回路125の入力インピーダンス100Ω(50Ω×2)と比べて、低域では小さくなり、高域では大きくなる。そのため、受信カプラ121の出力波形は高周波のみが通過した微分波形となってしまう。つまり、“0”または“1”は、“0+idle”または“1+idle”となってしまうため、正確な伝送が困難となる。
【0021】
3値の信号を正確に伝送するために、特許文献2に記載された構成も考えられるが、前述したように、当該構成は回路規模が大きい。そこで、本実施形態では、LFPS信号と5Gbpsのデータ信号を同一の回路で受信するために、第1の受信回路125の入力端子間に接続される終端抵抗Rrxを制御する。具体的には、送信カプラ111と受信カプラ121間の結合容量をCとした場合に、Rrxを10/ωC以上になるように設定する。ただし、ωは信号(伝送するベースバンド信号)の基本角周波数であり、2.5GHzで算出する。このように受信回路の入力インピーダンスを選定することで、回路規模の小型化、簡易化が実現可能となる。
【0022】
(差動受信回路の構成)
図2に、本実施形態における第1の受信回路125の一例を示す。
図2に示す第1の受信回路125は、差動増幅回路である。第1の受信回路125の2つの入力端子は、受信カプラ121aと121bにそれぞれ接続され、その端子間に抵抗Rrxが接続されている。なお、第1の受信回路125の2つの入力端子には、不図示のバイアス回路よりDC電位が供給される。さらに、第1の受信回路125の入力端子と受信カプラ121aや121bの間に抵抗素子などが挿入されていても良い。差動増幅回路は、差動入力端子間の電位差に応じてコレクタ側に接続された負荷抵抗に電流が流れ出力電圧が生じる。そのため、第1の受信回路125は反転増幅回路となるため、反転端子と非反転端子の出力を入れ替える必要があるが、idle時は差動ペア間の電位差が無いため、3値の伝送が可能となる。
【0023】
図3に、本実施形態におけるシミュレーション結果を示す。具体的には、
図3は、カプラ間の結合容量が0.22pFで、送信カプラ111aと111b間の結合容量が0.35pF、受信カプラ121aと121b間の結合容量も0.35pFの時の、10MHzのLFPS信号伝送時の各測定点の波形を示す。
図3(a)は、送信カプラ111に入力される電圧信号Viを、
図3(b)は、第1の受信回路125の入力インピーダンスが100kΩの時の出力電圧信号Voを示す。また、
図3(c)は、第1の受信回路125の入力インピーダンスが1MΩの時の出力電圧信号Voの波形を示す。
図3(b)と
図3(c)の電圧信号の波形を比較することにより、10MHzのLFPS信号に対して、第1の受信回路125の入力インピーダンスが十分高ければ、3値の伝送が可能であることが分かる。
【0024】
なお、第1の受信回路125の例として
図2に示すような差動増幅回路を示したが、特に差動増幅回路に限定されるものではなく、例えば、エミッタフォロワ回路と呼ばれるコレクタ接地回路などを使用することもできる。
【0025】
また、5Gbpsのデータ信号の伝送の流れは、LFPS信号と同様である。
図4に、5Gbpsデータ信号伝送時のアイパターンのシミュレーション結果を示す。
図4(a)は、第1の受信回路125の入力インピーダンスが10kΩの時のアイパターンを示し、
図4(b)は、第1の受信回路125の入力インピーダンスが1MΩの時のアイパターンを示す。
図4より、第1の受信回路125の入力インピーダンスが10kΩの時は、1MΩの時に比べて波形の劣化はあるものの、10kΩ程度でも十分なアイ開口が得られることが分かる。
【0026】
このように、
図3と
図4のシミュレーション結果から、本実施形態の構成を用いることにより、5Gbpsのデジタル信号と10~50MHzの3値のLFPS信号の2種類の信号を無線にて伝送可能なことが分かる。
【0027】
なお、
図3の例では、カプラ間の結合容量を0.22pFとしたが、カプラの実装面積やカプラ間距離をあける必要がある場合は、信号振幅が小さくなってしまう。USB3.0の規格では、LFPS信号の電圧振幅は300mVpp以上にする必要があるため、出力信号を増幅する必要がある。そこで、
図1(a)~(c)の無線通信システム100に示したように、受信(
図1(a))、送信(
図1(b))、または送受とも(
図1(c))に増幅回路を設けることにより、当該規格を満足するレベルまで電圧振幅を増幅することができる。
【0028】
第1の受信回路125の入力インピーダンスが、10~50MHzの周波数でカプラ間の結合容量によるインピーダンスに対して十分高くできない場合は、出力されるLFPS信号の電圧振幅は、
図3(b)に示したような波形となる。10~50MHzに対して300mVpp以上を維持するためには、
図1(a)に示す無線通信システム100を例にすると、前述のように、増幅回路126で信号振幅を増幅することも好適である。しかしながら、第1の受信回路125の後に接続される増幅回路126やトランシーバIC 127の入力端子の電圧トレランスが低い場合には、第1の受信回路125の出力に保護ダイオード(保護回路)を設けてもよい。
図2(b)に、第1の受信回路125の出力に保護ダイオードを設けた例を示す。このように、保護ダイオードを設けたり、
図2(a)の電流源の設定電流を出力が300mVppの20%以上出力できないように設定したりすること等により、スパイク量(スパイク電圧)を緩和することができる。
【0029】
[第1の変形例]
前述のように、第1の受信回路125の入力インピーダンスが100kΩと1MΩの時で、出力電圧の波形が異なることが分かった。また、
図4により、第1の受信回路125の入力インピーダンスが10kΩ(
図4(a))の時と1MΩ(
図4(b))の時とを比べ、波形の劣化はあるものの、10kΩ程度でも十分なアイ開口が得られることが分かった。
【0030】
このように、LFPS信号伝送時と5Gbpsデータ信号伝送時では、第1の受信回路125に要求される入力インピーダンスに乖離がある。つまり、第1の受信回路125は、10~50MHzのLFPS信号に対しては、1MΩ程度のインピーダンスで受信し、5Gbpsデータ信号の伝送に必要な200~5GHzの帯域では10kΩ程度のインピーダンスで受信できれば良い。理由は、カプラ間の容量結合は、ハイパスフィルタのような振る舞いをするため、低周波成分は通過しにくいため、より高いインピーダンスで受信しなければならないが、高周波成分は通過しやすいため比較的低いインピーダンスでも良いためである。
【0031】
このことを考慮して、第1の受信回路125の入力インピーダンスに周波数特性を持たせるように構成してもよい。一般的に、FR4基板上で5GHzまでの周波数に対して、一様に1MΩ程度のインピーダンスを確保するのは困難である。しかしながら、10~50MHz程度の低い周波数に対して1MΩ程度のインピーダンスを実現することは可能である。このように、第1の受信回路125の入力インピーダンスを、受信カプラ121により受信された信号の周波数に応じて変化させることは、10~50MHzのLFPS信号と5Gbpsのデータ信号を同一のカプラと回路で実現する手段には好適であり、構造を簡易化することができる。
【0032】
[第2の変形例]
第1の変形例のように第1の受信回路125の入力インピーダンスを周波数に応じて変化させる代わりに、低域側の電圧振幅を上げる補正を行うことにより、同様の効果を得ることができる。当該補正は、送信側の増幅回路113、受信側の増幅回路126など各回路手段によって実現できる。
【0033】
補正機能について、
図5を参照して説明する。
図5(a)は、カプラ間の結合容量が0.22pF、送信カプラ111aと111b間の結合容量および受信カプラ121aと121b間の結合容量が0.35pF、第1の受信回路125の入力インピーダンスが10kΩの時の、送信回路112から第1の受信回路125までの伝達特性の周波数特性を示している。
図5(a)において、100MHz以上の周波数帯域は、ほぼフラットで伝達可能であることが分かる。しかしながら、100MHz未満の周波数では、ほぼ線形に利得が低下している。
【0034】
図5(b)は、
図5(a)に示す利得低域に対する補正の周波数特性を示し、約2MHz~100MHzの周波数帯域の信号を増幅するような特性になっている。このような特性を有する補正回路(増幅回路126等)を受信側に設けることによって、受信された信号のうち10~50MHzの低周波側のLFPS信号が精度よく識別される。すなわち、10~50MHzの低周波なLFPS信号を、FR4基板で実現可能な範囲の第1の受信回路125のインピーダンス設定時にも、確実に伝送することが可能になる。
【0035】
なお、このような低域補正機能は、送信側に設けられていても良く(すなわち、増幅回路113等による、伝送する信号のうち低周波側の信号に対する補正)、その場合、ノイズ耐性性が向上するといったメリットがある。
【0036】
[第3の変形例]
図6に、第3の変形例における無線通信システム600の構成例を示す。無線通信システム600では、簡易な構成でUSB3.0の無線化を実現することができる。デバイス側がバッテリーなどを搭載しておらず電源の供給を必要とする場合、ホスト側からVBUS等の電源を非接触にて給電することもできる。その場合には、非接触電力伝送からの電磁干渉を受ける可能性があるため、非接触電力伝送の搬送波周波数に対するフィルタ、例えばハイパスフィルタ(HPF)やバンドストップフィルタ(BSF)などにより干渉を回避することでより信頼性の高い無線通信システムをすることもできる。また、USB2.0用の無線モジュールと供に使用することで下位互換性を確保することもできる。
【0037】
[その他の実施形態]
上記の実施形態における無線通信システムでは、差動のベースバンド信号を伝送する無線通信システムとして記載したが、これに限定されるものではなく、シングル信号を伝送する無線通信システムであっても構わない。
【0038】
また、上記の実施形態における無線通信システムは、USB3.0以降の規格への適応を想定したシステムであるが、USBのみならず、3値の信号を用いるシステムに上記の無線通信システムを適用可能である。例えば、Serial ATA(SATA)信号を用いるシステムに、上記の無線通信システムを適用することができる。
【0039】
また、上記の無線通信システムは、パソコンと電子機器を接続するUSBケーブルを無線化することができ、例えばパソコンとカメラ間やパソコンとプリンタ間のUSB通信に適用することができる。
【0040】
このように、上記の実施形態によれば、簡易な構成で小型な製品や小規模な生産設備にも実装可能なサイズで、複数種類の信号を伝送可能な無線通信システムを提供することが可能となる。
【0041】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0042】
100 無線通信システム、110 第1の通信モジュール、120 第2の通信モジュール、111 送信カプラ、121 受信カプラ、112 送信回路、124 第2の受信回路、125第1の受信回路(High-Z差動受信回路)