(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】免震建物用衝突緩衝部材及び免震建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241212BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20241212BHJP
F16F 7/01 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
E04H9/02 351
F16F7/00 B
F16F7/01
(21)【出願番号】P 2020172098
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】高田 友和
(72)【発明者】
【氏名】ファイサル ビン ザマン
(72)【発明者】
【氏名】小槻 祥江
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241602(JP,A)
【文献】特開平10-338938(JP,A)
【文献】特開平10-227154(JP,A)
【文献】特開2014-077229(JP,A)
【文献】特開2019-100143(JP,A)
【文献】特開2022-030067(JP,A)
【文献】特開2022-021052(JP,A)
【文献】実開昭60-011293(JP,U)
【文献】特開2016-211681(JP,A)
【文献】特開2019-116724(JP,A)
【文献】特開2016-138436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 7/00-7/01
E02D 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と上部構造体との間に免震装置が配置され、前記下部構造体に、前記下部構造体に対する所定の水平方向での前記上部構造体の相対変位を規制するストッパが設けられる免震建物において、前記上部構造体と前記ストッパとの少なくとも一方に固定され、前記上部構造体が前記ストッパに衝突する際の衝撃を緩和する免震建物用衝突緩衝部材であって、
多数のチップ状の弾性体をバインダーで接着することで集成して所定形状に形成され、内部に空隙を有している
と共に、
前記水平方向で前記相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って空隙率が連続的又は断続的に大きくなっていることを特徴とする免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項2】
下部構造体と上部構造体との間に免震装置が配置され、前記下部構造体に、前記下部構造体に対する所定の水平方向での前記上部構造体の相対変位を規制するストッパが設けられる免震建物において、前記上部構造体と前記ストッパとの少なくとも一方に固定され、前記上部構造体が前記ストッパに衝突する際の衝撃を緩和する免震建物用衝突緩衝部材であって、
多数のチップ状の弾性体をバインダーで接着することで集成して所定形状に形成され、内部に空隙を有していると共に、
前記相対変位の規制時に衝突する相手側と直接衝突する本体部と、前記一方に固定される固定部とを有し、前記固定部の空隙率は、前記本体部の空隙率よりも小さいことを特徴とする免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項3】
前記水平方向で前記相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って反発係数が連続的又は断続的に小さくなっていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項4】
前記水平方向と直交する鉛直方向での断面積が、前記水平方向で前記相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って連続的又は断続的に小さくなっていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項5】
前記弾性体は、加硫済みのゴムを用いたゴムチップであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項6】
前記本体部と前記固定部とは、同じ材質で一体形成されていることを特徴とする請求項
2に記載の免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項7】
前記本体部の空隙率は、10~50%であることを特徴とする請求項
2又は6に記載の免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項8】
前記固定部の空隙率は、20%以下であることを特徴とする請求項
7に記載の免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項9】
前記本体部の比重は、0.75~0.95であることを特徴とする請求項
2,6乃至8の何れかに記載の免震建物用衝突緩衝部材。
【請求項10】
下部構造体と、
上部構造体と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に配置された免震装置と、
前記下部構造体に設けられ、所定の水平方向での前記上部構造体の相対変位を規制するストッパと、を備え、
前記ストッパと前記上部構造体との少なくとも一方に、請求項1乃至
9の何れかに記載の免震建物用衝突緩衝部材が設けられていることを特徴とする免震建物。
【請求項11】
前記下部構造体は、基礎であり、前記ストッパは、前記基礎に設けられて前記上部構造体の外側を囲む擁壁であって、
前記免震建物用衝突緩衝部材は、互いに対向する前記上部構造体の外壁と前記擁壁との少なくとも一方に設けられて、前記免震建物用衝突緩衝部材と、当該免震建物用衝突緩衝部材と対向配置されて前記相対変位の規制時に衝突する相手側との間には、間隙が設けられていることを特徴とする請求項
10に記載の免震建物。
【請求項12】
下部構造体と、
上部構造体と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に配置された免震装置と、
前記下部構造体と前記上部構造体との少なくとも一方に設けられ、所定の水平方向での前記上部構造体の相対変位を規制するストッパと、を有し、
前記ストッパと、当該ストッパが対向して前記相対変位の規制時に衝突する相手側との少なくとも一方に、前記相対変位の規制時の衝撃を緩和する免震建物用衝突緩衝部材が設けられている免震建物であって、
前記免震建物用衝突緩衝部材は、多数のチップ状の弾性体をバインダーで接着することで集成して所定形状に形成され、内部に空隙を有している
と共に、前記水平方向で前記相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って空隙率が連続的又は断続的に大きくなっていることを特徴とする免震建物。
【請求項13】
下部構造体と、
上部構造体と、
前記下部構造体と前記上部構造体との間に配置された免震装置と、
前記下部構造体と前記上部構造体との少なくとも一方に設けられ、所定の水平方向での前記上部構造体の相対変位を規制するストッパと、を有し、
前記ストッパと、当該ストッパが対向して前記相対変位の規制時に衝突する相手側との少なくとも一方に、前記相対変位の規制時の衝撃を緩和する免震建物用衝突緩衝部材が設けられている免震建物であって、
前記免震建物用衝突緩衝部材は、多数のチップ状の弾性体をバインダーで接着することで集成して所定形状に形成され、内部に空隙を有していると共に、前記相対変位の規制時に衝突する相手側と直接衝突する本体部と、前記一方に固定される固定部とを有し、前記固定部の空隙率は、前記本体部の空隙率よりも小さいことを特徴とする免震建物。
【請求項14】
前記免震建物用衝突緩衝部材と、当該免震建物用衝突緩衝部材が対向して前記相対変位の規制時に衝突する相手側との間には、間隙が設けられていることを特徴とする請求項
12又は13に記載の免震建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に水平方向へ変位した免震建物が擁壁等のストッパに衝突する際の衝撃を緩和するために用いられる衝突緩衝部材と、その衝突緩衝部材を用いた免震建物とに関する。
【背景技術】
【0002】
免震建物は、上部構造体が、基礎等の下部構造体上に免震装置を介して支持されてなり、地震発生時には、上部構造体が下部構造体に対して水平方向へ相対変位することで、上部構造体内部への揺れの伝達を抑制する。この上部構造体の相対変位を規制するために、下部構造体には、擁壁等のストッパが設けられるが、揺れが甚大であると、上部構造体がストッパに衝突した際に損傷するおそれが生じる。この損傷を防止するため、上部構造体とストッパとの少なくとも一方に免震建物用衝突緩衝部材を設けて、上部構造体とストッパとが直接衝突することを回避させる技術が知られている。特に特許文献1には、免震建物用衝突緩衝部材として、ゴム製のソフトケース内にゴムチップを収納してなるゴムチップダンパーを用いる発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のゴムチップダンパーは、ゴムチップがソフトケース内に充填される構造であるため、反発係数や剛性等の特性が不安定で、衝突度合いによる緩衝能力の調整ができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上部構造体とストッパとが直接衝突することを回避できると共に、安定した特性が得られて衝突度合いによる緩衝能力の調整が可能となる免震建物用衝突緩衝部材及び免震建物を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち、第1の発明は、下部構造体と上部構造体との間に免震装置が配置され、下部構造体に、下部構造体に対する所定の水平方向での上部構造体の相対変位を規制するストッパが設けられる免震建物において、上部構造体とストッパとの少なくとも一方に固定され、上部構造体がストッパに衝突する際の衝撃を緩和する免震建物用衝突緩衝部材であって、
多数のチップ状の弾性体をバインダーで接着することで集成して所定形状に形成され、内部に空隙を有していると共に、
水平方向で相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って空隙率が連続的又は断続的に大きくなっているか、若しくは、相対変位の規制時に衝突する相手側と直接衝突する本体部と、一方に固定される固定部とを有し、固定部の空隙率は、本体部の空隙率よりも小さくなっていることを特徴とする。
第1の発明の別の形態は、上記構成において、水平方向で相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って反発係数が連続的又は断続的に小さくなっていることを特徴とする。
第1の発明の別の形態は、上記構成において、水平方向と直交する鉛直方向での断面積が、水平方向で相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って連続的又は断続的に小さくなっていることを特徴とする。
第1の発明の別の形態は、上記構成において、弾性体は、加硫済みのゴムを用いたゴムチップであることを特徴とする。
第1の発明の別の形態は、上記構成において、本体部と固定部とは、同じ材質で一体形成されていることを特徴とする。
第1の発明の別の形態は、上記構成において、本体部の空隙率は、10~50%であることを特徴とする。
第1の発明の別の形態は、上記構成において、固定部の空隙率は、20%以下であることを特徴とする。
第1の発明の別の形態は、上記構成において、本体部の比重は、0.75~0.95であることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第2の発明は、免震建物であって、
下部構造体と、
上部構造体と、
下部構造体と上部構造体との間に配置された免震装置と、
下部構造体に設けられ、所定の水平方向での上部構造体の相対変位を規制するストッパと、を備え、
ストッパと上部構造体との少なくとも一方に、第1の発明の何れかに記載の免震建物用衝突緩衝部材が設けられていることを特徴とする。
第2の発明の別の態様は、上記構成において、下部構造体は、基礎であり、ストッパは、基礎に設けられて上部構造体の外側を囲む擁壁であって、
免震建物用衝突緩衝部材は、互いに対向する上部構造体の外壁と擁壁との少なくとも一方に設けられて、免震建物用衝突緩衝部材と、当該免震建物用衝突緩衝部材と対向配置されて相対変位の規制時に衝突する相手側との間には、間隙が設けられていることを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第3の発明は、免震建物であって、
下部構造体と、
上部構造体と、
下部構造体と上部構造体との間に配置された免震装置と、
下部構造体と上部構造体との少なくとも一方に設けられ、所定の水平方向での上部構造体の相対変位を規制するストッパと、を有し、
ストッパと、当該ストッパが対向して相対変位の規制時に衝突する相手側との少なくとも一方に、相対変位の規制時の衝撃を緩和する免震建物用衝突緩衝部材が設けられている免震建物であって、
免震建物用衝突緩衝部材は、多数のチップ状の弾性体をバインダーで接着することで集成して所定形状に形成され、内部に空隙を有していると共に、水平方向で相対変位の規制時に衝突する相手側へ向かうに従って空隙率が連続的又は断続的に大きくなっているか、若しくは、相対変位の規制時に衝突する相手側と直接衝突する本体部と、一方に固定される固定部とを有し、固定部の空隙率は、本体部の空隙率よりも小さくなっていることを特徴とする。
第3の発明の別の態様は、上記構成において、免震建物用衝突緩衝部材と、当該免震建物用衝突緩衝部材が対向して相対変位の規制時に衝突する相手側との間には、間隙が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上部構造体とストッパとが直接衝突することを回避できると共に、安定した特性が得られて衝突度合いによる緩衝能力の調整が可能となる。
特に、弾性体をバインダーで接着して集成させているので、短時間での製造が可能となる。
特に、免震建物用衝突緩衝部材において、水平方向で反発係数が連続的又は断続的に小さくなり、空隙率が連続的又は断続的に大きくなる態様や、当該水平方向と直交する鉛直方向での断面積が連続的又は断続的に小さくなる態様によれば、衝突した際のエネルギーの吸収を効果的に行うことができる。
特に、弾性体を加硫済みのゴムを用いたゴムチップとする態様によれば、廃タイヤ等を利用して安価に製造可能となる。
特に、免震建物用衝突緩衝部材が本体部と固定部とを備え、固定部の空隙率が本体部の空隙率よりも小さくなる態様によれば、本体部よりも圧縮された固定部が得られる。よって、固定部が本体部より先に破壊することがなく、ストッパ等への固定も確実に行える。
特に、本体部と固定部とを同じ材質で一体形成した態様によれば、免震建物用衝突緩衝部材が低コストで製造可能となる。
特に、本体部の空隙率を10~50%とした態様によれば、衝突エネルギーの吸収に好適な本体部が得られる。
特に、固定部の空隙率を20%以下とした態様によれば、適度に圧縮された固定部が得られる。
特に、本体部の比重を0.75~0.95とした態様によれば、緩衝に適した弾性体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】免震建物用衝突緩衝部材の説明図で、(A)は正面、(B)は側面、(C)は内部構造をそれぞれ示す。
【
図4】中間免震層の説明図で、(A)は正面、(B)は平面をそれぞれ示す。
【
図5】変位状態の中間免震層の説明図で、(A)は正面、(B)は平面をそれぞれ示す。
【
図7】ストッパ機構の他の具体例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、第1の発明に対応する免震建物用衝突緩衝部材(以下単に「衝突緩衝部材」という。)について説明する。
図1は、衝突緩衝部材1の説明図である。
衝突緩衝部材1は、正面視が横長矩形状のブロック体で、長手方向の中央部には、正面視が正方向形状で肉厚の本体部2が形成されている。本体部2の左右には、本体部2よりも薄肉となる一対の固定部3,3がフランジ状に形成されている。各固定部3には、2つの取付穴4,4がそれぞれ形成されている。
衝突緩衝部材1は、廃タイヤ等の加硫ゴムを小片状にした多数のゴムチップ5,5・・を、ウレタン系やエーテル系のバインダーで加熱・加圧接着し、内部に空隙6,6・・を有する状態で集成させたものである。本体部2の比重は、0.75~0.95となっている。但し、本体部2と固定部3とでは、空隙率が異なり、本体部2の空隙率が10~50%、好ましくは30%となっているのに対し、固定部3の空隙率は、20%以下に設定されている。また、固定部3の空隙率が本体部2の空隙率以上とならないように設定されている。
【0010】
図2に、第2の発明に対応する免震建物10の例を示す。ここでは、下部構造体である基礎11と、上部構造体12との間に免震装置13,13・・が設けられている。基礎11は、地盤面から凹状に形成され、外周に、ストッパとなる擁壁14を備えている。免震装置13は、積層ゴム等で形成されて基礎11の底面上に配置され、上部構造体12を支持する。上部構造体12と擁壁14との間には、上部構造体12の水平方向の変位を許容する間隔が設定されている。
衝突緩衝部材1は、例えば固定部3,3が上下になる向きで、取付穴4,4を貫通させた図示しないボルトによって、上部構造体12の四方の各面に、水平方向に所定間隔をおいて複数個ずつ取り付けられる。この状態で各衝突緩衝部材1の本体部2は、擁壁14の内壁に対し、間隙を保った状態で対向する。
【0011】
以上の如く構成された免震建物10において、地震発生時には、免震装置13が水平方向に変位して上部構造体12を基礎11に対して水平方向に相対変位させ、上部構造体12の内部の揺れを抑制する。ここで、甚大な地震によって上部構造体12が過度に変位して擁壁14に近づくようになると、上部構造体12の外壁が衝突緩衝部材1を介して擁壁14に衝突し、上部構造体12の変位が規制される。このとき、衝突緩衝部材1の本体部2は、厚み方向に圧縮変形して衝突エネルギーを吸収する。従って、衝撃力が大きく緩和され、上部構造体12及び擁壁14の損傷が防止される。
特に、衝突緩衝部材1は、内部に空隙6を有しているため、上部構造体12の衝突量が比較的少ない場合、本体部2の変形量が小さくなり、空隙6が圧縮されて低剛性となる。一方、上部構造体12の衝突量が比較的大きい場合、本体部2の変形量が大きくなり、空隙6の圧縮後にゴムチップ5とバインダーとが圧縮されて高剛性となる。
【0012】
このため、上部構造体12が衝突緩衝部材1に衝突した際の衝撃力が小さいと(空隙6が圧縮される段階)、反発係数が小さいため、変位する上部構造体12を柔らかく受け止め、衝突エネルギーを効果的に吸収できる。一方、上部構造体12が衝突緩衝部材1に衝突した際の衝撃力が大きいと(ゴムチップ5とバインダーとが圧縮される段階)、反発係数が大きいため、圧縮量に比例せずに加速度的に増加する反力により上部構造体12の変位を抑制すると共に、大きくなった反発力で上部構造体12を反対側へ押し返すことになる。
【0013】
このように、上記形態の衝突緩衝部材1によれば、多数のチップ状のゴムチップ5(弾性体)を集成して所定形状に形成され、内部に空隙6を有していることで、上部構造体12と擁壁14とが直接衝突することを回避できると共に、安定した特性が得られて衝突度合いによる緩衝能力の調整が可能となる。
特に、水平方向で本体部2の反発係数が連続的に異なっているため、衝突した際のエネルギーの吸収を効果的に行うことができる。
また、弾性体を、加硫済みのゴムを用いたゴムチップ5としているので、廃タイヤ等を利用して安価に製造可能となる。
また、ゴムチップ5は、バインダーで接着して集成させたものであるため、短時間での製造が可能となる。
【0014】
特に、衝突緩衝部材1は、対向配置される擁壁14(相手側)に衝突する本体部2と、上部構造体12に固定される固定部3とを有し、固定部3の空隙率は、本体部2の空隙率よりも小さくなっている。よって、本体部2よりも圧縮された固定部3が得られ、上部構造体12への固定が確実に行える。また、固定部3が本体部2より先に破壊することがない。
また、本体部2と固定部3とは、同じ材質で一体形成されているので、衝突緩衝部材1が低コストで製造可能となる。
また、本体部2の空隙率は、10~50%となっているので、衝突エネルギーの吸収に好適な本体部2が得られる。
また、固定部3の空隙率は、20%以下となっているので、適度に圧縮された固定部3が得られる。
また、本体部2の比重は、0.75~0.95となっているので、緩衝に適した弾性体が得られる。
【0015】
そして、上記形態の免震建物10によれば、基礎11(下部構造体)と、上部構造体12と、基礎11と上部構造体12との間に配置された免震装置13と、基礎11に設けられ、所定の水平方向での上部構造体12の相対変位を規制する擁壁14(ストッパ)と、を備え、上部構造体12に衝突緩衝部材1が設けられている。
この構成により、上部構造体12が擁壁14に衝突した際の過度な衝撃力を効果的に緩和することができる。また、衝突緩衝部材1の採用により、上部構造体12と擁壁14とが直接衝突することを回避できると共に、安定した特性が得られて衝突度合いによる緩衝能力の調整が可能となる。
特に、衝突緩衝部材1と、当該衝突緩衝部材1と対向配置される擁壁14との間には、間隙が設けられているので、衝突緩衝部材1を設けても上部構造体12の相対変位を許容しつつ、衝突時の衝撃緩和が可能となる。
【0016】
なお、衝突緩衝部材は、上記形態のように本体部と固定部とを一体に成型する他、別々に成型した本体部に固定部を接着等で接合することでも形成できる。この場合、本体部を厚み方向で複数の板状部材に分割し、板状部材ごとにゴムチップの充填率(換言すれば空隙率)を変えて積層して接合することで、変位方向で反発係数が断続的に異なるようにすることもできる。この場合も小変位では低剛性、大変位では高剛性となる。
また、ゴムチップの充填率が同じであっても、本体部を、相手側(上記形態では擁壁側)へ向かうに従って横断面積が連続的又は段階的に小さくなるように形成しても、反発係数の変更は可能である。
また、弾性体を集成させた1つのブロックを切削加工して衝突緩衝部材を形成することもできる。
衝突緩衝部材の形状も、上記形態に限らず、例えば固定部を本体部の全周に設けたりすることができる。本体部も、正面視円形状や多角形状等の他の形状も採用できる。
【0017】
一方、弾性体では、ゴムチップの大きさや形状は、特に限定するものではなく、比重も上記形態の数値に限定されない。但し、ゴムチップの比重は1以上であるのが望ましい。廃材以外の加硫ゴムで製造することもできる。
また、上記形態では、衝突緩衝部材を上部構造体に設けているが、擁壁に設けても差し支えない。また、擁壁と上部構造体の外壁とにそれぞれ設けて、変位の際には衝突緩衝部材同士が衝突するようにしてもよい。この場合も衝突緩衝部材同士の間には間隔が設けられる。衝突緩衝部材の数や位置も適宜変更可能である。
【0018】
図3は、第3の発明に対応する免震建物20の例を示す。この免震建物20は、中間免震層21を有している。中間免震層21は、
図4(A)に示すように、下部構造体としての下部躯体22と、上部構造体としての上部躯体23と、下部躯体22と上部躯体23との間に配置される免震装置13,13・・とを備えて、上部躯体23が下部躯体22に対して相対的に水平変位可能となっている。
ここでは中間免震層21内に、上部躯体23の相対変位を規制するストッパ機構Sが設けられている。まず、下部躯体22には、所定の水平方向(
図4(B)に示すA方向)に沿った線上に、所定間隔をおいて一対の下部束材24,24が上向きに立設されている。下部束材24,24間には、A方向と平行にエネルギー吸収部材25が架設されている。このエネルギー吸収部材25には、H形鋼等が使用される。
【0019】
一方、上部躯体23には、A方向と直交する水平方向(
図4に示すB方向)でエネルギー吸収部材25を挟む両側に、所定間隔をおいた一対の上部束材26,26が下向きに立設されている。各上部束材26,26におけるエネルギー吸収部材25側の面に、衝突緩衝部材1が、固定部3,3を上下にして互いに本体部2を対向させた向きで固定されている。よって、各衝突緩衝部材1の本体部2は、エネルギー吸収部材25の側面に対向している。ここでは本体部2の上下のサイズを、エネルギー吸収部材25の側面の上下のサイズと等しくしている。なお、図示しないが、このストッパ機構Sは、
図4とは水平方向に直交する向きでもう一組設けられている。
【0020】
以上の如く構成された免震建物20において、地震発生時には、中間免震層21の免震装置13が水平方向に変位して上部躯体23を下部躯体22に対して水平方向に相対変位させ、上部躯体23の内部の揺れを抑制する。ここで、甚大な地震によって上部躯体23が過度に変位して上部束材26,26がエネルギー吸収部材25に近づくようになると、
図5に示すように、ストッパ機構Sにおいて、上部束材26が衝突緩衝部材1を介してエネルギー吸収部材25の側面に衝突し、上部躯体23の変位が規制される。このとき、衝突緩衝部材1の本体部2は、厚み方向へ圧縮変形して衝突エネルギーを吸収する。従って、衝撃力が大きく緩和され、エネルギー吸収部材25や上部束材26の損傷が防止される。
また、本体部2が衝突する際、エネルギー吸収部材25も水平方向へたわみ、この変形によっても衝突エネルギーを吸収することができる。
さらに、本体部2とエネルギー吸収部材25の側面との上下サイズを同じにして衝突緩衝部材1を固定部3,3が上下となる向きで固定しているので、本体部2が圧縮変形しても固定部3,3を固定するボルトの頭部がエネルギー吸収部材25に衝突することはない。
【0021】
このように、上記形態の免震建物20によれば、下部躯体22(下部構造体)と、上部躯体23(上部構造体)と、下部躯体22と上部躯体23との間に配置された免震装置13と、下部躯体22と上部躯体23との双方に設けられ、所定の水平方向での上部躯体23の相対変位を規制するエネルギー吸収部材25及び上部束材26(ストッパ)と、を備え、上部束材26に、衝突緩衝部材1が設けられている。
この構成により、上部束材26がエネルギー吸収部材25に衝突した際の過度な衝撃力を効果的に緩和することができる。また、衝突緩衝部材1の採用により、安定した特性が得られ、衝突度合いによる緩衝能力の調整が可能となる。
特に、衝突緩衝部材1と、当該衝突緩衝部材1と対向配置されるエネルギー吸収部材25との間には、間隙が設けられているので、衝突緩衝部材1を設けても上部躯体23の相対変位を許容しつつ、衝突時の衝撃緩和が可能となる。
【0022】
なお、
図3~5の形態においても、衝突緩衝部材についての変更は先の形態と同様に採用できる。
また、この形態では、衝突緩衝部材を上部束材に設けているが、エネルギー吸収部材の側面に設けても差し支えない。衝突緩衝部材を上部束材とエネルギー吸収部材とにそれぞれ設けて、変位の際には衝突緩衝部材同士が衝突するようにしてもよい。この場合も衝突緩衝部材同士の間には間隔が設けられる。
さらに、この形態とは逆に、エネルギー吸収部材を上部束材の間に架設して、下部束材とエネルギー吸収部材との少なくとも一方に衝突緩衝部材を設けることもできる。
これらの例においても、衝突緩衝部材の数や位置は適宜変更可能である。
【0023】
図6は、ストッパ機構Sの具体例を示すものである。下部束材24は、下部躯体22から上向きに立設したH形鋼により形成されている。下部束材24の上部には、リブプレート30が、エネルギー吸収部材25のウェブと同じ高さで水平に固定されて、リブプレート30上にエネルギー吸収部材25の端部が固定されている。下部束材24の上部で両フランジ24a,24aの外面には、十字状の補強リブ31,31が固定されている。
エネルギー吸収部材25は、横向き姿勢としたH形鋼により形成されている。
上部束材26,26は、上部躯体23から下向きに垂設したH形鋼により形成されている。衝突緩衝部材1,1は、上部束材26,26の下部で互いに対向するフランジ26a,26aに取り付けられている。衝突緩衝部材1,1の反対側でフランジ26a,26a間には、3枚のリブプレート32,32・・が、上下方向に所定間隔をおいて水平に固定されている。
【0024】
この具体例では、下部束材24,24のリブプレート30,30上に固定されるエネルギー吸収部材25の両フランジ25a,25aの端部は、各下部束材24のフランジ24a,24a間で水平方向(幅方向)の移動が規制される。よって、エネルギー吸収部材25の端部が確実に保持される。また、上部束材26,26では、衝突緩衝部材1,1と反対側にリブプレート32が固定されているので、エネルギー吸収部材25に衝突した際のフランジ26aの変形を防止することができる。
【0025】
図7は、ストッパ機構Sの他の具体例を示すものである。エネルギー吸収部材25と上部束材26との構造は
図6と同じで、下部束材24Aの構造が
図6と異なっている。
各下部束材24Aは、エネルギー吸収部材25の長手方向と直交する面板状で、上部中央には、エネルギー吸収部材25の端部が嵌合する切欠部33がそれぞれ形成されている。切欠部33の下縁には、エネルギー吸収部材25の端部を受けるリブプレート30が水平に固定され、切欠部33の左右両側には、エネルギー吸収部材25の幅方向の移動を規制する一対の規制プレート34,34が鉛直方向に設けられている。各下部束材24Aの両外側には、規制プレート34,34と平行なフランジ24a,24aが設けられて、規制プレート34,34とフランジ24a,24aとの間には、リブプレート35,35・・がそれぞれ水平に固定されている。エネルギー吸収部材25のフランジ25a,25aの端部間にも、リブプレート35,35と延長面上に位置するリブプレート36が水平に固定されている。
【0026】
この具体例では、下部束材24Aがエネルギー吸収部材25と直交する面板状となっているので、
図6よりも剛性が高くなっている。特に、エネルギー吸収部材25の端部の移動を水平方向で規制する規制プレート34,34の外側には、下部束材24Aの面板に加えてリブプレート35も配置されているので、エネルギー吸収部材25の端部の移動規制は確実に行える。エネルギー吸収部材25のフランジ25a,25a間のリブプレート36によってエネルギー吸収部材25の端部自体の変形も抑えられる。
【符号の説明】
【0027】
1・・免震建物用衝突緩衝部材、2・・本体部、3・・固定部、4・・取付穴、10,20・・免震建物、11・・基礎、12・・上部構造体、13・・免震装置、14・・擁壁、21・・中間免震層、22・・下部躯体、23・・上部躯体、24,24A・・下部束材、25・・エネルギー吸収部材、26・・上部束材、S・・ストッパ機構。