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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】基板保持部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20241212BHJP
   C04B 35/581 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C04B35/581
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020175428
(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公開番号】P2022066856
(43)【公開日】2022-05-02
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】大木 敬介
(72)【発明者】
【氏名】森田 直年
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 洋史
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-009021(JP,A)
【文献】再公表特許第2020/105521(JP,A1)
【文献】特開2007-186382(JP,A)
【文献】特開2004-345952(JP,A)
【文献】特開2008-124265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 35/581
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板保持部材であって、
基板載置面を有し、AlNを主成分とするセラミックス焼結体からなる平板状の基板保持部材本体と、
ワイヤーを織り込んだメッシュで形成され、前記基板保持部材本体に埋設された電極と、を備え、
前記電極は、W、WC、WC、Mo、MoC、またはMoCのいずれか1つ以上を主成分とし、希土類元素を含み、
前記ワイヤーは、線径が0.02mm以上0.15mm以下であることを特徴とする基板保持部材。
【請求項2】
前記ワイヤーは、線径が0.10mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の基板保持部材。
【請求項3】
前記電極は、前記希土類元素を0.1atom%以上3.0atom%以下含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の基板保持部材。
【請求項4】
前記希土類元素は、LaまたはCeであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の基板保持部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置用の部材としてAlNセラミックスに電極が埋設されたサセプタ-、静電チャックまたはセラミックスヒーター等の基板保持部材が提案されている。
【0003】
特許文献1には、セラミック焼結体と、このセラミック焼結体に接触するように設けられている抵抗発熱体とを備えているセラミックヒーターであって、抵抗発熱体が、周期律表4a、5aおよび6a族元素から選ばれた一種以上の金属を含む金属と、この金属の炭化物とを含むことにより、焼結過程における金属の反応を抑制しヒーター加熱面の温度の均一性の変動を抑制することが記載されている。例としてMoやWを抵抗発熱体としている。
【0004】
特許文献2には、アルミナセラミック基材にヒーター電極を埋設したセラミックヒーターにおいて、抵抗率温度依存性を改善することを主目的とし、アルミナセラミック基材と、前記アルミナセラミック基材に埋設され、少なくともチタン成分を含有するモリブデンで構成されたヒーター電極と、を備えたものが開示されている。このセラミックヒーターでは、ヒーター電極が少なくともチタン成分を含有するモリブデンで構成されているため、抵抗率温度依存性が改善されると記載されている。
【0005】
特許文献3には、AlNセラミックス焼結体に内部電極及び前記内部電極に電気的に接続された金属塊が埋設され、前記金属塊の一部が外部に露出したセラミックス部材が開示されている。前記金属塊は、タングステン又はモリブデンに、カリウム、希土類元素の酸化物、希土類元素の窒化物、希土類元素の炭化物及び希土類元素の硼化物の群から選択される少なくとも1の添加物が添加された金属からなる。これにより金属塊が高温化によって粗粒化し脆化することの抑制を図ることが可能となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3888531号公報
【文献】特開2013-229310号公報
【文献】特開2019-9021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AlNセラミックス製の焼結体に、MoやWを主成分とする金属のメッシュからなるヒーターエレメント等とするための電極を埋設すると、AlNセラミックス焼成時のバインダーやジグ、環境からC成分が混入してMoやWと反応し、体積抵抗率の高いMoC、WC、WCが一部に生成する。炭化は焼成体の電極の埋設位置やメッシュを形成するワイヤーの線径などの寸法に起因するほか、焼成条件等のわずかな違いに影響を受けて変動するため、同一条件で複数の製品を製造しても製品間の電極の抵抗値のバラツキが生じるだけでなく、例えば、一製品におけるヒーターの温度分布の不均一性を招いていた。
【0008】
また、本発明者らの研究により、AlNセラミックス製の焼結体に、MoやWを主成分とする金属のメッシュからなるヒーターエレメント等とするための電極を埋設する場合、ワイヤーの線径が大きいときやワイヤーを構成する粒子の粒子径が大きいときには焼結時にワイヤーの圧裂が生じやすく、これが複数の製品間や一製品の部分ごとの抵抗値のバラツキの原因の一つとなっていることを突き止めた。これに対し、ワイヤーの線径を小さくすることである程度焼結時の圧裂の発生を抑制できたものの、ワイヤーの線径が小さいと炭化が進みやすい。炭化が進むと、電極材料のMoやWが粒成長するので、粒成長の結果として圧裂や体積抵抗率の変化が発生しやすくなり、体積抵抗率のばらつきが生じるため、設計通りの値にすることが難しかった。そのためヒーターエレメントの体積抵抗率を安定化させたAlNセラミックスヒーターが望まれていた。
【0009】
しかしながら、特許文献1は、金属元素とその金属元素の炭化物を含むことで焼結過程における金属の反応を抑制することを目的としているため、炭化が進むことを前提とする場合には抵抗値や体積抵抗率のバラツキを低減することはできない。また、特許文献2は、抵抗率温度依存性の逆転現象を改善することを主目的としているため、抵抗値や体積抵抗率のバラツキを低減することは考慮していない。また、特許文献3は、電極とは異なる金属塊の脆化の抑制を目的としているため、抵抗値や体積抵抗率のバラツキを低減することは考慮していない。
【0010】
本発明者らは、ワイヤーの線径を小さくすることで圧裂の発生が抑制されること、および電極材料に希土類元素を添加することで粒成長が抑制され体積抵抗率の変化を小さくできることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、同一条件で製造した複数の製品における電極の体積抵抗率のバラツキを低減させることができ、電極設計が容易である基板保持部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の基板保持部材は、基板保持部材であって、基板載置面を有し、AlNを主成分とするセラミックス焼結体からなる平板状の基板保持部材本体と、ワイヤーを織り込んだメッシュで形成され、前記基板保持部材本体に埋設された電極と、を備え、前記電極は、W、WC、WC、Mo、MoC、またはMoCのいずれか1つ以上を主成分とし、希土類元素を含み、前記ワイヤーは、線径が0.02mm以上0.15mm以下であることを特徴としている。
【0013】
このように、基板保持部材のワイヤーを織り込んだメッシュで形成された電極を、W、WC、WC、Mo、MoC、MoCのいずれかを主成分とし、希土類元素を含む素材で構成し、ワイヤーの線径を0.02mm以上0.15mm以下とすることで、同一条件で製造した複数の製品における電極の体積抵抗率のバラツキを低減させることができ、基板保持部材の電極設計が容易になる。これにより、例えば、基板保持部材をヒーターに適用した場合、複数の製品間の電極の抵抗値のバラツキを低減でき、個々のヒーターの基板載置面の温度均一性を向上させることができる。
【0014】
(2)また、本発明の基板保持部材において、前記ワイヤーは、線径が0.10mm以下であることを特徴としている。
【0015】
このように、十分に細いワイヤーで電極を構成することで、焼結時にワイヤーに圧裂が生じる虞をより低減させることができ、また、電極の上部のセラミックスを薄い絶縁層として構成しても、絶縁層にクラックを生じさせる虞をより低減させることができる。
【0016】
(3)また、本発明の基板保持部材において、前記電極は、前記希土類元素を0.1atоm%以上3.0atоm%以下含むことを特徴としている。
【0017】
このように、希土類元素の含有濃度が小さくても本発明の効果を奏するので、コストを低減することができる。
【0018】
(4)また、本発明の基板保持部材において、前記希土類元素は、LaまたはCeであることを特徴としている。
【0019】
このような材料を使用することで、本発明の効果を奏する電極を具体的に構成できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、同一条件で製造した複数の製品における電極の体積抵抗率のバラツキを低減させることができ、基板保持部材の電極設計が容易になる。これにより、例えば、基板保持部材をヒーターに適用した場合、複数の製品間の電極の抵抗値のバラツキを低減でき、個々のヒーターの基板載置面の温度均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る基板保持部材の一例を示す断面図である。
図2】電極にクラック(圧裂)が生じた際のマイクロスコープ画像およびSEM画像である。
図3】基板保持部材に埋設された電極について、焼成温度の上昇に対して電極の炭化がどのように進むかを示すグラフである。
図4】実施例および比較例の製造条件および測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0023】
[実施形態]
[基板保持部材の構成]
まず、本実施形態に係る基板保持部材の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る基板保持部材の一例を示す断面図である。本実施形態に係る基板保持部材100は、基板保持部材本体110と、電極120と、を備える。基板保持部材100は、ヒーター、静電チャック等に適用される。
【0024】
基板保持部材本体110は、AlN(窒化アルミニウム)を主成分とするセラミックス焼結体からなり、平板状に形成され、一方の主面に基板載置面112を有する。この先端部に基板が載置される。基板保持部材本体の形状は、例えば、基板載置面112は表面から突出した複数の突起が形成する平面で形成されてもよく、基板保持部材本体の外形も円形、四角形等、被載置基板の形状に応じて選択されてもよい。
【0025】
AlNを主成分とするとは、セラミックス焼結体にAlNが90wt%以上含まれることをいう。AlNセラミックスは、熱伝導率をあげるために2a族元素や3a族元素の酸化物からなる焼結助剤を添加することが多い。一般的に、焼結助剤の添加量は、量を増やすと熱伝導率が高くなるが、一定量以上添加すると熱伝導率の低下を引き起こすことが知られている。しかし、2a族元素や3a族元素の酸化物からなる焼結助剤の含有量が一定量以上になると熱伝導率が低下する。したがって、2a族元素や3a族元素の酸化物からなる焼結助剤の含有量は、10体積%以下とすることが望ましい。2a族元素の添加物としては、Mg、Ca、Sr、Ba等が挙げられ、3a族元素の添加物としては、Y、La、Sm、Ce等が挙げられる。
【0026】
AlNを主成分とするセラミックス焼結体は、熱伝導率が高く、耐熱性、耐プラズマ性に優れており、添加する焼結助剤の種類や量を調整することで、容易に熱伝導率を調整することができる。そのため、AlNを主成分とするセラミックス焼結体により基板保持部材本体110を形成することで、熱伝導率が調整され、耐熱性、耐プラズマ性に優れた基板保持部材本体110を構成できる。
【0027】
電極120の材質は、W、WC、WC、Mo、MoC、またはMoCのいずれか1つ以上を主成分とし、希土類元素を含む。W、WC、WC、Mo、MoC、またはMoCのいずれか1つ以上を主成分とするとは、電極120全体に占めるW、WC、WC、Mo、MoC、またはMoCの合計の割合が98wt%以上であることをいう。電極120は、タングステン(W)とタングステン炭化物(WCまたはWC)の両方、または、モリブデン(Mo)とモリブデン炭化物(MoCまたはMoC)の両方を含むことが好ましい。
【0028】
電極120に含まれる希土類元素は、La、Ce、Nd、Dy、Er等とすることができる。このうち、希土類元素は、LaまたはCeであることが好ましい。電極120に含まれる希土類元素は、含有濃度が小さくても効果を発揮する。そのため、電極120に含まれる希土類元素は0.1atоm%以上3.0atоm%以下であることが好ましい。これにより、コストを低減することができる。希土類元素の添加の方法は金属を添加してもよいし、酸化物、炭化物、または窒化物の形態で添加してもよい。これらの金属は従前の金属冶金の手法で作製される。
【0029】
MoまたはWに希土類元素が含まれることで、MoまたはWの再結晶温度が高くなる。本発明者らは、電極を構成するMoまたはWに希土類元素が含まれることで、AlNセラミックスに埋設された電極がAlNセラミックスと共に高温で焼成されても、電極を構成する粒子の粒成長が抑制され、電極を構成する粒子が粗粒化しないことを見出した。希土類元素はMoまたはWの粒界に存在するため、MoまたはWの粒成長の抑制効果を有すると推測される。また、希土類元素はMoやWに少量添加しても、MoやWの性質に影響をあまり与えないことが知られている。また、その結果、電極を構成する粒子が炭化し脆化した場合であっても電極にクラック(圧裂)の発生する虞や体積抵抗率の変化が発生する虞が低減され、抵抗値のバラツキが低減されることを見出した。図2は、電極にクラック(圧裂)が生じた際のマイクロスコープ画像およびSEM画像である。電極にこのようなクラックが発生すると、その部分での抵抗が高くなることがある。
【0030】
電極120のメッシュを形成するワイヤーは、線径が0.02mm以上0.15mm以下である。WやMoは融点が高く加工が難しいので、線径が0.02mm未満のワイヤーは、製造が困難である。また、線径が0.15mmより大きいワイヤーを織り込んでメッシュを形成すると、焼結時にワイヤーに圧裂が生じる虞が高くなる。また、ワイヤーの交点部分のメッシュの厚さは0.3mmより大きくなり、電極120の上部のセラミックスを薄い絶縁層として構成する場合に、絶縁層にクラックを生じさせる虞が増大する。したがって、ワイヤーは、線径が0.10mm以下であることが好ましい。このように、十分に細いワイヤーで電極120を構成することで、焼結時にワイヤーに圧裂が生じる虞をより低減することができ、また、電極120の上部のセラミックスを薄い絶縁層として構成しても、絶縁層にクラックを生じさせる虞をより低減させることができる。
【0031】
基板保持部材本体110は、複数の電極を備えていてもよい。例えば、ヒーター用電極と静電吸着用電極とを備えることで、基板保持部材100は、ヒーター付静電チャックとして使用できる。その場合、少なくとも一方の電極が、本発明の電極120であればよい。2以上の電極が本発明の電極120であってもよい。図1の基板保持部材100は、基板載置面112側の電極120が静電吸着用電極、反対側の電極120がヒーター用電極である例を示している。
【0032】
基板保持部材100は、上記以外に必要な端子および端子穴を備える。これにより、電極120に給電することができる。図1では、端子および端子穴は図示していない。
【0033】
本発明の基板保持部材は、同一条件で製造した複数の製品における電極の体積抵抗率のバラツキを低減させることができ、基板保持部材の電極設計が容易になる。これにより、例えば、基板保持部材をヒーターに適用した場合、複数の製品間の電極の抵抗値のバラツキを低減でき、個々のヒーターの基板載置面の温度均一性を向上させることができる。
【0034】
[基板保持部材の製造方法]
次に、本実施形態に係る基板保持部材の製造方法を説明する。本実施形態に係る基板保持部材は、例えば、粉末ホットプレス法によって作製される。粉末ホットプレス法は、セラミックス原料粉と所定の電極を交互に重ねることにより電極をセラミックスの内部に埋設し、それを1軸ホットプレス焼成する方法である。粉末ホットプレス法を採用することで短期間に作製することができる。なお、製法は本方法に限られず、例えば、特許6148845号で開示されている成形体ホットプレス法や、従前のグリーンシート積層法等であってもよい。
【0035】
例えば、AlNセラミックス粉末に焼結助剤、バインダー、可塑剤、分散剤などの添加剤を適宜添加して混合して、セラミックス原料粉(スラリー)を作製し、スプレードライ法等により原料粉末(顆粒)を造粒する。混合方法は、湿式、乾式の何れであってもよく、例えば、ボールミル、振動ミルなどの混合器を用いることができる。
【0036】
AlNセラミックス粉末は、高純度であることが好ましく、その純度は、好ましくは96%以上、より好ましくは98%以上である。また、セラミックス粉末の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上1.0μm以下、より好ましくは0.3μm以上0.8μm以下である。
【0037】
AlNセラミックスは焼結温度が高温であるため、AlNセラミックス焼結体に埋設される電極の材質は、高融点金属である必要がある。そのため、電極の材質には、希土類元素を含むMoまたはWを用いる。これら電極をAlNセラミックス成形時に埋設し同時に焼結する。電極のメッシュを形成するワイヤーは、線径が0.02mm以上0.15mm以下である。電極は焼成時に一部が炭化等するが、焼成前後で線径にほとんど変化はない。
【0038】
焼結は、一軸ホットプレス焼成が好ましい。有底のカーボン型に静電チャックの絶縁層に対応する原料粉末を充填し、一軸プレス後に所定形状に裁断された電極を成形体上に配置する。その上に同じ原料粉末を充填しカーボン型のパンチを載せ成形後、1700℃以上2000℃以下の温度条件、1MPa以上20MPa以下の圧力条件で、0.1時間以上20時間以下、ホットプレス焼成する。焼成後は基板載置面および裏面のほか所定の形状に加工する。
【0039】
焼成後の基板保持部材本体110に必要な端子穴を設ける。そして、端子穴にロウ材等で端子を接続する。端子は、Ni等を用いることができる。また、ロウ材はAuロウ等を用いることができる。
【0040】
このようにすることで、同一条件で製造した複数の製品における電極の体積抵抗率のバラツキを低減させることができ、電極設計が容易である基板保持部材を製造することができる。
【0041】
[実施例および比較例]
(電極の炭化実験)
図3は、基板保持部材に埋設された電極について、焼成温度の上昇に対して電極の炭化がどのように進むかを示すグラフである。実施例および比較例と同一のAlNを主成分とするセラミックス原料粉の顆粒を用いたセラミックス成形体に、実施例1と同一の1atom%La添加Moのワイヤーを使用したメッシュ電極を埋設した試料を複数準備した。図3のそれぞれのグラフは、これらの試料について、焼成温度を800℃、1000℃、1200℃、1400℃、および実施例と同じ1800℃としたときの焼成後の電極のXRDの回折X線の強度を示すグラフである。
【0042】
一番下のグラフは、焼成前の電極の回折X線である。その上の2つのグラフは800℃で焼成した試料の中央部の電極の回折X線、および外周部の電極の回折X線である。以降、1000℃の試料の中央部、および外周部のグラフ、1200℃、1400℃のグラフと続く。上の2つのグラフは、実施例と同じ1800℃焼成のグラフである。なお、中央部の電極とは、試料の中心を通るある断面において中心に最も近い位置の電極をいう。また、外周部の電極とは、試料の中心を通る同一の断面の全長を2Rとしたとき、中心からの距離が0.9Rに最も近い位置の電極をいう。
【0043】
図3のグラフに示されるように、未焼成または800℃で焼成した試料は、40.7°付近のMoを示すピークが検出されている。焼成温度が1000℃、1200℃と高くなるにつれて、39.6°付近のMoCを示すピークが検出され、Moを示すピークは小さくなる。そして、1800℃で焼成した試料は、中央部付近の電極にMoとMoCのピークが検出され、外周部の電極はMoCのピークが検出された。また、図示していないが、希土類元素を添加していない従来の電極でも、1800℃焼成時に中央部ではMoとMoCのピークが検出され、外周部ではMoCのピークが検出された。
【0044】
この実験により、希土類元素を添加した電極であっても、炭化に影響を与えないことが分かった。
【0045】
(実施例1)
5wt%Yを添加したAlNを主成分とするセラミックス原料粉を準備した。これにバインダー、可塑剤、分散剤の添加剤を適宜添加して混合して、セラミックス原料粉のスラリーを作製し、スプレードライ法により顆粒を造粒した。有底のカーボン型に基板保持部材の絶縁層に対応する原料粉末(顆粒)を充填し、一軸プレス後に電極を成形体上に配置した。その上に同じ原料粉末を充填しカーボン型のパンチを載せ、1800℃、10MPaの圧力、温度条件でホットプレス焼成した。焼成後は基板載置面および裏面を形成するほか所定の形状(直径300mm、厚み20mm)に機械加工し、抵抗測定用の電極の座を露出させる穴加工を裏面より行った。
【0046】
電極は、Moメッシュ(メッシュサイズ#50)を裁断したものを埋設した。Moメッシュのワイヤー線径Φは0.05mm、ワイヤー組成は1atom%La添加Moである。電極形状は両端を有する一定幅(5mm)のパターンとして、電極の両端部に抵抗測定用の座を設けた。同一の静電チャックを同一条件で3ケ作製した。
【0047】
(評価方法)
焼成前のセラミックス焼結体に埋設していない電極、および焼成後の電極の抵抗値をテスターで測定し、その変化率と変化率のバラツキを評価した。焼成前後の抵抗値は、同一条件で作製した複数の試料の平均値である。抵抗値のバラツキは、同一条件で作製した複数の試料について、(抵抗の最大値-抵抗の最小値)/抵抗の平均値で評価した。電極の粒子径は抵抗評価後に試験片を切断し、ワイヤー断面を2000倍でSEM観察により粒子径を評価した。電極の組成はX線回折装置およびEPMAにより組成を決定した。
【0048】
実施例1の評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.120Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.257Ω、抵抗の変化率は114%、バラツキは8.2%、焼成前の電極の粒子径は20μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が34μm、外周部が37μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMoC、焼成後の電極の組織は、中央部、外周部ともクラックなしであった。中央部および外周部の位置は、上記と同様である。
【0049】
(実施例2)
実施例2は、ワイヤー線径Φを0.10mmとした以外、実施例1と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.080Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.129Ω、抵抗の変化率は61.3%、バラツキは5.4%、焼成前の電極の粒子径は20μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が32μm、外周部が35μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMoC、焼成後の電極の組織は、中央部、外周部ともクラックなしであった。
【0050】
(実施例3)
実施例3は、ワイヤー線径をΦ0.15mmとした以外、実施例1と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.065Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.097Ω、抵抗の変化率は49.7%、バラツキは4.8%、焼成前の電極の粒子径は20μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が30μm、外周部が33μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMo、MoC、焼成後の電極の組織は、中央部、外周部ともクラックなしであった。
【0051】
(実施例4)
実施例4は、ワイヤーの組成を、0.1atom%La添加したMoとした以外、実施例2と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.076Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.130Ω、抵抗の変化率は71.0%、バラツキは6.4%、焼成前の電極の粒子径は22μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が42μm、外周部が45μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMoC、焼成後の電極の組織は、中央部、外周部ともクラックなしであった。
【0052】
(実施例5)
実施例5は、ワイヤーの組成を、3atom%La添加したMoとした以外、実施例2と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.097Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.175Ω、抵抗の変化率は80.4%、バラツキは5.0%、焼成前の電極の粒子径は26μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が37μm、外周部が41μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMoC、焼成後の電極の組織は、中央部、外周部ともクラックなしであった。
【0053】
(実施例6)
実施例6は、ワイヤーの組成を、1atom%Ce添加したMoとした以外、実施例2と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.083Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.145Ω、抵抗の変化率は74.7%、バラツキは5.1%、焼成前の電極の粒子径は25μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が35μm、外周部が40μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMoC、焼成後の電極の組織は、中央部、外周部ともクラックなしであった。
【0054】
(実施例7)
実施例7は、ワイヤーの組成を、1atom%La添加したWとした以外、実施例2と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.055Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.091Ω、抵抗の変化率は65.5%、バラツキは4.9%、焼成前の電極の粒子径は22μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が27μm、外周部が35μm、焼成後の電極組成は、中央部がW、WC、WC、外周部がW、WC、WC、焼成後の電極の組織は、中央部、外周部ともクラックなしであった。
【0055】
(比較例1)
比較例1は、ワイヤー組成を、Moのみとした以外、実施例1と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.124Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.469Ω、抵抗の変化率は278%、バラツキは14.4%、焼成前の電極の粒子径は27μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が70μm、外周部が75μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMoC、焼成後の電極の組織は、中央部はクラックなし、外周部にクラック発生であった。
【0056】
(比較例2)
比較例1は、ワイヤー組成を、Moのみとした以外、実施例2と同じ条件で作製した。評価結果は、焼成前の抵抗値の平均は0.090Ω、焼成後の抵抗値の平均は0.284Ω、抵抗の変化率は216%、バラツキは10.6%、焼成前の電極の粒子径は27μm、焼成後の電極の粒子径は中央部が70μm、外周部が72μm、焼成後の電極組成は、中央部がMo、MoC、外周部がMoC、焼成後の電極の組織は、中央部はクラックなし、外周部にクラック発生であった。
【0057】
図4の表は、実施例および比較例の製造条件および評価結果を示す表である。実施例1は、電極を構成するMoがMoC化しても粒子径小さく維持されるため、靭性は比較的高く維持されているものと推測される。また、ワイヤー線径も大きすぎず、ホットプレス時の応力すなわち圧裂引張方向の応力が(ホットプレス圧力/ワイヤー直径)に影響を受けてこれが抑制されたため、電極にクラックが入らなかったものと推測される。その結果、電極の中央部と外周部で電極の組成が異なっても相対的に抵抗のバラツキは小さく抑えられたものと推測される。
【0058】
実施例2は、実施例1と同様に一部がMoC化してもLaの添加により粒子径が小さく抑えられたことに加え、靭性の向上、さらにワイヤー径が実施例1より大きくホットプレス時の応力(圧裂方向の応力)が更に抑制されたため、電極にクラックが入らなかったものと推測される。その結果、電極の中央部と外周部で電極の組成が異なっても相対的に抵抗のバラツキは小さく抑えられたものと推測される。
【0059】
実施例3は、実施例1、2と比較して更にワイヤー線径を大きくした例である。線径を大きくしたため、外周部でも焼成によってMoは全てMoCとならずMoとMoCの混晶組織となった。その結果、相対的に高抵抗を示すMoCの形成が少ないため、抵抗値の変化率は相対的に小さく抑制されたものと推定される。同時に線径が大きくなっても相対的に延性の高いMoが残存しているためクラックが入らなかったものと推定される。
【0060】
実施例4は、希土類元素の添加量が少なくても実施例2と同様に一部がMoC化し粒子径が小さく抑えられたことに加え、靭性の向上する効果があり、そのため電極にクラックが入らなかったものと推測される。その結果、電極の中央部と外周部で電極の組成が異なっても相対的に抵抗のバラツキは小さく抑えられたものと推測される。
【0061】
実施例5は、希土類元素の添加量がある程度多くても実施例2と同様に一部がMoC化し粒子径が小さく抑えられたことに加え、靭性の向上する効果があり、そのため電極にクラックが入らなかったものと推測される。その結果、電極の中央部と外周部で電極の組成が異なっても相対的に抵抗のバラツキは小さく抑えられたものと推測される。
【0062】
実施例6は、別の希土類元素を添加したものであるが、実施例2と同様な効果が得られた。これは希土類元素のイオン半径が相対的に同程度であったため希土類元素の種によらず効果が得られたものと推定される。
【0063】
実施例7は、電極の素材の主成分をWとしたものである。MoとWはともに周期律表6A族に属し近似した特性を有する。そのため、希土類元素添加効果も同様な効果が得られたものと推定される。
【0064】
比較例1は、ワイヤー線径Φ0.05mmでは外周部がMoCの生成によりワイヤー全体が脆化し、かつ、粒成長により靭性低下したため圧裂したと推測される。その結果、外周部の抵抗が大きくかつバラツキが大きくなったものと推測される。
【0065】
比較例2は、電極組織に一部Moが残るものの、線径が大きくホットプレス時の圧力によって電極にクラック(圧裂)が入ったものと推測される。
【0066】
以上により、本発明の基板保持部材は、同一条件で製造した複数の製品における電極の体積抵抗率のバラツキを低減させることができ、電極設計が容易である基板保持部材であることが確かめられた。
【0067】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0068】
100 基板保持部材
110 基板保持部材本体
112 基板載置面
120 電極
図1
図2
図3
図4