(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】模擬血管
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20241212BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20241212BHJP
G09B 19/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
G09B19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020187375
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二見 聡一
【審査官】柳 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-326083(JP,A)
【文献】特開2016-157121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00
19/00
23/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールのゲルで形成され、かつ、中空部を有する管状の模擬血管であって、
前記模擬血管は、前記模擬血管の横断面における仮想直線であって、前記模擬血管の内壁の特定点を通り、かつ、前記特定点と、前記模擬血管の外壁との間の距離が最短距離となる仮想直線上において、
貫通力の値が第1の値超である第1の部分と、
前記第1の部分に対して前記外壁側に位置し、かつ、貫通力の値が第2の値超である第2の部分と、
前記第1の部分と前記第2の部分との間に位置し、かつ、貫通力の値が前記第1の値と前記第2の値とのいずれの値より小さい第3の値以下である第3の部分と、を有する、
特定構造を備え
、
前記第1の部分と、前記第2の部分とにおける貫通力の値は、50g超であり、
前記第3の部分における貫通力の値は、50g以下である、
模擬血管。
【請求項2】
請求項1に記載の模擬血管において、
前記第1の部分と、前記第2の部分と、前記第3の部分とは、それぞれ、ポリビニルアルコールのゲルで形成されている、
模擬血管。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の模擬血管において、
前記第3の部分における貫通力の最大値は、前記第1の部分における貫通力の最大値の40%以下の値である、
模擬血管。
【請求項4】
請求項
1から請求項3までのいずれか一項に記載の模擬血管において、
前記仮想直線上において、前記第1の部分の長さと、前記第2の部分の長さと、前記第3の部分の長さとの合計の長さに占める前記第3の部分の長さの割合は、30%以下である、
模擬血管。
【請求項5】
請求項1から請求項
4までのいずれか一項に記載の模擬血管において、
前記第1の部分と、前記第2の部分とは、それぞれ、化学架橋された化学架橋部位から構成されている、
模擬血管。
【請求項6】
ポリビニルアルコールのゲルで形成され、かつ、中空部を有する管状の模擬血管であって、
前記模擬血管は、前記模擬血管の横断面における仮想直線であって、前記模擬血管の内壁の特定点を通り、かつ、前記特定点と、前記模擬血管の外壁との間の距離が最短距離となる仮想直線上において、
貫通力の値が第1の値超である第1の部分と、
前記第1の部分に対して前記外壁側に位置し、かつ、貫通力の値が第2の値超である第2の部分と、
前記第1の部分と前記第2の部分との間に位置し、かつ、貫通力の値が前記第1の値と前記第2の値とのいずれの値より小さい第3の値以下である第3の部分と、を有する、
特定構造を備え、
前記第2の部分に対して前記外壁側に位置する第4の部分を有し、
前記第4の部分は、化学架橋されている化学架橋部位のみから構成されており、
前記第4の部分における貫通力の値は、前記第2の部分の最大値より小さく、かつ、前記第3の部分の前記第3の値より大きい、
模擬血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、模擬血管に関する。
【背景技術】
【0002】
血管における狭窄部や閉塞部(以下、「病変部」という)における血流を回復させるために、経皮的血管形成術(以下、「PTA」という)や、経皮的冠動脈形成術(以下、「PTCA」という)が広く行われている。PTAやPTCA(以下、「PTA等」という)では、例えば、バルーン拡張法等の種々の手技が採用されている。
【0003】
バルーン拡張法による手技は、例えば、以下の手順により行われる。すなわち、ガイドワイヤを血管内に挿入し、ガイドワイヤが血管内の病変部を通過するまでガイドワイヤを押し進める。次に、ガイドワイヤをレールにして、バルーンカテーテルを病変部まで進める。その後、バルーンカテーテルのバルーンを拡張させることにより、病変部の血管壁を内側から押し広げる。これらの手技により、血液の通路が確保され、血流が回復する。
【0004】
PTA等による手技では、手技者に繊細な操作が求められる上に、血管における病変部の位置や状態は患者毎に種々異なるため、PTA等の手技を習得することは容易ではない。そのため、PTA等の手技を向上させるためのトレーニング用として、血管を模した模擬血管が種々提案されている。
【0005】
ここで、実際の血管は、一般に、比較的弾力のある、管状の内膜と、内膜の外側を取り巻く中膜と、中膜の外側を取り巻く外膜とを有している。また、実際の血管では、更に、内膜と中膜との間に内弾性板が存在し、中膜と外膜との間に外弾性板が存在している。
【0006】
一方、外科手術における血管の切開、切開部の吻合および血管同士の吻合等の手技を向上させるためのトレーニング用として、実際の血管の内膜と、中膜と、外膜とをそれぞれ模擬した模擬血管が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、当該模擬血管は、内膜層と、内膜層の外側に配置される中膜層と、中膜層の外側に配置される外膜層とを有する。当該模擬血管は、更に、内膜層と中膜層との間と、中膜層と外膜層との間とに、それぞれメッシュ層を備えている。内膜層と、中膜層と、外膜層とは、シリコーンゴム等により形成されている。メッシュ層は、複数の貫通孔が形成された柔軟性を有するシート状部材であって、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成樹脂で形成されたシート状部材により構成されている。
【0007】
また、模擬血管の形成材料として、ポリビニルアルコールを用いる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-53897号公報
【文献】特開2011-8213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、実際の病変部の状態は種々多様であり、例えば、実際の血管内に、慢性完全閉塞のような病変部が存在する場合がある。このような場合には、ガイドワイヤを病変部へ押し進める手技を採用することが困難である。このため、血管内を進行するガイドワイヤで、血管壁(内膜)を貫通させた後、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させることにより病変部の位置を通過させて、バルーンカテーテルにより内膜と中膜との間を押し広げる手技を行うことがある。内膜と中膜との間は、内膜や中膜の膜厚部分に比べて、低負荷でガイドワイヤを進行させることができるためである。このような手技により、内膜と中膜との間に血液の通路が確保され、血流が回復する。
【0010】
このような手技を練習するために、実際の血管に近似した層構造を有する模擬血管を提供することが望まれている。より具体的には、ガイドワイヤを内膜に貫通させる際の感覚を有しつつ、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させる際の感覚を有する、実際の血管と近似した模擬血管が望まれている。
【0011】
なお、上記課題は、PTA等の手技を向上させるためのトレーニングに用いられる模擬血管に限らず、模擬血管と病変部を模した模擬病変部とを備える血管病変モデルや、層構造を有する臓器モデル等の生体モデル一般に共通の課題である。
【0012】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0014】
(1)本明細書に開示される模擬血管は、ポリビニルアルコールのゲルで形成され、かつ、中空部を有する管状の模擬血管であって、前記模擬血管は、前記模擬血管の横断面における仮想直線であって、前記模擬血管の内壁の特定点を通り、かつ、前記特定点と、前記模擬血管の外壁との間の距離が最短距離となる仮想直線上において、貫通力の値が第1の値超である第1の部分と、前記第1の部分に対して前記外壁側に位置し、かつ、貫通力の値が第2の値超である第2の部分と、前記第1の部分と前記第2の部分との間に位置し、かつ、貫通力の値が前記第1の値と前記第2の値とのいずれの値より小さい第3の値以下である第3の部分と、を有する、特定構造を備える。
【0015】
本模擬血管はPVAゲルで形成されている。このため、本模擬血管は、実際の血管の近似した良好な弾性や柔軟性を有することができる。また、本模擬血管は、貫通力の値が比較的高い第1の部分および第2の部分と、第1の部分と第2の部分との間に配置され、貫通力の値が第1の部分と第2の部分とのいずれの値より小さい第3の部分とを有する。このため、例えば、模擬血管の内側に位置する第1の部分と、第1の部分に対して外壁側に位置する第2の部分とが、それぞれ、比較的弾力のある実際の血管の内膜と中膜とを模擬し、第3の部分が、実際の血管の内膜と中膜との間を模擬することができる。このように、本模擬血管によれば、ガイドワイヤを内膜に貫通させる際の感覚を模擬しつつ、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させる際の感覚を模擬した模擬血管を提供することができる。
【0016】
(2)上記模擬血管において、前記第1の部分と、前記第2の部分と、前記第3の部分とは、それぞれ、ポリビニルアルコールのゲルで形成されている構成としてもよい。すなわち、第1の部分と、第2の部分と、第3の部分とが、単一の形成材料で形成されている。このため、隣り合う部分同士の親和性が良好となり、全体として一体的に構成することが可能となる。このため、本模擬血管によれば、より効果的に実際の血管を模擬した模擬血管を提供することができる。
【0017】
(3)上記模擬血管において、前記第3の部分における貫通力の最大値は、前記第1の部分における貫通力の最大値の40%以下の値である構成としてもよい。本模擬血管によれば、第3の部分が、第1の部分と比較して、ガイドワイヤを進行させることがより容易となるため、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させる際の感覚を、より効果的に模擬した模擬血管を提供することができる。
【0018】
(4)上記模擬血管において、前記第1の部分と、前記第2の部分とにおける貫通力の値は、50g超であり、前記第3の部分における貫通力の値は、50g以下である構成としてもよい。本模擬血管によれば、第1の部分および第2の部分の貫通力の値を、実際の血管の内膜および中膜の貫通力の値に近似させつつ、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させる際の感覚を、より効果的に模擬した模擬血管を提供することができる。
【0019】
(5)上記模擬血管において、前記仮想直線上において、前記第1の部分の長さと、前記第2の部分の長さと、前記第3の部分の長さとの合計の長さに占める前記第3の部分の長さの割合は、30%以下である構成としてもよい。本模擬血管によれば、第3の部分の長さ(厚み)が、第1の部分の長さ(厚み)および第2の部分の長さ(厚み)と比較して小さいため、実際の血管の内膜および中膜と、内膜と中膜との間とを、より効果的に模擬した模擬血管を提供することができる。
【0020】
(6)上記模擬血管において、前記第1の部分と、前記第2の部分とは、それぞれ、化学架橋された化学架橋部位から構成されている構成としてもよい。本模擬血管によれば、第1の部分と第2の部分とが、それぞれ、化学架橋された化学架橋部位から構成されているため、実際の血管のしなやかさと貫通力の高さとを、より効果的に模擬した模擬血管を提供することができる。
【0021】
(7)上記模擬血管において、前記第2の部分に対して前記外壁側に位置する第4の部分を有し、前記第4の部分は、化学架橋されている化学架橋部位のみから構成されており、前記第4の部分における貫通力の値は、前記第2の部分の最大値より小さく、かつ、前記第3の部分の前記第3の値より大きい構成としてもよい。本模擬血管によれば、例えば、更に、外膜を備えた実際の血管の層構造を、より効果的に模擬した模擬血管を提供することができる。
【0022】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、生体モデル、生体モデルを備えるトレーニングキット、生体モデルを備えるシミュレータ、それらの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態における模擬血管100の外観構成を概略的に示す説明図
【
図2】第1実施形態における模擬血管100の横断面の構成を拡大して示す説明図
【
図3】第1実施形態における模擬血管100の製造方法を示すフローチャート
【
図4】第1実施形態における模擬血管100の製造方法を概念的に示す説明図
【
図5】第2実施形態における模擬血管100aの横断面の構成を拡大して示す説明図
【
図6】第3実施形態における模擬血管100bの横断面の構成を拡大して示す説明図
【
図7】第4実施形態における模擬血管100cの横断面の構成を拡大して示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0024】
A.第1実施形態:
A-1.模擬血管100の構成:
図1は、第1実施形態における模擬血管100の外観構成を概略的に示す説明図であり、
図2は、第1実施形態における模擬血管100の横断面の構成を拡大して示す説明図である。
図2には、
図1のII-IIの位置における模擬血管100のYZ断面構成が示されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、模擬血管100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置または使用されていてもよい。
図3以降についても同様である。
【0025】
模擬血管100は、実際の血管を模した装置である。模擬血管100は、単独で、他の模擬血管や模擬病変と組み合わせて、または、トレーニングキットやシミュレータの一部として、例えば、PTA等の手技を向上させるためのトレーニングやPTA等に用いるガイドワイヤ等の医療機器の性能評価等に使用される。
【0026】
図1に示すように、模擬血管100は、X軸方向に延びる円管状の部材であり、中空部Hを有する。模擬血管100は、中空部Hを画定する内壁S1と、外壁S2とを有する。模擬血管100の外径EDは、例えば、10~50mm(好ましくは20~40mm)であり、内径ID(中空部Hの直径)は、例えば、5~45mm(好ましくは15~35mm)である。また、模擬血管100は、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」ともいう)をゲル化させたPVAゲルにより形成されている。このため、模擬血管100は、実際の血管と同様に、良好な可撓性を有している。より具体的には、模擬血管100は、PVAを化学架橋によりゲル化させた化学架橋ゲルを含んでいる。ここで、本明細書において、「ゲル」とは、常温または模擬血管100の使用温度(例えば、20℃~50℃)においてゲル状であることを意味している。模擬血管100の形成材料であるPVAとしては、ポリ酢酸ビニルのケン化により得られるPVA単独重合体、酢酸ビニルとこれと共重合可能な他のモノマーとの共重合体のケン化により得られるPVA共重合体、PVAに含まれる一部のヒドロキシル基が他の置換基に置換されたPVA変性体等を挙げることができる。上記PVA共重合体に用いられる他のモノマーとしては、特に限定されず、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、t-ブチル安息香酸ビニル等の従来公知のモノマーを挙げることができる。また、上記PVA変性体に用いられる他の置換基としては、特に限定されず、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、アセトアセチル基、アミン基等を挙げることができる。上記PVAは、好ましくは、酢酸ビニルに基づく重合単位及びビニルアルコールに基づく重合単位の合計が90モル%以上の重合体であり、より好ましくは95モル%以上の重合体であり、更に好ましくは、PVA単独重合体である。形状安定性・柔軟性等において実際の血管により近い物性を示すとともに、生体への安全性を有することから、生体モデルとしての取扱いが簡便であるためである。なお、上記PVAは、1種単独で、または、2種以上を組み合わせて使用されうる。
【0027】
本実施形態において、PVAの平均重合度は、例えば、500以上、3000以下程度である。当該平均重合度が、500未満であると、得られるゲルが柔らかくなり、模擬血管として自立した形状を維持することが困難である傾向がある。これに対し、当該平均重合度が、3000を超えると、PVAの溶媒(例えば、水)等への溶解性が低下し、均一なゲル形状への成形が困難になるため、所望の形状に成形することが困難になる傾向がある。当該平均重合度は、より好ましくは、1000以上、2000以下程度であり、さらに好ましくは、1500以上、1800以下程度である。また、PVAのケン化度は、例えば、80モル%以上程度である。当該ケン化度が、80モル%未満であると、PVAゲルを成形することが困難になる傾向がある。当該ケン化度は、より好ましくは、90モル%以上であり、さらに好ましくは、98モル%以上である。
【0028】
なお、PVAゲルは、「物理架橋ゲル」と「化学架橋ゲル」とに分類される。「物理架橋ゲル」は、水素結合やイオン結合等の非共有結合で架橋されているゲルであり、温度変化等の外力により可逆的に架橋点が生成消滅するゲルを意味している。一方、「化学架橋ゲル」は、共有結合で架橋されているゲルであり、温度変化等の外力により架橋点が消滅することのないゲルを意味している。PVAゲルにおける化学架橋の程度は、PVAゲルの硬度に影響を及ぼす。より具体的には、PVAゲルにおける化学架橋の形成割合が多いほど、PVAゲルの硬度は高くなり、PVAゲルにおける化学架橋の程度が高いほど、PVAゲルの硬度は高くなる。すなわち、PVAゲルにおける化学架橋が進行するほど、PVAゲルの硬度は高くなる。
【0029】
ここで、PVAゲルにおける「化学架橋の程度」は、例えば、PVAゲルにおける化学架橋により形成された置換基が示すスペクトルの強度等、従来公知の方法によって表すことができる。上記PVAゲルにおける化学架橋により形成された置換基が示すスペクトルの強度は、従来公知の方法により評価することができ、例えば、次の方法により評価することができる。例えば、化学架橋剤としてグルタルアルデヒドを使用することにより、PVAを化学架橋した場合、PVAゲル中にエステル基が形成される。核磁気共鳴分光法(NMR分光法)や赤外分光法(IR分光法)を用いて、このエステル基に特有のスペクトル(化学シフトまたはピーク)を特定し、特定されたスペクトルの強度を算出する。
【0030】
図2に示すように、本実施形態の模擬血管100は、4層構造を備えている。より具体的には、内壁S1側から順に、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20と、外側潤滑層40とを備えている。各層は、それぞれ、PVAゲルにより形成されている。なお、各層を形成するPVAゲルの組成は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。内側硬質層10は、特許請求の範囲における第1の部分の一例であり、外側硬質層20は、特許請求の範囲における第2の部分の一例である。また、軟質層30は、特許請求の範囲における第3の部分の一例であり、外側潤滑層40は、特許請求の範囲における第4の部分の一例である。
【0031】
内側硬質層10は、比較的硬質なPVAゲル層であり、化学架橋ゲルから構成されている。内側硬質層10の層厚T1は、例えば、0.5mm以上、20mm以下程度であってよく、3mm以上、15mm以下程度であってよい。また、内側硬質層10における貫通力の値は、例えば、30g超であり、また、40g超であり、更には、50g超である。このように、内側硬質層10は、化学架橋ゲルを含んでいるため、比較的高い貫通力の値を有する。このため、内側硬質層10は、実際の血管における内膜に近似した性質(比較的高い弾性および可撓性)を発揮することができる。内側硬質層10における貫通力の値30g、40gおよび50gは、それぞれ、特許請求の範囲における第1の値の一例である。
【0032】
外側硬質層20は、内側硬質層10に対して外壁S2側に位置している。外側硬質層20は、内側硬質層10と同様に、比較的硬質なPVAゲル層であり、化学架橋ゲルから構成されている。外側硬質層20の層厚T2は、例えば、0.5mm以上、20mm以下程度であってよく、3mm以上、15mm以下程度であってよい。また、外側硬質層20における貫通力の値は、例えば、30g超であり、また、40g超であり、更には、50g超である。本実施形態において、外側硬質層20の層厚T2および貫通力の値は、内側硬質層10の層厚T1および貫通力の値と、それぞれ同等である。このように、外側硬質層20は、内側硬質層10と同様に、化学架橋ゲルを含んでいるため、比較的高い貫通力の値を有する。このため、外側硬質層20は、実際の血管における中膜に近似した性質(比較的高い弾性および可撓性)を発揮することができる。外側硬質層20における貫通力の値30g、40gおよび50gは、それぞれ、特許請求の範囲における第2の値の一例である。
【0033】
軟質層30は、内側硬質層10と外側硬質層20との間に位置している。軟質層30は、比較的脆弱であり、若干の化学架橋ゲルを含むPVAゲル層である。軟質層30における化学架橋の程度は、内側硬質層10と、外側硬質層20と、外側潤滑層40とにおける化学架橋の程度と比較して低い。軟質層30の層厚T3は、例えば、0.01mm以上、3mm以下程度であってよく、0.05mm以上、1mm以下程度であってよい。本実施形態において、軟質層30の層厚T3は、内側硬質層10の層厚T1および外側硬質層20の層厚T2より小さく、更には、層厚T1と層厚T2と層厚T3との合計厚みに占める層厚T3の割合(層厚T3/(層厚T1+層厚T2+層厚T3)×100)は、30%以下であり、更には、15%以下である。また、軟質層30における貫通力の値は、内側硬質層10における貫通力の値と、外側硬質層20における貫通力の値とのいずれの値より小さい。本実施形態において、軟質層30における貫通力の最大値は、内側硬質層10における貫通力の最大値より小さく、更には、軟質層30における貫通力の最大値は、内側硬質層10における貫通力の最大値の40%以下であり、更には、20%以下である。本実施形態において、軟質層30における貫通力の値は、例えば、50g以下であり、また、40g以下であり、更には、30g以下である。このように、軟質層30は、化学架橋の程度が低いため、比較的低い貫通力の値を有する。このため、軟質層30は、実際の血管における内膜と中膜との間の間隙に近似した性質(比較的低い弾性および可撓性)を発揮することができる。軟質層30における貫通力の値30g、40g、および50gは、それぞれ、特許請求の範囲における第3の値の一例である。
【0034】
外側潤滑層40は、外側硬質層20に対して外壁S2側に位置している。外側潤滑層40は、比較的柔軟なPVAゲル層であり、化学架橋ゲルのみから構成されている。外側潤滑層40の層厚T4は、例えば、0.5mm以上、20mm以下程度であってよく、3mm以上、15mm以下程度であってよい。本実施形態において、外側潤滑層40の層厚T4は、内側硬質層10の層厚T1および外側硬質層20の層厚T2と、同等である。また、本実施形態において、外側潤滑層40における貫通力の値は、外側硬質層20における貫通力の最大値より小さく、かつ、軟質層30における貫通力の値より大きい。このように、外側潤滑層40は、内側硬質層10および外側硬質層20と同様に、化学架橋ゲルを含んでいるため、比較的高い貫通力の値を有する。このため、外側潤滑層40は、実際の血管における外膜に近似した性質(比較的高い弾性および可撓性)を発揮することができる。本実施形態において、外側潤滑層40における化学架橋の程度は、内側硬質層10および外側硬質層20における化学架橋の程度と比較して低い。
【0035】
模擬血管100の一例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ30g超、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において30g以下であり、外側潤滑層40において35g以上、120g未満(また、100g未満、更には80g未満、そして70g以下)である、層構造を挙げることができる。また、模擬血管100の他の例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ50g超、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において50g以下であり、外側潤滑層40において35g以上、120g未満(また、100g未満、更には80g未満、そして70g以下)である、層構造を挙げることができる。
【0036】
上述の「内側硬質層10における貫通力の値」とは、例えば、
図2に示す模擬血管100の横断面において、内側硬質層10の貫通力を、中心点POを中心とする円周方向において等間隔に5箇所(例えば、
図2の仮想直線VL上の点を中心点として、当該中心点から円周方向の両側に2点ずつ)測定したときの平均値とすることができる。また、上述の「内側硬質層10における貫通力の最大値」とは、例えば、内側硬質層10の貫通力(上記平均値)を
図2の仮想直線VL上をP1から径方向に軟質層30の方向に順番に測定したときの最大値とすることができる。なお、他の層における「貫通力の値」または「貫通力の最大値」についても、上記と同様である。
【0037】
本明細書において、貫通力の値は、例えば、次の方法で測定することができる。Stable Micro Systems社製のTexture Analyzerと、針形状の測定プローブとを用いる。当該測定プローブを、模擬血管100の横断面における貫通力の測定箇所に、2mm/秒の速度で下降させ、測定プローブが模擬血管100に進入したときの最大荷重を貫通力とした。
【0038】
本明細書において、上記各層は、例えば、次の方法で特定することができる。
図2に示すように、模擬血管100の横断面における仮想直線VL上において、内壁S1側から外壁S2側へと、複数箇所の貫通力を測定する。例えば、内側硬質層10及び外側硬質層20の貫通力の値が50g超である場合、内壁S1の特定点P1を始点とし、測定された貫通力の値が連続して50g超である測定箇所の中で、始点から最も離れた測定箇所を終点とし、当該始点から当該終点までを内側硬質層10と特定することができる。測定された貫通力の値が50g超となる測定箇所の中で、内側硬質層10の終点から外壁S2側へ最も近い測定箇所を始点とし、当該始点から外壁S2側で最も高い貫通力の測定箇所を終点とし、当該始点から当該終点までを外側硬質層20と特定することができる。内側硬質層10の終点から、外側硬質層20の始点までを軟質層30と特定することができる。外側硬質層20の終点から、外壁S2の特定点P2までを外側潤滑層40と特定することができる。上記において、仮想直線VLは、模擬血管100の内壁S1の特定点P1と、外壁S2の特定点P2とを通る直線である。特定点P2は、特定点P1と模擬血管100の外壁S2との間の距離が最短距離となる点である。本実施形態において、仮想直線VLは、模擬血管100の中心点POを通る。
なお、上記では内側硬質層10及び外側硬質層20の貫通力の値が50g超である場合について説明したが、当該貫通力の値が40g超である場合、30g超である場合でも同様に各層を特定することができる。後述する実施形態においても同様である。
【0039】
A-2.模擬血管100の製造方法:
次に、第1実施形態における模擬血管100の製造方法を説明する。
図3は、本実施形態における模擬血管100の製造方法を示すフローチャートである。また、
図4は、本実施形態における模擬血管100の製造方法を概念的に示す説明図である。
図4の右欄には、左欄に示すX1部における部分拡大図が示されている。
【0040】
はじめに、酸触媒ACが含浸された物理架橋ゲルPGで形成された第1の筒状体CB1を準備する(S110、
図4(A)参照)。より具体的には、模擬血管100の中空部Hの直径と略同一の直径を有する第1の筒状体CB1を準備する。より詳しくは、物理架橋ゲルPGは、例えば、キャストドライ法や凍結解凍法といった公知の方法により作製することができる。キャストドライ法は、水にPVAを加えて熱処理を行うことにより所定の濃度のPVA水溶液を作製し、このPVA水溶液を乾燥させることにより物理架橋ゲルを得る方法である。また、凍結解凍法は、上記と同様のPVA水溶液に対して、凍結処理と解凍処理とを所定の回数繰り返すことにより物理架橋ゲルを得る方法である。物理架橋ゲルPGを作製する際には、当該物理架橋ゲルPGを構成するPVAの濃度を高めることにより、物理架橋の程度を高めて、模擬血管100における硬度や弾性を高めることができる。その後、上記公知の方法により得られた物理架橋ゲルPGを管状に成形し、成形された管状体を酸触媒ACに浸漬することにより、第1の筒状体CB1を作製することができる。酸触媒ACとしては、特に限定されず、例えば、クエン酸、塩酸等を挙げることができる。酸触媒ACの濃度は、例えば、0.01mol/L以上、1.0mol/L以下程度であり、より好ましくは、0.1mol/L以上、0.3mol/L以下程度である。第1の筒状体CB1は、例えば、上記管状体を、0.5Nクエン酸水溶液に、1atm下、25℃で10分間浸漬することにより得ることができる。
【0041】
次に、架橋剤CL含有PVA溶液PS(以下、「PVA溶液PS」という)と、架橋剤CL含有水溶液AS(以下、「水溶液AS」という)とを準備する(S120,S130)。架橋剤CLとしては、特に限定されず、例えば、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ホルマリン、テレフタルアルデヒド等のジアルデヒド等を挙げることができる。ここで、ジアルデヒドとは、アルデヒド基(ホルミル基)を2つ有するアルデヒドである。ジアルデヒドの濃度は、例えば、0.01mol/L以上、1.0mol/L以下程度であり、より好ましくは、0.1mol/L以上、0.3mol/L以下程度である。
【0042】
次に、第1の筒状体CB1の中空部Hを水溶液ASで満たすとともに、第1の筒状体CB1をPVA溶液PSに浸漬させる(S140、
図4(B)参照)。ステップS140の工程は、例えば、中空部Hがグルタルアルデヒドの25%水溶液で満たされた第1の筒状体CB1をグルタルアルデヒドの25%PVA溶液に、1atm下、25℃で10分間浸漬することにより行うことができる。ステップS140を行うことにより、第1の筒状体CB1の内壁S1周辺および外壁S2p周辺において、物理架橋ゲルPGと化学架橋ゲルCGとの共存系が形成される。
【0043】
図4(B)の右欄を用いて、触媒交換反応について説明する。
図4(B)では、酸触媒ACとしてのクエン酸が「△」により模式的に示されており、架橋剤CLとしてのジアルデヒドが「○」により模式的に示されている。第1の筒状体CB1の内壁S1側では、第1の筒状体CB1に含まれる酸触媒ACが、水溶液ASに含まれる架橋剤CLと反応し、物理架橋ゲルPGと化学架橋ゲルCGとの共存系が形成される(処理前内側硬質層10Pの形成)。また、第1の筒状体CB1の外壁S2p側では、酸触媒ACを含有する第1の筒状体CB1と、架橋剤CLを含有するPVA溶液PSとの間での触媒交換反応が進行する。これにより、第1の筒状体CB1の外壁S2p周辺および外壁S2pの外側に化学架橋が新たに形成される。その結果、第1の筒状体CB1の外壁S2p周辺では、物理架橋ゲルPGと化学架橋ゲルCGとの共存系が形成され(処理前外側硬質層20Pの形成)、外壁S2pの外側では、PVA溶液PS中のPVAから化学架橋ゲルCGが形成される(外側潤滑層40の形成)。また、内壁S1と外壁S2pとの間における、物理架橋ゲルPGを含み、かつ、化学架橋の程度が極めて低い部分が、処理前軟質層30Pとして形成される。このようにして、処理前内側硬質層10Pと、処理前軟質層30Pと、処理前外側硬質層20Pと、外側潤滑層40とを備える第2の筒状体CB2が作製される(
図4(C)参照)。
【0044】
上記化学架橋の形成反応は、第1の筒状体CB1の内壁S1から外壁S2p側に向かって、または、外壁S2pから内壁S1側に向かって、もしくは、第1の筒状体CB1の外側に向かって、段階的に進行していく。そのため、第2の筒状体CB2では、内壁S1および外壁S2pに近い内側硬質層10および外側硬質層20において化学架橋密度が高くなり、内壁S1および外壁S2pから離れた軟質層30において化学架橋密度が低くなる。上述したように、PVAゲルの貫通力は、化学架橋の程度が高いほど高くなる。このため、第2の筒状体CB2では、内側硬質層10および外側硬質層20の貫通力が高く、軟質層30の貫通力が低くなる。なお、化学架橋ゲルCGの形成度合いは、架橋剤CLや酸触媒ACの添加量や、酸触媒ACのpH、反応圧力、反応温度、反応時間等を調整することにより変更することができる。また、第2の筒状体CB2を、炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液に浸漬させることにより、化学架橋の形成反応を停止させてもよい。
【0045】
外側潤滑層40は、物理架橋ゲルPGに含まれる酸触媒ACのうち、内側硬質層10および外側硬質層20における化学架橋で消費されなかった酸触媒ACを利用して化学架橋を形成する。このため、外側潤滑層40における化学架橋密度は、内側硬質層10および外側硬質層20の化学架橋密度と比較して低くなる。更には、内側硬質層10および外側硬質層20では、物理架橋ゲルPGと化学架橋との共存系を形成する一方、外側潤滑層40では、PVA溶液PS中のPVAから化学架橋を形成する。換言すれば、物理架橋ゲルPGが存在している部分では、PVA分子鎖同士が物理架橋によりすでに結合した状態であるため、PVA分子同士がより密集した化学架橋ゲルCGが形成される。一方、PVA溶液PS中のPVAでは、PVA分子鎖同士が結合した状態にないため、PVA分子同士が比較的疎な化学架橋ゲルCGが形成される。このため、本実施形態の製造方法では、外側潤滑層40の貫通力の値は、内側硬質層10および外側硬質層20の貫通力の値と比較して低くなる。
【0046】
次に、第2の筒状体CB2を熱水HWで処理して、模擬血管100を作製する(S150、
図4(D)参照)。熱水HWは、例えば、80℃~100℃の熱水である。ステップS150の工程は、例えば、第2の筒状体CB2を、1atm下、80℃の熱水で10分間煮沸することにより行うことができる。ステップS150を行うことにより、処理前内側硬質層10P、処理前軟質層30P及び処理前外側硬質層20Pにおける物理架橋ゲルPGの物理架橋が消滅して、軟質層30が形成される。なお、模擬血管100の物理架橋の消滅度合いは、熱水HWの温度、時間等を調整することにより変更することができる。これにより、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20と、外側潤滑層40とを備える模擬血管100を作製することができる(
図4(E)参照)。
【0047】
A-3.第1実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の模擬血管100は、内側硬質層10と、外側硬質層20と、軟質層30とを有する層構造を備える。また、軟質層30の貫通力の値は、内側硬質層10および外側硬質層20の貫通力の値より小さい。
【0048】
本実施形態の模擬血管100はPVAゲルで形成されている。このため、本実施形態の模擬血管100は、実際の血管の近似した良好な弾性や柔軟性を有することができる。また、本実施形態の模擬血管100は、貫通力の値が比較的高い内側硬質層10および外側硬質層20と、内側硬質層10と外側硬質層20との間に配置され、貫通力の値が内側硬質層10と外側硬質層20とのいずれの値より小さい軟質層30とを有する。このため、例えば、模擬血管100の内側に位置する内側硬質層10と、内側硬質層10に対して外壁S2側に位置する外側硬質層20とが、それぞれ、比較的弾力のある実際の血管の内膜と中膜とを模擬し、軟質層30が、実際の血管の内膜と中膜との間を模擬することができる。このように、本実施形態の模擬血管100によれば、ガイドワイヤを内膜に貫通させる際の感覚を模擬しつつ、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させる際の感覚を模擬した模擬血管100を提供することができる。
【0049】
また、本実施形態の模擬血管100では、内側硬質層10と、外側硬質層20と、軟質層30とは、それぞれ、ポリビニルアルコールのゲルで形成されている。すなわち、内側硬質層10と、外側硬質層20と、軟質層30とが、単一の形成材料で形成されている。このため、隣り合う層同士の親和性が良好となり、全体として一体的に構成することが可能となる。このため、本実施形態の模擬血管100によれば、より効果的に実際の血管を模擬した模擬血管100を提供することができる。
【0050】
また、本実施形態の模擬血管100では、軟質層30における貫通力の最大値は、内側硬質層10における貫通力の最大値の40%以下の値である。本実施形態の模擬血管100によれば、軟質層30が、内側硬質層10と比較して、ガイドワイヤを進行させることがより容易となるため、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させる際の感覚を、より効果的に模擬した模擬血管100を提供することができる。上記では本実施形態の模擬血管100について述べたが、本発明の模擬血管において、軟質層における貫通力の最大値は、内側硬質層における貫通力の最大値の30%以下の値であってもよく、また、20%以下の値であってもよい。
【0051】
また、本実施形態の模擬血管100では、内側硬質層10および外側硬質層20における貫通力の値は、50g超であり、軟質層30における貫通力の値は、50g以下である。本実施形態の模擬血管100によれば、内側硬質層10および外側硬質層20の貫通力の値を、実際の血管の内膜および中膜の貫通力の値に近似させつつ、ガイドワイヤを内膜と中膜との間を進行させる際の感覚を、より効果的に模擬した模擬血管100を提供することができる。上記では本実施形態の模擬血管100について述べたが、本発明の模擬血管において、内側硬質層および外側硬質層における貫通力の値は、40g超であってもよく、30g超であってもよい。また、軟質層30における貫通力の値は、40g以下であってもよいし、30g以下であってもよい。
【0052】
また、本実施形態の模擬血管100では、内側硬質層10の層厚T1と、外側硬質層20の層厚T2と、軟質層30の層厚T3との合計の長さに占める軟質層30の層厚T3の割合は、30%以下である。本実施形態の模擬血管100によれば、軟質層30の層厚T3が、内側硬質層10の層厚T1および外側硬質層20の層厚T2と比較して小さいため、実際の血管の内膜および中膜と、内膜と中膜との間とを、より効果的に模擬した模擬血管100を提供することができる。上記では本実施形態の模擬血管100について述べたが、本発明の模擬血管において、内側硬質層10の層厚T1と、外側硬質層20の層厚T2と、軟質層30の層厚T3との合計の長さに占める軟質層30の層厚T3の割合は、15%以下、または、10%以下であってよく、更には、5%以下であってもよい。
【0053】
また、本実施形態の模擬血管100では、内側硬質層10と、外側硬質層20とは、それぞれ、化学架橋ゲルCGから構成されている。本実施形態の模擬血管100によれば、内側硬質層10と外側硬質層20とが、それぞれ、化学架橋ゲルCGから構成されているため、実際の血管のしなやかさと貫通力の高さとを、より効果的に模擬した模擬血管100を提供することができる。また、本実施形態の模擬血管100では、軟質層30は、内側硬質層10と、外側硬質層20と比較して化学架橋の程度が低い化学架橋ゲルから構成されている。
【0054】
また、本実施形態の模擬血管100では、化学架橋ゲルCGのみから構成された外側潤滑層40を有し、外側潤滑層40における貫通力の値は、外側硬質層20の貫通力の最大値より小さく、かつ、軟質層30の貫通力の値より大きい。本実施形態の模擬血管100によれば、例えば、更に、外膜を備えた実際の血管の層構造を、より効果的に模擬した模擬血管100を提供することができる。
【0055】
B.第2実施形態:
図5は、第2実施形態における模擬血管100aの構成を概略的に示す説明図である。
図5には、
図2と同一の位置(
図1のII-IIの位置)における第2実施形態の模擬血管100aのYZ断面構成が示されている。以下では、第2実施形態の模擬血管100aの構成のうち、上述した第1実施形態の模擬血管100と同一の構成については、その説明を適宜省略する。
【0056】
第2実施形態の模擬血管100aは、第1実施形態の模擬血管100と同様に、4層構造を備えている。模擬血管100aは、外側潤滑層40を備えず、かつ、内側潤滑層50を備えている点で、第1実施形態の模擬血管100と異なる。
【0057】
模擬血管100aは、上述のように、4層構造を備えている。より具体的には、内壁S1側から順に、内側潤滑層50と、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20とを備えている。各層の形成材料、層厚、貫通力の値は、模擬血管100と同様である。また、模擬血管100と同様に、模擬血管100aの外径EDaは、例えば、10~50mm(好ましくは20~40mm)であり、内径IDa(中空部Hの直径)は、例えば、5~45mm(好ましくは15~35mm)である。
【0058】
内側潤滑層50は、内側硬質層10に対して内壁S1側に位置している。内側潤滑層50は、比較的柔軟なPVAゲル層であり、比較的柔軟なPVAゲル層であり、化学架橋ゲルのみから構成されている。内側潤滑層50の層厚T5は、例えば、0.5mm以上、20mm以下程度であってよく、3mm以上、15mm以下程度であってよい。本実施形態において、内側潤滑層50の層厚T5は、内側硬質層10の層厚T1および外側硬質層20の層厚T2と、同等である。また、本実施形態において、内側潤滑層50における貫通力の値は、第1実施形態の外側潤滑層40における貫通力の値と同等である。すなわち、内側潤滑層50における貫通力の値は、内側硬質層10および外側硬質層20における貫通力の最大値より小さく、かつ、軟質層30における貫通力の値より大きい。このように、内側潤滑層50は、内側硬質層10および外側硬質層20と同様に、化学架橋ゲルを含んでいるため、比較的高い貫通力の値を有する。このため、内側潤滑層50は、外側硬質層20とともに、実際の血管における内膜に近似した性質(比較的高い弾性および可撓性)を発揮することができる。
【0059】
模擬血管100aの一例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ30g超、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において30g以下であり、内側潤滑層50において35g以上、120g未満(また、100g未満、更には80g未満、そして70g以下)である、層構造を挙げることができる。また、模擬血管100aの他の例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ50g超、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において50g以下であり、内側潤滑層50において35g以上、120g未満(また、100g未満、更には80g未満、そして70g以下)である、層構造を挙げることができる。
【0060】
本実施形態において、上記各層は、例えば、次の方法で特定することができる。
図5に示すように、模擬血管100aの横断面における仮想直線VL上において、内壁S1側から外壁S2側へと、複数箇所の貫通力を測定する。例えば、内側硬質層10及び外側硬質層20の貫通力の値が50g超である場合、外壁S2の特定点P2を始点とし、測定された貫通力の値が連続して50g超である測定箇所の中で、始点から最も離れた測定箇所を終点とし、当該始点から当該終点までを外側硬質層20と特定することができる。測定された貫通力の値が50g超となる測定箇所の中で、外側硬質層20の終点から内壁S1側へ最も近い測定箇所を始点とし、当該始点から内壁S1側で最も高い貫通力の測定箇所を終点とし、当該始点から当該終点までを内側硬質層10と特定することができる。外側硬質層20の終点から、内側硬質層10の始点までを軟質層30と特定することができる。内側硬質層10の終点から、内壁S1の特定点P1までを内側潤滑層50と特定することができる。上記において、仮想直線VLは、模擬血管100の内壁S1の特定点P1と、外壁S2の特定点P2とを通る直線である。特定点P2は、特定点P1と模擬血管100の外壁S2との間の距離が最短距離となる点である。本実施形態において、仮想直線VLは、模擬血管100の中心点POを通る。
【0061】
本実施形態における模擬血管100aは、第1実施形態の模擬血管100の製造方法のステップの一部を変更することにより製造することができる。具体的には、模擬血管100aは、例えば、第1実施形態のステップS140を、以下のステップに置き換えることにより製造することができる。
【0062】
すなわち、模擬血管100aの製造方法では、第1の筒状体の中空部をPVA溶液PSで満たすとともに、第1の筒状体を水溶液ASに浸漬させる。このステップを行うことにより、第1の筒状体の内壁周辺および外壁周辺において、物理架橋ゲルPGから化学架橋ゲルCGが形成される。より具体的には、第1の筒状体の内壁側では、酸触媒ACを含有する第1の筒状体と、架橋剤CLを含有するPVA溶液PSとの間での触媒交換反応が進行する。これにより、第1の筒状体の内壁周辺および内壁の内側に化学架橋が新たに形成される。その結果、第1の筒状体の内壁周辺では、物理架橋ゲルPGと化学架橋ゲルCGとの共存系が形成され(処理前内側硬質層10Pの形成)、内壁の内側では、PVA溶液PS中のPVAから化学架橋ゲルCGが形成される(内側潤滑層50の形成)。また、第1の筒状体の外壁側では、第1の筒状体に含まれる酸触媒ACが、水溶液ASに含まれる架橋剤CLと反応し、物理架橋ゲルPGと化学架橋ゲルCGとの共存系が形成される(処理前外側硬質層20Pの形成)。また、内壁と外壁との間における、物理架橋ゲルPGを含み、かつ、化学架橋の程度が極めて低い部分が、処理前軟質層30Pとして形成される。このようにして、内側潤滑層50と、処理前内側硬質層10Pと、処理前軟質層30Pと、処理前外側硬質層20Pとを備える第2の筒状体が作製される。
【0063】
上記ステップで作製された第2の筒状体を、第1実施形態のステップS150と同様に、熱水HWで処理して模擬血管100aを作製する。これにより、内側潤滑層50と、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20とを備える模擬血管100aを作製することができる。
【0064】
上記構成を備える本実施形態の模擬血管100aは、外側潤滑層40を備えることによる効果を除き、第1実施形態の模擬血管100と同様の効果を奏する。
【0065】
C.第3実施形態:
図6は、第3実施形態における模擬血管100bの構成を概略的に示す説明図である。
図6には、
図2と同一の位置(
図1のII-IIの位置)における第3実施形態の模擬血管100bのYZ断面構成が示されている。以下では、第3実施形態の模擬血管100bの構成のうち、上述した第1,第2実施形態の模擬血管100、100aと同一の構成については、その説明を適宜省略する。
【0066】
第3実施形態の模擬血管100bは、更に、内側潤滑層50を備える点で、第1実施形態の模擬血管100と異なる。すなわち、模擬血管100bは、5層構造を備えている。
【0067】
模擬血管100bは、上述のように、5層構造を備えている。より具体的には、内壁S1側から順に、内側潤滑層50と、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20と、外側潤滑層40とを備えている。各層の形成材料、層厚、貫通力の値は、模擬血管100,100aと同様である。また、模擬血管100bの外径および内径は、模擬血管100,100aと同様である。
【0068】
模擬血管100bの一例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ30g超、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において30g以下であり、外側潤滑層40および内側潤滑層50においてそれぞれ35g以上、120g未満(また、100g未満、更には80g未満、そして70g以下)である、層構造を挙げることができる。また、模擬血管100bの他の例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ50g超、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において50g以下であり、外側潤滑層40および内側潤滑層50において35g以上、120g未満(また、100g未満、更には80g未満、そして70g以下)である、層構造を挙げることができる。
【0069】
本実施形態における模擬血管100bは、第1実施形態の模擬血管100の製造方法のステップの一部を変更することにより製造することができる。具体的には、模擬血管100bは、例えば、第1実施形態のステップS130(水溶液ASの準備)を要せず、ステップS140を、以下のステップに置き換えることにより製造することができる。すなわち、第1の筒状体をPVA溶液PSに浸漬させる。これにより、第1の筒状体の内壁周辺および外壁周辺の両方において、物理架橋ゲルPGと化学架橋ゲルCGとの共存系が形成される(処理前内側硬質層10Pおよび処理前外側硬質層20Pの形成)。また、第1の筒状体の外壁の外側および内壁の内側の両方において、PVA溶液PS中のPVAから化学架橋ゲルCGが形成される(外側潤滑層40および内側潤滑層50の形成)。このようにして、内側潤滑層50と、処理前内側硬質層10Pと、処理前軟質層30Pと、処理前外側硬質層20Pと、外側潤滑層40とを備える第2の筒状体が作製される。
【0070】
上記ステップで作製された第2の筒状体を、第1実施形態のステップS150と同様に、熱水HWで処理して模擬血管100bを作製する。これにより、内側潤滑層50と、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20と、外側潤滑層40とを備える模擬血管100bを作製することができる。
【0071】
上記構成を備える本実施形態の模擬血管100bは、第1実施形態の模擬血管100と同様の効果を奏する。
【0072】
D.第4実施形態:
図7は、第4実施形態における模擬血管100cの構成を概略的に示す説明図である。
図7には、
図2と同一の位置(
図1のII-IIの位置)における第4実施形態の模擬血管100cのYZ断面構成が示されている。以下では、第4実施形態の模擬血管100cの構成のうち、上述した第1実施形態の模擬血管100と同一の構成については、その説明を適宜省略する。
【0073】
第4実施形態の模擬血管100cは、外側潤滑層40を備えていない点で、第1実施形態の模擬血管100と異なる。すなわち、模擬血管100cは、3層構造を備えている。
【0074】
模擬血管100cは、上述のように、3層構造を備えている。より具体的には、内壁S1側から順に、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20とを備えている。各層の形成材料、層厚、貫通力の値は、模擬血管100と同様である。また、模擬血管100cの外径および内径は、模擬血管100と同様である。
【0075】
模擬血管100cの一例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ30g超であり、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において30g以下である、層構造を挙げることができる。また、模擬血管100cの他の例として、貫通力の値が、内側硬質層10および外側硬質層20においてそれぞれ50g超、かつ、最大値が80g以上(また、100g以上、更には120g以上)であり、軟質層30において50g以下である、層構造を挙げることができる。
【0076】
本実施形態における模擬血管100cは、第1実施形態の模擬血管100の製造方法のステップの一部を変更することにより製造することができる。具体的には、模擬血管100cは、例えば、第1実施形態のステップS120(PVA溶液PSの準備)を要せず、ステップS140を、以下のステップに置き換えることにより製造することができる。すなわち、第1の筒状体を水溶液ASに浸漬させる。これにより、第1の筒状体の内壁周辺および外壁周辺の両方において、物理架橋ゲルPGと化学架橋ゲルCGとの共存系が形成される(処理前内側硬質層10Pおよび処理前外側硬質層20Pの形成)。このようにして、処理前内側硬質層10Pと、処理前軟質層30Pと、処理前外側硬質層20Pとを備える第2の筒状体が作製される。
【0077】
上記ステップで作製された第2の筒状体を、第1実施形態のステップS150と同様に、熱水HWで処理して模擬血管100cを作製する。これにより、内側硬質層10と、軟質層30と、外側硬質層20とを備える模擬血管100cを作製することができる。
【0078】
上記構成を備える本実施形態の模擬血管100cは、外側潤滑層40を備えることによる効果を除き、第1実施形態の模擬血管100と同様の効果を奏する。
【0079】
E.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0080】
上記実施形態では、模擬血管100が円管状であるとしたが、これに限定されない。例えば、横断面が多角形状の筒状であってもよい。
【0081】
上記実施形態では、模擬血管100は、層構造を有する構成としたが、これに限定されない。例えば、模擬血管100の横断面の一部において、上記構成を有する構成であってもよい。すなわち、模擬血管100の一の横断面において、内側硬質層10と、外側硬質層20と、軟質層30と、外側潤滑層40とにそれぞれ相当する、第1の部分と、第2の部分と、第3の部分と、第4の部分とを有する構成であってもよい。
【0082】
上記実施形態では、内側硬質層10および外側硬質層20は、化学架橋ゲルから構成されるとしたが、これに限定されない。例えば、内側硬質層10と外側硬質層20との少なくとも一方において、物理架橋ゲルを有していてもよい。また、上記実施形態では、軟質層30は、若干の化学架橋ゲルを含む構成としたが、これに限定されない。例えば、軟質層30において、化学架橋ゲルが含まれていない構成であってもよい。
【0083】
上記実施形態では、内側硬質層10と、外側硬質層20と、軟質層30と、外側潤滑層40とにおける化学架橋の程度は、それぞれ、略均一としたが、これに限定されない。例えば、上記少なくとも1つの層において、化学架橋の程度が部分的に異なっていてもよい。
【0084】
上記実施形態において、各層の層厚は、適宜変更可能である。また、上記実施形態において、内側硬質層10の層厚T1と、外側硬質層20の層厚T2とは、互いに異なっていてもよい。また、上記実施形態において、層厚T1と層厚T2と層厚T3との合計厚みに占める層厚T3の割合(層厚T3/(層厚T1+層厚T2+層厚T3)×100)が、30%超、または、15%超であってもよい。層厚T1と層厚T2と層厚T3との合計厚みに占める層厚T3の割合の下限は特に限定されず、適宜設定すればよいが、例えば、1%以上であってよく、2%以上であってもよい。
上記実施形態において、模擬血管の厚み((外径-内径)/2)に対する軟質層30の厚み(層厚T3)の割合が、30%以下、15%以下、または、10%以下であってもよく、更には、5%以下であってもよい。模擬血管の厚み((外径-内径)/2)に対する軟質層30の厚み(層厚T3)の割合は、1%以上、または、2%以上であってもよい。
【0085】
上記実施形態において、各層の貫通力の値は、適宜変更可能である。また、上記実施形態において、内側硬質層10の貫通力の値と、外側硬質層20の貫通力の値とは、互いに異なっていてもよい。また、上記実施形態において、内側硬質層10および外側硬質層20の貫通力の値が、30g以下、40g以下、または、50g以下であってもよい。また、上記実施形態において、軟質層30の貫通力の値が、50g超、40g超、または、30超であってもよい。また、上記実施形態において、軟質層30の貫通力の最大値が、内側硬質層10の貫通力の最大値の40%超、30%超、または、20%超であってもよい。
【0086】
上記実施形態において、外側潤滑層40の層厚T4と、内側硬質層10の層厚T1および外側硬質層20の層厚T2とは、互いに異なっていてもよい。また、上記実施形態において、外側潤滑層40の貫通力の値は、外側硬質層20における貫通力の最大値以上であり、または、軟質層30における貫通力の値未満であってもよい。
【0087】
上記実施形態において、内側潤滑層50の層厚T5と、内側硬質層10の層厚T1および外側硬質層20の層厚T2とは、互いに異なっていてもよい。また、上記実施形態において、内側潤滑層50の貫通力の値は、外側硬質層20における貫通力の最大値以上であり、または、軟質層30における貫通力の値未満であってもよい。
【0088】
上記実施形態において、内側硬質層10は、層内で貫通力の値が変化するものであってよく、例えば、軟質層30側から模擬血管100の中空部H側に向かって、段階的に貫通力が大きくなっていってもよい。また、内側硬質層10は、より実際の血管における中膜に近似した性質(比較的高い弾性および可撓性)を発揮することができることから、貫通力の最大値が80g以上であることが好ましく、90g以上であることがより好ましく、100g以上であることが更に好ましい。
外側硬質層20についても、内側硬質層10と同様に層内で貫通力の値が変化するものであってよく、例えば、軟質層30側から外壁S2側に向かって、段階的に貫通力が大きくなっていってもよい。
【0089】
上記実施形態において、内側硬質層10及び外側硬質層20における化学架橋の程度は略均一であってもよいし、層内で変化するものであってもよい。例えば、内側硬質層10は、軟質層30側から模擬血管100の中空部H側に向かって、段階的に化学架橋の程度が高くなっていってもよい。外側硬質層20についても、化学架橋の程度は略均一であってもよいし、層内で貫通力の値が変化するものであってよく、例えば、軟質層30側から外壁S2側に向かって、段階的に化学架橋の程度が高くなっていってもよい。
【0090】
上記実施形態の模擬血管100の製造方法は、一例であり、これに限定されず、模擬血管100の層構造を実現可能な製造方法であればよい。
【符号の説明】
【0091】
10:内側硬質層 20:外側硬質層 30:軟質層 30P:処理前軟質層 40:外側潤滑層 50:内側潤滑層 100:模擬血管 100a:模擬血管 100b:模擬血管 100c:模擬血管 ED:外径 EDa:外径 H:中空部 ID:内径 IDa:内径 P1:特定点 P2:特定点 PO:中心点 S1:内壁 S2:外壁 T1:層厚 T2:層厚 T3:層厚 T4:層厚 T5:層厚 VL:仮想直線