(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/14 20060101AFI20241212BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20241212BHJP
E02B 3/12 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
E02B3/14 301
E02D17/20 103H
E02B3/12
(21)【出願番号】P 2020204676
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-11-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112749
【氏名又は名称】フジミ工研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】勝又 正治
(72)【発明者】
【氏名】中溝 英明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 顕彰
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭48-066324(JP,U)
【文献】特開平06-287923(JP,A)
【文献】実用新案登録第2546822(JP,Y2)
【文献】特開2014-177766(JP,A)
【文献】特開2003-328338(JP,A)
【文献】米国特許第09797106(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04 - 3/14
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手を設けたコンクリートブロックを隣り合わせて並べる工程と、
隣り合うコンクリートブロック同士を着脱可能な継手により繋ぎ合わせる工程と、
隣り合うコンクリートブロック同士に対向して設けた凹部からなる継手部に対して、
密閉部材として機能する充填材及び開閉蓋を用いて、継手部を密閉状態とする工程と、
を繰り返して実施することにより壁構造を構築し、
壁構造を構成するコンクリートブロックの一部が損傷した場合に、
損傷したコンクリートブロックと隣り合うコンクリートブロックに対向して設けた凹部からなる継手部を密閉状態としている
開閉蓋を取り外すとともに、当該凹部内から充填材を取り除く工程と、
損傷したコンクリートブロックを取り除く工程と、
取り除いたコンクリートブロックに代えて新たなコンクリートブロックを設置する工程と、
新たに設置したコンクリートブロックと隣り合うコンクリートブロック同士を着脱可能な継手により繋ぎ合わせる工程と、
新たに設置したコンクリートブロックと隣り合うコンクリートブロックに対向して設けた凹部からなる継手部に対して、
密閉部材として機能する充填材及び開閉蓋を用いて、継手部を密閉状態とする工程と、
を実施することにより壁構造を修復し、
前記壁構造を構築する際及び前記壁構造を修復する際に継手部を密閉状態とする工程では、前記凹部内に充填が可能でありかつ容易に取り除くことが可能で前記凹部内を密閉状態とするためのゴム、プラスチック、ゲル材の少なくとも一つからなる柔軟性を有する充填材を充填するとともに、前記凹部に着脱可能で前記凹部に蓋をして前記凹部内を密閉状態とするための閉塞蓋を取り付ける、
ことを特徴とする継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法。
【請求項2】
前記継手は、コッターであり、
コンクリートブロックの端部には、コッター受金具が埋め込まれており、
密閉部材を着脱可能に取り付けるのは、コッター受金具を埋め込んだ継手凹部である、
ことを特徴とする請求項1に記載の継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法。
【請求項3】
前記壁構造は、護岸壁である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法に関するものであり、例えば、コッター継手を用いて隣り合うコンクリートブロックを接続して護岸壁や擁壁等の壁構造を構築し、あるいはその修復を行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河岸や海岸の法面、盛土または切土などの地山斜面に対して、斜面下部の安定、小規模崩壊の抑止、崩壊土砂の遮断、盛土の補強、法面の保護等を目的として、護岸壁や擁壁等の壁構造を構築する。護岸壁や擁壁等は、複数のコンクリートブロックを並べて積み上げることにより構築するのが一般的である。護岸や擁壁等を構築するためのコンクリートブロックには種々の形状のものがあるが、並べて積み上げる際に、接続具を用いて隣り合うブロック同士を強固に接続してはいないのが現状である。
【0003】
例えば、護岸は、流水に伴う浸食や洗掘から河岸を保護するために設ける構造物であり、法覆工、基礎工から構成され、必要に応じて、根固め工、天端工、天端保護工、小口止め工、すり付け工等が設けられている。これらの構造のうち、特に、法覆工に対してコンクリートブロックが使用されている。
【0004】
上述したように、護岸壁や擁壁等を構築する際に、隣り合うブロック同士を強固に接続してはいないため、洪水や大雨等により、隣り合うブロック同士の接続が緩み、護岸壁や擁壁等が崩壊するおそれがある。
【0005】
構造物を構築するためのプレキャストコンクリートブロックには、コッター継手等の継手を設けたものがあり、継手を用いて隣り合うプレキャストコンクリートブロックを強固に接続している(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献1に記載された技術は、シールドトンネルの覆工に用いるセグメントのコッター式継手装置に関するものである。このセグメントのコッター式継手装置は、トンネルの軸方向及びリング方向にセグメントを接合する際に、対向するコッター受金具に対してコッターを嵌め込んで、隣り合うセグメント同士を接続するようになっている。
【0007】
特許文献2に記載された技術は、コンクリートブロック同士を連接する可撓継手構造に関するものである。この可撓継手構造は、コンクリートブロックの端面側から当該コンクリートブロックの壁面に対し略平行な方向に向けてインサートナットを埋設しておく。そして、隣り合うコンクリートブロックの端面同士を対向させて配置し、ボルトを両コンクリートブロックの端面間からインサートナットにネジ付けて可撓ジョイントの接合端をコンクリートブロックの端面に接合するようになっている
【0008】
また、道路に用いる床版では、コッター継手を用いて、隣り合う床版同士を接続する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3に記載された技術は、アスファルト舗装が施されたコンクリートプレキャスト床版を、橋軸方向に複数枚並べて設置する。そして、隣り合うコンクリートプレキャスト床版同士をコッター式継手で仮固定して道路を構築する。その後、コンクリートプレキャスト床版同士間の隙間にグラウト材を充填してコンクリートプレキャスト床版の本固定を行う。
【0009】
そして、健全なコンクリートプレキャスト床版の間に劣化したコンクリートプレキャスト床版が存する場合、先ず、劣化したコンクリートプレキャスト床版とその両側の健全なコンクリートプレキャスト床版を連結するコッター式継手のH型コッターを、コンクリートカッターで切断して、コッター式継手による接続を解除する。その後、劣化したコンクリートプレキャスト床版をクレーン等で持ち上げて撤去するとともに、健全なコンクリートプレキャスト床版の連結側端部に残存するH型コッター及びグラウト材等を完全に撤去する。次いで、C型継手金具が取り付けられた取替え用のコンクリートプレキャスト床版を、撤去箇所跡に設置し、H型コッター内にグラウト材を充填するとともに、グラウト材の上に止水材を充填して目地施工を行うことにより、劣化したコンクリートプレキャスト床版を新たなコンクリートプレキャスト床版に取り替える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実用新案登録第2546822号公報
【文献】特開2007-32042号公報
【文献】特開2014-177766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載された技術は、シールドトンネルの覆工に用いるセグメントに使用することを目的としたもので、護岸壁や擁壁等の壁構造を構築する際に適用することを考慮したものではない。また、隣り合うコンクリートブロックをコッター継手等の継手により接続する技術は存在するが、特許文献1に記載された技術を含めて、従来の技術は、水流に晒される護岸壁や、地山からの土圧を受ける擁護壁等にそのまま適用することはできない。
【0012】
また、床版は、道路構造物の一部であり、道路に特化して使用される部材である。道路は、一般的に、路体の上部に、路床、砕石等からなる路盤、アスファルト混合物またはコンクリートからなる基層及び表層を設けて構築される。床版には、RC床版、鋼床版、合成床版、I形鋼格子床版、オープングレーチング床版等がある。
【0013】
この床版は、道路上を走行する車両から荷重を受けた際に、車両の走行性に支障をきたすような変形を起こすことなく、荷重を主桁等に伝達する役割を有する部材である。すなわち、床版は上部からの荷重を下部へ伝達する役割を果たす構造物である。そして、床版の上部には、アスファルト混合物やコンクリート等を施工することにより道路が構築されるため、床版は道路内に埋設した構造物ということができる。
【0014】
したがって、床版の一部を交換するには、床版の上部に施工したアスファルト混合物やコンクリート等を取り除かなければならない。
【0015】
一方、護岸壁は水流の圧力を直接受け止めるとともに、洗掘による堤防の決壊を防止するための構造物であり、擁壁は地山からの土圧を直接受け止めて、斜面の崩壊を防止するための構造物である。すなわち、護岸壁や擁壁の壁構造は、水流や地山に直に接触して、その圧力を直接受け止めている。
【0016】
このように、一般的なコンクリートブロックや床版と、護岸壁や擁壁等の壁構造とは、そもそも構造物としての役割が相違するため構造上の相違があり、それぞれ異なった観点から設計、施工、管理等を行う必要がある。したがって、一般的なコンクリートブロックや床版に用いられている技術をそのまま護岸壁や擁壁等の壁構造に応用することはできない。
【0017】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、護岸壁や擁壁等のように水圧や地山からの土圧を直接受け止めるとともに、洗掘等により裏込め材が流出するおそれがあるコンクリートブロックを用いた壁構造において、コンクリートブロックを強固に接続することが可能であり、さらに、破損したコンクリートブロックを容易に交換することが可能な継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法(以下、壁構造の構築及び修復方法と略記することがある)は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る壁構造の構築及び修復方法は、大別して、コンクリートブロックを並べて繋ぎあわせることにより壁構造を構築する工程と、損傷したコンクリートブロックを取り換えて壁構造を修復する工程とからなる。
【0019】
コンクリートブロックを並べて繋ぎあわせることにより壁構造を構築する工程では、継手を設けたコンクリートブロックを隣り合わせて並べる工程と、隣り合うコンクリートブロック同士を着脱可能な継手により繋ぎ合わせる工程と、隣り合うコンクリートブロック同士に対向して設けた凹部からなる継手部に対して、密閉部材として機能する充填材及び開閉蓋を用いて、継手部を密閉状態とする工程とを繰り返して実施することにより壁構造を構築する。継手部を密閉するとは、コンクリートブロック内に埋め込まれた継手部を水密に閉塞することである。
【0020】
損傷したコンクリートブロックを取り換えて壁構造を修復する工程では、壁構造を構成するコンクリートブロックの一部が損傷した場合に、損傷したコンクリートブロックと隣り合うコンクリートブロックに対向して設けた凹部からなる継手部を密閉状態としている開閉蓋を取り外すとともに、当該凹部内から充填材を取り除く工程と、損傷したコンクリートブロックを取り除く工程と、取り除いたコンクリートブロックに代えて新たなコンクリートブロックを設置する工程と、新たに設置したコンクリートブロックと隣り合うコンクリートブロック同士を着脱可能な継手により繋ぎ合わせる工程と、新たに設置したコンクリートブロックと隣り合うコンクリートブロックに対向して設けた凹部からなる継手部に対して、密閉部材として機能する充填材及び開閉蓋を用いて、継手部を密閉状態とする工程とを実施することにより壁構造を修復する。
そして、壁構造を構築する際及び壁構造を修復する際に継手部を密閉状態とする工程では、凹部内に充填が可能でありかつ容易に取り除くことが可能で凹部内を密閉状態とするためのゴム、プラスチック、ゲル材の少なくとも一つからなる柔軟性を有する充填材を充填するとともに、凹部に着脱可能で凹部に蓋をして凹部内を密閉状態とするための閉塞蓋を取り付ける。
【0021】
上述した壁構造の構築及び修復方法において、継手としてコッターを用いることが可能である。この場合には、コンクリートブロックの端部には、コッター受金具が埋め込まれており、密閉部材を着脱可能に取り付けるのは、コッター受金具を埋め込んだ継手凹部である。
【0022】
また、上述した壁構造の構築及び修復方法は、護岸壁に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る壁構造の構築及び修復方法によれば、護岸壁や擁壁等のように水圧や地山からの土圧を直接受け止めるとともに、洗掘等により裏込め材が流出するおそれがあるコンクリートブロックを用いた壁構造において、継手を用いて隣り合うコンクリートブロック同士を繋ぎあわせるので、壁構造の構築が容易であり施工時間を短縮できるとともに、施工費用を低減することができる。
【0024】
また、コンクリートブロックをただ単に積み上げるのではなく、継手を用いて隣り合うコンクリートブロック同士を繋ぎあわせているので、コンクリートブロックを強固に接続することが可能となる。
【0025】
さらに、継手を用いて隣り合うコンクリートブロック同士を繋ぎあわせているので、壁構造を構成するコンクリートブロックの一部が損傷した場合には、継手を外して、損傷したコンクリートブロックのみを取り除き、新たなコンクリートブロックと入れ替えればよいので、容易に壁構造を修復することができる。したがって、修復時間を短縮できるとともに、修復費用を低減することができる。
【0026】
また、継手としてコッターを用いることにより、コンクリートブロックの接続及び取り外しを容易に行うことができる。
【0027】
本発明に係る壁構造の構築及び修復方法は、上述した本発明に特有の優れた効果を奏するため、特に、水圧を直接受け止めるとともに、洗掘等により裏込め材が流出するおそれがある護岸壁に対して、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る壁構造の構築及び修復方法の手順(構築工程)を示すフローチャート。
【
図2】本発明に係る壁構造の構築及び修復方法の手順(修復工程)を示すフローチャート。
【
図3】本発明に係る壁構造の構築及び修復方法に用いる継手構造及び密閉部材の一例を示す模式図。
【
図4】本発明に係る壁構造の構築及び修復方法における壁構造の構築工程の説明図。
【
図5】本発明に係る壁構造の構築及び修復方法における壁構造の修復工程の説明図。
【
図6】本発明に係る壁構造の構築及び修復方法を適用する護岸壁の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造の構築及び修復方法を説明する。
図1~6は本発明の実施形態に係る壁構造の構築及び修復方法を説明するもので、
図1及び
図2は壁構造の構築及び修復方法の手順を示すフローチャート、
図3は継手構造及び密閉部材の一例を示す模式図、
図4及び
図5は壁構造の構築及び修復工程の説明図、
図6は護岸壁の斜視図である。
【0030】
<壁構造の構築及び修復方法>
本発明の実施形態に係る壁構造の構築及び修復方法は、例えば、護岸壁に好適に用いられる技術である。以下、護岸壁を例にとって説明を行うが、本発明は、護岸壁だけではなく、継手付きコンクリートブロックを用いた壁構造であれば、擁壁等、他の壁構造にも適用することができる。
【0031】
この壁構造の構築及び修復方法は、コンクリートブロック10を並べて繋ぎあわせることにより壁構造を構築する工程と、損傷したコンクリートブロック10を取り換えて壁構造を修復する工程とに大別することができる。すなわち、本発明は複数の継手付きコンクリートブロック10を繋ぎあわせて壁構造を構築し、万が一、壁構造の一部に損傷が生じた場合には、壁構造の全体を新たに構築するのではなく、損傷が生じたコンクリートブロック10のみを取り除いて新たな(健全な)コンクリートブロック10に置き換えることにより壁構造を速やかに修復することができる技術である。
【0032】
<壁構造の構築に用いるコンクリートブロック>
本発明の実施形態に係る壁構造の構築に用いるコンクリートブロック10は、継手としてコッター22を用いて繋ぎあわせるコンクリートブロック10である。このコンクリートブロック10は、継手部20がコンクリートブロック10内に埋め込まれており、コッター22を用いて隣り合うコンクリートブロック10を繋ぎあわせた状態で、継手部20を密閉部材で密閉(水密)とすることができるようになっている。なお、本実施形態では、継手としてコッター22を用いているが、容易に着脱することができれば、他の継手構造を用いてもよい。
【0033】
護岸壁は、
図6に示すように、流水に伴う浸食や洗掘から河岸を保護するために設ける構造物であり、法覆工100と基礎工110とから構成されている。また、必要に応じて、根固め工120、横帯工130、天端工140、天端保護工150、小口止め工160、すり付け工(図示せず)、裏込め工170等を設ける。本発明の実施形態に係る護岸壁は、法覆工100をコンクリートブロック10で構築する。
【0034】
一般的な法覆工100は、基礎コンクリート上にコンクリートブロック10を並べて敷き詰め、コンクリートブロック10と地山法面との間に裏込め材を施工し(裏込め工170)、天端部を天端コンクリートで覆っている(天端工140・天端保護工150)。また、必要に応じて、適宜箇所に排水穴を設けることがある。コンクリートブロック10の並べ方は、平張り、谷積み、布積み等、種々の工法があるが、隣り合うコンクリートブロック10同士を継手で繋ぎあわせることができれば、どのような並べ方をしてもよい。
【0035】
コンクリートブロック10には、隣り合うコンクリートブロック10に対向する部分に、コッター22を用いた継手部20を設けてある。継手部20を設ける部分は、施工する護岸壁の態様に応じて適宜設定するが、コンクリートブロック10の左辺、右辺、上辺、下辺のすべてであってもよいし、これらの辺の一部であってもよい。また、各辺に設ける継手部20は、各辺毎に1カ所であってもよいし、2カ所以上であってもよい。
【0036】
本実施形態に使用するコンクリートブロック10の継手構造を構成する継手部20は、例えば、
図3(a)に示すように、コンクリートブロック10の接合面に埋設した断面がリップ溝型の一対のコッター受金具24と、当該一対のコッター受金具24の内部に差し込んでコッター受金具24を繋ぎあわせるコッター22とからなる。本実施形態では、コッター22の断面は略H状となっている。
【0037】
図示しないが、各コッター受金具24には、隣り合うコンクリートブロック10の接合面に、一対の締結リップの外面が位置するようにして埋設されている。各締結リップには、内面にコッター挿入方向の前端から後端にかけてリップの外面から離隔する方向に傾斜したテーパー面が形成されている。
【0038】
また、各コッター受金具24には、内部に空隙が設けられており、この空隙にコッター22を挿入するためのコッター挿入開口21が設けられている。さらに、図示しないが、コッター挿入開口21には、奥端縁部の裏面側に板状片が形成されており、後端部にアンカーが接続されている。このコッター挿入口21の内部が密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)を取り付ける継手凹部となる。
【0039】
コッター22は、一対のコッター受金具24同士を締結リップ外面で突き合わせた状態で、コッター挿入開口21からコッター受金具24の内部に挿入可能となるように断面略H型に形成されている。そして、ウエブの左右の締結フランジ内面に、コッター受金具24の締結リップの各テーパー面と外面との間隔の変化に対応させてウエブの中心からの幅が変化するように傾斜したテーパー面が形成されている。
【0040】
コッター受金具24の上面には閉塞蓋30を着脱可能に取り付けることができる。閉塞蓋30は、
図3(b)に示すように、締結リップの先端面で互いに突き合わせた一対のコッター受金具24を繋ぎあわせた際に、一連となって略H型形状となるコッター挿入開口21を閉鎖可能な大きさの合成樹脂板からなる。また、閉塞蓋30の裏面には、コッター挿入開口21に填め合わせるための鉤片32を有する一対の弾性係止片31を突出して設けてある。
【0041】
隣り合うコンクリートブロック10を接合して組立てると、その接合端面には、互いに締結リップの外面が突き合わされた一対のコッター受金具24が位置することになる。そして、一体化して一連となった略H型のコッター挿入開口21にコッター22を差し込んで、締結フランジにより、隣り合うコッター受金具24の締結リップ同士を互いに引き締めることにより、隣り合うセグメント同士を繋ぎあわせることができる。
【0042】
この状態で、閉塞蓋30に設けた一対の弾性係止片31を、コッター受金具24のコッター挿入開口21に挿入し、弾性係止片31の先端部に設けた鉤片32をコッター挿入開口21に係合させる。これにより、閉塞蓋30がコッター受金具24の表面上に密着し、コッター挿入開口21を密閉することができる(継手構造が水密状態となる)。
【0043】
<壁構造の構築工程>
まず、
図1及び
図4を参照して、壁構造の構築について説明する。壁構造を構築するには、継手を設けたコンクリートブロック10を隣り合わせて並べる工程(S1)と、隣り合うコンクリートブロック10同士を着脱可能な継手(コッター22)により繋ぎ合わせる(接続する)工程(S2)と、コンクリートブロック10の継手部20に対して密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)を着脱可能に取り付けることにより、継手部20を密閉する工程(S3)とを、壁構造が完成するまで(S4)、繰り返して実施する。例えば、護岸壁を構築する際には、必要に応じて適宜な時期に、締切り工、根固め工120、盛土工、裏込め工170、天端工140、天端保護工150、小口止め工160、すり付け工等の付帯工事が行われる。他の壁構造の構築においても、状況に応じて、当該壁構造に必要な工事が行われる。
【0044】
<コンクリートブロックを並べる工程>
コンクリートブロック10を並べる準備が整うと、予め設計した並べ方に従って、コンクリートブロック10を並べて設置する。通常の場合、コンクリートブロック10を並べて設置するには、壁構造の下側から上側へ向かって順次、コンクリートブロック10を積み重ねてゆくが、壁構造を構築する環境や設計に応じて、適宜な並べ方を行うことができる。
【0045】
<コンクリートブロックを繋ぎ合わせる工程>
左右または上下一組のコンクリートブロック10を並べたら、隣り合うコンクリートブロック10の継手部20を合致させて、継手を用いて隣り合うコンクリートブロック10同士を強固に接続する。継手構造としては、隣り合うコンクリートブロック10同士の接続及び切り離しが容易であるコッター22を用いることが好ましいが、他の継手構造を使用してもよい。
【0046】
繋ぎ合わせるコンクリートブロック10は、接続強度を上げるため、左右方向及び上下方向のすべてとすることが好ましいが、壁構造を構築する環境や設計に応じて、繋ぎ合わせるコンクリートブロック10を適宜選択することができる。また、隣り合うコンクリートブロック10の対向面において、継手を使用する箇所は1箇所であってもよいし、2箇所以上であってもよい。また、壁構造を構築する環境や設計に応じて、継手を使用しない箇所が存在してもよい。
【0047】
<継手部を密閉する工程>
継手部20は、コンクリートブロック10内に埋め込まれているため凹部となっている。この凹部をそのまま放置すると、凹部内に土砂や水が入り込み、継手が錆びたり損傷したりする。そこで、従来のコッター22を用いた継手では、継手部20の凹部内にモルタル等の充填材23を充填し、さらに凹部に蓋部材(閉塞蓋30)を取り付ける等の措置が施されていた。
【0048】
従来のように継手部20にモルタル等の充填材23を充填すると、継手部20を被覆して錆びたり損傷したりすることは防止できるが、隣り合うコンクリートブロック10同士が継手により接合されているだけではなく、接合部分がコンクリートブロック10内に完全に埋め込まれてしまう。このため、損傷したコンクリートブロック10を交換しようとした場合に、隣り合うコンクリートブロック10同士を接合している継手部20を破壊しなくてはならず、健全なコンクリートブロック10の継手部20も破壊されてしまう。
【0049】
したがって、壁構造を構成する一部のコンクリートブロック10のみが損傷した場合であっても、広範囲にわたってコンクリートブロック10を交換する必要があり、大がかりな工事となり、短期間で工事を終えることができないばかりか、工賃が嵩むという問題があった。例えば、大雨等により護岸壁(堤防)が決壊した場合には、直ちに決壊箇所を修復しなければならないが、そもそも、従来の護岸壁は隣り合うコンクリートブロック10同士を接続していないため、決壊箇所が広範囲に及ぶおそれがある。また、仮に、隣り合うコンクリートブロック10同士が接続されていたとしても、従来の接続方法では、短期間で工事を終えることができない。
【0050】
本実施形態において、継手部20を密閉する工程では、コンクリートブロック10の継手部20に対して密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)を着脱可能に取り付けることにより、継手部20を密閉している。密閉部材は、凹部に蓋をして凹部内を密閉状態とする閉塞蓋30であってもよいし、凹部内に充填が可能でありかつ容易に取り除くことが可能なゴム、プラスチック、ゲル材等の柔軟性を有して凹部を密閉することが可能な充填材23であってもよいし、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0051】
<壁構造の修復工程>
次に、
図2及び
図5を参照して、壁構造の一部に損傷が生じた場合における壁構造の修復工程について説明する。壁構造の一部に損傷が生じて壁構造を修復する必要が生じた場合には、損傷したコンクリートブロック10と隣り合うコンクリートブロック10との継手部20に取り付けた密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)及び継手(コッター22)を取り外す工程(S5)と、損傷したコンクリートブロック10を取り除く工程(S6)と、取り除いたコンクリートブロック10に代えて新たなコンクリートブロック10を設置する工程(S7)と、新たに設置したコンクリートブロック10と隣り合うコンクリートブロック10同士を着脱可能な継手(コッター22)により繋ぎ合わせる工程(S8)と、新たに設置したコンクリートブロック10と隣り合うコンクリートブロック10の継手部20に対して密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)を着脱可能に取り付けることにより継手部20を密閉する工程(S9)とを実施して壁構造を修復する。上述した壁構造の修復工程(S5~S9)は、壁構造の損傷部分がなくなるまで実施する(S10)。
【0052】
<密閉部材及び継手を取り外す工程>
密閉部材を取り外す工程では、壁構造を構築したコンクリートブロック10の中から損傷したコンクリートブロック10を取り除くために、隣り合うコンクリートブロック10同士を接続している継手部20に施工した密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)を取り除いて、継手(コッター22)を取り外す。上述したように、本実施形態の密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)は、継手部20に対して着脱可能であるため、継手部20から取り除いたとしても、継手部20が損傷することはない。また、継手としてコッター22を用いた場合には、容易に継手(コッター22)を取り外すことができる。
【0053】
<損傷したコンクリートブロックを取り除く工程>
損傷したコンクリートブロック10を取り除く工程では、密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)を取り除くとともに継手(コッター22)を取り外したコンクリートブロック10を、油圧ショベルやクレーン等の重機を用いて壁構造から取り除く。取り除き作業の準備工程として、掘り起こし作業や玉掛作業等が必要となる場合もある。
【0054】
<新たなコンクリートブロックを設置する工程>
損傷したコンクリートブロック10を取り除いた後に、新たなコンクリートブロック10を設置する。この際、損傷したコンクリートブロック10が存在した箇所に対して、整地、裏込め材の充填、新たなコンクリートブロック10を設置するための空間の確保、残存したコンクリートブロック10の位置調整等の作業が必要となる場合がある。
【0055】
このようにして確保した空間に、新たなコンクリートブロック10を設置する。設置するコンクリートブロック10は、油圧ショベルやクレーン等の重機を用いて、残存したコンクリートブロック10の空間に設置する。なお、損傷したコンクリートブロック10を取り除いた際に、従前と全く同様の空間(面積、形状)を確保できない場合には、新たなコンクリートブロック10として、損傷したコンクリートブロック10を取り除いた空間に合致する新たなコンクリートブロック10を用意する等、細かな調整作業が必要となる場合もある。
【0056】
<継手部を密閉する工程>
新たなコンクリートブロック10を設置したら、壁構造の構築時と同様の方法により、隣り合うコンクリートブロック10同士を継手(コッター22)で接続した後、継手部20を密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)で密閉する。継手(コッター22)を用いたコンクリートブロック10の接続及び密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)による密閉は、上述したとおりである。
【0057】
損傷したコンクリートブロック10が複数箇所存在する場合には、すべての箇所において、上述した壁構造の修復工程を実施する。また、コンクリートブロック10の構築工程と同様な付帯工事を行う場合がある。例えば、壁構造が護岸壁の場合には、修復箇所において、必要に応じて適宜な時期に、締切り工、根固め工120、盛土工、裏込め工170、天端工140、天端保護工150、小口止め工160、すり付け工等を実施する。他の壁構造の構築においても、状況に応じて、当該壁構造に必要な工事が行われる。
【0058】
<本発明を護岸壁に適用した場合>
護岸壁は、想定される降雨量等に基づいて、面積、形状、大きさ、高さ等の条件が設定されている。しかし、近年の気候変動化に伴い、想定外の降雨量があり、十分な安全管理を行っていたとしても、想定の範囲を超えて河川の水量が増加し、護岸壁に損傷を与えるような水圧や水流が発生することがある。
【0059】
従来の護岸壁は、法面を構成するためにコンクリートブロック10を積み上げて構成されており、隣り合うコンクリートブロック10同士を繋ぎ合わせる工程を含んでいないのが一般的である。このため、一旦、想定の範囲を超えて河川の水量が増加した場合には、コンクリートブロック10に過大な負荷が掛かり、積み上げたコンクリートブロック10がズレたり、コンクリートブロック10同士の隙間から水が入り込んだりして、コンクリートブロック10が損壊したり、洗掘が生じたりして、堤防が決壊するおそれがある。
【0060】
この点、本発明に係る壁構造の構築及び修復方法では、積み上げたコンクリートブロック10を継手(コッター22)により繋ぎあわせているので、万が一、想定を超える水流や水圧が生じたとしても、コンクリートブロック10の損壊や洗掘等を最小限に止めることができる。
【0061】
また、継手部20は密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)により水密に密閉されているので、継手構造の強度を増すことができる。この密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)は、コンクリートブロック10の継手部20に対して着脱可能であるため、万が一、コンクリートブロック10の一部が損傷した場合であっても、密閉部材(充填材23や閉塞蓋30)を用意に取り除いて継手(コッター22)を外すことができるので、損傷したコンクリートブロック10のみを取り除き、新たなコンクリートブロック10と入れ替えることができる。特に、継手としてコッター22を用いた場合には、コンクリートブロック10の接続及び取り除きを容易に行うことができる。
【0062】
このように、本発明に係る壁構造の構築及び修復方法を護岸壁に適用した場合には、護岸壁の構築及び修復が容易であり、施工時間及び修復時間を短縮できるとともに、施工費用及び修復費用を低減することができる。また、修復時間を短縮することができるため、洪水による護岸壁(堤防)の決壊を短時間に回復することができ、河川管理上、極めて有利な工法となる。
【符号の説明】
【0063】
10 コンクリートブロック
20 継手部
21 コッター挿入開口
22 コッター
23 充填材
24 コッター受金具
30 閉塞蓋
31 弾性係止片
32 鉤片
100 法覆工
110 基礎工
120 根固め工
130 横帯工
140 天端工
150 天端保護工
160 小口止め工
170 裏込め工