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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】固体電解質接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20241212BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20241212BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20241212BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20241212BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20241212BHJP
   H01M 8/1246 20160101ALI20241212BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20241212BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/88 T
H01M4/92
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1213
H01M8/1246
H01M8/1253
H01M8/126
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020214301
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022100127
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 陽樹
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-090448(JP,A)
【文献】特開2014-034727(JP,A)
【文献】特開2020-155349(JP,A)
【文献】特開2003-206178(JP,A)
【文献】特表2008-540126(JP,A)
【文献】特開2008-251379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/92
H01M 8/12
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 11/00
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、両電極間に位置する固体電解質とを備えた固体電解質接合体であって、
前記固体電解質が、酸化物イオン伝導性を有するセラミックスであり、
前記第1電極が、白金族元素、金及びこれらを含む合金のうち、少なくとも一種と、酸素吸蔵能を有する金属酸化物とを含み、
前記金属酸化物が、下記(2)及び(3)より選ばれる少なくとも一種の酸化物を含み、Ceに対するZrの原子比が0超1.5以下である、固体電解質接合体。
(2)CeとZrとを含む酸化物。
(3)CeとZrとを含む酸化物であって、Ce又はZrの一部を、Ce以外の少なくとも一種の希土類元素で置換した酸化物。
【請求項2】
前記第1電極における前記金属酸化物の割合が1体積%以上50体積%以下である、請求項1に記載の固体電解質接合体。
【請求項3】
前記第1電極の厚さが10nm以上1000nm以下である、請求項1又は2に記載の固体電解質接合体。
【請求項4】
前記金属酸化物が(3)であり、CeとZrとの合計に対するCe以外の希土類元素の原子比が0超0.3以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項5】
前記セラミックスが、ランタン及びケイ素を含む複合酸化物、イットリウム安定化ジルコニア、サマリウムドープセリア、ガドリニウムドープセリア、ランタンガレート及びイットリウムドープ酸化ビスマスからなる群から選択される少なくとも1種以上を含むセラミックスである、請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項6】
前記第1電極においては、白金族元素、金及びこれらを含む合金のうち、少なくとも一種と、前記金属酸化物とが化合物を形成しているか、又は混合された状態になっている、請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項7】
基板を更に有し、該基板上に前記第1電極又は前記第2電極が配置されている、請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項8】
前記基板と前記第1電極又は前記第2電極との界面に、該基板を構成する元素を含む化合物、又は該界面に接する前記第1電極若しくは前記第2電極を構成する元素を含む化合物が存在する、請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項9】
前記第2電極が、白金族元素、金及びこれらを含む合金のうち、少なくとも一種と、酸素吸蔵能を有する金属酸化物とを含む、請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の固体電解質接合体を有する電気化学素子。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の固体電解質接合体の製造方法であって、
白金族元素、金及びこれらを含む合金のうち、少なくとも一種と、酸素吸蔵能を有する金属酸化物とを含むアモルファス状の第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に、アモルファス状の固体電解質を形成する工程と、
前記固体電解質上に、第2電極を形成する工程とを備え、
第1電極を形成する工程を行った後に、固体電解質を形成する工程と、第2電極を形成する工程とを行うか、又は第2電極を形成する工程を行った後に、固体電解質を形成する工程と、第1電極を形成する工程とを行う、固体電解質接合体の製造方法。
【請求項12】
スパッタリング法によって、基板上に、前記第1電極又は前記第2電極のいずれか一方を形成する、請求項11に記載の固体電解質接合体の製造方法。
【請求項13】
前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方を形成するときに、白金族元素、金又はこれらを含む合金からなるスパッタリングターゲット材と、酸素吸蔵能を有する金属酸化物からなるスパッタリングターゲット材とを用いる、請求項11又は12に記載の固体電解質接合体の製造方法。
【請求項14】
前記第1電極の形成後か、前記固体電解質の形成後か、又は前記第2電極の形成後に、アニール工程を行い、アモルファス状の前記第1電極、前記固体電解質、又は前記第2電極を結晶化させる、請求項11ないし13のいずれか一項に記載の固体電解質接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質接合体に関する従来技術として特許文献1に記載のものが知られている。同文献には、燃料電池における固体電解質膜に隣接して配置された触媒層が、白金及び酸素吸蔵能を有する金属酸化物を含むことが記載されている。同文献に記載の燃料電池においては、金属酸化物の酸素吸蔵放出機能によって、発電時において酸素が不足していない状態では、水系溶媒に溶解した酸素を金属酸化物に吸蔵させ、発電時において酸素が不足している状態では、金属酸化物から水系溶媒へ酸素を放出させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/131536号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、高電流の出力状態であっても電圧降下が起こりにくく安定した電力供給が可能な固体高分子形燃料電池を提供することに関するものである。つまり電解質としてプロトン伝導性の固体高分子を用いた燃料電池に関するものである。しかし同文献では、同文献に記載の技術を酸化物イオン伝導性の固体電解質に適用することについての検討はなされていない。したがって、酸化物イオン伝導性の固体電解質を用いたデバイスが有する課題、例えば酸化物イオン伝導性の向上や、雰囲気ガス濃度の変化に対する酸化物イオン電流値応答性については、同文献に記載の技術では解決されない。
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る固体電解質接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1電極と、第2電極と、両電極間に位置する固体電解質とを備えた固体電解質接合体であって、
前記固体電解質が、酸化物イオン伝導性を有するセラミックスであり、
前記第1電極が、白金族元素、金及びこれらを含む合金のうち、少なくとも一種と、酸素吸蔵能を有する金属酸化物とを含む、固体電解質接合体を提供するものである。
【0006】
また本発明は、スパッタリング法によって、白金族元素、金及びこれらを含む合金のうち、少なくとも一種と、酸素吸蔵能を有する金属酸化物とを含むアモルファス状の第1電極を形成する工程と、
スパッタリング法によって、前記第1電極上に、アモルファス状の固体電解質を形成する工程と、
スパッタリング法によって、前記固体電解質上に、第2電極を形成する工程とを備え、
第1電極を形成する工程を行った後に、固体電解質を形成する工程と、第2電極を形成する工程とを行うか、又は第2電極を形成する工程を行った後に、固体電解質を形成する工程と、第1電極を形成する工程とを行う、固体電解質接合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸化物イオン伝導性が高く、且つ酸素ガス濃度の変化に対する酸化物イオン電流値の応答性が良好な固体電解質接合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の固体電解質接合体の一実施形態を示す断面模式図である。
図2図2は、本発明の固体電解質接合体の別の実施形態を示す断面模式図である。
図3図3は、本発明の固体電解質接合体の更に別の実施形態を示す断面模式図である。
図4図4は、本発明の固体電解質接合体の更に別の実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の固体電解質接合体は、その構成部材として、第1電極と、第2電極と、両電極間に位置する固体電解質とを備えている。第1電極と固体電解質とは、一般に両者の対向面の全域にわたって直接に接しているが、本発明の目的を達する範囲内でそれぞれの一部が直接に接していてもよいし、あるいは両者間に何らかの層が介在していてもよい。同様に、第2電極と固体電解質とは、一般に両者の対向面の全域にわたって直接に接しているが、本発明の目的を達する範囲内でそれぞれの一部が直接に接していてもよいし、あるいは両者間に何らかの層が介在していてもよい。
【0010】
固体電解質層は酸化物イオン伝導性を有するセラミックスから構成されている。固体電解質は、酸化物イオン伝導性を有する限りその種類に特に制限はなく、従来知られている各種の物質を用いることができる。
【0011】
酸化物イオン伝導性を有する固体電解質は、M、M及びOを含む化合物からなることが好ましい。このような化合物を用いることで、固体電解質の酸化物イオン伝導性を一層高めることが可能となる。Mは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr、Y、Ba及びBiからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。一方、Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Si、Ge、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。前記の化合物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0012】
特に、固体電解質は、式(1)M 9.33+x[T6.00-y ]O26.0+zで表される複合酸化物を含むことが、固体電解質の酸化物イオン伝導性を一層高める点から好ましい。式中、Mは、上述のとおりLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr、Y、Ba及びBiからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。Tは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素である。Mは、Mg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素である。xは-1.33以上1.50以下の数である。yは0.00以上3.00以下の数である。zは-5.00以上5.20以下の数である。Tのモル数に対するMのモル数の比率は1.33以上3.61以下である。前記の複合酸化物はアパタイト型結晶構造を有することが好ましい。
【0013】
式(1)において、Mとして挙げられた、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu、Be、Mg、Ca、Sr、Y、Ba及びBiは、正の電荷を有するイオンとなり、アパタイト型六方晶構造を構成し得るランタノイド又は第2族元素であるという共通点を有する元素である。これらの中でも、酸化物イオン伝導性をより高めることができる観点から、La、Nd、Ba、Sr、Ca、Y、Bi及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであることが好ましく、中でも、La、又はNdのうちの一種、あるいは、LaとNd、Ba、Sr、Ca、Y、Bi及びCeからなる群のうちの一種又は二種以上の元素との組み合わせであることが好ましい。また、式(1)におけるTは、Si若しくはGe又はその両方を含む元素であることが好ましい。
【0014】
式(1)におけるM元素としては、例えばMg、Al、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Zr、Ta、Nb、B、Zn、Sn、W及びMoからなる群から選ばれた一種又は二種以上の元素を好ましく挙げることができる。中でも、酸化物イオン伝導度を高める点で、B、Zn及びWが特に好ましい。
【0015】
式(1)において、xは、配向度及び酸化物イオン伝導性を高めることができる観点から、-1.33以上1.50以下の数であることが好ましく、-1.00以上1.00以下であることが好ましく、中でも0.00以上あるいは0.70以下、その中でも0.45以上あるいは0.65以下であることが好ましい。式(1)中のyは、アパタイト型結晶格子におけるT元素位置を埋めるという観点、及び酸化物イオン伝導性を高める観点から、0.00以上3.00以下の数であることが好ましく、0.40以上1.00未満であることが更に好ましく、中でも0.40以上0.90以下であることが好ましく、その中でも0.80以下、特に0.70以下、とりわけ0.50以上0.70以下であることが好ましい。式(1)中のzは、アパタイト型結晶格子内での電気的中性を保つという観点から、-5.00以上5.20以下の数であることが好ましく、-3.00以上2.00以下であることが好ましく、中でも-2.00以上あるいは1.50以下、その中でも-1.00以上あるいは1.00以下であることが好ましい。
【0016】
式(1)中、Tのモル数に対するMのモル数の比率、言い換えれば(9.33+x)/(6.00-y)は、アパタイト型結晶格子における空間的な占有率を保つ観点から、1.33以上3.61以下であることが好ましく、1.40以上3.00以下であることが更に好ましく、1.50以上2.00以下であることが一層好ましい。
【0017】
式(1)で表される複合酸化物のうち、Mがランタンである複合酸化物、すなわちLa9.33+x[T6.00-y y]O26.0+zで表される複合酸化物を用いると、酸化物イオン伝導性が一層高くなる観点から好ましい。La9.33+x[T6.00-y y]O26.0+zで表される複合酸化物の具体例としては、La9.33+x(Si5.300.70)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Ge1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Zn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.701.30)O26.0+z、La9.33+x(Si4.70Sn1.30)O26.0+z、La9.33+x(Ge4.701.30)O26.0+zなどを挙げることができる。式(1)で表される複合酸化物のうち、Mがランタンであり、TがSiである複合酸化物、すなわちランタン及びケイ素を含む複合酸化物が特に好ましい。式(1)で表される複合酸化物は、例えば国際公開WO2016/111110に記載の方法に従い製造することができる。
【0018】
固体電解質は、上述したランタン及びケイ素を含む複合酸化物だけでなく、イットリウム安定化ジルコニア(以下「YSZ」という。)、サマリウムドープセリア(以下「SDC」という。)、ガドリニウムドープセリア(以下「GDC」という。)、ランタンガレート及びイットリウムドープ酸化ビスマス(以下「YBO」という。)からなる群から選択される少なくとも1種であることも好ましい。
【0019】
YSZとしては、ジルコニウム(Zr)とイットリウム(Y)の合計モル数に対するイットリウムのモル数の割合(Y/(Zr+Y))が0.05以上0.15以下であるものを用いることが好ましい。SDCとしては、セリウム(Ce)とサマリウム(Sm)の合計モル数に対する、サマリウムのモル数の割合(Sm/(Ce+Sm))が0.10以上0.25以下であるものを用いることが好ましい。GDCとしては、セリウム(Ce)とガドリニウム(Gd)の合計モル数に対するガドリニウムのモル数の割合(Gd/(Ce+Gd))が0.10以上0.25以下であるものを用いることが好ましい。YBOとしては、ビスマス(Bi)とイットリウム(Y)の合計モル数に対するイットリウムのモル数の割合(Y/(Bi+Y))が0.10以上0.30以下含むものを用いることが好ましい。
【0020】
固体電解質は、上述した各種材料のうちの一種であってもよく、あるいは二種以上の組み合わせであってもよい。二種以上の材料を用いる場合には、各材料を積層したり、混合したりすることができる。
【0021】
本発明の固体電解質接合体において、固体電解質が層状の形態を有する場合、その厚さは、固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性を高めて電気抵抗を効果的に低下させる観点から、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、30nm以上500nm以下であることが更に好ましく、50nm以上300nm以下であることが一層好ましい。固体電解質の厚さは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察により測定できる。
【0022】
本発明の固体電解質接合体における第1電極は、上述した固体電解質の電極として機能するものである。この目的のために第1電極は、金属元素のうち酸素還元触媒能を持つ元素、すなわち白金族元素、金及びこれらを含む合金のうち少なくとも一種を含む元素(以下、これらの元素を総称して「白金等」という。)を含んでいる。また第1電極は酸素吸蔵能を有する金属酸化物(以下「OSC材料」ともいう。)を含んで構成されている。
【0023】
第1電極が、白金等とOSC材料とを含むことによって、本発明の固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性が高まり電気抵抗が低減することを本発明者は知見した。固体電解質接合体の電気抵抗が低減することは、固体電解質接合体を例えば酸素センサとして用いた場合に、センサ挙動が安定化するなどの利点をもたらす。具体的には、本発明の固体電解質接合体を例えば酸素センサとして用いた場合に、酸素ガス濃度の変化に対する酸化物イオン電流の応答性が良好になる。この利点を一層顕著なものとする観点から、第1電極においては、白金等とOSC材料とが化合物を形成しているか、又は混合された状態になっていることが好ましい。
【0024】
白金等とOSC材料とが化合物を形成しているとは、例えば白金等とOSC材料のカチオンが互いに拡散し、部分的に固溶した状態のことであるか、又は白金等とOSC材料を構成する元素とが合金を形成しているか若しくは複合酸化物を形成しているような状態のことである。
白金等とOSC材料とが混合された状態になっているとは、例えば白金等がOSC材料と固溶せず、それぞれが独立した物質を保った状態で互いに交じり合った共連続構造や部分分散構造のような状態のことである。
【0025】
固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性を高めて電気抵抗を低減させる観点から、白金等及びOSC材料を含む第1電極においては、白金等とOSC材料とは、いわゆるサーメットとなっていることが好ましい。例えば第1電極においては、白金等とOSC材料とが共連続構造を有していることが好ましい。第1電極をこのような共連続構造とするためには、例えば後述する方法によって第1電極を形成すればよい。第1電極が共連続構造を有しているか否かは例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面観察及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)によって確認が可能である。
【0026】
第1電極におけるOSC材料の割合は、白金等の単膜の成膜速度とOSC材料の成膜速度とから算出した体積で表して、1体積%以上50体積%以下であることが好ましく、2体積%以上40体積%以下であることが更に好ましく、3体積%以上30体積%以下であることが一層好ましい。第1電極に占めるOSC材料の割合をこの範囲に設定することは、第1電極内での電子伝導性を確保することが可能となり、固体電解質の電極として十分に機能する観点から有利である。
【0027】
同様の観点から、第1電極における白金等の割合は、白金等の単膜の成膜速度とOSC材料の成膜速度とから算出した体積で表して、50体積%以上99体積%以下であることが好ましく、60体積%以上98体積%以下であることが更に好ましく、70体積%以上97体積%以下であることが一層好ましい。
【0028】
第1電極におけるOSC材料の割合及び白金等の割合は次の方法で測定できる。OSC材料及び白金等をそれぞれ別個に基板に成膜し、触針式段差計を用いて各膜厚を測定することにより、OSC材料及び白金等を同時に成膜したときのそれぞれの割合が算出できる。あるいは、SEMやTEMを用いてEDS測定を行い、膜中の各元素の原子数比から密度を用いて体積換算することにより定量分析することでも測定できる。
【0029】
第1電極は多孔質体であってもよい。これによって、ガスが第1電極内を拡散することが可能になり、電気化学反応が促進される場合がある。こうした場合、第1電極はその平均空隙率が0.1%以上15%以下であることが好ましく、0.2%以上10%以下であることが更に好ましい。
【0030】
平均空隙率は例えば次の方法で測定される。まず、SEMを用いて加速電圧5kV、倍率5000倍の条件で、空隙部と非空隙部とが明らかに区別可能な第1電極の表面二次電子像を取得する。取得する画像は、空隙部と非空隙部とを明度により区別できるよう、画像コントラストを適宜調整する。取得した画像の23μm×17μmの範囲をImage-Pro(登録商標)(Media Cybernetics社製)を用いて、非空隙部からなる明部と空隙部からなる暗部とに二値化処理を行い、その面積比を測定し、平均空隙率とする。
【0031】
本発明の固体電解質接合体において、第1電極が層状の形態を有する場合、その厚さは、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、50nm以上500nm以下であることが更に好ましく、100nm以上400nm以下であることが一層好ましい。第1電極の厚さをこの範囲に設定することで、第1電極の層内の電子伝導性を確保することが可能となり、固体電解質の電極として十分に機能する。第1電極の厚さは、触針式段差計や電子顕微鏡を用いた断面観察により測定することができる。
【0032】
第1電極を構成する成分である白金等は、第1電極において好ましくは金属単体の状態で存在している。なお、本明細書において白金族元素とはPt、Pd、Rh、Ir、Ru及びOsのいずれかの元素のことをいう。また白金族元素又は金を含む合金とは、白金族元素又は金を少なくとも一部に含む合金をいう。白金族元素及び金以外の合金構成元素としては、例えばNiやFeなどの遷移金属元素が挙げられる。第1電極に用いる白金等としては、Ptを用いることが電極の酸素還元触媒能を高める点から望ましい。
【0033】
白金等とともに第1電極を構成する成分であるOSC材料は、上述したとおり酸素吸蔵能を有する金属酸化物からなる。OSC材料としては、雰囲気の酸素ガス濃度に応じて酸素を吸蔵・放出することが可能な材料が用いられる。この観点から、OSC材料を構成する金属は多価金属であることが好ましい。OSC材料を構成する金属酸化物の例としては、酸化セリウム、酸化鉄、酸化銅、及びセリウム以外の希土類元素の酸化物が熱的安定性の観点等から好ましく用いられる。セリウム以外の希土類元素の酸化物としては、例えばSc23、Y23、La23、Pr611、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb47、Dy23、Ho23、Er23、Tm23、Yb23及びLu23が挙げられる。
【0034】
特に、OSC材料はセリウムを含む酸化物であることが、本発明の固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性を高めて電気抵抗を一層低減させ得る観点から好ましい。この観点から、OSC材料がセリウムを含む酸化物である場合、該酸化物は、以下の(1)から(3)より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
(1)Ce単体の酸化物。
(2)CeとZrとを含む酸化物。
(3)CeとZrとを含む酸化物であって、Ce又はZrの一部を、Ce以外の少なくとも一種の希土類元素で置換した酸化物。
【0035】
セリウムを含む酸化物が(1)である場合、該酸化物は一般にCeOで表される。
【0036】
セリウムを含む酸化物が(2)である場合、該酸化物は一般にCeOとZrOとの固溶体である。CeOとZrOとが固溶体となっていることは、X線回折装置(XRD)を用い、CeOとZrOとの固溶体に由来する単相の回折ピークが観察されるか否かによって確認できる。固溶体におけるCeに対するZrの原子比Zr/Ceは、本発明の固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性を高めて電気抵抗を一層低減させ得る観点から、0超1.5以下であることが好ましく、0.5以上1.3以下であることが更に好ましく、0.8以上1.2以下であることが一層好ましい。
【0037】
セリウムを含む酸化物が(3)である場合、該酸化物はCeOとZrOとの固溶体において、Ceの一部がCe以外の希土類元素が置換されたものである。Ce以外の希土類元素としては、本発明の固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性を高めて電気抵抗を一層低減させ得る観点から、3価の安定な酸化物を形成するCe以外の希土類元素であるSc、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuを用いることが好ましく、Sm及びGdを用いることが一層好ましい。
Ce以外の希土類元素をRで表した場合、(3)の酸化物における、CeとZrとの合計に対するRの原子比R/(Ce+Zr)は、本発明の固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性を高めて電気抵抗を一層低減させ得る観点から、0超0.3以下であることが好ましく、0.05以上0.25以下であることが更に好ましく、0.1以上0.2以下であることが一層好ましい。
(3)の酸化物におけるCeに対するZrの原子比Zr/Ceは、(2)の酸化物と同様に、本発明の固体電解質接合体の酸化物イオン伝導性を高めて電気抵抗を一層低減させ得る観点から、0超1.5以下であることが好ましく、0.5以上1.3以下であることが更に好ましく、0.8以上1.2以下であることが一層好ましい。
【0038】
本発明の固体電解質接合体においては、固体電解質における第1電極との対向面と反対側の面に第2電極が配される。第2電極は、固体電解質に対する電極としての機能を有する限りにおいて、これを構成する材料の種類に特に制限はなく、固体電解質接合体の具体的な用途に応じて適宜選択することができる。例えば第2電極に含まれる材料としては、例えばNi、Zn、Sn、Li、Au、Ag、Pt、Rh、Pdなどの金属やこれらの元素を含む合金や金属酸化物、炭酸リチウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、La、SrやCoなどの元素を含み酸化物イオン伝導性及び電子伝導性の両方を有する混合導電体やタングステン酸亜鉛が挙げられ、これらの材料の複合体でもあり得る。あるいは、第2電極に含まれる材料として、第1電極を構成する材料と同様のものを用いることができる。すなわち第2電極は、白金等とOSC材料とを含むものであり得る。
【0039】
第2電極は、先に説明した第1電極と同様に、OSC材料が白金等によって結合された共連続構造を有していることが好ましい。第2電極の厚さの範囲は、第1電極の厚さの範囲と同様とすることができる。
【0040】
次に、本発明の固体電解質接合体の好適な製造方法について説明する。
固体電解質接合体の製造は、第1電極の形成工程及びその後に行われる固体電解質及び第2電極の形成工程を含む。以下それぞれの工程について説明する。
【0041】
第1電極の形成工程においては、まず基板を用意し、該基板の一面に第1電極を形成する。第1電極の形成には各種の薄膜形成手段が用いられる。具体的には蒸着法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法などの物理気相成長(PVD)法や化学気相成長(CVD)法によって第1電極を形成することができる。これらの各種方法のうち、OSC材料が白金等によって結合された共連続構造の第1電極を形成しやすい点、及び量産性に優れている点から、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0042】
スパッタリング法によって第1電極を形成する場合には、白金等のターゲット及びOSC材料のターゲットを用いることで、白金等及びOSC材料を含む第1電極を形成することができる。また、スパッタリング時のガス圧を調整することにより、形成される第1電極の多孔性を制御することができる。ガス圧を高圧にすることで第1電極の多孔性を向上させることができる。第1電極における白金等及びOSC材料のそれぞれの割合は、スパッタリング法を行うときのターゲットへの供給電力を適切に設定することで調整が可能である。
【0043】
第1電極が形成された後に、固体電解質の形成工程を行う。固体電解質は、第1電極の二つの面のうち、基板と対向していない側の面に形成する。固体電解質の形成にも、第1電極の形成と同様に、各種の薄膜形成手段が用いられる。目的とする組成を有する固体電解質を容易に形成しやすい点から、薄膜形成手段のうち、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0044】
固体電解質が形成された後に、第2電極の形成工程を行う。第2電極の形成工程は、第1電極の形成工程と同様に行うことができる。したがって、第2電極はスパッタリング法によって行うことが好ましい。スパッタリング法のターゲット材としては、白金等からなるスパッタリングターゲット材と、OSC材料からなるスパッタリングターゲット材とを用いることが好ましい。
【0045】
以上のようにして形成された第1電極、固体電解質及び第2電極はいずれもアモルファス状のものであることから、これを結晶化させることが、OSC材料のOSC能を高める観点から好ましい。この観点から、第1電極の形成後か、固体電解質の形成後か、又は第2電極の形成後に、アニール工程を行い、アモルファス状の第1電極、アモルファス状の固体電解質、又はアモルファス状の第2電極を結晶化させる工程を行うことが好ましい。アニール工程を行うことによって、第1電極及び/又は第2電極において、OSC材料が白金等によって結合された共連続構造、すなわちサーメットを確実に生成させることができる。
【0046】
アニール温度は、確実な結晶化及びサーメットの確実な形成の観点から、300℃以上1300℃以下とすることが好ましく、500℃以上1000℃以下とすることが更に好ましく、600℃以上900℃以下とすることが一層好ましい。
同様の観点から、上述の範囲のアニール温度を採用した場合のアニール時間は、1分以上10時間以下とすることが好ましく、10分以上5時間以下とすることが更に好ましく、30分時間以上3時間以下とすることが一層好ましい。
アニール雰囲気は問わず、酸素含有雰囲気中、還元雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中であってよい。
【0047】
アニール工程は1回又は2回以上行うことができる。例えば、アモルファス状の第1電極及びアモルファス状の固体電解質を形成した後に第1回目のアニール工程を行い、次いでアモルファス状の第2電極を形成した後に第2回目のアニール工程を行うことができる。あるいは、アモルファス状の第1電極、アモルファス状の固体電解質及びアモルファス状の第2電極を形成した後にアニール工程を1回のみ行うことができる。あるいは、アモルファス状の第1電極を形成した後に第1回目のアニール工程を行い、次いで及びアモルファス状の固体電解質を形成した後に第2回目のアニール工程を行い、次いでアモルファス状の第2電極を形成した後に第3回目のアニール工程を行うことができる。
【0048】
以上の製造方法においては、初めに基板上に第1電極を形成し、次いで固体電解質及び第2電極を形成したが、この順序に代えて、初めに基板上に第2電極を形成し、次いで固体電解質及び第1電極を形成してもよい。後者の場合、第2電極の形成後か、固体電解質の形成後か、又は第1電極の形成後に、アニール工程を行い、アモルファス状の第2電極、アモルファス状の固体電解質、又はアモルファス状の第1電極を結晶化させる工程を行うことが好ましい。
【0049】
以上の方法で製造された固体電解質接合体は、電気化学素子の構成部材として好適に用いられる。電気化学素子としては例えば固体電解質形燃料電池、酸素センサ等のガスセンサ、酸素透過素子等のガス透過素子などとして好適に用いられる。
【0050】
図1ないし図4には、本発明の固体電解質接合体の具体的な実施形態が示されている。
図1に示す実施形態の固体電解質接合体1においては、基板10上に第1電極11が位置し、第1電極上に固体電解質13が位置し固体電解質13上に第2電極12が位置している。基板10は主として、第1電極11、固体電解質13及び第2電極12の支持体として用いられる。基板10は、対向する二つの主面を有する板状体であり得る。基板10は、その平面視での形状に特に制限はなく、例えば矩形などの多角形形状や、円形、楕円形などの任意の形状であり得る。
【0051】
基板10は、その厚さが10μm以上1000μm以下であることが好ましく、100μm以上650μm以下であることが更に好ましく、250μm以上350μm以下であることが一層好ましい。基板10の厚さをこの範囲内に設定することで、該基板10は、第1電極11、固体電解質13及び第2電極12の支持体として十分に機能する。更にダイシング等の基板への加工を容易に行うことができる。基板10の厚さは、例えばノギスやデジタル式の厚み測定器により測定することができる。
【0052】
基板10を構成する材料に特に制限はなく、固体電解質接合体1による電気化学反応を阻害しない材料であればよい。例えばケイ素及びその化合物、ヒ化ガリウム等の半導体、石英等のガラス、アルミニウム、銅、ニッケル等の金属及びその合金、チタン酸ストロンチウム、マグネシア等のセラミックスなどが挙げられる。これらの材料のうち、特にケイ素を用いることが、量産性やエッチング性の点から好ましい。
【0053】
図1に示す実施形態においては、基板10上に第1電極11が配置されているが、これに代えて、基板10上に第2電極12を配置し、その上に固体電解質13及び第1電極11をこの順で配置してもよい(以下に述べる図2ないし図4に示す実施形態についても同様である。)。
【0054】
図1に示す実施形態においては、基板10と第1電極11との界面に、基板10を構成する元素を含む化合物が存在するか、又は該界面に接する第1電極を構成する元素を含む化合物が存在する場合がある。この化合物は、上述したアニール工程によって生じるものである。例えば第1電極11が例えばCe単体の酸化物及び白金等を含む層である場合には、基板10における第1電極11との対向面にCe単体の酸化物のみからなる層が形成される。あるいは基板10がケイ素からなる場合には、基板10における第1電極11との対向面にSiO層が形成される。
【0055】
図2に示す実施形態の固体電解質接合体1は、第1電極11の上面及び側面の少なくとも一部が固体電解質13によって被覆されている。この固体電解質13による被覆は、第1電極11の上面及び側面のうち、一部が被覆されないまま開放されていればよい。これ以外の構成は、図1に示す実施形態と同様である。
【0056】
図3に示す実施形態の固体電解質接合体1は、基板10上にヒーター層14が配置され、ヒーター層14上に第1拡散律速層15が配置され、第1拡散律速層15上に第1電極11が配置されている。第1電極11上には、固体電解質13及び第2電極12がこの順で配置されている。そして、第2電極12上に第2拡散律速層16が配置されている。つまり図3に示す実施形態は、図1及び図2に示す実施形態と異なり、ヒーター層14及び第1拡散律速層15を介して間接的に、基板10上に第1電極11が配置されている。
【0057】
本実施形態の固体電解質接合体1においては、図2に示す実施形態と同様に、第1電極11の上面及び側面の少なくとも一部が固体電解質13によって被覆されている。更に本実施形態の固体電解質接合体1においては、第2電極12の上面及び側面の少なくとも一部が第2拡散律速層16で被覆されている。この固体電解質13による被覆は、第1電極11又は第2電極12の上面及び側面のうち、一部が被覆されないまま開放されていればよい。
【0058】
本実施形態の固体電解質接合体1におけるヒーター層14は発熱可能なものである。ヒーター層14を発熱させることで、固体電解質13を加熱することができ、これによって固体電解質の酸化物イオン伝導性を一層高めることができる。
ヒーター層14は発熱可能な材料を含んでいる。例えばヒーター層14は金属を含むことができる。金属を含むヒーター層14に電流を流すことで、ジュール熱が発生し、ヒーター層14を発熱させることが可能になる。金属としては、例えば白金、タングステン及びモリブデンなどが挙げられるが、これらに限られない。
ヒーター層14が金属を含む場合、該ヒーター層14は電気絶縁性材料を含むことが好ましい。電気絶縁性材料は、ヒーター層14と第1電極11との間を電気的に絶縁する目的で用いられる。この観点から、電気絶縁性材料として酸化物を用いることが好ましい。酸化物としては例えば酸化タンタル、酸化チタン、酸化シリコン及びアルミナなどが挙げられるが、これらに限られない。電気絶縁性材料として酸化物を用いることで、ヒーター層14と第1電極11との密着性が良好になるという付加的な利点も生じる。
【0059】
本実施形態の固体電解質接合体1における第1拡散律速層15及び第2拡散律速層16は、固体電解質13への酸素ガスの供給を制限する目的で用いられる。固体電解質接合体1を電流式の酸素センサとして用いたとき、印加電圧の変動に起因して酸素センサの電流値が変動してしまい、正確な濃度測定が困難になる場合がある。この不都合を防止する目的で、第1拡散律速層15及び第2拡散律速層16を設け、固体電解質13への酸素ガスの供給を予め制限することによって、上述した変動に起因する電流値の変動を抑制することが可能となる。この目的のために、第1拡散律速層15及び第2拡散律速層16は多孔質セラミックス材料から構成されていることが好ましく、特に多孔質アルミナから構成されていることが好ましい。
図3に示す実施形態においては、固体電解質接合体1に二つの拡散律速層15,16が設けられているところ、上述した電流値の変動を抑制できる範囲において、いずれか一方の拡散律速層のみを用いてもよく、両方の拡散律速層を用いてもよい。
図3に示す実施形態において特に説明しなかった点については、図1及び図2に示す実施形態についての説明が適宜適用される。
【0060】
図4に示す実施形態は、図3に示す実施形態の変形例である。図4に示す実施形態の固体電解質接合体1は、基板10に孔部17が形成されている。孔部17は、基板10における第1電極11との対向面に対して交差する方向(図4では、直交する方向)に沿って延びている。孔部17は、基板10における二つの主面間を貫通するように延びており、各主面において開口している。すなわち孔部17は貫通孔である。孔部17は、第1電極11への酸素ガスの供給などのガス供給性を向上させる目的で形成される。
【0061】
孔部17は、基板10と第1電極11との対向領域の全域にわたって形成されていてもよく、該対向領域の少なくとも一部に形成されていてもよい。
【0062】
基板10の主面において開口している孔部17の形状は例えば円形であり得る。尤も、孔部17の形状はこれに限られず、他の形状、例えば三角形や四角形などの多角形若しくは楕円形、又はこれらの形状の組み合わせ等であってもよい。特に円形又は正多角形であることが好ましい。
【0063】
基板10の主面において開口している孔部17は好ましくは複数個が規則的に配置されている。孔部17の配置パターンに特に制限はなく、孔部17を通じての第1電極11へのガス供給が円滑に行われる限りにおいて種々の配置パターンを採用することができる。
孔部17が複数個設けられている場合、固体電解質接合体1の平面視において、隣接する孔部17の外周部間の最短距離は、孔部17を通じての供給ガスに接する第1電極11の面積を増やす観点から、平均して3μm以上50μm以下であることが好ましく、4μm以上40μm以下であることが更に好ましく、5μm以上20μm以下であることが一層好ましい。供給ガスに接する第1電極11の面積を増やすことにより、固体電解質接合体1の電気抵抗を低下させることができる。例えば、固体電解質接合体1を固体酸化物形燃料電池に用いた場合に、出力を向上させることができる。
【0064】
孔部17は、基板10の二つの主面の間を直線状に延びている。孔部17は、基板10の二つの主面の間のいずれの位置においても、横断面の形状が同一になっている。例えば孔部17の横断面の形状が円形である場合、孔部17は円柱状の空間であり得る。これに代えて、図4に示すとおり、基板10の二つの主面の間の位置に応じて孔部17の横断面の形状を異ならせることができる。例えば、基板10におけるヒーター層14との対向面での開口面積よりも、基板10における露出面での開口面積を大きくすることができる。例えば図4に示すとおり、孔部17を円錐台の形状を有する空間とすることができる。この場合、円錐台における底面に相当する部分が、基板10の露出面における開口に対応し、円錐台における上面に相当する部分が、基板10におけるヒーター層14との対向面における開口に対応する。孔部17の形状をこのようにすることでも、固体電解質接合体1を具備する電気化学素子を用いる場合に、第1電極11への酸素ガスの供給などのガス供給性をより向上させることが可能である。この場合、孔部17のうち、基板10におけるヒーター層14との対向面側での開口面積をS1とし、基板10の露出面側での開口面積をS2としたとき、S2/S1の値は、第1電極11へのガス供給性を更に一層向上させる観点から、1以上50以下であることが好ましく、2以上25以下であることが更に好ましく、5以上15以下であることが一層好ましい。
【0065】
孔部17は、基板10におけるヒーター層14との対向面での孔1つ当たりの開口面積が300μm以上71000μm以下であることが好ましく、700μm以上8000μm以下であることが更に好ましく、1200μm以上4000μm以下であることが一層好ましい。
【0066】
孔部17は、例えばドライエッチング法の深掘エッチング(DRIE)又はウェットエッチング法の異方性エッチングによって形成できる。これらのエッチング法を用いることによって深い孔部17を容易に形成できる。
【0067】
ドライエッチング法は、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて行うことができる。ドライエッチング法を行うときのフォトマスクの形成法や、ドライエッチングガスの種類に特に制限はなく、基板10の材料に応じて適切に選択すればよい。
【0068】
ウェットエッチング法も、公知のフォトリソグラフィ技術を用いて行うことができる。ウェットエッチング法を行うときのフォトマスクの形成法や、薬液の種類に特に制限はなく、基板10の材料に応じて適切に選択すればよい。
【0069】
形成される孔部17の形状は、DRIEを用いた場合には、ストレート形状となり、異方性エッチングを用いた場合には図4に示すとおりのテーパー形状となる。
【0070】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、図1ないし図3に示す実施形態において、図4に示す実施形態で形成した孔部17を基板10に形成してもよい。
また、図1ないし図4示す実施形態において、第2電極12上に、直接に又は間接に基板11と同一の又は異なる基板を積層してもよい。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0072】
〔実施例1-1〕
ケイ素からなる結晶方位<100>、厚み300μmの基板を用意した。この基板の一面に、スパッタリング法によって厚さ300nmの第1電極を形成した。スパッタリング法のターゲットとしては、2インチサイズの白金のターゲット及び2インチサイズのCeとZrとを含む酸化物(以下「CZO」という。Zr/Ce=1.0)のターゲットを用いた。二つのターゲットに同時に電力を供給する共スパッタリング法を用いて成膜を行った。白金についてはDCスパッタリング法を用い、CZOについてはRFスパッタリング法を用いた。アルゴンガスの流量は50sccmとし、アルゴンの圧力は0.5Paとした。投入電力は、白金は150W、CZOは75Wとし、室温でスパッタリングした。得られた第1電極はCZOが白金によって結合された共連続構造を有するものであった。第1電極はCZOを12体積%含み、白金を88体積%含むものであった。
【0073】
第1電極上にRFスパッタリング法によって固体電解質を形成した。固体電解質は、厚さ300nmのSDC、厚さ300nmのLa9.6Si5.30.726.1(以下「LSBO」という。)、及び厚さ300nmのSDCを順次積層することで形成した。スパッタリング法におけるアルゴンガスの流量は50sccmとし、アルゴンの圧力は0.5Paとした。投入電力は200Wとし、室温でスパッタリングした。
【0074】
このようにして形成された第1電極及び固体電解質を、大気雰囲気下、900℃で1時間アニールした。
次いで、固体電解質上に、第1電極の形成と同様の手順で厚さ300nmの第2電極を形成した。第2電極はCZOを12体積%含み、白金を88体積%含むものであった。
このようにして形成された第2電極を、大気雰囲気下、900℃で1時間アニールした。このようにして、目的とする固体電解質接合体を得た。
【0075】
〔実施例1-2〕
実施例1-1において、第1電極及び第2電極の組成を、CZO41体積%、白金59体積%とした。これら以外は実施例1-1と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0076】
〔比較例1-1〕
実施例1-1において、第1電極及び第2電極の組成を、白金100体積%とした。これ以外は実施例1-1と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0077】
〔比較例1-2〕
実施例1-1において、第1電極及び第2電極の組成を、LSBO16体積%、白金84体積%とした。これら以外は実施例1-1と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0078】
〔実施例2-1〕
ケイ素からなる結晶方位<100>、厚み300μmの基板を用意した。この基板の一面に、スパッタリング法によって厚さ300nmの第1電極を形成した。スパッタリング法のターゲットとしては、2インチサイズの白金のターゲット及び4インチサイズのCZOのターゲットを用いた。二つのターゲットに同時に電力を供給する共スパッタリング法を用いて成膜を行った。白金についてはDCスパッタリング法を用い、CZOについてはRFスパッタリング法を用いた。アルゴンガスの流量は50sccmとし、アルゴンの圧力は4Paとした。電力はそれぞれ200Wとし、室温でスパッタリングした。得られた第1電極は多孔質のものであり且つCZOが白金によって結合された共連続構造を有するものであった。第1電極はCZOを16体積%含み、白金を84体積%含むものであった。
【0079】
第1電極上にRFスパッタリング法によって固体電解質を形成した。固体電解質は、厚さ300nmのSDC、厚さ300nmのLSBO、及び厚さ300nmのSDCを順次積層することで形成した。スパッタリング法におけるアルゴンガスの流量は50sccmとし、アルゴンの圧力は0.5Paとした。電力は200Wとし、室温でスパッタリングした。
【0080】
次いで、固体電解質上に、第1電極の形成と同様の手順で厚さ300nmの第2電極を形成した。第2電極はCZOを16体積%含み、白金を84体積%含むものであった。
このようにして形成された第1電極、固体電解質及び第2電極を、大気雰囲気下、900℃で1時間アニールした。このようにして、目的とする固体電解質接合体を得た。
【0081】
〔実施例2-2〕
実施例2-1において、第1電極及び第2電極の組成を、サマリウムをドープしたCZO(以下「Sm-CZO」という。)4体積%、白金96体積%とした。これら以外は実施例2-1と同様にして固体電解質接合体を得た。サマリウムドープCZOにおけるSm/(Ce+Zr)原子比は0.12であった。
【0082】
〔実施例2-3〕
実施例2-2において、第1電極及び第2電極の組成を、Sm-CZO18体積%、白金82体積%とした。これら以外は実施例2-2と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0083】
〔比較例2-1〕
実施例2-1において、第1電極及び第2電極の組成を、白金100体積%とした。これ以外は実施例2-1と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0084】
〔比較例2-2〕
実施例2-1において、第1電極及び第2電極の組成を、LSBO15体積%、白金85体積%とした。これら以外は実施例2-1と同様にして固体電解質接合体を得た。
【0085】
〔評価1〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質接合体について、500℃又は600℃における電気化学測定評価を行った。詳細には、ソーラトロン社製SI1260を用いて、交流インピーダンス法による測定を行った。測定条件は、測定振幅30mVにおいて、1kHzから0.1kHzまでの周波数を用いて測定した。その測定結果を用いてナイキストプロットを行った後に、前記周波数域において解析ソフトを用いて円弧フィッティングを行った際の、実軸との交点の値を抵抗値として評価した。その結果を以下の表1に示す。
【0086】
〔評価2〕
実施例1-1及び比較例1-1で得られた固体電解質接合体について、これを酸素センサとして用いた場合のセンサ挙動を以下の方法で評価した。
実施例1-1及び比較例1-1で得られた固体電解質接合体について、600℃において0.65V印加時のイオン電流値を測定した。酸素21vol%+窒素79vol%で満たされた測定容器中に酸素100%のガスフローを行った。このとき、ガス置換が十分に行われた300秒から350秒後のイオン電流値の平均値に対する550秒から600秒後のイオン電流値の平均値の割合を変動率として比較した。この結果を以下の表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の固体電解質接合体は、比較例の固体電解質接合体に比べて抵抗値が低く、そのことに起因してセンサ挙動が安定していることが分かる。
【符号の説明】
【0089】
1 固体電解質接合体
10 基板
11 第1電極
12 第2電極
13 固体電解質
14 ヒーター層
15 第1拡散律速層
16 第2拡散律速層
17 孔部
図1
図2
図3
図4