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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】イオン注入方法およびイオン注入装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20241212BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20241212BHJP
   H05H 5/06 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01L21/265 T
H01J37/317 C
H01L21/265 603A
H05H5/06
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021011479
(22)【出願日】2021-01-27
(65)【公開番号】P2022114966
(43)【公開日】2022-08-08
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】二口 泰成
【審査官】早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-085179(JP,A)
【文献】特開2000-011944(JP,A)
【文献】特開平07-211500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01J 37/317
H05H 5/06
H05H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エネルギー多段線形加速ユニットを備えるイオン注入装置を用いたイオン注入方法であって、前記高エネルギー多段線形加速ユニットは、複数段の高周波加速部を有し、各段の高周波加速部の電圧振幅、周波数および位相を定めるデータセットにしたがって動作するよう構成され、
前記イオン注入方法は、
前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを第1出力値にするための第1データセットを取得することと、
前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを前記第1出力値とは異なる第2出力値にするための第2データセットを、前記第1データセットに基づいて決定することと、
前記第2データセットにしたがって動作する前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームをウェハに照射してイオン注入することと、を備え、
前記各段の高周波加速部の加速位相は、前記複数段の高周波加速部の全てにおいて、前記第1データセットと前記第2データセットの間で同じであり、
前記各段の高周波加速部の電圧振幅は、前記複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部において、前記第1データセットと前記第2データセットの間で異なることを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
前記各段の高周波加速部の電圧振幅は、前記複数段のうち少なくとも最上段および最下段以外の高周波加速部において、前記第1データセットと前記第2データセットの間で異なることを特徴とする請求項1に記載のイオン注入方法。
【請求項3】
前記各段の高周波加速部の電圧振幅は、前記複数段のうち二段以上の高周波加速部において、前記第1データセットと前記第2データセットの間で異なることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン注入方法。
【請求項4】
前記各段の高周波加速部の電圧振幅は、前記複数段のうち半数以上の段の高周波加速部において、前記第1データセットと前記第2データセットの間で異なることを特徴とする請求項3に記載のイオン注入方法。
【請求項5】
前記第1データセットと前記第2データセットの間で前記電圧振幅が異なる前記二段以上の高周波加速部において、前記各段の高周波加速部の電圧振幅の変化量は、前記第1データセットと前記第2データセットの間で同じであることを特徴とする請求項3または4に記載のイオン注入方法。
【請求項6】
前記第1データセットと前記第2データセットの間で前記電圧振幅が異なる前記二段以上の高周波加速部において、前記各段の高周波加速部の電圧振幅の変化率は、前記第1データセットと前記第2データセットの間で同じであることを特徴とする請求項3または4に記載のイオン注入方法。
【請求項7】
前記第1出力値と前記第2出力値の差に基づいて、前記第1データセットと前記第2データセットの間でいずれの段の高周波加速部に前記電圧振幅の差異を導入するかを決定することをさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項8】
前記各段の高周波加速部に設定可能な電圧振幅の最大値と、前記第1データセットに定められる前記各段の高周波加速部の電圧振幅との間の差に基づいて、前記第1データセットと前記第2データセットの間でいずれの段の高周波加速部に前記電圧振幅の差異を導入するかを決定することをさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項9】
前記各段の高周波加速部に設定可能な電圧振幅の最小変化量に基づいて、前記第1データセットと前記第2データセットの間でいずれの段の高周波加速部に前記電圧振幅の差異を導入するかを決定することをさらに備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項10】
前記第1データセットは、前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームの少なくとも一つのビーム特性の測定値に基づいて、前記複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部の加速位相を調整することにより決定され、
前記第2データセットは、前記高エネルギー多段線形加速ユニットによる前記イオンビームの輸送のシミュレーションに基づいて、前記複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部の電圧振幅を調整することにより決定されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項11】
前記第2データセットにしたがって動作する前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームの少なくとも一つのビーム特性の測定をスキップして、前記イオン注入することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項12】
前記第2データセットにしたがって動作する前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定することと、
前記少なくとも一つのビーム特性の測定値に基づいて、前記第2データセットに定められる前記複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部の電圧振幅を調整することと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項13】
前記第1データセットにしたがって動作する前記高エネルギー多段線形加速ユニットによって輸送されるイオン粒子が前記各段の高周波加速部を通過する第1時刻と、前記イオン粒子が前記各段の高周波加速部を通過するときに有する第1通過エネルギーとを計算することと、
前記計算された前記第1時刻および前記第1通過エネルギーに基づいて前記各段の高周波加速部の加速位相を計算することと、
前記計算された加速位相を固定したまま、前記複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部の電圧振幅を変化させたときに前記イオン粒子が前記各段の高周波加速部を通過する第2時刻と、前記イオン粒子が前記各段の高周波加速部を通過するときに有する第2通過エネルギーとを計算することと、
前記第1データセットに定められる前記各段の高周波加速部の位相と、前記イオン粒子が前記各段の高周波加速部を通過する前記第1時刻と前記第2時刻の間の位相差とに基づいて、前記第2データセットに定められる前記各段の高周波加速部の位相を決定することと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項14】
前記高エネルギー多段線形加速ユニットは、複数段の静電四重極レンズ装置を有し、各段の静電四重極レンズ装置は、対応する各段の高周波加速部の下流側に配置され、前記データセットは、前記各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧をさらに定めており、
前記イオン注入方法は、
前記第1データセットにしたがって動作する前記高エネルギー多段線形加速ユニットによって輸送されるイオン粒子が前記各段の静電四重極レンズ装置に入射するときに有する第1入射エネルギーを計算することと、
前記第2データセットにしたがって動作する前記高エネルギー多段線形加速ユニットによって輸送されるイオン粒子が前記各段の静電四重極レンズ装置に入射するときに有する第2入射エネルギーを計算することと、
前記第1データセットに定められる前記各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧と、前記イオン粒子が前記各段の静電四重極レンズ装置に入射するときに有する前記第1入射エネルギーおよび前記第2入射エネルギーとに基づいて、前記第2データセットに定められる前記各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧を決定することと、をさらに備えることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項15】
前記第2データセットに定められる前記各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧は、前記第1データセットに定められる前記各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧に、前記各段の静電四重極レンズ装置に入射するときに有する前記第1入射エネルギーおよび前記第2入射エネルギーの比率を乗算した値であることを特徴とする請求項14に記載のイオン注入方法。
【請求項16】
前記イオン注入装置は、前記高エネルギー多段線形加速ユニットの下流側に設けられ、前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームに電場を印加する電場印加装置をさらに備え、前記データセットは、前記電場印加装置の印加電圧をさらに定めており、
前記イオン注入方法は、
前記第1データセットに定められる前記電場印加装置の印加電圧と、前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーの前記第1出力値および前記第2出力値とに基づいて、前記第2データセットに定められる前記電場印加装置の印加電圧を決定することをさらに備えることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項17】
前記第2データセットに定められる前記電場印加装置の印加電圧は、前記第1データセットに定められる前記電場印加装置の印加電圧に、前記第1出力値と前記第2出力値の比率を乗算した値であることを特徴とする請求項16に記載のイオン注入方法。
【請求項18】
前記イオン注入装置は、前記高エネルギー多段線形加速ユニットの下流側に設けられ、前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームに磁場を印加する磁場印加装置をさらに備え、前記データセットは、前記磁場印加装置の印加磁場をさらに定めており、
前記イオン注入方法は、
前記第1データセットに定められる前記磁場印加装置の印加磁場と、前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーの前記第1出力値および前記第2出力値とに基づいて、前記第2データセットに定められる前記磁場印加装置の印加磁場を決定することをさらに備えることを特徴とする請求項1から17のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項19】
前記第2データセットに定められる前記磁場印加装置の印加磁場は、前記第1データセットに定められる前記磁場印加装置の印加磁場に、前記第1出力値と前記第2出力値の比率の平方根を乗算した値であることを特徴とする請求項18に記載のイオン注入方法。
【請求項20】
前記イオン注入方法は、
前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを前記第1出力値とは異なる複数の第2出力値にするための複数の第2データセットを、前記第1データセットに基づいて決定することを備え、
前記各段の高周波加速部の加速位相は、前記複数段の高周波加速部の全てにおいて、前記第1データセットと前記複数の第2データセットの間で同じであり、
前記各段の高周波加速部の電圧振幅は、前記複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部において、前記第1データセットと前記複数の第2データセットの間で異なり、
前記複数の第2データセットを切り替えることにより、前記複数の第2データセットのそれぞれにしたがって動作する前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力される複数のイオンビームを前記ウェハに順次照射してイオン注入することを特徴とする請求項1から19のいずれか一項に記載のイオン注入方法。
【請求項21】
前記複数のイオンビームのそれぞれについて、少なくとも一つのビーム特性の測定をスキップすることを特徴とする請求項20に記載のイオン注入方法。
【請求項22】
複数段の高周波加速部を有する高エネルギー多段線形加速ユニットと、
各段の高周波加速部の電圧振幅、周波数および位相を定めるデータセットにしたがって前記高エネルギー多段線形加速ユニットの動作を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを第1出力値にするための第1データセットを取得し、
前記高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを前記第1出力値とは異なる第2出力値にするための第2データセットを前記第1データセットに基づいて決定し、
前記決定した第2データセットにしたがって前記高エネルギー多段線形加速ユニットを動作させるように構成され、
前記制御装置は、前記各段の高周波加速部の加速位相が前記複数段の高周波加速部の全てにおいて、前記第1データセットと前記第2データセットの間で同じであり、かつ、前記各段の高周波加速部の電圧振幅が前記複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部において、前記第1データセットと前記第2データセットの間で異なるように前記第2データセットを決定することを特徴とするイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入方法およびイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程(イオン注入工程ともいう)が標準的に実施されている。イオン注入工程で使用される装置は、イオン注入装置と呼ばれる。ウェハの表面近傍に注入されるイオンの所望の注入深さに応じて、イオンの注入エネルギーが決定される。比較的深い領域への注入には高エネルギー(例えば、1MeV以上)のイオンビームが使用される。
【0003】
高エネルギーのイオンビームを出力可能なイオン注入装置では、多段式の高周波線形加速器(LINAC)を用いてイオンビームが加速される。高周波線形加速器では、所望のビームエネルギーが得られるように各段の電圧振幅、周波数および位相といった高周波パラメータが調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-085179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、さらに深い領域への注入のために、超高エネルギー(例えば、4MeV以上)のイオンビームが求められている。超高エネルギーのイオンビームを出力可能とするには、従来に比べて高周波線形加速器の段数を増やす必要がある。高周波線形加速器の段数が増えると、その分だけ高周波パラメータの調整にかかる時間が長くなり、イオン注入装置の生産性の低下につながる。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、ビームエネルギーの調整を迅速化する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、高エネルギー多段線形加速ユニットを備えるイオン注入装置を用いたイオン注入方法である。高エネルギー多段線形加速ユニットは、複数段の高周波加速部を有し、各段の高周波加速部の電圧振幅、周波数および位相を定めるデータセットにしたがって動作するよう構成される。このイオン注入方法は、高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを第1出力値にするための第1データセットを取得することと、高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを第1出力値とは異なる第2出力値にするための第2データセットを、第1データセットに基づいて決定することと、第2データセットにしたがって動作する高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームをウェハに照射してイオン注入することと、を備える。各段の高周波加速部の加速位相は、複数段の高周波加速部の全てにおいて、第1データセットと第2データセットの間で同じであり、各段の高周波加速部の電圧振幅は、複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部において、第1データセットと第2データセットの間で異なる。
【0008】
本発明の別の態様は、イオン注入装置である。この装置は、複数段の高周波加速部を有する高エネルギー多段線形加速ユニットと、各段の高周波加速部の電圧振幅、周波数および位相を定めるデータセットにしたがって高エネルギー多段線形加速ユニットの動作を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを第1出力値にするための第1データセットを取得し、高エネルギー多段線形加速ユニットから出力されるイオンビームのビームエネルギーを第1出力値とは異なる第2出力値にするための第2データセットを第1データセットに基づいて決定し、決定した第2データセットにしたがって高エネルギー多段線形加速ユニットを動作させるように構成される。制御装置は、各段の高周波加速部の加速位相が複数段の高周波加速部の全てにおいて、第1データセットと第2データセットの間で同じであり、かつ、各段の高周波加速部の電圧振幅が複数段のうち少なくとも一段の高周波加速部において、第1データセットと第2データセットの間で異なるように第2データセットを決定する。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ビームエネルギーの調整を迅速化し、様々なビームエネルギーを有するイオンビームを用いたイオン注入処理を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2図2(a)~(c)は、線形加速装置の構成を示す断面図である。
図3図3(a),(b)は、静電四重極レンズ装置の概略構成を示す正面図である。
図4】高周波加速部の概略構成を示す断面図である。
図5】高周波電圧の時間波形とイオン粒子が受ける加減速エネルギーの一例を模式的に示すグラフである。
図6】高周波電圧の時間波形とイオン粒子が受ける加減速エネルギーの一例を模式的に示すグラフである。
図7】高周波電圧の時間波形とイオン粒子が受ける加減速エネルギーの一例を模式的に示すグラフである。
図8図8(a),(b)は、バンチングされたイオン粒子群が受ける加減速エネルギーの一例を模式的に示すグラフである。
図9】第1調整方法の流れを示すフローチャートである。
図10】第2調整方法の流れを示すフローチャートである。
図11】第2データセットによって得られるイオンビームのエネルギーの誤差の一例を示すグラフである。
図12】第2データセットによって得られるイオンビームのビーム電流の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0013】
実施の形態を詳述する前に概要を説明する。本実施の形態は、高エネルギー用のイオン注入装置に関する。イオン注入装置は、イオン源で生成したイオンビームを高周波線形加速器により加速させ、加速して得られた高エネルギーのイオンビームをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハ)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0014】
本実施の形態における「高エネルギー」とは、1MeV以上、4MeV以上または10MeV以上のビームエネルギーを有するイオンビームのことをいう。高エネルギーのイオン注入によれば、比較的高いエネルギーで所望の不純物イオンがウェハ表面に打ち込まれるので、ウェハ表面のより深い領域(例えば深さ5μm以上)に所望の不純物を注入することができる。高エネルギーイオン注入の用途は、例えば、最新のイメージセンサ等の半導体デバイス製造におけるP型領域および/またはN型領域を形成することである。
【0015】
イオン注入装置にて所望のビーム条件を実現するためには、イオン注入装置を構成する各種機器の動作パラメータを適切に設定する必要がある。所望のビームエネルギーを有するイオンビームを得るには複数段の高周波加速部の動作パラメータを適切に設定する必要がある。また、各段の高周波加速部の上流側および下流側にはイオンビームを適切に輸送するためのレンズ装置があり、所望のビーム電流量を有するイオンビームを得るには複数段のレンズ装置の動作パラメータを適切に設定する必要がある。さらに、ウェハに照射されるイオンビームの平行度や角度分布といったビーム品質を調整するために、線形加速器よりも下流側の各種機器の動作パラメータを適切に設定する必要がある。これらの動作パラメータのセットは、所望のビーム条件を実現するための「データセット」として生成される。
【0016】
より高エネルギーのイオンビームを生成するためには、高周波加速部の段数をより多くした線形加速器が必要となる。高周波加速部の段数が増えると、調整すべき動作パラメータの数が増えるため、適切なデータセットを生成するために必要な時間が長くなる。半導体製造工程によっては、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを同一ウェハに照射する多段注入が必要な場合もある。この場合、複数のビームエネルギーに対応する複数のデータセットを生成しなければならない。複数のデータセットを一から生成した場合、複数のデータセットの全てを生成するまでに非常に長い時間がかかってしまう。そうすると、イオン注入装置の生産性の低下につながってしまう。
【0017】
本実施の形態では、既存の第1データセットに基づいて、第1データセットとは異なるビームエネルギーを有するイオンビームを得るための第2データセットを迅速に生成できるようにする。具体的には、複数段の高周波加速部の加速位相を固定したまま、複数段の高周波加速部の少なくとも一段の電圧振幅を変化させることで、ビームエネルギーの調整を省力化する。また、線形加速器に含まれる複数段のレンズ装置の動作パラメータを一定の条件で変化させることで、第1データセットと同等のビーム輸送を実現する第2データセットの生成を省力化する。さらに、線形加速器よりも下流側の各種機器の動作パラメータについても一定の条件で変化させることで、第1データセットと同等のビーム品質を実現する第2データセットの生成を省力化する。
【0018】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、ビーム生成ユニット12と、ビーム加速ユニット14と、ビーム偏向ユニット16と、ビーム輸送ユニット18と、基板搬送処理ユニット20とを備える。
【0019】
ビーム生成ユニット12は、イオン源10と、質量分析装置11とを有する。ビーム生成ユニット12では、イオン源10からイオンビームが引き出され、引き出されたイオンビームが質量分析装置11により質量分析される。質量分析装置11は、質量分析磁石11aと、質量分析スリット11bとを有する。質量分析スリット11bは、質量分析磁石11aの下流側に配置される。質量分析装置11による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次のビーム加速ユニット14に導かれる。
【0020】
ビーム加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置22a,22b,22cと、ビーム測定部23とを有し、ビームラインBLのうち直線状に延びる部分を構成する。複数の線形加速装置22a~22cのそれぞれは、一段以上の高周波加速部を備え、高周波(RF)電場をイオンビームに作用させて加速させる。ビーム測定部23は、ビーム加速ユニット14の最下流に設けられ、複数の線形加速装置22a~22cにより加速された高エネルギーイオンビームの少なくとも一つのビーム特性を測定する。ビーム測定部23は、イオンビームのビーム特性として、ビームエネルギー、ビーム電流量、ビームプロファイルなどを測定する。本明細書において、ビーム加速ユニット14を「高エネルギー多段線形加速ユニット」ともいう。
【0021】
本実施の形態では、三つの線形加速装置22a~22cが設けられる。第1線形加速装置22aは、ビーム加速ユニット14の上段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第1線形加速装置22aは、ビーム生成ユニット12から出力される連続ビーム(DCビーム)を特定の加速位相に合わせる「バンチング(bunching)」を行い、例えば、1MeV程度のエネルギーまでイオンビームを加速させる。第2線形加速装置22bは、ビーム加速ユニット14の中段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第2線形加速装置22bは、第1線形加速装置22aから出力されるイオンビームを例えば2~3MeV程度のエネルギーまで加速させる。第3線形加速装置22cは、ビーム加速ユニット14の下段に設けられ、複数段(例えば5段~15段)の高周波加速部を備える。第3線形加速装置22cは、第2線形加速装置22bから出力されるイオンビームを例えば4MeV以上の高エネルギーまで加速させる。
【0022】
ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、ビーム加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームを往復走査および平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正及びビーム収束発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0023】
ビーム偏向ユニット16は、ビーム加速ユニット14から出力される高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正を行う。ビーム偏向ユニット16は、ビームラインBLのうち円弧状に延びる部分を構成する。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ビーム輸送ユニット18に向かう。
【0024】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット27と、第1ファラデーカップ28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30と、第2ファラデーカップ31とを有する。エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)とも呼ばれる。また、エネルギー分析電磁石24、横収束四重極レンズ26、エネルギー分析スリット27および第1ファラデーカップ28で構成される装置群は、総称して「エネルギー分析装置」とも呼ばれる。
【0025】
エネルギー分析スリット27は、エネルギー分析の分解能を調整するためにスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。エネルギー分析スリット27は、例えば、スリット幅方向に移動可能な二枚の遮蔽体により構成され、二枚の遮蔽体の間隔を変化させることによりスリット幅が調整可能となるように構成されてもよい。エネルギー分析スリット27は、スリット幅の異なる複数のスリットのいずれか一つを選択することによりスリット幅が可変となるよう構成されてもよい。
【0026】
第1ファラデーカップ28は、エネルギー分析スリット27の直後に配置され、エネルギー分析用のビーム電流測定に用いられる。第2ファラデーカップ31は、偏向電磁石30の直後に配置され、軌道補正されてビーム輸送ユニット18に入るイオンビームのビーム電流測定用に設けられる。第1ファラデーカップ28および第2ファラデーカップ31のそれぞれは、ファラデーカップ駆動部(不図示)の動作によりビームラインBLに出し入れ可能となるよう構成される。
【0027】
ビーム輸送ユニット18は、ビームラインBLのうちもう一つの直線状に延びる部分を構成し、装置中央のメンテナンス領域MAを挟んでビーム加速ユニット14と並行する。ビーム輸送ユニット18の長さは、ビーム加速ユニット14の長さと同程度となるように設計される。その結果、ビーム加速ユニット14、ビーム偏向ユニット16およびビーム輸送ユニット18で構成されるビームラインBLは、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0028】
ビーム輸送ユニット18は、ビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビームダンプ35と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38と、左右ファラデーカップ39L,39Rとを有する。
【0029】
ビーム整形器32は、四重極レンズ装置(Qレンズ)などの収束/発散レンズを備えており、ビーム偏向ユニット16を通過したイオンビームを所望の断面形状に整形するよう構成されている。ビーム整形器32は、例えば、電場式の三段四重極レンズ(トリプレットQレンズともいう)で構成され、三つの静電四重極レンズ装置を有する。ビーム整形器32は、三つのレンズ装置を用いることにより、イオンビームの収束または発散を水平方向(x方向)および鉛直方向(y方向)のそれぞれについて独立に調整しうる。ビーム整形器32は、磁場式のレンズ装置を含んでもよく、電場と磁場の双方を利用してビームを整形するレンズ装置を含んでもよい。
【0030】
ビーム走査器34は、ビームの往復走査を提供するよう構成され、整形されたイオンビームをx方向に走査するビーム偏向装置である。ビーム走査器34は、ビーム走査方向(x方向)に対向する走査電極対を有する。走査電極対は可変電圧電源(不図示)に接続されており、走査電極対の間に印加される電圧を周期的に変化させることにより、電極間に生じる電場を変化させてイオンビームをさまざまな角度に偏向させる。その結果、イオンビームが矢印Xで示される走査範囲にわたって走査される。図1において、走査範囲でのイオンビームの複数の軌跡を細実線で示している。なお、ビーム走査器34は、他のビーム走査装置で置き換えられてもよく、ビーム走査装置は磁場を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0031】
ビーム走査器34は、矢印Xで示される走査範囲を超えてビームを偏向させることにより、ビームラインBLから離れた位置に設けられるビームダンプ35にイオンビームを入射させる。ビーム走査器34は、ビームダンプ35に向けてビームラインBLからイオンビームを一時的に待避させることにより、下流の基板搬送処理ユニット20にイオンビームが到達しないようにイオンビームを遮断する。
【0032】
ビーム平行化器36は、走査されたイオンビームの進行方向を設計上のビームラインBLの軌道と平行にするよう構成される。ビーム平行化器36は、中央部にイオンビームの通過スリットが設けられた円弧形状の複数の平行化レンズ電極を有する。平行化レンズ電極は、高圧電源(不図示)に接続されており、電圧印加により生じる電場をイオンビームに作用させて、イオンビームの進行方向を平行に揃える。なお、ビーム平行化器36は他のビーム平行化装置で置き換えられてもよく、ビーム平行化装置は磁場を利用する磁石装置として構成されてもよい。
【0033】
最終エネルギーフィルタ38は、イオンビームのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方(-y方向)に偏向して基板搬送処理ユニット20に導くよう構成されている。最終エネルギーフィルタ38は、角度エネルギーフィルタ(AEF)と呼ばれることがあり、電場偏向用のAEF電極対を有する。AEF電極対は、高圧電源(不図示)に接続される。上側のAEF電極に正電圧、下側のAEF電極に負電圧を印加させることにより、イオンビームを下方に偏向させる。なお、最終エネルギーフィルタ38は、磁場偏向用の磁石装置で構成されてもよく、電場偏向用のAEF電極対と磁石装置の組み合わせで構成されてもよい。
【0034】
左右ファラデーカップ39L,39Rは、最終エネルギーフィルタ38の下流側に設けられ、矢印Xで示される走査範囲の左端および右端のビームが入射しうる位置に配置される。左右ファラデーカップ39L,39Rは、ウェハWに向かうビームを遮らない位置に設けられ、ウェハWへのイオン注入中のビーム電流を測定する。
【0035】
ビーム輸送ユニット18の下流側、つまり、ビームラインBLの最下流には基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20は、注入処理室40と、ビームモニタ41と、ビームプロファイラ42と、プロファイラ駆動装置43と、基板搬送装置44と、ロードポート46とを有する。注入処理室40には、イオン注入中のウェハWを保持し、ウェハWをビーム走査方向(x方向)と直交する方向(y方向)に動かすプラテン駆動装置(不図示)が設けられる。
【0036】
ビームモニタ41は、注入処理室40の内部のビームラインBLの最下流に設けられる。ビームモニタ41は、ビームラインBL上にウェハWが存在しない場合にイオンビームが入射しうる位置に設けられており、イオン注入工程の事前または工程間においてビーム特性を測定するよう構成される。ビームモニタ41は、ビーム特性として、ビーム電流量、ビーム平行度などを測定する。ビームモニタ41は、例えば、注入処理室40と基板搬送装置44との間を接続する搬送口(不図示)の近くに位置し、搬送口よりも鉛直下方の位置に設けられる。
【0037】
ビームプロファイラ42は、ウェハWの表面の位置におけるビーム電流を測定するよう構成される。ビームプロファイラ42は、プロファイラ駆動装置43の動作によりx方向に可動となるよう構成され、イオン注入時にウェハWが位置する注入位置から待避され、ウェハWが注入位置にないときに注入位置に挿入される。ビームプロファイラ42は、x方向に移動しながらビーム電流を測定することにより、x方向のビーム走査範囲の全体にわたってビーム電流を測定できる。ビームプロファイラ42は、ビーム走査方向(x方向)の複数の位置におけるビーム電流を同時に計測可能となるように、x方向にアレイ状に並んだ複数のファラデーカップを有してもよい。
【0038】
ビームプロファイラ42は、ビーム電流量を測定するための単一のファラデーカップを備えてもよいし、ビームの角度情報を測定するための角度計測器を備えてもよい。角度計測器は、例えば、スリットと、スリットからビーム進行方向(z方向)に離れて設けられる複数の電流検出部とを備える。角度計測器は、例えば、スリットを通過したビームをスリット幅方向に並べられる複数の電流検出部で計測することにより、スリット幅方向のビームの角度成分を測定できる。ビームプロファイラ42は、x方向の角度情報を測定可能な第1角度測定器と、y方向の角度情報を測定可能な第2角度測定器とを備えてもよい。
【0039】
基板搬送装置44は、ウェハ容器45が載置されるロードポート46と、注入処理室40との間でウェハWを搬送するよう構成される。ロードポート46は、複数のウェハ容器45が同時に載置可能となるよう構成されており、例えば、x方向に並べられる4台の載置台を有する。ロードポート46の鉛直上方にはウェハ容器搬送口(不図示)が設けられており、ウェハ容器45が鉛直方向に通過可能となるよう構成される。ウェハ容器45は、例えば、イオン注入装置100が設置される半導体製造工場内の天井等に設置される搬送ロボットによりウェハ容器搬送口を通じてロードポート46に自動的に搬入され、ロードポート46から自動的に搬出される。
【0040】
イオン注入装置100は、さらに中央制御装置50を備える。中央制御装置50は、イオン注入装置100の動作全般を制御する。中央制御装置50は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や機械装置で実現され、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現され、中央制御装置50により提供される各種機能は、ハードウェアおよびソフトウェアの連携によって実現されうる。
【0041】
中央制御装置50の近傍には、イオン注入装置100の動作パラメータを設定するための表示装置や入力装置を有する操作盤49が設けられる。操作盤49および中央制御装置50の位置は特に限られないが、例えば、ビーム生成ユニット12と基板搬送処理ユニット20の間のメンテナンス領域MAの出入口48に隣接して操作盤49および中央制御装置50を配置できる。イオン注入装置100を管理する作業員による作業頻度の高いイオン源10、ロードポート46、操作盤49および中央制御装置50の場所を隣接させることで、作業効率を高めることができる。
【0042】
つづいて、ビーム加速ユニット14の構成の詳細を説明する。図2(a)~(c)は、線形加速装置22a~22cの構成を示す断面図である。図2(a)は、第1線形加速装置22aの構成を示し、図2(b)は、第2線形加速装置22bの構成を示し、図2(c)は、第3線形加速装置22cの構成を示す。線形加速装置22a~22cは、複数段の高周波加速部101~115と、複数段の静電四重極レンズ装置120a,120b,120c,121~135とを含み、各段の高周波加速部および静電四重極レンズ装置がビームラインBLに沿って交互に配置されている。
【0043】
高周波加速部は、イオンビームIBが通過する高周波電極に高周波電圧VRFを印加することで、イオンビームIBを構成するイオン粒子を加速または減速させる。各段の高周波加速部は、高周波電圧VRFの電圧振幅V、周波数fおよび位相φを個別に調整可能となるよう構成される。本明細書において、高周波電圧VRFの電圧振幅V、周波数fおよび位相φを総称して「高周波パラメータ」ということがある。
【0044】
静電四重極レンズ装置は、イオンビームIBに静電場を作用させてイオンビームIBを収束または発散させるためのレンズ電極と、レンズ電極の上流側および下流側に設けられるグランド電極とを含む。静電四重極レンズ装置は、レンズ電極に印加する電圧の正負を切り替えることで、x方向にビームを収束させる横収束(縦発散)レンズ、または、y方向にビームを収束させる縦収束(横発散)レンズとして機能する。
【0045】
図2(a)~(c)では、y方向に対向するレンズ電極を図示しており、x方向に対向するレンズ電極を省略している。y方向に対向するレンズ電極に負の電圧を印加すると、横収束(縦発散)レンズとして機能する。逆に、y方向に対向するレンズ電極に正の電圧を印加すると、縦収束(横発散)レンズとして機能する。レンズ電極の構成は、図3(a),(b)を参照しながら別途後述する。
【0046】
第1線形加速装置22aは、5段の高周波加速部101,102,103,104,105と、6段の静電四重極レンズ装置120a,121,122,123,124,125とを備える。第1線形加速装置22aの入口に設けられる静電四重極レンズ装置120aを除いた第1段から第5段までの静電四重極レンズ装置121~125のそれぞれは、第1段から第5段までの高周波加速部101~105の対応する各段の下流側に配置される。
【0047】
第1線形加速装置22aに設けられる6段の静電四重極レンズ装置120a,121~125は、横収束レンズと縦収束レンズがビームラインBLに沿って交互となるように配置される。例えば、第1線形加速装置22aの入口、第2段および第4段の静電四重極レンズ装置120a,122、124は、横収束レンズであり、第1段、第3段および第5段の静電四重極レンズ装置121,123,125は、縦収束レンズである。
【0048】
第2線形加速装置22bは、5段の高周波加速部106,107,108,109,110と、6段の静電四重極レンズ装置120b,126,127,128,129,130とを備える。第2線形加速装置22bの入口に設けられる静電四重極レンズ装置120bを除いた第6段から第10段までの静電四重極レンズ装置126~130のそれぞれは、第6段から第10段までの高周波加速部106~110の対応する各段の下流側に配置される。第2線形加速装置22bに設けられる6段の静電四重極レンズ装置120b,126~130は、横収束レンズと縦収束レンズがビームラインBLに沿って交互となるように配置される。例えば、第2線形加速装置22bの入口、第7段および第9段の静電四重極レンズ装置120b,127、129は、横収束レンズであり、第6段、第8段および第10段の静電四重極レンズ装置126,128,130は、縦収束レンズである。
【0049】
第3線形加速装置22cは、5段の高周波加速部111,112,113,114,115と、6段の静電四重極レンズ装置120c,131,132,133,134,135とを備える。第3線形加速装置22cの入口に設けられる静電四重極レンズ装置120cを除いた第11段から第15段までの静電四重極レンズ装置131~135のそれぞれは、第11段から第15段までの高周波加速部111~115の対応する各段の下流側に配置される。第3線形加速装置22cに設けられる6段の静電四重極レンズ装置120c,131~135は、横収束レンズと縦収束レンズがビームラインBLに沿って交互となるように配置される。例えば、第3線形加速装置22cの入口、第12段および第14段の静電四重極レンズ装置120c,132、134は、横収束レンズであり、第11段、第13段および第15段の静電四重極レンズ装置131,133,135は、縦収束レンズである。
【0050】
なお、線形加速装置22a~22cに含まれる高周波加速部および静電四重極レンズ装置の段数は図示するものに限られず、図示する例とは異なる段数で構成されてもよい。また、静電四重極レンズ装置の配置は、図示する例と異なってもよい。例えば、少なくとも一段の静電四重極レンズ装置は、横収束レンズと縦収束レンズのペアを一つ有してもよいし、横収束レンズと縦収束レンズのペアを複数有してもよい。
【0051】
図3(a),(b)は、ビームラインの上流側から見た静電四重極レンズ装置52a,52bの概略構成を示す正面図である。図3(a)の静電四重極レンズ装置52aは、イオンビームIBを横方向(x方向)に収束させる横収束レンズであり、図3(b)の静電四重極レンズ装置52bは、イオンビームIBを縦方向(y方向)に収束させる縦収束レンズである。
【0052】
図3(a)の静電四重極レンズ装置52aは、縦方向(y方向)に対向する一組の上下レンズ電極54aと、横方向(x方向)に対向する一組の左右レンズ電極56aとを有する。上下レンズ電極54aには負電位-Qaが印加され、左右レンズ電極56aには正電位+Qaが印加される。静電四重極レンズ装置52aは、正の電荷を有するイオン粒子で構成されるイオンビームIBに対し、負電位の上下レンズ電極54aとの間で引力を生じさせ、正電位の左右レンズ電極56aとの間で斥力を生じさせる。これにより、静電四重極レンズ装置52aは、イオンビームBをx方向に収束させ、y方向に発散させるようにビーム形状を整える。
【0053】
図3(b)の静電四重極レンズ装置52bは、図3(a)と同様、縦方向(y方向)に対向する一組の上下レンズ電極54bと、横方向(x方向)に対向する一組の左右レンズ電極56bとを有する。図3(b)では、図3(a)とは印加される電位の正負が逆であり、上下レンズ電極54bに正電位+Qbが印加され、左右レンズ電極56bに負電位-Qbが印加される。その結果、静電四重極レンズ装置52bは、イオンビームBをy方向に収束させ、x方向に発散させるようにビーム形状を整える。
【0054】
図4は、高周波加速部70の概略構成を示す断面図であり、線形加速装置22a~22cのそれぞれに含まれる一段分の高周波加速部の構成を示す。高周波加速部70は、高周波電極72と、高周波共振器74と、ステム76と、高周波電源78とを含む。高周波電極72は、中空の円筒形状の電極体であり、電極体の内部をイオンビームIBが通過する。高周波電極72は、ステム76を介して高周波共振器74に接続されている。高周波電源78は、高周波共振器74に高周波電圧VRFを供給する。中央制御装置50は、高周波共振器74と高周波電源78を制御することにより、高周波電極72に印加される高周波電圧VRFの電圧振幅V、周波数fおよび位相φを調整する。
【0055】
高周波加速部70の上流側および下流側には、静電四重極レンズ装置52a,52bが設けられる。上流側の静電四重極レンズ装置52aは、第1グランド電極60aと、第2グランド電極62aと、上下レンズ電極54aと、左右レンズ電極56aと、レンズ電源58a(図3参照)とを有する。上下レンズ電極54aおよび左右レンズ電極56aは、第1グランド電極60aと第2グランド電極62aの間に設けられる。下流側の静電四重極レンズ装置52bは、第1グランド電極60bと、第2グランド電極62bと、上下レンズ電極54bと、左右レンズ電極56bと、レンズ電源58b(図3参照)とを有する。上下レンズ電極54bおよび左右レンズ電極56bは、第1グランド電極60bと第2グランド電極62bの間に設けられる。
【0056】
図4の例では、上流側の静電四重極レンズ装置52aが横収束(縦発散)レンズであり、下流側の静電四重極レンズ装置52bが縦収束(横発散)レンズである。なお、高周波加速部70がいずれの段であるかに応じて、上流側の静電四重極レンズ装置52aが縦収束(横発散)であり、下流側の静電四重極レンズ装置52bが横収束(縦発散)レンズであってもよい。横収束と縦収束は、レンズ電源58a,58bにより印加される電圧の正負を反転させることで変更が可能である。
【0057】
図4の高周波加速部70は、高周波電極72と上流側の第2グランド電極62aの間の上流側ギャップ80と、高周波電極72と下流側の第1グランド電極60bの間の下流側ギャップ82とにおける電位差を利用して、イオンビームIBを構成するイオン粒子86を加速または減速する。例えば、上流側ギャップ80をイオン粒子86が通過するときに高周波電極72に負の電圧が印加され、かつ、下流側ギャップ82をイオン粒子86が通過するときに高周波電極72に正の電圧が印加されるように高周波電圧VRFの位相φを調整することで、高周波加速部70を通過するイオン粒子86を加速できる。なお、高周波電極72の内部は実質的に等電位であるため、高周波電極72の内部を通過するときにイオン粒子86は実質的に加減速されない。
【0058】
図5は、高周波電圧VRFの時間波形とイオン粒子86が受ける加減速エネルギーの一例を模式的に示すグラフである。時刻t1は、イオン粒子86が上流側ギャップ80を通過するタイミングであり、時刻t2は、イオン粒子86が高周波電極72の中心84を通過するタイミングであり、時刻t3は、イオン粒子86が下流側ギャップ82を通過するタイミングである。本明細書において、イオン粒子86が高周波電極72の中心84を通過する時刻t2における高周波電圧VRFの位相φのことを「加速位相φ」ともいう。加速位相φは、イオン粒子86の通過タイミングを基準とした相対位相であり、高周波電圧VRFの位相(絶対位相)φとは異なるが、位相φを調整することで加速位相φの値を制御できる。加速位相φが変わると、高周波加速部70からイオン粒子86が受ける加減速エネルギーの量が変化する。したがって、加速位相φは、ビームエネルギーの値を制御する上で重要なパラメータの一つである。
【0059】
図5は、加速位相がφ=0°に設定される場合を示す。この場合、イオン粒子86が上流側ギャップ80を通過する時刻t1では、高周波電圧VRFが負の値(-V)となる。時刻t1のとき、高周波電極72の電位(-V)よりも上流側の第2グランド電極62aの電位(0V)が高いため、イオン粒子86はその電位差Vに起因する加速エネルギーを得る。また、イオン粒子86が下流側ギャップ82を通過する時刻t3では、高周波電圧VRFが正の値(+V)となる。時刻t3のとき、下流側の第1グランド電極60bの電位(0V)よりも高周波電極72の電位(+V)が高いため、イオン粒子86はその電位差Vに起因する加速エネルギーを得る。その結果、イオン粒子86は、上流側ギャップ80および下流側ギャップ82にて、合計で2Vの電圧に相当する加速エネルギーを得る。
【0060】
図6は、加速位相がφ=-45°に設定される場合を示す。高周波電圧VRFの振幅および周波数、上流側ギャップ80から下流側ギャップ82までの位相差Δφgap図5と同じである。加速位相φが-45°ずれることにより、上流側ギャップ80(時刻t1)では電位差VB1に起因する加速エネルギーが与えられ、下流側ギャップ82(時刻t3)では電位差VB2に起因する加速エネルギーが与えられ、合計でVB1+VB2の電圧に相当する加速エネルギーが得られる。この加速エネルギーは、図5の例で示した2Vの電圧に相当する加速エネルギーよりも小さい。
【0061】
図7は、加速位相がφ=-90°に設定される場合を示す。高周波電圧VRFの振幅および周波数、上流側ギャップ80から下流側ギャップ82までの位相差Δφgap図5と同じである。加速位相φが-90°ずれることにより、上流側ギャップ80(時刻t1)では電位差Vに起因する加速エネルギーが与えられる一方、下流側ギャップ82(時刻t3)では電位差-Vに起因する減速エネルギーが与えられる。その結果、合計として得られる加減速エネルギーは0となる。
【0062】
一段分の高周波加速部70により与えられる加減速エネルギーΔEは、高周波電圧VRFの電圧振幅Vと、加速位相φと、上流側ギャップ80から下流側ギャップ82にイオン粒子86が到達するまでの位相差Δφgapとに依存する。本発明者の知見によれば、加減速エネルギーΔEは、以下の式(1)により近似できる。
ΔE≒qV・α(E)sin(Δφgap/2)sin(φ) …(1)
ここで、qはイオン粒子86の電荷量であり、α(E)は、イオン粒子86のエネルギーEに依存する係数である。位相差Δφgapは、高周波電極72の電極長L、上流側ギャップ80のギャップ長L、下流側ギャップ82のギャップ長L、イオンの通過速度(平均速度v)、高周波電圧VRFの周波数fによって決まる。位相差Δφgapは、概略的に計算すれば、上流側ギャップ80から下流側ギャップ82までの通過時間τ≒(L+L/2+L/2)/vに対応する。イオン粒子86の通過速度(平均速度v)は、イオン粒子86の質量mおよびエネルギーEによって決まる。
【0063】
上記式(1)から、高周波加速部70の電圧振幅Vおよび加速位相φの少なくとも一方を調整することで、高周波加速部70がイオン粒子86に与える加減速エネルギーΔEを調整できることが分かる。したがって、複数段の高周波加速部101~115のそれぞれの電圧振幅Vおよび加速位相φの少なくとも一方を調整することで、ビーム加速ユニット14から出力されるイオンビームの最終的なビームエネルギーを調整できる。
【0064】
図8(a),(b)は、バンチングされたイオン粒子群90が受ける加減速エネルギーの一例を模式的に示すグラフである。ビーム加速ユニット14は、特定の加速位相にバンチングされたイオン粒子群90を加速する。イオン粒子群90は、ビーム進行方向に空間的な広がりを有しないことが理想的であるが、実際には空間的な広がりを有する。その結果、イオン粒子群90の中心付近に位置する第1イオン粒子91と、イオン粒子群の先頭付近に位置する第2イオン粒子92と、イオン粒子群の最後尾付近に位置する第3イオン粒子93とでは、高周波電圧VRFから受ける電位差V,V,Vが異なる。各イオン粒子91~93が受ける電位差V,V,Vが異なると、各イオン粒子91~93が受ける加速エネルギーが異なりうる。その結果、イオン粒子群90のエネルギー分布は、高周波加速部70の通過前後で変化しうる。
【0065】
図8(a)は、高周波電圧VRFの電圧振幅Vをa倍に変化させることでイオン粒子群90が受ける加減速エネルギーΔEを調整する場合を示す。破線で示される曲線は、調整前の高周波電圧波形Vcos(ωt+φ)であり、実線で示される曲線は、調整後の高周波電圧波形aVcos(ωt+φ)である。ここで、ωは、高周波電圧VRFの角周波数であり、ω=2πfである。イオン粒子91~93が受ける電位差は、調整後において全てa倍となることから、各イオン粒子91~93が受ける加速エネルギーを線形的に変化させることができる。その結果、高周波加速部70の通過前後におけるイオン粒子群90のエネルギー分布の変化は、調整前と調整後でほぼ同じとなり、イオン粒子群90の輸送状態も調整前と調整後でほぼ同じとなる。その結果、調整前後のビーム品質を同等にしながら、ビームエネルギーのみを変化させることができる。
【0066】
図8(b)は、高周波電圧VRFの加速位相φをφだけ変化させることでイオン粒子群90が受ける加減速エネルギーΔEを調整する場合を示す。破線で示される曲線は、調整前の高周波電圧波形Vcos(ωt+φ)であり、実線で示される曲線は、調整後の高周波電圧波形Vcos(ωt+φ+φ)である。第1イオン粒子91が受ける電位差は、図8(a)と同様、調整後においてa倍である。しかしながら、第2イオン粒子92および第3イオン粒子93が受ける電位差は、調整後においてa倍とならず、それぞれb倍、c倍となることから、各イオン粒子91~93が受ける加速エネルギーが非線形的に変化する。その結果、高周波加速部70の通過前後におけるイオン粒子群90のエネルギー分布の変化は、調整前と調整後で異なってしまう。その結果、調整前後において輸送状態やビーム品質を同等にすることが困難となる。
【0067】
本実施の形態では、ビームエネルギーの調整方法として、加速位相φを可変とする第1調整方法と、加速位相φを固定する第2調整方法とを用いる。第1調整方法は、新規のデータセットを生成する場合などに用いる。第2調整方法は、既存のデータセットに基づいてビームエネルギーを微調整する場合などに用いる。第2調整方法では、加速位相φが固定されるため、既存のデータセットと同等のビーム輸送状態を維持しながら、実質的にビームエネルギーのみを調整できる。
【0068】
図9は、第1調整方法の流れを示すフローチャートである。まず、所望のビーム条件に基づいて、イオン注入装置100を構成する各種機器の動作パラメータの初期値(初期パラメータ)を計算する(S10)。初期パラメータとして、複数段の高周波加速部101~115の各段の高周波パラメータと、複数段の静電四重極レンズ装置120a~120c,121~135の各段の印加電圧を定めるレンズパラメータとが計算される。
【0069】
高周波パラメータおよびレンズパラメータの値は、目標とするビームエネルギーを設定し、所定のアルゴリズムを用いたシミュレーションにより算出される。例えば、ビーム加速ユニット14のビーム光学系を模擬したシミュレーションモデルに対して適当な高周波パラメータを設定し、高周波パラメータの値を変えながら出力エネルギーの値を演算する。これにより、目標とするビームエネルギーを得るための高周波パラメータが算出される。また、レンズパラメータの値を変えながらイオンビームIBの輸送状態を演算することで、輸送効率を最大化するためのレンズパラメータが算出される。イオンビームIBの輸送効率が最大化された状態とは、各段の高周波電極72やレンズ電極54a,54b,56a,56bに衝突して損失するビームの割合が最小化される状態をいう。
【0070】
次に、計算した初期パラメータをイオン注入装置100を構成する各種機器に設定してイオンビームIBを生成する(S12)。つづいて、生成されたイオンビームIBのビームエネルギーを測定し、ビームエネルギーの測定値に基づいて高周波パラメータを調整することで、ビームエネルギーが目標値となるように調整する(S14)。シミュレーションにより得られた初期パラメータに基づいてビーム加速ユニット14を動作させたとしても、所望のビームエネルギーが必ずしも得られないため、S14の調整が必要となる。調整が必要となる原因はいくつか考えられるが、例えば、高周波電極72の製作誤差や取付誤差、高周波電極72に印加される高周波電圧VRFの振幅、周波数および位相の誤差などが挙げられる。
【0071】
S14の調整では、例えば、S10と同じアルゴリズムを用いたシミュレーションによって調整後の高周波パラメータが算出される。例えば、ビームエネルギーの測定値と目標値の差分をシミュレーションモデルに反映させることで、差分が補正された高周波パラメータが算出される。なお、高周波パラメータの微調整は容易ではなく、多くの場合、ビームエネルギーの測定と、時間のかかるシミュレーションとを繰り返し実行しなければならない。
【0072】
S14にて所望のビームエネルギーが得られた場合、生成されたイオンビームIBのビーム電流量を測定し、ビーム電流量の測定値に基づいてレンズパラメータを調整することでビーム電流量を調整する(S16)。例えば、ビーム加速ユニット14によるイオンビームIBの輸送効率が最大化されるように各段の静電四重極レンズ装置のレンズパラメータが調整される。イオンビームIBの輸送効率を最大化することで、ビーム加速ユニット14から出力されるイオンビームIBのビーム電流量を最大化できる。なお、レンズパラメータの微調整についても容易ではなく、ビーム電流量を測定しながら、複数段のレンズパラメータの微調整を繰り返す必要がある。ビーム電流が目標値に対して不足する場合や、逆にビーム電流が多すぎる場合には、イオン源10のパラメータを調整対象としてもよい。
【0073】
S16にて所望のビーム電流量が得られた場合、ビーム加速ユニット14よりも下流側にてビーム品質を測定し、ビーム品質の測定値に基づいて各種機器の動作パラメータを調整することで、ビーム品質が目標値となるように調整する(S18)。S18にて調整されるビーム品質は、例えば、ビームサイズ、ビーム平行度およびビーム角度である。ビームサイズは、例えば、ビーム整形器32に含まれる収束/発散レンズのパラメータを変化させることで調整できる。ビーム平行度は、例えば、ビーム平行化器36に含まれる平行化レンズのパラメータを変化させることで調整できる。x方向のビーム角度は、偏向電磁石30のパラメータを変化させることで調整できる。
【0074】
S18にて所望のビーム品質が得られた場合、イオン注入装置100の各種機器に設定されている動作パラメータのセットをデータセットとして保存する(S20)。これにより、所望のビーム条件を実現するための第1データセットができあがる。
【0075】
第1データセットを生成するための第1調整方法では、S14、S16およびS18の調整工程を含むため、最適なデータセットを得るために長い時間がかかることが多い。第1調整方法におけるS10~S20の各工程は、中央制御装置50が実行する自動調整プログラムによって実行可能であるが、所望の目標値が得られない場合、人間の手でマニュアル調整しなければならないこともある。その場合、最適なデータセットを得るためにさらなる時間を要してしまう。第1調整方法の実行中は、イオン注入処理を実行できないため、調整に時間がかかるとイオン注入装置100の生産性を低下させることになる。
【0076】
図10は、第2調整方法の流れを示すフローチャートであり、既存の第1データセットに基づいて第2データセットを生成する方法を示す。まず、所望のビーム条件に近いビーム条件を実現する第1データセットを取得する(S30)。取得する第1データセットは、例えば、図9の第1調整方法にて生成された既存のデータセットであり、注入実績のあるデータセットである。なお、第1データセットは、図10の第2調製方法で生成された既存のデータセットであってもよい。第2調製方法では、既存の第1データセットに基づいて、新規の第2データセットを計算により省力的かつ迅速に決定する。
【0077】
次に、各段の高周波加速部101~115に導入する電圧振幅Vの差異を計算する(S32)。S32では、目標とするビームエネルギーと第1データセットによって得られるイオンビームが有するビームエネルギーの差異に基づいて、いずれの段の高周波加速部に電圧振幅Vの差異を導入するかを決定し、決定した段の高周波加速部に導入する電圧振幅Vの変化量または変化率を決定する。本実施の形態では、複数段の高周波加速部101~115のうち少なくとも一段に電圧振幅Vの差異が導入される。なお、複数段の高周波加速部101~115のうち二段以上に電圧振幅の差異が導入されてもよいし、半数以上(例えば8以上)の段に電圧振幅Vの差異が導入されてもよいし、複数段の高周波加速部101~115の全てに電圧振幅Vの差異が導入されてもよい。電圧振幅Vの差異が導入されない段の高周波加速部では、第1データセットと第2データセットの間で電圧振幅Vが同じとなる。
【0078】
S32において、最上段(例えば、第1段のみ、または、第1段および第2段)の高周波加速部は、電圧振幅Vの差異を導入する対象から除外されてもよい。つまり、最上段の高周波加速部については、第1データセットに含まれる高周波パラメータをそのまま第2データセットにて使用してもよい。最上段の高周波加速部は、イオン源10から引き出された連続ビーム(DCビーム)を特定の加速位相に固めるバンチングに用いられる。最上段の高周波加速部によるバンチングは、下流側の高周波加速部でのビーム捕獲効率を左右し、ビーム加速ユニット14の全体の輸送状態やビーム品質に大きな影響を与える。したがって、最上段の高周波加速部の高周波パラメータを変更してしまうと、第1調整方法と同様の時間のかかる調整が必要となってしまう。
【0079】
S32において、最下段(例えば、第15段)の高周波加速部についても、電圧振幅Vの差異を導入する対象から除外されてもよい。最下段の高周波加速部は、例えば、ビームエネルギーの最終的な微調整に利用可能となるように、電圧振幅Vの差異を別途導入する余力が残るようにしておいてもよい。ビーム加速ユニット14では、途中の段の高周波加速部の電圧振幅Vを変化させた場合、それ以降の段の高周波加速部の高周波パラメータを再調整しなければならない。一方、最下段の高周波加速部であれば、それ以降に高周波加速部が存在しないため、最下段以外の高周波加速部の高周波パラメータを再調整する手間を省くことができる。
【0080】
S32において、電圧振幅Vの差異を導入する高周波加速部の段数は、原則として、できるだけ多い方が好ましい。電圧振幅Vの差異を導入する高周波加速部の段数を多くすることで、各段の電圧振幅Vの変化量または変化率を小さくできる。また、各段の電圧振幅Vの変化量または変化率は、均等化されることが好ましい。各段の電圧振幅Vの変化量または変化率を同じにすることで、各段の電圧振幅Vの変化量または変化率を小さくできる。各段の電圧振幅Vの変化量または変化率をできるだけ小さくすることで、ビーム加速ユニット14におけるビーム輸送状態の変化を小さくでき、ビーム加速ユニット14から出力されるイオンビームIBのビーム品質の変化を小さくできる。
【0081】
S32において、各段の電圧振幅Vの変化量または変化率を同じにせず、意図的に不均一にしてもよい。また、所望の電圧振幅Vの差異が導入できない事情がある場合、そのような事情のある一部の段の高周波加速部を除外してもよい。例えば、電圧振幅の差異を導入すると、設定可能な電圧振幅Vの最大値を超えてしまう場合や、設定可能な電圧振幅Vの最小値を下回る場合などである。その他、各段の高周波加速部に設定可能な電圧振幅Vの最小変化量に比べて電圧振幅Vの差異が小さい場合、そのような差異の導入は不可である。このような場合、一部の段を除外し、電圧振幅Vの差異を導入する高周波加速部の段数を減らすことで、導入すべき電圧振幅Vの差異が最小変化量以上となるようにしてもよい。
【0082】
一例として、15段の高周波加速部101~115のうち、最上段と最下段を除いた第2段から第14段までの高周波加速部102~114が電圧振幅Vの差異の導入候補となる。取得した第1データセットによって得られるイオンビームが有するビームエネルギーの値(第1出力値Eともいう)と、目標とするビームエネルギーの値(第2出力値Eともいう)とに基づいて、各段の電圧振幅Vの変化量または変化率が計算される。例えば、第1出力値E=4MeVであり、第2出力値E=4.2MeVである場合、第1出力値Eから第2出力値Eへのエネルギー変化量は0.2MeVであり、エネルギー変化率は5%である。各段の高周波加速部における加減速エネルギーΔEの変化量を同じにする場合、各段の高周波加速部における加減速エネルギーΔEの変化量は、約15.4KeVとなる。また、各段の高周波加速部における加減速エネルギーΔEの変化率を同じにする場合、各段の高周波加速部における加減速エネルギーΔEの変化率は5%となる。上述の式(1)を用いれば、各段の高周波加速部における加減速エネルギーΔEの変化量または変化率を実現するための、各段の電圧振幅Vの変化量または変化率を計算できる。計算した各段の電圧振幅Vの変化量または変化率を導入できない段があれば、例えば、その段を除外して再計算される。このようにして、各段の高周波加速部の電圧振幅Vの差異を決定できる。
【0083】
つづいて、各段の高周波加速部101~115に導入する位相φの差異を計算する(S34)。S34では、複数段の高周波加速部101~115の全ての加速位相φが第1データセットと第2データセットの間で同じとなるように各段に導入する位相φの差異が計算される。加速位相φは、バンチングされたイオン粒子群90の中心が高周波電極72の中心84を通過するときの高周波電圧VRFの相対位相である。複数段の高周波加速部101~129の少なくとも一段における加減速エネルギーΔEを変化させた場合、イオン粒子群90の速度vが変化するため、イオン粒子群90の中心が各段の高周波電極72の中心84を通過するタイミングが変化する。そのため、相対的な加速位相φを同じにするためには、イオン粒子群90の中心の通過タイミングに合わせて高周波電圧VRFの絶対位相φをずらす必要がある。
【0084】
S34では、第1データセットおよび第2データセットにしたがって動作するビーム加速ユニット14によるイオン粒子の輸送状態が計算される。ここで、計算の対象となるイオン粒子は、最上段の高周波加速部によってバンチングされたイオン粒子群90の中心に位置する第1イオン粒子91といった代表的なイオン粒子である。イオン粒子の輸送状態として、各段の高周波加速部(例えば、高周波電極72の中心84)を通過する時刻と、各段の高周波加速部を通過するときにイオン粒子が有する通過エネルギーとが計算される。まず、第1データセットに基づいて、第1出力値Eが得られる場合に各段の高周波加速部を通過する第1時刻と、各段の高周波加速部を通過するイオン粒子が有する第1通過エネルギーが計算される。なお、第1データセットに基づくイオン粒子の輸送状態は、都度計算されるのではなく、過去の計算結果が流用されてもよい。つづいて、S32で計算された各段の高周波加速部における加減速エネルギーΔEの変化量または変化率に基づいて、第2出力値Eが得られる場合に各段の高周波加速部を通過する第2時刻と、各段の高周波加速部を通過するイオン粒子が有する第2通過エネルギーが計算される。つづいて、各段の高周波加速部を通過する第1時刻と第2時刻の間の時間差Δtと、各段の高周波加速部の角周波数ω(=2πf)とから、各段の高周波加速部に導入すべき位相差Δφ=ω・Δtが計算される。第1データセットに定められる各段の高周波加速部の絶対位相φに位相差Δφを導入することで、第2データセットに定められる各段の高周波加速部の絶対位相φ=φ+Δφが計算される。
【0085】
つづいて、各段の静電四重極レンズ装置120a,120b,120c,121~135のレンズ電極の印加電圧を計算する(S36)。S36では、各段の静電四重極レンズ装置120a,120b,120c,121~135によってイオンビームIBに与えられる収束/発散効果が第1データセットと第2データセットの間で同じとなるように各段のレンズ電極の印加電圧が計算される。静電四重極レンズ装置の収束/発散効果を同じにするには、静電四重極レンズ装置に入射するイオンビームIBのエネルギーの変化に比例するように印加電圧を変化させる必要がある。
【0086】
S36では、S34と同様、第1データセットおよび第2データセットにしたがって動作するビーム加速ユニット14によるイオン粒子の輸送状態が計算される。まず、第1データセットに基づいて、第1出力値Eが得られる場合に各段の静電四重極レンズ装置に入射するイオン粒子が有する第1入射エネルギーが計算される。なお、第1データセットに基づくイオン粒子の輸送状態は、都度計算されるのではなく、過去の計算結果が流用されてもよい。つづいて、S32で計算された各段の高周波加速部における加減速エネルギーΔEの変化量または変化率に基づいて、第2出力値Eが得られる場合に各段の静電四重極レンズ装置に入射するイオン粒子が有する第2入射エネルギーが計算される。つづいて、各段の静電四重極レンズ装置における第1入射エネルギーと第2入射エネルギーの比に基づいて、各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧の変化率が計算される。第1データセットに定められる各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧に、計算した変化率を乗算することで、第2データセットに定められる各段の静電四重極レンズ装置の印加電圧が計算される。
【0087】
なお、S34およびS36におけるイオン粒子の輸送状態の計算は、個別に実行されてもよいし、同時に実行されてもよい。
【0088】
つづいて、ビーム加速ユニット14の下流側に設けられる各種機器の動作パラメータが計算される(S38)。具体的には、イオンビームIBに電場を印加する電場印加装置の印加電圧と、イオンビームIBに磁場を印加する磁場印加装置の印加磁場とを制御するための動作パラメータが計算される。ビーム加速ユニット14の下流側に設けられる電場印加装置として、横収束四重極レンズ26、ビーム整形器32、ビーム走査器34、ビーム平行化器36および最終エネルギーフィルタ38が挙げられる。ビーム加速ユニット14の下流側に設けられる磁場印加装置として、エネルギー分析電磁石24および偏向電磁石30が挙げられる。
【0089】
電場印加装置では、イオンビームIBに与える電場の効果が第1データセットと第2データセットの間で同じとなるように印加電圧の値が設定される。電場印加装置がイオンビームIBに与える電場の効果を同じにするには、イオンビームIBのエネルギーに比例するように印加電圧の値を変化させる必要がある。したがって、電場印加装置では、第1出力値E1と第2出力値E2の比E2/E1を乗算した値となるように印加電圧を変化させればよい。
【0090】
磁場印加装置においても同様に、イオンビームIBに与える磁場の効果が第1データセットと第2データセットの間で同じとなるように印加磁場の値が設定される。磁場印加装置がイオンビームIBに与える磁場の効果を同じにするには、イオンビームIBのエネルギーの平方根に比例するように印加磁場の値を変化させる必要がある。したがって、磁場印加装置では、第1出力値E1と第2出力値E2の比の平方根√(E2/E1)を乗算した値となるように印加磁場の値を変化させればよい。
【0091】
最後に、S32~S38にて計算された動作パラメータのセットが第2データセットとして決定され、保存される(S40)。その後、決定された第2データセットにしたがって生成されるイオンビームIBをウェハに照射してイオン注入処理がなされる。第2調整方法では、イオンビームIBのビーム特性を測定することなく、計算のみによって第2データセットを決定できるため、第1調整方法に比べて迅速にデータセットを決定できる。第2調整方法にて測定をスキップできるイオンビームIBのビーム特性の一例は、ビームエネルギー、ビーム電流量、ビームサイズ、ビーム平行度、ビーム角度などである。
【0092】
第2データセットは、既存の第1データセットに基づいて決定されるため、高周波電極72の製作誤差や取付誤差、高周波電極72に印加される高周波電圧VRFの振幅、周波数および位相の誤差などがすでに加味されている。また、第2データセットは、第1データセットと同等のビーム品質が得られるように動作パラメータが計算されているため、ビーム品質を実質的に変化させることなくビームエネルギーのみを変化させたイオンビームIBを生成できる。
【0093】
図11は、第2データセットによって得られるイオンビームIBのエネルギーの誤差の一例を示すグラフである。図11の例では、2MeVのイオンビームIBが得られる第1データセットに基づいて第2データセットを生成しており、第2出力値Eを1MeV~3MeVの範囲で変化させている。つまり、既存の第1データセットの第1出力値E1=2MeVを基準として±50%の範囲で第2出力値Eを変化させている。図示されるように、ビームエネルギーを±50%の範囲で変化させる場合であっても、-1%~+0.5%の範囲の精度でビームエネルギーを調整可能である。また、1.5MeV~3MeVの範囲であれば、±0.5%以内の精度でビームエネルギーを調整可能である。
【0094】
なお、計算のみで決定された第2データセットをそのまま使用するのではなく、ビーム特性の少なくとも一つの測定値に基づいて第2データセットに定められる動作パラメータの少なくとも一つを調整してもよい。例えば、第2データセットにしたがって動作するビーム加速ユニット14から出力されるイオンビームIBのビームエネルギーを測定し、ビームエネルギーの測定値に基づいて、複数段のうちの少なくとも一段の高周波加速部の電圧振幅を調整してもよい。例えば、最下段の高周波加速部115の電圧振幅を変化させることで、ビームエネルギーの測定値と目標値の差が許容範囲内となるようにしてもよい。その結果、例えば、±0.1%以内の精度でビームエネルギーを調整可能となる。
【0095】
図12は、第1データセットによって得られるイオンビームIBと、第2データセットによって得られるイオンビームIBとの間のビーム電流の差異の一例を示すグラフである。図11と同様、2MeVのイオンビームIBが得られる第1データセットに基づいて第2データセットを生成しており、第2出力値Eを1MeV~3MeVの範囲で変化させている。図示されるように、1.5MeV~2.5MeVの範囲、つまり、ビームエネルギーを±25%の範囲で変化させる場合であっても、ビーム電流の差異を-20%~+5%の範囲に収めることができる。また、ビームエネルギーを±5%の範囲で変化させる場合には、ビーム電流の差異を±5%以内にできる。このことから、ビームの輸送状態を同等に維持しながら、追加の調整なしでビームエネルギーを±5%の範囲で変化させることができる。
【0096】
上述の第2調整方法を用いて、既存の第1データセットから複数の第2データセットを生成してもよい。複数の第2データセットは、互いに異なる複数の第2出力値を得るために生成される。例えば、2MeVのビームエネルギーを有するイオンビームIBが得られる第1データセットから、1.9MeV、1.95MeV、2.05MeVおよび2.1MeVのビームエネルギーを有する複数のイオンビームIBのそれぞれを得るための複数の第2データセットを生成してもよい。複数の第2データセットのそれぞれは、少なくとも一つのビーム特性の測定値に基づく調整をすることなくイオン注入処理に用いられてもよい。複数の第2データセットのそれぞれは、少なくとも一つのビーム特性の測定をすることなくイオン注入処理に用いられてもよい。つまり、複数のイオンビームのそれぞれについて、少なくとも一つのビーム特性の測定をスキップして、多段注入が実行されてもよい。
【0097】
複数の第2データセットは、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームを同一ウェハに照射する多段注入に用いられてもよい。例えば、複数の第2データセットを順次切り替えることで、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームが同一のウェハに順次照射されてもよい。また、第1データセットおよび複数の第2データセットを順次切り替えることで、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームが同一のウェハに順次照射されてもよい。例えば、同一のウェハに0.05MeV間隔で1.9MeV~2.1MeVのビームエネルギーを有する複数のイオンビームが順次照射されてもよい。
【0098】
広範なエネルギー範囲にわたってビームエネルギーを任意に選択可能となるようにするため、互いに異なるビームエネルギーを有する複数のイオンビームのそれぞれを得るための複数の第1データセットをあらかじめ用意してもよい。複数の第1データセットによって得られるイオンビームが有する特定のビームエネルギーとは異なるビームエネルギーを有するイオンビームが必要となる場合、複数の第1データセットのいずれかに基づいて第2データセットを生成してもよい。例えば、10%ずつ変化させたビームエネルギーを有する複数のイオンビームのそれぞれを得るための複数の第1データセットを用意すれば、±5%の範囲でビームエネルギーを変化させることで任意のビームエネルギーを有するイオンビームを得るための第2データセットを生成できる。さらに、イオン種、イオンの価数およびビーム電流量といった条件の組み合わせが互いに異なる複数のビーム条件に対応する複数の第1データセットを用意しておけば、任意のビーム条件に対応する第2データセットを迅速に生成できる。
【0099】
第2データセットは、ウェハの個体差に応じて、ウェハに照射されるイオンビームが有するビームエネルギーをウェハごとに微調整するために用いられてもよい。例えば、多段注入用の複数の第1データセットに基づいて、わずかに変更させたビームエネルギーを有する複数のイオンビームのそれぞれを得るための複数の第2データセットを生成してもよい。一例として、0.5MeV間隔で1MeV~4MeVの範囲のビームエネルギーを有する複数のイオンビームを同一のウェハに多段注入をする場合、1MeV、1.5MeV、2MeV、2.5MeV、3.5MeVおよび4MeVのビームエネルギーを有する複数のイオンビームのそれぞれを得るための複数の第1データセットが用意される。複数の第1データセットによって得られる複数のイオンビームは、第1ウェハに順次照射される。第1ウェハとは異なる第2ウェハでは、第1ウェハのビーム条件からわずかに(例えば0.05MeV)変えたビームエネルギーを有する複数のイオンビームで多段注入が必要となることがある。この場合、複数の第1データセットに基づいて、1.05MeV、1.55MeV、2.05MeV、2.55MeV、3.05MeV、3.55MeVおよび4.05MeVのビームエネルギーを有する複数のイオンビームのそれぞれを得るための複数の第2データセットを計算のみで生成できる。生成した複数の第2データセットによって得られる複数のイオンビームは、第2ウェハに順次照射される。このような多段注入に第2データセットを利用することで、データセットの生成に必要な時間を大幅に短縮することができ、イオン注入装置100の生産性を高めることができる。また、ビームエネルギーの微調整を短時間で実行できるため、生産性を大幅に低下させることなく、ロット単位やウェハ単位でビームエネルギーをきめ細かく変更することが可能となり、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0100】
本実施の形態の一例によれば、複数段の高周波加速部の電圧振幅Vをまとめて変化させることで、一段の高周波加速部の電圧振幅Vのみを変化させる場合に比べて、ビームエネルギーの調整範囲を広くできる。また、所定の調整範囲内であれば、ビーム輸送状態を実質的に変化させることなく、ビームエネルギーのみを従来よりも広い範囲で調整できる。その結果、様々なビームエネルギーを有するイオンビームを用いたイオン注入処理が非常に容易となる。
【0101】
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0102】
12…ビーム生成ユニット、14…ビーム加速ユニット、16…ビーム偏向ユニット、18…ビーム輸送ユニット、20…基板搬送処理ユニット、22a,22b,22c…線形加速装置、23…ビーム測定部、24…エネルギー分析電磁石、26…横収束四重極レンズ、30…偏向電磁石、32…ビーム整形器、34…ビーム走査器、36…ビーム平行化器、38…最終エネルギーフィルタ、41…ビームモニタ、42…ビームプロファイラ、52a,52b…静電四重極レンズ装置、70…高周波加速部、72…高周波電極、74…高周波共振器、78…高周波電源、100…イオン注入装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12