(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】加熱システム及び加熱方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20241212BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B09B3/40
C08J11/12
(21)【出願番号】P 2021020842
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 充志
(72)【発明者】
【氏名】吉川 知久
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026279(JP,A)
【文献】特開2018-159477(JP,A)
【文献】特開2014-227565(JP,A)
【文献】特開2021-161456(JP,A)
【文献】特開2019-039028(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013294(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0328283(US,A1)
【文献】特表2007-502009(JP,A)
【文献】特開2005-162881(JP,A)
【文献】特開平11-263643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/40
C08J 11/12
C22B 7/00
C22B 1/02
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池である被加熱物を加熱する加熱システムであって、
炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを前記被加熱物と共に内部に収容する熱処理装置と、
前記熱処理装置を、前記熱処理装置の内部温度が400℃以上650℃以下となるように加熱する加熱手段とを備え
、
前記炭酸カルシウム又は前記石灰石を前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1kg以上の量を収容し、前記ドロマイトを前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1.9kg以上の量を収容することを特徴とする加熱システム。
【請求項2】
前記被加熱物を内部に収容し、前記内部と外部とを挿通する挿通部が形成されている少なくとも700℃以上の耐熱温度を有し、前記
熱処理装置の内部に収容される耐熱容器と、
前記炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを内部に収容し、前記内部と外部とを挿通する挿通部が形成されている少なくとも700℃以上の耐熱温度を有し、前記
熱処理装置の内部に収容される処理容器を備えることを特徴とする請求項1に記載の加熱システム。
【請求項3】
前記炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを前記被加熱物と共に内部に収容し、前記内部と外部とを挿通する挿通部が形成されている少なくとも700℃以上の耐熱温度を有し、前記
熱処理装置の内部に収容される耐熱容器を備えることを特徴とする請求項1に記載の加熱システム。
【請求項4】
炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを廃リチウムイオン電池である被加熱物と共に
熱処理装置の内部に収容した状態で、前記内部を400℃以上650℃以下に加熱することにより、前記被加熱物を加熱する
加熱方法であって、
前記炭酸カルシウム又は前記石灰石を前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1kg以上の量を収容し、前記ドロマイトを前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1.9kg以上の量を収容することを特徴とする加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池などの被加熱物を加熱する加熱システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、アルミニウム箔にリチウム、コバルト、ニッケルなどを塗布した正極材、銅箔に黒鉛などを塗布した負極材、電解液、セパレーターなどから構成されている。よって、リチウム電池には、リチウム、コバルト、ニッケル、銅などの有価物が含まれている。そのため、廃棄されたリチウム電池をリサイクルして、これら有価物を回収することは、資源の乏しいわが国にとって極めて有益である。
【0003】
廃リチウムイオン電池は、リサイクル時に発火、感電、フッ化水素発生などのおそれがある処理困難物である。そのため、廃リチウムイオン電池を加熱して焙焼などして無害化した後に、加熱、破砕又は粉砕、篩い分け、選別などによる分離回収が行われる。
【0004】
しかし、廃リチウムイオン電池に含まれる電解液は灯油相当の有機溶媒であるので、処理量が増加したなどの場合、急激な温度上昇により熱暴走が発生し、加熱システムの設備に損傷を与える恐れがある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、450℃以上525℃以下の所定温度を超えた場合に、窒素ガス、二酸化炭素又は水蒸気のうち少なくとも1種類のガスを熱焼却炉内に投入すると共に熱焼却炉内の排気を行うことにより、加熱温度を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術においては、焼却炉内にガスを投入するための配管などの設備を新たに設ける必要がある。また、窒素ガス又は二酸化炭素を焼却炉内に投入する場合は炉周辺の酸素濃度が低下し、酸欠になる恐れがある。
【0008】
本発明は、配管などの設備を新たに設ける必要なく、熱暴走の発生を抑制することが可能な加熱システム及び加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の加熱システムは、廃リチウムイオン電池である被加熱物を加熱する加熱システムであって、炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを前記被加熱物と共に内部に収容する熱処理装置と、前記熱処理装置を、前記熱処理装置の内部温度が400℃以上650℃以下となるように加熱する加熱手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の加熱システムによれば、熱処理装置の内部温度が何からの要因により急激に上昇して700℃~900℃になると、炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかが脱炭酸反応する。この反応により発生する吸熱及び二酸化炭素ガスにより、熱処理装置内の燃焼が抑えられ、熱処理装置の内部温度を低下させることができる。これにより、熱暴走の発生が抑制され、加熱システムの保護を図ることが可能となる。
【0011】
そして、この脱炭酸反応は、熱処理装置の内部温度が700℃~900℃になると自動的に進行する。そのため、上記特許文献1に記載の技術のように、所定の温度以上になると熱処理装置内にガスを投入するための配管などの設備を新たに設ける必要がない。
【0012】
本発明の加熱システムにおいて、前記被加熱物を内部に収容し、前記内部と外部とを挿通する挿通部が形成されている少なくとも700℃以上の耐熱温度を有し、前記熱処理装置の内部に収容される耐熱容器と、前記炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを内部に収容し、前記内部と外部とを挿通する挿通部が形成されている少なくとも700℃以上の耐熱温度を有し、前記熱処理装置の内部に収容される処理容器を備えることが好ましい。
【0013】
この場合、被加熱物を耐熱容器に、炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを処理容器にと、それぞれ別個に収容するので、それぞれの容器の配置及び構成などの最適化を図ることが可能となる。
【0014】
また、本発明の加熱システムにおいて、前記炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを前記被加熱物と共に内部に収容し、前記内部と外部とを挿通する挿通部が形成されている少なくとも700℃以上の耐熱温度を有し、前記熱処理装置の内部に収容される耐熱容器を備えることも好ましい。
【0015】
この場合、被加熱物及び炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを同じ耐熱容器に収容するので、熱処理装置内に収容する容器の個数の削減を図ることが可能となる。
【0016】
さらに、本発明の加熱システムにおいて、前記炭酸カルシウム又は前記石灰石を前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1kg以上の量を収容する。
【0017】
これにより、炭酸カルシウムまたは石灰石の脱炭酸反応によって発生する二酸化炭素ガスの容積が熱処理装置の内部空間の容積以上であるので、二酸化炭素ガスが熱処理装置の内部空間全体を満たすことができ、熱暴走の発生がさらに確実に抑制される。なお、前記ドロマイトを前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1.9kg以上の量を収容する。
【0018】
本発明の加熱方法は、炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを廃リチウムイオン電池である被加熱物と共に熱処理装置の内部に収容した状態で、前記内部を400℃以上650℃以下に加熱することにより、前記被加熱物を加熱する加熱方法であって、前記炭酸カルシウム又は前記石灰石を前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1kg以上の量を収容し、前記ドロマイトを前記内部に収容する場合、前記熱処理装置の内部空間の容積1m
3
当たり1.9kg以上の量を収容することを特徴とする。
【0019】
本発明の加熱方法によれば、被加熱物を加熱する空間の温度が何からの要因により急激に上昇して700℃~900℃になると、炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかが脱炭酸反応する。この反応により発生する吸熱及び二酸化炭素ガスにより、熱処理装置内の燃焼が抑えられ、前記温度を低下させることができる。これにより、熱暴走の発生が抑制され、被加熱物を加熱するシステムの保護を図ることが可能となる。
【0020】
そして、この脱炭酸反応は、前記空間の内部温度が700℃~900℃になると自動的に進行する。そのため、上記特許文献1に記載の技術のように、所定の温度以上になると前記空間内にガスを投入するための配管などの設備を新たに設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る加熱システムを示す模式断面図。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る加熱システムを示す模式断面図。
【
図3】試験例1~3の電気炉の内部温度の高温時における推移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1の実施形態に係る加熱システム100について
図1を参照して説明する。この加熱システム100は、被加熱物を加熱する装置である。なお、
図1及び
図2は本発明の実施形態を模式的に説明するための図であり、寸法はデフォルメされている。
【0023】
ここでは、加熱システム100が、本発明の被加熱物である廃リチウムイオン電池Aを加熱して焙焼処理することにより、廃リチウムイオン電池Aを無害化するためのシステムである場合について説明する。
【0024】
加熱システム100は、例えば、上記特許文献1に記載されたものと同様に、廃リチウムイオン電池Aを処理するための処理装置である。加熱システム100は、詳細は図示しないが、熱処理炉10と、廃リチウムイオン電池Aが収容された状態で、熱処理炉10の内部に収容される1個又は複数個の耐熱容器20とを備えている。なお、図示しないが、加熱システム100は、耐熱容器20を熱処理炉10に投入及び排出する容器搬送装置を備えていてもよい。
【0025】
熱処理炉10は、例えば、耐火材で覆われた鋼板で炉壁11が構成された略円筒状の縦型炉であり、ガスバーナなどの加熱手段12によって加熱される。熱処理炉10は本発明の熱処理装置に相当する。熱処理炉10の内部温度は温度センサ13によって検知される。また、図示しないが、熱処理炉10には、内部空間に耐熱容器20、収容容器30を出し入れする際などに使用される扉も設けられている。
【0026】
また、熱処理炉10の炉床14は、炉壁11と同様に耐火材で覆われた鋼板からなり、図示しない炉床回転装置によって水平方向に回転可能に構成されていてもよい。
【0027】
熱処理炉10には、複数個の耐熱容器20が、隣接する耐熱容器20が間隔を有するように炉床14に載置された状態で収容されている。
【0028】
各耐熱容器20の形状は、例えば、直方体状、立方体状、円筒状、球状、楕円球状などの箱状であり、特に限定されない。耐熱容器20は、ここでは、全体として円筒形状であり、内部には1個又は複数個の廃リチウムイオン電池Aが収容されている。廃リチウムイオン電池Aは、耐熱容器20内にて、積層されて、又は重なり合って収容されていてもよい。
【0029】
耐熱容器20は、上面が開放された円筒状の本体21と、本体21の上部に脱着可能に取り付けられる上蓋22と、上蓋22又は本体21の上部付近に形成された排気口23とを備えている。
【0030】
耐熱容器20は、内部に廃リチウムイオン電池Aが収容可能な構成であり、加工性、コスト面などを考慮してSUS304に代表されるステンレス鋼などからなり、耐熱温度が少なくとも700℃であるものであれば、任意のものを使用することができる。
【0031】
さらに、 本実施形態においては、加熱システム100は、内部に炭酸カルシウム(CaCO3)、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかを収容する収容容器30を備えている。
【0032】
収容容器30は、その内部に炭酸カルシウム、炭酸カルシウムからなる石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかからなる粉末(以下、炭酸カルシウム等粉末という)Bを収容している。炭酸カルシウムは、700℃~900℃に加熱されると、以下の反応式(1)で示すように、脱炭酸反応が吸熱しながら進行し、二酸化炭素ガスが生じる。
CaCO3→CaO+CO2-178.23kJ/mol ・・・ (1)
【0033】
そして、ドロマイトは、約600℃に加熱されると、炭酸カルシウム成分が反応式(1)で示すように、脱炭酸反応が吸熱しながら進行し、二酸化炭素ガスが生じる。
【0034】
収容容器30の形状は、例えば、直方体状、立方体状、円筒状、球状、楕円球状などの箱状であり、特に限定されない。収容容器30は、ここでは、全体として円筒形状であり、また、収容容器30は、上面が開放された本体だけからなるものであっても、この本体の上部に脱着可能に取り付けられる上蓋をさらに備えるものであってもよい。
【0035】
また、収容容器30は、耐熱温度が少なくとも700℃であることが好ましい。収容容器30は、加工性、コスト面などを考慮してSUS304に代表されるステンレス鋼などからなることが好ましい。
【0036】
収容容器30には、炭酸カルシウム等粉末Bの粒径よりも小さな直径を有する貫通孔31が1個又は複数個、好ましくは多数個形成されている。炭酸カルシウム等粉末Bの粒径は例えば3mm~10mmである。
【0037】
炭酸カルシウム等粉末Bを収容した収容容器30の運搬時や熱処理炉10内への設置時に、炭酸カルシウム等粉末Bが貫通孔31からこぼれ落ちないように、貫通孔31の直径は炭酸カルシウム等粉末Bの粒径未満であることが好ましい。ただし、反応式(1)に示した反応により小径化した場合、炭酸カルシウム等粉末Bは貫通孔31からこぼれ落ちてもよい。
【0038】
また、炭酸カルシウム等粉末Bが熱処理炉10の炉床14にこぼれ落ちた炭酸カルシウム等粉末Bを掃除する手間を省くために、貫通孔31は、収容容器30の下面以外、例えば、側面及び上面に形成されていることが好ましい。
【0039】
収容容器30に収容される炭酸カルシウム等粉末Bの量は、上記反応式(1)によって発生する二酸化炭素ガスが熱処理炉10内全体を満たすように、炭酸カルシウム等粉末Bが炭酸カルシウムまたは石灰石である場合、熱処理炉10の内部空間1m3当たり1kg(約10mol)以上であることが好ましい。また、炭酸カルシウム等粉末Bがドロマイトである場合、熱処理炉10の内部空間1m3当たり1.9kg(約10mol)以上であることが好ましい。
【0040】
収容容器30は、熱処理炉10内部の上方部に設置されていることが好ましい。これは、上記反応式(1)によって発生する二酸化炭素ガスが空気より重く、後述する排気ダクト41の吸入口が熱処理炉10の下方部に位置しているので、熱処理炉10内の全体に二酸化炭素ガスが広がり易いからである。
【0041】
収容容器30は、その上面が熱処理炉10の上方部の内壁の下面に接触して設置されていても、例えば、隙間を有して設置されていてもよい。また、収容容器30の熱処理炉10への設置方法も限定されない。例えば、熱処理炉10の上方部の内壁に吊り具を設置し、この吊り具で収容容器30を吊り下げることにより設置してもよい。また、熱処理炉10の上方部の内壁に棚を設置し、この棚に収容容器30を載置することにより設置してもよい。
【0042】
加熱システム100は、さらに、熱処理炉10内のガスを外部に排気するための排気機構40を備えている。ここでは、排気機構40は、熱処理炉10の上部に設けられ、熱処理炉10の内部と外部とを連通する排気ダクト41、及び、排気ダクト41を介して熱処理炉10内のガスを外部に排出するための排気ファン42などを備えている。排気ダクト41の吸い込み口は、収容容器30の下面より下方に位置することが好ましく、耐熱容器20の排気口23より少し上方に位置することがさらに好ましい。
【0043】
以下、本発明の第2の実施形態に係る加熱システム200について
図2を参照して説明する。この加熱システム200は、上述した加熱システム100と類似するので、加熱システム100と相違する点に関してのみ説明する。
【0044】
加熱システム200は、上述した耐熱容器20の代わりに耐熱容器120を備えており、上述した収容容器30を備えていない。
【0045】
加熱システム200の熱処理炉10には、複数個の耐熱容器120が、隣接する耐熱容器120が間隔を有するように炉床14に載置された状態で収容されている。
【0046】
各耐熱容器120の形状は、例えば、直方体状、立方体状、円筒状、球状、楕円球状などの箱状であり、特に限定されない。耐熱容器120は、ここでは、全体として円筒形状である。耐熱容器120は、SUS304に代表されるステンレス鋼などからなり、耐熱温度が少なくとも700℃であれば、任意のものを使用することができる。
【0047】
各耐熱容器120は、上面が開放された円筒状の本体121と、本体121の上部に脱着可能に取り付けられる上蓋122と、上蓋122又は本体121の上部付近に形成された排気口123とを備えている。
【0048】
さらに、各耐熱容器120には、高さ方向の中間部に内部空間を上下に区分する仕切り板124が設けられている。そして、仕切り板124より下側の空間内には炭酸カルシウム等粉末Bが収容されており、仕切り板124より上側の空間内には1個又は複数個の廃リチウムイオン電池Aが収容されている。
【0049】
仕切り板124には、炭酸カルシウム等粉末Bの粒径よりも小さな直径を有する上下に貫通する貫通孔125が1個又は複数個形成されている。炭酸カルシウム等粉末Bの粒径は例えば3mm~10mmである。
【0050】
以下、上述した加熱システム100又は加熱システム200を用いた本発明の実施形態に係る加熱方法について説明する。
【0051】
まず、予備処理として、排気ファン42を作動させて、熱処理炉10内の残留ガスを外部に排出するプレパージを行う。その後、加熱手段12によって熱処理炉10内を加熱する。温度センサ13によって監視しながら、熱処理炉10の内部温度を上昇させる。そして、内部温度を400℃以上650℃以下の所定の加熱温度、例えば、650℃で一定に保持されるように加熱手段12などの作動を制御する。
【0052】
次に、上記扉を介して、加熱システ100においては、廃リチウムイオン電池Aを収容した耐熱容器20及び炭酸カルシウム等粉末Bを収容した収容容器30を熱処理炉10内の所定の位置に設置する。なお、炭酸カルシウム等粉末Bを収容した収容容器30は加熱開始前に予め設置しておいてもよい。また、加熱システ200においては、上記扉を介して、廃リチウムイオン電池A及び炭酸カルシウム等粉末Bを収容した耐熱容器120を熱処理炉10内の所定の位置に設置する。
【0053】
そして、熱処理炉10の内部温度を前記所定の加熱温度、例えば、650℃で一定に保持されるように加熱手段12などの作動の制御を継続する。これにより、廃リチウムイオン電池Aは加熱される。なお、排気ファン42の作動による熱処理炉10の内部空間に存するガスの排気は、随時、周期的又は常時行えばよい。
【0054】
この加熱により、耐熱容器20,120内は還元雰囲気とされ、耐熱容器20,120に収容されている廃リチウムイオン電池Aの筺体などのプラスチック類は乾留により炭化混合物として、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガンなどの有用金属が含まれた材料から分離された状態となる。廃リチウムイオン電池A内の電解液は揮発化され、プラスチックなどの可燃性物質が熱分解することによって発生したガスとともに、耐熱容器20の排気口23から熱処理炉10内に排出され、排気機構40により外部に排出される。
【0055】
熱処理炉10の内部温度が何からの要因により急激に上昇して700℃~900℃になると、上記反応式(1)のように炭酸カルシウム等粉末Bが脱炭酸反応する。この反応により発生する吸熱及び二酸化炭素ガスにより、熱処理炉10内での燃焼が抑えられ、熱処理炉10の内部温度を低下させることができる。これにより、熱暴走の発生が抑制され、加熱システム100,200の保護を図ることが可能となる。
【0056】
上記の反応は、炭酸カルシウム等粉末Bを収容した収容容器30又は耐熱容器120を熱処理炉10内に設置しておけば、内部温度が700℃~900℃になると自動的に進行する。そのため、上記特許文献1に記載の技術のように、所定の温度以上になると熱処理炉10内にガスを投入するための配管などの設備を新たに設ける必要がない。
【0057】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、被加熱物が廃リチウムイオン電池である場合について説明したが、被加熱物はこれに限定されず、400℃以上650℃以下で加熱されるものであれば、限定されない。また、本発明の熱処理装置は、特に制限されず、流動床炉、トンネル炉、マッフル等のバッチ式炉などを好適に用いることができる。
【0058】
(試験例)
上述した加熱システム200を模したものにおいて、熱暴走状態を模擬し、炭酸カルシウム等粉末Bを耐熱容器120内に収容することにより熱暴走の防止に効果があるのか否かを確認する試験を実施した。以下、これについて説明する。
【0059】
本試験においては、熱暴走を発生させるための可燃分として、廃リチウムイオン電池Aの代わりに樹脂シートを用いた。この樹脂シートは、フッ素樹脂からなるものであり、一辺30mm~40mm、厚さ0.5mm~2mmの矩形のシート状のものを、各試験例で40gずつ用いた。
【0060】
ここでは、熱処理炉10の代わりに、ヤマト科学株式会社製の電気炉F0-510に排気フードを併設したものを用いた。この電気炉は、内寸が幅300mm、奥行き250mm、高さ140mmであって、内容積は10.5Lであった。
【0061】
耐熱容器120を模擬するものとして、蓋付きの円筒形状のステンレス管及びるつぼを用いた。ステンレス管は、内寸が直径70mm、高さ135mmであって、内容積は0.52Lであった。ステンレス管の上部には3mmの貫通孔を1個形成した。るつばは、内寸が直径50mm、高さ35mmであって、内容積は0.05Lであった。
【0062】
試験は以下の手順で実施した。まず、電気炉の上部に熱電対を設置した。そして、熱電対が示す電気炉の内部温度が900℃となるまで電気炉を昇温させた。
【0063】
樹脂シート及び炭酸カルシウムを収容したステンレス管又はるつぼを、内部温度を900℃に設定した電気炉の内部に設置し、電気炉の扉を閉めた。試験条件を表1にまとめた。なお、24gの炭酸カルシウムの脱炭酸反応が完了した場合、電気炉の内容積の2倍である21Lの二酸化炭素ガスが発生する。
【0064】
電気炉の扉を閉めてから30秒後に電気炉のヒータを停止した。そして、電気炉の内部温度が400℃以下になるまで温度測定を継続した。なお、電気炉の強制排気は行わなかった。
【0065】
【0066】
試験例1~3の電気炉の内部温度の高温時における推移を示す
図3から分かるように、ステンレス管またはるつぼに炭酸カルシウムを収容した試験例2,3は、炭酸カルシウムを収容していない試験例1と比較して、電気炉の内部温度の最高温度が抑制されていることが分かる。これより、炭酸カルシウムを収容することが熱暴走の抑制に効果を有することを確認できた。なお、
図3における経過時間は、電気炉の扉を閉めた時点からの経過時間である。
【0067】
なお、ステンレス管に炭酸カルシウムを収容した試験例2は、るつぼに炭酸カルシウムを収容した試験例3と比較すると、電気炉の内部温度の最高温度が抑制される程度が小さい。これは、ステンレス管内の炭酸カルシウムが高濃度となるため、炭酸カルシウムの脱炭酸反応が良好に進行しなかったからであると推測される。
【符号の説明】
【0068】
10…熱処理炉(熱処理装置)、 11…炉壁、 12…加熱手段、 13…温度センサ、 14…炉床、 20,120…耐熱容器、 21,121…本体、 22,122…上蓋、 23,123…排気口、 30…収容容器、 31…貫通孔、 40…排気機構、 41…排気ダクト、 42…排気ファン、 100,200…加熱システム、 124…仕切り板、 125…貫通孔、 A…廃リチウムイオン電池(被加熱物)、 B…炭酸カルシウム等粉末(炭酸カルシウム、石灰石、およびドロマイトのうち少なくとも何れかからなる粉末)。