(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】磁気電気変換素子および電子デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 35/80 20230101AFI20241212BHJP
H10N 35/01 20230101ALI20241212BHJP
H10N 35/85 20230101ALI20241212BHJP
H02N 2/18 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H10N35/80
H10N35/01
H10N35/85
H02N2/18
(21)【出願番号】P 2021055222
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆男
(72)【発明者】
【氏名】岡野 靖久
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-126449(JP,A)
【文献】特開平04-346278(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110423(WO,A1)
【文献】特開2020-112411(JP,A)
【文献】特開2005-057857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 35/80
H10N 35/01
H10N 35/85
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える単層または複数層の機能膜を含む振動部と、
前記振動部が面内振動可能なように保持する支持部と、
前記支持部が設けられた基板と、を有する磁気電気変換素子であって、
前記支持部の幅をwとし、前記振動部の幅をLとし、前記振動部の反りの厚み方向の変位をVとした場合に、
以下の式(1)を満足する磁気電気変換素子。
2V/(L-w)
≦0.573 …(1)
【請求項2】
前記基板は、開口部を有し、
前記振動部は、前記基板の開口部に配置してあり、
前記振動部の表面および裏面は、自由に振動可能な空間に露出しており、
前記支持部で保持されている部分以外の前記振動部の周縁も、自由に振動可能な空間に露出している請求項1に記載の磁気電気変換素子。
【請求項3】
圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える単層または複数層の機能膜を含む振動部と、
前記振動部が面内振動可能なように前記振動部を保持する基板と、を有する磁気電気変換素子であって、
前記振動部の幅をLとし、前記振動部の反りの厚み方向の変位をVとした場合に、
以下の式(2)を満足する磁気電気変換素子。
2V/L
≦0.164 …(2)
【請求項4】
前記基板は、開口部を有し、
前記振動部は、前記基板の開口部に配置してあり、
前記振動部の表面および裏面は、自由に振動可能な空間に露出しており、
前記振動部の幅方向の端縁も、自由に振動可能な空間に露出している請求項3に記載の磁気電気変換素子。
【請求項5】
前記振動部の前記機能膜は、圧電体層と磁歪層とを有し、
前記振動部において前記圧電体層と前記磁歪層とが積層してある請求項1~4のいずれかに記載の磁気電気変換素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの磁気電気変換素子を有する電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばアンテナあるいは発電素子などに使用できる磁気電気変換素子と、その磁気電気変換素子を備える電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェアラブルデバイスの市場規模の高まりに伴い、MEデバイスの需要はますます増大している。MEデバイスとして磁歪層と圧電層を積層した薄膜によって、磁気変化を電気に変換する素子が、本発明者らにより開発されている(特許文献1)。
【0003】
このような磁気電気変換素子において、磁気電気の変換効率を高め、出力を向上させることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、磁気電気の変換効率を高め、出力を向上させることができる磁気電気変換素子、および、その磁気電気変換素子を用いた電源デバイスを提供することである。
を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る磁気電気変換素子は、
圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える単層または複数層の機能膜を含む振動部と、
前記振動部が面内振動(好ましくは面内伸縮振動)可能なように保持する支持部と、
前記支持部が設けられた基板と、を有する磁気電気変換素子であって、
前記支持部の幅をwとし、前記振動部の幅をLとし、前記振動部の反りの厚み方向の変位をVとした場合に、
以下の式(1)を満足することを特徴とする。
2V/(L-w)<0.7 …(1)
【0007】
本発明者等は、上記の関係を満足させることで、磁気電気変換素子における磁気電気の変換効率を高め、出力を向上させることを見出した。
【0008】
すなわち、上記の関係を満たす場合には、振動部の振動は、不要な振動成分がなく、バランスの取れた振動となる。このような振動はQ値が高く、その振動を介してエネルギーを変換する磁気電気変換素子の変換効率が高まり、高い出力が得られるようになると考えられる。
【0009】
好ましくは、前記基板は、開口部を有し、
前記振動部は、前記基板の開口部に配置してあり、
前記振動部の表面(上面)および裏面(下面)は、自由に振動可能な空間に露出しており、
前記支持部で保持されている部分以外の前記振動部の周縁も、自由に振動可能な空間に露出している。
【0010】
磁気電気変換素子の構造を上記の構成とすることで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、磁気電気変換素子のエネルギー変換効率がより向上する。
【0011】
本発明の第2の観点に係る磁気電気変換素子は、
圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える単層または複数層の機能膜を含む振動部と、
前記振動部が面内振動(好ましくは面内伸縮振動)可能なように前記振動部を保持する基板と、を有する磁気電気変換素子であって、
前記振動部の幅をLとし、前記振動部の反りの厚み方向の変位をVとした場合に、
以下の式(2)を満足することを特徴とする。
2V/L<0.2 …(2)
【0012】
本発明者等は、上記の関係を満足させることで、磁気電気変換素子における磁気電気の変換効率を高め、出力を向上させることを見出した。
【0013】
すなわち、上記の関係を満たす場合には、振動部の振動は、不要な振動成分がなく、バランスの取れた振動となる。このような振動はQ値が高く、その振動を介してエネルギーを変換する磁気電気変換素子の変換効率が高まり、高い出力が得られるようになると考えられる。
【0014】
なお、振動部の形状は、振動部の幅(L)が一義的に定まる正方形、長方形、真円(真円の場合、幅Lは直径となる)が好ましいが、特に限定されない。
【0015】
好ましくは、前記基板は、開口部を有し、
前記振動部は、前記基板の開口部に配置してあり、
前記振動部の表面および裏面は、自由に振動可能な空間に露出しており、
前記振動部の幅方向の端縁も、自由に振動可能な空間に露出している。
【0016】
磁気電気変換素子の構造を上記の構成とすることで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、磁気電気変換素子のエネルギー変換効率がより向上する。
【0017】
好ましくは、前記振動部の前記機能膜は、圧電体層と磁歪層とを有し、
前記振動部において前記圧電体層と前記磁歪層とが積層してある。振動部が、上記のような圧電体層と磁歪層とを有することで、磁気電気変換素子のエネルギー変換効率がより向上する。
【0018】
本発明に係る電子デバイスは、上記のいずれかの磁気電気変換素子を有するデバイスであれば特に限定されない。
【0019】
好ましい電子デバイスとしては、たとえば発電素子が例示される。
【0020】
好ましい発電素子は、
外部から非接触で供給されるエネルギーを受けて電力を発生させる非接触型の素子本体を有し、
前記素子本体は、前記振動部を有し、
前記振動部は、固有周波数で弾性波振動が可能な振動子であり、
前記振動部のQ値が100以上である。
【0021】
素子本体に含まれる振動部が、電磁波や交流磁場などの外部エネルギーを受けて共振し、弾性波振動することで、電力を発生させることができる。特に、好ましい発電素子では、弾性波振動する振動部のQ値が100以上に設定してある。振動部のQ値を高く設定することで、振動部では、より大きな振幅の弾性波振動を発生させることが可能となり、高効率なエネルギー変換が可能となる。また、弾性波振動を有する振動部は、電磁誘導用の受電コイルや磁界共鳴用の受電コイルと比べて、寸法を遥かに小さくすることができ、小型化が容易である。
【0022】
好ましくは、前記素子本体が、開口部を有する基板に設置してあり、前記基板に面して接続してある固定部と、前記固定部と前記振動部とを連結する少なくとも1つの支持部と、をさらに有する。そして、好ましくは、前記振動部が、前記基板の前記開口部に対向して配置してあり、前記振動部における前記開口部と対向する面が、前記基板に直に接していない非拘束面である。発電素子の構造を上記の構成とすることで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子のエネルギー変換効率がより向上する。
【0023】
また、好ましくは、前記振動部の厚み方向と平行な方向からの平面視において、前記振動部の外周縁と、前記基板における前記開口部の内周縁とは、互いに接触していないことが好ましい。そして、前記振動部の前記外周縁と、前記開口部の前記内周縁との間には、隙間が存在することが好ましい。上記構成を有することで、本発明の発電素子では、エネルギー変換効率がさらに向上する。
【0024】
また、好ましくは、前記支持部の連結方向を第1軸とし、前記第1軸と直交する方向を第2軸として、前記支持部の前記第2軸における幅が、前記振動部の前記第2軸における幅よりも小さい。上記構成を有することで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子のエネルギー変換効率がさらに向上する。
【0025】
好ましくは、前記支持部の連結方向と直交する方向における前記振動部の幅が、前記固有周波数における電磁波の波長に対して1/100倍以下である。上記構成を有することで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子のエネルギー変換効率がより向上する。
【0026】
好ましくは、前記弾性波振動が、バルク弾性波であり、前記振動部が、バルク弾性波振動子である。また、好ましくは、前記弾性波振動の振動姿態が、面内伸縮振動であり、前記振動部が、面内伸縮振動での弾性波振動が可能なバルク弾性波振動子である。振動部の弾性波振動が上記の構成を有することで、発電素子のエネルギー変換効率がより向上する。
【0027】
好ましくは、発電素子は、前記素子本体を複数有している。発電素子は、上記のとおり素子本体を複数有するアレー素子とすることで、弾性波振動の共振により発生する電力をより大きくすることができる。たとえば、複数の素子本体を直列に配列した場合には、出力電圧を高くすることができ、複数の素子本体を並列に配列した場合には、出力電流をより大きくすることができる。
【0028】
また、発電素子を上記のようなアレー素子とする場合、複数の前記素子本体において、前記固有振動数の平均値をfAとして、前記固有振動数のばらつきがfA±1.0%未満の範囲内であることが好ましい。上記の構成を有することで、発電素子では、より大きな電力を発生させることができ、エネルギー変換効率がより向上する。
【0029】
発電素子は、たとえば電源装置に組み込んで好適に用いることができる。そして、当該電源装置を組み込んだ電子機器は、有線方式の電力供給が不要な自立したデバイスとして、長時間駆動することができる。また、電源装置および電子機器は、人の体内に装着できるほど小型化することが可能である。なお、電子機器としては、たとえば、イヤホンや補聴器などのヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、ウェアラブル体温計、ウェアラブル脈波センサなどの各種ウェアラブル端末の他、人体の内部に装着される人口内耳や心臓ペースメーカ、筋肉や脳などへの電気刺激機器、ニューロRFID、マイクロロボットなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る磁気電気変換素子を示す平面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の他の実施形態に係る磁気電気変換素子を示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すII-II線に沿う概略断面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の他の実施形態に係る磁気電気変換素子の平面図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明のさらに他の実施形態に係る磁気電気変換素子の平面図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明のさらに他の実施形態に係る磁気電気変換素子の平面図である。
【
図4D】
図4Dは、本発明のさらに他の実施形態に係る磁気電気変換素子の平面図である。
【
図4E】
図4Eは、本発明のさらに他の実施形態に係る磁気電気変換素子の平面図である。
【
図4F】
図4Fは、本発明のさらに他の実施形態に係る磁気電気変換素子の平面図である。
【
図4G】
図4Gは、本発明のさらに他の実施形態に係る磁気電気変換素子の平面図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の実施例に係る磁気電気変換素子の実験結果を示すグラフである。
【
図5B】
図5Bは、本発明の他の実施例に係る磁気電気変換素子の実験結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、振動部の周波数特性を概略的に示すグラフである。
【
図7】
図7は、本実施形態の磁気電気変換素子を発電素子として搭載した電源装置および電子機器を示す概略図である。
【
図8】
図8は、発電素子の変形例を示す平面図である。
【
図9】
図9は、発電素子の変形例を示す平面図である。
【
図11】
図11は、発電素子の変形例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0032】
第1実施形態
図1Aに示すように、本発明の一実施形態に係る磁気電気変換素子1は、基板6と、基板6の上に形成してある素子本体4と、を有する。また、本実施形態において、素子本体4は、X軸方向の略中央に位置する振動部41と、X軸方向の両端に位置する2つの固定部42a,42bと、振動部41と固定部42a,42bとを連結する2つの支持部43と、を有する。なお、本実施形態において、支持部43が延びる方向をX軸とし、素子本体4のX軸に垂直な幅方向をY軸とし、素子本体4の厚み方向をZ軸とし、する。X軸、Y軸、およびZ軸は、相互に略垂直である。
【0033】
図2に示すように、素子本体4の振動部41は、機能膜として、圧電特性を有する圧電体層14と、磁歪特性を有する磁歪層16とを有する。この圧電体層14および磁歪層16は、X軸およびY軸を含むX-Y平面と実質的に平行であり、X-Y平面と略垂直な方向(すなわちZ軸方向)に沿って積層してある。なお、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行でない部分を有していてもよりことを意味し、圧電体層14と磁歪層16とは、多少、凹凸があったり、傾いていたりしてもよいという趣旨である。
【0034】
本実施形態の磁気電気変換素子1では、電力の発生に際して、上記のような機能膜を有する振動部41が重要な役割を果たす。そこで、本実施形態では、主に振動部41の特徴について、説明する。
【0035】
素子本体4の振動部41は、固有周波数f0を有する振動子である。本実施形態の振動部41は、電磁波や交流磁場などに呼応して弾性波振動することが可能な振動子である。また、振動部41が有する固有周波数f0とは、応答が最大となる場合の周波数であって、共振周波数とも呼ばれる。なお、磁気電気変換素子1の場合、「応答」とは、出力電力を意味する。
【0036】
振動部41に対して、固有周波数f0に近い周波数を有する電磁波や交流磁場などの外部エネルギーが放射されると、弾性波振動子である振動部41は、外部エネルギーによって励振されて、弾性波振動する。より具体的には、振動部41が外部エネルギーを受けると、磁歪効果によって磁歪層16に歪みが生じ、その歪みに応じて弾性波振動が発生する。そして、この弾性波振動が発生すると、振動部41では、圧電体層14の圧電効果により圧電体層14の表面に電荷が発生する。つまり、本実施形態の磁気電気変換素子1では、振動部41の弾性波振動により、電磁波または交流磁場などの外部エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。
【0037】
図2に示すように、磁気電気変換素子1のZ軸方向における最下層には、平面視において略矩形の外縁形状を有する基板6が存在する。なお、基板6の平面視形状は、特に限定されない。また、基板6の厚みも、特に限定されず、十分な強度を確保できる厚みであればよい。この基板6は、X-Y平面の略中央部において、開口部61を有しており、この開口部61のZ軸方向の上方に振動部41が位置している。つまり、素子本体4の振動部41は、基板6の開口部61に合わせて配置してある。開口部61の平面視形状および寸法は、振動部41の形状や寸法に合わせて決定される。本実施形態では、開口部61が略矩形の平面視形状を有する。
【0038】
素子本体4は、機能膜を積層した積層構造体であり、素子本体4には、少なくとも下部電極層12と、前述した圧電体層14および磁歪層16とが含まれている。本実施形態では、さらに上部電極層13が含まれている。素子本体4のZ軸下方には、下部電極層12が位置し、当該下部電極層12の上に圧電体層14が積層してあり、当該圧電体層14の上に上部電極層13が積層してあり、当該上部電極層13の上に磁歪層16が積層してある。なお、各機能膜の構成に関しては、追って詳述する。
【0039】
素子本体4は、基板6のZ軸方向の上方において、開口部61の上部開口面を、X軸方向に架け渡すように存在している。そして、素子本体4のX軸方向における一方の端部は、基板6の表面に面して接続してあり、固定部42aとなっている。また、X軸方向における素子本体4の他方の端部も、基板6の表面に面して接続してあり、固定部42bとなっている。
【0040】
固定部42aでは、取出電極18aが下部電極層12に電気的に接続してあり、この取出電極18aを介して、図示しない外部回路が接続可能となっている。一方、固定部42bには、磁歪層16に電気的に接続してある取出電極18bが存在しており、この取出電極18bを介して図示しない外部回路が接続可能となっている。なお、固定部42bにおいて、取出電極18bと下部電極層12との間には絶縁層20が介在してあり、この絶縁層20によって、取出電極18bと下部電極層12とが、短絡しないように互いに絶縁されている。なお、以降の段落では、固定部42aおよび固定部42bを、総称して「固定部42」と記載する場合がある。また、取出電極18a,18bを、総称して「取出電極18」と記載する場合がある。
【0041】
素子本体4の振動部41は、開口部61の上部開口面よりも寸法が小さい略矩形の平面視形状を有しており、X軸と平行な縁辺とY軸と平行な縁辺とを有している。振動部41は開口部61の上方に位置しており、
図3Aに示す断面では、振動部41が、開口部61のZ軸上方、または開口部61の内部において浮遊しているように見える。
図3Aに示すように、X-Y平面と平行な振動部41の上面および下面は、自由に振動可能な空間に露出しており、基板6に直に接していない非拘束面であることが好ましい。
【0042】
素子本体4は、一対の支持部43を有しており、振動部41は、一対の支持部43を介して、各固定部42a,42bに一体的に接続してある。つまり、振動部41は、支持部43を介して基板6に連結してある。本実施形態では、支持部43により振動部41と固定部42とが連結される方向を、連結方向(X軸方向)と称する。
【0043】
図1Aに示すように、振動部41のX軸に平行な縁辺および振動部4のY軸に平行な縁辺は、開口部61の内周縁とは接触していない。すなわち、Z軸方向からの平面視において、振動部41の外周縁と、開口部61の内周縁とは、互いに接触しておらず、振動部41の外周縁と開口部61の内周縁との間には、隙間46が存在する。ここで、上記の「振動部41の外周縁」とは、振動部41における下部電極層12の外周縁であり、より具体的に、振動部41における支持部43との連結部分を除く下部電極層12の外周縁を意味する。
【0044】
本実施形態では、支持部43で保持されている部分以外の振動部4の外周縁も、自由に振動可能な空間に露出しており、基板6に直に接していない非拘束面であることが好ましい。
【0045】
本実施形態において、隙間46の平均幅Wgは、1μm~500μmであることが好ましい。なお、本実施形態において、隙間46は、機能膜12~16や基板6が存在していない空間となっている。また、隙間46の幅Wgは、平面視における下部電極層12の外周縁から開口部61の内周縁までの間隔を意味する。
【0046】
また、振動部41において、連結方向と直交する方向の幅L(
図1Aでは、Y軸方向の幅)は、固有周波数f0と同じ周波数の電磁波EWの波長と比較して、1/100倍以下であることが好ましく、1/200倍以下であることがより好ましい。連結方向と直交する方向の幅Lの下限値は、特に限定されないが、たとえば、固有周波数f0と同じ周波数の電磁波の波長と比較して、1/200000倍以上とすることが好ましい。
【0047】
なお、上記において、「電磁波EWの波長」とは、外部エネルギーの伝達経路となる媒介中(例えば空気中)における電磁波の波長を意味する。たとえば、本実施形態の磁気電気変換素子1において、幅L以外の構成を変えずに幅Lを広くした場合、振動部41が有する固有周波数f0は、低くなる傾向となる。逆に幅Lを狭くすると、振動部41が有する固有周波数f0は、高くなる傾向となる。
【0048】
一方、振動部41において、連結方向の幅H(
図1AではX軸方向の幅)は、特に限定されず、上記の幅Lよりも狭い幅とすることもできるが、幅Lよりも広い幅とすることが好ましい。
【0049】
また、
図3Aに示す振動部41の平均厚みTvは、各機能膜の厚みに依存し、特に限定されないが、たとえば、0.5μm~30μmとすることが好ましい。また、本実施形態では、圧電体層14の厚みt14と磁歪層16の厚みt16との比率t14/t16は、好ましくは0.1~10、さらに好ましくは0.5~3である。このような範囲にあるときに、後述する反りの変位Vを所定範囲内に小さく制御することができる。
【0050】
素子本体4の支持部43は、振動部41のX軸方向における端部と、固定部42とを、X軸方向に沿って連結しており、本実施形態では、支持部43が、固定部42の数に応じて2つ形成してある。この支持部43は、振動部41の弾性波振動を妨げないように、振動部41よりも剛性が低くなるような様態で形成してあることが好ましい。
【0051】
たとえば、支持部43において、連結方向と直交する方向(Y軸方向)の幅wは、振動部41の幅Lよりも狭い。より具体的に、振動部41の幅Lに対する支持部43の幅wの比率(w/L)は、10%~90%とすることがより好ましい。
【0052】
次に、磁気電気変換素子1を構成する基板6や機能膜などの各要素の特徴について詳述する。
【0053】
(基板6)
本実施形態において、基板6は、少なくとも素子本体4を支持できる絶縁物であればよいが、単結晶の基板であることが好ましい。単結晶基板としては、Si、MgO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、ニオブ酸リチウム(LiNbO3 )などが挙げられる。本実施形態では、特に、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板を使用することがより好ましい。なお、Si(100)面の単結晶とは、シリコン基板において、立方晶の(100)面が、厚み方向に対して略平行となるように配向していることを意味する。
【0054】
(圧電体層14)
圧電体層14は、一方の固定部42aから他方の固定部42bにかけて延在している、単層の薄膜である。
図1Aに示すように、圧電体層14の平面視形状は、素子本体4の各部位41~43の形状に適合している。また、圧電体層14の平均厚みは、0.4μm~10μmの範囲内であることが好ましく、0.4μm~2μmであることがより好ましい。そして、圧電体層14の厚みのばらつきは、±5%以下であることが好ましい。
【0055】
なお、圧電体層14の平均厚みt14(
図3A参照)は、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などによりX-Z断面もしくはY-Z断面を観察し、その際に得られる断面写真を画像解析することで求められる。この際、面内方向において少なくとも3点以上の箇所で計測を行い、その平均値を算出する。
【0056】
圧電体層14は、圧電材料で構成してあり、圧電効果または逆圧電効果を奏する。圧電体層14を構成する圧電材料としては、たとえば、水晶、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3 )、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO3 )、ジルコン酸チタン酸バリウムカルシウム(BCZT:(Ba,Ca)(Zr,Ti)O3 )、などが例示される。
【0057】
本実施形態では、上記の圧電材料のうち、特に、PZT、KNN、およびBCZTなどのペロブスカイト構造を有する圧電材料を用いることが好ましい。ペロブスカイト構造の圧電材料は、優れた圧電特性を有するため、圧電体層14をこれらの材質で構成することで、磁気電気変換素子4の性能が向上する。なお、圧電体層14を構成する上記の圧電材料には、圧電特性をさらに改善するために、適宜他の元素や化合物が添加してあってもよい。
【0058】
また、ペロブスカイト構造の圧電材料を用いる場合、圧電体層14は、エピタキシャル成長した膜であることがより好ましい。ここで、エピタキシャル成長とは、成膜の際に、膜の結晶が、下地材料の結晶格子に整合する形で、膜厚方向(Z軸方向)および平面方向(X軸およびY軸方向)に揃いながら成長することをいう。そのため、より好ましい様態の場合、圧電体層14は、成膜中の高温状態において、結晶が、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の3軸すべての方向に揃って配向した状態(3軸配向)となる。圧電体層14における結晶の軸を揃えて配向性を向上させるほど、振動部41のQ値が高くなる傾向がある。また、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とすることで、振動部41が面内伸縮振動で弾性波振動し易くなる。
【0059】
なお、3軸配向するようにエピタキシャル成長しているか否かは、薄膜形成過程において反射高速電子線回折評価(RHEED評価)を行うことで確認できる。成膜中の膜表面において、結晶配向に乱れがある場合には、RHEED像は、リング状に伸びたパターンを示す。一方で、上記のようにエピタキシャル成長している場合には、RHEED像は、スポット状またはストリーク状のシャープなパターンを示す。上記のようなRHEED像は、あくまでも成膜中の高温状態で観測される。
【0060】
また、エピタキシャル成長した場合、圧電体層14は、成膜後の室温状態において、結晶粒界がほとんど形成されず、単結晶に近い(完全な単結晶ではない)結晶構造を有する。より具体的に、成膜後における圧電体層14の結晶構造は、3軸配向したうえで、複数の結晶相を有することが好ましく、また、少なくとも3種のドメイン(域)を含むドメイン構造を有することが好ましい。圧電体層14がドメイン構造を有することで、圧電特性がより向上し、振動に対する圧電応答性が高まる。
【0061】
圧電体層14がドメイン構造を有する場合、ドメイン構造の具体的な構成は、使用する圧電材料によって異なる。たとえば、圧電体層14がPZTのエピタキシャル成長した膜である場合には、正方晶と菱面体晶の少なくとも2種の結晶相を有することができる。そして、この場合、正方晶は、c軸(直方体(結晶格子)の長手方向の軸)が膜厚方向を向いたドメインと、c軸が面内方向を向いたドメインと、を有する。
【0062】
また、菱面体晶の結晶相は、膜厚方向に対して(100)面が平行となるように配向している。すなわち、圧電体層14がPZTのエピタキシャル成長した膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、菱面体晶のドメインとの計3種のドメインを含むことが好ましい。
【0063】
一方、圧電体層14がKNNのエピタキシャル成長した膜である場合には、斜方晶の2種のドメインと、単斜晶の1種のドメインと(計3種のドメイン)を有することが好ましい。上記の場合、斜方晶の2種のドメインとは、斜方晶の(001)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(aドメイン)と、斜方晶の(010)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(cドメイン)とが存在し得る。また、単斜晶のドメインでは、(100)面または(010)面が膜厚方向に対して略平行となっていることが好ましい。
【0064】
また、圧電体層14がBCZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、斜方晶の2種のドメインと(計4種のドメイン)を有することが好ましい。
【0065】
上述したような複数のドメインは、共通のドメイン境界を挟んで接しているため、各ドメインの結晶軸の向きは、膜厚方向や面内方向から数度程度(具体的には、最大±3度程度)ずれていてもよい。また、上述したような複数のドメインは、少なくとも成膜時の高温状態においては、同じ結晶系の同じ方位に配向した等価なドメインであり、成膜後に室温や使用温度に冷却される過程で、より安定な結晶相やドメインに転移することで形成される。
【0066】
なお、複数のドメインが混在して存在する様子は、圧電体層14を、STEMもしくは透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折、または、X線回折(XRD)などで分析することにより確認できる。
【0067】
(下部電極層12)
下部電極層12も、圧電体層14と同様に、一方の固定部42aから他方の固定部42bにかけて延在している、単層の薄膜である。下部電極層12は、圧電体層14で発生した電荷を回収し取り出すための電極であり、下部電極層12のX軸方向における一方の端部が取出電極18aと電気的に接続してある。下部電極層12の平均厚みは、3nm~200nmとすることが好ましい。
【0068】
下部電極層12は、金属や酸化物導電体などの導電材料で構成される。特に、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12も、エピタキシャル成長した膜とすることが好ましい。この場合、下部電極層12は、たとえば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などの面心立方構造の金属薄膜か、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3 :以下SROと略す)やニッケル酸リチウム(LiNiO3 )などの酸化物導電体薄膜とすることが好ましい。
このような金属薄膜および酸化物導電体薄膜は、単結晶の基板上にエピタキシャル成長させることができる。そして、エピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12では、膜厚方向(Z軸方向)において(001)面が配向していることが好ましい。また、面内方向(X軸方向またはY軸方向)において
は、圧電体層14の(100)面と下部電極層12の(100)面とが略平行となっていることが好ましい。
【0069】
なお、下部電極層12もエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12は、上記の金属薄膜と上記の酸化物導電体薄膜とを積層して構成してもよい。その場合、下部電極層12における下方側(すなわち基板6側)には、金属薄膜を積層し、当該金属薄膜の上に酸化物導電体薄膜を積層することが好ましい。
【0070】
(磁歪層16)
図1Aに示すように、本実施形態において、磁歪層16は、振動部41において積層してある単層の薄膜であり、固定部42および支持部43には、磁歪層16が形成されていない。このように、磁歪層16は、振動部41に積層してあればよく、必ずしも固定部42や支持部43に積層してある必要はない。ただし、支持部43や、固定部42の一部において磁歪層16が存在していてもよい。
【0071】
また、
図1Aにおいて磁歪層16は、略矩形の平面視形状を有している。磁歪層16のY軸方向に沿う幅は、圧電体層14の振動部41におけるの幅Lと略同じであるが、圧電体層14の振動部41における幅よりも小さくてもよい。磁歪層16のY軸方向に沿う幅を圧電体層14の振動部41における幅よりも小さく場合には、振動部41の耐久性を向上させることができる。
【0072】
磁歪層16の平均厚みは、0.1μm~5μmの範囲であることが好ましく、0.1μm~1μmであることがより好ましい。また、圧電体層14の平均厚みに対する磁歪層16の平均厚みの比は、1/10~10の範囲内であることが好ましく、1/10以上、1未満であることがより好ましい。そして、磁歪層16の厚みのばらつきも、圧電体層14の場合と同様、±5%以下であることが好ましい。なお、磁歪層16の平均厚みも、圧電体層14と同様にして測定可能である。
【0073】
磁歪層16は、磁歪特性を有する強磁性体で構成してある。強磁性体としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの純金属、または、上記金属元素のうち少なくとも1種を含む合金(たとえば、Fe-Co系、Fe-Ni系、Fe-Si系、Fe-Dy-Tb系、Fe-Ga系、Fe-Si-Al系の合金など)、もしくは、上記金属元素の酸化物を含む酸化物磁性体を用いることができる。また、磁歪層16は、上記の強磁性体を含む単一膜であってもよいし、複数の層からなる多層膜や、強磁性体と反強磁性体との積層膜であってもよい。
【0074】
磁歪層16は、上記の強磁性体薄膜の中でも、特に、軟磁性の高磁歪膜であることが好ましい。本実施形態において、軟磁性の高磁歪膜とは、保持力HCやしきい磁場HTHが低い(好ましくは、HCが2500A/m未満、HTHが500A/m未満)軟磁性体で構成されており、かつ、飽和磁歪λMAXが5ppm以上の膜であることを意味する。
【0075】
具体的に軟磁性高磁歪膜の磁歪層16としては、Fe-Si-B系合金、Fe-Cr-Si-B系合金、Fe-Ni-Mo-B系合金、Fe-Co-B系合金、Fe-Ni-B系合金、Fe-Al-Si-B系合金、またはFe-Co-Si-B系合金などを主成分とする合金膜が例示される。強磁性体の多くは磁歪効果を示すが、特に上記の軟磁性高磁歪膜で磁歪層16を構成すると、より振幅が大きい弾性波振動を発生させることができる。
【0076】
また、磁歪層16の結晶構造は、非晶質であってもよいし、多結晶であってもよいが、磁歪層16が軟磁性高磁歪膜である場合には、非晶質相と結晶相とを、混在して有することが好ましい。強磁性体薄膜16が非晶質相と結晶相とを混在して含むことで、外部エネルギーに対する応答性を向上させることができるとともに、磁歪変化率(dλ/dH)を大きくすることができる。
【0077】
なお、Feを含む合金は、体心立法構造で結晶化されることが通常である。本実施形態においては、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを有する場合、磁歪層16に含まれる結晶相のほとんどが、面心立法構造を有することが好ましい。磁歪層16が上記のような結晶構造を有することで、磁気電気変換素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
【0078】
磁歪層16の結晶構造は、圧電体層14と同様に、TEMの電子線回折またはXRDなどで分析することで確認できる。たとえば、磁歪層16が非晶質相のみで構成される場合、XRDを用いてCu-Kα線によるθ-2θ測定を行うと、ブロードで幅が広いハローパターンのみが検出される。
【0079】
一方、磁歪層16が結晶相のみで構成された場合には、半値幅が狭い極めてシャープな反射ピークのみが検出される。また、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを混在して有する場合、非晶質相の存在を示すブロードな盛り上がり(ハロー)部分と、結晶相の存在を示すシャープなピーク部分とを共に有する反射ピークが検出される。
【0080】
また、非晶質相と結晶相との割合は、電子線回折もしくはXRDで得られた反射ピークに対して、プロファイルフィッティングを行い、結晶化度を算出することで確認できる。具体的には、結晶相部分(ピーク部分)と非晶質相部分(ハロー部分)のフィッティングを行い、各部分の積分強度(面積)を測定する。そして、結晶化度(%)は、結晶相部分の積分強度(Ic)と非晶質相部分の積分強度(Ia)との和(すなわち全ピーク面積)に対する、結晶相部分の積分強度(Ic)の比(Ic/(Ic+Ia)×100)で表される。本実施形態において、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを混在して有する場合、結晶化度は、1%~50%であることが好ましく、5%~20%であることがより好ましい。
【0081】
磁歪層16は、前述したように、電磁波や交流磁場などの外部エネルギーを受けて、弾性波振動の発生に寄与する。また、
図1Aおよび
図2に示す磁気電気変換素子1の場合、磁歪層16は、圧電体層14で発生した電荷を回収し取り出すための電極としても機能する。
【0082】
(上部電極層13)
また、圧電体層14と磁歪層16との間には、上部電極層13が形成してある。上部電極層13を形成することで、圧電体層14で発生する電荷をより効率よく取り出すことができる。上部電極層13は、下部電極層12と同様の構成(厚みや材質)とすることができる。ただし、上部電極層13は、必ずしも設けなくてもよく、磁歪層16を直接、圧電体層14上に形成してもよい。
【0083】
なお、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12もエピタキシャル成長した膜とすることが好ましいが、上部電極層13については必ずしもエピタキシャル成長させる必要はない。一方、磁歪層16において非晶質相と結晶相とを混在させる場合は、上部電極層の結晶構造は、面心立方の多結晶構造、もしくは、非晶質相と面心立法の結晶相とが混在した結晶構造とすることが好ましい。
【0084】
(取出電極18)
取出電極18は、導電性を有していればよく、その材質や寸法は特に制限されない。たとえば、取出電極18は、Pt、Ag、Cu、Au、Alなどの導電性金属を含むことができ、導電性金属の他にガラス成分などが含まれていてもよい。なお、
図1Aおよび
図2において、取出電極18は、薄膜状の電極としているが、ビアホール電極としてもよい。
【0085】
(絶縁層20)
絶縁層20は、電気絶縁性を有していればよく、その材質や厚みは特に制限されない。たとえば、絶縁層20は、SiO2 、Al2 O3 、ポリイミドなどで構成することができる。
【0086】
本実施形態では、
図2に示すように、絶縁層20は、磁歪層16のX軸方向の両端の上部、支持部43の上部、固定部42a,42bおよび基板6を覆っている。また、取出し電極18aと下部電極層12とを接続するため、接続部44では、絶縁層20が基板6を覆っていない。
【0087】
(その他の機能膜)
なお、
図1Aおよび
図2では図示していないが、素子本体4には、上述した下部電極層12、上部電極層13、圧電体層14、および磁歪層16の他に、その他の機能膜が含まれていてもよい。
【0088】
たとえば、素子本体4のZ軸方向の最下層(すなわち下部電極層12の下方)には、下部電極層12の結晶性および圧電体層14の結晶性を制御するバッファ層が形成してあってもよい。特に圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合には、バッファ層を形成することが好ましい。バッファ層は、酸化ジルコニウム(ZrO2 )、もしくは、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とすることが好ましい。
【0089】
このバッファ層も、成膜用基板の結晶格子に整合する形で、結晶が膜厚方向(Z軸方向)および面内方向(X軸およびY軸方向)に揃いながらエピタキシャル成長した膜であることが好ましい。バッファ層は、下部電極層12と同様に、膜厚方向において、(001)面が配向していることが好ましい。そして、面内方向(X軸方向またはY軸方向)においては、圧電体層14の(100)面と、下部電極層12の(100)面と、バッファ層の(100)面とが略平行となっていることがより好ましい。
【0090】
具体的に、バッファ層がZrO2 で、下部電極層12がPtで、圧電体層14がPZTの場合、各層の好ましい配向関係は、膜厚方向が、ZrO2 (001)//Pt(001)//PZT(001)であって、面内方向が、ZrO2 (100)//Pt(100)//PZT(100)である。
【0091】
バッファ層が形成してあることで、下部電極層12および圧電体層14をエピタキシャル成長させ易くすることができ、これらの層12,14の結晶性がより良好となる。また、バッファ層は、エッチングにより開口部61を形成する際に、エッチングストッパ層としても機能する。バッファ層を形成する場合、その平均厚みは、5nm~100nmとすることが好ましい。
【0092】
また、圧電体層14と磁歪層16との間には、上部電極層が形成してあってもよい。上部電極層を形成することで、圧電体層14で発生する電荷をより効率よく取り出すことができる。上部電極層は、下部電極層12と同様の構成(厚みや材質)とすることができる。
【0093】
なお、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12もエピタキシャル成長した膜とすることが好ましいが、上部電極層については必ずしもエピタキシャル成長させる必要はない。一方、磁歪層16において非晶質相と結晶相とを混在させる場合は、上部電極層の結晶構造は、面心立方の多結晶構造、もしくは、非晶質相と面心立法の結晶相とが混在した結晶構造とすることが好ましい。
【0094】
さらに、素子本体4において、下面を除く最外層には、保護層が形成してあってもよい。保護層としては、Ti,Ta,またはPtなどの金属を含む保護層や、SiO2 、Al2 O3 、またはポリイミドなどで構成する絶縁性の保護層が例示され、金属製の保護層と絶縁性の保護層とを両方形成してもよい。なお、保護層の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm~50nmとすることができる。
【0095】
図1Aおよび
図2に示す磁気電気変換素子1では、上述したような内部構造(各機能膜の構成)を有し、上述したような形態的特徴(素子本体4の各部位の形状や寸法など)を有することで、振動部41が面内伸縮振動のバルク弾性波振動子となる。特に、内部構造や形態的特徴が、前述したような好適な条件を満たす場合、振動部41の振動姿態は、拡がり振動となる傾向がある。
【0096】
本実施形態では、振動部41は、X軸およびY軸を含む平面に沿った板状の形態を有するが、この板状の振動部41は、可能な限り平坦であることが好ましい。たとえば、振動部41の上面および下面は、表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)または二乗平均平方根粗さ(Rq:旧RMS)で、1μm以下であることが好ましい。もしくは、振動部41における上面の表面粗さ(RaまたはRq)、および、下面の表面粗さ(RaまたはRq)は、振動部41の弾性波振動の波長と比較して、1/10倍以下であることが好ましい。
【0097】
なお、平面度は、接触式で測定してもよいし、非接触式で測定してもよい。たとえば、CNC画像測定器やレーザー顕微鏡などにより平面度を測定することができる。また、表面粗さRa,Rqについても、接触式で測定してもよいし、非接触式で測定してもよく、JIS-B0601に準拠して測定すればよい。
【0098】
本実施形態の素子本体4には、積層してある各層に発生する残留応力の違いなどから、たとえば、
図3Aに示すような反りが生じることがある。なお、
図3Aに示す素子本体4(振動部41)の反りは、一例にすぎず、素子本体4の反りは波状であってもよく、素子本体4のY軸に沿った両縁辺がZ軸方向上向きに反っていてもよく、あるいは、素子本体4のX軸方向の中央がZ軸方向下向きに沿っていてもよい。
【0099】
ここで反りの変位Vは、振動部43において、Z軸に沿って変位の最高点と最低点との差(最大変位差)のことを指す。反りの変位Vは、たとえば3Dレーザー顕微鏡を用いて基板6の表面を基準面として、そこからの高さ変動の最大値を測定することなどにより求めることができる。
【0100】
本実施形態では、
図5Aに示すように、支持部43の幅Wと、振動部41の幅Lと、反りの変位Vとの関係が、2V/(L-w)<0.6、好ましくは0.001≦2V/(L-w)≦0.2である。このような場合に、磁気電気の変換効率を高め、出力を向上させることができる。なお、支持部43の幅wは5μm以上、振動部41の幅Lの0.5倍(1/2)以下が好ましい。また、本実施形態では、反りの変位Vは、好ましくは、振動部41の幅Lの1/1000以上である。また、振動部41の幅Lは、好ましくは、30μm以上、10mm以下であり、さらに好ましくは75μm以上、200μm、300μm以上である。
【0101】
なお、支持部43の幅Wと、振動部41の幅Lとは、たとえば測長顕微鏡により測定することで求めることができる。支持部43の幅Wと振動部41の幅Lとは、ほぼ設計通りの値となる。振動部41の反りの変位Vは、振動部41を構成する圧電体層14や磁歪層16の厚みまたは成膜条件、あるいは付加的な機能膜の形成(たとえば表面保護膜の厚み)などにより制御することができる。
【0102】
これらのうち、振動部41の反りの変位Vを制御するためには、振動部41を構成する圧電体層14や磁歪層16の成膜条件を調整することが好ましい。こうすることによって、振動部41の固有周波数を変化させずに反りのみを制御することが容易に行える。その際に調整する成膜条件は、成膜時の真空度、ガス分圧、ガス組成、基板温度、成膜速度などである。
【0103】
付加的な機能膜としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、ポリイミド膜などの絶縁膜、あるいは導電性を有する保護膜などである。付加的な機能膜を形成することで、振動部41の反りの変位Vを抑制することができる。付加的な機能膜の厚みは、
図3Aに示す圧電体層14の厚みt14よりも小さいことが好ましく、厚みt14の1/5以下程度が好ましい。また、圧電体層14や磁歪層16の厚みまたは成膜条件は、振動部41の反りの変位Vが所定範囲以内となるように決定される。
【0104】
機能膜を成膜したのち、反応性ドライエッチングやイオンミリング等により機能膜をトリミング(膜の全面または一部を削って薄くすること)することにより反りを調整することができる。この場合、ウェハ全面に対して一括してトリミングを行っても良いし、個別の素子、あるいはウェハ内の領域ごとにトリミング条件を変えて行っても良い。
【0105】
なお、本実施形態では、
図4Aおよび
図4Bに示すように、支持部43の構成を変形させてもよい。たとえば、
図4Aに示すように、支持部43は、振動部41のY軸に沿った中央ではなく、片側によっていてもよい。また、
図4Bに示すように、支持部43は、X軸に沿って直線状ではなく、Y軸に折れ曲がっていてもよい。なお、これらの変形例において、支持部43の幅wは、振動部41と支持部43との交差する部分の長さのことをいう。
【0106】
また、
図4C~
図4Gに示すように、本実施形態では、振動部41の構成を変形させてもよい。たとえば、
図4Cに示すように、振動部41は、平行四辺形でもよく、
図4Dに示すように、振動部41は、円形でもよい。また、
図4Eに示すように、振動部41は、台形でもよい。また、
図4Fに示すように、振動部41は、楕円形でもよい。また、振動部41は、
図4Gに示すような四角形でもよく、その他多角形であってもよい。なお、振動部41の幅Lは、振動部41のY軸方向の最大の長さのことをいう。
【0107】
なお、
図4A~
図4Gにおいて、振動部41と支持部43を説明するために、絶縁層20、圧電体層14および取出電極18は省略してある。また、基板6の平面視形状は、特に限定されず、
図4Cに示す平行四辺形、
図4Dに示す円形、
図4Eに示す台形、
図4Fに示す楕円形、
図4Gに示すような四角形、およびその他多角形であってもよい。
【0108】
(磁気電気変換素子1の製造方法)
以下、
図1Aおよび
図2に示す磁気電気変換素子1の製造方法の一例について説明する。
【0109】
本実施形態の磁気電気変換素子1は、半導体製造プロセスで用いられるような微細加工技術を用いて製造することができる。まず、成膜用基板の上に下部電極層12と、圧電体層14と、上部電極層13と、磁歪層16とを、各種薄膜作製法により形成する。薄膜作製法としては、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CDV法、PLD法などが適用でき、特に好ましくは、スパッタリング法である。スパッタリング法で成膜することにより、各機能膜の間の密着力を高めることができる。その結果、膜の剥離などの不良の発生を抑えることができるとともに、磁歪層16の歪を効率的に圧電体層14に伝達することができるようになり、エネルギーの変換効率が向上する。
【0110】
各層12,13,14,16の成膜条件は、公知の条件を採用でき、特に制限されない。ただし、圧電体層14をエピタキシャル成長膜とする場合には、スパッタリングターゲットの組成、成膜用基板の温度、成膜速度、ガス組成、真空度、基板ターゲット間距離などを適正に制御する。また、圧電体層14がドメイン構造を有するためには、特に、スパッタリングターゲットの組成、成膜用基板の温度、もしくは、圧電体層14の上に積層する上部電極層13、磁歪層16の応力、などを制御すればよい。
【0111】
たとえば、スパッタリングターゲットの組成は、圧電材料の材質に応じて、複数のドメインや結晶相が形成されやすい組成を選択すると共に、蒸気圧の高い元素を、化学量論的組成の20~120%増しとすることが好ましい。PZTを例にとると、Pb/(Zr+Ti)で表される原子数比が、1.2~2.2であることが好ましく、Zr/(Zr+Ti)で表される原子数比が、1~1.5となるように制御することが好ましい。また、成膜用基板の温度については、550~650℃となるように制御することが好ましい。さらに、磁歪層16の応力は、圧縮応力とすることが好ましい。加えて、圧電体層14をエピタキシャル成長させた後で、酸化雰囲気下において、300℃~500℃の温度でアニール処理することも、上述したドメイン構造を得るために効果的である。
【0112】
なお、圧電体層14をエピタキシャル成長させる場合、成膜用基板としては、前述したように、単結晶のシリコン基板(ウェハ)を使用することが好ましい。また、下部電極層12も、シリコン基板上にエピタキシャル成長させて形成することが好ましい。下部電極層12をエピタキシャル成長させる方法については、公知の方法を採用すればよい。
【0113】
また、磁歪層16ついては、非晶質相と結晶相とを混在させる場合、スパッタリング時に、真空度、成膜用基板の温度、ガス組成、ガス圧力、パワー、ターゲットと成膜用基板との距離などの成膜条件を適切に制御する。たとえば、ガス圧力は、0.01~0.1Paとすることが好ましい。また、成膜用基板の温度は、20~200℃とすることが好ましく、ターゲットと成膜用基板との距離は、基板温度が成膜中に上昇しないように、100mm以上離すことが好ましい。
【0114】
上記のように機能膜を形成した成膜用基板については、フォトエッチングやレーザードライエッチングなどの各種エッチング法によりパターニング加工を施す。このパターニング加工では、成膜用基板の上に、
図1Aおよび
図2に示す積層パターンを形成する。
【0115】
たとえば、フォトエッチングによりパターニングする場合には、まず、スピンコート法などの各種コーティング法により、磁歪層16の上にフォトレジスト剤を塗布する。そして、塗布したフォトレジスト剤の上に所望のパターン形状を有するマスクをあてて、紫外線を照射し、磁歪層16を除去したい部分のみを露光させる(つまり、磁歪層16を残存させる部分をマスクする)。
【0116】
その後、フォトレジスト膜の現像と磁歪層16のエッチングを行い、露光した部分に対応するフォトレジスト膜と磁歪層16とを除去することで、
図1Aに示す磁歪層16の外周縁が形成される。なお、磁歪層16の上に残存しているフォトレジストは、酸素プラズマや所定の薬品などによる表面処理で取り除くことができる。また、磁歪層16の上に残存したフォトレジストは、取り除くことなく、保護層として利用してもよい。
【0117】
上記の手順により磁歪層16のパターンを形成した後、上部電極層13、圧電体層14および下部電極層12についても、上記と同様の方法によりパターニングする。なお、圧電体層14のパターニング時に使用するマスクは、磁歪層16のパターニング時に使用するマスクよりも、1パターン当たりの寸法が、大きくなるように調整することが好ましい。
【0118】
また、圧電体層14をエピタキシャル成長させた場合、素子本体4の延面方向(パターニング形状)を、圧電体層14の所定の結晶方位に合わせて制御することが好ましい。具体的に、上記のパターニング加工において、素子本体4の長手方向(X軸方向)または短手方向(Y軸方向)が、圧電体層16の<110>方向、および、単結晶シリコン基板の<110>方向に対して、略平行となるように、マスクの位置を調整する。
【0119】
上記のように、素子本体4の延面方向(パターニング形状)を制御することで、磁気電気変換素子1の耐久性を向上させることができる。また、圧電体層14の分極方向が膜厚方向に向きやすくなり、圧電体層14の圧電特性が向上する。なお、マスク位置は、単結晶シリコン基板に形成してあるオリエンテーションフラット(オリフラ)やノッチを基準として調整すればよい。つまり、成膜前の単結晶シリコン基板には、予め基板の結晶方位がわかるようにオリフラやノッチを形成しておく。また、本実施形態において、丸括弧は、ミラー指数(面)を表しており、三角括弧および角括弧は、結晶方位(方向)を表している。
【0120】
上記の手順でパターニング加工を施した後、取出電極18および絶縁層20を形成する。
【0121】
そして、成膜用基板の一部をエッチングにより除去して、
図1Aおよび
図2に示す開口部61を形成する。この場合、エッチング後に残存した部分が基板6となる。成膜用基板のエッチングは、Deep-RIE法などのドライエッチングや、異方性ウェットエッチングなどが適用できる。なお、成膜用基板は、上記のエッチングによりすべて除去してもよい。この場合、素子本体4は、成膜用基板を除去した後、別部材の基板6に貼り付けて固定すればよい。
【0122】
以上のような工程で、
図1Aおよび
図2に示す磁気電気変換素子1が得られる。なお、上記の製造工程では、エッチング法によりパターニングする方法を説明したが、各層のパターニング加工は、リフトオフ法により実施してもよい。
【0123】
リフトオフ法の場合、たとえば、磁歪層16を成膜する前に、磁歪層16の形成予定領域以外を覆うように、圧電体層14の上にレジスト膜を形成する。磁歪層16は、レジスト膜が形成された圧電体層14の上に強磁性体成分をスパッタし、その後、レジスト膜を剥離(リフトオフ)することで形成される。
【0124】
つまり、リフトオフ法の場合、リフトオフ後に、レジスト膜を形成しなかった場所に残存した強磁性体成分が、磁歪層16となる。また、磁歪層16の外周縁は、レジスト膜上に成膜された強磁性体成分が、リフトオフにより除去されることで、形成される。
【0125】
(磁気電気変換素子の使用形態)
本実施形態の磁気電気変換素子1は、微細加工技術で作製するMEMS素子(Micro Electro Mechanical Systems)の一種であり、従来の受信装置(電磁誘導用コイルや磁界共鳴用コイルなど)よりも遥かに小型化が容易である。本実施形態では、素子本体4の振動部41の幅Lと、支持部43の幅wと、振動部41の反りの変位Vを調節することで、磁気電気変換素子1は、小型であっても、高い変換効率で電力を発生させることができる。
【0126】
このような小型でかつエネルギー変換効率の高い磁気電気変換素子1は、電源装置に組み込んで電子機器の電力供給源として、好適に用いることができる。
(本実施形態のまとめ)
本実施形態に係る磁気電気変換素子1では、基板6が開口部61を有し、素子本体4が、弾性波振動子である振動部41と、基板6に面して接続してある固定部42と、固定部42と振動部41とを連結する支持部とを有している。そして、振動部41は、下部電極層12、上部電極層13、圧電体層14および磁歪層16と、積層してある。振動部41が、このような構成により磁気電気変換素子1のエネルギー変換効率がより向上する。
また、振動部41が、基板6の開口部61に対向して配置してある。磁気電気変換素子1が上記の構成を有することで、振動部41でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、磁気電気変換素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
【0127】
本実施形態では、素子本体4が、開口部61にX軸方向に沿って掛け渡してある。磁気電気変換素子1の構造を上記の構成とすることで、振動部4でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、磁気電気変換素子1のエネルギー変換効率がより向上する。
【0128】
また、素子本体4の基板6に繋がっている部分を除く外周縁は、開口部61の幅方向の内周縁とは互いに接触していない。そして、素子本体4の基板6に繋がっている部分を除く外周縁と、開口部61の幅方向の内周縁との間には、隙間46が存在する。上記構成を有することで、本発明の磁気電気変換素子では、エネルギー変換効率がさらに向上する。
【0129】
また、本実施形態において、支持部43の連結方向と直交する方向(Y軸方向)の幅wは、振動部41の幅Lよりも小さくしてある。このように支持部43の幅wを設定することで、支持部43の剛性をより低下させることができる。その結果、振動部41でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、磁気電気変換素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
【0130】
また、本実施形態において、連結方向と直交する方向における振動部41の幅wが、固有周波数f0と同じ周波数の電磁波EWの波長と比較して、1/100倍以下である。振動部41の大きさを上記の条件の範囲内とすることで、振動部41でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、磁気電気変換素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。なお、本実施形態において、振動部41の最大幅とは、基板6との連結方向における幅Hである。
【0131】
本実施形態の磁気電気変換素子1は、電源デバイスに組み込んで好適に用いることができる。たとえば、電子デバイスのアンテナとして磁気電気変換素子1を組み込めば、微弱な磁気を感知して電気として出力することができる。
【0132】
なお、本実施形態の磁気電気変換素子1は、磁気を電気に変換するのみではなく、電気を磁気に変換することもできる。すなわち、振動部41の圧電体層14に電圧をかけると、圧電体層14の圧電効果により圧電体層14に歪みが発生する。その歪みに応じて弾性振動が発生する。そして、この弾性振動が発生すると、磁歪効果によって磁歪層16が磁気を発生する。つまり、本実施形態の磁気電気変換素子1では、振動部41の弾性波振動により、電気エネルギーを電磁波または交流磁場に変換することができる。
【0133】
第2実施形態
本実施形態では、
図1Bに基づいて、磁気電気変換素子1の変形例について説明する。なお、上述した第1実施形態と共通の内容に関しては、説明を省略する。
【0134】
図1Bに示すように、本実施形態の素子本体4は、X軸方向の略中央に位置する振動部41と、X軸方向の両端に位置する2つの固定部42a,42bを有している。本実施形態では、第1実施形態とは異なり、素子本体4の振動部41は、支持部を介さず、固定部42a,42bにより基板6に固定されている。
【0135】
振動部41のX軸に平行な縁辺は、開口部61の内周縁とは接触していない。すなわち、Z軸方向からの平面視において、振動部41は、基板6の開口部61に配置してあり、振動部41の表面(上面)および裏面(下面)は、自由に振動可能な空間に露出しており、振動部41の幅方向(Y軸に沿った方向)の端縁も、開口部61内で自由に振動可能な空間に露出している。
【0136】
言い変えれば、振動部41のY軸方向の端縁と、開口部61の内周縁とは、互いに接触しておらず、これらの間には、隙間46が存在する。なお、第1実施形態とは異なり、本実施形態では、振動部41のX軸方向の両端が、支持部を介さず、基板6に固定されている。
【0137】
本実施形態の素子本体4には、積層してある各層に発生する残留応力の違いから、たとえば、
図3Bに示すような反りVが生じることがある。本実施形態でも、反りの変位Vは、
図3Bに示すように、振動部43において、最高点と最低点とのZ軸方向の最大変位差のことを指す。なお、
図3Bに示す素子本体4の反りは、一例にすぎず、素子本体4の反りは波状であってもよく、素子本体4のY軸に沿った両縁辺がZ軸方向上向きに反っていてもよく、あるいは、素子本体4のX軸方向の中央がZ軸方向下向きに沿っていてもよい。
【0138】
本実施形態では、
図5Bに示すように、振動部41の幅Lと、反りの変位Vとの関係が、2V/L<0.2を満足する場合、好ましくは2V/L<0.2を満足する場合に、出力を高めることができる。振動部41の幅Lは、好ましくは、30μm以上、10mm以下であり、さらに好ましくは50μm以上、100μm、200μm以上である。また、本実施形態では、反りの変位Vは、好ましくは、振動部41の幅Lの1/1000以上である。
【0139】
第3実施形態
本実施形態では、上述した実施形態に係る磁気電気変換素子1を発電素子して用いた場合について、詳細に説明する。なお、上述した第1または第2実施形態と共通の内容に関しては、説明を省略する。
【0140】
発電素子としての磁気電気変換素子1において、好ましくは、振動部41のQ値(単位なし)は、100以上であり、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。Q値とは、周波数特性におけるピークの鋭さを表す尺度である。
【0141】
ここで、
図6に基づいて、振動部41の周波数特性について説明しておく。
図6に示すグラフでは、横軸が、外部から供給される外部エネルギーの周波数であり、縦軸が、振動部41に発生する出力電圧である。前述したように、固有周波数f0では、出力電圧が最大(最大出力V0)となり、固有周波数f0がピークトップとなる。そして、高周波側において最大出力V0の1/√2倍の出力(V0×1/√2)が得られる周波数をf1として、低周波側において1/√2倍の出力となる周波数をf2とすると、Q値は以下の式で表される。
Q=f0/(f1-f2)
【0142】
ウェアラブル端末への応用が期待されている共振子では、幅の広い信号を受信できるように、Q値を低く設定することが一般的であった。これに対して、本実施形態の発電素子1では、振動部41のQ値を100以上と高く設定することで、より大きな振幅の弾性波振動を発生させることが可能となり、エネルギーの変換効率を向上させることができる。なお、振動部41のQ値は、高ければ高いほど好ましく、Q値の上限値は、特に限定されないが、たとえば、50000以下とすることができ、10000以下であることが好ましい。
【0143】
また、
図6に示す振動部41の周波数特性において、固有周波数f0から(1/100)×f0だけ高周波側にシフトした周波数をfaとし(すなわちfa=f0+(1/100)×f0)、固有周波数f0から(1/100)×f0だけ低周波側にシフトした周波数をfbとして(すなわちfb=f0-(1/100)×f0)、周波数faおよび周波数fbにおける出力をそれぞれVa,Vbとする。この場合、振動部41は、最大出力V0が、出力Vaまたは出力Vbに対して2倍以上となるように設計することが好ましい(すなわちV0>2Va,V0>2Vb)。振動部41が上記のような条件を満足する周波数特性を有することで、本実施形態の発電素子では、より大きな電力を得ることができ、エネルギーの変換効率がより向上する。
【0144】
また、本実施形態において、振動部41は、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)などではなく、バルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)で振動するバルク弾性波振動子であることが好ましい。表面弾性波の振動子では、物体表面に伝播する波(振動)を利用するが、バルク弾性波の振動子では、表面ではなく物体自体が振動することを利用する。本実施形態の発電素子では、振動部41をバルク弾性波振動子とすることで、より大きな電荷を発生させることができ、エネルギーの変換効率がより向上する。
【0145】
また、振動部41で発生する弾性波振動の振動姿態は、面外振動ではなく面内伸縮振動であることが好ましい。ここで、面外振動とは、振動子が、回転や屈曲などの体積変化を伴わない動態で振動することを意味する。面外振動する振動子の場合(特に屈曲振動する振動子の場合)、当該振動子の固有周波数f0は、100kHz以下の低周波となる傾向がある。一方、面内伸縮振動とは、振動子がX-Y平面もしくはZ軸を含む平面に沿って伸縮することで振動することを意味する。
【0146】
本実施形態では、X-Y平面に沿って伸縮する面内伸縮振動を、拡がり振動と称し、Z軸を含む平面に沿って伸縮する面内伸縮振動を、厚み縦振動と称する。面内伸縮振動する振動子では、固有周波数f0が面外振動の振動子よりも高周波帯となる傾向があり、拡がり振動と厚み縦振動とでは、厚み縦振動の固有周波数f0のほうが高周波帯となる傾向がある。
【0147】
本実施形態の発電素子では、振動部41を面内伸縮振動のバルク弾性波振動子とすることで、より大きな電荷を発生させることができ、エネルギーの変換効率がより向上する。
【0148】
なお、上述したような振動部41の固有周波数f0、Q値、周波数特性、および振動様態は、インピーダンスアナライザを用いて測定することができる。また、振動部41の振動様態は、機能膜(圧電体層14や磁歪層16など)の材質、機能膜の厚み、機能膜の結晶配向性、振動部41の形状、および、素子本体4における各部位の寸法(特に振動部41および支持部43の寸法)などに影響されて定まる。また、振動部41の固有周波数f0、Q値、および、周波数特性は、振動様態と同様に、素子本体4の各部位の構造、機能膜の構成、および、振動部41の振動姿態などに影響されて定まる。
【0149】
第4実施形態
第4実施形態では、振動部41が面内伸縮振動のバルク弾性波振動子である場合の発電素子について例示して説明する。なお、第4実施形態でも、上述した第1~第3実施形態と共通する内容に関しては、その説明を省略する。
【0150】
本実施形態では、発電素子としての素子1は、電源装置に組み込んで電子機器の電力供給源として、好適に用いることができる。ここで、素子1の適用例として、
図7に示す非接触給電システム300について簡単に説明する。
【0151】
図7に示すように、非接触給電システム300は、送信アンテナ250と、電子機器200と、当該電子機器200の内部に搭載された電源装置100と、を有している。送信アンテナ250は、電子機器200から離間した場所に設置してあり、電子機器200に対して、非接触で電磁波や交流磁場などの外部エネルギーEを供給している。なお、送信アンテナ250としては、たとえば、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、ループアンテナ、コイルアンテナ、レクテナなどを用いることができ、特に限定されない。
【0152】
一方、エネルギーの受信側である電源装置100は、素子1に、整流回路などが搭載されているパワーマネジメントIC(PMIC)110と、キャパシタ120と、を接続して一体化することで構成してある。送信アンテナ250から供給された外部エネルギーEを、電源装置100の素子1が受信すると、素子1の内部では、外部エネルギーEによって振動部41の弾性波振動が誘起され、この弾性波振動に伴い電力が発生する。
【0153】
なお、送信アンテナから供給する外部エネルギーEの周波数Fは、素子1の振動部41が有する固有周波数f0と、実質的に同一であることが好ましい。実質的に同一とは、以下の式で表される周波数Fと固有周波数f0のずれFGが1%以下であることを意味する。
FG=|F-f0|/f0×100(%)
【0154】
発電素子1で発生した電力は、PMIC110を介してキャパシタ120に送られ、キャパシタ120に蓄えられる。そして、電子機器200で電力を消費する場合は、キャパシタ120に蓄えていた電力が、PMIC110を介して電子機器200の各構成要素210に送られる。なお、
図7に示す構成要素210とは、たとえば、電子機器200が外耳装着式のカナル型イヤホンである場合、圧電式スピーカ、圧電式マイク、圧力センサ、増幅器を含む音響用IC、記憶装置などである。
【0155】
このように、非接触給電システム300では、送信アンテナ250から供給される電磁波または交流磁場を、電源装置100で受信し電気エネルギーに変換している。そして変換した電気エネルギーを用いて電子機器200を駆動させている。従来から知られているような、電磁誘導方式の給電システムでは、非接触給電が可能ではあるものの、受電側の電子機器を送電装置に近づけて静置しておく必要がある。
【0156】
一方、
図7に示す非接触給電システム300の場合、送信アンテナ250と電子機器200とが最大10m程度離れた場合であっても送受電が可能であり、また、電子機器200を静置していない状態であっても送受電が可能である。
【0157】
また、上記の非接触給電システム300は、様々な電子機器に適用でき、発電素子1を適用可能な電子機器200の種類は特に限定されない。前述したように、第2実施形態の発電素子1は、小型でかつ高効率であるため、小型な電子機器や体内に埋め込む電子機器などへの適用が特に有効である。このような電子機器としては、たとえば、イヤホンや補聴器などのヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、ウェアラブル体温計、ウェアラブル脈波センサなどの各種ウェアラブル端末の他、人体の内部に装着される人口内耳や心臓ペースメーカ、筋肉や脳などへの電気刺激機器、ニューロRFID、マイクロロボットなどが例示される。
【0158】
第5実施形態
本実施形態では、振動部41が面内伸縮振動のバルク弾性波振動子である場合の素子1について例示し、その詳細な構成を説明する。なお、本実施形態でも、上述した第1~第4実施形態と同様な内容に関しては、説明を省略する。
【0159】
まず、
図8に示す磁気電気変換素子の一種である発電素子1aは、複数の素子本体4を有するアレー素子である。発電素子1aの基板6aには、同一平面上に複数の開口部61が形成してあり、その複数の開口部61に、それぞれ素子本体4が形成してある。
【0160】
複数の素子本体4は、基板6aのX-Y平面において、X軸方向とY軸方向の両方向に沿って配列してある。より具体的に、
図8に示す発電素子1aでは、素子本体4が、X軸方向に沿って5列、Y軸方向に沿って8列並んでおり、合計40個の素子本体4が形成してある。
【0161】
ただし、素子本体4の個数および配列形式は、特に限定されない。1つの基板上に配列する素子本体4の個数は、たとえば、1~500個とすることができる。また、素子本体4を、1軸方向(X軸方向またはY軸方向)においてのみ配列し、1Dアレー型の配列形式としてもよい。
【0162】
図8では、複数の素子本体4が、配線80a,80bを介して並列に接続してある。このように、複数の素子本体4を並列で繋ぐことで、発電素子1aの出力電圧(V)を高くすることができる。なお、図示していないが、複数の素子本体4を直列で接続してもよい。直列に繋いだ場合は、発電素子1aの出力電流(A)を大きくすることができる。
【0163】
また、複数の素子本体4には、それぞれ、固有周波数f0を有する振動部41が形成してあるが、各振動部41の固有周波数f0は、すべて同程度の値であることが好ましい。具体的に、アレー素子を構成する各振動部41の固有周波数f0は、いずれも、fA±1.0%未満の範囲内であることが好ましい。
【0164】
上記において、fAは、各振動部41の固有周波数f0を母集団とした場合の平均値を意味する。このように各振動部41の固有周波数f0を揃えることで、発電素子1aの出力をより大きくすることができ、エネルギー変換効率をより向上させることができる。なお、各振動部41の固有周波数f0を揃えるためには、たとえば、各素子本体4の形状を揃えて、寸法誤差を小さくすればよい。
【0165】
ただし、各振動部41の固有周波数f0を揃えずに、互いに異なる固有周波数f0を有する複数の振動部41で発電素子1a(アレー素子)を構成してもよい。この場合、発電素子1aは、様々な周波数帯の外部エネルギーに応答することができる。たとえば、アレー素子において、固有周波数f0のばらつきの範囲が1MHz~3MHzであった場合、当該アレー素子は、1MHz~3MHzの外部エネルギーに呼応して電力を発生させることができる。なお、発電素子1aのようなアレー素子において、各振動部41の固有周波数f0をずらす場合は、たとえば、各振動部41の幅Wvyを調整すればよい。
【0166】
また、
図8では、1つの基板6aの上に複数の素子本体4を配列しているが、当該基板6aを複数枚組み合わせて、3Dアレー型の発電素子を構成してもよい。この場合、複数の基板6aの配列方向は、特に限定されず、X-Y平面上に配列してもよいし、Z軸方向に配列してもよい。3Dアレー型の発電素子の場合、それぞれの基板6a上に複数の素子本体4が形成してあるため、素子本体4の搭載個数が増えて、出力をより大きくすることができる。
【0167】
次に、
図9に示す発電素子1bについて説明する。
図9に示す発電素子1bでは、基板6bに平面視形状が円形の開口部61bが形成してある。そして、その基板6bの上には、素子本体4bが形成してあり、当該素子本体4bは、平面視形状が円形の振動部41bを有する。この発電素子1bにおいても、振動部41bは、開口部61bの上方に存在しており、振動部41bの上面および下面が非拘束面となっている。また、振動部41bの外周縁と開口部61bとの内周縁との間には隙間46が存在する。
【0168】
図9に示すような、円板状の振動部41bの場合、各機能膜(特に圧電体層14および磁歪層16)の結晶性などを最適化することで、厚み縦振動(面内伸縮)でのバルク弾性波振動を発生させることができる。換言すると、振動部41bが、厚み縦振動のバルク弾性波振動子となる。厚み縦振動のバルク弾性波振動子は、拡がり振動のバルク弾性波振動子よりも固有周波数f0が高くなる傾向となる。
【0169】
一方、
図10に示す発電素子1cでは、振動部41cがカンチレバー型の構造となっている。具体的に、発電素子1cの素子本体4cは、X軸方向の一端でのみ基板6cに固定してあり、素子本体4のX軸方向の他端(すなわち、振動部41cの先端)は、自由端となっている。また、発電素子1cの素子本体4cでは、支持部43cのY軸方向の幅が、振動部41cのY軸方向の幅と略同一となっている。
【0170】
このようなカンチレバー型の振動部41cの場合、屈曲振動(面外振動)でのバルク弾性波振動を発生させやすい。発電素子1cの振動部41cが屈曲振動となる場合は、発電素子1cが搭載してある容器内を、粘性の低いガスで充填することが好ましい。もしくは、当該容器内の真空度を高くする(容器の内圧を下げる)ことが好ましい。このように、素子周囲の雰囲気を制御することで、振動部41cにかかる空気抵抗を低減することができ、エネルギー変換効率を向上することができる。
【0171】
なお、弾性波振動子の振動姿態は、振動部の形状のみに依存して決まるわけではなく、その他、素子本体の厚み、支持部の形態、各機能膜の構成などの影響も受ける。そのため、
図10に示す振動部の形状であっても、面内伸縮振動のバルク弾性波振動を発生させることができる場合もある。同様に、
図1~3に示す振動部の形状および
図9に示す振動部の形状でも、面内伸縮振動の場合だけでなく、屈曲振動などの面外振動の振動姿態となる場合があり得る。
【0172】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、上記の実施形態では、振動部41において圧電体層14と磁歪層16とを積層していたが、圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える材料で機能膜を構成してもよい。このような圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える材料としては、たとえば、BiFeO3 や、Biの一部をLaなど他の元素で置き換えた(Bi,La)FeO3 などが例示される。
【0173】
また、上記の実施形態(特に第2実施形態)では、基板6として単結晶のシリコン基板を例示したが、基板6として
図11(a)に示すようなSOI基材8(Silicon on Insulator)を使用してもよい。SOI基材8は、表面がSi(100)面となるように配向した単結晶のSi層8αと、SiO2からなる絶縁層8βと、Siからなる基板6dとで構成してあり、単結晶のSi層8αが、絶縁層8βを介して基板6dの表面に積層してある。Si層8αの平均厚み、および、絶縁層8βの平均厚みは、特に限定されないが、たとえば、いずれも1μm~10μm程度とすることができる。また、SOI基材8における基板6dの平均厚みも、特に限定されないが、たとえば、100μm~700μm程度とすることができる。
【0174】
このSOI基材8を使用した場合、発電素子4の固定部42は、Si層8αおよび絶縁層8βを介して、基板6dの上に接続される。また、SOI基材8を用いて発電素子を製造した場合、
図11(b)に示すような構造の発電素子1dが得られることがある。なお、
図11(b)は、
図3と同様の箇所を示す断面図である。第2実施形態で説明したように、開口部61は、基板をエッチングして基板の一部を除去することで形成されるが、SOI基材8を使用した場合、エッチング後に、振動部41の下面側にSi層8αと絶縁層8βとが残存することがある。この場合、Si層8αおよび絶縁層8βは、振動部41の下面の全面に残存していてもよいし、当該下面の一部において部分的に残存していてもよい。
【0175】
ただし、
図11(b)に示すように、隙間46では、Si層8αおよび絶縁層8βも除去され、開口部61と対向する振動部41の下面および上面は、基板6dに拘束されていない非拘束面であることが好ましい。つまり、SOI基材8を使用する場合であっても、振動部41の外周縁と開口部61の内周縁とは、Z軸方向からの平面視において、互いに接触していないことが好ましい。なお、振動部41の下面にSi層8αおよび絶縁層8βが残存した場合であっても、振動部41の外周縁は、平面視における下部電極層12の外周縁を基準として、判別する。
【0176】
SOI基材8を使用した場合において、Si層8αおよび絶縁層8βが残存したとしても、これらの残存層の厚みは、数μm程度であり、振動部41の弾性波振動を阻害しない。そのため、
図11(b)に示す発電素子1dにおいても、振動部41は、面内伸縮で弾性波振動するバルク弾性波振動子となり、発電素子1dでは、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【実施例】
【0177】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0178】
実験1
実験1では、
図1Aに示す形状で、素子本体4の寸法(振動部41のY軸方向の幅L、支持部43のY軸方向の幅w)が、表1に示すように異なる磁気電気変換素子の試料1~23を作製し、その性能を比較した。
【0179】
(試料1~23)
まず、表面がSi(100)面である単結晶のシリコン基板を準備し、当該シリコン基板の上に、以下に示す各層をスパッタリング法により成膜した。シリコン基板の最表面には、ZrO2 からなる酸化物層(バッファ層)と、Ptからなる下部電極層12と、をエピタキシャル成長させた。なお、積層順は、シリコン基板→酸化物層→下部電極膜12の順番であり、酸化物層の平均厚みを50nm、下部電極層12の平均厚みを100nmとした。
【0180】
そして、下部電極層12の上に、PZTからなる圧電体層14をエピタキシャル成長させた。この際に使用したスパッタリングターゲットの組成は、原子数比で、Pb:Zr:Tiが、1.3:0.55:0.45であった。また、PZT膜を形成する際の基板温度は、600℃とし、成膜速度は、0.1nm/secとした。
【0181】
その他の条件については、スパッタリング時の導入ガスを、酸素10モル%-アルゴン(Ar)90モル%の混合ガスとし、導入ガスの圧力を、0.3Paとし、基板とターゲットの距離を200mmとした。また、成膜した圧電体層14の平均厚みは、1μmであった。
【0182】
なお、酸化物層から圧電体層14までの成膜時には、RHEED評価を行い、各層がエピタキシャル成長しているか否かを確認した。その結果、酸化物層から圧電体層14までの各層は、すべて、成膜過程においてエピタキシャル成長していることが確認できた。また、圧電体層14の成膜後に、XRDで結晶構造解析を行ったところ、圧電体層14には、菱面体晶のドメインと正方晶の2つのドメインとの計3つのドメインが含まれていることが確認できた。
【0183】
次に、圧電体層14を成膜した後、成膜後のシリコン基板に対して、アニール処理を施した。アニール処理の条件は、処理雰囲気を、1気圧の酸素雰囲気下とし、350℃で1時間保持することとした。
【0184】
アニール処理後、圧電体層14の上に、Ptからなる多結晶構造の上部電極層を、平均厚み100nmで形成した。そして、上部電極層の上に、以下に示す条件で、Fe-Co-Si-B合金からなる磁歪層16を成膜した。磁歪層16は、超高真空DCスパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製:C-7960UHV)を使用して成膜し、その際、成膜時の真空度を3×10-6Paとした。
【0185】
また、成膜時には、基板加熱は行わずに、基板温度が上昇しないように、ターゲットと基板間距離を十分に確保して成膜した。その他の成膜条件は、導入ガスとしてArガスを使用し、導入ガスの圧力を0.03Paとし、出力を200W(DC)とした。また、成膜した磁歪層16の平均厚みは、500nmであった。
【0186】
形成した磁歪層16の結晶構造を、XRDおよびTEMの電子線回折により確認した。その結果、当該磁歪層16には、非晶質相と結晶相とが混在していることが確認できた。なお、磁歪層16の上には、さらにPtからなる表面保護層を、10~30nmの厚みで形成した。
【0187】
シリコン基板に積層した各層に対して、フォトエッチング法によりパターニング加工を施し、
図1Aに示すような平面形状を有する素子本体4を形成した。その後、シリコン基板の一部をRIEエッチングにより除去し、開口部61を形成した。このようにして、試料1~23に係る磁気電気変換素子を得た。なお、いずれの試料でも振動部41のX軸方向の幅Hは200μmであり、隙間43の幅Wgは0.5μmであった。
【0188】
また、振動部の反りの変位Vは、3Dレーザー顕微鏡を用いて基板6の表面を基準面として、そこからの高さ変動の最大値を測定することで求めた。実験1では、表面保護層の厚みを変化させることで、反りの変位Vを変化するように制御した。表面保護層の厚みが厚くなるほど、反りの変位Vを小さく制御することができた。
【0189】
(出力電圧の測定)
作製した磁気電気変換素子試料の性能を評価するために、10cm離れた位置から磁場を供給し、試料の発電量(出力)を測定した。当該測定において、磁場は、コイルを用いて面内横方向縦振動(面内伸縮振動)の固有周波数の交流磁場とした。
【0190】
なお、作製した試料に係る磁気電気変換素子の固有周波数を、インピーダンスアナライザを用いて測定した。振動部のY軸方向の幅L=75μm、200μm、300μmの磁気電気変換素子の面内伸縮振動の固有周波数は、それぞれ20MHz、7.5MHz、5.0MHzであった。磁気電気変換素子に生じる交流電圧は、ロックインアンプを用いて測定した。各形状の磁気電気変換素子から発生する電圧を測定し、その最大値を1として規格化した測定データを表1に示す。
【0191】
図5Aは、表1に示す2V/(L-w)と、規格化出力との関係を示すグラフである。
図5Aに示すように、2V/(L-w)の値が、0.7を境に小さくなるにしたがって、好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.2未満、特に好ましくは0.001以上0.2以下の所定範囲内で顕著に規格化出力を上昇させることができることが確認できた。なお、規格化出力とは、観測された出力の最大値を1とした値であり、任意単位である。
【0192】
実験2
実験2では、
図1Bに示す形状で、素子本体4の寸法(振動部41のY軸方向の幅L)が異なる磁気電気変換素子の試料24~45を作製し、その性能を比較した。
【0193】
(試料24~45)
試料24~45は、
図1Bに示す形状で素子本体4の寸法(振動部41のY軸方向の幅L)が表2に示すよう異なる以外は、実験1の試料1~23と同様にして、作製した。
【0194】
(出力電圧の測定)
実験1の出力電圧の測定と同様にして、試料22~45の発電量(出力)を測定した。なお、振動部のY軸方向の幅50μm、100μm、200μmの磁気電気変換素子の面内伸縮振動の固有周波数は、それぞれ30MHz、15MHz、7.5MHzであった。各形状の磁気電気変換素子から発生する電圧を測定し、その最大値を1として規格化の測定データを表2に示す。
【0195】
図5Bは、表2に示す2V/Lと、規格化出力との関係を示すグラフである。
図5Bに示すように、2V/Lの値が、0.2を境に小さくなり、好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.001以上0.2以下の所定範囲内で顕著に規格化出力が上昇することが確認できた。
【0196】
【0197】
【符号の説明】
【0198】
1 … 磁気電気変換素子
4 … 素子本体
41 … 振動部
12 … 下部電極層
13 … 上部電極層
14 … 圧電体層
16 … 磁歪層
18,18a,18b … 取出電極
20 … 絶縁層
42,42a~42c … 固定部
43 … 支持部
44 … 接続部
6 … 基板
61 … 開口部
46 … 隙間