(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】振動試験装置及び振動試験装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G01M7/02 B
(21)【出願番号】P 2021070860
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 新士
(72)【発明者】
【氏名】田原 孝一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】青木 祐也
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-237634(JP,A)
【文献】特開2011-027669(JP,A)
【文献】特開2021-43004(JP,A)
【文献】金子修,データ駆動型制御器チューニング -FRITアプローチ-,計測と制御,第52巻第10号,2013年10月,853~859頁
【文献】石原新士、田原孝一、弘中浩二,データ駆動制御を用いた振動試験装置のフィードフォワード制御調整,第62回自動制御連合講演会,2019年11月,1~6頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 5/00- 7/08
G05B 1/00- 7/04
G05B 11/00-13/04
G05B 17/00-17/02
G05B 21/00-21/02
G05D 3/00- 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するための試験装置駆動部と、前記試験装置駆動部の変位を検出する駆動部変位検
出部と、前記供試体の変位を検出する供試体変位検出部と、前記試験装置駆動部の変位量が特定の目標変位に追従するように制御を行うコントローラと、オペレータの操作を受け付けるユーザインタフェースを備えた振動試験装置であって、
オペレータが設定した試験パターンを再生する第1目標信号設定部と、
前記第1目標信号設定部の出力を目標値として試験装置を駆動したときに、前記供試体変位検出部で検出した供試体の変位を記憶する加振データ記憶部と、
前記加振データ記憶部に格納された供試体の変位と前記第1目標信号設定部に設定されている第1目標信号に基づいて、前記第1目標信号を修正して第2目標信号を算出するフィルタのパラメータを設計するフィルタ調整部と、
前記フィルタ調整部で調整されたフィルタを用いて第1目標信号設定部の目標信号を整形する第2目標信号設定部と、
前記コントローラで追従制御を行う目標値を、前記第1目標信号設定部の出力と第2目標信号設定部の出力とで切替える目標信号切替部と、
目標信号変換器と、を備え、
前記目標信号変換器は、前記加振データ記憶部と、前記フィルタ調整部と、前記第2目標信号設定部と、前記目標信号切替部と、を有し、
前記目標信号切替部は、前記第1目標信号設定部の目標値で試験装置を駆動した後に、前記コントローラが追従制御を行う目標値を前記第2目標信号設定部の出力に切り替えることを特徴とする振動試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動試験装置において、
前記コントローラ
は、
前記加振データ記憶部と、前記フィルタ調整部と、前記第2目標信号設定部と、前記目標信号切替部と、を備え、
前記目標信号切替部の出力を目標変位としてフィードバック制御を行うフィードバック制御部を有することを特徴とする振動試験装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の振動試験装置において、
前記
ユーザインタフェースは、
前記第1目標信号設定部と、前記加振データ記憶部と、前記フィルタ調整部と、前記第2目標信号設定部と、前記目標信号切替部を備え、
前記目標信号切替部の出力を
コントローラに送信することを特徴とする振動試験装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の振動試験装置において、
前記
加振データ記憶部に格納された供試体の変位と前記フィルタ調整部で調整されたフィルタを用いて、フィルタ適用時に実現される供試体変位の応答を予測する供試体変位予測部を備え、前記供試体変位予測部の予測結果をユーザインタフェースに提示することを特徴とする振動試験装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の振動試験装置において、
前記
フィルタ調整部は、予め設定された参照モデルに対して、前記第1目標信号設定部で定めた第1目標信号を入力として与えたときに出力として得られる理想応答と、調整パラメータを有するフィルタに対して、前記加振データ記憶部に格納された供試体の変位を入力として与えたときに出力として得られる供試体応答予測値に対して、理想応答と供試体応答予測値の最小二乗誤差が最小化されるようにフィルタの調整パラメータを選定することを特徴とする振動試験装置。
【請求項6】
請求項
1に記載の振動試験装置において、
前記
コントローラで追従制御を行う目標値を、前記第1目標信号設定部の第1目標信号を所定の正値でスケーリングした修正第1目標信号を目標値と第2目標信号設定部の出力で切替える目標信号切替部を有することを特徴とする振動試験装置。
【請求項7】
評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するための試験装置駆動部と、前記試験装置駆動部の変位を検出する駆動部変位検部と、前記供試体の変位を検出する供試体変位検出部と、前記試験装置駆動部の変位量が特定の目標変位に追従するように制御を行うコントローラと、オペレータの操作を受け付けるユーザインタフェースを備えた振動試験装置の制御方法であって、
オペレータが設定した試験パターンを再生する第1目標信号設定部の出力を目標値として試験装置を駆動したときに、前記供試体変位検出部で検出した供試体の変位を加振データ記憶部に記憶し、
前記加振データ記憶部に格納された供試体の変位と前記第1目標信号設定部に設定されている第1目標信号に基づいて、フィルタ調整部が前記第1目標信号を修正して第2目標信号を算出するフィルタのパラメータを設計し、
前記フィルタ調整部で調整されたフィルタを用いて第1目標信号設定部の目標信号を整形し、第2目標信号として設定し、
目標信号切替部が、前記第1目標信号設定部の目標値で試験装置を駆動した後に、前記コントローラが追従制御を行う目標値を前記第2目標信号に切り替えることを特徴とする振動試験装置
の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象を加振して評価する振動試験装置及び振動試験装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の耐震性能を評価するために、構造物の特性を模擬したモデル(以下、供試体と称する)を加振して評価する試験装置が知られている。これらの試験装置には、地震波形など、変位や加速度の応答が早い試験パターンを再現する必要があるため、応答性や駆動力に優れる油圧アクチュエータが利用されることが多い。
【0003】
このような振動試験装置は、ユーザが定めた所定の試験パターン(加速度指令や変位指令)に従って、油圧アクチュエータを駆動することによって、供試体の評価試験を実施する。
振動試験装置には、油圧アクチュエータの位置,速度,及び加速度を取得するセンサが取り付けられているため、これらの信号を利用してフィードバック制御を行うことで、所望の試験波形を再現する。
【0004】
しかしながら、上記の構成では、油圧アクチュエータの変位或いは油圧アクチュエータの速度を試験パターンに追従させることができるものの、必ずしも、供試体の変位,速度,及び加速度を試験パターンに追従させることができるとは限らない。このため、供試体の特定箇所に生じる変位,速度,及び加速度のパターンを再現したいというユーザ(若しくは、オペレータ)の要求に応えることが容易ではない。
【0005】
さらに、油圧アクチュエータを利用する関係上、油圧の特性の変化や駆動部の摩擦などの変動要素を有するために、適切な制御設計がなされていないと、油圧アクチュータの変位或いは油圧アクチュータの速度も所望のパターンで駆動することは困難である。
【0006】
このような課題に対して、特許文献1では、供試体(被試験体)に変位センサ及び加速度センサを取り付け、その信号をサーボ制御装置に取り込み、このセンサ情報を利用して試験条件(加振パターン)を変更することで、供試体の変位や加速度を制御する振動試験装置が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】金子修,中村岳男,池崎太一,:二自由度制御系におけるフィードフォワード制御器更新の新しいアプローチ―Estimated Response Iterative Tuning (ERIT)の提案―,計測自動制御学会論文集,2018,54巻,12号,p.857-864
【文献】石原,田原,弘中:データ駆動制御を用いた振動試験装置のフィードフォワード制御調整,第62回自動制御連合講演会,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される試験装置は、供試体の特定箇所の変位や加速度が取得できる構成になっているため、これらの信号を利用して適切な制御を実行すれば、試験装置のユーザ又はオペレータが望む試験パターンを再現し得る構成になっている。
具体的には、特許文献1では、供試体の振動特性を取得するための試験を行い、この試験において指令した変位量(若しくは加速度量)に対して、実際に供試体に取り付けられたセンサから取得した変位量を記憶する。この特性把握用の加振で得られた波形の周波数と変位量をデータベースとして保管し、供試体が最大変位量を超えるまで加振指令値を増幅する特性把握試験を繰り返し行うことで、実際に試験を行いたい周波数領域をカバーするように、供試体を最大変位で加振できる補正量を決定する。この補正量を利用して、試験パターンを補正することで所望の変位で供試体を加振することができるようになる。
【0010】
上記の手法を利用すれば、実際の供試体の変位が、試験装置のユーザが所望する変位に調整することが可能である。よって、供試体に与える力やエネルギなどを評価する試験には有効な手法である。
しかしながら、特許文献1に開示される手法は、振幅(ゲイン)のみを変更しており、位相の補償は実施されないため、動的に試験パターンを変更する場合は十分な性能を提供できない場合が生じ得る。
【0011】
なお、ゲインと位相を同時に補償する一般的な手法として、制御対象(供試体を含む試験装置)を様々な周波数成分を含む試験パターン(チャープ信号やランダム信号)で加振して制御対象の伝達関数を求め、その逆特性である逆伝達関数を利用して指令値を算出する方法が知られている。
【0012】
しかしながら、振動試験装置のダイナミクス(運動方程式)はn階の微分方程式で記述される。すなわち、振動試験装置の伝達関数は分母の次数(n)が分子の次数よりも大きい、厳密にプロパな伝達関数になる。このため、その逆特性は分子の次数のほうが分母の次数よりも高い非プロパ(インプロパ)な伝達関数になる。
換言すれば、非プロパな伝達関数は微分要素を含むことになる。微分は現時刻(t=k)と1ステップ先の時刻(t=k+1)の傾きを示すものである。すなわち、時刻t=kの微分を計算するには未来(t=k+1)の情報が必要になり、因果性が成立しない。このため、微分要素を計算機(コントローラ)に実装することは容易ではない。
以上のような理由により、伝達関数の逆特性を利用した補償器が振動試験装置において利用できるとは限らない。
【0013】
そこで、本発明は、制御対象の逆伝達特性を求めることなく、できるだけ簡易な方法で、所望の供試体応答の実現、すなわち、変位の量(ゲイン)と位相の調整を可能にする振動試験装置及び振動試験装置の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る振動試験装置は、評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するための試験装置駆動部と、前記試験装置駆動部の変位を検出する駆動部変位検部と、前記供試体の変位を検出する供試体変位検出部と、前記試験装置駆動部の変位量が特定の目標変位に追従するように制御を行うコントローラと、オペレータの操作を受け付けるユーザインタフェースを備えた振動試験装置であって、オペレータが設定した試験パターンを再生する第1目標信号設定部と、前記第1目標信号設定部の出力を目標値として試験装置を駆動したときに、前記供試体変位検出部で検出した供試体の変位を記憶する加振データ記憶部と、前記加振データ記憶部に格納された供試体の変位と前記第1目標信号設定部に設定されている第1目標信号に基づいて、前記第1目標信号を修正して第2目標信号を算出するフィルタのパラメータを設計するフィルタ調整部と、前記フィルタ調整部で調整されたフィルタを用いて第1目標信号設定部の目標信号を整形する第2目標信号設定部と、前記コントローラで追従制御を行う目標値を、前記第1目標信号設定部の出力と第2目標信号設定部の出力とで切替える目標信号切替部と、目標信号変換器と、を備え、前記目標信号変換器は、前記加振データ記憶部と、前記フィルタ調整部と、前記第2目標信号設定部と、前記目標信号切替部と、を有し、前記目標信号切替部は、前記第1目標信号設定部の目標値で試験装置を駆動した後に、前記コントローラが追従制御を行う目標値を前記第2目標信号設定部の出力に切り替えることを特徴とする。
また、本発明に係る振動試験装置の制御方法は、評価対象である供試体を配置する供試体設置部と、前記供試体設置部を加振するための試験装置駆動部と、前記試験装置駆動部の変位を検出する駆動部変位検部と、前記供試体の変位を検出する供試体変位検出部と、前記試験装置駆動部の変位量が特定の目標変位に追従するように制御を行うコントローラと、オペレータの操作を受け付けるユーザインタフェースを備えた振動試験装置の制御方法であって、オペレータが設定した試験パターンを再生する第1目標信号設定部の出力を目標値として試験装置を駆動したときに、前記供試体変位検出部で検出した供試体の変位を加振データ記憶部に記憶し、前記加振データ記憶部に格納された供試体の変位と前記第1目標信号設定部に設定されている第1目標信号に基づいて、フィルタ調整部が前記第1目標信号を修正して第2 目標信号を算出するフィルタのパラメータを設計し、前記フィルタ調整部で調整されたフィルタを用いて第1目標信号設定部の目標信号を整形し、第2目標信号として設定し、目標信号切替部が、前記第1目標信号設定部の目標値で試験装置を駆動した後に、前記コントローラが追従制御を行う目標値を前記第2目標信号に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、制御対象の逆伝達特性を求めることなく、できるだけ簡易な方法で、所望の供試体応答の実現、すなわち、変位の量(ゲイン)と位相の調整を可能にする振動試験装置及び振動試験装置の制御方法を提供することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図である。
【
図2】
図1に示す油圧ピストンの動作と変位センサ及び圧力センサとの関係を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る実施例1の振動試験装置の機能ブロック図である。
【
図5A】第1目標信号rの修正を行わない場合に得られた波形の一例を示す図である。
【
図5B】特許文献1に開示される方法を適用した場合に得られる波形を示す図である。
【
図5C】
図5Bの波形におけるユーザが望む波形zmと実際の波形zの差の積分値を表す図である。
【
図5D】各時刻での理想応答zmと実際の供試体の応答zの差が小さくなる状態を示す図である。
【
図5E】フィルタ調整部で次数を上げる前の状態を示す図である。
【
図6】振動試験装置の制御方法に係るフローチャートである。
【
図7】本発明の他の実施例に係る実施例2の振動試験装置の機能ブロック図である。
【
図8】
図7に示す実施例2の振動試験装置の変形例を示す図である。
【
図9】本発明の他の実施例に係る実施例3の目標信号切替部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る油圧駆動式振動試験装置を模式的に示す概観図である。なお、本明細書では、説明の簡略化のため、1軸の油圧駆動式振動試験装置を例示して説明するが、本発明は1軸の油圧駆動式振動試験装置に限定されるものではない。また、
図1では、点線は信号線を示し、実線は配管を示している。
【0018】
図1に示すように、ユーザインタフェース1は、試験装置のユーザ若しくはオペレータが各種試験パターンを設定するために利用される。オペレータはユーザインタフェース1を介して、目的とする加振波形を設定する。
ユーザインタフェース1は目標信号を生成する装置であるため、専用の端末に限らず、操作端末とシグナルジェネレータの組合せなど複数機器で構成されていても良い。なお、操作端末は、通常のパソコン(PC)やタブレットPCであっても良い。
【0019】
なお、ユーザインタフェース1で設定する加振波形の次元は変位,速度,及び加速度のうち何れでも良い。オペレータは、過去に実際に起きた地震波形の再現や、特定の挙動を励起するように任意のパターンで加振波形を設計する。
試験用の目標信号を生成するユーザインタフェース1(シグナルジェネレータやPC)が、本発明における目標信号生成装置に相当する。
【0020】
コントローラ2は、ユーザインタフェース1で設定された目標通りに油圧駆動式振動試験装置を動かすための各種制御演算を実行する。コントローラ2は、ユーザインタフェース1で設定した目標加振波形と後述する各種センサS01~S06の値を取得して、サーボアンプ3の操作量の演算を行う。なお、コントローラ2の詳細な構成は後述する。
【0021】
サーボアンプ3は、コントローラ2から出力された指令(電圧)を、サーボバルブ4を駆動するために電流値へと変換する。
サーボバルブ4は、サーボアンプ3から受け取った電流値に従って、弁の開閉を行うことで、油圧源5から油圧シリンダ6に流れる圧油を調整する。サーボバルブ4と油圧源5の間に圧油の温度を検出する温度センサS01が備えられる。
【0022】
サーボバルブ4を経て油圧シリンダ6に供給された圧油は、油圧ピストン7を駆動する。このとき、サーボバルブ4の
図1中の左右どちらのポートから圧油が供給されるかによって、油圧ピストン7の駆動方向が変更される。サーボバルブ4から吐出された圧油は流量センサS02a,S02bによって検出可能である。油圧ピストン7の駆動方向に応じて、圧油の流れる経路が変わるため、駆動方向によって使用する流量センサを適宜変更しても良い。
【0023】
油圧ピストン7は、カップリング8を介してテーブル9に力を加えることで、テーブル9を振動させる。油圧ピストン7には、速度センサS03及び変位センサS04が備え付けられている。なお、必ずしも、速度センサS03及び変位センサS04を両方とも備える必要はない。例えば、変位センサS04のみが備えられている場合には、検出値の差分を速度として近似利用すれば良い。また、速度センサS03のみが備えられている場合には、積分値を変位量としても良い。さらにまた、速度センサS03や変位センサS04の替わりに、若しくは、追加して加速度センサを備えても良い。これら油圧ピストン7の変位を検出するためのセンサが、後述する本発明のアクチュエータ変位検出部に相当する。
【0024】
図2は、
図1に示す油圧ピストンの動作と変位センサ及び圧力センサとの関係を示す図である。
図2に示すように、変位センサS04は、油圧ピストン7からテーブル9に向かう軸にx軸をとり、油圧ピストン7の可動域を2a[m]としたときに、油圧ピストン7が最も縮小した状態に変位量x=-a[m],油圧ピストン7が最も延長した場合にx=+a[m]を出力するようにすることが望ましい。速度センサS03の速度の正負も上記のx軸に従う。
油圧シリンダ6には、油圧ピストン7の前後圧を検出するための圧力センサS05a,S05bが備えられている。これらのセンサを区別する必要がある場合は、x軸の負側の圧力センサS05aを後方圧力センサ、x軸の正側の圧力センサS05bを前方圧力センサと呼ぶ。
【0025】
上述のサーボアンプ3、サーボバルブ4、油圧源5、油圧シリンダ6、及び油圧ピストン7にて、後述する本発明における試験装置駆動部が構成される。
【0026】
テーブル9に、試験対象になる構造物(供試体10)を備え付け、ユーザインタフェース1で設定した加振波形に従って、供試体10を加振することで、各種評価を行う。テーブル9は本発明における供試体設置部に相当する。
【0027】
供試体10には加速度センサS06が備え付けられている。加速度センサS06で取得した供試体加速度を積分することで供試体速度を取得することができ、この供試体速度をもう一度積分することで供試体変位を取得することができる。このため、加速度センサS06は本発明の供試体変位検出部に相当する。
【0028】
本実施形態では、供試体10への取付けが容易な、加速度センサS06を利用した例を図示したが、これに限られるものではない。例えば、試験装置とは独立(離間)した場所に設置されたレーザー変位計を利用して供試体10の変位量を取得し、この値を後述の供試体変位検出部としても良い。
【0029】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。なお、以下では、説明を簡単にするため、全て加振波形が変位の次元で与えられる変位制御を前提とするが、速度制御或いは加速度制御であっても、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
【実施例1】
【0030】
図3は、本発明の一実施例に係る実施例1の振動試験装置の機能ブロック図である。なお、
図3では、理解を容易にするため便宜上、上述の
図1に示した一部の構成要素を省略している。
【0031】
図3に示すように、ユーザインタフェース1は、ユーザ操作部1a、第1目標信号設定部1b、及びモニタ表示部1dから構成される。ユーザ操作部1aは、オペレータが各種入力を行う操作端末に相当する。第1目標信号設定部1bは、試験パターンを生成するシグナルジェネレータに相当する。また、モニタ表示部1dは、操作端末(PC,タブレット)のモニタ(画面)に相当する。
【0032】
コントローラ2は、フィルタ設計部2a及びフィードバック制御部2b(
図3中FB制御部)から構成される。
フィードバック制御部2bは、
図1におけるサーボアンプ3、サーボバルブ4、油圧源5、油圧シリンダ6、及び油圧ピストン7から構成される試験装置駆動部の挙動が安定になるように自身の動きをアクチュエータ変位検出部(
図1における変位センサS04に相当)の出力結果に基づいてフィードバック制御を行う。フィードバック制御にはPID制御などが利用される。
【0033】
フィルタ設計部2aは、加振データ記憶部2a1、フィルタ調整部2a2、第2目標信号設定部2a3、及び目標信号切替部2a4の4つの機能ブロックから構成される。加振データ記憶部2a1、フィルタ調整部2a2、第2目標信号設定部2a3、及び目標信号切替部2a4は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算過程のデータを一時的に格納するRAM、外部記憶装置などの記憶装置にて実現されると共に、CPUなどのプロセッサがROMに格納された各種プログラムを読み出し実行し、実行結果である演算結果をRAM又は外部記憶装置に格納する。
フィルタ設計部2aは、最低でも一度試験装置を駆動(試加振)した後に有効になる機能である。このため、試験装置が一度も駆動されていない状態では、目標信号切替部2a4において、フィードバック制御部2bに送信する目標値は、第1目標信号設定部1bで設定された第1目標信号になる。
【0034】
加振データ記憶部2a1は、供試体10に取り付けられた供試体変位検出部(
図1における加速度センサS06の検出結果を2階積分した値に相当)で取得したデータを記録する。同時に、第1目標信号設定部1bで設定した第1目標信号を記憶する構成としても良い。ただし、第1目標信号は、第1目標信号設定部1bに記録されているデータであるため、必ずしも、加振データ記憶部2a1に記憶する必要はない。
【0035】
フィルタ調整部2a2は、加振データ記憶部2a1に記憶された試験データ(供試体変位)及び第1目標信号に基づいて、第1目標信号を修正し、詳細後述する第2目標信号を生成するフィルタの設計を行う。
【0036】
ここで、フィルタ調整部2a2において、設計するフィルタについて
図4A及び
図4Bを用いて説明する。
図4A及び
図4Bは、制御ループの伝達関数を示す図である。
図4A及び
図4Bにおいて、フィードバック制御部2bの伝達関数をC,試験装置(サーボ指令からテーブル変位まで)の伝達関数をP,供試体(テーブル変位から供試体変位まで)の伝達関数をGとする。また、目標信号をr,試験装置の変位をy,供試体の変位をzとする。
【0037】
まず、
図4Aにて、第1目標信号rを利用して振動試験装置を駆動したときに得られる供試体の変位zは伝達関数表現において、以下の式(1)のように表現できる。
【0038】
【0039】
一方、試験装置のユーザが望む、第1目標信号rから供試体の変位zへの理想的な伝達関数(参照モデル)がMで与えられるとする。このとき、ユーザが理想とする供試体の変位zmは以下の式(2)で表現できる。すなわち、以下の式(3)を満たすようにフィードバック制御Cを設計できればユーザが望む供試体の変位の応答を実現できる。
【0040】
【0041】
【0042】
式(3)をフィードバック制御Cについて解くと、以下の式(4)を得る。
【0043】
【0044】
式(4)を実現するには、試験装置(サーボ指令からテーブル変位まで)の伝達関数P,供試体(テーブル変位から供試体変位まで)の伝達関数Gを正確に得る必要がある。また、式(4)の分母部分を見ると試験装置の伝達関数Pが含まれており、逆伝達関数P-1を利用する形になっている。上述の通り、供試体の伝達関数Gと試験装置の伝達関数Pは厳密にプロパな伝達関数(分母の次数が分子の次数よりも大きい)であるので、式(4)に従ってフィードバック制御Cを計算機に実装することは容易ではない。
【0045】
このため、本実施例では、フィードバック制御Cを調整するのではなく、
図4Bのようにプレフィルタ型のフィードフォワード補償器としてフィルタFを追加する構成を考える。
【0046】
この構成において、第1目標信号rから供試体の変位zへの理想的な伝達関数は以下の式(5)で与えることができる。
【0047】
【0048】
説明の都合上、フィルタFがない(すなわち、フィルタの伝達関数Fが1に相当する)場合の供試体の変位をz1,フィルタFがある場合の供試体の変位をz2とする。このとき、式(1)及び式(5)より、式(6)を得る。
【0049】
【0050】
式(6)より、フィルタFがない場合の供試体の変位データz1があれば、任意のフィルタFを設計した場合の応答z2を予測できる。これは非特許文献1のデータ駆動予測の考え方に従ったものである。
【0051】
式(6)で算出可能な任意のフィルタFを設計した場合の予測応答z2が理想的な応答zmに出来るだけ近づけることを意図し、例えば、以下の式(7)で与えられる評価関数Jを最少化するようにフィルタFを設計する。
【0052】
【0053】
なお、式(7)の評価関数は、予測応答z2と理想応答zmの誤差の二乗和を最小にする(最小二乗誤差を実現する)ために設計された一例であり、本実施例はこの評価関数を最少化するフィルタFの導出に限定されるものではない。
【0054】
具体的なフィルタの設計に当たっては、フィルタの伝達関数Fを以下の式(8)で与え、合計2m+1個の係数ρ0~ρ2mを数値計算によって算出する。
【0055】
【0056】
式(8)はどのような係数ρ0~ρ2mに対しても、分母の次数よりも分子の次数が大きくなることはないプロパな伝達関数であるため、計算機に容易に実装できる。ここで、伝達関数F(ρ)が安定なフィルタになるように、伝達関数の極(式(8)の分母部分の解)の実部が全て負になるように拘束条件を課すことが望ましい。このような拘束条件を課すことで、フィルタの伝達関数F(ρ)をコントローラに実装した際に、演算値が発散する現象を防止できる。
なお、式(8)の伝達関数の次数mが大きいほど実現可能なフィルタの幅は広がる。しかし、求めるべきパラメータ数が増加すると、計算時間が非常に長くなる可能性がある。このため、伝達関数の次数mもユーザインタフェース1から変更できるようにし、ユーザが望む実験の再現精度に応じて調整できるようにすることが望ましい。
【0057】
以上の演算を行うことで、式(7)の評価関数を最少化するようなフィルタFが導出される。このフィルタFを用いれば、以下の式(9)を利用することで目標信号の修正が実現できる。
【0058】
【0059】
式(9)のrが元の目標信号(第1目標信号)であり、r’が修正後の目標信号(第2目標信号)である。
【0060】
上述の目標信号修正アルゴリズムによって実現される応答の様子を
図5A~
図5Eに従って説明する。
図5A~
図5Eにおいて、実線はユーザが望む応答zmであり、点線はフィードバック制御で実現される供試体10の実際の応答zを示している。
【0061】
図5Aは、第1目標信号rの修正を行わない場合に得られた波形の一例を示す図である。
図5Bは、特許文献1に開示される方法を適用した場合に得られる波形を示す図である。特許文献1に開示される手法では、最大変位が一致するように目標信号が補正されるものの、位相の改善は行われない。このため、
図5Bに示すように、振幅は一致しているが位相が一致しない波形になる。
【0062】
図5Bの波形の場合、位相が一致していないため、各時刻で理想応答zm(式(2)より式(7)のMrに相当)と実際の供試体の応答z(式(6)より式(7)のFz1に相当)の差が大きい。式(7)の評価関数Jはユーザが望む波形zmと実際の波形zの差の積分値(
図5Cのハッチング箇所の面積)に相当するため、その値は大きくなる。
よって、評価関数Jを最少化するようにフィルタFの設計を設計した場合、
図5Bのような応答にはなりにくい。評価関数Jが小さくなるには各時刻での理想応答zmと実際の供試体の応答zの差が小さくなる
図5Dの応答が実現されるように目標信号が修正される必要がある。
【0063】
なお、フィルタの次数mが低い場合は、
図5Dのように望みの応答を高精度に再現することは難しい。そのような場合、
図5Eのように望みの応答からやや離れた応答になることが予測される。
図5Eの評価関数Jの値は
図5A及び
図5Bよりも小さくなるが、J=0(
図5D相当)になることはない。このような結果が得られた場合、オペレータはフィルタFの次数mを上げることで、実現される応答を調整することができる。
以上のような仕組みによって、振幅(ゲイン)と位相を同時に所望の応答に調整できることが、本実施例の特徴である。
なお、式(8)において係数ρi(i=0~2m)が全て1の場合、フィルタFは1になるので、
図4Aと
図4Bの供試体の変位zは同じである。すなわち、試験装置を最初に駆動する場合(試加振)であっても、フィルタFが回路内に組み込まれていても良い。つまり、
図4Bの制御回路を利用できる。
【0064】
第2目標信号設定部2a3は、フィルタ調整部2a2で算出した係数ρを反映したフィルタF(ρ)を利用して、第2目標信号r’を算出する。上述の通り、第2目標信号r’は式(9)に従って生成される。
設計したフィルタF(ρ)を適用したときに、実現される供試体の変位応答z2は式(6)によって、試験装置を再度駆動する前に予測できる。
この予測結果(供試体の変位の予測値z2)をモニタ表示部1dに送信し、モニタ表示部1dは予測結果を操作端末のモニタ上に描画(表示)する。オペレータが表示された予測値z2が所望の試験パターンに十分に近いと判断したら、ユーザ操作部1aからフィルタF(ρ)の反映を行う。この操作と連動して、目標信号切替部2a4で利用する目標信号を第2目標信号r’へと切り替える。
【0065】
なお、モニタ表示部1dにおける予測値の表示方法は、
図5D及び
図5Eのような具体的な波形の比較でも良いし、波形の一致度合いを表す指標(例えば、平均二乗誤差や各時刻の誤差の最大値など)を算出して、その値を表示する構成としても良い。
【0066】
次に、本実施例の試験装置の駆動方法について説明する。
図6は、振動試験装置の制御方法に係るフローチャートである。
まず、振動試験装置の立ち上げ準備として、ステップS11にて、オペレータが各種設定を行う。これはオペレータがユーザインタフェース1を構成するユーザ操作部1aを操作して、試験パターンを設定する操作に相当し、この操作を行うことで、第1目標信号設定部1bに試験パターン(第1目標信号)が設定される。換言すれば、ユーザインタフェース1を構成するユーザ操作部1aが、オペレータによる試験パターン設定の操作を受け付け、第1目標信号設定部1bに試験パターン(第1目標信号)を出力することにより第1目標信号設定部1bに第1目標信号が設定される(初期設定)。
また、コントローラ2では、オペレータが第1目標信号設定部1bに試験パターン(第1目標信号)を設定したタイミングで、フィルタ設計部2aを構成するフィルタ調整部2a2のフィルタF(式(8)の各係数ρi(i=0~2m)を全て1に設定する。また、フィルタFの次数mを初期値(例えば、m=3)のように設定する。このステップS11の処理がすべて完了するとステップS12に遷移する。
【0067】
ステップS12では、第1目標信号設定部1bに設定された試験パターン(第1目標信号)を用いて試験装置駆動部が加振試験を実行する。
加振開始直前からフィルタ設計部2aを構成する加振データ記憶部2a1が有効になり、加振パターン終了までの供試体の変位を、供試体変位検出部より取得し、記憶し続ける。このデータ記憶の動作がステップS13の加振データ取得処理に相当する。
【0068】
次にステップS14では、フィルタ設計部2aを構成する加振データ記憶部2a1に実験データ(試加振時の供試体の変位z1)が記憶されたら、フィルタ設計部2aを構成するフィルタ調整部2a2は、このデータを利用してフィルタF(ρ)を設計する演算を開始する。具体的な処理は上述した通りであり、特定の評価関数(例えば、式(7))を最少化するように各係数ρi(i=0~2m)を最適化する。最適化演算が終了するとステップS15に遷移する。
【0069】
ステップS15では、フィルタ設計部2aを構成するフィルタ調整部2a2が、ステップS14にて得られた各係数ρi(i=0~2m)を反映したフィルタF(ρ)を適用したときに得られる供試体の変位の予測値z2を式(6)に従って算出し,この結果をユーザインタフェース1に提示する。この予測処理は供試体変位予測部に相当する。また、ユーザインタフェース1への提示はモニタ表示部1dにより実行される。
【0070】
ステップS16では、オペレータはユーザインタフェース1を構成するモニタ表示部1dに表示された供試体の変位の予測値z2を確認して、フィルタF(ρ)利用時に得られる供試体応答が試験目的にマッチするかを判断する。換言すれば、ユーザインタフェース1を構成するモニタ表示部1dは、供試体の変位の予測値z2を表示することで、オペレータの判断を支援する。試験目的にマッチすると判断した場合(YES)はステップS18に遷移し、試験目的にマッチしない(NO)と判断した場合はステップS17に遷移する。
【0071】
ステップS17に遷移した場合、ステップS11で設定したフィルタF(ρ)の次数mを変更する操作を行う。フィルタの次数が高いほどオペレータの判断する条件を達成し易くなるが、計算時間も増えるため、mの増加幅は「1」とすることが望ましい(例えば、初期設定(ステップS11)でm=3とした場合、ステップS17でm=4に変更する)。ステップS17にて次数変更を実行した後、ステップS14に戻り、再度フィルタF(ρ)の各係数の計算を行う。この処理は、ステップS16にてオペレータがYESとの判断を行うまで、フィルタ次数mを増やして繰り返される。
【0072】
一方、ステップS18に遷移した場合は、フィルタ設計部2aを構成する第2目標信号設定部2a3が、フィルタF(ρ)を確定し、式(9)を用いて第2目標信号r’を算出する。そしてステップS19に遷移する。
【0073】
ステップS19では、第2目標信号r’が生成されたら、オペレータが本加振を行う。
試加振ではフィードバック制御部2bに第1目標信号rが送信され、本加振ではフィードバック制御部2bに第2目標信号r’が送信される点に違いがあることに注意されたい。
【0074】
なお、本実施例では、フィルタ設計部2aが目標信号切替部2a4を有する構成を説明したが、これに限られるものではない。例えば、フィルタ設計部2aを構成する第2目標信号設定部2a3が算出した第2目標信号r’をフィードバック制御部2bに送信する構成としても良い。
【0075】
以上の通り本実施例によれば、制御対象の逆伝達特性を求めることなく、できるだけ簡易な方法で、所望の供試体応答の実現、すなわち、変位の量(ゲイン)と位相の調整を可能にする振動試験装置及び振動試験装置の制御方法を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0076】
図7は、本発明の他の実施例に係る実施例2の振動試験装置の機能ブロック図である。上述の実施例1では、コントローラ2がフィルタ設計部2aを有する構成であるのに対し、本実施例では、ユーザインタフェース1がフィルタ設計部1c02を有する構成である点が、実施例1と異なる。実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では、実施例1と重複する説明を省略する。
【0077】
図7に示すように、本実施例の振動試験装置は、ユーザインタフェース1及びコントローラ2を備える点では、上述の実施例1と同様であるため、以下では差異のみを説明する。
【0078】
本実施例の振動試験装置を構成するユーザインタフェース1は、ユーザ操作部1a、目標信号設定部1c、及びモニタ表示部1dから構成されている。
目標信号設定部1cは、第1目標信号設定部1c01及びフィルタ設計部1c02を備える。フィルタ設計部1c02は、加振データ記憶部1c03、フィルタ調整部1c04、第2目標信号設定部1c05、及び目標信号切替部1c06を有する。加振データ記憶部1c03、フィルタ調整部1c04、第2目標信号設定部1c05、及び目標信号切替部1c06は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、各種プログラムを格納するROM、演算過程のデータを一時的に格納するRAM、外部記憶装置などの記憶装置にて実現されると共に、CPUなどのプロセッサがROMに格納された各種プログラムを読み出し実行し、実行結果である演算結果をRAM又は外部記憶装置に格納する。
【0079】
加振データ記憶部1c03は実施例1における加振データ記憶部2a1に、フィルタ調整部1c04は実施例1におけるフィルタ調整部2a2に、第2目標信号設定部1c05は、実施例1における第2目標信号設定部2a3に、目標信号切替部1c06は実施例1における目標信号切替部2a4にそれぞれ対応している。
【0080】
フィルタ設計部1c02は、実施例1におけるフィルタ設計部2aに対応し、同様の機能を有しており、試加振で取得した供試体応答z1を利用してフィルタF(ρ)を設計し、第2目標信号r’を式(9)で算出する。
【0081】
コントローラ2、はユーザインタフェース1から受け取った目標信号に従ってフィードバック制御部2cでフィードバック制御を実行する。フフィードバック制御部2cは
図3のフィードバック制御部2bと同様である。
【0082】
すなわち、
図3に示される実施例1のフィルタ設計部2aと
図7に示される本実施例のフィルタ設計部1c02との差はフィルタ設計部が、ユーザインタフェース1に実装されるか、コントローラ2に実装されるかが異なるのみで、本質的には同様である。このため、実現される本実施例の振動試験装置の動作は、実施例1と全く同じになる。
このように、本実施例の振動試験装置の構成であれば、仮にコントローラ2のプログラムの書き換えが困難な場合であっても、ユーザインタフェース1のプログラムを書き換えることで、上述の実施例1と同様の供試体応答の改善を実現できる点にメリットがある。
【0083】
なお、
図8は、
図7に示す実施例2の振動試験装置の変形例を示す図である。
図8に示すように、ユーザインタフェース1とコントローラ2に加えて、フィルタ設計部11a(
図3におけるフィルタ設計部2a,
図7におけるフィルタ設計部1c02)の機能を有する目標信号変換器11を別端末として組み込んだ振動試験装置においても同様の機能を提供できる。
【0084】
本実施例によれば、実施例1の効果に加え、既設の振動試験装置など、コントローラ2のプログラムを更新することが困難なサイトであっても、供試体応答の改善を容易に実現することが可能となる。
【実施例3】
【0085】
図9は、本発明の他の実施例に係る実施例3の目標信号切替部の概略構成図である。上述の実施例1及び実施例2では、供試体の応答を取得するための試加振をオペレータが定めた第1目標信号rで振動試験装置を駆動していることを前提としている。このような試加振を行うには、供試体が破損或いは塑性変形をしないことが前提条件となる。本実施例では、供試体がこのような条件を満足しない場合に好適な供試体応答調整を可能とする目標信号切替部を有する点が実施例1及び実施例2と異なる。実施例1と同様の構成要素に同一符号を付し、以下では、実施例1と重複する説明を省略する。
【0086】
上述の実施例1及び実施例2の振動試験装置及び供試体の応答が、
図4A及び
図4Bに示すような伝達関数のブロック線図で表現できることを仮定している。すなわち、振動試験装置及び供試体共に線形性が成立することを前提としている。線形性が成立する場合、目標信号rをスケーリング係数S(0<S≦1)でS倍して、目標信号をSrとして加振したデータでフィルタF(ρ)を算出しても、目標信号rをそのまま利用して加振したデータでフィルタF(ρ)を算出した場合と同じρが求まることが知られている(非特許文献2)。
【0087】
本実施例では、この事実を利用したものであり、
図3の目標信号切替部2a4を
図9に示す構成で実現する。
本実施例の目標信号切替部2a4は、第1目標信号設定部1b、第2目標信号設定部2a3、及びユーザ操作部1aの各種信号を入力とする。本実施例の目標信号切替部2a4は、スケーリング2a4―1及びスイッチ2a4―2から構成される。
【0088】
試加振時は、第1目標信号設定部1bで設定された第1目標信号rに係数Sでスケーリングを行った目標信号Srをフィードバック制御部2bに送信する。例えば、Sを0.1と設定すれば、微小変位で供試体が加振されるため、試加振時に供試体が破損する可能性が大きく低減する。
【0089】
一方、本加振時は、第2目標信号設定部2a3で設定された第2目標信号r’をスケーリングすることなく、フィードバック制御部2bに送信する。これにより、本加振時はオペレータが意図した試験パターンを実際に実行することができる。
【0090】
本実施例によれば、実施例1の効果に加え、試加振時に供試体が破損する可能性が大きく低減することが可能となる。
【0091】
本発明は駆動方式が油圧ピストンに限られるものではなく、電動式の直動アクチュエータであっても適用することができる。
【0092】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…ユーザインタフェース
1a…ユーザ操作部
1b,1c01…第1目標信号設定部
1c…目標信号設定部
1d…モニタ表示部
2…コントローラ
2a,1c02,11a…フィルタ設計部
2b,2c…フィードバック制御部
2a1,1c03,11a1…加振データ記憶部
2a2,1c04,11a2…フィルタ調整部
2a3,1c05,11a3…第2目標信号設定部
2a4,1c06,11a4…目標信号切替部
2a4―1…スケーリング
2a4―2…スイッチ
3…サーボアンプ
4…サーボバルブ
5…油圧源
6…油圧シリンダ
7…油圧ピストン
8…カップリング
9…テーブル
10…供試体
11…目標信号変換器
S01…温度センサ
S02…流量センサ
S03…速度センサ
S04…変位センサ
S05…圧力センサ
S06…加速度センサ