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特許7602960姿勢推定装置、姿勢推定方法及び姿勢推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】姿勢推定装置、姿勢推定方法及び姿勢推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/54 20100101AFI20241212BHJP
   G01S 19/47 20100101ALI20241212BHJP
【FI】
G01S19/54
G01S19/47
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021077731
(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公開番号】P2022171212
(43)【公開日】2022-11-11
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武山 洪二郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徳祥
(72)【発明者】
【氏名】牧戸 知史
(72)【発明者】
【氏名】宝地 卓
(72)【発明者】
【氏名】宮島 朗
(72)【発明者】
【氏名】武藤 勝彦
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-225408(JP,A)
【文献】特開2015-068714(JP,A)
【文献】特開2021-015002(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110793518(CN,A)
【文献】米国特許第6061631(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
G01C 21/26-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の姿勢を推定する姿勢推定装置であって、
測位衛星から送信され、複数のアンテナで受信した衛星信号を取得する衛星信号取得部と、
前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記アンテナ間の相対的な位置関係を算出する相対測位部と、
前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記移動体の三次元速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出部と、
前記相対測位部が算出した前記位置関係を用いて前記移動体の姿勢を推定する第1姿勢推定部と、
前記速度ベクトル算出部が算出した前記三次元速度ベクトルを用いて前記移動体の姿勢を推定する第2姿勢推定部と、
前記第1姿勢推定部の推定結果と、前記第2姿勢推定部の推定結果とを統合する姿勢統合部と、
を備える、姿勢推定装置。
【請求項2】
前記第2姿勢推定部が推定した前記三次元速度ベクトルの大きさを用いて、前記第2姿勢推定部の推定結果の信頼性を判定する第2信頼性判定部をさらに備える、請求項1に記載の姿勢推定装置。
【請求項3】
前記姿勢統合部は、前記第2信頼性判定部が判断した信頼性に基づく重みを前記第2姿勢推定部の推定結果に与えて、前記第1姿勢推定部の推定結果と統合する、請求項2に記載の姿勢推定装置。
【請求項4】
前記第1姿勢推定部の推定結果又は入力情報を用いて、前記第1姿勢推定部の推定結果の信頼性を判定する第1信頼性判定部をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の姿勢推定装置。
【請求項5】
前記移動体に搭載された慣性センサが測定した情報を取得する慣性センサ情報取得部をさらに備え、
前記姿勢統合部は、前記慣性センサ情報取得部が取得した情報を用いて、前記第1姿勢推定部の推定結果と、前記第2姿勢推定部の推定結果とを統合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の姿勢推定装置。
【請求項6】
移動体の姿勢を推定する姿勢推定方法であって、
プロセッサが、
複数のアンテナが受信した、測位衛星から送信される衛星信号を用いて前記アンテナ間の相対的な位置関係を算出し、
取得した前記衛星信号を用いて前記移動体の三次元速度ベクトルを算出し、
算出した前記位置関係を用いて前記移動体の姿勢を推定し、
算出した前記三次元速度ベクトルを用いて前記移動体の姿勢を推定し、
前記位置関係を用いた推定結果と、前記三次元速度ベクトルを用いた推定結果とを統合する、
姿勢推定方法。
【請求項7】
移動体の姿勢を推定する姿勢推定プログラムであって、
コンピュータを、
測位衛星から送信され、複数のアンテナで受信した衛星信号を取得する衛星信号取得部と、
前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記アンテナ間の相対的な位置関係を算出する相対測位部と、
前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記移動体の三次元速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出部と、
前記相対測位部が算出した前記位置関係を用いて前記移動体の姿勢を推定する第1姿勢推定部と、
前記速度ベクトル算出部が算出した前記三次元速度ベクトルを用いて前記移動体の姿勢を推定する第2姿勢推定部と、
前記第1姿勢推定部の推定結果と、前記第2姿勢推定部の推定結果とを統合する姿勢統合部と、
を備える、姿勢推定装置として機能させるための姿勢推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢推定装置、姿勢推定方法及び姿勢推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の姿勢を推定する技術が提案されている。例えば特許文献1には、移動体の姿勢情報を算出する姿勢情報算出装置であって、GNSSアンテナの鉛直方向に対する姿勢を維持する保持機構と、移動体の座標系に固定され、移動体の姿勢変動を検出する慣性センサと、GNSSアンテナで得た情報と、慣性センサが検出した情報と、に基づいて、移動体の姿勢情報を算出する演算部と、を備えることを特徴とする姿勢情報算出装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-253928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1で開示された技術のように、GPSコンパスに基づく姿勢推定を行い、その推定結果と慣性センサの計測値とを統合し姿勢推定を行う技術がある。しかし、GPSコンパスは、衛星受信環境が良好ではない市街地などにおいては。姿勢推定結果を得ることが困難となる。そのため、慣性センサのドリフトなどにより姿勢推定の精度が劣化する恐れがある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする、姿勢推定装置、姿勢推定方法及び姿勢推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る姿勢推定装置は、移動体の姿勢を推定する姿勢推定装置であって、測位衛星から送信され、複数のアンテナで受信した衛星信号を取得する衛星信号取得部と、前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記アンテナ間の相対的な位置関係を算出する相対測位部と、前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記移動体の三次元速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出部と、前記相対測位部が算出した前記位置関係を用いて前記移動体の姿勢を推定する第1姿勢推定部と、前記速度ベクトル算出部が算出した前記三次元速度ベクトルを用いて前記移動体の姿勢を推定する第2姿勢推定部と、前記第1姿勢推定部の推定結果と、前記第2姿勢推定部の推定結果とを統合する姿勢統合部と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様に係る姿勢推定装置は、第1態様に係る姿勢推定装置であって、前記第2姿勢推定部が推定した前記三次元速度ベクトルの大きさを用いて、前記第2姿勢推定部の推定結果の信頼性を判定する第2信頼性判定部をさらに備える。
【0008】
本発明の第3態様に係る姿勢推定装置は、第2態様に係る姿勢推定装置であって、前記姿勢統合部は、前記第2信頼性判定部が判断した信頼性に基づく重みを前記第2姿勢推定部の推定結果に与えて、前記第1姿勢推定部の推定結果と統合する。
【0009】
本発明の第4態様に係る姿勢推定装置は、第1態様~第3態様のいずれかに係る姿勢推定装置であって、前記第1姿勢推定部の推定結果又は入力情報を用いて、前記第1姿勢推定部の推定結果の信頼性を判定する第1信頼性判定部をさらに備える。
【0010】
本発明の第5態様に係る姿勢推定装置は、第1態様~第4態様のいずれかに係る姿勢推定装置であって、前記移動体に搭載された慣性センサが測定した情報を取得する慣性センサ情報取得部をさらに備え、前記姿勢統合部は、前記慣性センサ情報取得部が取得した情報を用いて、前記第1姿勢推定部の推定結果と、前記第2姿勢推定部の推定結果とを統合する。
【0011】
本発明の第6態様に係る姿勢推定方法は、移動体の姿勢を推定する姿勢推定方法であって、プロセッサが、複数のアンテナが受信した、測位衛星から送信される衛星信号を用いて前記アンテナ間の相対的な位置関係を算出し、取得した前記衛星信号を用いて前記移動体の三次元速度ベクトルを算出し、算出した前記位置関係を用いて前記移動体の姿勢を推定し、算出した前記三次元速度ベクトルを用いて前記移動体の姿勢を推定し、前記位置関係を用いた推定結果と、前記三次元速度ベクトルを用いた推定結果とを統合する。
【0012】
本発明の第7態様に係る姿勢推定プログラムは、移動体の姿勢を推定する姿勢推定プログラムであって、コンピュータを、測位衛星から送信され、複数のアンテナで受信した衛星信号を取得する衛星信号取得部と、前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記アンテナ間の相対的な位置関係を算出する相対測位部と、前記衛星信号取得部が取得した前記衛星信号を用いて前記移動体の三次元速度ベクトルを算出する速度ベクトル算出部と、前記相対測位部が算出した前記位置関係を用いて前記移動体の姿勢を推定する第1姿勢推定部と、前記速度ベクトル算出部が算出した前記三次元速度ベクトルを用いて前記移動体の姿勢を推定する第2姿勢推定部と、前記第1姿勢推定部の推定結果と、前記第2姿勢推定部の推定結果とを統合する姿勢統合部と、を備える、姿勢推定装置として機能させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、推定結果を統合することで、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする、姿勢推定装置、姿勢推定方法及び姿勢推定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る姿勢推定装置の概要を示す図である。
図2】姿勢推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】姿勢推定装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図4】姿勢推定装置による姿勢推定処理の流れを示すフローチャートである。
図5】姿勢推定装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図6】姿勢推定装置による姿勢推定処理の流れを示すフローチャートである。
図7】姿勢推定装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図8】姿勢推定装置による姿勢推定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
図1は、本実施形態に係る姿勢推定装置の概要を示す図である。姿勢推定装置10は、移動体の一例である車両1の姿勢を推定する装置である。姿勢推定装置10は、車両1の姿勢を推定するにあたって、複数のアンテナからなる信号受信装置2が受信した、測位衛星から送信される衛星信号を用いる。信号受信装置2が備えるアンテナの数は、2本でもよく、3本以上であってもよい。また、姿勢推定装置10は、車両1の姿勢を推定するにあたって、慣性センサ3が取得した情報を用いて車両1の姿勢を推定してもよい。
【0017】
以下、本実施形態に係る姿勢推定装置10の構成例を説明する。
【0018】
図2は、姿勢推定装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0019】
図2に示すように、姿勢推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0020】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12またはストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12またはストレージ14に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12またはストレージ14には、車両1の姿勢を推定する姿勢推定プログラムが格納されている。
【0021】
ROM12は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはフラッシュメモリ等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。
【0022】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0023】
表示部16は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能しても良い。
【0024】
通信インタフェース17は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0025】
上記の姿勢推定プログラムを実行する際に、姿勢推定装置10は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。
【0026】
次に、姿勢推定装置10の機能構成について説明する。
【0027】
図3は、姿勢推定装置10の機能構成の例を示すブロック図である。
【0028】
図3に示すように、姿勢推定装置10は、機能構成として、衛星情報取得部110、相対測位部120、第1姿勢推定部130、速度ベクトル算出部140、第2姿勢推定部150および姿勢統合部160を有する。各機能構成は、CPU11がROM12またはストレージ14に記憶された姿勢推定プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0029】
衛星情報取得部110は、測位衛星から送信され、複数のアンテナからなる信号受信装置2が受信した衛星信号を取得する。
【0030】
相対測位部120は、衛星信号取得部110が取得した衛星信号を用いて、アンテナ間の相対的な位置関係を算出する。具体的には、相対測位部120は、衛星信号取得部110が取得した衛星信号の搬送波位相に基づいて、複数のアンテナ間の相対的な位置関係を推定する。
【0031】
一般に、2本のアンテナA、Bがある場合、2本のアンテナで受信した衛星信号の搬送波位相の二重差分をとることで以下の数式(1)が成り立つ。
【0032】
【数1】
【0033】
数式(1)において、DDΦは搬送波位相の二重差分であり、ρはアンテナと測位衛星との間の距離であり、cは光速であり、fは衛星信号の周波数であり、Nは整数値バイアスである。また、数式(1)において、ρ 、ρ はそれぞれ以下の通りである。
【0034】
【数2】
【0035】
satは測位衛星の位置であり、XはアンテナAの位置であり、ΔXはアンテナAに対するアンテナBの相対的な位置である。なお、添え字のi,jはそれぞれ主衛星、従衛星のインデックスであり、A、BはアンテナA、Bをそれぞれ示す。
【0036】
アンテナAの位置Xは、疑似距離などによる一般的な衛星測位により得られるため既知と考えることができる。このため、上記の数式(1)において、未知のパラメータはアンテナBの位置のみとなる。従って、相対測位部120は、上記数式(1)を衛星数分だけ連立することで未知のパラメータを解くことができる。
【0037】
なお、アンテナの数が3つ(アンテナA、B、C)の場合でも、同様にアンテナAとアンテナBとの間、アンテナAとアンテナCとの間の相対測位を行うことで、相対測位部120は、アンテナA、B、C間の相対的な位置関係を得ることができる。
【0038】
第1姿勢推定部130は、相対測位部120が算出したアンテナ間の相対的な位置関係を用いて、移動体1の姿勢を推定する。具体的には、第1姿勢推定部130は、アンテナが2つの場合には3軸姿勢(ヨー、ロール、ピッチ)のうち2つを算出し、アンテナが3つの場合には3軸姿勢の全てを算出する。
【0039】
速度ベクトル算出部140は、衛星信号取得部110が取得した衛星信号を用いて移動体1の三次元速度ベクトルを算出する。具体的には、速度ベクトル算出部140は、衛星信号の搬送波のドップラーシフトに基づき、移動体1の三次元速度ベクトルを推定する。以下の数式(2)に、衛星のドップラーシフトと、移動体1の三次元速度ベクトルVとの関係式を示す。
【0040】
【数3】
【0041】
数式(2)において、iは衛星のインデックス(i=1,・・・,N)であり、Nは1時刻あたりに観測可能な衛星の数である。また数式(2)において、Gは測位衛星と移動体1との間の視線方向単位ベクトル(無次元)であり、Vは移動体1の三次元速度ベクトル(単位[m/s])であり、τはクロックドリフトと呼ばれる信号受信装置2の時計誤差変化率(無次元)であり、cは光速[m/s]である。また、数式(2)において、Vs、Gはそれぞれ以下の通りである。
【0042】
【数4】
【0043】
は測位衛星の位置であり、xは移動体1の位置である。Dは測位衛星のドップラーシフトであり、f1は測位衛星の搬送波周波数(Hz)であり、Gは単位ベクトルであり、v は測位衛星の三次元速度ベクトルである。以上から、Gは測位衛星の位置と移動体1の位置とを用いて求めることができる。
【0044】
数式(2)において、未知のパラメータは移動体1の三次元速度ベクトルV、及びクロックドリフトτの合計4つである。観測可能な衛星と同数だけ連立できるため,速度ベクトル算出部140は、最低4機の測位衛星があれば、これらの未知のパラメータを解くことができる。
【0045】
第2姿勢推定部150は、速度ベクトル算出部140が算出した移動体1の三次元速度ベクトルを用いて移動体1の姿勢を推定する。具体的には、第2姿勢推定部150は、速度ベクトル算出部140が算出した移動体1の三次元速度ベクトルの方位方向と勾配方向とから、それぞれ移動体1のヨー角とピッチ角とを算出する。
【0046】
姿勢統合部160は、第1姿勢推定部130による移動体1の姿勢推定結果と、第2姿勢推定部150による移動体1の姿勢推定結果とを統合する。具体的には、姿勢統合部160は、第1姿勢推定部130による姿勢推定結果と、第2姿勢推定部150による姿勢推定結果とのそれぞれに、所定の重みを掛けて統合する。所定の重みは、例えばそれぞれ1/2である。
【0047】
本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図3に示した構成を有することで、複数の情報に基づいた移動体1の姿勢を推定し、推定結果を統合する。本実施形態に係る姿勢推定装置10は、推定結果を統合することで、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする。
【0048】
次に、姿勢推定装置10の作用について説明する。
【0049】
図4は、姿勢推定装置10による姿勢推定処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から姿勢推定プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、姿勢推定処理が行なわれる。
【0050】
CPU11は、測位衛星から送信され、信号受信装置2が受信した衛星信号を取得する(ステップS101)。
【0051】
ステップS101に続いて、CPU11は、取得した衛星信号を用いて、信号受信装置2に備えられる複数のアンテナ間の相対的な位置関係を算出する(ステップS102)。アンテナ間の相対的な位置関係の算出方法は、相対測位部120の説明において示したものである。
【0052】
ステップS102に続いて、CPU11は、算出したアンテナ間の相対的な位置関係を用いて、移動体1の姿勢を推定する(ステップS103)。アンテナ間の相対的な位置関係を用いた移動体1の姿勢の推定方法は、第1姿勢推定部130の説明において示したものである。
【0053】
また、CPU11は、ステップS101に続いて、取得した衛星信号を用いて、移動体1の三次元速度ベクトルを算出する(ステップS104)。移動体1の三次元速度ベクトルの算出方法は、速度ベクトル算出部140の説明において示したものである。
【0054】
ステップS104に続いて、CPU11は、移動体1の三次元速度ベクトルを用いて、移動体1の姿勢を推定する(ステップS105)。三次元速度ベクトルを用いた移動体1の姿勢の推定方法は、第2姿勢推定部150の説明において示したものである。
【0055】
ステップS103及びステップS105で、移動体1の姿勢を推定すると、CPU11は、それぞれの推定結果を統合する(ステップS111)。移動体1の姿勢の推定結果の統合方法は、姿勢統合部160の説明において示したものである。
【0056】
本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図4に示した処理を実行することで、複数の情報に基づいた移動体1の姿勢を推定し、推定結果を統合する。本実施形態に係る姿勢推定装置10は、推定結果を統合することで、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする。
【0057】
上述の説明では、アンテナ間の相対的な位置関係を用いた姿勢の推定結果と、移動体1の三次元速度ベクトルを用いた姿勢の推定結果とを、それぞれ1/2の重みを掛けて統合していたが、本発明は係る例に限定されるものでは無い。例えば、姿勢推定装置10は、三次元速度ベクトルの大きさに応じて重みを設定した上で、2つの推定結果を統合してもよい。
【0058】
図5は、姿勢推定装置10の機能構成の例を示すブロック図である。
【0059】
図5に示すように、姿勢推定装置10は、機能構成として、衛星情報取得部110、相対測位部120、第1姿勢推定部130、速度ベクトル算出部140、第2姿勢推定部150、第2信頼性判定部155および姿勢統合部160を有する。各機能構成は、CPU11がROM12またはストレージ14に記憶された姿勢推定プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0060】
図5に示した姿勢推定装置10は、図3に示した姿勢推定装置10から第2信頼性判定部155が追加されたものである。ここでは、追加された構成である第2信頼性判定部155について説明する。
【0061】
第2信頼性判定部155は、速度ベクトル算出部140が算出した三次元速度ベクトルの大きさから、第2姿勢推定部150が推定した移動体1の姿勢の信頼性を判定する。具体的には、第2信頼性判定部155は、以下の数式(3)のように、0から1の間で正規化されるように、信頼性Rを判定してもよい。Vは速度ベクトル算出部140が算出した三次元速度ベクトルの大きさである。
R=1-1/1+V (3)
【0062】
なお、第2信頼性判定部155は、信頼性を判定する際に、外部センサである車速パルスなどから取得した移動体1の移動速度の情報を用いてもよい。また第2信頼性判定部155は、測位衛星の数、仰角、SNR(SN比)、DOP(Dilution Of Precision;精度低下率)などの情報を用いても、移動体1の姿勢の信頼性を判定してもよい。
【0063】
姿勢統合部160は、第2信頼性判定部155が判定した信頼性Rを用いて、移動体1の三次元速度ベクトルを用いた姿勢の推定結果に重みを与えて、アンテナ間の相対的な位置関係を用いた姿勢の推定結果と統合する。例えば、姿勢統合部160は、第2信頼性判定部155が0から1の間で正規化されるように信頼性を判定した場合、その信頼性Rを重みとして、第2姿勢推定部150が推定した移動体1の姿勢の情報に乗算してもよい。また、姿勢統合部160は、(1-R)を重みとして第1姿勢推定部130が推定した移動体1の姿勢の情報に乗算してもよい。そして、姿勢統合部160は、重みを乗算した後の姿勢の推定結果を統合することで、移動体1の姿勢の情報を得てもよい。
【0064】
本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図5に示した構成を有することで、複数の情報に基づいた移動体1の姿勢を推定し、推定結果を統合する。また、本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図5に示した構成を有することで、三次元速度ベクトルを用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性に基づいた、推定結果の統合を行う。本実施形態に係る姿勢推定装置10は、推定結果を統合することで、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする。
【0065】
図6は、姿勢推定装置10による姿勢推定処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から姿勢推定プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、姿勢推定処理が行なわれる。
【0066】
図6に示したフローチャートは、図4に示したフローチャートに、ステップS107の処理が追加されたものである。
【0067】
CPU11は、ステップS105において、移動体1の三次元速度ベクトルを用いて、移動体1の姿勢を推定すると、三次元速度ベクトルを用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性Rを判定する(ステップS107)。三次元速度ベクトルを用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性の判定方法は、第2信頼性判定部155の説明において示したものである。
【0068】
ステップS103及びステップS105で、移動体1の姿勢を推定すると、CPU11は、それぞれの推定結果を統合する(ステップS111)。具体的には、CPU11はステップS107が判定した信頼性Rを用いて、移動体1の三次元速度ベクトルを用いた姿勢の推定結果に重みを与えて、ステップS103で求めた、アンテナ間の相対的な位置関係を用いた姿勢の推定結果と統合する。
【0069】
本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図6に示した処理を実行することで、複数の情報に基づいた移動体1の姿勢を推定し、推定結果を統合する。また、本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図6に示した処理を実行することで、三次元速度ベクトルを用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性に基づいた、推定結果の統合を行う。本実施形態に係る姿勢推定装置10は、推定結果を統合することで、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする。
【0070】
姿勢推定装置10は、アンテナ間の相対的な位置関係を用いた姿勢の推定結果についても信頼性を判定してもよい。
【0071】
図7は、姿勢推定装置10の機能構成の例を示すブロック図である。
【0072】
図7に示すように、姿勢推定装置10は、機能構成として、衛星情報取得部110、相対測位部120、第1姿勢推定部130、第1信頼性判定部135、速度ベクトル算出部140、第2姿勢推定部150、第2信頼性判定部155、姿勢統合部160および慣性センサ情報取得部170を有する。各機能構成は、CPU11がROM12またはストレージ14に記憶された姿勢推定プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0073】
図7に示した姿勢推定装置10は、図5に示した姿勢推定装置10から第1信頼性判定部135及び慣性センサ情報取得部170が追加されたものである。ここでは、追加された構成である第1信頼性判定部135及び慣性センサ情報取得部170について説明する。
【0074】
第1信頼性判定部135は、第1姿勢推定部130が姿勢の推定に用いた情報及び姿勢推定の結果を用いて、第1姿勢推定部130が推定した移動体1の姿勢の信頼性を判定する。具体的には、第1信頼性判定部135は、第1姿勢推定部130が姿勢推定出来た場合は1、姿勢推定出来なかった場合は0を出力してもよい。また、第1信頼性判定部135は、測位衛星の数、仰角、SNR、DOPなどに基づいて信頼性を判定してもよい。また、第1信頼性判定部135は、相対測位部120による測位結果と、既知のアンテナ間の距離との差分の情報を用いて信頼性を判定してもよい。
【0075】
慣性センサ情報取得部170は、慣性センサ3から角速度及び加速度の情報を取得して、姿勢統合部160に送る。
【0076】
姿勢統合部160は、第1信頼性判定部135が判定した信頼性と、第2信頼性判定部155が判定した信頼性とを用いて、姿勢の推定結果にそれぞれ重みを与えて統合する。具体的には、姿勢統合部160は、以下の数式(4)を用いて姿勢の推定結果を統合する。
【0077】
【数5】
【0078】
数式(4)において、P、P、P、P’は、それぞれ第1姿勢推定部130、第2姿勢推定部150、現時刻の最終姿勢推定結果、前時刻の最終姿勢推定結果を示す。また、w、wはそれぞれ第1姿勢推定部130の姿勢推定結果の重み、第2姿勢推定部150の姿勢推定結果の重み、αは前時刻の結果からの更新重みである。また、w、wは、それぞれ第1信頼性判定部135、第2信頼性判定部155から取得することができる。また、αは、観測精度に応じて適当な係数を調整する。
【0079】
また姿勢統合部160は、慣性センサ情報取得部170からの角速度及び加速度の情報を用いる場合は、以下の数式(5)を用いて姿勢の推定結果を統合する。
【0080】
【数6】
【0081】
上記数式(5)において、Pは慣性センサ3から算出した移動体1の姿勢であり、wはその重みである。wは慣性センサ3のスペックに応じて適切な固定値が設定されてもよいし、慣性センサ3の温度特性などに応じた可変量としてもよい。数式(5)のその他の変数は数式(4)と同一である。
【0082】
なお、上述の例では慣性センサ3を用いたが、本発明は係る例に限定されるものでは無い。慣性センサ3に代えて地磁気センサが用いられてもよい。
【0083】
本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図7に示した構成を有することで、複数の情報に基づいた移動体1の姿勢を推定し、推定結果を統合する。また、本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図7に示した構成を有することで、アンテナ間の相対的な位置関係を用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性と、三次元速度ベクトルを用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性とに基づいた、推定結果の統合を行う。本実施形態に係る姿勢推定装置10は、信頼性に基づいて推定結果を統合することで、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする。
【0084】
図8は、姿勢推定装置10による姿勢推定処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から姿勢推定プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、姿勢推定処理が行なわれる。
【0085】
図8に示したフローチャートは、図6に示したフローチャートに、ステップS106の処理が追加され、さらにステップS111の処理がステップS112の処理に置き換わったものである。
【0086】
CPU11は、算出したアンテナ間の相対的な位置関係を用いて、移動体1の姿勢を推定すると、アンテナ間の相対的な位置関係を用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性を判定する(ステップS106)。アンテナ間の相対的な位置関係を用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性の判定方法は、第1信頼性判定部135の説明において示したものである。
【0087】
ステップS106及びステップS107で、移動体1の姿勢の推定結果の信頼性をそれぞれ判定すると、CPU11は、移動体1の姿勢の推定結果を統合する(ステップS112)。CPU11は、移動体1の姿勢の推定結果を統合する際に、慣性センサ3の情報を用いて統合する。移動体1の姿勢の推定結果の統合方法は、図7の姿勢統合部160の説明において示したものである。
【0088】
本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図8に示した処理を実行することで、複数の情報に基づいた移動体1の姿勢を推定し、推定結果を統合する。また、本実施形態に係る姿勢推定装置10は、図8に示した処理を実行することで、アンテナ間の相対的な位置関係を用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性と、三次元速度ベクトルを用いた移動体1の姿勢の推定結果の信頼性とに基づいた、推定結果の統合を行う。本実施形態に係る姿勢推定装置10は、信頼性に基づいて推定結果を統合することで、衛星受信環境や移動速度の程度によらず、精度の良い姿勢推定を可能とする。
【0089】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した姿勢推定処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、姿勢推定処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0090】
また、上記各実施形態では、姿勢推定処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 移動体
2 信号受信装置
3 慣性センサ
10 姿勢推定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8