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特許7602962T継手構造、その溶接方法、及び鉄道車両の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】T継手構造、その溶接方法、及び鉄道車両の生産方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 15/00 20060101AFI20241212BHJP
   B61C 17/00 20060101ALI20241212BHJP
   B61D 17/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B23K15/00 501B
B61C17/00 Z
B61D17/00 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021079729
(22)【出願日】2021-05-10
(65)【公開番号】P2022173802
(43)【公開日】2022-11-22
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川下 道宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛志
(72)【発明者】
【氏名】片桐 優
(72)【発明者】
【氏名】来栖 修
(72)【発明者】
【氏名】塚本 乾
(72)【発明者】
【氏名】田中 行平
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-030085(JP,A)
【文献】特開2019-218036(JP,A)
【文献】特開2003-334680(JP,A)
【文献】特開昭56-019989(JP,A)
【文献】特公昭50-019502(JP,B1)
【文献】特開平05-084582(JP,A)
【文献】特開昭57-146486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 15/00
B61C 17/00
B61D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手構造であって、
前記溶接部の長手方向に沿う位置に、前記縦板と一体又は別体の凸条が設けられ、
該凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となり前記溶接部を溶接し、
前記溶接部は、溶接後の前記溶接金属が凸形状をなすように盛り上がっている、
T継手構造。
【請求項2】
溶接前における前記凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面は、前記接触面と平行な面を有する、
請求項1に記載のT継手構造。
【請求項3】
溶接前における前記凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面は、前記接触面に対して鋭角で交わる面を有する、
請求1に記載のT継手構造。
【請求項4】
前記凸条は、溶接前から前記縦板と一体形成されている、
請求項2又は3に記載のT継手構造。
【請求項5】
前記凸条は、溶接前の前記縦板に別部材を予め接合して一体形成されている、
請求項4に記載のT継手構造。
【請求項6】
溶接前の前記凸条は、前記縦板と前記横板の何れにも属さない別体の鋳物である、
請求項2又は3に記載のT継手構造。
【請求項7】
前記横板は、鉄道車両用電機品の筐体の上面を形成し、
前記縦板は、前記筐体の上面にT継手の構造をなして溶接される複数の吊り耳の一部を形成する、
請求項1~6の何れか1項に記載のT継手構造。
【請求項8】
縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手の溶接方法であって、
前記溶接部の長手方向に沿う位置に、前記縦板と一体又は別体の凸条を設け、
該凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となり前記溶接部を溶接し、
前記溶接部を、溶接後の前記溶接金属が凸形状をなすように盛り上げる、
T継手の溶接方法。
【請求項9】
溶接前の前記凸条は、該凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面を、前記接触面と平行に組み合わされる、
請求項8に記載のT継手の溶接方法。
【請求項10】
溶接前の前記凸条は、該凸条の外面のうち、前記横板との接触面でない露出面を、前記接触面に対して鋭角に面交差させる、
請求項8に記載のT継手の溶接方法。
【請求項11】
前記凸条は、溶接前から前記縦板と一体形成されている、
請求項9又は10に記載のT継手の溶接方法。
【請求項12】
前記凸条は、溶接前の前記縦板に別部材を予め接合して一体形成されている、
請求項11に記載のT継手の溶接方法。
【請求項13】
前記縦板と前記横板の何れにも属さない別体の鋳物でなる前記凸条を組み合わせて溶接する、
請求項9又は10に記載のT継手の溶接方法。
【請求項14】
鉄道車両用電機品の筐体の上面を前記横板で形成し、
前記筐体の上面にT継手構造で溶接される複数の吊り耳の一部を前記縦板により形成する、
請求項8~13の何れか1項に記載のT継手の溶接方法。
【請求項15】
縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせた溶接部をT継手構造で溶接した部材を用いる、
鉄道車両の生産方法であって、
鉄道車両用電機品が収納された筐体の上面が横板で形成され、
複数の吊り耳の一部が形成された縦板を、前記筐体の上面にT継手構造で溶接するために、
長手方向に延在する溶接部に沿う位置に、前記縦板と一体又は別体の凸条を設け、
該凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となって前記溶接部を溶接し、
前記溶接部を、溶接後の前記溶接金属が凸形状をなすように盛り上げる、
鉄道車両の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビーム溶接に対応したT継手構造、その溶接方法、及びそれを適用した鉄道車両の生産方法、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子銃で発生させる高密度エネルギーを対象箇所に照射し、高温溶融させて行う電子ビーム溶接(electron beam welding)のほか、レーザビーム溶接(Laser beam welding)(まとめて「ビーム溶接」と略称する)が、精密で高品質、しかも高能率である点で、自動車や航空機の部品等に適用されている。しかし、一般的に、このビーム溶接に用いる電子銃は大掛かりな天吊り構造であるため、溶接部の真上から垂下させる方向にビーム照射させるロボット施工に限られる。
【0003】
そのため、ビーム溶接では、ビーム照射方向に対する自由度に制約がある。例えば、1つの板の端面を他の板の表面に載せてT形に溶接するT継手には、斜め方向の隅肉溶接が必要であるため、斜め方向にビーム照射することが困難なため、自由度の高い手作業を交えたアーク溶接等による補完を必要とする場合が多かった。これに対し、ビーム溶接を前提とした、特許文献1に記載のT継手の貫通溶接方法により、T継手の裏面から高エネルギー密度のビームを照射する接合方法が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-203286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたT継手の貫通溶接方法は、斜め方向の隅肉溶接に代えて、T継手の裏面、すなわち縦板の反対側から溶接を行うことになるので、対象物の形態によっては、縦板方向からの溶接作業を必要とする場合、現行構造のままではビーム溶接が困難であった。
【0006】
したがって、対象物の形態によっては、ビーム溶接だけでは目的を達成できず、従来のアーク溶接等に依存せざるを得ない一面もあった。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、T継手の縦板側からのビーム溶接を可能にするT継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明は、縦板の端面と、横板の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手構造であって、溶接部の長手方向に沿う位置に、縦板と一体又は別体の凸条が設けられ、凸条の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属となり溶接部を溶接し、溶接前における凸条の外面のうち、横板との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の溶接金属を盛り上がっている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、T継手の縦板側からのビーム溶接を可能にするT継手構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1に係るT継手構造を適用して吊り耳を平板に溶接する組立構成の斜視図である。
図2図1の組立構成における接合部を説明するための拡大斜視図である。
図3図2の破線で示した接合部を説明するための要部拡大断面図である。
図4】比較例に係るT継手構造を適用して吊り耳を平板に溶接する組立構成の斜視図である。
図5図4の破線で示した接合部にアーク溶接を適用した場合の要部拡大断面図である。
図6図4の破線で示した接合部にビーム溶接を適用する場合の要部拡大断面図である。
図7図3の凸条断面に傾斜を設けた変形例であり、その要部拡大断面図である。
図8】本発明の実施例2に係る蹄鉄状の凸条部材を用いたT継手構造を適用して、吊り耳と筐体との溶接を説明するための斜視図である。
図9図8の凸条部材を用いた吊り耳のT継手構造を示す斜視図である。
図10図8及び図9の凸条部材を用いたT継手構造に対する一般的なビーム溶接を説明するための拡大斜視図である。
図11図10を吊り耳に特化した変形例であり、斜め方向のビーム照射を説明するための拡大斜視図である。
図12図8及び図9の凸条部材を用いたT継手構造に対するビーム溶接を説明するための拡大斜視図である。
図13図8及び図9の凸条部材の断面を三角形に形成した変形例であり、その要部拡大断面図である。
図14】本発明の実施例3に係るT継手構造を適用して吊り耳を平板に溶接する組立構成の斜視図である。
図15図14の破線で示した接合部を説明するための要部拡大断面図である。
図16図15に対し凸条部材の断面を三角形に形成した変形例であり、その要部拡大断面図である。
図17図15図16のものに対する補強例であり、その要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて各実施例の説明をする。実施例1は、図1図3及び図7(変形例)を用いて説明する。実施例2は、図8図12及び図13(変形例)を用いて説明する。実施例3は、図14図15図16(変形例)及び図17(補強例)を用いて説明する。比較例は、図4図6を用いて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1に係るT継手構造(以下、「本構造」ともいう)を適用して吊り耳2を筐体3に溶接する組立構成の斜視図である。図1に示すように、鉄道車両用電機品1を主要構成する筐体3には電力制御に必要なパワーユニット(図示せず)などが搭載される。図1では吊り耳2が4つの場合を示しているが、吊り耳2の数は、4つに限定されるものではない。
【0012】
図2は、図1の組立構成における接合部を説明するための拡大斜視図である。図2に示すように、上段が正面斜視図、下段が背面斜視図である。筐体3の上面を構成する平板(以下、「上面」、「横板4」又は「平板」という)4に吊り耳2が接する面に沿うような、縦板5の端部に凸条6が設けられる。
【0013】
図3は、図2の破線で示した接合部を説明するための要部拡大断面図である。図3に示す縦板5に凸設した凸条6に電子ビームを照射することにより、凸条6の端部を溶融させた接金属7によって、縦板5を平板4に接合している。ビーム溶接の性質により、溶融した金属が電子ビームの照射位置に寄り集まるため、凸条6における接触面と対向する面よりも、溶接金属7が盛り上がった形状を理想的な本構造とする。
【0014】
ここで、図4図6を用いて比較例を説明する。比較例と比較することにより、実施例1で得られる効果について説明する。図4は、比較例に係るT継手構造を適用して吊り耳2を平板4に溶接する組立構成の斜視図である。図4及び図5において、比較例における吊り耳2と平板4との接合部を示す。比較例は、実施例1と異なり、吊り耳2の縦板5に凸条6を設けない。
【0015】
図5及び図6に比較例における縦板5と平板4との接合部断面の模式図を示す。図5は、図4の破線で示した接合部にアーク溶接を適用した場合の要部拡大断面図である。図6は、図4の破線で示した接合部にビーム溶接を適用する場合の要部拡大断面図である。図5に示すように、手作業によるアーク溶接によれば、比較例の構造のままでも、斜めから施工を行うことができるため、凸条6がなくても、溶接金属7によって縦板5と平板4とを接合できる。
【0016】
一方、ビーム溶接の場合は、真空チャンバー内で施工されるため、手作業による溶接ができない。したがって、真空チャンバーの天井面からのロボット施工、すなわち図6に示すように、真上からの電子ビーム照射による施工に限られる。そのため、図6に比較例として示した現行構造のままでは、ビーム溶接による接合が困難である。
【0017】
さらに、図5のアーク溶接により、縦板5と平板4とを、直に接合する場合、応力集中部となるL字部8は、強度的に弱い溶接金属7で大部分を支持する構成であるため、接合強度の脆弱さが懸念される。これらの課題を解決するため、図1図3の実施例1に示したように、吊り耳2の縦板5に凸条6を設けた構造を導入した。
【0018】
このような構造により、真上からの電子ビーム照射によって、凸条6の端部を溶融させて、吊り耳2と平板4とを強固に接合できる。すなわち、縦板5に凸条6を設けた実施例1の構造は、L字部8から離れた場所に溶接金属7を配置できるため、接合強度の低下を防止できる。さらに、凸条6を溶融させて溶接金属7にするため、溶接金属7の不足によるアンダーカットを抑制できる。
【0019】
なお、図3で示した縦板5と平板4との接合部の断面を示す模式図において、凸条6の断面形状を矩形としたが、本発明は矩形に限定されるものではない。図7は、図3の凸条6断面に傾斜を設けた変形例であり、その要部拡大断面図である。図7に示すように、凸条6の断面を例えば三角形にした場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0020】
また、吊り耳2の製造方法について説明する。比較例の吊り耳2については、板金の曲げ加工によって製造することが多い。一方、実施例1の吊り耳2は、まず、板金の曲げ加工で製造した比較例と同様のものに対し、追加工としての機械加工によって凸条6を凸設する製造方法がある。さらに、実施例1の吊り耳2として、別工程により鋳造した凸条6を付設する製造方法などもある。
【実施例2】
【0021】
図8図12及び図13(変形例)を用いて実施例2を説明する。図8及び図9において、上段が正面図、下段が背面図である。図8は、本発明の実施例2に係る蹄鉄状(U字形)の凸条部材を用いたT継手構造を適用して、吊り耳2と筐体3(図1参照)との溶接を説明するための斜視図である。図8に示すように、凸条6を設けた吊り耳2を製造するため、比較例の吊り耳2に加えて、蹄鉄状の凸条部材9を準備する。
【0022】
図9は、図8の凸条部材9を用いた吊り耳2のT継手構造を示す斜視図である。図9に示すように、吊り耳2の凸条6を設ける位置に凸条部材9を配置する予備加工が有益である。この予備加工について、図10及び図11により、ビーム溶接による吊り耳2と凸条部材9との接合方法として説明する。この予備加工の有益性は、真空チャンバー等に1つに収容可能なスペースに対し、大きな筐体3ならば1つしか入らなくても、小さな吊り耳2だけならば、相当の数量を収容し、真空引きする一単位工程で同時に多数の予備加工を実行できる点にある。
【0023】
図10は、図8及び図9の凸条部材を用いたT継手構造に対する一般的なビーム溶接を説明するための拡大斜視図である。図10に示すように、通常のビーム溶接は真上からの施工に限定されるため、縦板5が障害物となり、縦板5と凸条部材9を接合することができない。
【0024】
しかし、懸垂固定式の筐体3を用いた製品の量産においては、多数の吊り耳2を必要とするため、一括して予備加工された多数の吊り耳2を、筐体3に順次溶接する生産方法が有益である。したがって、吊り耳2と凸条部材9の接合に特化した特別な予備加工工程を量産において採用することで、生産効率を向上できる。
【0025】
図11は、図10を吊り耳2に特化した変形例であり、斜め方向のビーム照射を説明するための拡大斜視図である。すなわち、傾斜を付けたステージに複数の吊り耳2を配置することで、図11に示すようにワークを傾けることができるため、真上からの電子ビームによる施工によって吊り耳2と凸条部材12を接合することができる。このように、比較例の吊り耳2に凸条部材9を接合する予備加工により、凸条6を設けた吊り耳2を効率的に大量生産することができる。
【0026】
図12は、図8及び図9の凸条部材を用いたT継手構造に対するビーム溶接を説明するための拡大斜視図である。図12に示す縦板5と平板4との接合部断面に示すように、凸条6の端部を電子ビームによって溶融させることにより、吊り耳2の縦板5と平板4とを接合することができる。本構造によれば、凸条6を設けた吊り耳2の製造において、機械加工や鋳造を併用する必要が無い。
【0027】
なお、図12において、凸条部材9の断面を矩形としたが、本発明は矩形に限定されるものではない。図13は、図8及び図9の凸条部材の断面を三角形に形成した変形例であり、その要部拡大断面図である。例えば、図13に示すように、凸条部材9の断面を三角形にした場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0028】
図14図16を用いて、実施例3について説明する。図14は、本発明の実施例3に係るT継手構造を適用して吊り耳2を平板に溶接する組立構成の斜視図である。特に、図15及び図16において、吊り耳2と筐体3の接合部を拡大した模式図を示す。実施例1では、吊り耳2の左右に配置された縦板5のそれぞれに対して凸条6が設けられていたのに対して、実施例3では左右の縦板5に1つの凸条6が設けられている点が特徴である。
【0029】
図15は、図14の破線で示した接合部を説明するための要部拡大断面図である。図15に示すように、実施例3では2枚の縦板5の外側に位置する凸条6端部が溶融されて、溶接金属7によって2つの縦板5と平板4が接合される。
【0030】
なお、凸条6端部の断面形状が矩形となっているが、矩形に限定されるものではない。図16は、図15に対し凸条部材の断面を三角形に形成した変形例であり、その要部拡大断面図である。例えば、図16に示すように、凸条6端部を三角形にした場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0031】
図17は、図15図16のものに対する補強例であり、その要部拡大断面図である。図15図16は、凸条6端部のみを溶接する実施例になっており、実施例1、実施例2と比べて接合面積の範囲が少なく、接合強度の低下が予想される。そこで接合強度が問題になる場合は、図17に示すように、2つの凸条6端部の間に真上からのビーム施工によるシーム溶接部を配置する。これにより、接合強度を十分に確保することができる。
【0032】
[補足1]
鉄道車両の床下には、駆動用電動機に供給する電力を制御する車両駆動用制御装置、空調等の車上電気設備に供給する電力を制御する補助電源装置、および保守用の端末を収納した保安装置など、鉄道車両用電機品1を収容した筐体3が設置されている。この筐体3は、板金を曲げ加工して製造した複数の部材によって構成されており、これらの部材はT継手や重ね溶接継手など、各種の溶接継手によって接合されている。
【0033】
これら溶接継手の接合手段として、一般的にはアーク溶接を用いることが多い。ただし、アーク溶接はエネルギー密度が低いため、溶接時に多くの熱が筐体3に伝導してしまう。その結果、溶接時に筐体3が高温になり、溶接後に室温まで冷却されることにより、筐体3を構成する部材に溶接ひずみが発生して筐体3表面に凹凸が生じる。そのため、溶接作業後に筐体3表面に発生した凹凸を無くす処理であるひずみ取り作業が必要になり、多くの加工時間を必要とする。
【0034】
そこで、ひずみ取り作業を削減することを目的として、アーク溶接よりもエネルギー密度が高い、ビーム溶接を筐体3の溶接に適用することが検討されている。ビーム溶接はエネルギー密度が高いため短時間で溶接を完了することができ、筐体3に伝わる熱量を低減することができる。これにより、溶接時の筐体3の温度を低く保つことができ、溶接完了後の溶接ひずみの発生を抑制することができる。
【0035】
ただし、ビーム溶接はアーク溶接よりも溶接時の施工自由度が低い。主な理由として、アーク溶接は手作業による溶接が可能であるが、ビーム溶接のなかでも、特に電子ビーム溶接は、真空チャンバー内で溶接を行う必要があり、手作業による溶接ができず、ロボットによる溶接が必要になる。また、シールドガスを使えば大気中でも溶接できるレーザビーム溶接であっても、真空チャンバーほどの制約がなくとも、ビーム射出部の駆動系が移動することによって溶接を進めるシステム構成は大掛かりである。
【0036】
一方、特許文献1に記載されたT字継手の構造では,筐体3の内側からの施工が必要になり、ビーム溶接を行うために筐体3側の設計変更が必要になる。そのため、アーク溶接と同様に、T継手の縦板5側から施工可能な構造を開発する必要がある。特に鉄道車両に搭載する電力変換装置の筐体3に適用することを想定している。
【0037】
さらに、鋼材やステンレス材に加えて、溶接が難しいアルミニウム合金材の溶接を実施する場合には、電子ビームのエネルギー密度をより高める必要があり、加速電圧が高い電子銃の選定が必要になる。これにより、電子銃のサイズが大きくなり、ロボットによる操作が難しくなるため、電子銃の操作は平板4に沿った移動のみに限定される。すなわち、電子ビームによる施工位置が電子銃の真下に限定される。
【0038】
その結果、既存のT継手において、従来の手溶接では溶接棒を傾けることによって隅肉溶接できていたのに対し、ビーム溶接では隅肉溶接を施すことができなくなる。この課題を解決するため、このT継手構造を導入することにより、真空チャンバー等の天井面等に配設された電子銃等から、T字溶接部に電子ビーム等を垂下する溶接方法での接合が可能になる。この作用効果は、電子ビーム溶接のみならず、レーザビーム溶接でも、同様に得られる。
【0039】
また、凸条6を設けたことによって溶接金属7を確保することができ、溶接金属7が不足することで発生するアンダーカットを防止することができる。さらに、凸条6を設けたことにより、T継手の応力集中部であるL字部8から強度的に弱い溶接部を離すことができる。
【0040】
[補足2]
本構造、本方法、及び本生産方法の好適な用途とその長所を説明する。例えば、鉄道車両用電機品1の筐体3においては、製造上の課題があった。従来のアーク溶接では、筐体3の上に吊り耳2を自由に配置し、筐体3の外側から溶接によって接合することが可能であった。
【0041】
ビーム溶接を用いたT継手の製造において、被溶接体に接合性が悪いアルミニウム合金を選定した場合に、電子ビーム溶接ならば大型の電子銃を使用し、それを傾けた状態での施工が難しくなり、真上からの施工のみに限定される。これにより、図6に示すように、縦横2枚の板で構成される既存のT継手の接合が困難になる。
【0042】
本構造は、つぎのように実現する。縦板5側の端部に、横板4に沿うような長手方向に凸条6を設ける。これにより、図10に示すように、ビーム溶接が真上からの施工に限定された場合においても、縦板5と横板4とをT字形に組み合わせ、据え置かれた逆T字形のL字部8の奥に配設された凸条6には、正確にビーム照射できる。
【0043】
したがって、本構造において、従来ならば困難とされた組立形状であっても、正確にビーム照射された凸条6を介してT字接合することができる。さらに本構造により、縦板5と横板4が為す応力集中部のL字部8から溶接部を離して距離が確保され、図13に示すように、L字部8において、末広がりに固着した溶接金属7で支持できるので、L字部8の接合強度を確保することができる。
【0044】
本発明の実施形態に係るT継手構造(本構造)は、つぎのように総括できる。
[1]本構造は、縦板5の端面と、横板4の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手構造である。すなわち、被溶接体と、もう一方の被溶接体からなるT継手において、横板4側の被溶接体に沿うように縦板側の被溶接体の端部に凸条を設け、凸条の端部を溶融させた溶接金属により、被溶接体と被溶接体を接合する継手構造である。
【0045】
本構造は、溶接部の長手方向に沿う位置に、縦板5と一体又は別体の凸条6が設けられる。この凸条6の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属7となり溶接部を溶接する。また、溶接前における凸条6の外面のうち、横板4との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の溶接金属7溶接金属を盛り上げて、理想的な溶接形状に仕上げる。
【0046】
図3の実施例1に示すように、縦板5に凸条6を設けた構造にすることで、L字部8(図5)から離れた場所に溶接金属7を配置できるため、接合強度の低下を防止できる。さらに、凸条6を溶融させて溶接金属7にするため、溶接金属7の不足によるアンダーカットを抑制できる。
【0047】
[2]上記[1]において、図3に示すように、溶接前における凸条6の外面のうち、横板4との接触面でない露出面は、接触面と平行な面を有すると良い。このような凸条6の水平面は、横板4に縦板5を逆T字状に立設した姿勢で、溶接部に垂下するビーム照射を命中させ易いので、精密かつ高品質の溶接仕上がりが期待できる。
【0048】
[3]上記[1]において、図7に示すように、溶接前における凸条6の外面のうち、横板4との接触面でない露出面は、接触面に対して鋭角で交わる面を有すると良い。この場合、縦板5のL字部8(図5)に、断面が三角形の凸条6を設けた構造にすることで、少量の溶接金属7でもL字部8(図5)から離れた場所まで裾野を広げるように溶着できるため、効率良く接合強度の低下を防止できる。
【0049】
[4]上記[2]又は[3]において、凸条6は、溶接前から縦板5と一体形成されていると良い。そうすると、一体形成の縦板5は、簡素かつ最小限の部品点数で足りるので、生産管理等に都合が良い。
【0050】
[5]上記[4]において、凸条6は、溶接前の縦板5に別部材を予め接合して一体形成されている。そうすると、一体形成の縦板5は、簡素かつ最小限の部品点数で足りるので、生産管理等に都合が良い。その上、凸条6は、その一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属7となり溶接部を溶接するので、それに最適の物性を有する材料を選択できる。
【0051】
[6]上記[2]又は[3]において、溶接前の凸条6は、縦板5と横板4の何れにも属さない別体の鋳物であっても良い。この場合、縦板5が一体形成でないため、部品点数がその分だけ増加するものの、凸条6は、溶接金属7となり溶接部を溶接するので、それに最適の物性を有する材料を選択できる。板金の曲げ加工によって製造した吊り耳2に、鋳物の別部品による凸条6を組み合わせても良い。
【0052】
また、本構造以外のT継手を溶接する場合との区別が容易であるので、どうしてもビーム溶接できない込み入った溶接部に対し、手作業でアーク溶接等を施すことが頻発する場合には、縦板5と横板4が同種で同形状でも、用途別に溶接金属7の要否を適宜に区別できるので、生産効率に寄与できることもある。例えば、L字部8(図5)を強靱にする必要のある用途ならば、別部品の凸条6を追加して組み合わせてからビーム溶接すれば良く、そうでなければ、凸条6を省略して簡素な溶接すれば足りる。
【0053】
[7]上記[1]~[6]の何れかの本構造よる溶接を鉄道車両用電機品1に適用することができる。一例として、横板4は、鉄道車両用電機品1の筐体3の平板4を形成し、縦板5は、筐体3の平板4にT継手の構造をなして溶接される複数の吊り耳2の一部を形成すると良い。
【0054】
すなわち、鉄道車両用電機品1としてインバータ等が収納された筐体3は、その平板4が水平かつ平坦な横板4で形成されている。筐体3の平板4にT継手構造で溶接された吊り耳2で、鉄道車両のフレームに懸垂固定される。吊り耳2も基本的には金属製の立方体又は直方体であり、その外形の垂直壁を構成する縦板5における下方の端面を、上述した筐体3の平板4を形成する横板4に溶接して、懸垂固定金具として用いられる。
【0055】
本発明の実施形態に係るT継手の溶接方法(本方法)は、つぎのように総括できる。
[8]本方法は、縦板5の端面と、横板4の表面と、をT字形に突き合わせて溶接される溶接部を備えたT継手の溶接方法である。
【0056】
このように、複数の吊り耳2それぞれの一部が形成された縦板5を、横板4に溶接するため、つぎの手順を有する。まず、長手方向に延在する溶接部に沿う位置に、縦板5と一体又は別体の凸条6を設ける。また、凸条6の一部又は全部が溶融後に凝固する溶接金属7となって溶接部を溶接する。一方、溶接前に凸条6の外形をなしていた面のうち、横板4との接触面でない露出面よりも外側に、溶接後の溶接金属7を盛り上げた形状にして、溶接を完了する。
【0057】
本発明の実施形態に係る鉄道車両の生産方法(本生産方法)は、つぎのように総括できる。
[9]本生産方法は、縦板5の端面と、横板4の表面と、をT字形に突き合わせた溶接部をT継手構造で溶接した部材を用いる鉄道車両の生産方法である。
【0058】
鉄道車両用電機品1としてインバータ等が収納された筐体3は、その平板4が水平かつ平坦な横板4で形成されている。筐体3の平板4にT継手構造で溶接された吊り耳2で、鉄道車両のフレームに懸垂固定される。吊り耳2も基本的には金属製の立方体又は直方体であり、その外形の垂直壁を構成する縦板5における下方の端面を、上述した筐体3の平板4を形成する横板4に溶接して、懸垂固定金具として用いられる。
【0059】
このように、複数の吊り耳2それぞれの一部が形成された縦板5を、横板4に溶接するため、上記[8]に示した手順を有する。このような本生産方法において、インバータ等が収納された筐体3は、複数の吊り耳2が溶接される。それら複数の吊り耳2を鉄道車両のフレームに固定すれば、インバータ等が収納された筐体3の重量を懸垂し、車両走行中の振動にも耐えられるように、関係部分についての取り付け組立が完了する。
【符号の説明】
【0060】
1 鉄道車両用電機品、2 吊り耳、3 筐体、4 上面(横板)、5 縦板、6 凸条、7 溶接金属、8 L字部、9 凸条部材
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図3
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