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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241212BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G15/20 555
G03G21/00 386
G03G21/00 500
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021081383
(22)【出願日】2021-05-13
(65)【公開番号】P2022175173
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168217
【弁理士】
【氏名又は名称】大村 和史
(72)【発明者】
【氏名】山名 真司
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-276971(JP,A)
【文献】特開2004-361715(JP,A)
【文献】特開2005-202219(JP,A)
【文献】特開昭58-178369(JP,A)
【文献】特開2004-286929(JP,A)
【文献】特開2019-008010(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0175645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/20
13/34
15/00
15/20
15/36
21/00-21/02
21/14
21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に形成されたトナー像を熱定着させる定着装置であって、
定着回転体、
前記定着回転体を加熱する熱源、
前記定着回転体の外周面と当接して当該定着回転体との間にニップ部を形成すると共に、当該定着回転体を従動回転させる加圧回転体、
前記加圧回転体を回転駆動させるモータ、
前記定着回転体に対する前記加圧回転体の当接圧を変更可能な当接圧変更機構、
前記定着回転体の表面温度を検出する温度検出部、
前記定着回転体を回転させながら目標温度まで昇温するウォームアップ時に、前記温度検出部によって検出された前記定着回転体の表面温度の温度上昇の情報に基づいて当該定着回転体が回転不良状態であるかどうかを検出する第1不良状態検出部、および
前記第1不良状態検出部によって前記定着回転体が回転不良状態であることが検出されたとき、前記熱源および前記モータを制御して、前記定着回転体の加熱および前記加圧回転体の回転を停止させる停止動作を実行する制御部を備え
前記制御部は、前記停止動作を実行した後、前記定着回転体の加熱および前記加圧回転体の回転を再開するリトライ動作を実行し、前記停止動作および前記リトライ動作を連続して所定回数実行した後に、前記第1不良状態検出部によって前記定着回転体が回転不良状態であることが検出されたときは、エラー通知を実行すると共に前記定着装置の起動を停止し、さらに
前記制御部は、前記停止動作を実行した後であって前記リトライ動作を実行する前に、前記当接圧変更機構および前記モータを制御して、前記定着回転体に対する前記加圧回転体の当接圧を低当接圧とした状態で当該加圧回転体を所定時間回転させる低当接圧回転動作を実行する、定着装置。
【請求項2】
前記低当接圧回転動作を行うとき、前記温度検出部によって検出された前記定着回転体の表面温度の温度降下の情報に基づいて当該定着回転体が回転不良状態であるかどうかを検出する第2不良状態検出部を備え、
前記制御部は、前記第2不良状態検出部によって前記定着回転体が回転不良状態であることが検出されたとき、前記熱源および前記モータを制御して、前記定着回転体を加熱しながら前記加圧回転体を所定時間回転させる加熱回転動作を実行する、請求項記載の定着装置。
【請求項3】
前記定着装置に対する供給電圧の値に応じて設定された複数の上昇速度閾値を記憶する閾値記憶部、および
前記定着装置に対する供給電圧を検出する供給電圧検出部を備え、
前記第1不良状態検出部は、前記温度検出部によって検出された温度の上昇速度が、前記供給電圧検出部によって検出された供給電圧に基づいて選択した前記上昇速度閾値以上のとき、前記定着回転体が回転不良状態であることを検出する、請求項1または2記載の定着装置。
【請求項4】
前記第1不良状態検出部によって前記定着回転体が回転不良状態であることが検出された積算回数を記憶する積算回数記憶部、および、
前記積算回数を表示可能な表示部を備える、請求項1からのいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載の定着装置を備える、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は定着装置および画像形成装置に関し、特にたとえば、定着回転体と加圧回転体とを備え、記録媒体上に形成されたトナー像を熱定着させる、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の定着装置の一例が特許文献1に開示される。特許文献1の定着装置は、定着ベルト(定着回転体)と、加圧ローラ(加圧回転体)と、定着ベルトを介して加圧ローラに圧接してニップ部を形成する固定部材と、定着ベルトの内周面に対向するように固設されて定着ベルトを加熱するパイプ状の金属部材と、ニップ部上流側で定着ベルトの表面温度を検知する第1温度検知手段と、ニップ部下流側で加圧回転体の表面温度を検知する第2温度検知手段とを備える。そして、タイミングを合わせて検知された2つの温度検知手段の検知温度の温度差が所定の閾値を超えたときに、加熱手段による加熱を停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-186001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、定着回転体の温度を検出する温度センサに加えて、加圧回転体の温度を検出する温度センサも必要となるため、コストがかかる。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、定着装置および画像形成装置を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、定着回転体が回転不良状態であることを簡単な構成で可及的速やかに検出できる、定着装置および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、記録媒体上に形成されたトナー像を熱定着させる定着装置であって、定着回転体、定着回転体を加熱する熱源、定着回転体の外周面と当接して当該定着回転体との間にニップ部を形成すると共に、当該定着回転体を従動回転させる加圧回転体、加圧回転体を回転駆動させるモータ、定着回転体に対する加圧回転体の当接圧を変更可能な当接圧変更機構、定着回転体の表面温度を検出する温度検出部、定着回転体を回転させながら目標温度まで昇温するウォームアップ時に、温度検出部によって検出された定着回転体の表面温度の温度上昇の情報に基づいて当該定着回転体が回転不良状態であるかどうかを検出する第1不良状態検出部、および第1不良状態検出部によって定着回転体が回転不良状態であることが検出されたとき、熱源およびモータを制御して、定着回転体の加熱および加圧回転体の回転を停止させる停止動作を実行する制御部を備え、制御部は、停止動作を実行した後、定着回転体の加熱および加圧回転体の回転を再開するリトライ動作を実行し、停止動作およびリトライ動作を連続して所定回数実行した後に、第1不良状態検出部によって定着回転体が回転不良状態であることが検出されたときは、エラー通知を実行すると共に定着装置の起動を停止し、さらに制御部は、停止動作を実行した後であってリトライ動作を実行する前に、当接圧変更機構およびモータを制御して、定着回転体に対する加圧回転体の当接圧を低当接圧とした状態で当該加圧回転体を所定時間回転させる低当接圧回転動作を実行する、定着装置である。
【0008】
第1の発明によれば、定着回転体の表面温度の温度上昇の情報に基づいて定着回転体が回転不良状態であるかどうかを判定するので、簡単な構成で、定着回転体が回転不良状態であることを速やかに検出できる。したがって、定着回転体の異常昇温による損傷を適切に防止できる。
【0011】
の発明は、第の発明に従属し、低当接圧回転動作を行うとき、温度検出部によって検出された定着回転体の表面温度の温度降下の情報に基づいて当該定着回転体が回転不良状態であるかどうかを検出する第2不良状態検出部を備え、制御部は、第2不良状態検出部によって定着回転体が回転不良状態であることが検出されたとき、熱源およびモータを制御して、定着回転体を加熱しながら加圧回転体を所定時間回転させる加熱回転動作を実行する。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、定着装置に対する供給電圧の値に応じて設定された複数の上昇速度閾値を記憶する閾値記憶部、および定着装置に対する供給電圧を検出する供給電圧検出部を備え、第1不良状態検出部は、温度検出部によって検出された温度の上昇速度が、供給電圧検出部によって検出された供給電圧に基づいて選択した上昇速度閾値以上のとき、定着回転体が回転不良状態であることを検出する。
【0013】
の発明は、第1から第のいずれかの発明に従属し、第1不良状態検出部によって定着回転体が回転不良状態であることが検出された積算回数を記憶する積算回数記憶部、および、積算回数を表示可能な表示部を備える。
【0014】
の発明は、第1から第のいずれかの発明に係る定着装置を備える、画像形成装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、定着回転体の表面温度の情報に基づいて定着回転体が回転不良状態であるかどうかを判定するので、簡単な構成で、定着回転体が回転不良状態であることを速やかに検出できる。したがって、たとえば、定着回転体の異常昇温による損傷を適切に防止できる。
【0016】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の第1実施例である画像形成装置の内部構造を示す概略断面図である。
図2】定着装置を示す概略断面図である。
図3】定着装置が備える加圧ローラを示す平面図である。
図4】定着装置が備える加圧ユニットを示す斜視図である。
図5】加圧ユニットを示す概略正面図である。
図6】加圧ユニットが備える離接カムを示す正面図である。
図7】画像形成装置の電気的な構成の一例を示すブロック図である。
図8図7に示すRAMのメモリマップの一例を示す図である。
図9図7に示すCPUが実行するウォームアップ処理の一例を示すフロー図である。
図10】この発明の第2実施例である画像形成装置のCPUが実行するウォームアップ処理の一例を示すフロー図である。
図11】この発明の第3実施例である画像形成装置のCPUが実行するウォームアップ処理の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施例]
図1を参照して、この発明の第1実施例である画像形成装置10は、電子写真方式によって用紙に多色または単色の画像を形成する装置である。詳細は後述するように、画像形成装置10は、用紙(記録媒体)上に形成されたトナー像を熱定着させる定着装置46を備える。
【0019】
先ず、画像形成装置10の基本構成について概略的に説明する。なお、この明細書では、ユーザの立ち位置に対向する面、つまり操作ユニット106(図7参照)が設けられる側の面を前面(正面)として画像形成装置10およびその構成部材の前後方向(奥行方向)を規定する。また、画像形成装置10およびその構成部材の左右方向(横方向)は、ユーザから画像形成装置10を見た状態を基準として規定する。
【0020】
図1に示すように、この第1実施例では、画像形成装置10は、複写機能、プリンタ機能、スキャナ機能およびファクシミリ機能などを有する複合機(MFP:Multifunction Peripheral)である。画像形成装置10は、画像形成部30等を備える装置本体12、およびその上方に配置される画像読取装置14を含む。
【0021】
画像読取装置14は、透明材によって形成される原稿載置台16を備える。原稿載置台16の上方には、ヒンジ等を介して原稿押えカバー18が開閉自在に取り付けられる。この原稿押えカバー18には、原稿載置トレイ20に載置された原稿を画像読取位置22に対して1枚ずつ自動的に給紙するADF(自動原稿送り装置)24が設けられる。また、原稿載置台16の前面側には、ユーザによる印刷指示等の入力操作を受け付ける操作ユニット106が設けられる。この操作ユニット106には、タッチパネルディスプレイ等のディスプレイおよび各種の操作ボタン等が適宜設けられる。
【0022】
また、画像読取装置14には、光源、複数のミラー、結像レンズおよびラインセンサ等を備える画像読取部26が内蔵される。画像読取部26は、原稿表面を光源によって露光し、原稿表面から反射した反射光を複数のミラーによって結像レンズに導く。そして、結像レンズによって反射光をラインセンサの受光素子に結像させる。ラインセンサでは、受光素子に結像した反射光の輝度や色度が検出され、原稿表面の画像に基づく画像データが生成される。ラインセンサとしては、CCD(Charge Coupled Device)またはCIS(Contact Image Sensor)等が用いられる。
【0023】
装置本体12には、CPU100、RAM102およびHDD104等(図7参照)を含む制御部28、および画像形成部30などが内蔵される。制御部28(具体的にはCPU100)は、ユーザによる操作ユニット106への入力操作などに応じて、定着装置46を含む画像形成装置10の各部位に制御信号を送信し、画像形成装置10に種々の動作を実行させる。
【0024】
画像形成部30は、露光ユニット32、現像器34、感光体ドラム36、クリーナユニット38、帯電器40、中間転写ベルトユニット42、二次転写ローラ44および定着装置46等を備え、給紙トレイ48または手差し給紙トレイ50から搬送される用紙上に画像を形成し、画像形成済みの用紙を排紙トレイ52に排出する。用紙上に画像を形成するための画像データとしては、画像読取部26で読み取った画像データまたは外部コンピュータから送信された画像データ等が利用される。
【0025】
なお、画像形成装置10において扱われる画像データは、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の4色のカラー画像に応じたものである。このため、現像器34、感光体ドラム36、クリーナユニット38および帯電器40のそれぞれは、各色に応じた4種類の潜像を形成するように4個ずつ設けられ、これらによって4つの画像ステーションが構成される。
【0026】
感光体ドラム36は、導電性を有する円筒状の基体の表面に感光層が形成された像担持体であり、帯電器40は、この感光体ドラム36の表面を所定の電位に帯電させる部材である。また、露光ユニット32は、レーザ出射部および反射ミラー等を備えたレーザスキャニングユニット(LSU)として構成され、帯電された感光体ドラム36の表面を露光することによって、画像データに応じた静電潜像を感光体ドラム36の表面に形成する。現像器34は、感光体ドラム36の表面に形成された静電潜像を4色(YMCK)のトナーによって顕像化するものである。また、クリーナユニット38は、現像および画像転写後における感光体ドラム36の表面に残留したトナーを除去する。
【0027】
中間転写ベルトユニット42は、中間転写ベルト54、駆動ローラ56、従動ローラ58、および4つの中間転写ローラ60などを備え、感光体ドラム36の上方に配置される。中間転写ベルト54は、可撓性を有する無端状のベルトであって、駆動ローラ56および従動ローラ58等の複数のローラによって張架されて、その表面(外周面)が感光体ドラム36の表面に当接するように配置される。この中間転写ベルト54は、駆動ローラ56の回転駆動に伴い、所定方向に回転(周回移動)する。中間転写ローラ60は、中間転写ベルト54を挟んで各感光体ドラム36と対向する位置のそれぞれに配置される。画像形成時には、この中間転写ローラ60を用いて、各感光体ドラム36に形成された各色のトナー像を中間転写ベルト54に順次重ねて転写することで、中間転写ベルト54上に多色のトナー像が形成される。
【0028】
二次転写ローラ44は、中間転写ベルト54を挟んで駆動ローラ56と対向するように設けられる。この二次転写ローラ44と中間転写ベルト54との間の二次転写ニップ部を用紙が通過することによって、中間転写ベルト54に形成されたトナー像が用紙に転写される。
【0029】
定着装置46は、定着ベルト62および加圧ローラ64等を備え、二次転写ローラ44の上方(用紙搬送方向の下流側)に配置される。定着ベルト62内には、定着パッド76および熱源82など(図2参照)が設けられており、定着ベルト62は、熱源82によって所定の定着温度(たとえば170℃)となるように加熱される。また、加圧ローラ64は、定着パッド76との間で定着ベルト62を押圧するように設けられる。この加圧ローラ64と定着ベルト62との間の定着ニップ部N(図2参照)を用紙が通過することによって、用紙に転写されたトナー像が溶融、混合および圧接されて、用紙に対してトナー像が熱定着される。定着装置46の具体的構成については後述する。
【0030】
このような装置本体12内には、給紙トレイ48または手差し給紙トレイ50からの用紙をレジストローラ68、二次転写ローラ44および定着装置46を経由させて排紙トレイ52に送るための第1用紙搬送路L1が形成される。また、用紙に対して両面印刷を行う際に、片面印刷が終了して定着装置46を通過した後の用紙を、二次転写ローラ44の用紙搬送方向の上流側において第1用紙搬送路L1に戻すための第2用紙搬送路L2が形成される。この第1用紙搬送路L1および第2用紙搬送路L2には、用紙に対して補助的に推進力を与えるための複数の搬送ローラ66が適宜設けられる。
【0031】
続いて、図2図6を参照して、定着装置46の機械的な構成について説明する。定着装置46は、定着回転体の一例である定着ベルト62と加圧回転体の一例である加圧ローラ64とを備え、これらの間に形成される定着ニップ部Nに用紙を通過させることによって、用紙にトナー像を定着させる。
【0032】
具体的には、図2に示すように、定着装置46は、定着ベルト62等を有するヒータユニット70と、加圧ローラ64等を有する加圧ユニット72とを含む。これらヒータユニット70および加圧ユニット72が備える各部材は、図示しない定着フレームによって所定の配置態様で一体的に保持される。
【0033】
ヒータユニット70は、略円筒状に形成されて前後方向(用紙の幅方向)に延びる定着ベルト62を備える。定着ベルト62としては、たとえば、ポリイミド等の合成樹脂またはニッケル等の金属によって形成された帯状の基材の表面に離型層を設けたものが用いられる。このような定着ベルト62は、その軸線回りに回転可能に設けられており、その内径は、たとえば30mmである。また、定着ベルト62の内部には、定着パッド76、支持部材78、反射板80および熱源82などが設けられる。
【0034】
定着パッド76は、定着ベルト62の内周面と摺接するように固定的に設けられる固定部材であって、定着ベルト62の軸方向に沿って延びる長板状に形成される。定着パッド76は、その外周面(少なくとも定着ベルト62との摺接面)に摺接シート76aを有しており、この摺接シート76aには、定着ベルト62との摩擦力を低減するための摺動オイルが塗布される。定着パッド76の長さは、定着ベルト62の軸方向長さ(幅)と同じ大きさである。
【0035】
支持部材78は、定着パッド76を定着ベルト62の内周面に押し当てながら支持する部材であって、その両端部は定着フレームに固定されている。この第1実施例では、支持部材78は、断面略L字状に形成されており、定着パッド76が固定される長板状の固定部78aと、固定部78aの幅方向端部から立設される長板状の立設部78bとを有している。また、支持部材78には、熱源82側の面を覆うように、薄板状の反射板80が取り付けられる。
【0036】
熱源82は、定着ベルト62を加熱するための部材であって、定着ベルト62の軸方向に沿って延びるように設けられる。熱源82としては、ハロゲンランプ等のランプヒータが用いられる。この第1実施例では、熱源82は、定着ベルト62の軸方向中央部を加熱する第1ランプヒータ82aと、定着ベルト62の軸方向両端部を加熱する第2ランプヒータ82bとを含む。第1ランプヒータ82aおよび第2ランプヒータ82bは、用紙幅に応じて使い分けられる。
【0037】
加圧ユニット72は、定着ベルト62を挟んで定着パッド76と対向する位置に配置される加圧ローラ64を備える。加圧ローラ64は、定着ベルト62の軸方向と平行に延びるように設けられ、定着パッド76との間で定着ベルト62を押圧することで、定着ベルト62との間に定着ニップ部Nを形成する。
【0038】
具体的には、図3に示すように、加圧ローラ64は、円筒状のローラ部84を備える。ローラ部84は、アルミニウム等の金属によって形成される円筒状の芯材と、シリコーンゴム等の弾性材によって形成され、芯材の表面を覆う弾性層と、フッ素系樹脂などの摩擦係数の低い材料によって形成され、弾性層の表面を覆う離型層とを有する。ローラ部84の軸方向長さは、定着ベルト62の軸方向長さと同じ大きさである。
【0039】
また、この第1実施例では、ローラ部84の両端部には、シリコーンゴム等の摩擦抵抗の大きい(つまりグリップ力がある)材料によって形成される薄肉のグリップ部86が設けられる。グリップ部86は、定着ニップ部Nを通過する用紙の幅方向外側(用紙幅外)の位置に配置され、その厚み(離型層からの突出高さ)は、たとえば200μmである。このようなグリップ部86をローラ部84に設けることによって、後述の第2実施例のように加圧ローラ64を低当接圧状態にしても、加圧ローラ64の回転力を定着ベルト62に適切に伝えることができる。
【0040】
加圧ローラ64のローラ軸88の一方端部(後端部)には、図示しないギアまたはギア列を介して第1モータ90(図7参照)が連結される。加圧ローラ64は、この第1モータ90からの駆動力を受けて回転駆動され、この加圧ローラ64の回転駆動に伴い、定着ベルト62が加圧ローラ64の回転方向と逆方向に従動回転する。すなわち、加圧ローラ64は、定着ベルト62の外周面と当接して定着ベルト62との間に定着ニップ部Nを形成すると共に、この定着ニップ部Nを介して定着ベルト62に回転駆動力を伝達することによって、定着ベルト62を従動回転させる。
【0041】
図2に戻って、定着装置46は、定着ベルト62の表面温度を検出するサーモパイル等の温度センサ94を備える。温度センサ94は、たとえば、定着ベルト62の軸方向中央部の表面温度を検出する第1温度センサと、定着ベルト62の軸方向端部の表面温度を検出する第2温度センサとを含む。温度センサ94の種類は、特に限定されないが、後述する定着ベルト62の回転不良検出処理をより適切に実行するためには、高速応答が可能なサーモパイルを用いることが好ましい。
【0042】
また、定着ニップ部Nの用紙搬送方向における下流側には、定着ベルト62に対する用紙の巻き付きを防止するための剥離板96が設けられる。
【0043】
さらに、定着装置46は、定着ベルト62に対する加圧ローラ64の当接圧を変更可能な当接圧変更機構110(離接機構)を備える。この第1実施例では、加圧ユニット72に当接圧変更機構110が設けられ、定着ベルト62に対して加圧ローラ64を離接方向に移動させることで、定着ベルト62に対する加圧ローラ64の当接圧(押圧力)が変更される。また、この当接圧変更機構110は、定着ベルト62に対して加圧ローラ64を完全に離間させることも可能である。以下、図4図6を参照して、当接圧変更機構110の一例について説明する。ただし、当接圧変更機構110の具体的構成は、これに限定されない。
【0044】
図4および図5に示すように、当接圧変更機構110は、加圧ユニット72の両端部に設けられて、加圧ローラ64の軸方向と直交する方向に延びる一対の加圧レバー112を備える。加圧レバー112のそれぞれは、その中央部において、軸受114を介して加圧ローラ64のローラ軸88を回転可能に支持する。また、加圧レバー112のそれぞれは、その一方端部(下端部)に、定着フレームに設けられた回動支軸116と係合する係合孔118を有する。回動支軸116は、定着ベルト62の軸方向と平行に延びるように設けられており、加圧レバー112は、回動支軸116を支点として定着ベルト62と離接する方向(左右方向)に回動可能である。加圧ローラ64は、この加圧レバー112の回動に伴い、定着ベルト62と離接する方向に変位する。さらに、加圧レバー112のそれぞれは、その他端部(上端部)に、付勢部材の一例である引張コイルばね(図示せず)の一方端部を係止する係止部120を有する。引張コイルばねの他端部は、定着フレームに係止されており、加圧レバー112(延いては加圧ローラ64)には、加圧ローラ64が定着ベルト62に圧接する方向(左方向)に所定の付勢力が作用する。
【0045】
また、当接圧変更機構110は、定着ベルト62の軸方向と平行に延びるように設けられるカム軸122を備える。カム軸122の両端部は、定着フレームによって回転可能に支持される。また、カム軸122の両端部には、加圧レバー112の隣接位置に離接カム124が設けられ、加圧レバー112には、離接カム124との当接部126が設けられる。さらに、カム軸122の一方端部(後端部)には、図示しないギアまたはギア列を介して第2モータ128(図7参照)が連結される。カム軸122は、第2モータ128からの駆動力を受けてその軸線回りに正逆方向に回転駆動され、離接カム124は、カム軸122と共に回転する。
【0046】
図6に示すように、離接カム124は、領域R1において、カム軸122の軸中心からの距離がLsからLeまで徐々に遠くなる形状となっている。このため、離接カム124は、第2モータ128からの回転駆動力を受けて、当接部126との当接位置が領域R1となる回転位置において正逆方向に回転することで、加圧レバー112を回動させることができ、定着ベルト62に対する加圧ローラ64の当接圧(押圧力)を変更することができる。なお、カム軸122の軸中心からの距離が最も遠くなる位置Eにおいて離接カム124が当接部126と当接した状態(図5の状態)では、加圧ローラ64が定着ベルト62から離間した状態となる。
【0047】
このような定着装置46は、画像形成時には、定着ベルト62が所定の定着温度を保ち、また、加圧ローラ64が定着ベルト62に所定の当接圧(押圧力)で当接した状態の定着ニップ部Nに対して用紙を通過させることで、用紙にトナー像を定着させる。したがって、起動時などにおいて定着ベルト62の温度が低いとき(たとえば、40℃以下のとき)には、用紙に画像形成を行う前に、定着ベルト62を回転させながら所定の定着温度(目標温度)まで昇温するウォームアップ動作が実行される。この際、定着ベルト62の温度が低い段階では、定着パッド76の摺動オイルの粘度が高くなり、定着ベルト62と定着パッド76との間に高い摩擦力が生じる。このため、定着ベルト62が加圧ローラ64に対してスリップしたり、加圧ローラ64を駆動する第1モータ90に大きな負荷がかかって第1モータ90がロックされたりして、定着ベルト62に回転不良が生じる場合がある。回転不良の状態で定着ベルト62が加熱されると、定着ベルト62の一部が急激に加熱されて異常昇温し、定着ベルト62に歪みや剥離などの損傷が生じてしまう。
【0048】
このため、従来技術では、定着ベルト62の温度が規定温度(高温警告温度)に達したときに、定着ベルト62の加熱を停止する制御を行うものが提案されている。しかしながら、熱源82は定着ベルト62を内面側から加熱するのに対して、温度センサ94は定着ベルト62の表面(外面)温度を検出するので、定着ベルト62の厚み分のタイムラグ(検出遅れ)が生じ、定着ベルト62の内面側の温度が規定温度以上となってしまう場合があった。一方、上述の特許文献1の技術のように、加圧ローラ64の温度を検出する温度センサを別途設けると、コストが嵩む。したがって、定着ベルト62が回転不良状態であることを簡単な構成で可及的速やかに検出する技術が必要となる。また、定着ベルト62を回転不良状態から適切に復帰(再起動)させる技術も必要となる。
【0049】
そこで、この第1実施例では、定着ベルト62を回転させながら目標温度まで昇温するウォームアップ時において、定着ベルト62の表面温度の上昇速度(温度上昇の情報の一例)を参照することで、定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを速やかに検出できるようにした。これは、定着ベルト62が回転しているときは、定着ベルト62は加圧ローラ64に熱を奪われながら昇温するのに対して、定着ベルト62が停止しているときは、定着ベルト62から加圧ローラ64への熱の移動が少なくなるため、回転中よりも停止中の方が温度上昇速度が速くなるという、この発明者らによって見出され、検証実験によって確認された知見に基づくものである。
【0050】
また、この第1実施例では、ウォームアップ時に定着ベルト62が回転不良状態であることを検出すると、定着ベルト62の加熱および加圧ローラ64の回転を停止させる停止動作を実行する。また、停止動作後、定着ベルト62の加熱および加圧ローラ64の回転を再開するリトライ動作を実行する。そして、リトライ動作によって定着ベルト62が正常回転状態に復帰すると、印刷ジョブ等の通常ジョブを実行する。一方、回転不良状態の検出が続いたときは、エラー通知を実行すると共に、定着装置46の起動を停止する。
【0051】
具体的には、ウォームアップ時において、温度センサ94によって定着ベルト62の表面温度を所定時間ごとに検出し、この検出結果に基づいて、定着ベルト62の表面温度の上昇速度X(℃/s)を検出する。ここで、上昇速度Xとは、所定時間当たりの昇温量(昇温勾配)のことを言い、X=(Un-Un-1)/Tで算出される。Tは、時間(秒)であり、たとえば0.1秒に設定される。また、Unは、現在の検出温度(℃)であり、Un-1は、現在からT秒前の検出温度(℃)である。そして、検出した上昇速度Xが予め設定した閾値Y(上昇速度閾値、たとえば50℃/s)以上のとき、定着ベルト62が回転不良状態である(スリップ発生)と判断する。この際、誤検知を低減するため、上昇速度Xの検出は複数回行い、所定回数K(たとえば3~5回)以上連続して上昇速度Xが閾値Y以上になったとき、定着ベルト62が回転不良状態であると判断することが好ましい。
【0052】
また、この第1実施例では、温度センサ94が定着ベルト62の軸方向中央部の表面温度を検出する第1温度センサと、定着ベルト62の軸方向端部の表面温度を検出する第2温度センサとを含むので、上昇速度Xに基づく回転不良状態の判定は、第1温度センサおよび第2温度センサの双方で個別に行うとよい。この際、閾値Yは、第1温度センサと第2温度センサとで異なる値に設定しておくこともできる。そして、第1温度センサおよび第2温度センサのどちらか一方でも上昇速度Xが閾値Y以上になったときに、定着ベルト62が回転不良状態であると判断するとよい。ただし、第1温度センサおよび第2温度センサの双方において上昇速度Xが閾値Y以上になったときに、定着ベルト62が回転不良状態であると判断してもよい。また、上昇速度Xに基づく回転不良状態の判定は、第1温度センサおよび第2温度センサのいずれか一方のみを用いて行うこともできる。
【0053】
そして、上昇速度Xに基づいて定着ベルト62が回転不良状態であると判断されたときには、直ちに、定着ベルト62に対する加熱を停止すると共に、加圧ローラ64の回転を停止する停止動作を実行する。これにより、定着ベルト62の異常昇温による損傷を適切に防止できる。
【0054】
また、定着ベルト62の加熱回転を停止した後には、定着ベルト62の加熱および加圧ローラ64の回転を再開するリトライ動作を実行する。そして、リトライ動作によって定着ベルト62が正常回転状態に復帰すると、つまり回転不良状態が検出されなくなると、印刷ジョブ等の通常ジョブを実行する。一方、停止動作およびリトライ動作を連続して所定回数M(たとえば3回)だけ実行しても、定着ベルト62が回転不良状態であることが検出されたときは、異常(再起動困難)と判断し、メンテナンス表示およびマシントラブル表示などのエラー通知を実行すると共に、定着装置46の起動を停止する。このエラー通知には、操作ユニット106のディスプレイにトラブルコードを表示したり、警告ランプを点灯させたり、通信回線を用いて所定のサービスに連絡したりすることを含む。また、異常時には、定着装置46を使用するコピーおよびプリント等の用紙への印刷を伴う動作は操作不能とする一方で、定着装置46を使用しないスキャンおよびファクス等の動作は操作可能としてもよい。ウォームアップ時における具体的な定着装置46の制御方法については、フロー図を用いて後で説明する。
【0055】
図7は、画像形成装置10の電気的な構成の一例を示すブロック図である。図7に示すように、画像形成装置10は、CPU100を含み、CPU100には、バスを介して、RAM102、HDD104、操作ユニット106、画像読取装置14および画像形成部30などが接続される。
【0056】
CPU100は、HDD104に記憶されたプログラムに従って、定着装置46を含む画像形成装置10の全体的な制御を司る。また、CPU100は、この第1実施例のウォームアップ処理を実行し、温度検出部および第1不良状態検出部などとして機能する。RAM102は、CPU100のワーキング領域およびバッファ領域として用いられる。HDD104は、CPU100が画像形成装置10の各部位の動作を制御するための制御プログラムおよび必要なデータ等を適宜記憶する。ただし、HDDに代えて、またはHDDとともに、SSD、フラッシュメモリ、EEPROMなどの他の不揮発性メモリが用いられてもよい。
【0057】
操作ユニット106は、タッチパネル付きのディスプレイおよび操作ボタン等を含む。ディスプレイは、LCDなどの汎用のモニタであり、図示しない表示制御回路を介してCPU100に接続される。表示制御回路は、GPUおよびVRAMなどを含む。CPU100の指示の下、GPUは、RAM102に記憶された画像生成データを用いて、ディスプレイに種々の画面を表示するための表示画像データをVRAMに生成し、生成した表示画像データをディスプレイに出力する。タッチパネルは、タッチ有効範囲内でのタッチ操作を検出して、そのタッチ操作の位置を示すタッチ座標データをCPU100に出力する。操作ボタンは、ハードウェアキーであり、ホームボタン、節電キーおよび電源ボタン等の各種のキーないしボタンを含む。
【0058】
画像読取装置14および画像形成部30は、上記の通りであり、画像形成部30は、定着装置46などを含む。また、定着装置46は、熱源82、温度センサ94、第1モータ90および第2モータ128等を含む。
【0059】
上述のように、熱源82は、定着ベルト62を内面側から加熱するためのヒータであって、第1ランプヒータ82aおよび第2ランプヒータ82bを含む。温度センサ94は、定着ベルト62の表面温度を検出するためのセンサであって、第1温度センサおよび第2温度センサを含む。温度センサ94は、CPU100からの指示に基づいて、検出結果(定着ベルト62の表面温度に応じた信号)をCPU100に出力する。CPU100は、温度センサ94による検出結果に基づいて、定着ベルト62の表面温度が所望の定着温度となるように、熱源82を制御する。また、この第1実施例では、CPU100は、ウォームアップ時において、温度センサ94による検出結果に基づいて、定着ベルト62の表面温度の上昇速度Xを算出し、定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを判断する。
【0060】
第1モータ90は、加圧ローラ64を回転駆動するためのモータであって、CPU100からの制御信号に基づいて、加圧ローラ64が所望の回転速度となるように、モータ軸を回転させる。第2モータ128は、カム軸122を回転駆動するためのモータであって、CPU100からの制御信号に基づいて、離接カム124が所望の回転位置となるように、モータ軸を回転させる。すなわち、CPU100は、第2モータ128のモータ軸の回転位置(角度)を制御することによって、離接カム124の回転位置を制御して、定着ベルト62と加圧ローラ64との当接圧を制御する。
【0061】
図8は、RAM102のメモリマップ200の一例を示す図である。図8に示すように、RAM102は、プログラム記憶領域202およびデータ記憶領域204を含む。RAM102のプログラム記憶領域202には、操作検出プログラム202a、画像形成プログラム202b、回転不良検出プログラム202cおよび再起動プログラム202d等が記憶される。
【0062】
操作検出プログラム202aは、操作ユニット106を含む画像形成装置10の各部への操作を検出するためのプログラムである。画像形成プログラム202bは、感光体ドラム36等のコンポーネントを制御して、多色または単色の画像を用紙に印刷するためのプログラムである。回転不良検出プログラム202cは、温度センサ94による検出結果に基づいて定着ベルト62の表面温度の上昇速度Xを算出し、この上昇速度Xに基づいて定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを判断するためのプログラムである。再起動プログラム202dは、熱源82および第1モータ90等を制御して、定着ベルト62の加熱回転を停止した後に、定着ベルト62の加熱および加圧ローラ64の回転を再開するリトライ動作を実行するためのプログラムである。この再起動プログラム202dは、リトライ動作を実行しても異常が解消されないときに、エラー通知を実行すると共に、定着装置46の起動を停止するプログラムを含む。
【0063】
なお、図示は省略するが、プログラム記憶領域202には、CPU100で各種の機能を実行するための他のプログラムも適宜記憶される。
【0064】
また、RAM102のデータ記憶領域204には、設定値テーブル204a、温度データ204bおよびカム位置データ204cなどが記憶される。
【0065】
設定値テーブル204aは、定着装置46におけるウォームアップ動作の実行に用いられる設定値、たとえば、定着ベルト62の目標温度、加圧ローラ64の目標回転速度および加圧ローラ64の目標当接圧、ならびに、定着ベルト62の回転不良状態の検出に用いられる温度センサ94の検出時間T(検出間隔)、閾値Yおよび所定回数K,Mなどのデータを記憶するテーブルである。
【0066】
温度データ204bは、温度センサ94による測定値、つまり定着ベルト62の表面温度のデータである。また、温度データ204bには、温度センサ94の測定値から算出した上昇速度X(昇温勾配)も含まれる。
【0067】
カム位置データ204cは、離接カム124のカム位置を識別するためのデータであり、たとえば、目標位置、低当接圧位置(圧解除位置)および離間位置などに離接カム124が位置することを示すデータを含む。ここで、目標位置とは、加圧ローラ64の当接圧が紙種に応じた所定の当接圧(目標当接圧)となるカム位置である。また、低当接圧位置とは、加圧ローラ64の当接圧が圧解除状態(定着ベルト62がスリップしない程度の低当接圧)となるカム位置である。さらに、離間位置とは、加圧ローラ64が定着ベルト62から離間した状態となるカム位置である。
【0068】
なお、図示は省略するが、データ記憶領域204には、制御プログラムの実行に必要なタイマ(カウンタ)またはレジスタが設けられたり、制御プログラムの実行に必要な他のデータが記憶されたりする。
【0069】
上述のような定着装置46(画像形成装置10)における動作は、CPU100がRAM102に読み出した制御プログラムを実行することによって実現される。以下、図9に示すフロー図を用いて、定着装置46におけるウォームアップ処理(回転不良検出処理および再起動処理)の一例について説明する。
【0070】
図9に示すように、ウォームアップ処理を開始すると、CPU100は、ステップS1において、加圧ローラ64の回転を開始する。ここでは、第1モータ90に制御信号を送信して、加圧ローラ64を所定の回転速度(目標回転速度)で回転させる。なお、定着ベルト62は、この加圧ローラ64の回転に伴って従動回転する。次のステップS3では、定着ベルト62の加熱を開始する。すなわち、熱源82に制御信号を送信して、熱源82を発熱させる。定着ベルト62は、この熱源82の発熱に伴って昇温していく。
【0071】
続くステップS5では、スリップが発生しているかどうか、つまり定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを判断する。ここでは、温度センサ94による検出結果から上昇速度Xを複数回算出し、K回連続して上昇速度Xが閾値Y以上になったときに、定着ベルト62が回転不良状態であると判断する。ステップS5で“NO”であれば、つまり定着ベルト62が回転不良状態でない場合は、ステップS7に進む。ステップS7では、定着ベルト62の表面温度が目標温度に到達したかどうかを判断する。ステップS7で“NO”であれば、定着ベルト62が目標温度に到達するまで待ち、ステップS7で“YES”であれば、ステップS9に進む。ステップS9では、コピーおよびプリント等の通常ジョブを実施し、その後、この処理を終了する。
【0072】
一方、ステップS5で“YES”であれば、つまり定着ベルト62が回転不良状態である場合は、回転不良状態であることを検出した回数をインクリメントして、ステップS11に進む。ステップS11では、熱源82に制御信号を送信して、定着ベルト62の加熱を停止する。続くステップS13では、第1モータ90に制御信号を送信して、加圧ローラ64の回転を停止する。
【0073】
続くステップS15では、スリップの発生は所定回数M以上かどうか、つまり定着ベルト62が回転不良状態であることを検出した回数がM回に達したかどうかを判断する。ステップS15で“NO”であれば、つまりスリップの発生が所定回数M未満の場合は、ステップS1に戻る。つまり、リトライ動作を実行する。一方、ステップS15で“YES”であれば、つまりスリップの発生が所定回数M以上の場合には、ステップS17に進む。
【0074】
ステップS17では、異常を通知する。たとえば、操作ユニット106に制御信号を送信して、操作ユニット106のディスプレイにマシントラブルが発生したことを示すトラブルコードを表示する。続くステップS19では、定着装置46の起動を停止し、その後、この処理を終了する。
【0075】
以上のように、この第1実施例によれば、定着ベルト62の表面温度の上昇速度に基づいて定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを判定するので、加圧ローラ64の表面温度を検出するための温度センサを別途設けたり、定着ベルト62の回転を検知するエンコーダ等を別途設けたりすることなく、つまり簡単な構成で、定着ベルト62が回転不良状態であることを速やかに検出できる。したがって、定着ベルト62の異常昇温による損傷を適切に防止できる。
【0076】
[第2実施例]
次に、図10を参照して、この発明の第2実施例である画像形成装置10について説明する。この第2実施例では、リトライ動作を実行する前に低当接圧回転動作を実行する点が上述の第1実施例と異なる。その他の部分については同様であるので、上述の第1実施例と共通する部分については、同じ参照番号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0077】
この第2実施例では、定着ベルト62の回転不良状態が検出されて停止動作を実行した後に、定着ベルト62に対する加圧ローラ64の当接圧を低当接圧(定着ベルト62がスリップしない程度の低当接圧)とした状態で、加圧ローラ64を所定時間B(たとえば1.0秒)だけ回転させる低当接圧回転動作を実行する。このように、定着ベルト62に対する加圧ローラ64の荷重を弱めることで、定着ベルト62と定着パッド76との間の摩擦が小さくなり、定着ニップ部Nにおける定着ベルト62の変形も抑えられる。これにより、定着ベルト62が回転し易い状態となるので、この状態で定着ベルト62を所定時間Bだけ回転させて定着ベルト62および定着パッド76に摺動オイルを馴染ませることで、リトライ動作時に定着ベルト62が回転不良状態になり難くなる。
【0078】
以下、図10に示すフロー図を用いて、この第2実施例の定着装置46におけるウォームアップ処理の一例について説明する。ただし、ステップS21~S39の処理は、第1実施例のステップS1~S19の処理と同様であるので、説明を省略する。
【0079】
図10に示すように、CPU100は、ステップS35で“NO”であれば、つまり定着ベルト62が回転不良状態でない場合は、ステップS41に進む。ステップS41では、加圧ローラ64の定着圧を解除する。すなわち、当接圧変更機構110の第2モータ128に制御信号を送信して、離接カム124のカム位置を低当接圧位置にし、定着ベルト62に対する加圧ローラ64の当接圧を低当接圧にする。
【0080】
次のステップS43では、第1モータ90に制御信号を送信して、加圧ローラ64を所定時間Bだけ回転させた後、停止させる。続くステップS45では、定着圧を元に戻す。すなわち、第2モータ128に制御信号を送信し、離接カム124のカム位置を目標位置にして、定着ベルト62に対する加圧ローラ64の当接圧を紙種に応じた所定の当接圧に戻す。ステップS45が終了すると、ステップS21に戻る。
【0081】
この第2実施例によれば、第1実施例と同様に、簡単な構成で、定着ベルト62が回転不良状態であることを速やかに検出できる。また、リトライ動作を実行する前に低当接圧回転動作を実行するので、リトライ動作時に定着ベルト62が回転不良状態になることを適切に抑制できる。したがって、定着装置46(延いては画像形成装置10)を適切に再起動できる。
【0082】
[第3実施例]
続いて、図11を参照して、この発明の第3実施例である画像形成装置10について説明する。この第3実施例では、低当接圧回転動作時に定着ベルト62が回転不良状態であることを検出すると、加熱回転動作を実行する点が上述の第2実施例と異なる。その他の部分については同様であるので、上述の第1実施例および第2実施例と共通する部分については、同じ参照番号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0083】
この第3実施例では、CPU100は、上述の低当接圧回転動作時において、定着ベルト62の表面温度の降下速度(温度降下の情報の一例)を参照して、定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを速やかに検出する。つまり、CPU100は、第2不良状態検出部としても機能する。これは、定着ベルト62の加熱時とは逆に、定着ベルト62を加熱していない状態では、回転中よりも停止中の方が温度降下速度が遅くなるという、この発明者らによって見出され、検証実験によって確認された知見に基づくものである。
【0084】
具体的には、低当接圧回転動作時において、温度センサ94によって定着ベルト62の表面温度を所定時間ごとに検出し、この検出結果に基づいて、定着ベルト62の表面温度の降下速度P(℃/s)を検出する。ここで、降下速度Pとは、所定時間当たりの降温量(降温勾配)のことを言い、P=(Un-1-Un)/Tで算出される。Tは、時間(秒)であり、たとえば0.1秒に設定される。また、Unは、現在の検出温度(℃)であり、Un-1は、現在からT秒前の検出温度(℃)である。そして、算出した降下速度Pが予め設定した閾値Q(下降速度閾値、たとえば10℃/s)以下のとき、定着ベルト62が回転不良状態である(スリップ発生)と判断する。この際、誤検知を低減するため、降下速度Pの検出は複数回行い、所定回数L(たとえば3~5回)以上連続して降下速度Pが閾値Q以下になったとき、定着ベルト62が回転不良状態であると判断することが好ましい。降下速度Pに基づく回転不良状態の判定は、第1温度センサおよび第2温度センサの双方で個別に行うとよいことは、上述の実施例と同様である。
【0085】
そして、低当接圧回転動作時に定着ベルト62が回転不良状態であることを検出したときは、加圧ローラ64の当接圧を低当接圧にしたまま、定着ベルト62を加熱しながら加圧ローラ64を所定時間C(たとえば3秒)だけ回転させる加熱回転動作を実行する。低当接圧状態(圧解状態)にすると定着ベルト62は回転し易くなるが、この状態でも回転不良が生じる場合は、摺動オイルの固着や定着ベルト62の変形が激しいと考えられる。したがって、低当接圧回転動作時に定着ベルト62が回転不良状態であることを検出したときは、加熱回転動作を実行することで、摺動オイルの固着や定着ベルト62の変形を緩和させる。この加熱回転動作を行う際には、熱源82の出力を通常時(温調時)の出力よりも下げた状態(たとえば50%の出力)にし、定着ベルト62に対する加熱を低加熱状態にすることが好ましい。加熱量の低減は、公知の方法で行うとよい。たとえば、位相制御であれば位相角を小さくし、波数制御であれば波数を間引いて、熱源82に供給する電力を低減するとよい。
【0086】
以下、図11に示すフロー図を用いて、この第3実施例の定着装置46におけるウォームアップ処理の一例について説明する。ただし、ステップS51~S73、S79の処理は、第1実施例のステップS21~S45の処理と同様であるので、説明を省略する。
【0087】
図11に示すように、ステップS73の処理に続いて、ステップS75の処理を実行する。ステップS75では、ステップS73において加圧ローラ64を回転させているときに、スリップが発生しているかどうか、つまり定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを判断する。ここでは、加圧ローラ64を回転させているときの温度センサ94による検出結果から降下速度Pを複数回算出し、L回連続して降下速度Pが閾値Q以下になったときに、定着ベルト62が回転不良状態であると判断する。ステップS75で“NO”であれば、つまり定着ベルト62が回転不良状態でない場合は、そのままステップS79に進む。
【0088】
一方、ステップS75で“YES”であれば、つまり定着ベルト62が回転不良状態である場合は、ステップS77に進む。ステップS77では、熱源82および第1モータ90に制御信号を送信して、所定時間Cだけ、定着ベルト62を加熱しながら加圧ローラ64を回転させる。ステップS77の処理が終わると、ステップS79に進む。
【0089】
この第3実施例によれば、第1実施例と同様に、簡単な構成で、定着ベルト62が回転不良状態であることを速やかに検出できる。また、低当接圧回転動作時に定着ベルト62が回転不良状態であることを検出したときに加熱回転動作を実行するので、リトライ動作時に定着ベルト62が回転不良状態になることをより適切に抑制できる。したがって、定着装置46をより適切に再起動できる。
【0090】
なお、上述の各実施例では、定着ベルト62が回転不良状態であるかどうかを判断するための閾値Y(上昇速度閾値)として、予め設定した1つの値を用いているが、定着装置46(つまり画像形成装置10)に対する供給電圧に応じて閾値Yを変更することもできる。供給電圧の変化に比例して閾値Yを変化させたり、熱源82の特性に応じて閾値Yを補正したりして、そのときの供給電圧に見合った閾値Yを設定するとよい。たとえば、供給電圧が100Vのときの閾値Yが50℃/sに設定されている場合、検出された供給電圧が95Vのときに閾値Yを45℃/sに変更したり、検出された供給電圧が105Vのときに閾値Yを55℃/sに変更したりするとよい。具体的には、他の実施例として、定着装置46に対する供給電圧の値に応じて設定された複数の閾値Yを記憶する閾値記憶部と、定着装置に46対する供給電圧を検出する供給電圧検出部とを画像形成装置10に設けておく。そして、第1不良状態検出部として機能するCPU100は、閾値記憶部に記憶した複数の閾値Yの中から、供給電圧検出部によって検出された供給電圧に基づいて閾値Yを選択し、上昇速度Xが選択した閾値Y以上のとき、定着ベルト62が回転不良状態であることを検出する。
【0091】
また、他の実施例として、定着ベルト62が回転不良状態であることを検出した積算回数(定着ベルト62の使用開始時(交換時)から現在までの総数)を、通紙枚数などと共にHDD104等の記憶部(積算回数記憶部)に記憶しておき、その積算回数を操作ユニット106のディスプレイ等の表示部に表示可能とすることもできる。たとえば、記憶した積算回数は、定着ベルト62のライフ(寿命ないし交換時期)を規定する規定値として用いるとよい。従来、定着ベルト62のライフは、通紙枚数によって規定(たとえば30万枚に設定)されるが、これに加えて、或いはこれに代えて、回転不良検出の積算回数によって定着ベルト62のライフを規定(たとえば1000回に設定)しておけば、ベルトスリップが多発するような使用状況の場合に、より適切に定着ベルト62の交換を促すことができる。
【0092】
なお、上述の各実施例では、画像形成装置10として、複写機、ファクシミリおよびプリンタ等を組み合わせた複合機を例示したが、画像形成装置10は、複写機、ファクシミリおよびプリンタ等のいずれか、またはこれらの少なくとも2つを組み合わせた複合機であってもよい。
【0093】
また、上で挙げた具体的な数値および材質などは、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0094】
10 …画像形成装置
30 …画像形成部
46 …定着装置
62 …定着ベルト(定着回転体)
64 …加圧ローラ(加圧回転体)
82 …熱源
90 …第1モータ(加圧ローラ用のモータ)
92 …電流センサ
94 …温度センサ
100 …CPU
110 …当接圧変更機構
124 …離接カム
128 …第2モータ(離接カム用のモータ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11