(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ウインドシールド
(51)【国際特許分類】
B60J 1/02 20060101AFI20241212BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20241212BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B60J1/02 M
B60J1/00 H
G02B27/01
(21)【出願番号】P 2021109773
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】小川 良平
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 尚志
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-035444(JP,A)
【文献】特開2020-015491(JP,A)
【文献】特開2020-173291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/02
B60J 1/00
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表示領域を上下方向に切替可能なHUD装置が設けられるウインドシールドであって、
第1主面、及びこれとは反対の第2主面を有し、前記表示領域が形成されるガラス板を備え、
前記ガラス板は、上端部の厚みが下端部よりも厚く形成されることで、前記第1主面と前記第2主面とが
許容楔角αをなすように構成され、
前記複数の表示領域の全てを含む全表示領域の上下方向の高さをY、
前記全表示領域の両側辺の上下方向の中心を通る線から上方へ0.15Y離れた線と下方へ0.15Y離れた線との間の第1領域における
許容楔角αの範囲を、S_Center、
前記全表示領域の上辺と、当該上辺から下方へ0.3Y離れた線との間の第2領域における
許容楔角αの範囲を、S_Upper、
前記全表示領域の下辺と、当該下辺から上方へ0.3Y離れた線との間の第3領域における
許容楔角αの範囲を、S_Lowerとすると、
S_Center<S_Upper、且つS_Center<S_Lowerを充足する、ウインドシールド。
【請求項2】
前記複数の表示領域が上下方向に重複するように構成されている、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項3】
水平方向において、車外に凸となるように湾曲している、請求項1または2に記載のウインドシールド。
【請求項4】
水平方向において、曲率半径の異なる複数の領域を有し、
前記表示領域は、水平方向において前記曲率半径の大きい領域に設けられる、請求項3に記載のウインドシールド。
【請求項5】
上下方向において、車外に凸となるように湾曲している、請求項1から4のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項6】
上下方向において、曲率半径の異なる複数の領域を有し、
前記表示領域は、上下方向において前記曲率半径の大きい領域に設けられる、請求項5に記載のウインドシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインドシールドに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイ(HUD)装置が用いられるウインドシールドは、二重像を防止するために、楔形に形成されている。また、特許文献1には、ウインドシールドに投影されたHUD装置による表示領域内に複数の格子点を規定し、各格子点での楔角を測定したときに、楔角の最大値と最小値の差が0.32mrad以内となるようなウインドシールドが提案されている。これにより、表示領域が大型化しても二重像の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年は、運転者の目線の位置に合わせて表示領域を上下方向に切り替えることができるHUD装置が提案されている。本発明者が検討したところ、表示領域が上下方向に移動すると、それに伴って二重像を抑制できる最適な楔角が変化することが分かった。したがって、各表示領域での二重像を抑制するためには、最適な楔角の変化に対応するようウインドシールドの楔角を設定する必要があるが、そのようなウインドシールドは、製造が困難であると考えられ未だ提案されていない。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、表示領域を上下方向に切り替えることができるHUD装置を用いた場合、全ての表示領域で二重像を抑制つつ、製造が容易な、ウインドシールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.複数の表示領域を上下方向に切替可能なHUD装置が設けられるウインドシールドであって、
第1主面、及びこれとは反対の第2主面を有し、前記表示領域が形成されるガラス板を備え、
前記ガラス板は、上端部の厚みが下端部よりも厚く形成されることで、前記第1主面と前記第2主面とが楔角αをなすように構成され、
前記複数の表示領域の全てを含む全表示領域の上下方向の高さをY、
前記全表示領域の両側辺の上下方向の中心を通る線から上方へ0.15Y離れた線と下方へ0.15Y離れた線との間の第1領域における楔角αの範囲を、S_Center、
前記全表示領域の上辺と、当該上辺から下方へ0.3Y離れた線との間の第2領域における楔角αの範囲を、S_Upper、
前記全表示領域の下辺と、当該下辺から上方へ0.3Y離れた線との間の第3領域における楔角αの範囲を、S_Lowerとすると、
S_Center<S_Upper、且つS_Center<S_Lowerを充足する、ウインドシールド。
【0006】
項2.前記複数の表示領域が上下方向に重複するように構成されている、項1に記載のウインドシールド。
【0007】
項3.水平方向において、車外に凸となるように湾曲している、項1または2に記載のウインドシールド。
【0008】
項4.水平方向において、曲率半径の異なる複数の領域を有し、
前記表示領域は、水平方向において前記曲率半径の大きい領域に設けられる、項3に記載のウインドシールド。
【0009】
項5.上下方向において、車外に凸となるように湾曲している、項1から4のいずれかに記載のウインドシールド。
【0010】
項6.上下方向において、曲率半径の異なる複数の領域を有し、
前記表示領域は、上下方向において前記曲率半径の大きい領域に設けられる、項5に記載のウインドシールド。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表示領域を上下方向に切り替えることができるHUD装置を用いた場合でも、全ての表示領域で二重像を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るウインドシールドの一実施形態を示す平面図である。
【
図3】中間膜の製造方法の一例を示す断面図である。
【
図5】ウインドシールドの製造に用いる成形型の平面図である。
【
図6】ウインドシールドの製造工程を示す概略図である。
【
図7】HUD装置とウインドシールドとを示す断面図である。
【
図8】HUD装置とウインドシールドとを示す断面図である。
【
図9】HUD装置による3つの表示領域を示す正面図である。
【
図10】二重像の測定に用いる格子を示す図である。
【
図11】上領域において測定された二重像を抑制する許容楔角を示すグラフである。
【
図12】中央領域において測定された二重像を抑制する許容楔角を示すグラフである。
【
図13】下領域において測定された二重像を抑制する許容楔角を示すグラフである。
【
図14】3つの表示領域の許容楔角を示すグラフである。
【
図17】ウインドシールドにおける表示領域の位置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.ウインドシールドの概要>
以下、本発明に係る自動車のウインドシールドの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るウインドシールドは、HUD(ヘッドアップディスプレイ)装置により、照射される光が投影され、情報を表示するために用いられるものである。
【0014】
図1は、本実施形態に係るウインドシールドの正面図、
図2は
図1のA-A線断面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るウインドシールドは、自動車に取り付けられたときに、車外側を向く外側ガラス板1と、車内側を向く内側ガラス板2と、これらガラス板1,2の間に配置される中間膜3と、を備えており、全体として断面が楔形(楔角α)に形成されている。そして、このウインドシールドには遮蔽層4が積層されている。なお、本実施形態の各図面では、説明の便宜のため、実際よりも誇張した楔角を示している。以下、各部材について説明する。
【0015】
<2.外側ガラス板及び内側ガラス板>
まず、外側ガラス板1及び内側ガラス板2から説明する。外側ガラス板1及び内側ガラス板2は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、これらのガラス板1、2は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板1により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板2により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの一例を示す。
【0016】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al2O3:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
R2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.08~0.14質量%
【0017】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT-Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0018】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al2O3:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
K2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
B2O3:0~5質量%
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T-Fe2O3):0.02~0.03質量%
【0019】
外側ガラス板1は、台形状に形成され、上辺(短辺)11、上辺11よりも長い下辺(長辺)12、右側辺13、及び左側辺14を有しており、自動車に取り付けられたときに、上辺11が上側に配置され、右側辺13及び左側辺14は、それぞれ、車内側から見たときに、右側及び左側にそれぞれ配置される。
【0020】
内側ガラス板2も、同様に、台形状に形成され、上辺21、下辺22、右側辺23、及び左側辺24を有している。また、内側ガラス板2も車外側を向く第1面201及び車内側を向く第2面202を有しており、これら第1面201及び第2面202を連結する端面を有している。すなわち、本実施形態においては、外側ガラス板1と内側ガラス板2の両方が平板状に形成されている。
【0021】
そして、外側ガラス板1の第2面102と、内側ガラス板2の第1面201との間に上述した中間膜3が配置されている。
【0022】
本実施形態に係るウインドシールドの厚みは特には限定されないが、軽量化の観点からは、外側ガラス板1と内側ガラス板2の厚みの合計を、2.4~5.0mmとすることが好ましく、2.6~4.6mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板1と内側ガラス板2との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板1,2のそれぞれの厚みは、特には限定されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板1と内側ガラス板2の厚みを決定することができる。
【0023】
外側ガラス板1は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板1の厚みは、1.8~2.3mmとすることが好ましく、1.9~2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0024】
内側ガラス板2の厚みは、外側ガラス板1と同等にすることができるが、例えば、ウインドシールドの軽量化のため、外側ガラス板1よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.1~2.3mmであることが好ましく、0.8~2.0mmであることが好ましく、1.0~1.4mmであることが特に好ましい。更には、0.8~1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板2についても、何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0025】
また、本実施形態に係る外側ガラス板1及び内側ガラス板2の形状は、湾曲形状である。すなわち、水平方向において車外に突出するように湾曲している。また、この湾曲においては、水平方向の曲率半径は一定ではなく、曲率半径の異なる複数の領域を有している。例えば、ウインドシールドの両端部の曲率半径を小さく、中央部分の曲率半径を大きくすることができる。
【0026】
同様に、このウインドシールドは、上下方向においても車外に突出するように湾曲している。また、この湾曲においては、上下方向の曲率半径は一定ではなく、曲率半径の異なる複数の領域を有している。例えば、ウインドシールドの上部の曲率半径を小さく、下部の曲率半径を大きくすることができる。
【0027】
ここで、ウインドシールドの厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、ウインドシールドの左右方向の中央を上下方向に延びる中央線上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にウインドシールドの湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでウインドシールドの端部を挟持して測定する。
【0028】
<3.中間膜>
中間膜3は、両ガラス板1,2と同様に、台形状に形成されている。また、
図2に示すように、中間膜3は、車外側を向く第1面301及び車内側を向く第2面302を有しており、これら第1面301及び第2面302を連結する端面を有している。ここでは、上辺側の端面を上端面311、下辺側の端面をした下端面312と称することとする。そして、中間膜3は、上端面311から下端面312にいくにしたがって、厚みが小さくなるような楔形に形成されている。第1面301と第2面302とのなす楔角αは、特には限定されないが、例えば、0.02~0.18mradとすることができ、さらには、0.05~0.15mradとすることができる。
【0029】
また、中間膜3は、少なくとも一層で形成されている。一例として、
図2の拡大図に示すように、軟質のコア層31を、これよりも硬質のアウター層32で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、コア層31と、外側ガラス板1側に配置される少なくとも1つのアウター層32とを有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層31と、外側ガラス板1側に配置される1つのアウター層32を含む2層の中間膜3、またはコア層31を中心に両側にそれぞれ2層以上の偶数のアウター層32を配置した中間膜3、あるいはコア層31を挟んで一方に奇数のアウター層32、他方の側に偶数のアウター層32を配置した中間膜3とすることもできる。なお、アウター層32を1つだけ設ける場合には、上記のように外側ガラス板1側に設けているが、これは、車外や屋外からの外力に対する耐破損性能を向上するためである。また、アウター層32の数が多いと、遮音性能も高くなる。
【0030】
コア層31はアウター層32よりも軟質であるかぎり、その硬さは特には限定されない。各層31,32を構成する材料は、特には限定されないが、例えば、アウター層32は、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層31は、例えば、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0031】
一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、それらの条件から選ばれる少なくとも1つを適切に調整することにより、同じポリビニルブチラール樹脂であっても、アウター層32に用いる硬質なポリビニルブチラール樹脂と、コア層31に用いる軟質なポリビニルブチラール樹脂との作り分けが可能である。さらに、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化によっても、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層32がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層31には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-へプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。なお、所定のヤング率が得られる場合は、上記樹脂等に限定されることはい。
【0032】
また、中間膜3の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。また、コア層31の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層32の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜3の総厚を一定とし、この中でコア層31の厚みを調整することもできる。以上の厚みは、楔形に形成されたる中間膜3の最も厚い部分の厚みとする。
【0033】
コア層31及びアウター層32の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によってウインドシールドの断面を175倍に拡大して表示する。そして、コア層31及びアウター層32の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値をコア層31、アウター層32の厚みとする。
【0034】
また、中間膜3の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。また、コア層31の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層32の厚みは、コア層31の厚みよりも大きいことが好ましく、具体的には、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜3の総厚を一定とし、この中でコア層31の厚みを調整することもできる。
【0035】
コア層31及びアウター層32の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によってウインドシールドの断面を175倍に拡大して表示する。そして、コア層31及びアウター層32の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値をコア層31、アウター層32の厚みとする。例えば、ウインドシールドの拡大写真を撮影し、このなかでコア層やアウター層32を特定して厚みを測定する。
【0036】
中間膜3の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜3は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
【0037】
そして、本実施形態に係る中間膜3は、成形後の平面視長方形状の中間膜3をローラで引き延ばすことで、下辺側が長くなるように形成している。以下、この処理を延伸処理と称し、詳細に説明する。また、延伸処理前の中間膜を延伸前中間膜、延伸処理後の中間膜を延伸後中間膜と称することとする。
【0038】
図3に示すように、延伸処理は、2つの円錐状のローラ91,92の間を延伸前中間膜を通すことで行われる。ここでは、上側のローラを第1ローラ91、下側のローラを第2ローラ92と称することとする。また、各ローラ91,92の径が大きい方の軸方向の端部を第1端部911,921、径が小さい方の軸方向の端部を第2端部912,922と称することとする。これら第1ローラ91及び第2ローラ92は、回転軸G1,G2が平行になるように配置されている。また、両ローラ91,92における第1端部911,921及び第2端部912,922がそれぞれ、同じ側になるように配置している。これにより、両ローラ91,92の間には、第1端部911,921側が狭く、第2端部912,922側が広くなる隙間900が形成される。
【0039】
したがって、延伸前中間膜をこれらローラ91,92の間を通過させると、
図4に示すように、各ローラ91,92の第1端部911,921側の周速度が早いため、第1端部911,921側において、延伸前中間膜が引き延ばされる。これにより、平面視台形状の延伸後中間膜3が形成される。また、
図3に示すように、両ローラ91,92の隙間900が形成されているため、延伸後中間膜3の断面は、第1端部911,921側が厚くなり、第2端部912,922側が薄くなる。その結果、上端面311が厚く、下端面312が薄い中間膜3が形成される。
【0040】
<4.遮蔽層>
図1に示すように、このウインドシールドの周縁には、黒などの濃色のセラミックに遮蔽層4が積層されている。この遮蔽層4は、車内また車外からの視野を遮蔽するのであり、ウインドシールドの4つの辺に沿って積層されている。
【0041】
遮蔽層4は、例えば、外側ガラス板1の内面のみ、内側ガラス板2の内面のみ、あるいは外側ガラス板1の内面と内側ガラス板2の内面、など種々の態様が可能である。また、セラミック、種々の材料で形成することができるが、例えば、以下の組成とすることができる。
【表1】
*1,主成分:酸化銅、酸化クロム、酸化鉄及び酸化マンガン
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0042】
セラミックは、スクリーン印刷法により形成することができるが、これ以外に、焼成用転写フィルムをガラス板に転写し焼成することにより作製することも可能である。スクリーン印刷を採用する場合、例えば、ポリエステルスクリーン:355メッシュ,コート厚み:20μm,テンション:20Nm,スキージ硬度:80度,取り付け角度:75°,印刷速度:300mm/sとすることができ、乾燥炉にて150℃、10分の乾燥により、セラミックを形成することができる。
【0043】
<5.ウインドシールドの製造方法>
次に、ウインドシールドの製造方法について説明する。まず、ガラス板の製造ラインについて説明する。
【0044】
ここで、成形型について、
図5を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
図5は成形型の平面図である。
図5に示すように、この成形型800は、両ガラス板1,2の外形と概ね一致するような枠状の型本体810を備えている。この型本体810は、枠状に形成されているため、内側には上下方向に貫通する内部空間820を有している。そして、この型本体810の上面に平板状の両ガラス板1,2の周縁部が載置される。そのため、このガラス板1,2には、下側に配置されたヒータ(図示省略)から、内部空間を介して熱が加えられる。これにより、両ガラス板1,2は加熱により軟化し、自重によって下方へ湾曲することとなる。なお、型本体810の内周縁には、熱を遮蔽するための遮蔽板840を配置することがあり、これによってガラス板1,2が受ける熱を調整することができる。また、ヒータは、成形型800の下方のみならず、上方に設けることもできる。
【0045】
次に、成型方法について、
図6を参照しつつ説明する。
図6は、成形型が通過する炉の側面図である。まず、湾曲前の外側ガラス板1及び内側ガラス板2に上述した遮蔽層2が積層される。次に、これら外側ガラス板1及び内側ガラス板2は重ね合わされ、上記成形型800に支持された状態で、
図6に示すように、加熱炉802を通過する。加熱炉802内で軟化点温度付近まで加熱されると、両ガラス板1,2は自重によって周縁部よりも内側が下方に湾曲し、曲面状に成形される。続いて、両ガラス板1,2は加熱炉802から徐冷炉803に搬入され、徐冷処理が行われる。その後、両ガラス板1,2は、徐冷炉803から外部に搬出されて放冷される。
【0046】
こうして、外側ガラス板1及び内側ガラス板2が成形されると、これに続いて、中間膜3を外側ガラス板1及び内側ガラス板2の間に挟む。中間膜3は、外側ガラス板1及び内側ガラス板2より、やや大きい形状とする。これにより、中間層3の外縁は、外側ガラス板1及び内側ガラス板2からはみ出した状態となる。また、中間膜3において厚みが大きい側の端部を両ガラス板1,2の上側に配置する。
【0047】
次に、両ガラス板1,2、及び中間膜3が積層された積層体を、ゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能であり、次の方法を採ることもできる。例えば、上記積層体をオーブンにより45~65℃で加熱する。次に、この積層体を0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。続いて、この積層体を、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0048】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた積層体を、オートクレーブにより、例えば、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で135℃の条件で本接着を行うことができる。以上の予備接着及び本接着を通して、中間膜3が、各ガラス板1,2に接着される。最後に、外側ガラス板1及び内側ガラス板2からはみ出した中間膜3を切断すれば、
図2に示すような断面を有するウインドシールドが製造される。すなわち、楔角αを有する中間膜3を用いることで、楔角αのウインドシールドが形成される。なお、これ以外の方法、例えば、プレス加工により、湾曲したウインドシールドを製造することもできる。
【0049】
<6.HUD装置>
次に、HUD装置について説明する。HUD装置は、ウインドシールドに、車速等の情報を投射するものである。しかしながら、このHUD装置を用いると、ウインドシールドに投影された光により、二重像が形成されることが知られている。すなわち、ウインドシールドの内面(第2主面)で反射することで視認される像と、ウインドシールドの外面(第1主面)で反射することで視認される像とが別々に視認されるため、像が二重になっていた。
【0050】
これを防止するためには、本実施形態のような楔角αのウインドシールドを用いる。すなわち、
図7に示すように、ウインドシールドにおいて、少なくともHUD装置500から光が投影される表示領域においては、厚みが下方にいくにしたがって、小さくなるように形成する。これにより、ウインドシールドの内面(内側ガラス板2の第2面202)で反射して車内に入射する光と、ウインドシールドの外面(外側ガラス板1の第1面101)で反射した後、車内に入射する光とが、概ね一致するため、二重像が解消される。
【0051】
ところで、本実施形態に係るHUD装置500は、
図8及び
図9に示すように、運転者の目の高さに合わせて表示領域を3段階に切替ができるようになっている。すなわち、HUD装置500からウインドシールドへの光の照射角度を変えることで、表示領域を切り替えることができるようになっている。ここでは、これら3つの表示領域を上領域501、中央領域502、及び下領域503と称することとする。なお、
図9に示す表示領域501~503は車外側から見たものであり、全て同じ大きさである。これら3つの表示領域501~503は、上下方向に並び、互いに重なっている。すなわち、上領域501の下部と下領域503の上部とが重なっており、上領域501と下領域503との間に中央領域502が配置されている。したがって、中央領域502の内部には、3つの領域501~503が重なる領域が配置されている。
【0052】
この表示領域501~503は、前方から見たときにウインドシールドの右側に配置されている。すなわち、右ハンドルの自動車用に運転者の前に表示領域501~503が配置されている(
図17参照)。また、ウインドシールドは、上述したように水平方向に湾曲しているため、前方から見たときには、
図9に示すように、各表示領域501~503は、湾曲に合わせて、上辺及び下辺が、左から右へ下るように傾斜している。なお、ウインドシールドにおいて、表示領域501~503が設けられる箇所は、水平方向及び上下方向の曲率半径が大きい箇所であることが好ましい。例えば、ウインドシールドの水平方向の中央の近く、且つ上下方向の下部であることが好ましい。
【0053】
<7.表示領域と楔角との関係>
本発明者は、上述した3つの表示領域501~503と、二重像を抑制できる楔角との関係について、以下の通り検討した。
【0054】
まず、
図10に示すような格子を各表示領域501~503に設定し、その二重像を測定した。外側ガラス板1及び内側ガラス板2の厚みは、それぞれ2mmとし、中間膜3の最も薄い箇所での厚みを0.76mmとした。なお、
図10の格子は車内側から見たものである。この格子では、上下方向に6個の点A~Gを配置し、水平方向に6個の線1~6を配置している(合計36個の線)。そして、格子内の36個の線A-1~G-6の二重像によるズレ量が2mm以内となる楔角の範囲(許容楔角)をシミュレーションにより算出した。結果は、
図11~
図13に示すとおりである。
【0055】
図11のグラフは、上領域501でのシミュレーション結果を示しており、横軸がウインドシールドにおける上下方向の位置、縦軸が楔角を示している。但し、
図11では、説明の便宜のため、各線A-1~G-6での許容楔角の上下値及び下限値のみを示している。
図11によれば、上下方向に並ぶA~Gの各列において、線1~6の許容楔角は、1から6にいくにしたがって大きくなっている。すなわち、この上領域501では、車内側から見て左側から右側(ピラー側)に行くにしたがって、許容楔角の範囲が大きくなっている。また、上下方向に並ぶ列Aから列Gにいくにしたがって、許容楔角の範囲が小さくなっている。すなわち、上領域501内では、下にいくほど許容楔角の範囲が小さくなっている。そして、
図11の中では、G-1の線が配置されている箇所において、許容楔角の上限値が最小になっている。
【0056】
図12は中央領域、
図13は下領域でのシミュレーション結果を示している。これら中央領域502及び下領域503においても、上領域501と同様の傾向を示している。
図13の中では、A-6の線が配置されている箇所において、許容楔角の下限値が最大になっている。
【0057】
図14は、
図11~
図13を並べたものである。同図によれば、上領域501から下領域503にいくにしたがって許容楔角の範囲が増大していることが分かる。また、
図14からすると、全ての表示領域501~503で共通する許容楔角は、上限が上領域のG-1線での楔角であり、下限が下領域のA-6線での楔角である。したがって、この範囲(以下、制限許容楔角という)内で楔角を設定すれば、全ての表示領域501~503において二重像の発生を抑制することができる。
【0058】
しかしながら、制限許容楔角の範囲は狭いため、このような楔角のウインドシールドを製造することは容易ではない。この制限許容楔角が必要とされる領域は、
図15に示すように、上下方向において、G-1とA-6を含む領域であり、3つの表示領域501~503が重なる領域(以下、制限領域という)である。その一方で、
図14に示すように、上領域501及び下領域503においては、許容楔角の範囲が制限許容楔角の範囲よりも大きい。したがって、全ての表示領域501~503において二重像の発生を抑制するには、全ての表示領域501~503において制限許容楔角を充足する必要はなく、少なくとも制限領域において、制限許容楔角を充足していればよい。そこで、本発明者は、以下のように許容楔角を設定した。
【0059】
まず、
図16に示すように、全ての表示領域501~503を含む領域(以下、全表示領域という)の上下方向の長さをYとする。次に、全表示領域の両側辺の中点R1,R2を通る線Xを規定し、この線Xと平行で、且つ線Xから上方向に0.15Y離れた線と、下方向に0.15Y離れた線を規定し、これらの間の領域を第1領域701とする。また、全表示領域の上辺を通る線と、この上辺と平行で且つ上辺から下方向に0.3Y離れた線との間の領域を第2領域702とする。さらに、全表示領域の下辺を通る線と、この下辺と平行で且つ下辺から上方向に0.3Y離れた線との間の領域を第3領域703とする。
【0060】
そして、第1領域701、第2領域702、及び第3領域703における許容楔角の範囲を、それぞれ、S_Center、S_Upper、S_Lowerとすると、これらが以下の式(1)及び式(2)を充足すればよいことが分かった。
S_Center<S_Upper (1)
S_Center<S_Lower (2)
【0061】
図17はウインドシールドの車外側から見て左側を示す図である。上記式(1)及び式(2)を充足するには、少なくとも中間膜3において第1領域701に配置される部分の楔角を厳密に制御すればよい。すなわち、この部分における中間膜3の楔角がS_Centerにあればよい。一方、第2領域702及び第3領域703の楔角は、S_Centerよりも広い範囲であるため、厳密な制御が不要になる。なお、中間膜3には、もともと膜厚のばらつきが存在しており、このばらつきによって中間膜3の表面にうねりが生じる。そして、このうねりはウインドシールドを組み立てた後にも残る。したがって、例えば、中間膜3において、最もうねりの小さい箇所が第1領域701に配置されるようにウインドシールドを組み立てれば、上記式(1)及び式(2)を充足することができる。
【0062】
上記のシミュレーションでは、例えば、各表示領域501~503の高さを約120mm、幅を約100mm、上領域501と下領域503とが重なる部分の上下方向の高さを約64mmとし、Yを約177mmとした。この場合、二重像によるズレ量が2mm以内となる具体的な許容楔角の範囲として、S_Centerは、例えば、0.05mrad以上0.10mrad以下とすることができる。S_Upperは、例えば、0.15mrad以上0.45mrad以下とすることができる。S_Lowerは、例えば、0.20mrad以上0.55mrad以下とすることができる。但し、これらはあくまでも一例であり、少なくとも上記式(1)(2)を充足していればよい。
【0063】
なお、上記の例では、二重像によるズレ量の上限値を2mmとしているが、特には限定されず、要求に応じて適宜設定することができる。そのため、二重像のズレ量の上限値にかかわらず、設定された上限値に応じて、上記式(1)(2)を充足するウインドシールドを作製できれば、二重像を抑制することができる。
【0064】
なお、実際に楔角を測定する際には、各領域701~703にピッチが20mm以下の複数の格子点を規定する。格子点の数は、各領域701~703の大きさによるが各領域701~703に入る最大数の格子点を設定する。そして、各格子点の楔角を干渉計によって測定し、各領域701~703での許容楔角の最大値と最小値との差を、それぞれS_Center、S_Upper、S_Lowerとする。または、各領域701~703の水平方向を概ね5等分となるよう高さ方向に切断し、切断して得られた各断面について、各領域701~703内を均一間隔となるように3点選び、マイクロスコープにて高さを計測して楔角を求めても良い。
【0065】
<8.特徴>
以上のように、本実施形態に係るウインドシールドによれば、3つの表示領域501~503の全てにおいて二重像を抑制することができる。このとき、中間膜3において、全ての表示領域501~503に配置される部分の楔角を厳密に制御する必要はなく、最も許容楔角の範囲が狭い第1領域701が配置される部分においてのみ中間膜3の楔角を厳密に制御し、他の領域702,703では第1領域701に比べて中間膜3の楔角の制御を緩めることができるため、製造が容易である。
【0066】
<9.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。そして、以下に示す複数の変形例は適宜組合わせることが可能である。
【0067】
<9-1>
上記実施形態では、表示領域を3段階に切り替え可能なHUD装置500を例に説明を行ったが、3段階以外の2段階、あるいは4段階以上に表示領域を切り替え可能なHUD装置500を用いた場合でも、上記式(1)及び式(2)を充足すれば、全ての表示領域において二重像を抑制することができる。
【0068】
<9-2>
上記実施形態では、中間膜3が楔形に形成されているが、ウインドシールドが全体として楔形に形成されていればよいため、外側ガラス板1、内側ガラス板2、及び中間膜3の少なくとも1つが楔形に形成されていればよい。
【0069】
<9-3>
遮蔽層4の形状は特には限定されず、種々の形状が可能である。例えば、センサによる光の照射やカメラによる外部の撮影が可能なように、窓(開口)を設けた遮蔽層を形成することもできる。
【0070】
<9-4>
上記実施形態では、本発明のガラス板として、外側ガラス板1、内側ガラス板2、及び中間膜3を有する合わせガラスを用いたが、これに限定されるものではなく、単板であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
2 撮影装置
10 ガラス板
110 遮蔽層
113 撮影窓(開口)