(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】脂環式二酸及び脂肪族ジオールからのポリエステルカーボネート、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/64 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C08G63/64
(21)【出願番号】P 2021535109
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2019084847
(87)【国際公開番号】W WO2020126806
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-08
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マイアー アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】フィングスト トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ホイアー ヘルムート ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】エジュル ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ベルタン アナベル
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214251(JP,A)
【文献】特表2016-525610(JP,A)
【文献】特表2018-504497(JP,A)
【文献】特開平05-078461(JP,A)
【文献】特表2011-500925(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106800643(CN,A)
【文献】国際公開第2013/157661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G、C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融エステル交換によってポリエステルカーボネートを製造する方法であって、
(i)少なくとも1つの触媒を用いて、
イソソルビドの存在下で、少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸を、少なくとも1つのジアリールカーボネートと反応させる工程と、
(ii)前記方法工程(i)から得られた混合物を、少なくとも縮合中に脱離した化学的化合物を除去しつつ、更なる縮合に供する工程と、
を含み、
該方法工程(i)における反応前における、該方法工程(i)において存在する
イソソルビドと、該方法工程(i)において存在する全ての脂環式ジカルボン酸とのモル比が、1:0.6~1:0.05であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記方法工程(i)は、ガスの発生が停止したことが観察されるまで実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸が、化学式(IIa)、(IIb):
【化1】
(式中、
Bは、それぞれ、独立して、炭素原子、又はO、S及びNからなる群より選択されるヘテロ原子を表し、nは、0~3の数である)の化合物又はこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸が、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、テトラジヒドロ-2,5-フランジカルボン酸、テトラジヒドロ-2,5-ジメチルフランジカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,4-ジカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,5-ジカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,6-ジカルボン酸、及びデカヒドロナフタレン-2,7-ジカルボン酸からなる群より選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのジアリールカーボネートが、式(2):
【化2】
(式中、
R、R’及びR’’は、それぞれ、独立して、同一であるか又は異なっていてもよく、水素、任意に分岐したC1~C34アルキル、C7~C34アルキルアリール、C6~C34アリール、ニトロ基、カルボニル含有基、カルボキシル含有基、又はハロゲン部位を表す)
の化合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記方法工程(i)における反応前において、該方法工程(i)において存在する
イソソルビド及び該方法工程(i)において存在する全ての脂環式ジカルボン酸の合計と、該方法工程(i)において存在する全てのジアリールカーボネートとのモル比が、1:0.4~1:1.6であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの無機塩基及び/又は少なくとも1つの有機触媒が、前記方法工程(i)において使用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法により得られたポリエステルカーボネート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式二酸及び脂肪族ジオールから出発したポリエステルカーボネートの製造方法、並びに該方法により製造されたポリエステルカーボネートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリカーボネート及びポリエステルカーボネートは、良好な機械的特性、並びに熱変形及び風化に対する良好な安定性を有することが知られている。使用されるモノマーに依存して、各ポリマー基は、この種の材料を特徴付ける或る特定の重要な特徴を有する。例えば、ポリカーボネートは特に、良好な機械的特性を有する一方、ポリエステルは多くの場合より良好な化学安定性を示す。ポリエステルカーボネートは、選択されるモノマーに依存して、上記基の両方からの特性プロファイルを示す。
【0003】
芳香族ポリカーボネート又はポリエステルは、多くの場合良好な特性プロファイルを有するが、老化及び風化に対する安定性に欠点を示す。例えば、UV光の吸収によって、これらの熱可塑性材料の黄変、時には脆化が生じる。脂肪族ポリカーボネート及びポリエステルカーボネートは、この点でより良好な特性、特に老化及び/又は風化に対するより良好な安定性、並びにより良好な光学特性(例えば透過率)を有する。脂肪族ポリマーの更なる利点は、原料が生物学的資源からより容易に入手可能なことである。糖誘導体又はイソソルビド等の脂肪族モノマーは、今日ではバイオベース原料から入手可能であり、これに対して、芳香族モノマーは、バイオベース原料から入手可能ではあるが、限られた範囲に限られる。本発明の文脈において、「バイオベース」という表現は、関連する化学的化合物が、出願日において、再生可能及び/又は持続可能な原料を介して利用可能及び/又は入手可能であること、及び/又は、好ましくはかかる再生可能及び/又は持続可能な原料であることを意味すると理解される。この表現は、特に化石資源由来の原料と区別する手段として用いられる。原料がバイオベースであるか、化石資源ベースであるかは、原料中の炭素同位体を測定することで判断することができる。というのも、炭素同位体C14の相対的な量が化石原料ではより低いからである。これは、例えば、ASTM D6866-18(2018)又はISO16620-1~ISO16620-5(2015)に従って行うことができる。
【0004】
脂肪族ポリカーボネート又はポリエステルカーボネートの欠点は、多くの場合、その低いガラス転移温度である。したがって、脂環式アルコールを(コ)モノマーとして使用することが有利である。これらは、特に機械的特性に有利に作用する。また、ガラス転移温度を更に高めるために、脂環式酸、例えばシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、若しくはシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸又は対応するナフタレン誘導体が、(コ)モノマーとして使用され得る。反応物の選択に依存して、ポリエステル又はポリエステルカーボネートがその後得られる。本願は、原料、即ち例えばイソソルビド及び脂環式二酸の対応するポリエステルカーボネートへの直接変換に関する。シクロヘキサンジカルボン酸及びイソソルビドのポリエステルは、非特許文献1に記載されているが、本発明は特にポリエステルカーボネートに関する。
【0005】
遊離酸からのポリエステルカーボネートの大規模な工業的製造は、一般には限られた程度でしかできない。これらは多くの場合、対応するエステル含有モノマーとジオールとのエステル交換によって製造される。例えば、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール及びシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸からのポリエステルは、二酸のジメチルエステルから出発して製造される(特許文献1、特許文献2又は非特許文献2)。しかし、本発明によれば、脂肪族アルコールでエステル化された脂環式二酸は、驚くべきことに、ポリエステルカーボネートへのエステル交換反応において低い反応性しか示さないことが判明し、これはエステル交換反応後の対応するポリエステルカーボネートの分子量がかなり低いことを意味する(実施例6参照)。したがって、かかるポリマーは不十分な特性しか示さない。
【0006】
特許文献3には、対応する脂環式酸のジフェニルエステルから出発する反応が記載されている。しかし、これに必要なジエステルの製造は複雑である。ジフェニルエステル及び得られるポリマーを製造するための、特許文献3及び特許文献1に記載されている方法は最適ではない。というのも、前駆体の収率が低い(実施例1;特許文献3)か、又はホスゲン等の有害物質の使用(特許文献1の実施例1及び実施例2)が必要であるからである。溶媒の使用も必要であり、これにはコストのかかる処理工程が必要である。したがって、記載された方法は、付加的な精製工程を特に必要とする比較的複雑な方法である。
【0007】
特許文献4はイソソルビドベースのポリカーボネートポリマーを開示しており、該ポリマーは、イソソルビド単位と、脂肪族C14~C44二酸から、脂肪族C14~C44ジオールから、又はこれらの組み合わせから誘導される脂肪族単位と、任意で、イソソルビド単位及び脂肪族単位とは異なる付加的単位とからなり、イソソルビド単位、脂肪族単位、及び付加的単位はそれぞれ、カーボネート、又はカーボネート単位及びエステル単位の組み合わせである。脂肪族ポリカーボネート又はポリエステルポリカーボネートに多い欠点については、既に上述したとおりである。
【0008】
Kricheldorfら(非特許文献3)は、シクロヘキサンジカルボン酸及びイソソルビドをベースにしたポリエステルは、シクロヘキサン二酸から又はシクロヘキサンジメチルエステルからは得られず(又は非常に低い分子量しか得られない)、シクロヘキサンジカルボン酸の酸塩化物からのみ製造し得ると報告している。
【0009】
芳香族ポリエステルカーボネートの容易な製造については、例えば特許文献5に記載されている。これは、直接合成又はワンポット合成、即ち、後のポリエステルカーボネートを形成する全ての構成要素が、合成の開始時にモノマーとして既に存在する合成について記載している。ここでは、ビスフェノールA等の芳香族ジヒドロキシ化合物と、カルボン酸ジエステルと、芳香族又は直鎖脂肪族二酸とがモノマーとして使用される。この文献は芳香族ポリエステルカーボネートの製造に限定されているため、形成されたフェノールが除去される縮合反応において、300℃の温度を採用することが可能である。脂肪族ポリエステルカーボネートを製造する際にかかる温度を使用することは不可能である。というのも、脂肪族ジオールは、このような熱ストレスに曝されると、脱離及び/又は熱分解を起こす傾向があるからである。しかし同時に、所望の高分子量に成長させるためには、この高温が必要である。ここで特に明らかなのは、脂肪族ジオールと芳香族ジオールとの反応性の違いである。例えば、イソソルビドがポリマー中に完全に取り込まれることはまれであり、選択された反応条件に依存して、重合反応中にイソソルビドの最大25%が代わりに失われることが文献で知られている。したがって、芳香族ジオールの反応条件を脂肪族ジオールに転用することは容易ではない。このことは、特許文献5の重縮合(方法工程(ii)に相当)の反応時間が、本発明によって観察されるものよりもより高温で明らかに長いという事実から特に明らかである。
【0010】
特許文献6及び特許文献7でも同様に、芳香族構成単位及び対応する高温が使用される。上述した理由により、その教示を脂肪族構成単位に転用することはできない。
【0011】
未公開特許出願の特許文献8には、ジフェニルカーボネートをシクロヘキサンジカルボン酸と反応させてシクロヘキサンジフェニルエステルを得る反応により、褐変した混合物が得られ、良好な光学特性を有するポリエステルカーボネートを得るためには、シクロヘキサンジフェニルエステルの蒸留精製が必要であることが記載されている。さらに、蒸留を行わないと、変色を生じる不純物がポリマー中に取り込まれ、そのため、沈殿によって除去することができないことが観察された。このことは、蒸留を行わないと、良好な光学特性を有するポリエステルカーボネートを得ることができないことを意味する。この観察に基づいて、当業者は、全てのモノマーの存在下でのワンポット合成を考慮することは考えられない。というのも、当業者は、中間体として形成されたシクロヘキサンジフェニルエステルの精製がポリマーの光学的品質のために必須であると考えるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許出願公開第3248999号
【文献】米国特許第5986040号
【文献】欧州特許出願公開第3026074号
【文献】米国特許出願公開第2009/105393号
【文献】国際公開第01/32742号
【文献】特開1992-345616号
【文献】独国特許出願公開第2438053号
【文献】欧州特許出願第18189636.6号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Macromolecules 2013, 46, 2930-2940
【文献】J. Polym Sci, Part A, Polym Chem, 2004, vol. 42, 3996
【文献】Macromol. Chem. Phys 2010, 211, 1206-1214
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この従来技術に基づいて、したがって、本発明の基本的な目的は、特に簡単な、溶融エステル交換によって、脂環式二酸及び脂肪族ジオールからポリエステルカーボネートを製造する方法を提供することである。この文脈において、「簡単」とは、特に、僅かな設備の費用しか必要とせず、僅かな工程しか、特に僅かな精製工程しか含まず、及び/又は、したがって経済的にも環境的にも有利な方法を意味すると理解されるべきである。本方法は、特に、脂環式二酸及び脂肪族ジオールからポリエステルカーボネートを製造するための記載した従来技術の方法よりも簡単であるべきである。特に、本発明の基本的な目的は、好ましくは十分に高いモル質量を有する対応するポリエステルカーボネートを付加的に提供する、脂環式二酸及び脂肪族ジオールからポリエステルカーボネートを製造する方法を提供することであった。「十分に高いモル質量」とは、本明細書では好ましくは、相対溶液粘度が少なくとも1.12(好ましくは、ウベローデ型粘度計を用いて、25℃で濃度5g/lのジクロロメタン中で測定)、及び/又は質量平均モル質量が少なくとも40000g/mol(好ましくは、ポリスチレン較正を用いてジクロロメタン中でゲル浸透クロマトグラフィーにより決定)のポリマーを意味すると理解される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的の少なくとも1つ、好ましくは全てが、本発明によって達成された。驚くべきことに、溶融エステル交換による脂環式二酸及び脂肪族ジオールからのポリエステルカーボネートの合成は、後のポリエステルカーボネートを形成する全ての構成要素が合成開始時にモノマーとして既に存在する、直接合成又はワンポット合成において可能であることが見出された。しかし、脂環式二酸と脂肪族ジオールとの特定のモル比でしか、適切なモル質量を有し、したがって適切な機械的特性をも有するポリマーが得られないことが明らかになった。まず、驚くべきことに、記載した従来技術の先入観にもかかわらず、直接合成は、脂環式ジカルボン酸、脂肪族ジヒドロキシ化合物(本発明により脂肪族ジオールともいう)、及びジアリールカーボネートの反応においても機能する。さらに、全くの驚きは、全ての脂肪族ジヒドロキシ化合物と全ての脂環式ジカルボン酸とのモル比が、対応するポリマーを特に得るために重要であるということであった。これにより、脂環式二酸及び脂肪族ジオールからポリエステルカーボネートへのアクセスを提供する方法の発見がもたらされた。該方法は特に簡単であり、即ち僅かな設備の費用しか必要とせず、僅かな工程しか、特に僅かな精製工程しか含まず、したがって経済的にも環境的にも有利である。
【0016】
さらに、上述の従来技術のポリエステルカーボネートとは異なる構造を有する、即ち構成要素の統計的分布が異なる新規なポリエステルカーボネートが得られた。本発明によるポリエステルカーボネートの製造方法は、以下に示すように、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸、イソソルビド及びジフェニルカーボネートの反応によって、概略的に説明することができる:
【化1】
(これらの特定の3つの出発物質の記載は、単に本発明を明らかにするためのものであり、限定として理解されるべきではない)。
【0017】
本発明による直接合成では、最初にガスの発生が観察された(二酸化炭素の発生)。ガスの発生がほぼ収まった時点で混合物からサンプルを取れば、オリゴマーが既に形成されたことが分析的に実証可能である。これらのオリゴマーは、更なる工程において縮合し、本発明によるポリエステルカーボネートを形成する。本発明による実施例は、これらのオリゴマーにおけるカーボネートブロック及びエステルブロック(上記スキーム参照)の統計的分布が、従来技術におけるようにシクロヘキサンジカルボン酸の誘導体のみがジフェニルカーボネート及びイソソルビドと反応する場合(一例)の、ブロックの純粋な統計的分布とは既に異なっていることを示している。さらに、このようなオリゴマーの反応性は、純粋なシクロヘキサンジフェニルエステル、イソソルビド及び純粋なジフェニルカーボネートのものとは異なる。したがって、本発明による方法の正味の結果は、種々のブロックの統計的分布が、シクロヘキサンジフェニルエステル、イソソルビド及びジフェニルカーボネートから得られるポリマーのものとは異なるポリマーを得ることである。
【0018】
さらに、本発明によるポリエステルカーボネートは、1H NMRにおいて、2工程法により製造された特許文献3に記載のポリエステルカーボネートよりも多くの末端フェニル基を示すことが観察された。本発明による実施例では、僅かに過剰なイソソルビドを使用したにもかかわらず、末端フェニル基がやはり形成された。このことは有利である。というのも、末端OH基は、特にポリマーの高い処理温度では加水分解的に不安定であり、エステル交換反応を生じる可能性があり、また熱安定性を低下させる可能性があるからである。
【0019】
したがって、本発明は、溶融エステル交換によってポリエステルカーボネートを製造する方法であって、
(i)少なくとも1つの触媒を用いて、少なくとも1つの脂肪族ジヒドロキシ化合物の存在下で、少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸を、少なくとも1つのジアリールカーボネートと反応させる工程と、
(ii)方法工程(i)から得られた混合物を、少なくとも縮合中に脱離した化学的化合物を除去しつつ、更なる縮合に供する工程と、
を含み、
方法工程(i)における反応前における、方法工程(i)において存在する全ての脂肪族ジヒドロキシ化合物と、方法工程(i)において存在する全ての脂環式ジカルボン酸とのモル比は、1:0.6~1:0.05であることを特徴とする、方法を提供する。
【0020】
本発明によれば、方法工程(i)は、少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸と少なくとも1つのジアリールカーボネートとの反応を少なくとも含む。しかし、少なくとも1つの脂肪族ジヒドロキシ化合物の存在は、本発明により更なる反応が排除され得ないことを意味する。実際、本発明による実施例では、方法工程(i)において、カーボネートを有する脂肪族ジヒドロキシ化合物からの1単位(2つのヒドロキシ基が失われている)に相当する、MALDI-ToF質量分析計における質量差を有するオリゴマーが既に形成されていることが実証された。このことは、方法工程(i)において、ジエステルの形成の他に更なる反応が起こり得ることを意味する。しかし、本発明によれば、このことは、方法工程(ii)が開始される前に、存在する全ての脂環式ジカルボン酸と化学量論当量のジアリールカーボネートとの反応が完了まで進行している必要はないことをも意味する。しかし、本発明によれば、方法工程(i)は、ガスの発生がほぼ停止したことが観察されるまで進行し、この時点に到達した場合にのみ、方法工程(ii)が、例えば縮合中に脱離した化学的化合物を除去するために真空引きをかけることにより、開始されることが好ましい。しかし、既に上述したように、本発明によれば、方法工程(i)と(ii)とを明確な分けることは必ずしも可能ではないかもしれない。
【0021】
方法工程(i)
本発明による方法は、直接合成又はワンポット合成とされる。というのも、方法工程(i)において、後のポリエステルカーボネートを形成する全ての構成要素がモノマーとして既に存在するからである。このことは、好ましくは、本発明によれば、たとえ複数のジヒドロキシ化合物、複数の脂環式ジカルボン酸及び/又は複数のジアリールカーボネートがあっても、全ての脂肪族ジヒドロキシ化合物、全ての脂環式ジカルボン酸及び更に全てのジアリールカーボネートが、この工程において存在することを意味する。したがって、本発明によれば、方法工程(ii)においてポリエステルカーボネートへの縮合に供される全てのモノマーが、方法工程(i)の間に既に存在することが好ましい。本発明は、同様に、方法工程(ii)において、少量の割合の少なくとも1つのジアリールカーボネートが付加的に添加される実施の形態を含む。これは、形成されるポリエステルカーボネートの末端OH基含有量を下げるために選択的に使用され得る。かかるアプローチは、例えば、特開2010077398号に記載されている。しかし、後のポリエステルカーボネートを形成する全ての構成要素が、方法工程(i)においてモノマーとして既に存在し、更なる構成要素が追加されないように、ここでは、方法工程(ii)において少量で添加される少なくとも1つのジアリールカーボネートが、方法工程(i)において存在する少なくとも1つのジアリールカーボネートと同じであることが必要である。したがって、本方法は、この意味で、やはり直接合成又はワンポット合成ということができる。
【0022】
さらに、本発明は、方法工程(i)における芳香族ジヒドロキシ化合物及び/又は芳香族ジカルボン酸の存在を排除するものではない。しかし、これらは好ましくは小さな割合でのみ存在する。方法工程(i)において、芳香族ジヒドロキシ化合物が、それぞれ使用されるジヒドロキシ化合物の総モル量に対して、最大20mol%、より好ましくは最大10mol%、最も好ましくは最大5mol%の含有量で付加的に存在することが特に好ましい。同様に、方法工程(i)において、芳香族ジカルボン酸が、任意に芳香族ジヒドロキシ化合物に更に加えて、それぞれ使用されるジカルボン酸の総モル量に対して、最大20mol%、より好ましくは最大10mol%、最も好ましくは最大5mol%の含有量で付加的に存在することが特に好ましい。これらの場合、本発明によれば、生成物を脂肪族ポリエステルカーボネートということが依然として好ましい。しかし、方法工程(i)において芳香族ジヒドロキシ化合物を使用しないことが特に好ましい。同様に、方法工程(i)において芳香族ジカルボン酸を使用しないことも好ましい。同様に、方法工程(i)において芳香族ジヒドロキシ化合物も芳香族ジカルボン酸も使用しないことが好ましい。
【0023】
これらの付加的な芳香族ジヒドロキシ化合物は、好ましくは、ビスフェノールA、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(DOD)、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル(DODエーテル)、ビスフェノールB、ビスフェノールM及びビスフェノール(I)~(III):
【化2】
(これらの式(I)~(III)において、R’は、それぞれ、C1~C4アルキル、アラルキル又はアリール、好ましくはメチル又はフェニル、最も好ましくはメチルを表す)からなる群より選択される。
【0024】
これらの付加的な芳香族ジカルボン酸は、好ましくは、イソフタル酸、テレフタル酸、フランジカルボン酸及びナフタレン-2,6-ジカルボン酸からなる群より選択される。少しの割合のこれらの芳香族二酸により、脂肪族ポリエステルカーボネートによる水の吸収を低減することができることが知られている。
【0025】
本発明によれば、方法工程(i)において少なくとも1つの脂肪族ジヒドロキシ化合物が使用される。この少なくとも1つの脂肪族ジヒドロキシ化合物は、好ましくは、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,3-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジメタノール、シクロヘキサン-1,3-ジメタノール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、テトラヒドロ-2,5-フランジメタノール、及び1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール、例えばイソマンニド、イソイジド及びイソソルビドからなる群より選択される。任意の所望の混合物も使用され得る。少なくとも1つの脂肪族ジヒドロキシ化合物は、最も好ましくは、イソソルビドである。
【0026】
本発明によれば、方法工程(i)において少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸が同様に使用される。少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸は、好ましくは、化学式(IIa)、(IIb):
【化3】
(式中、Bは、それぞれ、独立して、炭素原子、又は、O、S及びNからなる群より選択されるヘテロ原子を表し、nは、0~3の数である)の化合物又はこれらの混合物から選択される。更に好ましくは、Bは、炭素原子又はOを表し、nは、0~3の数、好ましくは0又は1である。
【0027】
特に、少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸は、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、テトラジヒドロ-2,5-フランジカルボン酸、テトラジヒドロ-2,5-ジメチルフランジカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,4-ジカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,5-ジカルボン酸、デカヒドロナフタレン-2,6-ジカルボン酸、及びデカヒドロナフタレン-2,7-ジカルボン酸からなる群より選択されることが好ましい。任意の所望の混合物も使用され得る。最も好ましいのは、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、又はシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸である。
【0028】
本発明によれば、方法工程(i)において少なくとも1つのジアリールカーボネートが同様に使用される。少なくとも1つのジアリールカーボネートは、好ましくは、式(2):
【化4】
(式中、R、R’及びR’’は、それぞれ、独立して、同一であるか又は異なっていてもよく、水素、任意に分岐したC1~C34アルキル、C7~C34アルキルアリール、C6~C34アリール、ニトロ基、カルボニル含有基、カルボキシル含有基、又はハロゲン部位を表す)の化合物からなる群より選択される。少なくとも1つのジアリールカーボネートは、好ましくは、ジフェニルカーボネート、4-tert-ブチルフェニルフェニルカーボネート、ジ(4-tert-ブチルフェニル)カーボネート、ビフェニル-4-イルフェニルカーボネート、ジ(ビフェニル-4-イル)カーボネート、4-(1-メチル-1-フェニルエチル)フェニルフェニルカーボネート、ジ[4-(1-メチル-1-フェニルエチル)フェニル]カーボネート、ビス(メチルサリチル)カーボネート、ビス(エチルサリチル)カーボネート、ビス(プロピルサリチル)カーボネート、ビス(2-ベンゾイルフェニル)カーボネート、ビス(フェニルサリチル)カーボネート及び/又はビス(ベンジルサリチル)カーボネートである。特に、少なくとも1つのジアリールカーボネートは、好ましくは、ジフェニルカーボネート、4-tert-ブチルフェニルカーボネート、ジ(4-tert-ブチルフェニル)カーボネート、ビフェニル-4-イルフェニルカーボネート、ジ(ビフェニル-4-イル)カーボネート、4-(1-メチル-1-フェニルエチル)フェニルフェニルカーボネート及び/又はジ[4-(1-メチル-1-フェニルエチル)フェニル]カーボネートである。少なくとも1つのジアリールカーボネートは、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0029】
さらに、本発明によれば、方法工程(i)において少なくとも1つの触媒が存在する。これは好ましくは、無機塩基及び/又は有機触媒である。少なくとも1つの触媒は、特に好ましくは、5以下のpKbを有する無機塩基又は有機塩基である。
【0030】
少なくとも1つの無機塩基又は少なくとも1つの有機触媒は、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、バリウム及びマグネシウムの水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、フェノール塩、ジフェノール塩、フッ化物、酢酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩及びホウ酸塩、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムフルオリド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ジメチルジフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、セチルトリメチルアンモニウムテトラフェニルボレート、セチルトリメチルアンモニウムフェノキシド、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-フェニル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7,7’-ヘキシリデンジ-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7,7’-デシリデンジ-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7,7’-ドデシリデンジ-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、ホスファゼン塩基P1-t-オクト(tert-オクチルイミノトリス(ジメチルアミノ)ホスホラン)、ホスファゼン塩基P1-t-ブチル(tert-ブチル-イミノトリス(ジメチルアミノ)ホスホラン)、及び2-tert-ブチルイミノ-2-ジエチルアミノ-1,3-ジメチルペルヒドロ-1,3,2-ジアザ-2-ホスホラン(BEMP)からなる群より選択されることも好ましい。任意の所望の混合物も使用され得る。
【0031】
少なくとも1つの触媒は、非常に好ましくは有機塩基であり、好ましくは上述のもの、特に好ましくはアルキルアミン、イミダゾール(誘導体)、グアニジン塩基、例えばトリアザビシクロデセン、DMAP及び対応する誘導体、DBN及びDBU、最も好ましくはDMAPである。これらの触媒は、本発明による方法工程(ii)において、例えば減圧下で、縮合中に脱離した化学的化合物とともに除去することができるという特別な利点がある。このことは、得られるポリエステルカーボネートが、残留触媒を最小しか含まないか又は全く含まないことを意味する。これには、特に、例えばホスゲンが使用される全ての経路で、必ず形成される無機塩がポリマー中に存在しないという利点がある。イオンが対応する分解に触媒的に作用する可能性があることから、このような塩は、ポリエステルカーボネートの安定性に悪影響を及ぼし得ることが知られている。
【0032】
好ましくは、少なくとも1つの触媒を、1molの脂環式ジカルボン酸に対して、1ppm~5000ppm、好ましくは5ppm~1000ppm、より好ましくは20ppm~200ppmの量で使用する。
【0033】
本発明によれば、十分なモル質量のポリエステルカーボネートを得るためには、方法工程(i)における反応の前に、方法工程(i)において存在する全ての脂肪族ジヒドロキシ化合物と、方法工程(i)において存在する全ての脂環式ジカルボン酸とのモル比が、1:0.6~1:0.05である必要があることが見出された。好ましくは、この比は1:0.55~1:0.1であり、同様に好ましくは1:0.5~1:0.15であり、最も好ましくは1:0.4~1:0.2である。ここで留意すべきことに、後のポリエステルカーボネート中の脂肪族ジヒドロキシ化合物と脂環式ジカルボン酸との比は高すぎてはならない(即ち、脂環式ジカルボン酸の組み込みは低すぎるべきではない)。というのも、そうでなければ、不所望の特性を有するポリマーが得られるからである。イソソルビド等のジヒドロキシ化合物に由来する単位の含有量が高いポリマーは、通常、非常に硬く、その結果、不十分な機械的特性を有する。脂環式ジカルボン酸に由来する単位の含有量が低すぎると、得られるポリマーの加工性が同様に悪くなるであろう。さらに、ポリエステル単位は一般にポリエステルカーボネートに良好な化学安定性を与え、これが、脂環式ジカルボン酸に由来する単位の含有量も同様に低過ぎてはならない理由である。
【0034】
本発明によれば、製造されたポリエステルカーボネートは、1.12~1.60、より好ましくは1.18~1.50、最も好ましくは1.20~1.40の相対溶液粘度eta relを有することが好ましい。ここで、相対溶液粘度は、ウベローデ型粘度計を用いて、25℃で濃度5g/lのジクロロメタン中で、測定することが好ましい。
【0035】
同様に、製造したポリエステルカーボネートは、質量平均モル質量が40000g/mol~150000g/mol、より好ましくは45000g/mol~90000g/molであることが好ましい。これは、好ましくは、ポリスチレン較正を用いたジクロロメタン中でのゲル浸透クロマトグラフィーによって決定される。この質量平均は、最も好ましくは、実施例の項に記載したゲル浸透クロマトグラフィー法によって決定される。
【0036】
本発明によれば、これらのモル質量が、好ましくは、「十分な」モル質量といわれる。
【0037】
さらに、本発明による方法工程(i)は、好ましくは、以下の工程(ia)~(ic)の少なくとも1つ、より好ましくは全てを含む。
【0038】
(ia)方法工程(i)において存在する全ての成分、即ち、少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸、少なくとも1つのジアリールカーボネート及び少なくとも1つの脂肪族ジヒドロキシ化合物を、少なくとも1つの触媒の存在下で少なくとも溶融する工程。これは、好ましくは不活性ガス雰囲気下、好ましくは窒素及び/又はアルゴン下で行われる。工程(ia)は、好ましくは、溶媒の非存在下で行われる。「溶媒」の語は、この文脈において当業者に知られている。本発明によれば、「溶媒」の語は、好ましくは、方法工程(i)及び(ii)のいずれにおいても化学反応を起こさない化合物を意味すると理解される。例外は、反応によって形成される化合物である(例えば、少なくとも1つのジアリールカーボネートとしてジフェニルカーボネートが使用される場合、フェノール)。もちろん、出発化合物中の微量の溶媒の存在を排除することはできない。このことは、好ましくは本発明に含まれる。しかし、本発明によれば、このような溶媒を添加する積極的な工程が回避されることが好ましい。
【0039】
(ib)混合物、好ましくは工程(ia)から得られた溶融物を加熱する工程。工程(ia)及び工程(ib)は重複してもよい。というのも、工程(ia)において溶融物を生成するために同様に加熱が必要とされ得るからである。加熱は、好ましくは最初に150℃~180℃の温度にする。
【0040】
(ic)混合物、好ましくは工程(ib)から得られた混合物を、好ましくは撹拌により混合エネルギーを導入しつつ反応させる工程。ここでも、工程(ic)は工程(ib)と重複してもよい。というのも、加熱によって既に混合物の反応が開始され得るからである。溶融物は、ここでは好ましくは、工程(ib)によって標準圧力下で150℃~180℃の温度に既に加熱されている。工程(ic)における温度は、観察される反応性に応じて、210℃~300℃、好ましくは220℃~260℃に段階的に上昇させる。反応性は、当業者に知られている方法で、発生したガスから推定可能である。この工程では、より高温も基本的には可能であるが、より高温では副反応(例えば、変色)が起こる可能性がある。したがって、より高温はあまり好ましくない。混合物は、ガスの発生がほぼ停止するまで標準圧力下で撹拌される。本発明によれば、これらの条件下で、少なくとも1つのカルボン酸と少なくとも1つのジアリールカーボネートとの反応から生じるアリールアルコール(例えば、ジフェニルカーボネートを使用する場合はフェノール)が既に部分的に除去される。
【0041】
また、本発明によれば、少なくとも1つのジヒドロキシ化合物が同様にこの時までに既に反応し始めていたことが観察された。このことは、少なくとも1つのジヒドロキシ化合物と少なくとも1つのジアリールカーボネートとの反応からのカーボネート単位、及び/又は、少なくとも1つのジヒドロキシ化合物と少なくとも1つのジカルボン酸との反応によるエステル単位を含むオリゴマーの検出により実証された。
【0042】
したがって、本発明によれば、方法工程(ii)の実施前に、方法工程(i)から得られた混合物が、少なくとも1つのジヒドロキシ化合物と少なくとも1つのジアリールカーボネートとの反応からのカーボネート単位、及び/又は、少なくとも1つのジヒドロキシ化合物の反応からのエステル単位を含むオリゴマーを含むことが好ましい。
【0043】
工程(ic)における反応時間は、原料の量に依存する。好ましくは、工程(ic)における反応時間は、0.5時間~24時間、好ましくは0.75時間~5時間、より好ましくは1時間~3時間である。ガスの発生がほぼ停止したことを確実とする反応時間は、好ましくは選択されるべきである(上記反応スキーム参照)。
【0044】
本発明によれば、方法工程(i)における反応前における、方法工程(i)において存在する全ての脂肪族ジヒドロキシ化合物及び方法工程(i)において存在する全ての脂環式ジカルボン酸の合計と、方法工程(i)において存在する全てのジアリールカーボネートとのモル比は、1:0.4~1:1.6、好ましくは1:0.5~1:1.5、更に好ましくは1:0.6~1:1.4、より好ましくは1:0.7~1:1.3、特に好ましくは1:0.8~1:1.2、最も好ましくは1:0.9~1:1.1である。当業者であれば、原料の純度に合わせて適切な最適比を選択することができる。
【0045】
方法工程(ii)
方法工程(ii)において、方法工程(i)から得られる混合物は、縮合中に脱離した化学的化合物の除去を少なくとも伴う、更なる縮合に供される。本発明の文脈において、「更なる」縮合という表現は、方法工程(i)において少なくともいくらかの縮合が既に生じていたことを意味すると理解されるべきである。これは、好ましくは、少なくとも1つの脂環式ジカルボン酸と少なくとも1つのジアリールカーボネートとの、アリールアルコールの脱離を伴う反応である。しかし、オリゴマーへの更なる縮合も既に生じていることが好ましい(方法工程(i)参照)。
【0046】
「縮合」の語は当業者に知られている。これは好ましくは、(同じ物質又は異なる物質の)2つの分子が結合してより大きな分子を形成する反応であって、化学的に単純な物質の分子の脱離を伴う反応を意味すると理解される。縮合中に脱離したこの化合物は、方法工程(ii)において除去される。縮合中に脱離した化学的化合物は、方法工程(ii)において、減圧によって除去されることが好ましい。したがって、方法工程(i)において形成された脂環式ジエステル未満、少なくとも1つの脂肪族ジヒドロキシ化合物未満、及び少なくとも1つのジアリールカーボネート未満の沸点を有する揮発性物質が、方法工程(i)の反応中に、任意に段階的な減圧の下で、除去されることを本発明による方法が特徴とすることが好ましい。異なる複数の揮発性物質が除去される場合、ここでは段階的に除去することを選択することが好ましい。同様に、複数の揮発性物質が可能な限り完全に除去されることを確実とするために、段階的な除去を選択することが好ましい。該揮発性物質は、縮合中に脱離した化学的化合物(複数の場合もある)である。
【0047】
縮合中に脱離した化学的化合物の連続的な除去を確実とするために、段階的な減圧は、例えば、オーバーヘッド温度が下がったらすぐに減圧することによって行うことができる。1mbar、好ましくは1mbar未満の圧力に達したときに、所望の粘度に達するまで縮合を継続する。これは、例えば、トルクを監視することによって行うことができ、即ち、重縮合は、所望の撹拌機トルクに達したときに停止する。
【0048】
方法工程(ii)における縮合生成物の除去は、好ましくは210℃~280℃、より好ましくは215℃~260℃、特に好ましくは220℃~250℃の温度で行われる。除去の際の圧力は、更に好ましくは500mbar~0.01mbarである。除去は、減圧により段階的に行うことが特に好ましい。最終段階での圧力は、最も好ましくは10mbar~0.01mbarである。
【0049】
一実施の形態では、少なくとも1つの触媒を方法工程(ii)において添加することができる。かかる添加もやはり本発明に含まれる。というのも、それにもかかわらず、後のポリエステルカーボネートを形成する全ての構成要素は、方法工程(i)においてモノマーとして存在するからである。この付加的な少なくとも1つの触媒は、方法工程(i)において存在する触媒と同一であるか又は異なっていてもよい。少なくとも1つの触媒は、好ましくは、方法工程(i)で述べた触媒から選択される。かかる手順は、触媒が、方法工程(i)及び方法工程(ii)において主に生じる反応に関して異なる反応性を示す場合に有利であり得る。
【0050】
本発明の更なる態様では、全ての開示されている組み合わせ及び好ましい事項において、上述の本発明の方法によって得られるポリエステルカーボネートが提供される。上記において既に説明したように、本発明によるポリエステルカーボネートは、カーボネート単位及び/又はエステル単位が異なる統計的分布を有する限りにおいて、2工程法(即ち、脂環式ジカルボン酸とジアリールカーボネートとの反応によるジアリールジカルボキシレートの最初の製造及び該ジアリールジカルボキシレートの精製、その後の、ジアリールジカルボキシレートとジアリールカーボネート及び脂肪族ジヒドロキシ化合物との縮合)を介して製造されたポリエステルカーボネートとは異なる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0051】
使用材料:
シクロヘキサンジカルボン酸:シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸;CAS 1076-97-7、99%;Sigma-Aldrich(独国ミュンヘン)、CHDAと略記
水添ダイマー酸 CAS 68783-41-5、98%以上、Sigma-Aldrich(独国ミュンヘン)、比較物質として
ジフェニルカーボネート:ジフェニルカーボネート、99.5%、CAS 102-09-0;Acros Organics(ベルギー国ヘール);DPCと略記
4-ジメチルアミノピリジン:4-(ジメチルアミノ)ピリジン;98.0%以上;purum;CAS 1122-58-3;Sigma-Aldrich(独国ミュンヘン)
イソソルビド:イソソルビド(CAS:652-67-5)、99.8%、Polysorb PS A;Roquette Freres(仏国レストロン 62136);ISBと略記
ジメチルシクロヘキサン-1,4-ジカルボキシレート:CAS 94-60-0 Sigma Aldrich(97%);シス/トランス混合物
【0052】
分析方法:
ガラス転移温度の決定:
ガラス転移温度は、DIN EN ISO 11357-1:2009-10及びISO 11357-2:2013-05規格に従い、示差走査熱量計(DSC)によって、窒素下10K/分の昇温速度で決定し、2回目の加熱時の変曲点として測定されるガラス転移温度(Tg)を決定する。
【0053】
化学的特性評価:
1H NMR:600MHz;Bruker AV III HD 600スペクトロメーター;溶媒:CDCl3
【0054】
溶液粘度
溶液粘度の決定:相対溶液粘度(ηrel;eta relともいう)は、濃度5g/lのジクロロメタン中で、ウベローデ型粘度計を用いて25℃で決定した。
【0055】
ゲル浸透クロマトグラフィー
質量平均モル質量Mw、数平均モル質量Mn及び分散性(D)の値は、ジクロロメタンを溶離液として用いたゲル浸透クロマトグラフィーによって、ポリスチレン標準で較正、Currenta GmbH & Co. OHG(レバークーゼン)により測定して決定した。較正用の溶離液も同様にジクロロメタンである。架橋スチレン-ジビニルベンゼン樹脂のカラムの組み合わせ。分析カラムの直径:7.5mm;長さ:300mm。カラム材料の粒度:3μm~20μm。溶液濃度:1.0g/l。流速:1.0ml/分、溶液温度:21℃。屈折率(RI)検出器を用いた検出。
【0056】
MALDI-ToF-MS
サンプルはクロロホルムに溶解させた。使用したマトリックスは、LiClを含むジスラノールであった。サンプルはポジティブリフレクターモード及びリニアモードにおいて分析した。
【0057】
実施例1:本発明;ISB:CHDA 1:0.5
ショートパスセパレーターを装着したフラスコに、17.22g(0.10mol)のシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、29.815g(0.204mol)のイソソルビド、64.26g(0.3mol)のジフェニルカーボネート、及び0.01113g(100ppm)(0.010重量%に相当)のDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)を投入した。混合物は、窒素で4回真空引きして酸素を除去した。混合物を溶融し、撹拌しつつ標準圧力で160℃に加熱した。観察された反応性に従って、温度を段階的に240℃まで上昇させた。CO2の発生が止まるまで撹拌を続けた。これには約1時間かかった(160℃での溶融から)。この操作の間に、フェノールを留去した。
【0058】
CO2の発生が停止した後、圧力を約20分かけて段階的に100mbarまで慎重に低下させた。この操作の間、フェノールを連続的に留去した。圧力が1mbar未満になるまで排気を続けた。この圧力で更に約30分間撹拌を続け、その後、混合を停止した。
【0059】
褐色樹脂の粗生成物5.9g;NMR(1H NMR)により目的の化合物が得られたことを確認した。
【0060】
溶液粘度eta relが1.335の薄茶色のポリマーが得られた。
【0061】
更なるデータを表1に示す。
【0062】
実施例2:本発明;ISB:CHDA 1:0.4
17.22g(0.10mol)のシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、37.26g(0.255mol)のイソソルビド、及び74.97g(0.35mol)のジフェニルカーボネートを用いたこと以外は、実質的に実施例1に記載したように試験を行った。実施例1と同量の触媒を用いた。
【0063】
溶液粘度eta rel 1.288の薄茶色のポリマーが得られた。
【0064】
実施例3:本発明;ISB:CHDA 1:0.3
17.22g(0.10mol)のシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、49.25g(0.337mol)のイソソルビド、及び92.75g(0.433mol)のジフェニルカーボネートを用いたこと以外は、実質的に実施例1に記載したように試験を行った。実施例1と同量の触媒を用いた。
【0065】
溶液粘度eta rel 1.278の薄茶色のポリマーが得られた。
【0066】
実施例4:比較例1:ISB:CHDA=1:1
17.20g(0.10mol)のシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、14.90g(0.102mol)のイソソルビド、及び42.80g(0.20mol)のジフェニルカーボネートを用いたこと以外は、実質的に実施例1に記載したように試験を行った。実施例1と同量の触媒を用いた。
【0067】
溶液粘度eta rel 1.025の脆い茶色の溶融物が得られた。
【0068】
実施例5:比較例1:ISB:CHDA=0.8:1
17.20g(0.10mol)のシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、18.70g(0.128mol)のイソソルビド、及び48.20g(0.225mol)のジフェニルカーボネートを用いたこと以外は、実質的に実施例1に記載したように試験を行った。実施例1と同量の触媒を用いた。
【0069】
溶液粘度eta rel 1.053の脆い茶色の溶融物が得られた。
【0070】
実施例6:CHDAの代わりにCHDAのジメチルエステルを使用した比較例
20.20g(0.10mol)のジメチルシクロヘキサン-1,4-ジカルボキシレート、37.26g(0.255mol)のイソソルビド、及び32.13g(0.15mol)のジフェニルカーボネートを用いたこと以外は、実質的に実施例1に記載したように試験を行った。実施例1と同じ触媒を使用したが、その量は1000ppmであった。
【0071】
溶液粘度eta rel 1.054の脆い茶色の溶融物が得られた。
【0072】
実施例7:本発明のものではない酸を用いた比較例
27.70g(0.05mol)の水添ダイマー酸(CAS 68783-41-5)、24.64g(0.169mol)のイソソルビド、及び46.40g(0.217mol)のジフェニルカーボネートを用いた以外は、実質的に実施例1に記載したように試験を行った。実施例1と同量の触媒を用いた。
【0073】
液状生成物が得られた。ポリマーの十分な成長が生じなかったことが明らかであったため、溶液粘度の決定は省略した。
【0074】
【0075】
実施例1~3は、本発明によるイソソルビドとCHDAとの比が適合している限り、本発明の方法により所望のポリエステルカーボネートが高粘度で得られたことを示す。
【0076】
遊離酸から出発するエステル交換反応はうまくいかない(非特許文献2参照)ことからすれば、これは驚くべきことであった。脂肪族エステルから出発するエステル交換反応(比較例6参照)は、驚くべきことに、本発明による比が適合していたとしても、非常に小さな分子量の成長しか示さない。
【0077】
同様に、実施例7と実施例3との比較は、酸成分の選択が、十分なポリマーの成長にとって重要であることを示す。特許文献4に記載されているような酸を使用した場合には、液状生成物しか得られない。
【0078】
さらに、驚くべきことに、特定のISB:CHDAの比を有するポリマーは合成することができない。即ち、比較例4及び5は、シクロヘキサンジカルボン酸の割合がより大きい比では、所望のポリマーが得られず、得られる分子量も非常に小さいことを示す。このことは、更に、この文献からは知られていない/推察できないことであった。
【0079】
実施例8:方法工程(i)における反応
ショートパスセパレーターを装着したフラスコに、17.22g(0.10mol)のシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、29.228g(0.20mol)のイソソルビド、42.84g(0.2mol)のジフェニルカーボネート、及び0.0089g(100ppm)のDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)を投入した。混合物は、窒素で4回真空引きして酸素を除去した。混合物を160℃で溶融し、その後、温度を190℃に上げた。約30分かけて、240℃に昇温した。混合物を240℃で約30分間攪拌した。その後、段階的に圧力を下げながら、僅かな真空引きを20分間かけた。20分後、圧力は200mbarまで下がり、反応を停止させた。僅かな真空引きはフェノールを除去するためである。というのも、そうしないと、これは分析を阻害するからである。
【0080】
残量のフェノール及びCHDA等の極性物質を除去するために、混合物をジクロロメタンに溶解し、水で3回抽出した。生成物をMALDI-ToF-MSによって分析した。
【0081】
172Da離れたピーク同士が観測され、これはISBカーボネート単位が形成されていることの明確な証拠である(質量はLi付加物に対応する:M+Li*)。
【0082】
さらに、555Daにおけるピークが同定され、これは、HO-ISB-カーボネート-ISB-エステル-CHDA-フェニル(ISBはイソソルビド単位から2つの末端OH基を除いたもの(これらについては別途記載)を指し、CHDAはシクロヘキサン(シクロヘキサンジカルボン酸から2つのカルボン酸基を除いたもの)を表す)に対応するものであろう。
【0083】
607Daにおいて観測されたピークは、HO-ISB-カーボネート-ISB-エステル-CHDA-エステル-ISB-OHオリゴマーに対応するものであろう。
【0084】
同様に、717Daにおいて観測されたピークは、HO-ISB-カーボネート-ISB-カーボネート-ISB-OHオリゴマーに対応するものであろう。665Daの更なるピークは、HO-ISB-エステル-CHDA-エステル-ISB-エステル-CHDA-エステル-フェニルの存在に対応するものであり、837Daにおけるピークはこれに更にISB単位が加わったものに対応するものであろう。
【0085】
実施例9:本発明;ISB:CHDA 1:0.5;異なる触媒)
試験は、ショートパスセパレーターを装着したフラスコに、17.22g(0.10mol)のシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、29.815g(0.204mol)のイソソルビド、64.26g(0.3mol)のジフェニルカーボネート、及び0.0555g(500ppm)(0.010重量%相当)のDBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン)を投入した以外は、実質的に実施例1に記載したように行った。
【0086】
溶液粘度eta rel 1.14の薄茶色のポリマーが得られた。