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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】新規グルコースデヒドロゲナーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/04 20060101AFI20241212BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20241212BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241212BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C12N9/04 D ZNA
C12Q1/32
C12M1/34 E
C12N15/53
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021565685
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2020047475
(87)【国際公開番号】W WO2021125332
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2019230562
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】松田 貫暉
(72)【発明者】
【氏名】井戸 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 敏行
(72)【発明者】
【氏名】勝俣 直人
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/118798(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/060150(WO,A1)
【文献】特開2016-007192(JP,A)
【文献】特開2016-007193(JP,A)
【文献】Mori K. et al.,Screening of Aspergillus-derived FAD-glucose dehydrogenases from fungal genome database,Biotechnol Lett.,2011年,vol.33, no.11,pp.2255-2263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C12N 9/00- 9/99
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を備え、アスペルギルス・クリステイタスに由来する酵素である、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)熱安定性: 50℃、20分間の熱処理後の相対残存活性が60%以上である;
(3)分子量: 約68 kDa(糖鎖除去後、SDS-PAGEによる)。
【請求項2】
以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)アミノ酸配列: 配列番号2に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列を含む。
【請求項3】
下記の酵素化学的性質を更に有する、請求項1又は2に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ:
(4)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのマルトースに対する反応性が5%以下である;
(5)至適pH: 8.0;
(6)至適温度: 55℃;
(7)pH安定性: pH5.5~7.5で安定である。
【請求項4】
アスペルギルス・クリステイタスに由来する酵素である、請求項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを用いて試料中のグルコースを測定する、グルコース測定法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコース測定用試薬。
【請求項7】
請求項に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコースセンサ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含有する酵素剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規グルコースデヒドロゲナーゼ(グルコース脱水素酵素)に関する。詳しくは、熱安定性に優れ、グルコース測定等の用途に有用なフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(E.C.1.1.99.10)及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者は年々増加しており、糖尿病患者、特にインスリン依存性の患者は血糖値を日常的に監視し血糖をコントロールする必要がある。近年、酵素を用いてリアルタイムで簡便にかつ正確に測定できる自己血糖測定器で糖尿病患者の血糖値をチェック出来るようになった。グルコースセンサ(例えば、自己血糖測定器に使用されるセンサ)用として、グルコースオキシダーゼ(E.C.1.1.3.4)、PQQ依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(E.C.1.1.5.2)(例えば特許文献1~3を参照)が開発されたが、酸素反応性、マルトース、ガラクトースへの反応性が問題となった。この問題を解決すべく、FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「FAD-GDH」と略称する)が開発された(例えば特許文献4、5、非特許文献1~4を参照)。FAD-GDHについては様々な改良が検討されている(例えば特許文献6~8を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-350588号公報
【文献】特開2001-197888号公報
【文献】特開2001-346587号公報
【文献】国際公開第2004/058958号パンフレット
【文献】国際公開第2007/139013号パンフレット
【文献】国際公開第2009/119728号パンフレット
【文献】特許第6084981号
【文献】国際公開第2006/101239号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【文献】Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. I. Induction of its synthesis by p-benzoquinone and hydroquinone, T.C. Bak, and R. Sato, Biochim. Biophys. Acta, 139, 265-276 (1967).
【文献】Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. II. Purification and physical and chemical properties, T.C. Bak, Biochim. Biophys. Acta, 139, 277-293 (1967).
【文献】Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. III. General enzymatic properties, T.C. Bak, Biochim. Biophys. Acta, 146, 317-327 (1967).
【文献】Studies on the glucose dehydrogenase of Aspergillus oryzae. IV. Histidyl residue as an active site, T.C. Bak, and R. Sato, Biochim. Biophys. Acta, 146, 328-335(1967).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酵素はタンパク質であり、熱による活性の低下を引き起こしやすい。活性の低下は測定精度等に直結する。血糖測定(自己血糖測定(SMBG)及び持続血糖測定(CGM))においても、それに使用する酵素の熱安定性が高いことが望まれているが、FAD-GDHは概してグルコースオキシダーゼ(GO)よりも安定性が劣る。FAD-GDHの熱安定性を高める試みはあるものの(例えば特許文献7)、依然として熱安定性向上に対するニーズは高い。熱安定性に優れたFAD-GDHを利用できれば、FAD-GDHの利点を活かした実用性の高いグルコースセンサが構成される。そこで本発明は、熱安定性が高く、特にグルコースセンサ用としての実用性が向上したFAD-GDH及びその用途等を提供することを課題とする。一方、測定の感度や精度を高めるため、酵素の電極反応性を向上させることが望まれる。本発明は当該要望に応えることも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明者らは、独自の評価指標を設定し、多種多様な微生物を対象として、新規なFAD-GDHの探索を進め、Aspergillus cristatusのゲノム上に存在する1つの遺伝子に着目した。当該遺伝子の発現産物(タンパク質)は仮想タンパク質(hypothetical protein)として、NCBIのデータベース(GenPept)に登録されている(ACCESSION: ODM22452.1, DEFINITION hypothetical protein SI65_00040 [Aspergillus cristatus].)。本発明者らの検討の結果、驚くべきことに、当該タンパク質がグルコースデヒドロゲナーゼ活性を示した。また、その特性を詳細に調べた結果、熱安定性に優れること、電極反応性が良好であること、更には中性pH域での活性が高いことが判明し、グルコースセンサ用の酵素として好ましいものであった。
上記の成果に基づき、以下の発明が提供される。
[1]以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)熱安定性: 50℃、20分間の熱処理後の相対残存活性が60%以上である;
(3)分子量: 約68 kDa(糖鎖除去後、SDS-PAGEによる)。
[2]以下の特徴を備える、グルコースデヒドロゲナーゼ:
(1)作用: 電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する;
(2)アミノ酸配列: 配列番号2に示すアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列と62%以上同一のアミノ酸配列を含む。
[3]アミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列と70%以上同一のアミノ酸配列である、[2]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[4]アミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、[2]に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[5]下記の酵素化学的性質を更に有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ:
(4)基質特異性: D-グルコースに対する反応性を100%としたときのマルトースに対する反応性が5%以下である;
(5)至適pH: 8.0;
(6)至適温度: 55℃;
(7)pH安定性: pH5.5~7.5で安定である。
[6]アスペルギルス・クリステイタスに由来する酵素である、[1]~[5]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
[7][1]~[6]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを用いて試料中のグルコースを測定することを特徴とする、グルコース測定法。
[8][1]~[6]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコース測定用試薬。
[9][8]に記載のグルコース測定用試薬を含む、グルコース測定用キット。
[10][1]~[6]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコースセンサ。
[11][1]~[6]のいずれか一項に記載のグルコースデヒドロゲナーゼを含有する酵素剤。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】A. cristatus由来FAD-GDHの至適pH。
図2】A. cristatus由来FAD-GDHの至適温度。
図3】A. cristatus由来FAD-GDHのpH安定性。A. oryzae BB-56株由来FAD-GDHと比較して示す。
図4】A. cristatus由来FAD-GDHの熱安定性。熱処理後の残存活性をA.oryzaeBB-56株由来FAD-GDHと比較した。
図5】A. cristatus由来FAD-GDHの電極反応性。A. oryzae BB-56株由来FAD-GDHと比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.用語
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。用語「単離された」は、人為的操作が介在することなく産生される物の場合、天然の状態、即ち、自然界において存在している状態のものと区別するために使用され、人為的操作が介在して生産される物の場合、単離工程又は精製工程を経ていないものと区別するために使用される。前者の場合、単離するという人為的操作によって、天然の状態とは異なる状態である「単離された状態」となり、単離されたものは天然物自体と明確且つ決定的に相違する。一方、後者の場合、典型的には、単離工程又は精製工程によって不純物が除去され又はその量が低減され、純度が高まる。単離された酵素の純度は特に限定されない。但し、純度の高いことが要求される用途への適用が予定されるのであれば、単離された酵素の純度は高いことが好ましい。
【0009】
2.グルコースデヒドロゲナーゼ
本発明の第1の局面はグルコースデヒドロゲナーゼを提供する。本発明のグルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「本酵素」ともいう)は以下の特性を備える。まず、本酵素は次の反応、即ち、電子受容体存在下でグルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する。一方、本酵素は熱安定性に優れ、50℃、20分間の熱処理後も高い活性を維持する。即ち、相対残存活性(熱処理後の酵素活性を、熱処理前の酵素活性を100%としたときの相対値(%)で表したもの。言い換えれば、熱処理前の活性に対する熱処理後の活性の比率)が高い。本酵素の相対残存活性は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは75%以上(具体例は75%、78%、80%)である。熱安定性の評価方法は実施例の欄に示される。
【0010】
血糖測定(自己血糖測定(SMBG)及び持続血糖測定(CGM))において、酵素の熱安定性が高いことが望まれている。熱安定性が高い本酵素によれば、測定精度の向上を期待できる。従って、本酵素はグルコースセンサ用の酵素として実用性に優れたものであると言える。
【0011】
一態様では、本酵素の糖鎖除去後の分子量は約68 kDaである(後述の実施例を参照)。分子量はSDS-PAGEで測定した値である。
【0012】
本酵素をアミノ酸配列で規定することができる。即ち、一態様では、本酵素を構成するポリペプチド鎖は、配列番号2に示すアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と等価なアミノ酸配列からなる。ここでの「等価なアミノ酸配列」とは、配列番号2に示すアミノ酸配列と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(ここではグルコースデヒドロゲナーゼ活性)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。従って、等価なアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素はグルコースデヒドロゲナーゼ活性を示す。「グルコースデヒドロゲナーゼ活性」とは、グルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する活性を意味するが、その活性の程度は、グルコースデヒドロゲナーゼとしての機能を発揮できる限り特に限定されない。但し、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素と同程度又はそれよりも高いことが好ましい。
【0013】
「アミノ酸配列の一部の相違」は、例えば、アミノ酸配列を構成するアミノ酸の中の1又は複数乃至数個のアミノ酸の欠失、置換、アミノ酸配列に対して1又は複数乃至数個のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの任意の組合せによって生じる。アミノ酸配列の一部の相違はグルコースデヒドロゲナーゼ酵素活性が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限り、アミノ酸配列の相違する位置は特に限定されない。また、アミノ酸配列の相違が複数の箇所(場所)で生じていてもよい。
【0014】
アミノ酸配列の一部の相違をもたらすアミノ酸の数は、アミノ酸配列を構成する全アミノ酸の例えば約38%未満に相当する数であり、好ましくは約30%未満に相当する数であり、更に好ましくは約20%未満に相当する数であり、更に更に好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。従って、等価タンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と例えば約62%以上、好ましくは約70%以上、更に好ましくは約80%以上、更に更に好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有する。
【0015】
「アミノ酸配列の一部の相違」の典型例の一つは、アミノ酸配列を構成するアミノ酸の中の1~50個(好ましくは1~10個、更に好ましくは1~7個、更に更に好ましくは1~5個、より一層好ましくは1~3個)のアミノ酸の欠失及び/又は置換;アミノ酸配列に対して1~50個(好ましくは1~10個、更に好ましくは1~7個、更に更に好ましくは1~5個、より一層好ましくは1~3個)のアミノ酸の付加及び/又は挿入;又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることである。
【0016】
好ましくは、グルコースデヒドロゲナーゼ活性に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸置換を生じさせることによって等価なアミノ酸配列が得られる。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
【0017】
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
【0018】
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に等価なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。本酵素に等価なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
【0019】
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
【0020】
本酵素が、より大きいタンパク質(例えば融合タンパク質)の一部であってもよい。融合タンパク質において付加される配列としては、例えば、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組み換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
【0021】
上記アミノ酸配列を有する本酵素は、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、本酵素をコードするDNA(配列の具体例を配列番号1に示す)で適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、本酵素をコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなる本酵素を得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
【0022】
本酵素を以下の酵素学的性質(基質特異性、至適pH、至適温度、pH安定性)で更に特徴付けることができる。
【0023】
本酵素は基質特異性に優れ、D-グルコースに対して選択的に作用する。詳しくは、本酵素はマルトースに対する反応性が極めて低い。具体的にはD-グルコースに対する反応性を100%としたときのマルトースに対する反応性が5%以下である。好ましくは当該反応性が3%以下であり、更に好ましくは当該反応性が1%以下である。
【0024】
一方、本酵素はD-キシロースに対する反応性も低い。D-グルコースに対する反応性を100%としたときのD-キシロースに対する反応性は15%以下である。好ましくは当該反応性が13%以下、更に好ましくは当該反応性が12%以下である。
【0025】
以上のような優れた基質特異性を有する本酵素は、試料中のグルコース量を正確に測定するための酵素として好ましい。即ち、本酵素によれば試料中にマルトースやD-キシロースなどの夾雑物が存在していた場合であっても目的のグルコース量をより正確に測定することが可能である。従って本酵素は、試料中にこのような夾雑物の存在が予想又は懸念される用途(典型的には血液中のグルコース量の測定)に適したものであるといえる。また、後述の実施例に示すように、本酵素は電極反応性に優れ、特にグルコースセンサ用途に有用である。自己血糖測定(SMBG)用酵素には電極反応性が高いことが求められている。電極反応性が低いとより多くの酵素が必要となり、ブランクの上昇等の問題が生じるためである。本酵素は電極反応性に優れていることから、酵素の使用量を少なくすることができる。従って、グルコースセンサ用として実用性が高い酵素であると言える。一方、グルコースセンサ用途も含め様々な用途に本酵素を適用可能であり、即ち汎用性も高い。尚、本酵素の反応性及び基質特異性は、後述の実施例に示す方法で測定・評価することができる。
【0026】
至適pHは8.0である。至適pHは、例えば、100mM Britton-Robinson buffer中で測定した結果を基に判断される。
【0027】
至適温度は55℃である。尚、至適温度は、pH6.5(例えば0.05M PIPES-NaOH緩衝液を用いる)の条件下での測定結果に基づき評価することができる。
【0028】
本酵素は、pH安定性にも優れ、弱塩基性~中性の範囲で高い活性を示す。具体的には、本酵素はpH5.5~7.5で安定である。即ち、処理に供する酵素溶液のpHがこの範囲内にあれば、37℃、1時間の処理後、80%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上の活性を維持する。
【0029】
自己血糖測定(SMBG)では、メディエータとして一般にフェリシアン化カリウムが使用されているが、より低電位での測定を可能にするメディエータ(例えばチオニン、1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルスルフェート、トルイジンブルー)の利用が検討されている。これらのメディエータ(チオニン等)の場合、中性付近で反応が行われることになる。従って、上記pH安定性を示す本酵素はこれらのメディエータを用いたSMBG反応条件にも適したものである。一方、持続血糖測定(CGM)における反応は血液のpH(pH 7.4±0.05)の条件下で起こる。本酵素はpH5.5~7.5において安定である為、CGM反応条件にも適したものである。更には、本酵素は塩基性の試料(例えば塩基性の食品)中のグルコースの測定にも適したものであると言える。
【0030】
本酵素の由来、即ち本酵素の生産菌はアスペルギルス・クリステイタス(Aspergillus cristatus)である。上記特性を有する本酵素を産生可能である限りにおいて生産菌は限定されない。生産菌の具体例を示せば、Aspergillus cristatus E4 CGMCC 7.193株(引用文献BMC Genomics 17, 428 (2016))である。当該菌株はCGMCC(China General Microbiological Culture Collection Center)に保存されている。
【0031】
生産菌は野生株(天然からの分離株であって、遺伝子操作などの変異・改変処理が施されていないもの)であっても変異株であってもよい。尚、本酵素の遺伝子を宿主微生物に導入して得られた形質転換体を生産菌としてもよい。
【0032】
3.グルコースデヒドロゲナーゼの用途
本発明の更なる局面は本酵素の用途に関する。この局面ではまず、本酵素を用いたグルコース測定法が提供される。本発明のグルコース測定法では本酵素による酸化還元反応を利用して試料中のグルコース量を測定する。この反応による変化が利用できる各種用途に本発明を適用可能である。
【0033】
本発明は例えば血糖値の測定(自己血糖測定(SMBG)及び持続血糖測定(CGM))、血液以外の体液(例えば涙、唾液、細胞間質液、尿等)に含まれるグルコースの測定、食品(調味料や飲料など)中のグルコース濃度の測定などに利用される。また、発酵食品(例えば食酢)又は発酵飲料(例えばビールや酒)の製造工程において発酵度を調べるために本発明を利用してもよい。
【0034】
本発明はまた、本酵素を含むグルコース測定用試薬を提供する。当該試薬は上記の本発明のグルコース測定法に使用される。グルコース測定用試薬の安定化や使用時の活性化等を目的として、血清アルブミン、タンパク質、界面活性剤、糖類、糖アルコール、無機塩類等を添加してもよい。
【0035】
グルコース測定用試薬を測定キットの構成要素にすることもできる。換言すれば、本発明は、上記グルコース測定用試薬を含むキット(グルコース測定用キット)も提供する。本発明のキットは必須の構成要素として上記グルコース測定用試薬を含む。また、反応用試薬、緩衝液、グルコース標準液、容器などを任意の要素として含む。尚、本発明のグルコース測定キットには通常、使用説明書が添付される。
【0036】
本酵素を利用してグルコースセンサを構成することが可能である。即ち、本発明は、本酵素を含むグルコースセンサも提供する。本発明のグルコースセンサの典型的な構造では、絶縁性基板上に作用電極及び対極を備えた電極系が形成され、その上に本酵素とメディエータを含む試薬層が形成される。より詳細には、通常、作用電極上に試薬層がコートされる。作用電極と対極が向き合うように構成される、対面型のグルコースセンサにも本発明を適用可能である。一方、参照電極も備えた測定系を用いることにしてもよい。このような、いわゆる3電極系の測定系を用いれば、参照電極の電位を基準として作用電極の電位を表すことが可能となる。各電極の材料は特に限定されない。作用電極及び対極の電極材料の例を示せば、金(Au)、カーボン(C)、白金(Pt)、チタン(Ti)である。メディエータとしては、フェリシアン化合物(フェリシアン化カリウムなど)、金属錯体(ルテニウム錯体、オスミウム錯体、バナジウム錯体など)、キノン化合物(ピロロキノリンキノンなど)などが使用される。尚、グルコースセンサの構成、グルコースセンサを利用した電気化学的測定法については、例えば、バイオ電気化学の実際-バイオセンサ・バイオ電池の実用展開-(2007年3月発行、シーエムシー出版)に詳しく記載されている。
【0037】
本酵素を酵素剤の形態で提供することもできる。本発明の酵素剤は有効成分(本酵素)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としてはデンプン、デキストリン、マルトース、トレハロース、乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、グリセロール、シュガーエステル等やその誘導体、D-グルコース誘導体を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはエタノール、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。酵素剤の用途としては例えば、グルコースの測定、血糖値の測定、発酵度の測定が挙げられる。
【実施例
【0038】
熱安定性が高く、特にグルコースセンサ用としての実用性が向上した新規FAD-GDHを見出すため、以下の検討を行った。
【0039】
1.酵素遺伝子の取得と組換え酵素発現
独自の評価指標を設定し、NCBI BLASTを用いて網羅的な検索を実施した。その結果、Aspergillus cristatusのゲノム上に、FAD-GDH活性を示すことを期待できる遺伝子を見出した。当該遺伝子について人工合成遺伝子を用意し、それを鋳型としたPCRによってDNAの増幅を行った。増幅したDNAを糸状菌発現ベクター(α-アミラーゼ改変プロモーター、A. oryzae由来FAD-GDHのターミネータ及びpyrG遺伝子を挿入したpUC19)に連結し、プロトプラスト-PEG法によってA. oryzae RIB40株に導入した。尚、当該遺伝子は配列番号1の塩基配列からなり、その発現産物は仮想タンパク質(hypothetical protein)として、NCBIのデータベース(GenPept)に登録されている(ACCESSION: ODM22452.1, DEFINITION hypothetical protein SI65#00040 [Aspergillus cristatus].)。当該タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0040】
2.形質転換体のFAD-GDH活性測定
得られた形質転換体を30℃で3日間、液体培養した。培養上清を以下のFAD-GDH活性測定法に供し、FAD-GDH活性の有無を評価した。その結果、FAD-GDH活性を示すことが確認された。
【0041】
<FAD-GDH活性測定法>
測定原理として、D-グルコースとPhenazine methosulfate(以下「PMS」と略称する)にGDHを作用させると、グルコースは酸化され、その一方でPMSは還元される。還元型PMSはNitrotetrazorium blue(以下「NTB」と略称する)を還元する。NTBが還元型PMSによって還元されるとジホルマザン色素が形成される。このジホルマザン色素を570nmで検出することにより酵素活性を測定する。実験手順は次の通りである。まず、50mmol/L PIPES-NaOH緩衝液pH6.5(0.5% TritonX-100 含有)2.6mL、1.0mmol/L D-グルコース 1mL、6.6mmol/L NTB溶液1mL、及び3.0mmol/L PMS溶液2mLを分光光度計用セルにいれ、37℃で10分間予備加温する。そこにFAD-GDH溶液0.1mLを加えて混和し、37℃で反応させる。反応開始後、3分経過した時点と5分経過した時点で反応液の波長570nmにおける吸光度A3(3分経過後)、A5(5分経過後)を測定する。別に、ブランクとして、FAD-GDH溶液の代わりに50mmol/L PIPES-NaOH 緩衝液pH6.5(0.1% TrironX-100, 0.1% BSA,1mmol/L CaCl2含有)を用いて同様の操作を行い、吸光度Ab3(3分経過後)、Ab5(5分経過後)を測定する。A3、A5、Ab3、Ab5の値を以下の式に代入し、FAD-GDH活性値を算出する。
【数1】
尚、式中の「2」は反応時間(分)を、「20」はジホルマザン色素のミリモル分子吸光係数の1/2を、「3.1」は総液量(mL)を、「0.1」はFAD-GDH溶液量(mL)を、「n」は試料希釈倍数をそれぞれ表す。
【0042】
3.精製A. cristatus由来FAD-GDHの取得
A. cristatusの培養上清について、硫安分画、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーを行い、精製A. cristatus由来FAD-GDHを得た。
【0043】
4.精製A. cristatus由来FAD-GDHのSDS-PAGEによる分子量推定
精製A. cristatus由来FAD-GDHについて、エンドグリコシダーゼH(NEW ENGLAND BioLabs製EndoH)を用いて糖鎖を切断した後、SDS-PAGEを行った。その結果、約68 kDaの位置にバンドが得られた。約68 kDaのバンドについてN末端配列シーケンスを行ったところ、本バンドがA. cristatus由来FAD-GDHであることが確認された。これにより、A. cristatus由来FAD-GDHは約68 kDaであることが判明した。
【0044】
5.A. cristatus由来FAD-GDHの基質特異性
5-1.方法
上記「FAD-GDH活性測定法」において、反応液中の基質(D-グルコース)をマルトース又はキシロースに変更し、各基質に関して活性値を測定する。得られた活性値を、グルコースを基質とした場合の活性値で割った値を、各基質に対する反応性(対グルコース比%)として算出する。
【0045】
5-2.結果
評価結果を表1に示す。マルトースに対しては対グルコース比1%未満であり、キシロースに対しては対グルコース比11.5%であることが確認された。
【表1】
【0046】
6.A. cristatus由来FAD-GDHの至適pH
6-1.方法
精製A. cristatus由来FAD-GDHについて、次のように至適pHを調べた。反応液中の50mmol/L PIPES-NaOHに代えて100mmol/L Britton-Robinson bufferを用い、pH4.0~8.5の範囲で反応液を調製し、「FAD-GDH活性測定法」に従って各pHにおけるFAD-GDH活性値を測定した。
【0047】
6-2.結果
A. cristatuss由来FAD-GDHの至適pHは8.0であることが確認された(図1)。
【0048】
7.A. cristatus由来FAD-GDHの至適温度
7-1.方法
精製A. cristatus由来FAD-GDHについて、次のように至適温度を調べた。予備加温と反応温度を、37℃に代えて20℃~60℃とし、「FAD-GDH活性測定法」に従って各温度におけるFAD-GDH活性値を測定した。
【0049】
7-2.結果
A. cristatus由来FAD-GDHの至適温度は55℃であることが確認された(図2)。
【0050】
8.A. cristatus由来FAD-GDHのpH安定性
8-1.方法
精製A. cristatus由来FAD-GDHについて、次のようにpH安定性を調べた。100mmol/L Britton-Robinson bufferを用い、GDH活性値が5 U/mLになるように精製A. cristatus由来FAD-GDHの酵素溶液を調製し、pH4.0~8.0の範囲で37℃、1時間処理し、活性を評価した。また、A. oryzae BB-56株由来FAD-GDH(国際公開第2007/139013号パンフレットを参照)についても同様の処理を行い、比較に用いた。
【0051】
8-2.結果
A. oryzae BB-56株由来FAD-GDHはpH5.0~6.0において相対活性95%以上であり、即ちpH5.0~6.0の範囲で安定であった(図3)。一方、A. cristatus由来FAD-GDHはpH5.5~7.5において相対活性95%以上であり、即ちpH5.5~7.5の範囲で安定であった(図3)。つまり、A. cristatus由来FAD-GDHはA. oryzae BB-56株由来FAD-GDHよりもアルカリに強いことが判明した。
【0052】
9.A. cristatus由来FAD-GDHの熱安定性評価
9-1.方法
100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用い、GDH活性値が5 U/mLになるように精製A. cristatus由来FAD-GDHの酵素溶液を調製し、50℃、20分間の加温処理を行った。GDH活性について、加温前に対する加温後の比率(残存活性率)を評価した。また、A. oryzae BB-56株由来FAD-GDHについても同様の処理を行い、比較に用いた。
【0053】
9-2.結果
A. oryzae BB-56株由来FAD-GDHの残存活性率が49%であったのに対し、A. cristatus由来FAD-GDHの残存活性は80%であり(図4)、熱安定性に優れた酵素であることが判明した。
【0054】
10.A. cristatus由来FAD-GDHの電極反応性
10-1.方法
精製A. cristatus由来FAD-GDHの電極反応性を調べるため、各成分が以下の濃度になるように試薬を混合し、クロノアンペロメトリー法にて0.4 V、5秒後の電流値をプロットし、グルコースを定量した。また、A. oryzae BB-56株由来FAD-GDHについても同様の条件でグルコースを定量し、比較に用いた。
25~100 U/mL A. cristatus由来FAD-GDH又はA. oryzae BB-56株由来FAD-GDH
600mg/dL グルコース
100mM フェリシアン化カリウム
50mM KCl
100mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
【0055】
10-2.結果
図5に示す通り、A. oryzae BB-56株由来FAD-GDHと比較し、A. cristatus由来FAD-GDHの電極反応性は大幅に向上していた(酵素量が50 U/mLの条件では1.3倍以上)。
【0056】
11.まとめ
熱安定性に優れ、電極反応性も高く、更には中性pH域で高い活性を示す、新規FAD-GDH(A. cristatus由来FAD-GDH)の取得に成功した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のグルコースデヒドロゲナーゼは熱安定性に優れ、例えば、血糖測定器用のグルコースセンサに使用する酵素として有用である。また、電極反応性の点、及びpH安定性の点からも、本発明のグルコースデヒドロゲナーゼは血糖測定器用グルコースセンサへの利用に適する。
【0058】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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