(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241212BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241212BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241212BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20241212BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M50/449
H01M50/46
(21)【出願番号】P 2022500313
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003124
(87)【国際公開番号】W WO2021161801
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020023483
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 健介
(72)【発明者】
【氏名】野中 太貴
(72)【発明者】
【氏名】西田 晶
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-73328(JP,A)
【文献】特開2010-287472(JP,A)
【文献】特開2017-84769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 50/449
H01M 50/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に接着剤を有するセパレータと、
芯体及び電極合材層を有し、前記電極合材層が前記接着剤に当接する電極と、
を備え、前記電極合材層は、厚み方向の多孔質体の濃度が前記芯体から前記接着剤に向けて増大する、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記電極合材層は、前記接着剤側の表面から5μmの範囲における前記多孔質体の割合が50%以上である、
請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記電極合材層は、正極活物質を含む正極合材層であり、
前記多孔質体は、導電材である
請求項1,2のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池はさまざまな場面において需要が高まっている。中でも非水電解質を使用した非水電解質二次電池としてのリチウムイオン二次電池は、高エネルギ密度が得られることから注目されている。この形態の二次電池は、正極板と負極板とをセパレータを介して複数層積層した偏平形状電極体を外装体に挿入する。正極板は、正極合材層が正極芯体の両面に設けられ、負極板は、負極合材層が負極芯体の両面に設けられる。正極活物質および負極活物質は、それぞれリチウムイオンの挿入・脱離が可能な構造である。セパレータは、多孔性物質であり、リチウムイオンを透過させることができる一方、正極板と負極板の電気的接触による短絡を防止する。
【0003】
正極板および負極板は、それぞれ集電板と電気的に接続され、外装体に挿入される。外装体は電解液を注入後に封止される。この二次電池は、搬送時の負荷により電極体の形が崩れないよう、セパレータの表面に接着層を設け、熱圧着を行うことにより正極板/セパレータ間、及び負極板/セパレータ間を接着させている。
【0004】
特許文献1には、接着層付セパレータと電極とを熱圧着して、電極/セパレータ積層体を製造する際に、セパレータと電極とを十分な接着力で接着することを課題として、少なくとも片面に接着層を有する多孔性ポリオレフィンフィルムからなる接着層付セパレータと、電極活物質および電極用結着剤を含む電極活物質層を有する電極とを、接着層と電極活物質層とが当接するように積層し、熱圧着する工程を含む電極/セパレータ積層体の製造方法において、接着層が、ガラス転移温度-50~5℃である粒子状重合体Aと、ガラス転移温度50~120℃である粒子状重合体Bとを含み、接着層の平均厚さが0.2~1.0μmであり、熱圧着を50~100℃で行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
セパレータと電極の接着力を向上させるために、ガラス転移温度が異なる複数種類の粒子状重合体を用いる構成では、その分だけコストが増大してしまう。
【0007】
本開示に係る非水電解質二次電池は、少なくとも片面に接着剤を有するセパレータと、芯体及び電極合材層を有し、前記電極合材層が前記接着剤に当接する電極とを備え、前記電極合材層は、厚み方向の多孔質体の濃度が前記芯体から前記接着剤に向けて増大する、非水電解質二次電池である。
【0008】
本開示に係る非水電解質二次電池では、電極合材層内の多孔質体の濃度が、厚み方向に均一でなく、芯体から接着剤に向けて増大するように制御される。すなわち、セパレータの接着剤に当接する電極合材層の表面近傍では、多孔質体の濃度が相対的に高い。このため、熱圧着工程において多孔質体と接着剤を接着させることで接着剤が多孔質体の細孔により多く入り込み、アンカー効果が優位に発現する。
【0009】
本開示の1つの実施形態では、前記電極合材層は、前記接着剤側の表面から5μmの範囲における前記多孔質体の割合が50%以上である。
【0010】
本開示の他の実施形態では、前記電極合材層は、正極活物質を含む正極合材層であり、前記多孔質体は、導電材である。
【0011】
本開示によれば、接着剤を複数種類の重合体で構成する等の材料構成の変更を行うことなく、セパレータと電極との接着力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態の非水電解質二次電池の構成図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態の非水電解質二次電池の接着説明図である。
【
図2B】
図2Bは、従来の非水電解質二次電池の接着説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態の非水電解質二次電池の接着力評価方法の構成図である。
【
図4A】
図4Aは、実施形態の非水電解質二次電池の接着力評価方法の説明図(その1)である。
【
図4B】
図4Bは、実施形態の非水電解質二次電池の接着力評価方法の説明図(その2)である。
【
図5A】
図5Aは、実施例の非水電解質二次電池の2値画像説明図(その1)である。
【
図5B】
図5Bは、実施例の非水電解質二次電池の2値画像説明図(その2)である。
【
図6】
図6は、実施例の非水電解質二次電池の多孔質体濃度評価方法の説明図である。
【
図7】
図7は、比較例の非水電解質二次電池の多孔質体濃度評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本開示に係る実施の形態について説明する。
【0014】
まず、角形二次電池の概要について説明する。本開示の一実施形態に係る角形二次電池(以下、単に二次電池という)は、電極体と、電解質と、電極体及び電解質が収容される外装体と、正極端子及び負極端子が取り付けられ、外装体の開口部を塞ぐ封口板とを備える。電極体は、正極と負極がセパレータを介して交互に積層された構造を有する。外装体は、例えば高さ方向一端が開口した扁平な略直方体形状の金属製角形容器である。外装体及び封口板は、例えば、アルミニウムを主成分とする金属材料で構成される。
【0015】
電解質は、好ましくは非水電解質であり、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。
【0016】
封口板には、正極端子及び負極端子が取り付けられる。封口板は、細長い矩形形状を有し、長手方向一端側に正極端子が、封口板の長手方向他端側に負極端子がそれぞれ配置される。正極端子及び負極端子は、他の二次電池や負荷に対して電気的に接続される外部接続端子であり、絶縁部材を介して封口板に取り付けられる。
【0017】
正極は、正極端子と電気的に接続される正極タブを含み、負極は、負極端子と電気的に接続される負極タブを含む。正極端子は、正極集電板を介して複数の正極タブが積層されてなる正極タブ群と電気的に接続され、負極端子は、負極集電板を介して、複数の負極タブが積層されてなる負極タブ群と電気的に接続される。また、封口板には、非水電解液を注入するための注液部、及び電池の異常発生時に開弁してガスを排出するためのガス排出弁が設けられる。
【0018】
電極体は、例えば第1の電極群と第2の電極群に分割される。これらの電極群は、互いに同じ積層構造、寸法を有し、電極体の厚み方向に積層配置される。各電極群の上端部には、複数の正極タブからなる正極タブ群、及び複数の負極タブからなる負極タブ群が形成され、封口板の各集電板にそれぞれ接続される。これら電極群の外周面はセパレータで覆われ、またこれら電極群で独立した電池反応が起こるように構成される。
【0019】
電極体は、複数の正極と、複数の負極とを含む。電極体を構成する電極群には、例えば、負極が正極よりも1枚多く含まれ、電極群の厚み方向両側に負極が配置される。正極と負極の間に1枚ずつセパレータが配置されるが、電極群に含まれるセパレータはそれぞれ1枚ずつであってもよい。電極群の夫々は、接着層を含み、熱圧着工程を用いて作製される。より詳しくは、電極群の夫々は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して1枚ずつ交互に積層してなる積層体を、一対の熱板を用いて積層方向にプレスすることで、積層体に熱と圧力を付与し、接着層の少なくとも一部が接着力を発現する状態にすることで作製される。
【0020】
正極は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウム、アルミニウム合金など正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、導電材、及び結着材を含み、正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極は、例えば正極芯体上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0021】
正極は、正極芯体の表面のうち正極タブを除く部分(以下、「基部」とする)の全域に正極合材で構成される正極合材層が配置された構造を有する。正極芯体の厚みは、例えば5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。正極芯体の基部は正面視四角形状を有し、当該四角形の一辺から正極タブが突出する。一般的には、1枚の金属箔を加工して基部と正極タブが一体成形された正極芯体が得られる。
【0022】
正極活物質には、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。リチウム遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。中でも、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有することが好ましい。好適な複合酸化物の一例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム遷移金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0023】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0024】
負極は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられて、負極合材で構成される負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0025】
負極は、負極芯体の表面のうち負極タブを除く部分である基部の全域に負極合材層が形成された構造を有する。負極芯体の厚みは、例えば3μm~15μmであり、好ましくは5μm~10μmである。正極の場合と同様に、負極芯体の基部は正面視四角形状を有し、当該四角形の一辺から負極タブが突出している。一般的には、1枚の金属箔を加工して基部と負極タブが一体成形された負極芯体が得られる。
【0026】
負極活物質としては、例えば、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が用いられる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0027】
負極合材層に含まれる結着材には、正極の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0028】
以上が、角形二次電池の概要であり、次に、本実施形態における電極群の構造及びセパレータについて更に説明する。
【0029】
図1は、電極群の積層方向を高さ方向に略直交する平面で切断したときの拡大模式断面図であり、セパレータの一部と、正極の一部と、接着層を含む拡大模式断面図である。
【0030】
図1に示すように、セパレータ20は、基材と、さらに少なくとも片面、好ましくは両面に接着剤18を有する(図では説明の都合上、片面のみに有する場合を示す)。基材は、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートで構成される。セパレータ20は、例えばポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、及びアラミドから選択される少なくとも1種を主成分とする多孔質基材で構成されてもよく、ポリオレフィンが好ましく、特にポリエチレン、及びポリプロピレンで構成されると好ましい。
【0031】
接着剤18は、セパレータ20の一方側面の全面及び他方側面の全面の少なくとも一方に、面積密度が略一定になるように複数のドット状の接着剤(ドット状の部分)を塗工等の加工により配置することで形成される。
【0032】
なお、接着剤18の塗工形態は、ドット状に塗る形態でなく、セパレータの全面に塗る形態でもよい。すなわち、接着剤18は、セパレータの一方側面の全面及び他方側面の全面の少なくとも一方に面積密度が略一定になるように配置され、セパレータの少なくとも一方側面上に接着層が設けられる構成でもよい。接着剤18としては、公知の材料、例えばアクリル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン-酢酸ビニル樹脂系接着剤、又はエポキシ樹脂系接着剤を用いることができる。
【0033】
接着剤18が配置されたセパレータ20の一方側面が正極に対向するように、正極と負極とをセパレータ20を介して交互に積層して積層体を形成した後、積層方向の一方側と他方側に配置した熱板で、積層体に積層方向の両側から圧力及び熱を付与することで、接着剤の一部を軟化させる。このようにして、セパレータ20と正極を接着剤で接着すると共に、セパレータ20と負極を接着剤で接着することで、正極、負極、セパレータ20それぞれが位置ずれして、短絡することを防止している。なお、正極、負極、セパレータのいずれかに正極と負極との短絡を防止する目的で耐熱層が配置される。耐熱層はアルミニウム酸化物等の無機物粒子等を含み、例えばセラミック耐熱層等で構成される。
【0034】
図1に示すように、正極は、正極芯体10と、正極芯体10の表面に設けられた正極合材層12とを有する。正極合材層12は、正極活物質、導電材、及び結着材を含み、例えば正極芯体10上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層12を正極芯体10の表面に形成することにより作製できるが、本実施形態の正極合材層12は、多孔質体濃度が相対的に小さい層14と、多孔質体濃度が相対的に大きい層16から構成される。言い替えれば、正極合材層12の多孔質体濃度は、厚さ方向に均一ではなく非均一であり、正極芯体10から接着剤18に向けて多孔質体濃度が増大するように構成され、逆に、接着剤18から正極芯体10に向けて多孔質体濃度が低下するように構成される。
図1において、非多孔質体13は黒丸で模式的に示され、多孔質体15はハッチング付き丸で示されている。正極合材層12は、接着剤18側において多孔質体15の濃度が相対的に大きく、正極芯体10側において非多孔質体13の濃度が相対的に大きいといい得る。あるいは、正極合材層12において、多孔質体を接着剤18側に偏在させると言い得る。
【0035】
既述したように、正極合材層12は、正極活物質、導電材、及び結着材を含み、正極活物質には、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示でき、結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できるが、これらのうち、アセチレンブラックは多孔質体の典型例である。従って、一例として、正極合材層12に含まれる導電材としてのアセチレンブラックの濃度を厚さ方向に非均一化し、正極芯体10から接着剤18に向けてアセチレンブラックの濃度を増大させることにより、正極芯体10から接着剤18に向けて多孔質体濃度が増大するように構成し得る。
【0036】
図2Aは、本実施形態における正極とセパレータ20の接合状態を模式的に示す。正極合材層12と接着剤18とが当接し、この状態で積層体に積層方向の両側から圧力及び熱を付与すると、接着剤18が軟化し、軟化した接着剤18が多孔質体15の細孔に入り込み、アンカー効果が優位に発現して正極とセパレータ20の接着力が向上する。
【0037】
他方、
図2Bは、正極合材層12の多孔質体濃度が厚さ方向に均一な従来の正極とセパレータ20の接合状態を模式的に示す。正極合材層12と接着剤18とが当接し、この状態で積層体に積層方向の両側から圧力及び熱を付与すると、接着剤18が軟化するが、軟化した接着剤18は多孔質体15の細孔に入り込み難く(言い替えれば、非多孔質体13が多孔質体15のアンカー効果を阻害)、アンカー効果が優位に発現しない。接着力は、正極合材層12のうち接着剤18と当接する面側の多孔質体濃度と正の相関関係を有し、多孔質体濃度が大きいほど接着強度も増大する。
【0038】
なお、以上は正極とセパレータ20との間の接着力に関するものであるが、負極とセパレータ20との間の接着力についても同様である。すなわち、負極合材層に含まれる多孔質体の濃度を厚さ方向に非均一化し、負極芯体から接着剤18に向けて多孔質体の濃度を増大させる。この状態で積層体に積層方向の両側から圧力及び熱を付与すると、接着剤18が軟化し、軟化した接着剤18が多孔質体の細孔に入り込み、アンカー効果が優位に発現して負極とセパレータ20の接着力が向上する。従って、正極と負極の少なくともいずれかの電極において、電極合材層の厚み方向の多孔質体濃度が電極芯体から接着剤に向けて増大するように構成すればよい。
【0039】
以下、実施例について説明する。
【0040】
<実施例>
図3は、本実施例における、接着力評価方法を示す。
【0041】
まず、セパレータ20と正極30を用意する。セパレータ20は、耐熱層32を有し、さらに接着剤18を有する。接着剤18は、耐熱層32が設けられたセパレータ20の一方側面の全域に、面積密度が略一定になるように複数のドット状の接着剤18を塗工等の加工により配置することで形成される。正極30は、正極合材層を有する。セパレータ20の接着剤18と、正極30の正極合材層とを当接させ、所定条件でセパレータ20と正極30を一対の熱板を用いてプレスすることで熱と圧力を付与し、接着剤18が接着力を発現する状態にする。冷却後、セパレータ20を剥がすと、正極30の正極合材層に耐熱層32が転写される。セパレータ20の耐熱層32と基材との接着力は、正極30と接着剤との接着力よりも弱い力である。したがって、正極30からセパレータ20を剥がしたとき、接着剤18において接着している接着部分は、正極30及び耐熱層32から剥がれず、耐熱層32が基材から剥がれる。
【0042】
図4Aは、正極30の正極合材層に耐熱層32が転写された様子を模式的に示す。正極30の正極合材層に、接着剤18及び耐熱層32がドット状に転写される。接着剤18の接着力が相対的に大きいと耐熱層32は転写されるが、接着剤18の接着力が相対的に小さいと耐熱層32は転写されない。従って、転写される耐熱層32の数、あるいは転写される耐熱層32の濃度を評価することで、接着力を定量評価し得る。
【0043】
図4Bは、正極30からセパレータ20を剥がし、正極30のうちセパレータ20を剥がした側の表面をカメラやスキャナ等で撮影し、取得した撮影画像を2値化した画像を模式的に示したものである。
図4Bにおいて、黒は正極合材層を示し、ドット状の白丸は転写された耐熱層32、すなわち転写痕を示す。このような2値化画像において、
転写痕濃度=(白面積)/(黒面積)
により転写痕濃度を算出し、セパレータ20と正極30との間の接着力を定量評価する。なお、所定条件でセパレータ20と正極30を一対の熱板を用いてプレスする場合、当該所定条件が同一であれば、耐熱層32と接着剤18との間の接着力は同一であると想定する。
【0044】
以下、本実施例について、より具体的に説明する。
【0045】
<正極の作製>
厚さ13μmのアルミニウム箔の両面に、正極合材層を形成した。正極合材層の厚みは、圧縮処理後、片面で60μmとした。正極板の短手方向の長さは、80mmとした。正極芯体が露出した集電タブ部の幅(短手方向の長さ)は20mmとした。正極板の長手方向の長さは140mmとした。正極合材層は、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、質量比97:2:1の割合で含むようにした。
【0046】
このとき、正極は、正極芯体上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体に形成することにより作製できるが、塗膜を乾燥させる時の乾燥速度を変化させることで、導電材としてのアセチレンブラックの分布を厚さ方向に変化させ、多孔質体濃度を厚さ方向に変化させた。具体的には、従来と同様の乾燥速度で乾燥させて多孔質体濃度が略均一な従来の正極と、従来よりも乾燥速度を増大させて多孔質体濃度が厚さ方向に不均一で、正極表面に導電材としてのアセチレンブラックが相対的に多く偏在する実施例の正極を作製した。正極活物質層スラリーを乾燥させる際の乾燥速度(水分蒸発速度)を制御することにより、正極合材層中の導電材の濃度分布が変化し、乾燥速度が速くなるほど、正極合材層の表面に近い領域に含まれる導電材の量が多くなる。
【0047】
より詳細には、正極活物質、導電材、及び結着材を含む正極合材スラリーを塗布時の乾燥条件として、25℃を基準温度としたときの、乾燥工程の炉内温度との温度差に極板が炉内を通過するための要する時間(min.)を乗算して積算温度を算出したときに、全乾燥工程を通過した際に極板が受けた積算温度が約265℃・min.となる条件で乾燥し、実施例の正極板を作製した。後述するように、この正極板の表層5μmの範囲の多孔質体の割合は63.7%であり、50%以上である。
【0048】
同様にして、正極活物質、導電材、及び結着材を含む正極合材スラリーを塗布時の乾燥条件として、25度を基準温度としたときの、乾燥工程の炉内温度との温度差に極板が炉内を通過するための要する時間(min.)を乗算して積算温度を算出したときに、全乾燥工程を通過した際に極板が受けた積算温度が約170℃・min.となる条件で乾燥し、比較例として従来の正極板を作製した。後述するように、この正極板の表層5μmの範囲の多孔質体の割合は10.8%であり、50%未満である。
【0049】
要約すると、実施例と比較例の電極合材層の材料は同一であり、正極合材スラリーの乾燥速度を
実施例:約265℃・min.
比較例:約170℃・min.
と変化させた。
【0050】
<セパレータ>
セパレータはポリエチレン単層基材の片面にセラミック耐熱層をコートし、その両面にアクリル系樹脂から成る接着層をドット上に塗布したものを使用した。セパレータの基材層厚みは12μm、耐熱層厚みは4μmとし、幅は80mmとした。ここで、一個のドット状の接着剤の量は、略同一になるようにした。また、ドット状の接着剤の個数密度は、セパレータの一方側面で略一定になるようにした。
【0051】
<熱圧着工程>
実施例の正極を用いたサンプルと従来の正極を用いたサンプルとで、それぞれセパレータ20及び正極30を熱圧着する際の加工条件を以下のように変化させた。
(1)74度、20kN、25秒
(2)74度、25kN、15秒
(3)74度、25kN、20秒
(4)74度、25kN、25秒
(5)74度、30kN、15秒
<接着力評価>
上記の(1)~(5)の熱圧着条件で熱圧着した実施例及び従来のサンプルのそれぞれについて、熱圧着後に十分冷却した後、正極30からセパレータ20を剥がし、正極30の表面をスキャナで撮影して画像を取得し、これを2値化して2値化画像を取得し、2値化画像において転写痕濃度を、
転写痕濃度=(白面積)/(黒面積)
として算出して接着力の指標とした。白面積は耐熱層転写面積であり、黒面積は極板総面積であるから、上式は、
転写痕濃度=(耐熱層転写面積)/(極板総面積)
と表現し得る。
【0052】
図5Aは、実施例のサンプルの2値化画像の一例である。また、
図5Bは、従来のサンプルの2値化画像の一例である。実施例のサンプルでは、正極30の表面における導電材の濃度が相対的に高く多孔質体濃度が高いため、白面積が従来のサンプルよりも相対的に多い。
【0053】
表1に、(1)~(5)の5つの条件で、実施例及び従来のサンプルそれぞれについて熱圧着した場合の、接着力評価結果を示す。
【0054】
【0055】
表1において、例えば74度、20kN、25秒で熱圧着したときの、実施例のサンプルの転写痕濃度は4,962ppm、すなわち0.4962%であり、従来のサンプルの転写痕濃度は3,037ppm、すなわち0.3037%であった。従って、従来のサンプルに対する実施例のサンプルの接着力の割合は163%であった。
【0056】
以下、同様に、74度、25kN、15秒で熱圧着したときの、実施例のサンプルの転写痕濃度は2,662ppm、すなわち0.2662%であり、従来のサンプルの転写痕濃度は1,415ppm、すなわち0.1415%であった。従って、従来のサンプルに対する実施例のサンプルの接着力の割合は188%であった。また、74度、25kN、20秒で熱圧着したときの、実施例のサンプルの転写痕濃度は5,629ppm、すなわち0.5629%であり、従来のサンプルの転写痕濃度は5,381ppm、すなわち0.5381%であった。従って、従来のサンプルに対する実施例のサンプルの接着力の割合は105%であった。また、74度、25kN、25秒で熱圧着したときの、実施例のサンプルの転写痕濃度は20,014ppm、すなわち2.014%であり、従来のサンプルの転写痕濃度は12,596ppm、すなわち1.2596%であった。従って、従来のサンプルに対する実施例のサンプルの接着力の割合は159%であった。さらに、74度、30kN、15秒で熱圧着したときの、実施例のサンプルの転写痕濃度は12,010ppm、すなわち1.2010%であり、従来のサンプルの転写痕濃度は3,430ppm、すなわち0.3430%であった。従って、従来のサンプルに対する実施例のサンプルの接着力の割合は350%であった。
【0057】
これらの結果より、どの熱圧着条件においても、実施例のサンプルの接着力が従来のサンプルよりも増大していることが確認された。特に、74度、30kN、15秒の熱圧着条件では、実施例のサンプルでは3倍以上に接着力が著しく増大していることが確認された。
【0058】
次に、実施例のサンプルと従来のサンプルについて、正極断面のEDX(エネルギ分散型X線分光器)マッピングを行った。イオンミリング装置等により作製した極板を極板厚み方向に切断し、SEM装置を使用して加速電圧3kVの条件で断面像を撮像し、断面SEM像を取得した。その後、EDXでカーボンマッピングを行い、多孔質体の厚み方向分布を取得した。
【0059】
図6に示す実施例サンプルのEDXマッピング画像304では、多孔質物体と非多孔質物質を2色に色分けした後に2値化している。導電材であるアセチレンブラックの濃度が厚さ方向に不均一であり、正極表面において導電材の濃度が相対的に大きい。
【0060】
また、
図7に示す従来サンプルのEDXマッピング画像314では、
図6同様に多孔質物体と非多孔質物質を2色に色分けした後に2値化している。導電材であるアセチレンブラックの濃度が厚さ方向に略均一で、正極表面において濃度が実施例のサンプルに比べて相対的に小さい。
【0061】
さらに、両サンプルの正極表面における導電材の濃度、すなわち多孔質体の濃度の大小を定量評価すべく、正極表面、より詳しくは正極合材層表面から5μmの範囲における導電材の割合をカウントした。
【0062】
正極合材層表面から5μmの範囲における導電材濃度、すなわち多孔質体濃度は、上記の転写痕濃度と同様に、2値化画像における白面積と黒面積の比として算出した。すなわち、
多孔質体濃度=(白面積)/(黒面積)
である。その結果、
実施例のサンプル=63.7%
従来のサンプル=10.8%
であった。なお、表1における転写痕濃度は、正極合材層の平面画像における濃度であり、
図6及び
図7における導電材濃度は、正極合材層の厚さ方向の画像における濃度であることに留意されたい。
【0063】
多孔質体と接着剤とを接着させることで多孔質体の細孔に接着剤が入り込みアンカー効果を優位に発現するためには、接着剤の粒子が入り込む厚さ方向の範囲として想定される5μm程度の範囲に、できるだけ多孔質体が多く存在することが望ましく、多孔質体が他の正極合材層の材料よりも割合において凌駕する50%以上あれば十分にアンカー効果を発揮し得ると考えられる。このことから、正極合材層表面から5μmの範囲に着目した場合に、導電材濃度、すなわち多孔質体濃度は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上といえる。
【符号の説明】
【0064】
10 正極芯体
12 正極合材層
14 多孔質体濃度が相対的に小さい層
16 多孔質体濃度が相対的に大きい層
18 接着剤
20 セパレータ