(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用有機防縮剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H01M4/62 B
(21)【出願番号】P 2022507159
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2021008854
(87)【国際公開番号】W WO2021182364
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020040066
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】進藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】西盛 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】相見 光
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105131306(CN,A)
【文献】国際公開第98/036017(WO,A1)
【文献】特開2019-164909(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013112(WO,A1)
【文献】特開平07-018595(JP,A)
【文献】特開平09-147872(JP,A)
【文献】特開2006-169134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンスルホン酸を含有する鉛蓄電池用有機防縮剤であって、固形分あたりの、還元性糖類の含有量が全体の5質量%以下であり、かつ固形分あたりの、分子量が5,000以下である物質の含有量が、全体の30質量%以下であることを特徴とする、鉛蓄電池用有機防縮剤。
【請求項2】
請求項1の鉛蓄電池用有機防縮剤を製造するための鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法であって、
分画分子量が5,000~30,000の限外濾過膜を用いてサルファイト蒸解黒液を限外濾過処理し、得られたサルファイト蒸解黒液の濃縮液を回収する工程を有することを特徴とする、鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用有機防縮剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、比較的安価であり、二次電池として性能が安定しているので、自動車用電池、ポータブル機器用電池、コンピュータのバックアップ用電池、通信用電池などとして広く使用されてきた。
【0003】
鉛蓄電池は充電放電が繰り返される中で放電状態から充電状態に変化する際に、負極活物質が収縮して比表面積が減少し、放電性能が悪化する。また、負極活物質において、放電反応では金属鉛が電子を放出して硫酸鉛に変化し、充電反応では硫酸鉛が電子を得て金属鉛に変化するが、硫酸鉛が粗大化すると、充電反応においては硫酸鉛が溶解し難くなり、充電性能が悪化する。
【0004】
鉛蓄電池の負極活物質の収縮を防止するために負極活物質に添加する有機防縮剤として、木材より抽出されるリグニンが添加されていることが提案されている(特許文献1~特許文献3)。
【0005】
また、鉛蓄電池用のリグニンとしてはいくつかの種類のリグニンが開示されている(特許文献4~特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】U.S.Pat.No.2371136
【文献】U.S.Pat.No.3523041
【文献】特開昭62-145655号公報
【文献】特開2002-117856号公報
【文献】WO2002/039519号公報
【文献】特開2005-294027号公報
【文献】特開2007-165273号公報
【文献】特開平11-204111号公報
【文献】特開平9-007630号公報
【文献】U.S.Pat.No.6346347
【文献】U.S.Pat.No.6664002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛蓄電池には様々な性能が要求されるが、一般にリグニンを鉛蓄電池の負極に添加した場合、高率放電特性を改善する、あるいはサルフェーションの抑制などの効果が得られるものの、その性質上充電受入性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記した鉛蓄電池の放電特性を維持しつつ、充電受入性を向上させることができる有機防縮剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、サルファイト蒸解黒液に対して限外濾過膜を用いて限外濾過処理して、分子量5,000以下の物質の含有量を全体の30質量%以下にした濃縮液を鉛蓄電池用有機防縮剤として用いることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕リグニンスルホン酸を含有する鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法であって、限外濾過膜を用いてサルファイト蒸解黒液を限外濾過処理し、得られたサルファイト蒸解黒液の濃縮液を回収する工程を有することを特徴とする、鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法。
【0011】
〔2〕リグニンスルホン酸を含有する鉛蓄電池用有機防縮剤であって、固形分あたりの、還元性糖類の含有量が全体の5質量%以下であり、かつ固形分あたりの、分子量が5,000以下である物質の含有量が、全体の30質量%以下であることを特徴とする、鉛蓄電池用有機防縮剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鉛蓄電池の放電特性を維持しつつ、充電受入性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
<有機防縮剤>
本発明の有機防縮剤は固形分あたりのメトキシル基含量が3~20質量%であるリグニンを含有することが好ましい。メトキシル基含量が3%未満の場合、含有されるリグニン量が少ないため有機防縮剤としての効果が認められない。一般にリグニンには芳香核に結合したメトキシル基が存在するため、該メトキシル基含量がリグニン含量の指標となる。
【0015】
本発明において、メトキシル基含有量は、ViebockおよびSchwappach法によるメトキシル基の定量法(「リグニン化学研究法」P.336~340、平成6年 ユニ出版(株)発行、参照)によって測定した値である。
【0016】
本発明にかかる鉛蓄電池用有機防縮剤に用いるリグニンは、木質バイオマスの処理方法によって、得られるリグニンが異なり、いくつかの種類が存在する。
【0017】
本発明に用いるリグニンとしては、下記のリグニンが挙げられる。例えば、リグニンスルホン酸、クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、硫酸リグニンなどがある。これらのうち、リグニンスルホン酸を用いることが好ましい。特に好ましくは、U.S.Pat.No.6346347に記載されているような、リグニンスルホン酸をアルカリ性条件下で高温高圧反応させ、部分脱スルホン化処理されたoxyligninを用いることが特に好ましい。
【0018】
本発明に用いるリグニンとしては粉体状でも、液体状でも良いが、粉末状が好ましい。液体状のリグニンとしては、例えば粉末状のリグニンを適当な溶媒(例えば水、水酸化ナトリウム水溶液など)で溶解し、液体状のリグニンとしても良い。
【0019】
本発明に用いるリグニンとしては、上記したリグニンの内1種または2種以上を併用した混合物としても良い。
【0020】
以下、本発明に用いるリグニンスルホン酸について詳細に説明するが、これらのリグニンに限定されるものではない。
【0021】
(リグニンスルホン酸)
リグニンスルホン酸は、リグニン又はその分解物の少なくとも一部がスルホン酸(塩)基で置換されている化合物をいう。本発明のリグニンスルホン酸は、スルホン酸(塩)基のS含量が通常1.0~10.0質量%である。
【0022】
リグニンスルホン酸のスルホン酸(塩)基のS含量とは、リグニンスルホン酸の固形物量に対するスルホン酸(塩)基に含有されるS含有量をいう。具体的には、下記数式(1)より算出する値である。
【0023】
式(1):
スルホン酸(塩)基のS含量(質量%)=全S含量(質量%)-無機態S含量(質量%) (数式(1)中、S含量はいずれもリグニンスルホン酸の固形物量に対するS含量を示す。)
【0024】
数式(1)中、全S含量は、ICP発光分光分析法により定量することができる。また、無機態S含量は、イオンクロマト法により定量したSO3含量及びSO4含量の合計量として算出することができる。
【0025】
本発明のリグニンスルホン酸を含む鉛蓄電池用有機防縮剤は、還元性糖類を含む。還元性糖類は一般的に、木質バイオマスをサルファイト蒸解する過程で残留する。還元性糖類の含有量は5質量%以下が好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。還元性糖類の含有量を5質量%以下にすることで鉛蓄電池の放電特性を維持しつつ、充電受入性を向上させることができる。
【0026】
還元性糖とは、還元性を示す糖をいい、塩基性溶液中でアルデヒド基又はケトン基を生じる糖をいう。
【0027】
還元性糖としては、例えば、全ての単糖、マルトース、ラクトース、アラビノース、スクロースの転化糖等の二糖、及び多糖が挙げられる。アルカリ処理排液中に含まれる還元性糖としては、通常、セルロース、ヘミセルロース、及びそれらの分解物を含む。セルロース及びヘミセルロースの分解物としては、例えば、ラムノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、グルコース、マンノース、フルクトース等の単糖;キシロオリゴ糖、セロオリゴ糖等のオリゴ糖が挙げられる。
【0028】
還元性糖の測定は、Somogyi-Schaffer法によって測定し、測定値をグルコース量に換算して還元性糖の含有量を求めることができる。
【0029】
リグニンスルホン酸は、電離していない状態であってもよく、スルホン酸基の水素原子がカウンターイオンで置換されていてもよい。
【0030】
カウンターイオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオンが挙げられる。
【0031】
なお、カウンターイオンは、1種単独のカウンターイオンであってもよく、2種以上のカウンターイオンを組み合わせてもよい。
【0032】
本発明のリグニンスルホン酸は、通常、無機塩が含有される。無機塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウムが挙げられる。リグニンスルホン酸中の無機塩の含有量は、通常1~25質量%である。
【0033】
(リグニンスルホン酸の調製方法)
低スルホン化度のリグニンスルホン酸は、例えば、以下のようにして調製することができる。リグノセルロース原料を亜硫酸処理して調製することができる。中でも、リグノセルロース原料をサルファイト蒸解処理して調製することが好ましい。
【0034】
リグノセルロース原料は、構成体中にリグノセルロースを含むものであれば特に限定されるものではない。例えば、木材、非木材等のパルプ原料が挙げられる。
【0035】
木材としては、エゾマツ、アカマツ、スギ、ヒノキ等の針葉樹木材、シラカバ、ブナ等の広葉樹木材が例示される。木材の樹齢、採取部位は問わない。そのため、互いに樹齢の異なる樹木から採取された木材や、互いに樹木の異なる部位から採取された木材を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
非木材としては、竹、ケナフ、葦、稲が例示される。
【0037】
リグノセルロース原料は、これらの材料を1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
亜硫酸処理は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかをリグノセルロース原料に接触させて行うことができ、中間生成物を得る処理である。亜硫酸処理の条件は、特に限定されず、リグノセルロース原料に含まれるリグニンの側鎖のα炭素原子にスルホン酸(塩)基が導入され得る条件であればよい。
【0039】
亜硫酸処理は、サルファイト蒸解法により行うことが好ましい。これにより、リグノセルロース原料中のリグニンをより定量的にスルホン化することができる。なお、サルファイト蒸解法は、亜硫酸蒸解法とも呼ばれる。
【0040】
サルファイト蒸解法は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液(例えば、水溶液:蒸解液)中で、リグノセルロース原料を高温下で反応させる方法である。当該方法は、サルファイトパルプの製造方法として工業的に確立されており、実施されている。そのため、亜硫酸処理をサルファイト蒸解法により行うことにより、経済性及び実施容易性を高めることができる。
【0041】
亜硫酸塩の塩としては、サルファイト蒸解を行う場合、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0042】
亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液における亜硫酸(SO2)濃度は、特に限定されないが、反応薬液100mLに対するSO2の質量(g)の比率が、1g/100mL以上が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には2g/100mL以上がより好ましい。上限は、20g/100mL以下が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には15g/100mL以下がより好ましい。SO2濃度は、1g/100mL~20g/100mLが好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には2g/100mL~15g/100mLがより好ましい。
【0043】
亜硫酸処理のpH値は特に限定されないが、10以下が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には5以下がより好ましい。pH値の下限は、0.1以上が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には0.5以上がより好ましい。亜硫酸処理の際のpH値は、0.1~10が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には0.5~5がより好ましい。
【0044】
亜硫酸処理の温度は特に限定されないが、170℃以下が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には150℃以下がより好ましい。下限は、70℃以上が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には100℃以上がより好ましい。亜硫酸処理の温度条件は、70~170℃が好ましく、サルファイト蒸解を行う場合には100℃~150℃がより好ましい。
【0045】
亜硫酸処理の処理時間は特に限定されなく、亜硫酸処理の諸条件にもよるが、0.5~24時間が好ましく、1.0~12時間がより好ましい。
【0046】
亜硫酸処理においては、カウンターカチオン(塩)を供給する化合物を添加することが好ましい。カウンターカチオンを供給する化合物を添加することにより、亜硫酸処理におけるpH値を一定に保つことができる。カウンターカチオンを供給する化合物としては、例えば、MgO、Mg(OH)2、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、NaOH、NaHCO3、Na2CO3が挙げられる。カウンターカチオンは、マグネシウムイオンであることが好ましい。
【0047】
亜硫酸処理において、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液を用いる場合、溶液には必要に応じて、SO2及びカウンターカチオン(塩)のほかに、蒸解浸透剤(例えば、アントラキノンスルホン酸塩、アントラキノン、テトラヒドロアントラキノン等の環状ケトン化合物)を含ませてもよい。
【0048】
亜硫酸処理を行う際に用いる設備に限定はなく、例えば、一般に知られている溶解パルプの製造設備等を用いることができる。
【0049】
亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液から中間生成物を分離するには、常法に従って行えばよい。分離方法としては、例えば、サルファイト蒸解後のサルファイト蒸解排液の分離方法が挙げられる。
【0050】
サルファイト蒸解処理によると、高スルホン化度のリグニンスルホン酸が得られることがあり、その場合、部分脱スルホン化処理により低スルホン化度のリグニンスルホン酸を得ることができる。部分脱スルホン化方法としては、U.S.Pat.No.2371136、特開昭58-45287号公報に記載されている方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0051】
また、特開2016-135834に記載されている方法によっても低スルホン化度のリグニンスルホン酸を得ることができる。
【0052】
本発明のリグニンスルホン酸を含有する有機防縮剤の製造方法は、限外濾過膜(UF膜)を用いてサルファイト蒸解黒液を限外濾過処理して濃縮液を回収する工程を有する。
【0053】
UF膜を用いて黒液を限外濾過処理することにより、濃縮液の含有成分として液状リグニンを回収することができる。また、限外濾過処理により、高分子のリグニンとそれ以外を分離し得る。即ち、黒液からUF膜を用いて液状リグニンを製造し得る。
【0054】
(UF膜)
UF膜としては、公知のUF膜を用いることができる。例えば、中空糸膜、スパイラル膜、チューブラー膜、平膜が挙げられる。
【0055】
UF膜の素材は公知のものを用いることができる。例えば、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セラミックが挙げられる。なお、UF膜は市販品であってもよい。
【0056】
UF膜の分画分子量は、5,000~30,000が好ましく、10,000~25,000がより好ましく、15,000~23,000がさらに好ましい。分画分子量が5,000以上のUF膜を用いると、黒液の分離速度が過度に遅くなることを防止し得る。また、分画分子量が30,000以下のUF膜を用いると、黒液からリグニンが分離されなくなることを防止し得る。
【0057】
UF膜を用いた限外濾過処理は濃縮及び定容の2つの工程に分けられる。2つの工程はいずれか一方のみ行っても良いし、両方行ってもよい。両方行う場合は濃縮の後に定容を行うことが好ましい。
【0058】
UF膜を用いた限外濾過処理による濃縮倍率は任意に設定できる。すなわち、透過液の流出量が任意の量になった時に、限外濾過処理を停止すればよい。好ましくは2~6倍に濃縮することが好ましい。例えば4倍濃縮とは、UF膜を透過した透過液量が処理前の液の3/4量になったときのことを意味する。
【0059】
UF膜を用いた限外濾過処理による定容倍率は任意に設定できる。すなわち、濃縮液の容積を一定に保ちながら水を加えて、透過液が任意の量になった時に、限外濾過処理を停止すればよい。好ましくは濃縮液に対して0.5~3倍の量の水を加えて定容することが好ましい。例えば2倍定容とは、原液(黒液)量を一定に保ちながら原液に水を加えて限外濾過処理をして、透過液量が処理前の原液の2倍量になったときのことを意味する。
【0060】
(限外濾過処理)
限外濾過処理時の黒液の温度は特に限定されない。例えば、20~80℃が好ましく、UF膜材質の耐熱面を考慮すると、20~70℃がより好ましい。
【0061】
限外濾過処理時の黒液のpH値は、2~11が好ましい。
【0062】
限外濾過処理時の黒液の固形分濃度(w/w)は、2~30%が好ましく、5~15%がより好ましい。
【0063】
(濃縮液)
濃縮液中、分子量が5,000以下の物質の含有量は30質量%以下であることが好ましく、分子量が5,000以下の物質の含有量が20質量%以下であることがより好ましい。分子量が5,000以下の物質の含有量が30質量%を超えると、濃縮液中の低分子の不純物が多くなり、鉛蓄電池の充電受入性が向上しない。
【0064】
限外濾過処理後の濃縮液中のリグニンの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定し得る。GPCの測定は、プルラン換算する公知の方法にて、下記の条件にて行えばよい。
【0065】
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;四ホウ酸Na1.0%、イソプロピルアルコール0.3%の水溶液
溶離液流速;1.00ml/min
カラム温度;50℃
測定サンプル濃度;0.2質量%
標準物質;プルラン(昭和電工製)
検出器;RI検出器(東ソー製)
検量線;プルラン基準
【0066】
限外濾過処理後の濃縮液中のリグニンの重量平均分子量は、好ましくは10,000~40,000であり、より好ましくは20,000~35,000である。
【0067】
濃縮液中の分子量が5,000以下のリグニンの含有量は、以下のようにして算出し得る。まず、上述の条件にて濃縮液をGPCで測定し、ピーク強度(mV)を縦軸に、溶出時間(Retention Time)を横軸したGPCクロマトグラムを得る。ベースラインは通常、ポリマーピークの溶出開始時間から溶出終了時間までとする。溶出終了時間が明瞭に認められない場合、ベースラインを作成した後に、ピークとピークの谷の中間地点で区切り、その点をポリマーピークの溶出終了時間とする。リグニンのGPCクロマトグラムは、通常明瞭なピークを与えないので、ポリマーピークの溶出開始から、複数のピークを含むポリマー溶出曲線を一つのピークとし、分子量5,000の位置で垂直にピークを分割し、面積割合を計算して算出し得る。
【0068】
本発明の有機防縮剤は主に鉛蓄電池の負極版に添加される。添加率は通常鉛粉に対して0.02~1.0質量%である。
【0069】
本発明の鉛蓄電池用有機防縮剤を使用した鉛蓄電池は、自動車用電池、ポータブル機器用電池、コンピュータのバックアップ用電池、通信用電池、等に使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0071】
<黒液の限外濾過処理>
サンエキスM100(日本製紙社製、濃度12%、主成分:リグニンスルホン酸)を限外濾過処理(分画分子量20,000)によって4倍濃縮、1.0倍定容して、得られた濃縮液を真空乾燥機(105℃、24時間)で粉末化し、リグニンスルホン酸粉末(Lignin1)を得た。また、サンエキスM100を限外濾過処理(分画分子量12,000)によって4倍濃縮、1.0倍定容して、得られた濃縮液を真空乾燥機(105℃、24時間)で粉末化し、リグニンスルホン酸粉末(Lignin2)を得た。また、限外濾過処理を行わずにサンエキスM100を粉末化することでリグニンスルホン酸粉末(Lignin3)を得た。
【0072】
Lignin1~3の物性値を下記表1に記す。なお、表1中の%は、固形分に対する%を表す。
【0073】
【0074】
<鉛蓄電池の作成>
本実施例及び比較例の鉛蓄電池正極活物質ペーストは、特開平9-237632に準拠し、以下のように製造した。まず、一酸化鉛を70~80重量%含有する鉛粉と、該鉛粉に対して13質量%の希硫酸(比重1.26:20℃)と、該鉛粉に対して12質量%の水とを混練して正極活物質ペーストを作製した。上記ペースト状正極活物質約25gを鉛合金製の格子体からなる集電体に充填してから、未乾燥のまま窒素雰囲気中で80℃-24時間放置(熟成)して、未化成の正極板とした。
【0075】
次に、一酸化鉛を70~80重量%含有する鉛粉と、該鉛粉に対して13質量%の希硫酸(比重1.26:20°C)と、該鉛粉に対して12質量%の水と、硫酸バリウム1.2質量%、有機防縮剤を0.3質量%添加して、混練し負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト約25gを鉛合金の格子体からなる集電体に充填してから、未乾燥のまま窒素雰囲気中で80℃-24時間放置(熟成)して、未化成の負極板とした。
【0076】
上記製造法により得られた負極板と正極版を組み合わせて定格容量28Ah-2Vの鉛蓄電池を作製した。
【0077】
(高率放電特性試験)
JISD5301に従い、150Aの高率放電特性試験を実施した。放電持続時間を評価した。放電持続時間が長い方が評価良好となる。
【0078】
(充電受入性試験)
JISD5301に従い、充電受入性試験を実施した。充電開始後10分目の充電電流を評価した。電流値が高い方が評価良好となる。
【0079】
(5時間率容量試験)
JISD5301に従い、5時間率容量試験を実施した。放電持続時間を評価した。放電持続時間が長い方が評価良好となる。
【0080】
試験結果を表2に示す。
【0081】
【0082】
表2に示す通り、実施例1及び2の本発明の鉛蓄電池用有機防縮剤は比較例の鉛蓄電池用有機防縮剤と比較して高率放電特性はほぼ同等で、充電受入性に優れるものであった。加えて、実施例1及び2の本発明の鉛蓄電池用有機防縮剤は比較例の鉛蓄電池用有機防縮剤と比較して5時間率容量についても優れるものであった。