(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】水素需給システムおよび水素需給方法
(51)【国際特許分類】
F23K 5/00 20060101AFI20241212BHJP
F17D 1/04 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F23K5/00 302
F17D1/04
(21)【出願番号】P 2023516964
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2021017026
(87)【国際公開番号】W WO2022230123
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 秀宏
(72)【発明者】
【氏名】可児 祐子
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 良平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】水上 貴彰
(72)【発明者】
【氏名】石田 直行
(72)【発明者】
【氏名】藤田 晋士
(72)【発明者】
【氏名】矢敷 達朗
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-213695(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111379975(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23K 5/00-5/22
F17D 1/00-5/08
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスとその他のガスが充填されているガスパイプラインを備えるガスグリッドを対象に、前記ガスグリッド内の流体情報、管路・ガス注入機構形状情報、水素供給拠点およびガス使用拠点の運転予定を入力として、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味したシミュレーション結果を出力し、前記ガスグリッド内の任意のポイントにおける経時的な水素濃度の変化を可視化する水素濃度の可視化システムを備えることを特徴とする水素需給システム。
【請求項2】
請求項1に記載の水素需給システムであって、
前記水素ガスの前記ガスグリッドへの注入量、前記ガスパイプライン内のガスの流速のうち少なくとも1つ以上を調整することで、前記ガスグリッド内のガスの組成を制御することを特徴とする水素需給システム。
【請求項3】
請求項2に記載の水素需給システムであって、
前記ガスグリッドの末端から不連続でガス抜出する際の抜出量で前記ガスパイプラインのガスの流速を調整することを特徴とする水素需給システム。
【請求項4】
請求項2に記載の水素需給システムであって、
前記ガスグリッドの始端と末端にガス滞留拠点を備え、前記ガス滞留拠点からのガス供給または前記ガス滞留拠点へのガス抜出で前記ガスパイプラインのガスの流速を調整することを特徴とする水素需給システム。
【請求項5】
請求項2に記載の水素需給システムであって、
圧力調整機構を備える環状の前記ガスグリッドを備え、管状の前記ガスグリッド内の圧力を制御することで、前記ガスパイプライン内のガスを循環させることを特徴とする水素需給システム。
【請求項6】
請求項5に記載の水素需給システムであって、
前記圧力調整機構で環状の前記ガスグリッド内のガスの流速を制御することを特徴とする水素需給システム。
【請求項7】
請求項1に記載の水素需給システムであって、
前記水素濃度の可視化システムとして、前記ガスグリッドの構造を示すガスグリッド構造表示部、前記ガスグリッド内の水素濃度を提示するグリッド監視部、前記ガスグリッド内の流体情報を表示する流体情報表示部、または、前記ガスグリッドに接続されている前記ガス使用拠点の制約条件を表示する制約条件表示部を備えることを特徴とする水素需給システム。
【請求項8】
水素ガスとその他のガスが充填されているガスパイプラインを備えるガスグリッドを対象に、前記ガスグリッド内の流体情報、管路・ガス注入機構形状情報、水素供給拠点およびガス使用拠点の運転予定を入力として、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味したシミュレーション結果を出力し、前記ガスグリッド内の任意のポイントにおける経時的な水素濃度の変化を可視化することを特徴とする水素需給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、再生可能エネルギーなどを利用した水の電気分解や、天然ガスの改質などにより製造された水素を水素利用者へ供給する際の供給状況の管理および制御に関わる水素需給システムおよび水素需給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境省において、令和元年に「再エネ電解水素の製造及び水素混合ガスの供給利用実証事業」が開始された(https://www.env.go.jp/press/106873-print.html)。本事業では、風力発電の電力を用いて、水の電気分解により水素を製造し、該水素と都市ガス相当の模擬ガスを混合してガス配管によって利用場所に供給する。混合ガスは給湯器、ガスコロンなどでそのまま利用される。
【0003】
特許文献1では、既存の都市ガスパイプライン、導管ネットワークを利用して、水素燃料設備と既存の都市ガス燃焼機器が並存する場合に、両方の機器を支障なく利用することができる方法及びシステムとして、水素ガスと炭化水素系ガスとを含む混合ガスを、導管ネットワークを介して需要家群に供給する都市ガス供給方法であって、第一の需要家群においては、混合ガス中の水素ガスを分離して分離された水素ガスを使用するとともに、分離後ガスを導管ネットワークに戻入し、かつ、第二の需要家群においては、混合ガス中の水素ガスを分離して分離後ガスを使用するとともに、分離された水素ガスを導管ネットワークに戻入することを特徴とする都市ガス供給方法が提供されている。
【0004】
混合ガスをガスグリッド(導管ネットワーク)で供給する際、従来の都市ガスなどの均一成分のガスの供給と異なり、ガス流量や圧力だけでなく、混合ガス中の各成分の濃度を監視し、管理する必要がある。加えて、混合ガスの仕様用途に応じて、混合ガス中の各成分の必要濃度が異なり、さらに、濃度上限が定められることもある。
【0005】
そのうえ、ガスグリッドに接続されているガス使用拠点(需要家)が特定のガスのみ使用する場合、ガスグリッド内に濃度の偏りが生じることが懸念される。混合ガスの各成分の濃度は、ガスの注入や抜出にともなうガスの混合や拡散、流れによって変動することから、経時的な変動を踏まえたガスグリッド内の組成の監視ならびに制御が必要である。
【0006】
特許文献1では、ガスグリッドを介して混合ガスを需要家群に供給する方法およびシステムを提示しているが、ガスグリッド内の混合ガスの組成について経時変化を監視し制御する手段は提示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-243100号公報(P2002-243100A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガスグリッドから供給された水素を使用する際、必要とされる水素濃度および水素濃度上限が決まっている。そのため、ガスグリッド内の水素濃度の可視化ならびに制御を行う必要がある。クリーンエネルギーとして製造された水素に関して、経済性、安全性、利便性と地球温暖化対策を満たしながら水素需給の課題を解決することが求められている。
【0009】
そこで、本発明は、ガスグリッド内の経時的な水素濃度の変化を可視化して、適切な水素濃度の監視や制御を可能にする水素需給システムおよび水素需給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
水素ガスとその他のガスが充填されているガスパイプラインを備えるガスグリッドを対象に、前記ガスグリッド内の流体情報、管路・ガス注入機構形状情報、水素供給拠点およびガス使用拠点の運転予定を入力として、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味したシミュレーション結果を出力し、前記ガスグリッド内の任意のポイントにおける経時的な水素濃度の変化を可視化する水素濃度の可視化システムを備えることを特徴とする水素需給システム、および、前記ガスグリッド内の任意のポイントにおける経時的な水素濃度の変化を可視化する水素需給方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水素需給システムおよび水素需給方法により、ガスグリッド内の経時的な水素濃度の変化を可視化して、クリーンエネルギーとして製造された水素に関して、グリッド内の水素濃度を監視し、制御することができ、必要な場所に必要な濃度の水素供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成図
【
図2】ガスグリッド内の水素濃度の可視化システムの画面例
【
図3】ガス使用拠点を新たにガスグリッドに接続する場合の水素濃度の可視化システムの画面例
【
図4】水素濃度の可視化システムの処理フローを説明する説明図
【
図5】実施例3に記載のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成図
【
図7】実施例4に記載のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成図
【
図8】実施例5に記載のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成図
【
図9】実施例6に記載のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。なお、同一の構成には、同一の符号を付し、説明が重複する場合は、その説明を省略する場合がある。また、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0014】
[実施例1]
図1は、実施例1のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成を説明する説明図である。なお、本実施例では、
図1に示す構成の全部を使用しているが、必ずしも全部を使用する必要はなく、一部を使用してもよい。
【0015】
本実施例では、ガスグリッド内の水素濃度の可視化システムについて説明する。
図1は、本実施例におけるガスグリッドと水素濃度の可視化システムの概要図である。本実施例では、ガスパイプライン(1)に水素供給拠点(2)、ガス使用拠点(3a)、ガス使用拠点(3b)が接続されたガスグリッドを対象に、天然ガスと水素ガスの混合ガスを供給する例について説明する。
【0016】
なお、本実施例では、天然ガスと水素ガスとの混合ガスを想定したが、水素ガスと混合するガスは天然ガスに限定しない。また、水素供給拠点、ガス使用拠点の数は、1個でも良いし、複数設置しても良い。水素供給拠点(2)は、ガスパイプライン(1)に水素ガスを供給する機能を持つ施設および設備を示す。このとき、水素供給拠点(2)の水素ガスは、水素供給拠点(2)で製造されたものでも良いし、他の場所で製造されたものでも良い。
【0017】
天然ガス(102)が充填されているガスパイプライン(1)に、水素供給拠点(2)から水素ガス(101)を注入し、水素ガスと天然ガスが混合した混合ガス(103)として、ガス使用拠点(3a、3b)に供給する。ガス使用拠点(3a、3b)では、ガスパイプライン(1)から、必要量の水素ガス(101)、天然ガス(102)、あるいは混合ガス(103)を取り出し、返送ガス(104)をガスパイプライン(1)に戻す。
【0018】
ここで、返送ガス(104)は、ガス使用拠点(3a、3b)で使用しないガスである。例えばガス使用拠点(3a)が水素のみを使用する場合には、天然ガス(102)のみを返送ガス(104)としても良いし、天然ガス(102)と使用する分量以外の水素ガス(101)を混合して、混合ガスと異なるガス組成のガスを、返送ガスとしてガスパイプライン(1)に戻しても良い。
【0019】
ガスグリッド可視化拠点(4)は、ガスグリッド内に付随して設けられており、水素濃度の可視化システム(301)や制御機構(302)を備えている。ガスグリッド内の水素濃度の可視化システム(301)では、定期的に取得するガスグリッド内の流体情報(201)と、あらかじめ取得した管路・ガス注入機構形状情報(202)を入力として、ガスグリッド内の組成分布を算出する。
【0020】
ここで、流体情報とは、ガスパイプライン(1)内の任意のポイントの流速、流量、圧力、組成などの情報である。任意の点は、1つでも良いし、複数でも良い。流体情報は、圧力計や流量計などのセンサにより直接計測しても良いし、ソフトセンサで算出しても良い。ソフトセンサとしては、例えば、ガスグリッド内の任意の2点での圧力の差分から流量を算出する、ガスグリッドに接続されているすべてのガス使用拠点でのガス使用量から流量を算出する、などが該当する。
【0021】
さらに、ガスグリッド内の水素濃度の可視化システム(301)では、ガスグリッド内の水素濃度の経時的な変化をシミュレーション結果を基に提示する。シミュレーションは、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味した流体解析による。ガスグリッド内の流体情報(201)と、水素供給拠点の運転予定(501)およびガス使用拠点の運転予定(502)、あらかじめ取得した管路・ガス注入機構形状情報(202)を基に、任意の経過時刻後のガスグリッド内の組成分布を計算する。なお、ここでガスグリッド内の組成分布とは、ガスグリッドに含まれる各成分(水素、天然ガス)の濃度や比率を示す。
【0022】
管路・ガス注入機構形状情報とは、ガスパイプライン(1)やガス注入に用いられる機構の形状、管径、寸法などの情報である。管路・ガス注入機構形状情報は、シミュレーションで流体解析の条件として用いられる情報であり、ガスグリッドの設計上の情報や実測結果などから、あらかじめ取得される。
【0023】
図2は、ガスグリッド内の水素濃度の可視化システムの画面(1001)例を示す。ガスグリッド内の水素濃度の可視化システム(301)では、ガスグリッドの構造を示すガスグリッド構造表示部(1002)と、ガスグリッド内の水素濃度を提示するグリッド監視部(1003)と、ガスグリッド内の流体情報を表示する流体情報表示部(1004)を表示する。
【0024】
グリッド監視部(1003)は、常時既定のガスグリッド内の任意のポイントにおける水素濃度を提示しても良いし、ポインタで操作者が指定した任意のポイントの水素濃度を提示しても良い。また、色のグラデーションを用いて水素濃度分布のガスグリッド内の変化を視覚的に提示しても良い。さらに、水素濃度分布以外にも、ガスの組成や流量などを色のグラデーションを用いて提示しても良い。さらに、ガスグリッド内の水素濃度は、現在時刻から任意の経過時刻後までを動画として表示しても良いし、操作者が任意の経過時刻を指定して静止画で表示させても良い。
【0025】
ここで、ガスグリッド構造表示部(1002)とグリッド監視部(1003)は重ねて表示しても良い。さらに、ガスグリッドに接続されているガス使用拠点の制約条件を表示する制約条件表示部(1005)を合わせて表示しても良い。さらに、ガスグリッドに接続されている水素供給拠点からのガスグリッドへの水素ガス供給量、ガス使用拠点での水素ガス使用量、天然ガス使用量を合わせて表示しても良い。
【0026】
ガス使用拠点の制約条件とは、ガス使用拠点で要求されるガス組成、水素や天然ガスの濃度の下限値と上限値、混合ガスの流量や圧力など、混合ガスを供給する際に満たす必要のある条件である。ガスパイプラインの制約条件とは、ガスの流量や圧力など、ガスパイプライン(1)中にガスを流す際に満たす必要のある条件である。
【0027】
水素濃度の可視化システム(301)により、ガスグリッド内の水素濃度の分布をリアルタイムで監視でき、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たしているか確認できる。水素濃度の可視化システム(301)は、ガスグリッドに接続するガス使用拠点あるいは水素供給拠点の選定に用いることも可能である。ガス使用拠点または水素供給拠点の設置前後のガスグリッド内の水素濃度分布をガスグリッド内の水素濃度の可視化システム(301)を用いて比較することで、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たしているか判断できる。
【0028】
図3は、ガス使用拠点を新たにガスグリッドに接続する場合の水素濃度の可視化システムの画面例である。ガスグリッド構造表示部(1002)やグリッド監視部(1003)の画像として、ガス使用拠点の追加前の画像(1006)、ガス使用拠点の追加後の画像(1007)を合わせて表示し、追加前後でのガスパイプライン(1)の構造や、ガスグリッド内の水素濃度分布を比較できる。また、ガス使用拠点のガスグリッドへの接続場所を変更した場合についても同様に比較できるよう、合わせて表示しても良い。
【0029】
[実施例2]
本実施例では、実施例1に記載のガスグリッド内の水素濃度の可視化システム(301)と供給可否判断機構の処理フローについて記載する。本実施例によれば、ガス使用拠点またはガスパイプラインの制約条件を満たすよう管理することができる。
【0030】
図4は、水素濃度の可視化システムの処理フローを説明する説明図である。水素濃度の可視化システム(301)の供給可否判断機構では、はじめに、ガスグリッド内に接続されている水素供給拠点およびガス使用拠点の数を取得する(S1)。
【0031】
次に、ガスグリッド内の流体情報と、あらかじめ取得した管路・ガス注入機構形状情報を入力として、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味したシミュレーションを行い、現在のガスグリッド内の組成分布を計算する(S2)。
【0032】
次に、評価時間を設定する(S3)。本実施例では、評価時間は現在時刻t1からtn時刻先までとし、評価間隔はΔtと設定した場合について説明する。
【0033】
次に、水素供給拠点およびガス使用拠点の運転予定を取得する(S4)。ここで、運転予定とは、設定した評価時間t1~tnの間の水素供給拠点における水素ガス注入予定や、ガス使用拠点における混合ガス抜出予定である。
【0034】
水素ガス注入予定とは、時刻に対する水素ガス注入量、注入圧力、注入流量などの情報である。混合ガス抜出予定とは、時刻に対する混合ガスの抜出量、抜出流量、ガス使用拠点での混合ガスの成分に対する使用量などの情報である。
【0035】
ガス使用拠点での混合ガスの成分に対する使用量とは、混合ガス中に含まれる成分(水素ガス、天然ガス)毎の使用量である。ガス使用拠点において、混合ガスをそのまま使用する場合には、ガス使用拠点での混合ガスの成分に対する使用量の合計は、混合ガスの使用量と一致する。一方、ガス使用拠点で特定の成分のみ使用する場合には、使用しない成分をガスパイプラインに返送ガスとして返送するため、混合ガスの成分に対する使用量の合計は、混合ガスの使用量から返送ガス量を差し引いた値と一致する。
【0036】
次に、混合ガス抜出予定と、あらかじめ取得した管路・ガス注入機構形状情報を入力として、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味したシミュレーションを行い、評価時間t1~tn間の返送ガス予定を算出する(S5)。ここで、返送ガス予定とは、混合ガス中に含まれる成分毎の時刻に対する返送ガスの返送量、返送圧力、返送流量などの情報である。
【0037】
次に、現時刻のガスグリッド内の流体情報と、評価時間t1~tnの間の水素ガス注入予定、混合ガス抜出予定、返送ガス予定と、あらかじめ取得した管路・ガス注入機構形状情報を入力として、ガスの流れ、ガス抜出や圧入にともなう対流、拡散状態を加味したシミュレーションを行い、評価時間t1~tnの間のガスグリッド内の組成分布を計算する(S6~S9)。評価期間t1~tnの間のガスグリッド内の組成分布から、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たしているか確認する。
【0038】
計算の結果、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たした場合(S9:YES)、評価時間t1~tnの間の水素ガス注入予定、混合ガス抜出予定、返送ガス予定を遂行できる。一方、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たさない場合(S9:NO)、評価期間t1~tnの間のガスグリッド内の組成分布から、水素ガス注入予定、混合ガス抜出予定、返送ガス予定を変更する必要がある。
【0039】
水素ガス注入予定、混合ガス抜出予定、返送ガス予定の変更は、操作者が判断し、設定しなおしても良いし、供給可否判断機構で自動判断した結果を採用しても良い。例えば、以下の変更方法に優先順位を付しておくことにより供給可否判断機構で自動判断できる。
【0040】
まず、水素濃度が評価期間t1~tnの間、特定のガス使用拠点で不足する場合、優先度の低いガス使用拠点において混合ガスの抜出を実施しない方法がある。また、水素ガス注入量や注入頻度を上げて、ガスパイプラインおよびガス使用拠点における水素濃度を増大させる方法がある。
【0041】
そのほか、水素ガスが不要なガス使用拠点で混合ガスをそのまま利用している場合には、水素ガスが不要なガス使用拠点で天然ガスのみを使用し、水素ガスを返送することでガスパイプラインの水素濃度を増大させる方法がある。さらに、水素濃度が評価期間t1~tx(tx<tn)の間、特定のガス使用拠点で不足する場合、特定のガス使用拠点での混合ガス抜出予定を遅らせることで、ガスパイプラインおよびガス使用拠点の混合ガスの濃度を確保する方法がある。
【0042】
[実施例3]
本実施例では、実施例1に記載のガスグリッド内の水素濃度の可視化システム(301)に、供給可否判断機構にかわって、水素注入量とガスパイプライン(1)内のガス流量を調整する制御機構(303)を付与した水素需給システムについて記載する。本実施例によれば、水素供給拠点(2)からの水素注入量や、ガスパイプライン(1)の流量を調整し、ガス使用拠点またはガスパイプラインの制約条件を満たすよう管理することができる。
【0043】
図5は、実施例3のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成を説明する説明図である。本実施例では、
図5に示した通り、実施例1に記載のガスグリッドに、天然ガス供給拠点(5)とガス排出拠点(6)を可視化対象範囲に加えている。天然ガスは、天然ガス供給拠点(5)からガスパイプライン(1)に供給され、ガスパイプライン(1)を経て、ガス排出拠点(6)から抜き出される。これにより、ガスパイプライン(1)中は一定方向にガスの流れが形成されている。
【0044】
制御機構(302)は、天然ガス供給拠点(5)に対し、天然ガスの供給量の制御目標を示す天然ガス供給量情報(401)を送り、天然ガスの供給量を制御する。また、水素供給拠点(2)に対し、水素ガスの供給量の制御目標を示す水素ガス供給量情報(402)を送り、水素ガスの供給量を制御する。また、ガス排出拠点(6)に対し、混合ガスの排出量の制御目標を示す混合ガス抜出量情報(403)を送り、混合ガスの抜出量を制御する。
【0045】
図6は、水素濃度の可視化システムの制御機構の処理フローを説明する説明図である。まず、水素濃度の可視化システム(301)により、実施例2に記載の
図4の(S1)から、(S9)までの処理により、評価期間t1~tnの間のガスグリッド内の水素濃度分布を計算する(S10)。
【0046】
制御機構(302)では、評価期間t1~tnの間のガスグリッド内の組成分布から、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たさない場合(S11:YES)、水素供給拠点での水素注入量、ガス流れを制御することでガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たすよう制御する。
【0047】
次に、評価期間t1~tnの間の水素ガス供給量(積算値)と、ガスグリッド全体で予定している水素ガス使用量(積算値)の差分ΔVhを算出する(S12)。
【0048】
差分ΔVhの絶対値が規定値(THh)以上の場合(S13:YES)、水素供給拠点での水素注入量の調整を行う。
【0049】
差分ΔVhが負の値(水素ガス供給量(積算値)>水素ガス使用量(積算値))の場合(S14:負)には、水素供給拠点での水素注入量をΔVhの絶対値が規定値未満となるよう低下させる(S15)。差分ΔVhが正の値(水素ガス供給量(積算値)<水素ガス使用量(積算値))の場合(S14:正)には、水素供給拠点での水素注入量をΔVhの絶対値が規定値未満となるよう増大させる(S16)。
【0050】
差分ΔVhの絶対値が規定値(THh)未満で、評価期間の一部やガスグリッドの一部で水素ガス濃度の上限超過が生じる場合(S13:NO)には、混合ガスの流速を増大させ、水素濃度を均一化する。
【0051】
本実施例では、水素ガスの濃度上限超過および不足を対象に説明したが、天然ガスが濃度上限超過および不足する場合にも同様に制御可能である。
【0052】
[実施例4]
本実施例では、実施例3に記載の水素需給システムに関して、ガス排出拠点として、タンクローリーによりガスグリッドの末端から不連続で混合ガス抜出を行う場合について記載する。本実施例によれば、ガスパイプライン(1)中のガス組成に偏りが生じた場合に、ガスパイプライン(1)内のガス流速を増大させ、ガス組成の安定化を図ることができる。
【0053】
図7は、実施例4のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成を説明する説明図を示す。なお、
図7では、視認性のため、水素供給拠点の運転予定(501)およびガス使用拠点の運転予定(502)の記載を省略した。
【0054】
ガス排出拠点として、タンクローリーによりガスグリッドの末端から不連続で混合ガス抜出を行う場合、ガスパイプライン(1)内の混合ガスの流れが保たれるよう、混合ガス抜出予定を策定する。混合ガスの抜出を行うことにより、ガスパイプライン(1)中のガス流速が増大する。
【0055】
本実施例では、ガスグリッドに接続されているガス使用拠点(3a,3b)が水素ガスを使用する場合を想定している。ガス使用拠点(3a,3b)で水素ガスを使用する場合、ガス使用拠点(3a,3b)ではガスパイプライン(1)から混合ガスを抜き出し、混合ガス中の水素ガスを使用し、使用しない天然ガスを返送ガスとして返送する。これが繰り替えされることで、ガスパイプライン(1)中の天然ガス濃度が増大し、水素ガス濃度が低下する現象が起こる。
【0056】
ガスパイプライン(1)中が天然ガスで満たされている場合、ガスパイプライン(1)中のガス拡散をドライビングフォースとして水素ガスはガス使用拠点(3a,3b)まで運搬される。しかし、水素ガス供給拠点(2)からガス使用拠点(3a,3b)が離れている場合、拡散に時間を要し、ガス使用拠点(3a,3b)に必要量の水素ガスが供給できない恐れがある。
【0057】
そこで、本実施例では、ガスパイプライン(1)中が天然ガスで満たされている場合にも、ガスパイプライン(1)のガス流速を増大させることにより、ガス拡散と混合ガスの流れをドライビングフォースとして水素ガスを運搬し、ガス使用拠点(3a,3b)に必要量の水素ガスを供給する。なお、ガスパイプライン(1)のガス流速は、タンクローリーによる混合ガス抜出予定(203)により設定する。
【0058】
本実施例では、タンクローリーによる直接の混合ガス抜き出しについて記載したが、ガス排出拠点に一時的に混合ガスを保持するガス滞留部を設けても良い。ガス滞留部に混合ガスを抜き出し、一定間隔でタンクローリーによるガス滞留部からのガスの抜出を行うことで、混合ガスを連続的に抜き出すことができる。
【0059】
水素濃度の可視化システムにより、混合ガスの流速を変更することで、グリッド内の水素濃度の分布の変化が確認でき、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たすかを事前にチェックできる。
【0060】
[実施例5]
本実施例では、実施例3に記載の水素需給システムに関して、ガスパイプライン(1)の天然ガス供給拠点(5)と混合ガス排出拠点(6)の代わりに、ガス滞留拠点(7a,7b)を設置する場合について記載する。本実施例によれば、ガスパイプライン(1)中のガス組成に偏りが生じた場合に、ガスパイプライン(1)内のガス流速を連続的に変化させて、ガス組成の安定化を図ることができる。
【0061】
図8は、実施例5のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成を説明する説明図を示す。なお、
図8では、視認性のため、水素供給拠点の運転予定(501)およびガス使用拠点の運転予定(502)の記載を省略した。
【0062】
本実施例では、実施例4と同様に、ガスグリッドに接続されているガス使用拠点(3a,3b)が水素ガスを使用する場合を想定している。ガスグリッド内の混合ガスが使用され、ガスパイプライン(1)中にガス流れが形成されている場合、天然ガスは上流側のガス滞留拠点(7a)から供給される。
【0063】
ガス使用拠点(3a,3b)でのガスパイプライン(1)中の水素ガスの使用にともない、ガスパイプライン(1)が天然ガスで満たされてガス流れが低下した際には、上流側のガス滞留拠点(7a)を用いてガスパイプライン(1)からのガスの抜出を行い、下流側のガス滞留拠点(7b)から天然ガスを供給し、ガスの流れ方向を逆転させる。
【0064】
制御機構(302)は、上流側のガス滞留拠点(7a)に対し、天然ガス供給量情報(401)や混合ガス抜出量情報(403)を送り、ガスパイプライン(1)内のガス流れを制御する。また、下流側のガス滞留拠点(7b)に対し、混合ガス抜出量情報(403)や混合ガスの逆送量の制御目標を示す混合ガス逆送量情報(404)を送り、ガスパイプライン(1)内のガス流れを制御する。
【0065】
これにより、ガスパイプライン(1)中が天然ガスで満たされてガスの流れが低下した際に、水素ガスの供給量や混合ガスの抜出量に応じて、ガスパイプライン(1)内のガス流速を増大させることができる。
【0066】
本実施例では、実施例4の効果に加えて、連続的にガス流速を変化させることができ、より詳細なガス流速の制御が可能となる。水素濃度の可視化システム(301)により、混合ガスの流速を変更することで、ガスグリッド内の水素濃度の分布の変化が確認でき、ガス使用拠点およびガスパイプラインの制約条件を満たすかを事前にチェックできる。
【0067】
[実施例6]
本実施例では、実施例3に記載の水素需給システムに関して、ガスパイプライン(1)を環状として圧力調整機構(8)を付与することにより、ガス流速を制御する場合について記載する。本実施例によれば、ガスパイプライン(1)中のガス組成に偏りが生じた場合に、ガスパイプライン(1)内のガス流速を連続的に変化させて、ガス組成の安定化を図ることができる。
【0068】
図9は、実施例6のガスグリッド内の水素濃度の可視化システムを備えた水素需給システムの構成を説明する説明図を示す。なお、
図9では、視認性のため、水素供給拠点の運転予定(501)およびガス使用拠点の運転予定(502)の記載を省略した。
【0069】
本実施例では、ガスパイプライン(1)によるガスグリッドを環状とし、圧力調整機構(8)により圧力を制御することで、ガスパイプライン(1)中を混合ガスが常に循環している。ガスパイプライン(1)中の混合ガスは一定方向に向かって流れているため、水素供給拠点(2)で供給された水素ガスは、ガス拡散とガスの流れの両方をドライビングフォースとして運搬される。これにより、ガスグリッド内のガスパイプライン(1)中の水素ガス濃度が均一化され、ガス使用拠点(3a,3b)に安定した水素濃度の混合ガスを供給することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 :ガスパイプライン
2 :水素供給拠点
3a :ガス使用拠点1
3b :ガス使用拠点2
4 :ガスグリッド可視化拠点
5 :天然ガス供給拠点
6 :ガス排出拠点
7a :上流側のガス滞留拠点
7b :下流側のガス滞留拠点
8 :圧力調整器
101:水素ガス
102:天然ガス
103:混合ガス
104:返送ガス
201:流体情報
202:管路・ガス注入機構形状情報
203:タンクローリーによる混合ガス抜出予定
301:水素濃度の可視化システム
302:制御機構
303:制御機構
401:天然ガス供給量情報
402:水素ガス供給量情報
403:混合ガス抜出量情報
404:混合ガス逆送量情報
501:水素供給拠点の運転予定
502:ガス使用拠点の運転予定