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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】被覆ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023519880
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 SG2021050467
(87)【国際公開番号】W WO2022081080
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】10202010234V
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】515298442
【氏名又は名称】ヘレウス マテリアルズ シンガポール ピーティーイー. リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ロー、ミューワン
(72)【発明者】
【氏名】サランガパニ、ムラリ
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504472(JP,A)
【文献】特開2001-176912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有するワイヤ芯を備えるワイヤであって、
前記ワイヤ芯が、その表面上に重ねられた被覆層を有し、
前記ワイヤ芯自体が、銀系ワイヤ芯であり、
前記被覆層が、1~100nm厚のパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層であり、
前記ワイヤが、以下の固有特性A1)~A3):
A1)長手方向に測定した前記ワイヤ芯中の結晶粒の平均粒径が、0.7~1.1μmの範囲である、
A2)前記ワイヤの長手方向で測定した双晶境界の割合が、5~40%の範囲である、
A3)前記ワイヤ芯の結晶粒の20~70%が<100>方向に配向しておりかつ前記ワイヤ芯の結晶粒の3~40%が<111>方向に配向しており、各%は前記ワイヤの伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものである、
のうちの少なくとも1つを示す、ワイヤ。
【請求項2】
50~5024μmの範囲の平均断面積を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項3】
8~80μmの範囲の平均直径を有する、請求項1に記載のワイヤ。
【請求項4】
前記二重層が、1~30nm厚のパラジウム又はニッケルの内層と、20~200nm厚の隣接する金の外層と、から構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項5】
前記固有特性A1)~A3)のうちの2つ又は全てを示す、請求項1~4のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項6】
前記金の外層が、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を、前記ワイヤの重量に基づいて10~300重量ppmの範囲の合計割合で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のワイヤ。
【請求項7】
アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される前記少なくとも1つの構成要素の前記合計割合が、前記金の外層の前記金の重量に基づいて300~9500重量ppmの範囲である、請求項6に記載のワイヤ。
【請求項8】
アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される前記少なくとも1つの構成要素が、前記金の外層内で濃度勾配を示し、前記勾配が、前記ワイヤ芯の長手軸に対して垂直方向に増加する、請求項6又は7に記載のワイヤ。
【請求項9】
アンチモンが前記金の外層内に存在する、請求項6、7又は8に記載のワイヤ。
【請求項10】
ビスマス、ヒ素及びテルルが同時に存在することなく、アンチモンが前記金の外層内に単独で存在する、請求項9に記載のワイヤ。
【請求項11】
少なくとも工程(1)~(5):
(1)銀系前駆部材を用意する工程と、
(2)30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前記前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する工程と、
(3)プロセス工程(2)の完了後に得られた前記伸長前駆部材の表面上に、パラジウム又はニッケルの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆を適用する工程と、
(4)所望の最終直径が得られ、かつ1~100nmの範囲の所望の最終厚さを有するパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層と、から構成される二重層が得られるまで、プロセス工程(3)の完了後に得られた被覆前駆部材を更に伸長する工程と、
(5)最後に、400℃を超え460℃以下の範囲のオーブン設定温度で、0.8~10秒の範囲の曝露時間にわたって、プロセス工程(4)の完了後に得られた前記被覆前駆体をストランド焼鈍して、被覆ワイヤを形成する工程と
を含み、
工程(2)が、200~650℃のオーブン設定温度で30~300分の範囲の曝露時間にわたって、前記前駆部材を中間バッチ焼鈍する1つ以上のサブ工程を含み得る、請求項1~10のいずれか一項に記載のワイヤの製造方法。
【請求項12】
前記パラジウムの内層又は前記ニッケルの内層が、電気めっきによって適用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金の外層が、電気めっきによって適用される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
工程(3)における前記金の外層の適用が、金と、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素とを含む金電気めっき浴から、前記金の外層を電気めっきすることによって行われる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀系ワイヤ芯と、ワイヤ芯の表面上に重ねられた被覆層とを備える被覆ワイヤに関する。本発明は更に、このような被覆ワイヤを製造する方法に関する。
【0002】
エレクトロニクス及びマイクロエレクトロニクス用途におけるボンディングワイヤの使用は、周知の最新技術である。当初、ボンディングワイヤは金から作られていたが、今日では、銅、銅合金、銀及び銀合金などのより安価な材料が使用されている。このようなワイヤは、金属被覆を有していてもよい。
【0003】
ワイヤの形状に関して、最も一般的なものは、円形断面のボンディングワイヤと、ほぼ矩形断面を有するボンディングリボンである。どちらのタイプのワイヤ形状にも利点があり、特定の用途に役立つ。
【0004】
本発明の目的は、ワイヤボンディング用途における使用に適した被覆銀系ワイヤを提供することであり、このワイヤは、ワイヤの柔軟性、空気雰囲気下でのFAB(フリーエアボール)形成の実現可能性、並びに耐腐食性及び耐酸化性などの基本的な要件を満たすこととは別に、特に花状に接合されたボール(flowery bonded ball)の防止、スプールから巻き出す際のワイヤねじれの防止、及びワイヤの揺れに対する安定したルーピング挙動にも優れている。
【0005】
当該目的の解決への貢献は、カテゴリを形成する請求項の主題によって提供される。カテゴリを形成する請求項の従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を表し、その主題は、上述の目的の解決にも寄与する。
【0006】
本発明は、表面を有するワイヤ芯(以下、略して「芯」とも呼ばれる)を備えるワイヤであって、ワイヤ芯が、その表面上に重ねられた被覆層を有し、ワイヤ芯自体が、銀系ワイヤ芯であり、被覆層が、1~100nm厚のパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層であり、ワイヤが、以下の固有特性A1)~A3)(下記の「試験方法A及びB」を参照):
A1)長手方向に測定したワイヤ芯中の結晶粒の平均粒径が、0.7~1.1μmの範囲である、
A2)ワイヤの長手方向で測定した双晶境界の割合が、5~40%の範囲である、
A3)ワイヤ芯の結晶粒の20~70%が、<100>方向に配向しており、ワイヤ芯の結晶粒の3~40%が、<111>方向に配向しており、各%はワイヤの伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものである、
のうちの少なくとも1つを示す、ワイヤに関する。
【0007】
「固有特性」という用語は、本明細書では本発明のワイヤに関して使用される。固有特性は、ワイヤが(他の要因とは無関係に)それ自体で有する特性を意味し、一方、外因的特性は、ワイヤの他の外部要因との関係又は相互作用に依存する。
【0008】
本発明のワイヤは、マイクロエレクトロニクスにおけるボンディング用のボンディングワイヤであることが好ましい。好ましくは一体型の物体である。本発明では、「ボンディングワイヤ」という用語は、円形断面及び細い直径を有するボンディングワイヤを含む。平均断面積は、例えば、50~5024μm、好ましくは、110~2400μmの範囲である。したがって、平均直径は、例えば、8~80μm、好ましくは、12~55μmの範囲である。
【0009】
ワイヤ又はワイヤ芯の平均直径、簡単に述べると直径は、「サイジング法」によって得ることができる。この方法によれば、規定された長さに対するワイヤの物理的重量が決定される。この重量に基づいて、ワイヤ又はワイヤ芯の直径が、ワイヤ材料の密度を使用して算出される。直径は、特定のワイヤの5つの切片の5つの測定値の算術平均として算出される。
【0010】
ワイヤ芯は、銀系ワイヤ芯である。すなわち、ワイヤ芯は、(a)ドープ銀、(b)銀合金、又は(c)ドープ銀合金の形態の銀系材料からなる。
【0011】
本明細書で使用される「ドープ銀」という用語は、(a1)>99.49~99.997重量%の範囲の量の銀、(a2)30~<5000重量ppmの総量の、銀以外の少なくとも1つのドーピング元素、及び(a3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀及び少なくとも1つのドーピング元素以外の成分)からなる銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「ドープ銀」という用語は、(a1)>99.49~99.997重量%の範囲の量の銀、(a2)30~<5000重量ppmの総量の、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーピング元素、並びに(a3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)からなるドープ銀を意味する。
【0012】
本明細書で使用される「銀合金」という用語は、(b1)89.99~99.5重量%、好ましくは97.99~99.5重量%の範囲の量の銀、(b2)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の少なくとも1つの合金元素、及び(b3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀及び少なくとも1つの合金元素以外の成分)からなる銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「銀合金」という用語は、(b1)89.99~99.5重量%、好ましくは97.99~99.5重量%の範囲の量の銀、(b2)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つの合金元素、並びに(b3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)からなる銀合金を意味する。
【0013】
本明細書で使用される「ドープ銀合金」という用語は、(c1)>89.49~99.497重量%、好ましくは97.49~99.497重量%の範囲の量の銀、(c2)30~<5000重量ppmの総量の少なくとも1つのドーピング元素、(c3)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の少なくとも1つの合金元素、及び(c4)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、少なくとも1つのドーピング元素及び少なくとも1つの合金元素以外の成分)からなり、少なくとも1つのドーピング元素(c2)が少なくとも1つの合金元素(c3)以外である、銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「ドープ銀合金」という用語は、(c1)>89.49~99.497重量%、好ましくは97.49~99.497重量%の範囲の量の銀、(c2)30~<5000重量ppmの総量の、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つのドーピング元素、(c3)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウムからなる群から選択される少なくとも1つの合金元素、並びに(c4)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム及びルテニウム以外の成分)からなり、少なくとも1つのドーピング元素(c2)が少なくとも1つの合金元素(c3)以外である、ドープ銀合金を意味する。
【0014】
本開示は、「更なる成分」及び「ドーピング元素」に言及している。任意の更なる成分の個々の量は、30重量ppm未満である。任意のドーピング元素の個々の量は、少なくとも30重量ppmである。重量%及び重量ppmで表される全ての量は、芯又はその前駆部材若しくは伸長前駆部材の総重量に基づく。
【0015】
本発明のワイヤの芯は、0~100重量ppm、例えば10~100重量ppmの範囲の総量の、いわゆる更なる成分を含み得る。本文脈において、「不可避不純物」とも呼ばれることが多い更なる成分は、使用される原料中に存在する不純物又はワイヤ芯製造プロセスに由来する微量の化学元素及び/又は化合物である。更なる成分の総量が0~100重量ppmと低いことにより、ワイヤ特性の良好な再現性が保証される。芯中に存在する更なる成分は、通常、別個に添加されない。各個々の更なる成分は、ワイヤ芯の総重量に基づいて30重量ppm未満の量で含まれる。
【0016】
ワイヤの芯は、バルク材料の均質な領域である。どのようなバルク材料にも、ある程度異なる特性を示し得る表面領域が常にあるため、ワイヤの芯の特性は、バルク材料の均質な領域の特性として理解される。バルク材料領域の表面は、形態、組成(例えば、硫黄、塩素及び/又は酸素含有量)及び他の特徴に関して異なり得る。表面は、ワイヤ芯と、ワイヤ芯上に重ねられた被覆層との間の界面領域である。典型的には、被覆層はワイヤ芯の表面上に完全に重ねられる。ワイヤの芯とその上に重ねられた被覆層との間のワイヤの領域において、芯と被覆層の両方の材料の組み合わせが存在し得る。
【0017】
ワイヤ芯の表面上に重ねられた被覆層は、1~100nm厚、好ましくは1~30nm厚のパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nm厚、好ましくは20~200nm厚の隣接する金の外層と、から構成される二重層である。この文脈において、「厚」又は「被覆層の厚さ」という用語は、芯の長手軸に垂直な方向における被覆層のサイズを意味する。
【0018】
本発明のワイヤは、以下の固有特性A1)~A3):
A1)長手方向に測定したワイヤ芯中の結晶粒の平均粒径が、0.7~1.1μmの範囲である、
A2)ワイヤの長手方向で測定した双晶境界の割合が、5~40%、好ましくは10~40%の範囲である、
A3)ワイヤ芯の結晶粒の20~70%、好ましくは30~70%、最も好ましくは30~60%が、<100>方向に配向しており、ワイヤ芯の結晶粒の3~40%、好ましくは3~30%、最も好ましくは5~20%が、<111>方向に配向しており、各%はワイヤの伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものである、
のうちの少なくとも1つを示す。
【0019】
本発明のワイヤは、固有特性A1)~A3)のうちの少なくとも2つを示すことが好ましい。本発明のワイヤは、固有特性A1)~A3)の全てを示すことがより好ましい。
【0020】
有利な実施形態では、金層は、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を、本発明のワイヤの重量に基づいて10~300重量ppm、好ましくは10~150重量ppmの範囲の合計割合で含む。同時に、一実施形態において、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素の合計割合は、金層の金の重量に基づいて、300~9500重量ppm、好ましくは300~5000重量ppm、最も好ましくは600~3000重量ppmの範囲であり得る。
【0021】
有利な実施形態では、アンチモンが金層内に存在することが好ましく、アンチモンが金層内に単独で存在すること、すなわちビスマス、ヒ素及びテルルが同時に存在しないことが更に好ましい。言い換えれば、有利な実施形態の最も好ましい変形形態では、金層は、金層内にビスマス、ヒ素及びテルルが存在せずに、ワイヤ(ワイヤ芯+被覆層)の重量に基づいて10~300重量ppm、好ましくは10~150重量ppmの範囲の割合でアンチモンを含み、同時に、一実施形態において、アンチモンの割合は、金層の金の重量に基づいて、300~9500重量ppm、好ましくは300~5000重量ppm、最も好ましくは600~3000重量ppmの範囲であり得る。
【0022】
一実施形態では、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素は、金層内で濃度勾配を示すことができ、当該勾配は、ワイヤ芯に向かう方向に、すなわちワイヤ芯の長手軸に対して垂直方向に増加する。
【0023】
別の態様において、本発明はまた、上に開示されたその実施形態のいずれかにおける本発明の被覆ワイヤの製造方法に関する。本方法は、少なくとも工程(1)~(5):
(1)銀系前駆部材を用意する工程と、
(2)30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する工程と、
(3)プロセス工程(2)の完了後に得られた伸長前駆部材の表面上に、パラジウム又はニッケルの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆を適用する工程と、
(4)所望の最終直径が得られ、かつ1~100nmの範囲の所望の最終厚さを有するパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層と、から構成される二重層が得られるまで、プロセス工程(3)の完了後に得られた被覆前駆部材を更に伸長する工程と、
(5)最後に、>400~460℃の範囲のオーブン設定温度で、≧0.8~10秒、好ましくは≧0.8~2秒の範囲の曝露時間にわたって、プロセス工程(4)の完了後に得られた被覆前駆体をストランド焼鈍して、被覆ワイヤを形成する工程と
を含み、
工程(2)は、200~650℃のオーブン設定温度で30~300分の範囲の曝露時間にわたって、好ましくは300~500℃のオーブン設定温度で60~180分の範囲の曝露時間にわたって、前駆部材を中間バッチ焼鈍する1つ以上のサブ工程を含み得る。
【0024】
「ストランド焼鈍」という用語が本明細書で使用される。これは、再現性の高いワイヤの高速生産を可能にする連続プロセスである。本発明の文脈において、ストランド焼鈍とは、焼鈍される被覆前駆体が従来の焼鈍オーブンを通して引っ張られるか又は移動され、焼鈍オーブンを出た後にリールに巻き取られる間に、焼鈍が動的に行われることを意味する。ここで、焼鈍オーブンは、典型的には、所与の長さの円筒管の形態である。例えば、10~60メートル/分の範囲で選択され得る所与の焼鈍速度におけるその規定された温度プロファイルを用いて、焼鈍時間/オーブン温度パラメータを規定し、設定することができる。
【0025】
「オーブン設定温度」という用語が本明細書で使用される。これは、焼鈍オーブンの温度制御装置において固定された温度を意味する。焼鈍オーブンは、チャンバ炉型オーブン(バッチ焼鈍の場合)又は管状焼鈍オーブン(ストランド焼鈍の場合)であり得る。
【0026】
本開示は、前駆部材、伸長前駆部材、被覆前駆部材、被覆前駆体、及び被覆ワイヤを区別する。「前駆部材」という用語は、ワイヤ芯の所望の最終直径に達していないワイヤ前段階に対して使用され、一方、「前駆体」という用語は、所望の最終直径のワイヤ前段階に対して使用される。プロセス工程(5)の完了後、すなわち、所望の最終直径の被覆前駆体の最終ストランド焼鈍後、本発明の意味における被覆ワイヤが得られる。
【0027】
工程(1)で用意される前駆部材は、銀系前駆部材である。すなわち、前駆部材は、(a)ドープ銀、(b)銀合金、又は(c)ドープ銀合金からなる。「ドープ銀」、「銀合金」及び「ドープ銀合金」という用語の意味に関しては、前述の開示を参照されたい。
【0028】
銀系前駆部材の実施形態において、後者は、所望の量の必要な成分で銀を合金化、ドーピング、又は合金化及びドーピングすることによって得ることができる。ドープ銀又は銀合金又はドープ銀合金は、金属合金の当業者に知られている従来のプロセスによって、例えば、所望の比例した比で成分を一緒に溶融することによって調製することができる。その際、1つ以上の従来の母合金を使用することが可能である。溶融プロセスは、例えば、誘導炉を利用して行うことができ、真空下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好都合である。使用される材料は、例えば、99.99重量%以上の純度グレードを有し得る。このようにして生成された溶融物を冷却して、銀系前駆部材の均質な片を形成することができる。典型的には、このような前駆部材は、例えば2~25mmの直径及び例えば2~100mの長さを有するロッドの形態である。このようなロッドは、適切な鋳型を使用して銀系溶融物を連続鋳造し、続いて冷却及び固化することによって作製され得る。
【0029】
プロセス工程(2)では、30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、銀系前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する。前駆部材を伸長する技術は公知であり、本発明の文脈において有用であると考えられる。好ましい技術は、圧延、スエージ加工、ダイス伸線などであり、これらのうち、ダイス伸線が特に好ましい。後者の場合、所望の中間断面又は所望の中間直径に達するまで、いくつかのプロセス工程で前駆部材を伸線する。このようなワイヤダイス伸線プロセスは、当業者に周知である。従来の炭化タングステン及びダイヤモンドの伸線ダイスを使用することができ、従来の伸線潤滑剤を使用して伸線をサポートすることができる。
【0030】
本発明の方法の工程(2)は、200~650℃の範囲のオーブン設定温度で30~300分の範囲の曝露時間にわたって、好ましくは300~500℃のオーブン設定温度で60~180分の範囲の曝露時間にわたって、伸長前駆部材を中間バッチ焼鈍する1つ以上のサブ工程を含み得る。当該任意選択の中間バッチ焼鈍は、例えば、ロッドを直径2mmに伸線し、ドラム上でコイル状に巻いて行うことができる。
【0031】
プロセス工程(2)の任意選択の中間バッチ焼鈍は、不活性雰囲気下又は還元性雰囲気下で行われてもよい。多数のタイプの不活性雰囲気及び還元性雰囲気が当技術分野で知られており、焼鈍オーブンをパージするために使用される。既知の不活性雰囲気のうち、窒素又はアルゴンが好ましい。既知の還元性雰囲気のうち、水素が好ましい。別の好ましい還元性雰囲気は、水素と窒素との混合物である。水素と窒素との好ましい混合物は、90~98体積%の窒素と、それに応じた2~10体積%の水素とであり、体積%は合計100体積%である。窒素/水素の好ましい混合物は、それぞれ混合物の総体積に基づいて、93/7、95/5及び97/3体積%/体積%に等しい。
【0032】
プロセス工程(3)では、パラジウム又はニッケルの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆の形態の被覆が、プロセス工程(2)の完了後に得られた伸長前駆部材の表面上に、当該表面上に被覆を重ねるように適用される。
【0033】
当業者は、ワイヤの実施形態について開示された層厚の被覆を最終的に得るために、すなわち、被覆前駆部材を最終的に伸長した後に、伸長前駆部材上のこのような被覆の厚さを算出する方法を知っている。当業者は、実施形態による材料の被覆層を銀系表面上に形成するための多数の技術を知っている。好ましい技術は、電気めっき及び無電解めっきなどのめっき、スパッタリング、イオンめっき、真空蒸着及び物理蒸着などの気相からの材料の堆積、並びに溶融物からの材料の堆積である。パラジウム又はニッケル内層と金外層とから構成される当該二重層を適用する場合、パラジウム又はニッケル層を電気めっきによって適用することが好ましい。
【0034】
金層もまた、好ましくは電気めっきによって適用される。金電気めっきは、金電気めっき浴、すなわちパラジウム又はニッケルカソード表面が金で電気めっきされることを可能にする電気めっき浴を利用して行われる。言い換えれば、金電気めっき浴は、カソードとして配線されたパラジウム又はニッケル表面上に、元素状の金属形態で金を直接適用することを可能にする組成物である。
【0035】
金層の電気めっき適用は、金電気めっき浴を通してカソードとして配線されたパラジウム又はニッケル被覆伸長前駆部材を誘導することによって行われる。このようにして得られた、金電気めっき浴から出る金被覆前駆部材は、プロセス工程(4)を行う前に、すすぎ、乾燥させてもよい。すすぎ媒体として水を使用することが好都合であり、アルコール及びアルコール/水混合物がすすぎ媒体の更なる例である。金電気めっき浴を通過する、パラジウム又はニッケル被覆された伸長前駆部材の金電気めっきは、例えば、0.2~20Vの範囲の直流電圧で、例えば、0.001~5A、特に0.001~1A又は0.001~0.2Aの範囲の電流で行うことができる。典型的な接触時間は、例えば、0.1~30秒、好ましくは2~8秒の範囲であり得る。これに関連して使用される電流密度は、例えば0.01~150A/dmの範囲であり得る。金電気めっき浴は、例えば45~75℃、好ましくは55~65℃の範囲の温度を有し得る。
【0036】
金被覆層の厚さは、本質的に以下のパラメータ、すなわち、金電気めっき浴の化学組成、伸長前駆部材と金電気めっき浴との接触時間、電流密度によって所望のように調整することができる。これに関連して、金層の厚さは、概して、金電気めっき浴中の金の濃度を増加させることによって、カソードとして配線された伸長前駆部材と金電気めっき浴との接触時間を増加させることによって、及び電流密度を増加させることによって、増加させることができる。
【0037】
一実施形態において、本発明の方法は、上記で開示された有利な実施形態における本発明の被覆ワイヤの製造方法である。ここで、工程(3)における金層の適用は、金と、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素とを含む金電気めっき浴から、当該金層を電気めっきすることによって行われる。したがって、当該実施形態では、金電気めっき浴は、元素状の金の堆積を可能にするだけでなく、金層内のアンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される当該少なくとも1つの構成要素の堆積も可能にする組成物である。当該少なくとも1つの構成要素がどのような化学種であるか、すなわち、当該構成要素が金層中に元素状の形態で存在するか、又は化合物として存在するかは不明である。当該実施形態において、金電気めっき浴は、適切な化学形態の当該少なくとも1つの構成要素(例えば、Sb、BiPO、As又はTeOなどの化合物)を、1種以上の溶解塩として金を含有する水性組成物に添加することによって作製することができる。少なくとも1つの構成要素を添加することができるこのような水性組成物の例は、Atotech製のAurocor(登録商標)K24HF、並びにUmicore製のAuruna(登録商標)558及びAuruna(登録商標)559である。あるいは、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素を既に含む金電気めっき浴、例えば、Metalor製のMetGold Pure ATFに基づく金電気めっき浴を使用することができる。金電気めっき浴中の金の濃度は、例えば、8~40g/L(グラム/リットル)、好ましくは10~20g/Lの範囲であり得る。金電気めっき浴中の、アンチモン、ビスマス、ヒ素及びテルルからなる群から選択される少なくとも1つの構成要素の濃度は、例えば、15~50重量ppm、好ましくは15~35重量ppmの範囲であり得る。
【0038】
プロセス工程(4)では、プロセス工程(3)の完了後に得られた被覆前駆部材を、(4)1~100nm、好ましくは1~30nmの範囲の所望の最終厚さを有するパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nm、好ましくは20~200nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層と、から構成される二重層を有するワイヤの所望の最終直径が得られるまで、更に伸長する。被覆前駆部材を伸長する技術は、プロセス工程(2)の開示において上述したものと同じ伸長技術である。
【0039】
プロセス工程(5)では、プロセス工程(4)の完了後に得られた被覆前駆体を、>400~460℃の範囲のオーブン設定温度で、≧0.8~10秒、好ましくは≧0.8~2秒の範囲の曝露時間にわたって、最終的にストランド焼鈍して、被覆ワイヤを形成する。
【0040】
好ましい実施形態では、最終的にストランド焼鈍された被覆前駆体、すなわち、まだ熱い被覆ワイヤは、一実施形態では1つ以上の添加剤、例えば、0.01~0.2体積%の添加剤を含有し得る水中で急冷される。水中での急冷とは、直ちに又は急速に、すなわち0.2~0.6秒以内に、最終的にストランド焼鈍された被覆前駆体を、工程(5)で経験した温度から室温まで、例えば浸漬又は滴下により冷却することを意味する。
【0041】
プロセス工程(5)及び任意選択の急冷の完了後、本発明の被覆ワイヤが完成する。その特性を十分に活用するためには、ワイヤボンディング用途のために直ちに、すなわち遅滞なく、例えばプロセス工程(5)の完了後25~70日以内、好ましくは60日以内に使用することが好都合である。あるいは、ワイヤの広いワイヤボンディングプロセスウィンドウ特性を維持し、酸化/硫化又は他の化学的攻撃を防ぐために、完成したワイヤは、典型的には、プロセス工程(5)の完了直後に、すなわち遅滞なく、例えばプロセス工程(5)の完了後<1~5時間以内に巻き取られ、真空シールされ、次いでボンディングワイヤとして更に使用するために保管される。真空シール状態での保管は12ヶ月を超えてはならない。真空シールを開いた後、ワイヤは、25~70日以内、好ましくは60日以内にワイヤボンディングに使用する必要がある。
【0042】
全てのプロセス工程(1)~(5)並びに巻き取り及び真空シールは、クリーンルーム条件(US FED STD 209Eクリーンルーム規格、1k規格)下で行われることが好ましい。
【0043】
本発明の第3の態様は、その任意の実施形態による前述の開示された方法によって得ることができる被覆ワイヤである。本発明の被覆ワイヤは、ワイヤボンディング用途におけるボンディングワイヤとしての使用によく適していることが見出された。ワイヤボンディング技術は当業者に周知である。ワイヤボンディングの過程では、ボールボンド(第1のボンド)及びステッチボンド(第2のボンド、ウェッジボンド)が形成されるのが一般的である。ボンド形成中には、一定の力(通常、グラム単位で測定)が加えられ、それは超音波エネルギー(通常、mA単位で測定)の適用によってサポートされる。本発明のワイヤは、かなり広いワイヤボンディングプロセスウィンドウを示す。
【0044】
以下の非限定的な実施例により本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲又は特許請求の範囲を何ら限定するものではない。
【0045】
試験方法
全ての試験及び測定は、T=20℃及び相対湿度RH=50%で行った。
【0046】
A.ワイヤ芯の結晶粒の結晶学的配向及び双晶境界を判定するための電子後方散乱回折(EBSD)パターン分析:
ワイヤテクスチャを測定するために採用された主な工程は、試料の調製、良好な菊池パターンの取得、及び成分の算出であった。
【0047】
最初にエポキシ樹脂を使用してワイヤをポッティングし、標準的な金属組織学的技術によって研磨した。イオンミリングを、最終試料調製工程において適用し、ワイヤ表面のあらゆる機械的変形、汚染及び酸化層を除去した。イオンミリングされた断面の試料表面を金でスパッタリングした。次いで、イオンミリング及び金スパッタリングを更に2回行った。化学エッチングもイオンエッチングも行わなかった。
【0048】
試料を、通常のFESEM試料保持テーブル表面に対して70°の角度の付いたホルダーを有するFESEM(電界放出型走査電子顕微鏡)に装填した。FESEMには、EBSD検出器が更に搭載されていた。ワイヤの結晶学的情報を含む電子後方散乱パターン(EBSP)を得た。
【0049】
これらのパターンを、結晶粒の配向率、平均結晶粒径などについて更に解析した(Oxford Instrumentsによって開発されたEBSDプログラムと呼ばれるソフトウェアを使用)。同様の配向の点を1つのグループにして、テクスチャ成分を形成した。
【0050】
異なるテクスチャ成分を区別するために、10°の最大許容角を使用した。ワイヤの伸線方向を基準配向とした。<100>及び<111>テクスチャのパーセンテージを、基準配向に平行な配向の<100>及び<111>面を有する結晶のパーセンテージを測定することによって算出した。
【0051】
平均結晶粒径の計算では、双晶境界(Σ3CSL双晶境界とも呼ばれる)を除外した。双晶境界は、隣接する結晶学的ドメイン間の配向の<111>面を中心に60°回転することで記述した。関心領域の走査点の数はステップサイズに依存し、観察された最も微細な結晶粒径(約100nm)の1/5未満であった。
【0052】
EBSDパターン解析は、試料1つ当たり5つの異なる位置で行った。5つの異なる位置の平均値を報告する。
【0053】
B.結晶粒径を求めるための線形切片法:
最初にコールドマウントエポキシ樹脂を使用してワイヤをポッティングし、次いで、標準的な金属組織学的技術によって研磨(断面)した。マルチプレップ半自動研磨機を低力及び最適速度で使用して、試料表面上の変形ひずみを最小限に抑えて試料を研削及び研磨した。最後に、研磨した試料を、塩化第二鉄を用いて化学エッチングして、結晶粒界を露出させた。結晶粒径は、ASTM E112-12規格に従って、倍率1000倍の光学顕微鏡下で線形切片法を用いて測定した。
【0054】
C.花状接合ボールの評価:
C.1)FABの調製:
KNS Process User Guide for FAB(Kulicke&Soffa Industries Inc,Fort Washington,PA,USA,2002,31 May 2009)に記載されている手順に従って、周囲雰囲気中で作業した。標準焼成(単一工程、17.5μmワイヤ、EFO電流50mA、EFO時間125μs)によって従来の電気フレームオフ(EFO)焼成を行うことによって、FABを調製した。
C.2)ボールボンディング:
形成されたFABを、所定の高さ(先端203.2μm)及び速度(接触速度6.4μm/秒)からAl-0.5重量%Cuボンドパッドに向かって降下させた。ボンドパッドに触れると、一連の規定されたボンディングパラメータ(100gのボンド力、95mAの超音波エネルギー、及び15msのボンド時間)が作用して、FABが変形し、接合ボールが形成された。ボールを形成した後、キャピラリを所定の高さ(キンク高さ152.4μm、ループ高さ254μm)まで上昇させて、ループを形成した。ループを形成した後、キャピラリをリードまで降下させて、ステッチを形成した。ステッチを形成した後、キャピラリを上昇させ、ワイヤクランプを閉じてワイヤを切断し、所定の尾部の長さを作製した(尾部の長さの延長は254μm)。各試料について、倍率1000倍の顕微鏡を用いて、著しい数の接合ワイヤ2500本を光学的に検査した。欠陥のパーセンテージを求めた。
C.3)花状接合ボールに対する接合ボールの評価:
+不良:15%以上の接合ボールが丸くなく変形している
++良好:10%以上15%未満の接合ボールが丸くなく変形している
+++非常に良好:10%未満の接合ボールが丸くなく変形している
C.4)ワイヤ揺れの評価:
++良好:5%未満のワイヤがループ内の隣接するワイヤに向かってそれている
+++優良:ワイヤにループのたわみが見られない
【0055】
D.ワイヤねじれの評価:
++良好:巻き出し時のスプールからの自由落下時に、ワイヤがコイルに巻き付く回数が5回未満
+++非常に良好:巻き出し時のスプールからの自由落下時に、ワイヤがコイルに巻き付かない
【0056】
ワイヤの実施例
各金属について少なくとも99.99%の純度(「4N」)の98.5重量%の銀(Ag)及び1.5重量%のパラジウム(Pd)の量をるつぼ内で溶融した。次いで、8mmロッド状のワイヤ芯前駆部材を、溶融物から連続的に鋳造した。次いで、ロッドを数回の伸線工程で伸線して、直径2mmの円形断面を有するワイヤ芯前駆体を形成した。ワイヤ芯前駆体を、500℃のオーブン設定温度で60分の曝露時間にわたって中間バッチ焼鈍した。ロッドを数回の伸線工程で更に伸線して、直径46μmのワイヤ芯前駆体を形成した。
【0057】
ワイヤ芯前駆体を、ニッケルの内層及び隣接する金の外層の二重層被覆で電気めっきした。この目的のために、カソードとして配線されているワイヤ芯前駆体を、60℃の温熱ニッケル電気めっき浴に通し、続いて61℃の温熱金電気めっき浴に通した。ニッケル電気めっき浴は、90g/L(グラム/リットル)のNi(SONH、6g/LのNiCl及び35g/LのHBOを含み、一方、金電気めっき浴(Metalor製のMetGold Pure ATFに基づく)は、13.2g/Lの金含有量及び20重量ppmのアンチモン含有量(Metalor製のMetGold Pure ATFに基づく)を有した。
【0058】
その後、被覆ワイヤ前駆体を20μmの最終直径に更に伸線し、続いて表1に示されるオーブン設定温度で0.9秒の曝露時間にわたって最終ストランド焼鈍が行われ、その直後に、そのようにして得られた被覆ワイヤを、0.07体積%の界面活性剤を含有する水中で急冷した。20μm厚のワイヤは、9nm厚のニッケルの内層と、90nm厚の隣接する金の外層とを有していた。
【0059】
【表1】