(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】フッ素樹脂からの金属異物の除去方法及び金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 14/18 20060101AFI20241212BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20241212BHJP
B03C 1/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08F14/18
B03C1/00 B
B03C1/02 Z
(21)【出願番号】P 2023522676
(86)(22)【出願日】2022-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2022020540
(87)【国際公開番号】W WO2022244774
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】202110549939.3
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518241908
【氏名又は名称】ダイキン・フルオロケミカルズ・(チャイナ)・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Daikin Fluorochemicals (China) Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】宮本 政佳
(72)【発明者】
【氏名】栴檀 博幸
(72)【発明者】
【氏名】廣田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】川守田 信
(72)【発明者】
【氏名】不破 恒彦
【審査官】大塚 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043911(JP,A)
【文献】特開2003-137922(JP,A)
【文献】特開平04-074546(JP,A)
【文献】特開2005-066952(JP,A)
【文献】特開2017-035670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 14/18
B03C 1/00
B03C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を重力によって落下させつつ、磁石によって磁場を付与することによって金属を除去
する方法であり、
フッ素樹脂が落下する空間中に、 磁性体からなるスクリーンを備えたものであって、
フッ素樹脂をスクリーンに通過させる際にスクリーンにバイブレーターからの振動を与えないことを特徴とするフッ素樹脂からの金属異物の除去方法。
【請求項2】
磁石は、電磁石である請求項
1記載のフッ素樹脂からの金属異物の除去方法。
【請求項3】
フッ素樹脂は、粉体、ペレット又は造粒物である請求項
1又は2記載のフッ素樹脂からの金属異物の除去方法。
【請求項4】
フッ素樹脂を重力によって落下させつつ、磁石によって磁場を付与することによって金属を除去する工程を有
し、
フッ素樹脂が落下する空間中に、 磁性体からなるスクリーンを備えたものであって、
フッ素樹脂をスクリーンに通過させる際にスクリーンにバイブレーターからの振動を与えないことを特徴とする金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法。
【請求項5】
磁石は、電磁石である請求項
4記載のフッ素樹脂の製造方法。
【請求項6】
フッ素樹脂は、粉体、ペレット又は造粒物である請求項
4又は5記載のフッ素樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素樹脂からの金属異物の除去方法及び金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、幅広い多くの用途において使用されている。製造設備のこすれや腐食などから金属異物が混入することがある。よって、金属異物を含有するフッ素樹脂からの金属異物の除去が重要な問題である。
【0003】
特許文献1、2には、磁石を用いて樹脂中の微量金属異物を除去することが開示されている。
特許文献3には、塩フッ化アルカン及び水液媒からなる液媒を利用して含フッ素樹脂粉末を分離採取することが開示されている。
特許文献4には、溶媒を利用してフッ素樹脂中の異物除去を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-263985号公報
【文献】特開2005-21761号公報
【文献】特開昭54-071155号公報
【文献】国際公開2004/009653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、フッ素樹脂中の金属異物を好適に除去する方法及び当該フッ素樹脂中の金属異物を除去する方法を一工程として有する金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
フッ素樹脂を重力によって落下させつつ、磁石によって磁場を付与することによって金属を除去することを特徴とするフッ素樹脂からの金属異物の除去方法である。
上記金属異物の除去方法は、フッ素樹脂を重力によって落下させる流路中に、磁性体からなるスクリーンを備えたものであることが好ましい。
上記磁石は、電磁石であることが好ましい。
上記フッ素樹脂は、粉体、ペレット又は造粒物であることが好ましい。
上記フッ素樹脂からの金属異物の除去方法は、フッ素樹脂をスクリーンに通過させる際にスクリーンに振動を与えないことが好ましい。
【0007】
本開示は、フッ素樹脂を重力によって落下させつつ、電磁石によって磁場を付与することによって金属を除去する工程を有することを特徴とする金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法でもある。
上記フッ素樹脂の製造方法は、フッ素樹脂を重力によって落下させる流路中に、磁性体からなるスクリーンを備えたものであることが好ましい。
上記磁石は、電磁石であることが好ましい。
上記フッ素樹脂は、粉体、ペレット又は造粒物であることが好ましい。
上記フッ素樹脂の製造方法は、フッ素樹脂をスクリーンに通過させる際にスクリーンに振動を与えないことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本開示のフッ素樹脂中の金属異物を除去する方法は、効率よく、低コストで金属異物を高精度で除去することができる。これによって、金属異物のチェックに際して、ロットアウトとなる樹脂の量を低減させることができ、金属異物が少ないフッ素樹脂を効率よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明において使用する装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明において使用する装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示は、フッ素樹脂中の金属を除去する方法である。ここでのフッ素樹脂としては特に限定されない。具体的には、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、ETFE樹脂、PCTFE樹脂、PVDF樹脂等を挙げることができる。これらのなかでも、PTFE樹脂が特に好ましい。フッ素樹脂は、固体であることが好ましく、粉体、造粒物、ペレット等の任意の形状のものに対して適用することができる。
【0011】
これらのフッ素樹脂において金属は、金属粉体等の状態で単独で存在している場合もあれば、金属とフッ素樹脂とが一体化したものである場合もある。本開示においては、磁力によって異物除去を行うものであることから、より除去が困難である金属とフッ素樹脂とが一体化したものであっても好適な除去を行うことができる。異物として混在する金属としては、ステンレス、鉄、またはこれらに他の元素が混ざった金属等を挙げることができる。
【0012】
本開示においてフッ素樹脂中の金属は、主に、製造設備のこすれや腐食などから金属異物が混入することによるものであり、発生割合は決して高いものではない。しかし、これが発生した場合には、各種用途において不良品を生じる原因となることから、できるだけ高い精度で除去できることが好ましい。
【0013】
本開示においては、フッ素樹脂を重力によって落下させつつ、磁石によって磁場を付与することによって金属を除去する点に特徴を有するものである。金属異物が多くのフッ素樹脂に取り囲まれると、周辺のフッ素樹脂によって磁力が妨げられて、金属異物が十分に除去できない場合がある。
例えば、ローラーやコンベア等を使用して水平方向にフッ素樹脂を移動させながら磁力を付与した場合、フッ素樹脂上に金属異物が載置されると、磁力によって十分に除去されない場合がある。異物に付随してフッ素樹脂もある程度除かれてしまうため、稼働していると常に一定の割合でロスが出るという問題もある。
【0014】
これに対して、重力によって落下させながら磁場を付与した場合、フッ素樹脂が空中に分散した状態で磁場が付与されることになる。重力によって落下させながら磁場を付与すると、金属に対しても充分に磁場が到達し、この磁場の作用によって、好適に除去を行うことができる。連続的な処理を行うことができる点でも好ましい。さらに、ローラーやコンベアを利用した場合ほど、フッ素樹脂のロスが大きくないという利点も有する。すなわち、本開示の方法によると、フッ素樹脂のロスは、点検時等にフィルタとして使用するスクリーンを洗浄する際に、付着したフッ素樹脂が除去される程度であり、その量は少ない。
【0015】
本開示で使用する磁石は、電磁石であっても永久磁石であってもよい。
電磁石を利用すると、より強度の強い磁場を付与することができる点で、より好ましいものである。さらに、電源を切断することで、洗浄時に金属異物を容易に除去できる点でも好ましい。永久磁石も同様に使えるが、磁力が低い、設置できる磁石の間隔が大きくなる、清掃時に付着した異物の除去が難しいなど、異物除去効率から見ると電磁石の使用がより好ましい。
【0016】
フッ素樹脂に対して付与する磁力は、0.8テスラ以上であることが好ましく、1.2テスラ以上であることがさらに好ましい。特に、微細な金属を除去できる点でこのような高磁力の領域での処理が好ましい。
【0017】
更に、フッ素樹脂が落下する空間中に、磁性体からなるスクリーンをセットするものであってもよい。このようなスクリーンを設置すると、電磁石によってスクリーンが磁性を有するものとなり、これが金属異物を除去する役割を果たすこととなる。そして、清掃時において、電磁石を停止すると、スクリーンに付着した金属異物を容易に除去することができる点でも好ましい。
【0018】
更に、当該スクリーンを永久磁石からなるものとしてもよい。このようなスクリーンは、永久磁石による磁性を有するため、同様の効果を得ることができる。
【0019】
上記スクリーンの形状などは、特に限定されるものではなく、例えば、目開き5mmスクリーン、ハニカム、マイクロピッチなどを挙げることができる。
【0020】
本開示における金属異物除去方法については、以下
図1に基づいて具体的に基づいてさらに詳述する。
本開示の除去方法においては、フッ素樹脂が重力によって落下する経路上にいくつかの金属製スクリーンを設置するものであってもよい。
【0021】
図1はスクリーンを電磁分離機にセットした状態を示すもので、上端及び下端が開口している筒2の中空部に磁性材料からなる単数又は複数のスクリーン1が保持棒3により上下方向に多層に保持される。筒2は電磁石4の中心に配置され、筒2の下部にはバイブレーター5が装着したものであってもよい。なお、バイブレーター5は任意の要件であり、これを備えないものであってもよい。
【0022】
特に、粉体状のフッ素樹脂を使用した場合、バイブレーター5は使用しないことが好ましい。バイブレータを使用すると、フッ素樹脂が隙間に入り込むことでフレーク状や凝集状の樹脂が生成する場合や、振動によるこすれで新たな金属片を生じることがあるため、使用しないことが好ましい。
【0023】
筒の下部には、製品排出口と磁性異物排出口が接続されていてもよい。この場合製品排出口と磁性異物排出口はシリンダでダンパを回転させて切り替えるものとすることができる。
【0024】
図1の矢印で示した方向で、筒2の上部から内部に供給された磁性異物を含むフッ素樹脂は、落下させられる。磁石4により磁化されたスクリーンに磁着する。磁性異物が除去された製品は、スクリーンを通過した後、筒2の下部より排出される。清掃時においては、磁石が電磁石である場合は、電磁石をオフにしてスクリーンを消磁してスクリーンに付着している磁性異物を除去することができる。必要に応じて、保持棒でスクリーン1を取り出し、清掃して磁性異物を除去することもできる。清掃されたスクリーンは、再び筒の内部に装入することができる。
【0025】
図1とは異なる態様として
図2の態様についても説明する。
図2においては、しずく状マグネットを磁性異物を含むフッ素樹脂と接触させることによって、磁性異物を除去する装置を示すものである。
しずく状マグネット11は、
図2に示したように下方部に半円弧部を有し、上部に三角部を有する。三角部の斜面に沿って落下しながら、異物が磁石によって除去されることとなる。
さらに、当該しずく状マグネットは、ヨークを介して複数個配列したものであることが好ましい。このような
図2の装置によっても、磁性異物を除去することができる。
【0026】
本開示は、上述したようなフッ素樹脂からの金属異物の除去方法であるとともに、このような金属異物の除去工程を有する、金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法でもある。
すなわち、「金属異物が低減されたフッ素樹脂」を得るための試みは、種々の手法が存在する。
本開示においては、「金属異物が低減されたフッ素樹脂」を得るための新規な手法を提供するものでもある。
【0027】
本開示の金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法は、上述した方法によるフッ素樹脂からの金属異物の除去工程を有するものである。ここでの「金属異物の除去工程」は、上述した通りのものとすることができる。
【0028】
本開示の金属異物が低減されたフッ素樹脂の製造方法は、上述した工程以外の金属異物の除去工程をさらに有するものであっても差し支えない。
【0029】
本開示の金属異物を除去する方法は、処理速度が遅いほうがより好ましい。すなわち、短時間で多量のフッ素樹脂を処理すると、充分に金属異物を除去することが困難になる点で好ましくない。
【実施例】
【0030】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「重量部」「重量%」を表す。
【0031】
実施例1~3
PTFE造粒品粉末(ダイキン工業製ポリフロンPTFE M-392)中にステンレス316L粉末(高純度化学製、SUS316L粉末 150μmpass)を500ppm加えたものをサンプルとした。
ステンレス粉末を含むPTFE造粒粉末を5kgを用意し、各テストに使用した。
使用した装置は日本マグネティックス株式会社製、電磁分離機(CG-180X-1型)である。磁石としては電磁石を使用した。さらに、当該装置においては、スクリーンが磁性体からなるものである。
【0032】
なお、各実施例において、下記表1に示したように、処理速度やバイブレータの使用の有無といった条件を変化させて、試験を行った。
なお、表1の結果から振動させないほうが、良好な結果となることが明らかになった。
【0033】
(ステンレス残存率の測定方法)
15000Gの棒磁石に薬包紙を隙間なく巻き付け、テープで固定する。このような棒磁石をクランプによって固定する。当該棒磁石上に測定対象の粉体を流す。処理速度は、4kg/時間を目安とする。粉体を流し終えたら、回収した粉体を再度棒磁石上に流す。このような作業によって、粉体中の金属を磁石に付着させる。
その後、耐熱金属容器の上に棒磁石をのせて、薬包紙を固定しているテープを外し、薬包紙を棒磁石から外す。これによって、金属に付着した金属が、耐熱金属容器内に落下する。
このような耐熱金属容器を600℃の電気炉に投入し2時間後に容器を取り出す。空冷後、容器の重量を測定し、この値から空容器の重量を差し引くことで、金属含有量を測定した。
このようにして測定された金属量をサンプルに加えたステンレス粉末量に対する割合として計算した値をステンレス残存率として表1に示した。
【0034】
【0035】
上記実施例の結果より、本開示の金属異物の除去方法は、フッ素樹脂中の異物を好適に除去できることが明らかである。
【0036】
(PFA粉体の製造方法)
撹拌機を備え、ガラスライニングしたオートクレーブ(容積174L)に純水26.6kgを仕込んだ。オートクレーブ内部を充分にN2に置換した後、真空にし、パーフルオロシクロブタン〔C-318〕を30.4kg、メタノールを0.8kg、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕を1.6kg仕込んだ。次いで撹拌しながら、オートクレーブ内を35℃に保ち、テトラフルオロエチレン〔TFE〕を圧入し、内圧を0.58MPaGとした。重合開始剤としてジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート〔NPP〕の50%メタノール溶液0.028kgを添加して重合を開始した。重合の進行に伴い圧力が低下するので、目的のポリマー組成となる比率でTFEとPPVEを連続追加した。
【0037】
重合開始から33時間後、撹拌を停止すると同時に未反応モノマー及びC-318を排出して重合を停止した。オートクレーブ内の白色粉末を水洗し、150℃×12時間乾燥して、重合体生成物を得た。
【0038】
(実施例4、5)
上述した方法で得られたPFA粉末中にステンレス316L粉末(高純度化学製、SUS316L粉末 150μmpass)を500ppm加えたものをサンプルとした。
ステンレス粉末を含むPFA粉末を1kg用意し、各テストに使用した。
使用した装置は株式会社マグネテックジャパン製ハウジング付き格子マグネットである(ネオジム系希土類磁石;磁石は永久磁石である)。
【0039】
【0040】
上記実施例の結果より、本開示の金属異物の除去方法は、フッ素樹脂中の異物を好適に除去できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本開示の除去方法によって、フッ素樹脂の金属異物を好適に除去することができる。
【符号の説明】
【0042】
1:スクリーン
2:筒
3:保持棒
4:電磁石
5:バイブレーター
6:製品排出口
7:鉄粉排出口
8:シリンダ
9:ダンパ
11:しずく状マグネット