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  • 特許-正極組成物、正極、及び電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】正極組成物、正極、及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241212BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241212BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20241212BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
C01B32/168
C09C1/48
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023530352
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2022023821
(87)【国際公開番号】W WO2022270361
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2021105662
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】永井 達也
(72)【発明者】
【氏名】北江 佑守
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/216275(WO,A1)
【文献】特開2012-038724(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037910(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129683(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
C01B 32/168
C09C 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、活物質と、結着材と、を含有し、
前記カーボンブラックが、100~400m/gのBET比表面積、及び、15~26Åの結晶子サイズ(Lc)を有し、
前記カーボンナノチューブが、5~15nmの平均直径を有し、
前記カーボンナノチューブのBET比表面積に対する前記平均直径の比(平均直径/BET比表面積)が、0.01~0.068nm/(m/g)であり、
前記カーボンブラックの昇温脱離ガス分析法により検出される質量数m/z57のピークのピーク面積(S )に対する、質量数m/z128のピークのピーク面積(S )の比(S /S )が、0.2~1.9である、正極組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックの平均一次粒子径が、17~30nmである、請求項1に記載の正極組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックの前記結晶子サイズ(Lc)が、15~20Åである、請求項1に記載の正極組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラックの前記BET比表面積が、170~400m/gである、請求項1に記載の正極組成物。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの前記平均直径が、5~10nmである、請求項1に記載の正極組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックの含有量が、前記カーボンブラックと前記カーボンナノチューブの合計の含有量を基準として40~90質量%である、請求項1に記載の正極組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の正極組成物を含む、正極。
【請求項8】
請求項に記載の正極を備える、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極組成物、正極、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
環境・エネルギー問題の高まりから、化石燃料への依存度を減らす低炭素社会の実現に向けた技術の開発が盛んに行われている。このような技術開発としては、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等の低公害車の開発、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギー発電・蓄電システムの開発、電力を効率よく供給し、送電ロスを減らす次世代送電網の開発等があり、多岐に渡っている。
【0003】
これらの技術に共通して必要となるキーデバイスの一つが電池であり、このような電池に対しては、システムを小型化するための高いエネルギー密度が求められる。また、使用環境温度に左右されずに安定した電力の供給を可能にするための高い出力特性が求められる。さらに、長期間の使用に耐えうる良好なサイクル特性等も求められる。そのため、従来の鉛蓄電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池から、より高いエネルギー密度、出力特性及びサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池への置き換えが急速に進んでいる。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の正極は、正極活物質、導電材及び結着材(バインダーともいう)を含有する正極ペーストを、集電体に塗工することより製造されている。正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物が用いられてきた。正極活物質は導電性に乏しいことから、導電性を付与する目的で、正極ペーストにカーボンブラック等の導電材を添加することが行われてきた(特許文献1)。
【0005】
ところで、近年、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度の更なる向上が求められている。エネルギー密度を向上させるために、正極中で充放電容量に寄与しない成分である導電材の含有量を減らし、正極活物質の含有量を多くすることが検討されている。導電材の含有量を減らしつつ、導電性を維持する手段として、カーボンブラック等の粒子状の導電材と、粒子状の導電材よりも高いアスペクト比を有する繊維状の導電材とを併用することが提案されている。
【0006】
例えば、また、特許文献2では、第1の直径のカーボンナノチューブCNT(A)、第2の直径のカーボンナノチューブCNT(B)、グラフェン及びカーボンブラックからなる群から選択される少なくとも2つの炭素質材料の3次元網状構造を含む導電性添加剤を用いること開示されている。また、特許文献3では、導電材として、平均粒子径が1nm~100nmであり、ジブチルフタレート吸油量が50ml/100g以上であり、ヨウ素吸着量が2000mg/g以下であるようなカーボンブラックと、平均繊維径が0.01μm~10μmであり、平均繊維長が1μm~200μmであり、真密度が1.8g/cm以上であり、X線回折パラメータd(002)が0.345nm以下であるような黒鉛化カーボンファイバーとの混合物を含有するものを用いることにより、正極中の導電パスを安定なものとし、これにより初期内部抵抗を低減させ、急速大電流充放電及び長期信頼性に優れた非水電解質電池を提供することが開示されている。また、特許文献4では、(a)100nm未満の直径を有する微細な繊維状炭素、及び(b)100nm以上の直径を有する繊維状炭素及び/又は(c)非繊維状導電性炭素を、導電材として含有するリチウムイオン電池用電極により、電極表面抵抗が小さく、放電容量に優れ、またサイクル特性に優れるリチウムイオン電池用電極が提供されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-227481号公報
【文献】特開2016-25077号公報
【文献】特開2001-126733号公報
【文献】特開2010-238575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2~4に記載のカーボンナノチューブ及びカーボンブラックの組合せでは、充分に優れた電池特性を得ることができなかった。
【0009】
本発明は、上記問題と実情に鑑み、内部抵抗が小さく、且つ、放電レート特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる正極組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、上記正極組成物を含む正極を提供することを目的とする。また、本発明は、上記正極を備える電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、例えば、下記<1>~<8>に関する。
<1>カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、活物質と、結着材と、を含有し、前記カーボンブラックが、100~400m/gのBET比表面積、及び、15~26Åの結晶子サイズ(Lc)を有し、前記カーボンナノチューブが、5~15nmの平均直径を有し、前記カーボンナノチューブのBET比表面積に対する前記平均直径の比(平均直径/BET比表面積)が、0.01~0.068nm/(m/g)である、正極組成物。なお、本明細書においてチルダ記号(~)を用いて、例えば「x~y」(x、yは数値)と表記されている場合、「x以上y以下」であることを意味する。具体的には「100~400m/gのBET比表面積」は、「100m/g以上400m/g以下のBET比表面積」であることを意味する。
<2>前記カーボンブラックの平均一次粒子径が、17~30nmである、<1>に記載の正極組成物。
<3>前記カーボンブラックの昇温脱離ガス分析法により検出される質量数m/z57のピークのピーク面積(S)に対する、質量数m/z128のピークのピーク面積(S)の比(S/S)が、0.2~1.9である、<1>又は<2>に記載の正極組成物。
<4>前記カーボンブラックの前記結晶子サイズ(Lc)が、15~20Åである、<1>~<3>のいずれかに記載の正極組成物。
<5>前記カーボンブラックの前記BET比表面積が、170~400m/gである、<1>~<4>のいずれかに記載の正極組成物。
<6>前記カーボンナノチューブの前記平均直径が、5~10nmである、<1>~<5>のいずれかに記載の正極組成物。
<7>前記カーボンブラックの含有量が、前記カーボンブラックと前記カーボンナノチューブの合計の含有量を基準として40~90質量%である、<1>~<6>のいずれかに記載の正極組成物。
<8><1>~<7>のいずれかに記載の正極組成物を含む、正極。
<9><8>に記載の正極を備える、電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内部抵抗が小さく、且つ、放電レート特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる正極組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記正極組成物を含む正極を提供することができる。また、本発明によれば、上記正極を備える電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で用いたカーボンブラックの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本実施形態に係る正極組成物は、カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、活物質と、結着材と、を含有する。本実施形態に係る正極組成物において、カーボンブラックは、100~400m/gのBET比表面積、及び、15~26Åの結晶子サイズ(Lc)を有し、カーボンナノチューブは、5~15nmの平均直径を有する。また、カーボンナノチューブのBET比表面積に対する平均直径の比(平均直径/BET比表面積)は、0.01~0.068nm/(m/g)である。
【0014】
本実施形態に係る正極組成物は、特定のBET比表面積及び特定の結晶子サイズ(Lc)を有するカーボンブラックと、特定の平均直径及び特定の比(平均直径/BET比表面積)を有するカーボンナノチューブとを、導電材として含有する。
【0015】
導電材の基本的な役割は、導電性に乏しい正極活物質に導電性を付与することである。また、リチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返す事で正極活物質が膨張収縮するため、正極活物質同士の接点が徐々に失われるが、導電材は接点の失われた正極活物質同士をつなぎ、導電性が損なわれることを防ぐ役割もある。正極活物質に対する導電材の分散性が悪い場合には、正極活物質と導電材とが充分に接触できず、導電経路を形成しにくくなり、活物質の性能を充分に引き出せないという問題が生じる。結果として、正極内に導電性の劣る部分が局所的に現れるため、活物質が充分に利用されず、放電容量が低下して、電池の寿命が短くなると考えられる。また、導電経路の確保のために導電材の含有量を多くすることが考えられるが、電池特性向上の観点から、正極中で充放電容量に寄与しない導電材の含有量を減らし、正極活物質の含有量を多くすることが望ましい。
【0016】
本実施形態では、特定のカーボンブラックと特定のカーボンナノチューブとの組み合わせによって、導電材が正極組成物中で均一に分散しやすい。また、上記組み合わせによって、導電材が正極組成物中で導電経路を効率的に形成できるため、本実施形態では、導電材の含有量を低減しても、優れた電池特性を維持できる。
【0017】
カーボンブラックは、一般的な電池用導電材として用いられるカーボンブラックであってよく、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック等であってよい。カーボンブラックは、純度に優れ、優れた電池特性を得やすい観点から、好ましくはアセチレンブラックである。
【0018】
カーボンブラックのBET比表面積は、100~400m/gである。カーボンブランクのBET比表面積が100m/g以上であることで、活物質及び導電材との電気的接点が多くなり、導電性の付与効果が良好となるため、優れた電池特性が得られる。また、カーボンブラックのBET比表面積が400m/g以下であることで、溶媒と導電材、及び導電材間の相互作用が小さくなり、活物質に対して均一に分散しやすくなることから、導電経路を形成しやすくため、優れた電池特性が得られる。カーボンブラックのBET比表面積は、吸着質として窒素を使用し、JIS Z8830に準拠して静的容量法により測定することができる。
【0019】
カーボンブラックのBET比表面積は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、好ましくは130m/g以上であり、より好ましくは150m/g以上であり、170m/g以上、200m/g以上、220m/g以上又は240m/g以上であってよい。カーボンブラックのBET比表面積は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、400m/g以下であり、好ましくは370m/g以下であり、350m/g以下、330m/g以下、300m/g以上、280m/g以上、又は260m/g以下であってもよい。これらの観点から、カーボンブラックのBET比表面積は、例えば、100~400m/g、100~370m/g、100~350m/g、100~330m/g、100~300m/g、100~280m/g、100~260m/g、130~400m/g、130~370m/g、130~350m/g、130~330m/g、130~300m/g、130~280m/g、130~260m/g、150~400m/g、150~370m/g、150~350m/g、150~330m/g、150~300m/g、150~280m/g、150~260m/g、170~400m/g、170~370m/g、170~350m/g、170~330m/g、170~300m/g、170~280m/g、170~260m/g、200~400m/g、200~370m/g、200~350m/g、200~330m/g、200~300m/g、200~280m/g、200~260m/g、220~400m/g、220~370m/g、220~350m/g、220~330m/g、220~300m/g、220~280m/g、220~260m/g、240~400m/g、240~370m/g、240~350m/g、240~330m/g、240~300m/g、240~280m/g、又は240~260m/gであってよい。
【0020】
カーボンブラックの結晶子サイズ(Lc)は15~26Åである。結晶子サイズ(Lc)が15Å以上であることで、π電子が結晶層を動き易くなり、集電体から流れてきた電子を活物質へと運ぶ導電経路を形成しやすくなり、優れた電池特性が得られる。また、結晶子サイズ(Lc)が15Å以上であることで、高電圧下で使用した場合においても酸化分解され難くなる。結晶子サイズ(Lc)が26Å以下であることで、カーボンブラックの粒子形状がより丸みを帯び易くなるため、粒子間相互作用が小さくなり、活物質に対して均一に分散しやすくなることから、導電経路を形成しやすくため、優れた電池特性が得られる。カーボンブラックの結晶子サイズ(Lc)は、JIS R7651に準拠して測定することができる。なお、カーボンブラックの結晶子サイズ(Lc)は、カーボンブラック結晶層のc軸方向の結晶子サイズを意味する。
【0021】
カーボンブラックの結晶子サイズ(Lc)は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、24Å以下又は22Å以下であってよく、好ましくは20Å以下であり、18Å以下であってもよい。また、カーボンブラックの結晶子サイズ(Lc)は、16Å以上、18Å以上、又は20Å以上であってもよい。これらの観点から、カーボンブラックの結晶子サイズ(Lc)は、例えば、15~26Å、15~24Å、15~22Å、15~20Å、15~18Å、16~26Å、16~24Å、16~22Å、16~20Å、16~18Å、18~26Å、18~24Å、18~22Å、18~20Å、20~26Å、20~24Å、又は20~22Åであってよい。
【0022】
カーボンブラックの平均一次粒子径は17~30nmであってよい。カーボンブラックの平均一次粒子径が17nm以上であることで、溶媒と導電材、及び導電材間の相互作用が小さくなり、活物質に対して均一に分散しやすくなることから、導電経路を形成しやすくため、優れた電池特性がより得やすくなる。カーボンブラックの平均一次粒子径が30nm以下であることで、活物質及び導電材との電気的接点が多くなり、導電性の付与効果が良好となるため、優れた電池特性がより得やすくなる。カーボンブラックの平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)でカーボンブラックを観察した際の画像をもとに測定される円相当径の平均値を意味し、具体的には、透過型電子顕微鏡JEM-2000FX(日本電子社製)を用いて、カーボンブラックを10万倍の倍率で10枚撮像し、得られる画像について無作為に抽出したカーボンブラックの一次粒子200個の円相当径を画像解析により測定して、算術平均することにより得られる。
【0023】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、26nm以下、24nm以下、22nm以下、又は20nm以下であってよい。また、カーボンブラックの平均一次粒子径は、18nm以上、又は20nm以上であってもよい。これらの観点から、カーボンブラックの平均一次粒子径は、例えば、17~30nm、17~26nm、17~24nm、17~22nm、17~20nm、18~30nm、18~26nm、18~24nm、18~22nm、又は18~20nmであってよい。
【0024】
カーボンブラックの昇温脱離ガス分析法により検出される質量数m/z57のピークのピーク面積をSとし、質量数m/z128のピークのピーク面積をSとしたとき、ピーク面積Sに対するピーク面積Sの比(S/S)は、0.2~1.9であることが好ましい。比(S/S)は、カーボンブラックの表面に吸着している有機成分の割合を示している。比(S/S)が1.9以下であることで、カーボンブラックの表面に吸着している有機成分が十分に少なくなり、有機成分がπ電子をトラップすることに起因する導電性の低下が顕著に抑制される。また、比(S/S)が0.2以上であることで、カーボンブラックの表面に吸着している有機成分が分散剤の役割を担い、溶媒中での分散性が向上するため、スラリー粘度がより低減される。質量数m/z57のピークのピーク面積Sと質量数m/z128のピークのピーク面積Sは、発生ガス質量分析(EGA-MS)により測定することができる。例えば、熱分解装置を有するガスクロマトグラフ質量分析計にカーボンブラックをセットし、大気圧Heフロー中で、50℃で5分間保持した後、80℃/minで800℃まで昇温し、昇温により脱離した成分の質量分析を行うことで、質量数m/z57のピークのピーク面積Sと質量数m/z128のピークのピーク面積Sを測定できる。より具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
比(S/S)は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、1.5以下、1.0以下、0.8以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、又は0.3以下であってよい。また、比(S/S)は、0.25以上又は0.3以上であってもよい。これらの観点から、比(S/S)は、例えば、0.2~1.9、0.2~1.5、0.2~1.0、0.2~0.8、0.2~0.6、0.2~0.5、0.2~0.4、0.2~0.3、0.25~1.9、0.25~1.5、0.25~1.0、0.25~0.8、0.25~0.6、0.25~0.5、0.25~0.4、0.25~0.3、0.3~1.9、0.3~1.5、0.3~1.0、0.3~0.8、0.3~0.6、0.3~0.5、又は0.3~0.4であってよい。
【0026】
カーボンブラックの体積抵抗率は、導電性に優れる観点から、0.30Ω・cm以下又は0.25Ω・cm以下であってよい。カーボンブラックの体積抵抗率は、例えば、7.5MPaの荷重下で圧縮した状態で測定される。
【0027】
カーボンブラックの灰分量及び水分量は特に限定されるものではない。カーボンブラックの灰分量は、例えば、0.04質量%以下であってよく、カーボンブラックの水分量は、例えば、0.10質量%以下であってよい。
【0028】
カーボンブラックの含有量は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、0.01質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は0.7質量%以上であってよい。カーボンブラックの含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.9質量%以下、又は0.7質量%以下であってよい。これらの観点から、カーボンブラックの含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば、0.01~5質量%、0.01~3質量%、0.01~1質量%、0.01~0.9質量%、0.01~0.7質量%、0.1~5質量%、0.1~3質量%、0.1~1質量%、0.1~0.9質量%、0.1~0.7質量%、0.3~5質量%、0.3~3質量%、0.3~1質量%、0.3~0.9質量%、0.3~0.7質量%、0.5~5質量%、0.5~3質量%、0.5~1質量%、0.5~0.9質量%、0.5~0.7質量%、0.7~5質量%、0.7~3質量%、0.7~1質量%、又は0.7~0.9質量%であってよい。
【0029】
カーボンブラックの含有量は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、カーボンブラックとカーボンナノチューブの合計の含有量を基準として、10質量%以上、40質量%以上、又は60質量%以上であってよく、95質量%以下、90質量%以下、又は80質量%以下であってよい。カーボンブラックの含有量は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、カーボンブラックとカーボンナノチューブの合計の含有量を基準として、好ましくは40~90質量%である。カーボンブラックの含有量が40~90質量%であることで、正極組成物中でカーボンブラックが活物質間で導電経路を形成しやすくなると共に、活物質の近傍に非水電解液を保液しやすくなる。また、カーボンナノチューブが活物質の表面において導電経路を形成しやすくなり、電極構造が形成されるため、良好な導電経路とイオン伝導性を有する電極が得やすくなり、優れた電池特性を有する電池が得やすくなる。これらの観点から、カーボンブラックの含有量は、例えば、カーボンブラックとカーボンナノチューブの合計の含有量を基準として、10~95質量%、10~90質量%、10~80質量%、40~95質量%、40~90質量%、40~80質量%、60~95質量%、60~90質量%、又は60~80質量%であってよい。
【0030】
上記のカーボンブラックは、例えば、炭化水素を含む原料ガスを円筒状分解炉で処理して、カーボンブラックを得る合成工程と、合成工程で得られたカーボンブラックから磁石により磁性異物を除去する高純度化工程と、を含む製造方法により製造することができる。
【0031】
合成工程では、原料ガスを円筒状分解炉で処理する。円筒状分解炉は、例えば、炭化水素の熱分解反応を行う熱分解部と、熱分解反応生成物を改質する熟成部と、を備えるものであってよい。円筒状分解炉は、原料ガスを熱分解部に供給する供給口と、熟成部から生成したカーボンブラックを回収する回収口とを更に備えていてよい。
【0032】
熱分解部は、供給された原料ガスが、1900℃以上の温度で30~150秒滞留することが好ましい。原料ガスの滞留時間が30秒以上であることで、熱分解反応の完結及び連鎖構造の発達によるカーボンエアロゾルの形成をより確実に実施できる。また、原料ガスの滞留時間が150秒以下であることで、カーボンエアロゾルの凝集化が抑制されるため、高純度化工程で磁性異物をより除去しやすくなり、高純度のカーボンブラックが得られやすくなる。
【0033】
熟成部は、熱分解部から供給された熱分解反応生成物が、1700℃以上の温度で20~90秒滞留することが好ましい。熱分解反応生成物の滞留時間が20秒以上であることで、カーボンエアロゾルの改質及びアグリゲートの発達によって、より高品質のカーボンブラックが得られやすくなる。また、熱分解反応生成物の滞留時間が90秒以下であることで、カーボンエアロゾルの凝集化が抑制されるため、高純度化工程で磁性異物をより除去しやすくなり、高純度のカーボンブラックが得られやすくなる。
【0034】
熱分解部及び熟成部における滞留時間は、それぞれ、流通するガスのガス線速度を調整することで適宜調整できる。熟成部における滞留時間は、熱分解部における滞留時間より短いことが好ましい。すなわち、熟成部におけるガス線速度は、熱分解部におけるガス線速度より速いことが好ましい。
【0035】
本実施形態において、原料ガスは、炭素源として、アセチレンを含むことが好ましい。原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)の含有量は、例えば10体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは30体積%以上であり、100体積%であってもよい。なお、原料ガス中の各成分の含有量は、100℃、1気圧での体積を基準として体積比を示す。
【0036】
原料ガスは、炭素源(例えばアセチレン)以外の他の炭化水素を更に含んでいてもよい。他の炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、灯油、軽油、重油等が挙げられる。これらの他の炭化水素の添加により、反応温度を変化させて、カーボンブラックの比表面積を増減させることができる。他の炭化水素は、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素及びエチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素からなる群より選択されることが好ましい。
【0037】
原料ガスが、アセチレンと他の炭化水素とを含有する場合、他の炭化水素の含有量は、アセチレン100体積部に対して、例えば0.1~99体積部であり、好ましくは0.2~50体積部であり、より好ましくは0.3~30体積部である。すなわち、他の炭化水素の含有量は、アセチレン100体積部に対して、例えば0.1~99体積部、0.1~50体積部、0.1~30体積部、0.2~99体積部、0.2~50体積部、0.2~30体積部、0.3~99体積部、0.3~50体積部、又は0.3~30体積部であってよい。
【0038】
原料ガスは、水蒸気ガス、酸素ガス、水素ガス、二酸化炭素ガス等を更に含んでいてもよい。これらのガスとしては、99.9体積%以上の高純度ガスを用いることが好ましい。このような高純度ガスを用いることで、磁性異物が少なく、BET比表面積及びオイル吸収量が安定したカーボンブラックが製造しやすくなる傾向がある。
【0039】
水蒸気ガスの含有量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば0~80体積部であってよく、好ましくは0.1~70体積部、より好ましくは1~60体積部、更に好ましくは3~55体積部である。水蒸気ガスの含有量が上記範囲であると、カーボンブラックのBET比表面積がより大きくなる傾向がある。すなわち、水蒸気ガスの含有量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば0~80体積部、0~70体積部、0~60体積部、0~55体積部、0.1~80体積部、0.1~70体積部、0.1~60体積部、0.1~55体積部、1~80体積部、1~70体積部、1~60体積部、1~55体積部、3~80体積部、3~70体積部、3~60体積部、又は3~55体積部であってよい。
【0040】
合成工程では、原料ガスと共に酸素ガスを熱分解部に供給することが好ましく、原料ガスを熱分解部に供給する供給口の周囲から酸素ガスを噴射することで、酸素ガスを熱分解部に供給することがより好ましい。
【0041】
円筒状分解炉は、原料ガスの供給口の近傍に酸素ガスの噴射口を有することが好ましく、供給口を取り囲むように均等間隔に設けられた複数の噴射口を有することがより好ましい。噴射口の数は、好ましくは3以上、より好ましくは3~8である。
【0042】
また、円筒状分解炉は、原料ガスの供給口とその周囲から酸素ガスを噴射する噴射口とを有する多重管構造(例えば、二重管構造、三重管構造等)のノズルを備えていてもよい。二重管構造の場合、例えば、内筒側の空隙部から原料ガスを、外筒側の空隙部から酸素ガスを噴射してよい。内管、中管及び外管からなる三重管構造の場合、例えば、中管の外壁と外管の内壁とによって形成される空隙部から酸素ガスを噴射し、残りの空隙部から原料ガスを噴射してよい。
【0043】
酸素ガスの噴射量は、カーボンブラックの生成収率を考慮しなければ特に制限はない。必要以上に多くの酸素ガスを噴射してもカーボンブラックを製造できる。酸素ガスの噴射量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば、0~300体積部、0~250体積部、0~220体積部又は0~200体積部であってよく、好ましくは0.1~190体積部、より好ましくは0.5~180体積部、更に好ましくは1~160体積部である。酸素ガスの噴射量が多くなると、カーボンブラックのBET比表面積、及び、上記の比(S/S)がより大きくなる傾向があり、酸素ガスの噴射量が少なくなると、カーボンブラックの一次粒子径が大きくなる傾向がある。すなわち、酸素ガスの噴射量は、原料ガス中の炭素源(例えばアセチレン)100体積部に対して、例えば、0~300体積部、0~250体積部、0~220体積部、0~200体積部、0~190体積部、0~180体積部、0~160体積部、0.1~300体積部、0.1~250体積部、0.1~220体積部、0.1~200体積部、0.1~190体積部、0.1~180体積部、0.1~160体積部、0.5~300体積部、0.5~250体積部、0.5~220体積部、0.5~200体積部、0.5~190体積部、0.5~180体積部、0.5~160体積部、1~300体積部、1~250体積部、1~220体積部、1~200体積部、1~190体積部、1~180体積部、又は1~160体積部であってよい。
【0044】
合成工程では、例えば、アセチレン以外の他の炭化水素の添加率、噴射する酸素ガスの量等を調整することによって、得られるカーボンブラックの一次粒子径、BET比表面積、結晶子サイズ(Lc)を調整することができる。
【0045】
高純度化工程は、合成工程で得られたカーボンブラックから、磁石により磁性異物を除去する工程である。高純度化工程は、例えば、合成工程で得られたカーボンブラックを、磁石に接触させて、又は、磁石の近傍に配置して(例えば、磁石の近傍を通過させて)、カーボンブラックから磁性異物を除去する工程であってよい。
【0046】
磁石の最大表面磁束密度は特に限定されないが、例えば700mT以上であってよく、好ましくは1000mT以上、より好ましくは1200mT以上である。これにより、カーボンブラックに付着した微細な磁性異物がより強力に吸着されるため、ニッケル含有量のより少ないカーボンブラックが得られやすくなる。磁石の最大表面磁束密度の上限は特に限定されず、例えば、1400mT以下であってよい。すなわち、磁石の最大表面磁束密度は、例えば700~1400mT、1000~1400mT、又は1200~1400mTであってよい。
【0047】
高純度化工程では、ニッケル含有量が50ppb以下(好ましくは40ppb以下、より好ましくは30ppb以下、更に好ましくは20ppb以下)となるように、カーボンブラックから磁性異物を除去する工程であってよい。ニッケル含有量の下限に特に制限はないが、カーボンブラック中のニッケル含有量は、例えば1ppb以上であってよく、コスト及び生産性の観点からは、10ppb以上であってもよく、15ppb以上であってもよい。すなわち、カーボンブラック中のニッケル含有量は、例えば1~50ppb、1~40ppb、1~30ppb、1~20ppb、10~50ppb、10~40ppb、10~30ppb、10~20ppb、15~50ppb、15~40ppb、15~30ppb、又は15~20ppbであってよい。
【0048】
本実施形態に係る正極組成物は、導電材として、カーボンナノチューブを含有する。当該カーボンナノチューブは、5~15nmの平均直径を有し、カーボンブラックのBET比表面積に対する平均直径の比(平均直径/BET比表面積)は0.01~0.068nm/(m/g)である。本実施形態ではカーボンナノチューブの平均直径が5~15nmと小さく、カーボンナノチューブのBET比表面積に対する平均直径の比を0.01~0.068nm/(m/g)とすることで、正極中に多くの導電経路を形成することができる。
【0049】
カーボンナノチューブの平均直径は5~15nmである。カーボンブラックの平均直径が5nm以上であることで、溶媒と導電材、及び導電材間の相互作用が小さくなることで、活物質に対して均一に分散しやすくなることから、導電経路を形成しやすくため、優れた電池特性がより得やすくなる。カーボンブラックの平均直径が15nm以下であることで、活物質及び導電材との電気的接点が多くなり、導電性の付与効果が良好となり、優れた電池特性がより得やすくなる。
【0050】
カーボンナノチューブの平均直径は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、好ましくは12nm以下であり、より好ましくは10nm以下であり、8nm以下、又は6nm以下であってよい。カーボンナノチューブの平均直径は、6nm以上であってよい。これらの観点から、カーボンナノチューブの平均直径は、例えば5~15nm、5~12nm、5~10nm、5~8nm、5~6nm、6~15nm、6~12nm、6~10nm、又は6~8nmであってよい。カーボンナノチューブの平均直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)でカーボンナノチューブを観察した際の画像をもとに測定される直径の平均値を意味し、具体的には、透過型電子顕微鏡JEM-2000FX(日本電子社製)を用いて、カーボンナノチューブを20万倍の倍率で10枚撮像し、得られる画像について無作為に抽出したカーボンナノチューブ100個の直径を画像解析により測定して、算術平均することにより得られる。
【0051】
カーボンナノチューブのBET比表面積は、170~320m/gであることが好ましい。カーボンナノチューブのBET比表面積が170m/g以上であることで、活物質及び導電材との電気的接点が多くなり、導電性の付与効果が良好となるため、優れた電池特性がより得やすくなる。カーボンナノチューブのBET比表面積が320m/g以下であることで、溶媒と導電材、及び導電材間の相互作用が小さくなり、活物質に対して均一に分散しやすくなることから、導電経路を形成しやすくため、優れた電池特性がより得やすくなる。カーボンナノチューブのBET比表面積は、吸着質として窒素を使用し、JIS Z8830に準拠して静的容量法により測定することができる。
【0052】
カーボンナノチューブのBET比表面積は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、180m/g以上、200m/g以上、230m/g以上、250m/g以上、280m/g以上、又は300m/g以上であってよい。カーボンナノチューブのBET比表面積は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、300m/g以下であってよい。これらの観点から、カーボンナノチューブのBET比表面積は、例えば170~320m/g、170~300m/g、180~320m/g、180~300m/g、200~320m/g、200~300m/g、230~320m/g、230~300m/g、250~320m/g、250~300m/g、280~320m/g、280~300m/g、又は300~320m/gであってよい。
【0053】
カーボンナノチューブのカーボンブラックのBET比表面積に対する平均直径の比(平均直径/BET比表面積)は、0.01~0.068nm/(m/g)である。平均直径/BET比表面積は、カーボンナノチューブの平均直径をカーボンナノチューブのBET比表面積で除した値である。平均直径/BET比表面積が0.01nm/(m/g)以上であることで、カーボンナノチューブ同士の絡み合いが少なくなり、活物質に対して均一に分散しやすくなることから、導電経路を形成しやすくため、優れた電池特性が得られる。平均直径/BET比表面積が0.068nm/(m/g)以下であることで、単位重量当たりのカーボンナノチューブ本数が増加し、活物質全体に効率よく電気を流す事ができるようになるため、優れた電池特性が得られる。
【0054】
平均直径/BET比表面積は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、0.06nm/(m/g)以下、0.04nm/(m/g)以下、0.03nm/(m/g)以下、又は0.02nm/(m/g)以下であってよい。平均直径/BET比表面積は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、0.02nm/(m/g)以上であってよい。これらの観点から、平均直径/BET比表面積は、例えば0.01~0.068nm/(m/g)、0.01~0.06nm/(m/g)、0.01~0.04nm/(m/g)、0.01~0.03nm/(m/g)、0.01~0.02nm/(m/g)、0.02~0.068nm/(m/g)、0.02~0.06nm/(m/g)、0.02~0.04nm/(m/g)、又は0.02~0.03nm/(m/g)であってよい。
【0055】
カーボンナノチューブの含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。カーボンナノチューブの含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、3質量%以下、1質量%以下、0.9質量%下、0.5質量%以下、又は0.3質量%以下であってよい。上記観点から、カーボンナノチューブの含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば0.01~3質量%、0.01~1質量%、0.01~0.9質量%、0.01~0.5質量%、0.01~0.3質量%、0.05~3質量%、0.05~1質量%、0.05~0.9質量%、0.05~0.5質量%、0.05~0.3質量%、0.1~3質量%、0.1~1質量%、0.1~0.9質量%、0.1~0.5質量%、0.1~0.3質量%、0.2~3質量%、0.2~1質量%、0.2~0.9質量%、0.2~0.5質量%、0.2~0.3質量%、0.3~3質量%、0.3~1質量%、0.3~0.9質量%、又は0.3~0.5質量%であってよい。
【0056】
カーボンナノチューブの含有量は、内部抵抗をより小さくする観点、放電レート特性及びサイクル特性がより優れる観点から、カーボンブラックとカーボンナノチューブの合計の含有量を基準として、5質量%以上、10質量%以上、又は20質量%以上であってよく、90質量%以下、60質量%以下、又は40質量%以下であってよい。これらの観点から、カーボンナノチューブの含有量は、カーボンブラックとカーボンナノチューブの合計の含有量を基準として、例えば5~90質量%、5~60質量%、5~40質量%、10~90質量%、10~60質量%、10~40質量%、20~90質量%、20~60質量%、又は20~40質量%であってよい。本実施形態ではBET比表面積に対する平均直径の比を0.01~0.068nm/(m/g)とすることで、カーボンナノチューブの含有量が少なくても(例えば、カーボンブラックとカーボンナノチューブの合計の含有量を基準としたカーボンナノチューブの含有量が60質量%以下であっても)充分な導電経路を形成することができる。
【0057】
上記のカーボンナノチューブは、従来公知のカーボンナノチューブの製造方法により製造することができる。例えば、マグネシア(酸化マグネシウム)に鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器内の反応器の水平断面方向全面に存在させ、当該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと上記触媒を500~1200℃で接触させた後、得られた生成物(未酸化のカーボンナノチューブ)を酸化処理することにより製造することができる。上記のカーボンナノチューブの製造方法により、数層のグラフェン層からなる平均直径が5~15nmでBET比表面性が160~300m/gであるカーボンナノチューブが得ることができる。
【0058】
上記の生成物の酸化処理は、例えば、焼成処理であってよい。焼成処理の温度は、本実施形態に係る正極組成物が含有するカーボンナノチューブが得られる限り特に限定されず、例えば、300~1000℃であってよい。焼成処理の温度は、雰囲気ガスに影響されるため、酸素濃度が高い場合には比較的低温で、酸素濃度が低い場合には比較的高温で焼成処理することが好ましい。具体的には、生成物の焼成処理としては、大気下、酸化処理前のカーボンナノチューブの燃焼ピーク温度±50℃の範囲内で焼成する方法が挙げられるが、酸素濃度が大気よりも高い場合は、焼成ピーク温度よりも低めの温度範囲で焼成を行い、酸素濃度が大気よりも低い場合は、焼成ピーク温度よりも高めの温度範囲が選択される。特に大気下で酸化処理前のカーボンナノチューブの焼成処理を行う場合は、酸化処理前のカーボンナノチューブの燃焼ピーク温度±15℃の範囲で行うことが好ましい。
【0059】
上記の生成物の酸化処理は、過酸化水素、混酸、硝酸等による処理であってもよい。上記の生成物を過酸化水素により処理する方法としては、例えば、上記の生成物を34.5%過酸化水素水中に0.01~10質量%になるように混合し、0~100℃の温度にて0.5~48時間反応させる方法が挙げられる。また、上記の生成物を混酸で処理する方法としては、例えば、上記の生成物を濃硫酸と濃硝酸との混合溶液(濃硫酸:濃硝酸=3:1)中に0.01~10質量%になるように混合し、0~100℃の温度にて0.5~48時間反応させる方法が挙げられる。混酸の混合比(濃硫酸:濃硝酸)は、上記の生成物中の単層カーボンナノチューブの量に応じて、1:10~10:1の範囲内で調整することができる。上記の生成物を硝酸で処理する方法としては、例えば、上記の生成物を濃度40~80質量%の硝酸中に0.01~10質量%になるように混合し、60~150℃の温度にて0.5~48時間反応させる方法が挙げられる。
【0060】
上記の生成物に対して酸化処理を行うことで、生成物中のアモルファスカーボン等の不純物及び耐熱性の低い単層カーボンナノチューブを選択的に除去することができ、数層のグラフェン層、特に2~5層のカーボンナノチューブの純度を向上することができる。それと同時に生成物に対して酸化処理を行うことで、カーボンナノチューブの表面に官能基が追加されるため、分散媒及び添加剤との親和性が向上し、分散性が向上する。上記の酸化処理の中でも、硝酸を用いた処理が好ましい。
【0061】
上記の酸化処理は、酸化処理前のカーボンナノチューブを得た直後に行ってもよく、別の精製処理後に行った後に行ってもよい。例えば、触媒として鉄/マグネシアを用いる場合、酸化処理の前に触媒を除去するために塩酸等の酸により精製処理を行った後に酸化処理を行ってもよく、酸化処理を行った後に触媒除去のために精製処理を行ってもよい。
【0062】
本実施形態に係る正極組成物は、活物質を含有する。活物質は、カチオンを可逆的に吸蔵放出可能な物質であり、例えば、体積抵抗率1×10Ω・cm以上のマンガンを含むリチウム含有複合酸化物、又は、リチウム含有ポリアニオン化合物であってよい。マンガンを含むリチウム含有複合酸化物としては、例えば、LiMnO、LiMnO、LiMn、Li1+xMn2-x(但し、x=0~0.33)等のマンガン酸リチウム;LiMnNiCo(但し、x+y+z=1、0≦y<1、0≦z<1、0≦x<1)、Li1+xMn2-x-y(但し、x=0~0.33、y=0~1.0、2-x-y>0)、LiMn2-x(但し、x=0.01~0.1)、LiMnMO等の1種類以上の遷移金属元素を含む複合酸化物が挙げられる。リチウム含有ポリアニオン化合物としては、LiFePO、LiMnPO、LiMPOF(ただし、MはCo、Ni、Fe、Cr、Znより選ばれた少なくとも1種の金属である)等のポリアニオン化合物が挙げられる。各組成式中のMは、Fe、Co、Ni、Al、Cu、Mg、Cr、Zn、Taからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0063】
活物質の平均粒子径(D50)は、導電材と結着材との結着性が充分に優れ、サイクル特性が優れる電池が得やすくなる観点から、20μm以下又は10μm以下であってよい。活物質の平均粒子径(D50)は、レーザー光散乱法で測定することができる。
【0064】
活物質の含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば、84質量%以上であってよく、電池の高エネルギー密度化の観点から、85質量%以上、86質量%以上、又は87質量%以上であってもよい。活物質の含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば92質量%以下であってよく、電池の高出力化の観点から、91質量%以下、90質量%以下、又は89質量%以下であってもよい。すなわち、活物質の含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば84~92質量%、84~91質量%、84~90質量%、84~89質量%、85~92質量%、85~91質量%、85~90質量%、85~89質量%、86~92質量%、86~91質量%、86~90質量%、86~89質量%、87~92質量%、87~91質量%、87~90質量%、又は87~89質量%であってよい。
【0065】
本実施形態に係る正極組成物は、結着材を含有する。結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。結着材のポリマーの構造は、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体であってもよい。結着材は、耐電圧性が優れる観点から、ポリフッ化ビニリデンであってよい。
【0066】
結着材の含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば1.0質量%以上であってよく、正極板の結着性をより高め、サイクル特性がより優れる観点から、1.5質量%以上、2.0質量%以上、又は3.0質量%以上であってもよい。結着材の含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば5.0質量%以下であってよく、正極板の抵抗をより小さくし、放電レート特性に優れる観点から、4.5質量%以下、4.0質量%以下、又は3.5質量%以下であってもよい。すなわち、結着材の含有量は、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、例えば1.0~5.0質量%、1.0~4.5質量%、1.0~4.0質量%、1.0~3.5質量%、1.5~5.0質量%、1.5~4.5質量%、1.5~4.0質量%、1.5~3.5質量%、2.0~5.0質量%、2.0~4.5質量%、2.0~4.0質量%、2.0~3.5質量%、3.0~5.0質量%、3.0~4.5質量%、3.0~4.0質量%、又は3.0~3.5質量%であってよい。
【0067】
本実施形態に係る正極組成物は、活物質、導電材、結着材以外のその他の添加剤を更に含有してもよい。その他の添加剤は、例えば、分散性を向上させる観点から、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース、カルボン酸変性(メタ)アクリル酸エステル共重合体等であってよい。
【0068】
本実施形態に係る正極組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、活物質、結着材及び分散媒(更にはその他の添加剤)をボールミル、サンドミル、二軸混練機、自転公転式攪拌機、プラネタリーミキサー、ディスパーミキサー等により混合することで得られる。カーボンブラック及びカーボンナノチューブは、別々に混合器に投入してもよく、予めこれらを混合してもよい。
【0069】
本実施形態における正極の作製方法には、特に制限は無く、従来公知の正極作製方法を用いて行えばよいが、例えば以下の方法により作製することができる。すなわち、前記分散液をアルミニウム等の金属箔集電体上に塗布した後、加熱により本実施形態の正極組成物と分散媒の混合物に含まれる分散媒を除去し、正極組成物が集電体表面に製膜することで得られる。さらに集電体と電極合材層をロールプレス等により加圧して密着させることにより、目的とする正極を得ることができる。
【0070】
本実施形態における負極の作製方法には、特に制限は無く、従来公知の負極作製方法を用いて行えばよいが、例えば以下の方法により作製することができる。すなわち、人造黒鉛等を含む負極組成物を銅等の金属箔集電体上に塗布した後、分散媒を除去し、負極組成物が集電体表面に製膜することで得られる。さらに集電体と電極合材層をロールプレス等により加圧して密着させることにより、目的とする負極を得ることができる。
【0071】
本実施形態における電池の作製方法にも、特に制限は無く、従来公知の二次電池の作製方法を用いて行えばよいが、例えば以下の方法により作製することもできる。すなわち、正極と負極との間に絶縁層となるポリオレフィン製微多孔膜を配し、正極、負極及びポリオレフィン製微多孔膜の空隙部分に非水電解液が十分に染込むまで注液することで作製することができる。
【0072】
本実施形態における電池の用途としては、特に制限されず、例えば、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ポータブルオーディオプレイヤー、携帯液晶テレビ等の携帯AV機器、ノート型パソコン、スマートフォン、モバイルPC等の携帯情報端末、その他、携帯ゲーム機器、電動工具、電動式自転車、ハイブリット自動車、電気自動車、電力貯蔵システム等の幅広い分野において使用することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
<実施例1>
(カーボンブラック)
カーボンブラック反応炉(炉長6m、炉直径0.65m)の上流部に設置されたノズルから原料であるアセチレンを12Nm/h、トルエンを32kg/h、酸素を22Nm/h供給してカーボンブラックを製造し、反応炉の下流部に設置したバグフィルターで捕集した。その後、乾式サイクロン装置、鉄除去用磁石を通過させてタンクに回収した。尚、アセチレン、トルエン、酸素は115℃に加熱してから反応炉へ供給し、カーボンブラックAを得た。得られたカーボンブラックAは、BET比表面積が240m/g、平均一次粒子径が20nm、結晶子サイズ(Lc)が16Åであった。
【0075】
発生ガス質量分析装置(GC/MS:島津製作所製、QP-2010、パイロライザー:フロンティアラボ社製、Py-2020iD)にカーボンブラックAをセットし、大気圧Heフロー中で、50℃で5分間保持した後、80℃/minで800℃まで昇温し、昇温により脱離した成分の質量分析を下記の条件で行い、得られたカーボンブラックAの質量数m/z57のピークのピーク面積S及び質量数m/z128のピークのピーク面積Sを測定した。測定したカーボンブラックAの質量数m/z57のピークのピーク面積S及び質量数m/z128のピークのピーク面積Sから比(S/S)を算出したところ、0.40であった。
カラム:フロンティアラボ社製Ultra ALLOY-DTM(長さ2.5m、0.15mmI.D、0.47mmO.D)
試料導入温度:300℃
カラム温度:300℃、80分保持
スプリット比:30:1
カラム流量:1.0mL/min
イオン化法:EI
測定質量数範囲:m/z=10~200
【0076】
(カーボンブラックスラリー)
カーボンブラックA、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMPと記載)、分散剤としてポリビニルアルコール(デンカ社製、ポバールB05)を用意した。NMP89.0質量%に、ポリビニルアルコールを1.0質量%及びカーボンブラックAを10.0質量%加えて、プラネタリーミキサー(プライミクス社製、ハイビスディスパ―ミックス3D-5型)で120分撹拌して、カーボンブラックAを含有するスラリーを調製した。ジルコニアビーズ(直径0.5mm)を搭載したビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、ムゲンフローMGF2-ZA)に得られたスラリーを投入し、分散処理を行った。分散処理を行った後、ろ過にてジルコニアビーズを取り除き、カーボンブラックAのスラリーを作製した。
【0077】
(正極組成物)
カーボンブラックAを用いて作製したカーボンブラックAのスラリー、及び、平均直径が6nm、BET比表面積が300m/g、平均直径/BET比表面積が0.02のカーボンナノチューブ(CNano社製、「Flotube6000」)のNMP分散液を用意した。また、活物質として平均粒子径D50が10μmのニッケルマンガンコバルト酸リチウム(北京当升社製、「ME6E」)、結着材としてポリフッ化ビニリデンのNMP溶液(クレハ社製、「L#7208」)、分散媒としてNMPを用意した。固形比換算で、活物質が97.0質量%、カーボンブラックが0.7質量%、カーボンナノチューブが0.3質量%、結着材が2.0質量%になるように調製し、塗工可能な粘度になるまでNMPを加え、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合して、正極組成物を得た。
【0078】
(正極)
作製した正極組成物(NMP分散液)を厚さ15μmのアルミニウム箔(UACJ社製)の片面上に、アプリケーターにて成膜して積層体を作製し、乾燥機内に静置して105℃で1時間予備乾燥させて、NMPを完全に除去した。次いで、乾燥後の積層体をロールプレス機にて200kg/cmの線圧でプレスし、積層体全体の厚さが80μmになるように調製した。次いで、170℃で3時間真空乾燥させて、残留水分を完全に除去し、集電体と合材層とを備える正極を得た。
【0079】
(負極)
溶媒として純水(関東化学社製)、負極活物質として人造黒鉛(日立化成社製、「MAG-D」)、結着材としてスチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製、「BM-400B」、以下、SBRと記載)、分散剤としてカルボキシメチルセルロース(ダイセル社製、「D2200」、以下、CMCと記載)をそれぞれ用意した。次いで、CMCが固形分で1質量%、人造黒鉛が固形分で97質量%となるように秤量して混合し、この混合物に純水を添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合して混合物を得た。次いで、SBRが固形分で2質量%となるように秤量し、得られた混合物に添加し、自転公転式混合機(シンキー社製、あわとり練太郎ARV-310)を用いて、均一になるまで混合して、負極組成物を得た。次いで、負極組成物を、厚さ10μmの銅箔(UACJ社製)上にアプリケーターにて成膜して積層体を作製し、乾燥機内に静置して60℃で1時間予備乾燥させた。次いで、ロールプレス機にて50kg/cmの線圧でプレスし、積層体全体の厚さが60μmになるように調製した。次いで、120℃で3時間真空乾燥させて、残留水分を完全に除去し、集電体と合材層とを備える負極を得た。
【0080】
(電池)
露点-50℃以下に制御したドライルーム内で、作製した正極を40×40mmに加工し、作製した負極を44×44mmに加工した後、正極にアルミ製タブ、負極にニッケル製タブをそれぞれ溶接した。正極と負極それぞれの合材塗工面が中央で対向するようにし、正極と負極との間に45×45mmに加工したポリオレフィン微多孔質膜を配置した。次いで、70×140mm角に切断・加工したシート状の外装を長辺の中央部で二つ折りにした。次いで、正極用アルミ製タブと負極用ニッケル製タブが外装の外部に露出するように外装を配置しながら、二つ折りにした外装によって正極/ポリオレフィン微多孔質膜/負極の積層体を挟んだ。次いで、ヒートシーラーを用いて、外装の正極用アルミ製タブと負極用ニッケル製タブが露出した辺を含む二辺を加熱融着した後、加熱融着していない一辺から、2gの電解液(キシダ化学製、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(体積比)と1MのLiPF溶液とを含む溶液)を注液し、正極、負極及びポリオレフィン微多孔膜に電解液を充分に染み込ませてから、真空ヒートシーラーにより、内部を減圧しながら、外装の残り一辺を加熱融着してリチウムイオン二次電池を得た。
【0081】
<実施例2>
カーボンブラック反応炉(炉長6m、炉直径0.65m)の上流部に設置されたノズルから原料であるアセチレンを12Nm/h、トルエンを32kg/h、酸素を21Nm/h供給してカーボンブラックを製造し、反応炉の下流部に設置したバグフィルターで捕集した。その後、乾式サイクロン装置、鉄除去用磁石を通過させてタンクに回収した。尚、アセチレン、トルエン、酸素は115℃に加熱してから反応炉へ供給し、カーボンブラックBを得た。得られたカーボンブラックBは、BET比表面積が178m/g、平均一次粒子径が22nm、結晶子サイズ(Lc)が17Åであった。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックBの比(S/S)を算出したところ、0.44であった。
【0082】
実施例1のカーボンブラックAをカーボンブラックBへ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0083】
<実施例3>
実施例1のカーボンナノチューブのNMP分散液を平均直径が9nm、BET比表面積が250m/g、平均直径/BET比表面積が0.036のカーボンナノチューブ(CNano社製、「Flotube7000」)のNMP分散液へ変更した以外は、実施例1と同様な方法で電池を作製した。
【0084】
<実施例4>
実施例1のカーボンブラックAをBET比表面積が133m/g、平均一次粒子径が26nm、結晶子サイズ(Lc)が25Åのカーボンブラック(デンカ社製、「Li-435」)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックLi-435の比(S/S)を算出したところ、0.23であった。
【0085】
<実施例5>
カーボンブラック反応炉(炉長6m、炉直径0.65m)の上流部に設置されたノズルから原料であるアセチレンを12Nm/h、トルエンを32kg/h、酸素を20Nm/h供給してカーボンブラックを製造し、反応炉の下流部に設置したバグフィルターで捕集した。その後、乾式サイクロン装置、鉄除去用磁石を通過させてタンクに回収した。尚、アセチレン、トルエン、酸素は115℃に加熱してから反応炉へ供給し、カーボンブラックCを得た。得られたカーボンブラックCは、BET比表面積が165m/g、平均一次粒子径が23nm、結晶子サイズ(Lc)が18Åであった。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックCの比(S/S)を算出したところ、0.42であった。
【0086】
実施例1のカーボンブラックAをカーボンブラックCへ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0087】
<実施例6>
実施例1のカーボンナノチューブのNMP分散液を平均直径が12nm、BET比表面積が180m/g、平均直径/BET比表面積が0.067のカーボンナノチューブ(CNano社製、「Flotube9000」)のNMP分散液へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0088】
<実施例7>
正極組成物中の固形分の全質量を基準として、カーボンブラックの含有量が0.5質量%、カーボンナノチューブの含有量が0.5質量%となるように、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0089】
<実施例8>
正極組成物中の固形分の全質量を基準として、カーボンブラックの含有量が0.9質量%、カーボンナノチューブの含有量が0.1質量%となるように、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0090】
<実施例9>
カーボンブラック反応炉(炉長6m、炉直径0.65m)の上流部に設置されたノズルから原料であるアセチレンを12Nm/h、トルエンを32kg/h、酸素を26Nm/h供給してカーボンブラックを製造し、反応炉の下流部に設置したバグフィルターで捕集した。その後、乾式サイクロン装置、鉄除去用磁石を通過させてタンクに回収した。尚、アセチレン、トルエン、酸素は115℃に加熱してから反応炉へ供給し、カーボンブラックDを得た。得られたカーボンブラックDは、BET比表面積が370m/g、平均一次粒子径が18nm、結晶子サイズ(Lc)が20Åであった。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックDの比(S/S)を算出したところ、0.25であった。
【0091】
実施例1のカーボンブラックをカーボンブラックDへ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0092】
<実施例10>
実施例1の活物質を平均粒子径D50が20μmのコバルト酸リチウム(ユミコア社製、「KD-20」)へ変更したこと、並びに、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、カーボンブラックの含有量が0.9質量%、カーボンナノチューブの含有量が0.1質量%となるようにカーボンブラック及びカーボンナノチューブの添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0093】
<実施例11>
実施例1のカーボンブラックAをカーボンブラックBへ変更したこと、実施例1のカーボンナノチューブのNMP分散液を平均直径が9nm、BET比表面積が250m/g、平均直径/BET比表面積が0.036のカーボンナノチューブ(CNano社製、「Flotube7000」)のNMP分散液へ変更したこと、並びに、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、カーボンブラックの含有量が0.1質量%、カーボンナノチューブの含有量が0.9質量%となるようにカーボンブラック及びカーボンナノチューブの添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0094】
<比較例1>
実施例1のカーボンブラックをBET比表面積が62m/g、平均一次粒子径が36nm、結晶子サイズ(Lc)が20Åのカーボンブラック(イメリスグラファイト&カーボン社製、「SuperPLi」)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックSuperPLiの比(S/S)を算出したところ、1.12であった。
【0095】
<比較例2>
実施例1のカーボンブラックをBET比表面積が87m/g、平均一次粒子径が25nm、結晶子サイズ(Lc)が23Åのカーボンブラック(キャボット社製、「LiTX-HP)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックLiTX-HPの比(S/S)を算出したところ、1.28であった。
【0096】
<比較例3>
実施例1のカーボンブラックAをカーボンブラックCへ変更し、カーボンナノチューブを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0097】
<比較例4>
実施例1のカーボンナノチューブのNMP分散液を平均直径が9nm、BET比表面積が250m/g、平均直径/BET比表面積が0.036のカーボンナノチューブ(CNano社製、「Flotube7000」)のNMP分散液へ変更し、カーボンブラックを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0098】
<比較例5>
実施例1のカーボンブラックをBET比表面積が820m/g、平均一次粒子径が40nm、結晶子サイズ(Lc)が16Åのカーボンブラック(ライオン社製、「ECP」)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックECPの比(S/S)を算出したところ、2.06であった。
【0099】
<比較例6>
実施例1のカーボンナノチューブのNMP分散液を平均直径が12nm、BET比表面積が175m/g、平均直径/BET比表面積が0.069のカーボンナノチューブ(Nanocyl社製、「NC7000」)のNMP分散液へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0100】
<比較例7>
実施例1のカーボンナノチューブのNMP分散液を平均直径が32nm、BET比表面積が110m/g、平均直径/BET比表面積が0.29のカーボンナノチューブ(東京化成工業社製、「MWNT」)のNMP分散液へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0101】
<比較例8>
実施例1のカーボンブラックをBET比表面積が120m/g、平均一次粒子径が26nm、結晶子サイズ(Lc)が27Åのカーボンブラック(オリオン社製、「YS」)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックYSの比(S/S)を算出したところ、0.92であった。
【0102】
<比較例9>
実施例1のカーボンブラックをBET比表面積が343m/g、平均一次粒子径が16nm、結晶子サイズ(Lc)が14Åのカーボンブラック(キャボット社製、「BLACK PEARLS 1000」)へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。また、カーボンブラックAと同様の方法で、カーボンブラックBLACK PEARLS 1000の比(S/S)を算出したところ、3.42であった。
【0103】
<比較例10>
実施例1のカーボンナノチューブのNMP分散液を平均直径が2.5nm、BET比表面積が740m/g、平均直径/BET比表面積が0.003のカーボンナノチューブ(シグマアルドリッチ社製、「SignisFW100」)のNMP分散液へ変更したこと、並びに、正極組成物中の固形分の全質量を基準として、カーボンブラックの含有量が0.9質量%、カーボンナノチューブの含有量が0.1質量%となるようにカーボンブラック及びカーボンナノチューブの添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で電池を作製した。
【0104】
作製したリチウムイオン二次電池について、以下の方法により電池性能を評価した。
【0105】
(電池の評価)
[内部抵抗]
作製した電池を、25℃において、4.3V、0.2C制限の定電流定電圧充電をした後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。次いで、同一条件で5サイクル充電/放電した後、充電深度50%になるように充電した。その後、周波数範囲10MHz~0.001Hz、振動電圧5mVでインピーダンス測定を行い、内部抵抗を測定した。内部抵抗の測定結果を表1~4に示す。
【0106】
[放電レート特性(レート容量維持率)]
作製した電池を、25℃において、4.3V、0.2C制限の定電流定電圧充電をした後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。次いで、再度4.3V、0.2C制限の定電流定電圧で回復充電した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電させ、このときの放電容量を測定した。次いで、回復充電の条件は4.3V、0.2C制限の定電流定電圧にして充電を行い、一方で放電電流は0.5C、1C、2C、3Cと段階的に変化させながら、回復充電と放電とを繰り返して、各放電電流に対する放電容量を測定した。電池の放電レート特性の指標として、0.2C放電時に対する3C放電時の容量維持率をレート容量維持率として算出した。レート容量維持率の算出結果を表1~4に示す。
【0107】
[サイクル特性(サイクル容量維持率)]
作製した電池を、25℃において、4.3V、1C制限の定電流定電圧充電をした後、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。上記の充放電を500サイクル繰り返し、各サイクルにおける放電容量を測定した。電池のサイクル特性の指標として、1サイクル後の容量維持率に対する500サイクル後の容量維持率をサイクル容量維持率として算出した。サイクル容量維持率の算出結果を表1~4に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
表1~4の結果から、上述の実施形態に係る正極組成物を用いて作製した電池は、内部抵抗が小さく、且つ、放電レート特性及びサイクル特性に優れることが確認された。

図1