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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】防振ゴム部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20241212BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241212BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20241212BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20241212BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08L7/00
C08K3/36
C08K5/54
C09K3/00 P
F16F15/08 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024057410
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-03-29
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 信志
(72)【発明者】
【氏名】秋山 薫
(72)【発明者】
【氏名】矢島 高志
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直樹
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-134315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C09K,F16F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム、シリカ、およびシランカップリング剤を含有するゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材であって、前記シリカの含有量が前記天然ゴム100質量部に対して5~100質量部であり、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)に対する下記birth-death pairの個数(Ns)の割合(Ns/Nt×100[%])が0.7%以上である、防振ゴム部材。
birth-death pairの個数(Ns):天然ゴム、シリカ、およびシランカップリング剤を含有するゴム組成物の加硫体の耐久性を示す物性値を目的変数とし、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報を説明変数とする回帰解析を行い、前記回帰解析から得られた回帰式の係数に基づいて抽出された正相関を示すbirth-death pairの個数。
【請求項2】
前記加硫体の耐久性に関する物性値が、厚み2mmのJIS3号ダンベル形状の加硫体を用い、JIS K 6260:2017に準じて伸縮疲労試験を行って測定した耐久回数である、請求項1記載の防振ゴム部材。
【請求項3】
前記birth-death pairの個数(Ns)の割合(Ns/Nt×100[%])が5%以下である、請求項1または2記載の防振ゴム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、電車等の車両等における防振用途に用いられるゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や電車には、振動や騒音の低減を目的として、防振ゴム部材が用いられている。かかる防振ゴム部材には高度な耐久性等が要求されており、これまでも耐久性を高める手法がいくつか提案されている(特許文献1~3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3838154号公報
【文献】特開2017-8161号公報
【文献】特開2006-199899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防振ゴム部材における耐久性に影響する要因としては、例えば、ゴム組成物中に配合されるフィラーの含有量、粒子径、分散性、およびポリマーとの相互作用等が考えられるが、本発明者らは、フィラーの分散形態に着目して研究を重ねた。そして、防振ゴム部材の耐久性とフィラーの分散形態との関連性について鋭意研究を重ねる過程において、パーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報を制御することを着想した。本発明者らは、かかる観点から更なる研究を重ねた結果、パーシステントホモロジー解析から得られた特定のbirth-death pairの個数の割合を制御することによって、高度な耐久性を備える防振ゴム部材を提供し得ることを突き止めた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]~[4]を、その要旨とする。
[1]
ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材であって、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)に対する下記birth-death pairの個数(Ns)の割合(Ns/Nt×100[%])が0.7%以上である、防振ゴム部材。
birth-death pairの個数(Ns):ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体の耐久性を示す物性値を目的変数とし、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報を説明変数とする回帰解析を行い、前記回帰解析から得られた回帰式の係数に基づいて抽出された正相関を示すbirth-death pairの個数。
[2]
前記加硫体の耐久性に関する物性値が、厚み2mmのJIS3号ダンベル形状の加硫体を用い、JIS K 6260:2017に準じて伸縮疲労試験を行って測定した耐久回数である、[1]記載の防振ゴム部材。
[3]
前記ジエン系ゴムが天然ゴムであり、前記フィラーがシリカである、[1]または[2]記載の防振ゴム部材。
[4]
前記birth-death pairの個数(Ns)の割合(Ns/Nt×100[%])が5%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の防振ゴム部材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐久性に優れる防振ゴムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る画像処理、およびパーシステントホモロジー解析を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態に係るパーシステントホモロジー解析を説明するための図である。
図3】本発明の一実施形態に係るパーシステントホモロジー解析を説明するための図である。
図4】実施例1の画像(未伸長状態)の一例を示す図である。
図5】実施例1の画像(伸長状態)の一例を示す図である。
図6】比較例1の画像(未伸長状態)の一例を示す図である。
図7】比較例1の画像(伸長状態)の一例を示す図である。
図8】比較例2の画像(未伸長状態)の一例を示す図である。
図9】比較例2の画像(伸長状態)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
本発明の一実施形態に係る防振ゴム部材(以下「本防振ゴム部材」という場合がある)は、例えば、ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材であって、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)に対する下記birth-death pairの個数(Ns)の割合(Ns/Nt×100[%])が0.7%以上である。
birth-death pairの個数(Ns):ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体の耐久性を示す物性値を目的変数とし、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報を説明変数とする回帰解析を行い、前記回帰解析から得られた回帰式の係数に基づいて抽出された正相関を示すbirth-death pairの個数。
【0009】
前述のとおり、本発明者らの検討の結果、birth-death pairの個数(Ns)が特定割合以上である場合に、防振ゴム部材の耐久性が特に高まることが明らかとなった。具体的には、本発明者らの各種考察の結果、前記birth-death pairの個数(Ns)はゴム(ポリマー)およびフィラーの強固な界面結合やフィラー同士の強固な結合等に実現するための主要な要因であり、かかるbirth-death pairの個数(Ns)の割合が所定値よりも小さい場合には凝集塊同士等の連結が脆弱であり、亀裂(クラック)が生じやすい傾向があることが判明した。従来、防振ゴム部材の技術分野において、防振ゴム部材の耐久性とパーシステントホモロジー解析結果との関連性に関する検証結果は未だ報告されておらず、また、防振ゴム部材の耐久性を高める観点から、特定のbirth-death pairの個数の割合を制御することは全く知られていない。
【0010】
なお、パーシステントホモロジー解析(PH)は、端的にいえば、入力データである画像データに存在する図形の繋がり方を数値化するものである。PHでは、図形を徐々に膨らませていき、その際に発生する「穴」に着目する。図形を膨らませていくと、図形同士が繋がり、穴が「発生」する。さらに図形を膨らませていくと穴が「消失」する。また、もともと存在する穴については、図形を萎ませていくと、穴が途切れるタイミングがある。つまりその直後にその穴は「発生」したことが分かる。「発生」するタイミングを「birth Time」、「消失」するタイミングを「death Time」として記録して、パーシステントダイアグラム情報(PD)を作成する。パーシステントダイアグラム情報は、birth-death pairの散布図として得られ、横軸と縦軸がそれぞれbirthとdeathのピクセル値、birth-death点の密度の大小を色で表される。パーシステントホモロジー解析(PH)の利点の一つとしては、回帰した係数をパーシステントダイアグラム情報と同じ形で表現できるという点がある。これにより、パーシステントダイアグラムのどのペア(いつ発生して、いつ消失した構造か)が目的変数に寄与しているかを解析することができる。本件では、ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体を撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析を行い、耐久性に有利な構造(特定のbirth-death pair)を元のパーシステントダイアグラム(PD図とも呼ばれる)にプロットし、その数を計測している。
【0011】
前記birth-death pairの個数(Ns)の割合は、防振ゴム部材の耐久性をさらに向上させる観点から、例えば、0.8%以上、0.9%以上、1%以上、1.2%以上、1.5%以上、2%以上などである。また、前記birth-death pairの個数(Ns)の割合は、防振ゴム部材の耐久性をさらに向上させる観点から、5%以下、4.5%以下、4%以下、3.5%以下、3%以下などである。
【0012】
また、本防振ゴム部材は、耐久性をさらに向上させる観点から、ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材であって、前記加硫体を未伸長の状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)に対する下記birth-death pairの個数(Nn)の割合(Nn/Nt×100[%])が1.7%以上であることが好ましい。
birth-death pairの個数(Nn):ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体の耐久性を示す物性値を目的変数とし、前記加硫体を未伸長の状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報を説明変数とする回帰解析を行い、前記回帰解析から得られた回帰式の係数に基づいて抽出された正相関を示すbirth-death pairの個数。
【0013】
前記birth-death pairの個数(Nn)の割合[%]は、防振ゴム部材の耐久性を向上させる観点から、例えば、1.8%以上、1.9%以上、2%以上、2.2%以上、2.5%以上、3%以上などである。また、前記birth-death pairの個数(Nn)の割合は、防振ゴム部材の耐久性をさらに向上させる観点から、5%以下、4.5%以下、4%以下、3.8%以下、3.5%以下などである。
【0014】
また、前記birth-death pairの個数(Nn)の割合[%]に対する前記birth-death pairの個数(Ns)の割合[%]との比(Ns[%]/Nn[%])は、防振ゴム部材の耐久性を向上させる観点から、例えば0.4以上が好ましく、より好ましくは0.5以上、さらにより好ましくは0.6以上などである。また、通常1.0以下、例えば0.9以下、0.8以下などである。
【0015】
本防振ゴム部材において、birth-death pairの個数(Nn)の割合やbirth-death pairの個数(Ns)の割合を上記範囲に制御する方法は特に制限されないが、例えば、ゴム組成物を構成するポリマーやフィラー等の割合などを適宜調整すると共に、各種材料を混練して混練物を得る工程において、各種材料を混練機に投入する時期を調整したり、温度条件を段階的に調整する方法等が好適な例として挙げられる。具体的には、後述する製造方法が好ましい。
【0016】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
本防振ゴム部材は、ジエン系ゴムおよびフィラーを少なくとも含有するゴム組成物の加硫体からなる。ゴム組成物はジエン系ゴムを主成分とするものである。ここで「主成分」とは、ゴム組成物全量(100質量%)に対して、ジエン系ゴムを40質量%以上含むことを意味するものである。
ジエン系ゴムの含有量は前記範囲において適宜設定することができ、以下に限定はされないが、例えば、ゴム組成物全量(100質量%)に対して45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上であってもよく、また、例えば、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、68質量%以下等であってもよい。
【0018】
〔ジエン系ゴム〕
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)を主成分とするジエン系ゴムが挙げられる。ここで、「主成分」とは、ジエン系ゴム全量(100質量%)に対して天然ゴムを50質量%以上含むことを意味するものである。
天然ゴムの含有量は上記範囲内にて適宜設定することができ、以下に限定されないが、例えば、ジエン系ゴム全量(100質量%)に対して60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらにより好ましく、また90~100質量%であってもよい。
【0019】
また、天然ゴム以外のジエン系ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なお、これらのジエン系ゴムは、天然ゴムと併用することが望ましい。
天然ゴム以外のジエン系ゴムの含有量としては、以下に限定されないが、ジエン系ゴム全量(100質量%)に対して50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらにより好ましい。天然ゴム以外のジエン系ゴムの含有量は前記範囲内において適宜設定することができ、例えば0~20質量%、0~10質量%、0~5質量%であってもよい。
【0020】
〔フィラー〕
フィラーとしては、無機フィラー、有機フィラーが挙げられ、具体的には、例えば、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、耐久性向上の観点から、シリカ、カーボンブラックが好ましい。
【0021】
シリカとしては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0022】
シリカのBET比表面積は、例えば、10~320m2/gが好ましく、より好ましくは50~230m2/gである。なお、シリカのBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0023】
シリカのDBA(ジ-n-ブチルアミン)吸着量は、例えば、20~100mmol/kgが好ましい。なお、DBA吸着量は、シリカ表面の水酸基に吸着されるDBAの量を示したものであり、1kgのシリカに吸着されるDBAのmmol数で表される。
【0024】
カーボンブラックとしては、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等の種々のグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0025】
カーボンブラックのBET比表面積は、例えば、10~150m2/gが好ましく、より好ましくは15~100m2/g、さらにより好ましくは20~76m2/g、特に好ましくは25~65m2/gである。なお、カーボンブラックのBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0026】
カーボンブラックのヨウ素吸着量は、例えば、10~150mg/gが好ましく、より好ましくは10~75mg/g、さらにより好ましくは20~65mg/gである。また、カーボンブラックのDBP(フタル酸ジブチル)吸収量は、20~180mL/100gが好ましく、より好ましくは20~150mL/100gである。
なお、カーボンブラックのヨウ素吸着量は、JISK6217-1(A法)に準拠して測定された値であり、カーボンブラックのDBP吸収量は、JISK6217-4に準拠して測定された値である。
【0027】
フィラーの含有量としては、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して、5~100質量部が好ましく、より好ましくは10~80質量部、さらにより好ましくは15~75質量部、特に好ましくは20~60質量部である。フィラーの含有量は、前記範囲内にて適宜設定することができ、例えば、30~55質量部、35~50質量部等であってもよい。
【0028】
〔その他の成分〕
前記ゴム組成物は、ジエン系ゴム、フィラー以外の成分(その他の成分)を必要に応じて適宜含有する。例えば、シランカップリング剤、酸化亜鉛、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセスオイルなどが挙げられる。
【0029】
〔シランカップリング剤〕
シランカップリング剤としては、例えば、メルカプト系シランカップリング剤、スルフィド系シランカップリング剤、アミン系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0030】
メルカプト系シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0031】
スルフィド系シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス-(3-(トリエトキシシリル)-プロピル)-テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0032】
アミン系シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0033】
エポキシ系シランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0034】
ビニル系シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル・トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニル・トリス(2-メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0035】
シランカップリング剤の含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.3~20質量部が好ましく、より好ましくは0.5~10質量部である。シランカップリング剤の含有量は、上記範囲内にて適宜設定することができ、例えば、0.8~9質量部、1~6質量部等であってもよい。
【0036】
〔酸化亜鉛〕
酸化亜鉛としては、例えば、酸化亜鉛一種、酸化亜鉛二種、酸化亜鉛三種、微細酸化亜鉛等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0037】
酸化亜鉛の含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対し、2~20質量部が好ましく、より好ましくは2.5~15質量部である。酸化亜鉛の含有量は、上記範囲にて適宜設定することができ、例えば、3~10質量部、3.5~7質量部等であってもよい。
【0038】
〔硫黄系加硫剤〕
硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄(粉末硫黄,沈降硫黄,不溶性硫黄)、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0039】
硫黄系加硫剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.1~10質量部が好ましく、より好ましくは0.5~8質量部である。硫黄系加硫剤の含有量は、前記範囲にて適宜設定することができ、例えば、0.8~7質量部、1.2~6.5質量部、1.5~6質量部等であってもよい。
【0040】
〔加硫促進剤〕
加硫促進剤としては、例えば、チアゾール系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、アルデヒドアンモニア系加硫促進剤、アルデヒドアミン系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤等の加硫促進剤が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0041】
加硫促進剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.1~10質量部が好ましく、特に好ましくは0.3~5質量部である。加硫促進剤の含有量は、前記範囲にて適宜設定することができ、例えば、0.5~4質量部、0.6~4.5質量部、0.8~3質量部等であってもよい。
【0042】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2-メルカプトベンゾチアゾールナトリウム塩(NaMBT)、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩(ZnMBT)等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0043】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NOBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾイルスルフェンアミド(BBS)、N,N'-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾイルスルフェンアミド等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0044】
チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0045】
〔加硫助剤〕
加硫助剤としては、例えば、ステアリン酸、酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0046】
加硫助剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.1~10質量部が好ましく、特に好ましくは0.3~7質量の範囲である。加硫助剤の含有量は、前記範囲にて適宜設定することができ、例えば、0.5~6質量部、1.0~5.5質量部、1.5~5質量部等であってもよい。
【0047】
〔老化防止剤〕
老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0048】
老化防止剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、0.5~15質量部が好ましく、特に好ましくは0.6~10質量部の範囲である。老化防止剤の含有量は、前記範囲にて適宜設定することができ、例えば、0.7~6質量部、0.8~3質量部等であってもよい。
【0049】
〔プロセスオイル〕
プロセスオイルとしては、例えば、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、アロマ系オイル等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0050】
プロセスオイルの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、1~35質量部が好ましく、特に好ましくは1.5~30質量の範囲である。プロセスオイルの含有量は、前記範囲にて適宜設定することができ、例えば、1.6~20質量部、1.8~10質量部、2~8質量部等であってもよい。
【0051】
〔製造方法〕
本防振ゴム部材の製造方法の一例について説明する。以下の製造方法に限定されるものではないが、birth-death pairの個数(Nn、Ns)の割合を上記範囲に制御する観点から、下記の製造方法が好ましい。
【0052】
すなわち、まず、上記ジエン系ゴムやフィラー等の各成分を、50~160℃、1~10分間、混練機で混練して混練物を得る工程(I)を行う。次いで、前記混錬物を、80~170℃、2~10分間、混練機で混練して混練物を得る工程(II)と、混練機から前記混練物を取り出し、再度混練機に投入して混練する工程(III)と、混練物に対して酸化亜鉛を加えて混練する工程(IV)と、混練物に対して硫黄系加硫剤を加えて混練する工程(V)とを順に行う製造方法が好ましい。
【0053】
[工程(I)]
工程(I)は、通常、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、50~160℃、1~10分間、混練機による混練が行われる。工程(I)において、好ましい条件としては、55~140℃で3~7分間であり、より好ましくは60~120℃で3~7分間である。工程(I)を行うことにより、本防振ゴム部材における上記birth-death pairの個数(Nn、Ns)の割合を好適な範囲に制御し易くなる傾向がある。
【0054】
なお、工程(I)では、通常、ジエン系ゴム、シリカ等のフィラー、シランカップリング剤等のその他の成分が混練されるが、これらの成分は、全て同時に配合して混練してもよく、また、工程(I)の途中で段階的に加えてもよい。
【0055】
また、工程(I)における特に好ましい条件としては、ジエン系ゴムを混練機に投入し、55~63℃付近から昇温させながら約45秒間~1分30秒間の混練を行い、次いで、フィラー、シランカップリング剤、プロセスオイル等のその他の成分(但し、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤を除く)を添加して、100~130℃で約1分30秒間~3分間程度の混練を行うことである。
【0056】
[工程(II)]
工程(II)は、通常、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、80~170℃、2~10分間、好ましくは100~150℃で3~7分間、混練機による混練が行われる。
なお、工程(II)で使用される混練機は、工程(I)で使用される混練機と同じであっても異なっていてもよい。
【0057】
[工程(III)]
工程(III)は、通常、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、80~170℃で2~10分間、好ましくは100~150℃で3~7分間、混練機による混練が行われる。工程(III)で使用される混練機は、工程(II)で使用される混練機と同じであっても異なっていてもよい。
【0058】
なお、工程(II)および(III)は、工程(I)を経た後であるため、工程(II)および(III)においては、通常、ジエン系ゴム、シリカ等のフィラー、シランカップリング剤等を添加することはなく、また、酸化亜鉛、硫黄系加硫剤を添加することもない。但し、工程(II)および(III)において、その他の成分を添加することを排除するものではない。
【0059】
また、工程(III)を複数回繰り返し行うと、ゴム組成物の加硫反応がより均一となる傾向があるため好ましい。工程(III)の繰り返し回数は、1~5回が好ましく、より好ましくは2~4回である。
また、工程(III)を、工程(II)を経て取り出した混練物が45℃以下(25~40℃がより好ましく、30~40℃がさらに好ましい。)になった時点で、再度混練機に投入して混練する工程とするのが好ましい。
【0060】
[工程(IV)]
工程(IV)は、混練物に対して酸化亜鉛を加えて混練する工程であり、通常、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、80~170℃で2~10分間、好ましくは100~150℃で3~7分間、混練機による混練が行われる。工程(IV)で使用される混練機は、工程(I)~(III)で使用される混練機と同じであっても異なっていてもよい。
なお、工程(IV)は、工程(I)~(III)を経た後であるため、工程(IV)においてもジエン系ゴム、シリカ等のフィラー、シランカップリング剤等を添加することはなく、硫黄系加硫剤を添加することもない。但し、その他の成分を添加することを排除するものではない。
【0061】
[工程(V)]
上記工程(V)は、混練物に対して硫黄系加硫剤を加えて混練する工程であり、通常、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により行われ、30~110℃で1~10分間、好ましくは40~100℃で2~8分間、上記混練機による混練が行われる。
なお、上記工程(V)は、工程(I)~(IV)が完了した後に行われるため、上記工程(V)において、硫黄系加硫剤以外の成分を添加することはないが、必要に応じ、加硫促進剤等の任意成分を加えることができる。
また、上記工程(V)は、上記工程(I)~(IV)を経て得られた混練物が45℃以下(25~45℃であるとより好ましく、30~40℃であるとさらに好ましい。)になった時点で行うと、急激に反応が進むことなく、加硫成形に際し、より均一な加硫を行うことができるようになる。
【0062】
このような製造方法により得られたゴム組成物を、プレス成形や、射出成形等により、高温(150~170℃)で5~30分間加硫成形して、本発明において目的とする防振ゴム部材(加硫体)を製造することができる。
【0063】
〔birth-death pairの個数(Nn、Ns)の割合〕
本防振ゴム部材におけるbirth-death pairの個数(Nn、Ns)の割合は、位相的データ解析と呼ばれるトポロジーを応用したデータ解析手法の一つであるパーシステントホモロジー(PH)解析を用いて特定される。
まず、ゴム組成物からなる加硫体から作製された撮影用サンプルを作製し、透過電子顕微鏡を用いて画像を取得し、画像の二値化処理を行い、パーシステントホモロジー(PH)解析を行う(図1~3参照)。
【0064】
パーシステントホモロジー解析(PH)は、前述のとおり、端的にいえば、入力データである画像データに存在する図形の繋がり方を数値化するものである。PHでは、図形を徐々に膨らませていき、その際に発生する「穴」に着目する。図形を膨らませていくと、図形同士が繋がり、穴が「発生」する。さらに図形を膨らませていくと穴が「消失」する。また、もともと存在する穴については、図形を萎ませていくと、穴が途切れるタイミングがある。つまりその直後にその穴は「発生」したことが分かる。「発生」するタイミングを「birth Time」、「消失」するタイミングを「death Time」として記録して、パーシステントダイアグラム情報(PD)を作成する。パーシステントダイアグラム情報は、birth-death pairの散布図として得られ、横軸と縦軸がそれぞれbirthとdeathのピクセル値、birth-death点の密度の大小を色で表される。なお、パーシステントホモロジー解析(PH)の利点の一つとして、回帰した係数をパーシステントダイアグラムと同じ形で表現できるという点がある。これにより、パーシステントダイアグラム情報のどの点(いつ発生して、いつ消失した構造か)が目的変数に寄与しているかを解析することができる。本件では、耐久性に有利な構造(特定のbirth-death pair)を元のパーシステントダイアグラム(PD図とも呼ばれる)にプロットし、また、その数を計測している。
【0065】
具体的には、ベクトル化されたパーシステントダイアグラム情報、および耐久性試験の測定結果(例えば、耐久回数の実測値)を含むデータセットを用いて回帰解析を行い、導出された回帰式の係数に基づいてパーシステントダイアグラム情報を再構成する(図3参照)。
再構成されたパーシステントダイアグラム情報におけるbirth-death pairの群においては、防振ゴム部材の耐久性向上に対して強い正相関を示すbirth-death pairの群(PE1)が可視化される(図3参照)。
【0066】
パーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)および前記抽出されたbirth-death pairの群(PE1)に含まれるbirth-death pairの個数(Nn、Ns)をカウントし、両者の割合を計算する。
【0067】
以下、パーシステントホモロジー(PH)解析を用いて特定されるbirth-death pairの個数(Nn、Ns)について、さらに詳細に説明する。
図1(a)に示すとおり、透過電子顕微鏡を用いて、未伸長状態の撮影用サンプルについて画像を撮影する。また、伸長状態の撮影用サンプルについて画像を撮影する。
次いで、前記画像について二値化処理を行う(図1(b))。二値化処理としては、適応的二値化処理等を行う。適応的二値化処理は、入力画像である画像の各ピクセルについて、その周囲の一定領域内のピクセルの値を取得し、領域内のピクセル値の平均値または加重平均値を計算して閾値を求め、当該閾値を入力画像の該当ピクセルに適用する処理である。
具体的には、適応的二値化は、例えば、PythonのライブラリであるOpenCV(cv2.adaptiveThreshold)を用いて行う。
【0068】
なお、二値化処理の前処理として、ノイズ除去処理を行うことが好ましい。ノイズ除去処理としては、例えば、Non-local means filterを用いた処理を行う。Non-local means filterは、TEM画像中の類似領域を探索し、それらの類似度を重みとした加重平均を求め、ノイズ除去を行う処理である。具体的には、ノイズ除去処理は、例えば、PythonのライブラリであるOpenCV(cv2.fastNlMeansDenoising())を用いて行う。
【0069】
ノイズ除去処理および二値化処理後の画像データを入力データとして、パーシステントホモロジー解析(PH)を行い、二値化画像データにおける黒色のピクセル(フィラー部)に着目した1次のパーシステントダイアグラム(persistence diagrams:PD)を計算し、次いで、ベクトル化を行う。
【0070】
具体的には、黒pixel(フィラー部)と白pixel(ゴム(ポリマー)部)の境界を基準にマンハッタン距離をpixel毎に算出し、マンハッタン距離における白黒の閾値を連続的変化させることで境界面を膨張・収縮させ、穴が「発生」する閾値(Birth Time)と、「消滅」する閾値(Death Time)を記録して、パーシステントダイアグラム情報(PD)を作成する。かかるパーシステントホモロジー解析(PH)は、例えば、PythonのライブラリであるHomCloud(https://homcloud.dev/)を用いて行うことができる。
【0071】
次に、パーシステントダイアグラム(PD)のベクトル化を行う。ベクトル化は、例えば、PI(Persistence Image)の手法を用いて行う(Henry Adams et al. "Persistence images: a stable vector representation of persistent homology". In:J. Mach. Learn. Res.18 (2017), Paper No. 8, 35.など参照)。PI(Persistence Image)は、パーシステントダイアグラム(PD)のヒストグラムの各ピンの頻度数をベクトルの各要素と見做す手法である。カーネル密度推定を用いて、PDの2次元密度分布関数を算出した上で、座標上の密度分布の値を取得し、それをベクトルデータとする。具体的は、例えば下記式(数1)を用いてベクトル化を行う。また、ガウスカーネルにおけるバンド幅、および、ベクトル化する際のグリッドサイズは交差検証法に基づいて設定される。
【0072】
【数1】
【0073】
回帰式の導出には、ベクトル化されたパーシステントダイアグラム情報(Persistence Image)を説明変数、耐久性試験における耐久回数(実測データ)を目的変数とするデータセットを用い、これらの相関解析を行うべく、機械学習的手法、具体的にはRidge回帰などの回帰解析を行う。かかる解析は、例えば、Pythonのライブラリであるscikit-learnを用いて行うことができる。
【0074】
前記耐久性試験における耐久回数は、ゴム組成物をプレス圧15MPa、150℃×30分間の条件でプレス成形し、厚み2mmのシート状の加硫体を作製し、作製したシート状の加硫体からJIS3号ダンベルを打ち抜き、JIS K 6260:2017に準じて伸縮疲労試験を行って測定される。なお、耐久回数が多いほど耐久性が優れている。
【0075】
前記耐久性試験における耐久回数としては、以下に限定はされないが、例えば2000回以上が好ましく、4000回以上がより好ましい。
【0076】
次に、回帰式の係数に基づいて、パーシステントダイアグラム情報を再構成する。具体的には、例えば、ベクトル化されたパーシステントダイアグラム情報と耐久性試験における耐久回数との相関性を可視化するために、回帰式の係数に基づいてパーシステントダイアグラム情報を再構成する(図3参照。例えば、I. Obayashi, Y. Hiraoka, and M. Kimura. Persistence Diagrams with Linear Machine Learning Models. Journal of Applied and Computational Topology 1, 3-4, 421-449, 2018.参照)。
かかるパーシステントダイアグラム情報の再構成は、例えば、PythonのライブラリであるHomCloudを用いて行うことができる。
【0077】
前記再構成されたパーシステントダイアグラム情報におけるbirth-death pairの群のうち、正相関を示すbirth-death pair(PE1)を抽出する(図3参照)。具体的には、正相関を示すbirth-death pairを抽出し、その個数をカウントし、割合を求めることができる。当該計算は、例えば、PythonのライブラリであるHomCloudを用いて行うことができる。なお、前記抽出においては、例えば実施例に記載の閾値を用いることができる。
【0078】
本実施形態に係る防振ゴム部材は、パーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)に対するbirth-death pairの個数(Ns)の割合(Nn/Nt×100[%])が0.7%以上に制御されており、耐久性に優れた構造を示すものとなる。
【実施例
【0079】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。まず、下記に示す材料を準備した。
【0080】
[NR]
天然ゴム
【0081】
[酸化亜鉛]
酸化亜鉛二種、堺化学工業社製
【0082】
[ステアリン酸]
ビーズステアリン酸さくら、日本油脂社製
【0083】
[老化防止剤]
アンチゲン6C、住友化学社製
【0084】
[シリカ]
ニプシールVN3、東ソー・シリカ社製(BET比表面積200m2/g)
【0085】
[プロセスオイル]
サンセン410、日本サン石油社製
【0086】
[シランカップリング剤]
NXTZ45、MOMENTIVE社製
【0087】
[加硫促進剤]
サンセラーCZ-G、三新化学社製
【0088】
[硫黄]
硫黄、軽井沢製錬所社製
【0089】
〔実施例1〕
上記各材料を、後記の表1に示す割合で配合し、ゴム組成物を調製した。
具体的には、天然ゴム(NR)をバンバリーミキサーに投入して60℃付近から約1分間混錬し、次いで、シリカ、シランカップリング剤、プロセスオイルを添加して120℃で2分間混練を行った後(工程(I))、同バンバリーミキサーを用いて140℃で5分間混練を行った(工程(II))。
次いで、再混練工程として、前記で得られた混練物をバンバリーミキサーから一旦取り出し、混練物が40℃になった時点で再度バンバリーミキサーに投入して140℃、5分間の混練を行った。上記再混練工程は2回繰り返して行った(工程(III))。
再混練工程の後、酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤を加え、上記再混練工程と同様の工程を1回行った(工程(IV))。
次いで、混練物をオープンロールに移し、混練物(40℃)に、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤を配合し、オープンロールを用いて60℃で5分間混練することにより(工程(V))、ゴム組成物を調製した。
【0090】
〔比較例1〕
上記各材料を、後記の表1に示す割合で配合し、ゴム組成物を調製した。
具体的には、天然ゴム(NR)、シリカ、シランカップリング剤、プロセスオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤をバンバリーミキサーに投入して140℃で5分間混練を行った(工程II)。
次いで、混練物をオープンロールに移し、混練物(40℃)に、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤を配合し、オープンロールを用いて60℃で5分間混練することにより(工程(V))、ゴム組成物を調製した。
【0091】
〔比較例2〕
上記各材料を、後記の表1に示す割合で配合し、ゴム組成物を調製した。
具体的には、天然ゴム(NR)をバンバリーミキサーに投入して60℃付近から約1分間混錬し、次いで、シリカ、シランカップリング剤、プロセスオイルを添加して120℃で2分間混練を行った後(工程(I))、同バンバリーミキサーを用いて140℃で5分間混練を行った(工程(II))。
次いで、再混練工程として、酸化亜鉛、ステアリン酸、および老化防止剤を加え、上記再混練工程と同様の工程を1回行った(工程(IV))。
次いで、混練物をオープンロールに移し、混練物(40℃)に、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤を配合し、オープンロールを用いて60℃で5分間混練することにより(工程(V))、ゴム組成物を調製した。
【0092】
《耐久性試験(耐久回数)の測定》
前記実施例および比較例に示す各ゴム組成物を、プレス圧15MPa、150℃×30分間の条件でプレス成形(加硫)し、厚み2mmのゴムシートを作製した。かかるゴムシートから、JIS3号ダンベルを打ち抜き、このダンベルを用い、JIS K 6260に準じて伸縮疲労試験を行い、耐久回数を測定した。また、耐久回数は、N=3の平均値とした。比較例1の耐久回数を100とした場合の、実施例1および比較例2の耐久回数の指数換算値を求めた。その結果を表1に示す。
【0093】
また、耐久回数(指数換算値)を以下の基準により評価し、その結果を表1に示す。
◎:155超
〇:130超155以下
△:100超130以下
×:100以下
【0094】
《birth-death pairの個数(Nn、Ns)の割合》
以下の手順に沿って、実施例1、比較例1、および比較例2のbirth-death pairの個数をカウントし、所定の個数の割合を計算した。
【0095】
〈画像の撮影〉
各ゴム組成物を、プレス圧15MPa、150℃×30分間の条件でプレス成形(加硫)し、厚み2mmのゴムシートを作製した。上記で得たゴムシートから、常法に従い、薄片サンプルを作製し、薄片サンプルのTEM画像を撮影した。
具体的には、引張カートリッジに前述のゴムシートを接着剤(アラルダイト、ニチバン社製)を用いて貼付し、クライオチャンバー内で前記ゴムシートおよびダイアモンドナイフを十分冷却した後(-80℃)、縦150μm×横200μmの長方形にトリミングし、厚み約130nmの薄片サンプルを切り出した(切削速度:0.3mm/s)。なお、後述する引張方向(伸長方向)と直交する方向が切削方向である。
【0096】
次に、前述の引張カートリッジを引張TEMホルダーに固定し、透過型電子顕微鏡(JEM-2800、日本電子社製)を用いて、伸長前の薄片サンプルのTEM画像(伸長率0%)、および、伸長状態(伸長率150%)の薄片サンプルのTEM画像を各々撮影した。なお、伸長状態の薄片サンプルのTEM画像の撮影は、低電子線量で所定の伸長率(150%)まで伸長したことを確認し、その後、電子線量を増やし、倍率を上げて撮影した。
【0097】
薄片サンプルの作製およびTEM画像の撮影には、ミクロトーム(クライオミクロトーム UC7、Leica社製)、引張カートリッジおよび引張TEMホルダー(Soft Material Model、メルビル社製)、並びに、透過型電子顕微鏡(JEM-2800、日本電子社製)を用いた。また、撮影条件の詳細は以下のとおりである。
・カメラ Orius1000(Gatan)
・加速電圧:200kV
・観察倍率:×100k
・観察像種:TEM(Low-Mag)e-/secÅ2
・スポットサイズ:5
・伸長率算出時の電子線量:4×10-3 e-/secÅ2以下
【0098】
〈TEM画像の二値化〉
前記により得られたTEM画像(画像サイズ4008×2672pixel、8bit、視野角約7.5μm×4.3μm)を、PC(パーソナルコンピュータ)およびPythonのライブラリであるOpenCV(cv2.fastNlMeansDenoising())を用いてノイズ処理を行った。条件は、h:10、Template Window size:11、Search Window size:21とした。
次いで、PythonのライブラリであるOpenCV(cv2.adaptiveThreshold)を用いて二値化処理を行った。条件は、Block size:131、閾値の補正:+5、閾値の計算:算術平均の条件とした。
【0099】
<パーシステントダイアグラム情報(特徴量)の抽出>
PythonのライブラリであるHomCloudを用いて、前記により得られた二値化TEM画像を入力データとし、黒色のピクセル(フィラー部)に着目した1次のパーシステントダイアグラム情報(PD)を計算した。なお、着目した黒色のピクセル(フィラー部)が縮んでいくのと広がっていくのと両方を抽出するため、distance transform()の引数はsigned=Trueとした。
また、HomCloudのライブラリであるPI(Persistence Image)を用いて、パーシステントダイアグラム情報のベクトル化を行った。ベクトル化は前述の「数1」に基づくものであり、その条件は、σ=3.0、C=0.001、p=4であり、x_range=(-50,20)、xbins=70とした。
【0100】
<パーシステントダイアグラム情報の回帰解析>
HomCloudの解析機能を用いて、実施例1、比較例1および比較例2の加振耐久試験の実測値データ(表1の「耐久回数」)を目的変数とし、ベクトル化されたパーシステントダイアグラム情報(PI:Persistence Image)を説明変数として、Ridge回帰を行った。正則化条件αは200に設定した。
前述のRidge回帰によって構築された回帰式は、R2=0.6以上であった(具体的には、R2=0.85(未伸長のTEM画像)、R2=0.95(伸長率150%のTEM画像)。
(回帰式)y=a・x+b
(y:破断回数、a:係数、x:ベクトル化されたパーシステントダイアグラム情報、b:定数項)
【0101】
<耐久性と相関するパーシステントダイアグラム情報の抽出および算出>
HomCloudの解析機能を用いて、上記回帰式の係数aに基づいてパーシステントダイアグラム情報を再構成し、正相関を示すパーシステントダイアグラム情報を抽出し、birth-death pairの個数をカウントした。なお、本実施例では、正相関を示すパーシステントダイアグラム情報を抽出する閾値として、強い正相関を示すものを抽出するため、「value>350」に設定した。具体的には、係数aがvalue350より大きい範囲(birth、death time)を探索し、その範囲に存在するbirth-death pairを特定し、当該pairの数をカウントする。
【0102】
HomCloudを用いて得られたパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)に対する、前記正相関を示すパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの個数(Nn、Ns)の割合を計算した。その結果を表1に示す。また、前記個数はN=5の平均値とした。
【0103】
また、HomCloudの解析機能を用いて、正相関を示すパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairを、二値化画像に重ねて可視化した。その結果を図4図9に示す。図4は未伸長状態の実施例1、図5は伸長状態の実施例1であり、図6は未伸長状態の比較例1、図7は伸長状態の比較例1であり、図8は未伸長状態の比較例2、図9は伸長状態の比較例2である。なお、前記の図中の白、黒またはグレーで示す部分のうち、グレーで示す部分が正相関を示すパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairに対応する部分である。すなわち、当該部分は耐久性に有利な構造を可視化したものである。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すように、本発明に規定するbirth-death pairの個数割合(Ns)が0.7%以上である実施例1は、防振ゴム部材に求められる耐久性において優れていることが分かる。
他方、本発明に規定するbirth-death pairの個数割合(Ns)が0.7%未満である比較例1および比較例2では、実施例1に比して、防振ゴム部材に求められる耐久性が劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の防振ゴム部材は、自動車の車両等に用いられるエンジンマウント、スタビライザブッシュ、サスペンションブッシュ、モーターマウント、サブフレームマウント等の構成部材として好ましく用いられる。また、それ以外にも、コンピューターのハードディスクの制振ダンパー、洗濯機等の一般家電製品の制振ダンパー、建築・住宅分野における建築用制震壁,制震(制振)ダンパー等の制震(制振)装置および免震装置の構成部材にも用いることができる。
【要約】
【課題】耐久性に優れる防振ゴム部材を提供する。
【解決手段】
ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体からなる防振ゴム部材であって、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報に含まれるbirth-death pairの全個数(Nt)に対する下記birth-death pairの個数(Ns)の割合(Ns/Nt×100[%])が0.7%以上である、防振ゴム部材。
birth-death pairの個数(Ns):ジエン系ゴムおよびフィラーを含有するゴム組成物の加硫体の耐久性を示す物性値を目的変数とし、前記加硫体を伸長率150%で伸長した状態で撮影した画像に対するパーシステントホモロジー解析から得られたパーシステントダイアグラム情報を説明変数とする回帰解析を行い、前記回帰解析から得られた回帰式の係数に基づいて抽出された正相関を示すbirth-death pairの個数。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9