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特許7603189計測システム、計測演算装置、計測演算方法および計測演算プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-11
(45)【発行日】2024-12-19
(54)【発明の名称】計測システム、計測演算装置、計測演算方法および計測演算プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20241212BHJP
   G06F 17/14 20060101ALI20241212BHJP
   G06F 17/18 20060101ALI20241212BHJP
   H03M 7/30 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G06F17/14 510
G06F17/18 D
H03M7/30 A
H03M7/30 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024095460
(22)【出願日】2024-06-12
【審査請求日】2024-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2023106426
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 由幹
(72)【発明者】
【氏名】大▲高▼ 政祥
(72)【発明者】
【氏名】足立 新
(72)【発明者】
【氏名】翁 志強
(72)【発明者】
【氏名】寺島 詳二
(72)【発明者】
【氏名】石畠 宏平
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-087821(JP,A)
【文献】国際公開第2020/145215(WO,A1)
【文献】特開2021-115429(JP,A)
【文献】加藤由幹,サブナイキストサンプリングと圧縮センシングを用いたプロペラの故障診断,日本機械学会第19回評価・診断に関するシンポジウム,2021年12月03日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M13/00-13/045
99/00
G06F17/00-17/18
H03M 3/00- 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の回転位置又は回転速度に対応して変化する被測定信号を所定のサンプリング周波数またはサンプリング角周波数で、第1期間に逐次測定する逐次測定部と
前記被測定信号または前記逐次測定部で測定した離散時間信号を用いて、所定のランダム行列Φでランダムに測定または選択した第1ランダム測定値を出力するランダム測定値出力部と、
前記第1ランダム測定値をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1を、前記ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式(1)、式(2)で定義した式(3)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x}を推定する推定部と、
前記第1ランダム測定ベクトルy1および前記ランダム行列Φに基づいて、最も誤差が少ない正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になる前記正則化係数λ0を決定する正則化係数設定部と
前記被測定信号を、前記ランダム行列Φに基づいて、前記第1期間の後の第2期間、ランダムに測定するランダム測定部とを有し、
前記推定部は、決定された前記正則化係数λ0を用いて、前記ランダム測定部でランダムに測定した第2ランダム測定ベクトルyを、前記ランダム行列Φと前記n×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式(1)、式(2)で定義した式(4)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x }を推定する
ことを特徴とする計測システム。

【数1】

【数2】

【数3】

【数4】
【請求項2】
前記第1期間で測定する被測定信号は、計測用センサで測定する信号であり、
前記ランダム測定部が前記第2期間、ランダムに測定する被測定信号は、前記計測用センサよりも周波数特性が悪い汎用センサで測定するものであり、
前記ランダム測定部が出力する前記第2ランダム測定ベクトルyを前記汎用センサの周波数特性で補正する周波数補正部をさらに備え、
前記推定部は、前記第2期間、前記周波数補正部の出力データを用いて、前記直交基底行列ψの係数x={x}を推定する
ことを特徴とする請求項に記載の計測システム。
【請求項3】
前記第2期間で前記ランダム測定部が出力する前記第2ランダム測定ベクトルyを記憶する記憶部をさらに備え、
前記推定部は、前記記憶部に記憶されたデータを用いて、前記直交基底行列ψの係数x={x}を推定する
ことを特徴とする請求項に記載の計測システム。
【請求項4】
前記第2期間において、前記係数xに対する異常度を演算する異常度演算部と、
前記異常度演算部が異常を検知したら報知する報知部と
をさらに有することを特徴とする請求項に記載の計測システム。
【請求項5】
前記ランダム測定値出力部は、前記被測定信号を前記回転位置または回転速度に同期した値を出力するものであり、
前記ランダム測定部は、前記被測定信号を前記回転位置または回転速度に同期して測定するものであり、
前記基底ベクトル{Ψ}は、前記回転位置を変数とするフーリエ基底ベクトルであり、
前記係数xは、フーリエ係数である
ことを特徴とする請求項に記載の計測システム。
【請求項6】
前記逐次測定部で測定した離散時間信号を離散フーリエ変換し、フーリエ係数を出力するDFT演算部をさらに備え、
前記誤差は、前記推定部で推定した係数xと前記フーリエ係数とを用いて演算した、前記離散時間信号と前記第1ランダム測定値とのパワーの差分であり、
前記差分が所定範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の計測システム。
【請求項7】
前記パワーの差分は、前記係数xと前記フーリエ係数との差の二乗和である
ことを特徴とする請求項に記載の計測システム。
【請求項8】
前記パワーの差分は、前記係数xを用いて演算したパワーと、前記フーリエ係数を用いて演算したパワーとの差分である
ことを特徴とする請求項に記載の計測システム。
【請求項9】
前記ランダム行列は、前記被測定信号をランダムに間引いたことを示す行列である
ことを特徴とする請求項1に記載の計測システム。
【請求項10】
前記ランダム行列Φは、測定開始時刻をランダムにしたことを示す行列である
ことを特徴とする請求項1に記載の計測システム。
【請求項11】
前記基底ベクトル{Ψ}は、時間を変数とするフーリエ基底ベクトルであり、
前記係数xは、フーリエ係数である
ことを特徴とする請求項1に記載の計測システム。
【請求項12】
回転機械の回転位置又は回転速度に対応して変化する被測定信号を用いて、第1期間、所定のランダム行列Φでランダムに測定した第1ランダム測定値をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1を、前記ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式(5)、式(6)で定義した式(7)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x}を推定する推定部と、
前記第1ランダム測定ベクトルy1および前記ランダム行列Φに基づいて、最も誤差が少ない正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように、前記正則化係数λ0を決定する正則化係数設定部と、
前記被測定信号を、前記ランダム行列Φに基づいて、前記第1期間の後の第2期間、ランダムに測定するランダム測定部とを有し、
前記推定部は、決定された前記正則化係数λ0を用いて、前記ランダム測定部でランダムに測定した第2ランダム測定ベクトルyを、前記ランダム行列Φと前記n×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式(1)、式(2)で定義した式(4)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x }を推定する
ことを特徴とする計測演算装置。
【数5】

【数6】

【数7】

【数8】
【請求項13】
回転機械の回転位置又は回転速度に対応して変化する被測定信号を用いて、第1期間、所定のランダム行列Φでランダムに測定した第1ランダム測定値をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1を、前記ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式()、式(10)で定義した式(11)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x}を推定する推定ステップと、
前記第1ランダム測定ベクトルy1および前記ランダム行列Φに基づいて、最も誤差が少ない正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように、前記正則化係数λ0を決定する正則化係数設定ステップと
前記被測定信号を、前記ランダム行列Φに基づいて、前記第1期間の後の第2期間、ランダムに測定するランダム測定ステップとを実行し、
前記推定ステップは、決定された前記正則化係数λ0を用いて、前記ランダム測定ステップでランダムに測定した第2ランダム測定ベクトルyを、前記ランダム行列Φと前記n×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式(9)、式(10)で定義した式(12)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x }を推定する
ことを特徴とする計測演算方法。
【数9】

【数10】

【数11】

【数12】
【請求項14】
回転機械の回転位置又は回転速度に対応して変化する被測定信号を用いて、第1期間、所定のランダム行列Φでランダムに測定した第1ランダム測定値をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1を、前記ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式(13)、式(14)で定義した式(15)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x}を推定する推定ステップと、
前記第1ランダム測定ベクトルy1および前記ランダム行列Φに基づいて、最も誤差が少ない正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように、前記正則化係数λ0を決定する正則化係数設定ステップと
前記被測定信号を、前記ランダム行列Φに基づいて、前記第1期間の後の第2期間、ランダムに測定するランダム測定ステップとをコンピュータに実行させ
前記推定ステップは、決定された前記正則化係数λ0を用いて、前記ランダム測定ステップでランダムに測定した第2ランダム測定ベクトルyを、前記ランダム行列Φと前記n×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、式(13)、式(14)で定義した式(16)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x }を推定する
ことを特徴とする計測演算プログラム。
【数13】

【数14】

【数15】

【数16】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測システム、計測演算装置、計測演算方法および計測演算プログラムに関し、例えば、回転機械の特性を測定する測定機器に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械は、材料の欠陥、疲労や経年変化などにより必然的に故障する。故障が生じると、機器のダウンタイムにつながり、経済的損失が生まれてしまう。そのため、回転機械の故障診断を行い、健康な状態に保つことが重要となる。回転機械の故障診断は様々なセンシング方法により実施されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、圧縮センシング技術と、計測開始時間をランダムとして一定周波数での計測する手法(Random Start Uniform Sampling Method,以降RSUSM)とを組み合わせた技術が開示されている。圧縮センシング理論は、計測データがある基底(例えば、フーリエ基底)に対してスパース性を有すること、基底がインコヒーレントであること(Random sampling を行うこと)という条件を満たすなら、通常必要とされるよりもはるかに少ない測定データから信号を正確に復元することができる技術である。これにより、非特許文献1の技術では、モニタリングに必要な計測データを削減している。
また、特許文献1には、センサにIDを振り、サーバシステムで集中管理をしつつ、状況に合わせて温度補整や直線性を補整処理する計測データ提供サービスシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】加藤由幹,“サブナイキストサンプリングと圧縮センシングを用いたプロペラの故障診断”,日本機械学会第19回評価・診断に関するシンポジウム,2021年12月2-3日(開催日)
【特許文献】
【0005】
【文献】特許6252669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1で使用している圧縮センシング理論は、計測データがフーリエ基底に対してスパース性を有することが必要である。しかしながら、周波数スペクトルが広がってしまい(つまり、スパース性が低い)、必要な精度で元の信号を復元することができないことがある。なお、非特許文献1では、パワーの差で復元誤差を演算しているが事後的な評価である。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、計測データの削減を図りつつ、元の信号の復元率を高くすることができる計測システム、計測演算装置、計測演算方法および計測演算プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
回転機械(回転電機を含む。)の回転位置(回転位相θ)又は回転速度に対応して変化する被測定信号(s(t))を所定のサンプリング周波数またはサンプリング角周波数(ωs)で、第1期間(T1)、逐次測定する逐次測定部と、前記被測定信号(アナログ信号s(t))または前記逐次測定部で測定した離散時間信号(s)を用いて、所定のランダム行列Φでランダムに測定または選択した第1ランダム測定値を出力するランダム測定値出力部と、前記第1ランダム測定値をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1を、前記ランダム行列Φと基底ベクトル{Ψ}を列とするn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λとしたとき、式(1)、式(2)で定義した式(3)が最小となるように、直交基底行列ψの係数x={x}を推定する推定部と、前記第1ランダム測定ベクトルy1および前記ランダム行列Φに基づいて、最も誤差が少ない前記正則化係数λにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になる前記正則化係数λ0を決定する正則化係数設定部とを有することを特徴とする計測システム。

【数1】

【数2】

【数3】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、計測データの削減を図りつつ、元の信号の復元率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態である計測システムの構成図である。
図2】パラメータ設定期間(第1期間)と計測期間(第2期間)との関係を説明するための図である。
図3】回転速度の高低による被測定信号のサンプル数の差異を説明するための図である。
図4A】被測定信号の時間変化を示す図である。
図4B】回転機械の回転位相の時間変化を示す図である。
図4C】被測定信号と回転位相との関係を示す図である。
図5】本発明の第1実施形態である計測システムの動作を説明するためのフローチャートである。
図6】回転位相に同期して逐次測定した離散時間信号のフーリエ係数xfを示す図である。
図7】圧縮サンプリングで測定した信号の直交基底行列ψの係数xを示す図である。
図8】次数における振幅のPOAを示す図である。
図9】POA値に対してマハラノビス距離を用いたオンライン異常度を演算した図である。
図10】正常状態から異常状態に遷移するときの、特徴次数の時間変化を示す図である。
図11】特徴次数から算出した異常度の時間変化を示す図である。
図12】本発明の第2実施形態である計測システムの構成図である。
図13】本発明の第2実施形態である計測システムの動作を説明するためのフローチャートである。
図14】本発明の第3実施形態の計測システムの構成図である。
図15】本発明の第4実施形態である計測システムの構成図である。
図16】本発明の第5実施形態である計測システムの構成図である。
図17】汎用マイクおよび計測用マイクの周波数特性を示す図である。
図18】本発明の第6実施形態である計測システムの構成図である。
図19】本発明の第1比較例である計測システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているにすぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素は、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態である計測システムの構成図である。
計測システム100は、回転電機30の特性(例えば、音響特性や振動特性)をセンサ20で計測するものであり、ランダム測定機器10と逐次測定機器70と計測演算装置50とが通信可能に接続されて構成されたものである。回転電機30は、モータ31にプロペラ32が取り付けられた回転機械である。プロペラ32は、複数(例えば、7つ)の羽根32aを有したものが正常品であるが、本実施形態では、その内の1つの羽根が欠損した欠損部32bを有した状態で特性を測定する。モータ31は、プロペラ32を回転させるものであり、例えば、ランダム測定機器10から電力供給を受けて駆動する。センサ20は、例えば、マイクであり、風圧を介して、プロペラ32で発生する音圧を検出する。
【0013】
ランダム測定機器10は、センサ20が出力する被測定信号s(t)を、回転電機30の回転位置を示す回転位相θに同期して、ランダムにサンプルするものである。ランダム測定機器10は、ランダム測定値出力部としてのランダム測定部1と、回転情報取得部3とを備えて構成される。回転情報取得部3は、モータ31の回転位相θを取得する。
【0014】
ランダム測定部1は、被測定信号s(t)を回転位相θに同期して、ランダム行列Φにしたがってランダムにサンプルした測定値(第1ランダム測定値)をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1=Φsまたはランダム測定値をベクトル表現したランダム測定ベクトルy=Φsの信号を計測演算装置50に出力(送信)する。ここで、測定期間を、測定パラメータ(例えば、後記する正則化係数λ)を設定するパラメータ設定期間(第1期間)と、パラメータ設定後の測定期間(第2期間)とに分ける。
【0015】
図2は、パラメータ設定期間(第1期間T1)とパラメータ設定後の計測期間(第2期間T2)との関係を説明するための図である。
第1期間T1はt=0~t1であり、第2期間T2は、t=t2以降である。なお、t1~t2の期間は、測定中断期間である。
【0016】
第1期間T1に測定したランダム測定ベクトルを第1ランダム測定ベクトルy1=Φsとし、第2期間T2に測定したランダム測定ベクトル(第2ランダム測定ベクトル)をy=Φsとする。また、ランダム行列Φには、ランダムサンプリングを示す列Φや、ランダムスタートを示す行列Φrsu等がある。ランダムサンプリングを示す列Φは、被測定信号s(t)を等間隔に取得した全ての時系列信号の列(離散時間信号s)をランダムに間引くように計測することを示す。ランダムスタートを示す行列Φrsuは、測定開始時刻をランダムにする計測を複数回行うことを示すものであり、一度の計測で、一定角周波数ωrsu(例えば、2πfrsu=2π×0.3Hz)または一定周波数frsuのM点(例えば、M=27点)のデータを取るものとする。その結果、ランダム測定部1が被測定信号s(t)をサンプルするサンプル数は、離散時間信号sの数よりも減少する。ランダム測定部1は、被測定信号s(t)を回転位相θに同期してサンプル測定して、全ての時系列信号の列(離散時間信号s)を出力するよりも安価に製作することができる。
【0017】
逐次測定機器70は、逐次測定部73と、DFT演算部74とPLL75とを備える。PLL(Phase Locked Loop)75は、回転位相θの信号を入力することにより、入力角周波数ω=dθ/dtの整数倍のサンプリング角周波数ω=Nωの位相同期信号を生成する。逐次測定部73は、被測定信号s(t)を、回転位相θに同期させつつ、一定のサンプリング角周波数ωsで逐次測定し、離散時間信号sを出力する。特に、ランダムスタートを示す行列Φrsuのときには、サンプリング角周波数ωs=Nωrsuとなる。
【0018】
DFT(Discrete Fourier Transform)演算部74は、離散時間信号sを離散フーリエ変換し、演算結果(フーリエ係数xf={xf})を計測演算装置50に出力する。逐次測定機器70は、ランダムに測定しない点と、サンプリング角周波数ωs=Nωrsuが高い点とでランダム測定機器10と相違する。
【0019】
計測演算装置50は、第1期間T1(図2)でフーリエ係数xf={xf}を確認して、スパース性の判断を行い、パラメータ(正則化係数λ)を設定する。具体的には、第1期間T1において、計測演算装置50は、圧縮後のサンプリング数をmとし、圧縮前のサンプリング数をnとし、0でないq(周波数)の成分数をsとし、圧縮センシングの定数をcとしてとき、n>mかつ、n/s>n/mであることを確認する。その後、計測演算装置50は、パラメータ(正則化係数λ)を設定する。
【0020】
また、第2期間T2において、計測演算装置50は、ランダム測定機器10から受信した少ないデータ量のランダム測定値(ランダム測定ベクトルy=Φs)から全データ(離散時間信号s)を復元する。ここで、離散時間信号sは、基底ベクトル{Ψ}を列とするn×nの直交基底行列ψの係数x={x}としたとき、s=ψxで表現される。ここで、基底ベクトル{Ψ}は、例えば、回転位相θを変数とするフーリエ基底ベクトルである。なお、フーリエ基底ベクトルの1周期は、回転電機30の1回転となる。
【0021】
計測演算装置50は、PC(Personal Computer)であり、計測演算プログラムを実行することにより、推定部61と、正則化係数設定部62と、復元部63と、復元誤差演算部54と、異常度演算部55と、報知部56との機能を実現する。
【0022】
推定部61は、計測演算装置50が第1期間に受信した第1ランダム測定ベクトルy1=Φsまたは第2期間に受信したランダム測定ベクトルy=Φsを用いて、n×nの直交基底行列ψの係数xを推定する。具体的には、LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)の手法を用い、正則化係数λ0としたとき、以下の式(4)が最小となるように、係数x={x}を推定する。このときの直交基底行列ψの変数は、回転位相θである。
【数4】
【0023】
ここで、以下の式(5)、式(6)にて、数式内のノルムを定義している。
【数5】

【数6】
【0024】
Σ|x|は、i=1~Nまでxの絶対値を加算することを意味し、
Σ|x|は、i=1~Nまでxの絶対値の2乗を加算することを意味する。
なお、ランダム測定ベクトルyからランダム行列Φとn×nの直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxを減算した(y-Φψx)は、誤差を表現している。
【0025】
正則化係数設定部62は、第1期間T1において、パラメータ(正則化係数λ)を設定する。具体的には、正則化係数設定部62は、正則化係数λの値を、最も誤差が少ないλにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるλ=λ0に設定する。
【0026】
復元誤差演算部54は、第1期間T1において、フーリエ係数xf={xf}と係数x={x}との差の二乗和を演算し、離散時間信号sと第1ランダム測定値(ベクトル表現したものが第1ランダム測定ベクトルy1)とのパワーの差分を求める。さらに、復元誤差演算部54は、そのパワーの差分を係数xの二乗和で除して復元誤差r((7)式)を演算する。復元誤差演算部54は、復元誤差rが所定範囲(例えば、0.01%,0.1%,1%,10%,20%)に納まることを確認するものであり、所定範囲に納まらなかったら正則化係数λ=λ0の修正を行う。
【0027】
【数7】
【0028】
復元部63は、第2期間T2において、n×nの直交基底行列ψと、推定部61で推定した係数x={x}とを乗算して、離散時間信号s=ψxを復元する。つまり、復元部63は、ランダムにサンプルしたランダム測定ベクトルy=Φsを用いて、離散時間信号sの全体を復元する。
【0029】
異常度演算部55は、第2期間において、例えば、マハラノビス距離(オンライン)を用いて、異常度を演算する。異常度とは、p個のチャンネルからのn点の入力値
{x1,1,x1,2,・・・,x1,n},・・・・,{xp,1,xp,2,・・・,xp,n
を略正常値として、新たなp個の入力値
{x1,n+1,・・・・,p,n+1
が正常値か異常値かを判定するものである。マハラノビス距離Dn+1は、式(8)で示される。
【数8】
【0030】
ここで、Ddn+1は、式(9)で示す差分ベクトルである。
【数9】
【0031】
【数10】
【0032】
【数11】

ここで、βは、忘却係数である。
【0033】
初期値Ax、V -1を用意した上で、式(8)から式(11)までをn=1から順に逐次計算すると異常度を演算することができる。
【0034】
報知部56は、異常度演算部55が異常を検知したとき、つまり、マハラノビス距離Dn+1を用いた異常度が閾値αを超えたときに、使用者に報知する。閾値αは、上側確率uに応じて定まる。ここで、上側確率uとは、確率変数が、ある値より大きくなる確率のことをいう。例えば、上側確率u=0.05のとき、閾値α=3.75であり、上側確率u=0.01のとき、閾値α=4.30が代表的である。
【0035】
図3は、回転速度の高低による被測定信号s(t)のサンプル数の差異を説明するための図である。
横軸が時間tであり、下図の縦軸が被測定信号s(t)である。被測定信号s(t)は、正弦波信号であって、時刻0~t1の1周期目が高回転速度であり、時刻t1~t2までの2周期目が低回転速度であるとする。下図では、回転位相θに同期して被測定信号s(t)をサンプルした点を白丸(○)で示している。例えば、図2の下図では、回転位相θの40°毎に白丸(○)を付している。また、上図の横線上には、同一タイミングの縦線を記している。高回転速度領域Aであっても、低回転速度領域Bであっても、1周期当りのサンプル数は等しい。
【0036】
なお、1回転当りを1周期として1回発生する現象を回転1次成分、そのn倍を回転n次成分と定義し、X軸を次数にとり、Y軸を次数成分の振動騒音の大きさとして表して行う分析を「回転次数比分析」という
【0037】
図4Aは、被測定信号の時間変化を示す図である。横軸は時間tであり、縦軸は被測定信号s(t)である。また、図4Bは、回転機械(回転電機30)の回転位相の時間変化を示す図である。
横軸は時間tであり、縦軸は回転位相θ(t)である。ここでは、被測定信号s(t)は、周波数が徐々に高くなる正弦波信号であるとする。被測定信号s(t)および回転位相θ(t)の複数の測定点a,b,c,dに黒丸(●)を付している。
【0038】
図4Bにおいて、時間t=0で回転位相θ(0)=0であり、回転位相θ(t)は、時間経過(測定点a→b→c→d)と共に単調増加する。例えば、b点(図4A)では、3周期目の手前なので(360×4)°よりも少ない回転位相になっている。c点(図4A)では、5周期目の手前なので(360×4)°よりも多い回転位相になっている。d点(図4A)では、6周期後であり、(360×4)°と(360×8)°との間の回転位相になっている。
【0039】
図4Cは、被測定信号と回転位相との関係を示す図である。
横軸は、回転位相θであり、縦軸は、被測定信号s(θ)である。
c-d間では、時間T3(図4A)が短いが回転位相幅Θ1は長く表現される。言い換えれば、図4Cのように、回転位相θを変数にすれば、回転電機30の回転速度が変化するものであっても、被測定信号s(θ)は、正弦波として評価することができる。
【0040】
図5は、本発明の第1実施形態である計測システムの動作を説明するためのフローチャートである。このフローは、新たに測定対象を測定するときや測定対象を変更したときに起動する。これにより、計測演算装置50は、第1期間T1で、パラメータ(例えば、正則化係数λ0)を事前決定し、第2期間T2において、正則化係数λ0を用いて、測定を開始する。
【0041】
第1期間T1において、ランダム測定機器10は、センサ20から被測定信号s(t)の測定値をランダムに取得する(ステップS1)。このとき、ランダム測定機器10は、回転電機30から回転位相θ(t)の信号を受信する。これにより、ランダム測定機器10では、ランダム測定部1(図1)がランダム測定ベクトルy=Φsを生成する。
【0042】
また、ランダム測定機器10は、受信した回転位相θ(t)の信号を逐次測定機器70のPLL75に送信する。これにより、PLL75は、回転電機30の回転角速度ω=dθ/dtよりも高い角周波数のサンプリング角周波数ωsの信号を生成する。そして、逐次測定部73(図1)は、被測定信号s(t)を一定のサンプリング角周波数ωsで逐次取得する(ステップS2)。逐次測定部73(図1)は、離散時間信号sを生成し、DFT演算部74が離散時間信号sを用いて、フーリエ係数xf={xf}を演算する(ステップS3)。このときの直交基底行列ψの変数は、時間tである。ステップS3の処理後、逐次測定機器70は、演算したフーリエ係数xfを計測演算装置50に送信する(ステップS4)。
【0043】
ステップS1の処理後、ランダム測定機器10は、ランダム測定ベクトル(第1ランダム測定ベクトルy1)を計測演算装置50に送信すると共に(ステップS5)、被測定信号s(t)の測定値のランダム取得(ステップS6)および計測演算装置50への送信(ステップS7)を継続する。ステップS5の処理後、計測演算装置50は、ランダム測定ベクトル(第1ランダム測定ベクトルy1)を受信し(ステップS8)、正則化係数設定部62が正則化係数λ0を決定する(ステップS9)。このとき、推定部61がLASSOの手法を用いて、n×nの直交基底行列ψの変数を回転位相θとし、係数x={x}を推定する。また、正則化係数設定部62は、正則化係数λ0を最も誤差が少ないλにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように決定する(ステップS9)。
【0044】
ステップS9の処理後、計測演算装置50は、逐次測定機器70からフーリエ係数xfを受信する(ステップS10)。ステップS10の処理後、計測演算装置50では、復元誤差演算部54が復元誤差rを演算し、演算した復元誤差rが所定範囲内か否か判定する(ステップS11)。復元誤差rが所定範囲外であったら(ステップS11で所定範囲内)、計測演算装置50は、処理をS9に戻し、正則化係数λ0を再設定する。一方、復元誤差rが所定範囲内であったら(ステップS11で所定範囲内)、計測演算装置50は、ランダム測定機器10からランダム測定ベクトルyを受信し(ステップS12)、直交基底行列ψの係数x={x}を推定する(ステップS13)。このとき、直交基底行列ψの変数は回転位相θである。
【0045】
ステップS13の処理後、計測演算装置50は、異常度演算部55が演算する異常度が閾値αを超えているか否か判定する(ステップS14)。異常度が閾値αを超えていなければ(ステップS14で閾値以下)、計測演算装置50は、処理をステップS12に戻し、ランダム測定ベクトルyの受信を継続する。一方、異常度が閾値αを超えれば(ステップS14で閾値超)、計測演算装置50の報知部56は、被測定信号s(t)が異常であることを使用者に報知する(ステップS15)。なお、計測演算装置50では、復元部63が係数x={x}を用いて、離散時間信号s=ψxを復元する。
【0046】
図6は、回転位相θに同期して逐次測定した離散時間信号sのフーリエ係数xf={xf}を示す図である。つまり、図5は、第1期間T1(図2)において、DFT演算部74(図1)が演算した演算結果を示す図である。横軸は、次数であり、縦軸は、各次数におけるフーリエ係数xfである。
1次のスペクトルよりも7次のスペクトルの方が高い。
【0047】
図7は、圧縮サンプリングで測定した信号y1=Φsのn×nの直交基底行列ψの係数x={x}を示す図である。つまり、図7は、第1期間T1において、推定部61が係数xを推定した推定結果を示す図である。横軸は、次数比であり、縦軸は、各次数における係数xである。
図6と同様に、1次のスペクトルよりも7次のスペクトルの方が高い。なお、フーリエ係数xf={xf}(図6)と係数x={x}(図7)との間には、差分(xf-x)={xf}-{x}が生じる。ここで、差分(xf-x)={xf}-{x}を演算するためには、次数同士または周波数同士で減算する必要がある。言い換えれば、直交基底行列ψの変数を時間t同士または回転位相θ同士にして、係数を減算する必要がある。
【0048】
図8は、次数における振幅のPOAを示す図である。
横軸は、特徴的な次数(特徴次数)である。実線は、第1期間T1において、推定部61が演算した係数xを用いて演算したPOAである。また、破線は、第1期間T1において、DFT演算部74が演算したフーリエ係数xfを用いて演算したPOAである。なお、POA(パーシャルオーバーオール)とは、所定のスペクトル区間内のパワーの総和(積和)のことである。なお、「オーバーオール」とは、全周波数のパワーの総和(積和)のことである。
POAは、7次にピークがでている。また、係数xを用いたPOAと、フーリエ係数Xfを用いたPOAとの差分が一定量(0.005程度)、存在する。
【0049】
図9は、POA値に対してマハラノビス距離を用いたオンライン異常度を演算した図である。
1次成分から7次成分までについて、正常な場合の「正常異常度」、欠損部32bを半欠けにした「半欠け異常度」、欠損部32bを全欠けにした「全欠け異常度」を示している。なお、異常度は、p=1としている。
【0050】
7次成分は、正常異常度、半欠け異常度、全欠け異常度の各々が同程度である。その一方、1次成分~3次成分は、半欠け異常度および全欠け異常度が正常異常度よりも増加している。特に、3次成分の全欠け異常度は、半欠け異常度の2倍になっている。
【0051】
図10は、正常状態から異常状態に遷移するときの、特徴次数の時間変化を示す図である。実線が1次成分であり、点線が2次成分であり、破線が7次成分である。
異常状態では、1次成分が大きく増加し、2次成分が少し増加する。
【0052】
図11は、特徴次数から算出した異常度の時間変化を示す図である。
異常度(実線)は、振幅の1次成分~7次成分(図10)を用いて、p=7として演算した。破線は判定期間であり、所定時間(例えば、t=1750時間)経過してから判定を行う。横軸は、時間tである。最初は正常状態であっても長時間が経過すると、異常状態と正常状態とが繰り返されるようになる。報知部56(図1)は、異常度が閾値α(例えば、α=3.75)を超えたときに報知する。
【0053】
(第2実施形態)
前記実施形態では、第2期間T2において、ランダム測定機器10(図1)は、被測定信号s(t)を回転位相θに同期させてランダムに取得したが、被測定信号s(t)を所定のサンプリング周波数fsまたはサンプリング角周波数ωsでランダムに取得することもできる。
【0054】
図12は、本発明の第2実施形態である計測システムの構成図である。
計測システム101は、ランダム測定機器11と、逐次測定機器71と、計測演算装置51とを備えて構成される。
ランダム測定機器11は、前記実施形態のランダム測定機器10に比較して、回転情報取得部3が無い点で相違する。つまり、ランダム測定部1は、回転位相θ(図1)に同期させることなく、被測定信号s(t)を所定のサンプリング周波数fsまたはサンプリング角周波数ωsで駆動し、ランダムに測定し、ランダム測定ベクトルy=Φsを出力する。逐次測定機器71は、逐次測定部73およびDFT演算部74を備えているが、PLL75(図1)の代わりにサンプリング周波数生成器76を有する点で前記実施形態の逐次測定機器70(図1)と相違する。つまり、逐次測定部73は、サンプリング周波数生成器76が生成するサンプリング周波数fsまたはサンプリング角周波数ωsで被測定信号s(t)を逐次測定する。なお、ランダム測定部1と逐次測定部73とは、所定のサンプリング周波数fsまたはサンプリング角周波数ωsで駆動するが、サンプリング周波数fsやサンプリング角周波数ωsが異なっても構わず、同期する必要もない。
【0055】
計測演算装置51は、前記第1実施形態の計測演算装置50と同様に、復元誤差演算部54,異常度演算部55、報知部56、推定部61,正則化係数設定部62、復元部63を備える。しかしながら、計測演算装置51は、ランダム選択部57およびスイッチ58を備えている点で前記実施形態の計測演算装置50と相違する。
【0056】
ランダム選択部57は、第1期間T1において、ランダム行列Φにしたがって、逐次測定部73が逐次出力する離散時間信号sをランダムに選択する。つまり、ランダム選択部57は、ランダム測定値出力部としても機能し、ランダム測定値をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを出力する。スイッチ58は、端子jを端子hと端子iとの何れか一方に設定する1回路2接点スイッチである。i端子がランダム選択部57の出力に接続され、h端子がランダム測定部1の出力に接続され、j子が推定部61の入力に接続される。推定部61では、使用するフーリエ基底ベクトル{Ψ}の変数は、時間tである。この点、回転位相θを変数とする前記第1実施形態と相違する。
【0057】
第1期間T1では、推定部61は、前記第1実施形態と同様に、ランダム選択部57が出力する第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを入力して、n×nの直交基底行列ψの係数xを推定する。このとき、正則化係数λ0の値は、最も誤差が少ないλにおける交差検証の標準偏差以内で最大値になるように設定される。また、復元誤差演算部54は、復元誤差rが所定範囲内でないとき、正則化係数λ0を再設定する。なお、ランダム測定部1でも、第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを出力するがスイッチ58で遮断される。
【0058】
第2期間T2では、推定部61は、第1期間T1で設定された正則化係数λ0を用いて、ランダム測定部1が出力するランダム測定ベクトルy=Φsを入力して、n×nの直交基底行列ψの係数xを推定する。さらに、前記第1実施形態と同様に、復元部63が離散時間信号sを復元する。
【0059】
図13は、本発明の第2実施形態である計測システムの動作を説明するためのフローチャートである。
第1期間T1において、逐次測定機器71では、逐次測定部73が被測定信号s(t)を所定のサンプリング周波数fsまたはサンプリング角周波数ωsで逐次取得する(ステップS21)。ステップS21の処理後、逐次測定機器71は、離散時間信号sを計測演算装置51に送信し(ステップS22)、計測演算装置51が離散時間信号sを受信する(ステップS23)。
【0060】
計測演算装置51では、ランダム選択部57がランダム行列Φにしたがって、離散時間信号sをランダムに選択し(ステップS24)、正則化係数設定部62が第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを用いて、正則化係数λ0を決定する(ステップS25)。一方、逐次測定機器71では、DFT演算部74がフーリエ係数xfを演算し(ステップS26)、そのフーリエ係数xfを計測演算装置51に送信する(ステップS27)。計測演算装置51では、フーリエ係数xfを受信し(ステップS28)、復元誤差演算部54が復元誤差rを演算するとともに、その復元誤差rが所定範囲内に納まっているか否か判定する(ステップS29)。復元誤差rが所定範囲外であるときには(ステップS29で所定範囲外)、計測演算装置51は、処理をS25に戻し、正則化係数設定部62に対して正則化係数λ0の再設定を行わせる。一方、復元誤差rが所定範囲内に納まったときには(ステップS29で所定範囲内)、計測システム101は、第2期間T2(図2)に移行する。
【0061】
第2期間T2では、ランダム測定機器11では、ランダム測定部1が被測定信号s(t)の測定値をランダムに取得し(ステップS30)、ランダム測定ベクトルy=Φsを計測演算装置51に送信する(ステップS31)。計測演算装置51では、ランダム測定ベクトルy=Φsを受信し(ステップS32)、推定部61が係数x={x}を推定する(ステップS33)。
【0062】
ステップS33の処理後、計測演算装置51では、異常度演算部55が異常度を演算すると共に、その異常度が閾値αを超えたか否か判定する(ステップS34)。異常度が閾値α以下であったら(ステップS34で閾値以下)、計測演算装置51が処理をステップS32に戻し、ランダム測定ベクトルy=Φsの受信を継続する。一方、異常度が閾値αを超えたら(ステップS34で閾値超)、計測演算装置51は、報知部56に対して、報知を行わせる(ステップS35)。
【0063】
(第3実施形態)
前記第2実施形態では、第1期間T1において、サンプリング周波数fsまたはサンプリング角周波数ωsで取得した離散時間信号sをランダム選択部57がランダムに選択し、第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを作成し、第2期間T2において、ランダム測定部1がランダム測定ベクトルy=Φsを出力させた。しかしながら、第1期間においても、ランダム測定部1が第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを出力させることもできる。
【0064】
図14は、本発明の第3実施形態の計測システムの構成図である。
計測システム102は、ランダム測定機器11と、逐次測定機器72と、計測演算装置50とを備えて構成される。ランダム測定機器11は、前記第2実施形態と同一構成であり、計測演算装置50は、前記第1実施形態と同一構成であるが、推定部61等で使用するフーリエ基底ベクトル{Ψ}が時間tを変数としている点で、回転位相θを変数とする前記第1実施形態と相違する。
【0065】
逐次測定機器72は、前記第2実施形態と同様に逐次測定部73、DFT演算部74およびサンプリング周波数生成器76を有しているが、離散時間信号sを逐次測定部73から計測演算装置50に出力していない点で相違する。
【0066】
第1期間T1では、ランダム測定機器11のランダム測定部1が被測定信号s(t)の測定値をランダムに取得し、第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを計測演算装置50の推定部61および正則化係数設定部62に出力している。また、逐次測定機器72のDFT演算部74は、計測演算装置50の復元誤差演算部54にフーリエ係数xf={xf}を出力する。これらにより、復元誤差rが所定範囲内になるような正則化係数λ=λ0が決定される。
【0067】
第2期間T2では、ランダム測定機器11のランダム測定部1が被測定信号s(t)の測定値をランダムに取得し、ランダム測定ベクトルy=Φsを計測演算装置50の推定部61および正則化係数設定部62に出力する。これにより、推定部61により、係数xが推定され、復元部63により、離散時間信号s=ψxが復元される。また、異常度演算部55が異常度を逐次演算し、異常度が閾値αを超えたら報知部56が報知する。
【0068】
(第4実施形態)
前記各実施形態の計測システムでは、第2期間T2において、計測演算装置50,51が逐次受信したランダム測定ベクトルy=Φsを用いて、係数xを逐次推定したが、計測演算装置が逐次受信したランダム測定ベクトルy=Φsを記憶部に格納し、記憶部に格納されたランダム測定ベクトルy=Φsを用いてバッチ処理することができる。
【0069】
図15は、本発明の第4実施形態である計測システムの構成図である。
計測システム103は、ランダム測定機器11と、計測演算装置52と、逐次測定機器72とを備えて構成される。ランダム測定機器11および計測演算装置52は、前記第3実施形態と同一構成である。計測演算装置52は、前記第3実施形態の計測演算装置50に比較して、記憶部59を備えている点で相違する。
【0070】
記憶部59は、第2期間T2のランダム測定ベクトルy=Φsを記憶する。これにより、計測演算装置52は、第1期間T1において、受信した第1ランダム測定ベクトルy1=Φsを用いて、正則化係数λ=λ0を決定し、第2期間T2において、ランダム測定ベクトルy=Φsが記憶部59に記憶される。その後、バッチ処理で、復元部63は、離散時間信号s=ψxを復元する。
【0071】
(第5実施形態)
前記各実施形態(特に、第4実施形態)で使用するセンサ20は、マイクの種類を選定しなかった。本実施形態では、逐次測定部73(図16)で使用するセンサを計測用マイクとし、ランダム測定部1で使用するセンサ(汎用センサ21)を簡易なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)製の汎用マイクとする。
【0072】
図16は、本発明の第5実施形態である計測システムの構成図である。
計測システム104は、前記第4実施形態の計測システム103(図15)と同様に、ランダム測定機器12と、計測演算装置53と、逐次測定機器72とを備える。ランダム測定機器12は、スイッチ2をさらに備え、スイッチ2が汎用センサ21および計測用センサ22の何れか一方に切り替える点で、ランダム測定機器11(図15)と異なる。計測演算装置53は、周波数補正部66と、スイッチ67をさらに備える点で計測演算装置52(図15)と相違する。また、逐次測定機器72は、センサ20(図15)の代わりに計測用センサ22を接続する。周波数補正部66は、記憶部59に接続され、記憶部59に記憶された汎用センサ21のデータ(ランダム測定ベクトルy=Φs)の周波数特性を補正する。これにより、汎用センサ21および周波数補正部66は、全体として計測用センサ22と同等になる。
【0073】
スイッチ2,67は、端子a,bの何れか一方を端子cに接続する2接点スイッチである。スイッチ2,67は、第1期間T1(図2)において、端子bに接続され、第2期間T2(図2)において、端子aに接続される。つまり、スイッチ2は、第1期間T1において、計測用センサ22とランダム測定部1とを接続し、第2期間T2において、汎用センサ21とランダム測定部1とを接続する。スイッチ67は、第1期間T1において、記憶部59と推定部61および正則化係数設定部62とを接続し、第2期間T2において、周波数補正部と、推定部61および正則化係数設定部62とを接続する。
【0074】
汎用センサ21は、例えば、MEMSセンサ、具体的には、MEMS製の汎用マイクである。計測用センサ22は、計測用マイクであり、汎用マイクよりも周波数の感度が良い。
【0075】
図17は、汎用マイクおよび計測用マイクの周波数特性を示す図である。
横軸は、周波数[Hz]であり、縦軸は、デシベルである。実線は、計測用マイクの特性を示し、破線は、MEMS製の汎用マイクの特性を示す。実線および破線は、基準周波数1kHzで0デシベルである。計測用マイクは、20Hz程度から20kHz程度までフラットな周波数特性を維持する。これに対して、MEMS製の汎用マイクは、20Hzから200Hz程度の低い周波数で出力が低下する。
【0076】
図16の説明に戻り、汎用センサ21はスイッチ2の端子bに接続され、計測用センサ22は端子aに接続される。また、計測用センサ22は、逐次測定部73にも接続される。また、計測演算装置53では、記憶部59の出力端に周波数補正部66の入力端およびスイッチ67の端子aが接続される。周波数補正部66の出力端がスイッチ67の端子bに接続され、スイッチ67の端子cが正則化係数設定部62および推定部61に接続される。
【0077】
これらの構成により、第1期間T1(図2)では、ランダム測定部1および逐次測定部73は、計測用センサ22を用いて音圧を測定する。計測演算装置53では、記憶部59は、第1期間T1においてランダム測定ベクトルy1=Φsを記憶する。正則化係数設定部62は、復元誤差rが所定範囲になるように、正則化係数λ=λ0を設定する。また、第2期間T2(図2)では、ランダム測定部1が汎用センサ21を用いて音圧を測定する。計測演算装置53では、記憶部59が第2期間T2のランダム測定ベクトルy=Φsを記憶し、周波数補正部66が周波数特性を補正する。推定部61は、補正されたランダム測定ベクトルy=Φsを用い、設定された正則化係数λ0で係数xを推定する。さらに、復元部63が離散時間信号sを復元する。
【0078】
(第6実施形態)
前記第1実施形態で使用するセンサ20は、マイクを選定しなかった。本実施形態では、ランダム測定部1で使用するセンサ(汎用センサ21)をMEMS製の汎用マイクとし、逐次測定部73(図15)で使用するセンサを計測用マイクとする。
【0079】
図18は、本発明の第6実施形態である計測システムの構成図である。
計測システム105は、前記第1実施形態の計測システム100(図1)と同様に、ランダム測定機器13と、計測演算装置80と、逐次測定機器70とを備える。ランダム測定機器13は、スイッチ2をさらに備え、スイッチ2が汎用センサ21および計測用センサ22の何れか一方に切り替える点で、ランダム測定機器10(図1)と異なる。計測演算装置80は、周波数補正部66と、スイッチ67をさらに備える点で計測演算装置50(図1)と相違する。また、逐次測定機器70は、センサ20(図1)の代わりに計測用センサ22を接続する。
【0080】
これらの構成により、第1期間T1(図2)では、ランダム測定部1および逐次測定部73は、計測用センサ22を用いて音圧を測定する。計測演算装置80では、正則化係数設定部62は、第1期間T1のランダム測定ベクトルy1=Φsを用いて、復元誤差rが所定範囲になるように、正則化係数λ=λ0を設定する。また、第2期間T2(図2)では、ランダム測定部1が汎用センサ21を用いて音圧を測定する。計測演算装置80では、周波数補正部66が第2期間T2のランダム測定ベクトルy=Φsに対して、周波数特性を補正する。推定部61は、補正されたランダム測定ベクトルy=Φsを用い、設定された正則化係数λ0で係数xを推定する。さらに、復元部63が離散時間信号sを復元する。
【0081】
図19は、本発明の第1比較例である計測システムの構成図である。
計測システム106は、測定機器14と計測演算装置81とが通信可能に接続されて構成されている。測定機器14は、センサ20の被測定信号s(t)を回転位相θに同期させて逐次測定し、離散時間信号sを出力する同期測定部79を備えている。つまり、測定機器14は、前記各実施形態のランダム測定機器10(図1)~13(図18)に比較して、ランダムにサンプリングしていない点で相違する。
【0082】
計測演算装置81は、受信部69と、x演算部64と、復元部65とを備えて構成される。受信部69は、測定機器14から離散時間信号sを受信する。x演算部64は、フーリエ基底ベクトルψfの係数(フーリエ係数xf)を演算する。ここで、フーリエ基底ベクトルψfの変数は、時間tである。つまり、x演算部64は、離散時間信号sを離散フーリエ変換する。復元部65は、フーリエ基底ベクトルψfとフーリエ係数xfを用いて、離散時間信号s=ψf・xfを復元する。
【0083】
また、測定機器14が被測定信号s(t)を回転位相θに同期して逐次取得しているので、計測演算装置81は、回転位相θを変数にして、離散フーリエ変換可能であるが、前記各実施形態では、被測定信号s(t)をランダムサンプリングしているので、離散フーリエ変換することができない。しかしながら、前記実施形態の計測演算装置50では、LASSO(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)によるL1正則化を解くことによって、n×nの直交基底行列ψの係数xをスパースにしている。
【0084】
(変形例)
本発明は、前記各実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変形実施が可能であり、例えば、次のようなものがある。
(1)前記各実施形態の計測システム100(図1)、101(図12),102(図14),103(図15)では、ランダム測定機器10と計測演算装置50とを通信可能に接続していたが、一体構成としても構わない。
【0085】
(2)前記第1実施形態のランダム測定機器10(図1)では、回転電機30の回転位置を示す回転位相θに同期させていたが、回転速度であっても、アンラップ処理をして積分処理を行うと回転位置を算出することができる。つまり、回転情報取得部3が回転電機30の回転位置または回転速度の情報を取得し、ランダム測定機器10は、回転電機30の回転位置または回転速度の情報に同期して、ランダムサンプリングを行う。
【0086】
(3)前記各実施形態の復元誤差演算部54は、推定部61で推定した係数x={x}と、DFT演算部74で演算したフーリエ係数xf={xf}との差分を演算し、その二乗和で、離散時間信号sと第1ランダム測定値とのパワーの差分を演算した。これに限らず、復元誤差演算部54は、係数x={x}の二乗和の第1パワーを演算すると共に、フーリエ係数xf={xf}の二乗和の第2パワーを演算し、第1パワーと第2パワーとの差分を演算しても、離散時間信号sと第1ランダム測定ベクトルy1とのパワーの差分を演算することができる。これによれば、次数同士または周波数同士で減算する必要がない。つまり、直交基底行列ψの変数を時間t同士または回転位相θ同士にして、係数を減算する必要がない。言い換えれば、前記第1実施形態(図1)において、PLL75の代わりにサンプリング周波数生成器76(図12)を用いることができる。
【0087】
(4)前記第5,6実施形態では、汎用センサ21および計測用センサ22を使用したが、汎用センサ21のみを使用しても構わない。この場合、第5実施形態(図16)では、記憶部59の出力に周波数補正部66を配設するだけでなく、DFT演算部74と復元誤差演算部54との間にも周波数補正部66を配設する必要がある。第6実施形態(図18)においても、ランダム測定部1と正則化係数設定部62および推定部61との間に周波数補正部66を配設するだけでなく、DFT演算部74と復元誤差演算部54との間にも周波数補正部66を配設する必要がある。
【0088】
(5)前記各実施形態では、モータ31にプロペラ32が取り付けた回転電機30の音圧を測定対象にしたが、ベアリング等の回転機械(回転電機を含む。)の振動や音圧を測定対象にすることもできる。
【符号の説明】
【0089】
1 ランダム測定部(測定部)
3 回転情報取得部
10,11,12,13 ランダム測定機器
14 測定機器
20 センサ
21 汎用センサ
22 計測用センサ
30 回転電機(回転機械)
50,51,52,53,80,81 計測演算装置
54 復元誤差演算部
55 異常度演算部
56 報知部
57 ランダム選択部
59 記憶部
61 推定部
62 正則化係数設定部
66 周波数補正部
70,71,72 逐次測定機器
73 逐次測定部
74 DFT演算部
100,101,102,103,104,105,106 計測システム
s(t),s(θ) 被測定信号
s 離散時間信号
θ 回転位相(回転位置)
y1 第1ランダム測定ベクトル
y ランダム測定ベクトル(第2ランダム測定ベクトル)
Φ ランダム行列
λ,λ0 正則化係数
x 係数
ψ 直交基底行列
r 復元誤差
【要約】
【課題】計測データの削減を図りつつ、元の信号の復元率を高くする。
【解決手段】回転電機30の回転位置θに対応して変化する被測定信号s(t)を所定のサンプリング角周波数ωsで、第1期間に逐次測定する逐次測定機器70と、逐次測定機器70で測定した離散時間信号sを離散フーリエ変換し、フーリエ係数xfを出力するDFT演算部74と、被測定信号s(t)を用いて、所定のランダム行列Φでランダムに測定した第1ランダム測定値を出力するランダム測定機器10と、第1ランダム測定値をベクトル表現した第1ランダム測定ベクトルy1を、ランダム行列Φと直交基底行列ψとその係数xとの積Φψxで表現し、正則化係数λ0としたとき、直交基底行列ψの係数xを推定する推定部61と、第1ランダム測定ベクトルy1およびランダム行列Φに基づいて、正則化係数λ=λ0を決定する正則化係数設定部62とを有する
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
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