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特許7603219インクジェット印刷装置、それを用いて製造されたデバイス、塗膜形成ムラ検出方法、及びデバイスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置、それを用いて製造されたデバイス、塗膜形成ムラ検出方法、及びデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20241213BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20241213BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20241213BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20241213BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20241213BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20241213BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241213BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241213BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20241213BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20241213BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20241213BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
B05C5/00 101
B05C11/00
B05C11/10
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05D7/24 301M
B41J2/01 451
H05B33/10
H05B33/12 Z
H05B33/14 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019177361
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021056039
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 真依子
(72)【発明者】
【氏名】福田 雅典
(72)【発明者】
【氏名】山口 明徳
(72)【発明者】
【氏名】臼井 幸也
(72)【発明者】
【氏名】菊住 真也
【合議体】
【審判長】南 宏輔
【審判官】瓦井 秀憲
【審判官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-140810(JP,A)
【文献】特開2017-212082(JP,A)
【文献】特開2009-236669(JP,A)
【文献】国際公開第2009/144912(WO,A1)
【文献】特開2009-233588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958, B41J 2/01- 2/215, B05C 5/00- 5/04, B05C 7/00-21/00, B05D 1/00- 7/26, H05B 33/00-33/28, H05B 44/00, H05B 45/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数のセルが設けられた基板に対してインクを吐出することで印刷を行うインクジェット印刷装置であって、
複数のノズルから液状のインクを吐出して前記複数のセルにおける各セルにインクを充填することで、該各セルに塗膜を形成する印刷手段と、
前記基板を前記印刷手段に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記各セルに充填されたインクが乾燥する前に、前記各セルにおける塗膜の状態を光学的手段により観察する観察手段と、を備え、
前記観察手段は、
前記基板に照明光を照射する光源部と、
前記照明光の該基板からの拡散反射光を受光する撮像部と、を有し、
前記撮像部の撮像軸は、前記照明光の照射軸に対して、所定の角度を有し、
前記所定の角度は、70度以上80度以下であり、
前記基板には、複数のバンクが設けられており、
前記複数のバンクにおける各バンクは、前記基板から突出するとともに、前記基板の前記印刷手段に対する相対的な移動方向に直交する方向に延び、且つ、前記移動方向に並列しており、
前記移動方向に隣接する前記セル同士は、前記バンクで仕切られており、
前記撮像軸は、前記基板の垂線に沿う、インクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記撮像部は、前記インクが前記バンクに乗り上げるとき、前記基板からの前記拡散反射光を受光するとともに、前記インクが前記バンクに乗り上げないとき、前記基板からの正反射光を受光しない、インクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記撮像部は、前記基板の前記印刷手段に対する相対的な前記移動方向に直交する方向に複数配列されている、インクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1つにおいて、
前記光源部は、前記基板の上方に配置されており、
前記撮像部は、前記基板の上方に配置されている、インクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1つにおいて、
前記基板の表面において、前記観察手段が前記基板の前記印刷手段に対する相対的な前記移動方向に延びる直線状の欠陥を観察した場合に、該欠陥を、前記複数のノズルのうちいずれかのノズルに起因した前記各セル間における前記塗膜の厚さの不均一として検出する、処理部をさらに備える、インクジェット印刷装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1つに係るインクジェット印刷装置によって製造されたデバイス。
【請求項7】
請求項6において、
太陽光電池である、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェット印刷装置、それを用いて製造されたデバイス、塗膜形成ムラ検出方法、及びデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、太陽光電池、ディスプレイ等、種々のデバイスの製造にも使用されている。例えば、有機ELディスプレイの製造において、基板の表面に対して機能性材料を含むインクを塗布する工程で、インクジェット印刷が使用されている。
【0003】
印刷対象である基板の表面に、バンクで区画された複数のセルを設け、各セルにインクを塗布する方法が知られている。ここで、複数のセルにおける各セル間でインクの充填量が不均一であると、各セルに形成される塗膜の厚さに差が生じてしまい、基板の表面に塗膜形成ムラが発生することがある。塗膜形成ムラは、デバイスの不良の原因となり得る。例えば有機ELディスプレイの場合、塗膜形成ムラは、色ムラや輝度ムラとして現れ、ディスプレイとしての機能を損ねる。したがって、インクジェット印刷によって各セルに充填されるインクの量は、互いに均一であることが好ましい。
【0004】
例えば、特許文献1には、塗布物の表面の垂線と撮像光軸とのなす角度を70~80度にして塗布物を撮像することによって、塗膜形成ムラを検査する検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-205873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のような光学的手段による検査では、塗膜形成ムラが検出されず、製造工程の最終段階で行う点灯検査で初めて、塗膜形成ムラが検出されることがあった。例えば、有機ELディスプレイの場合、点灯検査において、機能性材料に電気を流して機能性材料を発光させることによって、初めて、塗膜形成ムラが色ムラや輝度ムラとして検出されることがあった。
【0007】
最終段階の点灯検査に至るまで塗膜形成ムラが検出されなければ、歩留まりが悪化して好ましくない。
【0008】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的とするところは、インクジェット印刷による塗膜形成ムラを、光学的手段によって高感度に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るインクジェット印刷装置は、表面に複数のセルが設けられた基板に対してインクを吐出することで印刷を行うインクジェット印刷装置であって、複数のノズルから液状のインクを吐出して上記複数のセルにおける各セルにインクを充填することで、上記各セルに塗膜を形成する印刷手段と、上記基板を上記印刷手段に対して相対的に移動させる移動手段と、上記各セルに充填されたインクが乾燥する前に、上記各セルにおける塗膜の状態を光学的手段により観察する観察手段と、を備える。
【0010】
本開示に係るデバイスは、上記インクジェット印刷装置によって製造される。
【0011】
本開示に係る塗膜形成ムラ検出方法は、表面に複数のセルが設けられた基板に対して液状のインクを吐出することで印刷を行うインクジェット印刷において、上記複数のセルにおける各セルにインクを充填することで上記各セルに形成された塗膜の塗膜形成ムラ検出方法であって、上記各セルに充填されたインクが乾燥する前に、上記各セルにおける塗膜の状態を観察する。
【0012】
本開示に係るデバイスの製造方法は、基板の表面に設けられた複数のセルに塗膜が形成されたデバイスの製造方法であって、上記複数のセルにおける各セルに液状のインクを吐出して充填することで上記各セルに塗膜を形成する印刷工程と、上記各セルに充填されたインクが乾燥する前に、上記各セルにおける塗膜の状態を観察する検査工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、インクジェット印刷による塗膜形成ムラを、光学的手段によって高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の実施形態に係るインクジェット印刷装置を模式的に示す図である。
図2A図2Aは、インクジェット印刷装置で印刷を行う方法を模式的に示す図である。
図2B図2Bは、図2AにおけるIIB-IIB線における断面を模式的に示す図である。
図3A図3Aは、塗膜形成ムラが発生していない状態における各セルに形成された塗膜を模式的に示す図である。
図3B図3Aは、塗膜形成ムラが発生した状態における図3A相当図である。
図4A図4Aは、塗膜形成ムラが発生していない状態における各セルに形成された塗膜を観察する方法を模式的に示す図である。
図4B図4Bは、塗膜形成ムラが発生した状態における図4A相当図である。
図5図5は、時間の経過に伴う塗膜の形状変化を模式的に示す図である。
図6図6は、実施例において、時間の経過に伴う塗膜の直径変化を示すグラフである。
図7A図7Aは、実施例において、基板の表面に形成された欠陥を撮影した写真である。
図7B図7Bは、実施例において、基板の表面に形成された欠陥を所定のアルゴリズムによって強調して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を説明する前に、本発明を想到するに至った経緯を説明する。
【0016】
有機ELディスプレイをインクジェット印刷によって製造する方法が知られている。この方法では、基板の表面に複数のセルを設け、各セルに機能性材料を含むインクを充填することで、各セルに塗膜を形成する。
【0017】
ここで、各セル間における塗膜の厚さに不均一があると、基板の表面に塗膜形成ムラが発生する。塗膜形成ムラは、製品の品質を損なうので、好ましくない。特に、有機ELディスプレイの場合、塗膜形成ムラは、画質を損ねる原因となる。
【0018】
有機ELディスプレイの製造工程の最終段階では、通常、点灯検査が行われる。点灯検査では、機能性材料に電気を流すことでディスプレイを実際に点灯させる。これにより、塗膜形成ムラは、色ムラや輝度ムラとして検出される。
【0019】
塗膜形成ムラによる歩留まりの悪化を抑制するためには、製造工程のできるだけ早期に、塗膜形成ムラを検出することが好ましい。
【0020】
ここで、製造工程の途中で、光学的手段によって基板の表面を観察することで、塗膜形成ムラを検出する方法が知られている。この光学的手段による塗膜形成ムラの検出方法には、例えば、塗膜厚さの差による拡散反射光量の違いを利用した方法や、塗膜厚さの差による透過光の指向性の違いを利用した方法、等がある。
【0021】
しかし、製造工程途中の光学的手段による検査では、基板の表面に発生した塗膜形成ムラが検出されないことがあった。この場合、製造工程の最終段階の点灯検査で初めて塗膜形成ムラが検出されるため、歩留まりが悪化する。
【0022】
すなわち、歩留まりを改善するためには、製造工程の途中に行われる光学的手段による検査よって、塗膜形成ムラを高感度に検出することが有効である。
【0023】
そこで、本願発明者らは、光学的手段による塗膜形成ムラの検出感度を向上させるべく、鋭意検討した。その結果、基板に吐出されたインクの乾燥前と乾燥後とでは、インクの形状変化の方向に違いがあることを発見した。そして、インクの形状変化の方向の違いは、光学的手段による塗膜形成ムラの検出感度に影響を及ぼすことが分かった。
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0025】
図1は、本実施形態に係るインクジェット印刷装置1を模式的に示す。インクジェット印刷装置1は、デバイスとしての有機ELディスプレイを製造する装置であり、基板10に対してインクPを塗布することで印刷を行う。
【0026】
インクジェット印刷装置1は、印刷手段としての印刷ヘッド20を備える。印刷ヘッド20は、基板10の上方に配置される。印刷ヘッド20には、複数のノズル21,21,…が設けられる。各ノズル21からは液状のインクPが基板10の表面に向けて吐出される。なお、インクPには、少なくとも、有機ELディスプレイの発光素子となる機能性材料と、溶媒と、が含まれる。印刷ヘッド20における各ノズル21の吐出量、吐出方向、等は、処理部2によって制御される。
【0027】
インクジェット印刷装置1は、光学的手段によって、基板10の表面の状態を観察する観察手段30を備える。観察手段30は、光源部としての照明31と、撮像部としてのライセンサカメラ32と、を有する。照明31は、基板10の上方に配置され、基板10に照明光L1を照射する。ライセンサカメラ32は、基板10の上方に配置される。具体的には、照明31は、基板10の表面の垂線に対して、所定の角度θ傾斜した状態で配置される。
【0028】
ライセンサカメラ32は、基板10の表面の垂線上に位置する。すなわち、ライセンサカメラ32の撮像軸T2は、照明光L1の照射軸T1に対して、所定の角度θを有する。ライセンサカメラ32で撮像された画像のデータは、処理部2に入力される。
【0029】
なお、照射軸T1とは、照明31から照射された光の中心軸をいう。撮像軸T2とは、ライセンサカメラ32のレンズの向いた方向(レンズの中心軸)をいう。
【0030】
インクジェット印刷装置1は、移動手段としてのステージ3を備える。ステージ3は、基板10を印刷ヘッド20に対して相対的に移動させる。具体的には、ステージ3は、その上面に基板10を載置して、基板10を印刷ヘッド20から観察手段30まで搬送する。図中Xは、基板10(ステージ3)の搬送方向であり、基板10の印刷ヘッド20に対する相対的な移動方向を示す(以下、単に「搬送方向X」という)。なお、観察手段30は、搬送方向Xにおいて、印刷ヘッド20のノズル21から基板10の表面にインクPが塗布された直後に、基板10の表面の観察が行われる位置に配置される。
【0031】
図2Aは、インクジェット印刷装置1で印刷を行う方法を模式的に示す。図2Bは、図2AにおけるIIB-IIB線における断面を模式的に示す。基板10の表面には、複数のセル11,11,…が設けられる。各セル11は、搬送方向X及び搬送方向Xに直交する方向に配列される。ここで、基板10の表面には、複数のバンク12,12,…が設けられる。複数のバンク12,12,…における各バンク12は、基板10の表面から上方に突出する壁である。各バンク12は、搬送方向Xに直交する方向に延び、且つ、搬送方向Xに並列する。搬送方向Xに隣接するセル11,11同士は、バンク12で仕切られる。
【0032】
ここで、印刷ヘッド20における複数のノズル21は、搬送方向X及び搬送方向Xに直交する方向に配列される。また、ライセンサカメラ32は、搬送方向Xに直交する方向に複数台配列される(図示省略)。
【0033】
図2Bに示すように、インクPは、各セル11に充填される。これにより、各セル11に塗膜が形成される。
【0034】
本実施形態では、インクPとして、RGB表色系における赤色、緑色、青色のインクPa,Pb,Pcが用意される。各セル11には、インクPa,Pb,Pcのうちいずれか一種類が充填される。基板の10の表面には、各インクPa,Pb,Pcに対応するセル11a,11b,11cが設けられており、搬送方向Xに配列する。
【0035】
ここで、各セル11a,11b,11cに充填されたインクPa,Pb,Pcの塗膜の厚さは、互いに等しいことが好ましい。塗膜厚さの不均一は、基板10の表面の塗膜形成ムラの原因となるからである。各セル11a,11b,11cに充填されたインクPa,Pb,Pcの塗膜の厚さを等しくするために、各ノズル21の吐出量、吐出方向、等が、処理部2によって制御される。
【0036】
図3Aは、塗膜形成ムラが発生していない状態(以下、正常状態という)における各セル11に形成された塗膜を模式的に示す。図3Bは、塗膜形成ムラが発生した状態(以下、異常状態という)における各セル11に形成された塗膜を模式的に示す。図3Aに示すように、正常状態においては、インクPcは、各ノズル21から真下に吐出される。このため、インクPcは、セル11cの隣のセル11bには充填されず、全てセル11cに充填される。なお、セル11a,11bでも同様のことが行われている。
【0037】
この場合、各セル11a,11b,11cに充填されたインクPa,Pb,Pcの塗膜の厚さは、互いに略等しい。したがって、基板10の表面に塗膜形成ムラは発生しない。
【0038】
図3Bに示すように、異常状態においては、ノズル21の目詰まりや製作誤差等により、インクPcのうちの一部が、ノズル21から真下に吐出されずに、セル11b側に向けて吐出されることがある。このため、インクPcのうちの一部は、セル11cではなく、セル11b充填される。このため、セル11cにおけるインクPcの充填量が少なくなり、セル11cにおける塗膜の厚さが小さくなる。一方、セル11bには、インクPb及びインクPcのうちの一部が充填されるので、セル11bにおける塗膜の厚さが大きくなる。
【0039】
図4Aは、正常状態における各セル11に形成された塗膜を観察する方法を模式的に示す。図4Bは、異常状態における各セル11に形成された塗膜を観察する方法を模式的に示す。図4Aに示すように、正常状態において、照明31から照射された照明光L1は、基板10の表面からの正反射光L2となる。
【0040】
図4Bに示すように、異常状態において、照明31から照射された照明光L1は、セル11bにおける塗膜の盛り上がり部分P1の側面で拡散反射して、基板10からの拡散光L3として、ライセンサカメラ32に入力される。すなわち、ライセンサカメラ32は、照明光L1の基板10からの拡散反射光L3を受光する。ライセンサカメラ32で拡散反射光L3をより多く受光することによって、塗膜形成ムラの検出感度が向上する。
【0041】
ここで、所定の角度θが小さすぎると、具体的には、70度よりも小さいと、ライセンサカメラ32が正反射光L2も受光してしまうため、微小な拡散反射光L3を検出することが困難となり、塗膜形成ムラの検出感度が低下してしまう。一方、所定の角度θが大きすぎると、具体的には、80度よりも大きいと、照明31がステージ3と干渉してしまい、取付困難となる。したがって、所定の角度θは、70度以上80度以下であることが好ましい。
【0042】
ライセンサカメラ32で撮像された画像データは、処理部2に入力される。ここで、図2Aに示すように、ステージ3上に載置された基板10は、印刷ヘッド20のノズル21に対して相対的に搬送方向Xに移動する。したがって、各セル11間における塗膜の厚さの不均一(塗膜形成ムラ)が複数のノズル21,21,…のうちのいずれかのノズル21の不良に起因する場合、基板10の表面において、搬送方向Xに延びる直線状の欠陥が形成される(図7A,7B参照)。なお、ノズル21の不良として、例えば、ノズル21の目詰まりによる吐出量の低下、ノズル21の製造誤差による吐出方向の不一致、等が挙げられる。当該直線状の欠陥を観察手段30が観察した場合、処理部2は、当該直線状の欠陥を、複数のノズル21,21,…のうちのいずれかのノズル21の不良に起因する各セル11間における塗膜の厚さの不均一(塗膜形成ムラ)として検出する。
【0043】
さらに、処理部2は、当該直線状の欠陥を、他の欠陥に比較して強調して表示することで、ノズル21の不良に起因する塗膜形成ムラによる欠陥と、他の欠陥(例えば、基板10の表面状態に起因する欠陥、等)とを、分別しやすくする。
【0044】
基板10の表面に吐出され、各セルに充填されたインクPの塗膜の形状変化の態様について図5を用いて説明する。図5は、時間の経過に伴う塗膜の形状変化を模式的に示す。印刷ヘッド20のノズル21から基板10の表面に対して吐出されたインクPは、各セル11に充填される。インクP中の溶媒は、ノズル21から吐出された直後から蒸発を開始する。すなわち、インクPは、ノズル21から吐出された直後から乾燥し始める。
【0045】
ここで、ノズル21から基板10の表面に吐出されたインクPは、先ず、時間の経過に伴い塗膜の厚さが小さくなる。このとき、インクPの塗膜の直径は、ほとんど変化しない。そして、一定時間経過後には、インクPは、乾燥して、塗膜の厚さが十分に小さくなる。その後、インクPの塗膜の直径が小さくなり始める。このとき、インクPの塗膜の厚さはほとんど変化しない。
【0046】
すなわち、ノズル21からインクPが吐出されてから一定時間経過し、各セル11に充填されたインクPが乾燥して塗膜の厚さが十分に小さくなった後には、各セル11間における塗膜の厚さにほとんど差がなくなる。そのため、光学的手段によって、各セル11間における塗膜の厚さの不均一(塗膜形成ムラ)を検出することが困難となる。したがって、本実施形態においては、各セル11に充填されたインクPが乾燥する前(塗膜の厚さが十分に小さくなる前)に、観察手段30によって各セル11における塗膜の状態を、観察する。
【0047】
以上の通り、本実施形態では、各セル11に充填されたインクPが乾燥する前(塗膜の厚さが十分に小さくなる前)に、各セル11における塗膜の状態を観察することで、インクジェット印刷による塗膜形成ムラを、光学的手段である観察手段30によって高感度に検出することができる。これにより、最終段階で行われる点灯検査前に、塗膜形成ムラを検出することができるので、歩留まりが向上する。
【0048】
観察手段30は、基板の10の表面からの拡散反射光を利用するので、透過光を利用する場合と異なり、基板10が不透明であっても、基板10の表面に形成された塗膜形成ムラを検出することができる。
【0049】
所定の角度θを70度以上80度以下とすることで、ライセンサカメラ32が正反射光L2をほとんど受光せずに、拡散反射光L3のみを受光することができる。これにより、塗膜形成ムラを精度よく検出することができる。また、照明31とステージ3との干渉を抑制することができる。
【0050】
基板10の表面に直線状の欠陥が観察された場合に、処理部2において、ノズル21の不良に起因する塗膜形成ムラであると特定するので、欠陥の原因を早期に発見することができる。
【0051】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【0052】
例えば、インクジェット印刷装置1は、着弾カメラを備えてもよい。着弾カメラは、ノズル21から吐出されるインクPを撮影する。上述したように、基板10の表面に直線状の欠陥が発見された場合、当該直線状の欠陥の原因は、複数のノズル21,21,…のうちのいずれかのノズル21の不良にあると特定される。このとき、着弾カメラで撮影した映像を確認することで、複数のノズル21,21,…のうちのどのノズル21に欠陥の原因があるのかをさらに特定することができる。
【0053】
観察手段30は、拡散反射光L3を利用するものに限定されず、例えば透過光を利用するものでもよい。
【0054】
インクジェット印刷装置1で製造するデバイスは、有機ELディスプレイに限定されない。例えば、太陽光電池等でもよい。
【0055】
本開示に係る塗膜形成ムラ検出方法は、表面に複数のセル11が設けられた基板10に対して液状のインクPを吐出することで印刷を行うインクジェット印刷において、複数のセル11,11,…における各セル11にインクPを充填することで各セル11に形成された塗膜の塗膜形成ムラ検出方法であって、各セル11に充填されたインクPが乾燥する前に、各セル11における塗膜の状態を観察する。
【0056】
本開示に係るデバイスの製造方法は、基板10の表面に設けられた複数のセル11に塗膜が形成されたデバイスの製造方法であって、複数のセル11,11、…における各セル11に液状のインクPを吐出して充填することで各セル11に塗膜を形成する印刷工程と、各セル11に充填されたインクPが乾燥する前に、各セル11における塗膜の状態を観察する検査工程と、を備える。
【実施例
【0057】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0058】
インクをガラス基板上に滴下した。滴下量はセルに充填する量とした。滴下後のインク中に含まれる溶媒の蒸発による塗膜の直径変化を測定した。図6は、時間の経過に伴う塗膜の直径変化を示すグラフである。図6に示すように、滴下後60秒程度は直径に大きな変化は見られないが、60秒以降は大きく変化することが観測された。滴下後から60秒程度までは、溶媒の蒸発による液量の減少は塗膜の高さ方向に変化する。そして、60秒程度経過して、塗膜の厚さが十分小さくなった後、塗膜の直径が小さくなり始める。したがって、今回測定したインクでは、ノズルからの吐出後60秒以内に、塗膜を観察することが必要であることが分かった。
【0059】
観察手段は、ラインセンサカメラ(型番:VT-9K7C-H80,ViewWorks社製)を用意した。ラインセンサカメラの数量は、基板の搬送方向Xに直交する方向に4台配列した。
【0060】
照明部として、バー照明(型番:PDL-T-1500-1,日本ピー・アイ社製)と、LED光源(型番:SLG-150V-R,REVOX社製)を用意した。処理部として、パーソナルコンピュータ(型番:LR-41S49,ロジテック社製)を用意した。パーソナルコンピュータに画像入力ボード(型番:APX-3800,アバールデータ社製)を設置し、ラインセンサカメラと接続した。所定の角度θは、70度とした。
【0061】
観察手段は、搬送方向Xにおいて、印刷ヘッドの直後に配置した。これにより、ノズルからインクが吐出された直後に、基板の表面を観察手段によって観察することができる。
(インク塗布)
基板として、730mm×920mmのガラス基板(型番:AN100,AGC社製)を用意した。ガラス基板を、インクジェット印刷装置のステージ上に載置した。そして、印刷ヘッドのノズルから、ガラス基板の表面に対してインクを塗布した。塗布時間は27秒であった。
(塗膜形成ムラの検出方法)
ガラス基板の表面にインクを塗布した後に、ステージによって、150mm/sでガラス基板を観察手段へ搬送した。搬送時間及び観察準備時間の合計は、15秒であった。その後、4台のラインセンサカメラで、ガラス基板の表面を撮像した。撮像時間は10秒であった。これにより、塗布後25~52秒の撮像データが得られ、インク塗布後60秒以内に、基板の表面を観察することができた。撮像した画像データを処理部に送信し、塗膜形成ムラの検出を実施した。
【0062】
(効果の確認)
図7Aは、基板の表面に形成された欠陥を観察カメラ(型番:HS-80-04K40/DALSA社製)で撮影した写真である。図7Bは、ライセンサカメラで撮像した基板の表面に形成された欠陥を処理部において所定のアルゴリズムによって強調して示した図である。
【0063】
観察カメラは、ステージの表面の垂線上に、設置されている(図示省略)。観察カメラは、ガラス基板の表面の真上から光を照射し、ガラス基板からの正反射光を観測する。これにより、図7Aに示すように、観察カメラで撮像した画像では、欠陥部(塗膜形成ムラ)は正常部と比較して黒色で撮像されている。
【0064】
また、ライセンサカメラで撮像した画像では、欠陥部(塗膜形成ムラ)からの拡散反射光が多く検出されるため、図7Bに示すように、欠陥部は正常部と比較して、白色に撮像される。なお、図7Bに示すように、処理部によって、所定のアルゴリズムを用いて、搬送方向Xに対して直線状に形成される欠陥を、強調して表示している。図7Aに示す観察カメラでの撮像画像と、図7Bに示す処理部で欠陥部を強調して示した画像とを比較すると、欠陥部の位置が一致していることが確認できた。
【符号の説明】
【0065】
P インク
X 搬送方向
L1 照明光
L2 正反射光
L3 拡散反射光
T1 照射軸
T2 撮像軸
1 インクジェット印刷装置
2 処理部
3 ステージ(移動手段)
10 基板
11 セル
20 印刷ヘッド(印刷手段)
21 ノズル
30 観察手段
31 照明(光源部)
32 ライセンサカメラ(撮像部)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B