(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】赤外線センサ及び赤外線センサアレイ
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20241213BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
G01J1/02 C
H01L27/144 K
(21)【出願番号】P 2021501541
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037205
(87)【国際公開番号】W WO2020174732
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2019035360
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏平
(72)【発明者】
【氏名】反保 尚基
(72)【発明者】
【氏名】中村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】藤金 正樹
(72)【発明者】
【氏名】内藤 康幸
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-003081(JP,A)
【文献】特開平05-231946(JP,A)
【文献】特開2001-272271(JP,A)
【文献】特開2008-082790(JP,A)
【文献】特開平08-201177(JP,A)
【文献】特開2017-223644(JP,A)
【文献】特開平09-015039(JP,A)
【文献】米国特許第5912464(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/02
G01J 1/42- G01J 1/46
G01J 5/02
G01J 5/20- G01J 5/24
G01J 5/48
G01K 7/16- G01K 7/28
H01C 7/02- H01C 7/22
H01L 27/14- H01L 27/148
H01L 31/00- H01L 31/0248
H01L 31/08- H01L 31/119
H10K 39/32
H10N 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線センサであって、
ベース基板;
ボロメータ型の赤外線受光部;
第1梁;
第2梁;
第1配線;
第2配線;及び
赤外線反射膜;
を具備し、
ここで、
前記第1梁及び前記第2梁の各々は、前記ベース基板、及び/又は前記ベース基板上の部材と接続された接続部と、前記ベース基板から離間した離間部と、を有し、かつ、前記離間部において前記赤外線受光部と物理的に接合され、
前記赤外線受光部は、前記第1梁及び前記第2梁によって、前記ベース基板とは離間した状態で支持されており、
前記赤外線受光部は、下部電極と、上部電極と、温度によって電気抵抗が変化する抵抗変化材料から構成される抵抗変化膜と、を含み、
前記抵抗変化膜は、前記下部電極及び前記上部電極によって厚さ方向に挟持され、
前記下部電極及び前記上部電極の各々は、前記抵抗変化膜と電気的に接続され、
前記下部電極及び前記上部電極は、前記第1配線及び前記第2配線と、それぞれ電気的に接続され、
前記下部電極及び前記上部電極から選ばれる少なくとも1つの電極が、ラインアンドスペース構造を有し、
前記赤外線反射膜は、前記ベース基板の表面における前記赤外線受光部に対面する位置に設けられており、
前記第1梁における、前記赤外線受光部との接合部と、前記接続部との間に位置する区間は、規則的に配列した複数の貫通孔を具備する第1フォノニック結晶構造を有し、
前記第2梁における、前記赤外線受光部との接合部と、前記接続部との間に位置する区間は、規則的に配列した複数の貫通孔を具備する第2フォノニック結晶構造を有し、
前記第1フォノニック結晶構造は、フォノニック結晶領域である第1ドメイン及び第2ドメインを含み、
前記第1ドメインは、平面視において、第1方向に規則的に配列した前記複数の貫通孔を具備し、
前記第2ドメインは、平面視において、前記第1方向とは異なる第2方向に規則的に配列した前記複数の貫通孔を具備し、
前記第2フォノニック結晶構造は、フォノニック結晶領域である第3ドメイン及び第4ドメインを含み、
前記第3ドメインは、平面視において、第3方向に規則的に配列した前記複数の貫通孔を具備し、
前記第4ドメインは、平面視において、前記第3方向とは異なる第4方向に規則的に配列した前記複数の貫通孔を具備する、
赤外線センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサであって、
前記下部電極は、第1の前記ラインアンドスペース構造を有し、
前記上部電極は、第2の前記ラインアンドスペース構造を有し、
平面視において、前記第1のラインアンドスペース構造の整列方向と、前記第2のラインアンドスペース構造の整列方向とは、互いに異なる、
赤外線センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の赤外線センサであって、
前記第1のラインアンドスペース構造の整列方向と前記第2のラインアンドスペース構造の整列方向とが成す角度は、80度以上90度以下である、
赤外線センサ。
【請求項4】
請求項2に記載の赤外線センサであって、
前記第1のラインアンドスペース構造の整列方向と、前記第2のラインアンドスペース構造の整列方向とは、直交している、
赤外線センサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記ラインアンドスペース構造のライン幅及び間隔が1μm以下である、
赤外線センサ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記下部電極及び前記上部電極の各々は、金属膜から構成されており、
前記金属膜の実効的なシート抵抗は、100Ω/□以上かつ500Ω/□以下である、
赤外線センサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記抵抗変化膜が、シリコン又は酸化バナジウムから構成される、
赤外線センサ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記第1梁及び前記第2梁が、シリコン又は酸化バナジウムから構成される、
赤外線センサ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記第1配線が前記第1梁上に形成され、
前記第2配線が前記第2梁上に形成されている、
赤外線センサ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記赤外線センサは、前記ベース基板上に配置され
、前記ベース基板上の部材である、前記ベース基板の上面から離れる方向に延びる第1支柱及び第2支柱をさらに具備し、
ここで、
前記第1梁は、前記接続部において前記第1支柱に物理的に接続されており、
前記第2梁は、前記接続部において前記第2支柱に物理的に接続されており、
断面視において、前記赤外線受光部、前記第1梁、及び前記第2梁が、前記第1支柱及び前記第2支柱によって前記ベース基板の上部で懸架されており、
前記第1支柱及び前記第2支柱は導電性を有し、
前記第1配線は、前記第1支柱に電気的に接続されており、
前記第2配線は、前記第2支柱に電気的に接続されている、
赤外線センサ。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記ベース基板が凹部を有し、
前記凹部は、前記赤外線受光部、並びに前記第1梁の前記離間部及び前記第2梁の前記離間部と、前記ベース基板との間に位置しており、
前記第1梁及び前記第2梁の各々は、前記接続部において前記ベース基板に物理的に接続されており、
断面視において、前記赤外線受光部、並びに前記第1梁の前記離間部及び前記第2梁の前記離間部は、前記ベース基板の前記凹部上に懸架されている、
赤外線センサ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の赤外線センサであって、
前記赤外線センサは、前記ベース基板の内部に読み出し集積回路(ROIC)をさらに具備する、
赤外線センサ。
【請求項13】
赤外線センサアレイであって、
二次元アレイ状に配置された複数の赤外線センサを具備し、
ここで、
前記複数の赤外線センサは、請求項1~12のいずれかに記載の赤外線センサを含む、
赤外線センサアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、赤外線センサ及び赤外線センサアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサの分野において、梁を用いてベース基板から赤外線受光部を離間させる構造が提案されている。この構造は、ベース基板からの赤外線受光部の熱的な絶縁を目的としている。この構造を有する赤外線センサでは、梁の断熱性能が高いほど赤外線の受光感度が向上する。特許文献1は、フォノニック結晶構造の導入によって梁の断熱性能を高める技術を開示している。
【0003】
赤外線センサの一種に、ボロメータ型センサがある。ボロメータ型センサは、サーミスタ型センサとも称される。ボロメータ型センサの赤外線受光部は、温度によって電気抵抗が変化する抵抗変化材料を含む。特許文献1の開示する赤外線センサには、ボロメータ型センサが含まれる。
【0004】
非特許文献1には、下部電極と、上部電極と、抵抗変化材料からなる抵抗変化膜とを含む赤外線受光部を備えるボロメータ型赤外線センサが開示されている。非特許文献1の赤外線センサは、下部電極及び上部電極によって抵抗変化膜が厚さ方向に挟持された「サンドイッチ構造」を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】A. Kosarev et al., "Un-cooled micro-bolometer with Sandwiched Thermo-sensing Layer Based on Ge films deposited by Plasma", Mater. Res. Soc. Symp. Proc. Vol. 910, 2006, 0910-A17-05
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、ボロメータ型赤外線センサにおける赤外線の受光感度を高める技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の赤外線センサを提供する。
赤外線センサであって、
ボロメータ赤外線受光部;
第1梁;
第2梁;
第1配線;
第2配線;及び
赤外線反射膜;
を具備し、
ここで、
前記第1梁及び前記第2梁の各々は、前記ベース基板、及び/又は前記ベース基板上の部材と接続された接続部と、前記ベース基板から離間した離間部と、を有し、かつ、前記離間部において前記赤外線受光部と物理的に接合され、
前記赤外線受光部は、前記第1梁及び前記第2梁によって、前記ベース基板とは離間した状態で支持されており、
前記赤外線受光部は、下部電極と、上部電極と、温度によって電気抵抗が変化する抵抗変化材料から構成される抵抗変化膜と、を含み、
前記抵抗変化膜は、前記下部電極及び前記上部電極によって厚さ方向に挟持され、
前記下部電極及び前記上部電極の各々は、前記抵抗変化膜と電気的に接続され、
前記下部電極及び前記上部電極は、前記第1配線及び前記第2配線と、それぞれ電気的に接続され、
前記下部電極及び前記上部電極から選ばれる少なくとも1つの電極が、ラインアンドスペース構造を有し、
前記赤外線反射膜は、前記ベース基板の表面における前記赤外線受光部に対面する位置に設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本開示の赤外線センサは、赤外線の高い受光感度を有しうるボロメータ型センサである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施形態1の赤外線センサを模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、実施形態1の赤外線センサを模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の赤外線センサにおける下部電極及び上部電極を模式的に示す平面図である。
【
図3A】
図3Aは、本開示の赤外線センサが備えうる下部電極及び/又は上部電極の例を模式的に示す平面図である。
【
図3B】
図3Bは、本開示の赤外線センサが備えうる下部電極及び/又は上部電極の例を模式的に示す平面図である。
【
図3C】
図3Cは、本開示の赤外線センサが備えうる下部電極及び/又は上部電極の例を模式的に示す平面図である。
【
図3D】
図3Dは、本開示の赤外線センサが備えうる下部電極及び/又は上部電極の例を模式的に示す平面図である。
【
図3E】
図3Eは、本開示の赤外線センサが備えうる下部電極及び/又は上部電極の例を模式的に示す平面図である。
【
図4A】
図4Aは、本開示の赤外線センサの梁(第1梁)が有しうるフォノニック結晶構造の一例を模式的に示す平面図である。
【
図4B】
図4Bは、本開示の赤外線センサの梁(第2梁)が有しうるフォノニック結晶構造の一例を模式的に示す平面図である。
【
図5A】
図5Aは、
図4Aのフォノニック結晶構造が含む第1ドメインにおける単位格子とその方位とを示す模式図である。
【
図5B】
図5Bは、
図4Aのフォノニック結晶構造が含む第2ドメインにおける単位格子とその方位とを示す模式図である。
【
図6】
図6は、
図4Aのフォノニック結晶構造の領域R1の拡大図である。
【
図7】
図7は、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図8】
図8は、
図7のフォノニック結晶構造の領域R2の拡大図である。
【
図9】
図9は、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造のまた別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図11】
図11は、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造のさらにまた別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図12】
図12は、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の上記とは別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図13】
図13は、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の上記とは別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図14A】
図14Aは、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の単位格子の一例を示す模式図である。
【
図14B】
図14Bは、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の単位格子の別の一例を示す模式図である。
【
図15】
図15は、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の上記とは別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図16】
図16は、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の上記とは別の一例を模式的に示す平面図である。
【
図17A】
図17Aは、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の単位格子の一例を示す模式図である。
【
図17B】
図17Bは、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の単位格子の別の一例を示す模式図である。
【
図17C】
図17Cは、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の単位格子のまた別の一例を示す模式図である。
【
図17D】
図17Dは、本開示の赤外線センサの梁が有しうるフォノニック結晶構造の単位格子の上記とは別の一例を示す模式図である。
【
図19】
図19は、実施形態3の赤外線センサを模式的に示す断面図である。
【
図20A】
図20Aは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20B】
図20Bは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20C】
図20Cは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20D】
図20Dは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20E】
図20Eは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20F】
図20Fは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20G】
図20Gは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20H】
図20Hは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20I】
図20Iは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20J】
図20Jは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20K】
図20Kは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20L】
図20Lは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20M】
図20Mは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20N】
図20Nは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【
図20O】
図20Oは、本開示の赤外線センサを製造する方法の一例を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者らの検討によれば、ボロメータ型赤外線センサにおける赤外線の受光感度は、梁の断熱性能の向上だけではなく、熱雑音Nthermの低減によっても向上する。熱雑音Nthermは、赤外線センサの全電気抵抗Rallの1/2乗に比例するパラメータである。本開示の赤外線センサの赤外線受光部は、下部電極と上部電極と抵抗変化膜とを含み、かつ下部電極及び上部電極によって抵抗変化膜が厚さ方向に挟持された構造を有する。当該構造によれば、抵抗変化膜における電流の経路の断面積を広く、経路長を短くすることが可能となる。このため、抵抗変化膜の電気抵抗を低減できる。抵抗変化膜の電気抵抗の低減は、赤外線センサの全電気抵抗Rallを下げ、熱雑音Nthermを低減させる。即ち、上記構造により、赤外線の受光感度の向上が期待される。
【0012】
一方で、ボロメータ型赤外線センサでは、赤外線受光部における赤外線の吸収量の増大を目的として、ベース基板の表面における赤外線受光部に対面する位置に赤外線反射膜が、通常、設けられる。また、赤外線反射膜の単なる配置のみならず、赤外線反射膜と赤外線受光部との離間距離を制御することにより、外部から赤外線受光部に入射する赤外線、赤外線受光部の上面において反射する赤外線、及び赤外線反射膜において反射して、ベース基板側から赤外線受光部に入射する赤外線の位相の整合が図られている。この位相の整合は、赤外線の吸収量の増大にとって重要である。本発明者らの検討によれば、抵抗変化膜上に面状に拡がった下部電極及び上部電極を上記構造に使用した場合、下部電極と上部電極との間における赤外線の多重反射により、上記位相の整合が困難となる。これに対して、本開示の赤外線センサの赤外線受光部では、下部電極及び上部電極から選ばれる少なくとも1つの電極が、ラインアンドスペース構造(L/S構造)を有する。L/S構造を有する電極では、複数の帯状部が特定の整列方向に互いに離間して整列している。このため、L/S構造を有する電極を透過及び反射する赤外線の主たる成分を、上記整列方向に振動面を有する偏光とすることができる。これは上記赤外線の多重反射を緩和させ、それ故に、上記位相の整合による赤外線の吸収量の増大を図ることができる。したがって、本開示の赤外線センサは高い受光感度を有しうる。
【0013】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的、又は具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、及び接続形態、プロセス条件、ステップ、ステップの順序等は一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0014】
[赤外線センサ]
(実施形態1)
実施形態1の赤外線センサが
図1A及び
図1Bに示される。
図1Aには、
図1Bの赤外線センサ1Aの断面1A-1Aが示される。赤外線センサ1Aは、熱型赤外線センサの1種であるボロメータ型赤外線センサである。赤外線センサ1Aは、ベース基板11、ボロメータ赤外線受光部12、第1梁13A、第2梁13B、第1配線20A、第2配線20B、及び赤外線反射膜23を備える。第1梁13A及び第2梁13Bは、それぞれ、ベース基板11上の部材と接続された接続部16A,16Bを有する。第1梁13A及び第2梁13Bの各々は、ベース基板11から離間した離間部17を有する。第1梁13A及び第2梁13Bは、それぞれ、一方の端部に接続部16A,16Bを有している。第1梁13A及び第2梁13Bの各々は、離間部17において赤外線受光部12と物理的に接合されている。赤外線受光部12と物理的に接合されている位置は、第1梁13A及び第2梁13Bの各々における他方の端部である。赤外線受光部12は、第1梁13A及び第2梁13Bによって、ベース基板11とは離間した状態で支持されている。この離間は、ベース基板11と赤外線受光部12との熱的な絶縁を高めている。
【0015】
赤外線センサ1Aは、ベース基板11上に配置された部材であって、ベース基板11の上面14から離れる方向に延びる第1支柱15A及び第2支柱15Bをさらに備える。第1支柱15A及び第2支柱15Bは、ベース基板11上の部材である。第1梁13Aは、接続部16Aにおいて第1支柱15Aに物理的に接続されている。第2梁13Bは、接続部16Bにおいて第2支柱15Bと物理的に接続されている。断面視において、赤外線受光部12、第1梁13A、及び第2梁13Bは、第1支柱15A及び第2支柱15Bによってベース基板11の上部で懸架されている。
図1A及び
図1Bに示される赤外線センサ1Aでは、第1支柱15A及び第2支柱15Bによる上記懸架によって、ベース基板11と赤外線受光部12との離間が達成されている。
【0016】
赤外線受光部12は、下部電極31と、上部電極32と、温度によって電気抵抗が変化する抵抗変化材料から構成される抵抗変化膜33とを含む。抵抗変化膜33は、下部電極31及び上部電極32によって厚さ方向に挟持されている。下部電極31は、抵抗変化膜33と直接的かつ電気的に接合している。上部電極32は、抵抗変化膜33と直接的かつ電気的に接合している。
【0017】
第1配線20Aは、第1梁13A上に形成されている。第1配線20Aと下部電極31とは、電気的に接続されている。第1配線20Aと下部電極31とは一体化されている。第2配線20Bは、第2梁13B上に形成されている。第2配線20Bと上部電極32とは、電気的に接続されている。第2配線20Bと上部電極32とは一体化されている。
【0018】
第1支柱15A及び第2支柱15Bは、導電性を有する。第1配線20Aは、第1支柱15Aに電気的に接続されている。第2配線20Bは、第2支柱15Bに電気的に接続されている。第1支柱15A及び第2支柱15Bは、赤外線受光部12に含まれる抵抗変化膜33の抵抗を検出する電流の経路としての機能も有している。
【0019】
赤外線センサ1Aでは、抵抗変化膜33の抵抗の読み取りが実施される。読み取りのために、
図1A及び
図1Bに示される赤外線センサ1Aは、ベース基板11の内部に読み出し集積回路(ROIC);(図示せず)をさらに備えている。赤外線センサ1Aは、ベース基板11の上面14に第1信号読み出し端子22A及び第2信号読み出し端子22Bをさらに備えている。第1支柱15AとROICとは、第1信号読み出し端子22Aを介して電気的に接続されている。第2支柱15BとROICとは、第2信号読み出し端子22Bを介して電気的に接続されている。抵抗変化膜33の抵抗は、下部電極31、上部電極32、第1配線20A、第2配線20B、第1支柱15A、第2支柱15B、第1信号読み出し端子22A、及び第2信号読み出し端子22Bを介して読み取り可能である。なお、抵抗変化膜33を挟んだ第1信号読み出し端子22Aと第2信号読み出し端子22Bとの間の電気抵抗が、上述した全電気抵抗R
allである。赤外線センサ1Aは、抵抗変化膜33の抵抗を読み取るためのさらなる部材を備えていてもよい。
【0020】
赤外線受光部12に赤外線が入射すると、赤外線受光部12の温度が上昇する。このとき、赤外線受光部12の温度は、熱浴であるベース基板11及びベース基板11上の部材から熱的に絶縁されているほど、大きく上昇する。ボロメータ赤外線受光部12を備える赤外線センサ1Aでは、温度上昇に伴って、抵抗変化膜33の抵抗が変化する。変化した抵抗に対応する電気的な信号をROICで処理して赤外線が検知される。処理によっては、赤外線センサ1Aによる赤外線の強度測定、及び/又は対象物の温度測定が可能である。ただし、本開示の赤外線センサにおいて、赤外線受光部12に含まれる抵抗変化膜33の抵抗の読み取りは、ベース基板11の内部に設けられたROICによる態様に限定されない。
【0021】
赤外線センサ1Aは、ベース基板11の表面における赤外線受光部12に対面する位置に赤外線反射膜23をさらに備えている。
図1A及び
図1Bに示される赤外線センサ1Aでは、赤外線反射膜23はベース基板11の上面14に配置されている。赤外線反射膜23は、外部から赤外線センサ1Aに入射した赤外線を反射する。反射する赤外線には、赤外線受光部12を透過した赤外線が含まれる。赤外線反射膜23において反射した赤外線は、下部電極31の側から赤外線受光部12に入射しうる。平面視において、赤外線受光部12の面積に比べて赤外線反射膜23の面積は大きい。また、平面視において、赤外線反射膜23は、赤外線受光部12を囲むように配置されている。ただし、赤外線反射膜23の具体的な形態は、
図1A及び
図1Bに示される例に限定されない。なお、本明細書において、「平面視」とは、対象物の主面に垂直な方向から対象物を視ることを意味する。また、「主面」とは、最も広い面積を有する面を意味する。
【0022】
図1A及び
図1Bに示される赤外線センサ1Aでは、下部電極31及び上部電極32の双方の電極が、L/S構造を有する。当該下部電極31及び上部電極32の各々を構成する金属膜の実効的なシート抵抗(effective sheet resistance)は、100Ω/□以上かつ500Ω/□以下であることが望ましい。この場合、当該金属膜の実効的なシート抵抗は、真空のインピーダンスと整合する。これにより、当該金属膜における赤外線の反射が抑えられ、赤外線の吸収を増大させることができる。ここで、実効的なシート抵抗とは、有効媒質近似に基づいて得られる不連続体のシート抵抗である。この形態では、上記赤外線の多重反射を緩和させる制御の自由度が向上可能である。また、赤外線センサ1Aでは、下部電極31は第1のL/S構造を有し、上部電極32は第2のL/S構造を有する。平面視において、第1のL/S構造の整列方向と、第2のL/S構造の整列方向とは互いに異なっている。この形態では、上記赤外線の多重反射を緩和させる制御の自由度のさらなる向上が可能である。平面視において、第1のL/S構造の整列方向と第2のL/S構造の整列方向とが成す角度は、劣角により表示して、例えば、45度以上であり、60度以上、70度以上、80度以上、さらには85度以上であってもよい。また、当該角度は、80度以上90度以下であってもよい。赤外線センサ1Aでは、平面視において、第1のL/S構造の整列方向と第2のL/S構造の整列方向とは、直交している。なお、本明細書において、「直交」とは、2つの方向が劣角により表示して89度以上90度以下の角度で交わることを意味し、90度で交わっていてもよい。
【0023】
L/S構造は、特定の整列方向に互いに離間して整列している2以上の帯状部から構成される構造である。各々の帯状部のライン幅は、通常、等しい。3以上の帯状部からL/S構造が構成される場合、隣接する帯状部の間の各間隔は、通常、等しい。L/S構造において、ライン幅と間隔とが等しくてもよい。
【0024】
下部電極31及び/又は上部電極32が有しうるL/S構造のライン幅及び間隔は、1μm以下であってもよい。当該ライン幅及び間隔の下限は、例えば30nm以上である。赤外線センサ1Aへの入射が想定される赤外線の中心波長の1/10が1μmに相当する。このため、L/S構造のライン幅及び間隔が1μm以下である場合には、当該L/S構造を有する下部電極31及び/又は上部電極32における赤外線に対する偏光選択能が向上可能となる。なお、ライン幅及び間隔が1μm以下であるL/S構造は、赤外線に対するワイヤーグリッド構造と捉えることもできる。
【0025】
下部電極31が有しうる第1のL/S構造と、上部電極32が有しうる第2のL/S構造とは、同一のライン幅及び間隔を有していてもよい。この形態では、上記赤外線の多重反射を緩和させる制御の自由度のさらなる向上が可能である。また、第1のL/S構造と第2のL/S構造とが同一のライン幅及び間隔を有するとともに、第1のL/S構造の整列方向と第2のL/S構造の整列方向とが平面視において直交する場合、当該自由度は特に高くなりうる。
【0026】
図1A及び
図1Bの赤外線センサ1Aにおける下部電極31及び上部電極32が、
図2に示される。
図2の下部電極31及び上部電極32は、特定の一つの整列方向ADに延びる7つの帯状部34を有する。7つの帯状部34は、各々の一方の端部において、バスライン35により物理的かつ電気的に接続されている。また、下部電極31では、接続ライン36が、バスライン35から、帯状部34の配列している側とは反対側、かつ整列方向ADに平行に延びている。接続ライン36には帯状の第1配線20Aが接続されており、下部電極31と第1配線20Aとは一体化されている。第1配線20Aの延びる方向は、整列方向ADに平行である。上部電極32では、配列の端に位置する帯状部34Aから、帯状部34の配列している側とは反対側、かつ整列方向ADに垂直に接続ライン36が延びている。接続ライン36には第2配線20Bが接続されており、上部電極32と第2配線20Bとは一体化されている。第2配線20Bの延びる方向は、整列方向ADに垂直である。下部電極31の構造と、上部電極32の構造とは逆であってもよい。換言すれば、下部電極31が
図2に示される上部電極32の構造を有し、上部電極32が
図2に示される下部電極31の構造を有していてもよい。
【0027】
下部電極31及び上部電極32のさらなる例が、
図3A、
図3B、
図3C、
図3D及び
図3Eに示される。
図3A、
図3B、
図3C、
図3D及び
図3Eの下部電極31及び/又は上部電極32は、特定の一つの整列方向ADに延びる7つの帯状部34を有する。
図3Aの下部電極31及び/又は上部電極32では、各々の帯状部34は物理的にも電気的にも接続されていない。ただし、配列の端に位置する帯状部34Aから、帯状部34の配列している側とは反対側、かつ整列方向ADに垂直に接続ライン36が延びている。
図3Aに示されるように、各々の帯状部34が物理的にも電気的にも接続されていない場合においても、当該L/S構造を有する電極は、赤外線に対する偏光選択能を有しうる。また、接続ライン36が電気的に接続された帯状部34Aの存在により、当該電極は、抵抗変化膜33の電気抵抗を測定するための電極として機能できる。
図3Bの下部電極31及び/又は上部電極32では、各々の帯状部34は物理的にも電気的にも接続されていない。ただし、配列の端に位置する帯状部34Aの一端にはバスライン35が接続されている。また、バスライン35から、帯状部34の配列している側とは反対側、かつ整列方向ADに平行に接続ライン36が接続されている。
図3Cの下部電極31及び/又は上部電極32では、各々の帯状部34が、その中央部において、バスライン35により物理的かつ電気的に接続されている。また、バスライン35の一端は接続ライン36を構成している。
図3Dの下部電極31及び/又は上部電極32では、各々の帯状部34は物理的にも電気的にも接続されていない。ただし、配列の中央に位置する帯状部34Bの一端に接続ライン36が接続されている。
図3Eの下部電極31及び/又は上部電極32では、各々の帯状部34の双方の端部が、それぞれバスライン35により物理的かつ電気的に接続されている。また、配列の端に位置する帯状部34Aから、帯状部34の配列している側とは反対側、かつ整列方向ADに垂直に接続ライン36が延びている。
【0028】
下部電極31及び上部電極32の厚さは、例えば、30~500nmである。
【0029】
本開示の赤外線センサが有しうる下部電極31及び上部電極32は、上記例に限定されない。
【0030】
図1A及び
図1Bに示される赤外線センサ1Aでは、赤外線受光部12は、受光部支持膜18をさらに備える。受光部支持膜18は、第1梁13A及び第2梁13Bに物理的に接続されている。上記接続により、第1梁13A、第2梁13B、第1支柱15A、及び第2支柱15Bによる上記懸架構造が達成される。また、赤外線センサ1Aでは、受光部支持膜18、第1梁13A、及び第2梁13Bは、一つの半導体層21により構成されている。半導体層21は、単層である。ただし、半導体層21は2以上の層の積層構造を有していてもよい。また、本開示の赤外線センサにおける、第1梁13A、第2梁13B、第1支柱15A、及び第2支柱15Bを用いた赤外線受光部12の懸架構造は上記例に限定されない。
【0031】
赤外線センサ1Aでは、平面視において、抵抗変化膜33の面積に比べて受光部下地膜18の面積は大きい。また、平面視において、受光部下地膜18は、抵抗変化膜33を囲むように配置されている。ただし、受光部下地膜18の具体的な形態は、
図1A及び
図1Bに示される例に限定されない。
【0032】
ベース基板11は、典型的には、半導体から構成される。半導体は、例えば、シリコン(Si)である。Siから構成されるベース基板11の上面14には、酸化膜が形成されていてもよい。酸化膜は、例えばSiO2膜である。ただし、ベース基板11の構成は、上記例に限定されない。
【0033】
ROICは、公知の構成を有しうる。ROICは、ベース基板11の内部とは異なる場所に設けられていてもよい。ROICは、例えば、ベース基板11の上面14に設けられてもよい。
【0034】
第1の支柱15A、第2の支柱15B、第1信号読み出し端子22A、及び第2信号読み出し端子22Bは、例えば、不純物がドープされた半導体、又は金属から構成される。金属は、例えば、チタン(Ti)又は窒化チタン(TiN)といった低熱伝導率の種である。金属は、アルミニウム(Al)であってもよい。ただし、第1の支柱15A、第2の支柱15B、及び信号読み出し端子22A,22Bを構成する材料は、上記例に限定されない。
【0035】
第1梁13A及び第2梁13Bは、例えば、半導体又は酸化物から構成される。半導体は、例えば、Si、シリコンゲルマニウム(SiGe)、窒化ケイ素(SiN)である。酸化物は、例えば、酸化バナジウムである。第1梁13A及び第2梁13Bは、Si又は酸化バナジウムから構成されてもよい。ただし、第1梁13A及び第2梁13Bを構成する材料は、上記例に限定されない。
【0036】
受光部支持膜18は、例えば、半導体から構成される。半導体は、例えば、Si、SiGe、SiNである。受光部支持膜18の導電性は低いことが望ましい。低い導電性を有する半導体として、非晶質の半導体が選択可能である。ただし、受光部支持膜18を構成する材料は、上記例に限定されない。
【0037】
下部電極31、上部電極32、第1配線20A、及び第2配線20Bは、導電性を有する。下部電極31、上部電極32、第1配線20A、及び第2配線20Bは、例えば、不純物がドープされた半導体、又は金属から構成される。金属は、例えば、Ti又はTiNといった低熱伝導率の種である。ただし、下部電極31、上部電極32、第1配線20A、及び第2配線20Bを構成する材料は、上記例に限定されない。
【0038】
抵抗変化膜33に含まれる抵抗変化材料は、例えば、半導体又は酸化物から構成される。半導体は、例えば、Si、SiGeである。酸化物は、例えば、酸化バナジウムである。抵抗変化膜33は、Si又は酸化バナジウムから構成されてもよい。抵抗変化膜33の導電性は低いことが望ましい。低い導電性を有する半導体として、非晶質の半導体が選択可能である。抵抗変化膜33は、例えば、非晶質のSiから構成される。ただし、抵抗変化材料は上記例に限定されない。
【0039】
赤外線反射膜23は、典型的には、金属から構成される。金属は、例えば、クロム(Cr)、Al、金(Au)である。ただし、赤外線反射膜23を構成する材料は、上記例に限定されない。
【0040】
第1梁13Aにおける、赤外線受光部12との接合部と接続部16Aとの間に位置する区間、及び/又は第2梁13Bにおける、赤外線受光部12との接合部と接続部16Bとの間に位置する区間は、規則的に配列した複数の貫通孔を具備するフォノニック結晶構造を有していてもよい。実施形態1の赤外線センサ1Aの一例では、第1梁13Aにおける、赤外線受光部12との接合部と接続部16Aとの間に位置する区間は、規則的に配列した複数の貫通孔を具備する第1フォノニック結晶構造を有し、第2梁13Bにおける、赤外線受光部12との接合部と接続部16Bとの間に位置する区間は、規則的に配列した複数の貫通孔を具備する第2フォノニック結晶構造を有する。上記区間は、通常、第1梁13A及び/又は第2梁13Bの離間部17に位置する。
【0041】
絶縁体及び半導体において、熱は、主として、フォノンと呼ばれる格子振動によって運ばれる。絶縁体又は半導体から構成される材料の熱伝導率は、材料が有するフォノンの分散関係により決定される。フォノンの分散関係とは、周波数と波数との関係、又はバンド構造を意味している。絶縁体及び半導体において、熱を運ぶフォノンは、100GHzから10THzの幅広い周波数帯域に及ぶ。この周波数帯域は、熱の帯域である。材料の熱伝導率は、熱の帯域にあるフォノンの分散関係により定められる。
【0042】
フォノニック結晶構造によれば、貫通孔の周期構造によって、材料が有するフォノンの分散関係が制御可能である。即ち、フォノニック結晶構造によれば、材料の熱伝導率そのものが制御可能である。とりわけ、フォノニック結晶構造によるフォノニックバンドギャップ(PBG)の形成は、材料の熱伝導率を大きく低減させうる。PBG内にフォノンは存在できない。このため、熱の帯域に位置するPBGは、熱伝導のギャップとなりうる。また、PBG以外の周波数帯域においても、フォノンの分散曲線の傾きがPBGによって小さくなる。傾きの低減はフォノンの群速度を低下させ、熱伝導速度を低下させる。これらの点は、材料の熱伝導率の低減に大きく寄与する。材料の熱伝導率は、例えば、多孔質化により低減できる。多孔質化により導入された空隙が材料の熱伝導率を減少させるためである。しかし、フォノニック結晶構造によれば、材料自身の熱伝導率が低減可能となる。このため、単なる多孔質化に比べて、熱伝導率のさらなる低減が期待される。
【0043】
上記説明から理解されるように、フォノニック結晶構造を有する区間を有する第1梁13A及び第2梁13Bでは、熱伝導率のさらなる低減が可能である。したがって、第1梁13A及び/又は第2梁13B、特に第1梁13A及び第2梁13Bの双方、が上記区間にフォノニック結晶構造を有する場合に、赤外線センサ1Aにおけるベース基板11と赤外線受光部12との熱的な絶縁はさらに向上可能となる。また、熱的な絶縁のさらなる向上により、赤外線センサ1Aの受光感度のさらなる向上が可能となる。
【0044】
以下の説明は、第1梁13A及び/又は第2梁13Bが有しうるフォノニック結晶構造に関する。これ以降、第1梁13A及び/又は第2梁13Bが有しうるフォノニック結晶構造は、フォノニック結晶構造Aと記載される。
【0045】
フォノニック結晶構造Aの一例が
図4A及び
図4Bに示される。
図4Aには、梁13(13A)の一部を平面視した状態が示されている。
図4Bには、梁13(13B)の一部を平面視した状態が示されている。梁13(13A,13B)は、例えば、10nm以上500nm以下の厚さを有する。梁13は、平面視において、長方形である。梁13の長辺は、赤外線受光部12と接続部16A,16Bとを結ぶ方向、即ち、赤外線センサ1Aにおけるマクロな熱の伝達方向、と一致している。梁13には、梁13の厚さ方向に延びる複数の貫通孔50が設けられている。梁13が有するフォノニック結晶構造Aは、複数の貫通孔50が面内方向に規則的に配列した二次元フォノニック結晶構造である。
【0046】
第1の梁13Aのフォノニック結晶構造Aは、フォノニック結晶領域である第1ドメイン51A、及びフォノニック結晶領域である第2ドメイン51Bを有する。第1ドメイン51Aは、平面視において、第1方向に規則的に配列した複数の貫通孔50を具備するフォノニック単結晶構造を有する。第2ドメイン51Bは、平面視において、第1方向とは異なる第2方向に規則的に配列した複数の貫通孔50を具備するフォノニック単結晶構造を有する。各々の単結晶構造内において、複数の貫通孔50の径及び配列周期は同一である。また、各々の単結晶構造内において、規則的に配列した複数の貫通孔50を具備する単位格子91A又は91Bの方位は同一である。第1ドメイン51A及び第2ドメイン51Bの形状は、平面視において、長方形である。第1ドメイン51Aの形状と、第2ドメイン51Bの形状とは、平面視において、同一である。
【0047】
第2の梁13Bのフォノニック結晶構造Aは、フォノニック結晶領域である第3ドメイン51C、及びフォノニック結晶領域である第4ドメイン51Dを有する。第3ドメイン51Cは、平面視において、第3方向に規則的に配列した複数の貫通孔50を具備するフォノニック単結晶構造を有する。第4ドメイン51Dは、平面視において、第3方向とは異なる第4方向に規則的に配列した複数の貫通孔50を具備するフォノニック単結晶構造を有する。各々の単結晶構造内において、複数の貫通孔50の径及び配列周期は同一である。また、各々の単結晶構造内において、規則的に配列した複数の貫通孔50を具備する単位格子91A又は91Bの方位は同一である。第3ドメイン51C及び第4ドメイン51Dの形状は、平面視において、長方形である。第3ドメイン51Cの形状と、第4ドメイン51Dの形状とは、平面視において、同一である。
【0048】
図4A及び
図4Bに示されるフォノニック結晶構造Aは、複数のフォノニック単結晶構造の複合体であるフォノニック多結晶構造52でもある。
【0049】
図4Aに示されるフォノニック結晶構造Aと、
図4Bに示されるフォノニック結晶構造Aとは同一である。ただし、両者は互いに異なっていてもよい。
【0050】
第1梁13Aが有しうるフォノニック結晶構造Aと、第2梁13Bが有しうるフォノニック結晶構造Aとは、同一であっても、互いに異なっていてもよい。
【0051】
以下、フォノニック結晶構造Aがとりうる形態の詳細について、第1梁13Aが有しうるフォノニック結晶構造A、換言すれば、第1ドメイン51A及び第2ドメイン51Bを有するフォノニック結晶構造A、を例に説明する。第2梁13Bが有しうるフォノニック結晶構造Aも、同様の形態をとりうる。第1梁13Aが有しうるフォノニック結晶構造Aと第2梁13Bが有しうるフォノニック結晶構造Aとは、説明する形態の範囲内で互いに異なっていてもよい。
【0052】
フォノニック結晶領域であるドメインは、貫通孔50の配列の周期をPとして、平面視において、例えば、25P2以上の面積を有する領域である。フォノニック結晶構造によってフォノンの分散関係を制御するには、ドメインは、少なくとも25P2以上の面積を有していてもよい。平面視において正方形のドメインでは、5×P以上の周期とすることで、25P2以上の面積が確保可能である。
【0053】
図5A及び
図5Bに示すように、フォノニック結晶構造Aでは、第1ドメイン51Aにおける単位格子91Aの方位53Aと、第2ドメイン51Bにおける単位格子91Bの方位53Bとが、平面視において、互いに異なっている。方位53Aと方位53Bとが成す角度は、平面視において、例えば10度以上である。ただし、単位格子91A及び単位格子91Bが同一であって、n回回転対称性を有する場合、方位53Aと方位53Bとが成す角度の上限は360/n度未満である。なお、単位格子が複数のnに対してn回回転対称性を有するとき、上記角度の上限を定めるnには最大のnが使用される。例えば、六方格子は、2回回転対称性、3回回転対称性、及び6回回転対称性を有する。このとき、角度の上限を定めるnには「6」が使用される。即ち、六方格子である単位格子91A,91Bについて、方位53Aと方位53Bとが成す角度は60度未満である。フォノニック結晶構造Aは、単位格子の方位が互いに異なる2以上のフォノニック結晶領域を少なくとも有している。この条件が満たされる限り、フォノニック結晶構造Aは、任意のフォノニック結晶領域、及び/又はフォノニック結晶構造を有さない領域をさらに含んでいてもよい。
【0054】
単位格子の方位は、任意の規則に基づいて決定できる。ただし、異なるドメイン間において、同じ規則を適用して単位格子の方位を定める必要がある。単位格子の方位は、例えば、単位格子を構成する平行でない二辺の成す角を二等分する直線の伸長方向である。ただし、異なるドメイン間において、同じ規則で二辺を定める必要がある。
【0055】
図4Aのフォノニック結晶構造Aの領域R1の拡大図が、
図6に示される。隣接する第1ドメイン51Aと第2ドメイン51Bとの界面55において、単位格子91A,91Bの方位53A,53Bが変化している。単位格子の方位が変化する界面55は、フォノニック結晶構造Aをマクロに流れる熱に対する大きな界面抵抗をもたらす。この界面抵抗は、第1ドメイン51Aと第2ドメイン51Bとの間で生じる、フォノン群速度のミスマッチに基づく。この界面抵抗は、フォノニック結晶構造Aを有する梁13(13A)における熱伝導率の低減に寄与する。なお、
図6において、界面55は、平面視において、直線状に延びている。また、界面55は、平面視において、長方形の梁13の幅方向に延びている。幅方向は、マクロな熱の伝達方向により定められた梁13の中心線の伸張方向に垂直な方向でありうる。界面55は、平面視において、マクロな熱の伝達方向に垂直にフォノニック結晶構造Aを分割している。
【0056】
図4Aのフォノニック結晶構造Aにおいて、第1ドメイン51Aにおける複数の貫通孔50の配列の周期Pと、第2ドメイン51Bにおける複数の貫通孔50の配列の周期Pとは等しい。
【0057】
図4Aのフォノニック結晶構造Aにおいて、第1ドメイン51Aにおいて規則的に配列した複数の貫通孔50の径と、第2ドメイン51Bにおいて規則的に配列した複数の貫通孔50の径とは等しい。
【0058】
図4Aのフォノニック結晶構造Aにおいて、第1ドメイン51Aにおける単位格子91Aの種類と、第2ドメイン51Bにおける単位格子91Bの種類とは、同一である。
図4Aの単位格子91A及び単位格子91Bは、いずれも六方格子である。
【0059】
平面視による各ドメインの形状は限定されない。平面視による各ドメインの形状は、例えば、三角形、正方形及び長方形を含む多角形、円、楕円、及びこれらの複合形状である。平面視による各ドメインの形状は、不定形であってもよい。また、フォノニック結晶構造Aが有するドメインの数は限定されない。フォノニック結晶構造Aが有するドメインの数が多くなるほど、ドメイン間の界面による界面抵抗の作用が大きくなる。さらに、フォノニック結晶構造Aが有する各ドメインのサイズは限定されない。
【0060】
図7及び
図8に示されるフォノニック結晶構造Aは多結晶構造52である。多結晶構造52では、隣接する第1ドメイン51A及び第2ドメイン51Bの界面55が、平面視において、長方形の梁13(13A)の長辺の方向に延びている。長辺の方向は、マクロな熱の伝達方向でありうる。この点以外、
図7及び
図8のフォノニック結晶構造Aは、
図4Aのフォノニック結晶構造Aと同様の構成を有する。界面55は、平面視において、マクロな熱の伝達方向に平行にフォノニック結晶構造Aを分割している。なお、
図8は、
図7の領域R2の拡大図である。
【0061】
図4A及び
図7のフォノニック結晶構造Aでは、平面視において、第1ドメイン51Aのサイズ及び第2ドメイン51Bのサイズが同一である。ただし、平面視において、フォノニック構造Aが有する第1ドメイン51A及び第2ドメイン51Bのサイズは互いに異なっていてもよい。
【0062】
図9及び
図10に示されるフォノニック結晶構造Aは多結晶構造52である。多結晶構造52では、平面視において、第2ドメイン51Bが第1ドメイン51Aにより囲まれている。第1ドメイン51A及び第2ドメイン51Bの形状は、平面視において、長方形である。ただし、第1ドメイン51Aのサイズと第2ドメイン51Bのサイズとは、平面視において、異なっている。第2ドメイン51Bと、第2ドメイン51Bを囲む第1ドメイン51Aとの界面55は、平面視において、第2ドメイン51Bの外縁を構成している。これらの点以外、
図9及び
図10のフォノニック結晶構造Aは、
図4Aのフォノニック結晶構造Aと同様の構成を有する。なお、
図10は、
図9の領域R3の拡大図である。
【0063】
また、
図9及び
図10のフォノニック結晶構造Aでは、界面55が屈曲部を有している。
【0064】
さらに、
図9及び
図10のフォノニック結晶構造Aは、梁13(13A)の辺に接していない第2ドメイン51Bを有する。
【0065】
図11に示されるフォノニック結晶構造Aは、多結晶構造52である。多結晶構造52では、平面視において、第1ドメイン51Aと第2ドメイン51Bとが離間して配置されている。より具体的には、平面視において、貫通孔50を有さない領域201が、梁13(13A)の長辺方向における第1ドメイン51Aと第2ドメイン51Bとの間に設けられている。この点以外、
図11のフォノニック結晶構造Aは、
図4Aのフォノニック結晶構造Aと同様の構成を有する。
【0066】
図12に示されるフォノニック結晶構造Aは、多結晶構造52である。多結晶構造52では、平面視において、第1ドメイン51Aと第2ドメイン51Bとが離間して配置されている。より具体的には、平面視において、ランダムに設けられた貫通孔50を有する領域202が、梁13(13A)の長辺方向における第1ドメイン51Aと第2ドメイン51Bとの間に設けられている。領域202では、平面視において、貫通孔50は規則的に配列していない。又は、領域202では、平面視において、規則的に配列した領域の面積が、例えば、25P
2未満である。ここで、Pは、貫通孔50の配列の周期である。この点以外、
図12のフォノニック結晶構造Aは、
図4Aのフォノニック結晶構造Aと同様の構成を有する。
【0067】
図13に示されるフォノニック結晶構造Aは、多結晶構造52である。多結晶構造52は、平面視において、互いに異なった形状を有する複数のドメイン51A,51B,51C,51D,51E,51F及び51Gを含んでいる。各々のドメイン内において、複数の貫通孔50の配列の周期、及び単位格子の方位は同一である。しかし、ドメイン51Aから51G間では、単位格子の方位が各々互いに異なっている。また、平面視において、ドメイン51Aから51Gのサイズ及び形状は互いに異なっている。この形態では、これまで例示した形態に比べて、フォノニック結晶構造Aの全体で見たときに、より多くの単位格子の方位が存在する。このため、ドメイン間で単位格子の方位が異なることに基づいて熱伝導率を低下させる効果がより顕著となる。また、この形態では、ドメイン間の界面55が、平面視において、複数のランダムな方向に延びている。このため、界面抵抗に基づいて熱伝導率を低下させる効果がより顕著となる。
【0068】
また、
図13のフォノニック結晶構造Aでは、隣接する第1ドメイン51Aと第2ドメイン51Bとの界面55が、平面視において、梁13(13A)の幅方向から傾いた方向に延びている。界面55は、平面視において、屈曲部も有している。
【0069】
フォノニック結晶構造Aである多結晶構造52は、貫通孔50の配列の周期P及び/又は貫通孔50の径Dが互いに異なる第1ドメイン51A及び第2ドメイン51Bを含んでいてもよい。
図14Aに示される第1ドメイン51Aにおける貫通孔50の径Dと、
図14Bに示される第2ドメイン51Bにおける貫通孔50の径Dとは互いに異なっている。なお、
図14Aに示される第1ドメイン51Aにおける貫通孔50の配列の周期Pと、
図14Bに示される第2ドメイン51Bにおける貫通孔50の配列の周期Pとは同一である。
【0070】
図15に示されるフォノニック結晶構造Aは、相対的に小さな周期P及び径Dを有する複数の貫通孔50が規則的に配列した第1ドメイン51Aと、相対的に大きな周期P及び径Dを有する複数の貫通孔50が規則的に配列した第2ドメイン51Bとを有する。また、
図15のフォノニック結晶構造Aは、相対的に小さな周期P及び径Dを有する複数の貫通孔50を具備する領域92と、相対的に大きな周期P及び径Dを有する複数の貫通孔50を具備する領域93とを有する。領域92と領域93とは隣接している。領域92及び領域93は、それぞれ、
図13の例と同様に、平面視において、互いに異なった形状を有し、かつ、単位格子の方位が各々互いに異なる複数のドメインを含んでいる。また、領域92及び領域93は、マクロな熱の伝達方向に垂直にフォノニック結晶構造Aを分割している。この形態では、第1ドメイン51Aで形成されるフォノニックバンドギャップの周波数帯域と第2ドメイン51Bで形成されるフォノニックバンドギャップの周波数帯域とが異なるため、熱伝導率の低減の効果が特に顕著となる。
【0071】
図16に示されるフォノニック結晶構造Aでは、相対的に小さな周期P及び径Dを有する複数の貫通孔50が規則的に配列した第1ドメイン51Aと、相対的に大きな周期P及び径Dを有する複数の貫通孔50が規則的に配列した第2ドメイン51Bとを含む。
図16のフォノニック結晶構造Aは、平面視において、互いに異なった形状を有し、かつ、単位格子の方位が各々互いに異なる複数のドメインを含んでいる。この形態では、第1ドメイン51Aで形成されるフォノニックバンドギャップの周波数帯域と第2ドメイン51Bで形成されるフォノニックバンドギャップの周波数帯域とが異なるため、熱伝導率の低減の効果が特に顕著となる。
【0072】
貫通孔50の配列の周期Pは、例えば、1nm以上300nm以下である。これは、熱を運ぶフォノンの波長が、主として、1nmから300nmの範囲に及ぶためである。周期Pは、平面視において隣接する貫通孔50間の中心間距離により定められる(
図14A,14B参照)。
【0073】
貫通孔50の径Dは、周期Pに対する比D/Pにより表して、例えば、D/P≧0.5である。比D/P<0.5である場合、梁13(13A,13B)における空隙率が過度に低下して、熱伝導率が十分に低下しないことがある。比D/Pの上限は、隣接する貫通孔50同士が接しないために、例えば、0.9未満である。径Dは、貫通孔50の開口の径である。貫通孔50の開口の形状が平面視において円である場合、径Dは当該円の直径である。貫通孔50の開口の形状は平面視において円でなくてもよい。この場合、径Dは、開口の面積と同じ面積を有する仮想の円の直径により定められる(
図14A,14B参照)。
【0074】
規則的に配列した複数の貫通孔50を具備する単位格子91の種類は、例えば、正方格子(
図17A)、六方格子(
図17B)、長方格子(
図17C)、及び面心長方格子(
図17D)である。ただし、単位格子91の種類は、これらの例に限定されない。
【0075】
第1梁13A及び/又は第2梁13Bが有しうるフォノニック結晶構造Aは、上述した構造に限定されない。フォノニック結晶構造Aは、例えば、特開2017-223644号公報に開示の構造であってもよい。ただし、
図4A及び
図4Bをはじめとして上述した各図に示される、単位格子の方位が互いに異なる2以上のフォノニック結晶領域を有するフォノニック結晶構造Aでは、梁13の熱伝導率のさらなる低減、即ち、断熱性のさらなる向上、が可能となる。これは、以下の理由による。
【0076】
本発明者らの検討によれば、フォノニック結晶構造によってもたらされる熱伝導率の低減の程度は、熱の伝達方向と、フォノニック結晶構造の単位格子の方位(orientation)とが成す角度に依存する。これは、PBGの帯域広さ、PBGの数、及びフォノンの平均群速度といった熱伝導に関わる要素が、当該角度に依存するためと考えられる。また、熱の伝達に関して、マクロ的には高温から低温の方向にフォノンは流れる。一方、ナノメートルのオーダーにあるミクロ領域に着目すると、フォノンの流れる方向には指向性がみられない。即ち、ミクロ的にはフォノンの流れる方向は一様ではない。単位格子の方位が一様に揃った複数のフォノニック結晶領域を有するフォノニック結晶構造Aでは、ミクロで見て、ある特定の方向に流れるフォノンに対しては相互作用が最大となるものの、それ以外の方向に流れるフォノンに対しては相互作用が弱まる。一方、単位格子の方位が互いに異なる2以上のフォノニック結晶領域を有するフォノニック結晶構造Aでは、ミクロで見て、複数の方向に流れる各フォノンに対する相互作用を高めることができる。これにより、梁13の熱伝導率のさらなる低減が可能となる。
【0077】
(実施形態2)
実施形態2の赤外線センサが
図18A及び
図18Bに示される。
図18Aには、
図18Bの赤外線センサ1Bの断面18A-18Aが示される。赤外線センサ1Bは、熱型赤外線センサの1種であるボロメータ型赤外線センサである。
【0078】
赤外線センサ1Bは、ベース基板11の上に絶縁層26をさらに備える。断面視において、絶縁層26は、ベース基板11の上面14と、第1梁13A及び第2梁13B(半導体層21)との間に配置されている。平面視において、絶縁層26は、赤外線受光部12及び赤外線反射膜23を囲むように配置されている。また、第1支柱15Aにおける信号読み出し端子22Aと第1梁13Aとの間の区間は、絶縁層26により囲まれている。第2支柱15Bにおける信号読み出し端子22Bと第2梁13Bとの間の区間は、絶縁層26により囲まれている。
【0079】
絶縁層26を構成する材料は、例えば、SiO2等の酸化物である。ただし、絶縁層26を構成する材料は、上記例に限定されない。
【0080】
実施形態2の赤外線センサ1Bにおけるその他の構成は、好ましい形態を含め、実施形態1の赤外線センサ1Aにおける対応する構成と同様である。また、実施形態2の赤外線センサ1Bの作動原理は、実施形態1の赤外線センサ1Aの作動原理と同じである。
【0081】
(実施形態3)
実施形態3の赤外線センサが
図19に示される。
図19に示される赤外線センサ1Cは、熱型赤外線センサの1種であるボロメータ型赤外線センサである。赤外線センサ1Cは、ベース基板11、ボロメータ赤外線受光部12、第1梁13A、第2梁13B、第1配線20A、第2配線20B、及び赤外線反射膜23を備える。第1梁13A及び第2梁13Bは、それぞれ、ベース基板11と接続された接続部16A,16Bを有する。第1梁13A及び第2梁13Bの各々は、ベース基板11から離間した離間部17を有する。第1梁13A及び第2梁13Bは、それぞれ、一方の端部に接続部16A,16Bを有している。第1梁13A及び第2梁13Bの各々は、離間部17において赤外線受光部12と物理的に接合されている。赤外線受光部12と物理的に接合されている位置は、第1梁13A及び第2梁13Bの各々における他方の端部である。赤外線受光部12は、第1梁13A及び第2梁13Bによって、ベース基板11とは離間した状態で支持されている。この離間は、ベース基板11と赤外線受光部12との熱的な絶縁を高めている。
【0082】
ベース基板11は、赤外線受光部12が設けられた上面14に凹部27を有する。平面視において、赤外線受光部12の面積に比べて凹部27の面積は大きい。また、平面視において、赤外線受光部12は、凹部27の外縁に囲まれている。凹部27は、赤外線受光部12、並びに第1梁13Aの離間部17及び第2梁13Bの離間部17と、ベース基板11との間に位置している。第1梁13Aは、接続部16Aにおいてベース基板11と物理的に接続されている。第2梁13Bは、接続部16Bにおいてベース基板11と物理的に接続されている。断面視において、赤外線受光部12、並びに第1梁13Aの離間部16A及び第2梁13Bの離間部16Bは、ベース基板11の凹部27上に懸架されている。この懸架により、ベース基板11と赤外線受光部12との熱的な絶縁が高められる。
【0083】
赤外線センサ1Cでは、抵抗変化膜33の抵抗の読み取りが実施される。読み取りのために、
図19に示される赤外線センサ1Cは、ベース基板11の内部にROIC(図示せず)をさらに備えている。第1配線20Aの端部とROICとは電気的に接続されている。第2配線20Bの端部とROICとは電気的に接続されている。抵抗変化膜33の抵抗は、下部電極31、上部電極32、第1配線20A、及び第2配線20Bを介して読み取り可能である。赤外線センサ1Cは、抵抗変化膜33の抵抗を読み取るためのさらなる部材を備えていてもよい。
【0084】
赤外線受光部12に赤外線が入射すると、赤外線受光部12の温度が上昇する。このとき、赤外線受光部12の温度は、熱浴であるベース基板11から熱的に絶縁されているほど、大きく上昇する。ボロメータ赤外線受光部12を備える赤外線センサ1Cでは、温度上昇に伴って、抵抗変化膜33の抵抗が変化する。変化した抵抗に対応する電気的な信号をROICで処理して赤外線が検知される。処理によっては、赤外線センサ1Cによる赤外線の強度測定、及び/又は対象物の温度測定が可能である。ただし、上述のように、本開示の赤外線センサにおいて、赤外線受光部12に含まれる抵抗変化膜33の抵抗の読み取りは、ベース基板11の内部に設けられたROICによる態様に限定されない。
【0085】
実施形態1の赤外線センサ1Aと実施形態3の赤外線センサ1Cとは、ベース基板11の上面14に対する赤外線受光部12、第1梁13A、及び第2梁13Bの懸架の方式が異なる。また、実施形態3の赤外線センサ1Cでは、赤外線反射膜23が凹部27の底面に配置されている。ただし、ベース基板11の表面における赤外線受光部12に対面する位置に赤外線反射膜23が配置されている点において、赤外線センサ1Cの構成は赤外線センサ1Aの構成と同じである。実施形態3の赤外線センサ1Cにおけるその他の構成は、好ましい形態を含め、実施形態1の赤外線センサ1Aにおける対応する構成と同様である。
【0086】
本開示の赤外線センサは、本発明の効果が得られる限り、上述した以外の任意の部材を有していてもよい。
【0087】
[赤外線センサアレイ]
実施形態1~3の赤外線センサ1A~1Cは、原理上、単独で赤外線センサとして機能する。個々の赤外線センサを一画素として、複数の赤外線センサをベース基板11上にアレイ状に配列させてもよい。配列は、典型的には、二次元アレイ状である。複数の赤外線センサが配列したアレイ構造により、例えば、有限の温度を有する物体のイメージング、及び/又は赤外線放射、若しくはレーザー光線の強度分布の評価が可能となる。なお、アレイ状に配列される複数の赤外線センサの少なくとも一部が、本開示の赤外線センサであればよい。アレイ状に配列される複数の赤外線センサの全部が、本開示の赤外線センサであってもよい。本開示には、赤外線センサアレイであって、二次元アレイ状に配置された複数の赤外線センサを具備し、当該複数の赤外線センサが本開示の赤外線センサを含むセンサアレイが含まれる。
【0088】
[赤外線センサの製造方法]
本開示の赤外線センサは、化学気相成長(CVD)、スパッタリング、及び蒸着等の各種の薄膜形成手法;並びに、電子線リソグラフィー、フォトリソグラフィー、ブロック共重合体リソグラフィー、及び選択的エッチング等の各種の微細加工手法及びパターン形成手法;の組み合わせによる製造が可能である。ブロック共重合体リソグラフィーは、フォノニック結晶構造Aの形成に適している。
【0089】
本開示の赤外線センサを製造する方法の一例が、
図20A~
図22Oの参照により、以下に説明される。以下の方法により製造する赤外線センサは、実施形態1の赤外線センサ1Aである。ただし、以下の方法により製造する赤外線センサ1Aは、第1梁13A及び第2梁13Bがフォノニック結晶構造Aを有している。本開示の赤外線センサを製造する方法は、以下の例に限定されない。
【0090】
図20A:ベース基板11が準備される。次に。ベース基板11の上面14に金属層が形成される。金属層は、例えば、Cr層である。金属層は、例えば、スパッタリングにより形成される。金属層の厚さは、例えば200nmである。形成された金属層の上にフォトレジスト101が形成される。フォトレジスト101を用いたフォトリソグラフィー及び選択的エッチングによって金属層が微細加工されて、赤外線反射膜23、第1読み出し端子22A、及び第2読み出し端子22Bを形成する。
【0091】
図20B:フォトレジスト101が除去される。赤外線反射膜23、第1読み出し端子22A、及び第2読み出し端子22Bを覆うように犠牲層102が形成される。犠牲層102は、例えば、SiO
2層である。犠牲層102は、例えば、CVDにより形成される。犠牲層102の厚さは、例えば、1~4μmである。犠牲層102の厚さは、この方法により製造する赤外線センサ1Aにおける赤外線受光部12とベース基板11との離間距離に相当する。離間距離は、より具体的には、ベース基板11の上面14と受光部支持膜18の下面との間の距離である。
【0092】
図20C:犠牲層102の上に、半導体層103が形成される。半導体層103は、例えば、SiN層である。半導体層103は、例えば、CVDにより形成される。半導体層103の厚さは、例えば、100nmである。半導体層103は、後の微細加工及びパターン形成により、第1梁13A、第2梁13B、及び受光部支持膜18となる。
【0093】
図20D:半導体層103の上に、ハードマスク104が形成される。ハードマスク104は、例えば、SiO
2層である。ハードマスク104は、例えば、CVDにより形成される。ハードマスク104の厚さは、例えば、30nmである。ハードマスク104は、半導体層103に対するフォノニック結晶構造Aの形成に使用される。
【0094】
図20E:ハードマスク104の上に、フォトレジスト105が形成される。フォトリソグラフィーにより、半導体層103におけるフォノニック結晶構造Aを形成すべき領域と平面視において一致するハードマスク104の領域が露出される。次に、ハードマスク104における露出された領域に対して、ブロック共重合体の自己組織化膜106が形成される。自己組織化膜106は、フォノニック結晶構造Aを形成するためのブロック共重合体リソグラフィーに使用される。
【0095】
図20F:ブロック共重合体リソグラフィーにより、規則的に配列した複数の貫通孔107がハードマスク104に形成される。自己組織化膜106及びフォトレジスト105が除去される。
【0096】
図20G:フォトリソグラフィーにより半導体層103を微細加工及びパターン形成して、第1梁13A、第2梁13B、及び受光部支持膜18が形成される。第1梁13A、第2梁13B、及び受光部支持膜18は、単層の半導体層21を構成する。
【0097】
図20H:ハードマスク104をレジストとする選択的エッチングによって、第1梁13A及び第2梁13Bに対して、平面視したときに、複数の貫通孔107に対応する位置に規則的に配列した複数の貫通孔50が形成される。形成された複数の貫通孔50は、フォノニック結晶構造Aを構成する。
【0098】
【0099】
図20J:第1梁13A、第2梁13B、及び受光部支持膜18の上に、第1配線20A、第2配線20B、及び下部電極31を形成する。第1配線20A、第2配線20B、及び下部電極31は、例えば、TiNにより構成される。第1配線20A、第2配線20B、及び下部電極31は、例えば、スパッタリングにより形成される。これらの部材の厚さは、例えば、8nmである。
【0100】
図20K:下部電極31の上に、抵抗変化膜33が形成される。抵抗変化膜33は、例えば、非晶質のSiにより構成される。抵抗変化膜33は、例えば、CVDにより形成される。抵抗変化膜33の厚さは、例えば、100nmである。
【0101】
図20L:抵抗変化膜33の上に、第2配線20Bと接続されるように、上部電極32が形成される。上部電極32は、例えば、TiNにより構成される。上部電極32は、例えば、スパッタリングにより形成される。上部電極32の厚さは、例えば、8nmである。
【0102】
図20M:選択的エッチングにより、第1配線20A、第2配線20B、第1梁13A、第2梁13B、及び犠牲層102にコンタクトホール108が形成され、第1読み出し端子22A及び第2読み出し端子22Bを露出させる。
【0103】
図20N:形成されたコンタクトホール108に金属が堆積されて、第1支柱15A及び第2支柱15Bを形成する。堆積される金属は、例えば、Alである。第1支柱15A及び第2支柱15Bは、例えば、スパッタリングにより形成される。
【0104】
図20O:犠牲層102が、例えば、気相フッ化水素(HF)エッチングにより除去される。このようにして、本開示の赤外線センサの1形態である赤外線センサ1Aが製造される。なお、犠牲層102をパターンエッチングすることにより、絶縁層26が形成可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示の赤外線センサは、従来の赤外線センサの用途を含む種々の用途に使用できる。
【符号の説明】
【0106】
1A,1B,1C 赤外線センサ
11 ベース基板
12 (ボロメータ)赤外線受光部
13A 第1梁
13B 第2梁
14 上面
15A 第1支柱
15B 第2支柱
16A (第1梁の)接続部
16B (第2梁の)接続部
17 離間部
18 受光部支持膜
20A 第1配線
20B 第2配線
21 半導体層
22A 第1読み出し端子
22B 第2読み出し端子
23 赤外線反射膜
25 絶縁層
27 凹部
31 下部電極
32 上部電極
33 抵抗変化膜
34,34A,34B 帯状部
35 バスライン
36 接続ライン
50 貫通孔
51A 第1ドメイン
51B 第2ドメイン
52 フォノニック多結晶構造
53A,53B 方位
55 界面
31A 第1の支柱
31B 第2の支柱
91,91A,91B 単位格子
92 領域
93 領域
101 フォトレジスト
102 犠牲層
103 半導体層
104 ハードマスク
105 フォトレジスト
106 自己組織化膜
107 貫通孔
108 コンタクトホール