(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】ステッチ加飾装置
(51)【国際特許分類】
D05B 23/00 20060101AFI20241213BHJP
D05B 3/00 20060101ALI20241213BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
D05B23/00 Z
D05B3/00 Z
B60R13/02 B
(21)【出願番号】P 2021196328
(22)【出願日】2021-12-02
【審査請求日】2024-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000168115
【氏名又は名称】KTX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】粥川 慶一
(72)【発明者】
【氏名】平泉 功太
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-122548(JP,A)
【文献】特開2019-064576(JP,A)
【文献】特開2006-273312(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102014107108(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 23/00
D05B 3/00
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿通された糸を係止する糸係り部、および、前記糸の前記糸係り部への挿通方向と交差する方向に延びる抜け止め部を有する糸係止部材を、基材および前記基材の表面に接着された表皮材を有するステッチ加飾の対象物における縫い目の位置に、前記表皮材の表面側から前記基材と前記表皮材との間に挿入し、前記糸係り部に係止された前記糸によって前記表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾装置であって、
前記糸係り部の前記挿通方向を合わせて並ぶ複数の前記糸係止部材が、前記挿通方向に延びる連結棒に連結されてなる糸係止部材ユニットを保持するユニット保持部と、
前記ユニット保持部に保持された前記糸係止部材ユニットにおける前記糸係止部材のうち、前記挿通方向の一方の端部に位置するものを前記連結棒から切り離しつつ、前記縫い目の位置における前記基材と前記表皮材との間に挿入する係止部材挿入部と、
前記糸係止部材ユニットにおける複数の前記糸係止部材の前記糸係り部に挿通された前記糸の一端側が保持され、前記糸の他端側を前記係止部材挿入部側へと供給可能な糸供給部と、
前記ユニット保持部、前記係止部材挿入部、前記糸供給部を有する縫製ユニットを、前記対象物に対して縫製を行う縫製領域と、前記縫製領域の外の糸通し領域とで移動させる縫製ユニット移動部と、
前記ユニット保持部に保持された前記糸係止部材ユニットを用いて縫製が行われた後の縫製ユニットについて、前記糸通し領域にて、前記糸の他端側を保持して前記ユニット保持部の前記係止部材挿入部側とは反対側へ引き抜く糸引き抜き部と、
前記糸引き抜き部によって前記糸の他端側を引き抜いた後に、前記ユニット保持部に装着された新たな前記糸係止部材ユニットの前記糸係止部材の前記糸係り部に前記糸の他端側を挿通する糸挿通部と、を有
し、
前記糸挿通部は、
先端側に前記糸を保持可能な糸通し穴が形成されており、前記糸係止部材ユニットにおけるすべての前記糸係止部材の前記糸係り部を挿通可能な長さの糸通し針と、
前記糸通し針を前記挿通方向に前進および後退させる糸通し針駆動部と、
前記糸係止部材ユニットにおける前記反対側に設けられ、前記糸通し針の前記糸通し穴に、前記糸引き抜き部よって引き抜かれた前記糸の他端側を折り曲げつつ押し込む糸押込部と、を有することを特徴とするステッチ加飾装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたステッチ加飾装置において、
前記糸押込部は、
前進端に位置する前記糸通し針の前記糸通し穴の一方の開口側で前記糸の他端側を直線状に挟持しつつ、前記糸通し針の先端をガイド可能に形成されたガイド部と、
前記糸通し穴の前記一方の開口側に、糸当接部を前記糸通し穴に向けて設けられた糸押し部材と、
前記糸押し部材を、前記糸通し穴の軸方向に前進および後退させる糸押し部材駆動部と、を有することを特徴とするステッチ加飾装置。
【請求項3】
請求項1または
請求項2に記載されたステッチ加飾装置において、
前記糸挿通部は、前記糸通し針の軸部を支持可能な複数の糸通し針支持部を有し、
前記糸通し針支持部は、前記糸通し針が後退したとき互いに離間した状態で前記軸部を支持し、前記糸通し針が前進したとき互いに近接した状態で前記糸通し針の先端とは反対側に近い箇所で前記軸部を支持することを特徴とするステッチ加飾装置。
【請求項4】
請求項1乃至
請求項3までのいずれか1項に記載されたステッチ加飾装置において、
前記糸通し領域には、
前記糸挿通部による前記糸の挿通が行われる糸通し位置と、前記縫製ユニットを待機させる待機位置とがあり、
前記糸通し位置および前記待機位置にそれぞれ設けられ、前記縫製ユニットを載置可能な縫製ユニット載置部と、前記縫製ユニット載置部の位置を入れ替える入替動作が可能な入替テーブルとを有し、
前記縫製ユニット移動部は、前記待機位置にて前記縫製ユニットを着脱することを特徴とするステッチ加飾装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたステッチ加飾装置において、
前記縫製ユニット載置部は、上下動可能に形成され、上昇位置にて前記縫製ユニットを載置し、下降位置にて位置決めピンを挿入可能であり、
前記糸挿通部は、前記縫製ユニット載置部に対する前記位置決めピンによる位置決め状態にて、前記ユニット保持部に装着された新たな前記糸係止部材ユニットの前記糸係止部材の前記糸係り部に前記糸の他端側を挿通することを特徴とするステッチ加飾装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に接着された表皮材の表面側から挿通する糸によってステッチ模様を縫製するステッチ加飾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の内装部品には、硬質の合成樹脂からなる基材の表面を柔らかい表皮材で覆ったものがある。このような内装部品では、意匠性の向上を図るための装飾がなされていることがある。例えば、特許文献1には、糸を係止した糸係止部材を表皮材と基材との間に表皮材の表面側から挿入することで、表皮材の表面にステッチ模様を施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、糸係止部材の糸係り部には、糸係止部材をステッチ加飾の対象物へと挿入する前に、予め糸を挿通しておく必要がある。しかし、糸係止部材の糸係り部は小さく、例えば、作業者の手によって糸係り部へ糸を挿通する場合、糸の挿通に長い時間がかかってしまう。これにより、ステッチ加飾部品の生産性が低くなってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ステッチ加飾部品の生産性を向上できるステッチ加飾装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るステッチ加飾装置は、次のような構成を有している。
(1)挿通された糸を係止する糸係り部、および、前記糸の前記糸係り部への挿通方向と交差する方向に延びる抜け止め部を有する糸係止部材を、基材および前記基材の表面に接着された表皮材を有するステッチ加飾の対象物における縫い目の位置に、前記表皮材の表面側から前記基材と前記表皮材との間に挿入し、前記糸係り部に係止された前記糸によって前記表皮材の表面にステッチ模様を縫製するステッチ加飾装置であって、
前記糸係り部の前記挿通方向を合わせて並ぶ複数の前記糸係止部材が、前記挿通方向に延びる連結棒に連結されてなる糸係止部材ユニットを保持するユニット保持部と、
前記ユニット保持部に保持された前記糸係止部材ユニットにおける前記糸係止部材のうち、前記挿通方向の一方の端部に位置するものを前記連結棒から切り離しつつ、前記縫い目の位置における前記基材と前記表皮材との間に挿入する係止部材挿入部と、
前記糸係止部材ユニットにおける複数の前記糸係止部材の前記糸係り部に挿通された前記糸の一端側が保持され、前記糸の他端側を前記係止部材挿入部側へと供給可能な糸供給部と、
前記ユニット保持部、前記係止部材挿入部、前記糸供給部を有する縫製ユニットを、前記対象物に対して縫製を行う縫製領域と、前記縫製領域の外の糸通し領域とで移動させる縫製ユニット移動部と、
前記ユニット保持部に保持された前記糸係止部材ユニットを用いて縫製が行われた後の縫製ユニットについて、前記糸通し領域にて、前記糸の他端側を保持して前記ユニット保持部の前記係止部材挿入部側とは反対側へ引き抜く糸引き抜き部と、
前記糸引き抜き部によって前記糸の他端側を引き抜いた後に、前記ユニット保持部に装着された新たな前記糸係止部材ユニットの前記糸係止部材の前記糸係り部に前記糸の他端側を挿通する糸挿通部と、を有し、
前記糸挿通部は、
先端側に前記糸を保持可能な糸通し穴が形成されており、前記糸係止部材ユニットにおけるすべての前記糸係止部材の前記糸係り部を挿通可能な長さの糸通し針と、
前記糸通し針を前記挿通方向に前進および後退させる糸通し針駆動部と、
前記糸係止部材ユニットにおける前記反対側に設けられ、前記糸通し針の前記糸通し穴に、前記糸引き抜き部よって引き抜かれた前記糸の他端側を折り曲げつつ押し込む糸押込部と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係るステッチ加飾装置においては、前進した糸通し針によって、交換された新たな糸係止部材ユニットにて並ぶすべての糸係り部を挿通することができる。さらに、糸通し針の先端の糸通し穴へと糸を押し込んだ後、糸通し針を後退させることで、すべての糸係り部への糸の挿通を行うことができる。すなわち、糸通し針の1度の進退動作により、新たな糸係止部材ユニットにて並ぶ多数の糸係り部への糸の挿通を行うことができる。つまり、ユニット保持部に装着された新たな糸係止部材ユニットにて並ぶ複数の糸係止部材の糸係り部に、糸を自動で挿通することができる。よって、作業者が糸の挿通を行う必要がなく、ステッチ加飾部品の生産性の向上を図ることができる。
【0010】
(2)(1)に記載されたステッチ加飾装置において、
前記糸押込部は、
前進端に位置する前記糸通し針の前記糸通し穴の一方の開口側で前記糸の他端側を直線状に挟持しつつ、前記糸通し針の先端をガイド可能に形成されたガイド部と、
前記糸通し穴の前記一方の開口側に、糸当接部を前記糸通し穴に向けて設けられた糸押し部材と、
前記糸押し部材を、前記糸通し穴の軸方向に前進および後退させる糸押し部材駆動部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明においては、糸通し針の糸通し穴へ、自動で適切に糸を保持させることができる。
【0012】
(3)(1)または(2)に記載されたステッチ加飾装置において、
前記糸挿通部は、前記糸通し針の軸部を支持可能な複数の糸通し針支持部を有し、
前記糸通し針支持部は、前記糸通し針が後退したとき互いに離間した状態で前記軸部を支持し、前記糸通し針が前進したとき互いに近接した状態で前記糸通し針の先端とは反対側に近い箇所で前記軸部を支持することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、糸通し針が細長いものであっても、例えば、その軸部が曲がってしまうこと等がないように、糸通し針の軸部を適切に支持することができる。よって、糸通し針の損傷等を抑制することができる。
【0014】
(4)(1)乃至(3)までのいずれか1項に記載されたステッチ加飾装置において、
前記糸通し領域には、
前記糸挿通部による前記糸の挿通が行われる糸通し位置と、前記縫製ユニットを待機させる待機位置とがあり、
前記糸通し位置および前記待機位置にそれぞれ設けられ、前記縫製ユニットを載置可能な縫製ユニット載置部と、前記縫製ユニット載置部の位置を入れ替える入替動作が可能な入替テーブルとを有し、
前記縫製ユニット移動部は、前記待機位置にて前記縫製ユニットを着脱することを特徴とする。
【0015】
本発明においては、縫製ユニット移動部が待機位置にて縫製ユニットを取り外した後、入替テーブルにより入替動作を行うことで、縫製ユニット移動部から取り外された後に糸通し位置を経由した縫製ユニットをすぐに、待機位置へと供給することができる。そして、時間を要する糸係り部への糸の挿通を、待機位置とは異なる糸通し位置にて行うことができる。このため、縫製ユニットにより縫製を行っている間に、取り外された後、新たな糸係止部材ユニットが装着された縫製ユニットの糸係り部への糸の挿通を済ませておくことができる。よって、縫製が終了した縫製ユニットを縫製ユニット移動部から取り外した後、次の新たな糸係止部材ユニットが装着された縫製ユニットにより縫製を開始するまでの時間を短くすることができる。よって、ステッチ加飾部品の生産性をより向上することができる。
【0016】
(5)(4)に記載されたステッチ加飾装置において、
前記縫製ユニット載置部は、上下動可能に形成され、上昇位置にて前記縫製ユニットを
載置し、下降位置にて位置決めピンを挿入可能であり、
前記糸挿通部は、前記縫製ユニット載置部に対する前記位置決めピンによる位置決め状
態にて、前記ユニット保持部に装着された新たな前記糸係止部材ユニットの前記糸係止部
材の前記糸係り部に前記糸の他端側を挿通することを特徴とする。
【0017】
糸係止部材への糸通し針の挿通には、高い精度が必要である。一方、縫製ユニット載置部へと載置された縫製ユニットは、入替テーブルの入替動作により、縫製ユニット載置部に載置された状態にて微小なズレが生じるおそれがある。すなわち、縫製ユニット載置部によって待機位置にて精度の高い位置決めを行ったとしても、入替動作後、糸通し位置での位置決め精度は低下してしまうおそれがある。本発明においては、縫製ユニット載置部上に縫製ユニットをある程度、移動可能に載置しつつ、糸通し位置にて、高い精度で位置決めを行うことができる。よって、糸係止部材への糸通し針の挿通を、適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ステッチ加飾部品の生産性を向上できるステッチ加飾装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係るステッチ加飾装置によるステッチ加飾の対象物(ステッチ加飾部品)を表す斜視図である。
【
図2】ステッチ加飾部品のステッチ模様の位置における断面図である。
【
図3】本実施形態に係るステッチ加飾装置の全体を示す平面図である。
【
図4】ステッチ加飾装置の縫製ユニットの斜視図である。
【
図5】縫製途中のステッチ加飾部品と縫製ユニットの係止部材挿入部との概略断面図である。
【
図7】ステッチ加飾装置のユニット保持部の斜視図である。
【
図8】ユニット保持部の断面図(
図7に示すA-A位置)である。
【
図9】ステッチ加飾装置の縫製ユニット載置部の斜視図である。
【
図10】ステッチ加飾装置の糸引き抜き部の正面図である。
【
図12】ステッチ加飾装置の糸挿通部の糸通し針装置の平面図である。
【
図13】糸通し針装置の糸通し針の先端の拡大図である。
【
図15】糸押込部のガイド装置のガイド部が後退端にあるときを示す斜視図である。
【
図16】ガイド部が前進端にあるガイド装置の斜視図である。
【
図17】糸押込部の糸押し部材により糸通し針の糸通し穴へと糸を押し込む様子を示す図である。
【
図18】ステッチ加飾装置が糸通しを行う際の動作の前半を示す図である。
【
図19】ステッチ加飾装置が糸通しを行う際の動作の後半を示す図である。
【
図20】糸通し位置に位置する縫製ユニットの位置決めを行う位置決め装置を示す図である。
【
図21】位置決め装置による位置決めを行う場合の縫製ユニット載置部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る実施形態であるステッチ加飾装置について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本ステッチ加飾装置によるステッチ加飾の対象物(ステッチ加飾部品)について説明し、その後、ステッチ加飾装置について詳細に説明する。
【0021】
<ステッチ加飾の対象物>
図1は、ステッチ加飾部品STの概略斜視図である。ステッチ加飾部品STは、本形態に係るステッチ加飾装置によるステッチ加飾の対象物である。本形態のステッチ加飾部品STは、車両の運転席および助手席の前方に配置するインストルメントパネルである。ステッチ加飾部品STは、車両の使用者から視認できる表面が、表皮材HZで覆われている。表皮材HZの表面HZ1には、例えば、車両左右方向に延びるステッチ模様SMが設けられている。
【0022】
図2に、ステッチ加飾部品STのステッチ模様SMの位置における断面図を示す。
図2に示すように、ステッチ加飾部品STは、基材KZと、基材KZの表面KZ1に接着された表皮材HZとを備え、表皮材HZの表面HZ1側から挿入した糸S1によって表皮材HZの表面KZ1側に形成したステッチ模様SMを有する。また、ステッチ模様SMを形成する糸S1は、ステッチ模様SMの縫い目S2の位置で、基材KZと表皮材HZとの間に挿入された糸係止部材1によって係止されている。
【0023】
インストルメントパネルに適用される本ステッチ加飾部品STの基材KZは、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂を金型に射出成形することで形成することができる。また、表皮材HZは、例えば、真空成形によって基材KZに接着することができる。表皮材HZは、表面側の延性に優れた表皮HZ11と基材側の発泡層HZ12とで構成されている。表皮HZ11には、高級感やソフト感を醸すため、革調のシボ模様が形成されている。表皮HZ11は、例えば、0.5~0.8mm程度の厚さを有するオレフィン系エラストマ(TPO)樹脂で形成されている。発泡層HZ12は、例えば、3~4mm程度の厚さを有するポリプロピレンフォーム(PPF)樹脂で形成されている。
【0024】
また、ステッチ模様SMの糸S1は、例えば、外径が0.5~0.8mm程度の合成繊維等で形成されている。糸係止部材1は、ステッチ模様SMの縫い目S2の位置で糸S1を係止する部材であって、例えば、強度上優れたポリアミド系合成樹脂(例えば、ナイロン(登録商標)など)、またはコスト上優れたポリプロピレン(PP)樹脂等で形成されている。糸係止部材1は、基材KZの表面KZ1に当接し、表皮材HZの発泡層HZ12によって周囲が覆われている。
【0025】
上記構成によって、基材KZの裏面KZ2側における補強リブKZ3等に影響されずに、表皮材HZの表面HZ1側にステッチ模様SMが形成されている。すなわち、ステッチ模様SMの縫い目S2の位置で糸S1を係止する糸係止部材1は、基材KZと表皮材HZとの間に挿入されているので、基材KZの裏面KZ2側まで糸S1を挿通させる必要がない。このため、基材KZの裏面KZ2側に、例えば、補強リブKZ3が形成されている場合においても、補強リブKZ3の上方または補強リブKZ3に隣接した位置にも、ステッチ模様SMを容易に形成することができる。
【0026】
糸係止部材1は、基材KZに沿って延びる抜け止め部2と、抜け止め部2の反基材側に形成され糸S1を係止する糸係り部3とから成る。抜け止め部2は、棒状体(例えば、円柱体)でその長手方向の大きさが、糸係り部3より大きく形成されている。また、糸係り部3は、底辺が抜け止め部2に連結された略三角形または略半円形の板状体に形成され、頂点近傍に糸S1が挿通される糸挿通孔4が形成されている。糸挿通孔4は、円形または楕円形、長円形等に形成することができる。抜け止め部2は、糸挿通孔4における糸S1の挿通方向(
図2における奥行方向)と交差する方向に延びている。具体的に、本形態においては、抜け止め部2の長手方向は、糸S1の糸挿通孔4への挿通方向と直交している。また、糸係り部3は、糸挿通孔4に係止した糸S1から掛かる負荷が、抜け止め部2の長手方向における両端部に略均等に作用するよう、抜け止め部2の長手方向の中央部に形成されている。
【0027】
基材KZの表面KZ1には、ステッチ模様SMの縫製方向(矢印Fの方向)に沿って凹溝KZ12が形成されている。抜け止め部2は、凹溝KZ12内に縫製方向Fに沿って配置されている。ステッチ模様SMの縫い目ピッチSPは、任意の長さに設定できる。なお、縫い目ピッチSPを抜け止め部2の長さより短く設定した場合には、隣接する抜け止め部2同士を縫製方向Fでラップさせて配置すればよい。
【0028】
<ステッチ加飾装置>
次に、ステッチ加飾装置について説明する。
図3は、本実施形態に係るステッチ加飾装置10の全体を示す平面図である。ステッチ加飾装置10は、縫製ユニット20、縫製ユニット移動部30、縫製ユニット載置部40、糸引き抜き部50、糸挿通部60を備えている。
【0029】
縫製ユニット20は、ステッチ加飾部品STにステッチ模様SMを施すユニットである。縫製ユニット移動部30は、縫製ユニット20を移動させることができるものである。本形態の縫製ユニット移動部30は、具体的には、多関節ロボットである。また本形態の縫製ユニット移動部30は、縫製ユニット20の着脱が可能である。
【0030】
縫製ユニット載置部40は、縫製ユニット移動部30から取り外された縫製ユニット20を載置可能なものである。本形態の縫製ユニット載置部40は、入替テーブル70上に2つ、設けられている。入替テーブル70は、回転によって2つの縫製ユニット載置部40の位置を入れ替える入替動作を行うことができる。
【0031】
糸引き抜き部50は、縫製ユニット載置部40に載置された縫製ユニット20から、糸S1を引き抜く引き抜き動作を行うためのものである。糸挿通部60は、糸係止部材1の糸係り部3へ糸S1を挿通するためのものである。
【0032】
図3に示すように、ステッチ加飾装置10には、縫製領域HRがある。縫製領域HRは、縫製ユニット20により、ステッチ加飾部品STにステッチ模様SMを形成する領域である。すなわち、縫製ユニット20は、縫製ユニット移動部30により、縫製領域HR内を移動されつつ、ステッチ加飾部品STに対してステッチ模様SMを形成する縫製を行う。
【0033】
また、ステッチ加飾装置10には、糸通し領域SRがある。糸通し領域SRは、糸係止部材1に対して糸S1の挿通を行う領域である。以下、糸係止部材1に対する糸S1の挿通を、糸通しということがある。糸通し領域SRは、縫製領域HR外に位置している。また、糸通し領域SRには、糸通し位置SR1と待機位置SR2とがある。糸通し位置SR1は、糸通し領域SR内に実線により示す縫製ユニット20の位置である。待機位置SR2は、糸通し領域SR内に二点鎖線により示す縫製ユニット20の位置である。2つの縫製ユニット載置部40は、糸通し位置SR1、待機位置SR2のそれぞれに位置している。
【0034】
糸通し位置SR1は、糸挿通部60による糸係止部材1の糸係り部3への糸S1の挿通が行われる位置である。また本形態では、糸通し位置SR1では、糸係止部材1の補充も行われる。待機位置SR2は、糸通し位置SR1よりも縫製領域HR側の位置であり、縫製ユニット20を待機させることができる。縫製ユニット移動部30は、縫製ユニット20の着脱を待機位置SR2にて行う。すなわち、縫製ユニット移動部30は、縫製ユニット20を、縫製領域HR内を移動させることが可能であるとともに、縫製領域HR内と、糸通し領域SRの待機位置SR2との間を移動させることができる。
【0035】
ステッチ加飾装置10では、縫製領域HRにて縫製ユニット20によるステッチ加飾部品STへのステッチ模様SMの形成が行われる。ステッチ模様SMに係る縫製に伴い、縫製ユニット20に装着された糸係止部材1の数は減少する。そして、縫製ユニット20に装着された糸係止部材1が不足する状態となると、縫製ユニット移動部30は、縫製ユニット20を、糸通し領域SRの待機位置SR2にて取り外す。待機位置SR2にて取り外された縫製ユニット20は、入替テーブル70の入替動作により、糸通し位置SR1へと移動する。糸通し位置SR1では、縫製ユニット20への糸係止部材1の補充がなされるとともに、糸挿通部60により、補充された糸係止部材1の糸係り部3への糸S1の挿通(糸通し)が行われる。そして、糸係止部材1が補充され、糸通しが完了した縫製ユニット20は、その後の入替テーブル70の入替動作により、待機位置SR2へと供給される。糸係止部材1が補充された縫製ユニット20は、待機位置SR2にて、縫製ユニット移動部30に装着される。その後、縫製領域HRにて、縫製ユニット20によるステッチ加飾部品STへのステッチ模様SMの形成が行われる。
【0036】
また、本形態のステッチ加飾装置10においては、縫製ユニット20が2つ、循環される。具体的に、一方の縫製ユニット20が糸通し位置SR1にある間、他方の縫製ユニット20は、待機位置SR2にて縫製ユニット移動部30に装着されるとともに、縫製領域HRにてステッチ加飾部品STへのステッチ模様SMの形成を行う。すなわち、ステッチ加飾装置10は、糸通し位置SR1にて縫製ユニット20へ補充された糸係止部材1への糸通しを行っている間に、縫製領域HRにてステッチ加飾部品STへのステッチ模様SMの形成を行うことができる。さらに、待機位置SR2では、使用後の縫製ユニット20が取り外された後すぐに、入替テーブル70の入替動作により、糸通し位置SR1にて糸係止部材1の補充および糸通しが完了した縫製ユニット20を縫製ユニット移動部30へと供給できる。よって、縫製ユニット20によるステッチ加飾部品STへのステッチ模様SMの形成時間を長くとることができる。従って、ステッチ加飾装置10は、生産性が高い。
【0037】
図3には、X軸、Y軸を示している。
図3における奥行き方向がZ軸方向(高さ方向)である。これら各軸は、
図3以降の図についても一部、示している。なお、縫製ユニット20については、移動に伴い、各軸方向に対する向きが変化する。この点、
図3よりも後の図においては、縫製ユニット20と各軸方向との対応関係は、縫製ユニット20が糸通し位置SR1にて載置されているときのものを示している。
【0038】
次に、縫製ユニット20について説明する。
図4に、縫製ユニット20の斜視図を示す。縫製ユニット20は、縫製ユニット移動部30の取付フランジ31に対して着脱可能な着脱部21を有する。縫製ユニット20には、駆動源や検出機器等が設けられている。これら縫製ユニット20に搭載されている駆動源等への電力供給および制御信号等の配線は、取付フランジ31と着脱部21との着脱に伴い接続、または、接続の解除が行われる。また、縫製ユニット20は、糸係止部材1を保持するユニット保持部210、糸係止部材1を基材KZと表皮材HZとの間に挿入する係止部材挿入部220、糸係止部材1に係止される糸S1を供給する糸供給部230を有する。
【0039】
糸供給部230は、軸心231への巻き付けにより糸S1の一端側SAを保持している。糸供給部230により供給された糸S1の経路は、複数の糸ガイド232により形成されている。糸S1の糸供給部230側とは反対側の他端側SBは、糸ガイド232を経由し、ユニット保持部210に沿って係止部材挿入部220へと延びている。ユニット保持部210に沿って延びている糸S1は、ユニット保持部210に保持されている糸係止部材1の糸係り部3へと挿通されている。なお、糸ガイド232のうち、糸S1の経路における最もユニット保持部210側のものを第1糸ガイド233、第1糸ガイド233よりも1つ糸供給部230側のものを第2糸ガイド234として示している。
【0040】
図5に、縫製途中のステッチ加飾部品STと係止部材挿入部220との概略断面図を示す。また、
図6に、係止部材挿入部220の斜視概略図を示す。係止部材挿入部220は、糸係止部材1を上下動可能に保持する挿入針221と、当該挿入針221の先端部222から糸係止部材1を押し出す押出しピン229とを備えている。挿入針221は針軸方向H1に、押出しピン229は針軸方向H2にそれぞれ進退可能である。挿入針221は、針軸方向H1にスリット溝223が形成された中空針である。糸係止部材1の棒状の抜け止め部2は、ステッチ加飾部品STに挿入される際には、挿入針221の中空部224内に挿入される。
【0041】
挿入針221によってステッチ加飾部品STへと挿入される前の糸係止部材1は、連結棒6によって複数、連結された糸係止部材ユニット1Uの状態である。糸係止部材ユニット1Uにおいては、複数の糸係止部材1がいずれも、糸係り部3への糸S1の挿通方向SHを合わせて並んでいる。具体的に、糸係止部材ユニット1Uにおける複数の糸係止部材1はすべて、糸係り部3の糸挿通孔4の軸が同軸上となるように配置されている。抜け止め部2は、連結棒6に対して直交する針軸方向H1へ向いて平行に配置されている。糸係止部材ユニット1Uにおける複数の糸係止部材1は、挿通方向SHに延びる連結棒6に、所定の送りピッチPTで連結片5を介して連結されている。糸係止部材ユニット1Uは、挿通方向SHと同じ方向である移送方向H3へと移送される。糸係止部材1の移送方向H3は、挿入針221の針軸方向H1と直交する方向である。
【0042】
なお、連結棒6の長手方向の一端側には一端係合部6aが、他端側には他端係合部6bが設けられている。一端係合部6aと他端係合部6bとは、係合によって隣り合う連結棒6同士を接続することができる。すなわち、糸係止部材ユニット1Uは、連結棒6単位のものを接続して長いものとすることができる。これにより、ユニット保持部210へと保持される糸係止部材ユニット1Uにおける糸係止部材1の数を調整可能である。
【0043】
挿入針221は、糸係り部3に糸S1を係止した送り方向先頭の糸係止部材1を連結棒6から切り離して保持した状態で、先端部222を、所定の縫い目S2の位置で、表皮材HZの表面HZ1側から基材KZと表皮材HZとの間に挿入する。また、押出しピン229は、挿入針221の挿入後または挿入と同時に前進し、挿入針221の先端部222から糸係止部材1を表皮材HZ内に押し出す。これにより、糸係止部材1の抜け止め部2は、基材KZと表皮材HZとの間に挿入される。そして、糸係止部材1の糸係り部3に係止した糸S1によって、表皮材HZの表面HZ1にステッチ模様SMが縫製される。すなわち、係止部材挿入部220は、挿入針221の進退動作および押出しピン229の進退動作をそれぞれ所定のタイミングで合わせて行うことで、糸係止部材1を基材KZと表皮材HZとの間に挿入することができる。なお、連結片5には、押出しピン229によって押圧されたとき、切り離しが簡単に行えるように薄肉部が設けられていることが好ましい。
【0044】
また、係止部材挿入部220の近傍には、ユニット送り部240が設けられている。ユニット送り部240は、移送方向H3について、送りピッチPT分の進退動作が可能である。また、ユニット送り部240には、移送方向H3に並ぶ複数の送り爪241が形成されている。複数の送り爪241は、ピッチPTの間隔で設けられており、連結片5に係合可能である。具体的には、送り爪241は、挿入針221へと近づく向きへの移動の際には連結片5に係合し、挿入針221から遠ざかる向きの移動の際には連結片5に係合しない。これにより、ユニット送り部240は、糸係止部材ユニット1Uを送りピッチPTずつ移送する送り動作を行うことができる。
【0045】
そして、係止部材挿入部220における挿入針221および押出しピン229の進退動作に合わせて、ユニット送り部240が送り動作を行うことで、糸係止部材1の基材KZと表皮材HZとの間への挿入を、連続して行うことができる。これにより、糸係止部材ユニット1Uにおける糸係止部材1は、移送方向H3における係止部材挿入部220側のものから順に、基材KZと表皮材HZとの間へと挿入される。
【0046】
図7に、ユニット保持部210の斜視図を示す。
図7では、ユニット保持部210以外の縫製ユニット20の構成を二点鎖線にて示している。本形態のユニット保持部210は、縫製ユニット20に着脱可能に装着されている。ユニット保持部210に保持された糸係止部材ユニット1Uの糸係止部材1を用いて縫製が行われた後、そのユニット保持部210を、新たな糸係止部材ユニット1Uが保持されたユニット保持部210へと交換することができる。すなわち、ステッチ加飾装置10においては、縫製ユニット20への糸係止部材1の補充を、使用後のユニット保持部210を新たな糸係止部材ユニット1Uを装着したユニット保持部210へと交換することにより行う。
【0047】
ユニット保持部210には、
図7に示すように、連結片スリット211が設けられている。連結片スリット211は、ユニット保持部210の長手方向について連続して設けられている。
【0048】
図8に、ユニット保持部210の断面図を示す。
図8は、
図7に示すA-A位置での断面図である。
図8に示すように、ユニット保持部210は中空のものである。ユニット保持部210の内部空間212は、連結片スリット211と繋がっている。ユニット保持部210に保持された糸係止部材ユニット1Uの連結棒6は、内部空間212内に位置している。糸係止部材ユニット1Uの連結片5は、連結片スリット211へと挿入されている。このため、糸係止部材ユニット1Uは、連結片スリット211の外側の外面213と内部空間212側の内面214とを、糸係止部材1の抜け止め部2と連結棒6とによって挟み込んでいる。
【0049】
これにより、糸係止部材ユニット1Uは、連結片スリット211に沿って移動可能な状態で、ユニット保持部210に保持されている。ユニット保持部210に保持された糸係止部材ユニット1Uは、糸係止部材1の糸係り部3が、ユニット保持部210の外面213にて露出している。そして、新たな糸係止部材ユニット1Uは、ユニット保持部210へ、糸係り部3への糸S1の挿通方向SHに挿入することで保持させることができる。なお、本形態のユニット保持部210は、加工の都合上、2つの部材を組み合わせることで構成されている。
【0050】
次に、縫製ユニット載置部40について説明する。
図9に、縫製ユニット載置部40の斜視図を示す。縫製ユニット載置部40は、縫製ユニット20の四隅付近にそれぞれ位置する4本の載置柱41により構成されている。4本の載置柱41よりなる縫製ユニット載置部40は、糸通し位置SR1と待機位置SR2とにそれぞれ設けられている。載置柱41の先端には、縫製ユニット20の載置用位置決め穴22に挿入される載置用位置決めピン42が設けられている。これにより、縫製ユニット20は、縫製ユニット載置部40に載置されるとともに、位置決めがなされる。よって、縫製ユニット20は、待機位置SR2における縫製ユニット移動部30との着脱等が適切に行われる。
【0051】
また、縫製ユニット載置部40の下方には、入替テーブル70が設けられている。入替テーブル70は、上下方向に延びる回転軸を中心とした回転により、2つの縫製ユニット載置部40の位置を入れ替える入替動作を行うことができる。
【0052】
次に、糸引き抜き部50について説明する。
図10に、糸引き抜き部50の正面図を示す。また、
図11に、糸引き抜き部50の平面図を示す。糸引き抜き部50は、縫製ユニット20の第1糸ガイド233付近に設けられている。つまり、糸引き抜き部50は、ユニット保持部210の係止部材挿入部220側とは反対側付近に設けられている。
【0053】
糸引き抜き部50は、一対の引掛け爪51、引掛け爪51を開閉させる引掛け爪駆動部52、引掛け爪駆動部52を移動させるスライダ53を有する。スライダ53は、可動部53Aを有する。引掛け爪駆動部52は、ブラケット54により、スライダ53の可動部53Aに固定されている。可動部53Aの移動方向50Hは、ユニット保持部210の長手方向であり、糸S1の挿通方向SHと同じ方向である。
図10には、引掛け爪駆動部52により開閉される引掛け爪51の開状態を実線で、閉状態を二点鎖線により示している。また、
図10には、糸引き抜き部50の引掛け爪51がユニット保持部210に接近した前進端を示している。
【0054】
糸引き抜き部50は、糸通し位置SR1にて、縫製後の縫製ユニット20から、糸S1の他端側SBを引き抜くためのものである。本形態において、縫製後の縫製ユニット20は、ユニット保持部210に保持された糸係止部材1がすべて使用された後である。なお、糸係止部材1がすべてなくなった状態でも、糸S1の他端側SBは、第1糸ガイド233に通っており、第1糸ガイド233よってガイドされたままである。よって、糸S1は、第1糸ガイド233と第2糸ガイド234とのどちらにもガイドされている。
【0055】
そして、糸引き抜き部50は、縫製後の縫製ユニット20が糸通し位置SR1にあるときに、糸S1の第1糸ガイド233から第2糸ガイド234までの間の箇所を、開状態の引掛け爪51の間へと挿入し、引掛け爪51を閉状態とする。これにより、糸S1の第1糸ガイド233から第2糸ガイド234までの間の箇所は、閉状態の引掛け爪51に引っ掛かることで保持される。
【0056】
次に、糸引き抜き部50は、糸S1の他端側SBを引掛け爪51によって保持した状態で、引掛け爪51を後退させる。すなわち、引掛け爪51を縫製ユニット20から遠ざかる向きへと移動させる。糸S1の糸供給部230側(一端側SA)は固定されている。よって、引掛け爪51を後退させることで、糸S1の他端側SBを、第1糸ガイド233から引き抜くことができる。これにより、糸引き抜き部50は、糸S1の他端側SBを縫製ユニット20から引き抜く引き抜き動作を行うことができる。
【0057】
次に、糸挿通部60について説明する。糸挿通部60は、糸通し位置SR1に位置する縫製ユニット20の係止部材挿入部220側に位置する糸通し針装置61と、係止部材挿入部220側とは反対側に位置する糸押込部62とを有する。
【0058】
図12に、糸挿通部60の糸通し針装置61の平面図を示す。糸通し針装置61は、糸通し針610を有する。糸通し針610は、縫製ユニット20のユニット保持部210に保持される糸係止部材ユニット1Uにおけるすべての糸係止部材1の糸係り部3を挿通可能な長さのものである。具体的に、本形態の糸通し針610の長さは、縫製ユニット20の挿通方向SHにおける長さよりも長いものである。糸通し針610は、先端611からその反対側へと延びる軸部612を有する。糸通し針610の太さは、糸係り部3の糸挿通孔4よりも細い。糸通し針610は、長手方向が挿通方向SHに沿って設けられている。また、糸通し針610の移動方向610Hは、挿通方向SHと同じ方向である。
図12には、後退端に位置する糸通し針610を実線により示している。後退端における糸通し針610は、先端611を縫製ユニット20に向けた状態で、縫製ユニット20の係止部材挿入部220側に位置している。
【0059】
糸通し針装置61は、糸通し針610の先端611とは反対側が固定された糸通し針固定部620と、糸通し針固定部620を移動させる糸通し針駆動部630とを有する。糸通し針駆動部630は、可動部631を有する。糸通し針610は、糸通し針固定部620により、糸通し針駆動部630の可動部631に固定されている。よって、糸通し針駆動部630は、糸通し針610を挿通方向SHに前進および後退させることができる。なお、
図12には、糸通し針610が前進端に位置するときを二点鎖線により示している。
【0060】
糸通し針装置61は、糸通し針610を支持する糸通し針支持部640を有する。糸通し針支持部640は、後退端に位置する糸通し針610の先端611付近に固定された固定支持部641と、固定支持部641から糸通し針固定部620までの間に位置する複数の可動支持部642とを有する。また、糸通し針支持部640は、平行に設けられた2本のガイドロッド645を有する。2本のガイドロッド645の一端は、固定支持部641に固定されている。2本のガイドロッド645の他端は、糸通し針固定部620の固定支持部641側とは反対側に設けられたガイドロッド固定ブロック644に固定されている。また、糸通し針固定部620には、ガイドロッド645に対応した箇所にガイドロッド645の外径よりも大きな貫通穴が設けられている。
【0061】
また、2本のガイドロッド645は、固定支持部641と糸通し針固定部620との間に設けられた複数の可動支持部642を貫通している。可動支持部642における2本のガイドロッド645の貫通箇所には、ガイドロッド645の外径に対応したガイド穴が設けられている。これにより、複数の可動支持部642は、ガイドロッド645にガイドされつつ固定支持部641と糸通し針固定部620との間を移動可能に設けられている。
【0062】
固定支持部641および複数の可動支持部642には、糸通し針610の軸部612の外径に対応したガイド穴が設けられている。これにより、固定支持部641および複数の可動支持部642は、糸通し針610の軸部612を支持することができる。
【0063】
また、複数の可動支持部642は、それぞれ隣り合うもの同士が所定の長さのワイヤー646によって接続されている。このため、複数の可動支持部642は、互いの距離がワイヤー646の長さを超えて離れることがないようになっている。複数の可動支持部642のうち、両端に位置するものはそれぞれ、固定支持部641、糸通し針固定部620にワイヤー646によって接続されている。このため、複数の可動支持部642のうち、両端に位置するものはそれぞれ、固定支持部641、糸通し針固定部620からの距離がワイヤー646の長さを超えて離れることがないようになっている。ワイヤー646の長さは、糸通し針610が後退したときに、複数の可動支持部642が固定支持部641から糸通し針固定部620に均等に配置された状態でのこれらの間の距離よりもわずかに長い長さである。
【0064】
よって、
図12に示すように、糸通し針610が後退端まで移動した場合、複数の可動支持部642は互いに均等に離間した状態となる。さらに、複数の可動支持部642のうち、両端に位置するものについてもそれぞれ、固定支持部641、糸通し針固定部620からの距離が、複数の可動支持部642における隣り合うもの同士の距離と同程度の距離となる。よって、糸通し針610が後退端まで移動したとき、糸通し針支持部640は、糸通し針610の軸部612を均等の間隔で支持することができる。
【0065】
また、糸通し針610が前進端にある場合には、固定支持部641と糸通し針固定部620との距離は、糸通し針610が後退端にある場合よりも狭くなる。この場合にも、複数の可動支持部642は、互いの距離、および、両端のものとそれぞれ固定支持部641、糸通し針固定部620との距離を、糸通し針610が後退端にあるときよりも狭めつつ、糸通し針610の軸部612を支持する。
【0066】
さらに、糸通し針610が前進端と後退端との間を移動する際にも、複数の可動支持部642は、互いの距離、および、両端のものとそれぞれ固定支持部641、糸通し針固定部620との距離が、ワイヤー646の長さ以上になることはない。すなわち、糸通し針支持部640は、糸通し針610が移動しても常に、糸通し針610の軸部612を、ワイヤー646の長さ以下の間隔で支持する。これにより、糸通し針610が細長いものであっても、例えば、軸部612が曲がってしまうこと等がないように、糸通し針610の軸部612を適切に支持することができる。これにより、糸通し針610の損傷等が抑制されている。
【0067】
糸通し針610の先端611は、糸通し針610が後退端から前進端側に移動することで、固定支持部641から縫製ユニット20側へと突出する。糸通し針610の先端611は、さらに前進端側へと移動すると、ユニット保持部210の外面213に沿って移動する。前述したように、ユニット保持部210の外面213には、糸係止部材ユニット1Uの複数の糸係止部材1が露出している。その複数の糸係止部材1における糸係り部3はすべて、糸挿通孔4が同軸となるように設けられている。そして、糸通し針610の先端611の移動経路は、ユニット保持部210に保持された糸係止部材ユニット1Uにおける糸係止部材1の糸係り部3に対応している。すなわち、糸通し針610は、後退端から前進端まで移動すると、挿通方向SHを合わせて並ぶ複数の糸係止部材1における糸係り部3の糸挿通孔4をすべて、挿通することができる。
【0068】
図13に、糸通し針610の先端611の拡大図を示す。糸通し針610の先端611付近には、糸通し穴613が形成されている。本形態の糸通し穴613は長円形状のものである。糸通し穴613は、糸通し針610を貫通している。
【0069】
図14に、糸挿通部60の糸押込部62の平面図を示す。糸押込部62は、前述したように、糸通し位置SR1に位置する縫製ユニット20を挟んで糸通し針装置61とは反対側に位置している。
図14には、前進端に位置する糸通し針610を示している。前進端に位置する糸通し針610の先端611は、第1糸ガイド233を通って縫製ユニット20から突き出ている。糸押込部62は、ガイド装置650と、糸押込装置660とを有する。ガイド装置650と糸押込装置660とは、これらの間に前進端に位置する糸通し針610の先端611を挟んで対向して設けられている。
【0070】
ガイド装置650は、ガイド部651と、ガイド部651を移動方向650Hに進退させることができるガイド駆動部652とを有している。移動方向650Hは、挿通方向SHと交差する方向である。
図14には、後退端に位置するガイド部651を実線により、前進端に位置するガイド部651を二点鎖線により示している。糸通し針610は、前進端では、前進端に位置するガイド部651へと挿入される。
【0071】
糸押込装置660は、糸押し部材661と、糸押し部材661を保持する糸押し保持ブロック662と、糸押し保持ブロック662を移動方向660Hに進退させることができる糸押し部材駆動部663とを有している。このため、糸押し部材661は、糸押し部材駆動部663の移動により、移動方向660Hに進退可能である。移動方向660Hは、挿通方向SHと交差する方向であるとともに、糸通し穴613の軸方向と同一方向とされている。すなわち、糸通し針610の先端611に形成された糸通し穴613の一方の開口は、糸押込装置660側に向けられている。
【0072】
糸押し部材661の先端に位置する糸当接部661Aは、糸通し穴613の一方の開口に向けられている。
図14には、後退端に位置する糸押し部材661を実線により、前進端に位置する糸押し部材661を二点鎖線により示している。糸押し部材661は、前進端では、前進端に位置するガイド部651へと挿入される。さらに、糸押し部材661は、前進端では、前進端に位置する糸通し針610と交差する。すなわち、糸押し部材661は、後退端から前進端へと移動することで、前進端に位置する糸通し針610の糸通し穴613へと挿通される。
【0073】
さらに、糸押込装置660は、糸押し保持ブロック662よりもガイド装置650側に設けられたガイドブロック664を有している。ガイドブロック664は、糸押し部材661の先端付近をガイドすることができる。これにより、ガイドブロック664は、移動する糸押し部材661の糸当接部661Aの振れを抑制することができる。
【0074】
図15に、ガイド部651が後退端にあるガイド装置650の斜視図を示す。
図15に示すように、ガイド部651の側面には、挿通方向SHに延びる糸ガイド溝653が形成されている。糸ガイド溝653は、ガイド部651の挿通方向SHにおける一端側の側面から他端側の側面まで連続して設けられている。ガイド部651は、糸ガイド溝653を、糸引き抜き部50に引き抜かれた状態の糸S1の他端側SBに向けている。また、糸ガイド溝653には、糸S1側ほど互いに遠ざかる向きに傾斜した斜面により導入部654が設けられている。本形態のガイド部651において、導入部654は、ガイド部651における糸S1側の側面と縫製ユニット20側の側面とが交わる角部に設けられている。
【0075】
図16に、ガイド部651が前進端にあるガイド装置650の斜視図を示す。
図16においては、ガイド部651を分解して示している。なお、本形態のガイド部651は、加工の都合上、
図16に示すように、2つの部材を組み合わせることで構成されている。ガイド部651は、前進端へと移動することで、糸S1の他端側SBを糸ガイド溝653に挿入することができる。糸ガイド溝653に導入部654が設けられていることで、糸ガイド溝653に糸S1を確実に挿入することができる。そして、ガイド部651は、糸S1の他端側SBを直線状に挟持する。糸ガイド溝653によって直線状に挟持されている糸S1には、前進端に位置する糸通し針610の糸通し穴613の開口の一方が向いている。すなわち、ガイド部651は、糸ガイド溝653により、前進端に位置する糸通し針610の糸通し穴613の一方の開口側で、糸S1の他端側SBを直線状に挟持する。
【0076】
また、ガイド部651には、前進端にてガイド部651へと挿入される糸通し針610の挿入位置に、糸通し針ガイド穴655が形成されている。このため、ガイド部651の糸通し針ガイド穴655は、前進端へと移動してきた糸通し針610の先端611の付近をガイドすることができる。すなわち、ガイド部651の糸通し針ガイド穴655は、前進端に位置する糸通し針610の糸通し穴613の付近をガイドすることができる。さらに、ガイド部651には、前進端にてガイド部651へと挿入される糸押し部材661の挿入位置に、糸押しガイド穴656が形成されている。このため、ガイド部651の糸押しガイド穴656は、前進端へと移動してきた糸押し部材661をガイドすることができる。
【0077】
図17には、糸押し部材661により糸通し針610の糸通し穴613へと糸S1を押し込む様子を示す。
図17では、ガイド部651の上側の部材を、二点鎖線により示している。糸押し部材661は、糸通し針610およびガイド部651が前進端に位置するときに、後退端から前進端へと移動する。糸押し部材661の糸当接部661Aは、後退端から前進端へと移動する途中で、まずガイドブロック664を通過し、その後、ガイド部651の糸押しガイド穴656へと挿入される。これにより、糸当接部661Aは、振れ等が抑制された状態で、正確に糸押しガイド穴656へと挿入される。
【0078】
ガイド部651へと挿入された糸当接部661Aは、糸ガイド溝653によって挟持されている糸S1へと当接する。さらに、糸当接部661Aは、糸S1に当接したまま前進し、糸通し針610の一方の開口からその内部へと進入する。そして、糸押し部材661は、前進端では、糸通し穴613を挿通する。すなわち、糸当接部661Aは、糸通し針610の他方の開口から突出する。これにより、糸当接部661Aに当接する糸S1は、糸当接部661Aへの当接箇所に屈曲部分が形成されつつ、その屈曲部分が糸通し穴613へと押し込まれる。すなわち、糸押し部材661は、糸通し穴613に、糸S1の他端側SBを折り曲げつつ押し込むことができる。
【0079】
次に、ステッチ加飾装置10が、糸通し位置SR1にて、縫製ユニット20へ糸通しを行う際の動作について
図18および
図19により説明する。
図18に、ステッチ加飾装置10が糸通しを行う際の動作の前半を、
図19に、
図18に続く後半を示している。
【0080】
図18(A)に、縫製領域HRにてステッチ加飾部品STへのステッチ模様SMの縫製を行った後、糸通し位置SR1にて載置されている縫製ユニット20を示す。すなわち、ユニット保持部210に保持された糸係止部材1を用いて縫製を行い、糸係止部材1が無くなった状態で待機位置SR2へと載置され、入替テーブル70の入替動作によって糸通し位置SR1へと移動してきた状態の縫製ユニット20を示す。糸通し位置SR1へと到達した縫製ユニット20において、糸S1の経路は、第1糸ガイド233と第2糸ガイド234とを経由している。
【0081】
ステッチ加飾装置10では、糸通し位置SR1における縫製ユニット20への糸通しの際には、まず、糸引き抜き部50による引き抜き動作を行う。引き抜き動作では、糸引き抜き部50はまず、
図18(A)に矢印で示すように、前進端へと移動する。次に、
図18(B)に示すように、糸引き抜き部50は、引掛け爪51によって糸S1の他端側SBを保持するとともに、後端側へと移動する。引掛け爪51による糸S1の保持箇所は、第1糸ガイド233と第2糸ガイド234との間の他端側SBの箇所である。このように、糸引き抜き部50は、糸S1の他端側SBを保持してユニット保持部210の係止部材挿入部220側とは反対側へと引き抜く引き抜き動作を行う。糸引き抜き部50による引き抜き動作により、糸S1の他端側SBは、第1糸ガイド233から引き抜かれる。
【0082】
糸引き抜き部50による人引き抜き動作に続いて、
図18(C)~
図19に示すように、糸挿通部60により、糸係止部材1の糸係り部3へ糸S1の挿通を行う。具体的に、本形態では、糸引き抜き部50による糸S1の引き抜き動作に続いて、
図18(C)に示すように、ガイド装置650のガイド部651を前進端へと移動させる。これにより、ガイド部651に、糸S1の他端側SBを挟持させる。続いて、本形態では、ガイド部651に糸S1の他端側SBを挟持させた状態で、
図19(A)に示すように、ユニット保持部210の交換を行う。この交換作業自体は、本形態では作業者により行われる。交換後のユニット保持部210は、新たな糸係止部材ユニット1Uが保持されている。なお、新たな糸係止部材ユニット1Uのユニット保持部210への補充についても、作業者が行うことができる。
【0083】
続いて、
図19(B)に示すように、糸通し針610の糸通し穴613へ糸S1を押し込む。具体的には、糸通し針610を前進端まで移動させ、先端611付近をガイド部651によってガイドさせる。なお、前進端へと移動した糸通し針610は、新たな糸係止部材ユニット1Uにおけるすべての糸係止部材1の糸係り部3の糸挿通孔4へと挿通されている。さらに、糸通し針610の先端611をガイド部651によってガイドした状態で、糸押込装置660の糸押し部材661を前進端へと移動させる。これにより、糸S1の他端側SBは、糸通し針610の糸通し穴613へ折り曲げつつ押し込まれる。
【0084】
その後、
図19(C)に示すように、新たな糸係止部材ユニット1Uのすべての糸係止部材1の糸係り部3へと糸S1を挿通する。具体的には、糸押し部材661を後退させた後、糸通し針610を後退させる。このとき、糸通し針610の糸通し穴613は、押し込まれた糸S1の屈曲箇所を保持した状態で後退する。すなわち、糸通し穴613へと押し込まれた糸S1の箇所は、折れ曲がった状態で糸通し穴613へと引っ掛かることで、糸通し穴613が後退する際に抜けてしまうことが抑制されている。
【0085】
前述したように、糸通し針610は、前進端への移動の際に新たな糸係止部材ユニット1Uにおけるすべての糸係止部材1の糸係り部3の糸挿通孔4へと挿通されている。このため、後退端への移動の際にも、糸通し針610の糸通し穴613は、押し込まれた糸S1の箇所を保持しつつ、すべての糸係止部材1の糸係り部3の糸挿通孔4を通過することとなる。よって、糸S1の他端側SBを、新たな糸係止部材ユニット1Uにおけるすべての糸係止部材1の糸係り部3の糸挿通孔4へと挿通することができる。なお、糸S1の他端側SBの端は、糸通し針610が後退端まで移動することで、糸通し穴613から抜けることとなる。
【0086】
これにより、ステッチ加飾装置10は、糸通し位置SR1にて、縫製ユニット20へ装着された新たな糸係止部材ユニット1Uのすべての糸係止部材1の糸係り部3へ糸通しを行うことができる。糸通しが完了した後、入替テーブル70が入替動作を行うことで、縫製ユニット20は待機位置SR2へと移動し、縫製ユニット移動部30に装着される。よって、ステッチ加飾装置10は、補充された糸係止部材1により、次のステッチ加飾部品STへの縫製を行うことができる。
【0087】
ここで、本形態の糸係り部3の糸挿通孔4は小さいものである。よって、糸通し針610の先端611を前進端へと移動させる際にすべての糸係り部3の糸挿通孔4へ糸通し針610を正確に挿通するためには、縫製ユニット20の位置決めを高い精度で行うことが好ましい。つまり、糸通し位置SR1では、縫製ユニット20の位置決めを高い精度で行うことが好ましい。このことについて説明する。
【0088】
図20に、位置決め装置43を示す。位置決め装置43は、糸通し位置SR1に位置する縫製ユニット20を挟み込むように両側にそれぞれ設けられている。位置決め装置43は、位置決めピン44を備えており、位置決めピン44を進退させることができる。
図20(A)に後退端に位置する位置決め装置43を、
図20(B)に前進端に位置する位置決め装置43を示している。位置決め装置43は、前進により縫製ユニット20を両側から挟み込むように動作する。また、縫製ユニット20を挟んで設けられた位置決め装置43にはそれぞれ、図面奥行き方向について異なる位置に位置決めピン44が2つずつ設けられている。
【0089】
また、縫製ユニット20には、位置決め装置43の位置決めピン44に対応した位置にそれぞれ、位置決め穴23が設けられている。そして、位置決め装置43の前進端では、位置決めピン44がそれぞれ縫製ユニット20の位置決め穴23へと挿入される。これにより、糸通し位置SR1における縫製ユニット20の位置決めが行われる。
図20(A)には、位置決め装置43の位置決めピン44と、位置決めピン44に対応する縫製ユニット20の位置決め穴23とのギャップGAを示している。
【0090】
前述したように、縫製ユニット載置部40の載置柱41によっても、縫製ユニット20の位置決めが行われる。そして、例えば、位置決め装置43による位置決め精度よりも、縫製ユニット載置部40による位置決め精度の方が高い場合などには、位置決め装置43による位置決めが適切に行えないおそれがある。そこで、位置決め装置43は、縫製ユニット載置部40による位置決め精度よりも高い精度で、縫製ユニット20の位置決めを行う。
【0091】
図21に、位置決め装置43による位置決めを行う場合の縫製ユニット載置部40の構成を示す。
図21には、縫製ユニット載置部40の載置用位置決めピン42と、縫製ユニット20の載置用位置決め穴22とのギャップGBを示している。そして、縫製ユニット載置部40と縫製ユニット20との位置決めのギャップGBは、位置決め装置43と縫製ユニット20との位置決めのギャップGAよりも大きくされている。よって、位置決め装置43は、水平方向について、縫製ユニット20の位置決めを適切に行うことができる。
【0092】
さらに、縫製ユニット載置部40は、縫製ユニット20を下方から付勢する付勢部45を有している。つまり、縫製ユニット載置部40は、上下動可能に形成されている。待機位置SR2にて載置された縫製ユニット20は、自重によって付勢部45による付勢力に抗って下降する。そして、糸通し位置SR1では、縫製ユニット20は、縫製ユニット載置部40へ載置されたときよりも下降した下降位置20Bにて、位置決め装置43による位置決めがなされる。よって、位置決め装置43は、鉛直方向についても、縫製ユニット20の位置決めを適切に行うことができる。
【0093】
すなわち、縫製ユニット載置部40は、下降位置20Bよりも上側に位置する上昇位置20Aにて縫製ユニット20を載置する。縫製ユニット載置部40に載置された縫製ユニット20は、上下動可能に支持されている。縫製ユニット載置部40に載置された縫製ユニット20は、下降位置20Bにて位置決め装置43による高精度な位置決めがなされる。下降位置20Bにて位置決めがなされた状態の縫製ユニット20について、ユニット保持部210に装着された新たな糸係止部材ユニット1Uの糸係止部材1の糸係り部3への糸通しがなされる。
【0094】
ここで、前述したように、ユニット保持部210に装着された新たな糸係止部材ユニット1Uの糸係止部材1の糸係り部3への糸通しには、高い精度が要求される。一方、縫製ユニット載置部40にて、縫製ユニット20の位置決めを高い精度で行う場合、縫製ユニット20を縫製ユニット載置部40へと載置する縫製ユニット移動部30にも、高い動作精度が要求される。また、入替テーブル70による入替動作により、縫製ユニット載置部40に載置された縫製ユニット20がズレてしまうおそれもある。このため、縫製ユニット載置部40にて、縫製ユニット20の位置決めを高い精度で行うことは困難であることがある。
【0095】
本形態では、縫製ユニット載置部40に縫製ユニット20を上下動可能に載置しつつ、位置決め装置43により、糸通し位置SR1にて縫製ユニット20の位置決めを高い精度で行う。このため、縫製ユニット載置部40による縫製ユニット20の位置決め精度は、それほど高くなくてもよい。さらに、糸通し位置SR1にて、位置決め装置43により、縫製ユニット20の位置決めを高い精度で行うことができる。よって、ユニット保持部210に装着された新たな糸係止部材ユニット1Uの糸係止部材1の糸係り部3への糸通しを、適切に行うことができる。
【0096】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係るステッチ加飾装置10は、糸係止部材1を、ステッチ加飾部品STにおける縫い目S2の位置に、表皮材HZの表面HZ1側から基材KZと表皮材HZとの間に挿入する。糸係止部材1は、挿通された糸S1を係止する糸係り部3、および、糸S1の糸係り部3への挿通方向SHと交差する方向に延びる抜け止め部2を有する。これにより、糸係り部3に係止された糸S1によって表皮材HZの表面HZ1にステッチ模様SMを縫製する。また、ステッチ加飾装置10は、ユニット保持部210、係止部材挿入部220、糸供給部230を有する縫製ユニット20を備えるとともに、縫製ユニット20を縫製領域HRと糸通し領域SRとで移動させる縫製ユニット移動部30を備える。ユニット保持部210は、糸係り部3の挿通方向SHを合わせて並ぶ複数の糸係止部材1が、挿通方向SHに延びる連結棒6に連結されてなる糸係止部材ユニット1Uを保持する。係止部材挿入部220は、ユニット保持部210に保持された糸係止部材ユニット1Uにおける糸係止部材1のうち、挿通方向SHの一方の端部に位置するものを連結棒6から切り離しつつ、縫い目S2の位置における基材KZと表皮材HZとの間に挿入する。糸供給部230は、糸係止部材ユニット1Uにおける複数の糸係止部材1の糸係り部3に挿通された糸S1の一端側SAが保持され、糸S1の他端側SBを係止部材挿入部220側へと供給可能である。さらに、ステッチ加飾装置10は、糸引き抜き部50、糸挿通部60を備える。糸引き抜き部50は、ユニット保持部210に保持された糸係止部材ユニット1Uを用いた縫製後の縫製ユニット20について、糸通し領域SRにて、糸S1の他端側SBを保持してユニット保持部210の係止部材挿入部220側とは反対側へ引き抜く。糸挿通部60は、糸引き抜き部50によって糸S1の他端側SBを引き抜いた後に、ユニット保持部210に装着された新たな糸係止部材ユニット1Uの糸係止部材1の糸係り部3に、糸S1の他端側SBを挿通する。これにより、ステッチ加飾装置10は、ユニット保持部210に装着された新たな糸係止部材ユニット1Uにて並ぶ複数の糸係止部材1の糸係り部3に、糸S1を自動で挿通することができる。よって、ステッチ加飾装置10は、作業者が糸S1の挿通を行う必要がなく、ステッチ加飾部品STの生産性の向上を図ることができる。
【0097】
また、ステッチ加飾装置10では、糸挿通部60は、糸通し針610と、糸通し針駆動部630と、糸係止部材ユニット1Uにおける係止部材挿入部220とは反対側に設けられた糸押込部62とを有する。糸通し針610は、先端611側に糸S1を保持可能な糸通し穴613が形成されており、糸係止部材ユニット1Uにおけるすべての糸係止部材1の糸係り部3を挿通可能な長さである。糸通し針駆動部630は、糸通し針610を挿通方向SHに前進および後退させる。糸押込部62は、糸通し針610の糸通し穴613に、糸引き抜き部50によって引き抜かれた糸S1の他端側SBを折り曲げつつ押し込む。これにより、ステッチ加飾装置10では、前進した糸通し針610によって、交換された新たな糸係止部材ユニット1Uにて並ぶすべての糸係り部3を挿通することができる。さらに、糸通し針610の先端611の糸通し穴613へと糸S1を押し込んだ後、糸通し針610を後退させることで、すべての糸係り部3への糸S1の挿通を行うことができる。すなわち、糸通し針610の1度の進退動作により、新たな糸係止部材ユニット1Uにて並ぶ多数の糸係り部3への糸S1の挿通を行うことができる。よって、ステッチ加飾部品STの生産性の向上を図ることができる。
【0098】
また、ステッチ加飾装置10では、糸押込部62は、ガイド部651と、糸押し部材駆動部663とを有する。ガイド部651は、前進端に位置する糸通し針610の糸通し穴613の一方の開口側で糸S1の他端側SBを直線状に挟持しつつ、糸通し針610の先端611をガイド可能に形成されている。糸押し部材661は、糸通し穴613の一方の開口側に、糸当接部661Aを糸通し穴613に向けて設けられている。糸押し部材駆動部663は、糸押し部材661を、糸通し穴613の軸方向に前進および後退させる。これにより、ステッチ加飾装置10は、糸通し針610の糸通し穴613へ、自動で適切に糸S1を保持させることができる。
【0099】
また、ステッチ加飾装置10では、糸挿通部60は、糸通し針610の軸部612を支持可能な糸通し針支持部640を有する。糸通し針支持部640は、複数の可動支持部642を有する。そして、糸通し針支持部640は、糸通し針610が後退したとき、複数の可動支持部642が互いに離間した状態で軸部612を支持する。一方、糸通し針610が前進したとき、複数の可動支持部642が互いに近接した状態で糸通し針610の先端611とは反対側に近い箇所で軸部612を支持する。これにより、ステッチ加飾装置10は、糸通し針610が細長いものであっても、例えば、その軸部612が曲がってしまうこと等がないように、糸通し針610の軸部612を適切に支持することができる。よって、糸通し針610の損傷等を抑制することができる。
【0100】
また、ステッチ加飾装置10では、糸通し領域SRには、糸挿通部60による糸S1の挿通が行われる糸通し位置SR1と、縫製ユニット20を待機させる待機位置SR2とがある。また、糸通し領域SRには、糸通し位置SR1および待機位置SR2にそれぞれ設けられ、縫製ユニット20を載置可能な縫製ユニット載置部40と、縫製ユニット載置部40の位置を入れ替える入替動作が可能な入替テーブル70とを有する。そして、縫製ユニット移動部30は、待機位置SR2にて縫製ユニット20を着脱する。つまり、縫製ユニット移動部30が縫製ユニット20を取り外した後、入替テーブル70により入替動作を行うことで、縫製ユニット移動部30から取り外された後に糸通し位置SR1を経由した縫製ユニット20をすぐに、待機位置SR2へと供給できる。そして、時間を要する糸係り部3への糸S1の挿通を、待機位置SR2とは異なる糸通し位置SR1にて行うことができる。このため、縫製ユニット20により縫製を行っている間に、取り外された後、新たな糸係止部材ユニット1Uが装着された縫製ユニット20の糸係り部3への糸S1の挿通を済ませておくことができる。よって、縫製が終了した縫製ユニット20を縫製ユニット移動部30から取り外した後、次の新たな糸係止部材ユニット1Uが装着された縫製ユニット20により縫製を開始するまでの時間を短くすることができる。よって、ステッチ加飾部品STの生産性をより向上することができる。
【0101】
また、ステッチ加飾装置10では、縫製ユニット載置部40は、上下動可能に形成され、上昇位置20Aにて縫製ユニット20を載置し、下降位置20Bにて位置決めピン44を挿入可能である。そして、糸挿通部60は、縫製ユニット載置部40に対する位置決めピン44による位置決め状態にて、ユニット保持部210に装着された新たな糸係止部材ユニット1Uの糸係止部材1の糸係り部3に糸S1の他端側SBを挿通する。糸係止部材1への糸通し針610の挿通には、高い精度が必要である。一方、縫製ユニット載置部40へと載置された縫製ユニット20は、入替テーブル70の入替動作により、縫製ユニット載置部40に載置された状態にて微小なズレが生じるおそれがある。すなわち、縫製ユニット載置部40によって待機位置SR2にて精度の高い位置決めを行ったとしても、入替動作後、糸通し位置SR1での位置決め精度は低下してしまうおそれがある。ステッチ加飾装置10においては、縫製ユニット載置部40上に縫製ユニット20をある程度、移動可能に載置しつつ、糸通し位置SR1にて、高い精度で位置決めを行うことができる。よって、糸係止部材1への糸通し針610の挿通を、適切に行うことができる。
【0102】
<変形例>
上述した実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で変更することができる。例えば、上記の実施形態にて必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0103】
例えば、上記の実施形態では、糸通し領域SRの入替テーブル70上に2つの縫製ユニット載置部40を設け、一方を糸通し位置SR1に、他方が待機位置SR2に位置する構成について説明した。しかし、例えば、糸通し領域SRには、糸通し位置SR1のみを設けることとしてもよい。また例えば、糸通し領域SRには、糸通し位置SR1および待機位置SR2に加え、さらに追加で縫製ユニット載置部40が設けられていてもよい。そして、追加で設けられた縫製ユニット載置部40の位置にて、例えば、縫製ユニット20に対して糸通し以外の工程を行うこととしてもよい。また例えば、追加で縫製ユニット載置部40を設ける場合、その追加した縫製ユニット載置部40の位置でも、糸通しを行うこととしてもよい。すなわち、糸通し位置SR1を複数、設けることとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、基材表面に接着された表皮材の表面側から挿通する糸によってステッチ模様を縫製するステッチ加飾装置として利用できる。
【符号の説明】
【0105】
1 糸係止部材
1U 糸係止部材ユニット
2 抜け止め部
3 糸係り部
6 連結棒
10 ステッチ加飾装置
20 縫製ユニット
20A 上昇位置
20B 下降位置
30 縫製ユニット移動部
40 縫製ユニット載置部
44 位置決めピン
50 糸引き抜き部
60 糸挿通部
62 糸押込部
70 入替テーブル
210 ユニット保持部
220 係止部材挿入部
230 糸供給部
610 糸通し針
611 先端(糸通し針)
612 軸部
613 糸通し穴
630 糸通し針駆動部
640 糸通し針支持部
642 可動支持部
651 ガイド部
661 糸押し部材
661A 糸当接部
663 糸押し部材駆動部
HR 縫製領域
HZ 表皮材
HZ1 表面(表皮材)
KZ 基材
KZ1 表面(基材)
S1 糸
S2 縫い目
SA 一端側(糸)
SB 他端側(糸)
SH 挿通方向
SM ステッチ模様
SR 糸通し領域
SR1 糸通し位置
SR2 待機位置
ST ステッチ加飾部品(ステッチ加飾の対象物)