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特許7603281スプリングバック量予測方法、異形鉄筋の曲げ加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】スプリングバック量予測方法、異形鉄筋の曲げ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 7/00 20060101AFI20241213BHJP
   B21D 7/024 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B21D7/00 Z
B21D7/024 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021152602
(22)【出願日】2021-09-17
(65)【公開番号】P2023044532
(43)【公開日】2023-03-30
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】000223056
【氏名又は名称】東陽建設工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】松熊 郁甫
(72)【発明者】
【氏名】桧垣 智史
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-508674(JP,A)
【文献】特開昭52-99962(JP,A)
【文献】米国特許第4161110(US,A)
【文献】特開平7-54442(JP,A)
【文献】特開平6-288038(JP,A)
【文献】特開昭49-22720(JP,A)
【文献】特公昭52-21295(JP,B2)
【文献】特開昭61-82933(JP,A)
【文献】特開平6-190453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 7/00
B21D 7/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ加工の支点を構成する支点部材と、前記支点部材の周りを回動する力点部材を備える鉄筋曲げ装置を使用して、異形鉄筋の曲げ加工時のスプリングバック量を予測するスプリングバック量予測方法であって、
前記異形鉄筋を前記鉄筋曲げ装置に供給する鉄筋供給ステップと、
前記力点部材を回動させて供給された前記異形鉄筋を所定の曲げ加工角度に曲げ加工した後、前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除した状態で、前記異形鉄筋の曲げ角度を測定する第1曲げ角度測定ステップと、
前記力点部材の曲げ力が解除された鉄筋を、更に別の曲げ加工角度に曲げ加工した後、前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除した状態で、前記異形鉄筋の曲げ角度を測定する第2曲げ角度測定ステップと、
前記第2曲げ角度測定ステップを1回又は複数回実行した後に、前記第1曲げ角度測定ステップの測定結果と、前記第2曲げ角度測定ステップの測定結果とを利用して、前記曲げ加工角度とスプリングバック量との関係を予測するスプリングバック予測ステップと、
を備え、
前記第2曲げ角度測定ステップにおける前記別の曲げ加工角度は、直前に行った前記第1曲げ角度測定ステップにおける前記所定の曲げ加工角度、又は直前に行った前記第2曲げ角度測定ステップにおける前記別の曲げ加工角度より大きい角度である、
スプリングバック量予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスプリングバック量予測方法であって、
前記第1曲げ角度測定ステップにおける前記所定の曲げ加工角度、及び前記第2曲げ角度測定ステップにおける前記別の曲げ加工角度は、当該予測結果を利用して異形鉄筋の曲げ加工を行う際の目標曲げ角度に基づいて定める、
スプリングバック量予測方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスプリングバック量予測方法を利用する異形鉄筋の曲げ加工方法であって、
スプリングバック量の予測に使用した鉄筋曲げ装置を使用して、供給された異形鉄筋を、目標曲げ角度とスプリングバック量の予測結果に基づいて決定した、設定曲げ加工角度に曲げ加工する、
異形鉄筋の曲げ加工方法。
【請求項4】
請求項3に記載の異形鉄筋の曲げ加工方法であって、
スプリングバック量の予測に使用した異形鉄筋を、更に、前記設定曲げ加工角度まで曲げ加工する、
異形鉄筋の曲げ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異形鉄筋の曲げ加工時のスプリングバック量の予測方法、異形鉄筋の曲げ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材の曲げ加工時には、スプリングバックが発生することが知られており、スプリングバック量を考慮した加工を行うことが必要である。
【0003】
パイプ等の金属長尺部材の曲げ加工におけるスプリングバック量の予測を行う技術が記載されたものとして、特許文献1、2がある。
【0004】
特許文献1には、パイプ等の長尺部材スプリングバックパラメータを計算するために、テストパイプについて、一対の曲げ加工を行い、その結果の曲げ角を測定する点が記載されている。
【0005】
特許文献2には、管の曲げ加工に際して、異なる2回の試験曲げ加工を行った結果に基づいてスプリングバック量を予測する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-508674号公報
【文献】特開昭48-103067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の予測技術は、いずれも、曲げ対象が一様な部材であることを前提として、異なるテストパイプに対して、あるいは、較正用パイプの異なる箇所の曲げ箇所に対して曲げ加工を行った結果に基づいてスプリングバック量を予測するものである。しかし、異形鉄筋のように、軸方向、及び周方向の断面が一様ではない部材のスプリングバック量の予測に適用した場合、誤差が大きくなる。すなわち、異形鉄筋のように、軸方向、及び周方向の断面が一様ではない部材の曲げ加工においては、曲げ装置への取付態様、曲げ位置等により、曲げ加工の挙動が変化するので、異なる部材、あるいは、異なる箇所の曲げ結果を利用した場合には、誤差が大きくなる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、異形鉄筋の曲げ加工時のスプリングバック量を簡単に精度よく予測する予測方法、および、予測結果を使用した異形鉄筋の曲げ加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記手段により達成することができる。
〔1〕
曲げ加工の支点を構成する支点部材と、前記支点部材の周りを回動する力点部材を備える鉄筋曲げ装置を使用して、異形鉄筋の曲げ加工時のスプリングバック量を予測するスプリングバック量予測方法であって、
前記異形鉄筋を前記鉄筋曲げ装置に供給する鉄筋供給ステップと、
前記力点部材を回動させて供給された前記異形鉄筋を所定の曲げ加工角度に曲げ加工した後、前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除した状態で、前記異形鉄筋の曲げ角度を測定する第1曲げ角度測定ステップと、
前記力点部材の曲げ力が解除された鉄筋を、更に別の曲げ加工角度に曲げ加工した後、前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除した状態で、前記異形鉄筋の曲げ角度を測定する第2曲げ角度測定ステップと、
前記第2曲げ角度測定ステップを1回又は複数回実行した後に、前記第1曲げ角度測定ステップの測定結果と、前記第2曲げ角度測定ステップの測定結果とを利用して、前記曲げ加工角度とスプリングバック量との関係を予測するスプリングバック予測ステップと、
を備え、
前記第2曲げ角度測定ステップにおける前記別の曲げ加工角度は、直前に行った前記第1曲げ角度測定ステップにおける前記所定の曲げ加工角度、又は直前に行った前記第2曲げ角度測定ステップにおける前記別の曲げ加工角度より大きい角度である、スプリングバック量予測方法。
【0010】
〔2〕
〔1〕に記載のスプリングバック量予測方法であって、
前記第1曲げ角度測定ステップにおける前記所定の曲げ加工角度、及び前記第2曲げ角度測定ステップにおける前記別の曲げ加工角度は、当該予測結果を利用して異形鉄筋の曲げ加工を行う際の目標曲げ角度に基づいて定める、スプリングバック量予測方法。
【0011】
〔3〕
〔1〕又は〔2〕に記載のスプリングバック量予測方法を利用する異形鉄筋の曲げ加工方法であって、
スプリングバック量の予測に使用した鉄筋曲げ装置を使用して、供給された異形鉄筋を、目標曲げ角度とスプリングバック量の予測結果に基づいて決定した、設定曲げ加工角度に曲げ加工する、異形鉄筋の曲げ加工方法。
【0012】
〔4〕
〔3〕に記載の異形鉄筋の曲げ加工方法であって、
スプリングバック量の予測に使用した異形鉄筋を、更に、前記設定曲げ加工角度まで曲げ加工する、異形鉄筋の曲げ加工方法。
【発明の効果】
【0013】
〔1〕のスプリングバック量予測方法によれば、異形鉄筋の曲げ加工時のスプリングバック量を簡単に精度よく予測する予測方法を提供することができる。
【0014】
〔2〕のスプリングバック量予測方法によれば、スプリングバック量の予測において、曲げ角度測定ステップの曲げ加工角度の設定を、目標曲げ角度を基準にすることで、目標曲げ角度に適した所定角度間隔になるよう振り分けることができ、スプリングバック量の予測のための最適な曲げ加工角度の選択が可能となる。
【0015】
〔3〕の異形鉄筋の曲げ加工方法によれば、スプリングバック量予測結果を使用することにより、誤差の少ない異形鉄筋の曲げ加工方法を提供することができる。
すなわち、曲げ加工の実機をスプリングバック量の予測に使用した鉄筋曲げ装置として使用することで、予測数値の誤差を小さくすることができ、この結果、スプリングバック量の極めて正確な予測ができるので、異形鉄筋を極めて正確な目標曲げ角度に曲げることができる。
【0016】
〔4〕の異形鉄筋の曲げ加工方法によれば、異形鉄筋を曲げ加工する際に、その目標曲げ角度におけるスプリングバック量は、曲げ加工する鉄筋自身のスプリングバック量の測定に基づくデータであるので、極めて正確な予測で設定曲げ加工角度を決定でき、極めて正確曲げ加工が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のスプリングバック量予測方法に用いる鉄筋曲げ装置の一例の要部斜視図である。
図2】鉄筋曲げ装置の制御系を示すブロック図である。
図3】本発明の加工対象である異形鉄筋の一例を示す拡大図であって、(a)は、異形鉄筋の外面及び軸方向の断面を示す部分断面図であり、(b)は、(a)におけるA-A断面図である。
図4】スプリングバック量予測方法のフローチャートである。
図5】スプリングバック量予測方法において、各ステップでの鉄筋の曲り状態を示す鉄筋曲げ装置の概略平面図である。
図6】力点部材の回転角度とスプリングバック量(角度)の関係を示すグラフである。
図7】スプリングバック量予測方法を用いた鉄筋の曲げ加工方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のスプリングバック量予測方法、異形鉄筋の曲げ加工方法について、図1図7を参照して説明する。
【0019】
図1には、本発明のスプリングバック量予測方法に用いる鉄筋曲げ装置の一例の要部斜視図を示す。
図1に示す鉄筋曲げ装置1は、鉄筋を曲げ加工する装置である。図1の例では、異形鉄筋30(以下、単に、「鉄筋30」という)を曲げ加工する場合を示している。鉄筋曲げ装置1は、曲げ加工に際して曲げる方向を特定する基準平面を構成する平坦な基準面部5と、基準面部5上において曲げ加工の支点を構成する支点部材10と、支点部材10の周りを基準面部5に沿うように旋回する力点部材20と、基準面部5上において鉄筋30の一端を動かないように保持する端部保持部6と、鉄筋の曲り具合を撮影可能な撮影装置15と、装置全体を制御する制御部2等を備えている。
【0020】
力点部材20は、基準面部5に直交する軸線VLの方向に延出された旋回駆動軸20aに回転可能に設けられたローラ部材にて構成されており、このローラ部材の外周面が鉄筋30に当接して当該鉄筋30に曲げ力を付与する。また、旋回駆動軸20aは、ステッピングモータを用いた駆動系にて駆動され、制御部2を介して旋回角度を正確に制御できるように構成されている。
【0021】
撮影装置15は、鉄筋30の曲げ角度を検出するためのものである。例えば、角度の測定は、撮影装置15にて撮影した動画に基づいたデジタル画像相関法により曲げ角度を求める。そして、この鉄筋曲げ装置1を用いて、鉄筋30を所定角度曲げたときに曲げ角度が戻る量、所謂、スプリングバック量(Δθ)を後述するように測定することができる。
【0022】
図2には、鉄筋曲げ装置1の制御系のブロック図を示す。
鉄筋曲げ装置1は、その制御においては、特に制限するものではないが、例えば、図2に示すような構成とすることができる。制御部2には、カメラ等を備える撮影装置15により撮影した画像(動画)のデータが供給され、この画像データがスプリングバック量の測定に利用される。また、記憶部4は、曲げ加工に必要な各種データ、測定データ等を記憶して装置制御に利用する。操作部18は、曲げ加工に必要な各種データの入力や装置動作に必要な情報の入力や動作指示を行なう。また、旋回駆動部8は、制御部2により制御される力点部材20を旋回させる旋回駆動軸20aの旋回位置を制御し、旋回角度を正確に制御する。
【0023】
図3には、本発明の加工対象である鉄筋30の一例を示す拡大図であって、(a)は、鉄筋30の外面及び軸方向の断面を示す部分断面図を示し、(b)は、(a)におけるA-A断面図を示す。
本実施形態において曲げ加工に使用する鉄筋30は、鉄筋表面30sに、例えば、図3(a)に示すように、鉄筋長手方向に形成された2本のリブ31と、鉄筋円周方向にリブ31間に形成された多数のフシ32と、によって凹凸が形成された形状である。2本のリブ31は、図3(b)に示すように、鉄筋円周方向に180度離れて設けられている。また、フシ32は、鉄筋円周方向において若干傾斜するように設けられ、更にリブ31を挟んで軸方向に交互にずれた位置に設けられている。また、リブ31は、図3の例ではフシ32よりも高く形成されているが、同じ高さでもよく、リブ31の部分が、鉄筋30の最外径Dを構成している。
【0024】
以下、図4及び図5を参照して、鉄筋30のスプリングバック量予測方法について説明する。図4には、スプリングバック量予測方法のフローチャートを示し、図5には、スプリングバック量予測方法において、各ステップでの鉄筋の曲り状態を示す鉄筋曲げ装置の概略平面図を示す。
【0025】
なお、力点部材20の回動角度(図中において時計回り方向の鉄筋30の回動角度)については、図5に示すように、鉄筋30が直線状態(図示の状態)の基準線DLと曲げられた部分の直線BLの成す回転角度(θ)を示す。
【0026】
ここで、撮影装置15のカメラは、基準面部5に直交する方向から撮影している。すなわち、撮影装置15の配置は、鉄筋30の基準線DLと曲げられた鉄筋30の部分の直線BLとが正確に測定できる配置となっている。
【0027】
先ず、スプリングバック量予測方法について概略を説明する。
スプリングバック量予測方法においては、図4に示すように、鉄筋曲げ装置1に鉄筋30をセットする鉄筋供給ステップS1、次に、鉄筋30を最初に曲げ加工を行った角度でのスプリングバック量を測定する第1曲げ角度測定ステップS2、その次に、より大きい角度まで曲げ加工を行った角度の位置でのスプリングバック量を測定する第2曲げ角度測定ステップS3、更に、第1、及び第2曲げ角度測定ステップ(S2,S3)の測定結果を用いて、曲げ加工角度とスプリングバック量との関係を予測するスプリングバック予測ステップS4、を実施する。
【0028】
スプリングバック量予測方法の各ステップについて、図5を参照してより具体的に説明する。
先ず、鉄筋供給ステップS1を実施する。この鉄筋供給ステップS1は、図5に示すように、鉄筋30を、鉄筋曲げ装置1の所定の位置にセットする。これは、鉄筋30の側面を支点部材10に接する(略接する)ようにすると共に、端部保持部6にて鉄筋30を基準面部5上に位置決め・固定する。
【0029】
なお、鉄筋30のセット向きは、特に、図3に示した形状の場合、リブ31が基準面部5に直交する方向に並ぶ向きにセットする。これは、この鉄筋30の最外径Dが鉄筋表面30sの部分に比べて比較的大きく構成されている場合、最外径D(図3参照)の部分と交差する方向に曲げ加工することで、鉄筋30の捻れを回避する。したがって、リブ31のような部分が無い鉄筋30においては、セットの向きは特に制限するものではない。
【0030】
次に、第1曲げ角度測定ステップS2を実施する。この第1曲げ角度測定ステップS2は、図5に示すように、力点部材20を回転させ、鉄筋30を所定の曲げ加工角度(θ1=90度)まで曲げる。その後、力点部材20を逆方向(反時計回りの方向)に若干回転させ、鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を解除する。この曲げ力の解除状態で、鉄筋30の曲げ角度を測定し、θ1の状態から曲げ角度が戻るスプリングバック量(Δθ1)を測定する。なお、逆方向の回転の量は、特に特定するものではなく、スプリングバック量が測定できる程度であればよい。
【0031】
次に、第2曲げ角度測定ステップS3を実施する。この第2曲げ角度測定ステップS3は、力点部材20の曲げ力が解除された鉄筋30に対して、図5に示すように、再び力点部材20を時計回りの方向に回動させて、次の曲げ加工角度(θ2=120度)まで曲げる。その後、力点部材20を逆方向に若干回転させて鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を再度解除する。この曲げ力の解除状態で、鉄筋30の曲げ角度を測定し、θ2の状態から曲げ角度が戻るスプリングバック量(Δθ2)を測定する。
【0032】
次に、2回目の第2曲げ角度測定ステップS3を実施する。この2回目の第2曲げ角度測定ステップS3は、1回目よりも大きい角度で実施する。この場合も、力点部材20の曲げ力が解除された鉄筋30に対して、再び力点部材20を時計回りの方向に曲げ加工角度(θ3=150度)まで回動させてから、力点部材20を逆方向に回転させて鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を、再度解除する。この曲げ力の解除状態で、鉄筋30の曲げ角度を測定し、θ3の状態から曲げ角度が戻るスプリングバック量(Δθ3)を測定する。
【0033】
次に、3回目の第2曲げ角度測定ステップS3を実施する。この3回目の第2曲げ角度測定ステップS3は、更に大きい角度で実施する。この場合も、力点部材20の曲げ力が解除された鉄筋30に対して、再び力点部材20を時計回りの方向に曲げ加工角度(θ4=180度)まで回動させてから、力点部材20を逆方向に回転させて鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を再度解除する。この曲げ力の解除状態で、鉄筋30の曲げ角度を測定し、θ4の状態から曲げ角度が戻るスプリングバック量(Δθ4)を測定する。
【0034】
次に、スプリングバック予測ステップS4を実施する。このスプリングバック予測ステップS4は、前掲の90度(θ1)、120度(θ2)、150度(θ3)、及び180度(θ4)の各曲げ加工角度におけるスプリングバック量(Δθ)の測定結果を利用する工程である。すなわち、測定結果に基づいて、所定角度におけるスプリングバック量(Δθ)を予測することができる。
【0035】
ここで、スプリングバック量(Δθ)の予測について実験データに基づいて説明する。なお、図6には、力点部材の回転角度とスプリングバック量(角度)の関係をグラフで示す。
【0036】
前掲の第1曲げ角度測定ステップS2及び第2曲げ角度測定ステップS3の測定で得られたデータは、例えば、図6のグラフに示すように表わされる。このグラフは、縦軸にスプリングバック量(Δθ)を、横軸に力点部材20の回転角度(鉄筋30の曲げ加工角度θ)を示す。このグラフから判るように、スプリングバック量(Δθ)は、曲げ加工角度θとの関係が、θ=f(θ)として関係式を定義できることを示している。この関係式が、従来技術に示されるように、一様な部材についての異なる試料、あるいは同一試料の異なる箇所の曲げ結果を利用した場合と同様に一次式であるとすると、Δθ=aθ+bで表わされる。なお、鉄筋30の太さや形状が異なる場合には、グラフの傾斜角度(係数a)及び定数bが異なる関数として表わされる。
【0037】
図6に示した例では、第2曲げ角度測定ステップS3を3回行ったが、少なくとも1回行えばよい。また、第1曲げ角度測定ステップにおける所定の曲げ角度を90度(θ1)、第2曲げ角度測定ステップにおける別の曲げ角度を、120度(θ2)、150度(θ3)、及び180度(θ4)とした時の測定結果に基づいて、曲げ加工角度とスプリングバック量との関係を予測したが、所定の曲げ角度、及び別の曲げ角度は上記した値に限らない。例えば、後述する曲げ加工における目標曲げ角度θsに応じて、適宜選択できる。
【0038】
例えば、最終的な曲げ角度である目標曲げ角度θsが90度である場合、図6に示した例のように、180度まで曲げ加工して予測を行う必要はなく、曲げ加工角度が0度から90度までの適宜の角度における複数の角度での曲げ加工時のスプリングバック量を測定すればよい。すなわち、スプリングバック量の予測に続いて、予測に利用した鉄筋と同種類の鉄筋の曲げ加工を行う場合の目標曲げ角度に基づいて、第1曲げ角度測定ステップにおける所定の曲げ角度、及び第2曲げ角度測定ステップにおける別の曲げ角度を定めればよい。また、第1曲げ角度測定ステップにおける所定の曲げ角度、及び第2曲げ角度測定ステップにおける別の曲げ角度を定めるに際しては、適宜分散した角度に定めるのが好ましい。
【0039】
以下、前掲のスプリングバック量予測方法を利用した鉄筋30の曲げ加工方法について、説明する。図7には、スプリングバック量予測方法を用いた鉄筋の曲げ加工方法の一例のフローチャートを示す。図7に示す曲げ加工は、図4に示す予測方法に利用した曲げ加工箇所を、目標曲げ角度θsに曲げ加工する場合の例である。
【0040】
図7に示すように、鉄筋30の曲げ加工方法を実施するに当って、鉄筋30を鉄筋曲げ装置1にセットして、鉄筋供給ステップS1からスプリングバック予測ステップS4までの工程を実施する。このスプリングバック予測ステップS4まで工程を実施し後に、この予測データを使用して、同じ鉄筋曲げ装置1によって実加工ステップS5に移行する。
【0041】
図6に示す測定結果に基づいて予測した後に、更に曲げ加工して所定の角度、例えば200度に曲げ加工する場合、上記測定結果から求めた一次関数を利用し、θt-△θt=200となる角度θtまで力点部材20を回転させて曲げ加工する。すなわち、θt=(200+b)/(1-a)まで力点部材を回転させると、スプリングバック量(Δθt)だけもどるので、最終的な曲げ角度(目標曲げ角度θs)が200度となる。
【0042】
このように、図7に示す曲げ加工方法は、実際の曲げ加工を行う鉄筋30を鉄筋曲げ装置1にセットし、スプリングバック量予測のための両角度測定ステップS2、S3を実施してデータを取得し、最終曲げ角度までの僅かな時間の間に演算(ステップS4)を実施して、設定曲げ加工角度に加工するものである。すなわち、力点部材20の最終旋回角度を、予測したスプリングバック量に基づいて求めた曲げ加工角度まで旋回させて、目標曲げ角度θsの製品を得るものである。
【0043】
スプリングバック量の予測に利用した鉄筋の、別の箇所の曲げ加工、及びスプリングバック量の予測に利用した鉄筋とその材質、サイズ並びに形状が同じである同種の鉄筋の曲げ加工に際しては、曲げ状態の再現性が保たれる場合には、曲げ加工箇所毎に、スプリングバック量の予測を行わないようにすることもできる。すなわち、最初にセットした鉄筋によりスプリングバック予測ステップS4までの工程を実施して、曲げ加工角度とスプリングバック量との関係を鉄筋曲げ装置1に記憶させておく。そして、この記憶データを基に、その後の多数の曲げ加工を実施する。この場合、鉄筋の鉄筋製造メーカ、製造ロットが同じ場合には、同種鉄筋に対して最初の予測結果に基づいて、誤差の少ない曲げ加工を行なうことができる。一方、製造ロットが変わったり、鉄筋の製造メーカが変わったりした場合等は、スプリングバック予測を行うことが好ましい。
【0044】
このように、本実施形態のスプリングバック量予測方法においては、鉄筋30を鉄筋曲げ装置1に供給し曲げ加工の支点部材10を中心に力点部材20にて曲げるときに、鉄筋30の曲げ加工時に力点部材20による曲げ力を解除し、その時の当該鉄筋30のスプリングバック量(Δθ)を測定する曲げ角度測定ステップを、同じ部位で異なる曲げ加工角度にて複数回行う。この複数回のスプリングバック量の測定結果に基づいて、特定の曲げ加工角度における当該鉄筋30のスプリングバック量(Δθ)を予測するので、測定がし易く、特定の曲げ加工角度におけるスプリングバック量を、迅速かつ精度よく予測することができる。この結果、鉄筋曲げ加工におけるスプリングバック量の予測のための作業検討時間が必要なくなり、短時間かつ迅速な鉄筋曲げ加工が可能になる。
【0045】
また、スプリングバック量(Δθ)の予測において、曲げ角度測定ステップの測定角度、すなわち曲げ加工角度の設定を、目標曲げ角度θsを基準にすることで、目標曲げ角度θsに適した角度になるよう振り分けることができ、スプリングバック量の正確な予測のための最適な角度の選択が可能となる。
【0046】
本実施形態のスプリングバック量予測方法においては、鉄筋30の曲げ加工角度の測定は、曲げ加工の基準面部5に直交する方向から撮影した画像を利用するので、二次元画像として角度データ(位置変位データ)を取ることができて演算が容易となり、スプリングバック量予測処理の高速化を可能にする。
【0047】
また、本実施形態のスプリングバック量予測方法においては、第2曲げ角度測定ステップS3の実行回数を特定するものではないが、2回以上実行することで、3回以上のスプリングバック量の測定を行ない、これによって、より多くの測定データに基づいた正確な予測が可能になる。
【0048】
また、本実施形態の曲げ加工方法においては、曲げ加工の実機をスプリングバック量の予測に使用した鉄筋曲げ装置1と実際の生産に使用する鉄筋曲げ装置1とが同じであるので、予測数値の誤差を小さくすることができる。この結果、スプリングバック量の極めて正確な予測ができ、鉄筋30を極めて正確な目標曲げ角度θsに曲げることができる。また、曲げ加工を行なう実際の装置の他にテスト用の装置が必要なくなり、設備の節約ができる。
【0049】
また、本実施形態の曲げ加工方法では、鉄筋30を曲げ加工する際に、曲げ加工する鉄筋自身のスプリングバック量の測定値に基づくスプリングバック量を予測しているので、極めて正確な曲げ加工を可能にする。
【0050】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、本発明の範疇において適宜変更することができる。
【0051】
また、前掲の実施形態においては、図3に示す鉄筋30の形状の場合について説明したが、リブ31やフシ32等による凹凸形状は、他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 鉄筋曲げ装置
5 基準面部(基準平面)
10 支点部材
15 撮影装置
20 力点部材
30 鉄筋(異形鉄筋)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7