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特許7603290ケーブルクレーン、運転方法及び構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】ケーブルクレーン、運転方法及び構築方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 21/00 20060101AFI20241213BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B66C21/00 F
B66C21/00 B
B66C13/22 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023174904
(22)【出願日】2023-10-10
【審査請求日】2024-09-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520183184
【氏名又は名称】株式会社アルファナビゲーション
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】戸田 泰彰
(72)【発明者】
【氏名】井上 洸也
(72)【発明者】
【氏名】梅木 清文
(72)【発明者】
【氏名】赤木 晃
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-154200(JP,A)
【文献】特開2004-131205(JP,A)
【文献】特開平11-035280(JP,A)
【文献】特開平07-315762(JP,A)
【文献】特開2001-163576(JP,A)
【文献】特開2000-026072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 21/00
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山の間の谷の上方において前記山の間に架け渡された主索と、
前記主索に沿って移動するよう前記主索に設置される横行トロリーと、
前記横行トロリーを駆動する第1駆動装置と、
前記横行トロリーから懸下された昇降可能な吊り具と、
前記吊り具を昇降させるよう前記吊り具を駆動する第2駆動装置と、
御装置と、
を備え
前記横行トロリーが前記山に向かって戻る際に、前記制御装置が前記第1駆動装置を制御することによって前記横行トロリーに等速運動させた後に、前記制御装置が前記第1駆動装置を制御することによって前記横行トロリーを減速させ、前記制御装置が前記第2駆動装置を制御することによって前記横行トロリーの減速時に同期して前記吊り具を上昇させる
ケーブルクレーン。
【請求項2】
前記横行トロリーの等速運動中、前記制御装置が前記第2駆動装置を停止させて前記吊り具を停止させる
請求項に記載のケーブルクレーン。
【請求項3】
山の間の谷の上方において前記山の間に架け渡された主索と、
前記主索に沿って移動するよう前記主索に設置される横行トロリーと、
前記横行トロリーから懸下された昇降可能な吊り具と、を備えるケーブルクレーンの運転方法であって、
記横行トロリーを前記山に向かって戻す戻し工程と、
前記戻し工程中に、前記横行トロリーに等速運動させる等速運動工程と、
前記戻し工程中の前記等速運動工程後に、前記横行トロリーを減速させ、前記横行トロリーの減速時に同期して前記吊り具を上昇させる減速工程
を含む運転方法。
【請求項4】
前記横行トロリーの等速運動中に前記吊り具を停止させる工程
を含む請求項に記載の運転方法。
【請求項5】
山の間の谷の上方において前記山の間に架け渡された主索と、
前記主索に沿って移動するよう前記主索に設置される横行トロリーと、
前記横行トロリーから懸下された昇降可能な吊り具と、を備えるケーブルクレーンを用いてコンクリート構造物を前記谷に構築する構築方法であって、
前記山にてコンクリートを前記吊り具に積む積み工程と、
前記積み工程後に、前記横行トロリーを前記山から前記谷の上に向かって移動させることによって前記コンクリートを運搬する運搬工程と、
前記運搬工程後に、前記吊り具から前記谷に前記コンクリートを投下する投下工程と、
前記投下工程後に、前記横行トロリーを前記谷の上から前記山に戻す戻し工程と、を含み、
前記戻し工程中に、前記横行トロリーに等速運動させた後に前記横行トロリーを減速させ、前記横行トロリーの減速時に同期して前記吊り具を上昇させる
構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示の技術は、ケーブルクレーン、運転方法及び構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、山の間に架設されるケーブルクレーンは、谷間にダム堤体等のコンクリート構造物を施工するために用いられる。ケーブルクレーンは、主索、牽引ケーブル、横行トロリー及びバケットなどを備える。主索は山の間に架け渡され、横行トロリーは主索に設置され、バケットは横行トロリーから吊り下げられ、そのバケットにはコンクリートが積み込まれる。横行トロリーが牽引ケーブルによって牽引されることによって、横行トロリーが主索に沿って山から谷へ走行し、バケットが谷の上で横行トロリーから下降する。これにより、コンクリートが谷へ運搬される。その後、新たなコンクリートの積み込みのために、横行トロリーが山へ戻るとともに、バケットが上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-154200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
横行トロリーの走行中に横行トロリーが減速すると、牽引ケーブル及び主索の張力が変化するため、横行トロリー及びバケットが上下方向に揺れてしまう。
そこで、本明細書で開示の技術は、横行トロリー及びバケットの上下方向の揺れを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書は、ケーブルクレーンを開示する。ケーブルクレーンは、主索、横行トロリー、第1駆動装置、吊り具、第2駆動装置及び制御装置を備える。前記主索は、山の間の谷の上方において前記山の間に架け渡される。前記横行トロリーは、前記主索に沿って移動するよう前記主索に設置される。前記第1駆動装置は、前記横行トロリーを駆動する。前記吊り具は、前記横行トロリーから懸下され、昇降可能である。前記第2駆動装置は、前記吊り具を昇降させるよう前記吊り具を駆動する。前記制御装置は、前記第1駆動装置を制御することによって前記横行トロリーを減速させ、前記第2駆動装置を制御することによって前記横行トロリーの減速時に同期して前記吊り具を上昇させる。
【0006】
前記横行トロリーが前記山に向かって戻る際に、前記制御装置が前記第1駆動装置を制御することによって前記横行トロリーに等速運動させた後に、前記制御装置が前記横行トロリーの減速時と前記吊り具の上昇時を同期させてもよい。
【0007】
前記横行トロリーの等速運動中、前記制御装置が前記第2駆動装置を停止させて前記吊り具を停止させてもよい。
【0008】
本明細書は、ケーブルクレーンの運転方法を開示する。前記ケーブルクレーンは、主索、横行トロリー及び吊り具を備える。前記主索は、山の間の谷の上方において前記山の間に架け渡される。前記横行トロリーは、前記主索に沿って移動するよう前記主索に設置される。前記吊り具は、前記横行トロリーから懸下され、昇降可能である。前記運転方法は、前記横行トロリーを減速させ、前記横行トロリーの減速時に同期して前記吊り具を上昇させる減速工程を含む。
【0009】
前記運転方法は、前記横行トロリーを前記山に向かって戻す戻し工程と、前記戻し工程中に、前記横行トロリーに等速運動させる等速運動工程と、を含んでもよい。前記減速工程は、前記等速運動工程に引き続いて実施される。
【0010】
前記運転方法は、前記横行トロリーの等速運動中に前記吊り具を停止させる工程を含んでもよい。
【0011】
本明細書は、ケーブルクレーンを用いて谷にコンクリート構造物を構築する構築方法を開示する。前記ケーブルクレーンは、主索、横行トロリー及び吊り具を備える。前記主索は、山の間の前記谷の上方において前記山の間に架け渡される。前記横行トロリーは、前記主索に沿って移動するよう前記主索に設置される。前記吊り具は、前記横行トロリーから懸下された昇降可能である。前記構築方法は、積み工程、運搬工程、投下工程及び戻し工程を含む。前記積み工程は、前記山にてコンクリートを前記吊り具に積む工程である。前記運搬工程は、前記横行トロリーを前記山から前記谷の上に向かって移動させることによって前記コンクリートを運搬する工程である。前記投下工程は、前記運搬工程後に、前記吊り具から前記谷に前記コンクリートを投下する工程である。前記戻し工程は、前記投下工程後に、前記横行トロリーを前記谷の上から前記山に戻す工程である。前記戻し工程中に、前記横行トロリーを減速させ、前記横行トロリーの減速時に同期して前記吊り具を上昇させる。
【発明の効果】
【0012】
本明細書で開示の技術によれば、横行トロリー及び吊り具の上下方向の揺れを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、施工現場におけるケーブルクレーンの斜視図である。
図2図2は、ケーブルクレーンの横行トロリー及び吊り具の側面図である。
図3図3は、ケーブルクレーンのブロック図である。
図4図4は、吊り具の軌跡を示した図である。
図5図5は、横行トロリーの速度及び吊り具の上昇速度の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。実施形態の特徴及び技術的な効果は、以下の詳細な説明及び図面から理解される。ただし、本発明の範囲は、以下に開示された実施形態に限定されない。図面は例示のみのために提供されるため、本発明の範囲は図面の例示に限定されない。
【0015】
[1. 構築システムの概要]
図1は、構築システム1の斜視図である。
構築システム1は、山91と山92の間の谷93にダム堤体等のようなコンクリート構造物99を構築する。構築システム1は、コンクリート構造物99の構築のために、生コンクリート等のような資材を山91又は山92から谷93に運搬する。
【0016】
構築システム1は、コンクリート供給設備10及びケーブルクレーン20を備える。
【0017】
コンクリート供給設備10は、山92の中腹に構築されている。コンクリート供給設備10は、生コンクリートを製造するとともに、製造済みの生コンクリートをケーブルクレーン20に供給する。なお、コンクリート供給設備10と併せて、又は、コンクリート供給設備10の代わりに、別のコンクリート供給設備が山91の中腹に構築されてもよい。
【0018】
ケーブルクレーン20は、山91と山92の間に架設されている。ケーブルクレーン20は、コンクリート供給設備10から生コンクリートの供給を受けて、その生コンクリートを谷93へ運搬する。ケーブルクレーン20は、生コンクリート以外の資材を谷93へ運搬してもよい。ケーブルクレーン20は、山91から谷93へ資材を運搬してもよい。ケーブルクレーン20は、谷93において不要となった資材を谷93から山91又は山92に運搬してもよい。以下、ケーブルクレーン20によって運搬される生コンクリート又は資材などのような対象を吊り荷という。
【0019】
[2. コンクリート供給設備]
コンクリート供給設備10は、バッチャープラント11、バンカー軌道12及び運搬車13を備える。
【0020】
バッチャープラント11は、山92の中腹に構築されている。バッチャープラント11は、セメントと水と骨材を混練して、生コンクリートを製造する。
【0021】
バンカー軌道12は、山92の中腹において、バッチャープラント11から谷93に沿って敷設されている。
【0022】
運搬車13は、例えばトランスファーカー又はバケット台車によって構成される。運搬車13は、バンカー軌道12上をバンカー軌道12に沿って走行可能である。運搬車13は、次のような動作を繰り返し実行する。
まず、運搬車13は、バッチャープラント11において生コンクリートの供給を受けて、生コンクリートを積載する。運搬車13は、バッチャープラント11から積み場所P1までバンカー軌道12に沿って、生コンクリートを運搬する。次に、運搬車13は、積み場所P1において生コンクリートを後述の吊り具29に積み替える。次に、運搬車13は、生コンクリートを受け取りにバッチャープラント11に戻る。
【0023】
なお、積み場所P1は、バンカー軌道12沿い且つ後述の主索21の下方にある。つまり、バンカー軌道12及び主索21をそれらの上から見て、バンカー軌道12と主索21が交差する箇所が積み場所P1である。
【0024】
[3. ケーブルクレーン]
図1図3を参照して、ケーブルクレーン20について詳細に説明する。図2は、ケーブルクレーン20の横行トロリー22及び吊り具29の側面図である。図3は、ケーブルクレーン20のブロック図である。
【0025】
ケーブルクレーン20は、軌索式の中でも特に片側移動式のケーブルクレーンである。軌索式のケーブルクレーンとは、山91と山92の間に架設された主索21の片端又は両端が谷93に沿って移動するものをいう。片側移動式のケーブルクレーンとは、主索21の一方の端又は他方の端が谷93に沿って移動するものをいう。なお、ケーブルクレーン20は、軌索式の中でも両側移動式のケーブルクレーンであってもよいし、軌索式ではなく固定式のケーブルクレーンであってもよい。両側移動式のケーブルクレーンとは、主索21の両端が谷93に沿って移動するものをいう。固定式のケーブルクレーンとは、主索21の両端が移動せずに固定されているものをいう。
【0026】
ケーブルクレーン20は、主索21、横行トロリー22、第1ウインチ23、牽引ケーブル23a、第1の塔24、一対の第2の塔25、軌索26、走行トロリー27、第2ウインチ28、吊り具29、昇降ウインチ30、昇降用ケーブル30a、制御装置40及び操縦器41を備える。
【0027】
第1の塔24は主索塔ともいう。第1の塔24は、山91の中腹又は頂上に立てた状態に構築されている。
【0028】
第2の塔25は軌索塔ともいう。第2の塔25は、山92の頂上又は中腹に立てた状態に構築されている。第2の塔25の設置箇所がバッチャープラント11及びバンカー軌道12の設置箇所よりも高く、第2の塔25がバッチャープラント11及びバンカー軌道12よりも山92の頂上の近くに設置されている。2体の第2の塔25は、これらの間に間隔をおいて、谷93に沿って並んでいる。
【0029】
軌索26は、山92において谷93に沿って架設されている。より具体的には、軌索26の一端が一方の第2の塔25、特にその頂部に連結され、軌索26の他端が他方の第2の塔25、特にその頂部に連結され、軌索26がこれら第2の塔25の間に架け渡されている。
【0030】
走行トロリー27は、軌索26に支持されるとともに、軌索26上において軌索26に沿って走行可能に設けられている。走行トロリー27が走行用牽引ケーブルに連結され、走行用牽引ケーブルが第2ウインチ28に巻き掛けられている。
【0031】
第2ウインチ28は、山92に設置されている。より具体的には、第2ウインチ28は、その山92上の機械室82内に設置されている。第2ウインチ28は、走行用牽引ケーブルの巻き取り・繰り出しにより走行用牽引ケーブルに張力を与えることによって、走行トロリー27を軌索26に沿って走行させるよう走行トロリー27を牽引する。第2ウインチ28は、走行用牽引ケーブルが巻き掛けられるドラムと、そのドラムを駆動するモーターと、を有する。なお、走行トロリー27が牽引式ではなく、自走式であってもよい。自走式とは、モーターが走行トロリー27に設けられ、走行トロリー27がモーターの動力によって走行するものをいう。
【0032】
主索21は、谷93の上方において、山91と山92との間に架け渡されている。より具体的には、主索21の一端が山91において第1の塔24、特にその頂部に連結され、主索21の他端が山92において走行トロリー27に連結され、主索21が第1の塔24と走行トロリー27との間に架け渡されている。
【0033】
なお、ケーブルクレーン20が固定式である場合、1体の第2の塔25が山92の頂上又は中腹に立てた状態に構築され、主索21が第1の塔24と第2の塔25との間に架け渡されている。ケーブルクレーン20が両側移動式である場合、2体の第1の塔24が山91の頂上又は中腹に立てた状態に構築され、軌索が2体の第1の塔24の間に架け渡され、第2走行トロリーがその軌索に沿って走行し、主索21が第2走行トロリーと走行トロリー27との間に架け渡されている。
【0034】
横行トロリー22は、主索21に支持されているとともに、主索21上において主索21に沿って走行可能に設けられている。横行トロリー22の重量は主索21を撓ませる。
【0035】
牽引ケーブル23aは、主索21に沿って、第1の塔24の頂部と走行トロリー27との間に架け渡されている。牽引ケーブル23aは、山91において第1ウインチ23に巻き掛けられて、第1ウインチ23から第1の塔24の頂部を通って横行トロリー22の方へ折り返されて、横行トロリー22に連結されている。牽引ケーブル23aは、山92において滑車に巻き掛けられて、滑車から走行トロリー27を通って横行トロリー22の方へ折り返されて、横行トロリー22に連結されている。
【0036】
第1ウインチ23は第1駆動装置である。第1ウインチ23は、山91に設置されている。より具体的には、第1ウインチ23は、その山91上の機械室81内に設置されている。第1ウインチ23は、牽引ケーブル23aの巻き取り・繰り出しにより牽引ケーブル23aに張力を与えることによって、横行トロリー22を主索21に沿って走行させるよう横行トロリー22を牽引する。第1ウインチ23は、牽引ケーブル23aが巻き掛けられるドラムと、そのドラムを駆動するモーターと、を有する。モーターは、ブレーキ付きモーターであってもよい。なお、横行トロリー22が牽引式ではなく、自走式であってもよい。自走式とは、駆動装置としてのモーターが横行トロリー22に設けられ、横行トロリー22がモーターの動力によって走行するものをいう。
【0037】
吊り具29は、昇降用ケーブル30aによって横行トロリー22から吊り下げられているとともに、吊り荷を保持する。吊り具29は、その昇降用ケーブル30aを介して昇降ウインチ30に連結されている。
【0038】
吊り具29は、ブロック29a及びバケット29bを有する。ブロック29aは、昇降用ケーブル30aが巻き掛けられる動滑車を有する。バケット29bは、ブロック29aから懸下されている。バケット29bは、吊り荷、特にコンクリートを収容して保持する。バケット29bは、遠隔操縦により開閉する開閉器29cを底に有する。開閉器29cが閉じると、吊り荷がバケット29b内に保持され、開閉器29cが開くと、吊り荷がバケット29bから投下される。
【0039】
昇降用ケーブル30aは、昇降ウインチ30に巻回されている。昇降用ケーブル30aは、昇降ウインチ30から繰り出されて、順に第1の塔24の頂部の滑車、横行トロリー22の第1滑車、ブロック29aの動滑車及び横行トロリー22の第2滑車を経由して、走行トロリー27まで配索されている。
【0040】
昇降ウインチ30は第2駆動装置である。昇降ウインチ30は、山91に、より具体的には機械室81内に設置されている。昇降ウインチ30は、昇降用ケーブル30aが巻回されるドラムと、そのドラムを駆動するモーターと、を有する。昇降ウインチ30は、昇降用ケーブル30aを巻き取ることによって、吊り具29を上昇させる。昇降ウインチ30は、昇降用ケーブル30aを繰り出すことによって、吊り具29を下降させる。
【0041】
制御装置40及び操縦器41は、施工現場全体、つまり谷93全体を俯瞰できる場所、例えば山91,92の中腹又は頂上の管理室に設置されている。制御装置40は、コンピューター及び各種の電気回路を有する。
【0042】
制御装置40は、有線又は無線によりウインチ23,28,30及び開閉器29cのドライブ回路に接続され、ドライブ回路を通じてウインチ23,28,30及び開閉器29cを制御する。制御装置40が第1ウインチ23を制御することによって、横行トロリー22が主索21に沿って移動するとともに、横行トロリー22の移動速度及び加速度が制御される。制御装置40が第2ウインチ28を制御することによって、主索21の端及び走行トロリー27が軌索26に沿って移動する。制御装置40が昇降ウインチ30を制御することによって、吊り具29が昇降する。制御装置40が開閉器29cを制御することによって、開閉器29cが開閉する。
【0043】
なお、制御装置40による第1ウインチ23の制御は、開ループ制御と閉ループ制御のどちらであってもよい。開ループ制御とは、制御装置40が第1ウインチ23の回転速度及び回転加速度等を監視することなく、第1ウインチ23の回転速度及び回転加速度を制御することをいう。閉ループ制御とは、制御装置40がロータリーエンコーダ等によって第1ウインチ23の回転速度及び回転加速度と横行トロリー22の位置等を監視しながら、第1ウインチ23の回転速度及び回転加速度を制御することをいう。制御装置40によるウインチ28,30の制御も、開ループ制御と閉ループ制御のどちらであってもよい。
【0044】
操縦器41は、ウインチ23,28,30及び開閉器29cを遠隔操作するために利用される。操縦器41は、操作レバー、足踏みペダル、ハンドル、押しボタン、ジョイスティック及びスイッチ等のような入力デバイスを有する。作業員が操縦器41に対して操作を行うと、操縦器41が操作内容に従った信号を制御装置40に出力し、制御装置40がその信号に従ってウインチ23,28,30及び開閉器29cを制御する。これにより、ウインチ23,28,30及び開閉器29cが遠隔操作される。なお、通常、ケーブルクレーン20は制御装置40によって自動運転され、作業員が操縦器41を用いてケーブルクレーン20を補助的に手動運転する。
【0045】
[4. ケーブルクレーンの動作、ケーブルクレーンの運転方法及びコンクリートの構築方法]
制御装置40がウインチ23,28,30及び開閉器29cを制御することに伴うケーブルクレーン20の動作について説明する。併せて、ケーブルクレーン20の運転方法について説明する。併せて、ケーブルクレーン20を用いて、コンクリート構造物99を構築する方法について説明する。
【0046】
以下の説明において、投下場所P2とは、生コンクリートがケーブルクレーン20によって運搬される目的地をいう。起点P3とは、積み場所P1から鉛直上方に向かって主索21と交差する箇所をいう。折り返し点P4とは、投下場所P2から鉛直直上に向かって主索21と交差する箇所をいう。
【0047】
(1) 積み場所の調整
制御装置40が第2ウインチ28を作動させることによって、走行トロリー27が軌索26に沿って移動する。これにより、主索21の端が軌索26に沿って変位し、積み場所P1の位置がバンカー軌道12に沿って調整される。走行トロリー27の移動の際にウインチによって主索21の巻き取り・繰り出しが行われることによって、主索21の長さ及び張力が走行トロリー27から第1の塔24までの距離に合わせて適切に調整されてもよい。
【0048】
(2) 吊り具の積み場所への移動
制御装置40が第1ウインチ23を作動させることによって、横行トロリー22が主索21に沿って山91及び走行トロリー27の方へ移動する。併せて、制御装置40が昇降ウインチ30を作動させることによって、吊り具29が下降する。そして、横行トロリー22が積み場所P1の上方にまで移動したら、制御装置40が第1ウインチ23を停止させる。更に、吊り具29が積み場所P1まで下降したら、制御装置40が昇降ウインチ30を停止させる。制御装置40が昇降ウインチ30を停止させるタイミングは、制御装置40が第1ウインチ23を停止させるタイミングと同時であってよい。
【0049】
この際、運搬車13が生コンクリートをバッチャープラント11から積み場所P1まで運搬する。
【0050】
(3) 積み工程
制御装置40が開閉器29cを制御することによって、開閉器29cが閉じる。そして、運搬車13が積み替え動作をすることによって、生コンクリートが運搬車13から吊り具29のバケット29bに積み替えられる。
【0051】
(4) 投下場所への生コンクリートの運搬工程
生コンクリートの積み替え後、制御装置40が第1ウインチ23の回転速度を漸増するよう第1ウインチ23を加速制御することによって、横行トロリー22が加速しながら起点P3から折り返し点P4の方へ移動する。
【0052】
横行トロリー22の移動開始と同時に、又は横行トロリー22の移動開始後に、制御装置40が昇降ウインチ30を作動させることによって、吊り具29が上昇する。
その後、吊り具29が横行トロリー22の近くまで上昇したら、制御装置40が昇降ウインチ30を停止させる。また、第1ウインチ23の回転速度が所定値に到達したら、制御装置40が第1ウインチ23の回転速度をその所定値に維持するため、横行トロリー22が等速運動する。
その後、制御装置40が昇降ウインチ30を作動させることによって、吊り具29が下降する。
【0053】
その後、横行トロリー22が折り返し点P4に到達する前に、制御装置40が第1ウインチ23を減速させるため、横行トロリー22の移動速度が低下する。横行トロリー22の減速により吊り具29が進行方向及びその逆方向に揺れる。制御装置40が吊り具29の揺れ角度に基づいて第1ウインチ23の減速度を調整してもよく、これにより吊り具29の揺れが減衰する。減速度とは、負の加速度の絶対値のことをいう。吊り具29の揺れ角度は例えば吊り具29に設けられた角度計、ジャイロセンサー又はGNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)型位置計測器などのようなセンサーによって計測され、制御装置40がセンサーの計測値に基づいて吊り具29の揺れ角度を即時的に認識する。
【0054】
その後、横行トロリー22が折り返し点P4に到達したら、制御装置40が第1ウインチ23を停止させるため、横行トロリー22が折り返し点P4で止まる。その時、制御装置40が昇降ウインチ30を停止させるため、吊り具29の下降が止まる。横行トロリー22が折り返し点P4に到達するまで、制御装置40が吊り具29の揺れ角度に基づいて第1ウインチ23の減速度を調整するため、吊り具29の下降が止まった時には吊り具29の揺れも止まり、吊り具29の位置が投下場所P2に決まる。
【0055】
(5) 投下工程
その後、制御装置40が開閉器29cを制御することによって、開閉器29cが開く。そのため、バケット29b内の生コンクリートがバケット29bからその下方へ投下される。なお、作業員が操縦器41を操作することによって、開閉器29cが開いてもよい。
【0056】
(6) 積み場所への吊り具の戻り工程
図4は、横行トロリー22が折り返し点P4から起点P3へ戻る際の吊り具29の軌跡を示した図である。
【0057】
生コンクリートの投下後、制御装置40が昇降ウインチ30を作動させることによって、吊り具29が上昇する。吊り具29の上昇距離が所定値に至った時に吊り具29が図に図示の位置P11に位置しており、その時には、制御装置40が第1ウインチ23の回転速度を漸増するよう第1ウインチ23を加速制御する。そのため、横行トロリー22が加速しながら折り返し点P4から起点P3の方へ移動する。横行トロリー22の加速中の横行トロリー22の加速度は一定であってもよいし、時間経過に伴って漸増してもよい。横行トロリー22の加速中も、制御装置40が昇降ウインチ30の作動を継続するため、吊り具29の上昇は継続されている。吊り具29の上昇中、制御装置40が昇降ウインチ30の回転速度を一定に制御してもよい。
【0058】
吊り具29の上昇中且つ横行トロリー22の移動中、第1ウインチ23の回転速度が所定値に到達したら、制御装置40が第1ウインチ23の回転速度を所定値に維持するよう第1ウインチ23を定速制御する。そのため、横行トロリー22が等速運動をする。なお、横行トロリー22が等速運動を開始した時には、吊り具29が図4に図示の位置P12に位置する。
【0059】
横行トロリー22の等速運動中に、吊り具29が所定高さまで上昇したら、制御装置40が昇降ウインチ30を停止させる。所定高さは、積み場所P1の高さよりも高い。なお、昇降ウインチ30が停止した時には、吊り具29が図4に図示の位置P13に位置する。
【0060】
吊り具29の高さが所定高さに保たれた状態で横行トロリー22が等速運動している最中に横行トロリー22が所定位置に至ったら、制御装置40が第1ウインチ23を減速させるため、図5に示すように横行トロリー22の移動速度が低下する。横行トロリー22の減速度は、一定であってもよいし、時間経過に伴って変化してもよい。なお、横行トロリー22が減速を開始した時には、吊り具29が図4に図示の位置P14に位置する。図5中、横行トロリー22が減速を開始した時の時刻は“t1”と示される。
【0061】
横行トロリー22が減速すると、主索21及び牽引ケーブル23aの張力が変化する。そのような張力の変化は、図2に示すように、横行トロリー22に上向きの荷重F1を発生させる。上向きの荷重F1は、横行トロリー22の上下方向の揺れの要因になってしまう。横行トロリー22の上下方向の揺れは、吊り具29の吊り上げによって解消される。
【0062】
具体的には、制御装置40が第1ウインチ23を減速させた時に制御装置40が昇降ウインチ30を作動させることによって、上向きの荷重F2が吊り具29に発生して、吊り具29が上昇する。吊り具29の上向き荷重F2は、下向きの反力R1を横行トロリー22に発生させる。その反力R1は、主索21及び牽引ケーブル23aの張力の変化に伴う上向きの荷重F1を相殺する。そのため、横行トロリー22の上下方向の揺れが発生しにくい。
【0063】
吊り具29の上昇中、制御装置40が、吊り具29の上昇速度、つまり昇降ウインチ30の回転速度を制御してもよい。例えば、図5に示すように、吊り具29の上昇速度が所定速度に至るまで制御装置40が吊り具29の上昇速度を等加速度的に増加させ、その後、制御装置40が吊り具29の上昇速度を所定速度に維持し、その後、制御装置40が吊り具29の上昇速度を等加速度的に低下させる。なお、吊り具29の上昇速度が等加速度的に変化するのではなく、吊り具29の上昇時の加速度が漸増又は漸減するよう吊り具29の上昇速度が変化してもよい。
【0064】
第1ウインチ23及び横行トロリー22の減速開始時から所定期間(例えば2秒)が経過すると、横行トロリー22の移動速度が等速運動時の速度の半値になる。その時、制御装置40が昇降ウインチ30を停止させるため、吊り具29の上昇が止まる。吊り具29の上昇が止まった時には、吊り具29が図4に図示の位置P15に位置する。図5中、吊り具29の上昇が止まった時の時刻は“t2”と示される。
【0065】
上述のような横行トロリー22の減速により吊り具29が進行方向及びその逆方向に揺れる。そのような揺れ防止のために、制御装置40が、吊り具29の上昇の停止後に、吊り具29の揺れ角度に基づいて第1ウインチ23の減速度を調整する。具体的には、制御装置40が、吊り具29に設けられたセンサーによって計測された吊り具29の揺れ角度に基づいて、第1ウインチ23の減速度を調整する。これにより、吊り具29の揺れが減衰する。
【0066】
第1ウインチ23の減速度の調整中に、制御装置40が昇降ウインチ30を作動させることによって、吊り具29が下降する。その後、横行トロリー22が起点P3に到達したら、制御装置40が第1ウインチ23を停止させるため、横行トロリー22が起点P3で止まる。その時、制御装置40が昇降ウインチ30を停止させるため、吊り具29の下降が止まる。横行トロリー22が起点P3に到達するまで、制御装置40が吊り具29の揺れ角度に基づいて第1ウインチ23の減速度を調整するため、吊り具29の下降が止まった時には吊り具29の揺れも止まり、吊り具29の位置が積み場所P1に決まる。
【0067】
以後、上述のような「(3) 積み工程」、「(4) 投下場所への生コンクリートの運搬工程」、「(5) 投下工程」及び「(6) 積み場所への吊り具の戻り工程」が繰り返されることによって、生コンクリートが次々に谷93に運搬されて投下される。
【0068】
[5. まとめ]
上述の説明のように、横行トロリー22が折り返し点P4から起点P3に戻る工程において、吊り具29が止まった状態で横行トロリー22が等速運動するのに引き続いて、横行トロリー22が減速する。横行トロリー22の減速時に同期して吊り具29が上昇する。吊り具29の上昇は、下向きの反力R1を横行トロリー22に発生させる。その反力R1は、横行トロリー22の減速時に横行トロリー22に生じる上向きの荷重F1を相殺する。そのため、横行トロリー22及び吊り具29の上下方向の揺れが抑えられる。吊り具29が積み場所P1に到達した時にも、吊り具29が上下方向に揺れていないため、吊り具29が周囲の物及び地面に衝突しない。吊り具29が積み場所P1に到達した時から速やかに生コンクリートを吊り具29のバケット29bに積める。1回当たりのコンクリートの打設サイクルが短く、コンクリート構造物99の構築工期の短期化も実現できる。
【0069】
横行トロリー22が起点P3に到達するまで、制御装置40が吊り具29の揺れ角度に基づいて第1ウインチ23の減速度を調整するため、吊り具29の吊り具29が進行方向及びその逆方向の揺れが減衰する。そのため、横行トロリー22が起点P3で停止すると同時に吊り具29の下降が停止した時には、吊り具29の揺れも止まり、吊り具29の位置が積み場所P1に決まる。よって、吊り具29が積み場所P1に到達した時から速やかに生コンクリートを吊り具29のバケット29bに積める。1回当たりのコンクリートの打設サイクルが短く、コンクリート構造物99の構築工期の短期化も実現できる。
【0070】
横行トロリー22が折り返し点P4に到達する時も同様に、吊り具29の揺れも止まり、吊り具29の位置が投下場所P2に決まる。よって、吊り具29が投下場所P2に到達した時から速やかに生コンクリートを投下することができる。1回当たりのコンクリートの打設サイクルが短く、コンクリート構造物99の構築工期の短期化も実現できる。
【符号の説明】
【0071】
20 ケーブルクレーン
21 主索
22 横行トロリー
23 第1ウインチ(第1駆動装置)
30 昇降ウインチ(第2駆動装置)
29 吊り具
40 制御装置
99 コンクリート構造物
【要約】
【課題】横行トロリー及びバケットの上下方向の揺れを抑えること。
【解決手段】ケーブルクレーンは、主索、横行トロリー、第1駆動装置、吊り具、第2駆動装置及び制御装置を備える。主索21は、山91,92の間に架け渡される。横行トロリー22は、主索21に沿って移動するよう主索21に設置される。第1駆動装置は、横行トロリー22を駆動する。吊り具29は、横行トロリー22から懸下され、昇降可能である。第2駆動装置は、吊り具29を昇降させるよう吊り具29を駆動する。制御装置40は、第1駆動装置を制御することによって横行トロリー22を減速させ、第2駆動装置を制御することによって横行トロリー22の減速時に同期して吊り具29を上昇させる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5