(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】けん玉に使用される物品
(51)【国際特許分類】
A63B 67/08 20190101AFI20241213BHJP
【FI】
A63B67/08 G
(21)【出願番号】P 2020202327
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】506056239
【氏名又は名称】有限会社山形工房
(74)【代理人】
【識別番号】100146732
【氏名又は名称】横島 重信
(72)【発明者】
【氏名】梅津 雄治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良一
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-360754(JP,A)
【文献】実公昭05-010760(JP,Y1)
【文献】実公昭12-004556(JP,Y1)
【文献】登録実用新案第3160762(JP,U)
【文献】実開昭60-129972(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 67/00 -67/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん先が挿入可能な
1又は2箇所の底部を有する穴部と、糸を締結可能な糸締結部を有し、けん玉における飛翔体および/又は把持体として使用される物品であって、
当該物品は形状異方性を有することによって特定の自転容易軸を有し、
当該物品が有する穴部の中心線が
、いずれも当該自転容易軸の内で最も長さが短い自転容易軸と略直角で
あり、且つ、自転容易軸の内で物品内を通過する長さが最も長い自転容易軸と略一致していることを特徴とする物品。
【請求項2】
上記自転容易軸のうちで物品内を通過する長さが最も長い自転容易軸の長さを、当該長さが最も短い自転容易軸の長さで除して得られる比率が1.1以上であることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項3】
上記穴部を構成する壁面の少なくとも一部は、穴部の中心線を中心として筒状に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の物品。
【請求項4】
上記穴部の開口部には、座ぐり部が設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の物品。
【請求項5】
上記穴部が、物品の両端に対向して設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の物品。
【請求項6】
上記糸締結部に締結した糸によって物品を吊り下げた際に、上記穴部が略鉛直下方に向かって開孔する位置に
、上記糸締結部が設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の物品。
【請求項7】
当該糸締結部に締結した糸によって物品を吊り下げた際に、上記穴部が鉛直下方以外の方向に向かって開孔する位置に
、上記糸締結部が設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の物品。
【請求項8】
上記物品は、全体としてけん軸状の形状を有し、当該けん軸の皿部に上記穴部が設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の物品。
【請求項9】
上記物品は、全体として皿胴状の形状を有し、当該皿胴の皿部に上記穴部が設けられていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の物品。
【請求項10】
上記請求項8及び請求項9に記載の物品のいずれか一方、又は両方を含むことを特徴とするけん玉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「けん玉」に使用される物品に係るものであって、例えば、従来から行われる「けん玉」の技を練習する際や、従来にない「けん玉」の技を行う際に使用される物品に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、「けん玉」と称される日本伝統の遊具が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
図8には、一般的な「けん玉」の構成を示す。一般的な「けん玉」においては、それぞれ直径の異なる大皿4、小皿5、中皿6等が設けられた「けん1」と、当該「けん1」と糸9で結ばれた所定の直径を有する球状体である「玉10」から構成され、専ら「けん1」の側を把持して、当該大皿4等で「玉10」を受け止める技を楽しむ目的で使用される。
【0003】
上記「けん1」は、「けん軸2」に対して、鼓型の形状を有する「皿胴3」を貫入することで構成されている。そして、当該「けん軸2」の底部には「中皿6」、「皿胴3」の両側面には「大皿4」、「小皿5」がそれぞれ設けられており、各皿は、その円周部によって構成される環の部分によって「玉10」を保持可能とされている。また、「けん軸2」の先端は「けん先7」と呼ばれ、この「けん先7」が、以下に説明する「玉10」の「穴部11」に挿入されることによって、「玉10」が「けん1」の先端においても保持可能とされている。
【0004】
上記「玉10」は、上記「けん1」に設けられた各皿によって良好に保持可能とするために、全体として略球状に形成されている。「けん1」に設けられた各皿の周辺部が構成する環の直径は、「玉10」の直径を超えない範囲で各種の作り分けがされて、その環の大きさ等に応じて「大皿4」、「中皿6」、「小皿5」等の名称で区別され、各皿で「玉10」を受け止める際の難易度を変えることで、遊具としての付加価値が高められている。
「玉10」には、「けん先7」を自在に挿入可能な「穴部11」が設けられることで、上記「けん1」の「けん先7」に保持可能とされている。また、当該「穴部11」の開口部には、「けん先7」が挿入し易くなるように、適宜の大きさの「座ぐり部12」が設けられることが一般的である。
【0005】
また、上記「穴部11」の底面と「玉10」の表面の間には、「玉10」に糸を締結するための糸締結部として、小径の貫通穴である「糸穴13」が設けられ、一端に抜け止めの目的でビーズ玉14等を設けた糸9を「穴部11」の底面側から「糸穴13」に通すことで、「玉10」が糸によって吊り下げ可能とされている。そして、当該糸9の他端を「けん1」に設けられた「糸穴8」に固定することによって、「玉10」が「けん1」と結びつけられる。
また、
図8に示すように、糸締結部として玉に設けられる「糸穴13」を、「穴部11」の反対側に設けることによって、玉を糸によって吊り下げた際に、穴部が略鉛直下方に向かって開孔することとなる。
【0006】
「けん玉」の遊び方(技)は多様であり、上記「けん1」と「玉10」が相互に互換的に把持体、又は飛翔体として使用され、演者が「けん1」を把持することで「玉10」を飛翔体として、「けん1」の「皿4~6」や「けん先7」で「玉10」を受け止める技の他、演者が「玉10」の側を把持して「けん1」を飛翔させ、「玉10」の表面や「穴部11」で「けん1」を受け止める形態の技が行われ、それぞれに難易度が異なっている。更に、演者が「けん1」、「玉10」、糸9のいずれかを保持した状態から「けん玉」の全体を飛翔させ、まず「けん1」を受け止めて把持した後に、当該「けん1」によって「玉10」を各種の形態で受け止める等、「けん玉」の全体を飛翔体とする離れ業を行うことも可能である。
【0007】
「けん玉」の最も基本的な遊び方(技)は、演者が「けん軸2」を把持することで「けん1」を保持し、
図8等に示すように糸9で「玉10」を吊り下げた状態から「けん1」を介して糸9に所定の張力等を付与することで「玉10」を飛翔させ、「大皿4」で「玉10」を受け止める技である(「大皿」)。
当該「皿」で「玉」を受け止める「大皿」等の技では、例えば、飛翔した「玉」に対して、対応する「皿」の外周である環の内側に「玉」の重心が来るように「けん1」を位置させることにより、当該「皿」によって「玉」を受け止めることが可能である。このように「皿」で「玉」を受け止める技では、主に「皿」と「玉」の位置関係によって「玉」の受け止めの可否が定まるために、特に、「玉」に設けられた「穴部11」と「皿」との位置関係とは無関係に技を完成することが可能である。
【0008】
一方、演者が「けん軸2」を把持して、「玉10」の「穴部11」に「けん先7」を挿入して受け止める際には、「けん先7」と「玉10」の位置関係に加えて、受け止める瞬間の「穴部11」と「けん先7」の方向を略一致させる必要を生じる点で、上記「皿」による受け止めと比較した際に困難性を生じる。つまり、「皿」を用いる場合には、「皿」と「玉」との間の位置関係に留意するのみで技が完成されるのに対して、「けん先7」を用いる場合には、「玉」との位置関係と同時に、「けん先」と「穴部」の開口方向にも留意する必要を生じることとなる。
【0009】
当該困難性に関係して、最も容易に「けん先」によって「玉」を受け止める技として、「とめけん」が知られている。「とめけん」は、「玉」を糸9で吊り下げて「穴部」が鉛直下方を向いた状態から、「玉」を回転(自転)させないように略上方に飛翔させることで「穴部」が鉛直下方を向いた状態を保持し、当該「穴部」に「けん先」を挿入する技である。
「とめけん」では、「玉」を回転させないように略上方に飛翔させることを体得することで、実質的に「皿」を用いる場合と同様に、「けん先」と「玉」の位置関係への留意によって技を完成できるため、初心者であっても比較的容易に実施することができる。
【0010】
これに対して、例えば「ふりけん」と呼ばれる技では、上記「ふりけん」と比較した際に、技の開始時に、演者が敢えて「玉10」を前方に降り出すように飛翔させることが必要とされており、それに伴って「穴部11」の方向が変化するため、この「穴部」に「けん先」を挿入して受け止めることが困難となる。
上記「ふりけん」における困難性は、以下のように考察される。上記のように、「玉10」は、「穴部11」の底部の「糸穴13」に通された糸9によって吊り下げられ、この糸を介して負荷される駆動力によって飛翔等の運動を開始する。また、「玉10」を糸9で吊り下げた状態から開始する技では、実質的に技の開始の直後であって、糸9に張力が掛かっている間に糸9を介して「玉」に負荷された力によって、その後の「玉」の運動内容が決定される。
【0011】
つまり、技の演者は、技の開始の直後において、「けん」を介して糸9に伝える力の加減を調整することのみによって、その後に「玉」を自己の受け取り可能位置に飛来させると共に、当該位置において「穴部」の開口方向を所定の範囲とする必要があり、これを体得することの困難性が「ふりけん」の実施を困難にしているものと考察される。
上記困難性に対して、例えば、「玉10」の表面に単純な模様の色分けを施す等により、間接的に「穴部11」の方向を演者が察知し易くする等により、初級者による「ふりけん」の体得を補助する等が行われている。しかしながら、糸9を介した一瞬の「玉10」の操作によって、「玉」の位置と、「穴部」の開口方向を適切に制御することは依然として困難であり、初級者が上達する過程において「ふりけん」等の技の体得は大きな障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
例えば、自転車に乗る技術を習得する過程で一般的に使用される補助輪のように、初心者が技を習得する過程においては、その困難性の一部を緩和する手段を適切に使用することにより、次第にコツを掴むことで段階的に技を取得可能とすることが有効である。
一方、従来は、上記「ふりけん」等の体得過程において、そのスキルを段階的に獲得するための十分な補助具等は存在せず、一足飛びに「ふりけん」を試みる以外にスキルを獲得する方法が存在しなかった。その結果、「ふりけん」のスキル獲得を障害にして、「けん玉」の上達を放棄する事例が多数存在する。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みて、「ふりけん」等の「玉10」に設けられた「穴部11」の開口方向の制御を行う際の困難性の一部を緩和することで、そのスキルの段階的な習得を補助することのできる物品を提供することを主な課題とする。また、当該物品を利用することで従来にない「けん玉」の新しい技を楽しむことを可能とする物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のような物品を提供する。
<1> けん先が挿入可能な穴部と、糸を締結可能な糸締結部を有し、けん玉における飛翔体および/又は把持体として使用される物品であって、当該物品は形状異方性を有することによって特定の自転容易軸を有し、上記穴部の中心線が当該自転容易軸の内で最も長さが短い自転容易軸と略直角となるように当該穴部が設けられている物品。
<2> 上記物品において、自転容易軸のうちで物品内を通過する長さが最も長い自転容易軸の長さを、当該長さが最も短い自転容易軸の長さで除して得られる比率が1.1以上である物品。
<3> 上記物品において、上記穴部を構成する壁面の少なくとも一部は、穴部の中心線を中心として筒状に形成されている物品。
<4> 上記物品において、上記穴部の開口部には、座ぐり部が設けられている物品。
<5> 上記物品において、上記けん先が挿入可能な穴部が、物品の両端に対向して設けられている物品。
<6> 上記物品において、上記糸締結部は、当該糸締結部に締結した糸によって物品を吊り下げた際に、上記穴部が略鉛直下方に向かって開孔する位置に設けられている物品。
<7> 上記物品において、上記糸締結部は、当該糸締結部に締結した糸によって物品を吊り下げた際に、上記穴部が鉛直下方以外の方向に向かって開孔する位置に設けられている物品。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、けん玉における飛翔体の自転運動等の制御方法の体得に寄与するものである。また、けん玉における新しい技を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】物品の形状に起因する自転容易軸の違いを説明する図である。
【
図2】本発明に係る実施形態の一例に係る物品の形態を示す図である。
【
図3】
図2に示す物品を飛翔体として「ふりけん」を行った際の、物品の動きを示す模式的である。
【
図4】本発明に係る他の実施形態の例に係る物品の形態を示す図である。
【
図5】本発明に係る他の実施形態の例に係る物品の形態を示す図である。
【
図6】本発明に係る他の実施形態の例に係る物品の形態を示す図である。
【
図7】本発明に係る他の実施形態の例に係る物品の形態を示す図である。
【
図9】「ふりけん」の際の「玉」の動きを示す模式的である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「ふりけん」等の「玉10」に設けられた「穴部11」の開口方向の制御が必要とされる技の困難性は、上記で説明したとおり、「玉10」を飛翔させて演者の受取り可能位置に導く操作と同時に、当該「穴部11」の開口方向を制御する操作を行う必要性が存在することに起因するものであると考えられる。更に、当該二つの操作を、「玉10」の一端に取り付けられた糸9に対して、「けん1」を介して瞬間的に張力を付与するという単純な動作によって行わなければならないことが、当該困難性を拡大していると考えられる。
【0019】
以下、「ふりけん」を例にして、その際の「玉10」の挙動を検討する。
図9には、「ふりけん」の技を完成させる過程で、「玉」に生じるべき理想的な移動運動21と自転運動22について模式的に示す。
「ふりけん」では、糸9で鉛直下方に吊り下げられた状態の「玉」を、一旦、前方に降り出した後に上昇させて「けん」の上方の受取り可能位置に導くことが求められる。つまり、「ふりけん」の際には、「玉」の重心は曲線的な移動運動21を行うことが不可欠である。一方、当該「玉」に対して曲線的な移動運動21を生じさせる駆動力は、「玉」の重心位置とは離れて設けられた「糸穴13」に取り付けられた糸9を介して付与される結果、当該「玉」に加えられる駆動力は「玉」を自転運動22させる駆動力としても作用し、「玉」は移動運動21と同時に自転運動22を開始することとなる。
【0020】
そして、上方に向けた「けん先7」を「穴部11」に挿入して「玉10」を受け止める「ふりけん」の技を完成するためには、
図9に示すように、移動運動21によって「玉」が演者の受取り可能位置に至った時点において、「玉」が略一回転の自転運動22を完了して「穴部11」の開口部が略下方を向くという理想的な組み合わせを実現することが必要とされる。
【0021】
上記のような「玉」の自転運動22を生じさせるためには、「玉」の“自転軸(自転方向)”と“自転速度”の両者を適切に制御することが求められる。つまり、
図9に示すように、当該自転運動22は、「玉」が移動運動21する面(
図9の紙面)に垂直な軸を自転軸として「穴部11」の中心線が当該面内を移動すると共に、適切な自転速度を有することが求められる。しかしながら、実際に「ふりけん」を試みる際には、特に当該「玉」の自転軸の方向が必ずしも
図9に示す状態にはならず、その結果として、例えば、「穴部11」の中心線が
図9の紙面内に存在せず、略上方に向けた「けん先7」で受け止めることができない等の問題を生じる。
【0022】
つまり、「ふりけん」を完成させるためには、「けん1」に締結された糸9を介して瞬間的に付与する駆動力によって、「玉」に対して適切な移動運動21と生じさせると共に、適切な“自転軸”と“自転速度”を内容とする自転運動22を生じさせることが必要とされる。その制御の困難性が、単に適切な移動運動をさせることで完成される「大皿」等と比較した際に、「ふりけん」の難易度が極端に高い理由であると考えられる。
【0023】
また、「玉」の「穴部」の開口部の形状を利用して「けん先7」以外の「けん1」の各部分で「玉」を受け止める、いわゆる極意系の技などにおいても、「ふりけん」と同様に「玉」の移動運動21と自転運動22を同時に制御する必要があり、その体得が「けん玉」の上達には不可欠である。
【0024】
上記のような「ふりけん」等において、自転運動22の制御によって「穴部11」の開口方向を適切に制御する際の困難性の一部を緩和し、そのスキルの段階的な習得を補助することのできる物品について本発明者が種々の検討を行ったところ、けん玉において主に受け止められる側である「飛翔体」として使用される「玉」の形態を工夫することによって、その自転運動22の制御が容易となり、「ふりけん」等を容易に行えることを見出して本発明に至ったものである。そして、本発明に係る物品を「玉(飛翔体)」として練習を行うことで「ふりけん」等を行う際のコツが体得され、次第に困難性を高めた練習を行うことで、本来の「玉」を使用した「ふりけん」等を段階的に体得することが可能となる。
【0025】
(1)本発明の特徴
図1には、形状の違いに起因する物品の自転容易軸の違いについて説明するための図を示す。なお、
図1においては、均一な重量密度を有する素材によって各物品が構成されているものとする。
図1(a)に示すように、球状の物品を自転させる場合、当該物品の中心(重心)の周囲の質量の分布が等方的であることに起因して、自転の中心軸になり易い特定の「自転容易軸」は存在せず、その中心(重心)を通るいずれの軸を自転軸とした場合にも等しく自転を生じることができる。
【0026】
一方、例えば、
図1(b)に示すような円柱形状等の形状異方性を有する物品の場合には、当該物品の形状等に応じて安定して自転可能な特定の自転容易軸が定まり、外部からの拘束を受けずに自転運動する際には、自転容易軸を中心とした自転を生じることとなる。つまり、
図1(b)に示す円柱形状であれば、当該自転容易軸は、円柱の重心と両底面の中心を通る軸(長軸26)と、当該長軸26と直交するように円柱の重心を通る軸(短軸25)に限定される。
【0027】
また、仮に、当該長軸26と短軸25以外の軸を中心とする自転運動が付与された場合にも、当該回転によって生じる遠心力の偏りによって自転軸が自律的に修正されて、主に短軸25を自転軸とした自転運動に収束することが知られている。このために、
図1(b)に示す円柱形状の物品では、当該物品が自転する際に生じる遠心力が均衡する自転軸である長軸26及び短軸25以外の軸の周囲に安定した自転運動を行うことが困難であり、安定した自転が可能な自転軸は長軸26及び短軸25に限定される。
【0028】
上記のような傾向は
図1(b)に示す円柱形状に限定されず、典型的には特定の方向の長さが他の方向と比べて長いことによって異方性を有する形状であれば、例えば、楕円形の長軸を中心に回転して得られる長球のような形状においても、その形状や重量分布に応じて定まる自転容易軸を有する。一方、自転容易軸を有しないことは球形に固有の特徴であると考えられる。
【0029】
本発明においては、物品が有する自転容易軸のうちで、物品内を通過する長さが最も長い軸を長軸26と称し、当該長さが最も長い軸を短軸25と称するものとする。また、本発明において、物品内を通過する自転容易軸の長さと記載する際には、当該長さは、当該物品の有する外形(輪郭)内に設けられた穴部11等の穴や孔が存在しない場合に当該軸が物品内を通過する長さを意味するものとする。つまり、例えば、以下に示す
図6(a)において、長軸26上には穴部11が設けられているが、当該物品内を通過する長さが最も長い自転容易軸(長軸26)の長さは、物品としての輪郭である大皿4と小皿5の底部間の距離として定義されるものとする。
【0030】
一般的なけん玉において飛翔体として使用される「玉」の形状等は、上記
図1(a)に示す球状の物体に近似され、けん玉の技を行う際に「玉」に生じる自転運動における自転容易軸は実質的に存在せず、糸9を介して加えられた力の方向等に応じて、適宜の方向性を有する軸の周囲に自転を生じるものと考えられる。この結果として、「ふりけん」等において飛翔した「玉」に生じる自転運動22の自転軸は、必ずしも
図9に示すように「玉」の移動運動21の軌跡が成す面と垂直にならず、飛翔している「玉」の「穴部11」の開口方向の制御が極めて困難となる。そして、演者前方の玉の受取り可能位置付近において、「穴部」が下方に向かないような自転運動22を生じた場合には、これを上方に向けた「けん先7」によって受け止めることができない結果となる。
【0031】
図2には、本発明に係る実施形態の一例を示す。
図2に示す物品は、全体として略円柱形状であり、一方の底面に「けん先7」が容易に挿入可能な「穴部11」を有すると共に、他方の底面に糸を取り付けるための環状の「糸穴13」を有するものである。
図2に示す物品は、全体として略円柱形状を有することにより、
図1(b)に示す円柱形状と同様に自転容易軸として物品の重心と両底面の中心を通る軸(長軸26)と、当該長軸26に直交すると共に物品の重心を通る軸(短軸25)を有する。
図2に示す物品では、糸を締結する「糸穴13」が当該長軸26の近傍に設けられていることから、当該「糸穴13」に締結された糸9によって加えられる力によって長軸26の周囲の自転を生じることは困難であり、当該物品をけん玉の飛翔体として使用した際には実質的に短軸25を自転軸とした自転運動を生じることとなる。そして、その中心線が当該短軸25と略直角となるように「穴部11」が設けられていることで、物品が自転運動する際に「穴部11」の中心線が自転の赤道上を移動することとなる。
【0032】
つまり、
図2に示す物品を「けん1」に対する「玉(飛翔体)」として使用することで、特に飛翔体の自転軸と「穴部11」の位置関係が必然的に定まる結果として、通常の球状の「玉」を用いる場合と比較して、「穴部11」の開口方向の制御をより容易に行うことが可能となる。
【0033】
図3には、
図2に示す物品を飛翔体15として、これを前方に振り出す「ふりけん」を行った場合の模式図を示す。
図3は、飛翔体15の移動運動21の軌跡が形成する面を紙面に含むものとする。上記で説明したとおり、「ふりけん」の技は、主に糸で鉛直方向に吊り下げられた状態の飛翔体15を、糸に張力が掛かった状態から駆動力(F)を負荷することで前方に降り出して加速する加速過程と、その過程で飛翔体15が得た慣性力によって飛翔体を上昇(移動運動21)させて「けん」の上方の受取り可能位置に導くと同時に、飛翔体15に自転運動22をさせて「穴部11」を略下方に向かせる慣性過程とから構成される。
【0034】
図2に示す物品を飛翔体15として使用した際の当該飛翔体15の運動においては、短軸25を自転軸とした自転運動を生じやすいと共に、飛翔体15の移動運動21に伴う遠心力によって、当該自転軸(短軸25)と略直交するように設けた「穴部11」の中心線を飛翔体15の移動運動21の面内に維持することが容易となり、
図9に示す球状の飛翔体を使用する場合と比較して、演者が「ふりけん」の動作をより容易に体験することが可能である。
【0035】
このため、本発明に係る物品をけん玉における飛翔体15とすることにより、演者は、飛翔体15の自転軸の制御に係る留意を必要とされずに、「けん先」に対する飛翔体の位置と、飛翔体を振り出した面内における「穴部」の開口方向への留意のみによって技を完成することが可能となり、より容易に「ふりけん」を体験することが可能となる。
【0036】
また、本発明に係る物品をけん玉における飛翔体15とした際には、「玉」と比較した際に、上記のように自転容易軸が現れることに加えて、主に当該自転容易軸の長さに起因して、飛翔体15の自転運動22の慣性力が大きくなることによっても、「ふりけん」をより容易に実施可能になると考えられる。
【0037】
質量が同一で形状のみが異なる物品を同一の回転速度で自転運動をさせた際には、それぞれの物品が有する回転の慣性力の大小について、その重心から離れた位置に多くの質量を有する物品の方が大きな慣性力を有することが知られている。例えば、
図1(a)に示す球体と
図1(b)に示す円柱の質量を同一とし、それぞれ自転運動をさせる際には、円柱(長軸26)<球体<円柱(短軸25)の順番で自転運動の慣性力が大きくなることが知られている。
【0038】
上記のことは、飛翔体15を制止した状態から所定の駆動力で自転させる際に、慣性力の大きい円柱の短軸25の周りの自転運動においては、同じ質量を有する球体の自転運動と比較して付加される駆動力に対する自転の応答性がより穏やかになり、演者が付加する駆動力の加減をし易くなるように作用すると考えられる。そして、当該作用によっても、本発明に係る物品を飛翔体として使用することで、より容易に「ふりけん」を行うことができるものと考えられる。
【0039】
(2)本発明に係る物品の形状について
本発明に係る物品は、その形状が等方的(球体等)でなく、特定の方向の長さが他の方向と比べて長いことによって特徴付けられる形状異方性を有し、これに起因して特定の自転容易軸を有すると共に、けん玉に使用する「けん1」の「けん先7」が挿入可能な「穴部11」の中心線が、当該自転容易軸の内で物品内を通過する長さが最も短い軸(短軸25)と略直角になるように設けられていることを特徴とするものである。
【0040】
上記説明したとおり、形状異方性を有する物品に対して、ランダムな方向に自転運動を生じさせる駆動力が付与された場合、当該自転運動は自転の慣性力が最も大きい「最も短い自転容易軸」の周囲の自転運動に収束し易いことが知られている。本発明は当該性質を利用するものであり、本発明に係る物品をけん玉の飛翔体15とすることにより、その「最も短い自転容易軸」に略直角な方向を有する「穴部11」が、その自転運動の赤道上を回転することとなり、その開口部の位置の制御を容易にするものである。
【0041】
本発明に係る物品は、形状の異方性を有することに起因して、その周囲に自転する際の慣性力がそれぞれ異なる複数の自転容易軸を有する形状であれば、適宜の形状を有することができる。一方、特に当該自転容易軸の内で物品内を通過する長さが最も長い自転容易軸(長軸26)の長さと、当該長さが最も短い自転容易軸(短軸25)の長さの比率に着目した際には、当該比率を適宜に設定することにより、物品をけん玉における飛翔体15とした際の自転運動の制御性を調整することが可能であり、「ふりけん」等を行う際の難易度を変えることができる。
【0042】
つまり、上記物品内を通過する長さが最も長い自転容易軸(長軸26)の長さと、当該長さが最も短い自転容易軸(短軸25)の比率を1.1程度以上とすることによって、特定の自転容易軸を有しない球状の「玉」と比較して、当該短軸25の周囲に物品が自転する傾向が発現し、これによって当該短軸25と略垂直な中心線を有する飛翔体15の穴部11の開孔位置を自転の赤道部に維持することが容易になる。
【0043】
更に、上記長軸26と短軸25の比率を1.5以上、或いは2以上とすることで、物品の形状異方性が高くなり、通常のけん玉において自転運動を行う際の自転軸が実質的に短軸25に限定されて、飛翔体15の穴部11の開孔位置を自転の赤道部に維持することがより容易になる。更に、上記長軸26と短軸25の比率を3以上、或いは4以上とすることで、物品が実質的に棒状の形状を有するようになり、短軸25の周囲に自転する際の慣性力が大きくなるために、自転運動の速度の制御が容易になって、「ふりけん」等をより容易に実施することが可能となる。
【0044】
また、本発明に係る物品において、特に上記長軸26を軸として、その周囲の形状に所定の回転対称性を付与することにより、物品に生じる自転運動が上記短軸25の周囲の自転運動に収束し易くなる点で好ましい。そして、特に、「穴部11」の中心線が、物品の自転容易軸の内で物品内を通過する長さが最も長い自転容易軸(長軸26)と略一致する形態とすることにより、物品全体の対称性が向上し、物品の自転運動を安定化することができる。当該長軸26の方向から見た際の物品の対称性について、例えば、2回対称、3回対称、4回対称、5回対称、6回対称等とすることにより、実質的に長軸26と短軸25が直交することとなり物品の自転の制御が容易になる。
【0045】
また、特に長軸26に垂直な断面を円形とすることで、長軸26以外の自転容易軸の全てを等価な短軸25とすることができ、自転の際の変心を生じ難くなって物品の自転の制御を容易とすることができる。また、本発明に係る物品を長軸26に垂直な断面を円形とすることで、「けん1」を構成する「けん軸2」や「皿胴3」と同様に、「ろくろ」等とも呼ばれる旋盤を使用して容易に製造することができる。
【0046】
本発明に係る物品に設けられる「穴部11」の形状は、使用する「けん1」の「けん先7」が容易に挿入可能であり、「けん先7」に「穴部11」が挿入された状態で当該物品を保持可能な形状であれば特に限定されず、当該「けん先7」の長さや太さ等に応じて適宜決定した形状とすることができる。一般な「けん先7」は「ろくろ」によって形成されることで円形断面を有するため、一般的には、「穴部11」は「けん先7」の先端が「穴部11」の底辺に接しない程度の長さを有すると共に、「穴部11」の少なくとも一部を使用する「けん先7」の直径の1.2~2.5倍程度の直径を有する筒状とすることが好ましく、更に「けん先7」の直径の1.2~1.4倍程度の直径を有する筒状とすることが好ましい。
【0047】
また、特に本発明に係る物品を「ふりけん」等の体得を補助するための器具として使用する観点からは、
図2等における「穴部11」、「座ぐり部12」の形状を、一般的なけん玉の「玉10」の「穴部11」等と同様の形状にすることも好ましい。例えば、競技用けん玉とされるけん玉では、「けん先7」の直径が10mm程度であるのに対して、「玉10」に設けられる「穴部11」の直径をその1.2~1.4倍程度とし、更に「座ぐり部12」として、開口部が「穴部11」の直径の1.5~1.6倍程度になるように、20~40度程度の開き角を有する円錐面が形成されている。
【0048】
このため、本発明に係る物品の「穴部11」の開口部においても、使用する者のスキルに応じて、座ぐりの開口部が「穴部11」の直径の1.2~2.5倍程度、より好ましくは1.5~1.6倍程度の直径を有し、10~70度程度、より好ましくは20~40度程度の開き角17を有する円錐面により構成される「座ぐり部12」を設けることが好ましい。
【0049】
また、本発明において「穴部11」の中心線 とは、「穴部11」に「けん先7」を挿入した際に、当該「けん先7」の中心線によって示される軸線をいうものとする。当該軸線は、特に「穴部11」の壁面の少なくとも一部が筒状である場合には、当該筒の中心線によって把握されるものである。
また、本発明において、当該穴部の中心線と自転容易軸の短軸25の関係に関して、両者が略直角であると記載した際には、当該短軸25から「穴部11」の方向に降ろした垂線の内、「穴部11」の壁面に交差せずに「穴部11」を通過できる垂線が存在することを意味するものとする。
【0050】
本発明に係る物品は、適宜の糸9を締結することによって本発明に係る物品を糸9で吊り下げ可能とするため糸締結部を有する。本発明に係る物品に糸を締結する具体的な手段は適宜に選択可能であり、例えば、本発明に係る物品に貫通穴を開孔して糸を通すことが可能あり、又は、糸を通すことのできる部材を本発明に係る物品に適宜の方法で取り付けることも可能である。また、本発明に係る物品として以下の
図5、
図6(a)等に示す物品のように、物品の一部にくびれを有する物品である場合には、当該くびれの部分に糸を環状に回して締結することにより、糸9を締結した状態で物品が自転可能な形態で糸を締結することも可能である。
【0051】
本発明に係る物品に対して糸9を締結する位置は、適宜決定することができる。特に、本発明に係る物品が有する重心の位置と、糸9を締結する糸締結部の距離に応じて、糸9によって駆動力を付与した際の物品の自転運動のし易さが変化するため、目的に応じた位置に糸9を締結して使用することが望ましい。糸9を締結する糸締結部の位置と物品の自転運動のし易さとの関係は、主に糸9によって物品を吊り下げた際に物品の自転容易軸のうちで最も長い軸(長軸26)と糸9の成す角度によって評価することができる。
【0052】
例えば、
図2に示す物品のように、物品の自転容易軸のうちで最も長い軸(長軸26)が物品の表面と交わる交点の付近の物品端部に糸締結部を設けることにより、糸9を介して付与される駆動力によって生じるモーメントが大きくなり、最も有効に物品の自転運動を生じさせることができる。言い換えれば、締結した糸によって物品を吊り下げた際に長軸26と糸9の方向がなす角度が5度未満であり、「穴部11」が略鉛直下方に向かって開口するような位置に糸9を締結することにより物品の自転運動を生じさせ易くすることができる。
【0053】
一方、物品の重心により近い位置に糸9を締結することによって、糸9を介して付与される駆動力により物品の自転運動を生じさせることの困難性が増大し、けん玉において飛翔体の自転運動を積極的に制御する技術の習得の際に有用となる。具体的には、糸9によって物品を吊り下げた際に物品の長軸26と糸9の成す角度が5~30度の範囲であれば、通常の範囲の動作によって物品に必要な自転運動を生じさせることが可能であり、自転運動の制御技術の習得に好ましく使用することができる。
【0054】
また、当該角度を30~70度の範囲にした際には、積極的に物品を自転させるための動作が必要となり、特に70~90度の範囲にした際には物品に自転運動を生じさせることが困難になり、「ふりけん」等とは異なった困難性を克服する新たな遊び方(技)を楽しむ目的で好ましく使用される。本発明に係る物品に、予め複数の糸締結部を設けることで、使用の目的に応じて適宜、糸9を締結する位置を変えて使用することが可能である。
【0055】
本発明に係る物品は、けん玉における飛翔体および/又は把持体として使用される物品であり、けん玉を構成する各種の材質によって構成することが可能である。つまり、一般のけん玉のように、ブナ、欅、桜、板屋楓、槐のような広葉樹を素材として、ろくろ等の旋盤を使用し、又は使用せずに、ノミ、カンナ、ドリル等の切削工具を用いることで加工して製造することができる。
【0056】
また、プラスチック等により本発明に係る物品を製造する際には、適宜の形状の金型を使用して一般的な射出成型等により成型して製造することができる。その他、本発明に係る物品は、適宜の素材を使用して、適宜の手段により成型して製造することができる。
【0057】
(3)本発明に係る物品の実施の形態について
上記説明したように、本発明は、その特徴の一面において、物品の形状に応じてその自転運動の自由度を抑制できることを利用して、主にけん玉の飛翔体として本発明に係る物品を使用することで「穴部11」の開口方向の制御を容易にし、初心者が「ふりけん」等の技を段階的に体得することを補助するものである。一方、本発明に係る物品が有する形態を利用して、従来にない技の実施が可能になり、新たなけん玉の遊び方を提供するものである。
【0058】
以下、本発明に係る物品の形態について例示的に記載して説明するが、本発明は当該各形態に限定して解釈されるべきものでない。
図4には、本発明に係る他の実施形態について示す。
図4は、楕円体の長軸26に沿って「穴部11」を形成した例であり、当該「穴部11」の他端に糸を固定するための「糸穴13」を有している。
【0059】
図4に示す物品は、飛翔体としての球状体と円柱体の中間的な特性を有する例であって、
図2に示す円柱体と比較した際には、短軸25の周りの自転の慣性力が小さくなり、その挙動が球状体に近づくことにより、球状の飛翔体を使用した「ふりけん」に近い難易度を有するものである。「ふりけん」等の技を習得する際には、まず
図2に示すように長軸/短軸の長さの比率が大きい形態の物品を飛翔体としてこれを「けん先7」で受け止める練習を行い、その後に
図4に示す例のようなより球体に近い形態を有する物品を飛翔体とすることで、段階的に「ふりけん」等の技を体得することができる。
【0060】
また、
図4に示す物品は、その表面形状に起因して、受け止めの際の「穴部11」の方向を制御することによって、「けん1」の皿4~6等の部分で受け止めることが可能である。当該技は、通常の大皿等の技と比較して飛翔体の回転の制御が必要とされる点で難易度が高く、新しい技を提供するものである。
【0061】
図5には、本発明に係る他の実施形態について示す。
図5は、
図2に示す円柱体の変形例であって、短軸25の周囲の自転の慣性力をより拡大するために円柱端部を太くすると共に、円柱中央部付近を細くして、全体として鼓状とした例である。また、
図5に示す物品においては、物品の重心からの距離を変えて複数の「糸穴13」が設けられており、飛翔体として振り出した際の自転の生じ易さを段階的に変更可能であって、飛翔物を意識的に自転運動させるためのスキルの習得に好ましく使用することができる。
【0062】
また、
図5に示す形態では、円柱体の両端に対向して「穴部11」を有している。通常のけん玉の「玉10」では「穴部11」が一箇所であり、飛翔させてから「けん先7」で受け止めるまでの自転の回数が整数回に限定されるのに対して、
図5に示す形態では自転の回数を1/2毎に設定可能であることから、上記自転運動を生じさせるスキルの習得と同時に、新しい技を提供するものである。また、鼓状とするために細くする部分を偏らせることによって、両端に「穴部11」によって受け止める際の難易度を変化等させることも可能である。
【0063】
更に、
図5に示す形態の物品を飛翔物として使用する際に、鼓状とするために細くする部分を糸締結部として
図5に示すように環状に糸9を締結し、当該糸締結部に糸を巻き付けた状態から物品を振り出すことによって、長軸26を中心とした自転運動を生じさせ、その状態で「穴部11」に「けん先7」を挿入させて受け止める等の技が可能になる。
また、
図5においては、円柱体の両端にそれぞれ「穴部11」を独立して設けているが、本発明はこれに限定されず、物品を貫通するように当該「穴部11」を設けることで、管状断面を有する物品としても良い。
【0064】
図6には、本発明の異なる実施形態について示す。
図6(a)は、従来の「けん」に用いられている「皿胴3」において、その大皿4と小皿5の部分に「穴部11」を設けたものに相当する。また、中央部に設けられた貫通穴16により、「けん軸2」に取り付け可能とされている。
図6(a)に係る形態の物品は、
図5に示す物品と同様に、特に短軸25の周囲に自転運動をさせるための制御技術の習得等に好ましく使用することができる。
【0065】
また、
図6(b)は、従来の「けん軸2」に対して、その中皿6の部分に「穴部11」を設けたものに相当する。
図6(b)に係る形態は、
図2に示す形態のものと同様に、飛翔体の短軸周りの自転をコントロールする技術の習得に好ましく使用することができる。また、
図2に示す形態と比較して、長軸26と短軸25の比率が大きく、更に重心が振り出しの際の外周に大きく偏っているために、より自転速度が遅くなる傾向にあり、初心者が「ふりけん」を練習する際に好ましく使用される。
【0066】
図6(a),(b)に示すように、従来のけん玉の「けん1」を構成する「けん軸2」や「皿胴3」が形状異方性を有していることを利用して、それぞれの自転容易軸の短軸25に対して略直角に「穴部11」を設けることによって本発明に係る物品とすることができる。また、
図6(a),(b)に示す物品においても、複数の「糸穴13」を設けて糸締結部の位置を変化可能とすることにより、自転運動22の回転速度等の制御の難易度を変化させることが可能となる。
【0067】
図7には、本発明の異なる実施形態について示す。
図7(a)は、
図6(b)に係る形態の物品に対して、一般的な「皿胴3」を取り付けたものに相当する。
図7(a)に示す形態の物品を飛翔体15として使用することで、
図6(b)に係る形態と比較して、短軸25を自転軸とする自転運動に係る慣性力が大きくなることにより自転速度が遅くなり、「ふりけん」の動作を練習する際に好ましく使用される。また、
図6(b)に係る形態の物品に対して取り付ける「皿胴3」として、
図6(a)に係る形態の物品を用いることも可能である(
図7(b))。
【0068】
「けん1」の「中皿6」等は、当該「皿」の外周を成す環の部分によって「玉10」を受け止める構造になっているため、
図7に示す形態の物品は各皿部に設けた「穴部11」の存在とは無関係に通常の「けん1」として使用可能であり、糸9で「玉10」を結びつけることによって、全体として「けん玉」を構成することが可能である。つまり、
図7に示す形態の物品は、糸9で「けん1」と結びつけることで主に飛翔体15として使用される以外に、「玉10」を結びつけることによって主に把持体(「けん1」)としても使用可能である。更に、
図7に示す物品を分解することで
図6(a),(b)に示す物品とすることが可能であり、単に「ふりけん」の動作を練習する器具としてだけでなく、けん玉の遊び方のバリエーションを拡大することが可能である。
【0069】
従来の一般的なけん玉においては、「けん軸2」に「皿胴3」が取り付けられてなる「けん1」に対して、糸9によって「玉10」が結びつけられた形態で販売等されることが一般的であり、その一部が破損等した際には、残りの未破損の部材を利用することは困難であった。これに対して、「けん1」の部分を
図7(a),(b)等に示す形態として、「けん1」を構成する「けん軸2」や「皿胴3」を飛翔体として使用可能にすることによって、新たな遊び方を提供等する器具として活用することが可能となる。
【0070】
更に、例えば、「飛行機」と呼ばれる技では、「穴部11」が見えるように演者が「玉10」を把持して、飛翔させた「けん1」の「けん先7」を当該「穴部11」に挿入する技である。当該「飛行機」の技を初心者が行う際には、「玉10」を把持する指に「けん先7」が当たって怪我をする問題があった。一方、
図7に示す形態の物品を「中皿6」(「穴部11」)が前方になるように把持して、糸9で結びつけた他の「けん1」を飛翔体として使用することで、安全に「飛行機」の練習をすることが可能となる。
【0071】
その他、
図7に示す形態の物品を3個以上用意して、直列又は分岐させるように糸9で結びつけることにより、「けん1」により受け止めた飛翔体の「けん先7」によって、更に飛翔体を受け止めるというような、従来のけん玉では実施することができなかった技を行うことも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
けん玉の上達に寄与する物品を提供すること、及び、けん玉における新たな技の可能性を提供することにより関連産業の発達に寄与するものである。
【符号の説明】
【0073】
1 けん
2 けん軸
3 皿胴
4 大皿
5 小皿
6 中皿
7 けん先
8 糸穴
9 糸
10 玉
11 穴部
12 座ぐり部
13 糸穴
14 ビーズ玉
15 飛翔体
16 貫通穴
17 座ぐり部の開き角
21 移動運動
22 自転運動
25 短軸
26 長軸