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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】すべり電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/10 20060101AFI20241213BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241213BHJP
   C23F 1/04 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B23H7/10 E
B24B37/00 Z
C23F1/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022066424
(22)【出願日】2022-04-13
(65)【公開番号】P2023156829
(43)【公開日】2023-10-25
【審査請求日】2024-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】522150768
【氏名又は名称】九州瑞穂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 堅志
(72)【発明者】
【氏名】大澤 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】武本 泰夫
(72)【発明者】
【氏名】大澤 史和
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-266248(JP,A)
【文献】特開2005-246540(JP,A)
【文献】特開2011-099164(JP,A)
【文献】特開2008-184671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/10
B24B 37/00
C23F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質粒子相と金属結合相とを含む超硬合金によって構成されて、導通金属線によるワイヤ放電加工に用いられるすべり電極の製造方法であって、使用開始前の平滑化プロセスの最終仕上げ工程において超硬合金表面に対してラップ処理を行い、前記超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食して、金属結合相が導通金属線と直接的に接触しない構造とすることを特徴とするすべり電極の製造方法。
【請求項2】
前記ラップ処理後の超硬合金表面の表面粗さが、Raで0.01μm以下であることを特徴とする請求項1記載のすべり電極の製造方法。
【請求項3】
前記金属結合相のみを選択腐食する際の金属結合相の欠乏深さは、超硬合金母体の組成と、その超硬合金母体をすべり電極に加工して金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成と、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成と、特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測される分析深さの4つの情報から算出することを特徴とする請求項1記載のすべり電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長寿命化を可能とする、導通金属線のすべり電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導通金属線が工業的に使用される用途の一つに、ワイヤ放電加工技術がある。これは、ワイヤの放電熱によって材料を切断する加工方法であり、溶液環境で絶縁状態にあるワイヤと工作物が接近してパルス電流が流れて、何千℃程の温度となり、工作物が融解して所定形状に切断される加工プロセスによるものである。
【0003】
図1に、ワイヤ放電加工のプロセスを模式図で示す。上下方向に間隔をおいて、2個のすべり電極1が設けられ、すべり電極1は電源装置2に接続されている。すべり電極1に対して、ワイヤ放電加工機で使用する導通金属線3を接触させ、導通金属線3を、図1に矢印で示す一方向に、所望の速度で連続的に移動させる。
【0004】
このワイヤ放電加工プロセスに使用される導通金属線3は、材料として銅合金やモリブデン合金線が用いられており、一定の張力を与えた状態で、一定の速度で溶断対象部の前面を通過する。電流は、工作物の上下に設置した高電圧のすべり電極1と接触することによって給電される。常に張力を持った導通金属線3がすべり電極上を通過する際、微視的に見ると、常時微小な間隙が生じて放電が起きやすくなる。
【0005】
このような環境であるため、すべり電極1のワイヤ通過部は、摺動と放電によって徐々に摩耗が進行し、溝状の窪みが形成される。その後継続してこの箇所を使用すると、ワイヤの断線リスクが高まるため、ある程度窪みが深くなったところで寿命と判断して、電極の位置をずらすか交換することによって、新規の平滑面を通過させて、給電を再開し加工を継続する。
【0006】
このような使用環境下にあるすべり電極の素材として、耐摩耗性と耐熱性に優れる炭化タングステンを主とする硬質粒子と、CoまたはNiを主成分とする金属結合相からなる超硬合金が用いられてきた。
【0007】
近年、工作物の大型化が進み、無人連続運転化が進むにつれて、ワイヤ放電加工機のすべり電極の寿命が問題となっている。電極位置をずらす作業や、電極そのものの交換作業が少ないほど、長時間連続運転が可能になり、低コスト化を図ることができるため、長寿命化を実現する手法が求められている。
【0008】
このようなすべり電極の寿命向上対策の一例として、特許文献1に開示されているように、硬質粒子の粒度調整と金属結合相の相比と成分調整により、耐摩耗性と耐熱性を向上させる取り組みがなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-266243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これまでワイヤ放電加工機のすべり電極が通電加工中に摩耗が生じて窪みとなり、寿命に至る現象に関して、上述のように超硬合金の硬質粒子の粒度調整、および金属結合相の相比と成分調整については検討されてきたが、窪みが発生するメカニズムそのものを理解する十分な研究が行われてこなかった。
【0011】
高電圧化で常に電流を供給するすべり電極の損耗現象については、金属線との摺動が発生する環境ではあるものの、その押しつけ力は、超硬合金製ダイスが金属線の引き抜き加工で受ける高速・高圧の摺動に比べて、はるかにその環境が優しいことを考慮して、本発明者は、放電現象に着目して検討を行った。
【0012】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、通電加工中における摩耗の発生を抑制して、長寿命化を可能とする、導通金属線のすべり電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するために、本発明は、硬質粒子相と金属結合相とを含む超硬合金によって構成されて、導通金属線によるワイヤ放電加工に用いられるすべり電極の製造方法であって、使用開始前の平滑化プロセスの最終仕上げ工程において超硬合金表面に対してラップ処理を行うことを特徴とするすべり電極の製造方法である。このラップ処理後の超硬合金表面の表面粗さは、Raで0.01μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食して、金属結合相が導通金属線と直接的に接触しない構造とすることが好ましい。
【0015】
これにより、通電加工中における摩耗の発生を抑制することができ、長寿命化が可能となる。そのため、電極位置をずらす作業や、電極そのものの交換作業を少なくして、長時間連続運転が可能となる。
【0016】
また、本発明においては、前記金属結合相のみを選択腐食する際の金属結合相の欠乏深さは、超硬合金母体の組成と、その超硬合金母体をすべり電極に加工して金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成と、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成と、特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測される分析深さの4つの情報から算出することができる。
【0017】
これにより、選択腐食がなされた後の欠乏層内において、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存することによって、界面でなだらかに変化する金属結合相量を効率的に算出して、非破壊で腐食深さを正しく算出することが可能となる。なお、選択腐食の深さは、強度保持の観点から、硬質粒子の平均粒径と同程度の深さとすることを前提としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、通電加工中における摩耗の発生を抑制して、長寿命化を可能とする、導通金属線のすべり電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ワイヤ放電加工のプロセスを示す模式図である。
図2】研磨後の平滑表面と、金属結合相の選択腐食後の表面を示す図である。
図3】超硬合金製工具の表面の金属結合相の選択腐食後の断面と、その際の金属結合相の主成分であるC量の変化を模式的に示した図である。
図4】金属結合相の欠乏深さを定義するための図である。
図5】超硬合金中の表面金属結合相の欠乏深さ測定方法のフローチャートである。
図6】超硬合金表面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像である。
図7】放電耐電圧試験の試験結果を示す図である。
図8】放電耐電圧試験の試験結果を示す図である。
図9】超硬合金表面の選択腐食処理の有無によるすべり電極の摩耗量を、摩耗による断面積として模式的に示した図である。
図10】摩耗断面積に関する試験結果を示す図である。
図11】摩耗断面積に関する試験結果を示す図である。
図12】摩耗断面積に関する試験の導通金属線とすべり電極の接触状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るすべり電極の製造方法を、その実施形態に基づいて説明する。
本発明のすべり電極の製造方法は、硬質粒子相と金属結合相とを含む超硬合金によって構成されて、導通金属線によるワイヤ放電加工に用いられるすべり電極の製造方法であって、使用開始前の平滑化プロセスの最終仕上げ工程において超硬合金表面に対してラップ処理を行うものであり、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食して、金属結合相が導通金属線と直接的に接触しない構造とするものである。
【0021】
ここで、ラップ処理とは、工具と工作物の表面との間に砥粒、油などを混合したラップ剤を介在させて、両者を適当な圧力で押し付けながら相対運動を与え、ラップ剤により工作物の表面から微量の材料を除去して、平滑で寸法精度のよい仕上げ面を得る研磨加工方法である。このラップ処理を行うにあたって、ラップ処理後の超硬合金表面の表面粗さは、Raで0.01μm以下であることが好ましい。
【0022】
図2に、研磨後の平滑表面4と、金属結合相7の選択腐食後の表面5を示す。硬質粒子6の密着部には、残存する金属結合相8が存在している。
以下に、金属結合相の選択腐食における腐食深さの算出方法について説明する。
【0023】
図3は、超硬合金製工具の表面の金属結合相の選択腐食後の断面と、その際の金属結合相の主成分であるC量の変化を模式的に示したものである。選択腐食がなされた後の欠乏層内では、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存するために、C量は完全にゼロとはならない値で変動を持って推移する。金属結合相が腐食によって除去された領域から、未反応の領域ではなだらかなC量の遷移が起きており、この領域で欠乏深さを定義する必要がある。
【0024】
そこで本発明者は、図4に示す直線的な成分変化を仮定し、金属結合相の欠乏深さを定義することとした。母体のC量をm1、硬質粒子間に残る少量のC量をm2とし、m2、m1はそれぞれ一定値、m2からm1への遷移は、図4に示すように、直線的な変化が起きるものと仮定する。
【0025】
この直線的な変化が起きるC量の遷移位置を、金属結合相の欠乏深さdと定義する。これらの定義と、特性X線分析で照射するX線が計測する分析深さD、実際に特性X線分析で測定したCo量mxを用いて、Co量の質量保存で等式を作ると、以下の式(1)が得られる。
【0026】
【数1】

【0027】
式(1)を欠乏深さdで解けば、式(2)が得られる。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、硬質粒子間に残る金属結合相の濃度は、あらかじめ、走査型電子顕微鏡に付属する分析方法等でその残分を推定しておく必要がある。また分析深さは、使用する特性X線分析装置のX線強度と、分析される超硬合金の組成で定まる。
【0030】
特性X線分析装置とは、エネルギー分散型特性X線分析装置(EDS)や、波長分散型特性X線分析装置(WDS)などを指す。いずれの装置も、試料表面から放出される特性X線を検出することにより、試料の化学組成を測定する装置であり、EDSは特性X線のエネルギーを測定するものであり、WDSは特性X線の波長を測定するものである。
【0031】
EDSは、特性X線の反応領域が、深さ方向に数μmと比較的浅い一方、WDSは10μmを超える分析深さを有している。本発明においては、被分析素材が数μm程度の硬質粒子径を持つことを考えると、複数粒子分の深さが測定できる波長分散型特性X線分析装置(WDS)の方が、より望ましい分析装置であると言える。
【0032】
このような単純化された定義の欠乏深さではあるが、この欠乏深さは算術上、一義的に定まるものであり、またCo量の遷移領域と必ず交わるために、取り決めとして仕様書などにうたう場合に、大変扱いやすい定義となる。またこの測定方法は非破壊であるために、直接的に出荷検査に用いることが可能になり、同時に異常時の原因分析に用いることもできる。
【0033】
上述したように、超硬合金母体の組成m1、これと同一の母体をすべり電極に加工し、金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成mx、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成m2、および特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測する分析深さDの4つの情報から、金属結合相の欠乏深さdを算出することが可能となる。
【0034】
図5に、以上説明した、超硬合金中の表面金属結合相の欠乏深さ測定方法のフローチャートを示す。この処理を行うことにより、超硬合金の金属結合相を表面からエッチングで除去していくと、金属結合相は、硬質粒子相を網の目状に残して、トンネル状に選択腐食が進んでいくという状況下であっても、計算された腐食深さは、実際には境界があいまいな腐食前面の深さを非破壊で一義的に定義できる。
【0035】
上述した欠乏深さの計算値と実測値との対比試験を、粒子径が異なる3つの材種(細粒、中粒、粗粒)を対象として、細粒、中粒、粗粒のそれぞれについてサンプルを製作して実施した。それぞれの平均粒径は、細粒が0.6~1.0μm、中粒が2.0~4.0μm、粗粒が5.0μm以上である。実測値は、波長分散型特性X線分析装置(WDS)を用いて、数か所について実測を行い、その平均値とした。
【0036】
試験の結果、欠乏深さの計算値と実測値との差は、細粒、中粒、粗粒のいずれの場合についても、硬質粒子の粒子径の半分よりも極めて小さい値となった。硬質粒子の粒子径の半分という数値は、硬質粒子が脱落するか否かを定める境界値であると認識でき、欠乏深さの計算値と実測値との差が硬質粒子の粒子径の半分を超えると、選択腐食を行うにあたって、超硬合金によって構成された部品や工具の機能に悪影響を与えることになる。しかし、試験結果によると、欠乏深さの計算値が、実測値に対して硬質粒子の粒子径の半分よりも極めて小さい差しか生じないことから、本発明による欠乏深さの計算値の算出手法は極めて有効であることを確認できた。
【0037】
この手法を用いることにより、すべり電極を構成する超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食して、金属結合相が導通金属線と直接的に接触しない構造とするにあたって、非破壊で腐食深さを正しく算出することが可能となる。
【0038】
以下に、本発明による効果を実証するための実験結果について説明する。
具体的には、すべり電極に用いられる超硬合金の品種と、すべり電極表面の微小粗さの変化と、超硬合金の主たる導通を担う金属結合相をエッチング処理で選択除去した際のすべり電極表面からの距離とを変数として、放電耐電圧試験を行った。
【0039】
実験条件は以下の通りである。
・表1に示す3つの品種について、表面研磨肌2種(#800とラップ仕上げ)と、選択腐食有無の2種で、絶縁破壊実験を実施
【0040】
【表1】
【0041】
・仕上げ肌2条件でRaを測定
・選択腐食深さは、X線波長分光分析から計算
・絶縁破壊実験条件:常温(20℃±15℃)-常湿(45-85%)
・耐電圧評価方法:90°のテーパーで先端がR1の真鍮製電極と超硬合金製のすべり電極を、真鍮製電極の先端と超硬合金製すべり電極の摺動面を0.05mmの間隔をあけて設置し、電圧を印加して、電極間で絶縁破壊が起きた時点の電圧を測定し、耐電圧として評価する。
【0042】
図6は、超硬合金表面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像であり、(a)が研磨のままであり、(b)が選択腐食後のものである。
【0043】
図7図8に、試験結果を示す。図7(a)が本発明に関するデータであり、図7(b)が比較例に関するデータである。
試料Noで、1と7、3と9、5と11の比較から、超硬合金表面をラップ仕上げすることにより、#800に比べて、3つの品種とも耐電圧が高くなるとともに、安定化が実現している。また、試料Noで、1と2、3と4、5と6の比較から、金属結合相の選択腐食により、ラップ処理を行ったものは、大幅に耐電圧が向上している。その一方、試料Noで、7と8、9と10、11と12を比較すると、#800のように初期の肌が粗いと選択腐食による効果は現れていない。
【0044】
このことから、超硬合金表面の表面粗さを、Raで0.01μm以下のレベルにしておくことが重要であり、その状態で、超硬合金表面の金属結合相のみを選択腐食することにより、さらに顕著な効果が得られることが確認された。
【0045】
次に、超硬合金表面の選択腐食処理を行うことによるすべり電極の摩耗量についての試験結果について説明する。
図9は、超硬合金表面の選択腐食処理の有無によるすべり電極の摩耗量を、摩耗による断面積として模式的に示したものである。すべり電極は、図1にすべり電極として示すように、工作物の上下にそれぞれ配置されており、図9(a)は、パターン1(P1)についてのものであり、上側のすべり電極に対して選択腐食処理有り(「上有」と略す)の場合の摩耗断面積をXとし、下側のすべり電極に対して選択腐食処理無し(「下無」と略す)の場合の摩耗断面積をYとしている。これについての断面積比率はX/Yとなる。
【0046】
図9(b)は、パターン2(P2)についてのものであり、上側のすべり電極に対して選択腐食処理無し(「上無」と略す)の場合の摩耗断面積を1.25Xとし、下側のすべり電極に対して選択腐食処理有り(「下有」と略す)の場合の摩耗断面積を0.8Yとしている。これは、選択腐食処理による摩耗量削減の効果が20%減であるとして、この場合の断面積比率は、1.25X/0.8Y=1.5625X/Yとなる。このような設定で、(上有/下無)<(上無/下有)という結果が得られれば、選択腐食処理による摩耗量削減の効果があると考えられる。
【0047】
以上の観点に基づいて、実施した、摩耗断面積に関する試験結果を、図10図11に示す。
図10図11において、上側のすべり電極に対して選択腐食処理有り(上有)であって、下側のすべり電極に対して選択腐食処理無し(下無)のケースがパターン1(P1)である。また、上側のすべり電極に対して選択腐食処理無し(上無)であって、下側のすべり電極に対して選択腐食処理有り(下有)のケースがパターン2(P2)である。導通金属線とすべり電極は、図12(a)、(b)に示す状態で設置し、使用時間は、15時間と100時間とした。
【0048】
試験結果によると、(上有/下無)<(上無/下有)の関係を満たしており、これにより、選択腐食処理による摩耗量削減の効果が表れていることが確認できた。
【0049】
上記の試験の導通金属線とすべり電極の接触状態を、図12(a)、(b)に示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、通電加工中における摩耗の発生を抑制することができるため、長寿命化が可能な、導通金属線のすべり電極の製造方法として、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 すべり電極
2 電源
3 金属導通線
4 研磨後の平滑表面
5 金属結合相の選択腐食後の表面
6 硬質粒子
7 金属結合相
8 硬質粒子密着部に残存する金属結合相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12