(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理方法、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/02 20240101AFI20241213BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2023033143
(22)【出願日】2023-03-03
【審査請求日】2024-02-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521233231
【氏名又は名称】株式会社AGRI SMILE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大堂 由紀子
【審査官】野村 和史
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-153012(JP,A)
【文献】国際公開第2022/024850(WO,A1)
【文献】特表2021-506845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置に、
圃場の種別及び面積並びに前記圃場で栽培される植物の品目を含む第1データと、非生物的ストレスに対する耐性を高める作用を有する資材の種別及び施用量並びに施肥される肥料の種類及び
前記資材の使用により減肥される前記肥料の施肥量を含む第2データと、前記植物の収穫日を含む第3データとを取得すること、
土壌の炭素貯留量を算出する第1算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の炭素貯留量を算出すること、及び/又は、温室効果ガス排出量を算出する第2算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の温室効果ガス排出量を算出すること、
を実行させるプログラム。
【請求項2】
非生物的ストレスに対する耐性を高める作用を有する資材の種別及び施用量と、所定肥料の減肥量とを対応付ける対応情報に基づいて、前記第2データに含まれる前記資材の種別及び施用量から、前記第2データに含まれる前記肥料の施肥量を設定することを、前記情報処理装置にさらに実行させる、請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記炭素貯留量又は前記温室効果ガス排出量に基づきカーボンクレジットの価格を算出することを、前記情報処理装置にさらに実行させる、請求項1に記載のプログラム。
【請求項4】
前記植物の収穫後の圃場の土壌成分を分析することにより取得される炭素貯留量と、算出された前記炭素貯留量とを比較すること、及び/又は、前記圃場に設置されるセンサにより前記植物の収穫後に取得される温室効果ガス排出量と、算出された前記温室効果ガス排出量とを比較すること、
前記炭素貯留量及び/又は前記温室効果ガス排出量の比較結果に基づき、前記カーボンクレジットの価格を承認するか否かを決定すること、
を前記情報処理装置にさらに実行させる、請求項3に記載のプログラム。
【請求項5】
前記第2データに基づく前記圃場の土壌成分の目標値と、前記植物の収穫後の前記圃場の土壌成分の実測値とを比較すること、
前記土壌成分の比較結果に基づいて、前記カーボンクレジットの価格を承認するか否かを決定すること、
を前記情報処理装置にさらに実行させる、請求項3又は4に記載のプログラム。
【請求項6】
所定圃場の位置情報を取得すること、
前記位置情報から前記所定圃場の気候を推定すること、
前記所定圃場に対する衛星データと、他の圃場に設置されるセンサから取得されるセンサデータとの類似性に基づいて、前記他の圃場の土壌成分から前記所定圃場の土壌成分を推定すること、
推定された気候及び土壌成分に基づいて、前記所定圃場の炭素貯留量を推定すること、
を前記情報処理装置にさらに実行させる、請求項1に記載のプログラム。
【請求項7】
前記圃場の土壌成分の評価値を取得すること、
前記評価値に基づいて、前記圃場で栽培される前記植物の収穫後における、前記資材を施用しない場合の前記土壌成分の第1目標値と、前記資材を施用する場合の前記土壌成分の第2目標値とを設定すること、
前記第1目標値または前記第2目標値と、施肥前の土壌成分の実測値との差分に基づき、施肥設計を行うこと、をさらに前記情報処理装置に実行させる、請求項1に記載のプログラム。
【請求項8】
情報処理装置が、
圃場の種別及び面積並びに前記圃場で栽培される植物の品目を含む第1データと、非生物的ストレスに対する耐性を高める作用を有する資材の種別及び施用量並びに施肥される肥料の種類及び
前記資材の使用により減肥される前記肥料の施肥量を含む第2データと、前記植物の収穫日を含む第3データとを取得すること、
土壌の炭素貯留量を算出する第1算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の炭素貯留量を算出すること、及び/又は、温室効果ガス排出量を算出する第2算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の温室効果ガス排出量を算出すること、
を備える情報処理方法。
【請求項9】
圃場の種別及び面積並びに前記圃場で栽培される植物の品目を含む第1データと、非生物的ストレスに対する耐性を高める作用を有する資材の種別及び施用量並びに施肥される肥料の種類及び
前記資材の使用により減肥される前記肥料の施肥量を含む第2データと、前記植物の収穫日を含む第3データとを取得する取得部と、
土壌の炭素貯留量を算出する第1算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の炭素貯留量を算出し、及び/又は、温室効果ガス排出量を算出する第2算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の温室効果ガス排出量を算出する算出部と、
を備える情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、情報処理方法、及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素貯留農業の可視化を図る炭素貯留農業を評価するシステムが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、バイオスティミュラントと呼ばれ得る、植物の非生物的ストレスに対する耐性を高める作用を持つ資材があり、この資材を植物に与え、植物の生育を促進し、農作物の収量又は品質の向上を図る試みがなされている。バイオスティミュラントを施用することで、既存の肥料を減肥することが可能である。
【0005】
さて、従来技術では、バイオ炭を含む土壌改良資材を施用することによる農用地の炭素貯留量及び温室効果ガス排出削減量の一方又は両方を計算するが、バイオスティミュラントによる圃場への影響を評価するものではない。
【0006】
そこで、本開示の技術は、バイオスティミュラントによる圃場への影響を、客観的な指標を用いて評価することが可能な新たな仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るプログラムは、情報処理装置に、圃場の種別及び面積並びに前記圃場で栽培される植物の品目を含む第1データと、非生物的ストレスに対する耐性を高める作用を有する資材の種別及び施用量並びに施肥される肥料の種類及び施肥量を含む第2データと、前記植物の収穫日を含む第3データとを取得すること、土壌の炭素貯留量を算出する第1算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の炭素貯留量を算出すること、及び/又は、温室効果ガス排出量を算出する第2算出式に前記第1乃至第3データを入力して前記圃場の温室効果ガス排出量を算出すること、を実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、バイオスティミュラントによる圃場への影響を、客観的な指標を用いて評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る情報処理システムの概要を説明する図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る情報処理システムの構成の一例を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る情報処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る情報処理装置の一例を示す図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係るパラメータ(その1)の一例を示す図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係るパラメータ(その2)の一例を示す図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る入力パラメータの一例を示す図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る入力パラメータを入力した場合の計算過程を示す図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る栽培に関する時期やデータ取得を行うタイミングの一例を示す図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係る検証例1を説明する図である。
【
図11】本開示の一実施形態に係る検証例2を説明する図である。
【
図12】本開示の一実施形態に係る情報処理装置の評価処理の一例を示すフローチャートである。
【
図13】本開示の一実施形態に係る施肥設計における処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】本開示の一実施形態に係る検証処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、開示技術の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0011】
[実施形態]
<システム>
まず、本開示の技術において圃場に施用される資材について説明する。この資材は、バイオスティミュラント(以下、「BS」ともいう。)とも呼ばれる農業資材であり、植物や土壌により良い生理状態をもたらす様々な物質や微生物を含む生物刺激剤である。この資材は、植物やその周辺環境が本来持つ自然な力を活用することにより、植物の健全さ、ストレスへの耐性、収量と品質、収穫後の状態及び貯蔵などについて、植物に良好な影響を与える可能性があるものである。
【0012】
BSは通常、天然成分であったり、動植物由来の抽出物であったり、微生物起源の代謝産物などから作られる。BSはこれらの単体または複合物でもよい。また、BSは、農薬等と異なり、非生物的ストレスを緩和する効果のある資材を含む。
【0013】
BSの効果としては、例えば、活性酸素の抑制、光合成の活性化、開花・着果の促進、蒸散のコントロール、浸透圧の調節、根圏環境の改善、根量の増加・根の活性向上、などがあげられるが、全ての効果を有するというわけではない。
【0014】
次に、
図1及び
図2を用いて、本開示システムを説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る情報処理システム1の概要を説明する図である。
図1に示す例では、BSが施用される圃場に対し、植物の生産者から入力等される地上データAが、生産者等が利用する情報処理装置20から、情報処理システム1の管理者等が利用する情報処理装置(サーバ)10に送信される。また、圃場に設置されるセンサ40から取得される地上データBが、情報処理装置(サーバ)10に送信される。
【0015】
地上データAは、栽培に関する情報であり、例えば、圃場の栽培(生産)に関する情報や、肥料やBSに関する情報、植物の収穫に関する情報を含んでもよい。地上データBは、圃場の土壌や周辺環境に関する情報や、植物の品質に関する情報を含んでもよい。
【0016】
後述するように圃場の炭素貯留量等を推定するために、情報処理装置10は、各衛星50から衛星データを取得してもよい。また、情報処理装置10は、圃場から採取した土壌による植物の生産前又は生産後に土壌解析が行われ、解析値を入力されることで取得してもよいし、解析装置でもよい情報処理装置30から取得してもよい。
【0017】
情報処理装置10は、取得した各データを用いて、BSが施用される場合の圃場に対する影響を客観的に評価する。例えば、情報処理装置10は、圃場や植物、肥料などに関するデータを取得することで炭素貯留量や温室効果ガス排出量を算出したり、施肥設計を行ったり、カーボンクレジットの価格を仮で算出したり、栽培データや土壌分析による実測値からカーボンクレジットの価格の検証をしたりする。
【0018】
図2は、本開示の一実施形態に係る情報処理システム1の構成の一例を示す図である。
図2に示すとおり、情報処理システム1は、情報処理装置10と、植物の生産者等が利用する各情報処理装置20A、20B(以下、「各情報処理装置20」とも表記する。)と、圃場の土壌成分を解析したり、解析後の解析値を入力したりする各情報処理装置30A、30B(以下、「各情報処理装置30」とも表記する。)と、圃場に設置される各センサ40と、衛星データを送信する各衛星50とを含み、情報処理システム1内の各装置は、ネットワークNを介して相互にデータの送受信が可能である。
【0019】
例えば、
図2に示す情報処理装置10は、例えばパーソナルコンピュータ、サーバ装置などであり、情報処理装置20、30は、例えばパーソナルコンピュータ、スマートフォン等の携帯端末、タブレット端末などである。各情報処理装置は、それぞれ第nの情報処理装置(n=1,2,3・・・)と表記し、それぞれを区別してもよい。なお、情報処理装置30は、土壌成分を解析する解析装置でもよい。
【0020】
<構成>
図3は、本開示の一実施形態に係る情報処理装置10の構成の一例を示す図である。
図4は、本開示の一実施形態に係る情報処理装置20の構成の一例を示す図である。以下、各装置の処理について説明する。
【0021】
情報処理装置10は、1つ又は複数のプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)110、1つ又は複数のネットワーク通信インタフェース120、メモリ130、ユーザインタフェース150及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス170を含む。
【0022】
ユーザインタフェース150は、ディスプレイ、及び入力装置(キーボード及び/又はマウス、又は他の何らかのポインティングデバイス等)を含むが、必ずしも情報処理装置10に設けられる必要はなく、設けられる場合は外部装置として接続されてもよい。
【0023】
メモリ130は、例えば、DRAM、SRAM、他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリ(主記憶装置)である。また、メモリ130は、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ(補助記憶装置)でもよい。
【0024】
また、メモリ130は、プログラム等を記憶した、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記録媒体でもよい。また、メモリ130は、主記憶装置(メモリ)又は補助記憶装置(ストレージ)のいずれかでもよく、あるいは両方を備えてもよい。
【0025】
また、メモリ130の他の例として、プロセッサ110から遠隔に設置される1つ又は複数の記憶装置でもよい。ある実施形態において、メモリ130はプロセッサ110により実行されるプログラム、モジュール及びデータ構造、又はそれらのサブセットを格納する。
【0026】
メモリ130は、情報処理システム1により用いられるデータを記憶する。例えば、メモリ130は、圃場や植物に関する栽培基本情報(以下「第1データ」とも表記する。)や、資材に関する育成情報(以下「第2データ」とも表記する)や、植物の収量を含む収穫情報(以下「第3データ」とも表記する)や、土壌成分の分析結果や、衛星データなどの情報/データを記憶する。
【0027】
プロセッサ110は、メモリ130に記憶されるプログラムを実行することで、例えば、プログラムに含まれる各命令を実行することで、本開示の処理を制御する制御部111を構成する。
【0028】
制御部111は、本開示の処理を実行するため、取得部112、算出部113、設定部114、検証部115、推定部116、設計部117、出力部118の処理を制御する。
【0029】
取得部112は、圃場の種別及び面積並びに圃場で栽培される植物の品目を含む栽培基本情報(第1データ)と、非生物的ストレスに対する耐性を高める作用を有する資材の種別及び施用量並びに施肥される肥料の種類及び施肥量を含む育成情報(第2データ)と、植物の収穫日を含む収穫情報(第3データ)とを取得する。
【0030】
例えば、取得部112は、圃場で植物を生産する生産者が情報処理装置20を用いて入力した栽培基本情報を、情報処理装置20から取得する。情報処理装置20は、本件システムに連携するアプリケーションをインストールし、このアプリケーションを通して栽培基本情報を情報処理装置10に送信してもよい。
【0031】
栽培基本情報は、例えば、圃場で栽培される植物の品目、栽培面積、土地利用区分(種別)、地点(緯度、経度などの位置情報)、気温、土壌温度、土壌分類などのデータを含んでもよい。なお、取得部112は、気温、土壌温度、土壌分類について地点から推定したり、他のデータベースから取得したりしてもよい。
【0032】
また、取得部112は、生産者の入力等により設定された育成情報を、情報処理装置20から取得してもよい。育成情報は、農薬又は肥料の商品名、種類、使用量、散布日などのデータ、及び、BSの商品名、種類、使用量、散布日などのデータを含んでもよい。
【0033】
また、取得部112は、生産者の入力等により設定された収穫情報を、情報処理装置20から取得してもよい。収穫情報は、植物の収量、生産量、収穫日などのデータを含む。なお、植物は、農業用地で栽培される作物、花などの直物を含む。
【0034】
算出部113は、土壌の炭素貯留量を算出する第1算出式に、第1乃至第3データを入力して圃場の炭素貯留量を算出すること、及び/又は、温室効果ガス排出量を算出する第2算出式に、第1乃至第3データを入力して圃場の温室効果ガス排出量を算出する。
【0035】
例えば、算出部113は、炭素分について、ローザムステッドカーボンモデルを利用して所定の算出式に各データを入力して炭素貯留量、及び/又は温室効果ガス排出量を算出してもよい。
【0036】
炭素貯留量=SOC量(土壌有機炭素量)=ΣSOC(t)=ΣtY×(ΔPd+ΔPr)・・・式(1)
ΔPr=Pr(t-1)-Pr(t)(分解減少するのでPr(t-1)>Pr(t))
=Pr(t-1)×(1-e‐mwckΔt)・・・式(2)
ΔPd=Pd(t-1)-Pd(t)(分解減少するのでPd(t-1)>Pd(t))
=Pd(t-1)×(1-e‐mwckΔt)・・・式(3)
炭素のGHG(GreenHouse Gas)排出量=ΣCO2(t)=ΣtX×(ΔPd+ΔPr)・・・式(4)
窒素のGHG排出量=ΣN2O(t)=ΣtΔN・・・式(5)
ΔN=N(t-1)-N(t)(分解減少するのでN(t-1)>N(t))
=N(t-1)×(1-e‐mwckΔt)・・・式(6)
GHG排出量=炭素のGHG排出量+(窒素のGHG排出量×GWP)・・・式(7)
例えば、式(1)が第1算出式であり、式(4)~(7)が第2算出式である。
【0037】
式(1)~(7)の各係数
Pd/P+Pr/P=1:土地利用区分からd=Pd/P、r=Pr/Pを設定(第1データ)
Pd=d×P、Pr=r×P
t:時間(第3データ)
P:有機物、残渣量(第2データ又は第3データ)
Pd:Pのうち、分解性植物DPMの量 d=Pd/P
Pr:Pのうち、分解性植物RPMの量 r=Pr/P
X:分解量のうち、CO2量の割合
Y:分解量のうち、炭素貯留量の割合
M:土壌温度の係数
W:土壌水分量の係数
C:土壌被覆量の係数
K:分解速度の係数
N:有機物・化学肥料の窒素量(第2データ)
GWP:N2Oの地球温暖化係数
上記係数のうち、入力値によらないものは予め設定されていてもよい。例えば、算出部113は、Nについて公的機関のデータベース(例えば、https://soilco2.rad.naro.go.jp/q12)、GWPについて公的機関のデータベース(例えば、https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/guideline.pdf)から取得可能である。
【0038】
例えば、DPM(易分解性植物体)とRPM(難分解性植物体)は土地利用区分により異なる。具体例として、区分が作物、牧草の場合、DPMが59%、RPMが41%、区分が野草、灌木の場合、DPMが40%、RPMが60%、区分が樹木の場合、DPMが20%、RPMが40%、区分が堆肥の場合、DPMが49%、RPMが49%(HUM2%)である。
【0039】
例えば、算出部113は、施用されるBS、栽培される作物などから有機物、残渣量のパラメータPを設定し、パラメータPからPdとPrを算出する。また、算出部113は、時間tについて、有機物(例、BS等)を圃場に投入してから所望の時間を算出する。例えば、先月の炭素貯留量や、炭素のGHG排出量が既知であれば、Δt=今月-先月となり、tは月単位となる。また、第3データとして、収穫日を用いる理由は、収穫前に算出した推定値と、収穫後に取得した実際の値を比較するからである(例えば
図10参照)。例えば、ある植物の栽培において、1回目の収穫では3月に種まきをして6月に収穫し、2回目の収穫では7月に種まきして11月に収穫するとする。このとき、算出部113は、5月に炭素貯留量を算出する際に、Δt=6月(収穫日)-5月を算出して6月時点の炭素貯留量の推定値(A)を算出する。また、算出部113は、6月に土壌サンプルが採取されて装置を用いて炭素貯留量が測定された6月収穫後の測定値(B)を取得して、推定値Aと測定値Bとを比較してもよい。
【0040】
以上の処理により、BSによる圃場への影響を、客観的な指標を用いて評価することができる。例えば、炭素貯留量やGHG排出量を求め、これらをBSによる圃場への影響を表す客観的な指標の一つして利用することができる。
【0041】
また、算出部113は、BSを施肥しない場合の肥料の種別、施肥料を用いてGHG排出量を算出し、BSの施肥が無い場合のGHG排出量からBSの施肥がある場合のGHG排出量を減算し、これをGHG排出削減量として算出してもよい。これにより、BSの施肥の有無でGHGの排出をどれだけ削減できるかを提示することなどが可能になる。
【0042】
また、算出部113は、上述の式(4)~(7)を用いる以外にも、以下の計算式でGHG排出量を算出することが可能である。
炭素のGHG排出量=C×Ec・・・式(8)
窒素のGHG排出量=N×En・・・式(9)
GHG排出量=炭素のGHG排出量+(窒素のGHG排出量×GWP)・・・式(7)
C:有機物の炭素量
Ec:有機物のCO2排出量
N:有機物・化学肥料の窒素量
En:化学肥料によるN2O排出係数
GWP:N2Oの地球温暖化係数
なお、Ec及びEnは公的機関のデータベースから取得可能である(例えば、https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/files/calc/itiran_2020_rev.pdf)。
【0043】
また、設定部114は、所定資材の種別及び施用量と、所定肥料の低減量とを対応付ける対応情報に基づいて、第2データに含まれる資材の種別及び施用量から、第2データに含まれる肥料の施肥量を設定する。例えば、予め実験した結果に基づく、BSの資材の種別ごとに、BSの施肥量と、減肥可能な肥料と、この肥料に対する低減量又は減肥後の施肥量とを関連付けた対応情報が、メモリ130に記憶される。設定部114は、取得部112により取得されたBSの種別、施肥量に基づいて対応情報を参照し、減肥後の肥料の施肥量を設定してもよい。例えば、対応情報は、赤パプリカのBSを施用する場合、従来の肥料を所定%削減できるなどが対応付けられる。
【0044】
また、上述の対応情報に関する減肥量は、後述する
図5に示す土作りの情報に基づいてもよい。例えば、もともと過剰に肥料が投入されている地域と、限界まで減肥対策がされている地域とでは、同じBSの施用量でも減肥量が異なる。なお、土作りの情報は、第1データに含まれてもよい。
【0045】
以上の処理により、BSを用いる場合の肥料の低減量を容易に求めることが可能であり、炭素貯留量やGHG排出量をより簡便に算出することが可能になる。
【0046】
また、算出部113は、炭素貯留量又は温室効果ガス排出量に基づきカーボンクレジットの価格を算出してもよい。例えば、算出部113は、BSを施用することによる炭素貯留量や肥料の低減量への影響から、GHG排出削減量を算出することができるため、このGHG排出削減量を用いてカーボンクレジットの価格を仮で算出してもよい。算出式は、例えば、J-クレジット制度や政府機関などにより定められた公知の算出式を用いて、GHG排出削減量からカーボンクレジットの価格を算出してもよい。
【0047】
以上の処理により、BSを施用することにより削減できるGHG排出量をカーボンクレジットの価格として算出し、BSの利用によるメリットを生産者等に提示することなどが可能になる。
【0048】
また、検証部115は、植物の収穫後の圃場の土壌成分を分析することにより取得される炭素貯留量と、算出された炭素貯留量とを比較すること、及び/又は、圃場に設置されるセンサ40により植物の収穫後に取得される温室効果ガス排出量と、算出された温室効果ガス排出量とを比較する。
【0049】
例えば、検証部115は、植物の収穫後の圃場の土壌成分が分析されて求められた炭素貯留量を情報処理装置30から取得し、分析された炭素貯留量と、算出部113により算出された炭素貯留量とを比較する。また、検証部115は、炭素貯留量の比較の結果、それぞれの差分値が所定範囲内であるか否かを判定してもよい。
【0050】
また、検証部115は、圃場に設置されたセンサ40(例、CO2センサ)により、植物の収穫後に検知された温室効果ガスを取得し、取得された温室効果ガス排出量と、算出部113により算出されたGHG排出量とを比較する。また、検証部115は、GHG排出量の比較の結果、それぞれの差分値が所定範囲内であるか否かを判定してもよい。
【0051】
検証部115は、炭素貯留量及び/又は温室効果ガス排出量の比較結果に基づき、生産者のデータの正当性、栽培の適否を検証し、カーボンクレジットの価格を承認するか否かを決定してもよい。例えば、検証部115は、炭素貯留量及び/又はGHG排出量の比較結果が、いずれの差分値も所定範囲内であれば、生産者が適切にデータを入力又は設定し、適切に植物が栽培されたと判定し、仮で算出されたカーボンクレジットの価格が適切なものとして承認をしてもよい。
【0052】
以上の処理により、検証部115は、生産者のデータの正当性、栽培の適否を検証し、収穫前に仮で算出されたカーボンクレジットの価格に対して、客観的なデータを用いて承認するか否かを決定することが可能になる。
【0053】
また、検証部115は、第2データに基づく圃場の土壌成分の目標値と、植物の収穫後の圃場の土壌成分の実測値とを比較してもよい。例えば、検証部115は、BSが施用され、肥料が施肥される栽培前の圃場のデータから算出される土壌成分の目標値と、栽培後の土壌成分を解析して取得される実測値とを比較してもよい。栽培後の土壌成分は、情報処理装置30において解析又は入力され、例えばN(窒素)、P(リン)、K(カリウム)、細菌、pHなどが取得される。
【0054】
検証部115は、土壌成分の比較結果に基づいて、カーボンクレジットの価格を承認するか否かを決定してもよい。例えば、検証部115は、目標値と実測値との差分値が所定範囲内であれば、仮で算出されたカーボンクレジットの価格が適切なものとして承認をしてもよい。
【0055】
以上の処理により、BSを利用して栽培される圃場の土壌成分の目標値と実測値とに基づいて、仮で算出されたカーボンクレジットの価格が適切であるか否かを客観的なデータに用いて決定することが可能になる。
【0056】
次に、本開示システムの炭素貯留量の推定処理について説明する。例えば、センサ40を圃場に設けられない場合であっても、衛星データや気候等による土壌成分の類似性から、炭素貯留量が推定可能である。
【0057】
炭素貯留量の推定に関し、取得部112は、所定圃場の位置情報を取得する。例えば、取得部112は、推定したい圃場の緯度、経度などの位置情報を取得する。
【0058】
推定部116は、所定圃場の位置情報から、所定圃場の気候を推定する。例えば、推定部116は、気象庁の公開情報を参照し、所定圃場の月ごとの降水量などを推定する。
【0059】
また、推定部116は、所定圃場に対する衛星データを衛星50から取得する。衛星データは、例えば、波長域や反射光を含む。推定部116は、所定圃場で取得される衛星データに含まれる波長域と反射光と、センサ40が設置された他の圃場で取得される衛星データに含まれる波長域と反射光との類似性に基づいて、他の圃場の土壌成分から所定圃場の土壌成分を推定してもよい。推定された土壌成分は、N、P、K、炭素などの土壌化学性、水分量、pH、EC(電気伝導度)、通気性、硬さなどの土壌物理性、菌種別、菌含有率などの土壌生物性を含んでもよい。
【0060】
推定部116は、推定された気候及び土壌成分に基づいて、所定圃場の炭素貯留量を推定してもよい。例えば、推定部116は、算出部113に、推定された気候や土壌成分に基づくパラメータを用いて炭素貯留量やGHG排出量を算出するように指示する。推定部116は、算出部113により算出された炭素貯留量やGHG排出量を、推定された炭素貯留量やGHG排出量として取得してもよい。
【0061】
以上の処理により、センサ40が設置されていない圃場でも、センサ40が設置された圃場の土壌成分を利用することで、炭素貯留量やGHG排出量を推定することが可能になる。
【0062】
次に、本開示システムの施肥設計について説明する。施肥設計は、施肥前の土壌成分が取得され、BSを施用する場合と、施用しない場合とで、取得された土壌成分がどのように変化するかの目標値がそれぞれ設定される。次に、これらの目標値の差分からBSをどれくらい利用したらよいかなどの施肥設計が行われる。
【0063】
施肥設計に関し、取得部112は、圃場の土壌成分の評価値を取得する。例えば、取得部112は、施肥前の圃場の土壌成分を解析した情報処理装置30またはセンサ40から、土壌成分の評価値を取得する。評価値は、例えば、土壌化学性に含まれるN、P、K、炭素、その他の元素や、土壌物理性に含まれる水分量、pH、EC、通気性、硬さなど、土壌生物性に含まれる菌種別、菌含有率などを含んでもよい。
【0064】
設計部117は、取得された評価値に基づいて、圃場で栽培される植物の収穫後における、BSを施用しない場合の土壌成分の第1目標値と、BSを施用する場合の土壌成分の第2目標値とを設定する。次に、設計部117は、第1目標値及び第2目標値と、それぞれの実測値との差分に基づき、施肥設計を行う。
【0065】
例えば、設計部117は、次のようにして施肥設計を行う。
(BS併用なし)
施肥量F=ΣXF(x)=T(x)-A(x)・・・式(10)
(BS併用あり)
施肥量F=ΣXFBS(x)=TBS(x)-ABS(x)・・・式(11)
x:元素の種類
A(x):土壌に含まれている元素xの実測量
T(x):土壌に含まれるべき元素xの目標量(第1目標値)
F(x):元素xの施肥量
ABS(x):BS施用時の土壌に含まれている元素xの実測量
TBS(x):BS施用時の土壌に含まれるべき元素xの目標量(第2目標値)
FBS(x):BS施用時の元素xの施肥量
【0066】
ここで、BSを施用することで肥料は減肥できるので、FBS<Fが成り立つ。設計部117は、第1目標値及び第2目標値と、それぞれの実測値との差分を以下のとおり算出する。
(BS併用なし)
目標値と実測値との差分=T(x)t-1-A(x)t<ΔF(x)・・・式(12)
(BS併用あり)
目標値と実測値との差分=TBS(x)t-1-ABS(x)t<ΔFBS(x)・・・式(13)
T:時間
x:元素の種類
A(x):土壌に含まれている元素xの実測量
T(x):土壌に含まれるべき元素xの目標量
ΔF(x):許容誤差
ABS(x):BS施用時の土壌に含まれている元素xの実測量
TBS(x):BS施用時の土壌に含まれるべき元素xの目標量
ΔFBS(x):BS施用時の許容誤差
【0067】
設計部117は、施肥前に設定された目標値と、施肥後に土壌成分を解析して求められた実測値との差分が、許容誤差内になるように、設定された目標値から使用する肥料の施肥量を決定してもよい。また、設計部117はBS併用の有無により、どれくらい肥料の施肥量が異なるかを生産者に提示することも可能である。例えば、設計部117は、BS併用の有無それぞれの場合の肥料の施肥量を、生産者が利用する情報処理装置20または30に送信するように制御してもよい。
【0068】
以上の処理により、本開示システムによれば、BSの併用の有無による施肥設計を行うことができ、生産者はBS併用の有無による肥料の施肥量の違いを把握し、BSを利用するか否かの判断を支援することが可能になる。
【0069】
出力部118は、制御部111により算出、設定、設計等された値を外部の装置に出力する。例えば、出力部118は、算出部113により算出された炭素貯留量及び/又は温室効果ガス排出量を生産者が利用する情報処理装置20に送信してもよい。また、出力部118は、算出部113により算出されたカーボンクレジットの価格を情報処理装置20に送信してもよい。また、出力部118は、設計部117により設計された肥料の施肥量を情報処理装置20に送信してもよい。
【0070】
図4は、本開示の一実施形態に係る情報処理装置20の一例を示す図である。情報処理装置20は、1つ又は複数のプロセッサ(例、CPU)210、1つ又は複数のネットワーク通信インタフェース220、メモリ230、ユーザインタフェース250、及びこれらの構成要素を相互接続するための1つ又は複数の通信バス270を含む。
【0071】
ユーザインタフェース250は、ディスプレイ、及び入力装置(キーボード及び/又はマウス、又は他の何らかのポインティングデバイス等)を含む。
【0072】
メモリ230は、例えば、DRAM、SRAM、他のランダムアクセス固体記憶装置などの高速ランダムアクセスメモリ(主記憶装置)である。また、メモリ230は、1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置、光ディスク記憶装置、フラッシュメモリデバイス、又は他の不揮発性固体記憶装置などの不揮発性メモリ(補助記憶装置)でもよい。また、メモリ230は、プログラム等を記憶した、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記録媒体でもよい。また、メモリ230は、主記憶装置(メモリ)又は補助記憶装置(ストレージ)のいずれかでもよく、あるいは両方を備えてもよい。
【0073】
メモリ230は、情報処理システム1により用いられるデータやプログラムを記憶する。例えば、メモリ230は、情報処理システム1における携帯端末用のアプリケーションプログラムなどを記憶する。
【0074】
プロセッサ210は、メモリ230に記憶されるプログラムを実行することで、BSの評価等に関する処理をクライアント側で制御する制御部212を構成する。例えば、制御部212は、ウェブブラウザ又はBS評価等に関するアプリケーションなどを含む。
【0075】
ウェブブラウザは、情報処理装置10により提供されるプラットフォームのウェブページの閲覧を可能にする。ウェブブラウザは、適宜ウェブページの表示、遷移をし、情報の提供、データの送受信等を行う。例えば、ウェブブラウザは、ウェブページを用いて、ユーザにより設定又は入力された情報を情報処理装置10に送信する。送信される情報は、例えば、栽培基本情報、育成情報、収穫情報などの情報である。
【0076】
また、制御部212は、インストールされたクライアント用のアプリケーションの実行により、本開示システムのプラットフォームが提供する機能の実行を可能にしてもよい。制御部212は、本開示の処理をクライアント側で実行するため、取得部213、表示制御部214、出力部215を有する。
【0077】
取得部213は、ユーザインタフェース250を用いてユーザにより設定又は入力されたデータ、例えば、栽培基本情報、育成情報、収穫情報などを取得する。
【0078】
表示制御部214は、例えば、栽培基本情報、育成情報、収穫情報などの入力画面や、情報処理装置10により算出された炭素貯留量やGHG排出量、カーボンクレジットの価格などを画面に表示制御する。
【0079】
出力部215は、取得部213に取得された各情報を、ネットワーク通信インタフェース220を介して情報処理装置10に出力する。
【0080】
また、情報処理装置30は、
図4に示す構成を有し、さらに、圃場の土壌成分を解析する解析部を備えてもよい。情報処理装置30の取得部により土壌成分のデータが取得され、解析部により土壌成分の解析が行われ、出力部により解析結果が情報処理装置10に送信される。
【0081】
<データ例>
図5は、本開示の一実施形態に係るパラメータ(その1)の一例を示す図である。
図5に示す各パラメータは、「初期設定」、「栽培基本情報」、「土作り」の項目に分類される。例えば、「初期設定」のパラメータは、公的機関のDBから設定される地球温暖化係数CO
2、N
2O、肥料の排出係数を含み、センサ40や圃場の位置情報から推定される土壌温度の係数、土壌水分量の係数、土壌被覆率の係数を含む。
【0082】
「栽培基本情報」のパラメータは、植物の品目、栽培面積、地点(位置情報)、気温、土壌温度、土壌水分量、土壌分類などを含む。「土作り」は、「土壌化学性」、「土壌物理性」、「土壌生物性」、「衛星画像」に分類される。「土壌化学性」のパラメータは、N、P、K、炭素量、その他微量元素を含む。「土壌物理性」のパラメータは、水分量、pH、EC(電気伝導度)、通気性、硬さを含む。「土壌生物性」のパラメータは、菌種別、菌含有率を含む。「衛星画像」のパラメータは、波長域、反射光を含む。また、「土作り」の情報も、栽培基本情報に含められてもよい。
【0083】
図6は、本開示の一実施形態に係るパラメータ(その2)の一例を示す図である。
図6に示す各パラメータは、「育成」、「収穫」、「収穫後」に分類される。「育成」はさらに、「農薬」、「肥料」、「バイオスティミュラント」に分類される。
【0084】
「農薬」、「肥料」及び「バイオスティミュラント」全てのパラメータは、商品名、種類、使用量、散布日、散布回数(散布日から算出可能)を含む。
【0085】
「収穫」のパラメータは、収量として、収量、収穫日を含み、品質を含む。また、「品質」のパラメータは、糖度、水分量、アミノ酸、ビタミン、選果ランクなどを含み、「収穫後」の「衛星画像」は、波長域や反射光を含む。
【0086】
<算出例>
次に、上述の式(1)~(4)を用いて、算出部113が炭素貯留量、GHG排出量を算出する例について説明する。
図7は、本開示の一実施形態に係る入力パラメータの一例を示す図である。例えば、算出部113には、初期設定として、以下の係数が設定される。
CO
2の地球温暖化係数:1
N
20の地球温暖化係数:298
水稲の肥料のN
2O排出係数:0.0049(tN
2O/tN)
また、算出部113は、土壌温度、土壌水分量、土壌被覆率の係数を1に設定する。
【0087】
算出部113は、取得部112により取得された栽培基本情報、育成情報、収穫情報(
図7参照)を用いて式(1)~(4)に入力して炭素貯留量、GHG排出量を算出する。
図8は、本開示の一実施形態に係る入力パラメータを入力した場合の計算過程を示す図である。
【0088】
算出部113は、パラメータPとしてBSの施肥量を入力し、土地利用区分の作物からパラメータd(59%)、r(41%)を設定し、式(2)、式(3)を用いてPd(45.5974kg)及びPr(31.68633kg)を算出する。また、算出部113は、1か月後の分解物として、P-(Pd+Pr)=6.716269kgを算出する。実際は分解過程の計算において、パラメータ(M,W,C)のチューニングが入るが、ここでは簡単にするため、分解最終までいったと過程して係数を全て1としている。
【0089】
次に、野菜の炭素率は20~40%と言われているため、BSで用いられるパプリカの炭素率を40%と仮定すると、分解が最終まで行われた場合の分解物の炭素量Cは、84kg×0.4=33.6kgである。これをトン(t)に変換すると、0.0336tになる。0.0336tは、式(1)のΔPd+ΔPrに相当する。
【0090】
算出部113は、土壌の粘土含有量が23%の場合、CO2/土壌の全炭素量の比(X/Y=3.51)を特定する。ここで、分解の元となる炭素が、分解されてCO2と土壌への炭素貯留となるため、Y=1-Xであることから、1=1/Y-X/Yであり、X/Y=3.51を代入すると、1=1/Y-3.51となり、Y=1/(1+3.51)となる。算出部113は、式(1)を用いて、ΔPd+ΔPrに相当する0.0336にY(=1/(1+3.51)を乗算して、炭素貯留量を算出する。CO2排出量として、(3.51/(3.51+1))×0.0336=0.026149889t/haを算出する(式(1))。また、算出部113は、炭素貯留量として、(1/(3.51+1))×0.0336=0.007450111t/haを算出する(式(4))。
【0091】
次に、Nは使用する肥料の施肥量20kgであり、N2Oの排出量は、N(20kg)×N2O排出係数(0.0049)×44/28=0.154kg/100(栽培面積)aである(式(9))。44/28は、N2Oに含まれる窒素重量(14×2=28)をN2O重量(14×2+16=44)に変換する係数である。算出部113は、N2Oの排出量をCO2に換算するため、0.154×N2Oの地球温暖化係数(298)/1000(トン換算)=0.045892t/haを算出する。
【0092】
最終的に、算出部113は、GHG排出量として、CO2排出量+N2O排出量=0.072041889t/haを算出する。
【0093】
<検証の具体例>
次に、検証部115による検証のタイミング等について具体例を用いて説明する。
図9は、本開示の一実施形態に係る栽培に関する時期やデータ取得を行うタイミングの一例を示す図である。
図9に示す例では、BSの施用及び肥料の施肥、植物の種まき、栽培、収穫を1つとするサイクルが2回記載されているが、この2サイクルに限られない。
【0094】
センサ40は、圃場に設けられたセンサであり、施肥の前後でデータ取得が行われる。センサ40は、例えば土壌成分、例えば
図5に示す「土作り」の各パラメータを取得し、情報処理装置10に送信する。
【0095】
生産者は、情報処理装置20を利用して栽培基本情報を入力し、情報処理装置20は、入力又は初期設定されている栽培基本情報を情報処理装置10に送信する。
【0096】
また、衛星50からの衛星データは、センサ40からの代替データとして使用されるため、センサ40による取得タイミングで衛星データが取得されるとよい。また、栽培の様子や収穫の様子なども衛星画像から取得できるため、栽培、収穫のタイミングで衛星データが取得されてもよい。
【0097】
図10は、本開示の一実施形態に係る検証例1を説明する図である。
図10に示す例では、施肥時の炭素貯留量の推定値と、植物の収穫後の炭素貯留量の実測値との差を検証する例である。例えば1回目の施肥設計において、算出部113は、生産者から入力された栽培基本情報等と式(1)とを用いて炭素貯留量の推定値を算出する。
【0098】
次に、1回目の植物の収穫後に、検証部115は、センサ40から計測された土壌成分を用いて特定される炭素貯留量の実測値と、算出された炭素貯留量の推定値とに乖離がないかを検証する。例えば、実測値と推定値との間に大きな差がある場合、検証部115は、乖離があるか否かを判定する閾値を調整してもよい。
【0099】
図11は、本開示の一実施形態に係る検証例2を説明する図である。
図11に示す例では、施肥設計時の土壌成分の目標値と、施肥後の土壌成分の実測値との差を検証する例である。例えば、本検証は、栽培のサイクルごとに行われる。
【0100】
算出部113は、BSを肥料と併用する場合、
図5に示す「土作り」に含まれる土壌成分の各パラメータの目標値を、過去の土壌成分、BSの種類や施用量、及び肥料の種類や施肥量に基づいて推定する。次に、実際に施用や施肥を行った後に、検証部115は、センサ40から計測された土壌成分の実測値と、算出された土壌成分の推定値とに乖離がないかを検証する。例えば、実測値と推定値との間に大きな差がある場合、検証部115は、乖離があるか否かを判定する閾値を調整してもよい。
【0101】
<処理手順>
次に、情報処理システム1の各処理について説明する。
図12は、本開示の一実施形態に係る情報処理装置10の評価処理の一例を示すフローチャートである。
【0102】
ステップS102において、情報処理装置10の取得部112は、
図7に示す初期設定に含まれるパラメータの設定値を取得する。
【0103】
ステップS104において、情報処理装置10の取得部112は、栽培基本情報、育成情報などを取得する。
【0104】
ステップS106において、情報処理装置10の算出部113は、取得部112により取得された各パラメータを用いて炭素貯留量及び/又はGHG排出量を算出する。また、算出部113は、GHG排出量を用いてカーボンクレジットの価格を仮で算出してもよい。
【0105】
ステップS108において、情報処理装置10の設計部117は、施用されるBSや施肥される肥料に基づいて、施肥設計を行う。
【0106】
ステップS110において、情報処理装置10の検証部115は、算出部113により算出されたカーボンクレジットの推定価格について検証処理を行う。例えば、検証部115は、植物の収穫後の土壌成分を解析することにより得られる炭素貯留量などの実測値と、算出部113により算出される炭素貯留量の推定値との比較、センサの計測値等に基づくGHG排出量の実測値と、算出部113により算出されたGHG排出量の推定値とを比較することにより検証処理を行う。
【0107】
ステップS112において、情報処理装置10の検証部115は、比較結果の差分値(誤差)が閾値(例、0.2%)以下であれば、算出されたカーボンクレジットの価格を承認してもよい。閾値は、国内の非黒ボク土の炭素貯留量の経年変化の実測値に基づいて決定されてもよい。また、閾値の設定には、取得される栽培に関するデータが1サイクル又は1年間以上あることを条件としてもよい。
【0108】
図13は、本開示の一実施形態に係る施肥設計における処理の一例を示すフローチャートである。ステップS202において、情報処理装置10の取得部112は、実際の土壌を解析して得られた施肥前の土壌成分を取得する。
【0109】
ステップS204において、設計部117は、取得された施肥前の土壌成分を評価し、例えばP、N、Kなどの値を取得する。
【0110】
ステップS206において、設計部117は、BSを併用しない場合に、施肥した後の土壌成分の目標値を設定する。
【0111】
ステップS208において、設計部117は、BSを併用する場合に、施肥した後の土壌成分の目標値を設定する。
【0112】
ステップS210において、設計部117は、BSを併用しない場合の土壌成分の目標値と、施肥前の土壌成分の実測値との差分、また、BSを併用する場合の土壌成分の目標値と、施肥前の土壌成分の実測値との差分を算出する。これにより、BSを併用することで肥料を減肥できるので、どのくらい肥料を低減できるかを生産者等は把握することができる。
【0113】
ステップS212において、設計部117は、土壌成分の差分値を用いて、目標値との差を埋めるための施肥設計を行う。例えば、設計部117は、BSの施用量及び肥料の施肥量などを決定し、施肥設計を行う。
【0114】
図14は、本開示の一実施形態に係る検証処理の一例を示すフローチャートである。
図14に示す処理は、
図12に示すステップS110の処理の具体例である。なお、以下に示すステップS302A~306Aと、ステップS302B~306Bとは、並列して処理することが可能である。
【0115】
ステップS302Aにおいて、情報処理装置10の検証部115は、収穫後の実際の土壌を解析して得られた土壌成分から特定される炭素貯留量を取得する。また、検証部115は、圃場に設置されるガスセンサにより計測されるGHG排出量を取得してもよい。
【0116】
ステップS304Aにおいて、検証部115は、収穫後の炭素貯留量の実測値と、施肥前に算出された炭素貯留量の推定値とを比較する。また、検証部115は、施肥後のGHG排出量の実測値と、施肥前に算出された炭素貯留量の推定値とを比較してもよい。
【0117】
ステップS306Aにおいて、検証部115は、炭素貯留量及び/又はGHG排出量の比較結果(差分値)が閾値以内であるか否かを判定する。
【0118】
ステップS302Bにおいて、情報処理装置10の検証部115は、施肥後の実際の土壌を解析して得られた土壌成分を取得する。
【0119】
ステップS304Bにおいて、検証部115は、施肥後の土壌成分の実測値と、施肥前に設定された土壌成分の目標値とを比較する。
【0120】
ステップS306Aにおいて、検証部115は、土壌成分の目標値と実測値との比較結果(差分値)が閾値以内であるか否かを判定する。
【0121】
以上、本開示の一実施形態について詳述したが、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。例えば、本開示は、各情報処理装置10、20が実行する処理について、一部の処理を、他の情報処理装置に移行したり、複数の情報処理装置を適宜統合したりしてもよく、一つの装置で全ての処理を実行してもよい。また、各情報処理装置10、20は、一つの組織により管理されてもよく、それぞれ異なる組織に管理されてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1…情報処理システム、10、20、30…情報処理装置、110…プロセッサ、111…制御部、112…取得部、113…算出部、114…設定部、115…検証部、116…推定部、117…設計部、118…出力部、130…メモリ、210…プロセッサ、230…メモリ、212…制御部、213…取得部、214…表示制御部、215…出力部