(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】甑及び甑を用いた原料の蒸し方法
(51)【国際特許分類】
A47J 27/16 20060101AFI20241213BHJP
A47J 27/04 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
A47J27/16 A
A47J27/04 E
(21)【出願番号】P 2023080850
(22)【出願日】2023-05-16
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】302026737
【氏名又は名称】永田醸造機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091834
【氏名又は名称】室田 力雄
(72)【発明者】
【氏名】荒木 基弘
【審査官】杉浦 貴之
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-310611(JP,A)
【文献】実開昭54-017886(JP,U)
【文献】特開2001-128852(JP,A)
【文献】実開平01-145320(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 27/16-27/17
A47J 27/04-27/05
C12G 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甑本体の内空間に原料を収容するための原料収容室と該原料収容室の下に飽和蒸気室とを備え、前記原料収容室に収容された原料に対して下方の前記飽和蒸気室から飽和蒸気を供給して、原料を蒸すようにした甑であって、前記甑本体の内空間の前記飽和蒸気室の下方に、甑本体内で飽和蒸気を発生させるための内部湯沸室を配備すると共に該内部湯沸室に対して、外部ボイラーからの1次蒸気を放出して飽和蒸気を発生させる第1の加熱用蒸気配管を配備
し、且つ前記甑本体の外側面と甑本体の外側に設けたジャケットとの間に保温用間隙を配備し、これによって前記内部湯沸室で発生した飽和蒸気を該内部湯沸室からその上にある飽和蒸気室内に導入する他に内部湯沸室で発生した飽和蒸気の一部を前記保温用間隙にも導入できる構成としたことを特徴とする甑。
【請求項2】
飽和蒸気室に対して、甑外から甑に輸送されてきた外部ボイラーからの1次蒸気を管ヒータとして飽和蒸気室内に巡らせるようにした第2の加熱用蒸気配管を配備していることを特徴とする請求項1に記載の甑。
【請求項3】
甑本体の内空間に原料を収容するための原料収容室と該原料収容室の下に飽和蒸気室と該飽和蒸気室の下方に内部湯沸室とを備え、前記原料収容室に収容された原料に対して前記内部湯沸室で発生した飽和蒸気を前記飽和蒸気室を介して原料収容室に供給して、原料を蒸すようにした甑を用いた原料の蒸し方法であって、次のA~Eの工程を少なくとも備えることを特徴とする甑を用いた原料の蒸し方法。
A.原料収容室に原料を入れ、また内部湯沸室に水を張る工程。
B.外部ボイラーからの1次蒸気を水を張った内部湯沸室内に放出して、飽和蒸気を発生させる工程。
C.内部湯沸室で発生した飽和蒸気を上方の飽和蒸気室に導入させながら、飽和蒸気の一部については前記飽和蒸気室を経ることなく、甑本体の外側面とそのジャケットとの間に構成される保温用間隙に導入させる工程。
D.飽和蒸気室内の飽和蒸気の状況に応じて、外部ボイラーからの1次蒸気を管ヒータとして飽和蒸気室内に巡らせ或いはそれを停止することで、飽和蒸気室内の飽和蒸気を加熱し或いは加熱を停止させるようにする工程。
E.原料収容室内の原料の蒸し上がりにより内部湯沸室への外部ボイラーからの1次蒸気の放出と飽和蒸気室への外部ボイラーからの1次蒸気の供給を停止させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は甑及び甑を用いた原料の蒸し方法に関し、より詳しくは醸造等に用いられる米やその他の穀物等の原料を蒸すための甑と、甑を用いた原料の蒸し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米やその他の穀物等の原料を用いて酒等の醸造製品を製造するにあたっては、前記米やその他の穀物等の原料を蒸す必要があり、従来から甑と称する蒸し器が使用されている。
甑は蒸し器であり、主として酒造業界において酒の原料となる米を蒸すのに使用されるが、その蒸し上がり状態によっては、その後の製品の品質を大きく左右することがある。
しかして甑には良好な蒸し上がり品質が期待される。また使用にあたっての利便性や経済性も当然ながら求められるところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-158号公報
【文献】特開2004-254624号公報
【文献】特開2006-68456号公報
【文献】実用新案登録第3208777号公報
【文献】特開2021-175448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、ボイラー10で発生させた1次蒸気をスチームクリーナー11で改質して甑本体1の方に導くようにし、この蒸気を甑本体1の下方の蒸気放出筒2から複数段に配置される蒸煮容器4に放出すると共に、蒸煮容器4の保温用スチームパイプ7にも供給するように構成された穀物の甑が開示されている。
上記特許文献2には、ボイラー等からの1次蒸気を蒸気改質装置1で飽和蒸気に改質した後、更に甑9や蒸煮装置19に導き、米等を蒸す飽和蒸気を利用する穀類蒸煮方法及び装置が開示されている。
上記特許文献3には、下方に電熱等の加熱手段を付属する圧力容器54を備え、該圧力容器54から水と蒸気を選択的に容器20内に噴射供給することで、1つの容器20内で米等を洗って且つ蒸すことができるようにした蒸し器及び酒製造装置が開示されている。
上記特許文献4には、甑本体2内の下方に蒸気室7を備え、該蒸気室7に供給された蒸気を蒸気整流板10、サナ板5を介して上方の蒸煮空間に供給するようにした穀物用甑が開示されている。そして蒸気に関しては、ボイラー等で発生した蒸気を、予め整蒸器14により不純物を取り除いた飽和水蒸気にし、これを甑本体2まで送る構成が開示されている。
上記特許文献5には、甑本体2と内筒6との間に蒸気溜り空間15を設けて、内筒6の内周面の結露を防止するようにした甑が開示されている。そして蒸気は、ボイラー等の蒸気供給源から蒸気輸送管13を経て甑本体2内の下部空間に供給される構成が開示されている。
【0005】
しかしながら上記特許文献1、2、4、5に開示された従来技術においては、その何れにおいても、蒸気は、ボイラーで発生された1次蒸気をスチームクリーナー等と称される蒸気改質装置で予め飽和蒸気に改質しておく構成とされている。そして、この改質済みの飽和蒸気を甑まで輸送して原料を蒸す作業に供給する構成とされている。
従って特許文献1、2、4、5に示す従来の装置では、甑の配置される位置によって飽和蒸気発生地点から甑までの輸送距離、輸送時間が色々と異なるため、甑内に供給されて米等を現に蒸すのに使用される飽和蒸気の温度、湿度、蒸気粒の大きさ、質が大きく変化し易い問題がある。
このため、同じ甑でも移動等で位置が変わると、蒸米等の品質が変わる問題がある。
また新たな甑を設置する場合等に際しても、輸送管の距離がこれまでと異なると、蒸米の品質が変わる等の問題が生じる。更に既存の蒸気輸送管に対して分岐管を接続すると、蒸気の質が変わる問題も生じる。
一方、特許文献1、2、4、5に示す従来の装置では、新たな甑を追加設置するに際して、既存の蒸気輸送管とは別のルートで蒸気を輸送する場合、蒸気改質装置を別にもう1つ追加する必要が生じ、費用が嵩む問題がある。
前記特許文献3に関して言えば、該特許文献3の蒸し器では、装置に圧力容器54を備え、該圧力容器54内で発生させた蒸気を米等が入る容器20内に供給する構成となっている。しかし、この圧力容器54は制御部60や電源設備を付属させた一種のボイラー設備であって、複雑で高価な装置となり、ボイラー設備を付属させることのない一般的な甑とは大きく異なるものである。
【0006】
そこで本発明は上記従来における問題点を解決し、米等の原料を十分に良好に蒸すことができる甑及び甑を用いた原料の蒸し方法の提供を課題とする。
また本発明は、ボイラーで発生させた1次蒸気を蒸気改質装置を介することなく甑に接続して使用しても、米等の原料を蒸すのに十分適した良質で均質な飽和蒸気を発生させ、且つ蒸し作業に供給することで、原料を良好に蒸すことができる甑及び甑を用いた原料の蒸し方法の提供を課題とする。
また本発明は、新たに甑を追加して設備する場合においても、外部ボイラーからの1次蒸気をそのまま甑に接続して使用し、且つ良好に蒸すことができる甑及び甑を用いた原料の蒸し方法の提供を課題とする。
また本発明は、外部ボイラーから1次蒸気を輸送してくる輸送管の距離や搬送時間が相違しても、米等の原料を蒸すのに十分に適した良質で均質な飽和蒸気を発生させ、供給して、原料を良好に蒸すことができる甑及び甑を用いた原料の蒸し方法の提供を課題とする。
また本発明は、甑に供給した外部ボイラーからの1次蒸気を持ち、甑内で飽和蒸気を発生させることで、発生した飽和蒸気が時間を経ることなく、即ち飽和蒸気の質が保たれた状態で、蒸し作業に供されることを可能とする甑及び甑を用いた原料の蒸し方法の提供を課題とする。
更に甑内で発生させた飽和蒸気の温度の維持、均一化を図ることができ、よって良質で且つ均質な飽和蒸気をもって原料を良好に蒸すことができる甑及び甑を用いた原料の蒸し方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本発明の甑は、甑本体の内空間に原料を収容するための原料収容室と該原料収容室の下に飽和蒸気室とを備え、前記原料収容室に収容された原料に対して下方の前記飽和蒸気室から飽和蒸気を供給して、原料を蒸すようにした甑であって、前記甑本体の内空間の前記飽和蒸気室の下方に、甑本体内で飽和蒸気を発生させるための内部湯沸室を配備すると共に該内部湯沸室に対して、外部ボイラーからの1次蒸気を放出して飽和蒸気を発生させる第1の加熱用蒸気配管を配備し、且つ前記甑本体の外側面と甑本体の外側に設けたジャケットとの間に保温用間隙を配備し、これによって前記内部湯沸室で発生した飽和蒸気を該内部湯沸室からその上にある飽和蒸気室内に導入する他に内部湯沸室で発生した飽和蒸気の一部を前記保温用間隙にも導入できる構成としたことを第1の特徴としている。
また本発明の甑は、上記第1の特徴に加えて、飽和蒸気室に対して、甑外から甑に輸送されてきた外部ボイラーからの1次蒸気を管ヒータとして飽和蒸気室内に巡らせるようにした第2の加熱用蒸気配管を配備していることを第2の特徴としている。
また本発明の甑を用いた原料の蒸し方法は、甑本体の内空間に原料を収容するための原料収容室と該原料収容室の下に飽和蒸気室と該飽和蒸気室の下方に内部湯沸室とを備え、前記原料収容室に収容された原料に対して前記内部湯沸室で発生した飽和蒸気を前記飽和蒸気室を介して原料収容室に供給して、原料を蒸すようにした甑を用いた原料の蒸し方法であって、次のA~Eの工程を少なくとも備えることを第3の特徴としている。
A.原料収容室に原料を入れ、また内部湯沸室に水を張る工程。
B.外部ボイラーからの1次蒸気を水を張った内部湯沸室内に放出して、飽和蒸気を発生させる工程。
C.内部湯沸室で発生した飽和蒸気を上方の飽和蒸気室に導入させながら、飽和蒸気の一部については前記飽和蒸気室を経ることなく、甑本体の外側面とそのジャケットとの間に構成される保温用間隙に導入させる工程。
D.飽和蒸気室内の飽和蒸気の状況に応じて、外部ボイラーからの1次蒸気を管ヒータとして飽和蒸気室内に巡らせ或いはそれを停止することで、飽和蒸気室内の飽和蒸気を加熱し或いは加熱を停止させるようにする工程。
E.原料収容室内の原料の蒸し上がりにより内部湯沸室への外部ボイラーからの1次蒸気の放出と飽和蒸気室への外部ボイラーからの1次蒸気の供給を停止させる工程。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の甑によれば、甑本体の内空間に、原料収容室と、その下に飽和蒸気室とを備えており、その飽和蒸気室の下方に内部湯沸室を配備している。そして内部湯沸室に対して第1の加熱用蒸気配管を配備している。外部ボイラーからの1次蒸気は、第1の加熱用蒸気配管を介して水を張った内部湯沸室内に放出される。これにより内部湯沸室に飽和蒸気を発生させることができる。
甑本体に内部湯沸室を配備して、飽和蒸気を発生させるようにしているので、外部のボイラーで発生した1次蒸気を予め蒸気改質装置に通して改質した後に甑へ導入する必要はなく、よって当然ながら蒸気改質装置は不要となる。
内部湯沸室に水をはり、そこに第1の加熱用蒸気配管を介して外部ボイラーからの1次蒸気を水中に放出することで、良好な飽和蒸気を得ることができる。しかも内部湯沸室は水を張るだけの単純な水槽で足りるので、コスト的にもメリットがある。
また内部湯沸室に水を張ることで、フィルタの代わりとなり、既設、新設の1次蒸気の蒸気改質装置が不要となる。
また内部湯沸室は甑本体に配備されているので、甑本体と共に何時でも蒸し作業に供することができると共に、甑本体と一緒に自由に移動させることができる。
内部湯沸室で発生した飽和蒸気は時間を経ることなくすぐ上の飽和蒸気室に供給することが可能となるので、内部湯沸室で発生した良好な飽和蒸気をそのままに近い状態で飽和蒸気室に供給することが可能となり、更にその上の原料収容室に供給することが可能となる。
【0009】
加えて、請求項1に記載の甑によれば、前記甑本体の外側面と甑本体の外側に設けたジャケットとの間に保温用間隙を配備し、これによって前記内部湯沸室で発生した飽和蒸気を該内部湯沸室からその上にある飽和蒸気室内に導入する他に内部湯沸室で発生した飽和蒸気の一部を前記保温用間隙にも導入できる構成としたので、
内部湯沸室で発生した飽和蒸気は内部湯沸室の上にある飽和蒸気室に導入されるだけではなく、一部を甑本体の外側面とそのジャケットとの間の保温用間隙にも導入することができる。よって甑本体内で発生させた飽和蒸気でもって、原料を蒸すだけではなく甑本体の保温にも供することができる。
【0010】
請求項2に記載の甑によれば、上記請求項1に記載の構成による作用効果に加えて、飽和蒸気室に対して、甑外のボイラーから甑に輸送されてきた1次蒸気を管ヒータとして飽和蒸気室内に巡らせるようにした第2の加熱用蒸気配管を配備しているので、
外部ボイラーから導入する共通の1次蒸気を利用して、第1の加熱用蒸気配管を介して内部湯沸室に1次蒸気を放出して飽和蒸気を発生させるだけではなく、第2の加熱用蒸気配管を介して1次蒸気を飽和蒸気室にも管ヒータとして巡らせることによって、前記発生した飽和蒸気の湿り具合や温度を維持することができ、よって飽和蒸気の質の維持を図ることができる。また飽和蒸気発生のための外部ボイラーからの1次蒸気を兼用して、発生した飽和蒸気の温度や飽和蒸気の湿り具合、乾き具合等を飽和蒸気室内で調整して良好なものにすることができる。
また甑本体に第1の加熱用蒸気配管と第2の加熱用蒸気配管とを備えることで、外部ボイラーからの1次蒸気を導入する接続口、その他、給水口等があれば使用できるため、初期費用が低減できる。
【0011】
また上記請求項3に記載の甑を用いた原料の蒸し方法によれば、甑本体の内空間に原料を収容するための原料収容室と該原料収容室の下に飽和蒸気室と該飽和蒸気室の下方に内部湯沸室とを備え、前記原料収容室に収容された原料に対して前記内部湯沸室で発生した飽和蒸気を前記飽和蒸気室を介して原料収容室に供給して、原料を蒸すようにした甑を用いた原料の蒸し方法である。
そしてA工程では原料収容室に原料を入れ、また内部湯沸室に水を張り、B工程では前記水を張った内部湯沸室内に対して外部ボイラーからの1次蒸気を放出して飽和蒸気を発生させる。
これにより外部ボイラーからの1次蒸気を用いて、甑本体内で飽和蒸気を発生させることができる。
そしてC工程では、内部湯沸室で発生した飽和蒸気を上方の飽和蒸気室に導入させながら、飽和蒸気の一部については前記飽和蒸気室を経ることなく、甑本体の外側面とそのジャケットとの間に構成される保温用間隙に導入させる。
これにより発生させた飽和蒸気の一部を、本流である飽和蒸気室を経ることなく、別ルートで保温用間隙にも流すことができ、飽和蒸気室内の飽和蒸気の量や質の変動を抑制しつつ、甑本体の保温も行うことができる。
そしてD工程では、飽和蒸気室内の飽和蒸気の状況に応じて、外部ボイラーからの1次蒸気を管ヒータとして飽和蒸気室内に巡らせ或いはそれを停止することで、飽和蒸気室の飽和蒸気を加熱或いは加熱を停止させるようにする。
これにより、飽和蒸気室内の飽和蒸気の状況に応じて、外部ボイラーから導入される1次蒸気を兼用して、内部湯沸室に飽和蒸気を発生させるだけではなく、飽和蒸気室内に入った飽和蒸気の湿り具合、乾き具合、温度低下を防止し、飽和蒸気粒の質の維持を図ることができる。
そしてE工程では、原料収容室内の原料の蒸し上がりにより内部湯沸室への外部ボイラーからの1次蒸気の放出と飽和蒸気室への外部ボイラーからの1次蒸気の供給を停止させる。
これにより原料の蒸し上げを完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る甑の縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る甑の水平断面図であって、内部湯沸室の上部の位置で水平断面して上から見た図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る甑の水平断面図であって、内部湯沸室よりも少し上の位置で水平断面して内部湯沸室と第1の加熱用蒸気配管の状態を上から見た図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る甑の水平断面図であって、飽和蒸気室の上部の位置で水平断面して第2の加熱用蒸気配管の状態を上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、各図面を参照して、本発明に係る甑及び甑を用いた原料の蒸し方法の実施形態を説明し、本発明の理解に供する。ただし、以下の説明は特許請求の範囲に記載の本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0014】
まず
図1を参照して、本発明の実施形態に係る甑1は、甑本体10とその他の蒸し作業に必要な付属の構成体とからなる。
前記甑本体10は、その内空間10aに、原料収容室20と、飽和蒸気室30と、内部湯沸室40とを少なくとも備えている。
【0015】
図2~
図4も参照して、前記甑本体10は本実施形態では円筒状に構成されており、基台50上に設置される。勿論、甑本体10は円筒状以外の筒状であってもよい。また甑本体10は底付の容器のような形でもよい。甑本体10を構成する素材としては、例えばステンレス鋼板やその他の材料を適材適所に用いることができる。
前記基台50は、甑本体10を設置するための台である。基台50は床上に載置し、固定することができる。勿論、基台50は、必要に応じて移動可能な台車のようなものであってもよい。
甑本体10の外側にはジャケット11を設けている。
そして甑本体10の外側面とジャケット11との間に保温用間隙12を構成している。
前記ジャケット11は主として甑本体10の保温に供するものであるが、特に前記原料収容室20及び飽和蒸気室30の保温に供するために用いるものである。
保温用間隙12を設けることで、甑本体10の外側面とジャケット11との間に後述する蒸気を導入し、甑本体10の外側面の保温を図ることが可能となる。
甑本体10の上端は上端開口部13として開放されている。そして甑本体10の上端開口部13は、蒸し作業時には布蓋14で覆う構成としている。
【0016】
前記原料収容室20は、米や穀物等、甑1により蒸される原料を収容するために備えられる設備である。
本実施形態では、この原料収容室20は、甑本体10の内空間10aの上部に備えられている。
より具体的には、原料収容室20は、サナ板、簀の子等と呼ばれる多孔底板21によって、甑本体10の内空間10aを上下に仕切ることで、多孔底板21を底とし、該多孔底板21より上に位置する甑本体10の側板とで構成されている。
前記多孔底板21は甑本体10に対して着脱自在に取り付け配置することができるようにしている。多孔底板21を取り外すことで、甑本体10及び多孔底板21の洗浄等の際における取り扱いが容易となる。
勿論、前記原料収容室20は、それ自体を独立した多孔底容器として構成してもよい。その場合は原料収容室20としての多孔底容器を甑本体10の内空間10aに挿入し、取り出し自在に配置できるように構成することができる。
【0017】
前記飽和蒸気室30は、そこに蓄えられた飽和蒸気を、原料収容室20に対して下方から供給するための室である。飽和蒸気は多孔底板21を介して原料収容室20に導入される。
飽和蒸気室30は、甑本体10の内空間10aにおいて、前記原料収容室20の下の位置に備えられる。
飽和蒸気室30の天井部は前記原料収容室20の多孔底板21によって上下に仕切られた状態に構成されている。他方、飽和蒸気室30の底部は、前記内部湯沸室40と上下に仕切られた状態に構成されている。
飽和蒸気室30には後述する第2の加熱用蒸気配管31を配備している。
また飽和蒸気室30には後述する飽和蒸気分散放出配管32を配備している。
【0018】
前記内部湯沸室40は、甑本体10の内部、即ち内空間10aにおいて、飽和蒸気を発生させるための室である。
内部湯沸室40を配備することで、甑本体10内で飽和蒸気を発生させ、且つ発生した飽和蒸気を、時間を経ることなく、短時間の間に上方の飽和蒸気室30に導入することができ、よってまた原料収容室20内へも時間を経ることなく供給することができるメリットがある。
内部湯沸室40は、甑本体10の内空間10aの前記飽和蒸気室30の下方に仕切られた状態に配備される。
内部湯沸室40は、例えば水槽とし、これを甑本体10の内空間10aの下部に配備することで構成することができる。本実施形態では、甑本体10内の下部に構成される水槽(内部湯沸室40)は前記基台50に取り付けられて載置することができる。
内部湯沸室40は内部仕切板15により前記飽和蒸気室30と上下方向に仕切られて構成される。
前記内部仕切板15は甑本体10の内空間10aを水平方向に仕切る板である。
内部仕切板15によって、水槽(内部湯沸室40)の天井部を密閉すると共に、その側方の内空間10aをも水平方向に仕切る。
前記内部仕切板15のうち、前記水槽(内部湯沸室40)の天井部の蓋を構成する部分は別体に構成することができる。
【0019】
内部湯沸室40に対しては、第1の加熱用蒸気配管41を配備している。
第1の加熱用蒸気配管41は、外部ボイラー100からの1次蒸気を水の張られた内部湯沸室40に放出して飽和蒸気を発生させる役割を果たす配管である。
また内部湯沸室40に対しては、該内部湯沸室40を構成する水槽内に水を供給する水供給配管42、オーバーフロー配管43、及び内部湯沸室40内の水を排出する水排出配管44を配備している。
また内部湯沸室40に対しては、該内部湯沸室40で発生した飽和蒸気の一部を前記保温用間隙12に導く保温用蒸気配管45を配備している。該保温用蒸気配管45には流量調節弁45aが設けられる。
【0020】
前記内部湯沸室40に対して配備される第1の加熱用蒸気配管41と、前記飽和蒸気室30に対して配備される第2の加熱用蒸気配管31とについて、更に説明する。
これら第1の加熱用蒸気配管41と第2の加熱用蒸気配管31は、外部ボイラー100で発生されて送られてくる1次蒸気を、甑本体10内に取り入れて供給する配管である。
外部ボイラー100から送られてくる1次蒸気を取り入れ管70で取り入れ、これを分岐して2系統に分け、その1系統を第1の加熱用蒸気配管41とし、他の1系統を第2の加熱用蒸気配管31としている。
第1の加熱用蒸気配管41は、外部ボイラー100からの1次蒸気を内部湯沸室40に送り込み、放出させて飽和蒸気を発生させるために構成される。
一方、第2の加熱用蒸気配管31は、外部ボイラー100からの1次蒸気を飽和蒸気室30内に管ヒータ31bとして巡らせ、飽和蒸気室30内の飽和蒸気の加熱、保温を図るために構成される。
【0021】
図1、
図2を参照して、第1の加熱用蒸気配管41には流量調節弁41aの他、支管41b、放出口41cを構成している。外部ボイラー100から送られてくる1次蒸気は取り入れ管70を経て第1の加熱用蒸気配管41内に分岐導入され、流量調節弁41aを経て甑本体10内に入り、更に支管41bを経て末端の放出口41cから内部湯沸室40の水中に分散放出される。
図1、
図4を参照して、第2の加熱用蒸気配管31には、流量調節弁31aの他、飽和蒸気室30内に管ヒータとしての支管31bを張り巡らせて構成している。外部ボイラー100から送られてくる1次蒸気は取り入れ管70を経て第2の加熱用蒸気配管31内に分岐導入され、流量調節弁31aを経て甑本体10内の飽和蒸気室30に導かれ、該飽和蒸気室30内に張り巡らされた管ヒータからなる支管31bを通って飽和蒸気室30から排出され、更に甑本体10外に排出される。
【0022】
前記飽和蒸気室30に配備される飽和蒸気分散放出配管32は、内部湯沸室40で発生した飽和蒸気を飽和蒸気室30に導入する際に、飽和蒸気が飽和蒸気室30に均一に分散して放出されるようにするための配管である。
図1、
図3を参照して、飽和蒸気分散放出配管32は、飽和蒸気室30内に一対の細長い放出管32aを水平方向に平行に有し、その平行の各放出管32aの全長に亘って、その下方両側に斜め下方に向けて多数の小さな放出孔32bを設けたものである。
内部湯沸室40で発生した飽和蒸気は内部湯沸室40の天井部の一対の導出口から飽和蒸気室30内へ一対の導入管32c通って入り、それぞれ一対の放出管32aに運ばれて放出孔32bから放出される。
勿論、飽和蒸気分散放出配管32の具体的な構成は上記で説明した構成に限定されず、飽和蒸気室30内に均一に飽和蒸気が導入される構成であればよい。
【0023】
本実施形態において、各種のセンサーを配備することができる。例えば本実施形態では、原料収容室20に対して微圧計61を、前記保温用間隙12に対して温度計62を、前記飽和蒸気室30に対して温度・圧力計63を、内部湯沸室40に対して圧力計64を設けている。
これらの計器61~64を用いることで、原料収容室20、保温用間隙12、飽和蒸気室30、内部湯沸室40内の温度や圧力を測定することができ、そしてそれらの測定値に基づいて、好ましい温度調整、圧力調整を行うことができる。
例えば前記微圧計61を原料収容室20に対して設けることで、原料収容室20内の微妙な圧力状態を詳しく且つ数値で見えるようにし、きめ細かい管理制御をすることができる。
前記各計器61~64による温度、圧力の測定に基づく蒸し作業の制御については、それらを手動で行う手動制御の他、一部を自動化した半自動制御、更に作業の全体を自動化した全自動制御とすることができる。
【0024】
次に本実施形態にかかる甑1を用いた原料の蒸し方法について説明する。
対象となる原料は米、その他の穀物とするが、ここでは米を念頭にして説明する。
原料の蒸し方法は次のA~Eの工程を少なくとも備えている。
【0025】
A工程:原料収容室20に原料を入れ、また内部湯沸室40に水を張る工程
ここでは洗米した米を原料として原料収容室20に入れる。
多孔底板21を甑本体10に取り付け配置して原料収容室20を構成し、そこに所定量の洗米を入れる。そして布蓋14を甑本体10の上端開口部13に被せてセットする。
また水供給配管42により浄水を内部湯沸室40の水槽に供給し、所定の水位になるように張る。所定の水位以上となる場合には、オーバーフロー配管43から排出される。
【0026】
B工程:外部ボイラー100からの1次蒸気を水を張った内部湯沸室40内に放出して、飽和蒸気を発生させる工程
外部ボイラー100からの1次蒸気は、第1の加熱用蒸気配管41の流量調節弁41aが開かれることで、支管41b、放出口41cを通って、内部湯沸室40の水中に放出される。これにより内部湯沸室40内に飽和蒸気が発生する。
前記放出された1次蒸気は内部湯沸室40内の水で浄化される。よって発生する飽和蒸気は清浄な飽和蒸気となる。
甑本体10に内部湯沸室40を配備して、飽和蒸気を発生させるようにしているので、外部ボイラー100で発生した1次蒸気を予め蒸気改質装置に通して改質した後に甑へ導入する必要はない。よって当然ながら蒸気改質装置は不要となる。即ち、内部湯沸室40に水を張ることで、フィルタの代わりとなり、外部ボイラー100からの1次蒸気をそのまま用いることができる。
内部湯沸室40に水を張り、第1の加熱用蒸気配管41を介して外部ボイラー100からの1次蒸気を水中に放出することで、良好な飽和蒸気を得ることができる。しかも内部湯沸室40は水を張るだけの単純な水槽で足りるので、コスト的にもメリットがある。
また内部湯沸室40は甑本体10に配備されているので、甑本体10と共に何時でも蒸し作業に供することができると共に、甑本体10と一緒に自由に移動させることができる。
内部湯沸室40で発生した飽和蒸気は時間を経ることなくすぐ上の飽和蒸気室30に供給することが可能となるので、内部湯沸室40で発生した良好な飽和蒸気をそのままに近い状態で飽和蒸気室30に供給することが可能となり、更にその上の原料収容室20に供給することが可能となる。
内部湯沸室40での飽和蒸気の発生量は、圧力計64が検出する内部湯沸室40の圧力に応じて、第1の加熱用蒸気配管41の流量調節弁41aを調節することで、調整することになる。
【0027】
C工程:内部湯沸室40で発生した飽和蒸気を上方の飽和蒸気室30に導入させながら、飽和蒸気の一部については前記飽和蒸気室30を経ることなく、甑本体10の外側面とそのジャケット11との間に構成される保温用間隙12に導入させる工程
内部湯沸室40で発生した飽和蒸気は、内部仕切板15を介して内部湯沸室40の天井部の一対の導出口から飽和蒸気室30内へ一対の導入管32c通って入り、それぞれ一対の放出管32aに運ばれ、放出孔32bから放出される。
一方、保温用蒸気配管45の流量調節弁45aを開けることで、内部湯沸室40で発生した飽和蒸気の一部が保温用蒸気配管45を通って、保温用間隙12に供給される。これにより甑本体10の外側が保温され、原料収容室20内の温度の均一化を図ることができる。
発生させた飽和蒸気の一部を、本流である飽和蒸気室30を経ることなく、別ルートで保温用間隙12に流せるようにしたことで、飽和蒸気室30内の飽和蒸気の量や質の変動を抑制しつつ、甑本体10の保温も行うことができる。
保温用間隙12に送る飽和蒸気の量は、保温用間隙12の温度を測る温度計62の値に応じて、保温用蒸気配管45の流量調節弁45aを調節することで、調整することになる。
【0028】
D工程:飽和蒸気室内の飽和蒸気の状況に応じて、外部ボイラー100からの1次蒸気を管ヒータとして飽和蒸気室内に巡らせ或いはそれを停止することで、飽和蒸気室内の飽和蒸気を加熱し或いは加熱を停止させるようにする工程
外部ボイラー100からの1次蒸気は、第2の加熱用蒸気配管31の流量調節弁31aが開かれることで、飽和蒸気室30内に導入される、そして管ヒータ31bとして飽和蒸気室30内に張り巡らされた支管を通って外部に排出される。飽和蒸気室30内の飽和蒸気は張り巡らされた管ヒータ(支管)31によって均一に加熱され、温度が維持される。
これにより、外部ボイラー100から導入される1次蒸気を兼用して、内部湯沸室40に飽和蒸気を発生させるだけではなく、飽和蒸気室30内に入った飽和蒸気の湿り具合、乾き具合を調整することができ、また温度低下を防止して、飽和蒸気の質の維持を図ることができる。
飽和蒸気室30内を管ヒータ31bとして巡らせる1次蒸気の量は、飽和蒸気室30の温度を温度・圧力計63の値に応じて、第2の加熱用蒸気配管31の流量調節弁31aを調節することで、調整することになる。
【0029】
E工程:原料収容室20内の原料の蒸し上がりにより内部湯沸室40への外部ボイラー100からの1次蒸気の放出と飽和蒸気室30への外部ボイラー100からの1次蒸気の供給を停止させる工程
所定の蒸し時間に達することにより、或いは微圧計61等が原料収容室20内の原料の蒸し上がりを検出したことにより、手動若しくは自動で、第1の加熱用蒸気配管41の流量調節弁41aが閉じられ、また第2の加熱用蒸気配管31の流量調節弁31aが閉じられる。これにより外部ボイラー100からの1次蒸気の内部湯沸室40への放出と飽和蒸気室30への供給とが停止される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の甑及び甑を用いた原料の蒸し方法は、米やその他の穀物を蒸す装置或いは蒸す方法として産業上の利用性が高い。
【符号の説明】
【0031】
1 甑
10 甑本体
10a 内空間
11 ジャケット
12 保温用間隙
13 上端開口部
14 布蓋
15 内部仕切板
20 原料収容室
21 多孔底板
30 飽和蒸気室
31 第2の加熱用蒸気配管
31a 流量調節弁
31b 管ヒータ(支管)
32 飽和蒸気分散放出配管
32a 放出管
32b 放出孔
32c 導入管
40 内部湯沸室
41 第1の加熱用蒸気配管
41a 流量調節弁
41b 支管
41c 放出口
42 水供給配管
43 オーバーフロー配管
44 水排出配管
45 保温用蒸気配管
45a 流量調節弁
50 基台
61 微圧計
62 温度計
63 温度・圧力計
64 圧力計
70 取り入れ管
100 外部ボイラー