(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材を減面する方法
(51)【国際特許分類】
C25F 3/26 20060101AFI20241213BHJP
C25F 3/00 20060101ALI20241213BHJP
B23H 5/08 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C25F3/26
C25F3/00 C
B23H5/08
(21)【出願番号】P 2024086426
(22)【出願日】2024-05-28
【審査請求日】2024-05-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510156332
【氏名又は名称】東京ステンレス研磨興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【氏名又は名称】新井 剛
(72)【発明者】
【氏名】青柳 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 満久
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 嘉郎
(72)【発明者】
【氏名】日下部 充
(72)【発明者】
【氏名】日下部 繁
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特許第4878159(JP,B2)
【文献】特表2010-533601(JP,A)
【文献】特開平04-336948(JP,A)
【文献】特開2008-223139(JP,A)
【文献】特開2007-138283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0031026(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 3/00-3/30
B23H 5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純銅製の電極
、及び砥石を有する回転減面ヘッド
、並びに前記電極と純チタン製の被減面材との間の空間に電解液を供給する電解液供給部を備えた装置を用いて、
前記被減面材を減面する方法であって、
前記電極と前記被減面材との間の電解電圧が
8~20V、
前記空間を流れる前記電解液に流れる電流の電流密度が
0.3~1.7A/cm
2、及び
前記空間を流れる前記電解液の流速が
2.2~2.8m/秒の条件下で、前記回転減面ヘッドで前記被減面材を減面する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記減面する工程は、
前記回転減面ヘッドの回転数が300~400rpmであり、
前記回転減面ヘッドに印加される加圧力が2.07~2.21kNであり、
前記砥石の番手が#150又は#240である
との追加の条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記純チタンが、Ti成分に加えて、Fe成分を0.50重量パーセント以下、及びO成分を0.40重量パーセント以下含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
純チタン
の製造方法であって、
純銅製の電極
、及び砥石を有する回転減面ヘッド
、並びに前記電極と純チタン製の被減面材との間の空間に電解液を供給する電解液供給部を備えた装置を用いて、
前記被減面材を減面する工程を含み、
前記工程が、前記電極と前記被減面材との間の電解電圧が
8~20V、
前記空間を流れる前記電解液に流れる電流の電流密度が
0.3~1.7/cm
2、及び
前記空間を流れる前記電解液の流速が
2.2~2.8m/秒の条件下で、前記回転減面ヘッドで前記被減面材を減面する工程である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材を減面する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、H型鋼、コラム、角パイプ、フラットバー、熱延板、冷延板等の鋼材はその表面に極めて粗い表面(酸洗肌)、微小表面欠陥層、溶接変形部等を有する。建材等の要求により、鋼材の表面を研磨して、光沢仕上げ、ヘヤーライン仕上げ等が行われる。
【0003】
特許文献1は、ステンレス製フラットバー、角パイプ等の研磨対象物を研磨するための電解減面装置及び電解減面方法を開示する。具体的には、アルミ合金又はステンレス製の電極と弾性砥石を有する研磨ヘッドを備えた電解減面装置を用いて、電流密度20~21A/cm2及び電解液の流速6m/秒の条件下で、ステンレス製のフラットバー及び角パイプを効果的に研磨する電解減面方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の特許文献1に記載の電解減面方法は、ステンレス製の研磨対象物を効果的に研磨するものであるが、ステンレス以外の材料でできた研磨対象物を研磨する場合には、特許文献1に記載の研磨条件下では効果的に研磨できい問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ステンレス以外の材料である純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材の減面を効果的に行うことができる方法を提供することを目的とする。なお、本明細書に置いて、「減面」とは、研削及び電解を用いて被減面材の板厚を減じる加工を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に記載の態様を含む。
[態様1]
電極及び砥石を有する回転減面ヘッドを備えた装置を用いて、純チタン又はチタン合金製の被減面材を減面する方法であって、
前記電極と前記被減面材との間の電解電圧が1~25V、電流密度が0.1~2.5A/cm2、及び電解液の流速が1.0~3.0m/秒の条件下で、前記回転減面ヘッドで前記被減面材を減面する工程を含む、方法。
[態様2]
前記被減面材が純チタンであり、
前記電解電圧が8~20V、前記電流密度が0.3~1.7A/cm2、及び前記電解液の流速が2.2~2.8m/秒である、態様1に記載の方法。
[態様3]
前記純チタンが、Ti成分に加えて、Fe成分を0.50重量パーセント以下、及びO成分を0.40重量パーセント以下含む、態様2に記載の方法。
[態様4]
前記被減面材がチタン合金であり、
前記電解電圧が5~15V、前記電流密度が0.9~1.3A/cm2、及び前記電解液の流速が1.8~2.2m/秒である、態様1に記載の方法。
[態様5]
前記チタン合金が、Ti成分に加えて、Al成分を3.5~4.5重量パーセント、V成分を15.0~17.0重量パーセント、及びCr成分を5.0~7.0重量パーセント含む、態様4に記載の方法。
[態様6]
電極及び砥石を有する回転減面ヘッドを備えた装置を用いて、ニッケル基合金製の被減面材を減面する方法であって、
前記電極と前記被減面材との間の電解電圧が25~40V、電流密度が1.0~15.0A/cm2、及び電解液の流速が1.0~4.0m/秒の条件下で、前記回転減面ヘッドで前記被減面材を減面する工程を含む、方法。
[態様7]
前記電解電圧が28~35V、前記電流密度が4.0~11.0A/cm2、及び前記電解液の流速が2.2~3.0m/秒である、態様6に記載の方法。
[態様8]
前記ニッケル基合金が、Ni成分に加えて、Cr成分を14.0~24.0重量パーセント、Mo成分を10.0重量パーセント以下、及びCu成分を34重量パーセント以下含む、態様6又は7に記載の方法。
[態様9]
前記工程はさらに、前記回転減面ヘッドに加わる圧力が1.0~3.0kN及び前記回転減面ヘッドの回転数が300~500rpmの条件下で行われる、態様1~8のいずれか1項に記載の方法。
[態様10]
前記電極が純銅製である、態様1~9のいずれか1項に記載の方法。
[態様11]
純チタン又はチタン合金の製造方法であって、
電極及び砥石を有する回転減面ヘッドを備えた装置を用いて、純チタン又はチタン合金製の被減面材を減面する工程を含み、
前記工程が、前記電極と前記被減面材との間の電解電圧が1~25V、電流密度が0.1~2.5A/cm2、及び電解液の流速が1.0~3.0m/秒の条件下で、前記回転減面ヘッドで前記被減面材を減面する工程である、製造方法。
[態様12]
ニッケル基合金の製造方法であって、
電極及び砥石を有する回転減面ヘッドを備えた装置を用いて、ニッケル基合金製の被減面材を減面する工程を含み、
前記工程が、前記電極と前記被減面材との間の電解電圧が25~40V、電流密度が1.0~15.0A/cm2、及び電解液の流速が1.0~4.0m/秒の条件下で、前記回転減面ヘッドで前記被減面材を減面する工程である、製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態に係る発明は、ステンレス以外の材料である純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材の減面を効果的に行うことができる。また、本発明により、従来技術に比べて、電解液の通液量及び電流量(電力量)を大幅に低減できる。さらに、熱間圧延又は大気焼鈍時に生じた酸化スケールが付着したままの純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材を減面できることから、減面前に被減面材を硝弗酸等で洗浄する必要もなくなり、ひいては硝弗酸排液に起因する環境負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】減面工程における電解液の流れを示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る、純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材を減面する方法について説明する。本方法の減面対象である被減面材は、純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製のものを対象とする。被減面材の形状は、平面的な熱延板や冷延板、H形鋼、コラム、角パイプ、フラットバー等どのような形状であってもよい。
【0011】
純チタンは、JIS1種~4種のいずれかの規格を満たすチタンである。例えば、純チタンは、主な成分として、Ti成分に加えて、Fe成分を0.50重量パーセント以下、及びO成分を0.40重量パーセント以下含む。
【0012】
チタン合金は、純チタンに規定される成分範囲から外れる金属等の他の成分を有する、チタンと他の金属との合金である。例えば、チタン合金は、主な成分として、Ti成分に加えて、Al成分を3.5~4.5重量パーセント、V成分を15.0~17.0重量パーセント、及びCr成分を5.0~7.0重量パーセント含む。チタン合金の例は、限定されないが、大同特殊鋼株式会社製のDAT(登録商標)シリーズ(DAT55G等)等がある。
【0013】
ニッケル基合金は、ニッケル成分を最も多く含む、ニッケルと他の金属等との合金である。例えば、ニッケル基合金は、主な成分として、Ni成分に加えて、Cr成分を14.0~24.0重量パーセント、Mo成分を10.0重量パーセント以下、及びCu成分を34重量パーセント以下含む。ニッケル基合金の例は、限定されないが、JIS規格のNCF600、NCF625、NCF718、NW6002、NW4400や、日本冶金工業株式会社製のNAS(登録商標)シリーズ(NAS355N等)等である。
【0014】
参考までに、上に挙げた純チタン、チタン合金、及びニッケル基合金の例の各含有成分を表1に示す。
【表1】
【0015】
次に、本実施形態に係る、純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材を減面する方法に用いる回転減面ヘッド10について説明する(
図1~3)。
【0016】
回転減面ヘッド10の斜視概要図である
図1に示すとおり、回転減面ヘッド10は、ヘッド台座1、回転軸2、並びに台座1に設けられた電極5a~5f及び砥石6a~6fを備える。回転軸2は、中空の構造であり、電解液を通すための管部3を備える。ヘッド台座1と回転軸2は一体成型されていてもよいし、別の部材を互いに接合したものであってもよい。回転減面ヘッド10のヘッド台座1や回転軸2の材質は特に限定されないが、例えばステンレス、チタン、チタン合金等の耐食性に優れた材料が使用できる。
【0017】
回転減面ヘッド10の底面概要図である
図2に示すとおり、回転減面ヘッド10の底面は、円形のヘッド台座1上の円周に沿って電極5(EL)及び砥石6(WS)が順に配置され、その中央部には凹状の液溜部4が設けられている。管部3に流れてきた電解液が液溜部4に流れるように、液溜部4は管部3と連通している。通常、電極5及び砥石6のセットを交互に配置し、ヘッド台座1の円周部分を覆うように配置される。電極5及び砥石6のセット数は図示する6セットに限らず、任意の数(例えば2~20セット)としてよい。
【0018】
図3は、
図2のA-A線断面図であり、電極5及び砥石6と、回転減面ヘッド10と向き合う被減面材9との位置関係を示すものである。なお、図示の配置は減面工程を実行していないときの状態を示すものである。
【0019】
図3に示すように、砥石6(図中6a、6f)の下面(被減面材9に向き合う面)が被減面材9に近く、電極5(図中5a)の下面が被減面材9と接触しないように配置される。
【0020】
電極5(5a~5f)は、導電時の電流密度を一定に保つためにそれぞれ同じ高さになるように配置される。また、砥石6(6a~6f)は、減面精度を一定にするためにそれぞれ同じ高さになるように配置される。なお、砥石6の高さの方が、電極5の高さよりも大きい。
【0021】
図3に示すように、砥石6(図中6a、6f)を電極5(図中5a)よりも高く(肉厚に)配置することにより、砥石6が被減面材9に接触する状態においても、電極5は被減面材9との間に所定の距離を保つことができる。これにより、減面工程を実行中に発生し得る電極と被減面材9との間のスパークを防止すると共に、電解液が流れるための流路を確保できる。
【0022】
電極5は、電気抵抗をできるだけ小さくするために純銅製の電極を用いる。砥石6は、一般に市販されている通常の砥石(弾性砥石等)を用いる。例えば弾性砥石は、アルミナ、炭化ケイ素、ジルコニア等の砥粒を、耐熱性を有するエポキシ樹脂やベークライト、ナイロン不織布等の結合剤と混合し、圧縮成形することで作られるものである。弾性砥石は、砥石の機能を有しつつ弾性変形可能である。
【0023】
図4は、純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材を減面する方法に用いる回転減面ヘッド10を備えた電解減面装置100の概要図である。電解減面装置100は、回転減面ヘッド10、電解液供給部40、通電部50、絶縁カップリング60、ヘッド回転モータ70、及び昇降装置80等を備える。
【0024】
電解液供給部40は、流量調整ポンプを備え、手動により又は電解減面装置100の制御コンピュータ(不図示)からの制御信号に応じて、電解液に所定の圧力を加えて回転減面ヘッド10に電解液を供給する。
図5に示すように、回転減面ヘッド10の回転軸2を通じて液溜部4に電解液が、
図5の被減面材9と電極5との間の空間を流れるときに所定の流速(m/秒)になるように供給され、電極5と被減面材9との間の空間を流れる。電解液としては、硝酸ソーダ水溶液、硫酸ソーダ水溶液等を用いることができる。電解液の流速は、0.1~5.0m/秒、1.0~4.0m/秒、1.0~3.0m/秒、1.8~2.2m/秒、1.9~2.1m/秒、2.2~2.8m/秒、2.2~3.0m/秒、2.2~2.9m/秒、2.3~2.9m/秒、2.3~2.7m/秒、2.4~2.67m/秒、2.4~2.9m/秒、又は2.6~2.9m/秒の範囲又は当該範囲に含まれる任意の値としてよい。
【0025】
通電部50は、電源(不図示)に接続された電圧調整器や電流調整器を備え、手動により又は電解減面装置100の制御コンピュータ(不図示)からの制御信号に応じて、回転減面ヘッド10の電極5と被減面材9との間に電位差を生じさせ、それらの間を流れる電解液に所定の電解電圧を印加し且つ所定の電流密度の電流を流す。
【0026】
電解液に印加する電解電圧は、例えば、1~40V、1~30V、1~25V、1~20V、1~15V、5~25V、5~20V、5~15V、6~15V、8~25V、8~20V、8~15V、10~20V、12~20V、10~15V、12~19V、25~40V、25~35V、28~35V、28~34V、30~35V、31~35V、32~35V、又は32~34Vの範囲又は当該範囲に含まれる任意の値としてよい。電解電圧の値は、被減面材の種類(純チタン、チタン合金、又はニッケル基合金)に応じて選択される。
【0027】
電解液を流れる電流密度は、例えば、0.1~15.0A/cm2、0.1~10.0A/cm2、0.1~5.0A/cm2、0.1~2.5A/cm2、0.1~2.0A/cm2、0.1~1.7A/cm2、0.1~1.3A/cm2、0.2~2.5A/cm2、0.2~2.0A/cm2、0.3~2.5A/cm2、0.3~2.0A/cm2、0.3~1.7A/cm2、0.31~1.65A/cm2、0.9~1.3A/cm2、0.93~1.24A/cm2、0.9~2.5A/cm2、0.9~2.0A/cm2、0.9~1.7A/cm2、0.9~1.3A/cm2、1.0~15.0A/cm2、1.0~11.0A/cm2、1.03~1.65A/cm2、3.0~15.0A/cm2、3.0~11.0A/cm2、4.0~11.0A/cm2、5.0~15.0A/cm2、5.0~11.0A/cm2、5.3~11.0A/cm2、5.5~11.0A/cm2、5.5~10.7A/cm2、7.0~10.7A/cm2、又は9.0~10.7A/cm2の範囲又は当該範囲に含まれる任意の値としてよい。電流密度の値は、被減面材の種類(純チタン、チタン合金、又はニッケル基合金)に応じて選択される。
【0028】
絶縁カップリング60は、電流漏洩防止のための手段であり、ヘッド回転モータ70の回転力が回転減面ヘッド10に伝わるように、両者は直接又は間接的に連結されている。ヘッド回転モータ70は、回転減面ヘッド10を所定の回転数で回転させる。回転減面ヘッド10の回転数は、例えば、100~1000rpm、100~700rpm、100~500rpm、300~1000rpm、300~700rpm、300~500rpm、又は300~400rpmの範囲又は当該範囲に含まれる任意の値としてよい。
【0029】
被減面材9は、回転減面ヘッド10の下方に対面するように置かれ、昇降装置80が、手動により又は電解減面装置100の制御コンピュータ(不図示)からの制御信号に応じて、回転する回転減面ヘッド10を被減面材9へ所定の圧力で押圧する。回転減面ヘッド10に加わる圧力は、例えば、0.1~10.0kN、0.1~5.0kN、0.1~3.0kN、0.5~10.0kN、0.5~5.0kN、0.5~3.0kN、1.0~10.0kN、1.0~5.0kN、又は1.0~3.0kNの範囲又は当該範囲に含まれる任意の値としてよい。
【0030】
詳細には、被減面材9の材料に応じて、被減面材を減面する工程における上記電解電圧、電流密度、及び電解液の流速はそれぞれ、以下の範囲又は当該範囲に含まれる任意の値にすると好ましい。
(1)被減面材9が純チタンの場合
電解電圧:8~20V、10~20V、12~20V、又は12~19V
電流密度:0.1~2.0A/cm2、0.2~2.0A/cm2、0.3~2.0A/cm2、0.3~1.7A/cm2、0.31~1.65A/cm2、又は1.03~1.65A/cm2
電解液の流速:2.2~2.8m/秒、2.3~2.7m/秒、又は2.4~2.67m/秒
(2)被減面材9がチタン合金の場合
電解電圧:5~15V、6~15V、8~15V、又は10~15V
電流密度:0.9~1.3A/cm2、又は0.93~1.24A/cm2
電解液の流速:1.8~2.2m/秒、又は1.9~2.1m/秒
(3)被減面材9がニッケル基合金の場合
電解電圧:28~35V、30~35V、32~35V、又は32~34V
電流密度:4.0~11.0A/cm2、5.0~11.0A/cm2、5.3~11.0A/cm2、5.5~11.0A/cm2、5.5~10.7A/cm2、7.0~10.7A/cm2、又は9.0~10.7A/cm2
電解液の流速:2.2~3.0m/秒、2.2~2.9m/秒、2.3~2.9m/秒、2.4~2.9m/秒、又は2.6~2.9m/秒
【0031】
回転減面ヘッド10を有する電解減面装置100による被減面材9の電解減面方法について説明する。被減面材9を減面する工程において、回転している回転減面ヘッド10が昇降装置80によって下降し、被減面材9に所定の圧力で接触させることによって、被減面材9の減面が行われる。
【0032】
図5は、回転減面ヘッド10の中心軸(回転軸)と電極5を含む面とを切断面とした断面図の一部であり、図中の矢印は電解液の流れる様子を示す。回転減面ヘッド10が取り付けられた電解減面装置100の電解液供給部40から供給された電解液が、回転軸2中の管部3を通って凹状の液溜部4に供給される。液溜部4に供給された電解液は、電解液供給部40により印加される圧力と回転による遠心力によって、上記所定の流速で電極5と被減面材9との間の間隙を流れる。
【0033】
通電部50によって電極5にマイナス電位(又はプラス電位)が印加され、被減面材9にプラス電位(又はマイナス電位)が印加されて、電極5と被減面材9との間の電解液の電解電圧及び電流密度が上述の所定の範囲となるように設定される。電解液に流れる電流によって電極5の表面から水素が発生し、被減面材9の表面からは電解溶出物が生成されるが、これらは電解液と一緒に排出される。
【0034】
砥石6は圧力によって大きくは変形しないため、減面工程の際に、昇降装置80によって被減面材9に圧力が加えられても、電極5と被減面材9との間の所定の距離は保つことができる。このため、電解減面中の被減面材9と電極5が接触することによるスパークを防止すると共に電解液の流路が確保される。
【実施例】
【0035】
電解減面装置を用いた、本発明の被減面材を減面する方法に関する実施例及び比較例について説明する。
【0036】
各実施例及び比較例において、表2~4に記載の減面工程の条件を除き同じ条件とした。すなわち、すべての例において、同じ電解減面装置を用い、被減面材の送り速度を0.6m/分で一定とし、同じ電解液(硝酸ソーダ水溶液)を用いて減面工程を行った。なお、被減面材の送り幅は160mm等としたが、このパラメータは減面能力(減面結果)への影響を与えないものである。
【0037】
電解減面装置の回転減面ヘッドは、電極及び砥石のセット数が6のものを用いた。回転減面ヘッドの電極は純銅製であり、砥石は弾性砥石(砥石番手#150または#240のものである。#150の方が#240に比べ粒度が粗い。砥粒はアルミナである。)である。
【0038】
被減面材は、実施例1~4及び比較例1~3においては熱延板状の純チタンとし、実施例5及び比較例4~5においては熱延板状のチタン合金とし、実施例6~11においてはニッケル基合金とした。
【0039】
表2~4中、砥石番手は回転減面ヘッドの直径(mm)であり、加圧力(kN)は回転減面ヘッドに印加する圧力である。電流密度(A/cm2)及び電解電圧(V)は電極と被減面材との間に流れる電解液に印加される電圧と電流の電流密度である。回転数(rpm)は、回転減面ヘッドの回転数であり、電解液流速(m/s)は、電極と被減面材との間を流れる電解液の流速である。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
いずれの実施例及び比較例においても1パスによる被減面材の減面処理の結果を評価した。なお、1パスとは、回転させた回転減面ヘッドを被減面材に押し当て、一定の送り速度で被減面材を一方向に動かしながら、被減面材を一度通過させて減面処理を行うことをいう。
【0044】
実施例1~4、実施例5、及び実施例6~11の減面工程後の被減面材はすべて、減面工程前に目視検査で認められた酸洗肌(黒皮)が減面工程後の表面には確認できず、金属光沢が現れた。すなわち、金属光沢の表面を有する被減面材(純チタン、チタン合金、又はニッケル基合金)が得られた。また、1パスあたりの減面量(被減面材の減厚量)についても、実施例1~4、実施例5、及び実施例6~11の減面工程後の被減面材はすべて20μm以上減面されており、十分な減面効果が得られた。
【0045】
他方、比較例1~5の減面工程後の被減面材はすべて、目視検査で黒皮が少なくとも部分的に残ったままであった。また、比較例1~5の減面工程後の被減面材はすべて、1パスあたりの減面量(被減面材の減厚量)についても10μm未満であり、十分な減面効果は得られなかった。
【0046】
なお、比較例の条件においても、被減面材に対して複数回(複数パス)減面工程を実施することにより、所定の減面量(20μm以上)及び目視検査で黒皮が見られないようにすることは不可能ではない。しかしながら、所定の減面量(20μm以上)及び目視検査で黒皮が見られないようにすることを、1パスの減面工程で達成できる実施例の方が効果的な減面を実現できている。
【0047】
上記実施形態で説明される寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更される。また、本発明は、具体的に記載された上記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0048】
1 ヘッド台座
2 回転軸
3 管部
4 液溜部
5 電極
6 砥石
9 被減面材
10 回転減面ヘッド
40 電解液供給部
50 通電部
60 絶縁カップリング
70 ヘッド回転モータ
80 昇降装置
100 電解減面装置
【要約】
【課題】
本発明は、ステンレス以外の材料である純チタン若しくはチタン合金又はニッケル基合金製の被減面材の減面を効果的に行うことができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の一実施形態は、電極及び砥石を有する回転減面ヘッドを備えた装置を用いて、純チタン又はチタン合金製の被減面材を減面する方法であって、前記電極と前記被減面材との間の電解電圧が1~25V、電流密度が0.1~2.5A/cm
2、及び電解液の流速が1.0~3.0m/秒の条件下で、前記回転減面ヘッドで前記被減面材を減面する工程を含む、方法を提供する。
【選択図】
図1