(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】塗膜切込み装置
(51)【国際特許分類】
B24B 7/04 20060101AFI20241213BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20241213BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20241213BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
B24B7/04 A
B24B41/06 L
G01N1/28 G
G01N1/28 Q
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2024128790
(22)【出願日】2024-08-05
【審査請求日】2024-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519454925
【氏名又は名称】オールグッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085316
【氏名又は名称】福島 三雄
(74)【代理人】
【識別番号】100171572
【氏名又は名称】塩田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100213425
【氏名又は名称】福島 正憲
(74)【代理人】
【識別番号】100221707
【氏名又は名称】宮崎 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100099977
【氏名又は名称】佐野 章吾
(74)【代理人】
【識別番号】100104259
【氏名又は名称】寒川 潔
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 寛人
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-99224(JP,A)
【文献】特開2009-58347(JP,A)
【文献】特開2019-86494(JP,A)
【文献】特開2017-30065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/04
B24B 41/06
G01N 1/28
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に塗膜が形成された試験片に対して所定の切込み処理を行う装置であって、
前記試験片を保持する試験片ホルダと、
前記試験片ホルダに保持された試験片に対して所定の切込み処理を行うツールを備えたツールユニットとを有してなり、
前記試験片ホルダは、装置基台上において、X軸方向、Y軸方向およびθ軸方向に移動可能に備えられ、
前記ツールユニットは、動力源を有する手持ち式の切削装置と、前記切削装置を着脱可能に保持する工具保持部とを有し、前記工具保持部が、前記装置基台上において、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージにロードセルを介して吊り下げられた第2ステージに装着されている
ことを特徴とする塗膜切込み装置。
【請求項2】
前記切削装置は、直線型の装置本体部と前記装置本体部の先端に着脱可能に装着される切削工具とを有し、
前記工具保持部は、前記切削装置をZ軸方向に沿って起立状態で保持する構造を備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の塗膜切込み装置。
【請求項3】
前記工具保持部は、前記切削装置の先端側を固定する先端側固定部と、前記先端側固定部より基端側に位置し、前記切削装置の装置本体部を固定する基端側固定部とを有する
ことを特徴とする請求項2に記載の塗膜切込み装置。
【請求項4】
前記先端側固定部は、Z軸方向に貫通する支持孔を有してなり、この支持孔に前記切削装置の先端側が挿入・支持される構造を有している
ことを特徴とする請求項3に記載の塗膜切込み装置。
【請求項5】
前記切削装置は、電動式のマイクログラインダで構成される
ことを特徴とする請求項4に記載の塗膜切込み装置。
【請求項6】
前記ツールユニットは、前記切削工具に臨む位置に切削時に発生する切粉を吸引するための吸引機構の吸込口を有している
ことを特徴とする請求項2に記載の塗膜切込み装置。
【請求項7】
前記吸引機構は、吸引装置に連通する吸引通路と、前記吸引通路に連通する吸引ノズルとを有してなり、
前記吸引ノズルは、前記切削工具の先端近傍の外周を囲う筒状部を有し、この筒状部によって前記切削工具の外周に形成される環状の開口部が前記吸込口とされる
ことを特徴とする請求項6に記載の塗膜切込み装置。
【請求項8】
前記試験片ホルダは、Z軸方向に昇降可能な昇降ステージと、前記昇降ステージと協働して前記試験片の周縁を挟み込んで保持する押えフレームと、前記押えフレームの外側にこぼれ落ちる切粉を受け止める切粉落下防止トレーとを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の塗膜切込み装置。
【請求項9】
前記装置基台は、前記試験片ホルダをX軸方向に駆動するX軸駆動機構と、前記試験片ホルダをY軸方向に駆動するY軸駆動機構と、前記試験片ホルダをθ軸周りに回転駆動するθ軸駆動機構と、前記第1ステージをZ軸方向に駆動するZ軸駆動機構と、これら各駆動機構を駆動制御する制御手段とを備えている
ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の塗膜切込み装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗膜切込み装置に関し、より詳細には、素地上に塗膜が形成された試験片に対して所定の切込み処理を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料の一般試験方法には様々な試験があるが、そのなかには塗膜に所定の切込みを入れて行う試験がある。たとえば、塗膜の付着性を評価するクロスカット法(JIS-K5600-5-6)や、塗膜の長期耐久性を評価するサイクル腐食試験方法(JIS-K5600‐7-9)、塩水噴霧試験方法(JIS―Z2371)、屋外暴露耐候性試験方法(JIS-K5600-7-6)、Paint and varnishes-Corrosion Protection of steel structures by protective paint systems(ISO12944)などが知られている。
【0003】
このような試験では、素地上に塗膜が形成された試験片が用いられる。試験片の塗膜には、試験前または試験中に、カッターナイフで所定の切込みが入れられる。たとえば、クロスカット法では、試験前の準備として、カッターナイフを用いて手作業で試験片の塗膜に直角の格子パターン(25マス)が切り込まれる(たとえば、特許文献1参照)。また、サイクル腐食試験や屋外暴露耐候性試験では、試験前に試験片の塗膜にカッターナイフを用いて手作業で切込みが行われ、その後塩水の噴霧、乾燥、湿潤の腐食サイクルが繰り返し実行されたり、屋外暴露耐候性試験が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のやり方には以下のような問題があり、その改善が望まれていた。
【0006】
すなわち、従来のようなカッターナイフによる塗膜への切込みでは、切込みに伴う素地の露出が少なくなる傾向がある。そのため、たとえば、サイクル腐食試験や塩水噴霧試験、屋外暴露耐候性試験のような塗膜の耐久性に関する試験では素地等の腐食による錆の発生や塗膜の膨らみや塗膜の剥がれなどが発現するまでに長期間を要することとなり、試験に長期間を要するという問題があった。また、塗膜への切込みの深さや切込み角度、さらには素地への食い込み具合などは試験結果に大きく影響を与えるところ、従来のように切込み処理を手作業で行っていたのでは、人為的な偏りにより、切込みの再現性・安定性が乏しく、塗膜に均一な切込みを施すことが困難であった。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、素地の露出が大きい切込み処理を実現するとともに、再現性、安定性の高い均一な切込み処理を塗膜に施すことができる塗膜切込み装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る塗膜切込み装置は、表面に塗膜が形成された試験片に対して所定の切込み処理を行う装置であって、上記試験片を保持する試験片ホルダと、上記試験片ホルダに保持された試験片に対して所定の切込み処理を行うツールを備えたツールユニットとを有してなり、上記試験片ホルダは、装置基台上において、X軸方向、Y軸方向およびθ軸方向に移動可能に備えられ、上記ツールユニットは、動力源を有する手持ち式の切削装置と、上記切削装置を着脱可能に保持する工具保持部とを有し、上記工具保持部が、上記装置基台上において、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージにロードセルを介して吊り下げられた第2ステージに装着されていることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明はその好適な実施態様として、以下の特徴を備えている。
(1)上記切削装置は、直線型の装置本体部と上記装置本体部の先端に着脱可能に装着される切削工具とを有し、上記工具保持部は、上記切削装置をZ軸方向に沿って起立状態で保持する構造を備えていることを特徴とする。
【0010】
(2)上記工具保持部は、上記切削装置の先端側を固定する先端側固定部と、上記先端側固定部より基端側に位置し、上記切削装置の装置本体部を固定する基端側固定部とを有することを特徴とする。
【0011】
(3)上記先端側固定部は、Z軸方向に貫通する支持孔を有してなり、この支持孔に上記切削装置の先端側が挿入・支持される構造を有していることを特徴とする。
【0012】
(4)上記切削装置は、電動式のマイクログラインダで構成されることを特徴とする。
【0013】
(5)上記ツールユニットは、上記切削工具に臨む位置に切削時に発生する切粉を吸引するための吸引機構の吸込口を有していることを特徴とする。
【0014】
(6)上記吸引機構は、吸引装置に連通する吸引通路と、上記吸引通路に連通する吸引ノズルとを有してなり、上記吸引ノズルは、上記切削工具の先端近傍の外周を囲う筒状部を有し、この筒状部によって上記切削工具の外周に形成される環状の開口部が上記吸込口とされることを特徴とする。
【0015】
(7)上記試験片ホルダは、Z軸方向に昇降可能な昇降ステージと、上記昇降ステージと協働して上記試験片の周縁を挟み込んで保持する押えフレームと、上記押えフレームの外側にこぼれ落ちる切粉を受け止める切粉落下防止トレーとを有することを特徴とする。
【0016】
(8)上記装置基台は、上記試験片ホルダをX軸方向に駆動するX軸駆動機構と、上記試験片ホルダをY軸方向に駆動するY軸駆動機構と、上記試験片ホルダをθ軸周りに回転駆動するθ軸駆動機構と、上記第1ステージをZ軸方向に駆動するZ軸駆動機構と、これら各駆動機構を駆動制御する制御手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、塗膜が形成された試験片を保持する試験片ホルダが、装置基台上でX軸方向、Y軸方向およびθ軸方向に移動可能に構成されるとともに、塗膜に対する切込み処理を行うツールユニットが、装置基台上でZ軸方向に移動可能に備えられた第1ステージにロードセルを介して吊り下げられた第2ステージに装着されているので、たとえば、切削工具が回転していないツールユニットを試験片の位置まで下げ、ロードセルにおいて指定された荷重の値が検出された位置をZ軸の原点とし、そこから切削工具を回転させながら指定の切込み深さまで下降させて、指定の深さに達した位置を保持し続けた状態で試験片をX軸方向などに移動させて試験片の塗膜をカットすることができ、再現性、安定性が高く均一な切込みを塗膜に施すことができる。そのため、本発明に係る塗膜切込み装置を用いることにより、塗膜の機械的性質を評価する試験をバラつきなく正確に行うことができる。
【0018】
また、ツールユニットには、動力源を有する手持ち式の切削装置が備えられるので、たとえば、切削装置に適用する切削工具としてエンドミルを用いることにより、試験片の塗膜に対する切込み処理において、素地の露出に関して取り付けたエンドミルの直径と同等の大きい切込みを形成することができる。その結果、塗膜の耐久性に関する試験において素地等の腐食による錆の発生や塗膜の膨らみ、塗膜の剥がれなどが発現するまでの期間を短縮でき、試験に要する時間を短縮することができる。また、一定の幅と深さで塗膜と素地をカットでき、再現性、安定性の高い均一な切込み処理を塗膜に施すことができるため、サイクル腐食試験や塩水噴霧試験、屋外暴露耐候性試験のような塗膜の耐久性に関する試験で安定した結果を得られることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る塗膜切込み装置の外観構成の一例を示す正面側斜視図である。
【
図2】同塗膜切込み装置の外観構成の一例を示す背面側斜視図である。
【
図3】同塗膜切込み装置の内部構造を部分的に示した斜視図である。
【
図4】同塗膜切込み装置のツールユニットの外観構成の一例を示す斜視図である。
【
図5】同ツールユニットへの切削装置の装着と手順を示す分解斜視図である。
【
図6】同ツールユニットにおける切粉の吸引機構を示すツールユニットの部分断面図である。
【
図7】本発明に係る塗膜切込み装置の試験片ホルダの外観構成の一例を示す斜視図であって、
図7(a)は昇降ステージを上昇させて試験片を保持した状態を、
図7(b)は昇降ステージを下降させて試験片を除去した状態をそれぞれ示している。
【
図8】同塗膜切込み装置による試験片の切削状態を示すツールユニットおよび試験片ホルダの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る塗膜切込み装置の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0021】
塗膜切込み装置1は、表面に塗膜が形成された試験片TPに対して所定の切込み処理を行うための装置であって、試験片TPを保持する試験片ホルダ2と、試験片TPに対して所定の切込み処理を行うツール(切削装置40)を保持するツールユニット3とを主要部として備えている。
【0022】
ここで、試験片TPは、金属または樹脂などで構成された素地の上に機械的性質が評価される塗膜が形成された板状またはフィルム状の試料である。素地としては、たとえば金属(鉄、炭素鋼、耐候性鋼、亜鉛、銅、アルミニウム、ステンレス鋼など)、プラスチックなどの合成樹脂のほか、コンクリート、ゴム、ガラスなどが例示される。また、塗膜としては、たとえば塗料(アクリル樹脂系、シリコン樹脂系、フッ素樹脂系などの塗料)を塗布または印刷してなる塗膜が例示される。なお、本実施形態では、試験片TPとして、
図8に示すように、薄い金属板に塗膜を形成してなる試験片TPが例示されるが、
図7(a)に示すように、厚手の素地(たとえばコンクリート片)の上に塗膜を形成した試験片TPを用いることも可能である。
【0023】
塗膜切込み装置1は、
図1および
図2に示すように、ケーシング4に収容されている。ケーシング4は、装置全体を覆うケーシング本体4aと、ケーシング本体4aにヒンジ5を介して開閉可能に取り付けられた開閉蓋4bとで構成されており、開閉蓋4bを閉じることによって、試験片ホルダ2およびツールユニット3を含む装置全体を閉じた空間内に収容できるようになっている。そのため、試験片TPに対して切込み処理を行うときは、開閉蓋4bを閉じることで、塗膜の切削屑などの切粉が装置外部に飛散するのを防止することができる。なお、本実施形態では、ケーシング4は、アルミニウム製のフレーム4c,4c,…を立体的(箱型)に組み立て、このフレーム4cの枠内に所定のパネルを装着することで閉じた空間を形成している。図中の符合4dは、開閉蓋4bを構成するフレーム4cに備えられた透明な窓パネルを示しており、この窓パネル4dを通じて切込み処理の状況をケーシング4の外部から視認できるようになっている。また、図中の符合4eは、ケーシング本体4aを構成するフレーム4cに備えられた金属製の化粧パネルを示している。
【0024】
試験片ホルダ2は、試験片TPを固定的に保持するためのホルダであって、
図7および
図8に示すように、上下方向(Z軸方向)に昇降可能に構成された昇降ステージ6と、昇降ステージ6と協働して試験片TPを挟み込んで保持する押えフレーム7と、押えフレーム7の外側にこぼれ落ちる切粉を受け止める切粉落下防止トレー17とを主要部として構成されている。
【0025】
具体的には、試験片ホルダ2は、ベース板8と、ベース板8に立設される支柱9と、支柱9上に配置される押えフレーム7と、押えフレーム7の下方に配置される昇降ステージ6と、昇降ステージ6の昇降機構10とを備えている。ベース板8は略矩形状を呈する板状の部材で構成されており、その四隅に支柱9,9,…が立設されている。押えフレーム7は、試験片TPが載置された昇降ステージ6が上昇したときに、試験片TPの外周縁と当接して、試験片TPを昇降ステージ6との間に挟み込んで保持する部材であって、中央部が開口した枠体で構成されおり、その四隅が支柱9上に取り付けられている。なお、押えフレーム7において、昇降ステージ6と対面する面(下面)には、図示しない弾性体(たとえば、ゴム板)が配置される。これにより、試験片TPの位置ずれが弾性体との摩擦によって防止される。また、この種の試験片TPでは、試験片TPの端部をシールするために試験片TPの外周縁に塗膜を構成する塗料を多めに塗布することがあり、そのため試験片TPの外周縁が膨らんでいることがある。しかし、このように外周縁が膨らんだ試験片TPであっても押えフレーム7に弾性体を配置しておくことで、確実に保持することができるようになる。
【0026】
昇降ステージ6は、4本の支柱9,9,…の内側に配置される略矩形状を呈する板状部材で構成される。昇降機構10は、昇降ステージ6の下面に作用するカム18と、このカムの回転軸19に連結された昇降ノブ11と、昇降ステージ6の昇降移動を案内するリニアシャフト12およびリニアブッシュ13とを有しており、昇降ノブ11の回転に伴って、回転軸19が回転し、これによりカム18が昇降ステージ6に作用して昇降ステージ6を昇降させるようになっている。図中の符合14は昇降ステージ6を下げ切った位置で、昇降ノブ11の回転を制限する回転ストッパである。また、
図7に示す昇降ステージ6は、当該ステージの外周部に中央より低い溝16が形成されている。この溝16は、上述した外周縁が膨らんだ試験片TPの膨らんだ外周縁部分を収容するための溝であって、この溝に外周縁を収容することで、昇降ステージ6上に試験片TPを安定して載置することができる。
【0027】
切粉落下防止トレー17は、試験片TPへの切込み処理によって発生する切粉が後述する装置基台20側に落下するのを防止するための部材であって、昇降ステージ6の下方に配置される。本実施形態では、切粉落下防止トレー17は、昇降ステージ6や押さえフレーム7と同様の略矩形状を呈する皿状の部材で構成されており、その外周縁は昇降ステージ6および押えフレーム7の外周縁よりも外側に張り出している。また、切粉落下防止トレー17は、昇降ステージ6とともに昇降移動できるように、昇降ステージ6の下面に装着されている。これにより、試験片TPへの切込み処理によって発生する切粉(塗膜や素地の切削屑など)が押えフレーム7から外側にこぼれ落ちて試験片ホルダ2の下(具体的には、後述するXYステージ29や基台板21などの上)に落下するのを防止することができる。
【0028】
このように構成された試験片ホルダ2は、使用にあたり、まず、昇降ステージ6を試験片TPのセット位置まで下げ、その位置で昇降ステージ6上に試験片TPを載置する。なおその際、試験片TPが薄い場合は、
図8に示すように、試験片TPの表面の高さ位置を調整するスペーサSPを試験片TPの下に適宜配置する(
図8ではスペーサSPを2枚配設した状態を示している)。試験片TPの載置が完了すると、次に、昇降ノブ11を操作して昇降ステージ6を上昇させる。昇降ステージ6を上昇させることで、昇降ステージ6と押えフレーム7との間に試験片TPが挟み込まれ、昇降ステージ6と押えフレーム7との間に試験片TPが保持される。
【0029】
本発明に係る塗膜切込み装置1では、このような構成を有する試験片ホルダ2は、塗膜切込み装置1の装置基台20上において、X軸方向(左右方向)、Y軸方向(前後方向)およびθ軸方向(周方向)に移動可能に備えられている。
【0030】
ここで、塗膜切込み装置1の装置基台20について
図3を参照しつつ説明する。
本実施形態に示す塗膜切込み装置1では、装置基台20を構成する基台板21の下側に表示部90、操作部91、図示しないマイコンや電源部などの電装品を収容する電装品エリアEAが形成され、基台板21の上側に試験片ホルダ2とその駆動機構を収容する試験片ホルダエリアHAと、その上方にツールユニット3とその駆動機構を収容するツールユニットエリアTAとが形成されている。
【0031】
試験片ホルダ2は基台板21上に配置されている。基台板21は、ケーシング4のフレーム4c,4c,…によるフレーム構造によってケーシング4内の所定の高さ位置に支持されており、ケーシング4の底板(図示せず)と基台板21との間に電装品エリアEAを形成している。基台板21には、試験片ホルダ2をY軸方向に移動させるY軸駆動機構25と、試験片ホルダ2をX軸方向に移動させるX軸駆動機構26と、試験片ホルダ2をθ軸周りに回転させるθ軸駆動機構27とが備えられる。
【0032】
Y軸駆動機構25は、基台板21上にY軸方向に配設された一対のY軸レール28と、Y軸レール28上をY軸方向に走行可能に配置されたXYステージ29と、XYステージ29をY軸方向に駆動するY軸モータ(図示せず)とを備えている。Y軸モータは、後述する制御部100と接続されており、制御部100によってXYステージ29のY軸方向の位置制御ができるようになっている。
【0033】
X軸駆動機構26は、XYステージ29上にX軸方向に配設された一対のX軸レール31と、X軸レール31上をX軸方向に走行可能に配置された第1θステージ32と、第1θステージ32をX軸方向に駆動するX軸モータ33とを備えている。X軸モータ33は、後述する制御部100と接続されており、制御部100によって第1θステージ32のX軸方向の位置制御ができるようになっている。第1θステージ32の四隅には支柱38が立設されており、この支柱38上に第2θステージ34が配設されている。すなわち、X軸レール31上に配置されるθステージは、第1および第2のθステージからなる2層構造とされる。
【0034】
θ軸駆動機構27は、第2θステージ34上に配設された環状のθ軸レール(図示せず)と、θ軸レール上に配置されてθ軸を中心に軸周りに回転可能に配置された試験片ホルダ取付板36と、試験片ホルダ取付板36に連結されたθ軸体(図示せず)を回転駆動するθ軸モータ(図示せず)とを有している。θ軸モータは、後述する制御部100と接続されており、制御部100によって試験片ホルダ取付板36の回転角を制御できるようになっている。なお、θ軸体は、第2θステージ34を貫通して第1θステージ32に配置された電磁ブレーキ(図示せず)に連結されており、電磁ブレーキによってθ軸体の回転を制止できるようになっている。これにより、試験片ホルダ取付板36に取り付けられた試験片ホルダ2の回転を制止・固定することができ、試験片TPへの切込み処理中における試験片ホルダ2の位置ずれが防止される。
【0035】
そして、このθ軸駆動機構27の試験片ホルダ取付板36上に試験片ホルダ2のベース板8が取り付けられている。これにより、試験片ホルダ取付板36の回転とともに試験片ホルダ2が回転駆動するようになっている。
【0036】
なお、本実施形態では、試験片ホルダ2のY軸駆動機構25、X軸駆動機構26およびθ軸駆動機構27について、上下方向の高さ位置をずらして配置した積層構造を採用していることから、試験片ホルダ2の駆動手段を狭いスペース(平面視において狭いスペース)に配置することができ、塗膜切込み装置1をコンパクトに構成できる。
【0037】
一方、ツールユニット3は、試験片ホルダ2に保持された試験片TPに対して所定の切込み処理を行うためのユニットであって、
図4ないし
図6に示すように、試験片TPに切込み処理を行う切削装置40と、切削装置40を着脱可能に保持する工具保持部50とを主要部として備えている。また、本実施形態では、ツールユニット3には、切込み処理時に発生する切粉を吸引するための吸引機構60が備えられている。
【0038】
切削装置40は、動力源を有する手持ち式の切削装置であって、片手持ちに対応した形状の直線型(いわゆるペンシル型)の装置本体部41と、装置本体部41の先端に着脱可能に装着される切削工具42とを有している。本実施形態では、切削装置40は、動力源として電動モータ(図示せず)を備えた電動式の装置で構成される。切削装置40は、装置本体部41内に切削工具42を回転駆動する電動モータを備えており、ケーシング4の外部に配置されたモータ制御装置(図示せず)と電動モータとが制御ケーブル43を介して有線接続されている。モータ制御装置は、電動モータに対する電力供給と電動モータの駆動制御とを行う装置であって、図示しない外部の商用電源から電力供給を受けて電動モータに給電するとともに、装置本体部41に内蔵された電動モータのON/OFF制御および回転速度制御などを行う。
【0039】
装置本体部41の先端には、切削工具42を着脱可能に装着するチャッキング機構部44が備えられている。チャッキング機構部44は、手動操作によって切削工具42の着脱ができるように構成されている。本実施形態では、チャッキング機構部44には、試験片TPの塗膜に対する切込み処理用の工具としてエンドミルが装着される。エンドミルによる塗膜への切込み処理はカッターナイフによる切込み処理に比して塗膜に幅広の切込みを形成することができる。本実施形態では切削工具42としてエンドミルが好適に使用されるが、電動モータの回転に伴って塗膜に対して幅広の切込み処理が可能な工具であれば、エンドミル以外の工具、たとえば、スロットドリル、コバルトスロットドリルなどを用いることも可能である。
【0040】
なお、本実施形態では、上述した切削装置40として、市販品のマイクログラインダ(たとえば、株式会社ナカニシ製のEV410-100/EV410-230など)を使用している。このように切削装置40に市販品の装置を使用することで、ツールユニット3の製造コスト、メンテナンスコストを安価に抑えることができる。
【0041】
工具保持部50は、切削装置40を着脱可能に保持するものであって、切削装置40をZ軸方向に沿って起立状態で保持する構造を備えている。具体的には、工具保持部50は、切削装置40の先端側を固定する先端側固定部51と、先端側固定部51より基端側に位置し、切削装置40の装置本体部41を固定する基端側固定部52と、先端側固定部51と基端側固定部52とを連結する連結部53とを備えている。
【0042】
先端側固定部51は、水平に配置される略矩形の板状部材で構成される。この板状部材は、長手方向の一端が連結部53の下端に固定されるとともに、長手方向の他端側にZ軸方向に貫通する支持孔54が形成されている。支持孔54は、切削装置40の先端側を挿入するための孔であって、
図6に示すように、支持孔54に切削装置40の先端側を挿入することにより、切削装置40の先端側が支持孔54の周縁によって位置決め支持されるようになっている。すなわち、先端側固定部51は、切削装置40において先端側から基端側に向かって胴体径が太くなる部分を利用して、この太くなった胴体径よりも狭い開口径の支持孔54を用いて切削装置40を受け止めることで、切削装置40の先端側を支持する構造を備えている。そのため、支持孔54によって先端側が支持された切削装置40は、その先端に備えられた切削工具42が前後左右(X,Y軸方向)にぶれることなく安定して保持される。
【0043】
基端側固定部52は、切削装置40の装置本体部41を挟み込んで固定する構造を有しており、連結部53に固定される本体部55と、切削装置40を本体部55側に押さえつけて固定する押さえ片部56とを備えている。本体部55は、Z軸方向に厚みのあるブロック状の部材で構成されており、その長手方向の一端が連結部53の上端に固定されるとともに、長手方向の他端の端面にZ軸方向に貫通する装着溝58が形成されている(
図5参照)。装着溝58は、切削装置40の装置本体部41の外周形状に対応した凹状の溝で構成される。押さえ片部56は、本体部55と対面する側の端面に、Z軸方向に貫通する第2の装着溝59が形成されている(
図5参照)。第2の装着溝59は、装着溝58と同様に、切削装置40の装置本体部41の外周形状に対応した凹状の溝で構成されている。そして、押さえ片部56を本体部55の他端側の端面に突き合わせることによって第2の装着溝59と装着溝58との間に切削装置40の保持空間を形成し、この保持空間に切削装置40の装置本体部41を挟み込んで保持するようになっている。なお、押さえ片部56はネジ57によって本体部55に着脱可能に装着され、これによって切削装置40の装置本体部41が本体部55に着脱可能に固定される。
【0044】
このように構成された工具保持部50は、その使用にあたり、まず、先端側固定部51の支持孔54に切削装置40の先端側を挿入して切削装置40の先端側を位置決めする。そして、基端側固定部52の装着溝58と第2の装着溝59との間に切削装置40の装置本体部41を挟み込んみ、その状態で押さえ片部56を本体部55に装着・固定する。これにより、切削装置40は、切削工具42を下に向けてZ軸方向に沿って起立した状態で保持される。このとき、切削装置40は、基端側固定部52の装着溝58および第2の装着溝59により形成される二つの面によってその全周が挟持されるので、これらの面によって装置本体部41は安定的に保持される。そのため、試験片TPヘの切込み処理時の切削抵抗や荷重などの影響による切削装置40のぐらつきを抑制し、安定した切込み処理を実現できる。
【0045】
吸引機構60は、切削装置40による切込み処理の際に発生する切粉を吸引・除去するための装置であって、図示しない吸引装置61と、吸引装置61に連通する吸引通路62と、吸引通路62に連通する吸引ノズル63とを主要部として備えている。
【0046】
吸引装置61は、試験片TPの塗膜や素地の切削屑などの切粉を吸引する装置であって、本実施形態ではケーシング4の外部に配置される。吸引装置61としては、たとえば、業務用または家庭用の掃除機が好適に用いられる。吸引ノズル63は、切削工具42に臨む位置に切粉の吸込口64を配置する部品であって(
図6参照)、本実施形態では、工具保持部50の先端側固定部51の下面に配置されている。この吸引ノズル63は、切削工具42の先端近傍の外周を囲う筒状部63aを有し、この筒状部63aによって切削工具42の外周に形成される環状の開口部を吸込口64としている。このように吸込口64を環状に構成することで、切削工具42の周囲に吸込口64が形成され、切粉を効率的に吸引することができる。なお、吸込口64の形成にあたっては、
図6に示すように、吸引ノズル63の下端面から切削工具42の先端が突出するように構成される。これは切削工具42による切込み処理時に吸引ノズル63の下端面が試験片TPの表面と接触干渉しないようにするためである。たとえば、試験片TPへの切込み深さが2mmの場合、切削工具42の突出量L1は切込み深さより長い値(たとえば、3mm)に設定される。
【0047】
また、筒状部63aには、管路の一端が筒状部63aの側壁を貫通する管継手65が装着されている。この管継手65の他端にはフレキシブル吸引チューブ66の一端が装着されている。フレキシブル吸引チューブ66は、後述するツールユニット3の昇降動作に対応可能な柔軟性を有するチューブで構成されており、その他端が吸引管路67の一端に接続される。吸引管路67は、フレキシブル吸引チューブ66の他端を吸引装置61の吸込口(図示せず)に接続するための配管であって、
図2および
図3に示すように、その他端はケーシング4の外部に引き出されて、最終的に吸引装置61の吸込口に接続される。すなわち、吸引装置61と吸引ノズル63は、吸引管路67、フレキシブル吸引チューブ66および管継手65を介して連通するように接続されており、これらが切粉の吸引通路62を構成している。
【0048】
そして、このように構成されたツールユニット3は、工具保持部50の連結部53の背面側(先端側固定部51、基端側固定部52が備えれる面とは反対側の面)に、ツールユニット3をZ軸方向(上下方向)に移動可能に支持するための取付板35が備えられており、この取付板35を介して後述する第2ステージ72に着脱可能に装着されている。
【0049】
次に、ツールユニット3をZ軸方向に移動可能に構成する構造について説明する。
本実施形態に示す塗膜切込み装置1では、ツールユニット3は、
図3に示すように、装置基台20上において、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージ71にロードセル(図示せず)を介して吊り下げられた第2ステージ72に装着される。
【0050】
第1ステージ71は、基台板21上に起立して設けられたZ軸移動用のZ軸ベース板70)に取り付けられている。Z軸ベース板70にはZ軸方向に一対のZ軸レール73が配設されており、第1ステージ71はこのZ軸レール73にスライド移動可能に装着されている。また、Z軸ベース板70には、第1ステージ71をZ軸方向に駆動するZ軸駆動機構(図示せず)が備えられている。Z軸駆動機構は、Z軸レールと、第1ステージ71をZ軸方向に駆動するZ軸モータ(図示せず)とを備えており、第1ステージ71はZ軸モータと駆動連結され、これによって第1ステージ71がZ軸方向に駆動するように構成されている。なお、Z軸モータは、後述する制御部100と接続されており、制御部100を通じて第1ステージ71、ひいてはツールユニット3のZ軸方向の位置を制御できるようになっている。
【0051】
ロードセルは、ツールユニット3に付加される荷重を測定するセンサであって、一端が第1ステージ71に連結されるとともに、他端が第2ステージ72に連結されている。これにより、第2ステージ72は、ロードセルを介して第1ステージ71に吊り下げられている。
【0052】
このように吊り下げられた第2ステージ72にツールユニット3を取り付けると、ツールユニット3の自重によりロードセルが引張状態となって第2ステージ72が下降する。ここで、ツールユニット3の自重が1kgであり、1kgあたりのロードセルのたわみ量が4μmであったと仮定すると、この状態で第1ステージ71を下降させてツールユニット3に保持された切削装置40の切削工具42の先端を試験片TPに接触させると、接触前に4μmの引張状態になっていたロードセルのたわみが徐々に戻ることになるが、この時の戻り量が4μm以下の場合は自重(1kg)以下の荷重が付加されていることになる。第1ステージ71をさらに下降させ、ロードセルに圧縮方向のたわみが加わるようになると、自重以上の荷重が付加されていることになる。これらの荷重は、いずれもZ軸駆動機構のZ軸モータの推力によって設定される。なお、ロードセルは制御部100と接続されており、制御部100はツールユニット3に付加される荷重を測定できるようになっている。
【0053】
第2ステージ72は、ツールユニット3を装着する部位であって、略板状の部材で構成されている。本実施形態では、第2ステージ72は、第1ステージ71の表面にZ軸方向に配設される一対のガイドレール(図示せず)に装着されており、このガイドレールに沿ってZ軸方向にスライド移動できるように構成されている。
【0054】
このように、本実施形態に示す塗膜切込み装置1では、第1ステージ71をZ軸方向に移動させることによって、第2ステージ72に装着されたツールユニット3をZ軸方向に移動させることができ、これにより、ツールユニット3に保持された切削装置40の切削工具42を用いて、試験片ホルダ2に保持された試験片TPに対して、所定の切込み処理を行えるようになっている。
【0055】
制御部100は、Y軸駆動機構25(Y軸モータ)、X軸駆動機構26(X軸モータ33)、θ軸駆動機構27(θ軸モータ)、Z軸駆動機構(Z軸モータ)などを制御する制御装置であって、本実施形態では、これら各駆動機構の駆動制御や表示部90の表示制御などを行う制御プログラムを備えたマイコン(図示せず)で構成されており、装置基台20の電装品エリアEAに収容されている。特に、本実施形態では、制御部100は、これら各駆動機構の駆動制御を通じて、後述する塗膜への切込み処理を実行するように構成されている。
【0056】
なお、図中の符合90は塗膜切込み装置1の表示部を示している。本実施形態では、表示部90は、たとえば、操作部91を兼ねたタッチパネルで構成される。また、図中の91は、タッチパネル以外の物理スイッチで構成された操作部を示している。塗膜切込み装置1のユーザは、表示部90の表示を確認しながら、物理スイッチやタッチパネルを操作することで、制御部100に対して各種指示を入力できるようになっている。
【0057】
次に、塗膜切込み装置1による試験片TPの塗膜への切込み処理について説明する。
塗膜への切込み処理は、概ね以下の手順で行われる。
【0058】
(1)試験片ホルダ2への試験片TPの装着
塗膜の切込み処理にあたっては、事前準備として、表面に塗膜が形成された試験片TPを試験片ホルダ2に装着する。この装着は、上述したように、昇降ステージ6と押えフレーム7との間に試験片TPを挟み込んで保持することにより行う。
【0059】
(2)ツールユニット3への切削装置40の装着
試験片ホルダ2への試験片TPの装着と並行して、ツールユニット3に切削装置40を装着する。この装着は、基端側固定部52の押さえ片部56を取り外して行う。具体的には、押さえ片部56を取り外した状態で、切削装置40の先端を先端側固定部51の支持孔54に挿入して先端側の位置決めを行いつつ、切削装置40の装置本体部41を基端側固定部52の装着溝58に嵌め合わせ、その上から押さえ片部56を装着、ネジ止め固定することで、切削装置40の装着を完了する。なお、あらかじめ切削装置40が装着されたツールユニット3を用いることで、この作業は省略することができる。
【0060】
(3)切込み処理
切削装置40の装着が完了すると、次に、試験片TPに対する切込み処理を実行する。試験片TPへの切込み処理は、ユーザが操作部91を介してY軸駆動機構25、X軸駆動機構26、θ軸駆動機構27およびZ軸駆動機構のそれぞれを操作して手動で行ってもよいが、本実施形態では、制御部100による自動制御によって切込み処理の全工程または一部の工程が自動で実行されるように構成される。すなわち、試験片TPの切込み処理の自動制御に必要なデータをユーザが入力することで、入力されたデータに基づいて、制御部100がY軸駆動機構25、X軸駆動機構26、θ軸駆動機構27およびZ軸駆動機構をそれぞれ駆動制御して自動で切込み処理を実行する。なお、本実施形態では、切削装置40および吸引装置61は制御部100とは連携していないので、これらの装置はユーザが手動で操作する。
【0061】
以下、制御部100による切込み処理の一例を説明する。
A:荷重を指定した切込み処理
(I)この切込み処理では、制御部100は、まずZ軸駆動機構を駆動して切削工具42を下降させる。このとき、切削装置40および吸引装置61は作動停止状態にある。
(II)切削工具42の下降中、制御部100は、ロードセルで検出される荷重を監視し、検出される荷重が所定の荷重(ユーザが設定した荷重)に到達すると、その時点で切削工具42の下降を停止させる。ユーザはこのタイミングで切削装置40および吸引装置61を手動で作動させる。
(III)切削工具42の下降を停止させた制御部100は、Z軸駆動機構の停止状態(第1ステージ71のZ軸方向の位置)を維持しながら、あらかじめ入力されたデータに基づいて、Y軸駆動機構25、X軸駆動機構26およびθ軸駆動機構27を適宜駆動制御し、試験片TPに対して切削工具42による切込みを加える。
【0062】
このとき、Y軸駆動機構25またはX軸駆動機構26を駆動させることで、試験片TPに対してY軸方向またはX軸方向への切込みを行うことができる。また、これにZ軸駆動機構によるツールユニット3の上昇・下降動作を組み合わせることで、試験片TPに対して複数列の切込みを行うことができる。さらに、θ軸駆動機構27による試験片ホルダ2の回転を組み合わせることで、試験片TPに対して直交する切込みを行うことができる。加えて、Y軸駆動機構25およびX軸駆動機構26の制御により、たとえば切込み速度を一定に保つことができる。
【0063】
B:切込み深さを指定した切込み処理
(I)この切込み処理では、制御部100は、まずZ軸駆動機構を駆動して切削工具42を下降させる。このとき、切削装置40および吸引装置61は作動停止状態にある。
(II)切削工具42の下降中、制御部100は、ロードセルで検出される荷重を監視し、検出される荷重が所定の荷重(ユーザが設定した荷重)に到達すると、その時点で切削工具42の下降を停止させるとともに、このときのZ軸方向の位置を切込み深さ測定用の原点として記憶させる。なお、ユーザはこのタイミングで切削装置40および吸引装置61を手動で作動させる。
(III)制御部100は、切込み深さ測定用の原点を基準として所定の切込み深さ(ユーザが設定した切込み深さ)に到達するまでZ軸駆動機構を駆動し、所定の切込み深さに到達した時点でZ軸駆動機構を停止させる。そして、この停止状態(第1ステージ71のZ軸方向の位置)を維持しながら、あらかじめ入力されたデータに基づいて、Y軸駆動機構25、X軸駆動機構26およびθ軸駆動機構27を適宜駆動制御し、試験片TPに対して切削工具42による切込みを加える。
【0064】
なお、本実施形態に係る塗膜切込み装置1では、このような切込み処理中に発生する切粉は吸引装置61によって吸引され装置外に排出・除去されるとともに、試験片ホルダ2からこぼれ落ちた切粉は切粉落下防止トレー17によって受け止められるので、こぼれ落ちた切粉によってY軸駆動機構25、X軸駆動機構26、θ軸駆動機構27などが動作不良に陥るおそれが有効に防止される。
【0065】
このように、本発明に係る塗膜切込み装置1によれば、試験片TP(塗膜)に作用する荷重や切込み深さを指定した切込み処理を実行することができるので、再現性、安定性が高く均一な切込みを塗膜に施すことができる。そのため、本発明に係る塗膜切込み装置1を用いることにより、塗膜の機械的性質を評価する試験をバラつきなく正確に行うことができる。
【0066】
また、試験片TPへの切込み処理にあたり、ツールユニット3の切削装置40に装着する切削工具42としてエンドミルなどを選択することで、素地の露出が大きい切込みを試験片TPの塗膜に形成することができる。その結果、塗膜の耐久性に関する試験において素地等の劣化が発現するまでの期間を短縮でき、試験に要する時間を短縮することができる。
【0067】
なお、上述した実施形態はあくまでも本発明の好適な実施態様を示すものであって、本発明はこれらに限定されることなくその範囲内で種々の設計変更が可能である。
【0068】
たとえば、上述した実施形態では、試験片ホルダ2の昇降ステージ6を手動操作で昇降させる場合を示したが、試験片ホルダ2に電動モータを配置するなどして、昇降ステージ6の昇降移動を電動で行わせるように構成することも可能である。
【0069】
また、上述した実施形態では、切削装置40として、外部電源で駆動する電動式の切削装置を用いた場合を示したが、内部電源で駆動する電池駆動式の切削装置を用いることも可能である他、たとえば、圧縮空気を利用するエアモータなど電気以外の動力源を用いた切削装置を用いることも可能である。
【0070】
また、上述した実施形態では、工具保持部50は、先端側固定部51と基端側固定部52の2つの固定部を用いて切削装置40を保持する場合を示したが、単一または3つ以上の固定部を用いて切削装置40を保持してもよい。また、工具保持部50を構成する個々の固定部は、切削装置40を着脱可能に保持できる構造であればよく、上述した実施形態に示す構造に限定されず適宜設計変更可能である。
【0071】
また、上述した実施形態では、吸引機構60の吸引装置61をケーシング4の外部に配置した場合を示したが、吸引装置61はケーシング4内に収容されていてもよい。また、吸引ノズル63の吸込口64は、切込み処理によって発生する切粉の吸引が可能な態様であればよく、具体的な形状および配置は適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 塗膜切込み装置
2 試験片ホルダ
3 ツールユニット
4 ケーシング
6 昇降ステージ
7 押えフレーム
10 昇降機構
17 切粉落下防止トレー
20 装置基台
21 基台板
25 Y軸駆動機構
26 X軸駆動機構
27 θ軸駆動機構
29 XYステージ
32 第1θステージ
34 第2θステージ
40 切削装置
41 装置本体部
42 切削工具
44 チャッキング機構部
50 工具保持部
51 先端側固定部
52 基端側固定部
53 連結部
54 支持孔
60 吸引機構
61 吸引装置
62 吸引通路
63 吸引ノズル
64 吸込口
71 第1ステージ
72 第2ステージ
90 表示部
91 操作部
100 制御部
TP 試験片
【要約】
【課題】素地の露出が大きい切込み処理を実現するとともに、再現性、安定性の高い均一な切込み処理を塗膜に施すことができる塗膜切込み装置を提供する。
【解決手段】塗膜が形成された試験片TPに切込み処理を行う装置であって、試験片TPを保持する試験片ホルダ2と切込み処理を行うツールユニット3とを備えている。試験片ホルダ2は、装置基台20上に、X軸、Y軸およびθ軸方向に移動可能に備えられる。ツールユニット3は、Z軸方向に移動可能に備えられた第1ステージ71にロードセルを介して吊り下げられた第2ステージ73に装着される。塗膜への切込み処理は、動力源を有する手持ち式の切削装置40をツールユニット3に装着し、これをZ軸方向に移動させて切込みを行いつつ、試験片ホルダ2をX軸、Y軸およびθ軸方向に移動させることで所望の深さ、長さ、向きの切込みを行う。
【選択図】
図3