(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-12
(45)【発行日】2024-12-20
(54)【発明の名称】パッカー移動機構及び地山補強工法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20241213BHJP
【FI】
E21D9/04 F
(21)【出願番号】P 2021098361
(22)【出願日】2021-06-11
【審査請求日】2024-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】井本 厚
(72)【発明者】
【氏名】小山内 快和
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
(72)【発明者】
【氏名】外川 雄大
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06286603(US,B1)
【文献】特開平08-049234(JP,A)
【文献】特開昭54-071001(JP,A)
【文献】特開2000-310094(JP,A)
【文献】実開昭60-045799(JP,U)
【文献】特開2010-203125(JP,A)
【文献】特開2018-059342(JP,A)
【文献】韓国登録特許第2154266(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第1528524(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0089646(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00- 9/14
E21D 20/00-21/02
E21B 1/00-49/10
E02D 3/00- 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に定着材注入用の中空部が設けられている地山補強管と、
前記地山補強管の軸方向に間隔を開けて配置された前側ガイド管部と後側ガイド管部とから構成され、前記地山補強管の外周にクリアランスを設けて外挿されるガイド体と、
前記前側ガイド管部と前記後側ガイド管部とに架け渡され、前記地山補強管を覆うように設けられる膨張可能なパッカーと、
少なくとも前記後側ガイド管部に固定され、前記パッカーの内部に注入材を注入する注入ホースとを備え、
前記地山補強管の軸方向における前記注入ホースの移動に応じて前記ガイド体が移動することを特徴とするパッカー移動機構。
【請求項2】
前記ガイド体が、別体の前記前側ガイド管部と前記後側ガイド管部とから構成されると共に、
前記注入ホースが前記前側ガイド管部にも固定され、
前記注入ホースにおける前記前側ガイド管部の固定箇所と前記後側ガイド管部の固定箇所との間の位置に前記パッカーの内部に注入材を吐出する切欠きが形成されていることを特徴とする請求項1記載のパッカー移動機構。
【請求項3】
前記パッカーが外周基材と内周基材とから構成される二重構造であり、
前記外周基材と前記内周基材との間に前記注入ホースによって注入材が注入されることを特徴とする請求項1又は2記載のパッカー移動機構。
【請求項4】
前記ガイド体が、前記前側ガイド管部と前記後側ガイド管部とが一体化された管状に形成され、
前記ガイド体の軸方向における中間部に注入材流通用の流通孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載のパッカー移動機構。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載のパッカー移動機構を用いる地山補強工法であって、
地山に形成した削孔の内部に前記地山補強管を配置すると共に、前記注入ホースを前記削孔の奥側に移動して前記ガイド体及び前記パッカーを前記削孔の口元より奥側の所定位置に配置する第1工程と、
前記注入ホースから前記注入材を前記パッカーの内部に注入して膨らませ、前記削孔の所定位置に膨らませた前記パッカーによる封止隔壁を形成する第2工程と、
前記地山補強管の前記定着材注入用の中空部から定着材を注入して、前記削孔の前記封止隔壁より孔奥側に前記定着材を注入する第3工程と、を備えることを特徴とする地山補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山の削孔内に配置した地山補強管の外周で封止隔壁を形成し、封止隔壁より奥側の削孔内にモルタル等の定着材を注入して地山補強する際に用いられるパッカー移動機構及び地山補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル掘進工事では、後注入方式のフォアポーリング工法で地山を補強することが行われている。後注入方式のフォアポーリング工法では、
図10及び
図11に示すように、地山500の切羽501直近のアーチ状の支保工502の外周をガイドにして、トンネル空間503から斜め前方に向けて定着材注入用の中空部が形成されている地山補強管を削孔に挿入する。そして、ウエスとコーキング材を使って削孔の口元でコーキングを行い、地山補強管を介して削孔内に定着材を注入し、地山補強管と定着材で構成されるフォアポーリング504を形成する。更に、トンネル坑壁505から直交方向にロックボルト506を地山500に打設する。
【0003】
また、このようなフォアポーリング工法の先行技術として、特許文献1には、手元端の近くに易破断部が設けられた中空ボルトを、切羽直近のアーチ支保工の内周側から次に構築されるアーチ支保工の外周側を通るように切羽前方の地山に斜めに挿入し、中空ボルトを介して定着材を注入する工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フォアポーリング工法のコーキング作業では、支保工502が設置されていたり、吹付けコンクリート507の剥離や亀裂発生を防止する金網508が設置されているため、作業員の手が届きにくい削孔の奥でコーキングすることは難しい。即ち、削孔内への定着材の注入作業時に削孔の口元或いはその付近の脆い部分から定着材が漏れてしまうことを防止するため、本来は
図10のP部で削孔を封止し、それより孔奥に定着材を注入することが理想的であるが、作業員の手が届かないため口元でコーキングをすることになる。
【0006】
特許文献1のように、地山補強管の中空ボルトを切羽の直近のアーチ支保工の内周側(下側)から打設する工法によれば、削孔の口元より孔奥でコーキングすることは可能であるが、この工法を行うと次のトンネル掘進で中空ボルトの口元部分に位置する易破断部と定着材を撤去する作業が必要となるため、施工作業の効率性が非常に低下する。
【0007】
また、フォアポーリングに限らず、注入式ロックボルト施工においても、例えば既に覆工コンクリートがあるが覆工コンクリートの背面と地山との間に空洞ができている構造の補修にロックボルトを打設して定着材を注入する場合、削孔の口元ではなく、より孔奥のほうで封止しないと注入材が覆工コンクリートの背面空洞に流出してしまうため、ロックボルトを定着することができなくなる。
【0008】
そのため、地山の削孔からの定着材の漏れを無くし、地山補強管を地山に確実に定着させることを可能にする技術が求められている。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、優れた施工効率で、地山の削孔からの定着材の漏れを無くし、地山補強管を地山に定着材で確実に定着させることを可能にするパッカー移動機構及び地山補強工法を提供することを目的とする。なお、以下、本発明の説明をする便宜上、地山補強管が削孔に設置されたときに削孔の奥側に配置される側を「前」、「先」として、削孔の口元側に配置される側を「後」として、表現することがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のパッカー移動機構は、内部に定着材注入用の中空部が設けられている地山補強管と、前記地山補強管の軸方向に間隔を開けて配置された前側ガイド管部と後側ガイド管部とから構成され、前記地山補強管の外周にクリアランスを設けて外挿されるガイド体と、前記前側ガイド管部と前記後側ガイド管部とに架け渡され、前記地山補強管を覆うように設けられる膨張可能なパッカーと、少なくとも前記後側ガイド管部に固定され、前記パッカーの内部に注入材を注入する注入ホースとを備え、前記地山補強管の軸方向における前記注入ホースの移動に応じて前記ガイド体が移動することを特徴とする。
これによれば、注入ホースの移動によってガイド体及び膨張可能なパッカーを地山補強管に対して移動させ、所望の位置に配置し、この所望位置でパッカーを膨張させて封止隔壁を構成することができる。即ち、地山の削孔の口元より孔奥の所望位置にパッカーを容易に移動、配置し、封止隔壁を構成することができる。従って、地山の削孔からの定着材の漏れを無くし、地山補強管を地山に確実に定着させることができる。また、特許文献1のトンネル掘進に伴って地山補強管の口元部分に位置する易破断部と定着材を撤去するような作業は不要であり、優れた施工効率で地山補強構造の施工作業を行うことができる。
【0011】
本発明のパッカー移動機構は、前記ガイド体が、別体の前記前側ガイド管部と前記後側ガイド管部とから構成されると共に、前記注入ホースが前記前側ガイド管部にも固定され、前記注入ホースにおける前記前側ガイド管部の固定箇所と前記後側ガイド管部の固定箇所との間の位置に前記パッカーの内部に注入材を吐出する切欠きが形成されていることを特徴とする。
これによれば、前側ガイド管部と後側ガイド管部を別体とすることにより、架け渡すパッカーの長さの自由度、換言すれば使用可能なパッカーの自由度を高め、汎用性に優れる。また、前側ガイド管部の固定箇所と後側ガイド管部の固定箇所との間の注入ホースにより、前側ガイド管部と後側ガイド管部との間隔を所望の間隔で保持することができる。また、注入ホースを前側ガイド管部に固定しても、切欠きによってパッカーの内部に確実に注入材を注入し、パッカーを膨張状態にすることができる。
【0012】
本発明のパッカー移動機構は、前記パッカーが外周基材と内周基材とから構成される二重構造であり、前記外周基材と前記内周基材との間に前記注入ホースによって注入材が注入されることを特徴とする。
これによれば、注入材を注入してパッカーを膨張状態にした場合に、パッカーの外周基材を削孔の周壁に押し当てて封止することができると共に、内周基材を地山補強管に押し当てて封止することができ、定着材が削孔から流出しないように膨張状態のパッカーでより確実な封止を行うことができる。
【0013】
本発明のパッカー移動機構は、前記ガイド体が、前記前側ガイド管部と前記後側ガイド管部とが一体化された管状に形成され、前記ガイド体の軸方向における中間部に注入材流通用の流通孔が形成されていることを特徴とする。
これによれば、前側ガイド管部と後側ガイド管部とが一体化された管状のガイド体とすることにより、部品点数を削減することができる。また、ガイド体の中間部の流通孔により、管状のガイド体と地山補強管との間の隙間も注入した注入材で埋めて封止することができる。
【0014】
本発明の地山補強工法は、本発明のパッカー移動機構を用いる地山補強工法であって、地山に形成した削孔の内部に前記地山補強管を配置すると共に、前記注入ホースを前記削孔の奥側に移動して前記ガイド体及び前記パッカーを前記削孔の口元より奥側の所定位置に配置する第1工程と、前記注入ホースから前記注入材を前記パッカーの内部に注入して膨らませ、前記削孔の所定位置に膨らませた前記パッカーによる封止隔壁を形成する第2工程と、前記地山補強管の前記定着材注入用の中空部から定着材を注入して、前記削孔の前記封止隔壁より孔奥側に前記定着材を注入する第3工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、優れた施工効率で、地山の削孔からの定着材の漏れを無くし、地山補強管を地山に定着材で確実に定着させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた施工効率で、地山の削孔からの定着材の漏れを無くし、地山補強管を地山に定着材で確実に定着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による第1実施形態のパッカー移動機構の斜視説明図。
【
図2】第1実施形態のパッカー移動機構の縦断説明図。
【
図3】(a)~(d)は第1実施形態のパッカー移動機構を用いてフォアポーリングを施工する工程を説明する工程説明図。
【
図4】(a)は地山補強管がロックボルトである場合の第1実施形態のパッカー移動機構の縦断面図、(b)は同図(a)の部分拡大図。
【
図5】(a)~(c)は第1実施形態のパッカー移動機構を用いてロックボルトを施工する工程を説明する工程説明図。
【
図6】第1実施形態のパッカー移動機構を用いてロックボルトが打設されたトンネルの横断説明図。
【
図7】(a)は本発明による第2実施形態のパッカー移動機構の断面説明図、(b)は第2実施形態のパッカー移動機構におけるガイド体とパッカーを示す斜視図。
【
図8】(a)は本発明による第3実施形態のパッカー移動機構の断面説明図、(b)は本発明による第4実施形態のパッカー移動機構の断面説明図、(c)は本発明による第5実施形態のパッカー移動機構の断面説明図。
【
図9】本発明による第6実施形態のパッカー移動機構の断面説明図。
【
図10】従来例のフォアポーリングが打設されたトンネルの縦断説明図。
【
図11】従来例のフォアポーリングが打設されたトンネルの横断模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態のパッカー移動機構〕
本発明による第1実施形態のパッカー移動機構1は、
図1及び
図2に示すように、内部に定着材注入用の中空部21が設けられている地山補強管2と、地山補強管2の軸方向に間隔を開けて配置された前側ガイド管部31と後側ガイド管部32とから構成され、地山補強管2の外周にクリアランス33を設けて外挿されるガイド体3と、地山補強管2を覆うように設けられる膨張可能なパッカー4と、パッカー4の内部に注入材M1を注入する注入ホース5を備える。尚、
図1~
図3に示す地山補強管2は、フォアポーリング工法で用いられる注入管になっており、その後端部には定着材の注入ポンプからの圧送ホースが接続される注入プラグ23が設けられる。
【0018】
第1実施形態におけるガイド体3は、それぞれ短尺管状であり別体の前側ガイド管部31と後側ガイド管部32とから構成されている。前側ガイド管部31の内径と、後側ガイド管部32の内径は、地山補強管2の外径よりも若干大きく形成されており、それぞれ地山補強管2の外周にクリアランス33が生ずるように外挿されている。前側ガイド管部31と、後側ガイド管部32とは、前側ガイド管部31と後側ガイド管部32とに固定され、前側ガイド管部31と後側ガイド管部32との間に配置されている注入ホース5の部分により、地山補強管2の軸方向に開けられた所定の間隔を保持するように配置されている。
【0019】
パッカー4は、筒部41・41の間に膨張可能な弛みのある膨出部42が形成されている形状であり、布、或いは合成樹脂等の素材で形成され、前側ガイド管部31と後側ガイド管部32とに架け渡すように設けられる。パッカー4を布製とする場合、例えば全体が略筒状の布の両端部を、それぞれ前側ガイド管部31と後側ガイド管部32の外周に沿うように縫い目43でつまみ縫いしてダーツ加工を施して形成すると、容易に所定形状のパッカー4を形成できて良好である(
図7(b)参照)。
【0020】
注入ホース5は、地山補強管2の軸方向に延びるように設けられて、前側ガイド管部31の外周と後側ガイド管部32の外周に接触するように配置されている。注入ホース5と前側ガイド管部31との接触箇所では、伸縮性の固定バンド6が外側に嵌め込まれ、固定バンド6の締付により注入ホース5と前側ガイド管部31とが固定されている。同様に、注入ホース5と後側ガイド管部32との接触箇所でも、伸縮性の固定バンド6が外側に嵌め込まれ、固定バンド6の締付により注入ホース5と後側ガイド管部32とが固定されている。なお、注入ホース5と前側ガイド管部31、後側ガイド管部32の固定は、固定バンド6に限らず、例えばパッカー4内への注入が加圧注入によらない場合等にはビニールテープによる固定でも良い。
【0021】
注入ホース5の先端開口は閉塞部51で閉塞されていると共に、注入ホース5における前側ガイド管部31の固定バンド6による固定箇所と後側ガイド管部32の固定バンド6による固定箇所との間の位置には、パッカー4の内部に注入材M1を吐出する切欠き52がV字状にカットして形成されている。また、注入ホース5の後端部には、注入材M1を注入するためのバルブ付継手53が取り付けられる。
【0022】
パッカー移動機構1は、地山補強管2の軸方向における注入ホース5の移動に応じて、所定間隔を開けて配置された前側ガイド管部31と後側ガイド管部32で構成されるガイド体3及びパッカー4がその地山補強管2に対して移動するようになっており、注入ホース5を削孔の孔奥側に移動して削孔の所要位置にパッカー4を配置し、所要位置でパッカー4を膨張させることが可能になっている(
図3参照)。
【0023】
第1実施形態のパッカー移動機構1を用いて、例えば
図3に示すように、トンネル掘進時にフォアポーリングで地山補強を行う場合、地山100に形成されたトンネル空間101にアーチ状の支保工102及び吹付コンクリート103が形成された状態おいて、切羽104直近のアーチ状の支保工102の外周をガイドにして地山100に削孔105を形成する(
図3(a)参照)。
【0024】
その後、切羽104直近のアーチ状の支保工102の外周をガイドにして、地山100に形成した削孔105の内部に、フォアポーリングの注入管である地山補強管2を挿入して配置する。そして、削孔105への挿入前或いは挿入後に地山補強管2に設置したガイド体3、パッカー4、注入ホース5について、注入ホース5を削孔105の奥側に移動してガイド体3及びパッカー4を削孔105の口元より奥側の所定位置に配置する(
図3(b)、(c)参照)。
【0025】
次いで、注入ホース5から注入材M1を注入し、膨出部42に対応して配置されている切欠き52からパッカー4の内部に注入材M1を吐出、注入してパッカー4を膨らませ、削孔105の所定位置に膨らませたパッカー4による封止隔壁40を形成する(
図3(c)参照)。注入材M1には、例えばモルタル、シリカレジン、或いは超微粒子セメントミルク等を用いると良好である。
【0026】
その後、地山補強管2の定着材注入用の中空部21から定着材M2を注入して、削孔105における膨張状態のパッカー4の封止隔壁40より孔奥側に定着材M2を注入する。注入された定着材M2は、地山補強管2の先端近傍の吐出孔22から地山補強管2と削孔105の間に注入、充填され、地山補強管2及び固結した定着材M2で地山100が補強される(
図3(d)参照)。定着材M2には、例えばモルタル、シリカレジン、或いは超微粒子セメントミルク等を用いると良好であり、注入材M1と同一材料を用いると共用できて好適である。
【0027】
また、第1実施形態のパッカー移動機構1を用いて、既存のトンネル周囲の地山補強を行うために覆工コンクリートの内側からロックボルトを施工して地山補強を行うことが出来る。この場合には、内部に定着材注入用の中空部21rが設けられている地山補強管2rとして、例えば先端に捨てビット24rを有する自穿孔式のロックボルトを用い、地山200の表面側に矢板201、覆工コンクリート202が設けられ、地山200と矢板201との間に背面空洞203が発生している構造に、覆工コンクリート202の表面から地山200に向かって削孔204を形成し、自穿孔式のロックボルトである地山補強管2rを削孔204の内部に配置した状態とする(
図4、
図5(a)参照)。
【0028】
そして、削孔204に配置した地山補強管2rに、注入ホース5が取り付けられたガイド体3及びパッカー4を外挿し、注入ホース5を削孔204の奥側に移動してガイド体3及びパッカー4を削孔204の口元より奥側の所定位置に配置する(
図5(a)、(b)参照)。
【0029】
次いで、注入ホース5から注入材M1を注入し、膨出部42に対応して配置されている切欠き52からパッカー4の内部に注入材M1を吐出、注入してパッカー4を膨らませ、削孔204の所定位置に膨らませたパッカー4による封止隔壁40を形成する(
図5(b)、(c)参照)。注入材M1には、上記フォアポーリングの例と同様の材料を用いると良好である。
【0030】
その後、地山補強管2rの定着材注入用の中空部21rから定着材M2を注入して、削孔204における膨張状態のパッカー4の封止隔壁40より孔奥側に定着材M2を注入する。注入された定着材M2は、図示省略する地山補強管2rの先端近傍の吐出孔から地山補強管2rと削孔204の間に注入、充填され、地山補強管2r及び固結した定着材M2で地山200が補強される(
図5(c)、
図6参照)。定着材M2には、上記フォアポーリングの例と同様の材料を用いると良好であり、注入材M1と同一材料を用いると共用できて好適である。
【0031】
第1実施形態によれば、注入ホース5の移動によってガイド体3及び膨張可能なパッカー4を地山補強管2、2rに対して移動させ、所望の位置に配置し、この所望位置でパッカー4を膨張させて封止隔壁40を構成することができる。即ち、地山100、200の削孔105、204の口元より孔奥の所望位置にパッカー4を容易に移動、配置し、封止隔壁40を構成することができる。従って、地山100、200の削孔105、204からの定着材M2の漏れを無くし、地山補強管2、2rを地山100、200に確実に定着させることができる。また、トンネル掘進に伴って地山補強管の口元部分に位置する易破断部と定着材を撤去するような作業は不要であり、優れた施工効率で地山補強構造の施工作業を行うことができる。
【0032】
また、前側ガイド管部31と後側ガイド管部32を別体とすることにより、架け渡すパッカー4の長さの自由度、換言すれば使用可能なパッカー4の自由度を高め、汎用性に優れる。また、前側ガイド管部31の固定箇所と後側ガイド管部32の固定箇所との間の注入ホース5により、前側ガイド管部31と後側ガイド管部32との間隔を所望の間隔で保持することができる。また、注入ホース5を前側ガイド管部31に固定しても、切欠き52によってパッカー4の内部に確実に注入材M1を注入し、パッカー4を膨張状態にすることができる。
【0033】
〔第2実施形態のパッカー移動機構〕
本発明による第2実施形態のパッカー移動機構1aは、
図7に示すように、第1実施形態と同一構成である、地山補強管2(又は2r)と、別体の前側ガイド管部31と後側ガイド管部32とから構成され、地山補強管2の外周にクリアランス33を設けて外挿されるガイド体3と、注入ホース5を備える。
【0034】
また、第2実施形態におけるパッカー4aは、第1実施形態と異なり、外周基材44aと内周基材45aとから構成される二重構造になっている。外周基材44aは、筒部441a・441aの間に膨張可能な弛みのある膨出部442aが形成されている形状であり、布、或いは合成樹脂等の素材で形成されている。内周基材45aは、ガイド体3を構成する前側ガイド管部31の外径及び後側ガイド管部32の外径と対応する内径を有する筒形状であり、布、或いは合成樹脂等の素材で形成されている。外周基材44aと内周基材45aは、それぞれ前側ガイド管部31と後側ガイド管部32とに架け渡すように設けられる。
【0035】
注入ホース5は、外周基材44aの前側の筒部441aと内周基材45aとの間、及び外周基材44aの後側の筒部441aと内周基材45aとの間に配置され、第1実施形態と同様の固定バンド6の締付により、外周基材44aの前側の筒部441aと内周基材45aとの間、及び外周基材44aの後側の筒部441aと内周基材45aとの間でそれぞれ挟持される。注入ホース5の切欠き52は、外周基材44aの膨出部442aに対応する位置で開口するように配置され、外周基材44aと内周基材45aとの間に注入ホース5及び切欠き52の吐出によって注入材M1が注入されて、パッカー4aが膨張するようになっている。
【0036】
尚、パッカー4aの外周基材44aと内周基材45aを布製とする場合、例えば全体が略筒状の布の両端部を、それぞれ前側ガイド管部31と後側ガイド管部32の外周に沿うように縫い目43でつまみ縫いしてダーツ加工を施して外周基材44aを形成すると、容易に所定形状のパッカー4aを形成できて良好である(
図7(b)参照)。また、パッカー4aを布製とする場合、内周基材45aの生地を外周基材44aの生地より目が粗い生地とし、内周基材45aの内側に注入材M1を浸み出させて、内周基材45aと地山補強管2、2rとの間も封止するようにしても好適である。
【0037】
第2実施形態のパッカー移動機構1aは、第1実施形態のパッカー移動機構1と同様に、トンネル掘進時にフォアポーリングで地山補強を行う場合や、トンネル掘進時等にロックボルトを施工して地山補強を行う場合に用いられるが、注入材M1を注入してパッカー4aを膨張状態にして封止隔壁40を形成する場合に、パッカー4aの外周基材44aを削孔105、204の周壁に押し当てて封止することができると共に、内周基材45aを地山補強管2、2rに押し当てて内周基材45aと地山補強管2、2rとの間も封止することができる。
【0038】
第2実施形態によれば、注入材M1を注入してパッカー4aを膨張状態にした場合に、パッカー4aの外周基材44aを削孔105、204の周壁に押し当てて封止することができると共に、内周基材45aを地山補強管2、2rに押し当てて封止することができるので、定着材M2が削孔105、204から流出しないようにより確実な封止を行うことができる。また、第1実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。
【0039】
〔第3実施形態のパッカー移動機構〕
本発明による第3実施形態のパッカー移動機構1bは、
図8(a)に示すように、第1実施形態と同一構成である、地山補強管2(又は2r)と、地山補強管2を覆うように設けられる膨張可能なパッカー4と、パッカー4の内部に注入材M1を注入する注入ホース5を備える。
【0040】
また、第3実施形態におけるガイド体3bは、第1実施形態と異なり、短尺管状の二重管である前側ガイド管部31bと、前側ガイド管部31bとは別体で、短尺管状の二重管である後側ガイド管部32bとから構成されている。前側ガイド管部31bと後側ガイド管部32bは、それぞれ略同一長さの内管34bと外管35bとから構成され、内管34bの内径は地山補強管2(又は2r)の外径よりも若干大きく形成されており、地山補強管2(又は2r)の外周にクリアランス33が生ずるように外挿されている。
【0041】
外管35bの内径は、内管34bの外径よりも極僅かに大きく形成され、外管35bが内管34bに外嵌されるようになっているが、外管35bの周方向の一部には外側に膨出して軸方向に延びるようにして形成された凹溝351bが設けられている。前側ガイド管部31bの凹溝351bには、注入ホース5及び閉塞部51が嵌め込まれて嵌着或いは接着され、後側ガイド管部32の凹溝351bには注入ホース5が嵌め込まれて嵌着或いは接着される。換言すれば、第3実施形態では、固定バンド6を用いずに、前側ガイド管部31bと注入ホース5の固定と、後側ガイド管部32と注入ホース5の固定が行われている。注入ホース5の切欠き52は膨出部42に対応して配置され、パッカー4の内部に注入材M1を吐出、注入してパッカー4を膨出可能になっている。
【0042】
第3実施形態のパッカー移動機構1bは、第1実施形態のパッカー移動機構1と同様に、トンネル掘進時にフォアポーリングで地山補強を行う場合や、トンネル掘進時等にロックボルトを施工して地山補強を行う場合に用いられる。
【0043】
第3実施形態によれば、第1実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。
【0044】
〔第4実施形態のパッカー移動機構〕
本発明による第4実施形態のパッカー移動機構1cは、
図8(b)に示すように、前側ガイド管部31と後側ガイド管部32にそれぞれ固定されて前側ガイド管部31と後側ガイド管部32に連結する連結棒36cを設けた構成以外は、第1実施形態と同様であり、第1実施形態のパッカー移動機構1と同様に、トンネル掘進時にフォアポーリングで地山補強を行う場合や、トンネル掘進時等にロックボルトを施工して地山補強を行う場合に用いられる。
【0045】
第4実施形態によれば、前側ガイド管部31と後側ガイド管部32との所定間隔をより確実に維持することができる。更に、第1実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。なお、第4実施形態に用いられる注入ホース5は切欠き52に替えて、次述する第5実施形態と同様に、パッカー4内で先端を開口するようになっていても構わない(
図8(c)参照)。
【0046】
〔第5実施形態のパッカー移動機構〕
本発明による第5実施形態のパッカー移動機構1dは、
図8(c)に示すように、第1実施形態と同一構成である、地山補強管2(又は2r)と、地山補強管2を覆うように設けられる膨張可能なパッカー4と、固定バンド6を備える。
【0047】
第5実施形態におけるガイド体3dは、前側ガイド管部と後側ガイド管部とが一体化された管状に形成されており、ガイド体3dには軸方向に前側ガイド管部371d、中間部373d、後側ガイド管部372dが順に設けられ、前側ガイド管部371dと後側ガイド管部372dは地山補強管2の軸方向に間隔を開けて配置されている。ガイド体3dは、地山補強管2の外周にクリアランス33を設けて外挿され、又、ガイド体3dの中間部373dには注入材流通用の流通孔38dが形成されている。
【0048】
パッカー4は、前側ガイド管部371dと後側ガイド管部372dとに架け渡すように設けられ、固定バンド6の締付でそれぞれ前側ガイド管部371dと後側ガイド管部372dに固定されている。パッカー4の内部に注入材M1を注入する注入ホース5dは、閉塞部51を有さずに先端開口54dが開放されていると共に、切欠き52が形成されていない形状であり、後側ガイド管部372dだけに固定バンド6の締付で固定されている。注入ホース5の先端開口54dは、パッカー4の膨出部42に対応する位置に配置され、先端開口54dからパッカー4の内部に注入材M1を吐出、注入してパッカー4を膨張することが可能になっている。また、第5実施形態でも、地山補強管2(又は2r)の軸方向における注入ホース5dの移動に応じてガイド体3dが軸方向に移動するようになっている。
【0049】
第5実施形態のパッカー移動機構1dも、第1実施形態のパッカー移動機構1と同様に、トンネル掘進時にフォアポーリングで地山補強を行う場合や、トンネル掘進時等にロックボルトを施工して地山補強を行う場合に用いられるが、注入材M1を注入してパッカー4を膨張状態にして封止隔壁40を形成する場合に、ガイド体4dの中間部373dの流通孔38dにより、管状のガイド体4dと地山補強管2(又は2r)との間の隙間39dも注入した注入材で埋めることができる。
【0050】
第5実施形態によれば、前側ガイド管部371dと後側ガイド管部372dとが一体化された管状のガイド体3dとすることにより、部品点数を削減することができる。また、ガイド体3dの中間部373dの流通孔38dにより、管状のガイド体3dと地山補強管2(又は2r)との間の隙間39dも注入した注入材M1で埋めて封止することができる。
【0051】
〔第6実施形態のパッカー移動機構〕
本発明による第6実施形態のパッカー移動機構1eは、
図9に示すように、第1実施形態と同一構成である、地山補強管2(又は2r)と、注入ホース5を備えると共に、第2実施形態と同様に、外周基材46eと内周基材47eとから構成される二重構造のパッカー4eを備える。
【0052】
パッカー4eの外周基材46eは、略筒状の筒部461e・461eの間に膨張可能な弛みのある膨出部462eが形成されている形状であり、布等の素材で形成されている。内周基材47eは、後述する筒状の芯材である前側ガイド管部31eと地山補強管2(又は2r)との間、及び筒状の芯材である後側ガイド管部32eと地山補強管2(又は2r)との間に、クリアランス33eを形成し得る径の筒形状であり、布等の素材で形成されている。外周基材46eの膨出部462eは、内周基材47eよりも大きな径を有し、削孔周壁に押し当てられることが可能になっている。外周基材46eと内周基材47eは、それぞれ前側ガイド管部31eと後側ガイド管部32eとに架け渡すように設けられる。
【0053】
筒状の芯材である前側ガイド管部31eは、前側の筒部461eに対応する位置で内周基材47eと外周基材46eとの間にパッカー4eに対して内寄りの縫製部481eと外寄りの縫製部482eで縫い込まれて、二重パッカーに内装され内周基材47eと外周基材46eで挟持されている。筒状の芯材である後側ガイド管部32eは、後側の筒部461eに対応する位置で内周基材47eと外周基材46eとの間にパッカー4eに対して内寄りの縫製部481eと外寄りの縫製部482eで縫い込まれて、二重パッカーに内装され内周基材47eと外周基材46eで挟持されている。前側ガイド管部31eと後側ガイド管部32eをそれぞれ構成する筒状の芯材は、地山補強管2(又は2r)の外径よりも少し大きな内径を有する薄肉の筒状であり、例えば鉄、プラスチック、紙等の材質で筒状の形状が保持されるように形成されている。
【0054】
注入ホース5は、先端開口が閉塞部51で閉塞され且つ切欠き52を有するものであり、外周基材46eの前側の筒部461eと内周基材47eとの間、及び外周基材46eの後側の筒部461eと内周基材47eとの間に配置されている。パッカー4eの後側の筒部461eにおいては、内周基材47eと外周基材46eとの間に注入ホース5が貫通するように設けられ、挿通された状態の注入ホース5の外周が若干押圧されるようにして、外周基材47eと内周基材46eが縫製部481e、482eで縫い込まれて固定されている。パッカー4eの前側の筒部461eにおいては、内周基材47eと外周基材46eとの間に注入ホース5が途中まで挿入されるように設けられ、途中まで挿入された状態の注入ホース5の外周が若干押圧されるようにして、外周基材47eと内周基材46eが縫製部481e、482eで縫い込まれていると共に、最先端に位置する外寄りの縫製部482eで注入ホース5が先端側に突き出さないように止められて固定されている。尚、注入ホース5の先端開口を閉塞部51に代えて、最先端に位置する縫製部482eで縫製して閉塞するようにしてもよい。
【0055】
パッカー4eの前端部と後端部は、それぞれ縫製部481e、482eで閉じられて、注入材M1の注入時にパッカー4eの前端側や後端側への流出が防止されていることから、注入ホース5及び切欠き52の吐出によって注入された注入材M1は、外側に流出することなくパッカー4e内に注入され、パッカー4eが膨張するようになっている。尚、パッカー4eの前側の筒部461eの前端部における内周基材47eと外周基材46eを更にビニールテープか固定バンドで固定し、パッカー4eの後側の筒部461eの後端部における内周基材47eと外周基材46eを更にビニールテープか固定バンドで固定しても好適である。
【0056】
第6実施形態のパッカー移動機構1eは、第1実施形態のパッカー移動機構1と同様に、地山補強管2(又は2r)の軸方向における注入ホース5の移動に応じて前側ガイド管部31e及び後側ガイド管部32eで構成されるガイド体を移動させることができ、トンネル掘進時にフォアポーリングで地山補強を行う場合や、トンネル掘進時等にロックボルトを施工して地山補強を行う場合に用いられる。
【0057】
第6実施形態によれば、第2実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。尚、前側ガイド管部31e、後側ガイド管部32eには、前側ガイド管部31a、後側ガイド管部32b等よりも、外径やサイズが小さい筒状の芯材を用いることが可能であり、これにより、注入ホース5をセットしたパッカー移動機構1eの全体の径を小さくしてパッカー4eの地山補強管2(又は2r)に対する移動をよりスムーズにすることが可能である。
【0058】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態、各例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や下記の更なる変形例も含まれる。
【0059】
例えば上記実施形態ではパッカー移動機構1、1a~1dをトンネル掘進における地山補強に用いる例を説明したが、本発明のパッカー移動機構は、適用可能な範囲で適宜の地山補強に用いることが可能である。また、本発明における前側ガイド管部と注入ホースの固定、後側ガイド管部と注入ホースの固定の構成は、上記固定バンド6の締付、嵌着、接着以外にも適用可能な範囲で適宜である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えばトンネル掘進における地山補強に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1、1a、1b、1c、1d、1e…パッカー移動機構 2、2r…地山補強管 21、21r…中空部 22…吐出孔 23…注入プラグ 24r…捨てビット 3、3b、3d…ガイド体 31、31b、31e…前側ガイド管部 32、32b、32e…後側ガイド管部 33、33e…クリアランス 34b…内管 35b…外管 351b…凹溝 36c…連結棒 371d…前側ガイド管部 372d…後側ガイド管部 373d…中間部 38d…流通孔 39d…隙間 4、4a、4e…パッカー 40…封止隔壁 41…筒部 42…膨出部 43…縫い目 44a…外周基材 441a…筒部 442a…膨出部 45a…内周基材 46e…外周基材 461e…筒部 462e…膨出部 47e…内周基材 481e、482e…縫製部 5、5d…注入ホース 51…閉塞部 52…切欠き 53…バルブ付継手 54d…先端開口 6…固定バンド M1…注入材 M2…定着材 100…地山 101…トンネル空間 102…支保工 103…吹付コンクリート 104…切羽 105…削孔 200…地山 201…矢板 202…覆工コンクリート 203…背面空洞 204…削孔 500…地山 501…切羽 502…支保工 503…トンネル空間 504…フォアポーリング 505…トンネル坑壁 506…ロックボルト 507…吹付コンクリート 508…金網